説明

スイッチング素子の駆動回路

【課題】スイッチング素子S*#の駆動異常の有無を適切に判断することのできるスイッチング素子の駆動回路を提供すること。
【解決手段】スイッチング素子S*#のゲートの充電経路を流通する電流を一定値に制御する定電流制御を行う。そして、定電流制御の開始が指示されてから充電経路における電流の流通が開始されるまでの時間が規定時間を上回ると判断された場合、スイッチング素子S*#の駆動異常が生じている旨判断する。また、定電流制御によって充電経路を電流が流通する時間が下限時間未満になると判断されたり、上記流通する時間が上限時間を上回ると判断されたりした場合、スイッチング素子S*#の駆動異常が生じている旨判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧制御形のスイッチング素子を駆動対象スイッチング素子とするスイッチング素子の駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の駆動回路としては、例えば下記特許文献1に見られるように、駆動対象スイッチング素子(IGBT)の異常を検出するものも知られている。詳しくは、まず、IGBTのゲート電流を検出し、検出されたゲート電流の立ち上がり信号からオン相当の時間を求める。そして、IGBTをオン状態又はオフ状態とするためのゲート指令信号と、上記オン相当時間とを比較して両者の不一致を検出することで、IGBTのゲート及びエミッタ間のショート異常を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4434510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、駆動対象スイッチング素子自体の異常のみならず、駆動対象スイッチング素子の充電経路の異常を含む異常(以下、駆動対象スイッチング素子の駆動異常)の有無を適切に判断することが望まれる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、駆動対象スイッチング素子の駆動異常の有無を適切に判断することのできるスイッチング素子の駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、電圧制御形のスイッチング素子を駆動対象スイッチング素子とするスイッチング素子の駆動回路において、前記スイッチング素子の開閉制御端子の充電経路を流通する電流を一定値に制御する定電流制御を行う定電流制御手段と、前記定電流制御の実行が指示される状況下において、前記充電経路を流通する電流が所定の閾値を跨ぐことによって定まる時間と、基準となる時間とのずれに基づき、前記駆動対象スイッチング素子の駆動異常の有無を判断する異常判断処理を行う異常判断手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、上記定電流制御によって駆動対象スイッチング素子の開閉制御端子の印加電圧を調節している。ここで、駆動対象スイッチング素子の充電経路及び駆動対象スイッチング素子自体の異常を含む異常(以下、駆動対象スイッチング素子の駆動異常)が生じると、定電流制御の実行が指示される状況下、充電経路を流通する電流が所定の閾値を跨ぐことによって定まる時間が、当初想定された時間から大きくずれる事態が生じ得る。
【0009】
この点に鑑み、上記発明では、充電経路を流通する電流が所定の閾値を跨ぐことによって定まる時間と、基準となる時間とのずれに基づき、駆動対象スイッチング素子の駆動異常の有無を適切に判断することができる。
【0010】
なお、上記定電流制御手段としては、上記充電経路に設けられた定電流用抵抗体と、上記定電流用抵抗体と直列接続された定電流用スイッチング素子と、上記定電流用スイッチング素子の開閉制御端子を操作する操作手段とを備え、上記操作手段によって上記定電流用スイッチング素子の開閉制御端子を操作することで、上記定電流用抵抗体の電圧降下量を目標値とするものを採用することができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記異常判断手段は、前記異常判断処理として、前記定電流制御によって前記充電経路を電流が流通する時間が規定範囲外になると判断されたことに基づき、前記駆動異常が生じている旨判断する処理を行うことを特徴とする。
【0012】
