説明

ジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒の調製方法

【課題】ゼオライト格子内の4配位アルミニウムの脱離を起こし難いカルシウム化合物含有ゼオライト触媒を、簡易で安価に調整可能なジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒の調製方法を提供する。
【解決手段】本発明のジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒の調製方法は、混合・混練工程と、乾燥・焼成工程と、第一〜第三成分を含む複合体の水蒸気処理工程と、を有し、水蒸気処理工程において、水蒸気分圧と水蒸気処理時間を掛け合わせた値で示される水蒸気処理の程度(a.u.)が1.92〜16.8となるように水蒸気処理を施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルエーテルおよび/またはメタノールからの脱水縮合反応により低級炭化水素を合成する工程などで用いられる、ゼオライト格子内の4配位アルミニウムの脱離を起こしにくく、反応中の炭素質析出速度が遅いジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト触媒は、ジメチルエーテル(以下、「DME」と略すこともある。)またはメタノールのいずれか一方、あるいは、ジメチルエーテルおよびメタノールから低級炭化水素を合成する反応(DTO反応/MTO反応)、メタノールを原料とするガソリン合成反応(Methanol to Gasoline、MTG反応)、流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking、FCC)などの多くのプロセスに用いられている。
これらのプロセスにおいて、ゼオライト触媒が失活する主な原因としては、反応によって生成した水(水蒸気)を含む雰囲気に曝されることにより、ゼオライト格子内のアルミニウムが脱離することや、反応によってゼオライト触媒上に炭素質が析出することが挙げられる。
【0003】
触媒上への炭素質の析出による触媒活性の低下は、酸素を含む気流を触媒に供給し、触媒上の炭素質を燃焼させることによって解決することができる。一方、ゼオライト格子内のアルミニウムが脱離することによる触媒活性の低下に対しては、アルミニウムが脱離したゼオライトに何らかの処理を施して、再びアルミニウムを格子内に挿入する方法が提案されている。
アルミニウムが脱離したゼオライトの再生法としては、ゼオライトを塩化アルミニウムと酸により再生処理する方法(例えば、特許文献1参照)、ゼオライトを水蒸気とアンモニアにより再生処理する方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【0004】
また、高シリカゼオライトにアルミナを複合させ、水蒸気処理することによって、高シリカゼオライトにアルミニウムを挿入することができることが開示されている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、非特許文献1、非特許文献2参照)。
しかしながら、アルミニウムが脱離したゼオライトの再生法では、再生に特殊な試薬やガスを必要とするため、実際のプロセスには適用し難いという問題があった。
また、上述の高シリカゼオライトにアルミナを複合させ、水蒸気処理する方法では、Si/Alモル比>1200などの、アルミニウムの含有量が少ないゼオライトについて検討されており、実際のプロセスに多く用いられているSi/Alモル比が数十から300程度のゼオライトについては検討されていなかった。
【0005】
一方、適度な水蒸気処理によってゼオライト触媒上への炭素質析出速度が低下することが知られている。たとえば、MFI構造ゼオライト触媒を水蒸気に曝すことによって、ゼオライトの酸点(活性点)を制御し、メタノールから炭化水素を合成する反応における触媒寿命を増大させる方法が開示されている(例えば、特許文献7、特許文献8、特許文献9参照)。また、アルミナ含有ゼオライト触媒を水蒸気に曝すことにより、触媒のコーク析出速度が遅くなり、寿命が長くなることが見出されている(例えば、特許文献10参照)。しかしながら、アルミナを添加することによって、ゼオライト触媒の水蒸気耐性がどのように変化するかについては開示されていなかった。また、ゼオライト、アルミナおよびアルカリ土類金属を含む触媒を水蒸気により処理したという報告はない。
【0006】
DTO反応/MTO反応において、プロトン型MFI構造ゼオライトにアルカリ土類金属化合物を含浸担持して調製した触媒を用いることにより、低級オレフィンの選択率が高くなり、パラフィンや芳香族の生成が抑えられて、炭素質の析出が抑制される結果、触媒の寿命が長くなることが開示されている(例えば、特許文献11参照)。しかしながら、特許文献11では、このアルカリ土類金属変性ゼオライトを用いてDTO反応/MTO反応を行った後、この触媒の再生を繰り返すことによって、触媒の寿命が変化するか否かについて検討されていない。また、触媒の水蒸気耐性についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−136138号公報
【特許文献2】特開昭60−257838号公報
【特許文献3】特公平3−63430号公報
【特許文献4】米国特許第4559314号明細書
【特許文献5】米国特許第4784747号明細書
【特許文献6】特許第2908959号公報
【特許文献7】米国特許第4429176号明細書
【特許文献8】米国特許第4663492号明細書
【特許文献9】米国特許第4579993号明細書
【特許文献10】米国特許第4456780号明細書
【特許文献11】特開昭60−126233号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Catal.,93,471(1985).
