スイッチング回路
【課題】 受信機が受信するノイズを低減することができるスイッチング回路を提供すること。
【解決手段】 パワートランジスタM1を駆動して負荷5を作動させる駆動電圧波形を生成するスイッチング回路1において、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数を検出する受信周波数検出部33と、負荷5を制御する制御パルスを生成する制御パルス生成部と、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数を含むように駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成する最適波形記憶部32と、最適波形記憶部32が生成した駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を、制御パルスに適用して駆動波形を生成する波形生成部31とを備えた。
【解決手段】 パワートランジスタM1を駆動して負荷5を作動させる駆動電圧波形を生成するスイッチング回路1において、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数を検出する受信周波数検出部33と、負荷5を制御する制御パルスを生成する制御パルス生成部と、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数を含むように駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成する最適波形記憶部32と、最適波形記憶部32が生成した駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を、制御パルスに適用して駆動波形を生成する波形生成部31とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング回路の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、下記の特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報では、受信部が受信している受信チャンネルスペクトルの帯域内に、モータの制御基本周波数の高調波スペクトル(制御高調波スペクトル)が含まれている場合、制御基本周波数を拡散させている。これにより、受信チャンネルスペクトルの帯域に含まれていた高調波スペクトルのピークレベルが低減され、受信機に生じるノイズを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006―94650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータ巻線とこれを覆う筐体との間に浮遊容量が存在し、この浮遊容量を通じてコモンモード電流が車体に流れる。上記従来技術では制御基本周波数を拡散させているが、制御基本周波数の拡散ではコモンモード電流により発生する電磁波を抑制することはできず、受信機が受信するノイズを低減することはできないおそれがあった。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、受信機が受信するノイズを低減することができるスイッチング回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明においては、スイッチング素子を駆動して負荷を作動させる駆動電圧波形を生成するスイッチング回路において、受信機が受信している送信局の周波数を検出する受信周波数検出手段と、前記負荷を制御する制御波形を生成する制御波形生成手段と、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、前記受信機が受信している送信局の周波数を含むように前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成する最適波形生成手段と、最適波形生成手段が生成した前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を、前記制御波形に適用して前記駆動波形を生成する波形生成手段と、を備えた
【発明の効果】
【0006】
よって本発明においては、駆動電圧波形の立ち上がりと立ち下がりを緩やかにしてコモンモード電流を低減するとともに、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルの受信している放送局の周波数成分を低減することが可能となる。したがって、受信機が受信するノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のブロック図である。
【図2】実施例1の回路構成図である。
【図3】実施例1の台形波形を示す図である。
【図4】実施例1の台形波形のスペクトルを示す図である。
【図5】実施例1の最適波形を求める処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1の最適波形の立ち上がり部分を示す図である。
【図7】実施例1の最適波形のスペクトラム包絡線を示す図である。
【図8】実施例1の最適波形の立ち上がり部分を示す図である。
【図9】実施例1の最適波形のスペクトラム包絡線を示す図である。
【図10】実施例1の最適波形の立ち上がり部分を示す図である。
【図11】実施例1の最適波形のスペクトラム包絡線を示す図である。
【図12】実施例1のコモンモード電流を示す図である。
【図13】実施例2の最適波形を求める処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】実施例2の最適波形の立ち上がり部分を示す図である。
【図15】実施例2の最適波形のスペクトラム包絡線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
まず、構成を説明する。
〔回路構成の概略〕
図1は、実施例1のスイッチング回路1、負荷5、電源6およびラジオ受信機7のブロック図である。スイッチング回路1は、制御パルス生成部2、規範電圧波形生成部3、規範電圧波形追従駆動部4を備える。
制御パルス生成部2は、規範電圧波形追従駆動部4をPWM駆動制御するための波形となる制御パルス(PWM信号)を生成し、規範電圧波形生成部3へ出力する。実施例1では、PWMキャリア周波数を20kHzとする。
ラジオ受信機7は、受信部71を有する。受信部71は、受信したい放送局の周波数(チャンネル)の信号を受信する。
規範電圧波形生成部3は、波形生成部31、最適波形記憶部32および受信周波数検出部33を有する。受信周波数検出部33は、受信部71が受信している放送局の周波数を検出する。
【0009】
