説明

ジペプチドの製造法

本発明によれば、D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用いた、D−アラニル−D−アラニンおよびD−アラニル−D−セリン以外のジペプチドの製造法、およびD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物およびD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用いたD−アミノ酸を含むジペプチドの製造法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素的なジペプチドの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
D−アミノ酸を含むジペプチドの製造法としては、化学合成法、酵素法が知られている。化学合成法によるD−アミノ酸を含むジペプチドの合成では、官能基の保護・脱保護などの操作が必要であり、またラセミ体も合成されることから、化学合成法は経済的、効率的な方法とはいえない。また、化学合成法は大量の有機溶媒等を使うため環境衛生上も好ましい方法ではない。
酵素法によるD−アミノ酸を含むジペプチドの合成に関しては、蛋白質分解酵素(ペプチダ−ゼ)の逆反応を利用した方法(非特許文献1参照)、アミノアシルトランスフェラ−ゼを利用する方法(非特許文献2、3参照)、α−アミノ酸エステラ−ゼを利用する方法(非特許文献4参照)が知られている。
しかし、蛋白質分解酵素の逆反応を利用した方法では、基質となるアミノ酸の官能基の保護・脱保護が必要であり、D−アミノ酸を含むジペプチド形成反応の効率化およびジペプチド分解反応の阻止が困難といった問題点がある。アミノアシルトランスフェラ−ゼを利用する方法は、基質となるアミノ酸のエステル化が必要であることから、効率的な製造法とはいえない。また、α−アミノ酸エステラ−ゼを利用する方法は、基質となるアミノ酸のエステル化が必要であり、D−アミノ酸を含むジペプチド形成反応の効率化およびペプチド分解反応の阻止が困難といった問題点がある。
D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼは、D−アラニン、またはD−アラニンおよびD−セリンを基質にして、D−アラニル−D−アラニンおよびD−アラニル−D−セリンを生成する活性を有していることが知られている(非特許文献5参照)が、該酵素がD−アラニル−D−アラニンおよびD−アラニル−D−セリン以外のD−アミノ酸を含むジペプチドを生成する活性を有していること、および該酵素を生産する能力を有する微生物の培養物を酵素源に用いたD−アラニル−D−アラニンおよびD−アラニル−D−セリン以外のD−アミノ酸を含むジペプチドの製造法については知られていない。
D−アミノ酸を生成する活性を有する蛋白質としては、5−置換−DL−ヒダントインからD−アミノ酸を生成する活性を有するヒダントイナーゼ(非特許文献6)、N−アシル−DL−アミノ酸からD−アミノ酸を生成する活性を有するD−アミノアシラーゼ(非特許文献7参照)、DL−アミノ酸アミドからD−アミノ酸を生成する活性を有するD−アミノ酸アミダーゼ(非特許文献8参照)、α−ケト酸からD−アミノ酸を生成する活性を有するD−アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(非特許文献9参照)およびL−α−アミノ酸からD−アミノ酸を生成する活性を有するアミノ酸ラセマーゼなどが知られている。低基質特異性アミノ酸ラセマーゼは、EC番号5.1.1.10に分類される非常に基質特異性の低いラセマーゼであり、各種アミノ酸のラセミ体の工業的製造において有用性の高い酵素である。該酵素を生産する微生物としてはこれまで、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物(非特許文献10および11参照)、アエロモナス(Aeromonas)属に属する微生物(非特許文献12参照)が報告されている。しかしながらそれら微生物の活性はしばしば微弱であり、培養方法などや変異株の取得などの方法でこの欠点を十分に補うことは困難である。
低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質については、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO12996株由来の蛋白質について、活性部位のアミノ酸配列が報告されている(非特許文献13参照)。また、該酵素をコードするDNAを取得し、該DNAを大腸菌などの微生物に導入し、該酵素を活性のある蛋白質として発現させたとの報告もある(特許文献1参照)。
しかしながら、アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質とD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質とを組み合わせて用いることにより、L−α−アミノ酸を含むアミノ酸からD−アミノ酸を含むジペプチドが生成することは知られていない。
【非特許文献1】J.Mol.Cat.B Enzymatic,6,379−386(1999)
【非特許文献2】J.Biochem.,131,247−254(2002)
【非特許文献3】J.Biosci.Bioeng.,89,195−306(2000)
【非特許文献4】J.Biochem.,130,119−126(2001)
【非特許文献5】Chem.Biol,5,197−207(1998)
【非特許文献6】Biotechnol.Bioeng.,23,2173−2183(1981)
【非特許文献7】Agric.Biol.Chem.,44,1089−1095(1980)
【非特許文献8】Biochem.Biophys.Res.Commun.,162,470−474(1989)
【非特許文献9】FEBSLett.,55,265−267(1975)
【非特許文献10】MethodsEnzymol.,17B,629−636(1971)
【非特許文献11】J.Bacteriol.,175,4213−4217(1993)
【非特許文献12】Agric.Biol.Chem.,51,173−180(1987)
【非特許文献13】Biochemistry,23,5195−5201(1984)
【特許文献1】国際公開特許第03−074690号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用いた、D−アラニル−D−アラニンおよびD−アラニル−D−セリン以外のジペプチドの製造法、およびD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物およびD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用いたD−アミノ酸を含むジペプチドの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の(1)〜(18)に関する。
(1)D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用い、該酵素源、ATP、並びにD−アミノ酸およびグリシンから選ばれる1種以上のアミノ酸(ただし、1種以上のアミノ酸が、D−アラニンのみである場合、並びにD−アラニンおよびD−セリンからなる場合を除く)を水性媒体中に存在せしめ、該水性媒体中にジペプチドを生成、蓄積させ、該水性媒体中から該ジペプチドを採取することを特徴とするジペプチドの製造法。
(2)D−アミノ酸が、D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用いて製造されることを特徴とする上記(1)の製造法。
(3)D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物およびD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用い、該酵素源、ATP、およびD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物によってD−アミノ酸に変換される物質を水性媒体中に存在せしめ、該水性媒体中にD−アミノ酸を含むジペプチドを生成、蓄積させ、該水性媒体中から該ジペプチドを採取することを特徴とするD−アミノ酸を含むジペプチドの製造法。
(4)D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質が、以下の[1]〜[3]から選ばれる蛋白質である上記(1)〜(3)のいずれか1つの製造法。
[1]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質
[2]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質
[3]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質
(5)D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物が、D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAを宿主細胞に導入して得られる微生物である上記(1)〜(3)のいずれか1つの製造法。
(6)D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAが、以下の[1]〜[4]から選ばれるDNAである上記(5)の製造法。
[1]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA
[2]配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列を有するDNA
[3]配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
[4]配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(7)D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物が、ヒダントイナーゼ、D−アミノアシラーゼ、D−アミノ酸アミダーゼ、D−アミノ酸トランスアミナーゼまたはアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物である上記(2)または(3)の製造法。
(8)アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質が、低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質である上記(7)の製造法。
(9)低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質が、以下の[1]〜[3]から選ばれる蛋白質である上記(8)の製造法。
[1]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質
[2]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質
[3]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質
(10)D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物が、ヒダンイトイナーゼ、D−アミノアシラーゼ、D−アミノ酸アミダーゼ、D−アミノ酸アミノトランスフェラーゼまたはアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAを宿主細胞に導入して得られる微生物である上記(2)および(3)の製造法。
(11)アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAが、低基質特異性アミノ酸ラセマーゼをコードするDNAである上記(10)の製造法。
(12)低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAが、以下の[1]〜[4]から選ばれるDNAである上記(11)の製造法。
[1]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA
[2]配列番号13または14で表される塩基配列を有するDNA
[3]配列番号13または14で表される塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
[4]配列番号13または14で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(13)D−アミノ酸およびグリシンから選ばれる1種以上のアミノ酸が、D−アラニン、D−グルタミン、D−グルタミン酸、グリシン、D−バリン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−プロリン、D−フェニルアラニン、D−トリプトファン、D−メチオニン、D−セリン、D−スレオニン、D−システイン、D−アスパラギン、D−チロシン、D−リジン、D−アルギニン、D−ヒスチジン、D−アスパラギン酸およびD−オルニチンからなる群より選ばれるD−アミノ酸(ただし、1種以上のアミノ酸が、D−アラニンのみである場合、並びにD−アラニンおよびD−セリンからなる場合を除く)である上記(1)、(2)および(4)〜(6)のいずれか1つの製造法。
(14)D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物によってD−アミノ酸に変換される物質が、1種以上の5−置換−DL−ヒダントイン、1種以上のN−アシル−DL−アミノ酸、1種以上のDL−アミノ酸アミド、1種以上のα−ケト酸および1種以上のD−アミノ酸、または1種以上のL−α−アミノ酸を含む1種以上のアミノ酸である上記(3)〜(12)のいずれか1つの製造法。
(15)1種以上のL−α−アミノ酸を含む1種以上のアミノ酸が、L体またはD体のアラニン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、チロシン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびオルニチン、並びにグリシンからなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸を含む上記(14)の製造法。
(16)ジペプチドが、式(I)
−R(I)