【非特許文献2】J.Chem.Soc.Faraday Trans.1,81,2215(1985).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のアルミニウムが脱離したゼオライトの再生法は、実際のプロセスに適用することが難しい。また、格子内のアルミニウムが脱離した触媒に再びアルミニウム原子を挿入するために、余計な工程を必要とするという問題があった。
そこで、ゼオライト触媒の触媒寿命を向上させるために、ゼオライト格子内のアルミニウムが脱離し難いゼオライト触媒を造る必要がある。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、ゼオライト格子内の4配位アルミニウムの脱離を起こし難いカルシウム化合物含有ゼオライト触媒を、簡易で安価に調整可能なジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒の調製方法は、少なくとも第一成分、第二成分および第三成分からなる構成物に極性溶媒を加えて混合する混合・混練工程と、該混合・混練工程にて得られた混合体を乾燥、焼成することにより複合体を調製する乾燥・焼成工程と、前記乾燥・焼成工程にて得られた複合体を水蒸気もしくは水蒸気を生成する反応雰囲気に接触させる水蒸気処理工程と、を有し、前記水蒸気処理工程において、水蒸気分圧と水蒸気処理時間を掛け合わせた値で示される水蒸気処理の程度(a.u.)が1.92〜16.8となるように水蒸気処理を施し、前記第一成分はプロトン型ゼオライトおよび/またはアンモニウム型ゼオライト、前記第二成分はカルシウム化合物、前記第三成分はアルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上であり、前記第一成分のSi/Alモル比を10以上、300以下、前記第一成分量に対する前記第二成分の含有率はカルシウムに換算して0.3質量%以上、10質量%未満、前記第一成分量に対する前記第三成分の含有率を15質量%以上、200質量%以下とすることを特徴とする。
【0012】
本発明のジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒の調製方法は、前記第一成分は、MFI構造ゼオライトであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒の調製方法は、少なくとも第一成分、第二成分および第三成分からなる構成物に極性溶媒を加えて混合する混合・混練工程と、該混合・混練工程にて得られた混合体を乾燥、焼成することにより複合体を調製する乾燥・焼成工程とを有し、前記水蒸気処理工程において、水蒸気分圧と水蒸気処理時間を掛け合わせた値で示される水蒸気処理の程度(a.u.)が1.92〜16.8となるように水蒸気処理を施し、前記第一成分はプロトン型ゼオライトおよび/またはアンモニウム型ゼオライト、前記第二成分はカルシウム化合物、前記第三成分はアルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上であり、前記第一成分のSi/Alモル比を10以上、300以下、前記第一成分量に対する前記第二成分の含有率はカルシウムに換算して0.3質量%以上、10質量%未満、前記第一成分量に対する前記第三成分の含有率を15質量%以上、200質量%以下とする。
この調製方法では、一般的に調製されている安価なプロトン型MFI構造ゼオライトやアンモニウム型MFI構造ゼオライトに第二成分と第三成分を混合・混練・乾燥・焼成することによって、ゼオライト格子内の4配位アルミニウムの脱離を起こしにくく、水蒸気耐性に優れ、触媒寿命が長いカルシウム化合物含有ゼオライト触媒を簡易・安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実験例において、触媒の水蒸気処理の程度に対する相対触媒寿命を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒およびその調製方法、並びに、このジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒を用いた低級炭化水素の製造方法の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
[アルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒]
本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒は、少なくとも第一成分、第二成分および第三成分から構成される複合体からなり、前記第一成分はプロトン型ゼオライトおよび/またはアンモニウム型ゼオライト、前記第二成分はアルカリ土類金属化合物、前記第三成分はアルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上であり、前記第一成分のSi/Alモル比は10以上、300以下、前記第一成分量に対する前記第二成分の含有率はアルカリ土類金属に換算して0.3質量%以上、10質量%未満であり、前記第一成分量に対する前記第三成分の含有率は15質量%以上、200質量%以下である。
なお、MFI構造とは、国際ゼオライト学会において定義された骨格構造名称である。
極性溶媒としては水が最適であるが、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類やジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、スルホキシド類などの極性有機溶媒を用いることもできる。また、複合体製造時において、極性溶媒の存在に加えて、乾燥、焼成時に除去される酢酸などの有機酸あるいはアンモニア水などを添加してもよい。
【0017】
本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒では、第一成分のプロトン型ゼオライトまたはアンモニウム型ゼオライトにおいて、Si/Alモル比は10以上、300以下である。
Si/Alモル比が10未満では、ゼオライトの有効酸点が増加し、アルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒への炭素質析出が促進されて、触媒寿命が短くなる。一方、Si/Alモル比が300を超えると、ゼオライトの有効酸点が減少し、触媒活性が低下する。
【0018】
また、第一成分量に対する第二成分の含有率は、アルカリ土類金属に換算して0.3質量%以上、10質量%未満であることが好ましい。
第一成分量に対する第二成分の含有率は、アルカリ土類金属に換算して0.3質量%未満では、触媒としての酸性質の制御および脱アルミニウムの抑制が不十分となる。一方、第一成分量に対する第二成分の含有率は、アルカリ土類金属に換算して10質量%以上では、過剰量のアルカリ土類金属化合物(主に酸化物、炭酸塩) による副反応が進行して好ましくない。
