説明

スイッチング素子

【課題】スイッチング素子の動作電圧を低下させる。
【解決手段】スイッチング素子100において、絶縁性基板10と、絶縁性基板10の一面に設けられた第1電極20及び第2電極30と、第1電極20と第2電極30との間に設けられ、第1電極20と第2電極30との間への所定電圧の印加により抵抗のスイッチング現象が生じる間隙を有する電極間間隙部40と、を備え、絶縁性基板10の当該一面に窒素を含有させるよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、デバイスの小型化、高密度化に伴い、電気素子の一層の微細化が望まれている。その一例として、微細な間隙を隔てた2つの電極間(ナノギャップ電極間)に電圧を印加することにより、スイッチング動作が可能なスイッチング素子が知られている。
具体的には、例えば、酸化シリコンと金という安定な材料からなり、傾斜蒸着という簡便な製造方法により製造され、スイッチング動作を安定的に繰り返し行うことができるスイッチング素子が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、酸化シリコンに加えて、又は、酸化シリコンに代えて、窒化シリコンを用いた素子が知られている。具体的には、窒化シリコン膜を絶縁膜としたMEMS(Micro Electron Mechanical Systems)素子(例えば、特許文献2参照)や、窒化シリコン層を絶縁層とした分子素子(例えば、特許文献3参照)などがある。特許文献2及び3の素子では、窒化シリコンは、単に絶縁体としてのみ機能している。
【特許文献1】特開2005−79335号公報
【特許文献2】特開2004−306208号公報
【特許文献3】特開2006−234799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のスイッチング素子においては、動作電圧の更なる低下が望まれている。
【0005】
本発明の課題は、スイッチング素子の動作電圧を更に低下させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
絶縁性基板と、
前記絶縁性基板の一面に設けられた第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、前記第1電極と前記第2電極との間への所定電圧の印加により抵抗のスイッチング現象が生じるナノメートルオーダーの間隙を有する電極間間隙部と、
を備え、
前記絶縁性基板は、前記一面に窒素が含有されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載のスイッチング素子において、
前記絶縁性基板は、前記一面が、所定の窒化処理が施された酸化シリコンで形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、
請求項2に記載のスイッチング素子において、
前記所定の窒化処理は、プラズマ窒化処理であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、
請求項1に記載のスイッチング素子において、
前記絶縁性基板は、前記一面が、窒化シリコンで形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、
絶縁性基板と、
前記絶縁性基板の一面に設けられた第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、前記第1電極と前記第2電極との間への所定電圧の印加により抵抗のスイッチング現象が生じるナノメートルオーダーの間隙を有する電極間間隙部と、
を備え、
前記絶縁性基板は、前記一面が、プラズマ窒化処理が施された酸化シリコンで形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スイッチング素子において、絶縁性基板と、絶縁性基板の一面に設けられた第1電極及び第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられ、第1電極と第2電極との間への所定電圧の印加により抵抗のスイッチング現象が生じるナノメートルオーダーの間隙を有する電極間間隙部と、を備え、絶縁性基板は、当該一面に窒素が含有されている。
