説明

ジルコニウム酸化物、その前駆体およびそれらの製造方法

【課題】従来の製造方法で見られる大量の純水またはアンモニア水を使用した洗浄を行わなくとも、不純物の含有量が少ない高純度なジルコニウム酸化物、粉体前駆体およびこれらを焼成したジルコニウム酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)ジルコニウムと、硫酸根とを溶解した原料溶液を加温し、塩基性硫酸ジルコニウム塩の沈殿が析出したスラリーを得る反応工程と、(2)当該スラリーにアルカリを添加し、pHを11以上にして硫酸根を完全に溶出させる中和工程と、(3)該中和工程で得られたスラリーを固液分離し、酸によりpHを9以下にして洗浄を行ない、ジルコニウム水酸化物の粉体を得る洗浄工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム酸化物、その前駆体およびそれらの製造方法、ジルコニウム複合酸化物、その前駆体およびそれらの製造方法に関する。さらに詳しくは、耐熱性、耐食性にすぐれ、また、融点が高いなどの特性を備えており、最近の触媒、耐火物、ファインセラミックス等、数多くの分野に応用することのできるジルコニウム酸化物、その前駆体およびそれらの製造方法、ジルコニウム複合酸化物、その前駆体およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジルコニウム水溶液を出発原料として、(1)アンモニア水等を添加して共沈させる方法、(2)加水分解したうえ有機溶媒中に沈殿を置換する方法、(3)高温高圧下で加水分解する方法、(4)アルコキシド化合物を合成し、これを加水分解する方法などが提案されていた。
【0003】
しかし、前記の(1)の方法の場合には得られる水酸化物が硬く、微粉にするにはかなりの粉砕処理を要すること、(2)の方法の場合には加水分解の速度が遅く、数十〜百時間程度の処理が必要であり、また有機溶媒の回収設備や防爆設備が必要で、エネルギーコストも高くなること、(3)の方法の場合にはオートクレーブを必要とし、設備費やエネルギーコストが高くなること、(4)の方法の場合には有機金属化合物を合成する工程を要するので薬品費用がかなり必要になること、などそれぞれ重大な諸問題があった。
【0004】
このような諸問題に関し、先に、主として前記(1)の方法の改善を図り、イットリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の安定化元素、硫酸根およびジルコニウムを溶解した原料水溶液を50℃以上に昇温することにより該安定化元素の一部が吸着されたジルコニウム塩基性硫酸塩の沈殿が析出したスラリーを得る第1工程、該スラリーにアルカリ金属の水酸化物を添加しpHを8以上にして前記沈殿中の硫酸根を溶出させるとともに前記スラリー中に溶存する前記安定化元素を水酸化物として前記沈殿に共沈させる第2工程、該第2工程で得られたスラリーを固液分離して前記安定化元素の水酸化物を含有するジルコニウム水酸化物の微粉体を得る第3工程、次いで該微粉体を焙焼する第4工程からなることが開示されている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−206137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法では、ジルコニウム水酸化物の微粉体に含まれる不純物であり、原料であるアルカリ金属の水酸化物および硫酸根に由来する、アルカリ金属原子のNa等およびSが電子部材等に含まれると悪影響を及ぼす恐れがあり、この不純物を洗浄するのに大量の純水またはアンモニア水を必要とし、その結果、製造過程において大量の工業排水を排出するというおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑み、従来の製造方法で見られる大量の純水またはアンモニア水を使用した洗浄を行わなくとも、不純物の含有量が少ない高純度なジルコニウム酸化物、その粉体前駆体およびこれらを焼成したジルコニウム酸化物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかわるジルコニウム酸化物粉体前駆体の製造方法は、(1)水溶性ジルコニウム塩と、硫酸根とを溶解した原料溶液を加温し、塩基性硫酸ジルコニウム塩の沈殿が析出したスラリーを得る反応工程と、(2)当該スラリーにアルカリを添加し、pHを11以上にして硫酸根を完全に溶出させる中和工程と、(3)該中和工程で得られたスラリーを固液分離し、酸によりpHを9以下にして洗浄を行ない、ジルコニウム水酸化物の粉体を得る洗浄工程とからなることを特徴とする。
【0009】
