説明

ジメチルジニトロアダマンタンの製造法

【課題】 1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを簡易な操作で効率よく単離する工程を含む製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの製造法は、少なくとも1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン及び有機溶媒を含む混合液に炭素数1〜12のアルコールを加えて、前記1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを晶析により単離する工程を含む。前記有機溶媒としては酢酸溶媒が好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリマー原料物質及び医薬原料として有用な1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般的に、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンは、1,3−ジメチルアダマンタンを硝酸によるニトロ化反応によって製造される。しかし、反応終了後の反応混合液には、目的生成物である1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの他に、モノニトロ化生成物や硝酸酸化によって生成されるアルコールやケトンなどの反応副生物、触媒などの反応試剤等が混在しており、これらを効率よく簡便に除去する方法は知られていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを簡易な操作で効率よく単離する工程を含む製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン及び有機溶媒を含む混合液に特定のアルコールを加えることにより、前記混合液から1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを高純度の結晶として容易に回収できることを見いだし、本発明を完成した。
【0005】すなわち、本発明は、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン及び有機溶媒を少なくとも含む混合液に炭素数1〜12のアルコールを加えて、前記1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを晶析により単離する工程を含む1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの製造法を提供する。前記有機溶媒には酢酸溶媒が好ましく用いられる。
【0006】
【発明の実施の形態】[1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン及び有機溶媒を少なくとも含む混合液]1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン及び有機溶媒を少なくとも含む混合液は、反応により得られた目的生成物である1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン、及び有機溶媒(例えば、前記反応において反応溶媒として用いられた有機溶媒)を少なくとも含んでいる。
【0007】1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンは、一般的な反応により得られ、用いる反応の種類は限定されない。選択した反応に対応する原料(基質)が用いられ、例えば、硝酸等を使用したニトロ化反応の場合には1,3−ジメチルアダマンタンが対応する基質となる。
【0008】より具体的には、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを得る方法として、(i)1,3−ジメチルアダマンタンを酢酸などの有機溶媒中で硝酸と反応させる方法、(ii)1,3−ジメチルアダマンタンを酢酸などの有機溶媒中、イミド化合物触媒の存在下、硝酸若しくは亜硝酸又はこれらの塩と反応させる方法、(iii)1,3−ジメチルアダマンタンを、イミド化合物触媒の存在下、窒素酸化物と反応させる方法(特開平11−239730号公報参照)などが挙げられる。
【0009】以下、前記(ii)の方法について詳細に説明する。この方法では、1,3−ジメチルアダマンタンを、下記式(1)
【化1】


(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基を示し、R1及びR2は互いに結合して二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよい。Xは酸素原子又はヒドロキシル基を示す。前記R1、R2、又はR1及びR2が互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、上記式(1)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個形成されていてもよい)で表されるイミド化合物の存在下、硝酸若しくは亜硝酸又はこれらの塩と反応させて、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを生成させる。
【0010】前記イミド化合物において、置換基R1及びR2のうちハロゲン原子には、ヨウ素、臭素、塩素およびフッ素原子が含まれる。アルキル基には、炭素数1〜10程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が含まれ、好ましくは、例えば、炭素数1〜6程度、特に炭素数1〜4程度の低級アルキル基が含まれる。