(式中、RおよびRは同一または異なって、D体のアラニン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、チロシン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸若しくはオルニチン、或いはグリシンを表すが、同時にD−アラニンを表すこと、およびRがD−アラニンである場合にRがD−セリンを表すことはない)で表されるジペプチドである上記(1)、(2)および(4)〜(12)のいずれか1つの製造法。
(17)D−アミノ酸を含むジペプチドが、式(II)
−R(II)
(式中、RおよびRは同一または異なって、L体またはD体のアラニン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、チロシン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸若しくはオルニチン、或いはグリシンを表すが、同時にL体のアミノ酸またはグリシンを表すことはない)で表されるジペプチドである上記(3)〜(12)のいずれか1つの製造法。
(18)D−アミノ酸を含むジペプチドが、式(III)
−R(III)
(式中、RおよびRは同一または異なって、D−アラニン、D−グルタミン、D−グルタミン酸、D−バリン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−プロリン、D−フェニルアラニン、D−トリプトファン、D−メチオニン、D−セリン、D−スレオニン、D−システイン、D−アスパラギン、D−チロシン、D−リジン、D−アルギニン、D−ヒスチジン、D−アスパラギン酸、D−オルニチンまたはグリシンを表すが、同時にグリシンを表すことはない)で表されるジペプチドである上記(3)〜(12)のいずれか1つの製造法。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用いた、D−アラニル−D−アラニンおよびD−アラニル−D−セリン以外のジペプチドの製造法、およびD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物およびD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用いたD−アミノ酸を含むジペプチドの製造法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明を詳細に説明する。
1.本発明の方法で用いられるD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物
本発明の方法で用いられるD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物は、D−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物であれば、いずれの微生物であってもよい。
D−アラニン−D−アラニンリガーゼ(ddlともいう)活性は、多くの微生物が有しており、例えばエシェリヒア(Escherichia)属に属する微生物[日本DNAデータバンク(DDBJ)に、ddlB遺伝子およびddlA遺伝子を有すると記載されている]、オセアノバシルス(Oseanobacillus)属に属する微生物(DDBJに、ddlA遺伝子を有すると記載されている)、シネコシスティス(Synecocystis)属に属する微生物(DDBJに、ddlA遺伝子を有すると記載されている)、バチルス(Bacillus)属に属する微生物[Nature,390,249−256(1997)]、コリネバクテリウム(Corynbacterium)属に属する微生物(NCBI ACCESSION NO.AP005282にD−アラニン−D−アラニンリガーゼおよび該酵素をコードする遺伝子が含まれている)、シュードモナス属に属する微生物[Microbiology,142,79−86(1996)]、ヘリコバクターに属する微生物[Nature,388,539−547(1997)]、マイコバクテリウム属に属する微生物[Nature,393,537−544(1998)]、アラビドプシス属に属する微生物[NCBI ACCESSION NO.NM_202530で表される蛋白質はD−アラニン−D−アラニンリガーゼファミリーに属すると記載されている]、サーモトーガ(Thermotoga)属に属する微生物(DDBJに、D−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードする遺伝子を有すると記載されている)などをあげることができ、その他各種公的データベースを該酵素名で検索することにより、D−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する微生物を得ることができる。
本発明に用いられるより好適な微生物としては、エシェリヒア属に属する微生物、オセアノバシルス属に属する微生物、シネコシスティス属に属する微生物、およびサーモトーガ属に属する微生物をあげることができる。
D−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物としては、具体的には以下の[1]〜[3]、
[1]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物、
[2]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物、および
[3]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有し、かつD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物、
などをあげることができる。
具体的には、配列番号1または2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物であるエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K−12株、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物であるオセアノバシルス・イヘイエンシス(Oceanobacillus iheyensisu)HTE831株、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物であるシネコシスティス・エスピー(Synechocystis sp.)PCC6803株、配列番号5で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物であるサーモトーガ・マリティマ(Thermotoga maritima)ATCC43589株などをあげることができる。
上記において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物は、該蛋白質を生産する能力を有する微生物であればいずれの微生物であってもよく、例えば該微生物としては、配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、より具体的には配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列を有するDNAの一部、または全部をプローブに用いたサザン解析により取得できる微生物などをあげることができる。上記のプローブに用いるDNAの一部とは、例えば配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる蛋白質の活性中心をコードするDNAなどをあげることができる。
上記のサザン解析とは、上記したDNAをプローブに用い、被検微生物の細胞から公知の方法で抽出した染色体DNAの制限酵素消化物などに対し、サザンハイブリダイゼーションを行い、ポジティブシグナルの有無を調べることである。具体的なサザン解析の手法としては、染色体DNAの制限酵素消化物を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0mol/lの塩化ナトリウム存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/lの塩化ナトリウム、15mmol/lのクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄し、洗浄後においてもプローブDNAとハイブリダイズしているDNAを検出する方法をあげることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラー・クローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University(1995)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ハイブリダイズ可能なDNAを有する微生物としては、例えばエシェリヒア属、オセアノバシルス属、シネコシスティス属、またはサーモトーガ属に属する微生物などをあげることができる。
配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有し、かつD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物としては、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST[Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873(1993)]やFASTA[Methods Enzymol.,183,63(1990)]を用いて計算したときに、配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物をあげることができる。該微生物としては例えばエシェリヒア属、オセアノバシルス属、シネコシスティス属、またはサーモトーガ属に属する微生物をあげることができる。
上記したBLASTやFASTAに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されており[J.Mol.Biol.,215,403(1990)]、BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばScore=100、wordlength=12とし、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3として塩基配列またはアミノ酸配列の相同性を計算することができる。またBLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
また、本発明の方法で用いられるD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物としては、上記したD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物に対し、通常の変異誘起処理方法、例えば、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンなどの変異剤での処理、UV照射、γ線照射による変異処理などを行い、D−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性が親株より上昇した微生物を選択することにより得られる微生物などもあげることができる。D−アラニン−D−アラニンリガーゼの活性は、常法に従い測定することができる。
また、本発明で用いられるD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物としては、D−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードするDNAを宿主細胞に導入して得られる形質転換された微生物をあげることができる。
D−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAとしては、上記したD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物であるエシェリヒア属に属する微生物、オセアノバシルス属に属する微生物、シネコシスティス属に属する微生物、バチルス属に属する微生物、コリネバクテリウム属に属する微生物、シュードモナス属に属する微生物、ヘリコバクターに属する微生物、マイコバクテリウム属に属する微生物、アラビドプシス属に属する微生物、およびサーモトーガ属に属する微生物が有するD−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードする遺伝子(ddl遺伝子)などをあげることができ、該遺伝子の具体的な塩基配列は各種公的データベースから取得することができる。また、本発明により好適に用いられるD−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードするDNAとしては、エシェリヒア属、オセアノバシルス属、シネコシスティス属、またはサーモトーガ属に属する微生物由来のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAをあげることができる。D−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAとしては、具体的には以下の[1]〜[4]、
[1]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA、
[2]配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列を有するDNA、
[3]配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA、および
[4]配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA、
などをあげることができる。
ここでいう「ハイブリダイズする」とは、特定の塩基配列を有するDNAまたは該DNAの一部にDNAがハイブリダイズする工程である。したがって、該特定の塩基配列を有するDNAまたは該DNAの一部の塩基配列は、ノーザンまたはサザンブロット解析のプローブとして有用であるか、またはPCR解析のオリゴヌクレオチドプライマーとして使用できる長さのDNAであってもよい。プローブとして用いるDNAとしては、少なくとも100塩基以上、好ましくは200塩基以上、より好ましくは500塩基以上のDNAをあげることができるが、少なくとも10塩基以上、好ましくは15塩基以上のDNAであってもよい。
DNAのハイブリダイゼーション実験の方法はよく知られており、例えば当業者であれば本願明細書に従い、ハイブリダイゼーションの条件を決定することができる。該ハイブリダイゼーションの条件は、モレキュラー・クローニング第2版、第3版(2001年)、Methods for General and Molecular Bacteriolgy,ASM Pres(1994)、Immunology methods manual,Academic press(Molecular)に記載の他、多数の他の標準的な教科書に従っておこなうことができる。