最適波形記憶部32は、予め実験等により求めた放送局の周波数に応じた波形(最適波形)を記憶するメモリである。最適波形記憶部32が記憶している波形は、負荷5を駆動する駆動信号の立ち上がり部分と、立ち下がり部分の波形であり、後に説明する規範電圧波形追従駆動部4において発生する高調波のうち、受信部71が受信している放送局の周波数の成分を抑制するように波形を設定している。この波形の求め方については後で詳述する。
波形生成部31は、制御パルスの立ち上がり部分と立ち下がり部分に最適波形を組み合わせた波形(規範電圧波形)を生成する。規範電圧波形は、時間軸に対して複数の電圧ポイントで折曲させた立ち上がりおよび立ち下がり波形部分を有する折線波形として生成される。波形生成部31は、ICやマイコン等で構成する。
規範電圧波形追従駆動部4は、規範電圧波形生成部3の生成した最適波形に基づき、パワートランジスタM1を駆動する。
負荷5は、例えば、電気自動車の駆動用モータや電動コンプレッサのモータ等、車両の搭載された電動モータであり、規範電圧波形追従駆動部4のスイッチングにより駆動する。
電源6は、車両に搭載したバッテリであり、負荷5に電力を供給する。
【0010】
〔規範電圧波形追従駆動部、負荷および電源の回路構成〕
図2は、規範電圧波形追従駆動部4、負荷5および電源6の回路構成図である。
規範電圧波形追従駆動部4は、抵抗R8〜R13、電源V9、コンデンサC1、トランジスタQ7〜Q12、ダイオードD1,D2、パワートランジスタM1(スイッチング素子)により構成されており、トランジスタQ7,Q8とトランジスタQ9,Q10によりカレントミラー回路を構成したフィードバック構成である。
負荷5は、上述したようにモータを想定し、抵抗R14,R15、インダクタンスL1、パワートランジスタM2により構成し、電源6(V10)に接続する。
【0011】
規範電圧波形追従駆動部4では、カレントミラーの回路構成部分により、入力される折線波形と出力電圧の波形を近づけるようにした波形によりパワートランジスタM1を駆動することで、規範電圧波形に追従した出力電圧が得られる。
なお、規範電圧波形追従駆動部4はフィードバック回路構成となっているため、駆動波形に略一致した出力波形を得ることができる。つまり、低減させたい高調波周波数成分に応じた最適波形が入力されると、負荷5の下流では、ほぼそのままの出力波形を得ることができる。
【0012】
〔台形波形〕
次に、最適波形記憶部32において記憶する最適波形を求める際に、ベースとする台形波形について説明する。
図3は台形波形を示す図であり、実線は台形波形を、点線は制御パルスを示す。台形波形は制御パルスに対して、立ち上がり時間と立ち下がり時間を持たせたものである。換言すると、台形波形は制御パルスの電圧変化速度を遅く設定したものである。図3では、立ち上がり時間、立ち下がり時間をともに1.6[μs]に設定している。
台形波形は立ち上がり時間、立ち下がり時間を設定することによって、低減させたい高調波成分帯域を調整することができる。低減させたい高調波成分帯域のカットオフ周波数fは次の式(1)で求めることができる。
【数1】
ここでτの単位は[s]であり、台形波形の立ち上がり時間、立ち下がり時間を示す。
式(1)に図3の台形波形の立ち上がり時間、立ち下がり時間である1.6×10-6[s]を入力するとfはおよそ200[kHz]となる。すなわち、200[kHz]よりも大きい周波数帯域の高調波成分を低減させることが可能となる。
【0013】
図4は、図3に示す台形波形のスペクトルである。図4に示すように、カットオフ周波数(200[kHz])より低い周波数帯域では-20[dBV/dec]の減衰率であるのに対して、カットオフ周波数より高い周波数帯域では-40[dBV/dec]の減衰率となる。つまり、カットオフ周波数より高い周波数帯域では低い周波数帯域に比べて減衰率が大きくすることができる。
【0014】
〔最適波形の生成〕
次に、最適波形記憶部32において記憶する最適波形の生成方法について説明する。
図5は最適波形を求める処理の流れを示すフローチャートである。
【0015】
ステップS1では、ベースとなる台形波形と、放送局の周波数に対する重み係数ωn設定する。台形波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分には、複数の時間点に対する基準電圧を設定する。各基準電圧は最適波形を生成する際の調整点であって、最適波形の折曲点となる。
ステップS2では、折曲点の値Xiに対して離散フーリエ係数xnを設定する。離散フーリエ係数xnは次の式(2)により設定する。
【数2】
なお、nは次数であり、Nはサンプリング数である。
つまり、必要周波数を考慮して、x0〜xnを求める離散フーリエ変換を実施する。
【0016】
ステップS3では、評価関数Iを設定する。評価関数Iは次の式(3)により設定する。
【数3】
このとき、xnは放送局の周波数に対応する離散フーリエ係数であり、この離散フーリエ係数xnに重み係数ωnを乗じたものが評価関数Iとして用いられる。
【0017】
ステップS4では値Iが最小か否かを判断し、最小あればステップS6へ進み、最小でなければステップS5へ進む。
ステップS5では、折曲点を大小方向、時間方向に変更するようにして調整する。
ステップS6では、値Iが最小となる状態の波形を、受信部71が受信している放送局の周波数のノイズが最も小さい最適波形として設定する。このようにして生成した最適波形を、以下では折線波形と称する。
なお、値Iの最小を求める手法としては、ニュートンラプソン法を例として挙げておく。
【0018】
実施例1では、スイッチング損失を抑制しつつ、AM(Amplitude Modulation;振幅変調)ラジオ放送用の帯域(0.5MHz〜1.5MHz)に存在する高調波周波数成分の低減を狙いとしている。予めシミュレーション等によって各AMラジオ放送局の周波数と一致する高調波周波数成分を低減する最適波形をそれぞれ生成し、最適波形記憶部32に記憶させる。
図6は、周波数が594[kHz](日本放送協会)である放送局に対して生成した最適波形の立ち上がり部分を示す。また図6には、比較として最適波形生成時にベースとした台形波形の立ち上がり部分も記載している。図6に示すように最適波形は台形波形に対して、立ち上がり部分は折線状になっている。
図7は、周波数が594[kHz]である放送局に対して生成した最適波形のスペクトラム包絡線と、ベースとした台形波形の最適波形のスペクトル包絡線を示す図である。図7に示すように最適波形のスペクトル包絡線は594[kHz]付近で谷部を形成している。一方、最適波形のスペクトル包絡線の594[kHz]付近以外の部分は、台形波形のスペクトル包絡線よりも値が大きくなっている部分もある。すなわち、実施例1の最適波形は周波数が594[kHz]である放送局の周波数の高調波成分を集中的に低減するものである。
【0019】
