説明

ジメチロールアルカン酸溶液

【課題】ジメチロールアルカン酸の取り扱いを容易にし、樹脂への相溶性、反応性などが向上し、且つ、人体に対して安全なジメチロールアルカン酸溶液、ウレタン化反応が均一に進行する水性ウレタン樹脂の製造方法およびその方法、各種基材に対するコーティング剤の接着性を高める接着付与剤およびそれを配合したコーティング剤を提供する。
【解決手段】ジメチロールアルカン酸を分子量400以下のアルコール化合物に溶解してなるジメチロールアルカン酸溶液、前記ジメチロールアルカン酸溶液と有機ポリイソシアネートとポリオールとを反応してなる水性ウレタン樹脂の製造方法、前記製造方法により製造される水性ウレタン樹脂、前記ジメチロールアルカン酸溶液からなる接着付与剤、および、前記接着付与剤を配合してなるコーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチロールアルカン酸溶液に関し、詳しくは、ジメチロールアルカン酸を特定のアルコール化合物に溶解してなるジメチロールアルカン酸溶液、ジメチロールアルカン酸溶液を使用した水性ウレタン樹脂の製造方法、水性ウレタン樹脂、接着付与剤およびコーティング剤に関する。本発明のジメチロールアルカン酸溶液は、ウレタン樹脂の原料、コーティング剤の接着付与剤などの改質剤、水性樹脂の水性化原料、ポリエステル樹脂の原料、エポキシ樹脂などの変性剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
ジメチロールアルカン酸は、主として水性ウレタン樹脂などの水性化原料として広く使用されている。この場合、ジメチロールアルカン酸は、通常固体粉末で使用され、他の原料と別々に反応装置に仕込まれ、有機ポリイソシアネートと反応させて水性ウレタン樹脂が製造されている。しかしながら、この方法では、ジメチロールアルカン酸が固体粉末であるため、反応装置に仕込む際に粉末が反応装置内に舞って周囲に付着したり、また、粉末が凝固して大きな塊となって溶解し難く、ウレタン化反応が均一に進みにくい問題がある。そこで、ジメチロールアルカン酸原料を液状にするためにN-メチルピロリドンやジメチルフォルムアミドのような高沸点の極性有機溶剤の使用が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
他方、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム同士のラミネート、プラスチックフィルムとアルミなどの金属箔またはプラスチックの金属蒸着フィルムとの多層構造体、金属基材にコーティング層を設けた塗装板、金属缶などの形成の際、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などから成る接着剤が使用されている。
【0004】
上記の接着剤として、エステル結合を介して分子鎖中にカルボキシル基を有するポリオールとポリイソシアネート硬化剤から成る2液硬化型接着剤(特許文献2参照)、ポリオールと数平均分子量200〜5000の特定のジヒドロキシカルボン酸とポリイソシアネート硬化剤とから成る2液型のドライラミネート用接着剤(特許文献3参照)およびポリオールとピロメリット酸無水物のような多塩基酸無水物とポリイソシアネート硬化剤とから成る複合ラミネート用接着剤(特許文献4参照)が記載されている。
【特許文献1】特公平4−488号公報
【特許文献2】特開平3−281589号公報
【特許文献3】特開平8−183943号公報
【特許文献4】特開昭61−47775号公報
【0005】
しかしながら、ジメチロールアルカン酸原料を液状にするためのN-メチルピロリドンやジメチルフォルムアミドの様な極性有機溶剤の使用は、人体への健康に好ましくない。また、反応生成物中に溶剤を残したくない場合、反応生成物から前記の溶剤を除去することが困難である。他方、上記の接着剤は、各成分の配合条件がシビアであったり、高温で処理しないと優れた接着性を得ることが出来ないという問題がある。また、基材の種類によっては十分な接着性を発揮するとは言えず、使用用途が限られており、汎用性が乏しいものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ジメチロールアルカン酸の取り扱いを容易にし、樹脂への相溶性、反応性などが向上し、且つ、人体に対して安全なジメチロールアルカン酸溶液を提供するものである。
【0007】
本発明の別の目的は、ウレタン化反応が均一に進行する水性ウレタン樹脂の製造方法およびその方法で得られた水性ウレタン樹脂を提供するものである。
【0008】
本発明の他の目的は、各種基材に対するコーティング剤の接着性を高める接着付与剤およびそれを配合したコーティング剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々鋭意検討を重ねた結果、ジメチロールアルカン酸を溶解する溶媒として、特定の低分子量のアルコール化合物を使用するすると、ジメチロールアルカン酸の取り扱いが容易になり、樹脂への相溶性、反応性などを向上させると共に、人体に対して安全に作業することが出来、そして、得られたジメチロールアルカン酸溶液を高濃度かつ安定な溶液状態でウレタン樹脂の原料や接着付与剤として使用することが出来る知見を得、本発明を完成するに至った。そして、本発明は、関連する一群の複数の発明から成り、各発明の要旨は次の通りである。
【0010】
本発明の第1の要旨は、ジメチロールアルカン酸を溶媒に溶解してなるジメチロールアルカン酸溶液であって、溶媒が分子量400以下のアルコール化合物であることを特徴とするジメチロールアルカン酸溶液に存する。
【0011】
本発明の第2の要旨は、上記第1の要旨のジメチロールアルカン酸溶液と有機ポリイソシアネートとポリオールとを反応させることを特徴とする水性ウレタン樹脂の製造方法に存する。
【0012】
本発明の第3の要旨は、上記第2の要旨の製造方法で製造されたことを特徴とする水性ウレタン樹脂に存する。
【0013】
第4の要旨は、上記第1の要旨のジメチロールアルカン酸溶液からなることを特徴とする接着付与剤に存する。
【0014】
