説明

スイッチモード電力増幅器の位相切替を用いた無線周波(RF)包絡線パルス駆動

無線周波(RF)電力の発生器は、第1制御信号に従って第1RF信号を生成する第1スイッチモード増幅器と、第2制御信号に従って第2RF信号を生成する第2スイッチモード増幅器とを備えている。上記第1制御信号および上記第2制御信号は、上記第1RF信号と上記第2RF信号との間の位相差を決定する。出力信号包絡線は、上記第1RF信号および上記第2RF信号と上記位相差とに基づいている。上記第1制御信号および上記第2制御信号は、上記第1RF信号の位相と上記第2RF信号の位相とを交互に入れ替える。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本開示は、無線周波(RF)信号発生器における包絡線電力の変調に関する。
【0002】
〔背景技術〕
本セクションにおける記載の目的は、本開示に関する基礎的な情報を提示することのみにあって、先行技術を構成するものではない。
【0003】
無線周波電力は、対応する時間に特定のピーク・ツー・ピーク(P−P)振幅を持つ周期的な信号として、時間領域で表現することができる。上記P−P振幅は、RF電力の包絡線を描く。振幅変調(AM)は、RF包絡線を変調するRFモードの一例である。
【0004】
RF電力は、半導体をその技術分野における公知の方法で製造するために使用される、プラズマの生成に用いることができる。このような用途においては、半導体素子のサイズの縮小、および/または、製品歩留りに対する要求の高まりに伴って、RF包絡線を正確に制御することが、益々重要になっている。この技術分野において公知であるRF包絡線を制御するいくつかの方法を、以下に説明する。
【0005】
第1グループの方法では、RF電力増幅器ドライバのオンおよびオフを切り替えることによって、および/または、RF電力増幅器に給電する電源のオン−オフ制御回路を用い、上記電力増幅器にDC入力レール電圧をパルス出力することによって、オン−オフのRF包絡線パルス駆動を実現している。
【0006】
第2グループの方法では、RF電力増幅器ドライバにおける振幅を制御することによって、RF包絡線パルス駆動を実現している。この方法は、一般に、A級、AB級、B級、およびC級の回路トポロジーを有する電力増幅器、および/または、RF電力増幅器に給電する電源の出力電圧を制御して、上記電力増幅器に対するDC入力レール電圧を変調すること、に適用することができる。
【0007】
第3の方法は、米国特許番号7,259,622に開示されている。この方法では、フレキシブルなRF包絡線波形の生成を容易にするために、フルブリッジのトポロジーを持つ、位相制御されたRF電力増幅器の設計を提供している。ブリッジトポロジーには、4つの電力スイッチと、複雑なゲート駆動制御方式とが必要である。この設計上の特徴は、部品数およびコストを増加させ、信頼性を損なわせている。
【0008】
また、上記方法には、動作上の制限がいくつか内在している。(オン−オフ、または複数振幅レベルの)RF包絡線パルス駆動のための電源制御を用いる方法では、DCレール電圧の動的応答によって、パルスの立上り速度および立下り速度が制限される。このため、立上り時間および立下り時間の速いRFパルス包絡線、高いパルス駆動周波数、並びに、デューティサイクルの小さいパルスは、容易には実現できない。RF電力増幅器ドライバのオン−オフ制御を用いる方法では、RF包絡線のオン−オフパルス駆動を容易にするだけである。すなわち、この方法では、ゼロレベルのない、様々な振幅のRFを実現することはできない。複数振幅レベルのRF包絡線パルス駆動のためのRF電力増幅器の駆動制御を用いる方法は、線形電力増幅器(例えばA級、AB級、B級、およびC級のトポロジーを備える電力増幅器)に限られ、高性能なスイッチモード電力増幅器(例えばE級トポロジーを備える電力増幅器)にまでは、容易に利用できない。また、線形電力増幅器は、熱を消散するために、大電力処理容量および大きな熱容量を持つ、設計および構造が必要である。これは、パルス駆動において、上記電力増幅器のトランジスタ素子から、大量の差分電力を拡散させる必要があるためである。
【0009】
上記電源制御と、上記RF電力増幅器の駆動制御とを組み合わせて用いることで、上記に挙げた制限のいくつかを軽減することができる可能性はある。しかし、パルス駆動の間、電源制御と電力増幅器の駆動制御との両方をうまく調整する必要があるため、そのような軽減には限度があり、RF包絡線パルス駆動のための制御回路が複雑になる。
【0010】
〔概要〕
