説明

ジルコニア系複合セラミック焼結体及びその作製方法

【課題】 機械的,物理的物性を維持しつつ、歯科用補綴物に適した白色に簡単に着色することが可能なジルコニア系複合セラミック焼結体及びその作製方法を提供する。
【解決手段】 8〜12モル%のセリアを含有し正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア粒子と、アルミナ粒子とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミックを仮焼成した後成型加工し、ネオジムのイオン溶液又は錯体溶液に浸漬し乾燥させた後に本焼成することを特徴とするジルコニア系複合セラミック焼結体の作製方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオジムイオン溶液またはネオジム錯体溶液により着色されたジルコニア系複合セラミック焼結体及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料やプラスチック材料と比較して、セラミック材料は硬度,耐摩耗性,耐熱性,耐食性等に優れた性能を有する。歯科分野においては、化学的に安定なアルミナ焼結体,強度や靭性に優れたジルコニア焼結体,そしてアルミナ/ジルコニア複合焼結体等のセラミック材料がCAD/CAMを用いて歯科用補綴物に成型加工されて臨床で使用されている。
【0003】
室温で単斜晶系であるジルコニアは、温度を上げていくと正方晶、及び立方晶へと結晶構造が相転移する。この相転移は体積変化を伴うため、焼結体は昇降温を繰り返すことによって破壊に至る。そこで、ジルコニアに安定化剤として酸化イットリウムや酸化セリウム等の希土類酸化物を固溶させ、結晶構造中に酸素空孔 (Vacancy) を形成させることで昇降温による破壊を抑制した部分安定化ジルコニア (partially stabilized zirconia) が広く用いられている。
【0004】
安定化剤として酸化イットリウムを固溶させたイットリア系部分安定化ジルコニアは、色調が白色で歯科用補綴物に適している。しかし比較的低温(200〜300℃)で準安定相である正方晶が単斜晶へ相転移することから、変態時の体積膨張により内部にクラックが発生し強度低下を起こす問題がある。また、口腔内のような湿潤環境下では37℃程度と低温であっても相転移が起こり、表面が荒れたり強度が低下したりすることが指摘されていた。
【0005】
また、安定化剤として酸化セリウムを固溶させたセリア系部分安定化ジルコニアは、低温で劣化し難く高い強度と靭性を持っている。このジルコニアとして、安定化剤として10〜12モル%のセリアを含み、平均粒径が0.1〜1μmのZrO粒子からなる第一相と0.1〜0.5μmのアルミナ粒子からなる第二相とで構成されるジルコニア-アルミナ複合セラミック材料が開示されている(例えば特許文献1〜特許文献4参照。)。しかし安定化剤として酸化セリウムを用いると、酸化セリウム自体が黄色味を帯びているので、焼結後の色調もやや黄色みを帯びてしまい白色を基本とする歯科用補綴物として使用した場合には審美性に劣る問題があった。
【0006】
従来のジルコニアの着色方法として所望の色調に応じて酸化クロム,酸化ニッケル,酸化コバルト,酸化バナジウム等の金属酸化物の着色剤を添加し、混合した後焼結する方法が広く採用されている(特許文献5,特許文献6参照)。ところがこの方法では、着色剤として用いられている金属酸化物の熱膨張係数や弾性定数がジルコニアのそれと異なっているために焼結時にジルコニア粒子と上記金属酸化物との接触界面において残留応力や熱応力が発生し、得られたジルコニア焼結体の結晶内部に空孔や亀裂が生じて靭性や耐食性を欠いたり、強度低下を招いたりする等の不都合があった。また、これらの金属酸化物を粉末状でジルコニア粉末に添加,混合する作業を行うので、均一な分散を行うことが難しく色むらの原因ともなり易い。
【0007】
そこで、機械的,物理的特性を維持しつつ、容易な方法で均一にかつ確実に着色できる方法としてジルコニア成型体を着色用金属が溶液された液中に浸漬してジルコニア成型体に着色用金属を含浸せしめた後、これを焼結する方法が開示されている(例えば、特許文献7及び特許文献8参照。)。特許文献8には、一定の濃度の希土類元素または亜族元素の塩類または錯体類の少なくとも一種を含有する溶液を用いて、多孔性または吸収性の状態の半透明セラミックスを着色する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、セリア系部分安定化ジルコニアは黄色味が強いため、従来の着色用金属が溶液された液に浸漬して成型体に着色用金属を含浸しても白色に着色することが困難であり、歯科用補綴物として使用するのに適した色調のセリア系部分安定化ジルコニア材料が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−051481
【特許文献2】特開2005−097094
【特許文献3】特開2005−306726
【特許文献4】特開2006−271435
【特許文献5】特開2005−306678
【特許文献6】特開2004−059374
【特許文献7】特表2002−536280
【特許文献8】特表2010−534245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
機械的,物理的物性を維持しつつ、歯科用補綴物に適した白色に着色することが可能なジルコニア系複合セラミック焼結体及びその作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、8〜12モル%のセリアを含有し正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア粒子と、アルミナ粒子とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミックを仮焼成した後成型加工し、ネオジムのイオン溶液または錯体溶液に浸漬させ乾燥させた後に本焼成すれば、ジルコニアの安定化剤として酸化セリウムを用い黄色味を帯びていても、着色液に青色を発色するネオジムが含まれているため、機械的,物理的物性を維持しつつ、歯科用補綴物に適した白色のジルコニア系複合セラミック焼結体を簡便に得られることを見出して本発明を完成した。
【0012】
即ち本発明は、8〜12モル%のセリアを含有し正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア粒子と、アルミナ粒子とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミックを仮焼成した後成型加工し、ネオジムのイオン溶液または錯体溶液に浸漬し乾燥させた後に本焼成することを特徴とするジルコニア系複合セラミック焼結体の作製方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るジルコニア系複合セラミック焼結体の作製方法は、機械的,物理的物性を維持しつつ、歯科用補綴物として使用するのに適した白色に着色されたジルコニア系複合セラミック焼結体を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いられるジルコニア系複合セラミックは、8〜12モル%のセリアを含有し正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア粒子と、アルミナ粒子とを含むものであり、原料配合物をCIP等により圧粉してから半焼結する。半焼結工程における処理温度は900℃以上1450℃未満であることが好ましい。半焼結工程における温度を900℃以上1450℃未満の範囲とすることにより、作製された歯科補綴物の強度の低下を防止するとともに、次の工程である切削加工過程で要する時間を短縮することが可能である。
【0015】
本発明においては、上記の如く半焼結させたジルコニア系複合セラミックスを目的の形状にCAD/CAMを用いて切削加工した後、ネオジムのイオン溶液または錯体溶液に1分以上浸漬し乾燥させた後に本焼成する。ネオジムのイオン溶液または錯体溶液は、水またはアルコール等の溶媒にネオジムの塩類または錯体類、好ましくは塩化物,酢酸塩類または錯体を溶解させて作製する。イオンまたは錯体類は、2.5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。2.5重量%未満や50重量%を超えると歯科用補綴物として使用するのに適した白色に着色し難く好ましくない。より好ましくは2.5重量%以上30重量%以下である。
【0016】
ネオジムのイオン溶液または錯体溶液から取り出された半焼結体は乾燥された後、本焼成することによりジルコニア−アルミナ系着色複合セラミックが作製される。このようにして作製されたジルコニア−アルミナ系着色複合セラミックは、色調がL***表色系で示すところのL*が85以上100未満,a*が−5以上5以下,b*が0以上10以下の範囲で示される。色調の測定方法はJIS Z8722 2009に準じ、試料片の厚さは少なくとも2mm以上であることが好ましい。
【0017】
***表色系表示は、色調を明度(明るさ)を示すL*と、色相(赤と緑の度合い)を示すa*と、彩度(黄と青の度合い)を示すb**という3つの要素に解析し、そして色調をL***という3つの数値で表現するものである。明度(明るさ)を示すL*は85以上100未満である。L*が85未満では黒っぽく見えてしまう。好ましくは、L*は88以上94未満である
【0018】
また色相(赤と緑の度合い)を示すa*は−5以上5以下である。これは、a*が−5未満では緑が強すぎ、その結果反射光が当たって黒く見えてしまうためであり、5を超えると赤みが強すぎるため不自然に見えてしまうためである。好ましくは−5以上−2以下である。
【0019】
彩度(黄と青の度合い)を示すb*は0以上10以下である。これは、b*が0未満では青みが強くすぎるため暗く見えてしまい、10を超えると黄色みが強いため本発明の目的とする効果が得られないためである。好ましくは2以上9以下である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0021】
特許第2945935号公報に記載される方法により、酸化ジルコニウム65.9〜69.9重量%,酸化セリウム10.1〜11.1重量%,酸化アルミニウム19.5〜23.5%,酸化チタン0.01〜0.03重量%,及び酸化マグネシウム0.04〜0.08重量%を含む原料配合物を調整し、調整した原料配合物の10mm×10mm×8mmに圧粉した後1000℃で仮焼したものを表1に示す溶液に室温で2分間完全に浸した後、1450℃で本焼成し、ジルコニア系複合セラミック焼結体を作製した。
【0022】
作製されたジルコニア系複合セラミック焼結体のL***表色系でのL*,a*及びb*をJIS Z8722 2009に準拠した測定方法及び分光測光器(商品名:CM3610d、コニカミノルタ社製)にて測定した結果を表1に示す。
【0023】
<表1>