前記(1)の反応工程が、水溶性ジルコニウム塩、硫酸根、および安定化元素としてアルカリ土類金属元素ならびに希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含む水溶性塩とを溶解した原料溶液を加温し、前記安定化元素の一部が吸着した塩基性硫酸ジルコニウム塩の沈殿が析出したスラリーを得る工程であることが好ましい。
【0010】
前記(2)の中和工程におけるアルカリが水酸化ナトリウムであり、前記(2)の中和工程におけるpHが11〜12であることが好ましい。
【0011】
前記(3)の洗浄工程における酸が塩酸であり、前記(3)の洗浄工程におけるpHが7〜8であることが好ましい。
【0012】
また、本発明にかかわるジルコニウム酸化物粉体前駆体は、上記製造方法により得られたジルコニウム酸化物粉体前駆体である。
【0013】
また、本発明のジルコニウム複合酸化物は、上記製造方法により得られたジルコニウム複合酸化物粉体前駆体を焼成することにより製造される。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来の製造方法で見られる大量の純水またはアンモニア水を使用した洗浄を行わなくとも、不純物の含有量が少ない高純度なジルコニウム酸化物、その前駆体およびそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のジルコニウム酸化物前駆体の製造方法は、(1)水溶性ジルコニウム塩、および硫酸根を溶解した原料溶液を加温し、塩基性硫酸ジルコニウム塩の沈殿が析出したスラリーを得る反応工程と、(2)当該スラリーにアルカリを添加し、pHを11以上にして硫酸根を完全に溶出させる中和工程と、(3)該中和工程で得られたスラリーを固液分離し、酸によりpHを9以下にして洗浄を行ない、ジルコニウム水酸化物の粉体を得る洗浄工程とからなることを特徴とする。
【0016】
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0017】
まず、(1)の工程は、水溶性ジルコニウム塩と硫酸根とを溶解した原料溶液を加温し、塩基性硫酸ジルコニウム塩の沈殿が析出したスラリーを得る工程である。ここで、前記水溶性ジルコニウム塩としてオキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウムなどを用いることができるが工業的面や排水負荷の面からオキシ塩化ジルコニウムが好ましい。また、硫酸根としては硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができるが工業的面や排水負荷の面から硫酸ナトリウムが好ましい。前記ジルコニウムと硫酸根との配合について、硫酸根は、ジルコニウムのモルに対してモル比0.4〜0.6程度が好ましい。モル比0.3未満の場合、塩基性硫酸ジルコニウム塩が生成しないという問題があり、モル比0.8を越える場合、目的外の沈殿(硫酸ジルコニウム等)が生じるという問題がある。また、原料溶液の加温について、温度は60〜90℃程度が好ましい。温度が60℃未満の場合、生成が極端に遅くなるという問題があり、90℃を超える場合、装置等の腐食が大きいという問題がある。また、加温時間は、1〜2時間程度が好ましい。加温時間が0.5時間未満の場合、未反応物が残留するという問題があり、2時間を超える場合、すでに反応の大部分は完了しているため経済的に好ましくないという問題がある。
【0018】
(1)の工程は、水溶性ジルコニウム塩、硫酸根、および安定化元素としてアルカリ土類金属元素ならびに希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含む水溶性塩とを溶解した原料溶液を加温し、前記安定化元素の一部が吸着した塩基性硫酸ジルコニウム塩の沈殿が析出したスラリーを得る工程であることが好ましい。
【0019】
ここで、前記安定化元素はジルコニアの結晶構造を安定化させ、その焼結体の強度等の物性を向上させるために用いられる。これら元素は、要求される物性により、その種類および添加量は適宜選択することが可能である。
【0020】
前記安定化元素としては、Be、Mg、Ca、Sr、BaやSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Eu、Gd、Ybなどがあげられ、これらのうち機械強度の向上という観点からYが好ましく、耐熱性の向上という観点からはMg、Caが好ましく、触媒性能という観点からはBa、Ce、Srやその複合系が好ましい。
【0021】
原料溶液の加温の温度や時間に関しては前述の条件を適用できる。
【0022】