上記のストリンジェントな条件とは、例えばDNAを固定化したフィルターとプローブDNAとを50%ホルムアミド、5×SSC(750mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%の硫酸デキストラン、および20μg/lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で42℃で一晩、インキュベートした後、例えば約65℃の0.2×SSC溶液中で該フィルターを洗浄する条件が好ましいが、より低いストリンジェント条件を用いることもできる。ストリンジェンな条件の変更は、ホルムアミドの濃度調整(ホルムアミドの濃度を下げるほど低ストリンジェントになる)、塩濃度および温度条件の変更により可能である。低ストリンジェント条件としては、例えば6×SSCE(20×SSCEは、3mol/lの塩化ナトリウム、0.2mol/lのリン酸二水素ナトリウム、0.02mol/lのEDTA、pH7.4)、0.5%のSDS、30%のホルムアミド、100μg/lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベートした後、50℃の1×SSC、0.1%SDS溶液を用いて洗浄する条件をあげることができる。また、さらに低いストリンジェントな条件としては、上記した低ストリンジェント条件において、高塩濃度(例えば5×SSC)の溶液を用いてハイブリダイゼーションを行った後、洗浄する条件をあげることができる。
上記した様々な条件は、ハイブリダイゼーション実験のバックグラウンドを抑えるために用いるブロッキング試薬を添加、または変更することにより設定することもできる。上記したブロッキング試薬の添加は、条件を適合させるために、ハイブリダイゼーション条件の変更を伴ってもよい。
上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAとしては、例えば上記したBLASTやFASTA等を用いて上記したパラメータ等に基づいて計算したときに、配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列と少なくとも90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の相同性を有するDNAをあげることができる。
2.本発明の方法で用いられるD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物
本発明の方法で用いられるD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物は、該能力を有する微生物であればいずれでもよく、例えば5−置換−DL−ヒダントインからD−アミノ酸を生成する活性を有するヒダントイナーゼ[Biotechnol.Bioeng.,23,2173−2183(1981)]、N−アシル−DL−アミノ酸からD−アミノ酸を生成する活性を有するD−アミノアシラーゼ[Agric.Biol.Chem.,44,1089−1095(1980)]、DL−アミノ酸アミドからD−アミノ酸を生成する活性を有するD−アミノ酸アミダーゼ[Biochem.Biophys.Res.Commun.,162,470−474(1989)]、α−ケト酸からD−アミノ酸を生成する活性を有するD−アミノ酸アミノトランスフェラーゼ[FEBS Lett.,55,265−267(1975)]またはL−a−アミノ酸からD−アミノ酸を生成する活性を有するアミノ酸ラセマーゼを生産する能力を有する微生物をあげることができ、より好ましくはアミノ酸ラセマーゼを生産する能力を有する微生物、さらに好ましくは、低基質性アミノ酸ラセマーゼを生産する能力を有する微生物をあげることができる。
アミノ酸ラセマーゼを生産する能力を有する微生物としては、例えばエシェリヒア属に属する微生物[Science,277,1453−1474(1997)]、バチルス属に属する微生物[Nature,390,249−256(1997)]、シュードモナス属に属する微生物[Nature,406,959−964(2000)]、オセアノバシルス属に属する微生物[Nucleic Acids Res.,30,3927−3935(2002)]など、低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物として、例えばシュードモナス属に属する微生物(WO03/074690)などをあげることができ、本発明には低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物がより好適に用いられる。
低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物としては、具体的には以下の[1]〜[3]、
[1]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物、
[2]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物、および
[3]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有し、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物、
などをあげることができる。
具体的には、配列番号11で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物である、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)ATCC47954、配列番号12で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物である、シュードモナス・プチダIFO12996をあげることができる。
上記において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物は、該蛋白質を生産する能力を有する微生物であればいずれの微生物であってもよく、例えば該微生物としては、配列番号11または12で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、より具体的には配列番号13または14で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列を有するDNAの一部、または全部をプローブに用いたサザン解析により取得できる微生物などをあげることができる。上記のプローブに用いるDNAの一部とは、例えば配列番号11または12で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質の活性中心をコードするDNAをあげることができる。
上記のサザン解析とは、上記したDNAをプローブに用いる以外は、上記1のサザン解析と同じであり、その具体的手法も上記1と同様である。
ハイブリダイズ可能なDNAを有する微生物としては、例えばシュードモナス属に属する微生物などをあげることができる。
配列番号11または12で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有し、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物としては、上記したBLASTやFASTAを用いて計算したときに、配列番号11または12で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物をあげることができる。該微生物としてはシュードモナス属に属する微生物をあげることができる。
また、本発明の方法で用いられるD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物としては、上記したアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質などを生産する能力を有する微生物に対し、通常の変異誘起処理方法(ア・ショート・コース・イン・バクテリアル・ジェネティクス)、例えば、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンなどの変異剤での処理、UV照射、γ線照射による変異処理などを行い、アミノ酸ラセマーゼ活性などが親株より上昇した微生物を選択することにより得られる微生物などもあげることができる。D−アミノ酸を生産する能力、例えばアミノ酸ラセマーゼの活性は、常法に従い測定することができる。
また、本発明で用いられるD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物としては、ヒダントイナーゼ、D−アミノアシラーゼ、D−アミノ酸アミダーゼ、D−アミノ酸アミノトランスフェラーゼ、またはアミノ酸ラセマーゼをコードするDNAを宿主細胞に導入して得られる形質転換された微生物をあげることができる。
ヒダントイナーゼをコードするDNAとしては、例えば特開2002−330785記載のDNAなど、D−アミノアシラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAとしては、例えばBiosci.Biotech.Biochem.,59,2115(1995)および特開2001−275688号記載のDNAなど、D−アミノ酸アミダーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAとしては、例えばApplied & Environmental Microbiology,60,888−95(1994)に記載のDNAなど、D−アミノ酸アミノトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAとしては、例えばJ.Bacteriol.,185,2418−2431(2003)、Biochim.Biophys.Acta,1350,38−40(1997)に記載のDNAなど、アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAとしてはエシェリヒア属に属する微生物由来のDNA[Science,277,1453−1474(1997)]、バチルス属に属する微生物由来のDNA[Nature,390,249−256(1997)]、シュードモナス属に属する微生物由来のDNA[Nature,406,959−964(2000)]、オセアノバシルス属に属する微生物由来のDNA[Nucleic Acids Res.,30,3927−3935(2002)]などが知られており、低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAとしてはシュードモナス属に属する微生物由来のDNA(WO03/074690)などをあげることができる他、各種DNAデータベースを該酵素名等を用いて検索することによりアミノ酸ラセマーゼをコードするDNAの塩基配列を取得することができる。
本発明により好適に用いられる低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAとしては、具体的には以下の[1]〜[4]、
[1]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA、
[2]配列番号13または14で表される塩基配列を有するDNA、
[3]配列番号13または14で表される塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA、および
[4]配列番号13または14で表される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA、
などをあげることができる。
上記の「ハイブリダイズする」および「ストリンジェントな条件」の意味は、上記1と同様であり、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA」の具体的な取得方法も上記1と同様である。
上記したストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なDNAとして具体的には、上記したBLASTやFASTA等を用いて上記したパラメータ等に基づいて計算したときに、配列番号13または14で表される塩基配列と少なくとも90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の相同性を有するDNAをあげることができる。
3.本発明の製造法に用いられるDNAの調製
本発明の製造法に用いられるDNA、例えばアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA、およびD−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードするDNAは、以下のようにして調製することができる。
アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAは、公的なDNAのデータベース、例えばGenBankなどにアミノ酸ラセマーゼをコードする遺伝子として登録されている塩基配列、または配列番号13若しくは14で表される塩基配列に基づき設計することができるプローブを用いた、微生物、好ましくはシュードモナス属に属する微生物の染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション、あるいは上記した公知のアミノ酸ラセマーゼをコードする遺伝子または配列番号13若しくは14で表される塩基配列に基づき設計することができるプライマーDNAを用いた、微生物、好ましくはシュードモナス属に属する微生物の染色体DNAを鋳型としたPCR[PCR Protocols,Academic Press(1990)]により取得することができる。
D−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードするDNAは、公的なDNAのデータベース、例えばGenBankなどにD−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードする遺伝子として登録されている塩基配列、または配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列に基づき設計することができるプローブを用いた、微生物、好ましくはエシェリヒア属、オセアノバシルス属、シネコシスティス属、もしくはサーモトーガ属に属する微生物の染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション、あるいは上記した公知のD−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードする遺伝子または配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列に基づき設計することができるプライマーDNAを用いた、微生物、好ましくはエシェリヒア属、オセアノバシルス属、シネコシスティス属、もしくはサーモトーガ属に属する微生物の染色体DNAを鋳型としたPCRにより取得することができる。
