説明

ジャトロファ抽出物、抗酸化剤および抗酸化剤の製造方法

【課題】ジャトロファの種子を原料として有効に活用できる抗酸化機能を有するジャトロファ抽出物を提供。また、このジャトロファ抽出物から精製された天然化合物を有する抗酸化剤および、かかる抗酸化剤を製造する方法を提供する。
【解決手段】ジャトロファの種子を含む被抽出物を溶媒抽出して抽出されたものであるジャトロファ抽出物。このジャトロファ抽出物は抗酸化機能を有しており、カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物、1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物、および、カテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物、のうちの少なくとも1つの化合物を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャトロファ抽出物、抗酸化剤および抗酸化剤の製造方法に関する。さらに詳しくは、ジャトロファから抽出された抗酸化機能を有するジャトロファ抽出物、ジャトロファから抽出されたカテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物、1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物およびカテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物、のうちの少なくとも1つの化合物を含む抗酸化剤および抗酸化剤を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油を原料とする燃料の代替燃料のひとつにバイオディーゼル燃料が注目されている。バイオディーゼル燃料は、窒素成分や硫黄成分を含有しないので、このバイオディーゼル燃料をディーゼル機関等に使用しても大気中に窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)などの大気汚染物質を排出しないこという利点がある。また、バイオディーゼル燃料は、カーボンニュートラルであるため、これを従来の化石燃料と同様に使用しても大気中の二酸化炭素濃度を増加させることにならないので、地球温暖化を抑制することができるという利点がある。
【0003】
ここで、バイオディーゼル燃料とは、原料となる油脂を含有した植物等から搾油された植物油等の主成分であるトリグリセリドをメチルアルコール等のアルキルアルコールとエステル交換反応させることにより生成される脂肪酸アルキルエステルを主成分とする液体燃料のことである。
【0004】
バイオディーゼル燃料の原料には、従来、食料や飼料として生産されている菜種、大豆、トウモロコシなどの植物から搾油された油や、この搾油された油の廃油などが用いられてきた。しかし、近年の食料事情の観点から、かかる原料からバイオディーゼル燃料を生産することによって、バイオディーゼル燃料と食料の競合が生じており、例えば、食料価格の急騰などが問題となっている。
【0005】
ところで、近年、トウダイグサ科のジャトロファ属のジャトロファ(学名:Jatropha
curcas、和名:ナンヨウアブラギリ)が注目されている。ジャトロファは、熱帯および亜熱帯地域において、簡便、安価かつ安定的に栽培できる植物である。具体的には、乾燥や病害虫に強く、塩類集積地などの問題土壌でも栽培でき、1年程度で種子をつける。しかも、かかる種子は、油脂含有率が種子重量に対して約30重量%と非常に高く、この油脂含有率は、一般的なバイオディーゼル燃料の原料である菜種等の種子に比べて重量当たり約3〜5倍の油脂量に相当する。一方、ジャトロファの種子は、食料として適していない。
このように、ジャトロファは、種子中の油脂含有量も高く、しかも、食料と競合しないので、バイオディーゼル燃料の原料に使用することは非常に有効である。
このため、ジャトロファから搾油された植物油(以下、単にジャトロファ油という)を原料として生産されたバイオディーゼル燃料をディーゼル機関用などの燃料として使用するための技術の開発が進められている。
【0006】
ところで、ジャトロファ油や菜種油などの植物油は、不飽和脂肪酸を含むため、非常に酸化されやすい性質を有しており、搾油された植物油からバイオディーゼル燃料を生成するまでの処理時間が長くなれば、貯蔵等している間に植物油中に酸化物等が生成される。このような酸化物等は、バイオディーゼル燃料を生産する際の不純物となるため、バイオディーゼル燃料の生産性効率が低下するという問題がある。しかも、バイオディーゼル燃料の生産工程において、かかる不純物を除去するには、煩雑な処理工程が必要となるので、経済性も低下する。
したがって、ジャトロファ油などの植物油の酸化を防止するために、化学合成品のブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)や、天然化合物のトコフェロールなどが、酸化防止剤としてジャトロファ油などの植物油に添加される。
しかしながら、近年、化学合成品であるBHAやBHTには、発癌性の疑いが持たれており、安全性の観点から問題となっている。しかも、バイオディーゼル燃料またはその製造工程において、石油由来の化学合成品を加えるということは、石油を原料とする燃料の代替燃料として植物等の天然資源(自然資源つまりバイオマス)を原料にバイオディーゼル燃料を生産するということと矛盾する。
一方、天然化合物であるトコフェロールは、BHAやBHTなどの化学合成品に比べると酸化防止機能は若干劣るものの、安全な酸化防止剤である。しかしながら、トコフェロールなどの天然化合物は、非常に高価であるため、かかる天然化合物をジャトロファ油などの植物油の酸化防止剤として採用した場合、生産されたバイオディーゼル燃料は非常に高価になり、経済性が低下するという問題がある。
【0007】
また、石油を原料とする燃料の代替燃料としてのバイオディーゼル燃料の需要は、今後ますます増加するものと予想される。上述したようにジャトロファの種子から搾油されたジャトロファ油もバイオディーゼル燃料等に有効に活用できるので、バイオディーゼル燃料の需要増加に対してジャトロファ油の供給量の増加が予想される。
しかしながら、ジャトロファ油はジャトロファの種子から搾油されるので、ジャトロファ油を生産すると一定量の搾油カスが副生産物として発生する。このため、ジャトロファ油の供給量の増加にともなって搾油カスの多量発生という問題が予想される。
【0008】
一般的に、ジャトロファ油に限らず、バイオディーゼル燃料の原料から発生する搾油カスは、廃棄または焼却して処理されるというのが実情である。また、廃棄または焼却処理以外の活用方法としては、搾油カスをペレット状にすることにより火力発電所用等の固形燃料に利用する技術が提案されている(特許文献1)。
【0009】
しかし、現在のところ、ジャトロファの搾油カスの活用方法としては、固形燃料として利用する方法以外の活用方法は見当たらず、新たな活用方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−65154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、ジャトロファの種子を原料として有効に活用できる抗酸化機能を有するジャトロファ抽出物を提供することを目的とする。また、このジャトロファ抽出物から精製された天然化合物を有する抗酸化剤および、かかる抗酸化剤を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明のジャトロファ抽出物は、ジャトロファの種子を含む被抽出物を溶媒抽出して抽出されたものであることを特徴とする。
第2発明のジャトロファ抽出物は、第1発明において、前記被抽出物が、前記ジャトロファの種子から搾油したのちの搾油残渣を含むものであることを特徴とする。
第3発明のジャトロファ抽出物は、第1または第2発明において、前記被抽出物は、油脂成分を除去したものであることを特徴とする。
第4発明の抗酸化剤は、カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物、1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物、および、カテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物、のうちの少なくとも1つの化合物を含んでいることを特徴とする。
第5発明の抗酸化剤は、第4発明において、前記カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物が、一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2がヒドロキシ基を表す場合にはR3がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR4がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R3およびR4がヒドロキシ基を表す場合にはR1がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR2がヒドロキシ基またはメトキシル基を表す)で表される化合物であることを特徴とする。
第6発明の抗酸化剤は、第4または第5発明において、前記1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物が、一般式(2)
【化2】

(式中、R5は水素またはメチル基を表す)で表される化合物であり、
および/または、一般式(3)
【化3】

(式中、R6は水素またはメチル基を表す)で表される化合物であることを特徴とする。
第7発明の抗酸化剤は、第4、第5または第6発明において、前記カテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物が、一般式(4)
【化4】

(式中、R11がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R7およびR8がヒドロキシ基を表す場合にはR9がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR10がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R9およびR10がヒドロキシ基を表す場合にはR7がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR8がヒドロキシ基またはメトキシル基を表す)で表される化合物であり、
および/または、一般式(5)
【化5】

(式中、R16がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R12およびR13がヒドロキシ基を表す場合にはR14がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR15がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R14およびR15がヒドロキシ基を表す場合にはR12がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR13がヒドロキシ基またはメトキシル基を表す)で表される化合物であることを特徴とする。
第8発明の抗酸化剤は、第4、第5、第6または第7発明において、前記カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物、1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物、および、カテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物、のうちの少なくとも1つの化合物がジャトロファの種子から抽出されたものであることを特徴とする。
第9発明の抗酸化剤の製造方法は、ジャトロファの種子を含む被抽出物を溶媒抽出する溶媒抽出工程を備えていることを特徴とする。
第10発明の抗酸化剤の製造方法は、第9発明において、前記溶媒抽出工程が、前記被抽出物から油脂成分を除去する油脂成分除去工程と、該油脂成分除去工程で油脂成分を除去したのちの被抽出物を極性を有する溶媒を用いて抽出する極性溶媒抽出工程と、を順に行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明によれば、天然物のジャトロファの種子を含む被抽出物を溶媒抽出すれば、ジャトロファ抽出物を得ることができる。このジャトロファ抽出物は、抗酸化機能を有しており、しかも、このジャトロファ抽出物の抗酸化機能は、天然化合物のトコフェロールと同等もしくはそれ以上の抗酸化機能を有する。したがって、ジャトロファ抽出物をジャトロファ油などの植物油に対して添加すれば、植物油の酸化を抑制でき、植物油を、その品質低下を抑えながら保存することが可能である。また、このジャトロファ抽出物は、天然物のジャトロファの種子が原料となるので有害な化学合成物を含まないから、安全に使用できる。さらに、ジャトロファ抽出物は、簡便かつ安定的に栽培されるジャトロファの種子から簡単に抽出できるので、安価かつ安定的に供給できる。
第2発明によれば、従来、固形燃料としての利用価値しかなかったジャトロファの搾油カス(以下、搾油残渣という)を有効に活用することができる。しかも、搾油残渣はジャトロファの種子を圧縮、粉砕等することにより生成されるので、搾油残渣と抽出溶媒との接触面積を大きくできる。すると、ジャトロファ抽出物の抽出効率を高めることができる。また、搾油残渣を溶媒抽出することにより搾油残渣を減容化できるので、溶媒抽出後の搾油残渣の処理を効率よく行うことができる。
第3発明によれば、油脂成分を除去した被抽出物を溶媒抽出するので、ジャトロファ抽出物の抽出効率をより高めることができる。しかも、油脂成分の含有率が低いジャトロファ抽出物を得ることができるので、抗酸化機能が高いジャトロファ抽出物となる。
第4発明によれば、カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物、1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物およびカテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物のうち少なくとも1つの化合物が含まれているので、高い抗酸化機能を有する抗酸化剤となる。
第5発明によれば、カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物が、一般式(1)で表される化合物であるので、抗酸化機能を有する抗酸化剤となる。しかも、R1、R2、R3およびR4がヒドロキシ基を表す場合には、カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物が、その分子内に2つのカテコール基と、フロフラン骨格を有する化合物となるので、高い抗酸化機能を有する抗酸化剤となる。
第6発明によれば、1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物が、一般式(2)および/または一般式(3)で表される化合物であるので、抗酸化機能を有する抗酸化剤となる。しかも、1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物は、その分子内に1,4−ベンゾジオキサン骨格と、カテコール基を有する化合物であるので、高い抗酸化機能を有する抗酸化剤となる。
第7発明によれば、カテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物が、一般式(4)および/または一般式(5)で表される化合物であるので、抗酸化機能を有する抗酸化剤となる。しかも、R7、R8、R9およびR10がヒドロキシ基を表す場合には、カテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物が、その分子内に2つのカテコール基を有し、しかもフロフラン骨格および1,4−ベンゾジオキサン骨格を有する化合物となるので、高い抗酸化機能を有する抗酸化剤となる。
第8発明によれば、カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物、1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物およびカテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物のうち少なくとも1つの化合物は、天然物のジャトロファの種子を原料として製造されたものであるので、かかる化合物の少なくともいずれかを含む抗酸化剤は、安全に使用できる。また、この抗酸化剤は、簡便かつ安定的に栽培されるジャトロファの種子から抽出でき、しかも、煩雑な化学合成工程や、微生物発酵酵素や生体内酵素などの長時間の酵素変換工程等も不要であるので、安価かつ安定的に供給できる。そして、化学合成工程を行う場合に必要な酸やアルカリまたは化学合成触媒などの高価な試薬、危険または有毒な試薬などの有害物質を全く必要としないので、安全に使用できる。
第9発明によれば、天然物のジャトロファの種子を含む被抽出物を溶媒抽出するので、ジャトロファ抽出物を得ることができる。このジャトロファ抽出物は、抗酸化機能を有しており、しかも、このジャトロファ抽出物の抗酸化機能は、天然化合物のトコフェロールと同等もしくはそれ以上の抗酸化機能を有する。したがって、溶媒抽出工程だけで、天然の抗酸化機能を有する抗酸化剤を製造することができる。また、簡便かつ安定的に栽培される天然物のジャトロファの種子が原料となるので、安全に使用できる抗酸化剤を安価かつ安定的に製造することができる。
第10発明によれば、被抽出物から油脂成分を除去したのち、ジャトロファ抽出物を抽出するので、ジャトロファ抽出物の抽出効率をより高めることができる。したがって、ジャトロファ抽出物の抽出効率が高くなるので、抗酸化機能が高い抗酸化剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のジャトロファ抽出物の溶媒抽出の概略フロー図である。
【図2】本発明のジャトロファ抽出物の溶媒抽出に使用する装置の概略図である。
【図3】本発明のジャトロファ抽出物に含まれる化合物を単離するための概略フロー図である。
【図4】実施例のジャトロファ抽出物の抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図5】実施例のジャトロファ抽出物の抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図6】実施例のジャトロファ抽出物の抗酸化活性試験(Folin-Ciocalteu法)の結果を示した図である。
【図7】実施例の酸化抑制試験(AV試験紙)の結果を示した図である。
【図8】実施例の酸化抑制試験(TBA試験紙)の結果を示した図である。
【図9】実施例の酸化抑制試験(POV試験紙)の結果を示した図である。
【図10】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物Yの抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図11】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物Zの抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図12】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物Yおよび化合物Zの抗酸化活性試験(Folin-Ciocalteu法)の結果を示した図である。
【図13】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物WSの抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図14】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物XSの抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図15】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物WRの抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図16】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物YSの抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図17】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物ZSの抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図18】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物XHの抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図19】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物IPの抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図20】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物Pの抗酸化活性試験(ラジカル消去活性)の結果を示した図である。
【図21】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物YS、化合物ZS、化合物WR、化合物WS、化合物XS、化合物XH、化合物IPおよび化合物Pのラジカル消去活性(IC25)の結果を示した図である。
【図22】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物YS、化合物ZS、化合物WR、化合物WS、化合物XS、化合物XH、化合物IPおよび化合物Pの抗酸化活性試験(Folin-Ciocalteu法)の結果を示した図である。
【図23】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物YS、化合物Y、化合物ZS、および化合物Zのラジカル消去活性(IC25)の結果を示した図である。
【図24】実施例のジャトロファ抽出物中の化合物YS、化合物Y、化合物ZS、および化合物Zの抗酸化活性試験(Folin-Ciocalteu法)の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
【0016】
本発明のジャトロファ抽出物は、ジャトロファの種子を含む被抽出物tを溶媒抽出することによって得られるものであり、植物油、鉱物油、油脂製品、化粧品などの酸化されやすいものに対して添加すれば、植物油等の酸化を抑制する機能を有するものである。
【0017】
(ジャトロファ抽出物について)
本発明のジャトロファ抽出物は、少なくともジャトロファの種子を含む被抽出物tを溶媒抽出することによって得られるものであり、被抽出物tにジャトロファの種子を含むものであれば、とくに限定されない。例えば、種子殻や、果肉等を含むものも本発明のジャトロファ抽出物の被抽出物tに含まれる。
【0018】
(ジャトロファの説明)
本発明のジャトロファ抽出物について説明する前に、まず、ジャトロファの種子について簡単に説明する。
ジャトロファは、学名をJatropha curcas L.、和名をナンヨウアブラギリといい、トウダイグサ科に属する多目的の低木であり、中南米の熱帯地域を原産とするが、アフリカやアジア等の熱帯地域や亜熱帯地域でも栽培することができる植物である。ジャトロファは、乾燥や病害虫に強く、塩類集積地などの一般植物が成長しにくい荒れた土壌でも栽培することができる。そして、ジャトロファは、その成長が速く,栽培から1年程度で実を採取できる。したがって、ジャトロファは、簡便かつ安定的に栽培できるので、かかるジャトロファから採取することができるジャトロファの種子も安価かつ安定的に供給できる。
また、ジャトロファの実からは、大豆のような種子を採取することができ、この種子は、種子重量に対して約30重量%と非常に高い油脂含有率を有する。このように、ジャトロファの種子は、多量の油脂成分を含んでいるので、ジャトロファの種子を搾油すれば、ジャトロファの種子からバイオディーゼル燃料の原料として利用することができるジャトロファ油を得ることができる。
なお、ジャトロファの種子は、食料と競合しないのでバイオディーゼル燃料として有効である。また、本発明のジャトロファ抽出物の被抽出物tに含まれるジャトロファの種子は、野生種のほか改良品種等のジャトロファから採取された種子も含む。
【0019】
(被抽出物tの説明)
被抽出物tは、被抽出物t中に含まれたジャトロファの種子が、抽出溶媒を用いて溶媒抽出する状態において、抽出溶媒と接触し得る状況となっていればよく、とくに限定されない。
例えば、ジャトロファの実を破砕等したものや、ジャトロファの実からジャトロファの種子だけを取り出したもの、ジャトロファの実や種子を粉砕機(例えば、ミキサー、ホモジナイザーなど)、搾油機等を用いて裁断、粉砕、圧縮、圧搾等したものや、裁断、粉砕、圧縮、圧搾等したものをさらに乾燥させたものなどが挙げることができる。
上記の処理をしたものは、ジャトロファの実や種子が粉状や繊維状などになっている。かかる状態にしたジャトロファの実や種子を被抽出物tとして使用する場合、被抽出物tの比表面積を大きくすることができる。すると、抽出溶媒と被抽出物tの接触面積を大きくすることができ、一定量の被抽出物tからジャトロファ抽出物を抽出するときの抽出効率を高くできる。また、被抽出物tが減容化されているので、後述する被抽出物tを溶媒抽出する際に使用する装置において、被抽出物tを収容するための収容容器2の内容積に対するジャトロファの種子の含有率を高くできるから、抽出効率を向上させることができる。
【0020】
なお、以下、ジャトロファの種子を含む種子殻等の搾汁を絞った後の残渣を搾汁残渣、ジャトロファの種子から油脂成分等が除去された後の残渣を搾油残渣という。また、以下、単に残渣という場合には、搾汁残渣と搾油残渣の両者を含む概念である。
【0021】
(溶媒抽出工程の簡単な説明)
つぎに、図1に示すフロー図に基づいて、被抽出物tを抽出溶媒を用いて溶媒抽出する溶媒抽出工程について簡単に説明する。
上述した被抽出物tを、図2に示すような還流抽出装置1に投入して抽出溶媒を用いて溶媒抽出すると、被抽出物tから抽出されたジャトロファ抽出物を含有する極性溶媒抽出溶液を得ることができる。この極性溶媒抽出溶液から抽出溶媒を濃縮、減圧乾燥等により除去すれば、ジャトロファ抽出物を回収することができる。なお、ジャトロファ抽出物は、抽出溶媒存在下でも使用することができる。
【0022】
なお、還流抽出装置1を使用する場合と同様に、被抽出物tから抽出溶媒を用いてジャトロファ抽出物を抽出することができる装置、例えば、高温高圧の超臨界状態の抽出溶媒を用いる超臨界流体抽出装置、亜臨界状態の抽出溶媒を用いる亜臨界流体抽出装置、抽出溶媒に被抽出物tを浸漬する浸漬抽出装置を使用してもジャトロファ抽出物を得ることが可能である。
【0023】
以上のごとく、天然物のジャトロファの種子を含む被抽出物tを抽出溶媒を用いて溶媒抽出することによって、本発明のジャトロファ抽出物を得ることができる。
しかも、このジャトロファ抽出物は、抗酸化機能を有しており、この抗酸化機能は、天然化合物のトコフェロールと同等もしくはそれ以上の抗酸化機能を有する。
したがって、酸化されることにより品質等が劣化するもの(以下、被酸化抑制物という)に対してジャトロファ抽出物を添加すれば、酸化を抑制することができる。例えば、ジャトロファ抽出物をジャトロファ油などの植物油に対して添加すれば、植物油の酸化を抑制でき、植物油の品質低下を抑えながら保存することができる。
【0024】
また、このジャトロファ抽出物は、天然物のジャトロファの種子が原料となるので有害な化学合成物を含まないから、安全に使用できる。
さらに、このジャトロファ抽出物は、簡便かつ安定的に栽培されるジャトロファから採取された種子から簡単に抽出できるので、安価かつ安定的に供給できる。
【0025】
まとめると、本発明のジャトロファ抽出物は、安全で、高い抗酸化機能を有し、安価かつ安定的に供給することができる。そして、ジャトロファ抽出物は、上述した植物油に限定されず、酸化により品質が低下するおそれのある製品(例えば、農薬品、医薬品、化粧品など)および/または、このような製品の製造工程における被酸化抑制物に対して有効に使用することができる。
【0026】
とくに、被抽出物tとして、ジャトロファの種子から搾油機等を用いて油脂成分等を除去した状態の搾油残渣を使用すれば、油脂成分であるジャトロファ油がほぼ含まれていないジャトロファ抽出物を得ることができる。すると、ジャトロファ油が不純物等となり得るような被酸化抑制物に対してもこのジャトロファ抽出物を添加することができ、かかる被酸化抑制物の酸化を抑制できる。しかも、ジャトロファ油を生産するときに副産物として生成され、従来、固形燃料としての利用価値しかなかったジャトロファの搾油残渣を有効に活用することができる。
【0027】
また、ジャトロファの種子を搾油機等を用いて搾油した場合、搾油残渣は、繊維状に形成されるので、搾油残渣と抽出溶媒との接触面積を大きくすることができる。すると、油脂成分が除去され易くなるとともに、抽出溶媒との接触面積も大きくなるので、ジャトロファ抽出物の抽出効率を高めることができる。
しかも、搾油残渣を溶媒抽出することにより搾油残渣を減容化、具体的には搾油残渣の重量を小さくできるので、溶媒抽出後の搾油残渣の処理を効率よく行うことができる。例えば、工業的に多量の搾油残渣を溶媒抽出する場合、溶媒抽出した後の搾油残渣も多量に発生するが、かかる搾油残渣は、溶媒抽出によって減容化されているので、運搬などの処理作業を効率よく行うことができる。
【0028】
なお、上述では、被抽出物tからジャトロファ抽出物を溶媒抽出する前に、被抽出物tから油脂成分を除去する場合について説明したが、被抽出物tから溶媒抽出によって得られた後のジャトロファ抽出物から油脂成分を除去することも可能である。
【0029】
(ジャトロファ抽出物に含まれる化合物の説明)
つぎに、本発明のジャトロファ抽出物に含まれる化合物について、以下説明する。
上述したように、抗酸化機能を有するジャトロファ抽出物には、下記式(6)〜(13)に表される化合物が含まれる。このような化合物は、ジャトロファの種子から初めて単離された化合物である。しかも、このような多種類の化合物を同時に、しかも、同一の植物部位であるジャトロファの種から得られるということも初めて見出された。
なお、これらの化合物の精製および単離については、後述する。
【0030】
(化合物(6)の説明)
【化6】