駆動対象スイッチング素子の駆動異常が生じると、定電流制御によって充電経路における電流の流通が開始されてから終了するまでの時間が、過度に長くなったり、過度に短くなったりする等、当初想定された時間から大きくずれる事態が生じ得る。この点に鑑み、上記発明では、定電流制御によって充電経路に電流が流通する時間が規定範囲外になると判断されたことに基づき、駆動対象スイッチング素子の駆動異常が生じている旨判断する。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記異常判断手段は、前記異常判断処理として、前記定電流制御によって前記充電経路を電流が流通する時間が下限時間未満であると判断されたことに基づき、前記駆動異常が生じている旨判断する処理を行うことを特徴とする。
【0014】
上記発明によれば、定電流制御によって充電経路における電流の流通が開始されてから終了するまでの時間が過度に短くなるような上記駆動異常が生じている旨を判断することができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記異常判断手段は、前記異常判断処理として、前記定電流制御によって前記充電経路を電流が流通する時間が上限時間を上回ると判断されたことに基づき、前記駆動異常が生じている旨判断する処理を行うことを特徴とする。
【0016】
上記発明によれば、定電流制御によって充電経路における電流の流通が開始されてから終了するまでの時間が過度に長くなるような上記駆動異常が生じている旨を判断することができる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記異常判断手段は、前記異常判断処理として、前記定電流制御の開始が指示されてから、前記充電経路における電流の流通が開始されるまでの時間が規定時間を上回ると判断されたことに基づき、前記駆動異常が生じている旨判断する処理を行うことを特徴とする。
【0018】
スイッチング素子の駆動回路のうち定電流制御を行う部分に異常が生じると、定電流制御の開始が指示されてから、充電経路における電流の流通が開始されるまでの時間が、当初想定された時間よりも過度に長くなる事態が生じ得る。この点に鑑み、上記発明では、上記電流の流通が開始されるまでの時間が規定時間を上回ると判断されたことに基づき、駆動対象スイッチング素子の駆動異常が生じている旨判断する。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記異常判断手段によって前記駆動異常が生じている旨判断された場合、前記駆動対象スイッチング素子をオフ状態とするフェール手段を更に備えることを特徴とする。
【0020】
上記発明では、駆動対象スイッチング素子の駆動異常に起因して、駆動対象スイッチング素子自体やスイッチング素子の駆動回路の信頼性が低下する事態の発生を抑制することができる。
【0021】
ちなみに、上記駆動対象スイッチング素子が、回転機を直流電源の正極側に接続する高電位側スイッチング素子及び上記回転機を上記直流電源の負極側に接続する低電位側スイッチング素子の直列接続体のうちいずれかのスイッチング素子である場合、上記発明によれば、これら双方の駆動対象スイッチング素子がオン状態とされ、直流電源が短絡される事態の発生を抑制することができる。これにより、駆動対象スイッチング素子や、その他の素子等の信頼性が低下する事態の発生を好適に抑制することができる。
【0022】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記駆動対象スイッチング素子の開閉制御端子と該駆動対象スイッチング素子をオフ状態とする電位を有する部材との間を接続する放電経路、前記駆動異常が生じている旨判断されていない場合に外部からの操作信号に応じて前記放電経路を開閉する放電用スイッチング素子、前記開閉制御端子と該駆動対象スイッチング素子をオフ状態とする電位を有する部材との間を接続するオフ用経路、及び該オフ用経路を開閉するオフ保持用スイッチング素子を備え、前記フェール手段は、前記駆動異常が生じている旨判断された場合、前記オフ保持用スイッチング素子をオフ状態とすることを特徴とする。
【0023】
上記発明では、例えば放電用スイッチング素子をオフ状態とすることができなくなるような上記駆動異常が生じる場合であっても、オフ保持用スイッチング素子をオフ状態とすることで、駆動対象スイッチング素子をオフ状態とさせることができる。
【0024】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記駆動異常が生じている旨判断された場合、その旨を通知する通知手段を更に備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかるドライブユニットの回路構成を示す回路図。