すなわち、本発明のスイッチング素子は、絶縁性基板における電極間間隙部が形成された面に窒素が含有されているため、電極間間隙部が形成された面に窒素を含有していない絶縁性基板を用いたスイッチング素子と比較して、動作電圧を更に低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明について、図面を用いて具体的な態様を説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0013】
<スイッチング素子の構成>
まず、本発明にかかるスイッチング素子100の構成について、図1〜図3を参照して説明する。
スイッチング素子100は、例えば、図1に示すように、絶縁性基板10と、絶縁性基板10の上面(一面)に設けられた第1電極20及び第2電極30と、第1電極20と第2電極30との間に設けられた電極間間隙部40と、などを備えて構成される。
【0014】
絶縁性基板10は、例えば、スイッチング素子100の2つの電極(第1電極20と第2電極30)を隔てて設けるための支持体を構成している。
【0015】
絶縁性基板10は、第1電極20及び第2電極30が設けられた一面が窒素含有領域10aとなっている。
具体的には、絶縁性基板10は、例えば、所定の基板に所定の窒化処理を施して窒素含有領域10aを形成したものや、所定の基板に窒素含有領域10aとして窒化シリコン膜を形成したものなどである。
ここで、所定の基板は、例えば、酸化シリコン(SiO)基板等であっても良いし、Si等の半導体基板の表面に酸化シリコン等の酸化膜を設けたものであっても良い。
また、窒化シリコン膜は、窒素を含むシリコン系の絶縁体であれば特に限定されるものではなく、例えば、Six、Sixyz等である。
また、所定の窒化処理は、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)などの化学的窒化処理、プラズマ窒化処理等の物理的窒化処理、スパッタリング法による窒素含有膜の成膜処理等である。
【0016】
絶縁性基板10の構造は、特に限定されるものではない。
具体的には、例えば、絶縁性基板10の表面の形状は、平面であってもよいし、凹凸を有していてもよい。
【0017】
第1電極20は、例えば、第2電極30と対になってスイッチング素子100のスイッチング動作を行うためのものである。
【0018】
第1電極20の形状は、特に限定されるものではなく、適宜任意に変更することができる。
第1電極20の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボン及びこれらの合金から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。ここで、絶縁性基板10との接着性を強化するために、例えば、異なる金属を2層以上重ねて用いても良い。具体的には、例えば、第1電極20は、クロム及び金の積層構造としても良い。
なお、図1〜図3にあっては、後述の工程説明の便宜上、第1電極20は第1電極下部21と第1電極上部22とをあわせたものとして表している。
【0019】
第2電極30は、例えば、第1電極20と対になって当該スイッチング素子100のスイッチング動作を可能にする。
【0020】
第2電極30の形状は、特に限定されるものではなく、適宜任意に変更することができる。
第2電極30の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボン及びこれらの合金から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。ここで、絶縁性基板10との接着性を強化するために、異なる金属を2層以上重ねて用いても良い。具体的には、例えば、第2電極30は、クロム及び金の積層(多層)構造としても良い。
【0021】
電極間間隙部40は、例えば、第1電極20と第2電極30との間にナノメートルオーダーの間隙を有するものであり、当該スイッチング素子100のスイッチング現象を発現する役割を具備している。
【0022】
第1電極20と第2電極30間(ナノギャップ電極間)の距離(間隔)Gは、例えば、0nm<G≦13nmであるのが好ましく、0.8nm<G<2.2nmであるのがより好ましい。
ここで、距離Gの上限値を13nmとしたのは、例えば、二回の傾斜蒸着で作成する場合には、ギャップ間隔が13nmより大きくなるとスイッチングが起きなくなるためである。