【0031】
式(6)で表される化合物(以下、化合物(6)という)は、その特徴として、分子内にフロフラン骨格を有し、A環(上記式(6)における、フロフラン骨格に対して左下方に位置するフェニル基)とB環(上記式(6)における、フロフラン骨格に対して右上方に位置するフェニル基)のいずれにも2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基を有する。
【0032】
この化合物(6)は、抗酸化機能を有しており、この抗酸化機能は、天然化合物のトコフェロールと同等の抗酸化力を有し、しかも、トコフェロールに比べて安定性に優れている。
【0033】
また、化合物(6)は、脂溶性(疎水性)であるが、その分子内に複数のヒドロキシ基(−OH)を有するので、ある程度の水にも溶解する(水溶性)という性質をも有する。一方、トコフェロールは、脂溶性であるが、側鎖として長い炭化水素基を有するため、水溶性ではない。このため、トコフェロールを水系の被酸化抑制物に対して添加して、かかる被酸化抑制物の酸化を抑制する場合には、トコフェロールを水中で分散、乳化等させる必要がある。しかし、化合物(6)は、上述したように、ある程度の水にも溶解するので、化合物(6)を水系の被酸化抑制物に対して添加する際にも水中で分散等させる必要がない。つまり、化合物(6)は、油にも水に溶解するので、油系だけでなく水系の被酸化抑制物に対しても制約なく使用することができるのである。
なお、化合物(6)は、水と油が混合した溶液に溶解した場合、化合物(6)のほとんどは油に溶解し、水にはほとんど溶解しない。
【0034】
化合物(6)が上述したように高い抗酸化機能を有しているのは、化合物(6)がその分子内に上述した特徴的な構造を有することに起因するものと推定する。つまり、この特徴的な構造は、フロフラン骨格と、2つのカテコール基を有する構造である。すると、この特徴的な構造のうち、フロフラン骨格と、A環またはB環のいずれかがカテコール基を分子内に備えた化合物(6)に類似する化合物(以下、単に化合物(6)類似化合物という)は、化合物(6)が有する機能である抗酸化機能を有するものと推定する。
【0035】
なお、フロフラン骨格とは、2つの5員環が3位と4位で結合した構造であって、それぞれの5員環の1位の炭素が酸素で置換された構造を有するものである。
【0036】
(化合物(7)の説明)
【化7】

【0037】
式(7)で表される化合物(以下、化合物(7)という)は、その特徴として、分子内に1,4−ベンゾジオキサン骨格を有し、C環(上記式(7)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して左下方に位置するフェニル基)に2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基を有する。
また、化合物(7)は、D環(上記式(7)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して右側に位置するフェニル基)(ベンゾジオキサンのベンゾ部分)にアリル基を有しており、このアリル基の9’位にヒドロキシ基(−OH)が置換したアリルアルコール側鎖を有する。
【0038】
この化合物(7)は、抗酸化機能を有しており、この抗酸化機能は、天然化合物のトコフェロールと同等の抗酸化力を有し、しかも、トコフェロールに比べて安定性に優れている。
【0039】
化合物(7)上述したように高い抗酸化機能を有しているのは、化合物(7)がその分子内に上述した特徴的な構造を有することに起因するものと推定する。
具体的には、この特徴的な構造は、1,4−ベンゾジオキサン骨格と、C環にカテコール基を有する構造である。すると、この特徴的な構造を分子内に備えた化合物(7)に類似する化合物(以下、単に化合物(7)類似化合物という)は、化合物(7)が有する機能と同等の抗酸化機能を有するものと推定する。
【0040】
例えば、化合物(7)類似化合物は、D環のアリル基の9’位のヒドロキシ基(−OH)がメトキシル基(−OCH3)に置換した化合物(後述する化合物(8))や、D環のアリル基の9’位がアルデヒド基(−CHO)に置換した化合物(後述する化合物(9))を挙げることができる。
【0041】
(化合物(8)の説明)
この化合物(7)類似化合物として、例えば、以下の式(8)で表される化合物(以下、単に化合物(8)という)を挙げることができる。
【0042】
【化8】

【0043】
式(8)で表される化合物(以下、化合物(8)という)は、その特徴として、分子内に1,4−ベンゾジオキサン骨格を有し、E環(上記式(8)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して左下方に位置するフェニル基)に2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基を有する。
また、化合物(8)は、F環(上記式(8)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して右側に位置するフェニル基)(ベンゾジオキサンのベンゾ部分)にアリル基を有しており、このアリル基の9’位にメトキシル基(−OCH3)が置換したアリル側鎖を有する。
【0044】
つまり、上記のごとき化合物(8)は、その構造を化合物(7)と比較すると、共通する特徴的な構造である、1,4−ベンゾジオキサン骨格と、E環(上記式(7)における、C環に相当)にカテコール基をその分子内に有しており、F環(上記式(7)における、D環に相当)のアリル基の9’位の置換基だけが、メトキシル基(−OCH3)とヒドロキシ基(−OH)で異なる構造である。したがって、化合物(8)は、化合物(7)と同等の抗酸化機能を有している。
【0045】
(化合物(9)の説明)
この化合物(7)類似化合物として、例えば、以下の式(9)で表される化合物(以下、単に化合物(9)という)をも挙げることができる。
【0046】
【化9】

【0047】
式(9)で表される化合物(以下、化合物(9)という)は、その特徴として、分子内に1,4−ベンゾジオキサン骨格を有し、G環(上記式(9)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して左下方に位置するフェニル基)に2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基を有する。また、化合物(9)は、H環(上記式(9)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して右側に位置するフェニル基)(ベンゾジオキサンのベンゾ部分)にアリル基を有しており、このアリル基の9’位がアルデヒド基(−CHO)に置換したアリル側鎖を有する。
【0048】
つまり、上記のごとき化合物(9)は、その構造を化合物(7)と比較すると、共通する特徴的な構造である、1,4−ベンゾジオキサン骨格と、G環(上記式(7)における、C環に相当)にカテコール基をその分子内に有しており、H環(上記式(7)における、D環に相当)のアリル基の9’位の置換基だけが、アルデヒド基(−CHO)とヒドロキシ基(−OH)で異なる構造である。したがって、化合物(9)は、化合物(7)と同等の抗酸化機能を有している。
【0049】
なお、1,4−ベンゾジオキサン骨格とは、6員環であって、この6員環の1位と4位の炭素が酸素で置換された構造を有するものである。
【0050】
また、上述した化合物(7)の構造は、イソアメリカノール−Aと同様の構造を有しているが、従来、イソアメリカノール−Aは、向神経作用を有するが、抗酸化機能を有していないとされていた。つまり、イソアメリカノール−Aの抗酸化機能についての報告はなかった。言い換えれば、化合物(7)は、イソアメリカノール−Aが有していない機能(抗酸化機能)(イソアメリカノール−Aでは未知の機能)を有しており、かかる機能が、今回はじめて見出された。
【0051】
(化合物(10)の説明)
【化10】

【0052】
式(10)で表される化合物(以下、化合物(10)という)は、その特徴として、分子内に1,4−ベンゾジオキサン骨格を有し、I環(上記式(10)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して左下方に位置するフェニル基)に2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基を有する。また、化合物(10)は、J環(上記式(10)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して右側に位置するフェニル基)(ベンゾジオキサンのベンゾ部分)にアリル基を有しており、このアリル基の9’位にヒドロキシ基(−OH)が置換したアリルアルコール側鎖を有する。
【0053】
つまり、化合物(10)は、上記の化合物(7)と比較すると、J環(上記式(10)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して右側に位置するフェニル基)(上記式(7)における、D環に相当)のアリル基が置換した位置が相違する。しかし、化合物(10)は、化合物(7)と比較すると、共通する特徴的な構造である、1,4−ベンゾジオキサン骨格と、I環(上記式(7)における、C環に相当)にカテコール基をその分子内に有しているという点で共通する。
【0054】
したがって、上記のごとき化合物(10)は、その分子内の特徴的な構造が化合物(7)が有する特徴的な構造と共通しており、J環(上記式(7)における、D環に相当)のアリル基が置換した位置が相違するだけである。つまり、化合物(7)が抗酸化機能を有する場合と同様に、化合物(10)も化合物(7)が有する機能と同等の抗酸化機能を有する。
【0055】
化合物(10)上述したように高い抗酸化機能を有しているのは、化合物(10)がその分子内に上述した特徴的な構造を有することに起因するものと推定する。
具体的には、この特徴的な構造は、1,4−ベンゾジオキサン骨格と、I環にカテコール基をその分子内に有している構造である。すると、この特徴的な構造を分子内に備えた化合物(10)に類似する化合物(以下、単に化合物(10)類似化合物という)は、化合物(10)が有する機能と同等の抗酸化機能を有するものと推定する。
【0056】
化合物(10)類似化合物としては、以下の式(11)で表される化合物(以下、単に化合物(11)という)を挙げることができる。
(化合物(11)の説明)
【化11】

【0057】
式(11)で表される化合物(以下、化合物(11)という)は、その特徴として、分子内に1,4−ベンゾジオキサン骨格を有し、K環(上記式(11)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して左下方に位置するフェニル基)に2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基を有する。また、化合物(11)は、L環(上記式(11)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して右側に位置するフェニル基)(ベンゾジオキサンのベンゾ部分)にアリル基を有しており、このアリル基の9’位にメトキシル基(−OCH3)が置換したアリル側鎖を有する。
【0058】
つまり、上記のごとき化合物(11)は、その構造を化合物(10)と比較すると、共通する特徴的な構造である、1,4−ベンゾジオキサン骨格と、K環(上記式(10)における、I環に相当)にカテコール基をその分子内に有しており、L環(上記式(10)における、J環に相当)のアリル基の9’位の置換基だけが、メトキシル基(−OCH3)とヒドロキシ基(−OH)で異なる構造である。したがって、化合物(11)は、化合物(10)と同等の抗酸化機能を有している。
【0059】
なお、上述したように、化合物(10)が有する抗酸化機能は、化合物(10)がその分子内に上述した特徴的な構造を有することに起因するものと推定されるので、この特徴的な構造を分子内に備えた化合物(10)類似化合物は、上述した化合物(11)の他に、化合物(10)のF環のアリル基の9’位が、アルデヒド基(−CHO)に置換したアリル側鎖を有する化合物も挙げることができる。
【0060】
(化合物(12)の説明)
【化12】