無線周波(RF)電力の発生器は、第1制御信号に従って第1RF信号を生成する第1スイッチモード増幅器と、第2制御信号に従って第2RF信号を生成する第2スイッチモード増幅器とを備えている。上記第1制御信号および上記第2制御信号は、上記第1RF信号と上記第2RF信号との間の位相差を決定する。出力信号包絡線は、上記第1RF信号および上記第2RF信号と上記位相差とに基づいている。
【0011】
無線周波(RF)電力の発生器の操作方法は、第1制御信号に従って、第1位相を含む第1RF信号を生成するステップと、第2制御信号に従って、第2位相を含む第2RF信号を生成するステップと、上記第1RF信号および上記第2RF信号を負荷に印加するステップと、上記第1RF信号および上記第2RF信号を介して上記負荷に印加されるRF包絡線を制御するために、上記第1制御信号および上記第2制御信号を変化させるステップとを含む。
【0012】
無線周波(RF)電力の発生器は、第1制御信号に従って第1RF信号を生成する第1E級増幅器と、第2制御信号に従って第2RF信号を生成する第2E級増幅器とを備えている。上記第1制御信号および上記第2制御信号は、上記第1RF信号の位相および上記第2RF信号の位相を交互に入れ替えつつ、それぞれの位相入れ替えの間、上記第1RF信号と上記RF信号との間の位相差を一定に保つ。出力信号包絡線は、上記第1RF信号および上記第2RF信号と上記位相差とに基づいている。
【0013】
本発明が利用可能なさらなる分野は、以下の記載より明らかになるであろう。以下の記載および具体例は、単に例示を意図したものであり、本開示の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。
【0014】
〔図面〕
本明細書で用いられる図面は、例示のみを目的としたものであり、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
図1は、位相切替スイッチモード無線周波(RF)電力増幅器を示す概略図である。
図2は、図1のRF増幅器における切替装置の波形を示す図である。
図3Aは、図1のRF電力増幅器の出力電力プロファイルを示すグラフである。
図3Bは、図1のRF電力増幅器のDC入力電力を示すグラフである。
図3Cは、図1のRF増幅器における切替装置の電圧を示すグラフである。
図3Dは、図1のRF増幅器における切替装置の電流を示すグラフである。
図4は、オン/オフのRF包絡線パルス駆動の位相制御信号の波形と、対応するRF出力波形とを示す図である。
図5は、ゼロレベルのない、2レベルのRF包絡線パルス駆動の位相制御信号の波形と、対応するRF出力波形とを示す図である。
図6は、立上り時間および立下り時間の遅いRF包絡線パルス駆動の位相制御信号の波形と、対応するRF出力波形とを示す図である。
図7は、図1のRF増幅器の一実施形態を用いたRF包絡線パルス駆動の、オシロスコープのトレースを示す図である。
図8は、図1のRF増幅器の一実施形態を用いた、ゼロレベルのない、2レベルのRFパルス駆動の、オシロスコープのトレースを示す図である。
図9A〜図9Kは、図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【0015】
〔詳細な説明〕
以下の記載は単に例示的なものであり、本開示、その適用、およびその使用を制限することを意図したものではない。説明をわかりやすくするために、各図面における同様の構成要素には同じ参照番号を用いる。本明細書において、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」なる表現は、非排他的論理和に基づいた論理演算「AまたはBまたはC」を意味するものとする。また、方法に含まれる各ステップは、本開示の原理を変更することなく、異なった順序で実施しうることを理解されたい。
【0016】
本明細書において、「モジュール」なる用語は、特定用途向け集積回路(ASIC)、電子回路、1以上のソフトウェアプログラムまたはファームウェアプログラムを実行する処理装置(共有処理装置、専用処理装置、またはグループ処理装置)および記憶装置、組合せ論理回路、並びに/あるいは、本明細書に記載の機能性を実現する他の適切な構成部材を指す。
【0017】
さて、図1に新規のRF増幅器10の概略図を示す。このRF増幅器10は、主スイッチモード増幅器12aと、従スイッチモード増幅器12bとを含む。これらを「スイッチモード増幅器12」と総称する。スイッチモード増幅器12は、それぞれスイッチングトランジスタQ1およびQ2を備えている。トランジスタQ1およびQ2は、切替制御信号14aおよび14bをそれぞれ受信する。切替制御信号14aおよび14bは、増幅器出力16aのRF出力信号と増幅器出力16bのRF出力信号との間に位相差を確立する。各RF出力信号は足し合わされて負荷20に印加される。負荷20は、関連付けられた任意のインピーダンス整合素子、電圧プローブおよび/または電流プローブ、並びに、電力計などを有する、プラズマ室を備えることができる。スイッチモード増幅器12は、DC電源22により電力が供給される。いくつかの実施形態において、スイッチモード増幅器12は、D級増幅器またはE級増幅器として実現される。以下は、E級増幅器が用いられた場合を想定して説明する。
