説明

ジフルクトース・ジアンヒドリドIIIの精製方法

本発明は、純度90%以上のジフルクトース・ジアンヒドリドIII(di−D−fructofranose−1,2’;2,3’dianhydride、以下、DFAIII)をR−Bx10〜60、好ましくは40〜55の濃度で有するDFAIII精製液に、粉末活性炭を5%以下添加して攪拌した後、固液分離し(ケイソウ土濾過、メンブランフィルター濾過、限外濾過、連続遠心分離等)、分離液を濃縮した後、直ちに結晶化して、高純度のDFAIII結晶を製造する。本発明の方法は、DFAIII結晶が効率的に工業生産できるだけでなく、得られた結晶は従来品と異なり、臭いがないという特徴を有するので、医薬品や飲食品用途に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ジフルクトース・ジアンヒドリドIII(Difructose dianhydride III:α−D−fructofuranose−β−D−fructofuranose−2’,1:2,3’−dianhydride)(以下、DFAIIIということもある)の精製方法に関するものであって、更に詳細には、DFAIII含有液から高純度のDFAIII結晶を、特に、再結晶処理を多数回くり返すことなく臭いまでも除去されて高度に精製されたDFAIII結晶をきわめて効率よく得ることのできる工業的方法に関するものである。
【背景技術】
ジフルクトース・ジアンヒドリドIII(difructose dianhydride III:DFAIII)は、フラクトース2分子が1,2’;2,3’で結合している難消化性二糖類であって(di−D−fructofuranose−1,2’;2,3’dianhydride)、水への溶解性が高く、蔗糖の90〜95%程度を示すが、その甘味度は蔗糖の52%程度である。
DFAIIIは、最近の本出願人に属する研究者らの研究により、Ca等ミネラルの吸収促進作用を有することが明らかにされ(例えば、特許文献1参照)、今後、特に高齢者や乳幼児等にとって、医薬上、健康食品、特定保健用食品、その他飲食品上、有益な物質として期待されている。したがって、高純度のDFAIIIが、特に取扱いのうえからもまた加工のし易さからも、結晶化したDFAIIIの製造が、しかも研究試薬用のように小規模高コスト生産ではなく、大規模低コスト生産法の開発が待望されている。
DFAIIIは、従来、イヌリン又はイヌリン含有物(例えば、キクイモ、ゴボウ、チコリ等の抽出液)に、細菌又はそれが生産する酵素フラクトシルトランスフェラーゼであるイヌリンフラクトトランスフェラーゼを作用させてDFAIII含有液を製造した後、これを更に処理して高濃度DFAIII液を得ている。
例えば、DFAIII含有液を活性炭カラムに通液してDFAIIIを吸着させた後、エタノールで溶離してDFAIII含量の多い画分を回収し、蒸発乾固する方法が提案されているが(例えば、特許文献2、3参照)、この方法は実験室的な回収方法であって、工業的大量生産方法とはいい難いものである。また、上記酵素反応によって得た液をイオン交換樹脂によって精製し、これを濃縮乾固する方法も提案されているが(例えば、特許文献4参照)、DFAIIIの純度が低く、高純度のDFAIII結晶を得る方法とはいい難いものである。しかも、従来の方法で結晶化したDFAIII結晶は、他の不純物は除去できても、臭いまでは除去することができず、臭いの残留という欠点は不可避であった。たしかに再結晶によれば臭いの除去も一応は可能であるが、再結晶処理を多数回くり返す必要があり、そのたび毎に収率、歩留りが低下し、再結晶法は工業的な方法ではない。
このように、臭いも除去した高純度DFAIII結晶、しかもこれを工業的に大量生産するのに成功した報告は未だなされていないのが現状である。
【特許文献1】 特開平11−43438号公報
【特許文献2】 特公昭56−26400号公報
【特許文献3】 特開平3−259090号公報
【特許文献4】 特開平1−285195号公報
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、近年、DFAIIIについて有用な用途が開発されるに伴い、DFAIIIの需要が高まってきている。そして医薬用途に使用する場合はもちろんのこと飲食品用途に使用する場合においても、DFAIII以外の糖及び各種不純物を除去した高純度DFAIII結晶が要望されており、特に、これらの用途においては不純物の内、色のほかに臭いが結晶中に残存しないことが要望されている。しかしながら、従来の方法では、結晶から臭いを除くことがきわめて難しく、多数回再結晶処理をくり返すことなく、臭いまでも除去してきわめて高度に精製された結晶化DFAIIIを効率良く工業的に大量生産することはできず、当業界においてこの問題点を解決することが要望されている。
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記のように、従来の結晶化方法では工業的に臭いを除去することができなかったのであるが(換言すれば、結晶化しても臭いが残存していたのであるが)、本発明方法ではそれをはじめて可能にしただけでなく、効率化、工業的大量生産にもはじめて成功したものである。
すなわち、本発明者らは、各方面から研究した結果、DFAIII含有液を粒状活性炭充填カラムに通液するのではなく、DFAIII含有液に少量の粉末状活性炭を加えて攪拌した後、これをケイソウ土濾過、メンブランフィルター濾過等の固液分離処理を行って得られた液状部の濃縮液を結晶化したところ、高純度のDFAIII結晶がきわめて効率的に得られること、しかも純度95%以上、すなわち95〜99%ときわめてピュアーなDFAIII結晶が得られることをはじめて見出した。また、この研究の過程において、DFAIII含有液をクロマトグラフィー処理して得たDFAIII画分は、これに活性炭を加え固液分離した後の液状部は直接結晶化することも可能であること、しかもこれらの方法で得られた結晶には臭いがないこともはじめて見出した。
本発明は、これら有用新知見に基づき更に検討研究を行った結果遂に完成されたものであって、従来なし得なかった臭いもなく高純度のDFAIII結晶ないし顆粒状物の工業的大量生産の開発にはじめて成功したものであり、きわめて高価なDFAIIIを低コストで精製、結晶化すること、しかも従来わずかに実験室規模で行われていた再結晶を多数回くり返すことによる臭いの除去処理も実施する必要がないこともはじめて可能としたものである。
【図面の簡単な説明】
図1
DFAIII結晶の製造フローの一例を示す。
図2
クロマト処理による精製フローの例を示す。
図3
各種イヌリン商品の液体クロマトグラムである。
図4
MF(メンブランフィルター)濾過試験の結果を示す。
以下、本発明について詳述する。
本発明は、DFAIII含有液を精製して高純度のDFAIII結晶を効率的に工業生産するものである。DFAIII含有液としては、DFAIIIを含有し後記する条件を満たす液状物をすべて包含するものであって、イヌリン又はイヌリン含有液にフラクトシルトランスフェラーゼを作用させて得たDFAIII生成反応液のほか、DFAIII化学合成液や本精製工程において生成する各種精製度のDFAIIIを含有する液体がすべて包含される。
例えばイヌリン(及び/又はイヌリン含有液)と酵素を用いてDFAIIIを製造する場合、イヌリンは、フラクトースが多数重合したもので、主にチコリ(あるいは、キクイモ、ゴボウ等)から抽出したものが使用されるため、重合度及び純度が異なるものが市販されているだけでなく、これを酵素によって分解すると、生成した反応液には、DFAIII以外のフラクトース重合物、酵素、酵素源として使用した微生物、その培養物、色素、臭い等の不純物が含まれることは不可避であり、そのため、従来は、純粋なDFAIII結晶又はその含有物を工業的に低コストで効率良く得るまでには至っていない。
酵素反応液の清浄法としては、既述のように、イオン交換樹脂及び活性炭カラムを用いる方法が知られているが(特許文献4及び2、3)、処理、操作が煩雑で効率的ではないだけでなく、他のフラクトース重合体を除去することがきわめて困難であるため、これらの重合体が残存してしまい、DFAIII純度が低いという非常に大きな欠点は避けられないし、特に臭いが残存してしまう。
また、活性炭カラムを使用する方法は、DFAIIIのほか他のフラクトース重合体、色素等の不純物を非選択的に一旦活性炭に吸着せしめた後、エタノールを用いて各種画分を溶出し、DFAIIIリッチ画分を集めて回収するものであって、少量のしかも粉末状の活性炭を酵素反応液に添加して不純物を吸着し(DFAIIIはそのほとんどが液中に残留する)しかる後に粉末状活性炭を除去する本発明に係る清浄化方法とはその原理自体が相違することはもとより、操作方法、操作効率、精製度が全く異なり、しかも使用する活性炭の種類、粒度、使用量が全然相違しており、本発明とは全く別異の方法であって、本発明の特許性とは関係のないものである。両者は、方法自体が全く相違しているのである。