一方、距離Gの下限値は、0nmとすると第1電極20と第2電極30とが短絡していることになるからである。なお、下限値を顕微鏡測定によって決定することは困難であるが、トンネル電流が生じうる最小距離であるということができる。すなわち、下限値は、スイッチング素子が動作したときに、電流−電圧特性がオームの法則に従わずに量子力学的なトンネル効果が観測される距離の理論値である。
ここで、トンネル電流の理論式に抵抗値を代入すると、ギャップ幅の計算結果として0.8nm<G<2.2nmの範囲が求められる。
【0023】
また、電極間間隙部40(第1電極20と第2電極30との間)の直流電気抵抗は、例えば、1kΩより大きく10TΩ未満であるのが好ましく、100kΩより大きいのがより好ましい。
ここで、抵抗の上限値を10TΩとしたのは、10TΩ以上とすると、スイッチングが起きなくなるためである。一方、抵抗の下限値を1kΩとしたのは、現状では1kΩ以下に下がったことがないため、これを下限としている。
なお、スイッチとして考えると、OFF状態での抵抗は高いほど良いため、上限値はより高い値となるのが好ましいが、ON状態での抵抗が1kΩであると、mAオーダーの電流が簡単に流れてしまい、他の素子を破壊する可能性があるため、下限値は100kΩ程度とするのが好ましい。
【0024】
なお、第1電極20と第2電極30との間の最近接部位は、例えば、第1電極20と第2電極30とが対向する領域に1若しくは複数箇所形成されていても良い。
また、第1電極20と第2電極30との間には、例えば、当該第1電極20及び第2電極30の構成材料等からなる島部分(中州部分)が形成されていても良い。この場合には、例えば、第1電極20と島部分との間、第2電極30と島部分との間に所定の間隙が形成されて、第1電極20と第2電極30とが短絡していなければ良い。
【0025】
次に、スイッチング素子100の製造方法について説明する。
スイッチング素子100は、例えば、(1)絶縁性基板10の準備工程、(2)第1のレジストパターン形成工程、(3)第1の蒸着工程、(4)第1のリフトオフ工程、(5)第2のレジストパターン形成工程、(6)第2の蒸着工程、(7)第2のリフトオフ工程、(8)電界破断工程を行うことにより製造される。
【0026】
(1)絶縁性基板10の準備工程
絶縁性基板10としては、例えば、窒素含有領域10aが形成された酸化シリコン基板や、窒素含有領域10aが形成された酸化シリコン膜付きSi基板などが用いられる。
具体的には、絶縁性基板10は、例えば、酸化シリコン基板や酸化シリコン膜付きSi基板などの所定の基板に、プラズマ窒化処理等の所定の窒化処理を施して窒素含有領域10aを形成したものとする。また、絶縁性基板10は、例えば、酸化シリコン基板や酸化シリコン膜付きSi基板などの所定の基板に、蒸着やスパッタなどの公知の方法によって窒化シリコン膜(窒素含有領域10a)を形成したものとする。
【0027】
(2)第1のレジストパターン形成工程
第1のレジストパターン形成工程は、例えば、フォトリソグラフィー等を用いて行われ、絶縁性基板10に第1電極下部21を形成するためのレジストパターン60を形成する(図2参照)。
なお、レジストパターン60の厚さは、例えば、適宜任意に変更することができ、具体的には、1μmとされている。
【0028】
(3)第1の蒸着工程
第1の蒸着工程は、例えば、所定の蒸着装置を用いて行われ、第1電極下部21を形成する。
絶縁性基板10の被蒸着面は、例えば、蒸着源から被蒸着面を臨むとき傾斜するように配置される。すなわち、絶縁性基板10は、例えば、図2に示すように、被蒸着面と、蒸着源から蒸散する粒子の飛来方向とのなす角をθ1としたとき、0°<θ1<90°となるように配置される(当該蒸着方法を、以下、「傾斜蒸着」と言う)。この結果、第1電極下部21は、その先端部が絶縁性基板10(被蒸着面)に対して傾斜した形状に形成される。
なお、第1電極下部21の先端部の傾斜方向と、絶縁性基板10表面とのなす角度θ1aは、例えば、レジストパターン60の形状、絶縁性基板10表面の金属が堆積する特性及び角度θ1の大きさなどによって変更することができる。
【0029】
また、第1の蒸着工程は、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボン及びこれらの合金から選ばれる少なくとも何れか一つの物質を1回又は複数回蒸着するようになっている。具体的には、複数回の蒸着としては、例えば、クロムを蒸着後、金を蒸着することにより、2層構造の第1電極下部21を形成するようにしても良い。
