説明

ジルコニウムでライニングした鋼のプレート及びかかるプレートを用いて製造される化学デバイス要素部品

【課題】先行技術の方法の欠点を全く示さないジルコニウムのライニングを有する化学デバイス要素を得ることを可能にする方法を提供する。
【解決手段】化学デバイス要素のためのライニングされた組立部品の製造方法であって、以下の連続した段階を含む。a)鋼の支持部品、ジルコニウムライニング、及び支持部品とライニングとの間の銀及び銅を含む合金であるろう材を含む初期アセンブリの形成段階、b)制御雰囲気ろう付けチャンバ内に初期アセンブリを導入する段階、c)前記チャンバ内で制御雰囲気を形成する段階、d)前記ろう材の溶融温度に少なくとも等しい温度まで前記ユニットを再加熱する段階。前記初期アセンブリの形成前に、前記ジルコニウムライニングにチタン層の被着を実施し、かつチタンでライニングした面を前記ろう材と接触させるように前記ジルコニウムのライニングを位置づける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば初期生成物又は中間生成物の貯蔵用エンクロージャ、タンク、原子炉、混合装置、処理デバイス、及び誘導デバイスなどの、腐食性の高い生成物を取扱い、貯蔵、及び/又は、処理するために利用される化学デバイス要素の製造方法に関する。優れた耐食性を確保するため、かつ腐食防止材のコストを考慮して、化学デバイス要素は、ユニットに対し機械的強度を与える鋼(炭素鋼又はステンレス鋼)の支持体、及び、酸素又は関係する腐食性環境と反応した後に保護層を与える反応性金属又は貴金属ベースの腐食防止金属ライニングを有することが最も多い。例えば、タンタル、タングステン、バナジウム、又はそれらの合金といった材料、あるいは条件が許される場合にはジルコニウム、チタン、ハフニウム又はそれらの合金といったような反応性金属が選択される。これらの材料のコストを理由として、可能なかぎり薄いライニングを実現することが求められる。
【0002】
本発明は、より特定的には、典型的には1mm未満の厚みの薄いジルコニウムライニングを有する化学デバイスの要素に関する。同様に、本発明は核材料の貯蔵、開発利用、及び/又は輸送のために利用される、ジルコニウムで内部がライニングされたデバイス要素の製造にも関するものであり得る。以下では、後者を「核デバイス」という一般的な表現を用いて呼称するものとする。
【背景技術】
【0003】
化学デバイスがひとたび完全に整形された時点でこの化学デバイスの内部を「被覆」することによって、又はすでに整形された部品にライニングを被着させ次にそれらを組立てることによって、又さらにはプレートタイプ又は管タイプの半製品にライニングを被着させ、かくしてライニングされたこれらの半製品を整形し、次にかくして得られた別々の部品を組立てることによって、複数の要領で化学デバイス要素部品を製造することが可能である。
【0004】
第一の場合では、被覆は、支持体とライニングとの間の接合無く行なうことができる(「ルーズライニング」すなわち「loose−lining」)。例えば、制限された数の組立て箇所での定着により、支持体とのライニングの機械的接合を実施する。かかる技術により、理論的には、数百ミクロンの厚みの腐食防止ライニングを利用することが可能となる。しかしながら、大きな機械的外力に付される装置については、厚みの少ないライニングの利用は、そのライニングが基板に密に固定されず、また、エンクロージャが負圧を受けた場合に凹みさらには圧壊する危険性があるため望ましくない。
【0005】
その他の場合では、支持体とのライニングの複数の接合技術が可能である。例えばローレットでいくつかの点で溶接を実施すること、さらには爆発溶接(「爆発圧着」)によるか、又さらにはろう付け合金の中間層の溶融により、それらの表面全体又はその大部分にわたり対面している表面でライニングと支持体とを密に一体化させることが可能である。ローレット点溶接を実施する場合には、ライニングが薄すぎればその過度の局所的変形に遭遇し得る。その上、保持が不充分であるライニングは、エンクロージャに負圧がかかった場合に圧壊し得る。爆発溶接により組立てを行う場合、実際には、つまりライニングすべき化学デバイス要素の一般的な幾何形状では、プレートとそのライニングが典型的には数平方メートルといった大きな表面積を網羅する場合にライニングの厚みがミリメートル未満であれば、衝撃波の伝播及び効果を制御することは不可能である。ろう付けによってライニングの接合を実現する場合には、すでに整形されたデバイスの一部にライニングをろう付けすること(米国特許第4291104号明細書の場合のように)、又は後に整形されるプレートにライニングをろう付けすること(国際公開第03/097230号パンフレットの場合のように)といった二つの技術が可能である。
