説明

ジベンジリデンアルジトール類の製造方法

【課題】反応制御が簡単で、かつ、安定して高純度のジベンジリデンアルジトール類を生産でき、かつ反応液がリサイクルに利用できる、実用的な製造方法の提供。
【解決手段】水媒体中、酸触媒の存在下に、芳香族アルデヒドとアルジトールとを、縮合反応させ、次いで反応液を中和してジベンジリデンアルジトール類を得るジベンジリデンアルジトール類の製造方法において、前記水媒体中に、前記芳香族アルデヒドと前記アルジトールとの相溶化剤を、芳香族アルデヒドの配合量に対して、重量比で、3〜7倍量を、配合してなるジベンジリデンアルジトール類の製造方法であり、さらに、反応液の回収が容易で、反応液のリサイクルが可能な製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機液体のゲル化剤、ポリオレフィン類の透明核剤等として用いられている、ジベンジリデンソルビトール等のジベンジリデンアルジトール類の製造方法に関し、特に溶媒として水を用いた場合の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒドと、ソルビトール等のアルジトールとを、酸触媒の存在下、反応して得られるジベンジリデンソルビトール等のジベンジリデンアルジトール類は、有機液体のゲル化剤、ポリオレフィン類の透明核剤、塗料の増粘剤等として有用であり、従来から、反応媒体の性質に基づいて、二つのタイプの製法を挙げることができる。
【0003】
一つは、溶媒として有機溶剤を用いる方法で「溶剤法」と呼ばれる製法で、他は、溶媒として水を用いる方法で「水法」と呼ばれる製法である。
【0004】
例えば、特許文献1には、シクロヘキサンと炭素数6〜10の飽和炭化水素の1種または2種以上の有機溶剤を反応溶媒とした溶剤法が、特許文献2には、シクロヘキサンとヘキサンの混合溶媒を反応溶媒とした溶剤法が、特許文献3には、シクロヘキサンとメタノールの混合溶媒による溶剤法が記されている。
【0005】
この様に、溶剤法はシクロヘキサンを主溶媒としたものであるが、溶剤を大量に使用すること、縮合反応であるため生成水を除去する必要があり、水とシクロヘキサンとの共沸点70〜80℃で反応する必要があること等から危険性が高く特定の危険物対応設備が必要とか、さらに溶剤を蒸留回収する設備が必要になるとか費用面では不利である。また、シクロヘキサンは、低濃度では臭いがほとんど無いので、気づかずに吸引した場合、頭痛などの症状が発生し人体への影響が懸念される。
【0006】
それに対して、水法と呼ばれる製法は、危険物を大量に使用しないので安全性が高い、
人体への影響が少ない、さらに、生成物であるジベンジリデンアルジトール類が水に溶けず析出するため、生成水を反応系外に取り出すことなく、生成物を生産できる等のメリットがある。しかし、デメリットとして、水に難溶の芳香族アルデヒドとアルジトール水溶液とが不均一に混在した水性反応媒体中で行われるので、反応液がゲル化し易いという問題点があり、これは高収率かつ高純度のジベンジリデンアルジトール類を得ることを困難にしている。
【0007】
例えば、特許文献4には、反応の第1段階でゲル特性が発現した後、第2段階として反応媒体の希釈を行う2段階反応と、その後、熟成工程を設けた水法が開示されているが、生成したジベンジリデンソルビトールの収率は、反応直後で55%、熟成後で70%であり、純度も90%が限界である上に、工程が複雑すぎて、実用的ではない。
【0008】
特許文献5には、1段階反応の水法が開示されているが、ゲル化の解決法の記載がなく、収率は、用いたアルジトールの質量に対するジアセタールの質量割合で示され、純度もジアセタールとトリアセタールの合計質量に対するジアセタールの質量割合でしか示されていない。ベンズアルデヒドとソルビトールとをパラトルエンスルホン酸を用いて反応させる本文献記載の実施例4に基づいて、本発明者等が、製法トレース実験で確認したところ、開示された反応時間の5.5時間でゲル化した。生成物の収率は55%で、HPLC((株)島津製作所製、高速液体クロマトグラフィー)分析によるジベンジリデンソルビトールの純度も77.6%と低いものであった。
【0009】
特許文献6には、反応媒体がゲル化することを前提に、生成するジアセタール類の理論量が15〜50重量%の範囲である反応系で行われることを条件に、強力強制攪拌により攪拌を継続する水法が開示されているが、この製法は前記条件下では事実上2段階反応であるし、リボン翼を有する特殊な攪拌機を必要とし、エネルギーコストも掛かるので実用的ではない。なお、ジベンジリデンソルビトール等の90%収率や95%以上の純度が記載されているが、それらの測定法の記載はなく、したがって、それらの具体的な意味内容が不明である。
【0010】
【特許文献1】特公昭48−43748号公報
【特許文献2】特開平9−12579号公報
