説明

ジルコニウム、銅、亜鉛、及び硝酸塩を含有する金属前処理組成物、並びに金属基材上の関連するコーティング

耐腐食性の向上、塗装密着性の向上及びチップダメージの低減が得られる、金属のための前処理組成物が開示される。この前処理は、リン酸亜鉛ではなくジルコニウムベースであることから有害物質も少ない。前処理組成物は、50〜300ppmのZr、0〜100ppmのSiO、150〜2000ppmの全フッ素及び10〜100ppmの遊離フッ素、150〜10000ppmのZn、並びに10〜10000ppmの酸化剤を含み、3.0〜5.0のpHを有する。コーティング組成物は、0〜50ppmの銅を含んでいてよい。酸化剤は、広範囲から選択することができる。前処理組成物は、冷間圧延鋼、熱間圧延鋼、ステンレス鋼、亜鉛金属でコーティングした鋼、亜鉛合金、例えば電気亜鉛めっき鋼、ガルバリウム、ガルバニール、溶融亜鉛めっき鋼、アルミニウム合金、及びアルミニウム基材を含む広範囲にわたる様々な金属基材の耐腐食性を大きく向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年12月28日出願の米国特許仮出願第61/290,324号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、ジルコニウムベースの前処理コーティング組成物全般に関し、特に、亜鉛及び酸化剤を含み、金属基材上へ適用されて耐腐食性を向上させることができるジルコニウムベースの前処理コーティング組成物に関する。本発明はまた、前処理コーティング組成物から得られたコーティング、及び金属基材上に前処理コーティングを形成する方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
耐腐食性前処理コーティングは、保護又は装飾コーティングの適用の前に、金属基材、特に鋼などの鉄を含有する金属基材へ適用されることが多い。前処理コーティングにより、金属基材が水分及び酸素に曝露された場合の金属基材の腐食量が、最小限に抑えられる。現行の前処理コーティング組成物の多くは、リン酸金属塩を主体としており、クロム含有水洗処理に依存している。リン酸金属塩及びクロム水洗処理溶液は、環境にとって有害である廃液流を発生させる。その結果、その廃棄に伴うコストは増加する一方である。従って、リン酸金属塩及びクロム廃液を発生させることのない前処理コーティング組成物及びそのような組成物を適用する方法を開発することが望まれている。また、商業目的物の多くが2種類以上の金属基材を含有することから、これらの前処理コーティング組成物は、様々な金属基材の腐食を最小限に抑えることに効果的であることも好ましい。例えば、自動車産業では、2種類以上の金属基材を含有する金属部材に依存する場合が多い。2つ以上の金属基材に効果的である前処理コーティング組成物を使用すれば、能率性のより高い製造プロセスの提供が可能となる。
【0004】
本発明のコーティング組成物は、これらが通常は、基材が洗浄された後、種々の装飾コーティングが適用される前に適用されることから、前処理コーティングと称される。自動車産業では、これらの装飾コーティングは、多くの場合、基材から外側へ向かう順で以下の層:耐腐食性のための前処理コーティング、電着塗装、次にプライマー層、ベースコート塗装、そして次にトップクリアコート、を含む。そのような前処理コーティングの1つとしては、ヘンケルアドヒーシブテクノロジー(Henkel Adhesive Technologies)から入手可能であるBonderite(登録商標)系である。Bonderite(登録商標)系は、亜鉛−リン酸塩ベースであり、亜鉛、ニッケル、マンガン、及びリン酸塩を含む化成処理コーティングである。現在、Bonderite(登録商標)958が、自動車産業において広く用いられている標準的な化成処理コーティングである。重金属を含み、リン酸塩の廃液流を発生させる化成処理コーティングから脱する試みとして、新しい種類の環境にやさしい化成処理コーティングが作り出されてきた。これらは、ヘンケルアドヒーシブテクノロジーから入手可能であるTecTalis(登録商標)ラインのコーティング、ケメタル社(Chemetall GmbH)から入手可能である特定のOxsilan(登録商標)製品、及びPPGインダストリー(PPG Industries)から入手可能であるZircobond(登録商標)ラインによって例示され、これらは、ジルコニウムコーティング技術に基づいており、リン酸塩を含まず、ニッケルもマンガンも含まない。特に、TecTalis(登録商標)1800は、前処理コーティングとしての自動車産業での使用が増加している。この新規のジルコニウムベースのコーティングは、ほとんどの用途において適切な保護を提供するが、いくつかの用途における塗装密着性及び耐腐食性が、従来の亜鉛−リン酸塩ベースのコーティングによる場合ほど効果的ではなく、この問題に対する解決策は見出されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前処理コーティングにおいて、腐食防止の向上、塗装密着性の改善、及び層の薄膜化という点での機能性を高めることが望ましい。その環境問題の低減に関連して上記で示した理由により、ジルコニウムベースの前処理コーティング組成物においてこの機能性の強化を発現させることが望ましい。同時に、これらの改善が既存の工業加工ライン及び手順に変更を必要とせず、それによって、新規の前処理コーティング組成物を、既存のプロセスへ容易に置き換えることが可能であることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般的に述べると、本発明は、既存のジルコニウムベース前処理コーティングよりも優れた腐食防止をもたらす機能強化されたジルコニウムベース化成処理コーティング前処理を提供する。この機能強化により、耐腐食性の改善、コーティング層の薄膜化、及びチッピング耐性によって判断される塗装密着性の向上が得られる。本明細書及び請求項を通して、本発明の前処理コーティング中の成分のレベルは、特に断りのない限り、コーティング組成物中の百万分率(ppm)として表される。本発明は、亜鉛イオン及び少なくとも1つの酸化剤をさらに含有する、ジルコニウムベース前処理コーティング組成物を含む。使用時に前処理コーティング組成物中に存在するジルコニウムのレベルは、好ましくは、50ppmから300ppmであり、より好ましくは、75ppmから300ppmである。ppmでのジルコニウムのレベルの範囲は、好ましさの増加する順に上方に、50、75、100、125、150、175、200、及び好ましさの増加する順に下方に、300、275、250、225、200である。亜鉛は、前処理コーティング組成物中に150ppmから10,000ppmのレベルで存在することが好ましい。好ましくは、ppmでの亜鉛のレベルの範囲は、好ましさの増加する順に上方に、150、300、600、900、1200、1500、1800、2100、2400、2700、3000、3300、3600、3900、4200、4500、4800、5000、及び好ましさの増加する順に下方に、10000、9700、9400、9100、8800、8500、8200、7900、7600、7300、7000、6700、6400、6100、5800、5500、5200、5000である。