【0024】
表1から明らかなように、ネオジムのイオン溶液または錯体溶液を着色液として用いた実施例においては、焼結体の色調がL***表色系で示すところのL*が85以上100未満,a*が−5以上5以下,b*が0以上10以下であることが確認できた。
これに対し、溶液中のネオジム濃度が少ない比較例1〜3においては、b*の値が大きくて黄色みが強く、歯科用補綴物として適した白色を得ることができず、ネオジム以外の化合物の溶液で処理した比較例4,5においては、L*の値が小さく全体の色調が暗くなってしまっており、歯科用補綴物として適した白色のものを得ることができない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
8〜12モル%のセリアを含有し正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア粒子と、アルミナ粒子とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミックを仮焼成した後成型加工し、
ネオジムのイオン溶液又は錯体溶液に浸漬し乾燥させた後に本焼成することを特徴とする
ジルコニア系複合セラミック焼結体の作製方法。
【請求項2】
ネオジムのイオン溶液又は錯体溶液中のネオジム濃度が、2.5重量%以上50重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア系複合セラミック焼結体の作製方法。
【請求項3】
***表色系で示すところのL*が85以上100未満,a*が−5以上5以下,b*が0以上10以下の範囲で示される色調を有することを特徴とする8〜12モル%のセリアを含有し正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア粒子と、アルミナ粒子とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミックから成るジルコニア系複合セラミック焼結体。

【公開番号】特開2012−211063(P2012−211063A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78770(P2011−78770)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】