なお、特許文献4(イオン交換樹脂法)の実施例4において、キクイモ上清をセライト濾過して得た濾液を活性炭処理する工程が記載されているが、これは、キクイモ上清濾液は不純物が多くて後で行うイオン交換樹脂処理に支障をきたすためこれをスムースに実施する目的で行う前処理ないし最初の単なる部分精製工程であって、そもそも本発明の活性炭処理とは技術的意義を全く異にするものである。しかも、使用する活性炭の粒度、使用量についての規定もなければ、処理対象として特定純度のDFAIIIを特定濃度含有する特定のDFAIII含有液(本発明におけるDFAIII精製液)についての記載すらなく(キクイモ上清濾液が本発明でDFAIII精製液として使用する特定したDFAIII含有液でないことは明白である)、そのうえ、本発明においては活性炭によって清浄化した後には結晶化工程が行われるのに対して、この方法においてはイオン交換樹脂処理が行われていて全く相違しているだけでなく、そもそも結晶化自体が行われていない。ましてや脱臭もされていない。したがってこの方法も本発明に係る方法とは何らの関係もないものである。
このように従来技術とは全く異なる本発明を実施して高純度のDFAIII結晶を高収率で製造するには、出発粗結晶化原料として、純度60%以上、好ましくは70%以上のDFAIIIをR−Bx60以上、好ましくは70以上の濃度で含有するDFAIII粗液を使用するのが好適である。この特定のDFAIII粗液を使用することにより、純度95%以上、あるいは99%以上の純粋なDFAIII結晶を回収率35%以上(対イヌリン)で効率的に大量生産することができる。DFAIII粗液としては、DFAIII含有液、クロマトグラフィー処理して得たDFAIII画分、結晶又は粗結晶シラップの少くともひとつが使用される。
このDFAIII含有液は、フラクトース重合度が10以上、好ましくは10〜100、更に好ましくは10〜60のイヌリンを酵素処理すれば得ることができるし、また、純度の低いDFAIII含有液であっても、クロマトグラフィー(以下、クロマトということもある)処理して、上記した特定のDFAIII画分を分画して回収してもよい。必要あれば濃縮、遠心分離、濾過その他の常法によって成分調整を行い、上記した組成を有するDFAIII含有液を調製してもよい。
フルクトース単位を転移触媒して、DFAIIIの様なオリゴ糖を合成する酵素は、広義で「フラクトシルトランスフェラーゼ」である。フラクトシルトランスフェラーゼは、大きく2種類に大別される。(1)フルクトース単位(スクロースなどの2糖類を含む)を基質とし、これを加水・転移して、オリゴ糖を合成する酵素(場合として、多糖も合成する)。(2)イヌリンやレバンなどのフラクタンを基質とし、これを加水・転移して、オリゴ糖を合成する酵素である。発明者らがイヌリンからのDFAIII製造に使用したのは、フラクトシルトランスフェラーゼの中でも、学名がイヌリンフルクトトランスフェラーゼであり、(2)の種類に属する。イヌリンフルクトトランスフェラーゼ(以後、単にIFTとする)を生成する微生物としては、アースロバクター属、クルイベロマイセス属、ストレプトマイセス属、エンテロバクター属に属する各種細菌、酵母、放線菌等が報告されており、これらを適宜使用することが可能である。これらの微生物を培養して、精製酵素、粗製酵素、酵素含有物、微生物培養物等の形態として適宜使用される。
その非限定例を以下に示す:Arthrobacter sp.;Arthrobacter ureafaciens IFO 12140;Arthrobacter globiformis IFO 12137;Arthrobacter pascens IFO 12139;Bacillus sp.;Kluyveromyces marxianus var.marxianus:Streptomyces sp.;Enterobacter sp.
これら微生物由来の酵素を使用する場合、分離精製した酵素のほか、粗精製酵素、微生物培養物、同処理物(培養上清、分離菌体、菌体破砕物等)も使用可能である。なお、DFAIII結晶を食品用途に使用する場合には、酵素としてフラクトシルトランスフェラーゼ、特にIFTを使用するのが好適であって、上記微生物由来の酵素のほか、今回、特許生物寄託センターにFERM BP−8296として寄託されたArthrobacter sp.AHU 1753株は、IFT生産能にすぐれているので、本菌株由来の酵素は好適に使用可能である。
なお、イヌリンの酵素分解によるDFAIIIの生成は、DFAIII単独のものが生成されることが最も好ましいが、実際上ではDFAIII以外のフラクトースの重合物が種々生成される。それが酵素分解液の純度の低下の原因となっている。このため、DFAIIIを結晶化するための原料として、イヌリン以外の不純物の混入量の出来るだけ少ないものや、また、DFAIII以外のフラクトース重合物が生成しない酵素の選択が必要である。そして、このように精製されたDFAIII含有液が得られれば、これをDFAIII粗液として、直ちに本発明に係る清浄濾過、結晶化工程に入っていくことができる。
以下、結晶DFAIIIの製造フローの一例として図1に示した製造フローを参照しながら、本発明を詳細に説明する。
イヌリンをイヌリン分解酵素で処理した後、酵素を失活させて、DFAIII含有液(酵素反応液)を得る。この際、高純度DFAIII結晶を効率的に製造するには、原料イヌリンとしては、フラクトース重合度が10以上、好ましくは10〜60のものを使用するのがよい。酵素としては既述したものが適宜使用可能であり(好適例のひとつとしては、アースロバクターsp.AHU 1753株(FERM BP−8296)由来のIFTが例示される)、酵素処理及び失活は常法にしたがえばよい。このようにして、R−Bx10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは20以上、より好ましくは20〜30で、DFAIII純度60%以上、好ましくは65%以上、更に好ましくは70%以上、更に好ましくは70〜85%のDFAIII含有液を得る。化学合成によっても、同様にDFAIII含有液を製造することができる。なお、原料イヌリンとしては、上記したようにフラクトース重合度が10以上のものが好適であるが、不純物を含有するイヌリン、例えばフラクトース重合度が5程度のものであっても、シラップの副生量が多くなり、循環処理する回数や量が多くなって効率面ではやや低下するものの、この製造で充分処理することができる。
上記によって得たDFAIII含有液のほか、これと同じ性質を有するクロマト処理して得たDFAIII画分、結晶又は粗結晶シラップの少くともひとつからなるDFAIII粗液は、次に清浄濾過する。清浄濾過は、DFAIII粗液の活性炭処理及び固液分離処理を指すものである。活性炭処理は、DFAIII粗液に粉末活性炭を少量添加して、必要あれば加熱及び/又は攪拌して、DFAIII以外の不純物を活性炭に吸着せしめる処理である。
粉末活性炭としては、平均粒径が15〜50ミクロン、好ましくは25〜45ミクロン、更に好ましくは約35ミクロン;最大粒径が200ミクロン以下、好ましくは170ミクロン以下、更に好ましくは150ミクロン以下、例えば147ミクロン以下のものが使用される。その添加量は、固形分に対して、5%以下、好ましくは0.1〜3%、更に好ましくは0.5〜1.5%とするのが良く、DFAIII粗液の組成に応じて適宜規定する。
固液分離処理としては、ハイフロスーパーセル(和光純薬製)やケイソウ土濾過等の濾過助剤を使用する濾過(例えば、セラミック濾過機による濾過:日本ポール(株)製PR−12型が使用可能)、メンブランフィルター(MF)濾過、連続遠心分離法、分子篩法、逆浸透膜法、場合によっては限外濾過(UF)膜の少くともひとつが適宜利用される。固液分離は、常圧、加圧、又は減圧の少くともいずれかで実施される。
上記の内、例えば、限外濾過膜(UF膜)を使用する濾過、メンブランフィルター(MF)濾過、連続遠心分離処理によれば、ケイソウ土等の濾過助剤を使用することなく、直接固液分離することができる。MF膜としては、例えばセラミック膜(例えば、月島機械(株)商品名ダリア)等が使用可能であるし、連続遠心分離(5,000〜25,000rpm、好ましくは8,000〜15,000rpm;6,500〜10,000G、好ましくは7,500〜9,500G:例えば10,000rpm、8,200G)によれば、DFAIII結晶(結晶粒径250〜500μm)と微細結晶(DFAIII以外の結晶、主に4、5糖類:結晶粒径100μm以下)とを分離することができるので、粗結晶シラップや結晶シラップの濾過にも適用できる。
固液分離して得た濾液は、これを濃縮する。濃縮は、常法によって行われ、例えば蒸発濃縮缶等が用いられる。得られた濃縮液は、粗結晶母液であって、蒸発結晶化または冷却結晶化等常法にしたがって粗結晶化処理する。粗結晶化された母液は、粗結晶と粗結晶シラップに分離するが、それには、遠心分離が利用される。