【0018】
スイッチモード増幅器12のそれぞれは、同一のものである。ここで、本実施形態では、スイッチモード増幅器12aについて説明する。なお、スイッチモード増幅器12bは、同じ回路構成を有するものと理解されたい。DC電源22は、RFチョーク32の第1端子にDC電圧Vdcを供給する。RFチョーク32の第2端子は、フィルタネットワーク34の入力端子に接続されている。フィルタネットワーク34は、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタを備えていてもよい。フィルタネットワーク34の出力は、スイッチングトランジスタQ1のドレイン、コンデンサCsの第1端子、および、共振LCペア36の第1端子に接続されている。コンデンサCsの第2端子およびスイッチングトランジスタQ1のソースは、グランド38に接続されている。Csとしては、トランジスタQ1の内部ドレイン−ソース間容量、外部コンデンサ、または、それらの組み合わせを用いることができる。LCペア36の第2端子は、出力フィルタ40の第1端子に接続されている。いくつかの実施形態においては、LCペア36はダイオード52を含むことができる。ダイオード52の陰極は、LCペア36におけるインダクタのタップに接続されている。ダイオード52の陽極は、グランド38に接続されている。ダイオード52は、誘導性クランプとして機能する。出力フィルタ40の第2端子は、結合変圧器42の一次巻線に接続されている。出力フィルタ40は、負荷20の条件に関わらず、所定の帯域幅の発振を停止する。
【0019】
結合変圧器42の二次巻線は、負荷20の第1端子と、増幅器12bに関連付けられた対応する二次巻線とに接続されている。負荷20の第2端子は、増幅器12bに関連付けられた二次巻線に接続されている。制御モジュール44は、位相制御信号50aおよび50bに基づいて、切替制御信号14aおよび14bをそれぞれ発生する。
【0020】
なお、スイッチモード増幅器12が、D級電力増幅器によって実現されている場合、ブリッジ構造の電力スイッチを使用しているものと理解されたい。それゆえ、D級増幅器は、E級増幅器と比較して、駆動回路の要件がより複雑で、基本となる費用も高い。
【0021】
D級増幅器またはE級増幅器によって構成したスイッチモード増幅器12で、位相制御技術を用いる場合、主スイッチモード増幅器12aおよび従スイッチモード増幅器12bにおける電流プロファイルおよび電圧プロファイルは、通常、均衡が取れない。この不均衡の度合いは、負荷20の構造と、RF増幅器10によって供給される電力レベルとに依存する。位相制御によりパルス駆動する間、一般に生じる不均衡によって、主スイッチモード増幅器12aおよび従スイッチモード増幅器12bのうち、一方の構成部材と比較して、他方の構成部材への負担を増大させる可能性がある。このような構成部材への負担の増大は、負荷の構造によっては重大な影響をもたらしかねず、このことが、RF増幅器10の熱プロファイルおよび信頼性に対して悪影響を及ぼす可能性がある。これに対して、熱プロファイルおよび信頼性に対する期待値を維持するために、増幅回路の設計において、定格電圧、定格電流、および定格熱の高い構成部材を用いてもよいが、これにより、費用、サイズ、およびパッケージの要件が増大する可能性がある。
【0022】
主スイッチモード増幅器12aの電圧および電流、並びに、従スイッチモード増幅器12bの電圧および電流は、それらの位相差が180度および0度以外の場合に不均衡となる。この不均衡は、これらの位相差において各電力スイッチQ1,Q2のドレインおよび/またはコレクタにおいて見られる、インピーダンスの相違に起因する。スイッチモード増幅器12間における電流および電圧の不均衡は、熱的な不均衡を生じさせる可能性がある。このため、設計の段階で必要な措置を講じておかないと、スイッチモード増幅器12の一方に作用する、電流により生じる熱応力が、他方と比較して増大する可能性がある。また、最悪の場合は、高い熱応力によって、電力スイッチなどの熱に敏感な構成部材が故障する可能性もある。
【0023】