第5の発明の要旨は、上記第4の要旨の接着付与剤を配合してなることを特徴とするコーティング剤に存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ジメチロールアルカン酸溶液は、取り扱いおよび配合が容易であり、水性ウレタン樹脂の製造において、ウレタン化反応が均一に進行すると共に、人体に対して安全に作業することが出来る。また、本発明のジメチロールアルカン酸溶液は、有機溶剤型または無溶剤型ウレタン樹脂やポリエステル樹脂の原料、水性ウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂、電着塗料などの水性樹脂の水性化原料、コーティング剤の接着付与剤などの改質剤、エポキシ樹脂などの変性剤、粉体塗料原料、抗菌剤など幅広い用途において使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。以下に記載する構成要件は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
【0017】
ジメチロールアルカン酸としては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、ジメチロールヘプタン酸、ジメチロールオクタン酸、ジメチロールノナン酸などが挙げられる。これらの中で、アルコール化合物に対する溶解性、ポリイソシアネートとの反応性、工業製品の入手の容易さの点から、ジメチロールブタン酸が好ましい。
【0018】
ジメチロールブタン酸は、通常粉体であり、粒径は、溶解性の点から、通常、1.0mm以上の粒子が1.0重量%以下で且つ800μm以下の粒子が95.0重量%以上であり、好ましくは、1.0mm以上の粒子が1.0重量%以下で且つ600μm以下の粒子が95.0重量%以上である。粉体の流動性の点から、安息角は、通常20°〜80°、好ましくは35°〜70°である。
【0019】
ジメチロールアルカン酸の製造方法は、特に限定されず、アルデヒド類をアルドール縮合と酸化反応することによって製造される。例えば、ジメチロールブタン酸の製造は、公知の方法(特開昭52−124213号公報、特開平11−100349号公報、特開2002−226426号公報)で行われる。保存に際しては、粉体の固結を防止する観点から、JIS−Z0208で規定する透湿度が40℃で5g/m・日以下の材料で製造された容器内に密閉保存することが好ましい。
【0020】
ジメチロールアルカン酸を溶解するアルコール化合物としては、分子中に水酸基を少なくとも1個有するアルコール化合物である。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール、イソペンチルアルコール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、ヘキサノール、ヘプノール、オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ノナノール、デカノール、ジアセトンアルコール、各種セロソルブなどのモノアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、1,5−ペンタンジール、1,6-ヘキサンジオール等のグリコール類、グリセリン、1,2,6−へキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等のトリオール類、エリスリトール、ソルビトール等の糖類などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
アルコール化合物の分子量は、数平均分子量として、通常30〜400、好ましくは60〜200である。分子量が400を超える場合は、ジメチロールアルカン酸の溶解性や溶液の保存安定性が悪くなることがある。
【0022】
水性ウレタン樹脂の原料としての使用において、適度なポットライフを有し、且つ、高分子量化し、反応して樹脂構成成分として取り込まれる点を考慮すると、上記のアルコール化合物の中でグリコール類が好適である。例えば、エチレングリコール(凝固点:−13℃、沸点:197.6℃)、ジエチレングリコール(凝固点:−8℃、沸点:244.3℃)、トリエチレングリコール(凝固点:−7.2℃、沸点:287.4℃)、プロピレングリコール(凝固点:−60以下、沸点:187.4℃)、ジプロピレングリコール(凝固点:−40℃、沸点:231.8℃)、トリプロピレングリコール(凝固点:−20℃以下、沸点:268℃)、1,4-ブタンジオール(凝固点:20.1℃、沸点:228℃)、1,3-ブタンジオール(凝固点:−50以下、沸点:207.5℃)、1,2-ブタンジオール(凝固点:−114℃、沸点:194℃)、1,5−ペンタンジオール(凝固点:−15.6℃、沸点:242.4℃)、3-メチルペンタンジオール(凝固点:−50℃以下、沸点:250℃)、グリセリン(凝固点:18.1℃、沸点:290℃)が挙げられる。中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオールが好適である。
【0023】
また、ジメチロールアルカン酸溶液の保存安定性の点を考慮すると、通常70℃以下、好ましくは30℃以下、更に好ましくは0℃以下の凝固点を有するアルコール化合物が好適である。凝固点が70℃を超える場合は、ジメチロールアルカン酸のアルコール化合物に対する溶解性が低下し、溶液の安定性も悪くなることがある。アルコール化合物の揮発性は、低いことが好ましい。アルコール化合物の沸点としては、好ましくは60℃以上、更に好ましくは100℃以上、より更に好ましくは150℃以上である。
【0024】
本発明のジメチロールアルカン酸溶液は、必要により、グリコール酸、乳酸、りんご酸などのヒドロキシアルカン酸を含んでいてもよい。また、本発明のジメチロールアルカン酸溶液のジメチロールアルカン酸は、トリエチルアミン、エタノールアミン類などの3級アミンで中和されていてもよい。
【0025】
本発明のジメチロールアルカン酸溶液は、ジメチロールアルカン酸をアルコール化合物に通常20〜120℃で溶解させることにより得られる。アルコール化合物とジメチロールアルカン酸の合計量に対するジメチロールアルカン酸の含有量の下限値は、通常5重量%、好ましくは10重量%であり、その上限値は、通常80重量%、好ましくは70重量%である。ジメチロールアルカン酸の含有量が5重量%未満の場合は、接着付与剤としての効果が不十分であり、ジメチロールアルカン酸の含有量が80重量%を超える場合は、保存安定の優れたジメチロールアルカン酸溶液が得られないことがある。