結晶化された母液から分離された粗結晶シラップ及び結晶シラップの濾過には、遠心分離、例えば連続遠心分離(例えば、アルファ・ラバル社製)を用いた固液分離が行われる。シラップ中には未結晶のDFAIII以外のフラクトース重合度の異なるオリゴ糖が含有されている。フラクトース重合度が高い程、結晶化がし易く、結晶の粒径が小さいことが新たに判明した。この性質を利用してDFAIIIと他のオリゴ糖を分けることができる。これによりDFAIII以外のオリゴ糖が除去されてDFAIII以外のオリゴ糖の循環蓄積が防止でき、DFAIIIの結晶化原料の純度の低下を抑さえることができる。このDFAIII以外のオリゴ糖が循環蓄積されると粗結晶母液(濃縮液)の純度が低下し、効率的(工業的)に結晶化できる純度(粗結晶の場合、純度60%以上)を確保することが難しくなる。特に、粗結晶母液(濃縮液)の純度低下を防ぐためシラップの製造系外への排出を行う方法もあるがDFAIIIの損失となるので避けるほうが良い。
DFAIII含有液(粗液)の清浄濾過処理によって得た濾液は、常法によって濃縮する。例えば、砂糖等の製造で用いられるカランドリア型濃縮効用缶により濃縮し、濃縮液を得る。濃縮液は、濃度R−Bx60〜85、好ましくは65〜80、例えば77程度に濃縮すればよい。
濃縮液は、粗結晶化するが、結晶缶を用いる蒸発結晶化、冷却結晶化等常用される結晶化処理が適宜利用される。蒸発結晶缶は、例えば砂糖製造用として用いられている結晶缶であればよい。冷却結晶缶は砂糖製造用として使用されているものと同様な形状の横型又は縦型のクリスタライザーが用いられる。このように、結晶缶に供給されるDFAIIIを含有した液体を粗結晶母液(濃縮液)という。DFAIIIの粗結晶化の際、結晶缶内に結晶が付着しないような処置をとるとよい。例えば攪拌機をそれに付設すると結晶率の上昇の効果がある。遠心分離機は砂糖製造用に用いられているものであればよい。DFAIII粗結晶を乾燥させる場合には、常圧の場合、50〜100℃の温度条件下で行う。なお、減圧乾燥も可能である。
粗結晶化工程により結晶が析出した母液(濃縮液)について、固液分離を行い、粗結晶(DFAIII純度は95〜98%程度にまで達する)と粗結晶シラップに分離する。固液分離処理は、既述した方法で行えばよく、例えば上記のように遠心分離機(500〜6,000rpm、好ましくは1,000〜5,000rpm、例えば2,000〜4,000rpm、500G〜3,000G、好ましくは800〜2,000G、例えば約1,200G)で両者を分離し、粗結晶シラップは、固液分離し、又はすることなく、所望する場合、精製工程に戻してやり、粗結晶は水又は湯に再溶解して、再溶解液とし、これを製品結晶化用の結晶母液用のDFAIII精製液として使用する。
再溶解液(DFAIII精製液:R−Bxは10〜60、好ましくは20〜55、更に好ましくは40〜50、DFAIII純度は90%以上、好ましくは90〜98%となり、例えば95〜98%程度にまで達する)は、上記粗結晶の条件と同様に、清浄濾過、濾液の濃縮、濃縮液(製品結晶母液)の製品結晶化、製品結晶及び結晶シラップの分離、製品結晶の乾燥、包装、DFAIII結晶製品(純度98〜99%以上、色もなければ臭いもない高度に精製された結晶)を製造する。なお、結晶から分離したシロップ(結晶シロップ、粗結晶シロップ)は、所望する場合、濾過し又は濾過することなく、DFAIII含有液からDFAIII製品に至る全精製工程(図1のフロー)の少くともひとつに戻してやる。
また、本発明においては、クロマト分離法を利用してDFAIII結晶を製造することも可能である。すなわち、DFAIII結晶化全精製工程(図1)で生成する各種生成物をクロマト処理原液(R−Bx 40〜75)として、これをクロマト処理し、DFAIIIを精製して結晶化することが可能である。そのクロマト処理による精製フローの一例を図2に示す。
クロマト処理原液(R−Bx 40〜75)は、クロマトで処理して、DFAIII画分を分離する。既述した再溶解液(DFAIII液)と同様の精製度を有するDFAIIIリッチ画分は、DFAIII精製液として、これを清浄濾過、濃縮、結晶化することにより製品結晶を製造することができ(ルートA)、あるいは、上記再溶解液(DFAIII液)に添加してDFAIII精製液とし、これを結晶化することもできる(ルートB)。また、DFAIIIリッチ画分とは異なりDFAIII含量が低いDFAIII非リッチ画分及びごく少量しかDFAIIIを含まない非DFAIII画分については、前者は製造フロー(図1に示すようなDFAIII含有液からDFAIII製品に至る全精製工程)の適宜個所に戻してやればよいし(ルートC)、後者について精製工程に導入するか、場合によっては廃棄する(ルートD)。
DFAIIIを含む液体(純度40%以上)をクロマト処理する場合、処理液のDFAIII画分は純度70〜98%のものが得られるので、DFAIII純度85%以上、好ましくは90〜95%、場合によっては95〜98%のDFAIIIリッチ画分は、ルートAにしたがって、清浄濾過、濃縮、製品結晶化することができる。したがって、例えば、粗結晶化工程を経ることなく粗結晶用の母液(濃縮液)をクロマト処理してDFAIII画分(DFAIIIリッチ画分)を分離し、これをDFAIII精製液として活性炭処理濾過後、この濃縮液を製品結晶母液として使用し、他は上記したのと同じ操作を行って、臭いもなく高度に精製されたDFAIII結晶製品を得ることができる。もちろん、この画分を再溶解液に添加してDFAIII精製液として使用するルート、例えばルートBでも可能である。また、上記で分離したDFAIII非リッチ画分は、ルートCにしたがって、精製工程(DFAIII含有液〜DFAIII製品の全精製工程)例えば図1の適宜個所に戻してやり、全体として無駄やロスを生じることなく、本フローを循環させて徹底的に効率化することができる。
また、非常に不純物含量が少ないイヌリン、例えばフラクトースの重合度が10以上、好ましくは10〜60であり、ポリサッカライド含量が80%以上、好ましくは100%のイヌリンを原料とし、そしてフラクトトランスフェラーゼとして精製酵素を用いてこれを処理し、そして得られたDFAIII含有液をクロマト処理し、得られたDFAIIIリッチ画分は、活性炭清浄濾過等を行うことなく、直接、濃縮し、結晶化することができる。得られたDFAIII結晶は更に臭い、着色は全くなくきわめて高純度な結晶であり、高純度イヌリン及び/又は精製フラクトシルトランスフェラーゼを使用することにより、清浄濾過を行うことなく、しかも、分離、濃縮、結晶化の各処理はわずか1回で臭いのない高純度なDFAIII結晶をきわめて効率的に製造することができる。
クロマト分離法としては、その分離装置は固定床方式(ワンパス方式)、連続方式(疑似移動床方式)、半連続方式(固定床方式と連続方式の組合)が適用できる。その装置の充填イオン交換樹脂としては、クロマト用のNa形、K形、Ca形等の強酸性イオン交換樹脂が使用される。その樹脂は均一粒径のスチレンジビニルベンゼン系樹脂等が用いられている。イオン交換樹脂のメーカーから種々のクロマト用樹脂が販売されているが、糖液に適用できるものであればいずれも使用できる。クロマト処理は結晶母液のDFAIII純度が低い場合、その純度を上げるのにも適宜使用される。
本発明は、更に、DFAIII純度が70%未満のDFAIII含有液(結晶母液)についても、工業的に結晶させることができる。
本発明においては、DFAIII純度が70%未満のDFAIII含有液の精製度を高めるため、DFAIII含有液を、イースト処理、清浄濾過処理又はクロマトグラフィー処理の少なくとも一つで処理することによりDFA含有液のDFAIII純度を大幅に上昇させることができる。
本発明は、DFAIII含有液をイースト処理、清浄濾過処理、クロマト処理の少なくともひとつから選ばれる処理によって精製する方法に関するものであり、本法を利用することにより高純度のDFAIII結晶を効率的に工業生産できるものである。DFAIII含有液としては、DFAIIIを含有し後記する条件を満たす液状物をすべて包含するものであって、フラクトースの重合体、例えばイヌリン又はイヌリン含有液にフラクトシルトランスフェラーゼを作用させて得たDFAIII生成反応液のほか、各種DFAIII生合成液、DFAIII化学合成液や本精製工程において生成する各種精製度のDFAIIIを含有する液体、あるいは市販のDFAIIIを溶解した液体等DFAIIIを含有する液体がすべて包含される。
例えばイヌリン(及び/又はイヌリン含有液)と酵素を用いてDFAIIIを製造する場合、イヌリンは、グルコース1つにフラクトースが多数重合したもので、主にキクイモ(あるいは、チコリ、ゴボウ等)から抽出したものが使用されるため、重合度及び純度が異なるものが市販されているだけでなく、これを酵素によって分解すると、生成した反応液には、DFAIII以外のフラクトース重合物、酵素、酵素源として使用した微生物、その培養物、色素、臭い等の不純物が含まれることは不可避であり、そのため、従来は、精製されたDFAIII、ひいては、純粋なDFAIII結晶又はその含有物を工業的に低コストで効率良く得るまでには至っていない。