【特許文献3】特開平10−204089号公報
【特許文献4】特公昭61−17833号公報
【特許文献5】特開昭63−267777号公報
【特許文献6】特開2001−131183号公報
【0011】
以上のごとく、水法では、反応液のゲル化傾向が強ので、安定して、高純度のジベンジリデンアルジトール類を生産でき、かつ反応液がリサイクルに利用できる実用的な製造方法は提供されていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の目的は、水媒体中、酸触媒の存在下に、芳香族アルデヒドとアルジトールとを、縮合させてジベンジリデンアルジトール類を製造する方法において、反応制御が簡単で、かつ、安定して高純度のジベンジリデンアルジトール類を生産でき、かつ反応液がリサイクルに利用できる、実用的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する為に、本発明者等は次の推論を立てた。すなわち、前記特許文献5において実施例4の詳細記述として記載されている「25%の乾分(1モル)を含むソルビトール水溶液728g、パラトルエンスルホン酸215g(1.25モル)及びベンズアルデヒド190.8g(1.8モル)を攪拌しながら、30℃で、5時間30分反応させる製法」のトレースの際、反応開始後1〜2時間程度で、攪拌羽根やフラスコの底に蝋状物が付着し始めたが、5.5時間後にはその蝋状物が集合してゲル化したと感じられた。その蝋状物のHPLCによる分析結果は、比較的柔らかい表層部がジベンジリデンソルビトール26%とベンズアルデヒド44%であり、蝋状で堅い内層部がジベンジリデンソルビトール0.4%とベンズアルデヒド96%であった。
【0014】
この分析結果は、反応液を攪拌した際、ベンズアルデヒドは大きな油滴になるが、それらの油滴の表層部から反応が進んだことを示唆している。従って、ベンズアルデヒドの油滴を限りなく微細なものにするか、完全に溶解した反応液にすることができれば、ゲル化は防止できると考えた。
【0015】
本発明者等は、研究を重ねた結果、アルコール系溶剤、及び/又は、セロソルブ系溶剤のある一定量を水媒体に加えれば、ベンズアルデヒドが油滴ではなく、完溶した反応液が得られることを見出した。
【0016】
したがって、酸触媒の存在下に、芳香族アルデヒドとアルジトールとを含む水媒体に、相溶化剤としてアルコール系溶剤、及び/又は、セロソルブ系溶剤のある一定量を加えた場合、水に難溶の芳香族アルデヒドが完溶した反応液になるが、この反応液は、驚くべきことに、192時間まで反応させてもゲル化することなく、ゲル化を防止でき、その結果、高純度のジベンジリデンソルビトール類を得られることを見出し、実用的な製造方法としての本発明を完成するに至った。また、ゲル化を防止できることから生成物を濾過して未中和の母液を回収することにより、該母液中に含まれる酸触媒は活性状態で回収されるので、回収した母液に、生成物に含まれて系外に出た原料を補給して反応液を調整すれば、繰り返し、リサイクルが可能である。
【0017】
すなわち、請求項1記載の発明は、水媒体中、酸触媒の存在下に、芳香族アルデヒドとアルジトールとを、縮合反応させ、次いで反応液を中和してジベンジリデンアルジトール類を得るジベンジリデンアルジトール類の製造方法において、前記水媒体中に、前記芳香族アルデヒドと前記アルジトールとの相溶化剤を、芳香族アルデヒドの配合量に対して、重量比で、3〜7倍量を、配合してなることを特徴とする下記一般式(1)で表わされるジベンジリデンアルジトール類の製造方法である。
【0018】
【化2】

(式中,R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数1〜3のアルコキシル基を表す。X及びYは、同一又は異なって、1〜5を示し、nは0又は1を示す。)
【0019】
また、請求項2記載の発明は、前記相溶化剤がメタノール、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール系溶剤、及び/又は、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブから選ばれる少なくとも1種のセロソルブ系溶剤であることを特徴とする請求項1記載のジベンジリデンアルジトール類の製造方法であり、請求項3記載の発明は、前記中和の前に生成ジベンジリデンアルジトール類を濾過して母液を回収し、該母液に含まれる芳香族アルデヒド、アルジトール、酸触媒、相溶化剤等を利用して、繰り返し前記縮合反応を行い、リサイクルに供することを特徴とする請求項1又は2記載のジベンジリデンアルジトール類の製造方法である。
【0020】
本発明で用いる芳香族アルデヒドとしては、一般式(2)
【化3】