【0011】アリール基には、フェニル、ナフチル基などが含まれ、シクロアルキル基には、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが含まれる。アルコキシ基には、例えば、炭素数1〜10程度、好ましくは炭素数1〜6程度、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基が含まれる。
【0012】アルコキシカルボニル基には、アルコキシ部分の炭素数が1〜10程度のアルコキシカルボニル基が含まれ、好ましいカルボニル基にはアルコキシ部分の炭素数が1〜6程度、特に1〜4程度の低級アルコキシカルボニル基が含まれる。アシル基としては、炭素数1〜6程度のアシル基が例示できる。
【0013】前記置換基R1及びR2は、同一又は異なっていてもよい。また、前記式(1)において、R1及びR2は互いに結合して、二重結合、または芳香族性又は非芳香属性の環を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環は5〜12員環、特に6〜10員環程度であり、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が多い。このような環には、芳香族環で構成される場合が多い。前記環は置換基を有していてもよい。前記式(1)において、Xは酸素原子又はヒドロキシル基を示し、窒素原子NとXとの結合は単結合又は二重結合である。
【0014】前記R1、R2、又はR1及びR2が互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、上記式(1)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個形成されていてもよい。例えば、R1又はR2が炭素数2以上のアルキル基である場合、このアルキル基を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。また、R1及びR2が互いに結合して二重結合を形成する場合、該二重結合を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。さらに、R1及びR2が互いに結合して芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成する場合、該環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。
【0015】好ましいイミド化合物には、下記式で表される化合物が含まれる。
【化2】


(式中、R3〜R6は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子を示す。R3〜R6は、隣接する基同士が互いに結合して芳香族性又は非芳香族性の環を形成していてもよい。式(1f)中、Aはメチレン基又は酸素原子を示す。R1、R2、Xは前記に同じ。式(1c)のベンゼン環には、式(1c)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個形成されていてもよい)
【0016】置換基R3〜R6において、アルキル基には、前記例示のアルキル基と同様のアルキル基、特に炭素数1〜6程度のアルキル基が含まれ、ハロアルキル基には、トリフルオロメチル基などの炭素数1〜4程度のハロアルキル基、アルコキシ基には、前記と同様のアルコキシ基、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基、アルコキシカルボニル基には、前記と同様のアルコキシカルボニル基、特にアルコキシ部分の炭素数が1〜4程度の低級アルコキシカルボニル基が含まれる。また、アシル基としては、前記と同様のアシル基、特に炭素数1〜6程度のアシル基が例示され、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子が例示できる。置換基R3〜R6は、通常、水素原子、炭素数1〜4程度の低級アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。R3〜R6が互いに結合して形成する環としては、前記R1及びR2が互いに結合して形成する環と同様であり、特に芳香族性又は非芳香族性の5〜12員環が好ましい。
【0017】好ましいイミド化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸イミドなどが挙げられる。
【0018】前記イミド化合物は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンNH2OHとを反応させ、酸無水物基の開環及び閉環を経てイミド化する方法により調製できる。
【0019】特に好ましいイミド化合物は、脂環式多価カルボン酸無水物又は芳香族多価カルボン酸無水物、なかでも芳香族多価カルボン酸無水物から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物、例えば、N−ヒドロキシフタル酸イミドなどが含まれる。式(1)で表されるイミド化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0020】前記(ii)の反応では、前記イミド化合物とともに助触媒を用いることもできる。助触媒として、金属化合物が挙げられる。前記イミド化合物と金属化合物とを併用することにより、反応速度や反応の選択性が向上する場合がある。
【0021】金属化合物を構成する金属元素としては、特に限定されないが、周期表2〜15族の金属元素を用いる場合が多い。なお、本明細書では、ホウ素Bも金属元素に含まれるものとする。好ましい金属元素には、遷移金属元素(周期表3〜12族元素)が含まれる。なかでも、周期表5〜11族元素、特に5族〜9族元素が好ましく、とりわけV、Mo、Mn、Coなどが好ましい。金属元素の原子価は特に制限されず、例えば0〜6価程度である。