【0019】
さらに、第一成分量に対する第三成分の含有率は、15質量%以上、200質量%以下である。
第一成分量に対する第三成分の含有率が15質量%未満では、得られる触媒の強度が低く使用時に一部粉化するなどの問題が発生する。一方、第一成分量に対する第三成分の含有率が200質量%を超えると、反応に活性を示す第一成分の割合が小さくなり、触媒としての性能が低下する。
【0020】
本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒では、複合体を構成する第一成分が、プロトン型ゼオライトまたはアンモニウム型ゼオライトであり、これらのゼオライトはMFI構造ゼオライトであることが好ましい。一般的に製造・販売されているプロトン型ゼオライトまたはアンモニウム型ゼオライトを用いることにより、本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒は、水蒸気耐性の高い触媒を簡易・安価に調製することができる。
【0021】
第二成分のアルカリ土類金属化合物としては、炭酸マグネシウム(MgCO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、酸化マグネシウム(MgO)、酢酸マグネシウム((CHCOO)Mg)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、アルミン酸マグネシウム(MgAl)、オルト珪酸マグネシウム(MgSiO)、炭酸カルシウム(CaCO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、酸化カルシウム(CaO)、酢酸カルシウム((CHCOO)Ca)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、アルミン酸カルシウム(CaAl)、オルト珪酸カルシウム(CaSiO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))、酸化ストロンチウム(SrO)、酢酸ストロンチウム((CHCOO)Sr)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)、アルミン酸ストロンチウム(SrAl)、珪酸ストロンチウム、炭酸バリウム(BaCO)、水酸化バリウム(Ba(OH))、酸化バリウム(BaO)、酢酸バリウム((CHCOO)Ba)、硝酸バリウム(Ba(NO)、アルミン酸バリウム(BaAl)、珪酸バリウムなどが用いられる。
【0022】
第三成分は、アルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上である。
アルミニウムの酸化物としては、γ-アルミナ(Al)などが用いられる。
アルミニウムの水酸化物としては、ベーマイト(AlO(OH))、水酸化アルミニウム(Al(OH))、アルミナゾルなどが用いられる。
シリコンの酸化物としては、酸化ケイ素(SiO)が用いられる。
シリコンの水酸化物の形態としては、オルト珪酸(HSiO)、メタ珪酸(HSiO)などが挙げられる。
粘土としては、カオリン、ベントナイトなどが用いられる。
【0023】
また、本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒には、必要に応じて、グラファイト、セルロース類、その他の添加剤などを添加してもよい。
【0024】
このような構成のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒は、温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPaの雰囲気に48時間曝した後のゼオライト質量当たりのゼオライト格子内の4配位アルミニウムの残存量が、第一成分のみからなるプロトン型ゼオライトを同条件下に曝した後のゼオライト質量当たりのゼオライト格子内の4配位アルミニウム残存量に対して5倍以上であり、10倍以上であることがより好ましい。
上記の条件に曝した後のゼオライト質量当たりのゼオライト格子内の4配位アルミニウムの残存量が、第一成分のみからなるプロトン型ゼオライトを同条件下に曝した後のゼオライト質量当たりのゼオライト格子内の4配位アルミニウム残存量に対して5倍以上であれば、反応および再生雰囲気で水蒸気に曝されることによる触媒活性の低下を軽減することができ、触媒を再生使用する回数を増やすことができるために、触媒交換の頻度が減少する。
【0025】
本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒は、少なくとも第一成分、第二成分および第三成分から構成される複合体からなり、前記第一成分はプロトン型ゼオライトおよび/またはアンモニウム型ゼオライト、前記第二成分はアルカリ土類金属化合物、前記第三成分はアルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上であり、前記第一成分のSi/Alモル比は10以上、300以下、前記第一成分量に対する前記第二成分の含有率はアルカリ土類金属に換算して0.3質量%以上、10質量%未満であり、前記第一成分量に対する前記第三成分の含有率は15質量%以上、200質量%以下である。この触媒は、第二成分と第三成分の双方によってゼオライト格子からアルミニウムが脱離するのを抑制するために触媒寿命が長い。したがって、長期的な触媒寿命の向上によって触媒充填量の低減や触媒交換頻度の減少につながり、設備費および運転費を削減できる。
【0026】
[アルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒の調製方法]
本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒の調製方法を説明する。
まず、乳鉢、ライカイ機、ニーダーなどにより、少なくとも第一成分、第二成分および第三成分からなる構成物と極性溶媒を混合、混練し、少なくとも第一成分、第二成分、第三成分および極性溶媒からなる混合体を調製する(混合・混練工程)。
この混合・混練工程において、第一成分としては、Si/Alモル比は10以上、300以下のプロトン型ゼオライトまたはアンモニウム型ゼオライトが用いられる。
第二成分としては、アルカリ土類金属化合物が用いられる。
第三成分としては、アルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上が用いられる。
【0027】
また、この混合・混練工程において、第一成分量に対する第二成分の含有率を、アルカリ土類金属に換算して0.3質量%以上、10質量%未満とする。
第一成分量に対する第三成分の含有率を、15質量%以上、200質量%以下とする。
さらに、少なくとも第一成分、第二成分および第三成分からなる構成物に対する極性溶媒の添加量を、10質量%以上、150質量%以下とする。