図8は、周波数が954[kHz](東京放送)である放送局に対して生成した最適波形の立ち上がり部分を示す。また図9は、周波数が954[kHz]である放送局に対して生成した最適波形のスペクトラム包絡線と、ベースとした台形波形の最適波形のスペクトル包絡線を示す図である。
図10は、周波数が1422[kHz](RFラジオ日本)である放送局に対して生成した最適波形の立ち上がり部分を示す。また図11は、周波数が1422[kHz] である放送局に対して生成した最適波形のスペクトラム包絡線と、ベースとした台形波形の最適波形のスペクトル包絡線を示す図である。
最適波形記憶部32は、各放送局の周波数に対応した図6,8,10に示すような最適波形を記憶する。
【0020】
〔作用〕
従来では、負荷を制御する駆動電圧波形の高調波周波数が、ラジオ受信機の受信部が受信している周波数帯域に含まれる場合、駆動電圧波形の制御周期を拡散させることにより、駆動電圧波形の高調波スペクトルを拡散するようにしていた。これによりラジオ受信機の受信部が受信している周波数帯域に含まれる高調波スペクトルのピークが低減され、ラジオ受信機に生じるノイズを低減できるというものであった。
スイッチング回路とこれを覆う筐体との間には浮遊容量が存在し、駆動電圧波形の立ち上がりと立ち下がりのときに、スイッチ回路と筐体との間をコモンモード電流が流れる。図12(a)は3相の駆動電圧波形、図12(b)はコモンモード電流を示す。このコモンモード電流は、駆動電圧波形の立ち上がり、立ち下がりが急峻であるほど大きくなる。特に制御パルスのように矩形波ではコモンモード電流は急増する。そのため、駆動電圧波形の高調波スペクトルを拡散したとしてもコモンモード電流を低減することはできず、このコモンモード電流の高調波周波数をラジオ受信機が受信することにより、大きなノイズが入ることとなる。
【0021】
実施例1では、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数を含むように駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成するようにした。これにより、駆動電圧波形の立ち上がりと立ち下がりを緩やかにしてコモンモード電流を低減するとともに、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルの受信している放送局の周波数成分を低減することが可能となる。
【0022】
また実施例1では、最適波形を複数箇所で折れた折線波形形状として生成した。これにより、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルの特定の周波数成分を低減することが可能となる。
また実施例1では、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数に対応する駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルに対して評価関数Iを設定し、この評価関数Iが最小となるように最適波形を求めた。
よって、スイッチング損失を増加させることなく、また高調波のスペクトルの特定の周波数成分以外を低減することなく、必要な周波数成分のみを低減することができる。
【0023】
〔効果〕
以下に実施例1の効果を列記する。
【0024】
(1)パワートランジスタM1を駆動して負荷5を作動させる駆動電圧波形を生成するスイッチング回路1において、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数を検出する受信周波数検出部33と、負荷5を制御する制御パルスを生成する制御パルス生成部と、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数を含むように駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成する最適波形記憶部32と、最適波形記憶部32が生成した駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を、制御パルスに適用して駆動波形を生成する波形生成部31とを備えた。
よって、駆動電圧波形の立ち上がりと立ち下がりを緩やかにしてコモンモード電流を低減するとともに、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルの受信している放送局の周波数成分を低減することが可能となる。したがって、ラジオ受信機7が受信するノイズを低減することができる。
【0025】
(2)規範電圧波形生成部3は、駆動電圧波形を複数箇所で折れた波形形状として生成するようにした。
よって、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルの特定の周波数成分を低減することが可能となり、ラジオ受信機7が受信している周波数に対するノイズを低減することができる。
【0026】
(3)規範電圧波形生成部3は、初期値として立ち上がり時間と立ち下がり時間を有する台形波形を設定し、台形波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分には複数の時間点に対する基準電圧を折曲点として設定し、高調波成分を小さくする特定の周波数に対して重み係数ωnを設定するステップS1の処理と、
折曲点の値Xi対して、離散フーリエ係数xnを設定し、nを次数とし、Nをサンプリング数とし、kを0から増加する変数とし、下記の式
【数4】
に基づいて離散フーリエ変換を行うステップS2の処理と、
評価関数をIとし、受信部71が受信している放送局の周波数に対応する離散フーリエ係数xnを用いて、下記の式
【数5】
に基づいて評価関数Iの演算値を算出するステップS3の処理と、
評価関数Iの演算値が最小かどうかを判断し、最小ならば、その時点の折線波形を最適波形とし、最小でないならば折曲点を調整し、ステップS2の処理へ戻るステップS4〜ステップS6の処理と、により評価関数Iの演算値が最小となる折線波形を出力する回路構成とした。
よって、スイッチング損失を増加させることなく、また高調波のスペクトルの特定の周波数成分以外を低減することなく、必要な周波数成分のみを低減することができる。
[実施例2]
次に実施例2について説明する。実施例1では、最適波形記憶部32は放送局の周波数毎に対応する最適波形を求めて記憶していた。実施例2では、最適波形記憶部32に複数の放送局の周波数に対応する最適波形を求めて記憶させることとした。
実施例1と回路構成等は同じであるが、実施例2では実施例1の図5で示したフローチャートのステップS3の評価関数Iの算出方法が異なる。
図13は最適波形を求める処理の流れを示すフローチャートである。
【0027】