ここで、第1電極下部21の厚さは、例えば、適宜任意に変更することができ、材質に金を選んだ場合には、5nm以上とされている。
【0030】
(4)第1のリフトオフ工程
第1のリフトオフ工程は、例えば、レジストパターン60の材質に適合する剥離液を用い行われ、当該工程の結果、第1電極下部21が形成されるとともに、レジストパターン60上に形成された犠牲電極21aが除去される。
【0031】
(5)第2のレジストパターン形成工程
第2のレジストパターン形成方法は、例えば、フォトリソグラフィー等を用いて行われ、第2電極30及び第1電極上部22を形成するためのレジストパターン(図示略)を形成する。
【0032】
(6)第2の蒸着工程
第2の蒸着工程は、例えば、所定の蒸着装置を用いて行われ、第2電極30を形成するとともに、付随的に第1電極上部22を形成する(図3参照)。
また、第2の蒸着工程は、例えば、傾斜蒸着により行われ、例えば、図3に示すように、被蒸着面と、蒸着源から蒸散する粒子の飛来方向とのなす角をθ2としたとき、θ1a<90°のときは、0°<θ2<θ1a<90°となるように、また、90°≦θ1aのときは、0°<θ2<90°となるように絶縁性基板10が配置される。
さらに、第2の蒸着工程は、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボン、及びこれらの合金から選ばれる少なくとも何れか一つの物質を1回又は複数回蒸着するようになっている。
【0033】
また、第2の蒸着工程により、第1電極20と第2電極30との間にナノメートルオーダーの間隙を有する電極間間隙部40が形成される。
すなわち、電極間間隙部40の形成は、例えば、第2の蒸着工程の傾斜蒸着における、蒸着粒子により形成される第1電極下部21の影を利用している。したがって、第1電極下部21の厚さ及び第2の蒸着工程における傾斜蒸着の角度θ2のうち、少なくとも何れか一方を調整することにより、所望の電極間距離Gを有する電極間間隙部40を得ることができる。
【0034】
(7)第2のリフトオフ工程
第2のリフトオフ工程は、例えば、レジストパターンの材質に適合する剥離液を用い行われ、当該工程の結果、第1電極20及び第2電極30が形成され、ナノギャップ電極が得られる。
【0035】
(8)電界破断工程
ナノギャップ電極は短絡している場合があるため、必要に応じて、当該電界破断工程を行うことが好ましい。
電界破断工程は、例えば、短絡している電極と直列に可変抵抗、固定抵抗及び電源(何れも図示略)を接続して電圧を印加する。そして、可変抵抗の抵抗値を初期値(抵抗大)からゆっくり抵抗が小さくなるように調節して、電流が流れなくなる時点で止めることにより、所望の電極間距離Gを有するナノギャップ電極を得ることができる。
【0036】
このようにして製造されたスイッチング素子100は、例えば、所定の気密封止技術を利用して所定の封止部材により内包(封止)されることによって、スイッチングデバイスを形成するようになっている。
なお、スイッチングデバイスにおいては、第1電極20及び第2電極30の各々にリード線が接続され、当該リード線は封止部材の外側に延出されるようになっている。
【0037】
なお、上記のスイッチング素子100の製造方法は、一例であって、これに限られるものではない。
【実施例】
【0038】
<スイッチング素子の特性>
次に、本発明にかかるスイッチング素子100の特性について、図4〜図8を参照して説明する。
【0039】
まず、絶縁性基板10が有する窒素含有領域10aの有効性について、図4を参照して説明する。
【0040】
図4は、電極間間隙部40(ナノギャップ電極間)に電圧を印加した場合のナノギャップ電極間の電流−電圧曲線を示す。横軸はナノギャップ電極間に印加された電圧に対応し、縦軸はナノギャップ電極間を流れた電流に対応する。
【0041】
実線で、本発明にかかるスイッチング素子100の測定結果を示す。絶縁性基板10として、酸化シリコン基板に、プラズマ窒化処理(窒素圧力:0.25mbar、プラズマ周波数:2.45GHz、処理時間:1時間)を施して窒素含有領域10aを形成したものを用いた。
比較のため、破線で、窒素含有領域10aが形成されていない酸化シリコン基板を絶縁性基板として用いたスイッチング素子の測定結果を示す。なお、破線で測定結果を示すスイッチング素子の構成は、実線で測定結果を示す本発明のスイッチング素子100の構成と比較して、絶縁性基板10が窒素含有領域10aを有していない点のみが異なる。
