説明

ジフルオロ酢酸エステルの製造方法

【課題】副生物の生成を抑制して、高い選択率でジフルオロ酢酸エステルを製造できる方法を提供する。
【解決手段】酸化物及び低級アルコールの存在下において、一般式:HCF2CF2OR(式中、Rは、低級アルキル基を示す)で表される1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテルを酸触媒に接触させることを特徴とする、一般式:HCF2COOR(式中、Rは上記に同じ)で表されるジフルオロ酢酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフルオロ酢酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジフルオロ酢酸エチル(HCF2CO2Et)は医薬、農薬等の中間体として非常に重要な化合物である。
【0003】
ジフルオロ酢酸エチルの合成法としては、下記反応式に従って、まず、四フッ化エチレン(TFE)とエタノールを反応させて1,1,2,2-テトラフルオロエチルエチルエーテルを調製し、次に、得られたエーテルに、酸素供給源として二酸化ケイ素の存在下、濃硫酸を作用させて酸加水分解反応を行う方法が知られている(非特許文献1参照)。
TFE + EtOH + KOH → HCF2CF2OEt
HCF2CF2OEt + 1/2SiO2+ H2SO4 → HCF2CO2Et + 1/2SiF4
この方法では、HFやフッ化物の固体を発生することなくジフルオロ酢酸エチルを製造することが可能であるが、ジフルオロ酢酸等の副生物が生成し易く、目的とするジフルオロ酢酸エチルの選択率が低いという欠点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Amer. Chem. Soc., 1950, 72, 1860
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、副生物の生成を抑制して、高い選択率でジフルオロ酢酸エステルを製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテルを原料としてジフルオロ酢酸エステルを製造する際に、酸素供給源として酸化物とアルコールの存在下に、酸触媒を作用させる方法によれば、副生物の生成を抑制して、高い選択率で目的とするジフルオロ酢酸エステルを製造できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記のジフルオロ酢酸エステルの製造方法を提供するものである。
項1. 酸化物及び低級アルコールの存在下において、一般式:HCF2CF2OR(式中、Rは、低級アルキル基を示す)で表される1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテルを酸触媒に接触させることを特徴とする、一般式:HCF2COOR(式中、Rは上記に同じ)で表されるジフルオロ酢酸エステルの製造方法。
項2. 酸化物が、SiO2及びAl2O3からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含むものである上記項1に記載のジフルオロ酢酸エステルの製造方法。
項3. 低級アルコールが、エタノール及びメタノールからなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項1又は2に記載のジフルオロ酢酸エステルの製造方法。
項4. 酸触媒が、硫酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸及び三フッ化ホウ素からなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項1〜3のいずれか一項に記載のジフルオロ酢酸エステルの製造方法
以下、本発明のジフルオロ酢酸エステルの製造方法について具体的に説明する。
【0008】
原料化合物
本発明では、原料としては、一般式:HCF2CF2OR(式中、Rは、低級アルキル基を示す)で表される1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテルを用いる。
【0009】
上記一般式において、Rで表される低級アルキル基としては、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチルシル基等を例示できる。
【0010】
上記一般式で表される1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテルは公知化合物であり、例えば、下記反応式に従って、四フッ化エチレンとエタノールを反応させることによって得ることができる。
【0011】
CF2=CF2 + ROH + KOH → HCF2CF2OR
ジフルオロ酢酸エステルの製造方法
本発明のジフルオロ酢酸エステルの製造方法では、上記した一般式:HCF2CF2OR(式中、Rは、低級アルキル基を示す)で表される1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテルを、酸化物及び低級アルコールの存在下において、酸触媒に接触させることが必要である。
【0012】
上記反応に用いる酸化物としては、SiO2及びAl2O3からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含む酸化物を用いることが好ましい。該酸化物において、SiO2及びAl2O3からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の含有量は、特に限定的ではないが、通常、酸化物中に80重量%程度以上含まれていることが好ましい。
【0013】
この様な酸化物の具体例としては、シリカゲル、珪石、ガラス、石英、海砂、セライト、アルミナ等を例示できる。特に、シリカゲル、珪石粉末などが好ましい。これらの酸化物は、通常、溶存水分として水を含むか、或いは、表面に水酸基を有するものであり、これらによって、1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテルの分解反応が進行するものと推測される。
【0014】
上記した酸化物の内で、特に、SiO2を含む酸化物を用いる場合には、1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテルの加水分解反応によって生じたHFが、系内でSiO2と反応することにより水とSiF4となり、SiF4は気体であるために系外に除去され、水は次の反応に利用され、その結果、HFやフッ化物の固体を発生することなくジフルオロ酢酸エチルを製造することができる。
【0015】