ステップS11では、ベースとなる台形波形と、複数放送局の周波数に対する重み係数ωn設定する。台形波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分には、複数の時間点に対する基準電圧を設定する。各基準電圧は最適波形を生成する際の調整点であって、最適波形の折曲点となる。
ステップS12では、折曲点の値Xiに対して離散フーリエ係数xnを設定する。離散フーリエ係数xnは次の式(4)により設定する。
【数6】
なお、nは次数であり、Nはサンプリング数である。
つまり、必要周波数を考慮して、x0〜xnを求める離散フーリエ変換を実施する。
【0028】
ステップS13では、評価関数Iを設定する。評価関数Iは次の式(5)により設定する。
【数7】
このとき、xnは放送局の周波数に対応する離散フーリエ係数であり、この離散フーリエ係数xnに重み係数ωnを乗じたものが評価関数Iとして用いられる。
【0029】
ステップS14では値Iが最小か否かを判断し、最小あればステップS6へ進み、最小でなければステップS5へ進む。
ステップS15では、折曲点を大小方向、時間方向に変更するようにして調整する。
ステップS16では、値Iが最小となる状態の波形を、受信部71が受信している放送局の周波数のノイズが最も小さい最適波形として設定する。
図14は、周波数が594[kHz](日本放送協会)、954[kHz](東京放送)、1422[kHz](RFラジオ日本)である3つの放送局に対して生成した最適波形の立ち上がり部分を示す。また図14には、比較として最適波形生成時にベースとした台形波形の立ち上がり部分も記載している。
図15は、周波数が594[kHz]、954[kHz]、1422[kHz]である3つの放送局に対して生成した最適波形のスペクトラム包絡線と、ベースとした台形波形の最適波形のスペクトル包絡線を示す図である。図15に示すように最適波形のスペクトル包絡線は594[kHz]、954[kHz]、1422[kHz]付近で谷部を形成している。一方、最適波形のスペクトル包絡線の594[kHz]、954[kHz]、1422[kHz]付近以外の部分は、台形波形のスペクトル包絡線よりも値が大きくなっている部分もある。すなわち、実施例2の最適波形は、3つの放送局の周波数の高調波成分を集中的に低減するものである。
【0030】
〔作用〕
実施例2では、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、ラジオ受信機7が受信している複数の送信局の周波数を含むように駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成するようにした。
よって、複数の放送局に対する最適波形を生成することが可能となる。
【0031】
〔効果〕
次に、実施例2の効果を説明する。
(4)最適波形記憶部32は、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、ラジオ受信機7が受信している複数の送信局の周波数を含むように駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成するようにした。
よって、複数の放送局に対する最適波形を生成することが可能となり、最適波形記憶部32の記憶容量を小さくすることができる。
【0032】
〔他の実施例〕
以上、本発明のスイッチング回路を実施例に基づき説明したが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されず、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1、2では、最適波形は予め最適波形記憶部32において記憶されるようにしているが、現在受信している放送局の周波数に対してその場で求めるようにしても良い。
負荷は、ランプ等、車両に搭載し、スイッチング回路により作動する電気負荷であればよい。
最適波形の立ち上がりおよび立ち下がり部分は、折線波形に限らず、曲線やサイン波状としてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 スイッチング回路
2 制御パルス生成部(制御波形生成手段)
3 規範電圧波形生成部
5 負荷
7 ラジオ受信機(受信機)
31 波形生成部(波形生成手段)
32 最適波形記憶部(最適波形生成手段)
33 受信周波数検出部(受信周波数検出手段)
M1 パワートランジスタ(スイッチング素子)
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング回路の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、下記の特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報では、受信部が受信している受信チャンネルスペクトルの帯域内に、モータの制御基本周波数の高調波スペクトル(制御高調波スペクトル)が含まれている場合、制御基本周波数を拡散させている。これにより、受信チャンネルスペクトルの帯域に含まれていた高調波スペクトルのピークレベルが低減され、受信機に生じるノイズを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006―94650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータ巻線とこれを覆う筐体との間に浮遊容量が存在し、この浮遊容量を通じてコモンモード電流が車体に流れる。上記従来技術では制御基本周波数を拡散させているが、制御基本周波数の拡散ではコモンモード電流により発生する電磁波を抑制することはできず、受信機が受信するノイズを低減することはできないおそれがあった。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、受信機が受信するノイズを低減することができるスイッチング回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明においては、スイッチング素子を駆動して負荷を作動させる駆動電圧波形を生成するスイッチング回路において、受信機が受信している送信局の周波数を検出する受信周波数検出手段と、前記負荷を制御する制御波形を生成する制御波形生成手段と、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、前記受信機が受信している送信局の周波数を含むように前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成する最適波形生成手段と、最適波形生成手段が生成した前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を、前記制御波形に適用して前記駆動波形を生成する波形生成手段と、を備えた
【発明の効果】
【0006】