また、各種の遺伝子配列データベースに対して公知のアミノ酸ラセマーゼをコードする遺伝子または配列番号13若しくは14、または公知のD−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードする遺伝子若しくは配列番号6〜10のいずれかで表されるアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の相同性を有する配列を検索し、該検索によって得られた塩基配列に基づき、該塩基配列を有する生物の染色体DNA、cDNAライブラリー等から上記した方法によりアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA、またはD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAを取得することもできる。
該DNAをそのまま、あるいは適当な制限酵素などで切断し、常法によりベクターに組み込み、得られた組換え体DNAを宿主細胞に導入した後、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばジデオキシ法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,74,5463(1977)]あるいは373A・DNAシークエンサー(パーキン・エルマー社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該DNAの塩基配列を決定することができる。
塩基配列を決定した結果、取得されたDNAが部分長であった場合は、該部分長DNAをプローブに用いた、染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション法等により、全長DNAを取得することができる。
更に、決定されたDNAの塩基配列に基づいて、パーセプティブ・バイオシステムズ社製8905型DNA合成装置等を用いて化学合成することにより目的とするDNAを調製することもできる。
上記のようにして取得されるアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAとしては、例えば、配列番号13または14で表される塩基配列を有するDNAをあげることができ、D−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードするDNAとしては、たとえば配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列を有するDNAをあげることができる。
4.本発明に用いられるDNAを宿主細胞に導入して得られる微生物の調製
本発明に用いられるDNAを宿主細胞に導入して得られる微生物、例えばアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAを宿主細胞に導入して得られる微生物、D−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAを宿主細胞に導入して得られる微生物は、上記3で得られるDNAを常法にて宿主細胞に導入することで取得できる。該微生物は、アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAおよびD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAのいずれか1つを有している微生物であってもよいし、2つのDNAを同時に有する微生物であっても本発明の方法に用いることができる。
上記3で取得したDNAをもとにして、必要に応じて、蛋白質をコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を調製する。また、該蛋白質をコードする部分の塩基配列を、宿主の発現に最適なコドンとなるように、塩基を置換することにより、該蛋白質の生産率を向上させた微生物を調製することができる。
該DNA断片を適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換え体DNAを作製する。
該組換え体DNAを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、本発明の蛋白質を生産する形質転換体を得ることができる。
宿主細胞としては、目的とする遺伝子を発現できる微生物であればいずれも用いることができる。
発現ベクターとしては、微生物内において自立複製可能ないしは染色体中への組込が可能で、本発明のDNAまたは本発明の製造法に用いられるDNAを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。
細菌等の原核生物を宿主細胞として用いる場合は、アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA、またはD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA(以下、アミノ酸ラセマーゼまたはD−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードするDNAと略す)を有する組換え体DNAは、原核生物中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明のDNAまたは本発明の製造法に用いられるDNA、転写終結配列より構成された組換え体DNAであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
発現ベクターとしては、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社製)、pHelix1(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)、pKK233−2(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX−1(プロメガ社製)、pQE−8(キアゲン社製)、pET−3、pET−30 Xa/LIC(いずれもノバジェン社製)、pKYP10(特開昭58−110600)、pKYP200[Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)]、pLSA1[Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)]、pGEL1[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,82,4306(1985)]、pBluescriptII SK(+)、pBluescript II KS(−)(ストラタジーン社製)、pTrS30[エシェリヒア・コリ JM109/pTrS30(FERM BP−5407)より調製]、pTrS32[エシェリヒア・コリ JM109/pTrS32(FERM BP−5408)より調製]、pPAC31(WO98/12343)、pUC19[Gene,33,103(1985)]、pSTV28(タカラバイオ社製)、pUC118(タカラバイオ社製)、pPA1(特開昭63−233798)、pJB861[Plasmid,38,35−51(1997)]等を例示することができる。
プロモーターとしては、エシェリヒア・コリ等の宿主細胞中で機能するものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、Pプロモーター、Pプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター、Pmプロモーター等をあげることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター、tacプロモーター、lacT7プロモーター、letIプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
またコリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する微生物中で発現させるためのP54−6プロモーター[Appl.Microbiol.Biotechnol.,53,674−679(2000)]なども用いることができる。
リボソーム結合配列であるシャイン−ダルガノ(Shine−Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
アミノ酸ラセマーゼ、またはD−アラニン−D−アラニンリガーゼをコードするDNAを発現ベクターに結合させた組換え体DNAにおいては、転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
このような組換え体DNAとしては、例えば後述するpJBar1およびpEDdlBをあげることができる。
原核生物としては、エシェリヒア属、セラチア(Serratia)属、バチルス属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ミクロバクテリウム属(Microbacterium)、シュードモナス(Pseudomonas)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アリシクロバチルス属(Alicyclobacillus)、アナベナ(Anabena)属、アナシスティス(Anacystis)属、アスロバクター(Arthrobacter)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、クロマチウム(Chromatium)属、エルビニア(Erwinia)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、フォルミディウム(Phormidium)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、ロドスピリウム(Rhodospirillum)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、シネコッカス(Synechoccus)属、ザイモモナス(Zymomonas)属等に属する微生物、例えば、エシェリヒア・コリXL1−Blue、エシェリヒア・コリ XL2−Blue、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ DH5α、エシェリヒア・コリ MC1000、エシェリヒア・コリ KY3276、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ W3110、エシェリヒア・コリ NY49、エシェリヒア・コリ MP347、エシェリヒア・コリ NM522、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)、バチルス・サチリス ATCC33712、バチルス・メガテリウム、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)FERM BP−6030、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・イマリオフィルム(Brevibacterium immariophilum)ATCC14068、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)ATCC14066、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)ATCC14067、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)ATCC13869、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14297、コリネバクテリウム・アセトアシドフィルム(Corynebacterium acetoacidophilum)ATCC13870、ミクロバクテリウム・アンモニアフィルム(Microbacterium ammoniaphilum)ATCC15354、セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)、セラチア・フォンチコラ(Serratia fonticola)、セラチア・リケファシエンス(Serratia liquefaciens)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)D−0110、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)、アグロバクテリウム・リゾジーン(Agrobacterium rhizogenes)、アグロバクテリウム・ルビ(Agrobacterium rubi)、アナベナ・シリンドリカ(Anabaena cylindrica)、アナベナ・ドリオルム(Anabaena doliolum)、アナベナ・フロスアクア(Anabaena flos−aquae)、アースロバクター・オーレッセンス(Arthrobacter aurescens)、アースロバクター・シトレウス(Arthrobacter citreus)、アースロバクター・グロブフォルミス(Arthrobacter globformis)、アースロバクター・ヒドロカーボグルタミカス(Arthrobacter hydrocarbonglutamicus)、アースロバクター・ミソレンス(Arthrobacter mysorens)、アースロバクター・ニコチアナ(Arthrobacter nicotianae)、アースロバクター・パラフィネウス(Arthrobacter paraffineus)、アースロバクター・プロトフォルミエ(Arthrobacter protophormiae)、アースロバクター・ロセオパラフィナス(Arthrobacter roseoparaffinus)、アースロバクター・スルフレウス(Arthrobacter sulfureus)、アースロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)、クロマチウム・ブデリ(Chromatium buderi)、クロマチウム・テピダム(Chromatium tepidum)、クロマチウム・ビノサム(Chromatium vinosum)、クロマチウム・ワーミンギ(Chromatium