説明

ジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法

【課題】1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物を熱分解してジフルオロ酢酸フルオリドを製造する方法に関して、当モル副生するハイドロフルオロカーボンを効率的に分解し、併せて、熱分解触媒を長期間安定に操業できるようにする。
【解決手段】一般式CHF2CF2OR1(ただし、R1は一価の有機基を表す。)で表される1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物を熱分解する第一熱分解工程を有する一般式(1)
CHF2C(=O)R2 (1)
(式中、R2はフッ素原子、ヒドロキシル基またはアルコキシル基を表す。)で表されるジフルオロメチルカルボニル化合物を製造する方法であって、その第一熱分解工程において生成する一般式R1F(ただし、R1は前記と同じ。)で表されるフルオロ化合物をリン酸塩と接触させて分解する第二熱分解工程を有するジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種反応において基礎的反応試剤として使用されるジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法として、ジフルオロ酢酸フルオリドを中間体として得る方法がある。ジフルオロ酢酸フルオリドの製造方法としては、(1)ジフルオロ酢酸を五酸化リンや塩化チオニルなどと反応させてからフッ化カリウムなどの金属フッ化物でフッ素化する方法、(2)CHF2CF2ORで表される1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物を三酸化硫黄とフルオロ硫酸の存在下で分解させる方法(非特許文献1)、(3)1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物をハロゲン化アンチモン、ハロゲン化チタンなどの触媒存在下で反応させる方法(特許文献1)、(4)1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを、金属酸化物触媒の存在下に気相反応させてジフルオロ酢酸フルオリドを製造する方法(特許文献2)が知られている。
【0003】
(1)の方法においては、クロロトリフルオロエチレンを出発物質として、これをアルキルアミン類と反応させ、次いで加水分解してクロロフルオロ酢酸アミドを得て、さらにフッ素化しジフルオロ酢酸アミドに変換した後に加水分解するという複雑な工程で製造したジフルオロ酢酸を用いるため、効率がよいとはいえない。他に、ジフルオロ酢酸の製造法として、テトラフルオロエチレンにアンモニアを付加して2,4,6−ジフルオロメチル−1,3,5−トリアジンとした後、加水分解する方法も報告されているが、やはり、容易に入手できるものではない。
また、(2)の方法は、反応の制御が困難であり、(3)の方法は反応器が腐食するおそれがある。
【0004】
(4)の方法は、気相での触媒による熱分解反応でジフルオロ酢酸フルオリドを得ることができるので、大規模な生産方法として適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4357282号明細書
【特許文献2】特開平8−92162号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Fluorine Chem.,3,63(1973)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを、金属酸化物触媒の存在下に気相反応させてジフルオロ酢酸フルオリドを製造する方法(特許文献2)は、ジフルオロ酢酸フルオリドを気相での触媒による熱分解で得ることができ、大規模な生産方法として優れているがジフルオロ酢酸フルオリドと当モル副生するハイドロフルオロカーボンを大気中に放出することによって環境に負荷を掛けるという解決しなければならない課題がある。
【0008】
また、特許文献2の方法では、触媒として予めクロロジフルオロエタン(CFC−12)で活性化させたγ−アルミナと用いているが、アルミナはフッ素化反応中に自身がフッ素化され触媒活性が変化することが知られており、長期間の安定な操業には課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物を熱分解してジフルオロ酢酸フルオリドを得て、次いでジフルオロ酢酸やジフルオロ酢酸誘導体(ジフルオロ酢酸フルオリド、ジフルオロ酢酸およびジフルオロ酢酸誘導体を併せて「ジフルオロ酢酸誘導体」ということがある。)を取得する方法において、副生したハイドロフルオロカーボンを効率的に分解して環境に対して無害化できる方法を検討したところ、ジフルオロ酢酸誘導体を分離除去した後のガスをリン酸塩と接触させることでガス中に含まれるハイドロフルオロカーボンを分解することができることを見出し本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、次の通りである。
[1]
一般式CHF2CF2OR1(ただし、R1は一価の有機基を表す。)で表される1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物を熱分解する第一熱分解工程を有する一般式(1)
CHF2C(=O)R2 (1)
(式中、R2はフッ素原子、ヒドロキシル基またはアルコキシル基を表す。)で表されるジフルオロメチルカルボニル化合物を製造する方法であって、その第一熱分解工程において生成する一般式R1F(ただし、R1は前記と同じ。)で表されるフルオロ化合物をリン酸塩と接触させて分解する第二熱分解工程を有するジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
[2]
第一熱分解工程において生成したジフルオロ酢酸フルオリドを回収する工程を有する[1]のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