よって本発明においては、駆動電圧波形の立ち上がりと立ち下がりを緩やかにしてコモンモード電流を低減するとともに、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルの受信している放送局の周波数成分を低減することが可能となる。したがって、受信機が受信するノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のブロック図である。
【図2】実施例1の回路構成図である。
【図3】実施例1の台形波形を示す図である。
【図4】実施例1の台形波形のスペクトルを示す図である。
【図5】実施例1の最適波形を求める処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1の最適波形の立ち上がり部分を示す図である。
【図7】実施例1の最適波形のスペクトラム包絡線を示す図である。
【図8】実施例1の最適波形の立ち上がり部分を示す図である。
【図9】実施例1の最適波形のスペクトラム包絡線を示す図である。
【図10】実施例1の最適波形の立ち上がり部分を示す図である。
【図11】実施例1の最適波形のスペクトラム包絡線を示す図である。
【図12】実施例1のコモンモード電流を示す図である。
【図13】実施例2の最適波形を求める処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】実施例2の最適波形の立ち上がり部分を示す図である。
【図15】実施例2の最適波形のスペクトラム包絡線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
まず、構成を説明する。
〔回路構成の概略〕
図1は、実施例1のスイッチング回路1、負荷5、電源6およびラジオ受信機7のブロック図である。スイッチング回路1は、制御パルス生成部2、規範電圧波形生成部3、規範電圧波形追従駆動部4を備える。
制御パルス生成部2は、規範電圧波形追従駆動部4をPWM駆動制御するための波形となる制御パルス(PWM信号)を生成し、規範電圧波形生成部3へ出力する。実施例1では、PWMキャリア周波数を20kHzとする。
ラジオ受信機7は、受信部71を有する。受信部71は、受信したい放送局の周波数(チャンネル)の信号を受信する。
規範電圧波形生成部3は、波形生成部31、最適波形記憶部32および受信周波数検出部33を有する。受信周波数検出部33は、受信部71が受信している放送局の周波数を検出する。
【0009】
最適波形記憶部32は、予め実験等により求めた放送局の周波数に応じた波形(最適波形)を記憶するメモリである。最適波形記憶部32が記憶している波形は、負荷5を駆動する駆動信号の立ち上がり部分と、立ち下がり部分の波形であり、後に説明する規範電圧波形追従駆動部4において発生する高調波のうち、受信部71が受信している放送局の周波数の成分を抑制するように波形を設定している。この波形の求め方については後で詳述する。
波形生成部31は、制御パルスの立ち上がり部分と立ち下がり部分に最適波形を組み合わせた波形(規範電圧波形)を生成する。規範電圧波形は、時間軸に対して複数の電圧ポイントで折曲させた立ち上がりおよび立ち下がり波形部分を有する折線波形として生成される。波形生成部31は、ICやマイコン等で構成する。
規範電圧波形追従駆動部4は、規範電圧波形生成部3の生成した最適波形に基づき、パワートランジスタM1を駆動する。
負荷5は、例えば、電気自動車の駆動用モータや電動コンプレッサのモータ等、車両の搭載された電動モータであり、規範電圧波形追従駆動部4のスイッチングにより駆動する。
電源6は、車両に搭載したバッテリであり、負荷5に電力を供給する。
【0010】
〔規範電圧波形追従駆動部、負荷および電源の回路構成〕
図2は、規範電圧波形追従駆動部4、負荷5および電源6の回路構成図である。
規範電圧波形追従駆動部4は、抵抗R8〜R13、電源V9、コンデンサC1、トランジスタQ7〜Q12、ダイオードD1,D2、パワートランジスタM1(スイッチング素子)により構成されており、トランジスタQ7,Q8とトランジスタQ9,Q10によりカレントミラー回路を構成したフィードバック構成である。
負荷5は、上述したようにモータを想定し、抵抗R14,R15、インダクタンスL1、パワートランジスタM2により構成し、電源6(V10)に接続する。
【0011】
規範電圧波形追従駆動部4では、カレントミラーの回路構成部分により、入力される折線波形と出力電圧の波形を近づけるようにした波形によりパワートランジスタM1を駆動することで、規範電圧波形に追従した出力電圧が得られる。
なお、規範電圧波形追従駆動部4はフィードバック回路構成となっているため、駆動波形に略一致した出力波形を得ることができる。つまり、低減させたい高調波周波数成分に応じた最適波形が入力されると、負荷5の下流では、ほぼそのままの出力波形を得ることができる。
【0012】
〔台形波形〕
次に、最適波形記憶部32において記憶する最適波形を求める際に、ベースとする台形波形について説明する。
図3は台形波形を示す図であり、実線は台形波形を、点線は制御パルスを示す。台形波形は制御パルスに対して、立ち上がり時間と立ち下がり時間を持たせたものである。換言すると、台形波形は制御パルスの電圧変化速度を遅く設定したものである。図3では、立ち上がり時間、立ち下がり時間をともに1.6[μs]に設定している。
台形波形は立ち上がり時間、立ち下がり時間を設定することによって、低減させたい高調波成分帯域を調整することができる。低減させたい高調波成分帯域のカットオフ周波数fは次の式(1)で求めることができる。
【数1】
ここでτの単位は[s]であり、台形波形の立ち上がり時間、立ち下がり時間を示す。
式(1)に図3の台形波形の立ち上がり時間、立ち下がり時間である1.6×10-6[s]を入力するとfはおよそ200[kHz]となる。すなわち、200[kHz]よりも大きい周波数帯域の高調波成分を低減させることが可能となる。
【0013】
図4は、図3に示す台形波形のスペクトルである。図4に示すように、カットオフ周波数(200[kHz])より低い周波数帯域では-20[dBV/dec]の減衰率であるのに対して、カットオフ周波数より高い周波数帯域では-40[dBV/dec]の減衰率となる。つまり、カットオフ周波数より高い周波数帯域では低い周波数帯域に比べて減衰率が大きくすることができる。
【0014】
〔最適波形の生成〕
次に、最適波形記憶部32において記憶する最適波形の生成方法について説明する。
図5は最適波形を求める処理の流れを示すフローチャートである。
【0015】
ステップS1では、ベースとなる台形波形と、放送局の周波数に対する重み係数ωn設定する。台形波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分には、複数の時間点に対する基準電圧を設定する。各基準電圧は最適波形を生成する際の調整点であって、最適波形の折曲点となる。