使用する酸化物の形状については、特に限定はないが、良好な反応性とするために、粒径1μm〜2mm程度の粉末として用いることが好ましい。
【0016】
酸化物の使用量については、特に限定的ではないが、通常、1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテル1モルに対して、0.5〜1.5モル程度とすることが好ましい。
【0017】
低級アルコールとしては、特に限定的ではないが、炭素数1〜4程度のアルコールが好ましく、特に、エタノール及びメタノールが好ましい。
【0018】
低級アルコールの使用量は、原料として用いる1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテル1モルに対して0.03〜0.5モル程度とすることが好ましく、0.05〜0.2モル程度とすることがより好ましい。
【0019】
酸触媒としては、酸加水分解反応に対して活性を有する物質であれば特に制限されない。この様な酸触媒の具体例としては、硫酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、三フッ化ホウ素等を例示できる。
【0020】
酸触媒の使用量は、原料として用いる1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテル1モルに対して0.01〜1モル程度とすることが好ましく、0.05〜0.3モル程度とすることがより好ましい。
【0021】
本発明のジフルオロ酢酸エステルの製造方法では、具体的な反応方法については特に限定はなく、原料として用いるジフルオロ酢酸エステルと酸化物、低級アルコール及び酸触媒とが同時に接触できる方法であればよい。例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテル、酸化物及び低級アルコールを含む反応容器中に酸触媒を滴下する方法等を適用できる。
【0022】
反応温度については、室温〜200℃程度とすることが好ましく、80〜150℃程度とすることがより好ましい。
【0023】
反応時の雰囲気については、特に限定はないが、過剰の水分は好ましくないため、大気圧で反応を行う場合は、通常、乾燥空気や窒素もしくは不活性ガス雰囲気中等で反応を行うことが好ましい。
【0024】
反応時の圧力については、特に限定はないが、SiO2を含む酸化物を用いて密閉容器中で反応を行う場合には、反応の進行に伴ってSiF4ガスが発生し、これにより容器内の圧力が上昇する。この場合、必要に応じて、発生したSiF4ガスを系外に除去すればよい。
【0025】
反応時間は、通常、3時間〜48時間程度である。
【0026】
上記した方法によれば、高い選択率で目的とする一般式:HCF2COOR(式中、Rは上記に同じ)で表されるジフルオロ酢酸エステルを得ることができる。
【0027】
得られた粗生成物は、常法に従って、必要に応じてろ過・洗浄・抽出などの操作の後、蒸留等の方法で分離精製することができる。
【0028】
上記した方法で得られるジフルオロ酢酸エステルは、医薬、農薬等の中間体として有用性の高い物質である。
【発明の効果】
【0029】
本発明の方法によれば、高い選択率で目的とするジフルオロ酢酸エステルを得ることができる。従って、本発明方法は、低コストでジフルオロ酢酸エステルを製造できる点において、工業的に有利な方法である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0031】
実施例1
HCF2CF2OEt + 1/2SiO2 +H2SO4(cat.) → HCF2CO2Et + 1/2SiF4
マグネチックスターラーバーを入れた100mlのSUS製オートクレーブに1,1,2,2-テトラフルオロエチルエチルエーテル(HCF2CF2OEt)(9.0g, 61.6mmol)、珪砂粉末(2.22g, 36.9mmol)及びエタノール(0.28g, 6.2mmol)を仕込み、濃硫酸(0.60g, 6.2mmol)を滴下した。オートクレーブの蓋を閉めて、100℃のオイルバスに浸漬して24時間攪拌した。オートクレーブ内の圧力は、0.8MPaGに上昇した。
次いで、オートクレーブのバルブを少しずつ開け、SiF4ガスを10%HF水溶液に流すことにより処理した。
【0032】
オートクレーブの蓋を開けた後、内容物をテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなる容器に移すことによって、褐色の反応混合物を10.3g得た。
【0033】
この反応液の組成を19F-NMRで分析したところ、原料転化率は99.4%、HCF2CO2Et(ジフルオロ酢酸エチル):HCF2CO2H(ジフルオロ酢酸(カルボン酸塩を含む))=93:7(モル比)であった。また、19F-NMR上でHFは確認できなかった。
【0034】
比較例1
エタノールを添加することなく、それ以外は実施例1と同様にしてジフルオロ酢酸エチルを製造した。
【0035】
原料転化率は100%であったが、生成物におけるジフルオロ酢酸エチルの選択率は、83%であり、実施例1と比較して、副生物であるジフルオロ酢酸等を多量に含むものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物及び低級アルコールの存在下において、一般式:HCF2CF2OR(式中、Rは、低級アルキル基を示す)で表される1,1,2,2-テトラフルオロエチルアルキルエーテルを酸触媒に接触させることを特徴とする、一般式:HCF2COOR(式中、Rは上記に同じ)で表されるジフルオロ酢酸エステルの製造方法。
【請求項2】
酸化物が、SiO2及びAl2O3からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含むものである請求項1に記載のジフルオロ酢酸エステルの製造方法。
【請求項3】
低級アルコールが、エタノール及びメタノールからなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項1又は2に記載のジフルオロ酢酸エステルの製造方法。
【請求項4】
酸触媒が、硫酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸及び三フッ化ホウ素からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載のジフルオロ酢酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2012−25697(P2012−25697A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165852(P2010−165852)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】