主スイッチモード増幅器12aおよび従スイッチモード増幅器12bにおける電圧プロファイルおよび電流プロファイルの不均衡は、位相切替技術を用いることで取り除くことができる。スイッチモード増幅器12間の位相整合は、位相制御信号50aおよび50bを用いることによって、RFパルス周期ごとに交換される。これにより、あるパルス周期においては、従スイッチモード増幅器12bが、主スイッチモード増幅器12aに対して位相遅れ(または位相進み)を生じつつ動作する。続くパルス周期においては、主スイッチモード増幅器12aが、従スイッチモード増幅器12bに対して位相遅れ(または位相進み)を生じつつ動作する。この位相交換方法によって、負荷の構造(誘導性であるか、または容量性であるか)および電力レベルに関わらず、スイッチモード増幅器12のスイッチングトランジスタが、全ての偶数のRFパルスに渡った平均で同じ負荷インピーダンスを「見る」ことが容易になる。したがって、スイッチモード増幅器12における電圧プロファイルおよび電流プロファイル、ひいては熱プロファイルを、平均で均衡させることができる。本質的には、位相の反転は、各スイッチモード増幅器が、パルスごとに交互に「主」の役割(または「従」の役割)を担うように、スイッチモード増幅器12のそれぞれの役割をパルスごとに交換できる、ということを利用している。この手法を用いることにより、スイッチモード増幅器12間に等しく熱放散性の高い動作を振り分けることで、デバイスの負担を全体として軽減させることができ、この結果、RF増幅器10の信頼性を高めることができる。この技術は、最大、最小、またはそれらの中間の出力電力を得るべく「主」および「従」が位相制御されるとき、任意の波形のパルス駆動に対し適用することができる。
【0024】
ここで、図2を参照しながら、RF増幅器10の分析について述べる。位相制御されたE級電力増幅器によるパルス駆動の実行可能性は、標準的で単純化した想定を用いる分析手段によって確立される。上記想定としては、例えば、電圧Vdcの理想的なDC電源22と、理想的な電力スイッチQ1またはQ2と、固定容量Csと、標準的な基準負荷20(通常、50オーム)において最大電力効率を得るべく選択したLCペア36およびコンデンサCsと、理想的な結合変圧器42とがある。上記分析は、十分な位相制御の範囲に対する回路変数の特性を十分に示すために、任意の負荷20に対して行われる。対象となる回路変数には、例えば、スイッチモード増幅器12aおよび12bのそれぞれに含まれる電力スイッチの電流および電圧と、負荷20に印加される合計出力電力と、スイッチモード増幅器12aおよび12b間の電力均衡と、極端な切替動作による電力損失と、などが含まれる。
【0025】
定常状態の動作において、電力スイッチおよびコンデンサCsを流れる(1つのRF周期内での)合計瞬間電流iscは、フィルタネットワーク34の出力を流れる電流iと、LCペア36を流れる電流iとを用いて書き表される。基本的かつ調和的なフェーザ成分である、例えば、iおよびiの直軸および横軸の座標値を用いると、
【0026】
【数1】

【0027】
となる。ここで、θは、δと2π+δとの間の、1RF周期内における任意の角度(ラジアン)であり、δは、任意の基準に対する切替制御信号14aの位相角である。idcは、電流iのdc成分である。hは、1から任意数nまでの高調波次数である。i1dhおよびi2dhは、それぞれ、電流iおよびiのh次高調波の直軸成分である。i1qhおよびi2qhは、それぞれ、電流iおよびiのh次高調波の横軸成分である。
【0028】
1RF周期において、オンの状態で、かつ角度δと角度π+δとの間で導電する電力スイッチQ1を流れる電流の平均は、以下のように求められる。
【0029】
【数2】

【0030】
但し、is0は、DC電圧Vdcによって生じるdc電流に等しい。このことは、上記分析によって得られるあらゆる解の正確さを立証するために利用される。
【0031】
1RF周期において、角度θにおける電力スイッチQ1の瞬間電圧vは、以下のように求められる。
【0032】
【数3】

【0033】
ここで、ωはRF周波数(ラジアン/秒)である。Csは電力スイッチQ1に並列の容量である。角度φは積分のための変数である。1RF周期における電力スイッチQ1の平均電圧vs0は、以下のように求められる。
【0034】
【数4】

【0035】
ここで、ε≧0は、図2に示すように、v(θ)が2π+δより前にゼロに達しない場合、2π+δ−εにおいて、電力スイッチQ1の瞬間電圧v(θ)がゼロに達する角度、または、次のRFの次の半周期が始まる角度である。なお、後者の場合、ε=0であり、vs0はDC電源電圧Vdcに等しい。
【0036】
電力スイッチQ1の電圧のh次高調波に含まれる直軸成分vsdhおよび横軸成分vsqhは、それぞれ、以下のように求められる。
【0037】
【数5】

【0038】
電流i、電力スイッチQ1の電圧v、および、入力ノードにおける電圧vの、直軸高調波成分および横軸高調波成分に関する式は、以下のように求められる。
【0039】
【数6】

【0040】