【0026】
本発明におけるジメチロールアルカン酸溶液は、これまでのジメチロールアルカン酸の用途に使用可能であることは勿論のこと、液状であることによる取り扱い性の良さ、樹脂や他の原料との相溶性や反応性の良さを利用して、幅広い用途に使用できる。例えば、通常のウレタン樹脂原料、コーティング剤の接着付与剤などの改質剤、有機溶剤型または無溶剤型ウレタン樹脂やポリエステル樹脂の原料、水性ウレタン樹脂や水性ポリエステル樹脂、電着塗料などの水性樹脂の水性化原料、エポキシ樹脂などの変性剤、粉体塗料原料、抗菌剤、乳化助剤などに有用である。
【0027】
次に、水性ウレタン樹脂原料およびコーティング剤の接着付与剤としての本発明のジメチロールアルカン酸溶液の使用について説明する。
【0028】
ジメチロールアルカン酸溶液は、ジメチロールアルカン酸とアルコール化合物とから成る組成物であって、そのもの自体は反応性物質ではなく、有機ポリイソシアネートとポリオールとに配合し、有機ポリイソシアネートとの反応によって水性ウレタン樹脂の構成成分となる。
【0029】
水性ウレタン樹脂は、一般に、(1)有機ポリイソシネート、ポリオール、ジメチロールアルカン酸および必要に応じて、鎖延長剤としてのグリコール類を有機溶剤存在下または無溶剤で反応させ、得られたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを中和し、水に分散させた後に、ウレタンプレポリマーをジアミン等で鎖延長し、次いで、必要に応じて、脱溶剤処理する方法、(2)有機ポリイソシネート、ポリオール、ジメチロールアルカン酸、グリコール類および必要に応じて、トリオール類を有機溶剤存在下で反応させ、得られた高分子量のポリウレタン溶液を3級アミン等で中和し、水を加えて分散させた後、脱溶剤処理する方法、(3)有機ポリイソシネート、ポリオール、ジメチロールアルカン酸および必要に応じて、グリコール類をアクリルモノマーの存在下で反応させ、得られたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーのアクリルモノマー溶液を中和し、水に分散し、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長し、アクリルモノマーをラジカル開始剤でラジカル重合する方法などによって製造されている。
【0030】
上述の方法の鎖延長剤を使用する方法で水性ウレタン樹脂を製造する場合、従来はジメチロールアルカン酸と鎖延長剤とを別々に仕込んでいたが、ジメチロールアルカン酸が固体紛末であるがゆえに、仕込み時に反応装置内に舞って扱い難く、また、反応時に完全に溶解せず反応装置内に残存、付着して凝集することがある。しかしながら、本発明のジメチロールアルカン酸溶液は、均一液体であり、予めジメチロールアルカン酸が溶解した状態で使用できるため、前述の様なトラブルを起こさずに品質の良い水性ウレタン樹脂を得ることが可能である。
【0031】
本発明の水性ウレタン樹脂の製造方法は、特に制約はなく、公知の如何なる方法に対しても適用できる。例えば、上記製造法において、ウレタンプレポリマーまたは高分子量ポリウレタンを製造する際に、固体紛末状のジメチロールアルカン酸を仕込む代わりに、ジメチロールアルカン酸のアルコール化合物溶液を反応装置内に供給する。その際、アルコール化合物としてグリコール類などを使用する場合は、グリコール類自体が有機ポリイソシアネートと反応して最終的に樹脂分子鎖に組み込まれ、鎖延長剤としての働きをする。勿論、鎖延長剤としてのグリコール類は必要に応じて追加することも出来るし、グリコール類以外にジアミン類などの鎖延長剤を併用することも出来る。
【0032】
水性ウレタン樹脂の製造において、前記(1)の方法のウレタンプレポリマー製造における有機ポリイソシアネートのNCO基とポリオール及びジメチロールアルカン酸溶液の水酸基との当量比は、NCO/OH=1.1/1〜30/1の範囲が好適である。その際、プレポリマーの粘度を下げ、後の乳化・分散の操作を容易にするため、必要に応じて有機溶剤を使用して適度な濃度に調整して有機溶剤中で反応させることも可能である。
【0033】
有機溶剤としては、樹脂の水性化後に除去しやすいように沸点が50〜120℃の有機溶剤が好ましい。例えば、アセトン(沸点56.3℃)、メチルエチルケトン(沸点79.6℃)、メチルイソブチルケトン(沸点117℃)、テトラヒドラフラン(沸点66℃)1,4−ジオキサン(沸点101.4℃)、酢酸エチル(沸点76.8℃)、トルエン(沸点110.6℃)等が挙げられる。それらの中で、ポリウレタン樹脂の溶解性が良いことおよび除去が容易なことを考慮すると、アセトン、メチルエチルケトンが好ましく、特に、アセトンが好ましい。
【0034】
ウレタン化反応温度は、通常20〜120℃、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは50〜95℃である。反応温度が40℃未満の場合は、原料の溶解性が悪く反応速度が遅くなる。また温度が90℃を超える場合は、カルボキシル基とイソシアネート基との反応が起き易くなり、プレポリマー中にゲル状物を生じたり全体がゲル化したりすることがある。反応時間は、各段階の反応において、反応温度、固形分などに依存し一概に定まらないが、通常1〜40時間程度である。また、ウレタン化反応は、無触媒でも良いが、反応促進のため、例えば、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンジオクトエート、スタナスオクトエートなどの有機金属触媒、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの3級アミン触媒を使用することが出来る。
【0035】