【0061】
式(12)で表される化合物(以下、化合物(12)という)は、その特徴として、分子内にフロフラン骨格を有し、M環(上記式(12)における、フロフラン骨格に対して左下方に位置するフェニル基)とO環(上記式(12)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して右下方に位置するフェニル基)のいずれにも2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基を有する。また、化合物(12)は、N環(上記式(12)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して左側に位置するフェニル基)(ベンゾジオキサンのベンゾ部分)を有する。言い換えれば、化合物(12)は、上記式(12)において、左側からM環のカテコール基、フロフラン骨格、1,4−ベンゾジオキサン骨格(N環を含む)、O環のカテコール基、の順に結合した化合物である。
【0062】
つまり、化合物(12)は、その分子内に2つのカテコール基を有し、しかもフロフラン骨格および1,4−ベンゾジオキサン骨格を有する構造である。
【0063】
この化合物(12)は、抗酸化機能を有しており、この抗酸化機能は、天然化合物のトコフェロールと同等の抗酸化力を有し、しかも、トコフェロールに比べて安定性に優れている。
【0064】
化合物(12)上述したように高い抗酸化機能を有しているのは、化合物(12)がその分子内に上述した特徴的な構造を有することに起因するものと推定する。
具体的には、この特徴的な構造は、2つのカテコール基、フロフラン骨格、および1,4−ベンゾジオキサン骨格を有する構造である。すると、この特徴的な構造を分子内に備えた化合物(12)に類似する化合物(以下、単に化合物(12)類似化合物という)は、化合物(12)が有する機能と同等の抗酸化機能を有するものと推定する。
【0065】
(化合物(13)の説明)
【化13】

【0066】
式(13)で表される化合物(以下、化合物(13)という)は、その特徴として、分子内にフロフラン骨格を有し、P環(上記式(13)における、フロフラン骨格に対して左下方に位置するフェニル基)とR環(上記式(13)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して右下方に位置するフェニル基)のいずれにも2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基を有する。また、化合物(13)は、Q環(上記式(13)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して左側に位置するフェニル基)(ベンゾジオキサンのベンゾ部分)を有する。言い換えれば、化合物(13)は、上記式(13)において、左側からP環のカテコール基、フロフラン骨格、1,4−ベンゾジオキサン骨格(Q環を含む)、R環のカテコール基、の順に結合した化合物である。
【0067】
つまり、化合物(13)は、その分子内に、2つのカテコール基、フロフラン骨格、および1,4−ベンゾジオキサン骨格を有する構造である。
【0068】
この化合物(13)は、抗酸化機能を有しており、この抗酸化機能は、天然化合物のトコフェロールと同等の抗酸化力を有し、しかも、トコフェロールに比べて安定性に優れている。
【0069】
化合物(13)上述したように高い抗酸化機能を有しているのは、化合物(13)がその分子内に上述した特徴的な構造を有することに起因するものと推定する。
具体的には、この特徴的な構造は、2つのカテコール基、フロフラン骨格、および1,4−ベンゾジオキサン骨格を有する構造である。すると、この特徴的な構造を分子内に備えた化合物(13)に類似する化合物(以下、単に化合物(13)類似化合物という)は、化合物(13)が有する機能と同等の抗酸化機能を有するものと推定する。
【0070】
なお、化合物(13)は、上記の化合物(12)と比較すると、1,4−ベンゾジオキサン骨格に置換したR環(上記式(13)における、1,4−ベンゾジオキサン骨格に対して右下方に位置するフェニル基)(上記式(12)における、O環に相当)の位置が相違する。しかし、化合物(13)は、化合物(12)と比較すると、共通する特徴的な構造である、フロフラン骨格、および1,4−ベンゾジオキサン骨格を有する構造と、P環(上記式(12)における、M環に相当)にカテコール基をその分子内に有しているという点で共通する。
【0071】
(ジャトロファ抽出物の溶媒抽出工程)
以下では、図1のフローに基づいて、還流抽出装置1を使用して抽出溶媒を用いて被抽出物tからジャトロファ抽出物を抽出する溶媒抽出工程について、詳細に説明する。
【0072】
(抽出溶媒の説明)
まず、抽出溶媒について説明する。
上述したように、ジャトロファ抽出物には、抗酸化機能を有し、かつ、その分子内にヒドロキシ基を多数有する化合物(例えば、上述した化合物(6)〜化合物(13)など)が含まれている。つまり、抗酸化機能を有するジャトロファ抽出物は、その内容物として分子内に極性を有する化合物を多数包含しているといえる。
したがって、このようなジャトロファ抽出物を被抽出物tから溶媒抽出するためには、分子内に極性を有する極性の溶媒(以下、単に極性溶媒という)であるメタノールを抽出溶媒として使用するのが好ましい。
【0073】
なお、メタノールと同等の極性を有する極性溶媒であれば、抽出溶媒として使用することが可能である。例えば、アセトン、アセトニトリル、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフランなどが挙げることができる。また、メタノールよりもやや極性の低い極性溶媒であるジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタンも使用することが可能である。なお、上記極性溶媒は、単独または二種以上の混合溶媒として使用してもよい。
【0074】
(還流抽出装置1と極性溶媒抽出工程の説明)
以下では、図1および図2に基づいて、被抽出物tの溶媒抽出に使用する装置および上述した極性溶媒による抽出方法(以下、極性溶媒抽出工程という)について、詳細に説明する。
【0075】
(還流抽出装置1の説明)
まず、図2に基づいて、被抽出物tの溶媒抽出に使用する装置について、以下説明する。
図2に示すように、被抽出物tの溶媒抽出に使用する装置としては、還流抽出装置1を使用する。この場合は、抽出溶媒を装置内を還流させながら被抽出物tに対して抽出溶媒を接触させることができるので、少量の抽出溶媒で効率よく被抽出物tからジャトロファ抽出物を抽出することができるので好ましい。しかも、還流抽出装置1は、超臨界流体抽出装置等のような高価な機器等を必要としない上、浸漬抽出装置などを使用する場合に比べて使用する抽出溶媒が少量であり、かつ、抽出効率が高いので、好適である。
【0076】
図2に示すように、還流抽出装置1は、被抽出物tを収容して被抽出物tから抽出溶媒を用いてジャトロファ抽出物を抽出する抽出手段2と、この抽出手段2に連通された回収手段3と、この回収手段3から気化した気体状の抽出溶媒を冷却して液体にする冷却手段4と、を備えている。
【0077】
(抽出手段2)
抽出手段2は、被抽出物tを収容するための収容容器2aを備えており、この収容容器2aは、内部に中空な収容空間2hを有するものである。この収容容器2aは、収容空間2h内に被抽出物tを供給することができるように形成されている。例えば、収容容器2aは、開口を有する有底円筒状の容器によって形成することができる。
また、収容容器2aは、その内部に供給された被抽出物tを保持して、保持された被抽出物tが収容容器2a内から後述する回収容器3aへ移行するのを防止し得る保持部材2bを備えているのが好ましい。この場合、被抽出物tは、保持部材2bによって収容容器2a内に保持されるので、回収容器3a内に被抽出物tが移行するのを防ぐことができる。すると、回収容器3aからジャトロファ抽出物を含有する溶液を回収する際、かかる溶液から混入した被抽出物tを除去する手間を省くことができる。例えば、保持部材2bは、収容容器2a内の形状よりもやや小さい、開口を有する有底円筒状に形成することができる。また、その材質としてろ紙を用いれば、溶媒に対して耐性を有し、かつ、不純物の含有率を低くできる。
【0078】
(回収手段3)
収容容器2aには、溶媒供給通路3bと、抽出溶液回収通路3cを介して回収手段3の回収容器3aが連通されている。この溶媒供給通路3bは、回収容器3a内の抽出溶媒を収容容器2内に供給するための通路であり、抽出溶液回収通路3cは、回収容器2a内で被抽出物tから溶媒抽出されたジャトロファ抽出物と、このジャトロファ抽出物が溶解した抽出溶液を回収容器2a内から回収容器3a内へ回収する通路である。つまり、回収容器3aは、収容容器2aから抽出溶液回収通路3cを通って供給される抽出物を含んだ抽出溶液を回収するものである。また、この回収容器3aには、回収容器3a内を加熱する加熱手段H設けられている。この加熱手段Hは、例えば、回収容器3aに取り付けられたヒータなどであるが、回収容器3a内の抽出溶媒を所定の温度に加熱できるものであればよく、とくに限定されない。
なお、抽出溶液回収通路3cには、その通路の途中に屈曲部が形成されている。この屈曲部は、上述した収容容器2内の設けられた保持部材2bの先端部と同等またはやや上方に位置するように形成されている。すると、収容容器2内に供給された抽出溶媒は、この屈曲部の高さになるまで収容容器2内に保持される。このため、抽出溶媒と被抽出物tとの接触時間、つまり、抽出時間を十分に確保することができる。
【0079】
(冷却手段4)
収容容器2aには、連結管4bを介して冷却手段4が連通されている。この冷却手段4は、回収容器3a内で加熱されて気体化した抽出溶媒が溶媒供給通路3bを通って収容容器2内に到達したのち、かかる気化状の抽出溶媒を冷却する冷却部4aを備えている。冷却部4aは、その内部が2重管構造に形成されている。この2重管は、内管と外管との隙間に冷却水を流すことができるように形成されている。そして、2重管の下端部には、内管の内部の空間と外部とを連通する連通管4bが設けられている。このため、気化した抽出溶媒が冷却部4aの内管の内壁に接触すると、内管と外管との隙間を流れる冷却水によって液化する。この冷却部4aで液化した抽出溶媒は、連結管4bを通って収容容器2内に供給される。
連結管4bの先端部は、収容容器2aの開口に着脱可能に取り付けられる構造となっており、両者を取り付けた状態において、両者間から気体化した抽出溶媒が漏れ出さないように気密性を維持できる構造となっている。例えば、両者が擦り合わせにより連結するようになっていれば、両者間の気密性を維持することができる。
【0080】
以上のごとき装置であるので、回収容器3a内に所定量の抽出溶媒を入れたのち、回収容器3aに設けられた加熱手段Hを開始すれば、抽出溶媒は、気体状態と液体状態とを繰り返しながら装置内を還流するので、少量の抽出溶媒を用いて、効率よく被抽出物tからジャトロファ抽出物を抽出することができる。以下、抽出溶媒が気体状態と液体状態とを繰り返しながら装置内を還流することを、抽出溶媒の還流サイクルという。
【0081】
(極性溶媒抽出工程の説明)
つぎに、被抽出物tを溶媒抽出する抽出方法について、以下具体的に説明する。
上述した還流抽出装置1を使用して、以下に説明する操作を行えばジャトロファ抽出物を得ることができる。
【0082】
まず、上述した装置の収容容器2a内に被抽出物tを投入し、回収容器3a内に抽出溶媒として収容容器2a内の内容積よりもやや多めの体積のメタノールを入れた後、収容容器2aに回収容器3aと冷却手段4を連結する。
ついで、回収容器3aに設けられた加熱手段Hによってメタノールを加熱する。すると、加熱されたメタノールは、気化する。この気化したメタノールは、溶媒供給通路3bを通って冷却部4aまで到達して液体のメタノールとなる。そして、この液体となったメタノールは、冷却部4aと収容容器2aを連通する連通管4bを介して収容容器2a内に供給される。かかる状態において、収容容器2a内でメタノールを用いて被抽出物tからジャトロファ抽出物を抽出することができる。
そして、収容容器2a内において、メタノールは、収容容器2aに連結した回収容器4aの抽出溶液回収通路3cの屈曲部まで溜まれば、溜まったメタノールは、サイフォンの原理によって抽出溶液回収通路3cを通って、回収容器3a内へ回収される。このとき、抽出されたジャトロファ抽出物もメタノールと同時に回収容器3aへ回収される。回収容器3aに回収されたジャトロファ抽出物とメタノールのうち、メタノールだけが再び装置内を還流して被抽出物tの溶媒抽出に使用される。そして、再び被抽出物tからメタノールを用いてジャトロファ抽出物を抽出することができる。
【0083】
例えば、約10〜20gの被抽出物tからジャトロファ抽出物を極性溶媒によって抽出する場合、還流サイクルの回数が、1時間あたり20回程度となるように調整して、約8時間、極性溶媒による抽出を行う。
【0084】
以上のごとく、被抽出物tをメタノールを用いて溶媒抽出した後、回収容器3a内からジャトロファ抽出物とメタノールの混合溶液(以下、極性溶媒抽出溶液という)を回収して、この極性溶媒抽出溶液を濃縮、減圧乾燥等によりメタノールを除去すれば、ジャトロファ抽出物を回収することができる。
【0085】
なお、ジャトロファ抽出物を被酸化抑制物に対して添加して使用する場合、上述した極性溶媒抽出溶液からメタノールなどの抽出溶媒を除去したものを使用するのが好ましいが、メタノールなどの抽出溶媒が被酸化抑制物の機能(例えば、ディーゼル機関用などのバイオディーゼル燃料として機能するもの)に対して悪影響を与えない場合には、抽出溶媒をある程度残留した状態のものを用いることも可能であり、極性溶媒抽出溶液をそのまま使用することも可能である。
【0086】
なお、収容容器2aには、収容容器2a内の温度を保持し得る保温手段が設けられているのが好ましい。保温手段として、例えば、収容容器2aに断熱部材やヒータなどを取り付けることができるが、収容容器2a内の温度を維持できるものであれば、とくに限定されない。この場合、被抽出物tに対して所定の温度に保持された抽出溶媒を接触させることができるので、抽出効率を安定させることができる。
【0087】
(油脂成分除去工程の説明)
図1に示すように、被抽出物tが多量の油脂成分を含んでいる場合、事前に被抽出物tから油脂成分を除去するのが好ましい。この場合、油脂成分をほとんど含まない被抽出物t(以下、油脂成分除去物という)を形成することができる。すると、かかる油脂成分除去物を極性溶媒を用いてジャトロファ抽出物を溶媒抽出すれば、ジャトロファ抽出物の抽出効率を高くすることができる。しかも、油脂成分の含有率が低いジャトロファ抽出物を得ることができるので、かかるジャトロファ抽出物の抗酸化機能は高いものとなる。
【0088】
被抽出物tから油脂成分を除去するためには、被抽出物tから油脂成分だけを選択的に抽出し得る溶媒を用いて、被抽出物tを溶媒抽出するのが好ましい。
油脂成分を選択的に抽出し得る溶媒としては、その分子内に極性が低い溶媒(以下、単に非極性溶媒という)が好ましい。例えば、ノルマルヘキサン(n−Hex)、ヘプタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素が挙げることができる。好ましくは、ノルマルヘキサンである。この場合、ノルマルヘキサンは、ジャトロファ抽出物をほとんど溶解しないが、被抽出物t中に含まれる油脂成分を溶解しやすいので、被抽出物tから油脂成分を選択的に除去することができる。
【0089】
油脂成分を除去するために使用する装置は、上述した被抽出物tを溶媒抽出する際に使用した還流抽出装置1を使用する。
なお、上述した被抽出物tからジャトロファ抽出物を得る場合と同様に行えば、還流抽出装置1を使用して被抽出物tから油脂成分を除去することができる。
【0090】
(不純物除去工程の説明)
図1に示すように、ジャトロファ抽出物中に水溶性の色素や糖質等の不純物が存在する場合、水と混合したときに二層を形成し得る有機溶媒にジャトロファ抽出物を溶解して混合溶液を形成し、この混合溶液に水を加えて振盪等することにより、水溶性の不純物を水層側に分配する液液分配を採用するのが好ましい。この液液分配によって、ジャトロファ抽出物中に存在していた水溶性の色素や糖質等の不純物を水層側に移行させることができるので、水溶性の不純物を除去することができる。そして、液液分配を行った状態における、有機溶媒の層(以下、単に有機層という)を回収して、この回収した有機層から有機溶媒を除去すれば、水溶性不純物が除去されたジャトロファ抽出物(以下、精製ジャトロファ抽出物という)を得ることができる。すると、水溶性の不純物の含有率が低い精製ジャトロファ抽出物を得ることができるので、かかる精製ジャトロファ抽出物の抗酸化機能は高いものとなる。
なお、液液分配に使用する有機溶媒としては、水と混合したときに二層を形成し得る有機溶媒であり、かつ、極性を有する有機溶媒が好ましい。例えば、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタンであり、より好ましくは、酢酸エチルである。
【0091】
(ジャトロファ抽出物中に含有している化合物の単離についての説明)
以下では、ジャトロファ抽出物または精製ジャトロファ抽出物中に含有している化合物の単離について説明する。
【0092】
上述したようにジャトロファ抽出物または精製ジャトロファ抽出物には、抗酸化機能を有する化合物(6)〜化合物(13)などが含まれる。このような抗酸化機能やその可能性を有する化合物などをジャトロファ抽出物または精製ジャトロファ抽出物から分画する。この分画したもの(以下、単に分画物という)には、複数の化合物を含む可能性があるので、かかる分画物中に含まれる各化合物をそれぞれ分離して回収する(以下、分取という)。分取することによって得られた化合物(以下、単に単離物)には、例えば、上述した化合物(6)〜化合物(13)などが含まれる。すると、かかる単離物(例えば、化合物(4)や化合物(5)など)は、新たな化合物(例えば、農薬品、医薬品など)の原料等に使用し得る可能性がある。
なお、分画とは、ジャトロファ抽出物または精製ジャトロファ抽出物を複数の画分に分離することをいう。
【0093】
以下、ジャトロファ抽出物または精製ジャトロファ抽出物から分画物を得る工程(以下、単に分画工程という)と、この分画工程によって得られた分画物中に含まれる複数の化合物をそれぞれ単離した単離物を得る工程(以下、単に単理工程という)について、詳細に説明する。
【0094】
(分画工程についての説明)
図3のフロー図に示すように、ジャトロファ抽出物または精製ジャトロファ抽出物に含まれた複数の化合物は、複数の画分に分画することができるクロマトグラフィーを用いて分画する。このクロマトグラフィーとして、カラム内に吸着剤が充填されたカラムクロマトグラフィーや板状のガラス板等の上面に吸着剤が塗布された薄層クロマトグラフィー(以下、TLCという)などを挙げることができる。カラムクロマトグラフィーを使用する場合、500mg〜数g程度のジャトロファ抽出物または精製ジャトロファ抽出物を吸着剤に対して添加しても、各画分に複数の化合物を含有する程度に分画することができるので好ましい。
【0095】
とくに、中程度の圧力に調整した展開溶媒(移動相)を用いた中圧カラムクロマトグラフィーを使用するのが好適である。所定の圧力に調整した移動相によって、カラム内の吸着剤にジャトロファ抽出物または精製ジャトロファ抽出物を展開することができるので、各画分の吸着剤への広がりを狭くすることができる。つまり、各画分のバンド幅を狭くすることができる。すると、隣接する画分の重複する部分を少なくすることができ、しかも、分画時間を短くすることができる。
【0096】
(中圧カラムクロマトグラフィーについての説明)
以下、中圧カラムクロマトグラフィーについて、詳細に説明する。
中圧カラムクロマトグラフィーは、内部に吸着剤が充填された筒状のクロマト管に対して、その内部に充填された吸着剤の基端部にジャトロファ抽出物または精製ジャトロファ抽出物を添加する。そして、かかる状態のクロマト管に対して、ポンプ等によって所定の圧力に調整した展開溶媒(移動相)を流す。すると、ジャトロファ抽出物または精製ジャトロファ抽出物に含まれる複数の化合物は、単独または複合して各画分に分画される。この分画された各画分を回収して展開溶媒(移動相)を除去すれば、各画分の分画物を得ることができる。
【0097】
中圧カラムクロマトグラフィーに使用する吸着剤としては、シリカゲルを使用する。
また、中圧カラムクロマトグラフィーに使用する展開溶媒(移動相)は、分子内の極性が異なる溶媒、例えば、ジクロロメタンとメタノールや、ノルマルヘキサンと酢酸エチルなどを用いるのが好ましい。とくに、上述した混合溶媒を展開溶媒(移動相)として使用する場合、その組成割合のうち、極性の高い溶媒の割合を段階的に大きくすれば、吸着剤に展開した状態における各画分のバンド幅より狭くし、かつ、溶出時間を短くすることができる。
【0098】
以下では、展開溶媒(移動相)として、ジクロロメタンとメタノールを混合したものを使用する場合について説明する。
例えば、ジクロロメタンとメタノールは、その体積比率が100:0の組成から95:5となるようにメタノールの濃度を5容量%程度ずつ増加するように移動相を調整して吸着剤に展開する。具体的には、ジクロロメタンとメタノールは、その体積比率が100:0、95:5、90:10、85:15、80:20となるように調整する。そして、ジクロロメタンとメタノールの体積比率が80:20に調整した展開溶媒(移動相)を展開したのち、メタノール100%で展開する。
なお、移動相として、ジクロロメタンとメタノールを混合して使用する場合、その体積比率は、画分のバンド幅より狭くし、かつ、溶出時間を短くすることができれば、とくに上記条件に限定されない。
【0099】
(分画操作につていの説明)
展開溶媒(移動相)を吸着剤に展開すると、クロマト管の先端部に連結された配管から排出される溶液(以下、溶出溶液という)を所定の画分ごとに回収する。各画分の回収方法は、とくに限定されないが、クロマト管の先端部に連結された配管を吸光度を測定できる吸光光度計に連結して、吸光度を測定した後に排出される溶出溶液を回収するのが好ましい。この場合、吸光度は、溶出溶液に含まれる化合物に基づいて変化する。すると、この吸光度の経時変化に基づいて形成された経時変化曲線の変曲点付近で各画分に分画することができる。
【0100】
例えば、上述したジクロロメタンとメタノールの混合溶媒を展開溶媒(移動相)として使用する場合、ジクロロメタンとメタノールの体積比率が90:10の展開溶媒(移動相)を吸着剤に展開した状況における溶出溶液を所定の量分画する。すると、この画分には、化合物(8)や化合物(9)、化合物(11)などが含まれる分画物を得ることができる。また、他の画分では、化合物(6)や化合物(7)、化合物(10)、化合物(12)、化合物(13)などが含まれる分画物を得ることができる。
【0101】
なお、一定の量ごとに試験管等に自動的に集める装置(例えば、フラクションコレクタ)を用いて分画操作を行ってもよい。この場合、自動で分画することができるので、夜間等に自動で分画操作を行うことができる。
【0102】
上述では、展開溶媒(移動相)として、ジクロロメタンとメタノールを混合したものを使用する場合について説明したが、ノルマルヘキサンと酢酸エチルを用いてもよい。
例えば、ノルマルヘキサンと酢酸エチルは、その体積比率が100:0の組成から80:20となるように酢酸エチルの濃度を20容量%程度ずつ増加するように移動相を調整して吸着剤に展開する。そして、ノルマルヘキサンと酢酸エチルの体積比率が20:80に調整した展開溶媒(移動相)を展開したのち、メタノール100%で展開する。この場合、ノルマルヘキサンの濃度が高い状態において、分子内における極性が低い化合物を吸着剤から早く溶出させることができる。一方、分子内に多数のヒドロキシ基(−OH)を有する化合物(例えば、化合物(6)〜化合物(13)など)等は、分子内にある程度の極性を有するので、吸着剤の基端部付近に吸着した状態でとどまる。すると、極性が低い化合物と極性を有する化合物をほぼ確実に分画(分離)することができる。そして、メタノール100%で展開した状況における溶出溶液を分画して、展開溶媒を除去すれば、例えば、化合物(6)、化合物(7)および化合物(10)が含まれる分画物や、化合物(8)、化合物(9)および化合物(11)が含まれる分画物や、化合物(12)および化合物(13)などが含まれる画分物などを得ることができる。
【0103】
(TLCについての説明)
なお、図3に示すように、中圧カラムクロマトグラフィーにより分画を行ったのち、各画分を薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いてさらに分画してもよい。この場合、各分画から得られた各分画物は、その画分中に含まれる化合物が中圧カラムクロマトグラフィーによって分画された各画分に含まれる化合物数に比べて少なくできるので、後述する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分取する際に、より各化合物を単離しやすくすることができる。
例えば、TLCに使用する展開溶媒(移動相)は、ジクロロメタンと酢酸エチルの混合溶媒を使用する。とくに、移動相において、ジクロロメタンと酢酸エチルの混合割合が、その体積比率(容量比)で3:2となるように調整する。そして、移動相を薄層クロマトグラフに展開した後、所定の画分を回収すれば、分画物を得ることができる。
【0104】
なお、TLCに使用する展開溶媒(移動相)は、使用する溶媒や体積比率などが、所定の分画物を得る画分に分画することができるものであればよく、とくに上記条件に限定されない。
【0105】
上述した中圧カラムクロマトグラフィーやTLCに用いる展開溶媒(移動相)の決定は、TLCを用いて、展開した後の原点から移動相の先端までの距離と、目的とする化合物の移動した距離との比(Rf値)が、0.3〜0.5程度となる展開溶媒(移動相)であればよく、上述した展開溶媒(移動相)に限定されない。例えば、上述したTLCの展開溶媒(移動相)としては、酢酸エチルとジクロロメタン、ベンゼンと酢酸エチル、アセトンとトルエン、ノルマルヘキサンとジクロロメタンなどが可能である。
【0106】
(単離工程についての説明)
つぎに、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分取について説明する。
図3に示すように、中圧カラムクロマトグラフィーによって得られた分画物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して分取する。すると、分画物に含まれた複数の化合物をそれぞれ単離物として回収することができる。
【0107】
(HPLCについての説明)
以下、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分取について、詳細に説明する。
HPLCに使用するカラムは、シリカゲルの表面がオクタデシル基で化学修飾された固定相を有するカラム(以下、ODSカラムという)を使用する。このODSカラムは、一般に逆相系カラムと言われており、移動相として、有機溶媒と水の混合溶媒を用いること可能である。
例えば、移動相として、水とメタノールを使用する。水とメタノールの混合溶媒を移動相とする場合、水に対するメタノールの組成比率が、30容量%〜70容量%メタノール水溶液、より好ましくは、50容量%〜60容量%メタノール水溶液である。
メタノールの容量%濃度が30容量%よりも低い場合、目的とする画分が溶出される時間(以下、溶出時間という)が遅くなり、かつ、目的とする画分の幅(以下、ピーク幅という)が広くなるので、目的とする画分を分取したときの、単離物の回収率が低下するおそれがある。また、80容量%よりも高い場合、各化合物の分離が不十分となり、単離効率が低下する。
【0108】
なお、移動相は、水に対するメタノールの組成比率を連続的に変動、つまり、水に対するメタノールの組成比率を連続して変動(いわゆるグラジエント)させながら、HPLCによって分取してもよい。この場合、溶出時間を早くすることができ、かつ、各化合物のピーク幅を狭く、つまり、各化合物のピークをシャープにすることができるので、より隣接する化合物を分離しやすくすることができる。例えば、移動相において、水に対するメタノールの組成比率が、10容量%メタノール水溶液から90容量%メタノール水溶液になるようにグラジエントを行って分画する。
【0109】
なお、HPLCに使用するカラムの固定相としては、分画物中の複数の化合物をそれぞれ単離して分取することができるものであればとくに限定されない。例えば、シリカゲル等の表面が化学修飾されていない、いわゆる順相系カラムなどを挙げることができる。順相系カラムを使用する場合、移動相として、酢酸エチル、メタノール、エタノールなどが可能である。
【0110】
(本発明の抗酸化剤)
つぎに、本発明の抗酸化剤について説明する。
本発明の抗酸化剤は、後述する一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)という)、後述する一般式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)という)、後述する一般式(3)で表される化合物(以下、化合物(3)という)、後述する一般式(4)で表される化合物(以下、化合物(4)という)、後述する一般式(5)で表される化合物(以下、化合物(5)という)、のうちのいずれか1種を含有するものである。
【0111】
(化合物(1)についての説明)
以下、本発明の抗酸化剤の1成分である化合物(1)について説明する。
化合物(1)は、上述した化合物(6)の特徴的な構造を有するものであり、主要な機能は、化合物(6)と同様の機能を有するものである。
したがって、化合物(1)について、化合物(6)と比較しながら説明する。
【0112】
上述した化合物(6)は、天然化合物のトコフェロールが有する抗酸化機能と同等またはそれ以上の抗酸化機能を発揮するので、化合物(6)を抗酸化剤として使用することができる。しかも、化合物(6)は、トコフェロールに比べて安定性が高いので、酸化されることにより品質等が劣化するもの(被酸化抑制物)に添加すれば、トコフェロールに比べて長期間、被酸化抑制物の酸化を抑制することができる。さらに、化合物(6)は、それ自体の安定性に優れており劣化等により分解や変色等を生じにくいので、被酸化抑制物に添加しても被酸化抑制物の品質を長期間維持することができる。
【0113】
化合物(6)の高い抗酸化機能は、上述したように、化合物(6)の構造的な特徴である分子内のフロフラン骨格と、A環とB環に2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基によるものと推定される。このため、分子内に、フロフラン骨格と、A環とB環のいずれかにカテコール基を有する、下記の一般式(1)に表される化合物(以下、カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物(1)という)であれば、抗酸化機能を有すると推定される。
【0114】
カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物(1)は、その分子内のR1およびR2がヒドロキシ基の場合にはR3がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)かつR4がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)を表し、R3およびR4がヒドロキシ基(−OH)の場合にはR1がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)かつR2がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)を表す。
このカテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物(1)は、化合物(6)と比較すると、分子内のA環とB環に置換したカテコール基が1つ少なくなる場合、化合物(6)が有する抗酸化機能に比べて穏和な抗酸化機能を有するものと推定される。
【0115】
ここで、一般的に、被酸化抑制物に対して添加する抗酸化剤としては、高い抗酸化機能を有するものが好ましいが、穏和な抗酸化剤が好ましい被酸化抑制物も存在する。例えば、生体培養細胞や、化粧品、洗剤などが挙げることができる。すると、このような被酸化抑制物に対して添加する抗酸化剤として、穏和な抗酸化機能を有するカテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物(1)を抗酸化剤として使用することができる。
しかも、カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物(1)は、化合物(6)に比べて穏和な抗酸化剤として使用することができるので、被酸化抑制物に対して添加する際の濃度調整を行いやすくなる。さらに、カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物(1)は、穏和な抗酸化剤として使用できるので、被酸化抑制物に対して添加する際の取り扱いが容易となる。
【0116】
なお、リグナンとは、フェニルプロパノイド(C−C)の2分子が8位の炭素間で結合した2量体のものをいう。
【0117】
【化14】

