説明

ジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体を含有する固形製剤

【課題】特定のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体(化合物(I))またはその薬学的に許容される塩を含有し、光安定性等の保存安定性に優れた固形製剤の提供。
【解決手段】(i)特定のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体(化合物(I))またはその薬学的に許容される塩、(ii)酸化鉄、ならびに(iii)糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上を含有する薬物含有顆粒を含有し、該薬物含有顆粒内で(i)〜(iii)が混ざり合っている、固形製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体を含有する光安定性等の保存安定性に優れた固形製剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
式(I)
【化1】


[式中、Aは、単結合、-CH=CH-または(CH2)n-(式中、nは1〜3の整数を表す)を表し、R1およびR2は同一または異なって水素または低級アルキルを表すか、または隣接する窒素原子と一緒になって複素環基を形成する]で表されるジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩(以下、化合物(I)という)が、抗アレルギー作用および抗炎症作用を示し、アレルギー性鼻炎、喘息等のアレルギー疾患および蕁麻疹等の皮膚疾患に有用であることが知られており(特開昭63-10784号公報参照)、糖およびセルロースをベースとした化合物(I)またはその薬理学的に許容される塩含有製剤にクロスカルメロースナトリウム等のセルロース誘導体を添加することで、安定化した固形製剤が得られることが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
化合物(I)またはその薬学的に許容される塩は、光によって不安定になることが知られており、遮光剤を含有するフィルムコーテングを施すことで、光安定性等の保存安定性に優れたものとした固形製剤等(特許文献2および特許文献3参照)も知られている。
【0004】
一方で、速崩壊性製剤の1つであるドライシロップは、「用時、溶解または懸濁して用いる製剤」であり、水に添加した際に速やかに溶解または崩壊して懸濁することが好ましい。また、口腔内崩壊錠は、口腔内で唾液または少量の水によって速やかに溶解または崩壊することが必要とされている。ドライシロップや口腔内崩壊錠等の速崩壊性製剤の場合、該製剤の表面にフィルムコーテングを施してしまうと、該製剤の溶解または崩壊が遅くなる虞があり、固形製剤の表面に皮膜を備えることなく、該製剤に含有される光に不安定な有効成分を安定化することが、望まれている。
また、固形製剤の表面に遮光剤を含有するフィルムコーテングを備える場合であっても、フィルムコーテングの量を減らしたい場合や、薬物が著しく不安定である場合には、遮光剤を含有するフィルムコーテングを備えることで、該製剤に含有される光に不安定な有効成分を安定化することに加えて、固形製剤の表面にフィルムコーテングを備えていない状態でも、該製剤に含有される光に不安定な有効成分を幾らか安定化することが、望まれている。
【0005】
固形製剤の表面にフィルムコーテングを備えることなく、該製剤に含有される光に不安定な有効成分を安定にした固形製剤として、該有効成分に着色剤を添加し湿式造粒した固形製剤が知られている(特許文献4および5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-35460号公報
【特許文献2】国際公開第2005/097070号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/097104号パンフレット
【特許文献4】特開2000-191516号公報
【特許文献5】特開2000-7583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を含有し、光安定性等の保存安定性に優れた固形製剤等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の(1)〜(9)に関する。
(1) (i)式(I)
【化2】


[式中、Aは、単結合、-CH=CH-または(CH2)n-(式中、nは1〜3の整数を表す)を表し、R1およびR2は同一または異なって水素または低級アルキルを表すか、または隣接する窒素原子と一緒になって複素環基を形成する]で表されるジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体(以下、化合物(I)という)またはその薬学的に許容される塩、(ii)酸化鉄、ならびに(iii)糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上を含有する薬物含有顆粒を含有し、該薬物含有顆粒内で(i)〜(iii)が混ざり合っている、固形製剤。