DFAIII含有液からDFAIIIを結晶化する際、工業的、経済的に結晶可能なDFAIIIの純度は60%が限度である(好ましくは70%よりも高い方がよい)。換言すれば、DFAIII純度が60〜70%以下のDFAIII含有液から工業的、経済的にDFAIIIを結晶化することができず、従来、純度70%以下のDFAIII含有液(純度60%以下のDFAIII含有液の場合はなおさらのこと)は、工業的結晶化に採算がとれないため、使用することができなかったのである。
本発明は、このような現状に鑑み、従来工業的に使用することができなかったDFAIII純度が低いDFAIII含有液からDFAIIIを高度に精製する方法を開発して、例えば純粋なDFAIII結晶が得られる程度に高純度に精製されたDFAIIIを効率良く得るため、各方面から研究の結果、DFAIII含有液をクロマトグラフィー処理(以下、クロマト処理ということもある)、清浄濾過処理、イースト処理の少なくともひとつで処理することを骨子とする新規方法を開発したものである。
DFAIII含有液としては、上記したように、DFAIII生合成液、化学合成液、市販DFAIII溶解液その他DFAIIIを含有するがDFAIII純度の低いDFAIII含有液体のいずれもが使用可能である。
本発明においては、DFAIII含有液としては、高純度DFA含有液が使用できることはもちろんのこと、上記したように純度の低いDFA含有液も使用することができ、イースト処理、清浄濾過処理、クロマト処理の少なくともひとつの処理によって、従来経済的ないし工業的理由によって使用できなかった純度の低いDFAIII含有液(純度70%以下のもの、60%以下のものも可能)も原料として使用可能となり、効率的にDFAIIIを精製することがはじめて可能となった。
先ず、イースト処理は、DFAIII含有液とイーストを接触させればよく、両者を混合し、必要あれば攪拌してインキュベートしてもよいし、通気しながら培養してもよい。イーストとしては、パン酵母、清酒酵母、ビール酵母、ブドウ酒酵母その他各種の酵母が適宜使用可能であって、ドライイースト、圧搾酵母その他各種の市販品も充分に使用可能である。イーストによって、二糖類、単糖類が分解されたり菌体内に取り込まれるので、イースト処理は、主に二糖類及び/又は単糖類を系外に除去するのに有用である。
清浄濾過処理は、DFAIII含有液の粉末活性炭処理の清浄等を目的とする処理と、固液分離を目的とする処理が含まれる。固液分離処理は、遠心分離、濾過、珪藻土等の濾過助剤を用いる濾過、メンブランフィルターを用いる方法、セラミック膜を用いる方法、限外濾過膜を用いる方法、その他固体と液体を分離する方法をすべて包含するものである。
そして、クロマト処理は、クロマト用のイオン交換樹脂を用い、固定床、連続床(疑似移動床)、半連続等各方式によって適宜行うことができ、二糖類と他の糖類を分離するものである。したがって、クロマト処理によれば、二糖類であるDFAIIIと他の糖類を効率的に分離することができる。
このように、二糖類としてはDFAIIIのみが含まれている場合には、クロマト処理はDFAIIIの精製にきわめて有効である。しかしながら、クロマト処理では、DFAIIIと他の二糖類を分離することは、双方共に二糖類であることから、非常に困難である。したがって、例えば、イヌリンをイヌリン分解酵素処理して得たDFAIII含有液中に二糖類であるDFAIIIの他にこれまた二糖類である蔗糖も含まれる場合、クロマト処理では、DFAIIIと蔗糖(他の二糖類)の分離が非常に難しくなる。したがって、このような場合には他の処理を組み合わせることによってDFAIIIの精製を効率的に実施することが可能であり、例えば、前処理としてイースト処理を行ってDFAIII以外の二糖類を系外に除去した後、クロマト処理を行えばよい。
このように、本発明においては、DFAIII含有液に応じて、イースト処理、固液分離処理、クロマト処理の内、最適な処理を実施すればよいし、必要ある場合には、これらの処理を適宜併用したり組み合わせたり、あるいは、各処理や複数の処理を更にくり返したりすることにより、従来工業的に使用できなかった低純度DFAIII含有液も効率的に精製することがはじめて可能となった。
例えば、DFAIII生合成液については、フラクトースの重合体を原料として用い、これにフラクトシルトランスフェラーゼを作用させて製造することができる。
その場合、原料として用いるフラクトースの重合体としては、上記したようにイヌリン等の天然の重合体のほか、生合成及び/又は化学合成した重合体のいずれも使用可能であるが、フラクトースの重合度は2以上、好ましくは10以上であって、10〜60が好適域である。また、重合体におけるポリサッカライドの含量は70%以上が好ましく、更に好適には100%である。しかしながら、本発明においては、純度の低いDFAIII含有液も効率的に精製できるので、このような高品位フラクトース重合体のほか、低品位のものも適宜可能である。
なお、本発明において、フラクトース重合体は、フラクトースのみが重合したホモポリマーのほか、他の糖を含むヘテロポリマーのいずれであってもよく、例えば、イヌリンはフラクトース重合体にグルコースが1分子結合した一種のヘテロポリマーである。また、フラクトース重合体にはフラクトース重合体含有物も包含される。
これらフラクトースの重合体の内、天然由来物としてはイヌリンが有利に使用されるが、生合成又は化学合成したものも使用され、例えば次のようにして生合成したものも使用可能である。
例えば、シュークロースにフラクトース合成酵素(例えば、イヌリン合成酵素)を作用させて、イヌリンを生合成することができる。イヌリン合成酵素としては、シュークロース:シュークロース 1−フルクトシルトランスフェラーゼ(SST)及びβ−(2−1)フルクタン:β−(2−1)フルクタン 1−フルクトシルトランスフェラーゼ(FFT)等が使用される。また、アスペルギルス・シドウィ(Aspergillus sydowy)IFO4284、IFO7531やストレプトコッカス・ミュータンス等の微生物の産生する酵素がイヌリン類似物を生産するが、イヌリン類似物もフラクトースの重合体及び/又はそれの含有物であるので、本発明におけるDFAIII含有液の原料として使用できる。
なお、生合成法等フラクトース重合体の製造工程において、グルコースが副生する場合には、グルコースイソメラーゼ等グルコースをフラクトースに変換する酵素を用いてグルコースをフラクトースに変換したり、あるいは、グルコースオキシダーゼ等グルコースをグルコン酸に変換するといった酵素を用いてグルコースを他の物質に変換して、グルコース量を低下せしめ、イヌリン(又はイヌリン類似物)の収率を高めることができる。また、DFAIII含有液にイーストを加え、通気攪拌培養等のイースト処理を行って、DFAIII以外の不純物をイーストに消費させてクロマト処理前のDFAIII含有液の純度を高めてもよい。
以下、DFAIII含有液として、フラクトースの重合体をフラクトシルトランスフェラーゼ処理して得たものを例にとって説明するが、フラクトースの重合体としてはイヌリンを例にとって説明する。
フルクトース単位を転移触媒して、DFAIIIの様なオリゴ糖を合成する酵素は、広義で「フラクトシルトランスフェラーゼ」である。フラクトシルトランスフェラーゼは、大きく2種類に大別される。(1)フルクトース単位(スクロースなどの2糖類を含む)を基質とし、これを加水・転移して、オリゴ糖を合成する酵素(場合として、多糖も合成する)。(2)イヌリンやレバンなどのフラクタンを基質とし、これを加水・転移して、オリゴ糖を合成する酵素である。発明者らがイヌリンからのDFAIII製造に使用したのは、フラクトシルトランスフェラーゼの中でも、学名がイヌリンフルクトトランスフェラーゼであり、(2)の種類に属する。イヌリンフルクトトランスフェラーゼ(以後、単にIFTとする)を生成する微生物としては、アースロバクター属、クルイベロマイセス属、ストレプトマイセス属、エンテロバクター属に属する各種細菌、酵母、放線菌等が報告されており、これらを適宜使用することが可能である。これらの微生物を培養して、精製酵素、粗製酵素、酵素含有物、微生物培養物等の形態として適宜使用される。
その非限定例を以下に示す:Arthrobacter sp.;Arthrobacter ureafaciens IFO 12140;Arthrobacter globiformis IFO 12137;Arthrobacter pascens IFO 12139;Bacillus sp.;Kluyveromyces marxianus var.marxianus:Streptomyces sp.;Enterobacter sp.