【0118】
R1およびR2がヒドロキシ基を表す場合にはR3がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)を表しかつR4がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)を表し、R3およびR4がヒドロキシ基(−OH)を表す場合にはR1がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)を表しかつR2がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)を表す。
【0119】
(化合物(2)についての説明)
以下、本発明の抗酸化剤の1成分である化合物(2)について説明する。
化合物(2)は、上述した化合物(7)の特徴的な構造を有するものであり、主要な機能は、化合物(7)と同様の機能を有するものである。
したがって、化合物(2)について、化合物(7)と比較しながら説明する。
【0120】
上述した化合物(7)は、天然化合物のトコフェロールが有する抗酸化機能と同等の抗酸化機能を発揮するので、化合物(7)を抗酸化剤として使用することができる。しかも、化合物(7)は、トコフェロールに比べて安定性が高いので、酸化されることにより品質等が劣化するもの(被酸化抑制物)に添加すれば、トコフェロールに比べて長期間、被酸化抑制物の酸化を抑制することができる。さらに、化合物(7)は、それ自体の安定性に優れており劣化等により分解や変色等を生じにくいので、被酸化抑制物に添加しても被酸化抑制物の品質を長期間維持することができる。
【0121】
化合物(7)の抗酸化機能は、上述したように、化合物(7)の構造的な特徴である分子内に1,4−ベンゾジオキサン骨格と、C環に2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基によるものと推定される。また、化合物(7)は、その分子内において、2つのフェニルプロパノイド(C−C)が1,4−ベンゾジオキサン骨格を介して8−O−4’結合した構造であるともいえる。このため、分子内に、1,4−ベンゾジオキサン骨格と、C環にカテコール基を有する下記の一般式(2)に表される化合物(以下、8−O−4’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(2)という)であれば、抗酸化機能を有するものと推定される。
【0122】
8−O−4’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(2)は、その分子内のR5は、水素(−H)またはメチル基(−CH3)を表す。この8−O−4’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(2)は、分子内に、1,4−ベンゾジオキサン骨格と、C環にカテコール基を有するので、化合物(7)と同様に抗酸化機能を有する。
【0123】
とくに、分子内のR5がメチル基(−CH3)の場合、上述した化合物(8)で表した構造となる。この化合物(8)は、F環(化合物(7)のD環に相当)のアリル基の9’位が、メトキシル基(−OCH3)で保護された構造である。すると、化合物(8)は、その抗酸化機能は、化合物(7)と同等またはやや穏和な抗酸化機能を有する。すると、上述した穏和な抗酸化剤が好ましい被酸化抑制物に対して添加する抗酸化剤として、穏和な抗酸化機能を有する8−O−4’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(2)を抗酸化剤として使用することができる。
【0124】
【化15】