【0006】
米国特許第4291104号明細書(Keifert)に記載されている方法は、支持体よりもはるかに薄いライニングを用いる段階、ライニングを(一方ではそれが支持体により課せられた幾何形状に沿うように、そして他方では適切な場所で膨張差の補償を可能にする「畳み込み」を実現するために)予め変形させる段階、このライニングを支持体上に位置づけて、次にろう付けにより固定する段階から成る。かかる技術は、支持体と比べて比較的薄いライニングの取扱いに適合されているが、過度に脆くなく又支持体とのライニングの位置づけに必要な取扱いの間に過度に変形可能でないライニングの利用を必要とする。したがって、このライニングは、充分な厚みを有していなくてはならず、その値は、支持体へ圧接される前に予め整形されたライニングの幾何形状に応じ、典型的には0.75mmを超える。
【0007】
1mm未満の厚みのライニングを持ったアセンブリの接合力を確保するため、熱プロジェクション技術、すなわちプラズマにより補助された又はされない、熱間プロジェクション又は冷間プロジェクションの技術を利用することを考慮することができる。しかしながら、これらの技術ではアセンブリの優れた接合力とわずかな貴金属消費を同時に得ることができるものの、その多孔率が一般的にパーコレーションの閾値未満にとどまっている場合でさえ、かくして被着された腐食防止ライニングの気密性を100%確保することはできない。
【0008】
鋼へのジルコニウムの直接溶接が非常に困難であることはかなり以前から知られている。英国特許第874271号明細書(発明者Alan Garlick)は、ジルコニウムと鋼との間に異なる二つの中間金属層を利用することを提案している。すなわち、鋼のプレートはバナジウムでライニングされ、ジルコニウムプレートは、ニオブ又はチタンでライニングされている。これらのライニングの各々の厚みはミリメートル単位である。同様に、ジルコニウム又はジルカロイの二つのプレートを交互に重ねて接合するための中間金属(米国特許第3106773号明細書参照)も利用されたが、用いられた厚みははるかに薄いものであった。すなわち、各面でチタンについては約5〜500nmの厚み、銅については約300〜500nmの厚みが用いられた。
【0009】
国際公開第03/097230号パンフレットでは、出願人は、鋼のプレート又は薄板を用い、これにろう付け合金の中間層の溶融により腐食防止金属材料をライニングし、かくしてライニングしたプレートを可塑変形により整形し、次に、得られた要素がデバイスにその最終的な幾何形状を付与するような形でそれらプレート同士を溶接することによって、化学デバイス要素を実現することが有利であることを示した。経済的及び機械的理由(支持体が、ろう付け中に、例えばそのオーステナイト化温度を超えることでその機械的特性を失なうのを回避しなくてはならないこと)から、ろう付け温度はできるかぎり低くなくてはならない。このような理由から、銀及び銅を含み、かつ溶融温度が900℃未満である、目標とする低温に充分適合したろう付け用合金を利用する。ところが、このタイプの合金は、ジルコニウムがろう材の銅と反応してこれらの組立ての延性を著しく制限する脆化化合物を生成するため、ジルコニウムライニングをろう付けするのに用いることはできない。