酸化剤は、酸化性のイオン及び塩を含んでよく、酸化剤の混合物を含んでもよい。本発明において特に好ましいのは、酸化剤として硝酸塩及び硝酸イオンを用いることである。適切な硝酸塩の例としては、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、及び硝酸カリウムが挙げられる。硝酸イオンの機能に置き換わるか、又はそれを高めることが可能であることが期待される、イオン又は塩としてのその他の酸化剤としては:亜硝酸イオン、無機過酸化物、過マンガン酸イオン、過硫酸イオン、過ホウ酸イオン、塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、バナジン酸イオン、バナジルイオン、セリウムイオン、タングステン酸イオン、第二スズイオン、ヒドロキシルアミン R−NOH、ニトロ化合物 R−NO、アミン酸化物 R−NO、及び過酸化水素が挙げられる。これらの有用な発生源の例としては:亜硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウムアンモニウム、タングステン酸ナトリウム、フッ化第二スズ、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びN−メチルモルホリンN−酸化物が挙げられる。酸化剤は、10ppmから10000ppmのレベルで前処理コーティング組成物中に存在することが好ましく、酸化還元電位の高い酸化剤は、より低いレベルで用いることができるという点で、最も好ましいレベルは一つにはその酸化還元電位によって決定される。例えば、過酸化水素は、10ppmから30ppmのレベルで用いてよく、一方硝酸塩又は硫酸塩は、600ppmから10000ppmのレベルで用いられることが好ましい。好ましくは、コーティング組成物に用いられる酸化剤のレベルの範囲は、ppmにて、好ましさの増加する順に上方に、10、20、30、50、100、200、300、500、800、1100、1400、1700、2000、2300、2600、2900、3200、3500、3800、4100、4400、4700、5000、及び好ましさの増加する順に下方に、10000、9700、9400、9100、8800、8500、8200、7900、7600、7300、7000、6700、6400、6100、5800、5500、5200、5000である。
【0007】
本発明の前処理コーティング組成物はまた、フッ素(F)も含むことが好ましく、所望に応じて二酸化ケイ素(SiO)及び銅(Cu)を含んでいてもよい。好ましくは、コーティング組成物中に存在するSiOのppmでのレベルは、0ppmから100ppmであり、好ましくは、好ましさの増加する順に上方に、0、10、20、30、40、50、60、及び好ましさの増加する順に下方に、100、90、80、70、60の範囲である。フッ素は、全フッ素及び遊離フッ素の両方として存在する。前処理コーティング組成物中の全フッ素は、好ましくは、150ppmから2000ppmであり、遊離フッ素は、好ましくは、10ppmから100ppmである。好ましくは、ppmでの全フッ素の範囲は、好ましさの増加する順に上方に、150、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、及び好ましさの増加する順に下方に、2000、1900、1800、1700、1600、1500、1400、1300、1200、1100である。好ましくは、ppmでの遊離フッ素の範囲は、好ましさの増加する順に上方に、10、20、30、40、50、及び好ましさの増加する順に下方に、100、90、80、70、60、50である。コーティング組成物中の所望に応じて存在してよいCuのレベルは、好ましくは、0ppmから50ppmの範囲であり、より好ましくは10ppmから40ppmの範囲である。
【0008】
1つの実施形態では、本発明は、以下を含む金属前処理コーティング組成物である:50百万分率(ppm)から300ppmのジルコニウム、0ppmから50ppmの銅、0ppmから100ppmのSiO、150ppmから2000ppmの全フッ素、10ppmから100ppmの遊離フッ素、150ppmから10000ppmの亜鉛、及び10ppmから10000ppmの酸化剤。金属前処理コーティング組成物は、より好ましくは、75ppmから300ppmのジルコニウム、0ppmから40ppmの銅、及び20ppmから100ppmのSiOを含む。金属前処理コーティング組成物の酸化剤は、好ましくは、硝酸イオン若しくは硝酸塩、亜硝酸イオン若しくは亜硝酸塩、無機過酸化物、過マンガン酸イオン若しくは過マンガン酸塩、過硫酸イオン若しくは過硫酸塩、過ホウ酸イオン若しくは過ホウ酸塩、塩素酸イオン若しくは塩素酸塩、次亜塩素酸イオン若しくは次亜塩素酸塩、バナジン酸イオン若しくはバナジン酸塩、バナジルイオン若しくはバナジル塩、セリウムイオン若しくはセリウム塩、タングステン酸イオン若しくはタングステン酸塩、第二スズイオン若しくは第二スズ塩、ヒドロキシルアミン、ニトロ化合物、アミン酸化物、過酸化水素、又はこれらの混合物の少なくとも1つを含む。酸化剤は、好ましくは、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウムアンモニウム、タングステン酸ナトリウム、フッ化第二スズ、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びN−メチルモルホリンN−酸化物の少なくとも1つを含む。1つの好ましい実施形態では、酸化剤は、600ppmから10000ppmの量で存在する硝酸イオン若しくは硝酸塩、又は硫酸イオン若しくは硫酸塩を含む。別の選択肢として、酸化剤は、10ppmから30ppmの量で存在する過酸化水素を含む。
【0009】
別の実施形態では、本発明は、金属基材上に前処理コーティングを有する前処理コーティングされた金属基材を含み、ここで、前処理コーティングは、50百万分率(ppm)から300ppmのジルコニウム、0ppmから50ppmの銅、0ppmから100ppmのSiO、150ppmから2000ppmの全フッ素、10ppmから100ppmの遊離フッ素、150ppmから10000ppmの亜鉛、及び10ppmから10000ppmの酸化剤を含む前処理コーティング組成物から得られる。より好ましくは、前処理コーティングは、さらに75ppmから300ppmのジルコニウム、0ppmから40ppmの銅、及び20ppmから100ppmのSiOを含む前処理コーティング組成物から得られる。酸化剤は、好ましくは、硝酸イオン若しくは硝酸塩、亜硝酸イオン若しくは亜硝酸塩、無機過酸化物、過マンガン酸イオン若しくは過マンガン酸塩、過硫酸イオン若しくは過硫酸塩、過ホウ酸イオン若しくは過ホウ酸塩、塩素酸イオン若しくは塩素酸塩、次亜塩素酸イオン若しくは次亜塩素酸塩、バナジン酸イオン若しくはバナジン酸塩、バナジルイオン若しくはバナジル塩、セリウムイオン若しくはセリウム塩、タングステン酸イオン若しくはタングステン酸塩、第二スズイオン若しくは第二スズ塩、ヒドロキシルアミン、ニトロ化合物、アミン酸化物、過酸化水素、又はこれらの混合物の少なくとも1つを含む。