【0042】
図4にあっては、電圧が正の部分のみを示すが、電流−電圧曲線は、実際には0点について略点対称となっており、ナノギャップ電極間に印加される電圧及びナノギャップ電極間を流れる電流は、ナノギャップ電極の極性に依存しない。また、以下の図4についての説明にあっては、電圧が負の部分について省略するものとする。
すなわち、図4は、電流−電圧曲線のうちの、ナノギャップ電極間に印加する電圧を0Vから10Vまで掃印した部分を抜き出したものを示す。
【0043】
図4によれば、実線、破線ともに、印加する電圧が大きくなると、流れる電流が大きくなっていき、さらに、印加する電圧が大きくなると、流れる電流が小さくなっていくことが分かった。
そして、電流値が最大となる電圧値は、実線が約2.3Vであり、破線が約3Vであった。したがって、本発明にかかるスイッチング素子100(すなわち、プラズマ窒化処理で窒素含有領域10aを形成した酸化シリコン基板を絶縁性基板10に用いたスイッチング素子100)の方が、窒素含有領域10aが形成されていない酸化シリコン基板を絶縁性基板に用いたスイッチング素子よりも、動作電圧が低く、窒素含有領域10aが有効であることが分かった。
【0044】
次に、本発明にかかるスイッチング素子100の電気特性について、図5〜図7を参照して説明する。
【0045】
図5は、絶縁性基板10として、酸化シリコン基板に、プラズマ窒化処理(窒素圧力:0.25mbar、プラズマ周波数:2.45GHz、処理時間:1時間)を施して窒素含有領域10aを形成したものを用いたスイッチング素子100の測定結果である。
図6は、絶縁性基板10として、酸化シリコン基板に、プラズマ窒化処理(窒素圧力:1mbar、プラズマ周波数:2.45GHz、処理時間:1時間)を施して窒素含有領域10aを形成したものを用いたスイッチング素子100の測定結果である。
図7は、絶縁性基板10として、酸化シリコン基板に、プラズマ窒化処理(窒素圧力:1mbar、プラズマ周波数:2.45GHz、処理時間:6時間)を施して窒素含有領域10aを形成したものを用いたスイッチング素子100の測定結果である。
【0046】
図5(a)、図6(a)及び図7(a)は、電極間間隙部40(ナノギャップ電極間)に電圧を印加した場合のナノギャップ電極間の電流−電圧曲線(実線)と抵抗−電圧曲線(破線)を示す。横軸はナノギャップ電極間に印加された電圧に対応し、左の縦軸はナノギャップ電極間に流れた電流に対応し、右の縦軸はナノギャップ電極間に生じた抵抗に対応する。
なお、図5(a)、図6(a)及び図7(a)は、ナノギャップ電極間に印加する電圧を、測定開始時において0Vとし、その後、+10Vまで掃印し、次いで、−10Vまで掃印し、次いで、0Vまで掃印した測定結果である。
【0047】
図5(b)、図6(b)及び図7(b)は、電極間間隙部40(ナノギャップ電極間)に繰り返し電圧を印加して得た複数の抵抗−電圧曲線から求めた抵抗極小値の分布を示す。横軸は抵抗極小値を示したときの電圧の値(絶対値)であり、縦軸は対応する電圧値で抵抗極小値を示した回数である。ここで、抵抗極小値は、抵抗−電圧曲線の中で極小を示した抵抗値のことである。
具体的には、例えば、図5(a)の破線で示す抵抗−電圧曲線を1回分の抵抗−電圧曲線とすると、図5(b)は、ナノギャップ電極間に繰り返し電圧を印加して得た80回分の抵抗−電圧曲線から求めた抵抗極小値の分布である。例えば、図5(b)によれば、電圧が「3.0V」のとき、回数が「4回」となっているが、これは、電圧が「3.0V」のときに抵抗極小値を示した回数が80回のうち「4回」であったことを示す。
また、例えば、図6(a)に破線で示す抵抗−電圧曲線を1回分の抵抗−電圧曲線とすると、図6(b)は、ナノギャップ電極間に繰り返し電圧を印加して得た87回分の抵抗−電圧曲線から求めた抵抗極小値の分布である。例えば、図6(b)によれば、電圧が「3.0V」のとき、回数が「3回」となっているが、これは、電圧が「3.0V」のときに抵抗極小値を示した回数が87回のうち「3回」であったことを示す。
また、例えば、図7(a)に破線で示す抵抗−電圧曲線を1回分の抵抗−電圧曲線とすると、図7(b)は、ナノギャップ電極間に繰り返し電圧を印加して得た191回分の抵抗−電圧曲線から求めた抵抗極小値の分布である。例えば、図7(b)によれば、電圧が「3.0V」のとき、回数が「3回」となっているが、これは、電圧が「3.0V」のときに抵抗極小値を示した回数が191回のうち「3回」であったことを示す。