ステップS2では、折曲点の値Xiに対して離散フーリエ係数xnを設定する。離散フーリエ係数xnは次の式(2)により設定する。
【数2】
なお、nは次数であり、Nはサンプリング数である。
つまり、必要周波数を考慮して、x0〜xnを求める離散フーリエ変換を実施する。
【0016】
ステップS3では、評価関数Iを設定する。評価関数Iは次の式(3)により設定する。
【数3】
このとき、xnは放送局の周波数に対応する離散フーリエ係数であり、この離散フーリエ係数xnに重み係数ωnを乗じたものが評価関数Iとして用いられる。
【0017】
ステップS4では値Iが最小か否かを判断し、最小あればステップS6へ進み、最小でなければステップS5へ進む。
ステップS5では、折曲点を大小方向、時間方向に変更するようにして調整する。
ステップS6では、値Iが最小となる状態の波形を、受信部71が受信している放送局の周波数のノイズが最も小さい最適波形として設定する。このようにして生成した最適波形を、以下では折線波形と称する。
なお、値Iの最小を求める手法としては、ニュートンラプソン法を例として挙げておく。
【0018】
実施例1では、スイッチング損失を抑制しつつ、AM(Amplitude Modulation;振幅変調)ラジオ放送用の帯域(0.5MHz〜1.5MHz)に存在する高調波周波数成分の低減を狙いとしている。予めシミュレーション等によって各AMラジオ放送局の周波数と一致する高調波周波数成分を低減する最適波形をそれぞれ生成し、最適波形記憶部32に記憶させる。
図6は、周波数が594[kHz](日本放送協会)である放送局に対して生成した最適波形の立ち上がり部分を示す。また図6には、比較として最適波形生成時にベースとした台形波形の立ち上がり部分も記載している。図6に示すように最適波形は台形波形に対して、立ち上がり部分は折線状になっている。
図7は、周波数が594[kHz]である放送局に対して生成した最適波形のスペクトラム包絡線と、ベースとした台形波形の最適波形のスペクトル包絡線を示す図である。図7に示すように最適波形のスペクトル包絡線は594[kHz]付近で谷部を形成している。一方、最適波形のスペクトル包絡線の594[kHz]付近以外の部分は、台形波形のスペクトル包絡線よりも値が大きくなっている部分もある。すなわち、実施例1の最適波形は周波数が594[kHz]である放送局の周波数の高調波成分を集中的に低減するものである。
【0019】
図8は、周波数が954[kHz](東京放送)である放送局に対して生成した最適波形の立ち上がり部分を示す。また図9は、周波数が954[kHz]である放送局に対して生成した最適波形のスペクトラム包絡線と、ベースとした台形波形の最適波形のスペクトル包絡線を示す図である。
図10は、周波数が1422[kHz](RFラジオ日本)である放送局に対して生成した最適波形の立ち上がり部分を示す。また図11は、周波数が1422[kHz] である放送局に対して生成した最適波形のスペクトラム包絡線と、ベースとした台形波形の最適波形のスペクトル包絡線を示す図である。
最適波形記憶部32は、各放送局の周波数に対応した図6,8,10に示すような最適波形を記憶する。
【0020】
〔作用〕
従来では、負荷を制御する駆動電圧波形の高調波周波数が、ラジオ受信機の受信部が受信している周波数帯域に含まれる場合、駆動電圧波形の制御周期を拡散させることにより、駆動電圧波形の高調波スペクトルを拡散するようにしていた。これによりラジオ受信機の受信部が受信している周波数帯域に含まれる高調波スペクトルのピークが低減され、ラジオ受信機に生じるノイズを低減できるというものであった。
スイッチング回路とこれを覆う筐体との間には浮遊容量が存在し、駆動電圧波形の立ち上がりと立ち下がりのときに、スイッチ回路と筐体との間をコモンモード電流が流れる。図12(a)は3相の駆動電圧波形、図12(b)はコモンモード電流を示す。このコモンモード電流は、駆動電圧波形の立ち上がり、立ち下がりが急峻であるほど大きくなる。特に制御パルスのように矩形波ではコモンモード電流は急増する。そのため、駆動電圧波形の高調波スペクトルを拡散したとしてもコモンモード電流を低減することはできず、このコモンモード電流の高調波周波数をラジオ受信機が受信することにより、大きなノイズが入ることとなる。
【0021】
実施例1では、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数を含むように駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成するようにした。これにより、駆動電圧波形の立ち上がりと立ち下がりを緩やかにしてコモンモード電流を低減するとともに、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルの受信している放送局の周波数成分を低減することが可能となる。
【0022】
また実施例1では、最適波形を複数箇所で折れた折線波形形状として生成した。これにより、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルの特定の周波数成分を低減することが可能となる。
また実施例1では、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数に対応する駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルに対して評価関数Iを設定し、この評価関数Iが最小となるように最適波形を求めた。
よって、スイッチング損失を増加させることなく、また高調波のスペクトルの特定の周波数成分以外を低減することなく、必要な周波数成分のみを低減することができる。
【0023】
〔効果〕
以下に実施例1の効果を列記する。
【0024】
(1)パワートランジスタM1を駆動して負荷5を作動させる駆動電圧波形を生成するスイッチング回路1において、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数を検出する受信周波数検出部33と、負荷5を制御する制御パルスを生成する制御パルス生成部と、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、ラジオ受信機7が受信している送信局の周波数を含むように駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成する最適波形記憶部32と、最適波形記憶部32が生成した駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を、制御パルスに適用して駆動波形を生成する波形生成部31とを備えた。