【0125】
R5は水素またはメチル基を表す。
【0126】
なお、ネオリグナンとは、フェニルプロパノイド(C−C)の2分子が8位の炭素間以外の炭素または酸素間で結合したものをいう。
【0127】
なお、上記例では、化合物(2)は、アリル基の9’位にヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)が置換した場合について説明したが、アリル基の9’位がアルデヒド基(−CHO)であっても上述した抗酸化機能を有する。この理由として、化合物(2)がアリル基の9’位にアルデヒド基(−CHO)を有する場合であっても、分子内に化合物(2)の特徴的な構造である1,4−ベンゾジオキサン骨格と、C環にカテコール基を有するので、化合物(2)と同様に抗酸化機能を有するからである。
【0128】
(化合物(3)についての説明)
以下、本発明の抗酸化剤の1成分である化合物(3)について説明する。
化合物(3)は、上述した化合物(10)または化合物(11)の特徴的な構造を有するものであり、主要な機能は、化合物(10)または化合物(11)と同様の機能を有するものである。つまり、上述したように、化合物(10)と化合物(11)は、特徴的な構造が共通するのである。したがって、以下では、化合物(3)について、化合物(10)と比較しながら説明する。
【0129】
上述した化合物(3)は、抗酸化機能を発揮すると推定されるので、化合物(3)を抗酸化剤として使用することができる。
化合物(10)の抗酸化機能は、上述したように、化合物(10)の構造的な特徴である分子内の1,4−ベンゾジオキサン骨格と、I環に2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基によるものと推定される。また、化合物(10)は、その分子内において、2つのフェニルプロパノイド(C−C)が1,4−ベンゾジオキサン骨格を介して8−O−3’結合した構造であるともいえる。このため、分子内に、1,4−ベンゾジオキサン骨格と、H環にカテコール基を有する下記の一般式(3)に表される化合物(以下、8−O−3’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(3)という)であれば、抗酸化機能を有するものと推定される。
【0130】
8−O−3’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(3)は、その分子内のR6は、水素(−H)またはメチル基(−CH3)を表す。この8−O−3’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(3)は、分子内に、1,4−ベンゾジオキサン骨格と、H環にカテコール基を有するので、化合物(10)と同様に抗酸化機能を有する。
【0131】
とくに、分子内のR6がメチル基(−CH3)の場合、上述した化合物(11)で表した構造となる。この化合物(11)は、L環のアリル基の9’位が、メトキシル基(−OCH3)で保護された構造である。すると、化合物(11)は、その抗酸化機能は、上述した化合物(8)と同様に化合物(10)に比べて穏和な抗酸化機能を有する。すると、上述した穏和な抗酸化剤が好ましい被酸化抑制物に対して添加する抗酸化剤として、穏和な抗酸化機能を有する8−O−3’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(3)を抗酸化剤として使用することができる。
【0132】
なお、8−O−3’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(3)は、分子内のR6が水素(−H)で表された場合、上述した化合物(7)が有する抗酸化機能と同等の抗酸化機能を有する。
【0133】
【化16】

【0134】
R6は水素またはメチル基を表す。
【0135】
(化合物(4)についての説明)
以下、本発明の抗酸化剤の1成分である化合物(4)について説明する。
化合物(4)は、上述した化合物(12)の特徴的な構造を有するものであり、主要な機能は、化合物(12)と同様の機能を有するものである。
したがって、化合物(4)について、化合物(12)と比較しながら説明する。
【0136】
上述した化合物(12)は、天然化合物のトコフェロールが有する抗酸化機能と同等またはそれ以上の抗酸化機能を発揮するので、化合物(12)を抗酸化剤として使用することができる。しかも、化合物(12)は、トコフェロールに比べて安定性が高いので、酸化されることにより品質等が劣化するもの(被酸化抑制物)に添加すれば、トコフェロールに比べて長期間、被酸化抑制物の酸化を抑制することができる。さらに、化合物(12)は、それ自体の安定性に優れており劣化等により分解や変色等を生じにくいので、被酸化抑制物に添加しても被酸化抑制物の品質を長期間維持することができる。
【0137】
化合物(12)の高い抗酸化機能は、上述したように、化合物(12)の構造的な特徴である分子内のフロフラン骨格と、M環とO環に2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基、および1,4−ベンゾジオキサン骨格によるものと推定される。また、化合物(12)は、その分子内において、2つのフェニルプロパノイド(C−C)が結合した化合物に、もう一つのフェニルプロパノイド(C−C)が1,4−ベンゾジオキサン骨格を介して4’−O−8’’結合した構造であるともいえる。このため、分子内に、M環とO環に2つのカテコール基を有し、両者間にフロフラン骨格および1,4−ベンゾジオキサン骨格を有する下記の一般式(4)に表される化合物(以下、カテコール基を有する4’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(4)という)であれば、抗酸化機能を有すると推定される。
【0138】
カテコール基を有する4’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(4)は、その分子内のR11がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R7およびR8がヒドロキシ基の場合にはR9がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)かつR10がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)を表し、R9およびR10がヒドロキシ基(−OH)の場合にはR7がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)かつR8がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)を表す。このカテコール基を有する4’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(4)は、分子内に、M環とO環に2つのカテコール基を有し、両者間にフロフラン骨格および1,4−ベンゾジオキサン骨格を有するので、化合物(12)と同様に抗酸化機能を有する。
【0139】
このカテコール基を有する4’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(4)は、化合物(12)と比較すると、分子内のM環とO環に置換したカテコール基が1つ少なくなる場合、化合物(12)が有する抗酸化機能に比べて穏和な抗酸化機能を有するものと推定される。
【0140】
ここで、一般的に、被酸化抑制物に対して添加する抗酸化剤としては、高い抗酸化機能を有するものが好ましいが、穏和な抗酸化剤が好ましい被酸化抑制物も存在する。例えば、生体培養細胞や、化粧品、洗剤などが挙げることができる。すると、このような被酸化抑制物に対して添加する抗酸化剤として、穏和な抗酸化機能を有するカテコール基を有する4’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(4)を抗酸化剤として使用することができる。
しかも、カテコール基を有する4’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(4)は、化合物(12)に比べて穏和な抗酸化剤としても使用できるので、被酸化抑制物に対して添加する際の濃度調整を行いやすくなる。さらに、カテコール基を有する4’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(4)は、穏和な抗酸化剤として使用できるので、被酸化抑制物に対して添加する際の取り扱いが容易となる。
【0141】
なお、セスキネオリグナンとは、フェニルプロパノイド(C−C)の3分子がそれぞれ炭素または酸素間で結合した3量体のものをいう。
【0142】
【化17】

【0143】
R11がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R7およびR8がヒドロキシ基を表す場合にはR9がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR10がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R9およびR10がヒドロキシ基を表す場合にはR7がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR8がヒドロキシ基またはメトキシル基を表す。
【0144】
(化合物(5)についての説明)
以下、本発明の抗酸化剤の1成分である化合物(5)について説明する。
化合物(5)は、上述した化合物(13)の特徴的な構造を有するものであり、主要な機能は、化合物(13)と同様の機能を有するものである。
したがって、化合物(5)について、化合物(13)と比較しながら説明する。
【0145】
上述した化合物(13)は、天然化合物のトコフェロールが有する抗酸化機能と同等またはそれ以上の抗酸化機能を発揮するので、化合物(13)を抗酸化剤として使用することができる。しかも、化合物(13)は、トコフェロールに比べて安定性が高いので、酸化されることにより品質等が劣化するもの(被酸化抑制物)に添加すれば、トコフェロールに比べて長期間、被酸化抑制物の酸化を抑制することができる。さらに、化合物(13)は、それ自体の安定性に優れており劣化等により分解や変色等を生じにくいので、被酸化抑制物に添加しても被酸化抑制物の品質を長期間維持することができる。
【0146】
化合物(13)の高い抗酸化機能は、上述したように、化合物(13)の構造的な特徴である分子内のフロフラン骨格と、P環とR環に2個のヒドロキシ基(−OH)がとなり合って置換したカテコール基、および1,4−ベンゾジオキサン骨格によるものと推定される。また、化合物(13)は、その分子内において、2つのフェニルプロパノイド(C−C)が結合した化合物に、もう一つのフェニルプロパノイド(C−C)が1,4−ベンゾジオキサン骨格を介して3’−O−8’’結合した構造であるともいえる。このため、分子内に、P環とR環に2つのカテコール基を有し、両者間にフロフラン骨格および1,4−ベンゾジオキサン骨格を有する下記の一般式(5)に表される化合物(以下、カテコール基を有する3’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(5)という)であれば、抗酸化機能を有すると推定される。
【0147】
カテコール基を有する3’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(5)は、その分子内のR16がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R12およびR13がヒドロキシ基の場合にはR14がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)かつR15がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)を表し、R14およびR15がヒドロキシ基(−OH)の場合にはR12がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)かつR13がヒドロキシ基(−OH)またはメトキシル基(−OCH3)を表す。このカテコール基を有する3’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(5)は、分子内に、P環とR環に2つのカテコール基を有し、両者間にフロフラン骨格および1,4−ベンゾジオキサン骨格を有するので、化合物(13)と同様に抗酸化機能を有する。
【0148】
このカテコール基を有する3’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(5)は、化合物(13)と比較すると、分子内のP環とQ環に置換したカテコール基が1つ少なくなる場合、化合物(13)が有する抗酸化機能に比べて穏和な抗酸化機能を有するものと推定される。
【0149】
ここで、一般的に、被酸化抑制物に対して添加する抗酸化剤としては、高い抗酸化機能を有するものが好ましいが、穏和な抗酸化剤が好ましい被酸化抑制物も存在する。例えば、生体培養細胞や、化粧品、洗剤などが挙げることができる。すると、このような被酸化抑制物に対して添加する抗酸化剤として、穏和な抗酸化機能を有するカテコール基を有する3’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(5)を抗酸化剤として使用することができる。
しかも、カテコール基を有する3’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(5)は、化合物(12)に比べて穏和な抗酸化剤としても使用できるので、被酸化抑制物に対して添加する際の濃度調整を行いやすくなる。さらに、カテコール基を有する3’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(5)は、穏和な抗酸化剤として使用できるので、被酸化抑制物に対して添加する際の取り扱いが容易となる。
【0150】
【化18】