(式中,R1は、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数1〜3のアルコキシル基を表し、Xは1〜5を示す。)
で表されるものであるが、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルベンズアルデヒドを用いるとよい。具体的には、ベンズアルデヒド、o−トルアルデヒド、m−トルアルデヒド、p−トルアルデヒド、o−エチルベンズアルデヒド、m−エチルベンズアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、2,3−ジメチルベンズアルデヒド、2,4−ジメチルベンズアルデヒド、2,5−ジメチルベンズアルデヒド、3,4−ジメチルベンズアルデヒド、3,5−ジメチルベンズアルデヒド、2,4,5−トリメチルベンズアルデヒド等が例示される。芳香族アルデヒドの配合割合は、アルジトール1モルに対して1.5〜1.9モルにするのが好ましく、より好ましくは1.7〜1.8モルである。1.5モル未満では収率が低下し、1.9モルを超えるとトリベンジリデンアルジトール類(トリアセタール体)が増え、純度が低下する傾向にあるからである。
【0021】
本発明に用いるアルジトールは、ソルビトール又はキシリトールである。アルジトール水溶液の好ましい濃度は、反応を徐々に確実に進行させるため、30%以下であり、より好ましくは15〜25%である。
【0022】
本発明に用いる相溶化剤とは、水媒体中において前記芳香族アルデヒドと前記アルジトールとを均一化する溶剤をいい、本発明の目的に寄与するものあれば特に限定されないが、好ましくは、アルコール系溶剤及び/又はセロソルブ系溶剤等を用いるのがよく、具体的には請求項2記載の発明の如く、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール系溶剤、及び/又は、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブから選ばれる少なくとも1種のセロソルブ系溶剤を用いるとよい。
【0023】
相溶化剤としての、アルコール系溶剤、及び/又は、セロルブ系溶剤等の好ましい配合割合は、芳香族アルデヒドの重量に対して、重量比で、3〜7倍量であり、より好ましくは3.5〜5.0倍量である。3倍量未満では反応液に濁りが残り相溶性不十分であるし、7倍量を超えると反応が極端に遅くなる上、安全面も不利になるし、コストも高くなり過ぎるからである。
【0024】
本発明にかかる、一般式(1)で表されるジベンジリデンアルジトール類の製造方法として、好ましい一例を挙げると、水媒体中、酸触媒の存在下に、一般式(2)の芳香族アルデヒドと、ソルビトール又はキシリトールの水溶液と、該芳香族アルデヒドの配合量に対して、重量比で、3〜7倍量の前記相溶化剤とを、混合し、30℃付近の温度で、所定時間縮合反応させることによりジベンジリデンアルジトール類を生成させ、次いで反応液を中和したのち、濾別、水洗、乾燥の各工程を経て生成物を得ることができる。この場合、中和前の反応液は縮合反応がそれ以上進行しない状態に達してもゲル化しないため、請求項3記載の発明の如く、該反応液に含まれる芳香族アルデヒド、アルジトール、酸触媒、相溶化剤等を利用して、繰り返し前記縮合反応を行い、リサイクルに供することができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明の製造方法は、以上説明したように、水媒体中、酸触媒の存在下に、芳香族アルデヒドとアルジトールとを、縮合反応させ、次いで反応液を中和してジベンジリデンアルジトール類を得るジベンジリデンアルジトール類の製造方法において、水に難溶の芳香族アルデヒドと水に易溶のアルジトールとの相溶化剤として、アルコール系溶剤、及び/又は、セロソルブ系溶剤等を配合するものであり、反応液がゲル化することなく、通常の攪拌のみで生産でき、非常に簡単、かつ、安定して高純度のジベンジリデンアルジトール類を生産できる実用的な製造方法である。また、中和前の反応液を回収することにより、リサイクルも可能な製造方法でもある。製造した、ジベンジリデンアルジトール類は高純度品が得られるので、有機液体のゲル化剤、ポリオレフィン類の透明核剤、塗料の増粘剤等として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(1)芳香族アルデヒドとして、ベンズアルデヒド、p−トルアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、3,4−ジメチルベンズアルデヒド若しくは2,4−ジメチルベンズアルデヒドと、(2)アルジトールとして、ソルビトール若しくはキシリトールと、(3)酸触媒として、例えば、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、硫酸若しくは塩酸と、(3)水と、(4)相溶化剤として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ若しくはブチルセロソルブの一種又は2種以上を用い、