これら微生物由来の酵素を使用する場合、分離精製した酵素のほか、粗精製酵素、微生物培養物、同処理物(培養上清、分離菌体、菌体破砕物等)も使用可能である。なお、DFAIII結晶を食品用途に使用する場合には、酵素としてフラクトシルトランスフェラーゼ、特にIFTを使用するのが好適であって、上記微生物由来の酵素のほか、今回、特許生物寄託センターにFERM BP−8296として寄託されたArthrobacter sp.AHU 1753株は、IFT生産能にすぐれているので、本菌株由来の酵素は好適に使用可能である。
なお、イヌリンの酵素分解によるDFAIIIの生成は、DFAIII単独のものが生成されることが最も好ましいが、実際上ではDFAIII以外のフラクトースの重合物が種々生成される。それが酵素分解液の純度の低下の原因となっている。このため、クロマトグラフィー処理を行うが、所望する場合には、DFAIIIを結晶化するための原料として、イヌリン以外の不純物の混入量の出来るだけ少ないものや、また、DFAIII以外のフラクトース重合物が生成しない酵素の選択が必要である。そして、このように精製されたDFAIII含有液が得られれば、これをDFAIII粗液として、直ちに本発明に係る清浄濾過、結晶化工程に入っていくことができる。
イヌリンをイヌリン分解酵素で分解したDFAIII含有液のDFAIII純度の一例を、後記するA〜D社の製品について示せば、次のとおりである:
A社品 75%、B社品 59%、C社品 52%、D社品 78%
そして、D社品をイヌリン酵素分解して結晶化する際のシラップのDFAIII純度の一例を示せば、次のとおりである:
粗結晶シラップ 53%、製品結晶シラップ 95%
上記したIFT処理等の酵素処理によって得たDFAIII含有液はもちろんのこと、その他の方法で調製した各種DFAIII含有液は、クロマトグラフィー処理(以下、クロマト処理ということもある)イースト処理、清浄濾過処理の少なくともひとつで処理して、不純物を除去して精製し、各種精製度のDFAIIIを得ることができる。
その場合、精製度の高いDFAIII含有液からは、精製度の高いDFAIII(直ちに高純度結晶化工程に入っていける程度に精製度の高いもの)が得られ、精製度の低いDFAIII含有液からは、精製度の低いDFAIIIが生成するが、クロマト処理や他の処理をくり返すだけでも精製度を高めることができる。したがって、本発明によれば、各種精製度のDFAIII含有液を自由に使用し、所望する精製度のDFAIIIを得ることができる。
クロマト処理によってDFAIII含有液から不純物が除去され、高度に精製される。また、精製度が低いフラクションは、再度又はそれ以上の回数でクロマト処理したり、他の方法にて精製することができる。
DFAIII含有液は、そのままクロマト処理してもよいが、濃縮処理といった濃度を高める処理により、更なる効率化が図られる。濃縮処理としては、例えば濃縮缶による濃縮(例えば、50〜80℃、140mmHg以下)が挙げられるが、その他各種濃縮処理が適宜可能である。
本発明の好適例のひとつとして、次のような精製方法が例示される。先ず、原料として市販されている又はシュークロースから生合成したイヌリンを用い、これにIFTを接触せしめて酵素処理し、得られたDFAIII含有液をクロマト処理して、夾雑している不純物を除去し、DFAIIIの精製を行うものである。そしてこの間、所望するのであればイースト処理等の各種の精製を適宜行うことができる。
本発明によれば、純度の低いDFAIII含有液であってもクロマト処理、イースト処理、清浄濾過処理の少なくともひとつで処理することにより、精製されたDFAIII精製液が効率よく工業生産できるので、精製されたDFAIIIは各種の用途に広く利用することができ、本発明によれば、DFAIII含有液を直ちに結晶化できる程度にまで高度に精製することができる。したがって純度が95w/w%以上というきわめて高純度のDFAIIIの結晶、結晶破砕物、又は顆粒状物を製造することができ、医薬やサプリメント等として各種用途に広範に利用することができる。
また、本発明は、イヌリンフルクトトランスフェラーゼ(単にIFTということもある。)をはじめとするフラクトシルトランスフェラーゼの効率的大量生産方法も含むものである。
本発明においては、イヌリンの添加によって活性を低下させることなく、本酵素の生産量が飛躍的に増大することをはじめて見出したもので、200リットル以上もの大容量タンクにおける大量培養でもIFTを大量生産することができる。
本酵素を生成する微生物(菌体外に本酵素を分泌するもの、及び/又は、菌体内に本酵素を蓄積するものを問わない)を培養して、培養物から本酵素を取得するに際して、イヌリンを添加した培地を用いて培養を行う必要がある。イヌリンの添加量は、0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%であって、例えば、イヌリンを約1%添加した培地を使用することができる。
また、更に、培地には酵母エキスを微量栄養源として添加すると好適である。その際、酵母エキスを0.02〜2.0%、好ましくは0.1〜1.5%添加すればよく、例えば、酵母エキスを約0.5%添加した培地を使用することができる。
本発明を実施するには、上記のようにイヌリンを添加した培地(好適には、更に酵母エキスを添加した培地)で本酵素生産菌を培養すればよい。その際、その他の培地組成及び培養条件等に格別の限定はなく、使用菌に応じて適宜行えばよいが、培養時の通気量については、0.5vvm以上、好ましくは1〜2vvmとするのがよい。
上記した本発明に係る培養方法によれば、本酵素は大量に生産することができ、従来法では酵素調製量が1〜多くても数十ユニット(酵素単位)/ml(培養液)であったのが、本法では、高活性(数百ユニット(酵素単位)/ml(培養液)以上)とすることがはじめて可能になったという著効が奏される。
しかも、上記著効は、実験室や小規模生産レベルで奏されることはもちろんのこと、容量が50リットル以上、例えば100リットル以上の大型発酵タンクを用いる大型微生物培養装置を使用した場合にも奏されるという特徴を有し、200リットル容のジャーファーメンターの使用も確認されており、それ以上の大容量発酵タンク、例えば300〜500リットル容の発酵タンクの使用も可能である。
このように本発明は、酵素の大量生産をはじめて可能にしたものであり、しかも酵素活性をいささかも低下させることがないものであって、そのポイントを例示すれば次のとおりである。
(培養装置に関して)
(1)大型微生物培養装置を導入したこと。
フルクトシルトランスフェラーゼの調製は、実験室レベルでは成功されているので、容易に考えられる発展項目でもあるが、これらの誘導酵素は、培養装置を大型にすることで、活性値が実験室レベルより顕著に低下することが多くある。200リットル容以上タンクの導入で、事実活性値が上昇したことは、新たな重大発見である。
(培養方法に関して)
(2)酵素の誘導物質であるイヌリンの最適添加量を、大型微生物培養装置に合わせ、決定したこと。
(3)酵素の生産量増加、および安定性上昇の要素として、酵母エキスを見出し、その最適添加量を大型微生物培養装置に合わせ、決定したこと。
(4)酵素の生産量増加の要素として、培養中の空気の通気量を見出し、その最適量を大型微生物培養装置に合わせ、決定したこと。
使用する微生物としては、アースロバクター属、クルイベロマイセス属、ストレプトマイセス属、エンテロバクター属、バチルス属、ミクロバクテリウム属に属する微生物のほか、各種細菌、酵母、糸状菌、放線菌等が適宜使用可能である。
本発明において使用できる微生物の非限定例を以下に示す:Arthrobacter ureafaciens、同(IFO 12140)、同(ATCC 21124)、A.pascens(IFO 12139)、同T13−2、A.globiformis(IFO 12137)、同C11−1、A.nictinovorans GS−9、A.ilicis OKU 17B、Arthrobacter sp.、同H65−7、同AHU 1753(FERM BP−8296)、同MCI−2493;Kluyveromyces marxianus(ATCC 12424)、同CBS 6556、K.marxianus var.marxianus、同(IFO 1735);Streptomyces fumigatus、S.rochei、同E87、Streptomyces sp.、同MCI−2524;Pseudomonas fluorescens、同No.949;Bacillus circulans、同OKUMZ.31B、同MCI−2554、Bacillus sp.、同Snu−7;Aureobacterium sp.、同MCI−2494;Microbacterium sp.、同AL−210;Enterobacter sp.、同S45;Aspergillus fumigatus;Penicillium purpurogenum。
本酵素を生産するに当っては、例えば上記したような本酵素生産菌を用い、既述した特定の培養条件のほかは常法にしたがって培養を行い、培養物中から酵素製造の常法にしたがって本酵素を抽出精製すればよい。例えば、得られた培養物を遠心分離して除菌し、得られた濾液に硫安(65%飽和)を加えて、塩析し、析出した沈殿物を遠心分離により取得し、少量の水に懸濁させた後、透析して粗酵素液を得ることができる。そして所望するのであれば、常法にしたがい、例えば粗製酵素をクロマトグラフィー処理等既知の精製方法を1種又は2種以上組み合わせて、精製酵素とすることができる。
なお、本酵素生産菌が上記のように本酵素を菌体外へ分泌するタイプではなく、菌体内に蓄積するタイプの場合には、培養物から菌体を分離し、得られた菌体を超音波処理等常用される菌体破壊処理に対して菌体を破壊し、しかる後に上記したようにして酵素を分離、精製すればよい。