【0048】
図5(a)の電流−電圧曲線(実線)によれば、電圧が2.2V付近で電流値が最大となり、電圧が−2.1V付近で電流値が最小となることが分かった。
図5(a)の抵抗−電圧曲線(破線)によれば、電流−電圧曲線(実線)における電流値が大きく変化したときに、抵抗値が大きく減少することが分かった。
また、ナノギャップ電極間に繰り返し電圧を印加して、複数の電流−電圧曲線及び抵抗−電圧曲線を得た結果、曲線の形に再現性があることが分かった。すなわち、スイッチング動作を安定的に繰り返すことができることが分かった。
図5(b)の抵抗極小値の分布によれば、分布のピークに対応する電圧値が2.22V(図8参照)であることが分かった。
【0049】
図6(a)の電流−電圧曲線(実線)によれば、電圧が2.5V付近で電流値が最大となり、電圧が−2.8V付近で電流値が最小となることが分かった。
図6(a)の抵抗−電圧曲線(破線)によれば、電流−電圧曲線(実線)における電流値が大きく変化したときに、抵抗値が大きく減少することが分かった。
また、ナノギャップ電極間に繰り返し電圧を印加して、複数の電流−電圧曲線及び抵抗−電圧曲線を得た結果、曲線の形に再現性があることが分かった。すなわち、スイッチング動作を安定的に繰り返すことができることが分かった。
図6(b)の抵抗極小値の分布によれば、分布のピークに対応する電圧値が2.56V(図8参照)であることが分かった。また、図6(b)の抵抗極小値の分布によれば、図5(b)及び図7(b)の抵抗極小値の分布よりも、分布の形がシャープであることが分かった。
【0050】
図7(a)の電流−電圧曲線(実線)によれば、電圧が2.7V付近で電流値が最大となり、電圧が−2.6V付近で電流値が最小となることが分かった。
図7(a)の抵抗−電圧曲線(破線)によれば、電流−電圧曲線(実線)における電流値が大きく変化したときに、抵抗値が大きく減少することが分かった。
また、ナノギャップ電極間に繰り返し電圧を印加して、複数の電流−電圧曲線及び抵抗−電圧曲線を得た結果、曲線の形に再現性があることが分かった。すなわち、スイッチング動作を安定的に繰り返すことができることが分かった。
図7(b)の抵抗極小値の分布によれば、分布のピークに対応する電圧値が2.45V(図8参照)であることが分かった。
【0051】
すなわち、図5〜図7によれば、絶縁性基板10として、酸化シリコン基板に、プラズマ窒化処理を施して窒素含有領域10aを形成したものを用いたスイッチング素子100は、スイッチング動作を安定的に繰り返すことができることが分かった。
【0052】
次に、本発明にかかるスイッチング素子100(絶縁性基板10として、酸化シリコン基板に、プラズマ窒化処理を施して窒素含有領域10aを形成したものを用いたスイッチング素子100)の特性について、図8を参照して説明する。
図8には、プラズマ窒化処理の条件に対応付けて、XPS(X-ray Photoelectron spectroscopy)による窒素検出量と、図5(b)、図6(b)及び図7(b)から得た抵抗極小値の分布のピークに対応する電圧値と、を示す。
【0053】
図8に示す窒素検出量によれば、酸化シリコン基板にプラズマ窒化処理を施すと、酸化シリコン基板に窒素が含有されることが分かった。そして、処理時間が同じ場合には、窒素圧力が小さい方が窒素検出量(窒素含有量)が多く、窒素圧力が同じ場合には、処理時間が長い方が窒素検出量(窒素含有量)が多いことが分かった。
ちなみに、窒素含有領域10aが形成されていない酸化シリコン基板は、XPSにより窒素を検出することができなかった。
【0054】
図8に示す分布のピークに対応する電圧値によれば、プラズマ窒化処理の条件が、窒素圧力:0.25mbar、プラズマ周波数:2.45GHz、処理時間:1時間のものが最小値を示し、窒素圧力:1mbar、プラズマ周波数:2.45GHz、処理時間:1時間のものが最大値を示すことが分かった。これにより、プラズマ窒化処理の条件を選択することで、スイッチング素子100の動作電圧を制御することができることが分かった。