【0022】金属化合物としては、前記金属元素の単体、水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩など)、イソポリ酸の塩、ヘテロポリ酸の塩などの無機化合物;有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機化合物が挙げられる。金属化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0023】前記金属化合物の使用量は、例えば、前記イミド化合物1モルに対して、0.001〜10モル程度、好ましくは0.005〜3モル程度である。
【0024】また、前記(ii)の反応では、系内に、ラジカル発生剤やラジカル反応促進剤を存在させてもよい。このような成分として、例えば、ハロゲン(塩素、臭素など)、過酸(過酢酸、m−クロロ過安息香酸など)、過酸化物(過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)等のヒドロペルオキシドなど)などが挙げられる。これらの成分を系内に存在させると、反応が促進される場合がある。前記成分の使用量は、前記イミド化合物1モルに対して、例えば0.001〜0.1モル程度である。
【0025】前記(ii)の反応では、ニトロ化剤として硝酸若しくは亜硝酸又はこれらの塩(以下、単に「硝酸類」と称する場合がある)を用いる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】硝酸や亜硝酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;銀塩、アルミニウム塩、亜鉛塩などのその他の金属塩などが挙げられる。好ましい塩には、硝酸又は亜硝酸のアルカリ金属塩等が含まれる。
【0027】前記硝酸類は、そのまま反応系に供給してもよいが、水溶液などの溶液の形態で反応系に供給することができる。また、これらは反応系中で生成させて反応に用いることもできる。
【0028】反応溶媒としては、一般的な有機溶媒が用いられ、なかでも酢酸などの有機酸、ベンゾニトリルなどのニトリル類、クロロベンゼンやトリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素等を用いる場合が多く、特に酢酸を用いるのが好ましい。
【0029】前記イミド化合物触媒の使用量は、1,3−ジメチルアダマンタン1モルに対して、例えば0.001〜1モル、好ましくは0.01〜0.5モル、さらに好ましくは0.1〜0.3モル程度である。また、前記硝酸類の使用量は、1,3−ジメチルアダマンタン1モルに対して、例えば1.8〜2.5モル程度である。
【0030】反応温度は、例えば0〜150℃、好ましくは50〜130℃、さらに好ましくは80〜120℃程度の範囲から選択できる。反応圧力は、常圧、加圧下の何れであってもよい。
【0031】前記(ii)の反応は不活性ガス(例えば、窒素、アルゴンなど)の雰囲気下で行うことが好ましい。雰囲気中に酸素原子含有ガスが存在すると、1,3−ジメチルアダマンタンに酸素原子含有基が導入された化合物が生成することがある。前記(ii)の反応は、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。
【0032】上記各方法により得られる反応混合液中には、通常、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン(目的生成物)及び有機溶媒(反応溶媒)の他に、例えば、1,3−ジメチルアダマンタン、3,5−ジメチルアダマンタン−1−オール、1−ニトロ−3,5−ジメチルアダマンタン、1,3−ジメチルアダマンタン−2−オンなどの未反応原料や反応副生物が含まれている。さらに、反応混合液中には、合成法に応じて、例えば、硝酸類、金属類などの反応試剤及び/又はその誘導体、イミド化合物触媒及び/又はその変質体(例えば加水分解物など)、及び水などが含まれている。
【0033】晶析操作に供する混合液として、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの生成反応により生じる反応混合液をそのまま用いることができる。また、晶析操作に供する混合液として、前記反応混合液の処理物(例えば濃縮、濾過等の処理を経た混合物)を用いることもできる。例えば、一般に反応制御の問題より反応は低い基質濃度で実施されているので、晶析効率を高めるため、前記反応混合液を適宜濃縮した濃縮液を晶析操作に供することができる。
【0034】晶析操作に供する混合液中に含まれる有機溶媒としては、一般的な有機溶媒が用いられ、反応及び基質の種類などに応じて適宜選択できる。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;t−ブタノール、t−アミルアルコールなどのアルコール類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類;及びこれらの混合溶媒などを使用できる。なお、これらは水を含んでいてもよい。
【0035】好ましい有機溶媒としては、酢酸などの有機酸、ベンゾニトリルなどのニトリル類、クロロベンゼンやトリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素等が挙げられる。本発明における有機溶媒には、酢酸溶媒が特に好ましい。
【0036】前記混合液中の1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン濃度は、一般には10〜99重量%、好ましくは20〜99重量%程度である。10重量%未満の低濃度では、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの回収率が低下しやすい。濃度は高いほど好ましい。
【0037】また、前記混合液中の有機溶媒濃度は、一般に20重量%以下(例えば1〜20重量%)、好ましくは10重量%以下(例えば1〜10重量%)程度(別紙1)である。20重量%を越える場合は、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの回収率が低下しやすい。