【図3】同実施形態にかかる異常判断処理の手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態にかかる異常時における定電流制御の一例を示すタイムチャート。
【図5】同実施形態にかかる異常時における定電流制御の一例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明にかかるスイッチング素子の駆動回路を、車載主機としての回転機に接続される電力変換回路の駆動回路に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1に、本実施形態にかかる制御システムの全体構成を示す。
【0028】
図示されるように、モータジェネレータ10は、車載主機であり、図示しない駆動輪に機械的に連結されている。モータジェネレータ10は、インバータINV及び昇圧コンバータCNVを介して高電圧バッテリ12に接続されている。ここで、昇圧コンバータCNVは、コンデンサCと、コンデンサCに並列接続された一対のスイッチング素子Scp,Scnと、一対のスイッチング素子Scp,Scnの接続点と高電圧バッテリ12の正極とを接続するリアクトルLとを備えて構成されている。詳しくは、昇圧コンバータCNVは、スイッチング素子Scp,Scnのオン・オフによって、高電圧バッテリ12の電圧(例えば百V以上)を所定の電圧(例えば「666V」)を上限として昇圧するものである。
【0029】
一方、インバータINVは、スイッチング素子Sup,Sunの直列接続体と、スイッチング素子Svp,Svnの直列接続体と、スイッチング素子Swp,Swnの直列接続体とを備えて構成されており、これら各直列接続体の接続点がモータジェネレータ10のU,V,W相にそれぞれ接続されている。これらスイッチング素子S*#(*=u,v,w,c;#=p,n)として、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。そして、これらにはそれぞれ、ダイオードD*#が逆並列に接続されている。
【0030】
制御装置18は、低電圧バッテリ16を電源とする制御装置である。制御装置18は、モータジェネレータ10を制御対象とし、その制御量を所望に制御すべく、インバータINVや昇圧コンバータCNVを操作する。詳しくは、昇圧コンバータCNVのスイッチング素子Scp,Scnを操作すべく、操作信号gcp、gcnをドライブユニットDUに出力する。また、インバータINVのスイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnを操作すべく、操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwnをドライブユニットDUに出力する。ここで、高電位側の操作信号g*pと、対応する低電位側の操作信号g*nとは、互いに相補的な信号となっている。換言すれば、高電位側のスイッチング素子S*pと、対応する低電位側のスイッチング素子S*nとは、交互にオン状態とされる。
【0031】
なお、高電圧バッテリ12を備える高電圧システムと低電圧バッテリ16を備える低電圧システムとは、互いに絶縁されており、これらの間の信号の授受は、例えばフォトカプラ等の絶縁素子を備えるインターフェース14を介して行われる。
【0032】
図2に、上記ドライブユニットDUの構成を示す。
【0033】
図示されるように、ドライブユニットDUは、1チップ化された半導体集積回路であるドライブIC20と、端子電圧Vom(例えば15V)の電源22とを備えている。
【0034】
電源22は、定電流用抵抗体24と、PチャネルMOS電界効果トランジスタ(定電流用スイッチング素子26)との直列接続体を介して、ドライブIC20の端子T1に接続されている。端子T1は、スイッチング素子S*#の開閉制御端子(ゲート)に接続されている。なお、以降、電源22からスイッチング素子S*#のゲートまでの電気経路を「充電経路」と称すこととする。
【0035】
スイッチング素子S*#のゲートは、さらに、放電用抵抗体28、端子T2及びNチャネルMOS電界効果トランジスタ(放電用スイッチング素子30)を介して、端子T3に接続されている。端子T3は、スイッチング素子S*#の出力端子(エミッタ)に接続されている。なお、スイッチング素子S*#のゲート及びエミッタ間には、コンデンサ32が接続されている。
【0036】