この延性喪失は、組立ての可塑変形による整形(例えば膨らんだ底面の実現)の際のライニングの離脱をひき起こし、かくして化学デバイスは腐食に対するその保護を失う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本出願人は、典型的には1mm未満、好ましくは0.5mm未満、さらには0.3mmの厚みを有し、先行技術の方法の欠点を全く示さないジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングを有する化学デバイス要素又は核デバイス要素を得ることを可能にする方法を開発しようと試みた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の目的は、例えばジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングを有する化学デバイス要素を製造することを目的とした、ライニングされた組立部品の製造方法であり、前記組立部品が鋼の支持部品及び少なくとも一つのジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングを含んでおり、前記方法は以下の連続した段階を含む。
a) 鋼の支持部品、典型的にはプレート、ジルコニウム又はジルコニウム合金のライニング、典型的には鋼のプレートの寸法程度の大きさの薄板、そして支持部品とライニングとの間の少なくとも一つのろう材を含む初期アセンブリの形成段階であって、前記ろう材が銀及び銅を含む合金である段階。
b) 制御雰囲気ろう付けチャンバ内に初期アセンブリを導入する段階。
c) 前記チャンバ内の制御雰囲気を形成する段階。
d) 支持部品にジルコニウムのライニングをろう付けにより固定するため前記ろう材の溶融温度に少なくとも等しい温度まで前記ユニットを再加熱する段階。
前記方法は、前記初期アセンブリの形成の前に、前記ジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングにチタン又はチタン合金の層を被着させること、及び、チタン又はチタン合金でライニングされた面を前記ろう材と接触させるように前記ジルコニウムのライニングを位置づけることを特徴とする。
【0012】
本出願人は、本発明の方法が、鋼の部品に、1mm未満、さらには0.5mm未満そして一部の有利な幾何形状については0.3mm以下の厚みをもつジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングをしっかりと固定することを可能にするということを確認した。
【0013】
このようにして、ライニングされた組立部品は、充分な延性を有し、可塑変形によって後で整形可能である(例えば膨らんだ底面の実現)。鋼の支持部品及びジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングは、典型的に単純な形状を有する(例えばプレート及び薄板)が、場合によっては、特に実現すべき部品が大きな可塑変形を必要とする部分を呈する場合(例えば厚みの5倍未満といった小さい半径上の折曲げ又は曲げ加工)、予め変形を受けている可能性がある。
【0014】
ライニングは、純粋ジルコニウムVan Arkel又は、より一般的にはジルコニウム合金、典型的には化学産業又は核産業で利用されている合金である。化学産業用には、ジルコニウム702(UNS規格R60702)タイプのジルコニウム−ハフニウム合金、又はジルコニウム705(UNS規格R60705)タイプのジルコニウム−ハフニウム−ニオブ合金を用いている。核産業用としては、例えば、ジルカロイ2又はジルカロイ4といったジルコニウム−錫合金さらにはジルコニウム−ニオブ合金といった、ハフニウム添加されていないジルコニウムを用いている。
【0015】
本発明による方法によって、ろう材と接触することになっているジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングの表面を加工することで、組立ての整形適性が得られる。この加工は、数ミクロン、典型的には1〜10μm、好ましくは2〜10μm、より好ましくは2〜7μm、さらに一層好ましくは3〜6μmのチタン又はチタン合金の層をライニングの表面に被着させることから成る。被着は、10-4Torr〜10-2Torrの間に含まれる圧力下でマグネトロン陰極を備えたエンクロージャ内で陰極スパッタリングによって実施可能である。