ウレタンプレポリマーを水に分散させるためには、ジメチロールアルカン酸由来のカルボキシル基を中和し、イオン基を形成して自己乳化性を付与することが必要である。使用する中和剤としては、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール等の3級アミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物が挙げられる。カルボキシル基に対する中和率は、通常50〜100モル%である。中和する際のウレタンプレポリマーの温度は20〜60℃の範囲が好ましい。
【0036】
中和したウレタンプレポリマーを水に分散する方法としては、通常の撹拌機による分散処理が挙げられる。より粒子径の細かい均一な水分散体を得る方法としては、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー、ラインミキサー等の使用による分散処理が挙げられる。水の添加は、一括仕込み、分割仕込み、滴下仕込み、強制注入などの方法によって行うが、ウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基と水との反応を考慮すると、水の添加は1時間以内に行うのが好ましい。得られたウレタンプレポリマーの水分散液に後述するジアミンなどの鎖延長剤を加えて、通常20〜50℃で鎖延長反応を行いポリウレタンを生成する。ウレタンプレポリマー製造に使用した有機溶剤を系内から除去する方法としては、空気または窒素などで追い出す方法、減圧留去、薄膜蒸発などの方法が挙げられる。
【0037】
水性ウレタン樹脂の製造に使用する有機ポリイソシアネートとしては、芳香族系(黄変タイプ)と脂肪族または脂環式系(無黄変タイプ)がある。例えば、芳香族系ポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート及びこれと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物(略してTDI)、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)等が挙げられる。また、脂肪族系ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられ、脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、TDIの水素添加物などが挙げられる。さらに、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用することが出来る。また、必要に応じて、上記TDI、HMDI、IPDI等の3量体またはトリメチロールプロパン等との反応物である多官能性イソシアネートを少量併用してもよい。
【0038】
ポリオールとしては、1分子中に水酸基を2個または2個以上有するものであれば、特に制限はなく、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール等が挙げられる。具体的には、ポリエーテルポリオールはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン/プロピレン)グリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、低分子量ジオールと二塩基酸との重縮合より得られるものと、低分子量ジオールを開始剤として開環反応により得られるものとがある。前者の二塩基酸と重縮合する低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられ、二塩基酸としてアジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。
【0039】
また、後者の低分子量ジオール開始剤としては、ポリε−カプロラクトン、ポリβ−メチル−δ−バレロラクトン等が挙げられる。ポリカーボネートポリオールとしては、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール系ポリカーボネートポリオール、炭素数4〜6の混合ジオール系ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。ポリブタジエンポリオールとしては、1,4−ポリブタジエンと1,2−ポリブタジエンからなるポリオールが挙げられる。水添ポリブタジエンポリオールは、ポリブタジエンポリオールを水素添加しパラフィン骨格を持ったものである。これらポリオール類の中では扱い易さの点から非結晶性、液状のものがより好ましい。また、必要に応じて、高分子ポリオールと前記低分子量のジオール、又は、トリメチロールプロパン、グリセリン等のトリオールを併用してもよい。前記のポリオール類は、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0040】
ポリオールの平均分子量は、通常500〜10,000、好ましくは500〜4,000である。平均分子量が500未満の場合は、ポリオールとしての機能が発揮されず、平均分子量が10,000を超える場合は、得られたウレタンプレポリマーの粘度が高くなり水分散時に凝集物の発生や、分散不良を引き起こすことがある。
【0041】
上述の(1)の方法におけるウレタンプレポリマーの鎖延長に使用される鎖延長剤として、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、シクロヘキシルメタンジアミン、イソホロンジアミン等のジアミン類、ヒドラジン、ジカルボン酸ジヒドラジド類、水などが挙げられる。これらの鎖延長剤の仕込み量は、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基に対する当量比がNCO/活性水素=1/0.8〜1/1.2の範囲となる様にすることが好ましい。
【0042】
上述の(2)の方法において、高分子量のポリウレタンを有機溶剤中で製造する場合、ウレタンプレポリマーを製造後に、必要に応じて、グリコール類、トリオール類などの鎖延長剤を加えて高分子量化反応を行う方法、または、最初から有機ポリイソシアネート、ポリオール、ジメチロールアルカン酸溶液および必要に応じて、他の鎖延長剤を加えて一括して高分子量化反応を行う方法がある。なお、中和、水分散、脱溶剤は(1)の方法と同様である。鎖延長する際の鎖延長剤の仕込み量は、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基に対する当量比がNCO/活性水素=1/0.8〜1/1.2の範囲となる様にすることが好ましい。