より好ましくは、酸化剤は、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウムアンモニウム、タングステン酸ナトリウム、フッ化第二スズ、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びN−メチルモルホリンN−酸化物の少なくとも1つを含む。実施形態では、酸化剤は、600ppmから10000ppmの量で存在する硝酸イオン若しくは硝酸塩、又は硫酸イオン若しくは硫酸塩を含み、別の態様では、酸化剤は、10ppmから30ppmの量で存在する過酸化水素を含む。好ましくは、金属基材は、冷間圧延鋼(CRS)、熱間圧延鋼、ステンレス鋼、亜鉛金属でコーティングした鋼、亜鉛合金、電気亜鉛めっき鋼(EG)、ガルバリウム、ガルバニール、溶融亜鉛めっき鋼(HDG)、アルミニウム合金、及びアルミニウムの少なくとも1つを含む。前処理コーティングされた金属基材は、前処理コーティング上に、0.7ミル(mil)から1.2ミル(mil)の厚さの電着層をさらに有していてよい。加えて、電着塗装されたコーティング金属基材は、前記電着層上にトップコート層をさらに有していてよい。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、前処理コーティングで金属基材をコーティングする方法を含み、その方法は:50百万分率(ppm)から300ppmのジルコニウム、0ppmから50ppmの銅、0ppmから100ppmのSiO、150ppmから2000ppmの全フッ素、10ppmから100ppmの遊離フッ素、150ppmから10000ppmの亜鉛、及び10ppmから10000ppmの酸化剤を含む前処理コーティング組成物に金属基材を接触させる工程、を含む。好ましくは、前処理コーティング組成物は、75ppmから300ppmのジルコニウム、0ppmから40ppmの銅、20ppmから100ppmのSiOを含む。金属基材は、冷間圧延鋼(CRS)、熱間圧延鋼、ステンレス鋼、亜鉛金属でコーティングした鋼、亜鉛合金、電気亜鉛めっき鋼(EG)、ガルバリウム、ガルバニール、溶融亜鉛めっき鋼(HDG)、アルミニウム合金、及びアルミニウムの少なくとも1つを含んでよい。酸化剤は、硝酸イオン若しくは硝酸塩、亜硝酸イオン若しくは亜硝酸塩、無機過酸化物、過マンガン酸イオン若しくは過マンガン酸塩、過硫酸イオン若しくは過硫酸塩、過ホウ酸イオン若しくは過ホウ酸塩、塩素酸イオン若しくは塩素酸塩、次亜塩素酸イオン若しくは次亜塩素酸塩、バナジン酸イオン若しくはバナジン酸塩、バナジルイオン若しくはバナジル塩、セリウムイオン若しくはセリウム塩、タングステン酸イオン若しくはタングステン酸塩、第二スズイオン若しくは第二スズ塩、ヒドロキシルアミン、ニトロ化合物、アミン酸化物、過酸化水素、又はこれらの混合物の少なくとも1つを含んでよい。好ましくは、酸化剤は、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウムアンモニウム、タングステン酸ナトリウム、フッ化第二スズ、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びN−メチルモルホリンN−酸化物の少なくとも1つである。実施形態では、酸化剤は、600ppmから10000ppmの量で存在する硝酸イオン若しくは硝酸塩、又は硫酸イオン若しくは硫酸塩か、又は、10ppmから30ppmの量で存在する過酸化水素を含む。金属基材の前処理(コーティング組成物)への接触は、スプレー、浸漬浴、又はこれらの組み合わせのうち少なくとも1つにより行うことが可能であり、各々の接触については60秒から120秒の範囲の時間で行ってよい。前処理コーティングが適用された後、前処理コーティングの上に電着層が適用されてよい。電着層に続いて、電着層上にトップコーティング層が適用されてよい。
【0011】
請求項及び実施例を除いて、又は特に断りのない限りにおいて、物質の量、又は反応及び/若しくは使用の条件を示す本明細書における全ての数値量は、「約」の単語によって修飾されて本発明の最も広い範囲を述べるものとして理解されるべきである。記述された数値範囲内での実施が一般的に好ましい。また、本明細書全体を通して、特にそうでないことが示されない限りにおいて:パーセント、「部」、及び比の値は、質量基準であり;物質の1つの群又はクラスが、本発明と関連するある目的のために適切又は好ましいとする記述は、その群又はクラスのいずれの2つ以上のメンバーの混合物も、同等に適切又は好ましいものであることを示唆しており;化学的な意味での成分の記述は、その記述で指定されるいずれかの組み合わせへの添加の時点での成分か、又はその記述で指定される化学反応が発生した時点での成分を意味し、及び混合後の混合物の成分間でのその他の化学的相互作用を必ずしも除外するものではなく:イオンの形態で物質を指定することは、組成物全体として電気的に中性とするために十分な対イオンの存在も加えて示唆している(好ましくは、可能な限り、このように暗に指定される対イオンはいずれも、イオンの形態で明らかに指定されるその他の成分の中から選択されるべきであり;そうでなければ、そのような対イオンは、本発明の目的に有害に作用する対イオンを避ける以外は、自由に選択してよい)。
【0012】
本発明のこれらの及びその他の特徴並びに利点は、当業者であれば、好ましい実施形態の詳細な記述から理解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、種々の金属基材をコーティングしてその基材に耐腐食性を与えるための、改善された化成前処理コーティング組成物に関する。特に、本発明の前処理コーティング組成物により不動態化して耐腐食性を向上させることができる金属基材としては、冷間圧延鋼(CRS)、熱間圧延鋼、ステンレス鋼、亜鉛金属でコーティングした鋼、亜鉛合金、例えば電気亜鉛めっき鋼(EG)、ガルバリウム、ガルバニール(HIA)、及び溶融亜鉛めっき鋼(HDG)、アルミニウム合金、例えば、AL6111、及びアルミニウムめっき鋼基材が挙げられる。本発明はまた、広範囲にわたる金属基材を本発明の前処理コーティング組成物によって不動態化することができることから、2種類以上の金属基材を含有する部材を単一プロセスで不動態化することができるという利点も提供する。
【0014】
