説明

ジュール加熱を用いた連続加熱押出成形により製造したタンパク質加工食品及びその製造方法

【課題】 魚肉ソーセージなどの、加熱成形して製造するタンパク質加工食品を連続生産する方法を提供する。
【解決手段】 タンパク質と脂質を含有する混合物を加熱凝固して成形させるタンパク質加工食品の製造において、加熱方式としてジュール加熱を用いた、連続加熱押出成形を用いることを特徴とするタンパク質加工食品の製造方法である。また、該方法で製造された、タンパク質加工食品の原料が、筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を主成分として含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、副原料を添加し練り上げた混練物であり、混練物中に2〜35重量%の脂質を含むものであるタンパク質加工食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚肉ソーセージのような、畜肉又は水産物由来肉を主原料とするタンパク質加工食品及びその製造方法に関する。詳細には、加熱方法としてジュール加熱を用いる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉ソーセージとは魚肉の練り肉と副原料を混合し、ケーシングに充填し加熱した製品である。畜肉のソーセージは羊腸など、可食ケーシングに練り肉を充填し、燻製などにされ、加熱して食する。いずれも、ケーシングなど成型してから、加熱処理される。
【0003】
ジュール加熱は加熱方法の一つとして、食品製造分野においても利用されている。
例えば、ジュース、ソース、ケチャップ、マヨネーズ等の流動性のある食品の殺菌や内在酵素失活等の目的で利用されている(特許文献1〜4等)。畜産練り製品の製造においてジュール加熱で予備加熱した後、成型し、成型されたものをさらにジュール加熱する技術が開示されている(特許文献5)。また、竹輪、さつま揚げ、カニ風味かまぼこ等の練り製品の製造においては、成型後の練り肉の加熱にジュール加熱を利用するもの、あるいは、成型前の練り肉の予備加熱にジュール加熱を利用するものなどがある(特許文献6〜9等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−33024号
【特許文献2】特許4143948号
【特許文献3】特許4065768号
【特許文献4】特開2003−289838号
【特許文献5】特開2002−142724号
【特許文献6】実開平5−20590号
【特許文献7】特開平9−121818号
【特許文献8】特許3179686号
【特許文献9】特許3614360号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、魚肉ソーセージのような加熱成形して製造するタンパク質加工食品を連続生産することを課題とする。
通常、畜肉又は水産物由来肉を加熱加工する場合、加熱工程の前に最終製品形状を決定する成形工程が必須である。つまり、成形工程と加熱工程はそれぞれ独立した工程として存在するため、製造工程が煩雑となり、製造効率の低下要因ともなっている。
これは畜肉又は水産物由来肉に含まれる、主には筋原繊維由来の塩溶性タンパク質が加熱変性により微細網状構造を有するゲルを形成する結果、その流動性を失い、さらに加工機器に付着するために、加工対象物自身の自己流動性に依存した方法で加工対象物を連続的に移動させながら加熱加工することは不可能であったからである。本発明は、そのような畜肉又は水産物由来肉を主原料とした加熱加工対象物を連続的に製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
食品製造工程において原料や製品を加熱する方法は、外部加熱方式(直接加熱、間接加熱)と、内部加熱方式に分類される。外部加熱方式は加熱対象物を目標の温度まで加熱するために目標温度より高い温度の加熱媒体(熱煤)が必要である。つまり、加熱対象物と熱媒の間で熱エネルギーを移動させるための温度差が必要となり、加熱対象物の一部は加熱目標温度より高温になることは避けられない。このため、外部加熱装置は過加熱を避けるため、加熱時間の調整や加熱対象物の攪拌等が必要である。
これに対して、内部加熱方式の一つであるジュール加熱は、加熱対象物の自己発熱を利用して加熱する。そのため、以下の特徴が知られている。
1)熱媒がないため設定した温度以上の加熱がない。
2)食品の粘度に関係なく加熱が可能である。また、熱伝導の低い液体も急速な加熱が可能である。
3)固形物入り食品も均一な加熱が可能である。
4)均一かつ迅速な加熱が可能である。
【0007】