【0043】
上述の(3)の方法のウレタンプレポリマーのアクリルモノマー溶液を中和し、水に分散し、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長し、アクリルモノマーをラジカル開始剤でラジカル重合する方法においては、ウレタンプレポリマーの製造は、基本的には前記(1)と同様な条件で行う。但し、有機溶剤の代わりにアクリルモノマーを使用するので、アクリルモノマーの熱重合を防ぐために、メチルエチルハイドロキノンなどの重合禁止剤を適量添加して酸素の存在下で反応させることが好ましい。
【0044】
ウレタンプレポリマーの反応時に使用するアクリルモノマーとしては、基本的に水酸基、カルボキシル基、シラノール基、アミノ基、グリシジル基などのイソシアネートと反応する基を有しないアクリルモノマーが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル等が挙げられる。また、アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルホルムアミド等のアミド基を有するモノマー、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート等の三級アミノ基を有するモノマー、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の窒素を含有するモノマー、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式モノマー、スチレン、α−メチルスチレン、メタクリル酸フェニル等の芳香族系モノマー、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等の含珪素モノマー、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の含フッ素モノマー等が挙げられる。その他、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート等の多官能の不飽和二重結合を有するモノマーが挙げられる。
【0045】
また、ポリウレタン分子鎖にアクリルポリマーをグラフトさせる場合は、プレポリマー反応時に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー等の活性水素基を含有するモノマーを少量加えてポリウレタン末端または分子鎖中に不飽和二重結合基を導入することによって行われる。
【0046】
これらアクリルモノマーは、通常の有機溶剤と比較するとウレタンプレポリマーに対し必ずしも良溶媒と言えず、溶液粘度が高くなるため水に分散しにくくなるので、ウレタンプレポリマーの平均分子量を好ましくは10,000以下、更に好ましくは6,000以下に設定することがよい。なお、平均分子量は、NCO基含有量の測定によって計算される数平均分子量である。必要に応じて、本発明の趣旨を超えない範囲で有機溶剤を併用してもよい。また、樹脂の塗膜乾燥時の造膜性を高め、塗膜の柔軟性や伸びを向上させるために、フタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系、エポキシ系などの可塑剤を添加してもよい。
【0047】
また、ウレタンプレポリマーとアクリルモノマーの割合は、ウレタンプレポリマー:アクリルモノマー=10:90〜90:10(重量比)、更に好ましくはウレタンプレポリマー:アクリルモノマー=20:80〜80:20であることが好適である。ウレタンプレポリマーの重量比が10未満の場合は、ウレタンの特徴である機械的物性、基材への密着性、耐摩耗性、柔軟性などを得ることが困難である。ウレタンプレポリマーの重量比が90を超える場合は、アクリルモノマー重合体の特徴である耐候性などが十分得られないことがある。
【0048】
ウレタンプレポリマーのアクリルモノマー溶液にアクリルモノマーを更に追加する場合の追加時期は、特に限定されず、後述のウレタンプレポリマーの中和工程の前、中和工程中または中和後の任意の時期に追加することが出来る。また、中和したウレタンプレポリマーを水に分散させた後、この分散液にアクリルモノマー追加することも出来る。
【0049】
ウレタンプレポリマーのアクリルモノマー溶液を水に分散するためには、上述の(1)の方法と同様に中和剤を加え、ウレタンプレポリマーに自己乳化性を付与する。イオン基の含有量は、イオン基1個あたりのウレタンプレポリマーの平均分子量が500〜4000となる様な含有量が好ましい。この値が500未満の場合は、得られる樹脂の皮膜物性や耐水性が悪化することがある。また、4000を超える場合は、ウレタンプレポリマーの自己乳化性が不足し分散粒子の平均粒子径が大きくなり分散安定性が悪くなるばかりでなく、緻密な皮膜が形成しにくいことがある。得られる樹脂塗膜の耐水性や基材への密着性の点からも外部乳化剤を使用しないことが好ましいが、ウレタンプレポリマーのアクリルモノマー溶液の水分散液の安定性またはそれを重合する際の安定性を増すために、少量の外部乳化剤または反応性活性剤を併用してもよい。(ここで、外部乳化剤とは自己乳化性のウレタンプレポリマー以外に加える乳化剤を意味する。)
【0050】
ウレタンプレポリマーのアクリルモノマー溶液を水に分散する方法としては、上述の(1)の方法と同様であり、水分散液を得た後、ウレタンプレポリマーを鎖延長し、次いで、これに重合開始剤を添加してアクリルモノマーの重合を実施する。ウレタンプレポリマーの鎖延長とアクリルモノマーの重合はどちらが先でも、同時でも良い。ウレタンプレポリマーの鎖延長の際に使用される鎖延長剤としては、上述の(1)の方法に示したものを使用することが出来、鎖延長の条件も同様である。
【0051】
前記水分散液のアクリルモノマーの重合には公知の重合方法が適用できる。ラジカル重合開始剤は、水溶性開始剤または油溶性開始剤と共に使用可能である。油溶性開始剤を使用する場合は、ウレタンプレポリマーのアクリルモノマー溶液に添加しておくことが好ましい。これら重合開始剤は、アクリルモノマーに対して通常0.05〜5重量%であり、重合温度は、通常20〜100℃である。なお、レドックス系開始剤を使用する場合は、重合温度が75℃以下で十分である。