次に、(2)の工程は、(1)の工程で得られたスラリーにアルカリを添加し、pHを11以上にして硫酸根を完全に溶出させる中和工程である。ここで、前記アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどを用いることができるが、工業的面や排水負荷の面から水酸化ナトリウムが好ましい。また、前記pHは、11以上であればよく、11〜12であることが好ましい。pHが11未満の場合、硫酸根の残留が懸念されるという問題がある。また、pHが12を超える場合、大過剰のNa分の残留が起こるという傾向がある。なお、硫酸が完全に溶出したかの判断は、pHが平衡に達することにより行なうことができる。さらに、スラリーが中和したか否かは、pHメーターにより確認することができる。
【0023】
次に、(3)の工程は、(2)の工程で得られた中和したスラリーを固液分離し、酸によりpHを9以下にして洗浄を行ない、ジルコニウム水酸化物の粉体を得る洗浄工程である。ここで、前記酸としては、塩酸、硝酸などを用いることができるが、工業的な面や排水負荷の面から、塩酸が好ましい。また、(3)の工程における前記pHは、7〜8であることが好ましい。pHが7未満の場合、有用成分が溶出するという問題があり、pHが8を超える場合、Na分の残留が起こるという問題がある。なお、固液分離および、洗浄は、当業者に自明の各種方法により行なうことができる。また、pHの確認は、pHメーターにより行なうことができる。なお、酸化物の前駆体の場合、搾った状態(湿粉)での提供が多く、湿粉のまま焼成を行ない酸化物を得ることもできる。
【0024】
以上の工程により、ジルコニウム酸化物前駆体を製造することができる。
【0025】
次に、本発明のジルコニウム酸化物の製造方法について説明する。
【0026】
本発明のジルコニウム酸化物は、上記製造方法により得られたジルコニウム酸化物粉体前駆体を焼成することにより得ることができる。焼成温度は目標とする粉末物性によって変えることが可能であるが、焼成温度としては、500〜1200℃程度が好ましい。焼成温度が500℃未満の場合、酸化されないという問題があり、1200℃を超える場合、粒成長により強い凝集が起こるという問題がある。さらに、焼成時間としては、電気炉、ガス炉等の種類、その焼成炉のサイズ等により異なってくるが、系内の温度が均一になるまで焼成を行なうことが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
ジルコニウム溶液として、オキシ塩化ジルコニウムを純水に溶解して、ZrO2濃度で10wt%とした水溶液、硫酸根調整剤として無水硫酸ナトリウム粉末をそれぞれ用意した。
【0029】
前記ジルコニウム水溶液2000gに、硫酸根調整剤である無水硫酸ナトリウム粉末をZrO2モル当たり0.6モルに相当する100g添加し、原料水溶液とした。
【0030】
この原料水溶液を80℃まで加温し、加温状態で1時間保持して、ジルコニア塩基性硫酸塩の析出したスラリーを得た。前記スラリーにpH調整剤として48%水酸化ナトリウム水溶液をpHを11.5となるまで添加した後、15分間保持し、水酸化ジルコニウムの沈殿したスラリーを得た。
【0031】
得られたスラリーをヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり10L相当の純水により洗浄した。得られた水酸化物をさらに酸化物−kg当たり2.5Lの純水によりリスラリーを行ない、塩酸にてpHを7.0に調整し、ヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり7.5Lの純水により洗浄を行った後、110℃恒温槽にて大気下で乾燥を行ない前駆体水酸化物を得た。得られた前駆体水酸化物の不純物量を表1に示した。
【0032】
前記前駆体水酸化物を電気炉により大気下1000℃で仮焼を行ない、ジルコニア粉末を得た。
【0033】
実施例2
ジルコニウム溶液として、オキシ塩化ジルコニウムを純水に溶解して、ZrO2濃度で10wt%とした水溶液、安定化剤溶液として酸化イットリウムを塩酸で溶解しY23濃度で15wt%とした水溶液、硫酸根調整剤として無水硫酸ナトリウム粉末をそれぞれ用意した。
【0034】
前記ジルコニウム水溶液を2000gと、前記安定化剤水溶液をZrO2モル当たり3.0モル%相当量である60gの水溶液とを混合し、この混合液に硫酸根調整剤である無水硫酸ナトリウム粉末をZrO2モル当たり0.5モルに相当する90g添加し、原料水溶液とした。
【0035】
この原料水溶液を80℃まで加温し、加温状態で1時間保持して、ジルコニア塩基性硫酸塩の析出したスラリーを得た。前記スラリーにpH調整剤として48%水酸化ナトリウム水溶液をpHを11.5となるまで添加した後、15分間保持し、安定化元素が共沈したスラリーを得た。