加工食品製造工程において、「加熱」は加工対象物に様々な性質や特徴を付与する加工工程上、非常に重要なものである。加工対象物の用途や目的に応じて、様々な加熱方式を使い分けることにより、製造の効率化や商品の高品質化や差別化等が可能となる。
従来技術において、ジュール加熱が畜産加工品又は水産加工品の成形性の付与や向上のための低温における一次加熱方法として用いられる例がある。このような低温度帯域内では加熱対象物は自己流動性を保持しており、その自己流動性を利用して、例えばポンプ等で加熱対象物を連続的に移送しながらジュール加熱を行うことは可能であった。しかしながら、畜産ならびに水産加工品いずれの場合も、加熱対象物中に含まれている動物性塩溶性タンパク質が加熱変性してゲル化する温度帯以上においては、加熱対象物の自己流動性を利用した連続的なジュール加熱加工はなされていない。
これは、畜肉又は水産物由来肉を主成分とする食品材料、特にこれらに含まれる筋原繊維タンパク質、主にはミオシンやアクトミオシン等の塩溶性タンパク質は加熱によりその構造が不可逆的に変化し、微細な網状構造を有する強固なゲルに変換するからである。つまり、畜肉又は水産物由来肉を主成分とする食品材料を連続的なジュール加熱押出成形を試みても、加熱装置中にてゲル化温度以上に加熱されると、ゲルを形成して装置内に滞留し、流路に栓をする状態となり、連続的な加熱押出成形を阻害するからである。つまり、既に実用化されているジュース等の流動性物資の加熱方法のようにジュール加熱装置内において加熱対象物が移動しながら連続的に加熱押出成形されるものはなかった。
【0008】
本発明は、以下(1)〜(6)のタンパク質加工食品の製造方法及びタンパク質加工食品を要旨とする。
(1)タンパク質を加熱凝固して成形させるタンパク質加工食品の製造において、
加熱方式としてジュール加熱を用いた、連続加熱押出成形を用いることを特徴とするタンパク質加工食品の製造方法。
(2)食品原料を案内する筒体と前記筒体に対をなして設けられる電極とを有し、前記電極間に電流を流すことにより筒体内を通過する食品をジュール加熱する装置を用いて、前記筒体に食品原料を連続的に供給することにより、連続加熱押出成形を行うことを特徴とする(1)の製造方法。
(3)ジュール加熱の加熱温度が加熱対象物中心温度で70〜120℃であることを特徴とする(1)又は(2)の製造方法。
(4)(1)ないし(3)いずれかの製造方法で製造されたタンパク質加工食品。
(5)タンパク質加工食品の原料が、筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を主成分として含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、副原料を添加し練り上げたものであり、混練物中に2〜35重量%の脂質を含むものであることを特徴とする(4)のタンパク質加工食品。
(6)タンパク質加工食品がケーシングを有さない魚肉ソーセージ類である(4)又は(5)のタンパク質加工食品。
【発明の効果】
【0009】
畜肉又は水産物由来肉を主成分とし、これに任意の食品素材を添加して混練した混練肉を加熱して得られる加工品は畜産ならびに水産加工品として一般的であり、ソーセージ類はその例である。これらの加工品は工業的には連続的に成形され、その後加熱されてはいるが、この工程は、例えば加熱管中を加熱対象物が連続的に移動しつつ、成形加熱加工されるものではなかった。そのため、成形と加熱工程が独立した二つの工程となるために煩雑となり、使用する機器の種類も多様となり、さらに加工時間も必要となり、コストアップの要因になるものであった。
本発明では、畜肉又は水産物由来肉を主成分とし、これに任意の食品素材を添加して混練した混練肉中に脂質を添加することにより、混練肉が加熱によってゲル化した後も、加熱ゲル中への脂質保持作用ならびに脂質放出作用を利用し、放出された脂質の潤滑作用により、加熱機器内壁と加熱ゲルとの移動摩擦を低減せしめ、結果として加熱ゲルの移送性を維持することが可能となった。さらに、脂質が添加された混練肉の加熱ゲル強度が低下することを鑑み、ゲル強度増加に有効なジュール加熱を加熱方式として選択し、組み合わせたことが、特徴となった。
【0010】
ジュール加熱は高効率で電気エネルギーを熱エネルギーに転換する特徴があり、これを利用することで、化石燃料消費の削減や地球温暖化ガスの削減も可能ともなり、食品加工産業に大きく貢献するものでもある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
魚肉ソーセージとは、農林水産省の定める「魚肉ハムおよび魚肉ソーセージ品質表示基準」(制定 平成12年12