【0052】
重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソブチルバレロニトリル等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、クミルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、ラウリルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジンカーボネイト等の有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの無機パーオキサイド化合物が挙げられる。有機または無機パーオキサイド化合物は、還元剤と組み合わせてレドックス系開始剤として使用してもよい。還元剤としては、L−アスコルビン酸、L−ソルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、ロンガリット等が挙げられる。この際の重合開始剤の組み合わせ及び添加方法は任意に選択することが出来る。また、アクリルモノマーの重合における分子量を調節する目的で公知の連鎖移動剤、例えば、オクチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、ドデシルメルカプタン、チオグリセリン等を使用してもよい。
【0053】
本発明のジメチロールアルカン酸溶液を水性ウレタン樹脂製造に使用する場合、有機ポリイソシアネートとの反応によって適度に高分子量化させるためにはアルコール化合物としてグリコール類が好ましい。ウレタン樹脂を乳化するためのジメチロールアルカン酸によって導入されるカルボキシル基含有量は、樹脂固形分中通常0.5〜7重量%であるが、ジメチロールアルカン酸溶液中のジメチロールアルカン酸含有量とのバランスよって適宜添加量を調節する。この場合、グリコール類は、ウレタン樹脂の鎖延長剤として働く。なお、樹脂の物性を調節するために別のグリコール類やジアミン類を併用することも出来る。
【0054】
得られる水性ウレタン樹脂は、固形分が通常15〜60重量%である。その平均粒子径は、通常10〜1000nmの範囲である。水性ウレタン樹脂は、塗料、コーティング剤、接着剤、各種バインダー、含浸剤などに使用できる。
【0055】
水性ウレタン樹脂の分子量は、乾燥皮膜の強度、伸び等の機械的物性を考慮するに、数平均分子量で通常5,000〜500,000である。粘度は、取り扱い易さの点から、通常5〜5,000mPa・s/25℃である。
【0056】
また、本発明のジメチロールアルカン酸溶液はコーティング剤の接着付与剤としても有用である。
【0057】
コーティング剤がジメチロールアルカン酸を溶解しうる有機溶剤を含有している場合は、固体粉末であるジメチロールアルカン酸をそのまま加えることも出来る。しかしながら、ジメチロールアルカン酸を均一に溶解させるためには、時間をかけて十分な混合・撹拌が必要であり、溶解しにくい場合は加熱が必要である。いずれの場合においても、ジメチロールアルカン酸の固体粉末を短時間で均一溶解することは困難である。また、ジメチロールアルカン酸を通常の有機溶剤に溶解して加えることも可能ではあるが、ジメチロールアルカン酸の溶解度が小さいために低濃度のジメチロールアルカン酸溶液しか得ることが出来ず、その結果、多量の有機溶剤がコーティング剤に混入することになり、配合の自由度の制約、揮発性有機化合物(VOC)の増加などの問題が起こる。
【0058】
それに対して、本発明のジメチロールアルカン酸溶液は、予め高濃度のアルコール化合物溶液であるため、コーティング剤への配合が容易である。特に、アルコール化合物としてグリコール類やトリオール類を使用した場合は、揮発成分が殆どなく、無溶剤系または有機溶剤量の少ないコーティング剤へ直接配合できるため、VOCが削減され好ましい。
【0059】
本発明のジメチロールアルカン酸溶液は、活性水素を有していてもよい合成樹脂および/またはポリオール、ブロックされていてもよいポリイソシアネート硬化剤を使用するウレタン系コーティング剤の接着付与剤として好適である。ウレタン系コーティング剤は、1液型、2液型、3液型などのいずれの形態をとっても良いが、2液型のコーティング剤が好適である。この場合、活性水素を有していてもよい合成樹脂および/またはポリオールとジメチロールアルカン酸溶液とからなる成分とポリイソシアネート硬化剤とから成る2液、または、有機ポリイソシアネートとポリオールとの反応により得られるイソシアネート基末端プレポリマーからなる成分とジメチロールアルカン酸溶液とから成る2液型のコーティング剤が挙げられる。この様なコーティング剤における任意成分として、有機溶剤が挙げられる。なお、ウレタン系コーティング剤とは、活性水素とポリイソシアネートとの反応を利用する全てのコーティング剤を包含する。また、上記のコーティング剤とは、コーティング剤に限定されず、コーティング操作が含まれる限り、例えば、接着剤、塗料、印刷用インキなどを包含する概念である。
【0060】
上記の活性水素を有していてもよい合成樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などの分子内に活性水素原子を有する合成樹脂と、塩化ビニル樹脂などの分子内に活性水素原子を有していない合成樹脂とが挙げられる。合成樹脂としては、有機溶剤中で原料を反応または重合した樹脂を使用することも出来る。また、バルク反応または重合した樹脂、または、水中で乳化重合、懸濁重合などにより得られた固体樹脂を無溶剤で又は有機溶剤に溶解して使用することも出来る。これらの樹脂は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂であってもよい。
【0061】
合成樹脂の数平均分子量は、通常100〜2,000,000、好ましくは500〜1,000,000である。数平均分子量が100未満の場合は、造膜性が悪く、硬化塗膜の強度などの物性が不十分である。また、数平均分子量が2,000,000を超える場合は、合成樹脂の有機溶剤への溶解性低下に伴い、ジメチロールアルカン酸溶液やポリイソシアネート硬化剤との相溶性が悪くなり、良好な接着性を得るのが困難である。