上記定電流用スイッチング素子26や、放電用スイッチング素子30は、ドライブIC20内の駆動制御部34によって操作される。詳しくは、駆動制御部34は、端子T4を介して入力される上記操作信号g*#に基づき、定電流用スイッチング素子26及び放電用スイッチング素子30を相補的にオン・オフすることでスイッチング素子S*#を駆動させる。すなわち、操作信号g*#がオン操作指令となることで、定電流用スイッチング素子26をオン状態として且つ放電用スイッチング素子30をオフ状態とし、操作信号g*#がオフ操作指令となることで、定電流用スイッチング素子26をオフ状態として且つ放電用スイッチング素子30をオン状態とする。
【0037】
ここで、本実施形態では、スイッチング素子S*#のゲートの充電処理を定電流制御によって行う。定電流制御は、定電流用抵抗体24の電圧降下量をその目標値(例えば1V)とすべく、定電流用スイッチング素子26のゲートの電圧を操作するものである。これにより、スイッチング素子S*#のゲートの充電電流を一定値に制御する。
【0038】
このように、本実施形態では、スイッチング素子S*#のゲートの充電処理を定電流制御によって行っている。一方、ゲートの放電処理を、放電用抵抗体28を介してゲート及びエミッタ間を接続することで、放電用抵抗体28によって放電電流を制限しつつ行う。
【0039】
ちなみに、定電流制御の制御性は、スイッチング素子S*#のゲート及びエミッタ間電圧(ゲート電圧Vge)が上昇することで低下する。このため、本実施形態では、スイッチング素子S*#が正常に駆動される場合の電流Icの最大値Imaxを飽和電流とするゲート電圧(最大電圧Vmax)までは定電流制御の制御性が低下しないように、電源22の電圧Vom(最終的なゲート印加電圧)を、定電流用抵抗体24における電圧降下量R・Icと、定電流用スイッチング素子26における電圧降下量Vdsと、最大電圧Vmaxとの和以上の値として設定している。
【0040】
上記ドライブユニットDUは、さらに、スイッチング素子S*#のゲート及びエミッタ間を短絡するためのNチャネルMOS型電界効果トランジスタ(オフ保持用スイッチング素子36)を備えている。オフ保持用スイッチング素子36は、スイッチング素子S*#のゲート及びエミッタ間を低抵抗にて接続すべく、スイッチング素子S*#に極力近接して設けられている。そして、スイッチング素子S*#のゲート及びエミッタ間を接続させる経路のうち、オフ保持用スイッチング素子36を備えるオフ用経路のインピーダンスは、放電用抵抗体28を備える経路のインピーダンスよりも低くなるように設定されている。これは、上記操作信号g*#に応じてスイッチング素子S*#がオフ状態とされている際、スイッチング素子S*#の入力端子(コレクタ)や出力端子(エミッタ)とゲートとの間の寄生容量を介してゲートに高周波ノイズが重畳することで、スイッチング素子S*#が誤ってオン状態となることを回避するためのものである。
【0041】
上記オフ保持用スイッチング素子36のゲートは、端子T5及びOR回路38を介してドライブIC20内のオフ保持回路40によって操作される。オフ保持回路40は、端子T1に印加される電圧に基づき、スイッチング素子S*#のゲート電圧をモニタし、この電圧が所定電圧となることで、オフ保持用スイッチング素子36をオン操作する処理を行うものである。また、駆動制御部34から放電用スイッチング素子30のゲートに出力される信号をモニタし、放電用スイッチング素子30がオフ操作されることに同期してオフ保持用スイッチング素子36をオフ操作する処理を行うものでもある。
【0042】
上記ドライブIC20は、さらに、スイッチング素子S*#を正常に駆動することができない異常(駆動異常)の有無を判断する異常判断部42を備えている。異常判断部42は、定電流用抵抗体24を流れる電流Icに基づき、駆動異常の有無を判断する。詳しくは、異常判断部42は、定電流用抵抗体24における電圧降下量に基づき定電流用抵抗体24を流れる電流Icを算出し、算出された電流Icに基づき、駆動異常の有無を判断する。
【0043】
そして、異常判断部42は、駆動異常があると判断した場合、論理「H」のフェール信号FLを出力するフェールセーフ処理を行う。フェール信号FLは、スイッチング素子S*#を強制的にオフ状態とすべく、上記OR回路38を介してオフ保持用スイッチング素子36をオン操作したり、定電流用スイッチング素子26及び放電用スイッチング素子30の駆動を停止させるべく、駆動制御部34に指令したりする信号である。
【0044】
なお、フェール信号FLは、端子T6を介して低電圧システム(制御装置18)に出力される。これにより、制御装置18側で駆動異常が生じたことを把握することができ、ひいては制御装置18からユーザにその旨を通知することができる。また、フェール信号FLによって、先の図1に示すフェール処理部14aでは、インバータINVや昇圧コンバータCNVをシャットダウンする。ちなみに、フェール処理部14aの構成は、例えば特開2009−60358号公報の図3に記載のものとすればよい。