しかも、本発明では、小規模に本酵素を生産できることはもちろんのこと、特に上記した培養条件によれば、200リットル以上、更には500リットル以上もの大容量発酵タンクを用いても、何らの弊害も生じることなく、酵素力価を低下させることなく、高活性の酵素を大量に生産できるという工業上特にすぐれた効果が奏される。
本発明においては、酵素としては、分離精製した酵素のほか、粗精製酵素、微生物培養物、同処理物(培養上清、分離菌体、菌体破砕物等)も使用可能である。なお、DFAIII結晶を食品用途に使用する場合には、酵素としてフラクトシルトランスフェラーゼ、特にIFTを使用するのが好適であって、上記微生物由来の酵素のほか、今回、特許生物寄託センターにFERM BP−8296として寄託されたArthrobacter sp.AHU 1753株は、IFT生産能にすぐれているので、本酵素生産菌として好適に使用可能である。
このようにして大量生産した酵素は、酵素自体として試薬や研究用に利用されるほか、多数の応用が可能であって、そのひとつとして、本酵素をイヌリンに作用させることにより、各種のオリゴ糖を合成することができる。例えばフラクトースの重合度が10以上、好ましくは10〜60のイヌリンにフラクトシルトランスフェラーゼを作用させることによってDFAIII含有液を製造することができるが、その際、イヌリンフラクトトランスフェラーゼ(デポリメライジング)(inulin fructotransferase(depolymerizing))として、アースロバクター・エスピー(Arthrobacter sp・)AHU 1753株(FERM BP−8296)由来の精製酵素、粗製酵素、酵素含有物、菌体、菌培養物、同処理物の少くともひとつを使用することができる。
このようにして、効率的に且つ低コストでDFAIII含有液を製造することが可能となったので、例えばこれに粉末活性炭を例えば固形分に対し5%以下添加して清浄化した後、固液分離し、分離した液状部を濃縮した後、直ちに結晶化し、必要あれば、これらの操作をくり返したり、クロマトグラフィー処理を組み合わせたりして、更に精製して、臭いも除去されてきわめて高純度の結晶DFAIIIを得ることができる。
以下、実施例をあげて本発明を更に詳しく説明する。
【実施例1】
イヌリンのフラクトース重合度(分子量分布)
市販イヌリンを購入しフラクトース重合度を調査した。下記の条件で液体クロマトグラフィー分析装置を使用したクロマトグラムを図3に示す。
1)イヌリンの分析サンプル
イ.A社品
ロ.B社品
ハ.C社品
二.D社品
上記サンプルに係わるカタログの表示を下記表1に示す。


2)分析条件〈BR〉
カラム :Dionex,CarboPac PA1,4×250mm I.D.
カードカラム:Dionex,CarboPac PA1 Guard
カラム温度 :室温
溶離液 :グラジエント
0分 100分
割合(%) 割合(%)
1N NaOH 15 15
1M NaOAc 0 45
水 85 40
カーブNo. − 2
検出器 :Dionex,Pulsed Electrochemical Detector
検出モード :Integrated Amperometry
パルス電圧 :E1:+0.05V(400m sec),E2:+0.75V(200m sec),E3:−0.15V(400m sec)
流速 :1.0ml/min
レンジ :1μC
注入量 :各0.1%水溶液を5μl注入
分析サイクル:120min
3)結果
各クロマトグラムの流出時間によるピーク値を比較する。リテンションタイムの経過に従って各ピークは重合度(分子量)の高いものとなる。
(C社品) 流出時間約6.5minから約40minの間に約40個のピークが存在している。このピークの状態から流出時間6.5から14.5minのものが多いため重合度の低いポリサッカライドの割合が多い。
(D社品) 流出時間約14.5minから46minの間に約40個のピークが存在した。このことから比較的重合度の高いポリサッカライドが多い。
(B社品) 流出時間約7.9minから30minの間に約30個のピークがあった。流出時間14.5min以上の割合が多いが14.5min未満のポリサッカライドも含まれる。
(A社品) 流出時間約9minから41minの間に40個のピークがあった。D社品と同様な傾向のピークを示したが、流出時間6.5から14.5minの間にも多少ピークが散見された。
これらの結果とカタログから推察すると滞留時間6.5minの重合度が2で、14.5minのピークが重合度10と予想される。
【実施例2】
(1)IFT酵素生産量及びイヌリンからのDFAIIIの反応収率
上記市販品4種のイヌリンを使用し、後記するフラクトシルトランスフェラーゼを使用して酵素反応を行い、DFAIIIの生成率を調査した。イヌリンを80℃のお湯で完全に溶解した後、60℃まで冷却する。そこにIFTを5000unit/kgイヌリンを添加し、60℃、24時間攪拌しながら反応させる。反応液のIFT酵素生産量を下記の通り測定した。また、反応液を失活(80℃)させ、活性炭(太閤活性炭S)及び珪藻土(ラジオライト700)で清浄濾過し、清浄反応液を液体クロマトグラフィー(以下HPLCと記す。カラム:Shodex Sugar KS−801,300×8mm I.D.、流速1ml/min、カラム温度80℃)を使用しDFAIIIを定量した。IFTの酵素生産量及びDFAIIIの生成収率の結果を表2に示した。
その結果から明らかなように、酵素生産量及びDFAIIIの反応収率ともD社品が最も良かった。図3及び表2の結果からフラクトース重合度が高い分布のものほど、即ち、A社品及びD社品は重合度10以上のものと予想されるが、これらがDFAIII収率がよかった。尚、イヌリンは、分子量(重合度)が高くなると溶解性が悪く、ハンドリングしづらくなるため、DFAIIIの工業生産には重合度100程度が限界である。
(2)酵素生産量(酵素活性)の測定法
2ml容チューブに10%イヌリン溶液0.5mlと0.1Mクエン酸・NaOHバッファー(pH5.5)0.45mlを入れ、60℃の湯浴で約5分間加温した。そこに、粗酵素液50μlを加え、60℃で10分間反応させた。沸とう水中に5分間保持することにより反応を停止させた。HPLCにより生成したDFAIIIを定量した。1unitは1分間に1μmolのDFAIIIを生成する酵素量とした。


【実施例3】
イヌリンからDFAIIIの製造
(1) 上記D社品200kgを80℃のお湯1000kgで溶解し、60℃まで冷却する。その溶液に下記酵素生産で得られたIFT 5000units/kgイヌリンを添加し、60℃で24時間攪拌しDFAIIIの含有液を生成させる。この反応完了液を80℃に上げ酵素を失活させる。この失活液に固形分当たり1%の割合で太閤活性炭S(二村化学工業製:平均粒径約35ミクロン、147ミクロン以下)を添加し60℃、10分間攪拌する。この完了液を珪藻土(昭和化学工業製ラジオライト700)濾過を行った。すなわちセラミック製の筒(日本ポール(株)製PR−12型セラミックチューブ)の内面に上記珪藻土をプレコートしておき、筒内に活性炭含有反応液を加圧通過させて、加圧濾過し、筒外から濾液を回収した。
(2) この濾液を濃縮缶で濃縮(60〜70℃ 120mmHg以下)する。最終濃度R−Bx77まで濃縮した後、その母液を結晶化工程に移した。結晶は冷却結晶化法を行った。60℃の濃縮液を冷却缶外部に冷却外套及び攪拌機が設けられた缶で、23時間かけて15〜20℃に冷却する。結晶の析出した母液を分離機(3000rpm、1200G)で粗結晶とシラップに分離する。その粗結晶(DFAIII純度97%)を再溶解し、得られた再溶解液(DFAIII精製液)を、上記条件と同様に活性炭処理、珪藻土濾過を行い濃縮、結晶化・分離し、製品結晶(DFAIII純度99%)を得る。得られた結晶を50℃で通風乾燥し、DFAIII7.2kg(水分0.1%)が得られた。この結晶は、着色もなく臭いも認められなかった。
(3) 上記(1)において、珪藻土濾過にかえてメンブランフィルター(MF)濾過を行った。
すなわち、酵素反応完了液(約R−Bx20)を失活させて、それに太閤活性炭Sを固形分当たり1%添加し、60℃、10分間攪拌する。それを、0.14μmのメンブランフィルター(月島機械株式会社製:セラミック膜 TSK−TAMIダリア)を使用し、濾過を行った。濃縮率は10倍とした。結果を図4に示す。その結果から明らかなように、透過液量の低下もみられず順調に濾過できることを確認した。透過液は透明であった。
(4) 上記(1)、(2)において、DFAIII含有液(酵素反応完了液:濃度R−Bx60、DFAIII純度78.6%、その他21.4%(主に4糖類および5糖類))について、以下によってクロマト処理を行い、下記する画分を得た(表3)。このようにして、通液量0.600〜0.700L/L−R画分を回収して、DFAIII画分(純度97.3%)を得た。このようにしてクロマト分画して得たDFAIII画分は、DFAIIIリッチ画分として、清浄濾過した後に濃縮して製品結晶母液として使用できるほか、粗結晶再溶解液(DFAIII精製液)としてあるいはそれに添加して使用できることも確認された。また、DFAIII純度76.8%画分は、例えばDFAIII非リッチ画分としてルートCに利用できることも確認された。


(クロマト処理条件)
クロマト用樹脂: Na型強酸性樹脂(オルガノ製CR−1310型)
カラム: 22×525mm、200ml
クロマト処理原液:DFAIII酵素反応液を失活した後粉末活性炭で清浄
濾過した液。〈BR〉
R−Bx 60、DFAIII純度 78.6%、
供給量 2.5% L/L−R
通液条件:70℃、SV=0.6(2.0ml/min)
溶離液: 水
回収フラクション: 5ml/フラクション
【実施例4】