本発明の前処理は、ジルコニウムベースであるので、リン酸塩ベースの前処理よりも有害物質が少ない。これは、プロセスに大きな変更を加えることなく、通常の前処理プロセスでの置き換えが可能である。好ましくは、前処理コーティング組成物は:50ppmから300ppmのジルコニウム、0ppmから100ppmのSiO、0ppmから50ppmの銅、150ppmから2000ppmの全フッ素、10ppmから100ppmの遊離フッ素、150ppmから10000ppmの亜鉛、及び10ppmから10000ppmの酸化剤を含む。前処理コーティング組成物は、好ましくは3.0から5.0、より好ましくは3.5から4.5の酸性pHを有する。酸化剤は、酸化性のイオン及び塩を含んでよく、酸化剤の混合物を含んでもよい。本発明において特に好ましいのは、酸化剤として硝酸塩及び硝酸イオンを用いることである。適切な硝酸塩の例としては、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、及び硝酸カリウムが挙げられる。硝酸イオンの機能に置き換わるか、又はそれを高めることが可能であることが期待される、イオン又は塩としてのその他の酸化剤としては:亜硝酸イオン、無機過酸化物、過マンガン酸イオン、過硫酸イオン、過ホウ酸イオン、塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、バナジン酸イオン、バナジルイオン、セリウムイオン、タングステン酸イオン、第二スズイオン、ヒドロキシルアミン R−NOH、ニトロ化合物 R−NO、アミン酸化物 R−NO、及び過酸化水素が挙げられる。これらの有用な発生源の例としては:亜硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウムアンモニウム、タングステン酸ナトリウム、フッ化第二スズ、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びN−メチルモルホリンN−酸化物が挙げられる。酸化剤は、10ppmから10000ppmのレベルで前処理コーティング組成物中に存在することが好ましく、酸化還元電位の高い酸化剤は、より低いレベルで用いることができるという点で、最も好ましいレベルは一つにはその酸化還元電位によって決定される。例えば、過酸化水素は、10ppmから30ppmのレベルで用いてよく、一方硝酸塩又は硫酸塩は、600ppmから10000ppmのレベルで用いられることが好ましい。
【0015】
前処理コーティング組成物は、金属前処理の標準的なプロセスで用いることができる。これらは、一般的に、酸性又はアルカリ性洗浄剤による金属基材の初期洗浄を含む。例としては、1533又は1523などのParco(登録商標)クリーナーが挙げられ、これらは通常、製造元の説明書に従い、スプレー、浸漬浴、又はこれらの両方によって、60秒間から120秒間、約50℃で適用される。その他のアルカリ性又は酸性金属洗浄剤も、本発明において有効に作用すると考えられる。この洗浄工程に続いて、一般的には、水道水及び脱イオン水を用いた数回の温水による水洗が行われる。これらの水洗の後、本発明の前処理コーティングが、スプレー、浸漬浴、又はこれらの両方により、一般的には60秒から120秒の範囲の時間で適用される。通常、この接触は、約25℃の温度で行われる。前処理コーティング組成物への接触後、基材は、一般的に、脱イオン水による温水での水洗が再度施され、送風により乾燥させる。業界では、前処理コーティングの後、基材は、電着塗装で被覆され、次にトップコートで塗装されることが多い。電着塗装は、多くの供給源から入手可能であり、続いての工程として、皮膜を所定の位置にて乾燥させるための焼付け工程を含むことが多い。典型的な電着塗装皮膜厚は、約0.7ミル(mil)から1.2ミル(mil)の厚さである。電着塗装後、基材はトップコーティング系で塗装される場合が多い。このような系は、通常、プライマーコーティング、ベースコート塗装、及び次にクリアコートを有する。これらのトップコートの典型的な乾燥皮膜厚は、0.9ミル(mil)から1.3ミル(mil)の乾燥皮膜厚である。
【0016】
本発明の前処理コーティング単独でコーティングされた基材、又は電着塗装及び恐らくはトップコーティングの後の基材は、通常、標準的な試験手順による耐腐食性の試験が行われる。コーティングされた基材は、基材レベルまでケガキが行われ、次に様々な湿度レベル、温度、及び塩水噴霧に曝露される。多くの場合、前処理コーティングは、基材に対する塗装密着性へのその効果について試験される。この試験では、基材はまず洗浄され、前処理コーティングでコーティングされる。次に、電着塗装、続いてトップコーティングが適用される。次にこのパネルは、氷点下を大きく下回る非常に低い温度での保存、及び続いて道路上の砕片を模した砂利の高圧での衝突などの機械的ストレスが掛けられる。その後、塗装チッピング及びその他の損傷の度合いの観察が行われる。目的は、耐腐食性、及び様々な基材に対する塗装密着性を向上させる前処理コーティング組成物を開発することである。
【0017】
本発明に係る新規な前処理により、腐食防止の向上、続いて適用される電着塗装及びトップコーティングの塗装密着性の向上、並びにこれまでの前処理よりも少ない量でのジルコニウムの含有を可能にする。本発明による前処理は、重要な要素として、亜鉛及び酸化剤が存在する。酸化剤は、酸化剤としての硝酸塩及び硝酸イオンを含む広い範囲から選択することができる。硝酸塩の例としては、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、及び硝酸カリウムが挙げられる。硝酸イオンの機能に置き換わることが可能である、イオン又は塩としてのその他の酸化剤としては:亜硝酸イオン、無機過酸化物、過マンガン酸イオン、過硫酸イオン、過ホウ酸イオン、塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、バナジン酸イオン、バナジルイオン、セリウムイオン、タングステン酸イオン、第二スズイオン、ヒドロキシルアミン R−NOH、ニトロ化合物 R−NO、アミン酸化物 R−NO、及び過酸化水素が挙げられる。これらの有用な発生源の例としては:亜硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウムアンモニウム、タングステン酸ナトリウム、フッ化第二スズ、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びN−メチルモルホリンN−酸化物が挙げられる。酸化剤は、10ppmから10000ppmのレベルで前処理コーティング組成物中に存在することが好ましく、酸化還元電位の高い酸化剤は、より低いレベルで用いることができるという点で、最も好ましいレベルは一つにはその酸化還元電位によって決定される。例えば、過酸化水素は、10ppmから30ppmのレベルで用いてよく、一方硝酸塩は、600ppmから10000ppmのレベルで用いられることが好ましい。酸化剤は、単独で用いても、互いに組み合わせて用いてもよい。当然、本発明のコーティング組成物は、使用前に水で希釈することで成分の示されたレベルが得られる、濃縮された組成物として提供してもよいことは理解される。
【0018】
本発明の前処理コーティング組成物は、広範囲にわたる金属基材のための前処理コーティングとしての用途が見出され、その基材へ耐腐食性の向上、及び塗装密着性の向上をもたらすものである。処理された金属基材は、自動車、航空機、機器、及びその他の製造業を含む多くの製品に用いられる。好ましくは、使用レベルまで希釈された場合、本発明の前処理コーティング組成物は、以下の表1に詳述する組成を有する。
【0019】
【表1】