[3]
ジフルオロ酢酸フルオリドが水と接触せしめられてジフルオロ酢酸として得られる[2]のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
[4]
ジフルオロ酢酸フルオリドがアルコール類と接触させしめられてジフルオロ酢酸エステルとして得られる[2]のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
[5]
第一熱分解工程の触媒がリン酸塩である[1]〜[4]のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
[6]
リン酸塩がリン酸アルミニウムである[5]のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
[7]
第一熱分解工程の触媒と第一熱分解工程の触媒が同一の組成からなる触媒である[5]のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
[8]
第一熱分解工程の触媒と第二熱分解工程の触媒を交互に置換して使用する[1]〜[7]のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法は、1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物を熱分解する際にジフルオロ酢酸フルオリドと共に生成するハイドロフルオロカーボンを効率的に分解・無害化できるという効果を奏する。
【0012】
または、リン酸塩を触媒とすることで、1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物の熱分解の触媒活性を長期に亘り維持することができるという効果を奏する。
【0013】
または、1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物の熱分解の触媒とハイドロフルオロカーボンの熱分解触媒を同一の組成からなる触媒とし、これらを交互に使用することでほとんど中断することなく製造を継続することができるといる効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、第一熱分解工程において1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物をリン酸塩の触媒存在下で熱分解させてジフルオロ酢酸フルオリドを合成し、次いでこれをそのまま回収し、または誘導体に変換して分離・取得し、引き続き第二熱分解工程において排ガス中に残存する副生ハイドロフルオロカーボンをリン酸塩触媒存在下酸素で熱分解することからなるジフルオロ酢酸フルオリドの誘導体を製造する方法である。後述するように1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物のR1は各種の有機基であり得るが、1−メチル−1,1,2,2−テトラフルオロエタンにつて、それからジフルオロ酢酸フルオリドを合成し、さらにジフルオロ酢酸メチルを合成する場合について反応式を例示すると、以下通り表わされる。

CHF2CF2OCH3 → CHF2COF + CH3
CHF2COF + CH3OH → CHF2COOCH3 + HF
CH3F + 3/2・O2 → CO2 + H2O + HF

したがって全体としては次の式で表される。

CHF2CF2OCH3 + CH3OH + 3/2・O2
→ CHF2COOCH3 + 2HF + CO2 + H2

[第一熱分解工程]
本発明の原料である1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物は、一価の有機基のR1としては、分岐を有することもある炭素数1〜8のアルキル基、アルキル基を置換基をして有することもあるシクロアルキル基、含フッ素アルキル基、アリール基、アラルキル基を挙げることができ、これらのうちアルキル基または含フッ素アルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましく、低級アルキル基がさらに好ましい。低級アルキル基とは、炭素数1〜4のアルキル基をいう。
【0015】
分岐を有することもある炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基を例として挙げることができる。
【0016】
アルキル基を置換基をして有することもあるシクロアルキル基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、2−メチルシクロペンチル基、3−メチルシクロペンチル基、2−エチルシクロペンチル基、3−エチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、2−エチルシクロヘキシル基、3−エチルシクロヘキシル基、4−エチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、2−メチルシクロヘプチル基、3−メチルシクロヘプチル基、3−メチルシクロヘプチル基、4−メチルシクロヘプチル基などを挙げることができる。
【0017】
アリール基としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3,6−ジメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などを例として挙げることができる。
【0018】
含フッ素アルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロフルオロメチル基、クロロジフルオロメチル基、ブロモフルオロメチル基、ジブロモフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、n−ヘキサフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基などを例として挙げることができる。