フラクトシルトランスフェラーゼの製造
(1) アースロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)AHU 1753株(FERM BP−8296)を下記の培養条件で培養し、酵素液を作成した。
(2)培地1:1%グルコース、1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム、pH7.0。500ml容の振とう坂口フラスコに、100mlを調製し、高圧蒸気殺菌をした。
培地2:1%イヌリン、0.2%硝酸ナトリウム、0.05%塩化ナトリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.05%リン酸二水素カリウム、0.01g/L硫酸第二鉄、0.5%酵母エキス、pH7.0。200L容のジャーファーメンター(日立製作所製、モデルFF−02)に、100Lを調製し、高圧蒸気殺菌をした。)
(3)培養(酵素生産)
前培養;保存スラント培地より、Arthrobacter sp.AHU 1753株の一白金耳量菌体を、無菌的に(培地1)に接種した。そして、27℃、24時間、振とう培養をした。振とう条件は、15センチ幅、120rpm。
本培養: 前培養で調製した培養液(フラスコ10本分、1L分)を、無菌的に(培地2)に接種した。そして、ジャーファーメンターを27℃で、17時間、運転した。通気量は、1vvm(100L/分)、攪拌数は、300rpm。
(4)菌体回収、およびその他(3)で調製した培養液を、遠心分離器で菌体と上清とに分離し、上清をDFAIII酵素液とした。酵素液をリン酸にて、pH5.5に調整後、マイナス20℃で保存した。
(結果)
この操作により、IFTを、
濃度: 300ユニット/ミリリットル(培養液)、(実験室レベルの3倍)
全量: 4.5×10の7乗、ユニット量、(工業生産に対応できる十分量)
時間: 17時間、(実験室レベルより短時間)
に製造できた。
(培養条件)
・前培養:27℃、24時間、振とう培養
・本培養:前培養液を本培養液に接種(本培養液量に対して1%の前培養液量)し、27℃、24時間振とう培養する。
(酵素液の調整)
本培養液を遠心分離(2000G、4℃、20分)し、上澄みを酵素液として使用する。
【実施例5】
DFAIII酵素反応液のイースト処理
イヌリン(C社品)200kgを80℃の湯1kgに溶解し、IFT5000units/kgイヌリンを添加し、60℃で12時間攪拌し、DFAIII含有液を生成させた。
この反応終了液を80℃にまで加温して酵素を失活させた後、この失活反応完了液を30℃に冷却し、しかる後にイースト(日本甜菜製糖(株)製:ニッテンイースト)100g(水分66%)を添加し、30℃で12時間通気培養した。
得られたイースト反応液を濾過(セラミック膜等)し、その濾過液を濃縮して、Bx50〜70程度までにし、これをクロマト分離処理のクロマト原液とした。
【実施例6】
DFAIII顆粒状物の製造
DFAIII結晶を乳鉢で微粉砕した後、DFAIII100に対して水10を加え、均一に混合した。これを押出し造粒機(不二パウダル(株)製、FINERYUZER、型式EXR−60、処理能力40〜150kg/hr)にて造粒し、70℃の送風定温恒温機(ヤマト科学(株)製、型式DN910)で3時間乾燥し、顆粒状DFAIIIを製造した。
熟練したパネラー20人により、結晶DFAIIIと微粉砕DFAIII、顆粒状DFAIIIの官能試験を実施した。得られた結果を下記表4に示した。表4に示すように、微粉砕DFAIIIは結晶DFAIIIより甘味が強くなり、口溶けや甘味の切れが向上し、結果的に好ましいという結果が得られた。さらに顆粒状DFAIIIでは微粉砕DFAIIIに対して甘味の強さは変わらないものの、口溶けや甘味の切れが向上し、総合評価も高かった。


以上のことから、口溶け感や甘味の切れなど、食味や食感において敬遠される面があった結晶DFAIIIは、微粉砕後、更に顆粒化することで、これらの点を改善できることが確認された。
なお、結晶化条件は、DFAIII冷却結晶化時のR−Bx:65以上であった(50℃における溶解度より判断した)。
【実施例7】
フラクトシルトランスフェラーゼの大量生産
(1) アースロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)AHU 1753株(FERM BP−8296)を下記の培養条件で培養し、酵素液を作成した。
(2)《培地1》:1%グルコース、1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム、pH7.0。500ml容の振とう坂口フラスコに、100mlを調製し、高圧蒸気殺菌をした。
《培地2》:1%イヌリン、0.2%硝酸ナトリウム、0.05%塩化ナトリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.05%リン酸二水素カリウム、0.01g/L硫酸第二鉄、0.5%酵母エキス、pH7.0。200L容のジャーファーメンター(日立製作所製、モデルFF−02)に、100Lを調製し、高圧蒸気殺菌をした。
(3)培養(酵素生産)
前培養:保存スラント培地より、Arthrobacter sp.AHU 1753株の一白金耳量菌体を、無菌的に(培地1)に接種した。そして、27℃、24時間、振とう培養をした。振とう条件は、15センチ幅、120rpm。
本培養: 前培養で調製した培養液(フラスコ10本分、1L分)を、無菌的に(培地2)に接種した。そして、ジャーファーメンターを27℃で、17時間、運転した。通気量は、1vvm(150L/分)、攪拌数は、300rpm。
(4)菌体回収、およびその他(3)で調製した培養液を、遠心分離器で菌体と上清とに分離し、上清をDFAIII酵素液とした。酵素液をリン酸にて、pH5.5に調整後、マイナス20℃で保存した。
(結果)
この操作により、IFTを、
濃度: 300ユニット/ミリリットル(培養液)、(実験室レベルの3倍)
全量: 4.5×10の7乗、ユニット量、(工業生産に対応できる十分量)
時間: 17時間、(実験室レベルより短時間)
に製造できた。
(培養条件)
・前培養:27℃、24時間、振とう培養
・本培養:前培養液を本培養液に接種(本培養液量に対して1%の前培養液量)し、27℃、24時間振とう培養する。
(酵素液の調整)
本培養液を遠心分離(2000G、4℃、20分)し、上澄みを酵素液として使用する。
【発明の効果】
本発明によって、従来効率よく工業生産することができなかった高純度のDFAIII結晶の工業生産にはじめて成功した。しかも、本発明によれば、特定の活性炭処理とDFAIII含有液の純度向上との有機的結合によって、純度99w/w%にも達するきわめて高純度の精製されたDFAIII結晶を効率的に工業生産できるだけでなく、従来法では再結晶を多数回くり返さなければ除去することができなかった結晶中の臭いの工業的且つ効率的除去にもはじめて成功したという著効も奏される。
このように、本発明に係るDFAIII結晶は、単に純度が高いだけでなく、臭いがないというきわめて顕著な効果が奏されるので、医薬用途や飲食品用途に使用するのに特に適しており、例えばカルシウム吸収剤として自由に使用できる特徴も奏される。
寄託番号:FERM BP−8296
寄託の表示:Arthrobacter sp.AHU 1752
寄託機関の名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
寄託機関のあて名:〒305−8566 日本国茨城県つくば市
東1丁目1番地1中央第6
寄託の日付:平成15年(2003)2月18日
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度90%以上のジフルクトース・ジアンヒドリドIII(以下、DFAIIIという)をR−Bx10〜60の濃度で含有するDFAIII精製液に粉末活性炭を固形分に対して5%以下添加して清浄化した後、固液分離し、分離した液状部を濃縮した後、直ちに結晶化すること、を特徴とするDFAIIIの精製方法。
【請求項2】
純度90%以上のDFAIIIをR−Bx40〜55の濃度で含有するDFAIII精製液を使用すること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粉末活性炭を固形分に対して5%以下、好ましくは0.1%〜3%添加使用すること、を特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
粉末活性炭の平均粒径が15〜50ミクロンであり、最大粒径が200ミクロン以下であること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
固液分離する方法が、濾過助剤を使用する濾過、メンブランフィルターを用いる方法、限外濾過膜を用いる方法から選ばれる少くともひとつであること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
DFAIII含有液からDFAIII製品に至る全精製工程における中間生成物の少くともひとつをクロマトグラフィー処理して得られたDFAIII画分を、精製工程の少くともいずれかにおいて添加すること、を特徴とするDFAIIIの精製方法。
【請求項7】
請求項6においてクロマトグラフィー処理して得られたDFAIII画分の内、純度85%以上のDFAIIIを含有するDFAIIIリッチ画分については、これをDFAIII精製液として単独で使用するかもしくはDFAIII精製液に添加すること、を特徴とする請求項6項に記載の方法。
【請求項8】