ちなみに、窒素含有領域10aが形成されていない酸化シリコン基板を絶縁性基板として用いたスイッチング素子について、分布のピークに対応する電圧値を求めたところ、2.6±0.1Vであった。したがって、本発明にかかるスイッチング素子100(すなわち、プラズマ窒化処理で窒素含有領域10aを形成した酸化シリコン基板を絶縁性基板10に用いたスイッチング素子100)の方が、窒素含有領域10aが形成されていない酸化シリコン基板を絶縁性基板に用いたスイッチング素子よりも、動作電圧が低く、窒素含有領域10aが有効であることが分かった。
【0055】
また、絶縁性基板10として、酸化シリコン基板に、窒化シリコン膜(窒素含有領域10a)を形成したものを用いたスイッチング素子100についても測定を行って、ナノギャップ電極間の電流−電圧曲線及び抵抗−電圧曲線を得た。そして、抵抗極小値の分布のピークに対応する電圧値を求めたところ、窒素含有領域10aが形成されていない酸化シリコン基板を絶縁性基板として用いたスイッチング素子の電圧値(2.6±0.1V)よりも低いことが分かった。したがって、本発明にかかるスイッチング素子100(すなわち、窒素含有領域10aとして窒化シリコン膜を形成した酸化シリコン基板を絶縁性基板10に用いたスイッチング素子100)の方が、窒素含有領域10aが形成されていない酸化シリコン基板を絶縁性基板に用いたスイッチング素子よりも、動作電圧が低く、窒素含有領域10aが有効であることが分かった。
【0056】
以上説明した本発明にかかるスイッチング素子100によれば、絶縁性基板10と、絶縁性基板10の一面に設けられた第1電極20及び第2電極30と、第1電極20と第2電極20との間に設けられ、第1電極20と第2電極30との間への所定電圧の印加により抵抗のスイッチング現象が生じるナノメートルオーダーの間隙を有する電極間間隙部40と、を備え、絶縁性基板10は、当該一面に窒素が含有された窒素含有領域10aを有している。
具体的には、絶縁性基板10としては、窒素含有領域10aが、プラズマ窒化処理が施された酸化シリコンで形成されているものや、窒化シリコンで形成されているものなどである。
すなわち、スイッチング素子100は、絶縁性基板10における電極間間隙部40が形成された面に窒素が含有されているため、例えば、図4に示すように、電極間間隙部40が形成された面に窒素を含有していない絶縁性基板を用いたスイッチング素子よりも、動作電圧を低下させることができる。
これにより、省電力化が可能となるとともに、シリコンとの親和性を向上させることができる。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行っても良い。
【0058】
上記実施形態では、所定の窒化処理をプラズマ窒化処理としたが、酸化シリコン基板等の所定の基板を窒化できる処理であれば、窒化処理の種類は任意である。
【0059】
また、上記実施形態では、第1電極20及び第2電極30を絶縁性基板10の上面に設けるようにしたが、これに限るものではなく、少なくとも電極間間隙部40が窒素含有領域10aに設けられていれば良く、例えば、第1電極20及び第2電極30を絶縁性基板10の下面に設けても良い。
【0060】
また、上記実施形態では、絶縁性基板10の上面に、第1電極20と第2電極30とを横方向に並ぶように配設したが、これに限るものではなく、少なくとも電極間間隙部40が窒素含有領域10aに設けられていれば良く、例えば、第1電極20と第2電極30とを縦方向に並ぶように配設しても良い。
具体的には、例えば、図9に示すスイッチング素子100Aのように、側面に窒素含有領域10aAが形成された凸部を有する絶縁性基板10Aと、第1電極20Aと、第1電極20Aの上方に設けられた第2電極30Aと、第1電極20Aと第2電極30Aとの間に設けられた電極間間隙部40Aと、を備える構成であっても良い。より具体的には、スイッチング素子100Aによれば、第1電極20Aは、絶縁性基板10Aの凸部でない部分の上面から凸部の側面(窒素含有領域10aA)に亘って設けられ、第2電極30Aは、絶縁性基板10Aの凸部の上面から凸部の側面(窒素含有領域10aA)に亘って設けられ、電極間間隙部40Aは、窒素含有領域10aAが形成された凸部の側面における第1電極20Aと第2電極30Aとの間に設けられている。この場合、少なくとも電極間間隙部40Aが窒素含有領域10aAに設けられていれば良く、絶縁性基板10Aにおける第1電極20Aや第2電極30Aの下面と接する面に窒素含有領域10aAが形成されていても良い。また、この場合、絶縁性基板10Aが有する凸部は、絶縁性基板上に設けられた絶縁体であっても良い。
【0061】