標的は、好ましくは、典型的には純度99.995%以上である純粋チタンであるが、バナジウム、ニオブ、モリブデン又はクロムといったその他の要素を含むチタン合金、典型的にはTi−Al−V、Ti−Mo−Nb−Al−Si、Ti−Pd、さらにはTi−V−Cr−Al合金の標的を利用することが可能である。プラズマで補助されるPVD(物理蒸着)での被着、同じくプラズマで補助され得るCVD(化学蒸着)タイプでの被着、又さらには、例えば「冷間溶射」タイプの熱プロジェクションによる被着といったその他の被着技術も考慮することができる。好ましくは、ジルコニウム又はジルコニウム合金の薄板は、予め清浄、脱脂され、処理すべき表面はイオン酸洗により酸洗されている。本発明者らは、50μmに達し得るが、好ましくは30μm未満の厚みをもつさらに厚い層を利用することも有利であることを確認した。これにより、特に真空プラズマトーチといったその他の被着技術を利用することが可能となる。
【0016】
支持部品、典型的には鋼(炭素鋼又はステンレス鋼)のプレート、支持体に対面させられた面にチタン層がライニングされているジルコニウム又はジルコニウム合金の薄板、及び、支持部品とライニングとの間の少なくとも一つのろう材を含む初期アセンブリが形成される。前記ろう材は、好ましくは市場で容易に入手できる、銀及び銅を含む合金である。例えば以下のものを挙げることができる。
・ 典型的に67%〜75%の間に含まれるAgと補完的なCuの、共融合金(Ag72%−Cu28%)に近い組成であり、その液相線温度が800℃未満(共融合金の溶融温度:780℃)である、Ag−Cu二元合金。
・ 亜鉛も含む三元合金。三元合金(銀−銅−亜鉛)は、数多くの変形形態で市場に存在する。銀は、優勢元素であり、流動性の増大、及び特に交番応力に対し継手の耐性の改善を可能にし、銀はさらに、さまざまな形状(薄箔、チップ、環、格子など)で合金を提供するため、かくしてきわめて多様なケースに合金を適合させるために活用できる延性を合金に付与する。例えばAg33%、Zn33.5%、Cu33.5%の銀−銅−亜鉛タイプの三元合金は、典型的にはおよそ40℃のかなり小さな凝固間隔で、730℃未満に下降し得る低い液相線温度を有する。
・ 例えば、Ag55%、Zn22%、Cu21%及びSn2%の銀、銅、亜鉛及び錫を含む四元合金。銀−銅−亜鉛−錫タイプの四元合金は、かなり小さい凝固間隔(約30℃)で上述の組成についておよそ660°の低い液相線温度を有する。これらは非常に流動性があり、耐性があり脆性の低い継手を提供する。
・ 例えばAg50%、Zn16.5%、Cu15.5%及びCd18%の銀、銅、亜鉛及びカドミウムを含む四元合金。銀−銅−亜鉛−カドミウムタイプの四元合金は、かなり小さい凝固間隔(約20℃)で、上述の組成について約630℃の低い液相線温度を有する。これらは非常に流動性があり、耐性があり脆性の低い継手を提供する。
【0017】
制御雰囲気ろう付けチャンバ内に初期アセンブリを導入する。制御雰囲気は、好ましくはかなり高い真空である。チャンバは典型的に10-5〜10-3mbarsの間、すなわち10-3〜10-1Paの間に含まれる圧力下に置かれる。ただし、特にろう材が錫又は亜鉛といった昇華傾向をもつ金属(処理の際の炉又は装入物の汚染の危険性)を含む場合、典型的には5×103〜104Paの間に含まれる分圧下のアルゴン、窒素、又はアルゴン−窒素混合物といった中性ガスを制御雰囲気として利用することが好ましい。ろう付けチャンバ内への導入の前に、前記初期アセンブリは、好ましくはろう付け作業中結合表面間の結合の欠陥又は気泡の形成を回避するように選択される間隔Dを得るように前記プレートとライニングされた薄板とを接近させることによって実現される。間隔Dは典型的には0.1mm未満である。ジルコニウムの薄板は、チタン又はチタン合金の層がろう材と接触した状態になるように位置づけられる。ろう材は、好ましくは、均質な結合層を得て、これら二つの要素間へ接触表面を増大させるために腐食防止ライニングと支持部品との間に均等分布されている。ろう材は、典型的には粉末、帯板、又は格子の形状を呈している。本出願人は、試験中で、格子が結合表面間の間隔Dの潜在的変動を効率良く補償するという利点を示すことを確認した。