ここで、倍率kadhおよびkaahと、インピーダンス係数zadhおよびzaqhとは、フィルタネットワーク101およびDCチョークL1によって決まる定数である。なお、理想的なDC電圧源が入力ノードにおいて非接続状態であるとき、直軸高調波成分vidhおよび横軸高調波成分viqhはゼロである。
【0041】
電流i、電力スイッチQ1の電圧v、出力電圧v、および、出力電流iの、直軸高調波成分および横軸高調波成分に関する式は、以下のように求められる。
【0042】
【数7】

【0043】
ここで、倍率kbdh,kbqh,kcdhおよびkcqhと、インピーダンス係数zbdhおよびzbqhと、アドミタンス係数ycdhおよびybqhとは、共振LCペア36および出力フィルタ40によって決まる定数である。
【0044】
式(1)〜式(9)と同様の式を含む別の一組を、従スイッチモード増幅器12bのために作成することができる。位相角δは、主スイッチモード増幅器12aに対してはゼロを、従スイッチモード増幅器12bに対しては所望の値δを、それぞれ選択することができる。
【0045】
出力電流i、並びに、出力電圧vomおよびvosの、直軸高調波成分および横軸高調波成分に関する式は、以下のように求められる。
【0046】
【数8】

【0047】
ここで、zodhおよびzoqhは負荷インピーダンス係数である。
【0048】
位相制御された電力増幅器の構成に対する厳密解は、スイッチモード増幅器12の両方について、vidhおよびviqhをゼロに、vs0をVdcにそれぞれ設定し、式(4)〜式(9)を含む連立非線形方程式系を解くことによって得られる。式(10)は、両者で同じである出力電流iを持つスイッチモード増幅器12間の相関関係を示す。考慮する高調波の次数(=n)が大きいほど、解はより正確となるが、結果として得られる連立方程式と解を求めるべき変数との数は、nとともに増加し、計算がより複雑になる。大半の実用的な電力増幅器の設計では、nを2以下に抑えることで、解の正確さを十分に確保し、計算が複雑になることを軽減することができる。
【0049】
結果として得られる連立方程式は非線形であるので、それらの解を求めるために、反復プロセスを用いてもよい。式(4)から式(9)をさらに分析すると、角度εを固定値とした場合、上記連立方程式は縮退し、線形となることがわかる。したがって、反復プロセスはεの初期値(通常ゼロ)から始めることができる。そして、結果として得られる一組の線形方程式は、様々なノード電圧変数と枝電流変数とを計算するために、行列反転を用いて解かれる。これにより、収束するまで、εの値を更新しつつ、上記プロセスを繰り返すことができる。収束基準として、入力と出力とが等しい場合を用いてもよい。
【0050】
典型的な位相制御されたRF増幅器10において得られた繰り返し解の結果を、図3Aから図3Dに示す。
【0051】
図3Aは、一定のVSWRサークルにおける負荷20のインピーダンスの変化(y軸)に対する位相制御角(x軸)の関数として、出力電力プロファイル(z軸)を示す。図3Aから、上記出力電力は、位相制御を通じてほぼ線形で制御できることがわかる。
【0052】
図3Bは、一定のVSWRサークルにおける負荷インピーダンスの変化(y軸)に対する位相制御角(x軸)の関数として、スイッチモード増幅器12のそれぞれによって引き出されるDC入力電力(z軸)を示す。図3Bから、スイッチモード増幅器12の「主」と「従」との間のDC入力電力の不均衡は、位相角範囲の両極(すなわち、ほぼ180°および0°)において最小であり、上記範囲の一部では、主スイッチモード増幅器12aによって引き出された入力電力の一部が、従スイッチモード増幅器12bを通じてDC電源22に戻ることがわかる。
【0053】
図3Cは、一定のVSWRサークルにおける負荷のインピーダンスの変化(y軸)に対する位相制御角(x軸)の関数として、スイッチモード増幅器12のそれぞれにおける電力スイッチのRMS電圧(z軸)を示す。図3Cから、位相がゼロに近づくと、スイッチモード増幅器12のそれぞれにおける電力スイッチの電圧が若干増加することがわかる。
【0054】
図3Dは、一定のVSWRサークルにおける負荷20のインピーダンスの変化(y軸)に対する位相制御角(x軸)の関数として、スイッチモード増幅器12のそれぞれにおける電力スイッチを流れるRMS電流(z軸)を示す。図3Dから、スイッチモード増幅器12間の電力スイッチにおける電流の不均衡は、中間的な位相の値において大きく、また、電力スイッチを流れる電流のそれぞれは、出力電力はゼロであるが、ゼロ相において相当に高いことがわかる。
【0055】