【0020】
驚くべきことに、本発明は、これまでの系よりも非常に薄い前処理コーティング層になるにも関わらず、耐腐食性を向上させ、塗装密着性を改善する。
【実施例】
【0021】
全てのデータに対する標準的な前処理コーティングプロセスは、特に断りのない限り、前処理コーティング組成物を用いて以下の表2に記載の通りとした。Parco(登録商標)クリーナー1533は、ヘンケルアドヒーシブテクノロジーから入手可能であるアルカリ性洗浄剤である。基準となる前処理コーティング組成物は、亜鉛を含まず、NOのレベルが非常に低いジルコニウムベースの前処理コーティング組成物とした。
【0022】
【表2】

【0023】
最初の一連の実験では、亜鉛を含まず、硝酸塩のレベルが非常に低い基準となる前処理コーティング組成物に、種々のレベルの亜鉛及び硝酸塩を添加し、様々な基材に適用した。前処理コーティング組成物の詳細を表3に示す。前処理実施例1は、基準となる前処理コーティング組成物である。前処理2から5は、それらへ添加する亜鉛及び硝酸塩の量を増加させている。
【0024】
【表3】

【0025】
前処理の適用は、上述のように、以下の基材に対して行った:冷間圧延鋼(CRS);電気亜鉛めっき鋼(EG);溶融亜鉛めっき鋼(HDG);ガルバニール鋼(HIA);及びアルミニウム合金AL6111。最初の測定として、各基材上のジルコニウムの付着量を、蛍光X線分析法により1mあたりのミリグラムで測定し、その結果を以下の表4に示す。全体として、全ての試験基材において、亜鉛及び硝酸塩のレベルの上昇に従って、ジルコニウムの付着量は減少した。
【0026】
【表4】

【0027】
次の一連の実験では、別の基準となる前処理コーティング、Bonderite(登録商標)958(B−958)も組み入れ、本発明の前処理の性能を、業界標準であるリン酸亜鉛ベースの前処理、B−958とも比較できるようにした。サンプルは全て上記の表2に記載のようにして前処理したが、ただしBonderite(登録商標)958のサンプルについては、製造元の説明書に従って処理した。次に、前処理サンプルを陰極電着塗装でコーティングし、基材レベルまでケガキし、次に以下で述べるように腐食試験に付した。電着塗装は、BASFエレクトロコートCathoGuard(登録商標)310Xを用い、90°F(32.2℃)の温度での2分間の適用時間、及び230ボルトの印加電圧で行った。サンプルを320°F(160.0℃)で20分間焼付けし、0.8ミル(mil)から1.1ミル(mil)の乾燥皮膜厚を得た。電着塗装後の前処理したパネルの各々に、以下で述べる各24時間の連続腐食サイクルを40サイクル施した。0.9質量%の塩化ナトリウム、0.1質量%の塩化カルシウム、及び0.25質量%の炭酸水素ナトリウムを含むpH6からpH9の塩霧スプレーを準備した。試験パネルを、25℃、相対湿度(RH)40%から50%の環境に置いた。最初の8時間の間は、0時間、1.5時間、3時間、及び4.5時間の時間点で塩霧スプレーによる噴霧をパネルに施した。最初の8時間の後、25℃及び40%から50%のRHから最初の1時間で上昇させた、49℃及び100%RHの環境下にパネルを置いた。パネルの上には、目に見える水滴が現れた。24時間サイクルの最後の8時間では、3時間かけて60℃までの上昇及び30%RH未満への低下を行い、次に、この条件を残りの5時間維持した。これで1つの24時間サイクルが完了し、パネルには、合計で40サイクルを施した。パネルは、ケガキ線からの平均腐食クリープ(corrosion creep)、及びケガキ線からの最大腐食クリープについてミリメートルで評価した。結果を以下の表5A及び5Bに示す。
【0028】
【表5A】