【0018】
ろう付けチャンバ内に位置づけられた初期アセンブリは、ろう材の液相線温度よりわずかに高い温度にされ、その結果ろう材は溶融し、接触している要素と密な結合を生成する。ろう付け温度は、約900℃未満、好ましくは支持体の鋼のオーステナイト化温度未満、すなわち、ろう付け温度は鋼にしたがい、一般的に760℃〜850℃の間に含まれる温度より低い。
【0019】
本発明の方法は、有利には、ろう付け作業の全体又はその一部にわたり前記初期アセンブリに面圧力を加える段階を含む。より正確に言うと、前記再加熱の前及び/又は最中に前記アセンブリに機械的面圧力を加えることが有利である。この面圧力は、支持部品と腐食防止ライニングが互いに挟持されるように、かつ、ろう材を圧縮するように加えられ、これにより特に支持部品とライニングとの間の間隔Dに望ましい値を得ることができる。典型的に0.1MPaを超える面圧力(圧接圧力とも呼ばれる)は、控え棒、バネ、及び挟持板のシステムといったような機械的挟持システム、又は、エアバックといったような空気圧システム、又さらには油圧シリンダを用いたシステムにより適用することができる。低温でのろう付け作業は、機械的挟持システムの劣化を制限する。
【0020】
本発明によると、鋼の支持体とジルコニウムのライニングとの間の界面を脆化するジルコニウム−銅化合物の形成が回避される。その結果、基板/ライニングの結合は、ろう付け後に可塑変形により整形されることができるような充分な延性を有する。
【0021】
好ましくは、ジルコニウムの薄板に被着されるチタン又はチタン合金の層の厚みは10μmを超えない。この厚みは、典型的に1〜10μmの間、好ましくは2〜10μmの間、さらに一層好ましくは2〜7μmの間、そして最も好ましくは3〜6μmの間に含まれる。本出願人は、実際に、チタン又はチタン合金の層の厚みがさらに大きい場合、組立てのろう付けが劣化することを確認した。本出願人はこの劣化を以下のように説明している。
− チタンの供給は、865℃(純粋なジルコニウム)から約900℃に向かって、すなわち溶接合金の溶融温度(典型的に750℃〜850℃)よりもはるかに高い温度へと、アルファ型ジルコニウム(ち密な六角構造)からベータ型ジルコニウム(心立方体構造)への同素体相転移温度を上昇させる効果をもつ。したがって、ろう付け中、ジルコニウム又はジルコニウム合金のライニング内の相の転移の危険性は少なくなる。しかしながら、この転移は、ろう材(特に銅)及びチタンの層に由来する原子の拡散に有利に作用する構造の細分化(結晶粒界数の増化)をひき起こす。かくして、同素体相転移を回避することにより、ジルコニウムへの銅の過度に速い拡散が回避され、かくして脆化化合物の形成が制限される。
− チタンの供給が過度に多い場合(ここで問題となっている幾何形状については10μmを超える層)、共析晶組成物を超え得る含有量で、ひいては冷却中の多数の脆化金属間相の生成の危険性を伴って、Zr−Ag−Cu−Ti合金が局所的に生成される。
【0022】
ライニングされた部品の可塑変形による整形は、典型的には、圧延加工、カレンダ加工、型打ち加工、又は打ち出し加工により実現される。ライニングされた部品の形状は、典型的には膨らんだ形状、半円筒形又はその他である。化学デバイス要素を生産するためのライニングされたアセンブリ部品の組立て作業には、典型的には、例えば米国特許第4073427号明細書又は国際公開第03/097230号パンフレットに記述されている既知のあらゆる手段にしたがった溶接作業による前記部品間の継手の形成が含まれる。
【0023】
本発明のもう一つの目的は、典型的には1〜10μmの間、好ましくは2〜10μmの間、より好ましくは2〜7μmの間、より一層好ましくは3〜6μmの間に含まれる厚みのチタン又はチタン合金の層でその片面がライニングされていることを特徴とするジルコニウム又はジルコニウム合金の薄板にある。このような薄板は、可塑変形により容易に整形できるジルコニウムでライニングされた鋼のプレートを実現するのに特に適している。1mm未満、さらには0.5mm未満、場合によっては0.3mm以下の厚みで、これらの薄板は、さほど高価でない化学デバイス又は化学デバイス要素部品の製造を可能にする。