月19日農林水産省告示第1658号。最終改正 平成20年農林水産省告示第1368号)の「普通魚肉ソーセージ」の定義では、「1 魚肉をひき肉したもの若しくは魚肉をすり身にしたもの又はこれに食肉をひき肉したものを加えたものを調味料及び香辛料で調味し、これにでん粉、粉末状植物性たん白その他の結着材料、食用油脂、結着補強剤、酸化防止剤、保存料等を加え若しくは加えないで練り合わせたものであって、脂肪含有量が2%以上のもの(以下単に「練合わせ魚肉」という。)をケーシングに充てんし、加熱したもの(魚肉の原材料に占める重量の割合が50%(パーセント)を超え、かつ、植物性たん白の原材料に占める重量の割合が20%以下であるものに限る。特殊魚肉ソーセージの項において同じ。)、2 1をブロックに切断し、又は薄切りして包装したもの」とされている。
本発明において「魚肉ソーセージ類」とはこの定義の魚肉ソーセージを包含するものであるが、魚肉を30重量%以上含有し、脂肪含有量を2重量%以上含有する原材料を練り合わせたものを加熱加工したものを含む。また、ケーシングに充てんせずに加熱した、ケーシング無しのものも含む。
本発明において「タンパク質加工食品」とは、畜肉、水産物の肉を主原料とし、油脂、炭水化物、調味料などの副原料を混合して、加熱によりタンパク質が凝固し成形した食品であり、上記の魚肉ソーセージ類や魚肉の代わりに、畜肉他の肉類を用いたソーセージなどを含む。
【0012】
ジュール加熱とは、通電加熱とも呼ばれる加熱方法の一つである。食品など被加熱物に直接通電して、被加熱物の電気抵抗により発熱させる方法である。流動性を有する食品を連続加熱するためのジュール加熱の装置は特許文献1〜4などにも開示されているので、本発明においてもこれらを利用することができる。基本的には、非伝導性の筒体とその筒体に対をなして電極が設けられた電極を有し、電極は電源に接続されたものがジュール加熱装置であり、この筒体に連続的に食品原料を送り込めるようにポンプを接続し、加熱された食品を受ける受け皿あるいは冷却部があれば本発明の製造方法に用いることができる装置となる。
流動性のある食品を筒体中でジュール加熱する場合でも筒体の内部に食品が焦げ付かないための工夫や、温度管理をするために温度センサーを設けるような技術も知られている。本発明においてもこれら技術を利用することができる。
【0013】
従来、筒体内で凝固し流動性がなくなる食品について、ジュール加熱による連続加熱がされた例がない中、本発明がうまく機能したのは、タンパク質に脂質を含んだ原料を用いた点にある。
畜肉又は水産物由来肉に含まれる筋原繊維を構成する塩溶性タンパク質は塩を添加することで溶解する性質を持っている。この塩溶性タンパク質は繊維状のタンパク質であり、構造中に疎水基と親水基を持つため、乳化作用を有している。このため、塩ずりした練り肉に脂質を添加して混練すると、均一な乳化物が得られる。加熱によるゲル化とは塩で溶解した塩溶性タンパク質が加熱によりその立体構造が変化し、複雑に絡み合い、微細な網目構造を形成する現象である。加熱によりその立体構造が変化した塩溶性タンパク質は、同時に乳化性も低下する。この時、塩溶性タンパク質は乳化した脂質を一度は解放するが、同時に形成される微細網目構造中にその脂質を取り込み、構造中に保持する。また、微細網目構造中の外に放出された脂質は、それ自身が潤滑油として機能する。そのため、ゲル化した塩溶性タンパク質と加熱機器内壁の移動摩擦抵抗を低減させ、移送性を保持させ、さらに機器への付着性も低減する。結果として、畜肉又は水産物由来肉の連続的な押出加熱加工が実現できたのである。
本発明により、魚肉ソーセージ等を文字通り連続的に生産することが可能となった。
【0014】
本発明は、畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、塩を加えて混練することで、原料中の筋原繊維を構成する塩溶性タンパク質は溶解するが、これを加熱することでその構造が不可逆的に変化しゲル化する現象を応用した。この現象は畜肉ハムやソーセージ、さらにカマボコ等の水産錬り製品に利用されている。
塩を加えて混練した混練肉中に脂質を2〜35重量%添加し、混練肉中に脂質を均等に分散させる。脂質添加量は少ないと加熱した時に形成するゲルの移送性が得られず、多すぎるとゲル形成が阻害される。好ましくは、5〜20重量%である。
得られた混練肉は肉送りポンプ等の搬送装置にてジュール加熱機器中に連続的に移送しながら、同時にジュール加熱により混練肉中心温度を70℃以上120℃以下の範囲で任意に設定した温度まで昇温加熱を行い、加熱装置中で形成されたゲルを連続的に押し出すことで、加熱成形された加工品が得られる。加熱温度が70℃以下ではタンパク質の加熱変性が充分ではなく良好な物性を持ったゲルが得られない。また、120℃以上ではゲルは形成するが、高温の影響でゲル構造がダメージを受け、ゲル強度が低下する。