【0029】
【表5B】

【0030】
これらの結果から、本発明による前処理が、CRS、HDG、HIA、及びAL6111基材上での耐腐食性能の向上を示すが、EGでは実際上の変化は示さないことが分かる。いくつかの場合では、本発明の前処理は、B−958と同等に機能し、亜鉛及び硝酸塩のレベルを増加させると、より良好に機能すると思われた。
【0031】
次の一連の試験では、前処理でコーティングされたパネルを、次に、BASFトップコート系で仕上げコーティングして、前処理、電着塗装、プライマー、ベースコート塗装、及びクリアコートを有するパネルを作製した。BASFトップコート系は、プライマーのPUA1177Cパウダー、ベースコートのR98WU321S、クリアコートのR10CG060Sを含み、全皮膜厚5.0ミル(mil)から8.0ミル(mil)、及びベースコート厚1.0ミル(mil)から1.2ミル(mil)が得られた。次に、業界で公知のグラベロメーターを用いて、塗装の耐チッピング性についてパネルを試験した。基本的な手順は以下の通りとし:100×300mmの試験パネルを、−30℃に4時間置き;次に、グラベロメーター中に設置し、16mmスクリーンは通過し9.5mm開口のスクリーン上には保持されるサイズを有する砂利の1パイントを、1平方インチあたり70ポンド(0.48263メガパスカル)の空気圧を用いて衝突させた。パネルを取り出し、塵及び凝縮水分をパネルから拭き取った。次に、パネルをマスキングテープの100mm条片で被覆し、強く押し、そしてテープを剥がして、取れてきたチップ及び塗装を引き離した。次に、パネルを目視検査し、チップダメージの程度を写真標準と比較した。ダメージは、0から10のスコア付けを行い、0は破損及び広いチップダメージの状態であり、10は目に見えるチップダメージは存在しない状態である。加えて、チップの平均直径をミリメートルで測定した。結果を以下の表6A及び6Bに示す。本発明の前処理は、チップ試験において非常に良好に機能した。本発明の前処理は、基準となる前処理よりも良好に機能し、亜鉛及び硝酸塩のレベルが最も高い場合に、業界標準のB−958と同等に機能した。このデータから、多くの基材において、本発明の前処理が、基準となる前処理と比較して塗装密着性を改善することが示される。
【0032】
【表6A】

【0033】
【表6B】

【0034】
次の一連の実験では、以下の表7に詳述するように、別の一連の前処理組成物を作製した。次に、前処理をCRSへ適用し、ジルコニウムの付着量を1mあたりのミリグラムで測定した。加えて、ナノメートル(nm)でのコーティング厚及びコーティング中のいくつかの重要な元素の原子パーセント(At%)を、X線光電子分光法により、いくつかのコーティングについて測定した。これらの結果を以下の表8に示す。
【0035】
【表7】

【0036】
【表8】

【0037】
データは、いくつかの興味深い傾向を示している。上記で示されるように、亜鉛及び硝酸塩のレベルの上昇に従って、ジルコニウムの付着量が低下する。データはまた、亜鉛及び硝酸塩のレベルが、コーティング厚及び原子構成にも影響を与えるということも示している。亜鉛及び硝酸塩のレベルの上昇は、コーティング厚を低下させる。亜鉛及び硝酸塩のレベルの上昇はまた、既に示したようにコーティング中のジルコニウムの減少ももたらすが、鉄及び銅の増加ももたらす。加えて、コーティング中への亜鉛のある程度の組み込みも見られる。
【0038】
次の一連の試験では、表7からのコーティング又はB−958をCRSパネルへ適用し、ケガキ後のこのパネルに、種々の腐食試験を施した。30サイクル試験では、パネルに、上述のものと類似の24時間の試験手順を30サイクル施した。塩霧スプレーは、0.9質量%の塩化ナトリウム、0.1質量%の塩化カルシウム、及び0.075質量%の炭酸水素ナトリウムを含むものとした。最初の8時間は、パネルを、25℃及び45%RHに保持し、上述のように、この8時間の間に4回の噴霧を施した。続いて、次の8時間は、パネルを49℃及び100%RHに置いた。最後の8時間は、60℃及び30%RH未満とした。このサイクルを合計で30サイクル行った。次に、パネルを、ケガキからの平均腐食クリープ及び最大腐食クリープについてミリメートルで評価した。パネルはまた、ASTM規格B117法を用いて500時間又は1000時間の試験も行った。結果を以下の表9に示す。結果は、本発明によって作製された前処理が、サイクル腐食試験において、基準となる前処理よりも良好に機能することを示している。
【0039】
【表9】

【0040】
これらの前処理のいくつかを、グラベロメーター試験によっても試験した。これらの試験では、前処理が適用されたCRSパネルを、続いて上述のBASFトップコート系又はデュポントップコート系のいずれかで被覆した。デュポントップコート系は、プライマーの765224EH、ベースコートの270AC301、クリアコートのRK8148を用いており、乾燥全皮膜厚5.0ミル(mil)から8.0ミル(mil)、及び乾燥ベースコート厚1.0ミル(mil)から1.2ミル(mil)を得た。パネルにグラベロメーター試験を施し、各パネルの4インチ×6インチ(10.2cm×15.2cm)のセクション内のチップ数を測定した。加えて、チップの平均直径をミリメートルで測定した。結果を以下の表10に示す。本発明による前処理は、基準となる前処理よりも著しく良好であった。本発明による前処理では、チップの数が大きく低減され、チップは小さかった。亜鉛及び硝酸塩の量が増加されると、前処理はより効果的であった。
【0041】
【表10】

【0042】
次の一連の実験では、対イオンとしての硝酸イオンを硫酸イオンに置き換えて、この対イオンが硝酸イオンに置き換わることが可能かどうかを判定した。前処理組成物を、以下の表11に示す。前処理をCRSパネルに適用し、いくつかのパラメータを測定した。1mあたりのミリグラムでジルコニウムの付着量を測定し、以下の表12に示した。また、上記の表9に示したような30サイクル腐食試験もパネルに実施したが、ただし、パネルには、30サイクルではなく31サイクルを施した。結果を、ケガキからの平均腐食クリープ及びケガキからの最大腐食クリープについて、ミリメートルで以下の表12に示す。
【0043】
【表11】

【0044】
【表12】

【0045】
結果から、硫酸イオンも、硝酸イオンと同程度ではないものの、ジルコニウムの付着量を低下させるように亜鉛と共に機能することが示される。このデータはまた、硫酸イオンと亜鉛との組み合わせが、標準であるB−958とほぼ同程度効果的であるように前処理の耐腐食性を高めるのに効果的であることも示している。
【0046】
次の一連の実験では、亜鉛の非存在下での硝酸塩単独の効果を、以下の表13で詳述する一連の前処理で試験した。前処理を、CRSパネルに適用し、31サイクルで上述のように試験し、ケガキからの平均及び最大クリープを測定して、以下の表14に示した。結果から、硝酸塩単独のレベルが高い場合、亜鉛よりは低い程度であるが、ジルコニウムベース前処理コーティングの腐食防止効果を高めることができることが示される。
【0047】
【表13】