(2) さらに、(iv)酸化鉄、ならびに(v)糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上を含有する酸化鉄含有部を含有し、該酸化鉄含有部内で(iv)および(v)が混ざり合っている、前記(1)記載の固形製剤。
(3) 薬物含有顆粒が、前記ジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩、酸化鉄、ならびに糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上を造粒して得られた薬物含有顆粒である、前記(1)または(2)記載の固形製剤。
(4) 薬物含有顆粒中の酸化鉄の量が、薬物含有顆粒中のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩の量1質量部に対して0.01〜1質量部である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の固形製剤。
(5) 固形製剤に含有される酸化鉄の量が、薬物含有顆粒中のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩の量1質量部に対して0.01〜6質量部である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の固形製剤。
(6) 薬物含有顆粒中のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩の量が、薬物含有顆粒の量100質量部に対して0.1〜30質量部である、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の固形製剤。
(7) 酸化鉄が、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄またはそれらの組み合わせである、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の固形製剤。
(8)薬物含有顆粒が、酸化チタンを含まない薬物含有顆粒である、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の固形製剤。
(9) 固形製剤が、ドライシロップまたは口腔内崩壊錠である、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の固形製剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を含有し、光安定性等の保存安定性に優れた固形製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の固形製剤は、(i)化合物(I)もしくはその薬学的に許容される塩、(ii)酸化鉄、ならびに(iii)糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上を含有する薬物含有顆粒を含有し、該薬物含有顆粒内で(i)〜(iii)が混ざり合っている、固形製剤である。
本発明において薬物含有顆粒としては、(i)〜(iii)を造粒して得られた薬物含有顆粒が好ましく、(i)〜(iii)を一度に混合後、造粒させた薬物含有顆粒、または(i)〜(iii)のいずれか2つを予め混合し、残る1つを加えて混合後、造粒させた薬物含有顆粒がより好ましい。
本発明の固形製剤は、本発明における薬物含有顆粒とは別に、(iv)酸化鉄、ならびに(v)糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上を含有する酸化鉄含有部を含有し、該酸化鉄含有部内で(iv)および(v)が混ざり合っていることが好ましい。
本発明において酸化鉄含有部としては、本発明における薬物含有顆粒に(iv)および(v)を粉末コーティングして得られた酸化鉄含有部または(iv)および(v)を造粒して得られた酸化鉄含有部が好ましい。
【0011】
本発明における化合物(I)の式(I)の各基の定義において、低級アルキルとしては、例えば炭素数1〜6の直鎖状または分枝状のアルキル、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル等があげられる。隣接する窒素原子と一緒になって形成される複素環基としては、例えばピロリジニル、モルホリノ、チオモルホリノ、N-メチルピペラジニル、ピラゾリジニル、ピペリジノ、ピペラジニル、インドリル、イソインドリル等があげられる。
化合物(I)の薬学的に許容される塩としては、例えば薬学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等があげられる。薬学的に許容される酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、例えば酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩があげられる。薬学的に許容される金属塩としては、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、例えばマグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等があげられる。薬学的に許容されるアンモニウム塩としては、例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩があげられる。薬学的に許容される有機アミン付加塩としては、例えばモルホリン、ピペリジン等の付加塩があげられる。薬学的に許容されるアミノ酸付加塩としては、例えばリジン、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の付加塩があげられる。