【0151】
R16がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R12およびR13がヒドロキシ基を表す場合にはR14がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR15がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R14およびR15がヒドロキシ基を表す場合にはR12がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR13がヒドロキシ基またはメトキシル基を表す。
【0152】
以上のごとく、本発明の抗酸化剤は、抗酸化機能を有する化合物(6)〜化合物(13)の化合物のうちの少なくともいずれかの化合物を含むものである。すると、本発明の抗酸化剤は、高い抗酸化機能を有する抗酸化剤となる。
とくに、本発明の抗酸化剤が化合物(6)を含む場合、化合物(6)は、トコフェロールが有する抗酸化機能と同等またはそれ以上の抗酸化機能を有し、しかも、トコフェロールに比べて安定性が高いので、本発明の抗酸化剤を被酸化抑制物に添加すれば、トコフェロールに比べて長期間、被酸化抑制物の酸化を抑制することができる。さらに、化合物(6)は、それ自体の安定性に優れており劣化等により分解や変色等を生じにくいので、本発明の抗酸化剤を被酸化抑制物に添加しても被酸化抑制物の品質を長期間維持することができる。
【0153】
また、本発明の抗酸化剤が化合物(7)を含む場合、化合物(7)は、トコフェロールが有する抗酸化機能と同等の機能を有し、トコフェロールに比べて安定性が高いので、本発明の抗酸化剤を被酸化抑制物に添加すれば、トコフェロールに比べて長期間、被酸化抑制物の酸化を抑制することができる。さらに、化合物(7)は、それ自体の安定性に優れており劣化等により分解や変色等を生じにくいので、本発明の抗酸化剤を被酸化抑制物に添加しても被酸化抑制物の品質を長期間維持することができる。
【0154】
また、本発明の抗酸化剤が、化合物(10)を含む場合、化合物(7)と同様に、トコフェロールが有する抗酸化機能と同等の機能を有し、トコフェロールに比べて安定性が高いので、本発明の抗酸化剤を被酸化抑制物に添加すれば、トコフェロールに比べて長期間、被酸化抑制物の酸化を抑制することができる。さらに、化合物(10)は、それ自体の安定性に優れており劣化等により分解や変色等を生じにくいので、本発明の抗酸化剤を被酸化抑制物に添加しても被酸化抑制物の品質を長期間維持することができる。
【0155】
また、本発明の抗酸化剤が、化合物(8)、化合物(9)および化合物(11)のいずれかを含む場合、これらの化合物は、化合物(7)または化合物(10)と比較した場合、カテコール基を有した状態を維持しつつ、アリル基の9’位がメトキシル基(−OCH3)などで保護された構造である。このため、本発明の抗酸化剤を被酸化抑制物に添加すれば、トコフェロールに比べて長期間、被酸化抑制物の酸化を抑制することができる。しかも、それ自体の安定性に優れており劣化等により分解や変色等を生じにくいので、本発明の抗酸化剤を被酸化抑制物に添加しても被酸化抑制物の品質を長期間維持することができる。
【0156】
また、本発明の抗酸化剤が、化合物(12)または化合物(13)を含む場合、化合物(12)および化合物(13)は、化合物(6)や化合物(7)、化合物(10)などと比較した場合、化合物(6)などの化合物が2つのフェニルプロパノイドが結合した2量体構造であるのに対して、3つのフェニルプロパノイドが結合した3量体構造である。しかも、化合物(12)および化合物(13)は、2つのフェニルプロパノイドが結合した2量体構造を有する化合物(6)と同数のカテコール基を有する構造であるので、トコフェロールが有する抗酸化機能と同等またはそれ以上の抗酸化機能を有する。しかも、トコフェロールに比べて安定性が高いので、本発明の抗酸化剤を被酸化抑制物に添加すれば、トコフェロールに比べて長期間、被酸化抑制物の酸化を抑制することができる。さらに、化合物(12)および化合物(13)は、それ自体の安定性に優れており劣化等により分解や変色等を生じにくいので、本発明の抗酸化剤を被酸化抑制物に添加しても被酸化抑制物の品質を長期間維持することができる。
【0157】
さらに、化合物(6)〜化合物(13)は、天然物のジャトロファの種子を溶媒抽出によって得られるので、煩雑な化学合成工程や、微生物発酵酵素や生体内酵素などの長時間の酵素変換工程等も必要にならないし、しかも、化学合成工程を行う場合に必要な酸やアルカリまたは化学合成触媒などの高価な試薬、危険または有毒な試薬などの有害物質を全く必要としない。
したがって、本発明の抗酸化剤は、安全に使用することができ、しかも、簡便に得ることができる。
【0158】
また、化合物(6)〜化合物(13)は、簡便かつ安定的に栽培されるジャトロファの種子から抽出することができ、化学合成に必要な高価な試薬や煩雑な化学合成工程も必要としないので、本発明の抗酸化を安価かつ安定的に供給できる。
【0159】
また、化合物(6)の抗酸化機能を発揮する構造を有するカテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物(1)、化合物(7)、化合物(8)または化合物(9)の抗酸化機能を発揮する構造を有する8−O−4’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(2)、化合物(10)または化合物(11)の抗酸化機能を発揮する構造を有する8−O−3’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(3)、化合物(12)の抗酸化機能を発揮する構造を有するカテコール基を有する4’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(4)、化合物(13)の抗酸化機能を発揮する構造を有するカテコール基を有する3’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(5)、のいずれかの化合物を含んでいれば、抗酸化機能を有する抗酸化剤となる。
【0160】
しかも、カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物(1)、8−O−4’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(2)、8−O−3’結合を有する1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物(3)、カテコール基を有する4’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(4)、カテコール基を有する3’−O−8’’結合型のフロフラン型セスキネオリグナン化合物(5)は、抗酸化機能を穏和に発揮するので、穏和な抗酸化剤が好ましい被酸化抑制物に対して好適に使用することができる。
【0161】
(本発明の抗酸化剤の製造方法)
上述したようにジャトロファ抽出物は、トコフェロールが有する抗酸化機能と同等またはそれ以上の抗酸化機能を有する。しかも、このジャトロファ抽出物には、抗酸化機能を有する化合物(例えば、化合物(6)〜化合物(13)など)が含まれる。
このため、ジャトロファ抽出物を抗酸化剤として使用することができるし、ジャトロファ抽出物から精製または単離した抗酸化機能を有する化合物(例えば、化合物(6)〜化合物(13)など)を単独で含む、または、組み合わせて含む抗酸化剤として使用することができる。
つまり、ジャトロファの種子を含む被抽出物tを抽出溶媒を用いて溶媒抽出することによって、抗酸化機能を有する抗酸化剤を製造することができるのである。言い換えれば、上述したジャトロファ抽出物の溶媒抽出法方を使用することによって、本発明の抗酸化剤を製造することができるのである。
【0162】
(溶媒抽出工程)
上述したジャトロファ抽出物の溶媒抽出法方において、被抽出物tを還流抽出装置1を使用して抽出溶媒を用いて溶媒抽出する工程が、本発明の抗酸化剤の製造方法における溶媒抽出工程に相当する。
この溶媒抽出工程において、被抽出物tを溶媒抽出することによって得られたジャトロファ抽出物(本発明の抗酸化剤に相当する)と抽出溶媒の混合溶液を回収し、抽出溶媒を除去すれば、ジャトロファ抽出物(本発明の抗酸化剤に相当する)を回収することができる。言い換えれば、ジャトロファの種子を含む被抽出物tを溶媒抽出する溶媒抽出工程を備えていれば、本発明の抗酸化剤を製造することができるのである。
【0163】
以上のごとく、本発明の抗酸化剤の製造方法では、天然物のジャトロファの種子を含む被抽出物tを溶媒抽出するので、ジャトロファ抽出物を得ることができる。このジャトロファ抽出物は、抗酸化機能を有しており、しかも、このジャトロファ抽出物の抗酸化機能は、天然化合物のトコフェロールと同等もしくはそれ以上の抗酸化機能を有する。したがって、溶媒抽出工程だけで、天然の抗酸化機能を有する抗酸化剤を製造することができる。また、簡便かつ安定的に栽培される天然物のジャトロファの種子が原料となるので、安全に使用できる抗酸化剤を安価かつ安定的に製造することができる。
【0164】
(油脂成分除去工程)
とくに、溶媒抽出工程は、被抽出物tが多量の油脂成分を含んでいる場合、事前に被抽出物tから油脂成分を除去するための油脂成分除去工程を備えているのが好ましい。この油脂成分除去工程は、ジャトロファ抽出物の溶媒抽出工程における被抽出物tから油脂成分を除去する脂成分除工程に相当する。
この場合、油脂成分除去工程によって被抽出物tから油脂成分を除去することができるので、この油脂成分を除去した被抽出物tを溶媒抽出することによって、ジャトロファ抽出物の抽出効率をより高めることができる。しかも、油脂成分の含有率が低いジャトロファ抽出物を得ることができるので、かかるジャトロファ抽出物の抗酸化機能は高いものとなる。
したがって、ジャトロファ抽出物の抽出効率が高くなるので、抗酸化機能が高い抗酸化剤を製造することができる。
【0165】
(不純物除去工程)
また、ジャトロファ抽出物中に水溶性の色素や糖質等の不純物が存在する場合、水と混合したときに二層を形成し得る有機溶媒にジャトロファ抽出物を溶解して混合溶液を形成し、この混合溶液に水を加えて振盪等することにより、水溶性の不純物を水層側に分配する液液分配を採用するのが好ましい。この不純物除去工程は、ジャトロファ抽出物から不純物を除去するための不純物除去工程に相当する。
この場合、水溶性の不純物の含有率が低い精製ジャトロファ抽出物を得ることができるので、かかる精製ジャトロファ抽出物の抗酸化機能は高いものとなる。
したがって、精製ジャトロファ抽出物の抗酸化機能は、ジャトロファ抽出物に比べて高くなるので、抗酸化機能が高い抗酸化剤を製造することができる。
【実施例1】
【0166】
本発明のジャトロファ抽出物が抗酸化機能を有することを確認した。
実験では、本発明のジャトロファ抽出物の抗酸化機能は、DPPH法およびフォリン−チオカルト法を用いて確認した。また、実験では、本発明のジャトロファ抽出物が、油の酸化を抑制することを油脂酸化抑制試験を行い確認した。
【0167】
(被抽出物の調製)
ジャトロファの実からジャトロファの種子を取り出したのち、ジャトロファの種子を搾油機を使用してジャトロファ油を除去した。そして搾油機から搾油残渣を取り出したのち、かかる搾油残渣を一昼夜日陰で自然乾燥した。ついで、ある程度の水分が除去した状態の搾油残渣をミキサーを使用して粉砕した。この粉砕した搾油残渣を試料(本願の被抽出物に相当)として使用した。
【0168】
(還流抽出装置)
本実験では、還流抽出装置として、図2に示す構造を有するソックスレー抽出装置(150ml用)(SIBATA社製)を使用した。
なお、実験では、ソックスレー抽出装置を16台、同時に使用した。
【0169】
実験では、ソックスレー抽出装置1台あたり、約15gの試料をそれぞれの円筒ろ紙(ADVANTEC社製、型番:84)に投入したのちに、この試料が入った円筒ろ紙をソックスレー抽出装置の収容容器内に配置した。なお、16台のソックスレー抽出装置に投入した試料の合計量は、約277gであった。
まず、試料をメタノールを用いた溶媒抽出する前に、事前に試料から油脂成分を除去するために、ノルマルヘキサンを用いて試料中の油脂成分を除去した(油脂成分除去工程)。
以下、本願の油脂成分除去工程と、本願の極性溶媒除去工程と、本願の不純物除去工程の順に説明する。
【0170】
(油脂成分除去工程)
ノルマルヘキサンをソックスレー抽出装置の回収容器内に約120ml投入したのち、ソックスレー抽出装置を組み立てて(図2参照)、試料から油脂成分を除去した(本願の油脂成分除去工程に相当)。
油脂成分を除去する条件は、ソックスレー抽出装置の還流サイクルを約20回/時間として、約8時間、試料から油脂成分を除去した。油脂成分除去を開始してから約8時間が経過したのち、回収容器から油脂成分を含んだ内容物を回収して除去した。
【0171】
実験では、この試料から油脂成分を除去した残渣(本願の油脂除去物に相当)から、極性溶媒を用いてジャトロファ抽出物を溶媒抽出した。
【0172】
(極性溶媒抽出工程と不純物除去工程)
実験では、油脂成分を除去したのちの試料(本願の油脂除去物)を、酢酸エチルを用いて溶媒抽出を行い酢酸エチル抽出物を得た。ついで、この酢酸エチルを用いて溶媒抽出した抽出残渣を、メタノールを用いて溶媒抽出を行いメタノール抽出物を得た。
【0173】
ソックスレー抽出装置において、抽出溶媒として使用した酢酸エチルおよびメタノールは、本願の極性溶媒に相当する。
上述した酢酸エチル抽出物およびメタノール抽出物が、本願のジャトロファ抽出物に相当する。
【0174】
実験では、上述した酢酸エチル抽出物は、液液分配を行い酢酸エチル抽出物から水溶性の不純物を除去して酢酸エチル抽出物有機層画分を得た。また、上述したメタノール抽出物は、同様に液液分配を行いメタノール抽出物有機層画分を得た。
この酢酸エチル抽出物およびメタノール抽出物から液液分配を行い水溶性の不純物を除去する工程が、本願の不純物除去工程における、液液分配工程に相当する。
また、酢酸エチル抽出物有機層画分およびメタノール抽出物有機層画分が、本願の精製ジャトロファ抽出物に相当する。
【0175】
液液分配は、分液ロート(SIBATA社製)を使用した。
水は、イオン交換法を用いた装置(WATERS社製)によって調製された水(ミリQ水)を使用した。
【0176】
溶媒抽出条件は、以下の条件で行った。
還流サイクル:20回/時間
溶媒抽出時間:8時間
【0177】
抽出溶媒として、酢酸エチル(和光純薬工業社製)を用いて行った溶媒抽出について説明する。
酢酸エチルによる溶媒抽出が終了したのち、回収容器から酢酸エチルによるジャトロファ抽出物および酢酸エチルの混合溶液である酢酸エチル抽出溶液(本願の極性溶媒抽出溶液に相当)を回収した。この酢酸エチル抽出溶液は、エバポレーター(東京理化社製)を用いて酢酸エチルを除去して、酢酸エチル抽出物(本願のジャトロファ抽出物に相当)を得た。実験では、16台のソックスレー抽出装置から得られた酢酸エチル抽出物は、3.0gであった(溶媒除去工程)。
【0178】
この酢酸エチル抽出物は、少量の酢酸エチルに溶解させたのち、ミリQ水と酢酸エチルを入れた分液ロートに加えて、酢酸エチル層と水層の2層に分配した。この2層のうち、酢酸エチル層を回収して、再度分液ロートに酢酸エチルを加えて分配した。かかる操作を3回行ったのち、回収した酢酸エチル層を合わせて、エバポレーターを用いて酢酸エチルを除去して酢酸エチル抽出物有機層画分(本願の精製ジャトロファ抽出物に相当)を得た。実験では、16台のソックスレー抽出装置から得られた酢酸エチル抽出物有機層画分は、約1.7gであった(不純物除去工程)。
なお、水層については、エバポレーターを用いて水を除去して酢酸エチル抽出物水層画分を得た。実験では、16台のソックスレー抽出装置から得られた酢酸エチル抽出物水層画分は、約0.9gであった。
【0179】
つぎに、酢酸エチルを用いた溶媒抽出後の抽出残渣を、酢酸エチルよりも極性が高いメタノール(和光純薬工業社製)を用いて行った溶媒抽出について説明する。
メタノールによる溶媒抽出が終了したのち、回収容器からメタノールによるジャトロファ抽出物およびメタノールの混合溶液であるメタノール抽出溶液(本願の極性溶媒抽出溶液に相当)を回収した。回収したメタノール抽出溶液は、エバポレーターを用いてメタノールを除去して、メタノール抽出物(本願のジャトロファ抽出物に相当)を得た。実験では、16台のソックスレー抽出装置から得られたメタノール抽出物は、約12.5gであった。
【0180】
メタノール抽出物は、酢酸エチル抽出物から酢酸エチル抽出物有機層画分を得た操作と同様の操作を行い、メタノール抽出物有機層画分(本願の精製ジャトロファ抽出物に相当)を得た。実験では、16台のソックスレー抽出装置から得られたメタノール抽出物有機層画分は、約0.7gであった(不純物除去工程)。
なお、水層についても、上述した操作と同様の操作を行い、メタノール抽出物水層画分を得た。実験では、16台のソックスレー抽出装置から得られたメタノール抽出物水層画分は、約11.5gであった。
【0181】
上記のごとき工程によって得られた、酢酸エチル抽出物有機層画分、メタノール抽出物有機層画分について、以下の抗酸化機能の評価試験を行った。
なお、酢酸エチル抽出物水層画分およびメタノール抽出物水層画分についても、併せて抗酸化機能の評価試験を行った。
【0182】
(抗酸化機能評価試験)
実験では、酢酸エチル抽出物有機層画分、メタノール抽出物有機層画分および酢酸エチル抽出物水層画分、メタノール抽出物水層画分の抗酸化機能は、DPPH法およびフォリン−チオカルト法で分析した。
【0183】
(DPPH法)
DPPH法とは、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl、DPPH)を用いたラジカル消去活性であり、試料(以下、本実験では評価試料という)が有する抗酸化機能によってDPPHラジカルが還元されることを利用した方法であって、このDPPHラジカルが有する紫色の所定の吸収波長の測定値に基づく吸光度を算出することによって評価試料の抗酸化機能を評価する方法である。
【0184】
実験では、評価試料を6濃度、各濃度につき2つの評価試料を調製して、測定した吸光度の平均値を算出した。そして、下記の式に基づいて、ラジカル消去活性を算出した。
ラジカル消去活性(%)=(1−評価試料の吸光度/コントロールの吸光度)×100
【0185】
実験に使用した試薬や機器等を以下に示す。
【0186】
(DPPH溶液)
DPPH溶液は、以下の操作によって調製した。
DPPH(Sigma社製)3.94mgにメタノール25mlを加え、マグネチックスターラーを用いて約30分間十分に撹拌して400μMのDPPH溶液を調製した。
なお、溶液の紫色は,時間とともに次第に退色していくので2時間以内に使用した。
【0187】
(MES buffer)
MES bufferは、以下の操作によって調製した。