(1)は、(2)1モルに対して1.5〜1.9モルとし、
(4)は(1)に対して、重量比で、3〜7倍量として、
(1)〜(4)をそれぞれ反応容器に投入し、500〜700rpmの回転数で攪拌しながら、反応温度を30±2℃に保って、所定時間反応させるとよい。
【0027】
この場合、反応液はゲル化することなく平衡に達し、反応がそれ以上進行しない状態になることから、湿潤状態の生成物を濾捌して母液と分離し、中和、水洗及び乾燥すれば、ジベンジリデンソルビトール若しくはジベンジリデンキシリトール、ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール若しくはジ(p−メチルベンジリデン)キシリトール、ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビトール若しくはジ(p−エチルベンジリデン)キシリトール、ジ(3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール若しくはジ(3,4−ジメチルベンジリデン)キシリトール、ジ(2,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール若しくはジ(2,4−ジメチルベンジリデン)キシリトールの生成物(粉末)が、約50%以上の収率(理論収量に対する実反応収量の割合)で得られる。
【0028】
そして、未中和の母液は、湿潤状態の生成物として除去した量に相当する反応成分を補充して、簡単にリサイクル反応に供することができる。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を挙げて本発明を、更に、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
芳香族アルデヒドとしてはベンズアルデヒド又はp−トルアルデヒド、アルジトールとしては共通してソルビトール、触媒としては共通してp−トルエンスルホン酸・一水和物、相溶化剤としてはメタノール又はエチルセロソルブを用いて配合した実施例1〜6の配合成分及び前記相溶化剤を用いない比較例1,2において、それらの配合成分と、反応時間と、生成物の収率、純度とをまとめて表にすると、表1に示す通りとなる。
【0031】
【表1】

【0032】
以下、各実施例、比較例の詳細を記述する。
(実施例1)
汎用攪拌機のスリーワンモータ600G(新東科学(株)製)と錨形の攪拌羽根を備えた、2Lのセパラブルフラスコに、純水234gと70%ソルビトール130g(0.5モル)を仕込み、回転数500rpmで攪拌してソルビトールを溶解した。次いで、攪拌しながら、p−トルエンスルホン酸・一水和物119g(0.625モル)を加えて溶解した後に、気相を窒素置換し、30℃に昇温してからメタノール380g(重量比で、ベンズアルデヒドの4倍量)を加えて均一液とした。最後に、ベンズアルデヒド95g(0.9モル)を加えて、反応を開始した。反応は、反応温度30℃で、回転数500rpmの条件を維持しながら行い、6時間後にはスラリー状態となり、そのまま24時間継続してから反応を終了した。
【0033】
24時間反応後の液状態は、粘度3.3Pa・sのスラリーであった。次いで、反応液を吸引濾過して、生成物と母液とを分離した。濾別した生成物を5倍量の水に再懸濁し、20%水酸化ナトリウム溶液で中和した後、60℃に昇温して2時間攪拌し、生成物を濾別後、再度、生成物を、60℃の温水で2時間洗浄した。その後、再度、吸引濾過し、湿潤率約67%の生成物を90℃で12時間乾燥し、粉砕して、ジベンジリデンソルビトールの白色粉末80.4g(理論収量に対する収率50.1%)を得た。
【0034】
この場合の収率の計算方法は、以下の通りである。
ベンズアルデヒドをBA、ソルビトールをSor、ジベンジリデンソルビトールをDBSとし、分子量をカッコ内に示すと本反応式は、
2×BA(106)+Sor(182)⇒DBS(358)+2H2O(18)となり、BAの仕込量は95gなので、DBSの理論収量は(95/212)×358g=160.4gとなる。
しかるに、DBSの収量は80.4gであることから、理論収量に対する収率(以下、単に収率という。)は(80.4/160.4)×100=50.1%になる。なお、HPLC((株)島津製作所製、高速液体クロマトグラフィー)分析のチャート(図1)より、ジベンジリデンソルビトールの純度は97.7%(面積比で算出)であった。
【0035】
(実施例2)