極性溶媒としては水が最適であるが、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類やジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、スルホキシド類などの極性有機溶媒を用いることもできる。また、複合体製造時において、極性溶媒の存在に加えて、乾燥、焼成時に除去される酢酸などの有機酸あるいはアンモニア水などや、グラファイト、セルロース類などの添加物を添加してもよい。
【0028】
次いで、混合・混練工程にて得られた混合体を、押出機を用いた押出成型、マルメライザーによる球状体成型などによって成型し、成型体を得る(成型工程)。
【0029】
次いで、成型工程にて得られた成型体を、乾燥機によって乾燥した後、マッフル炉、トンネル炉などの焼成炉によって焼成することにより複合体を調製する(乾燥・焼成工程)。これにより、本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒を得る。
この乾燥・焼成工程において、成型体の乾燥を、80℃以上、150℃以下にて、0.5時間以上、30時間以下行うことが好ましい。
また、この乾燥・焼成工程において、乾燥後の成型体の焼成を、350℃以上、750℃以下にて、1時間以上、50時間以下行うことが好ましい。
【0030】
本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒の調製方法は、少なくとも第一成分、第二成分および第三成分からなる構成物に極性溶媒を加えて混合する混合・混練工程と、該混合・混練工程にて得られた混合体を乾燥、焼成することにより複合体を調製する乾燥・焼成工程とを有し、前記第一成分はプロトン型ゼオライトおよび/またはアンモニウム型ゼオライト、前記第二成分はアルカリ土類金属化合物、前記第三成分はアルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上であり、前記第一成分のSi/Alモル比を10以上、300以下、前記第一成分量に対する前記第二成分の含有率はアルカリ土類金属に換算して0.3質量%以上、10質量%未満、前記第一成分量に対する前記第三成分の含有率を15質量%以上、200質量%以下とする。この調製方法では、一般的に調製されている安価なプロトン型ゼオライトおよび/またはアンモニウム型ゼオライトと、第二成分と第三成分とを混合・混練・乾燥・焼成処理することによって、水蒸気耐性に優れ、触媒寿命が長いアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒を簡易・安価に得ることができる。
【0031】
[低級炭化水素の製造方法]
本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒の実施形態の一例として、ジメチルエーテルおよび/またはメタノールから低級炭化水素を製造する方法について記載する。
前記乾燥・焼成工程にて得られた複合体からなるアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒を、水蒸気または水蒸気を体積割合で0.1以上含有する空気および/あるいは不活性ガス(窒素、炭酸ガスなど)などに接触させるか、もしくは、水蒸気を生成する反応雰囲気に接触させてもよい(水蒸気処理工程)。この水蒸気処理工程においては、条件によって水蒸気が部分的に液体状の水として存在してもかまわない。また、この水蒸気処理工程を、乾燥・焼成工程と同時に進行させることも可能である。
なお、水蒸気を生成する反応とはMTO反応/DTO反応やアルコール脱水反応のように本触媒上で反応物の脱水が起こって水蒸気を生成する反応のことである。
この水蒸気処理工程において、複合体を水蒸気に接触させるか、もしくは、水蒸気を生成する反応雰囲気に接触させる時間は、1時間以上、50時間以下であることが好ましい。
【0032】
水蒸気処理を施したアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒を用いてジメチルエーテルまたはメタノールのいずれか一方、あるいは、ジメチルエーテルおよびメタノールから低級炭化水素を合成するには、ジメチルエーテルまたはメタノールのいずれか一方、あるいは、ジメチルエーテルおよびメタノールをガスとして供給し、このガスをアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒と接触させる。具体的なガスと触媒との接触方法としては、例えば、固定床反応方式、流動床反応方式などが挙げられる。
この低級炭化水素の製造方法では、ジメチルエーテルおよび/またはメタノールから低級炭化水素を合成する反応において、広い範囲の温度・圧力条件で行うことができる。
反応温度は、300℃以上、750℃以下が好ましく、400℃以上、650℃以下がより好ましい。反応温度が300℃未満では、エネルギー的に有利であるが、触媒活性が不十分である。一方、反応温度が750℃を超えると、炭素質析出速度が大きく、活性低下が速いことや、構造破壊などの触媒の変質が起きる。
【0033】
また、この低級炭化水素の製造方法では、低級炭化水素の原料となるジメチルエーテルおよび/またはメタノールを、水蒸気、不活性ガス、炭化水素などで希釈した後、アルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒上に供給することができる。
特に、固定床反応器により、低級炭化水素を連続的に合成する場合、単位触媒質量、単位時間当たりに供給されるジメチルエーテル(以下、「DME」と略す。)相当質量である重量基準空間速度(以下、「WHSV」と略す。)は、0.025g−DME/(g−触媒・時間)以上、50g−DME/(g−触媒・時間)以下であることが好ましい。
WHSVが0.025g−DME/(g−触媒・時間)未満では、固定床反応器の単位容積当たりの生産性が低くなり経済的でない。一方、WHSVが50g−DME/(g−触媒・時間)を超えると、触媒寿命や触媒活性が不十分となる。
【0034】
また、アルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒上で生成し、反応器より流出した低級炭化水素は、公知の分離精製法により、各目的生成物に分離できる。
【0035】
この低級炭化水素の製造方法によれば、本発明のアルカリ土類金属化合物含有ゼオライト触媒を用いることにより、ジメチルエーテルおよび/またはメタノールから低級炭化水素を高い収率で合成することができる。
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[ゼオライト触媒の調製]
「実験例1」
Si/Alモル比が75のアンモニウム型MFI構造ゼオライト(Zeolyst社製、CBV15014G)100gを550℃にて焼成し、プロトン型MFI構造ゼオライト触媒を得た。この触媒を触媒Aとした。
「実験例2」
触媒A100gと、炭酸カルシウム(CaCO)5.0gとを固体状態で混合し、両者の混合体を調製した。