【0038】[アルコール]本発明では、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン及び有機溶媒を含む混合液中から1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを単離するに際し、該混合液に炭素数が1〜12のアルコールを加えることによる晶析操作を行い、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを析出させる。
【0039】炭素数1〜12のアルコールには、例えば、脂肪族一価アルコール類、脂肪族多価アルコール類、脂環式一価アルコール類、脂環式多価アルコール類又は芳香族アルコール類などが含まれる。
【0040】脂肪族一価アルコール類には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノールなどの飽和脂肪族アルコール;アリルアルコール、クロチルアルコール、プロパルギルアルコールなどの不飽和脂肪族アルコールなどが挙げられる。脂肪族多価アルコール類には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリンなどが挙げられる。脂環式一価アルコール類には、例えば、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロデカノール、シクロウンデカノール、シクロドデカノール、メチルシクロヘキサノール、シクロヘキセン−1−オール、シクロオクテン−1−オールなどが挙げられる。脂環式多価アルコール類には、例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオールなどが挙げられ、芳香族アルコール類には、例えば、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどが挙げられる。
【0041】上記炭素数1〜12のアルコールの中でも、第一級又は第二級の脂肪族アルコールが好ましい。本発明においては、炭素数が小さい場合は、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの溶解度が上昇するため回収率が低下する傾向がある一方、炭素数が大きい場合は、アルコールの沸点が高いため、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンからアルコールを除去する設備が必要となることなどから、炭素数が3〜8のアルコールがより好ましく用いられる。回収率の高さ及び取扱いの簡便さから、特に2−プロパノールが好ましい。なお、室温において固体で存在するような高分子量のアルコールであっても、反応液に加える際に液化していれば使用可能である。
【0042】[晶析操作]晶析は、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン及び有機溶媒を含む混合液に前記アルコールを加え、必要に応じてアルコール添加時又は添加後に攪拌し、一定時間静置して結晶を析出させることにより行うことができる。
【0043】アルコールの使用量は、前記混合液に対して0.1〜10重量倍、好ましくは0.5〜2重量倍程度である。0.1重量倍未満では、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの回収率が低下し、10重量倍を越えると、アルコールに1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンが溶解されやすくなるため回収率が低下する。
【0044】晶析温度は、アルコールの種類等に応じて、アルコールの融点以上、沸点以下の温度範囲内から適宜選択できる。回収率及び設備の面から、例えば−10〜30℃、好ましくは0〜20℃程度の範囲内に設定される。
【0045】晶析時間は、アルコールの種類、晶析温度、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの濃度などにより適宜設定され、例えば1〜3時間程度静置させる。
【0046】この晶析操作により析出した1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンは、晶析液を濾過することにより分離、回収できる。得られた結晶に含まれる溶媒などは、加熱乾燥等により除くことができる。また、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン回収後の晶析液(濾液)をさらに濃縮し、再度アルコールを添加して、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを析出させることが可能である。
【0047】上記方法によれば、例えば、回収率50%以上で、純度85%以上(ガスクロマトグラフィー面積)の1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを得ることができる。
【0048】前記単離した1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンは、さらに、有機溶媒を用いた一般的な再結晶法により高度に精製することができる。再結晶における有機溶媒としてエタノールを用いた場合には、例えば純度99%以上の1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを回収することができる。
【0049】
【発明の効果】本発明の方法によれば、反応により1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを生成後において、目的生成物である1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン及び有機溶媒を含む混合液から分離する際、特定のアルコールを用いて晶析するため、簡易な操作で効率よく1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを単離、製造することができる。