【0062】
合成樹脂は、固体、無溶剤の液体、溶液、分散液、ゾル、粉体などの如何なる形態でも使用できる。そして、好ましい形態は、塗膜形成の反応の際、液状であることが必要であるため、溶液、分散液、ゾル等の液状である。この場合、樹脂の媒体は、有機溶剤でも水でもよいが、好ましくは有機溶剤である。この場合の合成樹脂の固形分含量は、通常10〜100重量%、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%である。
【0063】
上記の有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、前記のアルコール系溶剤、セロソルブ類、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、メチレンジクロライド等が挙げられる。これらの溶剤は、単独または2種以上混合して使用してもよい。また、フタル酸エステル系エステル、トリメリット酸系エステル、アジピン酸系エステル等の脂肪族二塩基酸エステル、クエン酸系エステル、マレイン酸系ポリエステル、リン酸系エステル、エポキシ系エステル、パラフィン系エステルなどの可塑剤も使用できる。
【0064】
これらの合成樹脂の中ではポリウレタン樹脂が好ましい。ポリウレタン樹脂は、フォーム、注型用エラストマー、シール材、溶液型樹脂などの何れの形態のものであってもよいが、中でも、有機溶剤に溶解した溶剤型ポリウレタン樹脂が好ましい。溶剤型ポリウレタン樹脂は、前記の有機ポリイソシアネート、ポリオールおよび必要に応じて、鎖延長剤およびモノアルコール、モノアミン、アルカノールアミン等の分子量または粘度調節剤から製造される。得られる溶剤型ポリウレタン樹脂の平均分子量は、通常5,000〜500,000であり、かつ、得られるポリウレタン樹脂溶液の固形分は、通常15〜60重量%である。
【0065】
ポリオールとしては、前記のウレタン樹脂原料として使用されるものをそのまま使用することができる。
【0066】
前記のブロックされていてもよいポリイソシアネート硬化剤としては、前記の有機ポリイソシアネートとグリコール類またはトリオール類との末端イソシアネート基アダクト体、有機ポリイソシアネートの二量体または三量体、有機ポリイソシアネートのビュレット体、または、それらの末端イソシアネート基をオキシム化合物またはフェノール化合物でブロックした化合物などの無溶剤型、有機溶剤溶液または可塑剤溶液としたものが挙げられる。
【0067】
本発明においてジメチロールアルカン酸溶液を接着付与剤として用いる場合、コーティング剤中のジメチロールアルカン酸の含有量は、固形分当り通常0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。
【0068】
なお、コーティング剤は、必要により、各種顔料、着色剤、酸化防止剤、光安定剤、硬化促進触媒などの添加剤を含有してもよい。
【0069】
上記の各コーティング剤が適用される基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン及びその表面処理物、ポリエステル及びその表面処理物、ポリスチレン、塩化ビニル、ナイロン、ABS、ポリカーボネート、アクリル樹脂などのプラスチックおよび金属蒸着プラスチック等が挙げられる。また、鋼およびその表面処理物、銅、アルミニウム等の金属、プレコートメタル、電着塗装板、ガラス、セラミックス、モルタル、コンクリート、紙、木などが挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下、「部」とは「重量部」、「%」とは「重量%」を示す。
【0071】
実施例1:
1Lのセパラブルフラスコに1,4-ブタンジオール233.3部、ジメチロールブタン酸(以後、DMBAと略す)100部を仕込み、70℃で2時間加熱・混合し、DMBAを30%含有する均一な溶液を得た。得られた溶液を25℃で30日放置したが、析出や分離はなく安定であった。得られたDMBA溶液を組成物Aとする。
【0072】
実施例2〜5
多価アルコールとして、プロピレングリコール(実施例2)、エチレングリコール(実施例3)、グリセリン(実施例4)、ジプロピレングリコール(実施例5)を使用し、実施例1と同様の方法で、プロピレングリコール、エチレングリコール及びグリセリンは、各々DMBAを50%含有する溶液、ジプロピレングリコールは、DMBAを30%含有する均一な溶液を得た。得られた溶液を25℃で30日放置したが、析出や分離はなく安定であった。これらの溶液を、各々、組成物B、組成物C、組成物D、組成物Eとする。実施例1〜5の結果を表1に示す。
【0073】
比較例1:
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学社製「PTMG1000」(商品名)平均分子量1000)200部、DMBA17.5部を仕込み、実施例1と同様の方法で混合して、70℃でDMBAを8%含有する均一な溶液を得た。この溶液を25℃で30日放置したところ大半のDMBAが析出した。溶解しているDMBA含有量は3%であった。この溶液を組成物Fとする。
【0074】
比較例2:
ポリブチレンアジペート(大日本インキ化学工業社製「OD−X−668」(商品名)平均分子量2000)200部、DMBA6.2部を仕込み、実施例1と同様の方法で混合して、70℃でDMBAを6%含有する均一な溶液を得た。この溶液を25℃で30日放置したところ大半のDMBAが析出した。溶解している部分のDMBA含有量は2%であった。この溶液を組成物Gとする。
【0075】
比較例3:
ポリプロピレングリコール(旭ガラスウレタン社製「エクセノール2020」(商品名)平均分子量2000)200部、DMBA8.4部を仕込み、実施例1と同様の方法で混合して、70℃でDMBAが4%含有する均一な溶液を得た。この溶液を25℃で30日放置したところ大半のDMBAが析出した。溶解しているDMBA含有量は2%であった。この溶液を組成物Hとする。比較例1〜3の結果を表2に示す。
【0076】
実施例6(水性ウレタン樹脂原料としての利用例):
還流器付き2Lセパラブルフラスコにポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学社製「PTMG2000」(商品名)平均分子量2000)200g、実施例2で得られた組成物B59.2g、スズ系触媒(日東化成社製「ネオスタンU−8」(商品名))0.1g、アセトン576.9gを仕込んだ。これらの原料を50℃に加熱し、混合・撹拌して均一溶解した。次いで、トリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製「T−80」(商品名))125.4gを加え、更に発熱を見ながらトリエチルアミン5.0gを徐々に加えて60℃で8時間反応させた後、40℃に冷却した。樹脂溶液は均一透明であった。
【0077】
更に、トリエチルアミン9.1g添加、混合した後、脱塩水883.3gを徐々に加えウレタン樹脂を水に分散させ、減圧でアセトンを除去し、固形分30%の乳白色の水性ウレタン樹脂を得た。このものは、凝集物はなく均一な分散液であった。本発明のジメチロールアルカン酸組成物は、液状で扱い易く、品質の良い水性ウレタン樹脂を製造するための原料として適したものであった。
【0078】
比較例4:
実施例2で得られた組成物Bの代わりに、DMBA29.6部、プロピレングリコール29.6部を別々に仕込んだ以外は実施例1と同様にして、アセトン中で反応したがDMBAの塊が一部撹拌翼や内壁に残存し、得られた樹脂溶液にやや濁りが認められた。これを水に分散したものは、凝集物を多く含んでいた。
【0079】
実施例7(接着付与剤としての利用例):
2液型ウレタン接着剤を想定して以下、評価を行った。ポリエステル系2官能ポリオール(住化バイエルウレタン社製「デスモフェン1700」(商品名)平均分子量2540)100部に、実施例1で得られた組成物Aを10部、メチルエチルケトン53.5部を添加し、均一に溶解してA液とした。
【0080】
TDI/トリメチロールプロパンアダクト体ポリイソシアネー硬化剤(三菱化学社製「マイテックGP105A」(商品名)固形分75重量%、溶剤:酢酸エチル)88.2部(NCO/OH=1/1当量比に相当)を秤量してB液とした。そして、A液とB液を混合して、コーティング剤に使用した。接着性は以下の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0081】
基材として、コロナ放電処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ0.1mm)、ナイロン6フィルム(厚さ0.3mm)、無処理アルミ板(厚さ0.1mm)を使用し、基材を70mm×150mmに切断し、上記溶液を200μmのドクターブレードを使用して塗布し、80℃で1時間乾燥した後、同じ基材を貼り合わせて、80℃で24時間加熱硬化して接着試験片とした。次いで、23℃、60%RHの環境に1日放置した後、試験片を25mm幅に切断し、同じ環境下で引張試験機(オリエンテック社製、「テンシロンRTM−500」(商品名))を使用して、50mm/分の速度で剥離強度を測定し接着性評価を行った。
【0082】
比較例5:
実施例1で得られた組成物AのDMBAを同当量の1,4−ブタンジオールの代わりに1,4−ブタンジオールを単独で使用した以外は、実施例7と同様の方法により、A液を調製した。A液の合計のOH基に対してNCO/OH=1/1当量比となるようにポリイソシアネート硬化剤のB液を秤量して、2液型コーティング剤とし、実施例7と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
表中、PTMG1000としては三菱化学社製、ポリテトラメチレングリコール(平均分子量1000)を、OD−X668としては大日本インキ化学工業社製、ポリブチレンアジペート(平均分子量2000)を、エクセノール2020としては旭硝子ウレタン社製、ポリプロピレングリコール(平均分子量2000)を使用した。
【0086】
【表3】

【0087】
上述の表1の実施例1〜5および表2の比較例1〜3から明らかなように、本発明のジメチロールアルカン酸溶液は、ジメチロールアルカン酸を高濃度で含有し、溶液としての安定性が良好である。また、実施例6および比較例4から明らかなように、本発明のジメチロールアルカン酸溶液は、水性ウレタン樹脂の原料に有用であることがわかる。本発明のジメチロールアルカン酸溶液の接着付与剤としての使用例の結果を表3に示すが、実施例7および比較例5から、本発明のジメチロールアルカン酸溶液を配合することによって、ウレタン樹脂の基材に対する接着性を向上させる効果が認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチロールアルカン酸を溶媒に溶解してなるジメチロールアルカン酸溶液であって、溶媒が分子量400以下のアルコール化合物であることを特徴とするジメチロールアルカン酸溶液。
【請求項2】
ジメチロールアルカン酸がジメチロールブタン酸である請求項1に記載のジメチロールアルカン酸溶液。
【請求項3】
アルコール化合物が分子内に2個以上の水酸基を有する多価アルコールである請求項1又は2に記載のジメチロールアルカン酸溶液。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のジメチロールアルカン酸溶液と有機ポリイソシアネートとポリオールとを反応させることを特徴とする水性ウレタン樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする水性ウレタン樹脂。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のジメチロールアルカン酸溶液からなることを特徴とする接着付与剤。
【請求項7】
請求項6の接着付与剤を配合してなることを特徴とするコーティング剤。

【公開番号】特開2006−89613(P2006−89613A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277165(P2004−277165)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】