【0019】
アラルキル基としては、フェネチル基、2−メチルフェニルメチル基、3−メチルフェニルメチル基、4−メチルフェニルメチル基、2,3−ジメチルフェニルメチル基、2,4−ジメチルフェニルメチル基、2,5−ジメチルフェニルメチル基、2,6−ジメチルフェニルメチル基、3,4−ジメチルフェニルメチル基、3,5−ジメチルフェニルメチル基、3,6−ジメチルフェニルメチル基、4−エチルフェニルメチル基、4−(n−プロピル)メチルフェニルメチル基、4−(n−ブチル)メチルフェニルメチル基などを例として挙げることができる。
【0020】
本発明の原料である1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物は、公知の製造方法で得ることができる。例えば、アルコール化合物(R2OH)とテトラフルオロエチレンを塩基の存在下に反応させる方法で合成できる。具体的には、メタノールとテトラフルオロエチレンとを水酸化カリウムの存在下に反応させる方法により1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンが合成できる(J.Am.Chem.Soc.,73,1329(1951))。
【0021】
本発明において使用できる含フッ素エーテルの具体例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(n−プロポキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−イソプロポキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(n−ブトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(s−ブトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(t−ブトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−ペンタフルオロエトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(2,2,2,3,3−ペンタフルオロプロポキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−ヘキサフルオロイソプロポキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンなどを挙げることができる。
【0022】
本発明の第一熱分解工程にかかる触媒は、特開平8−92162号公報に記載された金属酸化物、金属フッ素化酸化物並びにリン酸塩を触媒として使用できる。リン酸塩は、担体に担持されたものであってもよい。
リン酸としては、オルトリン酸、ポリリン酸、メタリン酸のいずれであってもよい。ポリリン酸としては、ピロリン酸などが挙げられる。リン酸塩は、これらのリン酸の金属塩である。取り扱いが容易であるのでオルトリン酸であるのが好ましい。リン酸塩とは、これらのリン酸の金属塩をいうが、本明細書では金属が水素原子に置換した酸をも金属塩というものとする。
【0023】
リン酸塩としては、特に限定されないが、水素、アルミニウム、ホウ素、アルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、ランタン、セリウム、イットリウム、希土類金属、バナジウム、ニオブ、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルからなる群より選ばれた、少なくとも1種の金属のリン酸塩が挙げられる。好ましくは、主成分としてリン酸アルミニウム、リン酸セリウム、リン酸ホウ素、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム、リン酸クロムなどである。副成分の金属を含むことも好ましい。具体的な副成分としてはセリウム、ランタン、イットリウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル等が好ましいが、セリウム、鉄、イットリウムがより好ましい。これらのうちで、さらに好ましくは、リン酸アルミニウム単独触媒、または、リン酸アルミニウムを主成分として、副成分のリン酸セリウムを含む触媒が挙げられる。
【0024】
触媒の調製方法に特に制限はなく、市販のリン酸塩をそのまま使っても良いし、一般的な沈殿方法でも良い。沈殿方法の具体的な調製方法としては、例えば、金属の硝酸塩(複数の原料塩の場合はそれぞれの原料塩の溶液を調製する)とリン酸の混合水溶液に、希釈アンモニア水を滴下してpHを調節して沈殿させ、必要に応じて熟成放置する。その後、水洗し、洗浄水の電導度などで十分に水洗したことを確認する。場合によっては、スラリーの一部を取り含有するアルカリ金属を測定する。次いで濾過し乾燥する。乾燥する温度に特に制限はない。好ましくは80℃〜150℃がよい。さらに好ましくは100℃〜130℃である。得られた乾燥体は粉砕し粒度を揃えるか、さらに粉砕し成型する。その後、200℃〜1500℃の条件で空気や窒素雰囲気で焼成する。好ましくは400〜1300℃、さらに好ましくは500℃〜900℃で焼成を行うことがよい。
【0025】
焼成時間は温度にもよるが1時間〜50時間程度で、好ましくは2時間〜24時間程度である。焼成処理は、リン酸塩の安定化に必要な処理であるので、上記の温度範囲より低温で処理を行ったり、処理時間が短い場合は、反応初期において十分に触媒活性を示さないことがある。また、上記の温度範囲以上でまたは長時間焼成処理を行うことは、過剰な加熱エネルギーを要するだけでなく、触媒の結晶化を引き起こすことがあるので好ましくない。
【0026】