【0024】
本発明のもう一つの目的は、典型的には1〜10μmの間、好ましくは2〜10μmの間、より好ましくは2〜7μmの間、そしてより一層好ましくは3〜6μmの間の厚みのチタン又はチタン合金の層でライニングされたジルコニウム又はジルコニウム合金の薄板の実現方法であって、10-4Torr〜10-2Torrの間に含まれる圧力下でマグネトロン陰極を備えたエンクロージャ内で陰極スパッタリングによってチタンを被着させることを特徴とする方法である。好ましくは、ジルコニウム又はジルコニウム合金の薄板は、予め清浄、脱脂され、処理すべき表面はイオン酸洗により酸洗いされている。
【0025】
本発明のもう一つの目的は、典型的かつ好ましくは1mm〜50mmの間に含まれる厚みの鋼の支持体の層(炭素鋼又はステンレス鋼)、チタン又はチタン合金の中間層、及び典型的かつ好ましくは5mm未満、好ましくは1mm未満、さらには0.5mm未満、及びさらには0.3mm以下の厚みのジルコニウム又はジルコニウム合金の層を含む、ジルコニウム又はジルコニウム合金の層でライニングされた鋼のプレートである。
【0026】
本発明のもう一つの目的は、ジルコニウム又はジルコニウム合金の層でライニングされた鋼のプレートの製造方法であって、前記方法は以下の段階を含む。
a) 鋼のプレート、典型的には鋼のプレートの寸法に近い大きさのジルコニウム又はジルコニウム合金の薄板、及び支持部品とライニングとの間の少なくとも一つのろう材を含むアセンブリの形成段階であって、前記ろう材が銀及び銅を含む合金である段階。
b) 制御雰囲気ろう付けチャンバ内に初期アセンブリを導入する段階。
c) 前記チャンバ内の制御雰囲気を形成する段階。
d) 鋼のプレートにジルコニウムの薄板をろう付けにより固定するため、前記ろう材のろう付け温度に少なくとも等しい温度まで前記ユニットを再加熱する段階。
前記方法は、前記アセンブリの形成の前に、前記ジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングにチタン又はチタン合金の層を被着させること、及び、チタン又はチタン合金でライニングされた面を前記ろう材と接触させるように前記ジルコニウムのライニングを位置づけることを特徴とする方法である。
【0027】
前述のように、ジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングは1mm未満、さらには0.5mm未満、場合によっては0.3mm以下の厚みである。被着は、10-4Torr〜10-2Torrの間に含まれる圧力下でマグネトロン陰極を備えたエンクロージャ内での陰極スパッタリングによって実施可能である。プラズマで補助されるPVD被着、又は例えば「冷間溶射」タイプの熱プロジェクションによる被着、又さらには真空下のプラズマトーチによる被着といったその他の被着技術も考慮することができる。これらのあらゆる場合において、被着を実施する表面は、好ましくは、例えば清浄、脱脂され、場合によってイオン酸洗により酸洗いされるように、被着の前に適切に準備される。
【0028】
前述の通り、ろう材は、好ましくは市場で容易に入手できる銀及び銅を含む合金、典型的には、共融合金(Ag72%−Cu28%)に近い組成のAg−Cu二元合金、亜鉛も含む三元合金、又は、例えばAg55%、Zn22%、Cu21%、及びSn2%の銀、銅、亜鉛及び錫を含む四元合金、又さらには、例えばAg50%、Zn16.5%、Cu15.5%及びCd18%の銀、銅、亜鉛又はカドミウムを含む四元合金である。
【0029】
前述の通り、制御雰囲気は好ましくはかなり高い真空である。チャンバは典型的には10-3〜10-1Paの間に含まれる低圧力下に設定される。しかしながら、特にろう材が錫又は亜鉛といった昇華傾向をもつ金属(処理の際の炉又は装入物の汚染の危険性)を含む場合、制御雰囲気として、典型的には5×103〜104Paの間に含まれる分圧下のアルゴン、窒素、又はアルゴン−窒素混合物といったような中性ガスを利用することが好ましい。
【0030】