この混合体を550℃にて6時間、空気焼成し、触媒を得た。この触媒を触媒Bとした。
「実験例3」
前記アンモニウム型MFI構造ゼオライト100gと、炭酸カルシウム5.0gとを混合し、さらに適量のイオン交換水を加えて混練し、両者の混合体を調製した。
この混合体を120℃にて乾燥した後、550℃にて12時間、空気焼成し、触媒を得た。この触媒を触媒Cとした。
【0038】
「実験例4」
前記アンモニウム型MFI構造ゼオライト100gと、ベーマイト(Al相当の含有量70質量%)28gとを混合し、さらに適量のイオン交換水を加えて混練し、両者の混合体を調製した。
この混合体を押出機を用いて押出成型した。
次いで、押出成型により得られた成型体を120℃にて乾燥した後、550℃にて12時間、空気焼成し、触媒を得た。この触媒を触媒Dとした。
「実験例5」
前記アンモニウム型MFI構造ゼオライト100gと、前記ベーマイト28gと、炭酸カルシウム5.0gとを混合し、さらに適量のイオン交換水を加えて混練し、これらの混合体を調製した。
この混合体を、押出機を用いて押出成型した。
次いで、押出成型により得られた成型体を120℃にて乾燥した後、550℃にて12時間、空気焼成し、触媒を得た。この触媒を触媒Eとした。
【0039】
「実験例6」
前記アンモニウム型MFI構造ゼオライト100gと、前記ベーマイト28gと、炭酸カルシウム25gとを混合し、さらに適量のイオン交換水を加えて混練し、これらの混合体を調製した。
この混合体を押出機を用いて押出成型した。
次いで、押出成型により得られた成型体を120℃にて乾燥した後、550℃にて12時間、空気焼成し、触媒を得た。この触媒を触媒Fとした。
「実験例7」
前記アンモニウム型MFI構造ゼオライト100gと、前記ベーマイト262gと、炭酸カルシウム5.0gとを混合し、さらに適量のイオン交換水を加えて混練し、これらの混合体を調製した。
この混合体を押出機を用いて押出成型した。
次いで、押出成型により得られた成型体を120℃にて乾燥した後、550℃にて12時間、空気焼成し、触媒を得た。この触媒を触媒Gとした。
【0040】
[触媒の水蒸気耐性評価]
「比較例1」
実験例1で得られた触媒Aについて、水蒸気耐性評価を行うために、以下のような処理を施した。
触媒Aに、温度400℃にて真空前処理を3時間施した。その後、ブルカ DRX−400により、この触媒Aの27Al−MAS−NMRスペクトルを測定して、ゼオライト質量あたりのゼオライト格子内の4配位アルミニウム量を定量した。
この比較例1において測定されたゼオライト格子内の4配位アルミニウム量を100とした。
「比較例2」
触媒Aを、温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPaの雰囲気に48時間曝し、水蒸気処理を施した。
この水蒸気処理を施した触媒Aに、温度400℃にて真空前処理を3時間施した。その後、ブルカ DRX−400により、この触媒Aの27Al−MAS−NMRスペクトルを測定して、ゼオライト質量あたりのゼオライト格子内の4配位アルミニウム量を定量した。
表1に、比較例1の4配位アルミニウム量に対する、この比較例2の4配位アルミニウム量の相対量を示す。
【0041】
「比較例3」
実験例2で得られた触媒Bを用いた以外は比較例1と同様にして、比較例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量に対する、この比較例3のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量の相対量を定量した。
結果を表1に示す。
「比較例4」
触媒Bを用いた以外は比較例2と同様にして、比較例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量に対する、この比較例4のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量の相対量を定量した。
結果を表1に示す。
【0042】
「比較例5」
実験例3で得られた触媒Cを用いた以外は比較例1と同様にして、比較例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量に対する、この比較例5のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量の相対量を定量した。
結果を表1に示す。
「比較例6」
触媒Cを用いた以外は比較例2と同様にして、比較例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量に対する、この比較例6のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量の相対量を定量した。
結果を表1に示す。
【0043】
「比較例7」
実験例4で得られた触媒Dを用いた以外は比較例1と同様にして、比較例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量に対する、この比較例7のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量の相対量を定量した。
結果を表1に示す。
「比較例8」
触媒Dを用いた以外は比較例2と同様にして、比較例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量に対する、この比較例8のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量の相対量を定量した。
結果を表1に示す。
【0044】
「比較例9」
実験例6で得られた触媒Fを用いた以外は比較例1と同様にして、比較例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量に対する、この比較例9のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量の相対量を定量した。
結果を表1に示す。
「比較例10」
触媒Fを用いた以外は比較例2と同様にして、比較例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量に対する、この比較例10のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量の相対量を定量した。
結果を表1に示す。
【0045】
「実施例1」
実験例5で得られた触媒Eを用いた以外は比較例1と同様にして、比較例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量に対する、この実施例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量の相対量を定量した。
結果を表1に示す。
「実施例2」