2-Morpholinoethanesulfonic acid(和光純薬工業社製、型番:MES)8.53gをミリQ水に溶解した。このMES水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH6.0に調製した。かかるMES水溶液にミリQ水を加え,全量を200mlにして、200μMのMES水溶液を調製した。
なお、pHの調整には,pH METER(堀場製作所製、型番:F-52)を使用した。
【0188】
(評価試料)
酢酸エチル抽出物有機層画分、メタノール抽出物有機層画分および酢酸エチル抽出物水層画分、メタノール抽出物水層画分は、それぞれメタノールに溶解して各50ppmになるように調製した。
また、ポジティブコントロールとして、抗酸化機能が最も強い部類に属する6-Hydroxy-2,5,7,8-tetramethylchroman-2-carboxylic acid(トロロックス)(Aldrich社製、登録商標:Trolox)を使用した。かかるポジティブコントロールも同様にメタノールに溶解して50ppmになるように調製した。
なお、ポジティブコントロールとして使用したトロロックスの抗酸化力は、α−トコフェロールの約2倍の抗酸化力であった(図10または図11参照)。
【0189】
(機器等)
検出器:分光光度計(SHIMADZU社製、型番:UV-1600)
測定波長:520nm
【0190】
(操作方法)
DPPH溶液を12ml、MES bufferを12mlおよび20%メタノール水溶液12mlをそれぞれ混合した混合溶液を調製した。
まず、この混合溶液0.9mlを試験管に分注した。
ついで、この試験管に80%メタノール水溶液を加えた。加えた80%メタノール水溶液の量は、つぎにこの試験管に加える評価試料の量と合わせた合計量が300μlとなる量を加えた。つまり、試験管内の内容量は、最終的に1.2mlとした。
そして、最終濃度が所定の濃度となるように調製した評価試料を加えたのち、この試験管内の溶液を、タッチミキサ(Scientific Industries、INC社製)を用いて十分に攪拌した。その後、この試験管を室温にて20分間静置した。
20分間静置した試験管から所定量を分光光度計用セルに移したのち、検出波長520nmで吸光度を測定した。
【0191】
以下、80%メタノール水溶液と評価試料の量的関係を以下に示す。
評価試料0μl(80%メタノール水溶液300μl)、評価試料30μl(80%メタノール水溶液270μl)、評価試料60μl(80%メタノール水溶液240μl)、評価試料90μl(80%メタノール水溶液210μl)、評価試料120μl(80%メタノール水溶液180μl)、評価試料150μl(80%メタノール水溶液150μl)とした。
【0192】
上述した操作方法と同様に、上述した混合溶液0.9mlが入った試験管に、次に加える評価試料の量との合計が300μlとなるように調製した80%メタノール水溶液を加えた。そして、各評価試料およびポジティブコントロールを各濃度2本ずつ30秒ごとに、それぞれ上述した6濃度に対応する量を加えた。その後、各試験管を室温にて20分間静置した。
20分間静置した各試験管から順に所定量を分光光度計用セルに移したのち、検出波長520nmで吸光度を測定した。
【0193】
(結果)
実験結果を図4および図5に示す。
図4および図5に示すように、ラジカル消去活性は、酢酸エチル抽出物水層画分、酢酸エチル抽出物有機層画分、メタノール抽出物有機層画分の順に強くなっていたことが確認できた。つまり、試料(被抽出物)を酢酸エチルやメタノールといった極性溶媒を用いて溶媒抽出することによって、ラジカル消去活性を有する精製ジャトロファ抽出物を得ることができることを確認した。とくに、メタノール抽出物有機層画分は、他の評価試料に比べてラジカル消去活性が極めて優位であった。
したがって、試料(被抽出物)からジャトロファ抽出物を溶媒抽出する際の抽出溶媒としては、分子内に極性を有する極性溶媒が好ましく、より好ましくは、分子内の極性がより高い極性溶媒であるメタノールが好適であることが確認できた。
しかも、図5に示しように、メタノール抽出物有機層画分は、そのラジカル消去活性が、ポジティブコントロールのトロロックスと同等の活性を有するものであることが確認できた。つまり、メタノール抽出物有機層画分は、高い抗酸化機能を有することが確認できた。
なお、メタノール抽出物有機層画分が有するラジカル消去活性機能は、天然化合物のα−トコフェロールが有するラジカル消去活性機能よりも高いことは、後述するジャトロファ抽出物中から単離された化合物(本願の化合物(4)および化合物(5))の抗酸化試験の結果から明らかである(図10および図11参照)。
なお、図5に示すように、メタノール抽出物水層画分は、ラジカル消去活性をほとんど有していないことが確認できた。
【0194】
(フォリン−チオカルト法)
フォリン−チオカルト法とは、評価試料が有する抗酸化機能によってFolin-Ciocalteu試薬が還元されることを利用した方法であって、アルカリ条件下において評価試料中のフェノール性物質がFolin-Ciocalteu試薬を還元にして生成された着色物質が有する青色の所定の吸収波長の測定値に基づいて吸光度を算出して評価試料の抗酸化機能を評価する方法である。
実験では、没食子酸の検量線を作成し、試料の総フェノール量を没食子酸相当量で示した。
【0195】
実験に使用した試薬や機器等を以下に示す。
フェノール試薬:フェノール試液(ナカライテスク社製)10mlを試験管に分注して、この試験管にミリQ水10mlを加えて、2倍に希釈したフェノール試薬を調製した。
アルカリ水溶液:無水炭酸ナトリウム(和光純薬工業社製)2.0gをミリQ20mlに溶解して、10重量%炭酸水素ナトリウム水溶液を調製した。
検量線用標準試薬:没食子酸(和光純薬工業社製)
ポジティブコントロール用試薬:トロロックス(Aldrich社製、登録商標:Trolox)
検出器:分光光度計(SHIMADZU社製、型番:UV-1600)
測定波長:760nm
【0196】
(評価試料)
酢酸エチル抽出物有機層画分、メタノール抽出物有機層画分および酢酸エチル抽出物水層画分、メタノール抽出物水層画分をミリQ水に溶解して、それぞれ100ppmになるように調製した。
【0197】
(操作方法)
100ppmに調整した各評価試料を0.2mlずつ、それぞれの試験管に分注した。その後、各試験管にフェノール試薬を0.2ml、10重量%炭酸水素ナトリウム水溶液を0.2mlついで、ミリQ水を0.8mlの順に加えて測定用試料を調製した。
調整した測定用試料が入った各試験管は、暗所で30分静置した後、各試験管から所定量を分光光度計用セルに移したのち、検出波長760nmで吸光度を測定した。
【0198】
上述した操作方法と同様に、没食子酸による検量線を事前に作成しておき、この作成した検量線と上述した各試料の測定値に基づいて、各試料中の総フェノール量を没食子酸相当量として算出した。
なお、没食子酸の検量線は、所定の量の没食子酸をミリQ水に溶解して、0,20,60、100ppmの各濃度の検量線溶液を調整して作成した。
【0199】
ポジティブコントロールとして、トロロックスを使用した。このトロロックスも上述した操作方法と同様に、メタノールに溶解して100ppmになるように調整した後、吸光度を測定した。
【0200】
(結果)
実験結果を、図6に示す。
図6に示すように、抗酸化活性は、酢酸エチル抽出物水層画分、酢酸エチル抽出物有機層画分、メタノール抽出物水層画分、メタノール抽出物有機層画分の順に強くなっていたことが確認できた。つまり、試料(被抽出物)を酢酸エチルやメタノールといった極性溶媒を用いて溶媒抽出することによって、抗酸化活性を有する精製ジャトロファ抽出物を得ることができることを確認した。とくに、メタノール抽出物有機層画分は、他の評価試料に比べて抗酸化活性が極めて優位であった。
したがって、試料(被抽出物)からジャトロファ抽出物を溶媒抽出する際の抽出溶媒としては、分子内に極性を有する極性溶媒が好ましく、より好ましくは、分子内の極性がより高い極性溶媒であるメタノールが好適であることが確認できた。
しかも、図6に示しように、メタノール抽出物有機層画分は、その抗酸化活性が、ポジティブコントロールのトロロックスに比べて優位な活性を有するものであることが確認できた。つまり、メタノール抽出物有機層画分は、高い抗酸化機能を有することが確認できた。
【0201】
以上の結果より、試料を本実験の溶媒抽出装置を使用して極性溶媒を用いて溶媒抽出することによって、精製ジャトロファ抽出物が抗酸化機能を有することが確認できた。
また、抽出溶媒として使用した極性溶媒は、酢酸エチルやメタノールが好ましく、より好ましくはメタノールであることが確認できた。
【0202】
(油脂酸化抑制試験)
メタノール抽出物有機層画分を油(本願の被酸化抑制物に相当)に対して添加することによって、油の酸化を抑制できたことを確認した。
【0203】
油:市販のサラダ油、ジャトロファ油
【0204】
(サラダ油の酸化抑制試験)
サラダ油10mlを試験管に分注した。ついで、この試験管に、メタノール抽出物有機層画分1mgを添加した。
ポジティブコントロールとして、α−トコフェロール1mgをサラダ油10mlが入った試験管に添加したもの使用した。また、ネガティブコントロールとして、サラダ油10mlだけを試験管に入れたものを使用した。
上述した試験管は、恒温槽(180℃)において、所定の時間加熱することによって、試験管に入ったサラダ油の酸化を加速させた。所定時間が経過したのち、これらの試験管を、室温にもどして、サラダ油の酸化を簡易の試験紙を用いて測定した。
なお、試験紙は、食品衛生法で規定されているAV(酸化)試験紙と、良好な感度を示すTBA(チオバルビツール酸)試験紙を使用した。
ここで、AV(酸化)とは、油脂の遊離脂肪酸の量を示したものであり、油脂1g中の脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で示したものである。また、チオバルビツール酸化(TBA)とは、油脂分解で生じたアルデヒド類の量をしたものであり、油脂1kgに含まれるマロンアルデヒドのmg数で示したものである。
【0205】
試験紙:AV-CHECK(ADVANTEC社製)と油脂TBA試験紙(SIBATA社製)を使用した。
加熱時間:AV-CHECKは4日、油脂TBA試験紙は2時間とした。
【0206】
実験結果を、図7および図8に示す。
図7に示すように、メタノール抽出物有機層画分は、2日間は、α−トコフェロールと同等の酸化抑制力を示し、2日〜4日にかけては、α−トコフェロールに比べてサラダ油の酸化を優位に抑制できたことを確認した。
また、図8に示すように、油脂TBA試験紙の試験では、メタノール抽出物有機層画分は、α−トコフェロールと同等の酸化抑制力を有することを確認できた。
したがって、メタノール抽出物有機層画分は、その酸化抑制力が、初期の時間においては、α−トコフェロールと同等の酸化抑制力を有し、長期においては、α−トコフェロールに比べて優位な酸化抑制力を有することが確認できた。
【0207】
(ジャトロファ油の酸化抑制試験)
上述したサラダ油に変えて、ジャトロファ油を使用した。
操作方法は、上述したサラダ油の酸化抑制試験と同様に行った。
ジャトロファ油10mlを試験管に分注した。ついで、この試験管に、メタノール抽出物有機層画分1mgを添加した。
ポジティブコントロールとして、α−トコフェロール1mgをジャトロファ油10mlが入った試験管に添加したもの使用した。また、ネガティブコントロールとして、ジャトロファ油10mlだけを試験管に入れたものを使用した。
試験紙は、食品衛生法で規制化されているPOV(過酸化物価)試験紙を使用した。過酸化物価(POV)とは、油脂中のヒドロペルオキシドの量を示すものであり、油脂にヨウ化カリウムを加え、ヒドロペルオキシドによって遊離したヨウ素を測定するものである。
【0208】
試験紙:POV試験紙(ADVANTEC社製)
加熱時間:POV試験紙(1時間)
【0209】
実験結果を、図9に示す。
図7に示すように、メタノール抽出物有機層画分は、ジャトロファ油の添加することによって、α−トコフェロールに比べて、ジャトロファ油が酸化するのを優位に抑制できたことを確認した。
【実施例2】
【0210】
本発明のジャトロファ抽出物中の化合物を確認した。
実験では、ジャトロファ抽出物中の化合物が、抗酸化機能を有することを確認した。
【0211】
実験では、試料として、上述したメタノール抽出物有機層画分を使用した。
このメタノール抽出物有機層画分中に含まれる化合物、つまり、化合物(6)、化合物(7)、化合物(8)および化合物(11)、を中圧カラムクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィー(TLC)により分画した(本願の分画工程に相当)。そして、得られた所定の画分を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分取した(本願の単離工程に相当)。
HPLCにより分取した各化合物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、核磁気共鳴装置(NMR)、および質量分析装置(MS)用いて分析(同定等)した。
【0212】
実験に使用した試薬や装置等を以下に示す。
【0213】
(中圧カラムクロマトグラフィー)
カラム:マイケルミラーカラム(内径1.0cm、長さ55cm、マイケルミラー社製)
吸着剤:Silica gel 60(0.040-0.063mm,230-400mesh,ADVANTEC社製)
ポンプ:THE FMI LAB PUMP(FMI社製)
検出器:分光光度計(SHIMADZU社製、型番:UV-1600)
検出波長:280nm
移動相:(条件1)ジクロロメタン:メタノール=100:0、95:5、90:10、85:15、80:20をそれぞれ300mlの順に使用した。
(条件2)ノルマルヘキサン(n−ヘキサン):酢酸エチル=100:0、80:20、60:40、40:60をそれぞれ500ml、20:80を700ml、100%メタノール(MeOH)を500mlの順に使用した。
フラクションコレクター:SF-2120(ADVANTEC社製)を使用した。分画量は20mlとした。
【0214】
(薄層クロマトグラフィー(TLC))
Silica gel 60 F254(20cm×20cm,厚さ0.5mm,Merck社製)を使用した。
なお、分析には,Silica gel 60 F254(20cm×20cm,厚さ0.25mm,Merck社製)を使用した。
【0215】
(逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC))
以下、分取用に使用したHPLCについて示す。
カラム:ODS-80Ts(内径7.8mm、長さ:30cm、TOSOH社製)
ポンプ:日本分光PU-980型インテリジェントHPLCポンプ(日本分光社製、型番:高圧グラジェント用)
検出器:UV-970型インテリジェントUV/VIS検出システムおよびMD-2010型全波長検出器(日本分光社製)
検出波長:280nm
データ処理装置:島津データ処理装置クロマトパックC-R6A(島津製作所社製)
移動相:60%メタノール水溶液
流量:0.8ml/min
注入量:50μl(試料濃度10000ppm)
【0216】
以下、分析用に使用したHPLCについて示す。
カラム:ODS-80Ts(内径4.6mm、長さ:25cm、TOSOH社製)
ポンプ:日本分光PU-980型インテリジェントHPLCポンプ(日本分光社製、型番:高圧グラジェント用)
検出器:UV-970型インテリジェントUV/VIS検出システムおよびMD-2010型全波長検出器(日本分光社製)
データ処理装置:日本分光BORWIN-GCP Ver.4.2.3,Spectra Manager
Ver.1.53F(日本分光社製)
検出波長:280nm
移動相:10→90%メタノール水溶液(gradient)
流量:1.0ml/min
注入量:10μl(試料濃度1000ppm)
【0217】
(核磁気共鳴装置(NMR)
装置:JNM ECA 600 FT-NMRスペクトロメーター(日本電子社製)
溶媒:CHLOROFORM-D、DIMETHYL SULFOXIDE-D6、METHANOL-D4
基準物質:テトラメチルシラン(TMS)
【0218】
(質量分析装置(MS))
装置:JMS SX102A(日本電子社製)
イオン化法:FAB、EI
なお、実験では、化合物を検出しやすいイオン化法を使用した。
【0219】
(分画工程)
まず、メタノール抽出物有機層画分を、中圧カラムクロマトグラフィーにより複数の画分に分画した。
分画操作は、中圧カラムクロマトグラフィーから得られる溶出溶液を試験管あたり20mlとなるようにフラクションコレクターを使用して分けた。一方、中圧カラムクロマトグラフィーに設けられた検出器は、上記溶出溶液中に存在する化合物に基づいて吸光度を検出することができる。すると、検出された吸光度に基づいて経時変化曲線を形成した。この経時変化曲線には、複数のピークが検出された。この各ピークを中圧カラムクロマトグラフィーによって得られた各画分とした。
したがって、この各画分に対応するフラクションコレクターを用いて分けた溶出液を合わせて、各画分とした。
上述した条件(1)では、1〜12画分を得た。
また、上述した条件(2)では、1〜11画分を得た。得られた11の画分のうち、画分10は、上述したTLCを使用して5の画分に分画した。
【0220】
(単離工程)
中圧カラムクロマトグラフィーの条件(1)で得られた12の画分のうち、画分4を、HPLCを使用して、画分4に含まれる各化合物をそれぞれ分離して、それぞれ分取した。各分取した画分から、移動相を除去して各分画物を得た(本願の単離物に相当)。得られた各分画物は、HPLCを使用して単一のピークを確認にした。つまり、メタノール抽出物有機層画分中に含まれる化合物を単離できたことを確認した。
また、中圧カラムクロマトグラフィーの条件(2)得られた11の画分のうち、画分10をTLCを使用して得られた5の画分のうち、画分5を、HPLCを使用して、画分5に含まれる各化合物をそれぞれ分離して、それぞれ分取した。各分取した画分から、上述した操作と同様の操作を行い、得られた各分画物は、HPLCを使用して単一のピークを確認にした。つまり、中圧カラムクロマトグラフィーの条件(2)においてもメタノール抽出物有機層画分中に含まれる化合物を単離できたことを確認した。
【0221】
(ジャトロファ抽出物中の化合物の構造決定)
上述した単離工程における、中圧カラムクロマトグラフィーの条件(1)の画分をHPLCを使用して単離された化合物のうち、2つの化合物Wと化合物Xについて、核磁気共鳴装置(NMR)および質量分析装置(MS)を使用して得られた各種スペクトルデータを解析することにより、化学構造を決定した。
また、上述した中圧カラムクロマトグラフィーの条件(2)の画分をHPLCを使用して単離された化合物のうち、2つの化合物Yと化合物Zについても、核磁気共鳴装置(NMR)および質量分析装置(MS)を使用して得られた各種スペクトルデータを解析することにより、化学構造を決定した。
【0222】
化合物W(本願の化合物(8)に相当)の結果を以下に示す。
【0223】
【化19】