図3A〜図3Dにおいて示す結果によって、パルス駆動性能は、位相整合を行うスイッチモード増幅器12を用いて提供できることがわかる。なお、スイッチモード増幅器12間の不均衡と、パルス駆動時に予想される電圧および電流のさらなる負担とは、設計段階で考慮されるべきである。上記分析から、位相制御が、マスタ−スレーブ構成のスイッチモード増幅器12のパルス駆動で用いられると、スイッチモード増幅器12の主従それぞれの回路部品に対する負担は不均等となることがわかる。不均衡の度合いは、負荷20の構造(誘導性であるか、または容量性であるか)と、電力レベルとに依存する。
【0056】
上述の分析はE級増幅器のトポロジーについて行われたが、D級増幅器のトポロジーについても同様の分析を行うことができる。また、同様の分析は、誘導性クランプのダイオード52のような保護回路を備える、D級およびE級回路トポロジーについても行うことができる。
【0057】
図4に、スイッチモード増幅器12の主従それぞれの位相制御信号50aおよび50aの構成を示す。図4は、オン/オフパルス駆動のケースにおける位相切替、および対応するRF出力波形を示している。
【0058】
図5に、スイッチモード増幅器12の主従それぞれの位相制御信号50aおよび50aの構成を示す。図5は、ゼロレベルのない、2レベルのパルス駆動のケースにおける位相切替、および対応するRF出力波形を示している。
【0059】
図6に、スイッチモード増幅器12の主従それぞれの位相制御信号50aおよび50aの構成を示す。図6は、立上り時間および立下り時間の遅いパルス駆動における位相反転、および対応するRF出力波形を示している。
【0060】
図7に、RF増幅器10の一実施形態におけるRF出力パルスのトレースの一例を示す。この実施形態では、E級スイッチモード増幅器12が用いられ、パルス周波数が20kHz、デューティサイクルが50%、ピーク電力が500W、負荷20の抵抗が50オームである。
【0061】
図8に、パルス周波数が20KHz、デューティサイクルが50%であり、最大電力が700W、最小電力が175Wである抵抗50オームの負荷20において、ゼロレベルのない、2レベルのパルス駆動におけるRF出力パルスのトレースを示す。
【0062】
図9A〜図9Kに、RF増幅器10において、シミュレーションしたときの電圧および電流のトレースを示す。上記シミュレーションでは、図4から図6に示される位相切替技術を用いている。図9Aおよび図9Bは、負荷20に印加されるRF電力および電圧を示す。図9Cは、電力スイッチQ1に流れる切替電流を示す。図9Dは、スイッチモード増幅器12aのクランプ用ダイオード52に流れる電流を示す。図9Eは、電力スイッチQ2に流れる切替電流を示す。図9Fは、スイッチモード増幅器12bのクランプ用ダイオード52に流れる電流を示す。図9Gは、電力スイッチQ1を横切る切替電圧を示す。図9Hは、スイッチモード増幅器12aのクランプ用ダイオード52を横切る電圧を示す。図9Kは、スイッチモード増幅器12bのクランプ用ダイオード52を横切る電圧を示す。
【0063】
図9A〜図9Kに示されるシミュレーションにおいて、出力電力のパルス駆動は、最小電力が最大電力の約半分であり、電力増幅器の主従それぞれのスイッチングトランジスタの電流間の、1パルス周期での不均衡は、約±30%(約±55%のワット損の不均衡に相当)である。上記パルス切替によって、電流および電力の不均衡は、全ての偶数のパルス周期において平均化されるときに取り除かれる。
【0064】
RF増幅器10と、それに関連する図4〜図6に示す位相切替方法とを用いることで、先行技術と比較して有利な点がいくつか得られる。位相切替技術によって、構成部材の負担を軽減し、熱プロファイルの均衡を得ることができ、その結果、信頼性を高めることができる。D級電力増幅器およびE級電力増幅器のトポロジーを用いてパルス駆動を行うことで、少ない電力損失で、フレキシブルなパルス駆動を容易に行うことができる。RF増幅器10では、位相切替方法によって、フレキシブルなRF包絡線パルスの形状および波形が広範囲に実現される。RF増幅器10では、速い立上り時間および立下り時間、高いパルス駆動周波数、広範囲のパルスデューティサイクル、並びに高いパルス電力精度を容易にする、高速パルス駆動性能が実現される。パルス駆動のための高速電力供給制御を行う必要がなくなる。RF増幅器10によって、各種パルス駆動(オン−オフパルス駆動、ゼロレベルのない、2レベルのパルス駆動、複数レベルのパルス駆動、および任意波形のパルス駆動)における課題を解決する単一の手段を実現することができ、これにより、実用を標準化し、信頼性を高めることができる。
【0065】