触媒Eを用いた以外は比較例2と同様にして、比較例1のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量に対する、この実施例2のゼオライト質量あたりの4配位アルミニウム量の相対量を定量した。
結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
ゼオライト格子内に存在する4配位アルミニウム上の酸点が触媒活性点である。触媒が水蒸気雰囲気に曝されると、この4配位アルミニウムの量が減少し、ゼオライトの酸点の減少、すなわち、ゼオライトの活性減少につながる。したがって、水蒸気雰囲気に曝しても4配位アルミニウムが多く残っている触媒は、ゼオライト格子内の4配位アルミニウムの脱離を起こしにくく、水蒸気耐性の高い触媒であると言える。
表1の結果から、比較例1,2では、触媒Aに、温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPaの48時間の水蒸気処理を施すことによって、ゼオライト格子内の4配位アルミニウム量が6%に減少することが確認された。
【0048】
比較例3,4では、触媒Bに、温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPa、48時間の水蒸気処理を施すことによって、ゼオライト格子内の4配位アルミニウム量が22%に減少することが確認された。触媒Bは、炭酸カルシウムが添加されているので、ゼオライト格子内の4配位アルミニウムの脱離が抑制されたと考えられる。比較例5,6では、触媒Cに、温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPa、48時間の水蒸気処理を施すことによって、ゼオライト格子内の4配位アルミニウム量が29%に減少することが確認された。触媒Cは、炭酸カルシウムとMFI構造ゼオライトに水を加えて混練して焼成することによって、固体状態のまま混合した触媒Bに比べて炭酸カルシウムがゼオライト細孔内に高分散して、ゼオライト格子内の4配位アルミニウムの脱離を抑制する効果が高くなったと考えられる。
【0049】
比較例7では、触媒Dの4配位アルミニウム量が115%であり、触媒Aよりも4配位アルミニウム量が増加していることが確認された。これは、ベーマイトを添加して焼成することにより、ゼオライト格子内にアルミニウム原子が挿入されるという現象が起こったためであると考えられる。
比較例8では、触媒Dに、温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPa、48時間の水蒸気処理を施すことによって、4配位アルミニウム量が36%に減少することが確認された。ベーマイトを添加して焼成することによって触媒中にアルミニウムの酸化物および/または水酸化物が存在し、これらがゼオライト格子内の4配位アルミニウムの脱離を抑制するために、触媒Aに比べてゼオライト格子内の4配位アルミニウムの脱離が抑制されたと考えられる。
比較例9では、触媒Fの4配位アルミニウム量が155%であり、触媒Aよりも4配位アルミニウム量が増加していることが確認された。これは、ベーマイトを添加して焼成することにより、ゼオライト格子内にアルミニウム原子が挿入されるという現象が起こったためであると考えられる。
【0050】
比較例10では、触媒Fに、温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPa、48時間の水蒸気処理を施すことによって、4配位アルミニウムが63%残存していることが確認された。比較例10では、ベーマイトと炭酸カルシウムを添加して焼成することにより、4配位アルミニウムの脱離が起こり難く水蒸気耐性の高い触媒を得ることができた。
実施例1では、触媒Eの4配位アルミニウム量が142%であり、触媒Aよりもゼオライト格子内の4配位アルミニウム量が増加していることが確認された。これは、ベーマイトを添加して焼成することにより、ゼオライト格子内にアルミニウム原子が挿入されるという現象が起こったためであると考えられる。
実施例2では、触媒Eに、温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPa、48時間の水蒸気処理を施すことによって、4配位アルミニウムが86%残存していることが確認された。実施例2では、適量のアルミニウムの酸化物および/または水酸化物と適量の炭酸カルシウムをMFI構造ゼオライトに複合させた効果によって、全ての触媒の中で最も4配位アルミニウムの脱離が起こり難く、水蒸気耐性の高い触媒を得ることができた。
【0051】
[触媒性能試験]
実験例1〜7で得られた触媒A〜Gについて触媒性能を測定するために、これらの触媒A〜Gを用いて、ジメチルエーテルから低級炭化水素を合成した。
ここでは、低級炭化水素の合成反応開始時からジメチルエーテルの転化率が99.0%未満になるまでの経過時間を、「触媒寿命」と定義した。
また、プロピレンの収率(質量%)、メタンの収率(質量%)および一酸化炭素の収率(質量%)とは、反応開始から10〜15時間までの反応安定時において、ガスクロマトグラフィー分析により測定された、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の供給ジメチルエーテルおよび/またはメタノール中に含有される炭素質量基準の収率(質量%)と定義した。
「比較例11」
触媒Aを用いて、等温反応器において触媒性能試験を行った。
ジメチルエーテルを1272Ncm/時間および窒素を1272Ncm/時間の流量で混合させて反応管に送り、温度530℃、常圧で触媒と反応させた。触媒量に対する原料のジメチルエーテル(DME)供給量比である重量基準空間速度(WHSV)については、9.6g−DME/(g−ゼオライト・時間)とした。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。相対触媒寿命とは、比較例11の触媒寿命を100としたときの各触媒寿命の相対値である。
【0052】
「比較例12」
触媒Aを温度530℃、水蒸気分圧0.08MPa、窒素分圧0.02MPaの雰囲気に24時間曝し、水蒸気処理を施した。
この水蒸気処理を施した触媒Aを用いて、等温反応器において触媒性能試験を行った。
ジメチルエーテルを1272Ncm/時間および窒素を1272Ncm/時間の流量で混合させて反応管に送り、温度530℃、常圧で触媒と反応させた。触媒量に対する原料のジメチルエーテル(DME)供給量比である重量基準空間速度(WHSV)については、9.6g−DME/(g−ゼオライト・時間)とした。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
【0053】
「比較例13」
触媒Aを温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPaの雰囲気に48時間曝し、水蒸気処理を施した。
この水蒸気処理を施した触媒Aを用いて、等温反応器において触媒性能試験を行った。