加えて、スイッチング素子100,100Aの構成や各部の形状などについて、上記に例示したものは一例であり、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明を適用した一実施形態として例示するスイッチング素子の要部を模式的に示す断面図である。
【図2】図1のスイッチング素子の製造工程における第1の蒸着工程を模式的に示す断面図である。
【図3】図1のスイッチング素子の要部を模式的に示す要部拡大断面図である。
【図4】絶縁性基板が有する窒素含有領域の有効性について説明するための図である。
【図5】絶縁性基板として、酸化シリコン基板に、プラズマ窒化処理(窒素圧力:0.25mbar、プラズマ周波数:2.45GHz、処理時間:1時間)を施して窒素含有領域を形成したものを用いたスイッチング素子の、電流−電圧曲線(実線)と抵抗−電圧曲線(破線)を示す図(a)と、抵抗極小値の分布を示す図(b)と、である。
【図6】絶縁性基板として、酸化シリコン基板に、プラズマ窒化処理(窒素圧力:1mbar、プラズマ周波数:2.45GHz、処理時間:1時間)を施して窒素含有領域を形成したものを用いたスイッチング素子の、電流−電圧曲線(実線)と抵抗−電圧曲線(破線)を示す図(a)と、抵抗極小値の分布を示す図(b)と、である。
【図7】絶縁性基板として、酸化シリコン基板に、プラズマ窒化処理(窒素圧力:1mbar、プラズマ周波数:2.45GHz、処理時間:6時間)を施して窒素含有領域を形成したものを用いたスイッチング素子の、電流−電圧曲線(実線)と抵抗−電圧曲線(破線)を示す図(a)と、抵抗極小値の分布を示す図(b)と、である。
【図8】プラズマ窒化処理の条件と、XPSによる窒素検出量と、抵抗極小値の分布のピークに対応する電圧値と、の関係を示す図である。
【図9】本発明を適用した一変形例として例示するスイッチング素子の要部を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
10,10A 絶縁性基板
20,20A 第1電極
30,30A 第2電極
40,40A 電極間間隙部
100,100A スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板と、
前記絶縁性基板の一面に設けられた第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、前記第1電極と前記第2電極との間への所定電圧の印加により抵抗のスイッチング現象が生じるナノメートルオーダーの間隙を有する電極間間隙部と、
を備え、
前記絶縁性基板は、前記一面に窒素が含有されていることを特徴とするスイッチング素子。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング素子において、
前記絶縁性基板は、前記一面が、所定の窒化処理が施された酸化シリコンで形成されていることを特徴とするスイッチング素子。
【請求項3】
請求項2に記載のスイッチング素子において、
前記所定の窒化処理は、プラズマ窒化処理であることを特徴とするスイッチング素子。
【請求項4】
請求項1に記載のスイッチング素子において、
前記絶縁性基板は、前記一面が、窒化シリコンで形成されていることを特徴とするスイッチング素子。
【請求項5】
絶縁性基板と、
前記絶縁性基板の一面に設けられた第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、前記第1電極と前記第2電極との間への所定電圧の印加により抵抗のスイッチング現象が生じるナノメートルオーダーの間隙を有する電極間間隙部と、
を備え、
前記絶縁性基板は、前記一面が、プラズマ窒化処理が施された酸化シリコンで形成されていることを特徴とするスイッチング素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−4643(P2009−4643A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165393(P2007−165393)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(505303059)株式会社船井電機新応用技術研究所 (108)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】