よって、駆動電圧波形の立ち上がりと立ち下がりを緩やかにしてコモンモード電流を低減するとともに、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルの受信している放送局の周波数成分を低減することが可能となる。したがって、ラジオ受信機7が受信するノイズを低減することができる。
【0025】
(2)規範電圧波形生成部3は、駆動電圧波形を複数箇所で折れた波形形状として生成するようにした。
よって、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトルの特定の周波数成分を低減することが可能となり、ラジオ受信機7が受信している周波数に対するノイズを低減することができる。
【0026】
(3)規範電圧波形生成部3は、初期値として立ち上がり時間と立ち下がり時間を有する台形波形を設定し、台形波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分には複数の時間点に対する基準電圧を折曲点として設定し、高調波成分を小さくする特定の周波数に対して重み係数ωnを設定するステップS1の処理と、
折曲点の値Xi対して、離散フーリエ係数xnを設定し、nを次数とし、Nをサンプリング数とし、kを0から増加する変数とし、下記の式
【数4】
に基づいて離散フーリエ変換を行うステップS2の処理と、
評価関数をIとし、受信部71が受信している放送局の周波数に対応する離散フーリエ係数xnを用いて、下記の式
【数5】
に基づいて評価関数Iの演算値を算出するステップS3の処理と、
評価関数Iの演算値が最小かどうかを判断し、最小ならば、その時点の折線波形を最適波形とし、最小でないならば折曲点を調整し、ステップS2の処理へ戻るステップS4〜ステップS6の処理と、により評価関数Iの演算値が最小となる折線波形を出力する回路構成とした。
よって、スイッチング損失を増加させることなく、また高調波のスペクトルの特定の周波数成分以外を低減することなく、必要な周波数成分のみを低減することができる。
[実施例2]
次に実施例2について説明する。実施例1では、最適波形記憶部32は放送局の周波数毎に対応する最適波形を求めて記憶していた。実施例2では、最適波形記憶部32に複数の放送局の周波数に対応する最適波形を求めて記憶させることとした。
実施例1と回路構成等は同じであるが、実施例2では実施例1の図5で示したフローチャートのステップS3の評価関数Iの算出方法が異なる。
図13は最適波形を求める処理の流れを示すフローチャートである。
【0027】
ステップS11では、ベースとなる台形波形と、複数放送局の周波数に対する重み係数ωn設定する。台形波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分には、複数の時間点に対する基準電圧を設定する。各基準電圧は最適波形を生成する際の調整点であって、最適波形の折曲点となる。
ステップS12では、折曲点の値Xiに対して離散フーリエ係数xnを設定する。離散フーリエ係数xnは次の式(4)により設定する。
【数6】
なお、nは次数であり、Nはサンプリング数である。
つまり、必要周波数を考慮して、x0〜xnを求める離散フーリエ変換を実施する。
【0028】
ステップS13では、評価関数Iを設定する。評価関数Iは次の式(5)により設定する。
【数7】
このとき、xnは放送局の周波数に対応する離散フーリエ係数であり、この離散フーリエ係数xnに重み係数ωnを乗じたものが評価関数Iとして用いられる。
【0029】
ステップS14では値Iが最小か否かを判断し、最小あればステップS6へ進み、最小でなければステップS5へ進む。
ステップS15では、折曲点を大小方向、時間方向に変更するようにして調整する。
ステップS16では、値Iが最小となる状態の波形を、受信部71が受信している放送局の周波数のノイズが最も小さい最適波形として設定する。
図14は、周波数が594[kHz](日本放送協会)、954[kHz](東京放送)、1422[kHz](RFラジオ日本)である3つの放送局に対して生成した最適波形の立ち上がり部分を示す。また図14には、比較として最適波形生成時にベースとした台形波形の立ち上がり部分も記載している。
図15は、周波数が594[kHz]、954[kHz]、1422[kHz]である3つの放送局に対して生成した最適波形のスペクトラム包絡線と、ベースとした台形波形の最適波形のスペクトル包絡線を示す図である。図15に示すように最適波形のスペクトル包絡線は594[kHz]、954[kHz]、1422[kHz]付近で谷部を形成している。一方、最適波形のスペクトル包絡線の594[kHz]、954[kHz]、1422[kHz]付近以外の部分は、台形波形のスペクトル包絡線よりも値が大きくなっている部分もある。すなわち、実施例2の最適波形は、3つの放送局の周波数の高調波成分を集中的に低減するものである。
【0030】
〔作用〕
実施例2では、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、ラジオ受信機7が受信している複数の送信局の周波数を含むように駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成するようにした。
よって、複数の放送局に対する最適波形を生成することが可能となる。
【0031】
〔効果〕
次に、実施例2の効果を説明する。
(4)最適波形記憶部32は、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、ラジオ受信機7が受信している複数の送信局の周波数を含むように駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成するようにした。
よって、複数の放送局に対する最適波形を生成することが可能となり、最適波形記憶部32の記憶容量を小さくすることができる。
【0032】
〔他の実施例〕
以上、本発明のスイッチング回路を実施例に基づき説明したが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されず、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1、2では、最適波形は予め最適波形記憶部32において記憶されるようにしているが、現在受信している放送局の周波数に対してその場で求めるようにしても良い。
負荷は、ランプ等、車両に搭載し、スイッチング回路により作動する電気負荷であればよい。
最適波形の立ち上がりおよび立ち下がり部分は、折線波形に限らず、曲線やサイン波状としてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 スイッチング回路
2 制御パルス生成部(制御波形生成手段)
3 規範電圧波形生成部
5 負荷
7 ラジオ受信機(受信機)
31 波形生成部(波形生成手段)
32 最適波形記憶部(最適波形生成手段)