【0015】
本発明の製造方法は以下のような手順で実施することができる。
筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、これをサイレントカッター等の混練機に供し、充分に細断する。この際の温度はなるべく低温を維持し、20℃程度が望ましい。これに塩を添加し、原料に含まれる筋原繊維由来の塩溶性タンパク質の溶解を充分に行う。この後に、必要に応じて澱粉、植物タンパク質、香辛料、調味料、乳化剤等を加え、さらに混練肉の2〜35重量%の脂質を加える。脂質は植物油、硬化油、豚脂、牛脂等、食用に値する脂質を用いても良いし、もともとの畜肉又は水産物由来肉が含有する脂質を利用しても良い。脂質添加後、さらに充分に混練し、添加した脂質を均等に分散、乳化させる。
この混練肉を送肉ポンプ等でジュール加熱装置へ連続的に送り込みながら、70℃以上120℃以下の温度帯で所望の温度まで加熱を行うが、例えば最初に30℃まで加熱した後、所望の温度まで加熱するという二段加熱、また、必要に応じて複数段階の加熱、さらに加熱時の昇温速度の調整も可能であり、最適の物性を得られることが出来る。
加熱によってゲル化した混練肉は、それ自身が含有する脂質により、移送性を失わずに加熱装置から連続的に加熱成形されて押し出され、所望の加工品が得られる。
本発明の畜肉又は水産物由来肉としては、魚介類のすり身、落し身や、畜肉のミンチなどが利用できる。
ジュール加熱装置の筒体の直径を適宜選択することにより、種々の直径のソーセージを容易に連続生産することができる。
【0016】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
魚肉ソーセージの原料を混合し練り肉を調製し、ジュール加熱により、魚肉ソーセージを製造した。
表1の配合で、すり身に食塩を添加して塩摺りし、その後、その他の調味料、植物タンパク、植物油及び水を添加して、混合しペースト状にして練り肉を調製した。
【0018】
【表1】

【0019】
表2にジュール加熱の加熱条件を示す。ジュール加熱装置は、バッチ処理では、筒体の両端を平面状の電極で塞いだ形状のものを用い、連続処理では、筒体に対を成して電極が設けられたタイプの装置を用いた。
表2の条件で、いずれもケーシングに充填してレトルト処理して製造する魚肉ソーセージに遜色ないケーシング無しの魚肉ソーセージができた。特に連続生産では、筒体中に練り肉がつまることもなく、ケーシング無しの魚肉ソーセージを文字通り連続生産できた。
【0020】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の製造方法により、従来ケーシングなどに充填して製造していた魚肉ソーセージなどを連続生産することができ、加工食品原料として提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と脂質を含有する混合物を加熱凝固して成形させるタンパク質加工食品の製造において、
加熱方式としてジュール加熱を用いた、連続加熱押出成形を用いることを特徴とするタンパク質加工食品の製造方法。
【請求項2】
食品原料を案内する筒体と前記筒体に対をなして設けられる電極とを有し、前記電極間に電流を流すことにより筒体内を通過する食品をジュール加熱する装置を用いて、前記筒体に食品原料を連続的に供給することにより、連続加熱押出成形を行うことを特徴とする請求項1の製造方法。
【請求項3】
ジュール加熱の加熱温度が加熱対象物中心温度で70〜120℃であることを特徴とする請求項1又は2の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれかの製造方法で製造されたタンパク質加工食品。
【請求項5】
タンパク質加工食品の原料が、筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を主成分として含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、副原料を添加し練り上げたものであり、混練物中に2〜35重量%の脂質を含むものであることを特徴とする請求項4のタンパク質加工食品。
【請求項6】
タンパク質加工食品がケーシングを有さない魚肉ソーセージ類である請求項4又は5のタンパク質加工食品。

【公開番号】特開2011−92102(P2011−92102A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249558(P2009−249558)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】