【0036】
得られたスラリーをヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり10L相当の純水により洗浄した。得られた水酸化物をさらに酸化物−kg当たり2.5Lの純水によりリスラリーを行ない、塩酸にてpHを8.0に調整し、ヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり7.5Lの純水により洗浄を行った後、110℃恒温槽にて大気下で乾燥を行ない前駆体水酸化物を得た。得られた前駆体水酸化物の不純物量を表1に示した。
【0037】
前記前駆体水酸化物を電気炉により大気下1000℃で仮焼を行ない、部分安定化ジルコニア粉末を得た。
【0038】
実施例3
ジルコニウム溶液として、オキシ塩化ジルコニウムを純水に溶解して、ZrO2濃度で10wt%とした水溶液、塩化ストロンチウムを純水に溶解してSrO濃度で10wt%とした水溶液、安定化剤溶液として酸化イットリウムを塩酸で溶解しY23濃度で15wt%とした水溶液、硫酸根調整剤として無水硫酸ナトリウム粉末をそれぞれ用意した。
【0039】
前記ジルコニウム水溶液を1000gと前記ストロンチウム水溶液を1000gと、前記安定化剤水溶液をZrO2モル当たり6.0モル相当量である120gの水溶液とを混合し、この混合液に硫酸根調整剤である無水硫酸ナトリウム粉末をZrO2モル当たり0.5モルに相当する90g添加し、原料水溶液とした。
【0040】
この原料水溶液を80℃まで加温し、加温状態で1時間保持して、ジルコニア塩基性硫酸塩の析出したスラリーを得た。前記スラリーにpH調整剤として48%水酸化ナトリウム水溶液をpHを11.5となるまで添加した後、15分間保持し、水酸化ストロンチウムおよび安定化元素が共沈したスラリーを得た。
【0041】
得られたスラリーをヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり10L相当の純水により洗浄した。得られた水酸化物をさらに酸化物−kg当たり2.5Lの純水によりリスラリーを行ない、塩酸にてpHを8.0に調整し、ヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり7.5Lの純水により洗浄を行った後、110℃恒温槽にて大気下で乾燥を行ない前駆体水酸化物を得た。得られた前駆体水酸化物の不純物量を表1に示した。
【0042】
得られた前駆体水酸化物を実施例1と同様に仮焼を行ない、ジルコニア複合酸化物粉末を得た。
【0043】
比較例1
ジルコニウム溶液として、オキシ塩化ジルコニウムを純水に溶解して、ZrO2濃度で10wt%とした水溶液、硫酸根調整剤として無水硫酸ナトリウム粉末をそれぞれ用意した。
【0044】
前記ジルコニウム水溶液を2000gと、この水溶液に硫酸根調整剤である無水硫酸ナトリウム粉末をZrO2モル当たり0.6モルに相当する100g添加し、原料水溶液とした。
【0045】
この原料水溶液を80℃まで加温し、加温状態で1時間保持して、ジルコニア塩基性硫酸塩の析出したスラリーを得た。前記スラリーにpH調整剤として48%水酸化ナトリウム水溶液をpHが11.0となるまで添加した後15分間保持し、水酸化ジルコニウムが沈殿したスラリーを得た。
【0046】
得られたスラリーをヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり20L相当の純水により洗浄した。得られた水酸化物を、110℃恒温槽にて大気下で乾燥を行ない前駆体水酸化物を得た。得られた前駆体水酸化物の不純物量を表1に示した。また、実施例と同等の不純物量となるまで追加洗浄を行なった際、要した洗浄水の量を表1に示した。
【0047】
得られた前駆体水酸化物を実施例1と同様に仮焼を行ない、ジルコニア粉末を得た。
【0048】
比較例2
ジルコニウム溶液として、オキシ塩化ジルコニウムを純水に溶解して、ZrO2濃度で10wt%とした水溶液、硫酸根調整剤として無水硫酸ナトリウム粉末をそれぞれ用意した。
【0049】
前記ジルコニウム水溶液を2000gと、この水溶液に硫酸根調整剤である無水硫酸ナトリウム粉末をZrO2モル当たり0.6モルに相当する100g添加し、原料水溶液とした。
【0050】
この原料水溶液を80℃まで加温し、加温状態で1時間保持して、ジルコニア塩基性硫酸塩の析出したスラリーを得た。前記スラリーにpH調整剤として48%水酸化ナトリウム水溶液をpHが9.5となるまで添加した後15分間保持し、水酸化ジルコニウムが沈殿したスラリーを得た。
【0051】
得られたスラリーをヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり20L相当の純水により洗浄した。得られた水酸化物を、110℃恒温槽にて大気下で乾燥を行ない前駆体水酸化物を得た。得られた前駆体水酸化物の不純物量を表1に示した。また、実施例と同等の不純物量となるまで追加洗浄を行なった際、要した洗浄水の量を表1に示した。
【0052】
得られた前駆体水酸化物を実施例1と同様に仮焼を行ない、ジルコニア粉末を得た。
【0053】
比較例3
ジルコニウム溶液として、オキシ塩化ジルコニウムを純水に溶解して、ZrO2濃度で10wt%とした水溶液、安定化剤溶液として酸化イットリウムを塩酸で溶解しY23濃度で15wt%とした水溶液、硫酸根調整剤として無水硫酸ナトリウム粉末をそれぞれ用意した。
【0054】
前記ジルコニウム水溶液を2000gと、前記安定化剤水溶液をZrO2モル当たり3.0モル%相当量である60gの水溶液とを混合し、この混合液に硫酸根調整剤である無水硫酸ナトリウム粉末をZrO2モル当たり0.5モルに相当する90g添加し、原料水溶液とした。
【0055】
この原料水溶液を80℃まで加温し、加温状態で1時間保持して、ジルコニア塩基性硫酸塩の析出したスラリーを得た。前記スラリーにpH調整剤として48%水酸化ナトリウム水溶液をpHが11.5となるまで添加した後、15分間保持し、安定化元素が共沈したスラリーを得た。
【0056】
得られたスラリーをヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり20L相当の純水により洗浄した。得られた水酸化物を、110℃恒温槽にて大気下で乾燥を行ない前駆体水酸化物を得た。得られた前駆体水酸化物の不純物量を表1に示した。また、実施例と同等の不純物量となるまで追加洗浄を行なった際、要した洗浄水の量を表1に示した。
【0057】
得られた前駆体水酸化物を実施例1と同様に仮焼を行ない、部分安定化ジルコニア粉末を得た。
【0058】
比較例4
ジルコニウム溶液として、オキシ塩化ジルコニウムを純水に溶解して、ZrO2濃度で10wt%とした水溶液、安定化剤溶液として酸化イットリウムを塩酸で溶解しY23濃度で15wt%とした水溶液、硫酸根調整剤として無水硫酸ナトリウム粉末をそれぞれ用意した。
【0059】
前記ジルコニウム水溶液を2000gと、前記安定化剤水溶液をZrO2モル当たり3.0モル%相当量である60gの水溶液とを混合し、この混合液に硫酸根調整剤である無水硫酸ナトリウム粉末をZrO2モル当たり0.5モルに相当する90g添加し、原料水溶液とした。
【0060】
この原料水溶液を80℃まで加温し、加温状態で1時間保持して、ジルコニア塩基性硫酸塩の析出したスラリーを得た。前記スラリーにpH調整剤として48%水酸化ナトリウム水溶液をpHが8.5となるまで添加した後、15分間保持し、安定化元素が共沈したスラリーを得た。
【0061】
得られたスラリーをヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり20L相当の純水により洗浄した。得られた水酸化物を、110℃恒温槽にて大気下で乾燥を行ない前駆体水酸化物を得た。得られた前駆体水酸化物の不純物量を表1に示した。また、実施例と同等の不純物量となるまで追加洗浄を行なった際、要した洗浄水の量を表1に示した。
【0062】
得られた前駆体水酸化物を実施例1と同様に仮焼を行ない、部分安定化ジルコニア粉末を得た。
【0063】
比較例5
ジルコニウム溶液として、オキシ塩化ジルコニウムを純水に溶解して、ZrO2濃度で10wt%とした水溶液、塩化ストロンチウムを純水に溶解してSrO濃度で10wt%とした水溶液、安定化剤溶液として酸化イットリウムを塩酸で溶解しY23濃度で15wt%とした水溶液、硫酸根調整剤として無水硫酸ナトリウム粉末をそれぞれ用意した。
【0064】
前記ジルコニウム水溶液を1000gと前記ストロンチウム水溶液を1000gと、前記安定化剤水溶液をZrO2モル当たり6.0モル相当量である120gの水溶液とを混合し、この混合液に硫酸根調整剤である無水硫酸ナトリウム粉末をZrO2モル当たり0.5モルに相当する90g添加し、原料水溶液とした。
【0065】
この原料水溶液を80℃まで加温し、加温状態で1時間保持して、ジルコニア塩基性硫酸塩の析出したスラリーを得た。前記スラリーにpH調整剤として48%水酸化ナトリウム水溶液をpHを9.0となるまで添加した後、15分間保持し、水酸化ストロンチウムおよび安定化元素が共沈したスラリーを得た。
【0066】
得られたスラリーをヌッチェで吸引濾過を行ない、酸赤物−kg当たり20L相当の純水により洗浄した。得られた水酸化物を、110℃恒温槽にて大気下で乾燥を行ない前駆体水酸化物を得た。得られた前駆体水酸化物の不純物量を表1に示した。また、実施例と同等の不純物量となるまで追加洗浄を行なった際、要した洗浄水の量を表1に示した。