請求項7におけるDFAIII精製液もしくはDFAIIIリッチ画分を添加したDFAIII精製液に粉末活性炭を固形分に対して5%以下添加して清浄化した後、固液分離し、分離した液状部を濃縮した後、直ちに結晶化すること、を特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
純度90%以上のDFAIIIを、R−Bx10〜60の濃度で含有するDFAIII画分に添加するDFAIII精製液として使用すること、を特徴とする請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
粉末活性炭を固形分に対して5%以下、好ましくは0.1%〜3%添加使用すること、を特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
粉末活性炭の平均粒径が15〜50ミクロンであり、最大粒径が200ミクロン以下であること、を特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
固液分離する方法が、濾過助剤を使用する濾過、メンブランフィルターを用いる方法、限外濾過膜を用いる方法から選ばれる少くともひとつであること、を特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
DFAIII含有液からDFAIII製品に至る全精製工程において、結晶化により結晶から分離されたシラップは、これを更に遠心分離して微細結晶を除去した後、精製工程の少なくともいずれかにおいて添加すること、を特徴とするDFAIIIの精製方法。
【請求項14】
純度60%以上のDFAIIIをR−Bx10以上の濃度で含有するDFAIII粗液に粉末活性炭を固形分に対して5%以下、好ましくは0.1%〜3%添加して清浄化した後、固液分離し、分離した液状部を濃縮した後、直ちに結晶化することを特徴とするDFAIIIの精製方法。
【請求項15】
DFAIII粗液が、DFAIII含有液、クロマトグラフィー処理して得たDFAIII画分、結晶又は粗結晶シラップの少くともひとつであること、を特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
粉末活性炭の平均粒径が15〜50ミクロンであり、最大粒径が200ミクロン以下であること、を特徴とする請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
固液分離する方法が、濾過助剤を使用する濾過、メンブランフィルターを用いる方法、限外濾過膜を用いる方法から選ばれる少くともひとつであること、を特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
該DFAIII含有液として、イヌリンにフラクトシルトランスフェラーゼを作用させて製造した酵素反応液を使用すること、を特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
フラクトースの重合度が10以上のイヌリンを使用すること、を特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
フラクトースの重合度が10〜60のイヌリンを使用すること、を特徴とする請求項18〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
フラクトシルトランスフェラーゼとして、イヌリンフラクトトランスフェラーゼ(デポリメライジング)(inulin fructotransferase(depolymerizing)を使用すること、を特徴とする請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
イヌリンフラクトトランスフェラーゼ(デポリメライジング)(inulin fructotransferase(depolymerizing)として、アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.)AHU 1753株(FERM BP−8296)由来の精製酵素、粗製酵素、酵素含有物、菌体、菌培養物、同処理物の少くともひとつを使用すること、を特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法で得られた純度が95w/w%以上のDFAIIIの結晶、結晶粉砕物又は顆粒状物。
【請求項24】
フラクトースの重合度が10以上、好ましくは10〜60のイヌリンにフラクトシルトランスフェラーゼを作用させること、を特徴とするDFAIII含有液の製造方法。
【請求項25】
フラクトシルトランスフェラーゼとしてアースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.)AHU 1753株(FERM BP−8296)由来のイヌリンフラクトトランスフェラーゼ(デポリメライジング)(inulin fructotransferase(depolymerizing)を使用すること、を特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
フラクトースの重合度が10以上、好ましくは10〜60であってポリサッカライド含量が80%以上のイヌリンを使用すること、を特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ポリサッカライド含量が100%のイヌリンを使用すること、を特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
フラクトシルトランスフェラーゼが精製酵素であること、を特徴とする請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
請求項28に記載した方法でDFAIII含有液を製造し、これをクロマトグラフィー処理し、得られたDFAIIIリッチ画分を直ちに濃縮し、結晶化すること、を特徴とする高純度DFAIII結晶の製造方法。
【請求項30】
ジフルクトース・ジアンヒドリドIII(以下DFAIIIという)純度が70%未満のDFAIII含有液を、イースト処理、清浄濾過処理又はクロマトグラフィー処理の少なくとも1つから選ばれる方法で処理することを、特徴とするDFAIIIの精製方法。
【請求項31】
DFAIII含有液が、フラクトース重合体又はフラクトース重合体含有物にフラクトシルトランスフェラーゼを作用させて得たものそのまま、その濃縮物、結晶化分離シラップ、これらの1種又は2種以上の混合物の少なくともひとつであること、を特徴とする請求項30に記載のDFAIIIの精製方法。
【請求項32】
イースト処理が、DFAIII含有物にイーストを添加し、通気培養する処理であること、を特徴とする請求項30〜31のいずれか1項に記載のDFAIIIの精製方法。
【請求項33】
清浄濾過処理が粉末活性炭処理及び固液分離処理を包含するものであること、を特徴とする請求項30〜31のいずれか1項に記載のDFAIIIの精製方法。
【請求項34】
結晶化分離シラップの清浄濾過処理が連続遠心分離処理を包含するものであること、を特徴とする請求項30〜31のいずれか1項に記載のDFAIIIの精製方法。
【請求項35】
フラクトシルトランスフェラーゼ生産菌をイヌリン含有培地で培養すること、を特徴とするフラクトシルトランスフェラーゼの生産方法。
【請求項36】
イヌリンを0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%含有する培地を使用すること、を特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
更に、酵母エキスを含有する培地を使用すること、を特徴とする請求項35〜36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
酵母エキスを0.02〜2.0%、好ましくは0.1〜1.5%含有する培地を使用すること、を特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項39】
培養時の通気量を0.5vvm以上、好ましくは1〜2vvmとすること、を特徴とする請求項35〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
フラクトシルトランスフェラーゼが、イヌラーゼ、イヌリンフラクトトランスフェラーゼ(デポリメライジング)、イヌリンフラクトシル−β−1,2−フルクトフラノシルトランスフェラーゼ(サイクライジング)、サイクロイヌロオリゴサッカライドフルクタノトランスフェラーゼから選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項41】
容量が50リットル以上、好ましくは100リットル以上の大型発酵タンクを用いる大型微生物培養装置を使用して大量に酵素を生産すること、を特徴とする請求項35〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
フラクトシルトランスフェラーゼ生産菌、アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.)AHU 1753株(FERM BP−8296)。

【国際公開番号】WO2004/078989
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503048(P2005−503048)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002592
【国際出願日】平成16年3月2日(2004.3.2)
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【Fターム(参考)】