RF増幅器10と、それに関連する位相切替方法とを用いると、プラズマを利用した半導体の製造において、数多くの利点がある。エッチングにおける利点には、エッチングの選択性の向上、垂直側壁プロファイルの向上、トレンチング、ノッチング、および帯電による損傷の軽減、エッチングの均一性の向上、アスペクト比に依存するエッチング効果の軽減、基板に対する熱流の軽減、などが含まれる。RFパルス駆動には、半導体処理の有効性を最大限にすべく調整される様々なパラメータ(周波数、デューティサイクル、形状など)が含まれる。例えば、オンオフパルス駆動においては、イオン衝撃を最適に導くために、パルス駆動のデューティサイクルを低くしつつ、プラズマが完全には消失しないように、パルス駆動周波数を十分に高くすることができる。また、ゼロレベルのない、2レベルのパルス駆動においては、プラズマの生成を持続できる最小のRF電力レベルを選択し、選択された最小RF電力に与えられる最適なデューティサイクルを持つパルスを用いて、上述した利点の1つ以上を活かすことができる。
【0066】
上記記載により、当業者には、本開示の幅広い教示内容は、種々の形式で実現できることが理解されるであろう。したがって、本開示は具体的な例を含むが、上記図面、明細書、および以下の請求項を検討すれば、他の変形例は、当業者にとって明らかであるため、本開示の本来の範囲は、上記例によって限定されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】位相切替スイッチモード無線周波(RF)電力増幅器を示す概略図である。
【図2】図1のRF増幅器における切替装置の波形を示す図である。
【図3A】図1のRF電力増幅器の出力電力プロファイルを示すグラフである。
【図3B】図1のRF電力増幅器のDC入力電力を示すグラフである。
【図3C】図1のRF増幅器における切替装置の電圧を示すグラフである。
【図3D】図1のRF増幅器における切替装置の電流を示すグラフである。
【図4】オン/オフのRF包絡線パルス駆動の位相制御信号の波形と、対応するRF出力波形とを示す図である。
【図5】ゼロレベルのない、2レベルのRF包絡線パルス駆動の位相制御信号の波形と、対応するRF出力波形とを示す図である。
【図6】立上り時間および立下り時間の遅いRF包絡線パルス駆動の位相制御信号の波形と、対応するRF出力波形とを示す図である。
【図7】図1のRF増幅器の一実施形態を用いたRF包絡線パルス駆動の、オシロスコープのトレースを示す図である。
【図8】図1のRF増幅器の一実施形態を用いた、ゼロレベルのない、2レベルのRFパルス駆動の、オシロスコープのトレースを示す図である。
【図9A】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【図9B】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【図9C】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【図9D】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【図9E】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【図9F】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【図9G】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【図9H】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【図9I】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【図9J】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。
【図9K】図1のRF電力増幅器において、シミュレーションしたときの各種構成部材の電圧および電流の波形を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線周波(RF)電力の発生器であって、
第1制御信号に従って第1RF信号を生成する第1スイッチモード増幅器と、
第2制御信号に従って第2RF信号を生成する第2スイッチモード増幅器とを備え、
上記第1制御信号および上記第2制御信号は、上記第1RF信号と上記第2RF信号との間の位相差を決定し、
出力信号包絡線は、上記第1RF信号および上記第2RF信号と上記位相差とに基づいており、
上記第1制御信号および上記第2制御信号は、上記第1RF信号の位相と上記第2RF信号の位相とを交互に入れ替える、RF電力の発生器。
【請求項2】
上記各位相が交互に入れ替わる間、上記位相差の大きさが一定である、請求項1に記載のRF電力の発生器。
【請求項3】