前述の通り、初期アセンブリは、約900℃未満、好ましくは支持体の鋼のオーステナイト化温度より低い温度にされる。本発明の方法には、有利には、ろう付け作業の全体又は一部分の間、典型的には0.1MPaを超える面圧力(圧接圧力とも呼ばれる)を前記アセンブリに加える段階が含まれる。
【0031】
本発明のもう一つの目的は、ライニングされた少なくとも一つの第一及び第二の組立部品を有する、ジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングを含む化学デバイス要素の製造方法であって、各々の前記ライニングされた組立部品が一つの鋼の支持部品及び少なくとも一つのジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングを含んでおり、前記製造方法は以下の連続した段階を含むことを特徴とする。
a) 請求項1〜9のいずれか一つに記載のライニングされた組立部品を製造する段階。
b) 前記ライニングされた組立部品を得るように、典型的には、圧延加工、曲げ加工、カレンダ加工、型打ち加工、又は打ち出し加工により、ライニングされた前記の中間の部品を整形する段階。
c) 前記化学デバイス要素を得るようにライニングされた組立部品を組立てる段階。
【実施例】
【0032】
チタンでライニングされたジルコニウムの薄板の製造
厚みが1mmでその長さ及び幅が被覆すべき鋼製薄板に応じて選択され、典型的には2m×1mである、ジルコニウム−ハフニウム合金Zr702(参照番号UNS R60702)の薄板を用いる。
【0033】
有機溶剤でジルコニウム−ハフニウム合金薄板を脱脂する。次に、被着に利用されることになるものと同じ設備を利用してライニングすべき表面のイオン酸洗を実施する。
【0034】
陰極スパッタリングにより、純粋Ti(99.995%)の標的のチタン5μmの被着を実施する。
【0035】
化学デバイス要素の製造
三つの初期アセンブリを実現する。その各々について、支持体薄板は、厚み10mm、長さ2m、幅1mのステンレス鋼316L(参照番号UNS S31603)である。
− 第一のものは、上述のものと同一であるがチタンのライニングをしていないジルコニウムの薄板を用いている。
− 第二のものは、先行例で記述されているものと同一であるチタンでライニングされたジルコニウムの薄板、及び、銀−銅のろう合金を用いている。
− 第三のものは、先行例で記述されているものと同一であるチタンでライニングされたジルコニウムの薄板、及び、銀−銅−亜鉛−錫の四元ろう合金を用いている。
【0036】
第一のアセンブリ−本発明外
ジルコニウムの薄板を鋼の薄板に位置づける。前もって、有機溶剤を用いて脱脂したAg72%−Cu28%の合金帯状物を鋼の薄板に被着させた。この帯状物を、鋼の支持体とジルコニウムのライニングとの間にくるように位置づける。控え棒及び挟持板を用いて0.1MPaに近い圧力つまり一平方メートルあたり10トンの圧力を加えることにより、鋼の薄板とライニングとを一つに維持する。全体を真空下の炉内で830℃の温度で、5×10-5mbarに近い圧力つまり5×10-3Paの圧力下でろう付けする。
【0037】
ライニングされた薄板を、まずは600℃程度の安定域まで真空を維持し、次に約500℃まで窒素雰囲気下で、その後200℃まで強制対流下で、ゆっくりと冷却する。全体の冷却時間は48時間に達する。
【0038】
課せられたこれらのゆっくりとした冷却条件にもかかわらず、ろう材とジルコニウムの薄板との間の界面付近で大きな離脱ゾーンが確認される。
【0039】
次に、この界面付近でアセンブリから試片を切取る。次に、これらの試片は、20mmの曲率半径で90°での折曲げ試験の対象となる。折曲げは、変形前にすでに観察された欠陥を悪化させるだけである。
【0040】
第二のアセンブリ
第一の実施例において実現したチタンでライニングされたジルコニウムの薄板を、チタン面を鋼の薄板の方に向けて鋼の薄板に位置づける。前もって、有機溶剤を用いて脱脂されたAg72%−Cu28%合金の帯状物を鋼の薄板に被着させた。この帯状物を、ジルコニウムのライニングのチタン層と鋼の支持体との間にくるように位置づける。
【0041】