【0067】
得られた前駆体水酸化物を実施例1と同様に仮焼を行ない、ジルコニア複合酸化物粉末を得た。
【0068】
比較例6
ジルコニウム溶液として、オキシ塩化ジルコニウムを純水に溶解して、ZrO2濃度で10wt%とした水溶液、塩化ストロンチウムを純水に溶解してSrO濃度で10wt%とした水溶液、安定化剤溶液として酸化イットリウムを塩酸で溶解しY23濃度で15wt%とした水溶液、硫酸根調整剤として無水硫酸ナトリウム粉末をそれぞれ用意した。
【0069】
前記ジルコニウム水溶液を1000gと前記ストロンチウム水溶液を1000gと、前記安定化剤水溶液をZrO2モル当たり6.0モル相当量である120gの水溶液とを混合し、この混合液に硫酸根調整剤である無水硫酸ナトリウム粉末をZrO2モル当たり0.5モルに相当する90g添加し、原料水溶液とした。
【0070】
この原料水溶液を80℃まで加温し、加温状態で1時間保持して、ジルコニア塩基性硫酸塩の析出したスラリーを得た。前記スラリーにpH調整剤として48%水酸化ナトリウム水溶液をpHを11.5となるまで添加した後、15分間保持し、水酸化ストロンチウムおよび安定化元素が共沈したスラリーを得た。
【0071】
得られたスラリーをヌッチェで吸引濾過を行ない、酸化物−kg当たり20L相当の純水により洗浄した。得られた水酸化物を、110℃恒温槽にて大気下で乾燥を行ない前駆体水酸化物を得た。得られた前駆体水酸化物の不純物量を表1に示した。また、実施例と同等の不純物量となるまで追加洗浄を行なった際、要した洗浄水の量を表1に示した。
【0072】
得られた前駆体水酸化物を実施例1と同様に仮焼を行ない、ジルコニア複合酸化物粉末を得た。
【0073】
【表1】

【0074】
以上、本発明のジルコニウム酸化物、その前駆体およびそれらの製造方法、ジルコニウム複合酸化物、その前駆体およびそれらの製造方法によれば、大量の純水またはアンモニア水を使用した洗浄を行わなくとも、不純物の含有量が少ない高純度なジルコニウム酸化物、その前駆体およびそれらの製造方法、ジルコニウム複合酸化物、その前駆体およびそれらの製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)水溶性ジルコニウム塩と、硫酸根とを溶解した原料溶液を加温し、塩基性硫酸ジルコニウム塩の沈殿が析出したスラリーを得る反応工程と、
(2)当該スラリーにアルカリを添加し、pHを11以上にして硫酸根を完全に溶出させる中和工程と、
(3)該中和工程で得られたスラリーを固液分離し、酸によりpHを9以下にして洗浄を行ない、ジルコニウム水酸化物の粉体を得る洗浄工程とからなることを特徴とするジルコニウム酸化物粉体前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記(1)の反応工程が、水溶性ジルコニウム塩、硫酸根、および安定化元素としてアルカリ土類金属元素ならびに希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含む水溶性塩とを溶解した原料溶液を加温し、前記安定化元素の一部が吸着した塩基性硫酸ジルコニウム塩の沈殿が析出したスラリーを得る工程である、請求項1記載のジルコニウム酸化物粉体前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記(2)の中和工程におけるアルカリが水酸化ナトリウムであり、前記(2)の中和工程におけるpHが11〜12であることを特徴とする請求項1または2記載のジルコニウム酸化物粉体前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記(3)の洗浄工程における酸が塩酸であり、前記(3)の洗浄工程におけるpHが7〜8であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のジルコニウム酸化物粉体前駆体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られたジルコニウム酸化物粉体前駆体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られたジルコニウム酸化物粉体前駆体を焼成することを特徴とするジルコニウム酸化物の製造方法。

【公開番号】特開2010−143813(P2010−143813A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325787(P2008−325787)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】