【0224】
【表1】

【0225】
EI−MS: m/z
(rel. int.): 344 [M](52)、312(33), 180(58)、148(61)、123(68)、91(100)
【0226】
化合物X(本願の化合物(11)に相当)の結果を以下に示す。
【0227】
【化20】

【0228】
【表2】

【0229】
化合物Y(本願の化合物(6)に相当)の結果を以下に示す。
【0230】
【化21】

【0231】
【表3】

【0232】
FAB−MS:331[M+H]
【0233】
化合物Z(本願の化合物(7)に相当)の結果を以下に示す。
【0234】
【化22】

【0235】
【表4】

【0236】
FAB−MS:331[M+H]
【0237】
(ジャトロファ抽出物中の化合物の抗酸化機能評価試験)
実験では、化合物Y(本願の化合物(6)に相当)および化合物Z(本願の化合物(7)に相当)の抗酸化機能は、DPPH法およびフォリン−チオカルト法で分析した。
化合物Y(本願の化合物(6)に相当)および化合物Z(本願の化合物(7)に相当)のDPPH法およびフォリン−チオカルト法による分析は、上述した酢酸エチル抽出物有機層画分やメタノール抽出物有機層画分を分析したのと同様の操作を行って分析した。
なお、DPPH法の分析において、ポジティブコントロールとして、トロロックスと、α−トコフェロールを使用した。
【0238】
DPPH法による実験結果を、図10および図11に示す。また、フォリン−チオカルト法による実験結果を、図12に示す。
【0239】
図10に示すように、化合物Y(本願の化合物(6)に相当)は、そのラジカル消去活性が、ポジティブコントロールのα−トコフェロールのラジカル消去活性よりも優位な活性を有することを確認した。つまり、化合物Y(本願の化合物(6)に相当)は、高い抗酸化機能を有することが確認できた。
図11に示すように、化合物Z(本願の化合物(7)に相当)は、そのラジカル消去活性が、ポジティブコントロールのα−トコフェロールのラジカル消去活性と同等の活性を有することを確認した。
図12に示すように、化合物Y(本願の化合物(6)に相当)および化合物Z(本願の化合物(7)に相当)は、その抗酸化活性がポジティブコントロールのトロロックスには及ばないものの、高い活性を有することが確認できた。
【0240】
以上の結果より、ジャトロファ抽出物から、α−トコフェロールと同等またはそれ以上の高い抗酸化機能を有する化合物を単離できたことが確認できた。
【実施例3】
【0241】
本発明のジャトロファ抽出物中の化合物を確認した。
実験では、ジャトロファ抽出物中の化合物が、抗酸化機能を有することを確認した。
【0242】
実験では、試料として、上述した実施例1で示した実験操作と同様の操作によって得られたメタノール抽出物有機層画分を使用した。なお、16台のソックスレー抽出装置に投入した試料の合計量は、約356gであり、得られたメタノール抽出物有機層画分は、約0.7g(697mg)であった。このメタノール抽出物有機層画分中に含まれる化合物、つまり、化合物(6)〜化合物(13)、を上述した実施例2で示した実験で使用した中圧カラムクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィー(TLC)を使用して分画した(本願の分画工程に相当)。そして、得られた所定の画分を、上述した実施例2で示した実験で使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分取した(本願の単離工程に相当)。このHPLCにより分取した各化合物は、上述した実施例2で示した実験で使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、核磁気共鳴装置(NMR)、質量分析装置(MS)と、後述する旋光度計およびキラルHPLCを用いて分析(同定等)した。
【0243】
なお、本実験の分画工程や単理工程および分析等に使用した装置等は、原則実施例2に示した実験で使用した装置等と同じ装置等を使用した。ただし、単離工程において、実施例2に示した実験とは異なる操作を行った。したがって、実験に使用した試薬や装置等については、実施例2に示した実験と異なる装置等(条件を含む)についてのみ示し、実施例2に示した実験で使用した装置等については以下の説明から割愛する。
【0244】
実験に使用した試薬や装置等を以下に示す(実施例2に示した実験と異なる装置等(条件を含む))。
【0245】
(逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC))
以下、分取用に使用したHPLCについて示す。
カラム:ODS-80Ts(内径7.8mm、長さ:30cm、TOSOH社製)
ポンプ:日本分光PU-980型インテリジェントHPLCポンプ(日本分光社製、型番:高圧グラジェント用)
検出器:UV-970型インテリジェントUV/VIS検出システムおよびMD-2010型全波長検出器(日本分光社製)
検出波長:280nm
データ処理装置:島津データ処理装置クロマトパックC-R6A(島津製作所社製)
(条件1)
移動相:60%メタノール水溶液
流量:0.8ml/min
注入量:50μl(試料濃度10000ppm)
(条件2)
移動相:50%メタノール水溶液
流量:1.0ml/min
注入量:50μl(試料濃度10000ppm)
【0246】
(比旋光度計)
以下、比旋光度の分析に使用した装置等について示す。
装置:P−1010(日本分光社製)
溶媒:エタノール
【0247】
(キラルHPLC)
以下、鏡像体過剰率の分析に使用したキラルHPLCについて示す。
カラム:CHIRALCEL OD-H キラルセル(内径:4.6mm、長さ:25cm、ダイセル社製)
ポンプ:4溶媒減圧グラジェントポンプ(日本分光社製、型番:日本分光PU2089)
検出器:インテリジェント紫外可視検出器(日本分光社製、型番:日本分光UV-2075)
検出波長:280nm
データ処理装置:島津データ処理装置クロマトパックC-R7A(島津製作所社製)
旋光度検出器:日本分光OR-990(日本分光社製)
旋光度データ処理装置:RECORDER MODEL561-3003(Hitachi社製)
(条件1)
移動相:ヘキサン:エタノール=70:30
流速:0.8ml/min
注入量:10μl(試料濃度10000ppm)
(条件2)
移動相:ヘキサン:エタノール=85:15
流速:0.8ml/min
注入量:10μl(試料濃度10000ppm)
(条件3)
移動相:ヘキサン:エタノール=75:25
流速:0.8ml/min
注入量:10μl(試料濃度10000ppm)
【0248】
(分画工程)
まず、メタノール抽出物有機層画分を、中圧カラムクロマトグラフィー(実施例2に示した実験における中圧カラムクロマトグラフィーの条件1)により複数の画分に分画した。分画操作は、実施例2に示した実験と同様の操作により行い、1〜12画分を得た。
【0249】
(中圧カラムクロマトグラフィーの画分4の単離工程)
中圧カラムクロマトグラフィーで得られた12の画分のうち、画分4を、HPLC(条件1)を使用して、画分4に含まれる各化合物をそれぞれ分離して、それぞれ分取した。なお、後述する化合物WRについては、さらにHPLC(条件2)を使用して、分離・分取した。各分取した画分から、移動相を除去して各分画物を得た(本願の単離物に相当)。得られた各分画物は、HPLCを使用して単一のピークを確認にした。つまり、メタノール抽出物有機層画分中に含まれる化合物のうち、画分4に含まれていた化合物(後述する化合物WS、化合物XSおよび化合物WR)を単離できたことを確認した。
【0250】
(中圧カラムクロマトグラフィーの画分7の単離工程)
中圧カラムクロマトグラフィーで得られた12の画分のうち、画分7をTLC(ジクロロメタン:メタノール=9:1)を使用して所定の画分を分取した。そして、かかる画分をHPLC(条件2)を使用して、3つの画分およびその他の画分(以下、回収画分という)に分離・分取した。なお、回収画分は、後述する化合物IPおよび化合物Pを含む画分である。
各分取した画分から、移動相を除去して各分画物を得た(本願の単離物に相当)。得られた各分画物は、HPLCを使用して単一のピークを確認にした。つまり、メタノール抽出物有機層画分中に含まれる化合物のうち、画分7に含まれていた化合物(後述する化合物YS、化合物ZSおよび化合物XH)を単離できたことを確認した。
【0251】
(回収画分の単離工程)
上述したように、中圧カラムクロマトグラフィーの画分7の単離工程の際に得られた回収画分をHPLC(条件2)を使用して分離・分取した。
各分取した画分から、移動相を除去して各分画物を得た(本願の単離物に相当)。得られた各分画物は、HPLCを使用して単一のピークを確認にした。つまり、メタノール抽出物有機層画分中に含まれる化合物のうち、画分7の単離工程の際に得られた回収画分に含まれていた化合物(後述する化合物IPおよび化合物P)を単離できたことを確認した。
【0252】
(ジャトロファ抽出物中の化合物の構造決定)
上述した単離工程において単離された化合物、つまり、中圧カラムクロマトグラフィーの画分4の化合物WS、化合物XSおよび化合物WR、中圧カラムクロマトグラフィーの画分7の化合物YS、化合物ZSおよび化合物XH、および回収画分の化合物IPおよび化合物P、を核磁気共鳴装置(NMR)および質量分析装置(MS)を使用して得られた各種スペクトルデータを解析することにより、化学構造を決定した。
また、化合物YS、化合物ZSおよび化合物XHは、旋光度計およびキラルHPLCを使用して得られたデータを解析することによってそれぞれの化合物の比旋光度および鏡像体過剰率を算出した。なお、キラルHPLCを使用して鏡像体過剰率を算出する場合、分析条件は、化合物YSでは条件1を、化合物ZSでは条件2を、化合物XHでは条件3を、それぞれ使用した。
【0253】
化合物WS(本願の化合物(8)に相当)の結果を以下に示す。
【0254】
【化23】

【0255】
【表5】

【0256】
EI−MS: m/z
(rel. int.): 344 [M](52)、148(61)、123(68)、103(65)、91(100)
【0257】
化合物XS(本願の化合物(11)に相当)の結果を以下に示す。
【0258】
【化24】

【0259】
【表6】

【0260】
EI−MS: m/z
(rel. int.): 344 [M]+(100)、166(56)、148(86)、123(82)、91(56)
【0261】
化合物WR(本願の化合物(9)に相当)の結果を以下に示す。
【0262】
【化25】

【0263】
【表7】

【0264】
EI−MS: m/z (rel. int.): 328[M]+(100)、166(30)、148(33)、123(48)、110(33)
【0265】
化合物YS(本願の化合物(6)に相当)の結果を以下に示す。
【0266】
【化26】

【0267】
【表8】

【0268】
FAB−MS:331[M+H]
【0269】
比旋光度 [α]=+7.08 ° (c=0.465、EtOH)
鏡像体過剰率 (+)体:(−)体=61:39[(+)22%e.e.]
【0270】
化合物ZS(本願の化合物(7)に相当)の結果を以下に示す。
【0271】
【化27】

【0272】
【表9】

【0273】
FAB−MS:331[M+H]
【0274】
比旋光度 [α]=−3.89 ° (c=0.368、EtOH)
鏡像体過剰率 (+)体:(−)体=44:56[(−)12%e.e.]
【0275】
化合物XH(本願の化合物(10)に相当)の結果を以下に示す。
【0276】
【化28】

【0277】
【表10】

【0278】
比旋光度 [α]=+21.5 ° (c=0.140、EtOH)
鏡像体過剰率 (+)体:(−)体=64:36[(+)18%e.e.]
【0279】
化合物IP(本願の化合物(12)に相当)の結果を以下に示す。
【0280】
【化29】

【0281】
【表11】

【0282】
FAB−MS:495[M+H]
【0283】
化合物P(本願の化合物(13)に相当)の結果を以下に示す。
【0284】
【化30】

【0285】
【表12】

【0286】
FAB−MS:495[M+H]
【0287】
各化合物を以上のごとく、(i)中圧カラムクロマトグラフィーの画分4から、化合物WS(本願の化合物(8)に相当)、化合物XS(本願の化合物(11)に相当)および化合物WR(本願の化合物(9)に相当)を、(ii)中圧カラムクロマトグラフィーの画分7から、化合物YS(本願の化合物(6)に相当)、化合物ZS(本願の化合物(7)に相当)および化合物XH(本願の化合物(10)に相当)を、(iii)中圧カラムクロマトグラフィーの画分7の単離工程の際に得られた回収画分から、化合物IP(本願の化合物(12)に相当)および化合物P(本願の化合物(13)に相当)を、構造決定をすることができた。
【0288】
(実施例1の実験との比較)
また、上記のごとき分析結果から、化合物WSは実施例1の化合物Wに相当し、化合物XSは実施例1の化合物Xに相当し、化合物YSは実施例1の化合物Yに相当し、化合物ZSは実施例1の化合物Zに相当することが確認できた。つまり、化合物YS(実施例1の化合物Yに相当)および化合物ZS(実施例1の化合物Zに相当)は、中圧カラムクロマトグラフィーによる分画条件2(移動層としてn−ヘキサンと酢酸エチルを使用する条件)を使用することなく単離できることが確認できた。言い換えれば、本実験で構造決定した化合物は、中圧カラムクロマトグラフィーにおいて、分画条件1(移動層としてジクロロメタンとメタノールを使用する条件)を使用すれば、全ての化合物を分画することができたことが確認できた。
【0289】
(ジャトロファ抽出物中の化合物の抗酸化機能評価試験)
実験では、上記のごとく同定した化合物の抗酸化機能をDPPH法およびフォリン−チオカルト法で分析した。
なお、DPPH法の分析において、ポジティブコントロールとして、トロロックスと、α−トコフェロールを使用した。
【0290】
DPPH法による実験結果を、図10〜図20に示す。また、各化合物のIC25値を図21(つまり各化合物の相対評価の図)に示す。なお、IC25値とは、DPPHラジカルを25%阻害するときの添加物質の量を濃度(μM)で表したものである。このIC25値は、その値が小さいほど高い抗酸化活性を有していることを示す。
また、フォリン−チオカルト法による実験結果を、図22に示す。なお、図22に示したグラフは、添加物質の量を没食子酸相当量(μg/mg)に換算した値で表したものであり、値が大きいほど高い抗酸化活性を有していることを示す。
【0291】
(ラジカル消去活性について)
図10〜図21に示すように、構造決定した化合物は、全て、そのラジカル消去活性が、ポジティブコントロールのα−トコフェロールのラジカル消去活性よりも優位な活性を有することを確認した。
とくに、図21に示すように、化合物IPは、そのIC25値が4.85とポジティブコントロールのトロロックス(IC25値が9.47)に比べて極めて高い抗酸化機能を有することが確認できた。
また、図21に示すように、化合物YS、化合物WS、化合物XHおよび化合物Pは、そのIC25値がトロロックスとほぼ同等の抗酸化機能を有することが確認できた。
【0292】
(フォリン−チオカルト法による抗酸化活性について)
図22に示すように、構造決定した化合物は、その抗酸化活性がポジティブコントロールのトロロックスと同等またはそれ以上の高い活性を有することが確認できた。
とくに、図22に示すように、化合物IPおよび化合物YSは、その没食子酸相当量が化合物IPでは301、化合物YSでは300であり、ポジティブコントロールのトロロックス(没食子酸相当量が204)に比べて極めて高い抗酸化機能を有することが確認できた。
また、図22に示すように、化合物ZS、化合物WR、化合物WS、化合物XHおよび化合物Pは、没食子酸相当量がトロロックスとほぼ同等の抗酸化機能を有することが確認できた。
【0293】
したがって、構造決定した化合物(化合物WS、化合物XS、化合物WR、化合物YS、化合物ZS、化合物XH、化合物IPおよび化合物P)は、抗酸化機能を有するものとして一般的に使用されるα−トコフェロールよりも高い抗酸化機能を有することが確認できた。しかも、複数の化合物(化合物YS、化合物WS化合物XH、化合物IPおよび化合物P)は、極めて抗酸化機能が高いといわれているトロロックスと比べて同等またはそれ以上の抗酸化機能を有することが確認できた。
【実施例4】
【0294】
本発明のジャトロファ抽出物中の化合物の有効性を確認した。
実験では、ジャトロファ抽出物中の化合物を長期間保存した場合であっても高い抗酸化機能を有することを確認した。
【0295】
実験では、試料として、実施例2で単離・同定した化合物Yおよび化合物Zと、実施例3で単離・同定した化合物YSおよび化合物ZSにおいて、各化合物のDPPH法およびフォリン−チオカルト法による抗酸化機能を比較することによって確認した。
なお、DPPH法では各化合物のIC25値を、フォリン−チオカルト法では添加した各化合物の量を没食子酸相当量(μg/mg)に換算した値を、それぞれ比較することによって確認した。
【0296】
なお、実施例2で単離・同定した化合物Yは、単離してから約150日冷暗所下に保存したものを使用した。また、実施例2で単離・同定した化合物Zは、単離してから約300日冷暗所下に保存したものを使用した。
一方、実施例3で単離・同定した化合物YSは、単離してから約90日冷暗所下に保存したものを使用した。また、実施例3で単離・同定した化合物ZSは、単離してから約90日冷暗所下に保存したものを使用した。
【0297】
その結果を図23および図24に示す。
【0298】
図23に示すように、化合物Yおよび化合物YS、つまり本願の化合物(6)に相当する化合物は、そのIC25値が単離後、約150日の場合14.9であり、単離後、約90日の場合8.3であった。つまり、本願の化合物(6)に相当する化合物は、そのIC25値に基づく抗酸化機能において、約150日の長期間保存した場合であっても、その抗酸化機能の低下が約44%であった。
また、図24に示すように、化合物Yおよび化合物YS、つまり本願の化合物(6)に相当する化合物は、その没食子酸相当量が単離後、約150日の場合151であり、単離後、約90日の場合300であった。つまり、本願の化合物(6)に相当する化合物は、その没食子酸相当量に基づく抗酸化機能において、約150日の長期間保存した場合であっても、その抗酸化機能の低下が約50%であった。
【0299】
図23に示すように、化合物Zおよび化合物ZS、つまり本願の化合物(7)に相当する化合物は、そのIC25値が単離後、約300日の場合14.9であり、単離後、約90日の場合11.9であった。つまり、本願の化合物(7)に相当する化合物は、そのIC25値に基づく抗酸化機能において、約300日の長期間保存した場合であっても、その抗酸化機能の低下が約20%であった。
【0300】
また、図24に示すように、化合物Zおよび化合物ZS、つまり本願の化合物(7)に相当する化合物は、その没食子酸相当量が単離後、約300日の場合109であり、単離後、約90日の場合250であった。つまり、本願の化合物(7)に相当する化合物は、その没食子酸相当量に基づく抗酸化機能において、長期間保存した場合であっても、その抗酸化機能の低下が約56%であった。
【0301】
以上の結果から、本願の化合物(6)および化合物(7)に相当する化合物は、長期間保存した場合であっても、高い抗酸化機能を維持することが確認できた。つまり、本願の化合物(6)および化合物(7)に相当する化合物を含むジャトロファ抽出物や抗酸化剤は、長期間保存した状態でも高い抗酸化機能を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0302】
本発明のジャトロファ抽出物、抗酸化剤および抗酸化剤の製造方法は、ジャトロファの種子を有効に活用することに適している。
【符号の説明】
【0303】
1 還流抽出装置
2 抽出手段
3 回収手段
4 冷却手段
t 被抽出物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャトロファの種子を含む被抽出物を溶媒抽出して抽出されたものである
ことを特徴とするジャトロファ抽出物。
【請求項2】
前記被抽出物が、
前記ジャトロファの種子から搾油したのちの搾油残渣を含むものである
ことを特徴とする請求項1記載のジャトロファ抽出物。
【請求項3】
前記被抽出物は、油脂成分を除去したものである
ことを特徴とする請求項1または2記載のジャトロファ抽出物。
【請求項4】
カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物、1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物、および、カテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物、のうちの少なくとも1つの化合物を含んでいる
ことを特徴とする抗酸化剤。
【請求項5】
前記カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物が、
一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2がヒドロキシ基を表す場合には、R3がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR4がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R3およびR4がヒドロキシ基を表す場合には、R1がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR2がヒドロキシ基またはメトキシル基を表す)で表される化合物である
ことを特徴とする請求項4記載の抗酸化剤。
【請求項6】
前記1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物が、
一般式(2)
【化2】

(式中、R5は水素またはメチル基を表す)で表される化合物であり、
および/または、
一般式(3)
【化3】

(式中、R6は水素またはメチル基を表す)で表される化合物である
ことを特徴とする請求項4または5記載の抗酸化剤。
【請求項7】
前記カテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物が、一般式(4)
【化4】

(式中、R11がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R7およびR8がヒドロキシ基を表す場合にはR9がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR10がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R9およびR10がヒドロキシ基を表す場合にはR7がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR8がヒドロキシ基またはメトキシル基を表す)で表される化合物であり、
および/または、一般式(5)
【化5】

(式中、R16がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R12およびR13がヒドロキシ基を表す場合にはR14がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR15がヒドロキシ基またはメトキシル基を表し、R14およびR15がヒドロキシ基を表す場合にはR12がヒドロキシ基またはメトキシル基を表しかつR13がヒドロキシ基またはメトキシル基を表す)で表される化合物である
ことを特徴とする請求項4、5または6記載の抗酸化剤。
【請求項8】
前記カテコール基を有するフロフラン型リグナン化合物、1,4−ベンゾジオキサン型ネオリグナン化合物、および、カテコール基を有するフロフラン型セスキネオリグナン化合物、のうちの少なくとも1つの化合物がジャトロファの種子から抽出されたものである
ことを特徴とする請求項4、5、6または7記載の抗酸化剤。
【請求項9】
ジャトロファの種子を含む被抽出物を溶媒抽出する溶媒抽出工程を備えている
ことを特徴とする抗酸化剤の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒抽出工程が、
前記被抽出物から油脂成分を除去する油脂成分除去工程と、
該油脂成分除去工程で油脂成分を除去したのちの被抽出物を極性を有する溶媒を用いて抽出する極性溶媒抽出工程と、を順に行う
ことを特徴とする請求項9記載の抗酸化剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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