【0045】
図3に、本実施形態にかかる異常判断部42による異常判断処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0046】
この一連の処理では、まずステップS10において、操作信号g*#がオフ操作指令からオン操作指令に切り替わったところであるか否かを判断する。この処理は、定電流制御の開始が指示されてからの経過時間を計時するための始点となる規定のタイミングを定めるためのものである。
【0047】
ステップS10において肯定判断された場合には、ステップS12に進み、定電流制御の開始が指示されてから、充電経路における電流の流通が開始されるまでの経過時間を計時するタイマTAによって、計時を開始する。
【0048】
続くステップS14では、タイマTAが規定時間Tαを上回るか否かを判断する。ここでは、タイマTAが規定時間Tαを上回ると判断された場合、駆動異常が生じている旨判断する。
【0049】
ここで、本ステップにおいて肯定判断される状況としては、例えば、ドライブIC20の端子T4から駆動制御部34までの電気経路等に何らかの異常が生じることで、オン操作指令が端子T4に入力されてから、定電流用スイッチング素子26がオン状態とされるまでの時間が遅延する状況が挙げられる。また、定電流用スイッチング素子26の常時閉となるオープン異常が生じる状況も挙げられる。
【0050】
なお、上記規定時間Tαは、例えば、駆動異常が生じていない状況下において、定電流制御の開始が指示されてから充電経路における電流の流通が開始されるまでに想定される時間の最大値よりもやや長い時間として設定すればよい。
【0051】
ステップS14において否定判断された場合には、ステップS16に進み、充電経路を流れる電流Icが規定電流Ith以上になったところであるか否か、すなわち充電経路を流れる電流Icが規定電流Ithを下から上に跨ぐ状況であるか否かを判断する。この処理は、上記ステップS14において説明した駆動異常が生じていないか否かを判断したり、定電流制御によって充電経路における電流の流通が開始されてからの経過時間を計時するための始点となる規定のタイミングを定めたりするための処理である。なお、規定電流Ithは、例えば、充電経路における電流の流通開始を把握可能なように極小さい値(固定値)に設定される。
【0052】
ステップS16において否定判断された場合には、上記ステップS14に戻る。
【0053】
一方、上記ステップS16において肯定判断された場合には、タイマTAをリセットし、ステップS18において、充電経路における電流の流通が開始されてからの経過時間を計時するタイマTBによって、計時を開始する。
【0054】
続くステップS20では、タイマTBが上限時間TLを上回るか否かを判断する。ここでは、タイマTBが上限時間TLを上回ったと判断された場合、駆動異常が生じている旨判断する。
【0055】
ここで、本ステップにおいて肯定判断される状況、すなわち定電流制御によって充電経路を電流が流れる時間が過度に長くなる異常としては、例えば、スイッチング素子S*#のゲート及びエミッタ間のショート異常が生じたり、放電用スイッチング素子30のショート異常が生じたり、定電流用抵抗体24の経年劣化によって抵抗値が過度に大きくなったりする状況が挙げられる。
【0056】
ちなみに、上限時間TLは、スイッチング素子S*#をオフ状態とすることができなくなる異常が生じる場合であっても、後述するフェールセーフ処理によって、高電位側のスイッチング素子S*pと低電位側のスイッチング素子S*nとの双方が同時にオン状態とされる事態を回避可能な時間として設定される。具体的には、例えば、オン操作指令が出力されると想定される時間の最小値として上限時間TLが設定される。
【0057】
ステップS20において否定判断された場合には、ステップS22に進み、充電経路を流れる電流Icが規定電流Ith未満になったところであるか否か、すなわち充電経路を流れる電流Icが規定電流Ithを上から下に跨ぐ状況であるか否かを判断する。この処理は、定電流制御による充電経路における電流の流通が終了したか否かを判断するためのものである。
【0058】
ステップS22において否定判断された場合には、上記ステップS20に戻る。
【0059】
一方、上記ステップS22において肯定判断された場合には、定電流制御による充電経路における電流の流通が終了したと判断し、ステップS24に進む。ステップS24では、タイマTBが、上限時間TLよりも短い下限時間TS未満であるか否かを判断する。ここでは、タイマTBが下限時間TS未満であると判断された場合、駆動異常が生じている旨判断する。