ジメチルエーテルを1272Ncm/時間および窒素を1272Ncm/時間の流量で混合させて反応管に送り、温度530℃、常圧で触媒と反応させた。触媒量に対する原料のジメチルエーテル(DME)供給量比である重量基準空間速度(WHSV)については、9.6g−DME/(g−ゼオライト・時間)とした。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
【0054】
「比較例14」
触媒Aを温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPaの雰囲気に96時間曝し、水蒸気処理を施した。
この水蒸気処理を施した触媒Aを用いて、等温反応器において触媒性能試験を行った。
ジメチルエーテルを1272Ncm/時間および窒素を1272Ncm/時間の流量で混合させて反応管に送り、温度530℃、常圧で触媒と反応させた。触媒量に対する原料のジメチルエーテル(DME)供給量比である重量基準空間速度(WHSV)については、9.6g−DME/(g−ゼオライト・時間)とした。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
【0055】
「比較例15」
触媒Bを用いた以外は比較例11と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「比較例16」
触媒Bを用いた以外は比較例12と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「比較例17」
触媒Bを用いた以外は比較例13と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
【0056】
「比較例18」
触媒Cを用いた以外は比較例11と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「比較例19」
触媒Cを用いた以外は比較例12と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「比較例20」
触媒Cを用いた以外は比較例13と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「比較例21」
触媒Cを用いた以外は比較例14と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
【0057】
「比較例22」
触媒Dを用いた以外は比較例11と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「比較例23」
触媒Dを用いた以外は比較例12と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「比較例24」
触媒Dを用いた以外は比較例13と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「比較例25」
触媒Dを用いた以外は比較例14と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
【0058】
「比較例26」
触媒Fを用いた以外は比較例11と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「比較例27」
触媒Fを用いた以外は比較例13と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
【0059】
「実施例3」
触媒Eを用いた以外は比較例11と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「実施例4」
触媒Eを用いた以外は比較例12と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「実施例5」
触媒Eを用いた以外は比較例13と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「実施例6」
触媒Eを用いた以外は比較例14と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
「実施例7」
触媒Gを用いた以外は比較例12と同様にして、触媒性能試験を行った。
相対触媒寿命と、プロピレン、メタンおよび一酸化炭素の収率(質量%)とを表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
また、水蒸気処理の程度に対する相対触媒寿命を図1に示す。
なお、図1において、水蒸気分圧と水蒸気処理時間を掛け合わせた値を水蒸気処理の程度とし、図1のグラフの横軸とした。また、相対触媒寿命とは、比較例11の触媒寿命を100としたときの各触媒の寿命の相対値であり、図1のグラフの縦軸とした。
【0062】
表2および図1の結果から、触媒A〜Eは、温度530℃、水蒸気分圧0.08MPa、窒素分圧0.02MPaの雰囲気に24時間曝す水蒸気処理を施すことにより、触媒寿命が向上することが分かった(比較例11、12、15、16、18、19、22、23,実施例3、4)。これは、緩やかな水蒸気処理に伴って、ゼオライトを構成する格子アルミニウムが脱離しゼオライトの酸点(活性点)が適度に減少するとともに、触媒Dおよび触媒Eでは、好ましくない副反応に寄与するアルミナ上の酸点を減少させていることが原因と考えられる。
温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPaの雰囲気に48時間曝す水蒸気処理を施すと、触媒Aの触媒寿命は0となり、触媒Bおよび触媒Dの触媒寿命は減少した。触媒Cおよび触媒Eの触媒寿命はさらに向上した(比較例13、17、20、24,実施例5)。
温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPaの雰囲気に96時間曝す水蒸気処理を施すと、触媒C,触媒Dの触媒寿命は0となり、触媒Eの触媒寿命は減少に転ずることが分かった(比較例21、25,実施例6)。
【0063】
このような傾向が見られるのは、水蒸気処理に伴って、ゼオライトを構成する格子アルミニウムが脱離し、ゼオライトの酸点が減少することが原因と考えられる。すなわち、触媒A〜Eの水蒸気処理では、初めはゼオライトの酸点が適度に減少することによって炭素質の析出が抑制されて触媒寿命が向上し、その後はゼオライトの酸点が減少し過ぎてジメチルエーテルのリーク時期が早くなるために寿命が減少するからである。水蒸気処理の程度が大きくとも、長い触媒寿命を保つ触媒は、ゼオライト格子内の4配位アルミニウムの脱離を起こしにくく、高い水蒸気耐性を持つと言える。
図1の結果から、触媒A〜Eの水蒸気耐性は触媒E>触媒C>触媒D>触媒B>触媒Aであるといえる。この結果は27Al−MAS−NMRスペクトルから得られた4配位アルミニウムの残存率(表1)の序列とほぼ一致する。