【0012】
化合物(I)は、特開昭63-10784号公報に開示された方法で、またはそれに準じて製造することができる。化合物(I)の中でも、AがCH2であり、R1およびR2がともにCH3である化合物が好ましく、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の好ましい具体例としては、式(A)
【化3】


で表される(Z)-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンゾ[b,e]オキセピン-2-酢酸塩酸塩(以下、化合物(A)という)があげられる。
【0013】
また、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の粒子径は、顕微鏡法または篩い分け法で測定したときの体積平均粒子径が5〜150μmであるのが好ましく、20〜120μmであるのがより好ましく、30〜100μmであるのがさらに好ましい。
【0014】
本発明における薬物含有顆粒中の化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の量は、該薬物含有顆粒の量100質量部に対して、0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましい。
【0015】
本発明の固形製剤は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の他に、他の有効成分を含有していてもよい。
【0016】
本発明における酸化鉄としては、特に限定されないが、例えば、三二酸化鉄(ベンガラ、Fe2O3)、黄色三二酸化鉄(Fe2O3・H2O)、黄酸化鉄、鉄黒酸化鉄等があげられ、好ましくは、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄またはそれらの組合せがあげられる。
本発明における薬物含有顆粒中に含有される酸化鉄の総量は、該薬物含有顆粒中に含有される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の量1質量部に対して0.005〜1質量部であることが好ましく、0.01〜0.5質量部であることがより好ましく、0.03〜0.1質量部であることがさらに好ましい。但し、本発明の固形製剤が、本発明における酸化鉄含有部を有しない場合には、該薬物含有顆粒中に含有される酸化鉄の総量は、該薬物含有顆粒中に含有される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の量1質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましい。
【0017】
また、本発明における酸化鉄含有部に含有される酸化鉄の総量は、本発明における薬物含有顆粒中に含有される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の量1質量部に対して0.005〜5質量部であることが好ましく、0.01〜0.5質量部であることがより好ましく、0.03〜0.2質量部であることがさらに好ましい。なお、本発明の固形製剤が、本発明における薬物含有顆粒と、該薬物含有顆粒に(iv)および(v)を粉末コーティングして得られた酸化鉄含有部を含有する場合には、本発明における酸化鉄含有部に含有される酸化鉄の総量が、本発明における薬物含有顆粒中に含有される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の量1質量部に対して0.01質量部以上であれば、本発明における薬物含有顆粒中に酸化鉄を含有しなくても構わない。
また、本発明の固形製剤中の酸化鉄の総量は、本発明における薬物含有顆粒中に含有される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の量1質量部に対して0.01〜6質量部であることが好ましく、0.02〜0.5質量部であることがより好ましい。
【0018】
本発明における糖としては、特に限定されないが、例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖等があげられる。
単糖類としては、例えばブドウ糖、キシロース、ガラクトース、果糖等があげられる。二糖類としては、例えばトレハロース、乳糖、白糖、マルトース、パラチノース等があげられる。オリゴ糖としては、例えばラフィノース、イヌロオリゴ糖(チコリオリゴ糖)、パラチノースオリゴ糖等があげられる。なお、本発明における糖は、無水物であっても水和物であってもよく、例えば、乳糖は、日本薬局方収載の乳糖水和物、無水乳糖等を包含する。
本発明における好ましい糖としては、乳糖、白糖、マルトースまたはそれらの組合せがあげられ、より好ましくは、乳糖、白糖またはそれらの組合せがあげられる。
【0019】