【0060】
ここで、本ステップにおいて肯定判断される状況、すなわち定電流制御によって充電経路を電流が流れる時間が過度に短くなる異常としては、例えば、定電流用スイッチング素子26のショート異常が生じたり、定電流用抵抗体24の経年劣化によって抵抗値が過度に小さくなる異常が生じたりする状況が挙げられる。
【0061】
ちなみに、ステップS24において否定判断された場合、タイマTBをリセットする。
【0062】
上記ステップS14において肯定判断された場合には、タイマTAをリセットする。一方、上記ステップS20やステップS24において肯定判断された場合には、タイマTBをリセットする。そして、これら処理が完了した場合、駆動異常が生じている旨判断し、ステップS26においてフェールセーフ処理を行う。これにより、オフ保持用スイッチング素子36をオン操作してスイッチング素子S*#を強制的にオフ状態とさせたり、制御装置18からユーザにその旨を通知したりする。
【0063】
なお、上記ステップS10、S24において否定判断された場合や、ステップS26の処理が完了した場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0064】
図4に、定電流制御の一例を示す。詳しくは、図4(a)に、操作信号g*#の推移を示し、図4(b)に、充電経路を流れる電流Ic(定電流用抵抗体24における電圧降下量からの換算値)の推移を示し、図4(c)に、ゲート電圧Vgeの推移を示す。
【0065】
まず、図4(A)を用いて、駆動異常が生じていない正常時における定電流制御について説明する。
【0066】
図示される例では、時刻t1において、操作信号g*#がオフ操作指令からオン操作指令へと切り替えられることで、定電流制御の開始が指示されてゲート電圧Vgeが漸増を開始する。そしてその後、時刻t4において定電流制御による充電経路の電流の流通が終了する。なお、その後、操作信号g*#がオン操作指令からオフ操作指令へと切り替えられる時刻t5において、定電流用スイッチング素子26がオフ状態とされ、放電用スイッチング素子30がオン状態とされることで、ゲート電圧Vgeの放電が開始される。
【0067】
次に、同図(B)を用いて、操作信号g*#としてオン操作指令が端子T4に入力されてから、定電流用スイッチング素子26がオン状態とされるまでの時間が遅延する異常が生じる場合における定電流制御について説明する。
【0068】
図示されるように、異常判断処理を行わない従来技術では、時刻t1において定電流制御の開始が指示されるものの、充電経路における電流Icの流通が遅延し、その後時刻t3において電流Icの流通が開始される。
【0069】
これに対し、異常判断処理が行われる本実施形態では、定電流制御の開始が指示されてからの経過時間TAが規定時間Tαを上回ると判断される時刻t2において、フェールセーフ処理によってフェール信号FLが出力される。これにより、駆動異常が生じた状態で継続して車両が使用される事態の発生を抑制することができる。
【0070】
続いて、図5にも、定電流制御の一例を示す。詳しくは、図5(A)は、先の図4(A)と同一のものである。また、図5(B)及び図5(C)のそれぞれは、先の図4(B)に対応している。
【0071】
まず、図5(B)を用いて、スイッチング素子S*#のゲート及びエミッタ間のショート異常が生じた場合における定電流制御について説明する。
【0072】
図示される例では、時刻t1において定電流制御によって充電経路における電流の流通が開始されるものの、上記ショート異常が生じているため、ゲート電圧Vgeが上昇しない。このため、定電流制御が実行される時間が過度に長くなり、充電経路における電流の流通が開始されたと判断されてからの経過時間TBが上限時間TLを上回ると判断される時刻t4において、フェールセーフ処理によってフェール信号FLが出力される。これにより、オフ保持用スイッチング素子36が強制的にオフ状態とされる。
【0073】
なお、定電流用抵抗体24の経年劣化によって抵抗値が過度に大きくなる異常が生じた場合にも、上記経過時間TBが上限時間TLを上回ると判断され得る。この場合、スイッチング素子S*#のゲートの放電処理を適切に行うことができなくなる駆動異常(例えば、放電用スイッチング素子30のオープン異常)が併せて生じるならば、オフ保持用スイッチング素子36が強制的にオフ状態とされることで、高電位側のスイッチング素子S*p及び低電位側のスイッチング素子S*nの双方が同時にオン状態とされる事態を回避することができる。これにより、高電位側及び低電位側のスイッチング素子等の信頼性が低下する事態の発生を回避することができる。