warmingii)、クロマチウム・フルビアタティレ(Chromatium fluviatile)、エルビニア・ウレドバラ(Erwinia uredovora)、エルビニア・カロトバラ(Erwinia carotovora)、エルビニア・アナス(Erwinia ananas)、エルビニア・ヘリコラ(Erwinia herbicola)、エルビニア・パンクタタ(Erwinia punctata)、エルビニア・テレウス(Erwinia terreus)、メチロバクテリウム・ロデシアナム(Methylobacterium rhodesianum)、メチロバクテリウム・エクソトルクエンス(Methylobacterium extorquens)、フォルミディウム・エスピー(Phormidium sp.)ATCC29409、ロドバクター・カプスラタス(Rhodobacter capsulatus)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドシュードモナス・ブラスチカ(Rhodopseudomonas blastica)、ロドシュードモナス・マリナ(Rhodopseudomonas marina)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、ロドスピリウム・リブラム(Rhodospirillum rubrum)、ロドスピリウム・サレキシゲンス(Rhodospirillum salexigens)、ロドスピリウム・サリナラム(Rhodospirillum salinarum)、ストレプトマイセス・アンボファシエンス(Streptomyces ambofaciens)、ストレプトマイセス・オーレオファシエンス(Streptomyces aureofaciens)、ストレプトマイセス・アウレウス(Streptomyces aureus)、ストレプトマイセス・フンジシディカス(Streptomyces fungicidicus)、ストレプトマイセス・グリセオクロモゲナス(Streptomyces griseochromogenes)、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans、ストレプトマイセス・オリボグリセウス(Streptomyces olivogriseus)、ストレプトマイセス・ラメウス(Streptomyces rameus)、ストレプトマイセス・タナシエンシス(Streptomyces tanashiensis)、ストレプトマイセス・ビナセウス(Streptomyces vinaceus)、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)等をあげることができる。
組換え体DNAの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,69,2110(1972)]、プロトプラスト法(特開昭63−248394)、エレクトロポレーション法[Nucleic Acids Res.,16,6127(1988)]等をあげることができる。
5.本発明の方法で基質として用いられるアミノ酸
本発明の方法で基質として用いられるD−アミノ酸およびグリシンから選ばれる1種以上のアミノ酸は、1種以上のアミノ酸が、D−アラニンのみである場合、並びにD−アラニンおよびD−セリンからなる場合を除き、D−アミノ酸およびグリシンから選ばれる1種以上のアミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、好ましくはD−アラニン、D−グルタミン、D−グルタミン酸、グリシン、D−バリン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−プロリン、D−フェニルアラニン、D−トリプトファン、D−メチオニン、D−セリン、D−スレオニン、D−システイン、D−アスパラギン、D−チロシン、D−リジン、D−アルギニン、D−ヒスチジン、D−アスパラギン酸、D−オルニチンおよびその誘導体からなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸をあげることができ、好ましくは、D−アラニン、グリシン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−プロリン、D−セリン、D−スレオニン、D−システインおよびD−リジンから選ばれる1種以上のアミノ酸をあげることができる。上記D−アミノ酸は、いずれの方法で入手できるD−アミノ酸であってもよく、市販のD−アミノ酸、または化学合成法若しくはD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用いて製造したD−アミノ酸であってもよい。
本発明で基質として用いられるD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物によってD−アミノ酸に変換される物質は、該微生物の培養物または該培養物の処理物によって、D−アミノ酸に変換される物質であればいずれでもよく、例えばD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物としてヒダントイナーゼを生産する能力を有する微生物を用いる場合は、1種以上の5−置換−DL−ヒダントインなど、D−アミノアシラーゼを生産する能力を有する微生物を用いる場合は、1種以上のN−アシル−DL−アミノ酸など、D−アミノ酸アミダーゼを生産する能力を有する微生物を用いる場合は、1種以上のDL−アミノ酸アミドなど、D−アミノ酸アミノトランスフェラーゼを生産する能力を有する微生物を用いる場合は、1種以上のα−ケト酸および1種以上のD−アミノ酸など、アミノ酸ラセマーゼを生産する能力を有する微生物を用いる場合は、1種以上のL−α−アミノ酸などをあげることができる。
上記L−α−アミノ酸は、アミノ酸ラセマーゼの基質となる限りにおいて、天然物、非天然物またはそれらの誘導体であってもよい。
また、低基質特性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物を用いる場合の基質としては、1種以上のL−α−アミノ酸を含む1種以上のアミノ酸をあげることができる。
1種以上のL−α−アミノ酸を含む1種以上のアミノ酸は、1種以上のL−α−アミノ酸を含む1種以上のアミノ酸であれば、いずれのアミノ酸のいずれの組み合わせであってもよく、好ましくはL−α−アミノ酸およびグリシンから選ばれる、1種以上のL−α−アミノ酸を含む1種または2種のアミノ酸をあげることができる。
該L−α−アミノ酸としては、例えばL−α−アラニン、L−α−グルタミン、L−α−グルタミン酸、L−α−バリン、L−α−ロイシン、L−α−イソロイシン、L−α−プロリン、L−α−フェニルアラニン、L−α−トリプトファン、L−α−メチオニン、L−α−セリン、L−α−スレオニン、L−α−システイン、L−α−アスパラギン、L−α−チロシン、L−α−リジン、L−α−アルギニン、L−α−ヒスチジン、L−α−アスパラギン酸、L−α−オルニチンおよびそれらの誘導体をあげることができる。
上記したL−α−アミノ酸と組み合わせて用いることができるアミノ酸としては、アミノ酸であればいずれでもよい。
該アミノ酸としては、例えばL体またはD体のアラニン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、チロシン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびオルニチン、並びグリシンから選ばれるアミノ酸をあげるが、これらのアミノ酸の誘導体であってもよい。
上記したアミノ酸の誘導体としては、例えばヒドロキシアミノ酸(β−ヒドロキシグルタミン、β−ヒドロキシグルタミン酸、γ−ヒドロキシグルタミン酸、α−ヒドロキシグリシン、β−ヒドロキシバリン、γ−ヒドロキシバリン、β−ヒドロキシロイシン、γ−ヒドロキシロイシン、δ−ヒドロキシロイシン、β−ヒドロキシイソロイシン、γ−ヒドロキシイソロイシン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、β−ヒドロキシフェニルアラニン、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン、2,4,5−トリヒドロキシフェニルアラニン、β−ヒドロキシトリプトファン、5−ヒドロキシトリプトファン、α−ヒドロキシメチオニン、β−ヒドロキシセリン、γ−ヒドロキシスレオニン、S−ヒドロキシシステイン、β−ヒドロキシアスパラギン、β−ヒドロキシチロシン、β−ヒドロキシリジン、γ−ヒドロキシリジン、δ−ヒドロキシリジン、N−ヒドロキシリジン、β−ヒドロキシアルギニン、δ−ヒドロキシアルギニン、N−ヒドロキシアルギニン、β−ヒドロキシヒスチジン、β−ヒドロキシアスパラギン酸、β−ヒドロキシオルニチン、γ−ヒドロキシオルニチン、N−ヒドロキシオルニチン)、N−メチルアミノ酸(N−メチル−アラニン、N−メチル−グルタミン、N−メチル−グルタミン酸、N−メチル−グリシン、N−メチル−バリン、N−メチル−ロイシン、N−メチル−イソロイシン、N−メチル−プロリン、N−メチル−フェニルアラニン、N−メチル−トリプトファン、N−メチル−メチオニン、N−メチル−セリン、N−メチル−スレオニン、N−メチル−システイン、N−メチル−アスパラギン、N−メチル−チロシン、N−メチル−リジン、N−メチル−アルギニン、N−メチル−ヒスチジン、N−メチル−アスパラギン酸、N−メチル−オルニチン)などをあげることができる。
6.本発明の製造法
本発明の製造法は、(1)D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用い、該酵素源、ATP、並びにD−アミノ酸およびグリシンから選ばれる1種以上のアミノ酸(ただし、1種以上のアミノ酸が、D−アラニンのみである場合、並びにD−アラニンおよびD−セリンからなる場合を除く)を水性媒体中に存在せしめ、該水性媒体中にジペプチドを生成、蓄積させ、該水性媒体中から該ジペプチドを採取することを特徴とするジペプチドの製造法、および(2)D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物およびD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用い、該酵素源、ATPおよびD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物によってD−アミノ酸に変換される物質を水性媒体中に存在せしめ、該水性媒体中にD−アミノ酸を含むジペプチドを生成、蓄積させ、該水性媒体中から該ジペプチドを採取することを特徴とするD−アミノ酸を含むジペプチドの製造法に関する。
本発明の方法で用いる酵素源は、D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物、D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物、またはD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力およびD−アミノ酸を生産する能力の2つの能力を同時に有する微生物を培地に培養することで取得することができる。
該微生物を培養する培地としては、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、該微生物の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、該微生物が資化し得るものであればよく、グルコ−ス、フラクト−ス、スクロ−ス、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノ−ル、プロパノ−ル等のアルコ−ル類等を用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸または有機酸のアンモニウム塩、含窒素化合物、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コ−ンスチ−プリカ−、カゼイン加水分解物、大豆粕、大豆粕加水分解物、各種発酵菌体、およびその消化物等を用いることができる。
無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。
培養は、通常振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。培養温度は15〜60℃がよく、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは4〜10に保持する。pHの調整は、無機または有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。
また、培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を、Pmプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには−トリック酸(−tolic acid)を培地に添加してもよい。
培養物の処理物としては、培養物の濃縮物、培養物の乾燥物、培養物を遠心分離して得られる菌体、該菌体の乾燥物、該菌体の凍結乾燥物、該菌体の界面活性剤処理物、該菌体の溶媒処理物、該菌体の酵素処理物および該菌体の固定化物などの生菌体を含む処理物、ならびに該菌体の超音波処理物、該菌体の機械的摩砕処理物、該菌体の蛋白質分画物、および該菌体より抽出、精製して得られる酵素標品などをあげることができる。
上記(1)および(2)の方法で用いられるD−アラニン−D−アラニンリガーゼ活性を有する微生物の培養物または該培養物の処理物は、1種または2種のD−アミノ酸から30℃で1分間に1mmolのD−アミノ酸を含むジペプチドを生成することのできる活性を1単位(U)として、1mU/l〜1000U/lであり、好ましくは10mU/l〜100U/lの濃度で用いる。
上記(2)の方法で用いられるD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物は、30℃で1分間に1mmolのD−アミノ酸を生成することのできる活性を1単位(U)として、1mU/l〜1000U/lであり、好ましくは10mU/1〜100U/lの濃度で用いることができる。
基質として用いられるD−アミノ酸およびグリシンから選ばれる1種以上のアミノ酸、またはD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物によってD−アミノ酸に変換される物質は、全量として1〜500g/lの濃度で用いる。
上記(1)および(2)の方法で用いられる水性媒体としては、水、りん酸塩、炭酸塩、酢酸塩、ほう酸塩、クエン酸塩、トリスなどの緩衝液、メタノ−ル、エタノ−ルなどのアルコ−ル類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンなどのケトン類、アセトアミドなどのアミド類などをあげることができる。また、酵素源として用いた微生物の培養液を水性媒体として用いることができる。