本発明におけるデンプンとしては、特に限定されないが、例えば、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、コムギデンプン等またはそれらの組合せがあげられる。
【0020】
本発明におけるデンプン誘導体としては、特に限定されないが、例えば、α化デンプン、部分α化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム等またはそれらの組合せがあげられる。
【0021】
本発明におけるセルロースとしては、特に限定されないが、例えば、結晶セルロース、粉末セルロース等またはそれらの組合せがあげられる。
【0022】
本発明におけるセルロース誘導体としては、特に限定されないが、例えば、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム等またはそれらの組合せがあげられる。
【0023】
本発明における糖アルコールとしては、特に限定されないが、例えばマンニトール、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール等があげられ、好ましくは、マンニトール、マルチトール、エリスリトールまたはそれらの組合せがあげられる。
【0024】
糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上として、より好ましくは、乳糖、白糖、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルスターチ、マンニトール、マルチトールおよびエリスリトールから選ばれる1つ以上があげられ、さらに好ましくは、乳糖、白糖、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルスターチおよびマンニトールから選ばれる1つ以上があげられる。
【0025】
また、本発明における薬物含有顆粒および酸化鉄含有部は、所望によりその他の添加剤を含有していてもよい。ただし、酸化チタンを含有しないことが好ましい。
本発明における薬物含有顆粒に含有されてもよいその他の添加剤としては、例えば、難水溶性無機塩(例えばタルク、軽質無水ケイ酸、メタケイ酸アルミン酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム等)、結合剤(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン、アラビアゴム、ゼラチン等)等があげられ、これらを単独でまたは2種以上用いてもよい。
【0026】
本発明における酸化鉄含有部に含有されてもよいその他の添加剤としては、例えば、難水溶性無機塩(例えばタルク、軽質無水ケイ酸、メタケイ酸アルミン酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム等)、結合剤(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン、アラビアゴム、ゼラチン等)、崩壊剤(例えばクロスポビドン、ベントナイト等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム等)、甘味剤(例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン等)、酸味料(例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等)、抗酸化剤(例えば、トコフェロール、アスコルビン酸、塩酸システイン、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル等)、着色剤(例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号、カロチノイド色素、トマト色素等)、香料(例えば、レモンフレーバー、レモンライムフレーバー、グレープフルーツフレーバー、アップルフレーバー等)等があげられ、これらを単独でまたは2種以上用いてもよい。
【0027】
本発明における薬物含有顆粒は、例えば、(i)〜(iii)を含有する混合物を造粒するか、または該混合物を核粒子に粉末コーティングすることで得られる。なお、該混合物中に含有される酸化鉄の総量は、該混合物の量100質量部に対して0.05〜1質量部であることが好ましく、0.1〜0.5質量部であることがより好ましい。
【0028】
本発明における酸化鉄含有部は、(iv)および(v)を混合しただけの混合物であってもよいが、例えば、(iv)および(v)を含有する混合物を造粒するか、また該混合物を本発明における薬物含有顆粒に粉末コーティングすることで得られたものであってもよい。なお、該混合物中に含有される酸化鉄の総量は、該混合物の量100質量部に対して0.05〜1質量部であることが好ましく、0.1〜0.5質量部であることがより好ましい。
【0029】