主成分以外の金属成分の添加の操作は、金属塩で行うことが好ましく、前記金属の硝酸塩、塩化物、酸化物、リン酸塩などが好ましい。中でも、硝酸塩が調製しやすく好ましい。添加量に特に制限はないが、一般にはリン1グラム原子に対し1グラム原子以下であり、好ましくは0.5グラム原子以下である。より好ましくは0.3グラム原子以下である。これらの金属成分の添加は、触媒調製時に行っても良く、また、触媒焼成後のリン酸塩に行っても良い。得られた触媒は、金属塩の種類及び調製方法や条件により物性が異なる。触媒は、そのまま使用してよいが、担体に担持した状態で使用することも可能である。担体としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、硫酸ジルコニア(ZrO(SO4))などの金属酸化物などの金属酸化物、炭化珪素、窒化珪素、活性炭等が挙げられるが、比表面積の大きい活性炭は特に好ましい。
【0027】
リン酸またはリン酸塩を坦持した活性炭は、リン酸に浸漬して含浸させ、またはスプレーにより被覆もしくは吸着させたものを乾燥させて調製できる。化合物を担持させる場合、担持させる化合物の溶液を含浸させ、またはスプレーにより被覆もしくは吸着させたものを乾燥させて調製できる。また、その化合物の溶液を含浸させ、またはスプレーにより被覆もしくは吸着させた活性炭に対し第二の化合物を作用させて活性炭表面で沈殿反応等を生じさせることで最初の化合物と異なる化合物を担持することもできる。また、先に述べた、リン酸塩の調整方法を活性炭などの担体の存在下で行うことでもリン酸塩担持触媒を調製することができる。具体例として実施例にリン酸アルミニウム担持活性炭を示す。
【0028】
活性炭は、木材、木炭、椰子殻炭、パーム核炭、素灰等を原料とする植物系、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭等を原料とする石炭系、石油残滓、オイルカーボン等を原料とする石油系または炭化ポリ塩化ビニリデン等の合成樹脂系等のいずれのものでもよい。これら市販の活性炭から選択し使用することができ、例えば、瀝青炭から製造された活性炭(東洋カルゴン製BPL粒状活性炭)、椰子殻炭(日本エンバイロケミカルズ製粒状白鷺GX、SX、CX、XRC、東洋カルゴン製PCB)等が挙げられるが、これらに限定されない。形状、大きさも通常粒状で用いられるが、球状、繊維状、粉体状、ハニカム状等反応器に適合すれば通常の知識範囲の中で使用することができる。
【0029】
本発明にかかる第一熱分解工程で使用する活性炭は比表面積の大きな活性炭が好ましい。活性炭の比表面積は、市販品の規格の範囲で十分であるが、それぞれ400m2/g〜3000m2/gであり、800m2/g〜2000m2/gが好ましい。さらに活性炭を担体に用いる場合、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性水溶液に常温付近で10時間程度またはそれ以上の時間浸漬するか、活性炭を触媒担体に使用する際に通常行われる硝酸、塩酸、フッ酸等の酸による前処理を施し、予め担体表面の活性化ならびに灰分の除去を行うことが望ましい。
【0030】
また、本発明にかかる第一熱分解工程で使用する触媒における酸化物などの担体は、金属成分と酸素以外の他の原子を含んでいてもよく、他の原子としては、フッ素原子、塩素原子等が好ましい。たとえば、部分フッ素化アルミナ、部分塩素化アルミナ、部分フッ素化塩素化アルミナ、部分フッ素化ジルコニア、部分フッ素化チタニア等であってもよい。酸化物触媒中の塩素原子やフッ素原子の割合は、特に限定されない。
【0031】
本明細書および特許請求の範囲においては、特に限定されない限り、前記のように部分的にフッ素化、塩素化等の処理を行ったアルミナ、ジルコニアなどを「アルミナ」、「ジルコニア」などの酸化物名称で表示する。
【0032】
これらの担体としては、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2 )、およびチタニア(TiO2 )および硫酸ジルコニアならびにこれらの部分フッ素化酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物触媒が好ましく、アルミナおよび部分フッ素化アルミナが反応性および触媒寿命の点でさらに好ましい。
【0033】
これらの部分フッ素化酸化物はジフルオロ酢酸フルオリド合成触媒の担体として使用できると共に、触媒として使用することもできる。触媒としての調製、前処置、使用等は、本明細書において担体としての調製、前処理、使用等についての説明がそのままあるいは技術常識に従って適宜変更して適用することができる
リン酸塩からなるまたはリン酸塩を担持した触媒は、通常は粒子または造粒体の形態で用いられる。粒子または造粒体の直径(いずれも、「粒径」ということがある。)は、特に限定されず、通常は、20μm〜10mm程度である。また、触媒が塩素原子やフッ素原子を含む場合、金属酸化物の表面のみに塩素原子やフッ素原子が存在していてもよい。
【0034】
本発明にかかる第一熱分解工程における(第二の熱分解反応においても同様である。リン酸またはリン酸塩について以下において同じ。)リン酸塩からなるまたはリン酸塩を担持した触媒も、使用の前に予めフッ化水素、フッ素化炭化水素またはフッ素化塩素化炭化水素などの含フッ素化合物と接触させて部分フッ素化しておき、反応中の触媒の組成変化、短寿命化、異常反応などを防止することが有効である。
【0035】
特にフッ化水素で処理することで反応の活性を著しく高めることができる。フッ化水素によるフッ素化処理は、少なくとも本発明にかかる反応の反応温度よりも高い温度において、フッ化水素と接触させることで行うのが好ましい。リン酸塩単体の場合、200〜700℃程度であり、250〜600℃程度が好ましく、300〜550℃がより好ましい。一方、リン酸塩担持触媒の場合、200〜600℃程度であり、250〜500℃程度が好ましく、300〜400℃がより好ましい。いずれも最高処理温度が200℃未満では処理に時間を要し、最高温度範囲を超えて処理を行うことは、過剰な加熱エネルギーを要するので好ましくない。また、処理時間は、処理温度とも関係するので限定できないが、1時間〜10日程度、好ましくは、3時間〜3日間程度である。
【0036】