【0050】
【実施例】以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
調製例1フラスコに、1,3−ジメチルアダマンタン100g(0.61モル)、N−ヒドロキシフタルイミド20g(0.12モル)、及び酢酸400gを加え、窒素雰囲気下、温度100℃で、攪拌しながら90重量%硝酸85g(1.2モル)を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、4.5時間攪拌を続けて反応させた。得られた反応混合液をガスクロマトグラフィーにより分析した。その結果、目的生成物として1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを9重量%(51g、収率33%)含み、副反応生成物として3,5−ジメチル−7−ニトロアダマンタン−1−オールを5重量%(26g、収率19%)、1,3−ジメチル−5−ニトロアダマンタンを4重量%(21g、収率16%)、その他3,5−ジメチルアダマンタン−1−オール、1,3−ジメチルアダマンタンにオキソ基が導入された化合物等を含み、さらに、N−ヒドロキシフタルイミド(触媒)、フタルイミドやフタル酸(前記触媒の加水分解物)、及び酢酸溶媒を含む反応混合液が得られた。
【0051】実施例1調製例1で得られた反応混合液303gを、70℃、50Torr(6.7×103Pa)の下で濃縮し、濃縮液98g(酢酸濃度6重量%)を得た。これを室温まで放冷した後、2−プロパノール50gを加え、0℃で3時間静置した。析出した1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを濾別した後、60℃、3時間真空乾燥したところ、無色の1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン結晶18gが得られた。回収率は57%、純度は88%であった。
【0052】実施例2調製例1で得られた反応混合液10.0gを、70℃、50Torr(6.7×103Pa)の下で濃縮し、濃縮液3.3g(酢酸濃度6重量%)を得た。これを室温まで放冷した後、2−プロパノール2.1gを加え、0℃で3時間静置した。析出した1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを濾別した後、60℃、3時間真空乾燥したところ、無色の1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン結晶0.63gが得られた。回収率は63%、純度は90%であった。
【0053】実施例3調製例1で得られた反応混合液15.8gを、70℃、50Torr(6.7×103Pa)の下で濃縮し、濃縮液5.2g(酢酸濃度6重量%)を得た。これを室温まで放冷した後、2−プロパノール1.0gを加え、0℃で3時間静置した。析出した1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを濾別した後、60℃、3時間真空乾燥したところ、無色の1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン結晶0.92gが得られた。回収率は58%、純度は89%であった。
【0054】実施例4調製例1で得られた反応混合液30.3gを、70℃、50Torr(6.7×103Pa)の下で濃縮し、濃縮液11.2g(酢酸濃度9重量%)を得た。これを室温まで放冷した後、1−オクタノール11.5gを加え、0℃で3時間静置した。析出した1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを濾別した後、60℃、3時間真空乾燥したところ、無色の1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン結晶1.63gが得られた。回収率は55%、純度は92%であった。
【0055】比較例1調製例1で得られた反応混合液30.4gを、70℃、50Torr(6.7×103Pa)の下で濃縮し、濃縮液10.0g(酢酸濃度6重量%)を得た。これを室温まで放冷した後、水20.0gを加えたところ濃縮液は懸濁し、その後静置させても1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンは析出されず、結晶を得ることができなかった。
【0056】比較例2調製例1で得られた反応混合液9.7gを、70℃、50Torr(6.7×103Pa)の下で濃縮し、濃縮液3.2g(酢酸濃度6重量%)を得た。これを室温まで放冷した後、何も添加しないで、0℃で3時間静置させたところ、濃縮液は完全に固化し、1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの結晶を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタン及び有機溶媒を含む混合液に炭素数1〜12のアルコールを加えて、前記1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンを晶析により単離する工程を含む1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの製造法。
【請求項2】 有機溶媒が酢酸溶媒である請求項1記載の1,3−ジメチル−5,7−ジニトロアダマンタンの製造法。

【公開番号】特開2003−160544(P2003−160544A)
【公開日】平成15年6月3日(2003.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−360070(P2001−360070)
【出願日】平成13年11月26日(2001.11.26)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】