本発明において、造粒の方法としては、例えば湿式造粒法、乾式造粒法等があげられる。湿式造粒法としては、例えば、押し出し造粒法(スクリュー押し出し造粒装置、ロール押し出し式造粒装置等による)、転動造粒法(回転ドラム型造粒装置、遠心転動型造粒装置等による)、流動層造粒法(流動層造粒装置、転動流動層造粒装置等による)、撹拌造粒法(撹拌造粒装置等による)等があげられ、好ましくは、撹拌造粒法があげられる。湿式造粒法においては、湿潤液として、例えば、水、結合剤液等を用いることが好ましい。なお、本発明において結合剤液とは、結合剤を水または薬学的に許容される溶媒に懸濁または溶解した液であり、結合剤液中の結合剤の濃度は、結合剤液の総質量100質量部に対して、一般に0.1〜50質量部であるのが好ましく、0.5〜20質量部であるのがより好ましい。
【0030】
本発明において、粉末コーティングの方法としては、例えば転動造粒法(回転ドラム型造粒装置、遠心転動型造粒装置等による)に準じ、核粒子を転動または攪拌流動させ、粉末散布剤を粉末で核粒子にふりかけながら、水または前記結合剤液を核粒子に噴霧または滴下し、該核粒子を覆う被覆層を形成させる方法があげられる。
なお、本発明における薬物含有顆粒を、例えば、(i)〜(iii)を含有する混合物を核粒子に粉末コーティングして得る場合においては、前記核粒子とは、造粒球形シード粒子等であり、前記粉末散布剤とは、(i)〜(iii)を含有する混合物である。
また、本発明における酸化鉄含有部を、例えば、(iv)および(v)を含有する混合物を本発明における薬物含有顆粒に粉末コーティングして得る場合においては、前記核粒子とは、本発明における薬物含有顆粒であり、前記粉末散布剤とは、(iv)および(v)を含有する混合物である。
【0031】
本発明の固形製剤は、経口投与できればいかなる形状のものでもよく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤等の形状のものがあげられ、散剤、細粒剤または顆粒剤の形状の固形製剤には、ドライシロップが包含され、錠剤の形状の固形製剤には、口腔内崩壊錠が包含される。
【0032】
本発明の固形製剤が、散剤、細粒剤または顆粒剤の形状である場合、本発明における薬物含有顆粒を、そのままで散剤、細粒剤または顆粒剤とすることができる。また、本発明における薬物含有顆粒に、フィルムコーテングを施して、散剤、細粒剤または顆粒剤とすることも構わないが、散剤、細粒剤または顆粒剤の形状のドライシロップである場合には、フィルムコーテングを備えないか、フィルムコーテングを備えた場合であっても、崩壊もしくは溶解が極めて速いフィルムコーテングを施したものであることが好ましい。
【0033】
また、例えば、本発明における薬物含有顆粒に、(iv)および(v)を含有する混合物を粉末コーティングして本発明における酸化鉄含有部を製したものは、そのままで、散剤、細粒剤または顆粒剤とすることができる。また、例えば、本発明における薬物含有顆粒に、(iv)および(v)を含有する混合物を粉末コーティングして本発明における酸化鉄含有部を製したものに、フィルムコーテングを施して、散剤、細粒剤または顆粒剤とすることも構わないが、散剤、細粒剤または顆粒剤の形状のドライシロップである場合には、フィルムコーテングを備えないか、フィルムコーテングを備えた場合であっても、崩壊もしくは溶解が極めて速いフィルムコーテングを施したものであることが好ましい。
【0034】
本発明の固形製剤が、錠剤の形状である場合、本発明における薬物含有顆粒を単独でまたは、(iv)および(v)と混合し、所望により、本発明における酸化鉄含有部に含有されてもよいその他の添加剤と混合し、打錠機で圧縮成形することにより錠剤を製造する方法で製造することができる。該錠剤は、本発明における薬物含有顆粒に、フィルムコーテングを施した後、同様に錠剤を製造する方法で製造されても構わないが、錠剤が口腔内崩壊錠である場合には、該薬物含有顆粒にフィルムコーテングを備えないか、フィルムコーテングを備えた場合であっても、水なしで嚥下することが可能なほど充分に小さい薬物含有顆粒にフィルムコーテングしたものであるか、または崩壊もしくは溶解が速いフィルムコーテングを施したものであることが好ましい。
【0035】
また、本発明における薬物含有顆粒に、(iv)および(v)を含有する混合物を粉末コーティングして本発明における酸化鉄含有部を製したものを単独でまたは所望により、前記の糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上や、本発明における酸化鉄含有部に含有されてもよいその他の添加剤と混合し、打錠機で圧縮成形することにより錠剤を製造する方法で製造することもできる。該錠剤は、(iv)および(v)を含有する混合物を粉末コーティングして本発明における酸化鉄含有部を製したものに、フィルムコーテングを施した後、同様に錠剤を製造する方法で製造されても構わないが、錠剤が口腔内崩壊錠である場合には、該フィルムコーテングを備えないか、フィルムコーテングを備えた場合であっても、水なしで嚥下することが可能なほど充分に小さい薬物含有顆粒にフィルムコーテングしたものであるか、または崩壊もしくは溶解が速いフィルムコーテングを施したものであることが好ましい。
【0036】
また、本発明における薬物含有顆粒と、例えば、(iv)および(v)を含有する混合物を造粒して得られた、本発明における酸化鉄含有部とを混合し、所望により、前記の糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上や、本発明における酸化鉄含有部に含有されてもよいその他の添加剤を混合し、打錠機で圧縮成形することにより錠剤を製造する方法で製造することもできる。該錠剤は、本発明における薬物含有顆粒に、フィルムコーテングを施した後、同様に錠剤を製造する方法で製造されても構わないが、錠剤が口腔内崩壊錠である場合には、該薬物含有顆粒にフィルムコーテングを備えないか、フィルムコーテングを備えた場合であっても、水なしで嚥下することが可能なほど充分に小さい薬物含有顆粒にフィルムコーテングしたものであるか、または崩壊もしくは溶解が速いフィルムコーテングを施したものであることが好ましい。