反応時間以外は実施例1と同様に反応を行い、反応時間を実施例1より延長してその影響を検討した。以下に示すように、反応を最大192時間まで延長しても、反応後の液状態は粘度3.1Pa・sのスラリーでゲル化傾向は全く見られないばかりか、収率、純度も実施例1の場合とほとんど変わらなかった。
【0036】
【表2】

【0037】
(実施例3)
汎用攪拌機のスリーワンモータ600G(新東科学(株)製)と錨形の攪拌羽根を備えた、2Lのセパラブルフラスコに、実施例1から回収した未中和の母液716.8gを仕込み、回転数500rpmで攪拌しながら、純水21.9g、70%ソルビトール71.6g、p−トルエンスルホン酸・一水和物21.8gを補充して溶解した後に、気相を窒素置換し、30℃に昇温してからメタノール69.6gを補充して均一液とし、最後に、ベンズアルデヒド56.3gを補充して、湿潤状態の生成物の濾別により系外に出た原料を補充して反応液を調整した。反応は、反応温度30℃で、回転数500rpmの条件を維持しながら行い、6時間後にはスラリー状態となり、そのまま24時間継続してから反応を終了した。
【0038】
24時間反応後の液状態は、粘度3.2Pa・sのスラリーであった。次いで、反応液を吸引濾過して、生成物と母液に分離した。生成物を5倍量の水に再懸濁し、20%水酸化ナトリウム溶液で中和した後、60℃に昇温して2時間攪拌し、生成物を濾捌後、再度、生成物を、60℃の温水で2時間洗浄した。その後、再度、吸引濾過し、湿潤率約67%の生成物を90℃で12時間乾燥し、粉砕して、ジベンジリデンソルビトールの白色粉末82.6g(収率51.5%)を得た。
【0039】
なお、ベンズアルデヒド等の補充量は、濾捌して除去した湿潤率67%の生成物に含まれるベンズアルデヒド等の量を補充量として、次のようにして算出し、その分を補充した。
すなわち、
2×BA(106)+Sor(182)⇒DBS(358)+2H2O(18)の反応式において、実施例1では、DBS収率50%、湿潤DBSの湿潤率67%であるから、DBSの固形分重量は160.4g×0.5=80.2gであり、湿潤率67%DBSの重量は80.2×3=240.6gである。したがって、吸引濾過により湿潤DBSを分離した母液の残存係数は、(958(初期量)−80.2×3(湿潤DBS重量))/(958−80.2(乾燥DBS重量))=0.817であり、これを用いて各成分の補充量を次表の如く算出した。なお、次表において、MeOHはメタノール、PTSはp−トルエンスルホン酸・一水和物を示す。
【0040】
【表3】

【0041】
HPLC分析により、ジベンジリデンソルビトールの純度は97.8%であった。したがって、本件リサイクル法により製造されたジベンジリデンソルビトールの純度と収率は、リサイクル前の反応である実施例1で得られたものと同等であった。
【0042】
また、このリサイクル反応を、5サイクル繰り返した時のトータル収率は、次に示すように84%に達する。
すなわち、収率50%、湿潤DBSの湿潤率67%であり、吸引濾過により湿潤DBSを分離した母液の残存係数は0.817であることから、初回〜リサイクル5回の反応のDBS収量は、次のようになり、合計収量は135gになることから、これをDBSの前記理論収量160.4gで除し、収率を計算すると84.2%となる。
【0043】
初回 160.4g×0.5=80.2g
リサイクル1 80.2g×0.817×0.5=32.8g
リサイクル2 32.8g×0.817×0.5=13.4g
リサイクル3 13.4g×0.817×0.5= 5.5g
リサイクル4 5.5g×0.817×0.5= 2.2g
リサイクル5 2.2g×0.817×0.5= 0.9g
【0044】
実施例1〜3で得られたジベンジリデンソルビトールの純度は、97%以上であり、HPLCによる同一の分析条件で発明者が分析したジベンジリデンソルビトールの市販品の純度、すなわち、(株)エーピーアイコーポレーション製EC−1(商品名)及び新日本理化(株)製ゲルオールD(商品名)のそれぞれの純度94.9%及び純度94.9%に比べて、高純度品である。
【0045】
(実施例4)
汎用攪拌機のスリーワンモータ600G(新東科学(株)製)と錨形の攪拌羽根を備えた、2Lのセパラブルフラスコに、純水234gと70%ソルビトール130g(0.5モル)を仕込み、回転数500rpmで攪拌してソルビトールを溶解した。次いで、攪拌しながら、p−トルエンスルホン酸・一水和物119g(0.625モル)を加えて溶解した後に、気相を窒素置換し、30℃に昇温してからエチルセロソルブ378g(重量比で、p−トルアルデヒドの3.5倍量)を加えて均一液とした。最後に、p−トルアルデヒド108g(0.9モル)を加えて、反応を開始した。反応は、反応温度30℃で、回転数500rpmの条件を維持しながら行い、2時間後にはスラリー状態となり、そのまま48時間継続してから反応を終了した。
【0046】