上記(1)および(2)の方法では、必要に応じて界面活性剤あるいは有機溶媒を添加してもよい。界面活性剤としては、ポリオキシエチレン・オクタデシルアミン(例えばナイミ−ンS−215、日本油脂社製)などの非イオン界面活性剤、セチルトリメチルアンモニウム・ブロマイドやアルキルジメチル・ベンジルアンモニウムクロライド(例えばカチオンF2−40E、日本油脂社製)などのカチオン系界面活性剤、ラウロイル・ザルコシネ−トなどのアニオン系界面活性剤、アルキルジメチルアミン(例えば三級アミンFB、日本油脂社製)などの三級アミン類など、ジペプチドの生成反応を妨げないものであればいずれでもよく、1種または数種を混合して使用することもできる。界面活性剤は、通常0.1〜50g/lの濃度で用いられる。有機溶媒としては、キシレン、トルエン、脂肪族アルコ−ル、アセトン、酢酸エチルなどが挙げられ、通常0.1〜50ml/lの濃度で用いられる。
上記(1)および(2)の反応は、水性媒体中、pH5〜10、好ましくはpH6〜9、20〜60℃の条件で1〜96時間行う。
上記(1)の方法で製造されるジペプチドとしては、上記式(I)(式中、RおよびRは同一或いは異なって、D体のアラニン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、チロシン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸若しくはオルニチン、またはグリシンを表し、好ましくはD体のアラニン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン若しくはリジン、またはグリシンを表すが、同時にD−アラニンを表すこと、およびRがD−アラニンである場合にRがD−セリンを表すことはない)で表されるジペプチドをあげることができる。
また、上記(2)の方法で製造されるジペプチドとしては、上記式(II)(式中、RおよびRは同一或いは異なって、L体またはD体のアラニン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、チロシン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸若しくはオルニチン、またはグリシンを表し、好ましくはアラニン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン若しくはリジン、またはグリシン表すが、同時にL体のアミノ酸またはグリシンを表すことはない)で表されるジペプチド、より好ましくは、上記式(III)(式中、RおよびRは同一または異なって、D−アラニン、D−グルタミン、D−グルタミン酸、D−バリン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−プロリン、D−フェニルアラニン、D−トリプトファン、D−メチオニン、D−セリン、D−スレオニン、D−システイン、D−アスパラギン、D−チロシン、D−リジン、D−アルギニン、D−ヒスチジン、D−アスパラギン酸、D−オルニチンまたはグリシンを表し、さらに好ましくはD−アラニン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−プロリン、D−セリン、D−スレオニン、D−システイン若しくはD−リジンまたはグリシン表すが、同時にグリシンを表すことはない)で表されるジペプチドをあげることができる。
水性媒体中に生成したジペプチドの採取は、活性炭やイオン交換樹脂などを用いる通常の単離および精製方法によって行うことができる。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例においてジペプチドおよびアミノ酸の分析、定量は以下に示す高速液体クロマトグラフィ−(HPLC)を用いる方法により行った。
ジペプチドおよびアミノ酸は、(2,3−ジニトロ−5−フルオロフェニル)−L−アラニンアミドナトリウム(Na−FDAA)を用いて誘導体化した後にHPLCで分析した。FDAAを用いた誘導体化は、純水で希釈した試料100μlに、50μlの0.5%のNa−FDAAアセトン溶液と40μlの0.5mol/lの炭酸ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後、40℃で60分間静置することにより行った。
次に、40μlの1mol/lの塩酸と770μlのメタノールを加えて攪拌したものを、FDAA化試料とした。
該FDAA化試料を、WH−C18Aカラム(日立サイエンスシステムズ、4×150mm)を用いて分析、定量した。HPLC分析の条件には、下記の条件を用いた。
移動相には、50mmol/lのリン酸カリウム緩衝液(pH2.7、リン酸でpH調整)とアセトニトリルおよびメタノ−ルの混合比が18:1:1の移動相A、50mmol/lのリン酸カリウム緩衝液(pH2.7、リン酸でpH調整)とアセトニトリルおよびメタノ−ルの混合比が12:7:1の移動相B、アセトニトリルとテトラヒドロフランおよびメタノールの混合比が3:1:1の移動相Cを用いた。移動相の流速は0.5ml/min、移動相Aと移動相Bおよび移動相Cの混合比は、0〜24分は100:0:0、24〜50分は55:45:0、50〜60分は0:100:0、60〜62分は0:0:100、62〜80分は100:0:0に変化させた。カラム温度は40℃、340nmの紫外吸収を測定した。
【実施例1】
【0007】
エシェリヒア・コリJM109株由来のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子ddlBを発現する形質転換体の造成
エシェリヒア・コリJM109株をLB培地[トリプトンペプトン(ディフコ社製)10g/l、酵母エキス(ディフコ社製)10g/l、塩化ナトリウム5g/l]を用いて30℃で24時間培養し、培養物を遠心分離して菌体を得た。
該菌体から、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーに記載の方法により、該微生物の染色体DNAを単離精製した。
エシェリヒア・コリK−12株のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子ddlBの塩基配列(GenBank Accession no.NC_000913)に基づき、パーセプティブ・バイオシステムズ社製8905型DNA合成機を用いて、配列番号15および16で表される塩基配列を有するDNAを合成した。該DNAをプライマーセットとして用い、エシェリヒア・コリJM109株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは染色体DNA0.1μg、プライマー各0.5μmol/l、ExTaq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)2.5units、ExTaq DNAポリメラーゼ用×10緩衝液5μl、deoxyNTP各200μmol/lを含む反応液50μlを用い、95℃で3分間保温した後、95℃で30秒間、45℃で30秒間、72℃で1分間の工程を25回繰り返し、最後に72℃で5分間保温することにより行った。
該反応液と等量のTE[10mmol/l Tris−HCl、1mmol/l EDTA(pH8.0)]飽和フェノール/クロロホルム(1vol/1vol)を添加し、混合した。
該混合液を遠心分離後、得られた上層に2倍容量の冷エタノールを加えて混合し、−80℃に30分間放置した。該溶液を遠心分離して得られたDNAをTEに溶解した。
該DNAを制限酵素NdeIおよびHindIIIで消化した後、アガロースゲル電気泳動により約0.9kbのDNA断片を分離し、ゲルから回収してTEに溶解した。取得した約0.9kbのDNA断片、および上記と同様の方法で取得したNdeI−HindIII消化pET21a(+)ベクター(ノバジェン社製)を、ライゲーションキット(タカラバイオ社製)を用いて、16℃で1時間反応させることにより連結した。
該反応液を用いてエシェリヒア・コリJM109株を前述の公知の方法に従って形質転換し、該形質転換体をアンピシリン100μg/mlを含むLB寒天培地(LB培地にアガーを15g/l含有する)に塗布後、30℃で一晩培養した。
生育してきた形質転換体のコロニーからモレキュラー・バイオロジー第3版に記載の方法に従ってプラスミドを抽出し、制限酵素を用いてその構造を解析し、配列番号6で表される塩基配列を有する、ddlB遺伝子を発現するプラスミドpEDdlBを取得したことを確認した。pEDdlBを保有するエシェリヒア・コリJM109株を、エシェリヒア・コリJM109/pEDdlBと命名した。
【実施例2】
【0008】
エシェリヒア・コリJM109株由来のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子ddlBを発現する形質転換体の造成(2)
配列番号17および18で表される塩基配列を有するDNAを合成した。該DNAをプライマーセットとして用い、実施例1で調製したエシェリヒア・コリJM109株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは染色体DNA 0.1μg、プライマー各0.5μmol/l、KOD plus DNAポリメラーゼ(東洋紡績社製)2.5units、KOD plus DNAポリメラーゼ用×10緩衝液5μl、deoxyNTP各200μmol/lを含む反応液50μlを用い、94℃で2分間保温した後、94℃で30秒間、60℃で30秒間、68℃で90秒間の工程を25回繰り返し、最後に68℃で4分間保温することにより行った。
該反応液と等量のTEを添加し、混合した後、遠心分離し、得られた上層に2倍容量の冷エタノールを加えて混合し、−80℃に30分間放置した。該溶液を遠心分離して得られたDNAをTEに溶解した。
ノバジェン社製のXa/LIC Cloning Kitsのプロトコールに従い、該溶解液中のPCR増幅DNA断片をpET−30 Xa/LICベクター(ノバジェン社製)に挿入連結した。
該反応液を用いてエシェリヒア・コリBL21(DE3)株を前述の公知の方法に従って形質転換し、該形質転換体をカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地に塗布後、30℃で一晩培養した。
生育してきた形質転換体のコロニーからモレキュラー・バイオロジー第3版に記載の方法に従ってプラスミドを抽出し、制限酵素を用いてその構造を解析し、ddlB遺伝子を発現するプラスミドpEc−ddlBが取得されていることを確認した。pEc−ddlBを保有するエシェリヒア・コリBL21(DE3)をエシェリヒア・コリBL21(DE3)/pEc−ddlBと命名した。
【実施例3】
【0009】
エシェリヒア・コリJM109株由来のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子ddlAを発現する形質転換体の造成
実施例1と同様にエシェリヒア・コリK−12株のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子ddlAの塩基配列(GenBank Accession no.NC_000913)に基づき、配列番号19および20で表される塩基配列を有するDNAを合成した。該DNAをプライマーセットとして用い、実施例2で調製したエシェリヒア・コリJM109株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは染色体DNA 0.1μg、プライマー各0.5μmol/l、KOD plus DNAポリメラーゼ(東洋紡績社製)2.5units、KOD plus DNAポリメラーゼ用×10緩衝液5μl、deoxyNTP各200μmol/lを含む反応液50μlを用い、94℃で2分間保温した後、94℃で30秒間、45℃で30秒間、68℃で90秒間の工程を25回繰り返し、最後に68℃で4分間保温することにより行った。
実施例2と同様の方法により、PCR増幅DNA断片をpET−30 Xa/LICベクターと連結して組換え体DNAを構築し、該組換え体DNAを用いてエシェリヒア・コリBL21(DE3)株を形質転換することにより、配列番号7で表される塩基配列を有する、ddlA遺伝子を発現するプラスミドpEc−ddlAを取得した。pEc−ddlAを保有するエシェリヒア・コリBL21(DE3)株をエシェリヒア・コリBL21(DE3)/pEc−ddlAと命名した。
【実施例4】
【0010】
オセアノバシルス・イヘイエンシスHTE831株由来のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子を発現する形質転換体の造成
オセアノバシルス・イヘイエンシス(Oseanobacillus iheyensis)HTE831株(独立行政法人 理化学研究所より購入)をModified Horikoshi−1 medium[グルコース 10g/l、ポリペプトン(日本新薬社製)5g/l、酵母エキス(ディフコ社製)5g/l、塩化ナトリウム 10g/l、リン酸水素二カリウム 1g/l、硫酸マグネシウム・7水和物 0.2g/l、pH9.0]を用いて30℃で24時間培養した後、公知の方法に従い染色体DNAを調製した。
オセアノバシルス・イヘイエンシスHTE831株のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子ddlの塩基配列(DDBJのデータベース、http://gib.genes.nig.ac.jp/single/index.php?spid=Oihe_HTE831に記載)に基づき、配列番号21および22で表される塩基配列を有するDNAを合成した。該DNAをプライマーセットとして用い、上記で調製したオセアノバシルス・イヘイエンシスHTE831株の染色体DNAを鋳型にしてPCRを行った。PCRは染色体DNA 0.1μg、プライマー各0.5μmol/l、KOD plus DNAポリメラーゼ 2.5units、KOD plus DNAポリメラーゼ用×10緩衝液5μl、deoxyNTP各200μmol/lを含む反応液50μlを用い、94℃で2分間保温した後、94℃で30秒間、45℃で30秒間、68℃で90秒間の工程を25回繰り返し、最後に68℃で4分間保温することにより行った。
実施例3と同様の方法でPCR増幅DNA断片をpET−30 Xa/LICベクターに連結して組換え体DNAを構築し、該組換え体DNAを用いてエシェリヒア・コリBL21(DE3)株を形質転換して、配列番号7で表される塩基配列を有する、ddl遺伝子を発現するプラスミドpOi−ddlAを取得した。pOi−ddlAを保有するエシェリヒア・コリBL21(DE3)株をエシェリヒア・コリBL21(DE3)/pOi−ddlAと命名した。
【実施例5】
【0011】