控え棒及び挟持板を用いて0.1MPa程度の圧力つまり一平方メートルあたり10トンの圧力を加えることにより、鋼の薄板とライニングとを一つに維持する。全体を真空下の炉内で830℃の温度で、5×10-5mbar程度の圧力、つまり5×10-3Paの圧力下でろう付けする。
【0042】
次に、第一のアセンブリについて前述した通りに、全体をゆっくりと冷却する。
【0043】
ろう材とジルコニウムの薄板との間の界面は、チタン層が存在するおかげで離脱欠損を免れる。
【0044】
次に、この界面付近でアセンブリから試片を切取った。これらの試片で、20mmの曲率半径で90°での折曲げ試験を行った。この追加変形にもかかわらず、いかなる離脱も現われなかった。
【0045】
第三のアセンブリ
第一の実施例において実現したチタンでライニングされたジルコニウムの薄板を、チタン面を鋼の薄板の方に向けて鋼の薄板に位置づける。前もって、Ag55%−Cu21%−Zn22%−Sn2%四元合金の帯状物を鋼の薄板に被着させた。この帯状物を有機溶剤を用いて脱脂し、ジルコニウムのライニングのチタン層と鋼の支持体との間にくるように位置づけた。
【0046】
控え棒及び挟持板を用いて0.1MPa程度の圧力を加えることにより、鋼の薄板とライニングとを一つに維持する。全体を真空下の炉内で750℃の温度で、そしておよそ90mbar、すなわち、9×103Paのアルゴン分圧でろう付けする。
【0047】
次に、アセンブリを48時間冷却する。それから、半径250mmの半円筒形シェルを実現するために、アセンブリを曲げ加工する。その後、米国特許第4073427号明細書又は国際公開第03/097230号パンフレット中に記述されている技術の一つにしたがって、円筒形シェルをもう一つの半円筒形シェルに突合せ接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0048】
【特許文献1】米国特許第4291104号明細書
【特許文献2】英国特許第874271号明細書
【特許文献3】国際公開第03/097230号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングを有する化学又は核デバイス要素を製造することを目的としたライニングされた組立部品の製造方法であって、前記組立部品が鋼の支持部品及び少なくとも一つのジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングを含んでおり、前記方法は連続する以下の段階を含む。
a) プレートである鋼の支持部品、鋼のプレートの寸法程度の大きさの薄板であるジルコニウム又はジルコニウム合金のライニング、及び支持部品とライニングとの間の少なくとも一つのろう材を含む初期アセンブリの形成段階であって、前記ろう材が銀及び銅を含む合金である段階。
b) 制御雰囲気ろう付けチャンバ内に初期アセンブリを導入する段階。
c) 前記チャンバ内で制御雰囲気を形成する段階。
d) 支持部品にジルコニウムのライニングをろう付けにより固定するために前記ろう材の溶融温度に少なくとも等しい温度まで前記ユニットを再加熱する段階。
前記方法が、前記初期アセンブリの形成の前に前記ジルコニウム又はジルコニウム合金のライニングにチタン又はチタン合金の層の被着を実施すること、及び、チタン又はチタン合金でライニングされた面を前記ろう材と接触させるように前記ジルコニウムのライニングを位置づけることを特徴とする、ライニングされた組立部品の製造方法。

【公開番号】特開2012−71350(P2012−71350A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240928(P2011−240928)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【分割の表示】特願2008−500233(P2008−500233)の分割
【原出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(507302689)
【氏名又は名称原語表記】CARBONE LORRAINE EQUIPEMENTS GENIE CHIMIQUE (S.A.S.U.)