【0048】
【表14】

【0049】
次の一連の実験では、以下の表15に詳述するように、別の前処理組成物一式を作製した。組成物を、CRSに適用し、次に、上述の30サイクル手順によって耐腐食性の試験を行った。結果を、以下の表16に示す。結果から、亜鉛及び硝酸塩の増加の効果が示された。全体として、硝酸塩レベルを一定として亜鉛を増加させると腐食性能が高められ、亜鉛レベルを一定として硝酸塩を増加させてもそのようになった。
【0050】
【表15】

【0051】
【表16】

【0052】
別の一連の試験では、以下の表17に記載の前処理を、CRSパネルに適用した。ジルコニウムの付着量を測定し、以下の表18に示した。パネルはまた、デュポンエレクトロコート21及びデュポン「3ウエット」トップコートによる電着でさらに処理した。次に、コーティングしたパネルに上述の30サイクル腐食試験を施し、結果を、以下の表18に示す。ここでも、亜鉛及び硝酸塩の存在が、前処理の腐食防止を向上させた。
【0053】
【表17】

【0054】
【表18】

【0055】
別の一連の実験では、表20に記載の前処理をACT CRSパネルに用い、以下の表19に示すように処理手順を変更した。基準となる前処理B−958も含めた。ジルコニウムの付着量をmg/mで測定し、以下の表21に示す。次に、各条件に対して複数のパネルを、以下で述べるように、CathoGuard(登録商標)800のBASFエレクトロコート及びBASFトップコート系でコーティングした。CathoGuard(登録商標)800の適用時間は、250ボルトの印加電圧、92°F(33.3℃)で2分間とした。焼付け時間は、350°F(176.7℃)で20分間とした。CathoGuard(登録商標)800の乾燥皮膜厚は、0.8ミル(mil)から1.1ミル(mil)であった。BASFトップコート系は、プライマーのR28WW216F、ベースコートのR98WW321、及びクリアコートのR10CG060Bであり、基材上の全乾燥皮膜厚5.0ミル(mil)から8.0ミル(mil)が得られた。次に、曝露を28サイクルとする以外はサンプル6〜11について上記で述べたようにして、サンプルを耐腐食性について試験した。腐食の結果を以下の表22に示す。ここでも、結果は、本発明による前処理が、ジルコニウムの付着量を減少させ、別の電着塗装及びトップコート系を用いたパネルの耐腐食性を高めたことを示している。
【0056】
【表19】

【0057】
【表20】

【0058】
【表21】

【0059】
【表22】

【0060】
最後の一連の実験では、本発明に酸化剤の過酸化水素を含めることの効果を試験した。表24に記載の前処理をACT CRSパネルに用い、以下の表23に示すように処理手順を変更した。基準となる前処理B−958も含めた。ジルコニウムの付着量をmg/mで測定し、以下の表25に示す。次に、各条件に対して複数のパネルを、上記の実施例1〜5で述べるようにCathoGuard(登録商標)310XのBASFエレクトロコートでコーティングした。CathoGuard(登録商標)310Xの乾燥皮膜厚は、0.8ミル(mil)から1.1ミル(mil)であった。次に、曝露を31サイクルとする以外はサンプル6〜11について上記で述べたようにして、サンプルを耐腐食性について試験した。腐食の結果を以下の表26に示す。結果は、過酸化水素単独で、ジルコニウムの付着量が減少し、平均及び最大腐食クリープが低減されたことを示している。結果はさらに、過酸化水素を亜鉛及び硝酸イオンの増加と組み合わせた場合、本発明の前処理コーティング組成物は、平均及び最大腐食クリープの低減においてさらにより効果的であったことも示している。
【0061】
【表23】