リン酸を担時しない活性炭の場合、フッ化水素処理を施しても、殆ど活性を示さないが、リン酸処理をした活性炭にフッ化水素処理を行うと、同じ反応条件で、転化率:96.1%、選択率:98.0%という触媒活性を示した。このことからも、フッ化水素処理の効果は容易に見て取ることができる。
【0037】
さらに、本発明にかかる第一熱分解工程での反応に先立って、活性化処理を施すのが好ましい。活性化処理としては、250℃〜300℃程度の窒素気流中で充分に脱水し、ジクロロジフルオロメタン、クロロジフルオロメタンなどの有機フッ素化合物、またはフッ化水素、三フッ化塩素などの気体もしくは触媒処理状態で十分な蒸気圧を示す無機フッ素化合物で活性化させるのが好ましい。これらのうちフッ化水素が特に好ましい。この活性化処理によって、触媒の表面または全体に、フッ素原子を含むリン酸塩からなる活性な触媒が生成すると考えられる。
また、反応原料である1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物(CHF2CF2OR1)のR1が炭素数2以上の基である場合、生成したR1Fが反応領域において分解してフッ化水素を発生することが推測されるが、これが触媒の活性を高める効果を示すことがある。
【0038】
本発明にかかる第一熱分解工程は、気相流通連続方式が最も好ましい形式として推奨されるが、これに限定されない。反応器の形式は固定床タイプまたは流動床タイプが好ましく、反応器の寸法・形状は、反応物の量等に応じて適宜変更できる。
【0039】
本発明にかかる第一熱分解工程の反応においては、当該反応条件で不活性な不活性ガスを存在させてもよい。不活性ガスとしては、窒素または希ガス類が挙げられ、扱いやすさおよび入手しやすさ等の点から、窒素またはヘリウムが好ましい。不活性ガスを存在させる場合の量は、特に限定されないが、多すぎる場合には回収率が下がる恐れがあるため、通常の場合、原料の1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物の供給速度よりも少ない量が好ましい。
【0040】
本発明にかかる第一熱分解工程における反応温度は、触媒の種類および原料によって異なる。通常100〜400℃であり、150〜350℃程度が好ましく、180〜280℃がさらに好ましい。反応温度が100℃未満では転化率が低くなる傾向があり好ましくない。反応温度が400℃を超えると反応装置に過酷な耐熱性が必要となり、過剰な加熱エネルギーを要するので経済的に好ましくない。
【0041】
反応時間(接触時間)は通常0.1〜300秒であり、0.5〜200秒が好ましく、1〜60秒がより好ましい。反応時間が短すぎる場合にも、転化率が低くなる恐れがあり、一方、長すぎると生産性が低下するのでそれぞれ好ましくない。反応圧力は、特に限定されず、常圧、減圧、または加圧のいずれであってもよい。0.05〜0.5MPa(0.5〜5気圧)程度が好ましく、通常は、操業が容易な大気圧近傍の圧力が好ましい。
【0042】
本発明の第一熱分解工程においては、ジフルオロ酢酸フルオリドの他に、副生成物としてフルオロ化合物(R1F)が生成するが、R1Fがさらに分解した化合物が生成することもある。例えば、R1Fとしてフッ化エチルが生成する場合、エチレンとフッ化水素となることがある。しかし、第一熱分解工程で得られた生成物は、精製処理をしないでジフルオロ酢酸またはジフルオロ酢酸エステルなどのジフルオロメチルカルボニル化合物の合成に使用することができる。
【0043】
ジフルオロ酢酸フルオリドを製品とする場合は、第一熱分解工程で得られた生成物は、他の処理をせず直接蒸留により分離取得することができるが、フッ化水素を除去するためにフッ化ナトリウムペレットや第三アミンと接触させてから蒸留してもよい。さらに、ジフルオロメチルカルボニル化合物を製造するには、ジフルオロ酢酸フルオリドを含む精製または未精製の第一熱分解工程で得られた生成物を適当な反応基質と反応可能な条件に置くことで行える。そのような反応による製造方法の例として、ジフルオロ酢酸とジフルオロ酢酸エステルについて説明する。
【0044】
ジフルオロ酢酸は、ジフルオロ酢酸フルオリドを含む精製または未精製の第一の熱分解で得られた生成物を水と接触させ、次の反応式に従って製造できる。
【0045】
CHF2COF + H2O → CHF2COOH + HF
接触は水を仕込んだ容器への吹き込みやスクラバーなどによる向流接触で行うことができる。温度、圧力は特に限定されないが、フッ化水素の溶解熱で昇温するので冷却しながら行うことが好ましい。
【0046】
また、同様の方法で水の変わりにアルコール類を使用すると次の反応式に従ってジフルオロ酢酸フルオリドとアルコール(R2OH)が反応してジフルオロ酢酸エステルを製造できる。
【0047】
CHF2COF + R2OH → CHF2COOR2 + HF
アルコールとしては、特に限定されないが、R2が、分岐を有することもある炭素数1〜8のアルキル基若しくは含フッ素アルキル基、アルキル基を置換基をして有することもあるシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基を挙げることができ、これらのうち炭素数1〜8のアルキル基または炭素数2〜8の含フッ素アルキル基が好ましい。さらに、炭素数1〜4のアルキル基またはフッ素化アルキル基がより好ましい。炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基を例として挙げることができる。炭素数2〜8の含フッ素アルキル基としては、2,2,2−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、n−ヘキサフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基などを例として挙げることができる。
【0048】
アルコールの使用量はジフルオロ酢酸フルオリドに対して過剰量を用いても反応には問題はないが、過剰量は未反応で残存するので後処理が困難でありかつ無駄である。したがって、アルコールの使用量はジフルオロ酢酸フルオリドに対して0.5〜10当量でよく、0.7〜2当量が好ましく、0.8〜1.5当量がより好ましい。