【0074】
次に、同図(C)を用いて、定電流用スイッチング素子26のショート異常が生じた場合における定電流制御について説明する。
【0075】
図示される例では、時刻t1において定電流制御によって充電経路における電流の流通が開始されるものの、上記ショート異常が生じているため、充電経路における電流の流通が開始されたと判断されてからの経過時間TBが下限時間TS未満になると判断される時刻t2において、フェールセーフ処理によってフェール信号FLが出力される。
【0076】
このように、上記実施形態では、異常判断処理を行うことで、駆動異常が生じる場合であっても、この異常に適切に対処することができる。
【0077】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0078】
(1)定電流制御の開始が指示されてから、充電経路における電流の流通が開始されるまでの時間TAが規定時間Tαを上回ると判断された場合、駆動異常が生じている旨判断した。これにより、駆動異常が生じた旨を適切に判断することができる。
【0079】
(2)定電流制御によって充電経路に電流が流れ始めてからの経過時間TBが、下限時間TS以上であって且つ上限時間TL以下で規定される範囲外であると判断された場合、駆動異常が生じている旨判断する異常判断処理を行った。これにより、駆動異常が生じた旨を適切に判断することができる。
【0080】
さらに、上記上限時間TLを、操作信号g*#としてオン操作指令が出力されると想定される時間の最小値として設定した。こうした設定によれば、スイッチング素子S*#をオフ状態とすることができなくなる異常が生じる場合であっても、高電位側のスイッチング素子S*pと低電位側のスイッチング素子S*nとの双方が同時にオン状態とされる事態を回避することもできる。これにより、高電位側のスイッチング素子S*p及び低電位側のスイッチング素子S*nのうち異常が生じていないスイッチング素子等、他の素子の信頼性が低下する事態を回避することができる。
【0081】
(3)異常判断処理によって駆動異常が生じている旨判断された場合、フェールセーフ処理を行った。これにより、スイッチング素子S*#を強制的にオフ状態とすべくオフ保持用スイッチング素子36をオン操作したり、制御装置18からユーザにその旨を通知したりすることなどができ、ユーザにその後の対応を適切にとらせることができる。
【0082】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0083】
・駆動異常の判断手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、定電流制御によって充電経路を電流が流通する時間が規定範囲外になると判断された場合のみ、駆動異常が生じている旨判断してもよい。ただし、この場合、オン操作指令が端子T4に入力されてから、定電流用スイッチング素子26がオン状態とされるまでの時間が遅延する異常の有無を判断することはできない。こうした判断手法を採用するとき、定電流制御の開始が指示されてから定電流用スイッチング素子26がオン状態とされるまでの時間が過度に長くなる事態が発生することで、定電流制御の終了タイミングが過度に遅延し、高電位側及び低電位側のスイッチング素子の双方が同時にオン状態とされる事態の発生が懸念される。
【0084】
しかしながら、上述したように、上限時間TLを、操作信号g*#としてのオン操作指令が出力されると想定される時間の最小値として設定することで、高電位側及び低電位側のスイッチング素子の双方が同時にオン状態とされる事態の発生を好適に抑制することができる。
【0085】
また、駆動異常の判断手法としては、例えば、操作信号g*#がオフ操作指令からオン操作指令へと切り替えられてから、定電流制御による充電経路における電流の流通が終了するまでの時間が所定時間を上回ることに基づき、駆動異常が生じている旨判断してもよい。ここで、上記所定時間は、例えば、駆動異常が生じていない状況下において、定電流制御の開始が指示されてから充電経路における電流の流通が開始されるまでに想定される時間の最大値と、オン操作指令が出力されると想定される時間の最小値との和よりもやや長い時間として設定すればよい。この場合、上記電流の流通が終了するまでの時間が所定時間を上回ることに基づき、定電流制御によって充電経路を電流が流れる時間が過度に長くなる異常(先の図3のステップS20で説明した異常)が生じている旨判断することができる。
【0086】