【0037】
本発明において打錠機は、特に限定されず、例えばロータリー打錠機、油圧プレス機等の打錠機を用いることができる。また、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等のステアリン酸またはその金属塩、ショ糖脂肪酸エステルまたはグリセリン脂肪酸エステル、硬化油脂等の滑沢剤を、杵臼にあらかじめ極微量塗布された杵臼を有する打錠機を用いてもよく、いわゆる外部滑沢圧縮成形方法を用いて錠剤を製造してもよい。
【0038】
本発明において錠剤の形状は、具体的には、例えば丸錠、三角錠、砲丸錠等が好ましい。本発明の錠剤の大きさは、特に制限されないが、例えば質量で0.1〜2g、直径で0.3〜2.0cmであるのが好ましい。
【0039】
本発明において錠剤は、例えばかけ、くずれ等が生じない硬度を有しているのが好ましい。錠剤の硬度は、一般的に錠剤硬度計で錠剤の直径方向の破壊強度として測定されるが、その値は20〜200Nであるのが好ましく、30〜150Nであるのがより好ましく、40〜100Nであるのが特に好ましい。錠剤の硬度は、市販の錠剤破壊強度測定機、例えば、富山産業製TH-203CP型等により測定できる。
【0040】
以下に、試験例および実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら試験例および実施例に限定されるものではない。
【0041】
試験例1
表1に示す成分10 gを、均一になるまで乳鉢で混合した。
【0042】
【表1】


A〜Eおよび比較a〜cで得られた混合粉末の光安定性試験を以下の条件で行った。各混合粉末をシャーレ上に均一に配置し、25℃/60%RHに保たれた恒温恒湿槽内で、キセノンランプ30000 Lux光を40時間(120万Lux・時)照射した。曝光後、高速液体クロマトグラフィーにより、化合物(A)の類縁物質生成量を求めた。結果を表2に示す。類縁物質(B)は、化合物(A)の幾何異性体であり、光異性化により生成し、固形製剤において遮光保存下では生じない。
(高速液体クロマトグラフィー条件)
移動相:0.05 mol/Lリン酸塩緩衝液(pH3.5)550 mL/アセトニトリル450 mL/ラウリル硫酸ナトリウム2.3g
カラム:Inertsil C8(GLサイエンス)
カラム温度:40℃
検出:紫外線吸光光度法(波長:299 nm)
流量:0.9 mL/分

【表2】


表2より、酸化鉄を含有するA〜Eは、酸化鉄を含有しない比較a〜cと比較して、類縁物質(B)の生成量を著しく抑制した。
【実施例1】
【0043】
遠心転動型造粒装置(CF-360;CFグラニュレーター360、フロイント産業製、以下同じ)を用いて、核粒子としての精製白糖球状顆粒2000gに、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液(5.9重量%)をスプレーしながら、化合物(A)23.6gと表3に示した組成比に従った量の各添加剤との混合物(固体)を散布し、本発明における薬物含有顆粒を得た。
次いで、得られた薬物含有顆粒に対し、同様にヒドロキシプロピルセルロース水溶液(5.9重量%)をスプレーしながら、表3に示した組成比に従った量の各添加剤の混合物(固体)をパウダーコーティングし、乾燥を経て、本発明における酸化鉄含有部を製し、表3に示した組成比に従った量の軽質無水ケイ酸を添加し、ポリ袋内、手動で振とう混合し、本発明の固形製剤を得た。
【実施例2】
【0044】
表3に示した組成比に従った添加剤の量を使用したことを除き、実施例1と同様に、本発明の固形製剤を得た。
【実施例3】
【0045】
表3に示した組成比に従った添加剤の量を使用したことを除き、実施例1と同様に、本発明の固形製剤を得た。
【実施例4】
【0046】
遠心転動型造粒装置(CF-360;CFグラニュレーター360、フロイント産業製、以下同じ)を用いて、核粒子としての精製白糖球状顆粒2000gに、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液(5.9重量%)をスプレーしながら、化合物(A)23.6gと表3に示した組成比に従った量の各添加剤との混合物(固体)を粉末コーティングし、本発明における薬物含有顆粒を得た。
次いで、得られた薬物含有顆粒に対し、同様にヒドロキシプロピルセルロース水溶液(5.9重量%)をスプレーしながら、表3に示した組成比に従った量の各添加剤の混合物(固体)を粉末コーティングし、乾燥を経て、本発明における酸化鉄含有部を製し、本発明における薬物含有顆粒および本発明における酸化鉄含有部を含有する素顆粒を得た。
表3の組成比に従って、フィルムコーテング層の成分を精製水に溶解および分散し、固形分濃度11.6重量%のスプレー液を用意した。上記で得られた素顆粒にスプレー液をスプレーして、フィルムコーテングし、乾燥後、表3に示した組成比に従った量の軽質無水ケイ酸を添加し、ポリ袋内、手動で振とう混合し、本発明の固形製剤を得た。