【0049】
このエステル化反応の温度は、特に制限されないので別段の加熱・冷却をしない状態でよく、通常0〜50℃程度でよい。反応圧力は、反応に特に影響を及ぼさないので加圧下または減圧下で行っても良いが、特に加圧・減圧をしない常圧付近で行えばよい。
【0050】
この様なフルオロ酢酸やフルオロ酢酸エステルの製造において、第一の熱分解で得られた生成物に含まれるフルオロ化合物(R1F)は反応によって変換されずに排ガスとして反応系外へ流出するので、第二熱分解工程へと導かれる。
<第二熱分解工程>
第二熱分解工程は、前記のリン酸塩触媒を用いて行う。本発明の第二熱分解工程にかかるリン酸塩についての説明は、第一熱分解工程にかかる触媒としての説明のうち、リン酸塩についての説明がそのまま該当するので、本明細書においては繰り返さない。
【0051】
本発明にかかる第二熱分解工程は、気相流通連続方式が最も好ましい形式として推奨されるが、これに限定されない。反応器の形式は固定床タイプまたは流動床タイプが好ましく、反応器の寸法・形状は、反応物の量等に応じて適宜変更できるが、第一熱分解工程で使用するものと同一の形式、形状であるのが好ましい。
【0052】
本発明にかかる第二熱分解工程は、酸素を存在させて行う。酸素としては、空気を用いるのが簡便であり、経済的でもあり好ましい。また、ゼオライトや膜を用いた公知または市販の酸素富化装置を使用するのも容易である。酸素は、空気としてフルオロ化合物(R1F)容量の10〜100容量倍とし、20〜50容量倍であるのが好ましい。空気中の窒素に代えて他の当該反応条件で不活性な不活性ガスを存在させてもよい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンまたは希ガス類が挙げられ、扱いやすさおよび入手しやすさ等の点から、窒素またはアルゴンが好ましい。
【0053】
本発明にかかる第二熱分解工程における温度は、触媒の種類および原料によって異なる。通常200〜800℃であり、400〜600℃程度が好ましく、450〜500℃がさらに好ましい。反応温度が200℃未満ではフルオロ化合物の分解率が低くなる傾向があり好ましくない。反応温度が800℃を超えると反応装置に過酷な耐熱性が必要となり、過剰な加熱エネルギーを要するので経済的に好ましくない。
【0054】
反応時間(接触時間)は通常0.1〜300秒であり、0.5〜100秒が好ましく、1〜30秒がより好ましい。反応時間が短すぎる場合には、分解率が低くなる恐れがあり、一方、長すぎると装置の大型化を招きそれぞれ好ましくない。反応圧力は、特に限定されず、常圧、減圧、または加圧のいずれであってもよい。0.05〜0.5MPa(0.5〜5気圧)程度が好ましく、通常は、操業が容易な大気圧近傍の圧力が好ましい。
【0055】
第二熱分解工程においては、フッ化水素が精製するので、分解生成物を系外へ放出する際には、水、アルカリ性水溶液、フッ化ナトリウムペレットまたは第三アミンなどでフッ化水素を吸収、吸着等して無害化することが好ましい。
<触媒の再活性化、交換>
第一熱分解工程で用いる触媒は、経時的にコーキングが発生することがあり、触媒の活性が低下することがある。活性の低下した触媒は、金属酸化物の場合、200〜600℃、好ましくは300〜500℃、リン酸塩の場合、200℃〜800℃、好ましくは、400℃〜700℃において、酸素と接触させることで容易に活性を再生させることができる。酸素処理は反応管に装填したまま又は外部の装置に装填して行うのが簡便である。そこへ酸素を流通させて行う。酸素の流通方法としては他のガスが共存してもよく、酸素、空気、窒素希釈酸素などが使用できるが、窒素で希釈した空気または空気が経済的に好ましい。また、塩素、フッ素等の酸化力のある気体も使用できる。
【0056】
また、第一熱分解工程で用いて経時的にコーキングが発生する等して活性の低下した触媒は、第二熱分解工程に使用することで再活性化することができる。この際の活性化の条件は前記した第二の熱分解反応の条件を採用すればよい。
【0057】
第二熱分解工程において第一の熱分解反応の触媒として活性化された後、触媒を移送して装填しなおしても良いが、第一の分解工程と第二の分解工程を切り替えることで実質的に触媒を交換するのがより好ましい。
【0058】
本発明にかかる第二の熱分解反応は、実施例で示すように長時間にわたり触媒活性の低下がなく、きわめて高いフルオロ化合物分解率を示す。また、第一熱分解工程と第二熱分解工程で同一の触媒と装置を用いることができ、しかも第一の分解工程において活性低下した触媒を第二の分解工程で使用することにより再活性化できるため、これらの工程を相互に切り替えることで長時間にわたりジフルオロ化合物の製造を継続できるという効果を奏する。
【0059】
本発明の方法により得られるジフルオロメチルカルボニル化合物は、各種反応の触媒、医農薬の中間体、および機能性材料の中間体等に用いられるきわめて有用な化合物である。
【実施例】
【0060】
以下に本発明の例を挙げて具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されない。
【0061】
[実施例1]
アルドリッチ製リン酸アルミニウム(Aluminum phosphate)を5mmφ×5mmLのペレットに打錠成形し、窒素気流中700℃で5時間焼成して、リン酸アルミニウム触媒を調製した。これを2本の同じ構造の気化器付ステンレス製反応管(37.1mmφ×500mmL)に150ccずつ充填した。それぞれ、反応管A、反応管Bとした。
【0062】
反応管A、反応管Bを次の通りそれぞれ同一の反応に供した。窒素15cc/分を流しながら反応管を外部に設けた電気炉で加熱した。触媒の温度が50℃に達した時に、フッ化水素(HF)を0.6g/分の速度で気化器を通して導入した。HFを流通させたまま、300℃までゆっくりと昇温し、300℃で5時間保持した後、ヒーター設定温度を200℃に下げ、200℃になった時点で、HFの流通を止め、窒素流量を200cc/分に増やして2時間保持した後、1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFE−254pc)を0.2g/分の速度で、気化器を通して導入した。30分後窒素を止めて、HFE−254pcのみを100時間流通させた。