33 受信周波数検出部(受信周波数検出手段)
M1 パワートランジスタ(スイッチング素子)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を駆動して負荷を作動させる駆動電圧波形を生成するスイッチング回路において、
受信機が受信している送信局の周波数を検出する受信周波数検出手段と、
前記負荷を制御する制御波形を生成する制御波形生成手段と、
駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、前記受信機が受信している送信局の周波数を含むように前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成する最適波形生成手段と、
最適波形生成手段が生成した前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を、前記制御波形に適用して前記駆動波形を生成する波形生成手段と、
を備えたことを特徴とするスイッチング回路。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング回路において、
前記最適波形生成手段は、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、前記受信機が受信している複数の送信局の周波数を含むように前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成することを特徴とするスイッチング回路。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスイッチング回路において、
前記最適波形生成手段は、前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を複数箇所で折れた折線波形形状として生成することを特徴とするスイッチング回路。
【請求項4】
請求項3に記載のスイッチング回路において、
前記最適波形生成手段は、
初期値として立ち上がり時間と立ち下がり時間を有する台形波形を設定し、台形波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分には複数の時間点に対する基準電圧を折曲点として設定し、高調波成分を小さくする特定の周波数に対して重み係数ωnを設定する第1処理と、
折れ点の値Xi対して、離散フーリエ係数xnを設定し、nを次数とし、Nをサンプリング数とし、kを0から増加する変数とし、下記の式
【数8】
に基づいて離散フーリエ変換を行う第2処理と、
評価関数をIとし、下記の式
【数9】
に基づいて評価関数Iの演算値を算出する第3処理と、
評価関数Iの演算値が最小かどうかを判断し、最小ならば、その時点の折線波形を最適波形とし、最小でないならば折れ点を調整し、前記第2処理へ戻る第4処理と、
により評価関数Iの演算値が最小となる折線波形を出力する回路構成としたことを特徴とするスイッチング回路。
【請求項1】
スイッチング素子を駆動して負荷を作動させる駆動電圧波形を生成するスイッチング回路において、
受信機が受信している送信局の周波数を検出する受信周波数検出手段と、
前記負荷を制御する制御波形を生成する制御波形生成手段と、
駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、前記受信機が受信している送信局の周波数を含むように前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成する最適波形生成手段と、
最適波形生成手段が生成した前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を、前記制御波形に適用して前記駆動波形を生成する波形生成手段と、
を備えたことを特徴とするスイッチング回路。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング回路において、
前記最適波形生成手段は、駆動電圧の変位により生じる高調波のスペクトル包絡線の谷部が、前記受信機が受信している複数の送信局の周波数を含むように前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を生成することを特徴とするスイッチング回路。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスイッチング回路において、
前記最適波形生成手段は、前記駆動電圧波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分の波形を複数箇所で折れた折線波形形状として生成することを特徴とするスイッチング回路。
【請求項4】
請求項3に記載のスイッチング回路において、
前記最適波形生成手段は、
初期値として立ち上がり時間と立ち下がり時間を有する台形波形を設定し、台形波形の立ち上がり部分と立ち下がり部分には複数の時間点に対する基準電圧を折曲点として設定し、高調波成分を小さくする特定の周波数に対して重み係数ωnを設定する第1処理と、
折れ点の値Xi対して、離散フーリエ係数xnを設定し、nを次数とし、Nをサンプリング数とし、kを0から増加する変数とし、下記の式
【数8】
に基づいて離散フーリエ変換を行う第2処理と、
評価関数をIとし、下記の式
【数9】
に基づいて評価関数Iの演算値を算出する第3処理と、
評価関数Iの演算値が最小かどうかを判断し、最小ならば、その時点の折線波形を最適波形とし、最小でないならば折れ点を調整し、前記第2処理へ戻る第4処理と、
により評価関数Iの演算値が最小となる折線波形を出力する回路構成としたことを特徴とするスイッチング回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−49869(P2011−49869A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197074(P2009−197074)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 社団法人 電気学会 島田 敏男 刊行物名 電気学会半導体電力変換研究会資料 巻数・号数 SPC−09−109〜116 発行年月日 2009年7月30日
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 社団法人 電気学会 島田 敏男 刊行物名 電気学会半導体電力変換研究会資料 巻数・号数 SPC−09−109〜116 発行年月日 2009年7月30日
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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