・上記実施形態において、定電流用抵抗体24を放電用抵抗体28と共有する構成を採用してもよい。
【0087】
・定電流制御を実行可能な構成としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、充電経路上に、定電流用スイッチング素子26と定電流用抵抗体24との直列接続体に代えて、定電流ダイオードとスイッチング素子との直列接続体を備える構成としてもよい。
【0088】
・上記実施形態において、定電流用抵抗体24をドライブIC20外に設ける構成としてもよい。
【0089】
・駆動対象スイッチング素子としては、IGBTに限らず、例えばパワーMOS電界効果トランジスタであってもよい。
【0090】
・モータジェネレータ10としては、車載主機に限らず、例えばシリーズハイブリッド車両に搭載される発電機であってもよい。
【符号の説明】
【0091】
12…高電圧バッテリ、24…定電流用抵抗体、26…定電流用スイッチング素子、S*#…スイッチング素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧制御形のスイッチング素子を駆動対象スイッチング素子とするスイッチング素子の駆動回路において、
前記スイッチング素子の開閉制御端子の充電経路を流通する電流を一定値に制御する定電流制御を行う定電流制御手段と、
前記定電流制御の実行が指示される状況下において、前記充電経路を流通する電流が所定の閾値を跨ぐことによって定まる時間と、基準となる時間とのずれに基づき、前記駆動対象スイッチング素子の駆動異常の有無を判断する異常判断処理を行う異常判断手段とを備えることを特徴とするスイッチング素子の駆動回路。
【請求項2】
前記異常判断手段は、前記異常判断処理として、前記定電流制御によって前記充電経路を電流が流通する時間が規定範囲外になると判断されたことに基づき、前記駆動異常が生じている旨判断する処理を行うことを特徴とする請求項1記載のスイッチング素子の駆動回路。
【請求項3】
前記異常判断手段は、前記異常判断処理として、前記定電流制御によって前記充電経路を電流が流通する時間が下限時間未満であると判断されたことに基づき、前記駆動異常が生じている旨判断する処理を行うことを特徴とする請求項2記載のスイッチング素子の駆動回路。
【請求項4】
前記異常判断手段は、前記異常判断処理として、前記定電流制御によって前記充電経路を電流が流通する時間が上限時間を上回ると判断されたことに基づき、前記駆動異常が生じている旨判断する処理を行うことを特徴とする請求項2記載のスイッチング素子の駆動回路。
【請求項5】
前記異常判断手段は、前記異常判断処理として、前記定電流制御の開始が指示されてから、前記充電経路における電流の流通が開始されるまでの時間が規定時間を上回ると判断されたことに基づき、前記駆動異常が生じている旨判断する処理を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のスイッチング素子の駆動回路。
【請求項6】
前記異常判断手段によって前記駆動異常が生じている旨判断された場合、前記駆動対象スイッチング素子をオフ状態とするフェール手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のスイッチング素子の駆動回路。
【請求項7】
前記駆動対象スイッチング素子の開閉制御端子と該駆動対象スイッチング素子をオフ状態とする電位を有する部材との間を接続する放電経路、前記駆動異常が生じている旨判断されていない場合に外部からの操作信号に応じて前記放電経路を開閉する放電用スイッチング素子、前記開閉制御端子と該駆動対象スイッチング素子をオフ状態とする電位を有する部材との間を接続するオフ用経路、及び該オフ用経路を開閉するオフ保持用スイッチング素子を備え、
前記フェール手段は、前記駆動異常が生じている旨判断された場合、前記オフ保持用スイッチング素子をオフ状態とすることを特徴とする請求項6記載のスイッチング素子の駆動回路。
【請求項8】
前記駆動異常が生じている旨判断された場合、その旨を通知する通知手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のスイッチング素子の駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−200035(P2012−200035A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60628(P2011−60628)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】