【0063】
この定常状態の生成ガスを反応管A、Bそれぞれについてガスクロマトグラフィー(FID検出器)で分析した結果を表1に示す。HFE−254pc供給開始120時間後、窒素を200cc/分で流しはじめ、同時にHFE−254pcの流通を停止し、その1時間後加熱を停止して、徐冷した。
【0064】
【表1】

【0065】
[実施例2]
吹き込み管、温度計、−20℃の冷媒を流通させたジムロート型冷却管を備えた3000ccの三口フラスコに2035gの24%KOH水溶液を仕込み、マグネテックスターラーで攪拌しながら氷浴で冷却した。実施例1で使用した触媒を充填したままの反応管Aの出口をこの吹き込み管に接続し、ジムロート型冷却管の出口を空トラップ、次いでモレキュラーシーブス4A(TM)(和光純薬製品、200cc)を充填した乾燥塔を経由して反応管Bへ直列に接続した。反応管Bの出口は48%KOH水溶液を仕込んだPFA製ガス洗浄瓶に接続した。3000ccの三口フラスコおよびPFA製ガス洗浄瓶のKOH水溶液は、約24時間毎に交換した。
【0066】
窒素80cc/分を反応管A入口に、空気900cc/分を反応管B入口に導入し、反応管Aは200℃、反応管Bは500℃に設定して昇温し、昇温完了後、反応管Aの気化器にHFE−254pcを0.2g/分の速度で供給すると同時に、窒素の流通を止めた。約3時間経過して定常状態に達した後(HFE−254pc供給積算時間約123時間)、反応管A出口、最終出口(ガス洗浄瓶の後)のガス成分をガスクロマトグラフィー(FID検出器)で分析し結果を表1に示した。また、乾燥塔出口のガスをサンプリングして同様の分析をしたところジフルオロ酢酸フルオリドと原料のHFE−254pcは検出限界以下であり、フッ化メチル(CH3F)が99.1面積%であり、その他の成分の合計が0.9面積%であった。最終出口の分析は、第二熱分解工程の入口と第二熱分解工程の出口でそれぞれ採取したガス2ccに対するガスクロマトグラフでのCH3Fカウント数の比率からCH3F分解率を求めた(以下、同様)。
【0067】
[実施例3]
実施例2のガス成分の分析後、精密なCH3F分解率を求めるために、乾燥塔出口直後に標準物質として、純アルゴンガス80cc/分を導入し、約2時間経過後に、導入位置直後(反応管入口)と、最終出口(ガス洗浄瓶の後)のGC/MS(日本電子製ガスクロマトグラフィー質量分析計(AUTOMASSII);カラム バリアン製PoraPLOT Q 長さ50m、内径0.32mmφ、膜厚10μm)で測定し、質量電荷比40(Ar)と質量電荷比34(CH3F)の面積比から分解率を算出した。その結果を表2に示した。表2記載の化合物の他、窒素(質量電荷比28)、酸素(質量電荷比32)、CO2(質量電荷比44)のフラグメントが検出された。
【0068】
【表2】

【0069】
[実施例4]
実施例3のガス成分のGC/MS分析後、反応管Bの温度を400℃に設定した。3時間後に温度が安定し定常状態を示したので、GC/MS(日本電子製ガスクロマトグラフィー質量分析計(AUTOMASSII);カラム バリアン製PoraPLOT Q 長さ50m、内径0.32mmφ、膜厚10μm)で測定し、質量電荷比40(Ar)と質量電荷比34(CH3F)の面積比からCH3F分解率を算出した。その結果を表2に示した。表2記載の化合物の他、窒素(質量電荷比28)、酸素(質量電荷比32)、CO2(質量電荷比44)のフラグメントが検出された。
【0070】
[実施例5]
実施例3のガス成分のGC/MS分析後、アルゴンの流通を停止し反応管Bの温度を再び500℃に設定して昇温したところ、ガス分析後70時間が経過した時(HFE−254pc供給積算時間約198時間)、反応管Aの触媒活性が低下し、HFE−254pc分解率が下がった。反応管Aに窒素200cc/分を供給し、HFE−254pcの供給を停止し、第一および第二熱分解工程の反応管の加熱を停止して室温まで冷却した。反応管AとBを取り替えた後(すなわち、反応管Bは第一熱分解工程、反応管Aは第二の熱分解(CH3F分解)に使用する)、窒素80cc/分を反応管B入口に、空気900cc/分を反応管A入口に導入し、反応管Bは200℃、反応管Aは500℃に設定して昇温し、昇温完了後、反応管Bの気化器にHFE−254pcを0.2g/分の速度で供給すると同時に、窒素の流通を止めた。HFE−254pc供給開始から24時間経過した後、反応管B出口、最終出口(ガス洗浄瓶の後)のガス成分をガスクロマトグラフィー(FID検出器)で分析し結果を表1に示した。
【0071】
[実施例6]
実施例5のガス成分の分析後、乾燥塔出口直後に標準物質として、純アルゴンガス80cc/分を導入し、さらに約2時間経過した後に、導入位置直後と、最終出口(ガス洗浄瓶の後)のGC/MS(日本電子製ガスクロマトグラフィー質量分析計(AUTOMASSII);カラム バリアン製PoraPLOT Q 長さ50m、内径0.32mmφ、膜厚10μm)で測定し、質量電荷比40(Ar)と質量電荷比34(CH3F)の面積比から分解率を算出した。その結果を表2に示した。なお、表2記載の化合物の他、窒素(質量電荷比28)、酸素(質量電荷比32)、CO2(質量電荷比44)のフラグメントが検出された。
【0072】
[実施例7]
実施例6のガス成分のGC/MS分析後、アルゴンの流通を停止し、反応管Bに窒素200ccを供給し、HFE−254pcの供給を停止し、反応管BおよびAの加熱を停止して室温まで冷却した。反応管AとBを取り替えた後(すなわち、反応管Aは第一熱分解工程、反応管Bは第二の熱分解工程(CH3F分解)に使用する)、窒素80cc/分を反応管A入口に、空気900cc/分を反応管B入口に導入し、反応管Aは200℃、反応管Bは500℃に設定して昇温し、昇温完了後、反応管Aの気化器にHFE−254pcを0.2g/分の速度で供給すると同時に、窒素の流通を止めた。約3時間経過して定常状態に達した後、反応管A出口、最終出口(ガス洗浄瓶の後)のガス成分をガスクロマトグラフィー(FID検出器)で分析し結果を表1に示した。