48時間反応後の液状態は、粘度2.7Pa・sのスラリーであった。次いで、反応液を吸引濾過して、生成物と母液に分離した。生成物を5倍量の水に再懸濁し、20%水酸化ナトリウム溶液で中和した後、60℃に昇温して2時間攪拌し、生成物を濾別後、再度、生成物を60℃の温水で2時間洗浄した。その後、再度、吸引濾過し、湿潤率約67%の生成物を90℃で12時間乾燥し、粉砕して、ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの白色粉末117.4g(収率67.6%)を得た。
【0047】
HPLC分析により、ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの純度は94.9%であった。次いで、純度94.9%の白色粉末を、水/エチルセロソルブ(重量比40/60)の混合溶媒中、5重量%濃度で、60℃24時間洗浄し、濾過、乾燥、粉砕した。再洗浄後の、HPLC分析によるジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの純度は、98.9%であった。
【0048】
(実施例5)
反応時間以外は実施例4と同様に反応を行い、反応を167時間まで継続してから反応を終了した。反応を167時間まで継続しても、反応後の液状態は、粘度2.6Pa・sのスラリーで、ゲル化傾向は全く見られなかった。白色粉末117.6g(収率67.7%)を得た。HPLC分析により、ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの純度は94.5%であった。
【0049】
(実施例6〕
汎用攪拌機のスリーワンモータ600G(新東科学(株)製)と錨形の攪拌羽根を備えた、2Lのセパラブルフラスコに、実施例4から回収した未中和の母液616gを仕込み、回転数500rpmで攪拌しながら、純水39.5g、70%ソルビトール93.3g、p−トルエンスルホン酸・一水和物32.9gを補充して溶解した後に、気相を窒素置換し、30℃に昇温してからエチルセロソルブ104.6gを補充して均一液とし、最後に、p−トルアルデヒド82.7gを補充して、湿潤状態の生成物の濾別により系外に出た原料を補充して反応液を調整した。反応は、反応温度30℃で、回転数500rpmの条件を維持しながら行い、3時間後にはスラリー状態となり、そのまま48時間継続してから反応を終了した。なお、p−トルアルデヒド等の補充量は、実施例3で説明したと同様にして算出した。
【0050】
48時間反応後の液状態は、粘度2.8Pa・sのスラリーであった。次いで、反応液を吸引ろ過して、生成物と母液に分離した。生成物を5倍量の水に再懸濁し、20%水酸化ナトリウム溶液で中和した後、60℃に昇温して2時間攪拌し、生成物を濾捌後、再度、生成物を、60℃の温水で2時間洗浄した。その後、再度、吸引ろ過し、湿潤率約67%の生成物を90℃で12時間乾燥し、粉砕して、白色粉末114.6g(収率66.0%)を得た。HPLC分析により、ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの純度は94.4%であった。したがって、本件リサイクル法により製造されたジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの純度と収率は、リサイクル前の反応である実施例4で得られたものと同等であった。また、このリサイクル反応を、5サイクル繰り返した時のトータル収率は、実施例3で説明したと同様にして算出すると、90%に達する。
【0051】
実施例4〜6で得られた、ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの純度はいずれも94%以上であり、得られた、純度94%以上の白色粉末を、水/エチルセロソルブ(重量比40/60)の混合溶媒中、5重量%濃度で、60℃24時間洗浄すれば、純度99%に近い精製ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールが得られる。
【0052】
これは、HPLCによる同一の分析条件で発明者が分析したジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの市販品の純度、すなわち、(株)エーピーアイコーポレーション製ヨシクリアMS(商品名)の純度96.6%に比べて、高純度品である。
【0053】
(比較例1)
汎用攪拌機のスリーワンモータ600G(新東科学(株)製)と錨形の攪拌羽根を備えた、1Lのセパラブルフラスコに、純水234gと70%ソルビトール130g(0.5モル)を仕込み、回転数500rpmで攪拌してソルビトールを溶解した。次いで、攪拌しながら、p−トルエンスルホン酸・一水和物119g(0.625モル)を加えて溶解した後に、気相を窒素置換し、30℃に昇温し、ベンズアルデヒド95g(0.9モル)を加えて、反応を開始した。反応は、反応温度30℃で、回転数500rpmの条件を維持しながら行ったが、5.5時間後に反応液がゲル化したため、攪拌不能となり反応を終了した。次いで、ゲル化物を取り出し、フラスコの付着物を洗い出し、吸引濾過して、生成物を分離した。