シネコシスティス・エスピー(Synechocystis sp.)PPC6803株由来のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子を発現する形質転換体の造成
実施例2と同様にシネコシスティス・エスピーPPC6806株のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子ddlの塩基配列[日本DNAデータバンク(DDBJ)のデータベース(http://gib.genes.nig.ac.jp/single/index.php?spid=Syne_PCC6803)に記載]に基づき、配列番号23および24で表される塩基配列を有するDNAを合成した。該DNAをプライマーセットとして用い、シネコシスティス・エスピーPPC6806株の染色体DNA(かずさDNA研究所より分譲)を鋳型にしてPCRを行った。PCRは染色体DNA 0.1μg、プライマー各0.5μmol/l、KOD plus DNAポリメラーゼ 2.5units、KOD plus DNAポリメラーゼ用×10緩衝液5μl、deoxyNTP各200μmol/lを含む反応液50μlを用い、94℃で2分間保温した後、94℃で30秒間、47℃で30秒間、68℃で90秒間の工程を25回繰り返し、最後に68℃で4分間保温することにより行った。
実施例2と同様の方法でPCR増幅DNA断片をpET−30 Xa/LICベクターに連結して組換え体DNAを構築し、該組換え体DNAを用いてエシェリヒア・コリBL21(DE3)株を形質転換して、配列番号9で表される塩基配列を有する、ddlA遺伝子を発現するプラスミドpSs−ddlAを取得した。pSs−ddlAを保有するエシェリヒア・コリBL21(DE3)をエシェリヒア・コリBL21(DE3)/pSs−ddlAと命名した。
【実施例6】
【0012】
シュウドモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO12996株由来の低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ遺伝子を発現する形質転換体の造成
シュウドモナス・プチダIFO12996株を普通ブイヨン培地(極東製薬工業)を用いて30℃で24時間培養し、培養物を遠心分離して菌体を得た。
該菌体から、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーに記載の方法により、該微生物の染色体DNAを単離精製した。
シュウドモナス・プチダの低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ遺伝子の塩基配列(WO03/074690)に基づき、パーセプティブ・バイオシステムズ社製8905型DNA合成機を用いて、配列番号25および26で表される塩基配列を有するDNAを合成した。該DNAをプライマーセットとして用い、シュードモナス・プチダIFO12996株の染色体DNAを鋳型にしてPCRを行った。PCRは染色体DNA 0.1μg、プライマー各0.5μmol/l、ExTaq DNAポリメラーゼ2.5units、ExTaq DNAポリメラーゼ用×10緩衝液5μl、deoxyNTP各200μmol/lを含む反応液50μlを用い、95℃で3分間保温した後、95℃で90秒間、60℃で60秒間、72℃で90秒間の工程を25回繰り返し、最後に72℃で4分間インキュベートすることにより行った。
該反応液と等量のTE飽和フェノール/クロロホルムを添加し、混合した後遠心分離し、得られた上層に2倍容量の冷エタノールを加えて混合し、−80℃に30分間放置した。該溶液を遠心分離して得られたDNAを20μlのTEに溶解した。
得られたDNA断片を制限酵素BamHIおよびEcoRIで消化した後、アガロースゲル電気泳動により約1.2kbのDNA断片を分離、回収してTEに溶解した。同様にBamHIおよびEcoRIで消化したpSTV28ベクター(タカラバイオ社製)を調製し、制限酵素で消化した該約1.2kbのDNA断片とpSTV28ベクターとをライゲーションキットを用いて、16℃で1時間、連結した。
該反応液を用いてエシェリヒア・コリJM109株を前述の公知の方法に従って形質転換し、該形質転換体を25μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地に塗布後、30℃で一晩培養した。
生育してきた形質転換体のコロニーからモレキュラー・バイオロジー第3版に記載の方法に従ってプラスミドを抽出し、制限酵素を用いてその構造を解析し、配列番号13で表される塩基配列で表されるDNAを有するプラスミドpSTBARが取得されていることを確認した。
次に、シュウドモナス・プチダの低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ遺伝子の塩基配列(WO03/074690)に基づき、配列番号27および28で表される塩基配列を有するDNAを合成した。該DNAをプライマーセットとして用い、上記で取得したpSTBARを鋳型にしてPCRを行った。PCRはプラスミドDNA 0.1μg、プライマー各0.5μmol/l、ExTaqDNAポリメラーゼ2.5units、ExTaq DNAポリメラーゼ用×10緩衝液5μl、deoxyNTP各200μmol/lを含む反応液50μlを用い、95℃で3分間保温した後、95℃で30秒間、58℃で30秒間、72℃で90秒間の工程を25回繰り返し、最後に72℃で4分間保温することにより行った。
該反応液と等量のTE飽和フェノール/クロロホルムを添加し、混合した後遠心分離し、得られた上層に2倍容量の冷エタノールを加えて混合し、−80℃に30分間放置した。該溶液を遠心分離して得られたDNAを20μlのTEに溶解した。
得られたDNA断片を制限酵素AflIIIおよびEcoRIで部分消化した後、アガロースゲル電気泳動により約1.2kbのDNA断片を回収してTEに溶解した。該溶液5μlと、AflIIIおよびEcoRIで消化したpJB861ベクター[Plasmid,38,35−51(1997)]とを、ライゲーションキットを用いて、16℃で1時間、連結した。
該反応液を用いてエシェリヒア・コリJM109株を前述の公知の方法に従って形質転換し、該形質転換体を50μg/mlのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布後、30℃で一晩培養した。
生育してきた形質転換体のコロニーからモレキュラー・バイオロジー第3版に記載の方法に従ってプラスミドを抽出し、制限酵素を用いてその構造を解析し、配列番号13で表される塩基配列を有する、低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ遺伝子を発現するプラスミドpJBar1が取得できたことを確認した。pJBar1を保有するエシェリヒア・コリJM109株をエシェリヒア・コリJM109/pJBar1と命名した。
【実施例7】
【0013】
D−アラニン−D−アラニンリガーゼの調製
実施例1で調製したプラスミドpEDdlB用いてエシェリヒア・コリBL21(DE3)株を前述の公知の方法に従って形質転換し、該形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布後、30℃で一晩培養した。
生育してきた形質転換体のコロニーの中から、pEDdlBを保有するエシェリヒア・コリBL21(DE3)株を取得し、エシェリヒア・コリBL21(DE3)/pEDdlBと命名した。
エシェリヒア・コリBL21(DE3)/pEDdlB株を100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地を用いて37℃で培養し、OD(660nm)が0.1になった時点でIPTGを0.1mmol/lになるように添加して、さらに2時間培養した。培養物を遠心分離して得られた菌体を、0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH8.0)に懸濁後、超音波破砕し、遠心分離して得た上澄みをD−アラニン−D−アラニンリガーゼを含む粗酵素液とした。
【実施例8】
【0014】
D−アラニンを基質としたD−アラニル−D−アラニンの製造
実施例7で調製したD−アラニン−D−アラニンリガーゼを含む粗酵素液を蛋白質量として0.4mg/ml、12.5mmol/lのD−アラニン、10mmol/lのATP、10mmol/lの塩化マグネシウム、10mmol/lの塩化カリウムを含む0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH7.5)からなる反応液0.4mlを調製して、37℃で5時間反応を行った。反応液をHPLCにて分析した結果、反応液中に4.7mmol/lのD−アラニル−D−アラニンを検出した。
【実施例9】
【0015】
D−セリンを基質としたD−セリル−D−セリンの製造
実施例7で調製したD−アラニン−D−アラニンリガーゼを含む粗酵素液を蛋白質量として0.4mg/ml、12.5mmol/lのD−セリン、10mmol/lのATP、10mmol/lの塩化マグネシウム、10mmol/lの塩化カリウムを含む0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH7.5)からなる反応液0.4mlを調製して、37℃で5時間反応を行った。反応液をHPLCにて分析した結果、反応液中に4mmol/lのD−セリル−D−セリンを検出した。
【実施例10】
【0016】
D−アラニン−D−アラニンリガーゼを用いたグリシル−グリシンの製造
実施例7で調製したD−アラニン−D−アラニンリガーゼを含む粗酵素液を蛋白質量として0.5mg/ml、40mmol/lのグリシン、20mmol/lのATP、20mmol/lの塩化マグネシウム、10mmol/l塩化カリウムを含む0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH7.5)からなる反応液0.1mlを調製して、37℃で24時間反応を行った。反応液をHPLCにて分析した結果、反応液中に4mmol/lのグリシル−グリシンを検出した。
【実施例11】
【0017】
D−システインを基質に用いたD−システイニル−D−システインの製造
実施例7で調製したD−アラニン−D−アラニンリガーゼを含む粗酵素液を蛋白質量として0.5mg/ml、40mmol/lのD−システイン、20mmol/lのATP、20mmol/lの塩化マグネシウム、10mmol/l塩化カリウムを含む0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH7.5)からなる反応液0.1mlを調製して、37℃で24時間反応を行った。反応液をHPLCにて分析した結果、反応液中に3mmol/lのD−システイニル−D−システインを検出した。
【実施例12】
【0018】
D−スレオニンを基質に用いたD−スレオニル−D−スレオニンの製造
実施例7で調製したD−アラニン−D−アラニンリガーゼを含む粗酵素液を蛋白質量として0.5mg/ml、40mmol/lのD−スレオニン、20mmol/lのATP、20mmol/lの塩化マグネシウム、10mmol/l塩化カリウムを含む0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH7.5)からなる反応液0.1mlを調製して、37℃で24時間反応を行った。反応液をHPLCにて分析した結果、反応液中に1mmol/lのD−スレオニル−Dニスレオニンを検出した。
【実施例13】
【0019】
D−アラニン−D−アラニンリガーゼおよび低基質特異性アミノ酸ラセマーゼの調製
実施例6で調製したプラスミドpJBar1を用いて実施例6で作成したエシェリヒア・コリBL21(DE3)/pEDdlB株を前述の公知の方法に従って形質転換し、該形質転換体を100μg/mlのアンピシリンおよび50μg/mlのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布後、30℃で一晩培養した。
生育してきた形質転換体のコロニーからpEDdlBおよびpJBar1の2つのプラスミドDNAを保有する形質転換体を選択し、該形質転換体をエシェリヒア・コリBL21(DE3)/pJBar1,pEDdlBと命名した。
エシェリヒア・コリBL21(DE3)/pJBar1,pEDdlB株を100μg/mlのアンピシリンと50μg/mlのカナマイシンを含むLB培地にて37℃で培養し、OD(660nm)が0.1になった時点でIPTGを0.1mmol/l、−トリック酸(−tolic acid)を3mmol/lになるように添加して、さらに2時間培養を続けた。培養物を遠心分離して得られた菌体を0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH8.0)に懸濁後、超音波破砕し、遠心分離して得られた上澄みをD−アラニン−D−アラニンリガーゼとアミノ酸ラセマーゼを含む粗酵素液とした。
【実施例14】
【0020】
L−アラニンを基質に用いたD−アラニル−D−アラニンの製造
実施例13で調製したD−アラニン−D−アラニンリガーゼとアミノ酸ラセマーゼを含む粗酵素液を蛋白質量として0.4mg/ml、20mmol/lのL−アラニン、10mmol/lのATP、10mmol/lの塩化マグネシウム、10mmol/l塩化カリウムを含む0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH7.5)からなる反応液0.4mlを調製して、37℃で3時間反応を行った。反応液をHPLCにて分析した結果、反応液中に6.8mmol/lのD−アラニル−D−アラニンを検出した。
【実施例15】
【0021】
L−セリンを基質に用いたD−セリル−D−セリンの製造
実施例13で調製したD−アラニン−D−アラニンリガーゼとアミノ酸ラセマーゼを含む粗酵素液を蛋白質量として0.4mg/ml、20mmol/lのL−セリン、10mmol/lのATP、10mmol/lの塩化マグネシウム、10mmol/l塩化カリウムを含む0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH7.5)からなる反応液0.4mlを調製して、37℃で3時間反応を行った。反応液をHPLCにて分析した結果、反応液中に3mmol/lのD−セリル−D−セリンを検出した。
【実施例16】
【0022】
L−アラニンおよびL−セリンを基質に用いたD−アラニル−D−セリンの製造
実施例13で調製したD−アラニン−D−アラニンリガーゼとアミノ酸ラセマーゼを含む粗酵素液を蛋白質量として0.4mg/ml、10mmol/lのL−アラニン、10mmol/lのL−セリン、10mmol/lのATP、10mmol/lの塩化マグネシウム、10mmol/l塩化カリウムを含む0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH7.5)からなる反応液0.4mlを調製して、37℃で3時間反応を行った。反応液をHPLCにて分析した結果、反応液中に4.5mmol/lのD−アラニル−D−セリンと2mmol/lのD−アラニル−D−アラニンを検出した。