上記第1RF信号および上記第2RF信号を負荷にそれぞれ伝送する第1変圧器および第2変圧器をさらに備えている、請求項1に記載のRF電力の発生器。
【請求項4】
上記第1および第2スイッチモード増幅器はE級増幅器である、請求項1に記載のRF電力の発生器。
【請求項5】
上記第1および第2スイッチモード増幅器はD級増幅器である、請求項1に記載のRF電力の発生器。
【請求項6】
上記D級増幅器は誘導−容量(LC)回路を含む、請求項6に記載のRF電力の発生器。
【請求項7】
上記LC回路は誘導性クランプを含む、請求項6に記載のRF電力の発生器。
【請求項8】
上記誘導性クランプはダイオードを含む、請求項7に記載のRF電力の発生器。
【請求項9】
無線周波(RF)電力の発生器の操作方法であって、
第1制御信号に従って、第1位相を含む第1RF信号を生成するステップと、
第2制御信号に従って、第2位相を含む第2RF信号を生成するステップと、
上記第1RF信号および上記第2RF信号を負荷に印加するステップと、
上記第1RF信号および上記第2RF信号を介して上記負荷に印加されるRF包絡線を制御するために、上記第1制御信号および上記第2制御信号を変化させるステップと、
上記第1RF信号の位相および上記第2RF信号の位相を交互に入れ替えるステップとを含む、RF電力の発生器の操作方法。
【請求項10】
上記各位相を交互に入れ替える間、上記位相差の大きさを一定に維持するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記負荷に対する上記RF信号のインピーダンス整合を行うステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
上記第1および第2RF信号を生成するE級増幅器を設けるステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
上記第1および第2RF信号を生成するD級増幅器を設けるステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
上記D級増幅器は誘導−容量(LC)回路を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
上記LC回路は誘導性クランプを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記誘導性クランプはダイオードを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
無線周波(RF)電力の発生器であって、
第1制御信号に従って第1RF信号を生成する第1E級増幅器と、
第2制御信号に従って第2RF信号を生成する第2E級増幅器とを備え、
上記第1制御信号および上記第2制御信号は、上記第1RF信号の位相および上記第2RF信号の位相を交互に入れ替えつつ、それぞれの位相入れ替えの間、上記第1RF信号と上記RF信号との間の位相差を一定に保ち、
出力信号包絡線は、上記第1RF信号および上記第2RF信号と上記位相差とに基づいている、RF電力の発生器。
【請求項18】
上記各E級増幅器は誘導性クランプを含む、請求項17に記載のRF電力の発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図9G】
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【図9H】
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【図9I】
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【図9J】
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【図9K】
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【公表番号】特表2011−527143(P2011−527143A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516356(P2011−516356)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/039712
【国際公開番号】WO2010/002488
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(592053963)エム ケー エス インストルメンツ インコーポレーテッド (114)
【氏名又は名称原語表記】MKS INSTRUMENTS,INCORPORATED
【Fターム(参考)】