【0073】
[実施例8]
実施例7のガス成分の分析の後、HFE−254pcの供給を停止し、窒素200cc/分のみを流しながら放冷した。反応管Aと24%KOH水溶液の入った四口フラスコの間に、トリ−n−ブチルアミン(Bu3N、111g)、イソプロパノール(IPA、12g)を仕込んだガラス製4口フラスコ(300cc)を実施例2で用いた装置に組み込み、氷浴で冷却し、攪拌機でゆっくりと攪拌した。実施例2と同様の手順で、窒素80cc/分を反応管A入口に、空気900cc/分を反応管B入口に導入し、反応管Aを200℃、反応管Bを500℃に設定して昇温し、昇温完了後、反応管Aの気化器にHFE−254pcを0.4g/分の速度で供給すると同時に、窒素の流通を止めた。約3時間経過して定常状態に達した後、反応管A出口、乾燥塔出口、最終出口(ガス洗浄瓶の後)のガス成分をガスクロマトグラフィー(FID検出器)で分析したところ、CHF2COF収率(表1と同様に面積%に基づいて算出。)99.7%、CH3F分解率(表1と同様の方法により算出。)99.94%であった。
分析の終了後、HFE−254pcの供給を停止し、窒素ガス流量を200cc/分として両反応管の過熱を止め自然に冷却させた。
【0074】
300ccの四口フラスコを取りはずし、減圧下(3kPa)でフラッシュ蒸留を行った。そのときの塔頂温度は24〜27℃であった。この操作により得た留分(27.6g)を30gの水道水で洗浄、分液し、26.3gの有機物を得、無水硫酸マグネシウムで乾燥して、25.8gの粗生成物を得た。ガスクロマトグラフィー(FID検出器)で分析した結果、ジフルオロ酢酸イソプロピル(CHF2COOCH(CH32):96.53%、トリ−n−ブチルアミン(Bu3N):0.22%、その他:3.25%であった。
【0075】
[実施例9]
実施例8の300cc三口フラスコの代わりに500ccのPFA製三口フラスコに純水300gを仕込み、実施低8と同様の反応の試験を行った。約3時間経過して定常状態に達した後、反応管A出口、乾燥塔出口、最終出口(ガス洗浄瓶の後)のガス成分をガスクロマトグラフィー(FID検出器)で分析したところ、CHF2COF収率(表1と同様に面積%に基づいて算出。)98.5%、CH3F分解率(表1と同様の方法により算出。)99.91%であった。
【0076】
その後反応を継続してHFE−254pcの全供給量が28.0gに達した後、反応管A出口、乾燥塔出口、最終出口(ガス洗浄瓶の後)のガス成分を分析したところ、CHF2COF収率(表1と同様に面積%に基づいて算出。)98.3%、CH3F分解率(表1と同様の方法により算出。)99.94%であった。
【0077】
分析の終了後、HFE−254pcの供給を停止し、窒素ガス流量を200cc/分として両反応管の過熱を止め自然に冷却させた。
【0078】
フッ素樹脂容器を取りはずし、和光純薬製フッ化物イオン標準液、および別途合成したCHF2COOKを用いて作成した検量線をもちいたイオンクロマトグラフィで内容物を分析した結果、ジフルオロ酢酸26.4gとフッ化水素3.9gが含まれていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式CHF2CF2OR1(ただし、R1は一価の有機基を表す。)で表される1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ化合物を熱分解する第一熱分解工程を有する一般式(1)
CHF2C(=O)R2 (1)
(式中、R2はフッ素原子、ヒドロキシル基またはアルコキシル基を表す。)で表されるジフルオロメチルカルボニル化合物を製造する方法であって、その第一熱分解工程において生成する一般式R1F(ただし、R1は前記と同じ。)で表されるフルオロ化合物をリン酸塩と接触させて分解する第二熱分解工程を有するジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
【請求項2】
第一熱分解工程において生成したジフルオロ酢酸フルオリドを回収する工程を有する請求項1に記載のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
【請求項3】
ジフルオロ酢酸フルオリドが水と接触せしめられてジフルオロ酢酸として得られる請求項2に記載のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
【請求項4】
ジフルオロ酢酸フルオリドがアルコール類と接触させしめられてジフルオロ酢酸エステルとして得られる請求項2に記載のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
【請求項5】
第一熱分解工程の触媒がリン酸塩である請求項1〜4のいずれか1項に記載のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
【請求項6】
リン酸塩がリン酸アルミニウムである請求項5に記載のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
【請求項7】
第一熱分解工程の触媒と第一熱分解工程の触媒が同一の組成からなる触媒である請求項5に記載のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。
【請求項8】
第一熱分解工程の触媒と第二熱分解工程の触媒を交互に置換して使用する請求項1〜7のいずれか1項に記載のジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−195753(P2010−195753A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45983(P2009−45983)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】