【実施例17】
【0023】
サーモトーガ・マリティマATCC43589株由来のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子を発現する形質転換体の造成
実施例2と同様にサーモトーガ・マリティマATCC43589株のD−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子の塩基配列[日本DNAデータバンク(DDBJ)のデータベース(http://gib.genes.nig.ac.jp/common/info.php?spid=Tmar_MSB8&ftid=267)に記載]に基づき、配列番号29および30で表される塩基配列を有するDNAを合成した。該DNAをプライマーセットとして用い、サーモトーガ・マリティマATCC43589株の染色体DNAを鋳型にしてPCRを行った。PCRは染色体DNA0.1μg、プライマー各0.5μmol/l、KOD plus DNAポリメラーゼ2.5units、KOD plus DNAポリメラーゼ用×10緩衝液5μl、deoxyNTP各200μmol/lを含む反応液50μlを用い、94℃で2分間保温した後、94℃で30秒間、47℃で30秒間、68℃で90秒間の工程を25回繰り返し、最後に68℃で4分間保温することにより行った。
実施例2と同様の方法でPCR増幅DNA断片をpET−30 Xa/LICベクターに連結して組換え体DNAを構築し、該組換え体DNAを用いてエシェリヒア・コリBL21(DE3)株を形質転換して、配列番号10で表される塩基配列を有する、D−アラニン−D−アラニンリガーゼ遺伝子を発現するプラスミドpTmDdlを取得した。pTmDdlを保有するエシェリヒア・コリBL21(DE3)をエシェリヒア・コリBL21(DE3)/pTmDdlと命名した。
【実施例18】
【0024】
サーモトーガ・マリティマATCC43589株のD−アラニン−D−アラニンリガーゼを用いたD−アミノ酸含有ジペプチドの製造
実施例7と同様の方法で、エシェリヒア・コリBL21(DE3)/pTmDdlからサーモトーガ・マリティマATCC43589株由来のD−アラニン−D−アラニンリガーゼを含む粗酵素液を調製した。この粗酵素液を蛋白質量として0.5mg/ml、40mmol/lのD−アラニン、20mmol/lのATP、20mmol/lの塩化マグネシウム、10mmol/l塩化カリウムを含む0.1mol/lのTris−HCl緩衝液(pH7.5)からなる反応液0.1mlを調製して、37℃で5時間反応を行った。反応液をHPLCにて分析した結果、反応液中に11mmol/lのD−アラニル−D−アラニンを検出した。同様に、D−アラニンの代わりにD−セリンを用いた場合は9mmol/lのD−セリル−D−セリン、D−システインを用いた場合は9mmol/lのD−システイニル−D−システイン、D−スレオニンを用いた場合は4mmol/lのD−スレオニル−D−スレオニン、グリシンを用いた場合は8mmol/lのグリシル−グリシンを検出した。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により、種々のD−アミノ酸を含むジペプチドを効率よく製造することができる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号15−人工配列の説明:合成DNA
配列番号16−人工配列の説明:合成DNA
配列番号17−人工配列の説明:合成DNA
配列番号18−人工配列の説明:合成DNA
配列番号19−人工配列の説明:合成DNA
配列番号20−人工配列の説明:合成DNA
配列番号21−人工配列の説明:合成DNA
配列番号22−人工配列の説明:合成DNA
配列番号23−人工配列の説明:合成DNA
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配列番号30−人工配列の説明:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用い、該酵素源、ATP、並びにD−アミノ酸およびグリシンから選ばれる1種以上のアミノ酸(ただし、1種以上のアミノ酸が、D−アラニンのみである場合、並びにD−アラニンおよびD−セリンからなる場合を除く)を水性媒体中に存在せしめ、該水性媒体中にジペプチドを生成、蓄積させ、該水性媒体中から該ジペプチドを採取することを特徴とするジペプチドの製造法。
【請求項2】
D−アミノ酸が、D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用いて製造されることを特徴とする請求項1記載の製造法。
【請求項3】
D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物およびD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を酵素源に用い、該酵素源、ATP、およびD−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物によってD−アミノ酸に変換される物質を水性媒体中に存在せしめ、該水性媒体中にD−アミノ酸を含むジペプチドを生成、蓄積させ、該水性媒体中から該ジペプチドを採取することを特徴とするD−アミノ酸を含むジペプチドの製造法。
【請求項4】
D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質が、以下の[1]〜[3]から選ばれる蛋白質である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造法。
[1]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質
[2]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質
[3]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質
【請求項5】
D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物が、D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAを宿主細胞に導入して得られる微生物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項6】
D−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAが、以下の[1]〜[4]から選ばれるDNAである請求項5記載の製造法。
[1]配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA
[2]配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列を有するDNA
[3]配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
[4]配列番号6〜10のいずれかで表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつD−アラニン−D−アラニンリガ−ゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
【請求項7】
D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物が、ヒダントイナーゼ、D−アミノアシラーゼ、D−アミノ酸アミダーゼ、D−アミノ酸トランスアミナーゼまたはアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物である請求項2または3記載の製造法。
【請求項8】
アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質が、低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質である請求項7記載の製造法。
【請求項9】
低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質が、以下の[1]〜[3]から選ばれる蛋白質である請求項8記載の製造法。
[1]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質
[2]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質
[3]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質
【請求項10】
D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物が、ヒダンイトイナーゼ、D−アミノアシラーゼ、D−アミノ酸アミダーゼ、D−アミノ酸アミノトランスフェラーゼまたはアミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAを宿主細胞に導入して得られる微生物である請求項2および3記載の製造法。
【請求項11】
アミノ酸ラセマ−ゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAが、低基質特異性アミノ酸ラセマーゼをコードするDNAである請求項10記載の製造法。
【請求項12】
低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAが、以下の[1]〜[4]から選ばれるDNAである請求項11記載の製造法。
[1]配列番号11または12で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNA
[2]配列番号13または14で表される塩基配列を有するDNA
[3]配列番号13または14で表される塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
[4]配列番号13または14で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
【請求項13】
D−アミノ酸およびグリシンから選ばれる1種以上のアミノ酸が、D−アラニン、D−グルタミン、D−グルタミン酸、グリシン、D−バリン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−プロリン、D−フェニルアラニン、D−トリプトファン、D−メチオニン、D−セリン、D−スレオニン、D−システイン、D−アスパラギン、D−チロシン、D−リジン、D−アルギニン、D−ヒスチジン、D−アスパラギン酸およびD−オルニチンからなる群より選ばれるD−アミノ酸(ただし、1種以上のアミノ酸が、D−アラニンのみである場合、並びにD−アラニンおよびD−セリンからなる場合を除く)である請求項1、2および4〜6のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項14】
D−アミノ酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物によってD−アミノ酸に変換される物質が、1種以上の5−置換−DL−ヒダントイン、1種以上のN−アシル−DL−アミノ酸、1種以上のDL−アミノ酸アミド、1種以上のα−ケト酸および1種以上のD−アミノ酸、または1種以上のL−α−アミノ酸を含む1種以上のアミノ酸である請求項3〜12のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項15】
1種以上のL−α−アミノ酸を含む1種以上のアミノ酸が、L体またはD体のアラニン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、チロシン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびオルニチン、並びにグリシンからなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸を含む請求項14記載の製造法。
【請求項16】
ジペプチドが、式(I)
−R(I)
(式中、RおよびRは同一または異なって、D体のアラニン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、チロシン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸若しくはオルニチン、或いはグリシンを表すが、同時にD−アラニンを表すこと、およびRがD−アラニンである場合にRがD−セリンを表すことはない)で表されるジペプチドである請求項1、2および4〜12のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項17】
D−アミノ酸を含むジペプチドが、式(II)
−R(II)
(式中、RおよびRは同一または異なって、L体またはD体のアラニン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、チロシン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸若しくはオルニチン、或いはグリシンを表すが、同時にL体のアミノ酸またはグリシンを表すことはない)で表されるジペプチドである請求項3〜12のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項18】
D−アミノ酸を含むジペプチドが、式(III)
−R(III)
(式中、RおよびRは同一または異なって、D−アラニン、D−グルタミン、D−グルタミン酸、D−バリン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−プロリン、D−フェニルアラニン、D−トリプトファン、D−メチオニン、D−セリン、D−スレオニン、D−システイン、D−アスパラギン、D−チロシン、D−リジン、D−アルギニン、D−ヒスチジン、D−アスパラギン酸、D−オルニチンまたはグリシンを表すが、同時にグリシンを表すことはない)で表されるジペプチドである請求項3〜12のいずれか1項に記載の製造法。

【国際公開番号】WO2005/093056
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【発行日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−511415(P2006−511415)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003718
【国際出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】