【0054】
分離した生成物を、5倍量の水に再懸濁し、20%水酸化ナトリウム溶液で中和した後、60℃に昇温して2時間攪拌し、生成物を濾別後、再度、60℃の温水で2時間洗浄した。その後、再度、吸引濾過し、湿潤率約67%の生成物を90℃で12時間乾燥し、粉砕して、白色粉末88.7g(収率55.3%)を得た。HPLC分析により、ジベンジリデンソルビトールの純度は77.6%で、純度の低いものであった。
【0055】
(比較例2)
汎用攪拌機のスリーワンモータ600G(新東科学(株)製)と錨形の攪拌羽根を備えた、1Lのセパラブルフラスコに、純水234gと70%ソルビトール130g(0.5モル)を仕込み、回転数500rpmで攪拌してソルビトールを溶解した。次いで、攪拌しながら、p−トルエンスルホン酸・一水和物119g(0.625モル)を加えて溶解した後に、気相を窒素置換し、30℃に昇温し、p−トルアルデヒド108g(0.9モル)を加えて、反応を開始した。反応は、反応温度30℃で、回転数500rpmの条件を維持しながら行ったが、6時間後に反応液がゲル化したため、攪拌不能となり反応を終了した。次いで、ゲル化物を取出し、フラスコの付着物を洗い出し、吸引濾過して、生成物を分離した。
【0056】
分離した生成物を、5倍量の水に再懸濁し、20%水酸化ナトリウム溶液で中和した後、60℃に昇温して2時間攪拌し、生成物を濾別後、再度、生成物を、60℃の温水で2時間洗浄した。その後、再度、吸引濾過し、湿潤率約67%のケーキを90℃で12時間乾燥し、粉砕して、白色粉末107.2g(収率61.7%)を得た。HPLC分析により、ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの純度は15.3%で、純度の非常に低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】は、実施例1で得られたジベンジリデンソルビトール(溶出時間:32.175)をHPLC分析した時のチャートである。なお、モノベンジリデンソルビトールとトリベンジリデンソルビトールは検出されなかった。
【符号の説明】
【0058】
1:ジベンジリデンソルビトール
2:ベンズアルデヒド
3:同定されない不純物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水媒体中、酸触媒の存在下に、芳香族アルデヒドとアルジトールとを、縮合反応させ、次いで反応液を中和してジベンジリデンアルジトール類を得るジベンジリデンアルジトール類の製造方法において、前記水媒体中に、前記芳香族アルデヒドと前記アルジトールとの相溶化剤を、芳香族アルデヒドの配合量に対して、重量比で、3〜7倍量を、配合してなることを特徴とする下記一般式(1)で表わされるジベンジリデンアルジトール類の製造方法。
【化1】

(式中,R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基又は炭素原子数1〜3のアルコキシル基を表す。X及びYは、同一又は異なって、1〜5を示し、nは0又は1を示す。)
【請求項2】
前記相溶化剤がメタノール、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール系溶剤、及び/又は、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブから選ばれる少なくとも1種のセロソルブ系溶剤であることを特徴とする請求項1記載のジベンジリデンアルジトール類の製造方法。
【請求項3】
前記中和の前に生成ジベンジリデンアルジトール類を濾過して母液を回収し、該母液に含まれる芳香族アルデヒド、アルジトール、酸触媒、相溶化剤等を利用して、繰り返し前記縮合反応を行い、リサイクルに供することを特徴とする請求項1又は2記載のジベンジリデンアルジトール類の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−37278(P2010−37278A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202490(P2008−202490)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(591282766)南海化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】