【0047】
【表3】

【実施例5】
【0048】
流動層造粒乾燥機(フロイント産業、Flow Coater Mini)を用いて、化合物(A)2.5gと表4に示した組成比に従った量の各添加剤との混合物を、吸気温度80〜90℃で製品温度が40℃以上になるまで加温した後、6%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を4 g/分の速度でスプレー(エアー圧力:0.1 kgf/分)し、目視で造粒が進行するまで継続した。スプレー停止後、製品温度が40℃になるまで流動乾燥し、本発明における薬物含有顆粒を得た。
次いで、この薬物含有顆粒に対し、表4に示した組成比に従った量の軽質無水ケイ酸を添加し、ポリ袋内、手動で振とう混合し、本発明の固形製剤を得た。
【実施例6】
【0049】
表4に示した組成比に従った添加剤の量を使用したことを除き、実施例5と同様に、本発明の固形製剤を得た。
【実施例7】
【0050】
表4に示した組成比に従った添加剤の量を使用したことを除き、実施例5と同様に、本発明の固形製剤を得た。
【0051】
【表4】

【0052】
試験例2
実施例1〜7で得られた各固形製剤について、光安定性を評価した。各固形製剤(顆粒)をプラスチックシャーレに厚さ3 mmになるように仕込み、光安定性試験装置(LTX-01、光源:キセノンランプ)内で30000 Lux -25℃/60%RHの条件下で20時間(60万Lux・時)及び40時間(120万Lux・時))照射した。曝光後、試験例1と同様に高速液体クロマトグラフィーにより、化合物(A)の類縁物質生成量を求めた。結果を表5に示す。
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)式(I)
【化4】


[式中、Aは、単結合、-CH=CH-または(CH2)n-(式中、nは1〜3の整数を表す)を表し、R1およびR2は同一または異なって水素または低級アルキルを表すか、または隣接する窒素原子と一緒になって複素環基を形成する]で表されるジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩、(ii)酸化鉄、ならびに(iii)糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上を含有する薬物含有顆粒を含有し、該薬物含有顆粒内で(i)〜(iii)が混ざり合っている、固形製剤。
【請求項2】
さらに、(iv)酸化鉄、ならびに(v)糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上を含有する酸化鉄含有部を含有し、該酸化鉄含有部内で(iv)および(v)が混ざり合っている、請求項1記載の固形製剤。
【請求項3】
薬物含有顆粒が、前記ジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩、酸化鉄、ならびに糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上を造粒して得られた薬物含有顆粒である、請求項1または2記載の固形製剤。
【請求項4】
薬物含有顆粒中の酸化鉄の量が、薬物含有顆粒中のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩の量1質量部に対して0.01〜1質量部である、請求項1〜3のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項5】
固形製剤に含有される酸化鉄の量が、薬物含有顆粒中のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩の量1質量部に対して0.01〜6質量部である、請求項1〜4のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項6】
薬物含有顆粒中のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩の量が、薬物含有顆粒の量100質量部に対して0.1〜30質量部である、請求項1〜5のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項7】
酸化鉄が、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄またはそれらの組み合わせである、請求項1〜6のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項8】
薬物含有顆粒が、酸化チタンを含まない薬物含有顆粒である、請求項1〜7のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項9】
固形製剤が、ドライシロップまたは口腔内崩壊錠である、請求項1〜8のいずれかに記載の固形製剤。

【公開番号】特開2010−260851(P2010−260851A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84827(P2010−84827)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000001029)協和発酵キリン株式会社 (276)
【Fターム(参考)】