【0062】
【表24】

【0063】
【表25】

【0064】
【表26】

【0065】
上述の発明は、関連する法的基準に従って記載したものであり、従って、その記載は本質的に代表例であって、限定するものではない。開示される実施形態への変更及び改変は、当業者には明らかであり、本発明の範囲内に含まれる。従って、本発明に与えられる法的保護の範囲は、以下の請求項を検討することによってのみ決定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50百万分率(ppm)から300ppmのジルコニウム、0ppmから50ppmの銅、0ppmから100ppmのSiO、150ppmから2000ppmの全フッ素、10ppmから100ppmの遊離フッ素、150ppmから10000ppmの亜鉛、及び10ppmから10000ppmの酸化剤を含む、金属前処理コーティング組成物。
【請求項2】
75ppmから300ppmのジルコニウム、0ppmから40ppmの銅、及び20ppmから100ppmのSiOを含む、請求項1に記載の金属前処理コーティング組成物。
【請求項3】
前記酸化剤が、硝酸イオン若しくは硝酸塩、亜硝酸イオン若しくは亜硝酸塩、無機過酸化物、過マンガン酸イオン若しくは過マンガン酸塩、過硫酸イオン若しくは過硫酸塩、過ホウ酸イオン若しくは過ホウ酸塩、塩素酸イオン若しくは塩素酸塩、次亜塩素酸イオン若しくは次亜塩素酸塩、バナジン酸イオン若しくはバナジン酸塩、バナジルイオン若しくはバナジル塩、セリウムイオン若しくはセリウム塩、タングステン酸イオン若しくはタングステン酸塩、第二スズイオン若しくは第二スズ塩、ヒドロキシルアミン、ニトロ化合物、アミン酸化物、過酸化水素、又はこれらの混合物の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の金属前処理コーティング組成物。
【請求項4】
前記酸化剤が、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウムアンモニウム、タングステン酸ナトリウム、フッ化第二スズ、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びN−メチルモルホリンN−酸化物の少なくとも1つを含む、請求項3に記載の金属前処理コーティング組成物。
【請求項5】
前記酸化剤が、600ppmから10000ppmの量で存在する硝酸イオン若しくは硝酸塩、又は硫酸イオン若しくは硫酸塩を含む、請求項1に記載の金属前処理コーティング組成物。
【請求項6】
前記酸化剤が、10ppmから30ppmの量で存在する過酸化水素を含む、請求項1に記載の金属前処理コーティング組成物。
【請求項7】
金属基材上に前処理コーティングを有し、ここで、前記前処理コーティングは、50百万分率(ppm)から300ppmのジルコニウム、0ppmから50ppmの銅、0ppmから100ppmのSiO、150ppmから2000ppmの全フッ素、10ppmから100ppmの遊離フッ素、150ppmから10000ppmの亜鉛、及び10ppmから10000ppmの酸化剤を含む前処理コーティング組成物から得られるものである、前処理コーティングされた金属基材。
【請求項8】
前記前処理コーティングが、さらに75ppmから300ppmのジルコニウム、0ppmから40ppmの銅、及び20ppmから100ppmのSiOを含む前処理コーティング組成物から得られるものである、請求項7に記載の前処理コーティングされた金属基材。
【請求項9】
前記酸化剤が、硝酸イオン若しくは硝酸塩、亜硝酸イオン若しくは亜硝酸塩、無機過酸化物、過マンガン酸イオン若しくは過マンガン酸塩、過硫酸イオン若しくは過硫酸塩、過ホウ酸イオン若しくは過ホウ酸塩、塩素酸イオン若しくは塩素酸塩、次亜塩素酸イオン若しくは次亜塩素酸塩、バナジン酸イオン若しくはバナジン酸塩、バナジルイオン若しくはバナジル塩、セリウムイオン若しくはセリウム塩、タングステン酸イオン若しくはタングステン酸塩、第二スズイオン若しくは第二スズ塩、ヒドロキシルアミン、ニトロ化合物、アミン酸化物、過酸化水素、又はこれらの混合物の少なくとも1つを含む、請求項7に記載の前処理コーティングされた金属基材。
【請求項10】
前記酸化剤が、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウムアンモニウム、タングステン酸ナトリウム、フッ化第二スズ、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びN−メチルモルホリンN−酸化物の少なくとも1つを含む、請求項9に記載の前処理コーティングされた金属基材。
【請求項11】
前記酸化剤が、600ppmから10000ppmの量で存在する硝酸イオン若しくは硝酸塩、又は硫酸イオン若しくは硫酸塩を含む、請求項7に記載の前処理コーティングされた金属基材。
【請求項12】
前記酸化剤が、10ppmから30ppmの量で存在する過酸化水素を含む、請求項7に記載の前処理コーティングされた金属基材。
【請求項13】
前記金属基材が、冷間圧延鋼(CRS)、熱間圧延鋼、ステンレス鋼、亜鉛金属でコーティングした鋼、亜鉛合金、電気亜鉛めっき鋼(EG)、ガルバリウム、ガルバニール、溶融亜鉛めっき鋼(HDG)、アルミニウム合金、及びアルミニウムの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の前処理コーティングされた金属基材。
【請求項14】
0.7ミル(mil)から1.2ミル(mil)の厚さの電着層を前記前処理コーティング上にさらに有する、請求項7に記載の金属前処理コーティングされた金属基材。
【請求項15】
前記電着層上にトップコート層をさらに有する、請求項14に記載の金属前処理コーティングされた金属基材。
【請求項16】
a)50百万分率(ppm)から300ppmのジルコニウム、0ppmから50ppmの銅、0ppmから100ppmのSiO、150ppmから2000ppmの全フッ素、10ppmから100ppmの遊離フッ素、150ppmから10000ppmの亜鉛、及び10ppmから10000ppmの酸化剤を含む前処理コーティング組成物に金属基材を接触させる工程、
を含む、前処理コーティングで金属基材をコーティングする方法。
【請求項17】
工程a)が、75ppmから300ppmのジルコニウム、0ppmから40ppmの銅、20ppmから100ppmのSiOを含む前処理コーティング組成物に金属基材を接触させることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
工程a)が、冷間圧延鋼(CRS)、熱間圧延鋼、ステンレス鋼、亜鉛金属でコーティングした鋼、亜鉛合金、電気亜鉛めっき鋼(EG)、ガルバリウム、ガルバニール、溶融亜鉛めっき鋼(HDG)、アルミニウム合金、及びアルミニウムの少なくとも1つを含む金属基材を接触させることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
工程a)が、前記酸化剤として、硝酸イオン若しくは硝酸塩、亜硝酸イオン若しくは亜硝酸塩、無機過酸化物、過マンガン酸イオン若しくは過マンガン酸塩、過硫酸イオン若しくは過硫酸塩、過ホウ酸イオン若しくは過ホウ酸塩、塩素酸イオン若しくは塩素酸塩、次亜塩素酸イオン若しくは次亜塩素酸塩、バナジン酸イオン若しくはバナジン酸塩、バナジルイオン若しくはバナジル塩、セリウムイオン若しくはセリウム塩、タングステン酸イオン若しくはタングステン酸塩、第二スズイオン若しくは第二スズ塩、ヒドロキシルアミン、ニトロ化合物、アミン酸化物、過酸化水素、又はこれらの混合物の少なくとも1つを用いることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
工程a)が、前記酸化剤として、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウムアンモニウム、タングステン酸ナトリウム、フッ化第二スズ、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びN−メチルモルホリンN−酸化物の少なくとも1つを用いることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
工程a)が、前記酸化剤として、600ppmから10000ppmの量で存在する硝酸イオン若しくは硝酸塩、又は硫酸イオン若しくは硫酸塩を用いることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
工程a)が、前記酸化剤として、10ppmから30ppmの量で存在する過酸化水素を用いることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
工程a)が、前記金属基材の前記前処理コーティング組成物への接触を、スプレー、浸漬浴、又はこれらの組み合わせの少なくとも1つにより、1回の接触について60秒から120秒の範囲の時間で行うことを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
工程a)に続いて、前記前処理コーティング上に電着層を適用する工程が行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記前処理コーティング上に電着層を適用する前記工程に続いて、前記電着層上にトップコーティング層が適用される、請求項24に記載の方法。

【公表番号】特表2013−515856(P2013−515856A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546250(P2012−546250)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/062123
【国際公開番号】WO2011/090691
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】