触媒Fは、水蒸気処理を施さなくても触媒寿命が長い(比較例26)。これは、多量の炭酸カルシウムを含むことが原因と考えられる。また、触媒Fに温度530℃、水蒸気分圧0.35MPa、窒素分圧0.15MPaの雰囲気に48時間曝す水蒸気処理を施すと、触媒寿命は向上し、触媒Cや触媒Eに匹敵する触媒寿命を示した(比較例27)。
【0064】
水蒸気処理を施さない触媒A,触媒C〜Eは1.0質量%以上のメタンおよび/または0.3質量%以上の一酸化炭素を生成する(比較例11、18、22,実施例3)。触媒Aに水蒸気処理を施してもメタン収率は1.0質量%以上であるが(比較例12−14)、触媒C〜Eに触媒が失活しない程度の適度な水蒸気処理を施すと、メタン収率は1.0質量%未満、一酸化炭素収率は0.3質量%未満となる(比較例19,20、23、24、実施例4−6)。
水蒸気処理を施さない触媒Bは、メタンの収率が1.8質量%、一酸化炭素の収率が0.80質量%であった(比較例15)。水蒸気処理を施しても、メタンの収率が0.8−0.9質量%、一酸化炭素の収率が0.6−0.65質量%で、水蒸気処理によってこれらの副反応を十分には抑制できないことが分かった(比較例16、17)。
水蒸気処理を施さない触媒Fは、メタンの収率が1.8質量%、一酸化炭素の収率が3.10質量%でほかの触媒に比べて高い(比較例26)。これは、多量の炭酸カルシウムを含むので、塩基点でジメチルエーテルの分解が起こるためと考えられる。触媒Fに水蒸気処理を施しても、メタンの収率が1.0質量%、一酸化炭素の収率が1.56質量%で、水蒸気処理によってこれらの副反応を抑制できないことが分かった(比較例27)。
触媒Gはプロピレンの収率が40質量%、メタンの収率が0.9質量%、一酸化炭素の収率が0.10質量%となることが分かった(実施例7)。
【0065】
これらの結果から、アンモニウム型MFI構造ゼオライトに、適量の炭酸カルシウムおよびベーマイトを、適量のイオン交換水を加えて混練した後、乾燥、焼成することによって得られた触媒Eは、最も高い水蒸気耐性を持つことが分かった。また、この触媒Eに水蒸気処理を施すことによって触媒寿命が大幅に向上し、副生成物であるメタンや一酸化炭素の生成を抑制することができることが分かった。
アンモニウム型MFI構造ゼオライトに、多量の炭酸カルシウムおよびベーマイトを、適量のイオン交換水を加えて混練した後、乾燥、焼成することによって得られた触媒Fは、比較的高い水蒸気耐性を持つが、水蒸気処理を施すことによっても副生成物であるメタンや一酸化炭素の生成を抑制できないことが分かった。メタンや一酸化炭素は反応器にリサイクルしても反応性に乏しく、オレフィンに転化しないため、これらが生成する分解反応は好ましくない。よって触媒Fはジメチルエーテルおよび/またはメタノールから低級炭化水素を製造する反応に適さないといえる。
【0066】
触媒の水蒸気耐性評価および触媒性能試験の結果から、次のことが言える。
アンモニウム型MFI構造ゼオライトに、適量の炭酸カルシウムを、適量のイオン交換水を加えて混練した後、乾燥、焼成することによって得られた触媒Cは、カルシウム化合物によってゼオライト格子内のアルミニウムの脱離が抑制され、プロトン型MFI構造ゼオライトである触媒Aと比較して高い水蒸気耐性を持つことが分かった。
アンモニウム型MFI構造ゼオライトにベーマイトを、適量のイオン交換水を加えて混練した後、乾燥、焼成することによって得られた触媒Dは、アルミニウムの酸化物および/または水酸化物の効果によりゼオライト格子内のアルミニウムの脱離が抑制され、プロトン型MFI構造ゼオライトである触媒Aと比較して高い水蒸気耐性を持つことが分かった。
アンモニウム型MFI構造ゼオライトに、適量の炭酸カルシウムとベーマイトを、適量のイオン交換水を加えて混練した後、乾燥、焼成することによって得られた触媒Eは、カルシウム化合物とアルミニウムの酸化物および/または水酸化物の効果により最も水蒸気耐性に優れることが分かった。触媒Eは、そのまま反応に用いるとメタンや一酸化炭素の収率が比較的高く触媒寿命もそれほど長くない。しかしながら、触媒Eは、水蒸気処理を施すことによって、副反応が抑制され、触媒寿命が大幅に向上することが分かった。
アンモニウム型MFI構造ゼオライトに、多量の炭酸カルシウムとベーマイトを、適量のイオン交換水を加えて混練した後、乾燥、焼成することによって得られた触媒Fは、触媒Eよりも水蒸気耐性が低かった。さらに、触媒Fは、メタンおよび一酸化炭素の収率が高く、水蒸気処理を施してもこれらの収率は高いままであった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒およびその調製方法は、メタノールを原料とするガソリン合成反応(MTG反応)、流動接触分解(FCC)、水素化脱ろう、パラフィンの異性化、芳香族炭化水素製造、芳香族化合物のアルキル化、過酸化水素を用いた酸化反応、エタノールアミン類製造などのプロセスにも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第一成分、第二成分および第三成分からなる構成物に極性溶媒を加えて混合する混合・混練工程と、
該混合・混練工程にて得られた混合体を乾燥、焼成することにより複合体を調製する乾燥・焼成工程と、
前記乾燥・焼成工程にて得られた複合体を水蒸気もしくは水蒸気を生成する反応雰囲気に接触させる水蒸気処理工程と、を有し、
前記水蒸気処理工程において、水蒸気分圧と水蒸気処理時間を掛け合わせた値で示される水蒸気処理の程度(a.u.)が1.92〜16.8となるように水蒸気処理を施し、
前記第一成分はプロトン型ゼオライトおよび/またはアンモニウム型ゼオライト、前記第二成分はカルシウム化合物、前記第三成分はアルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上であり、
前記第一成分のSi/Alモル比を10以上、300以下、前記第一成分量に対する前記第二成分の含有率はカルシウムに換算して0.3質量%以上、10質量%未満、前記第一成分量に対する前記第三成分の含有率を15質量%以上、200質量%以下とすることを特徴とするジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒の調製方法。
【請求項2】
前記第一成分は、MFI構造ゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載のジメチルエーテルまたはメタノールを原料とする低級炭化水素合成用カルシウム化合物含有ゼオライト触媒の調製方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−31847(P2013−31847A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−237890(P2012−237890)
【出願日】平成24年10月29日(2012.10.29)
【分割の表示】特願2006−266044(P2006−266044)の分割
【原出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】