説明

スイッチング電源回路

【課題】リアクトルとセンサコイルとの誘導結合を実現するためのコアをチョッパ回路の全てにおいて共通にして、インターリーブ型力率改善回路を小型化しつつ、リップル率及びリアクトル損失の双方を改善する。
【解決手段】インターリーブ型力率改善回路3において一対のリアクトルL1,L2同士は高電源線LH側から見て同極性で誘導結合する。リアクトルL1,L2の自己インダクタンス値Lは互いに等しい。リアクトルL1,L2間の相互インダクタンスMを導入して、カップリングファクタα=M/Lが定義される。カップリングファクタαは値0.01〜0.50を採る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインダクタに関し、特にインターリーブで動作する一対の力率改善回路として採用できるスイッチング電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、臨界モードかつインターリーブで動作する一対の力率改善回路(以下、単に「インターリーブ型力率改善回路」と称す)が開示されている。インターリーブ型力率改善回路では、昇圧型のチョッパ回路の一対が並列接続されており、リアクトル、ダイオード、スイッチング素子を有している。
【0003】
非特許文献2には、インターリーブ型力率改善回路において、一対のリアクトルが誘導結合する場合について説明されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】喜多村 守、「1.5kWの低ノイズ高調波対策電源を作れる臨界モード/インターリーブPFC IC R2A20112」、トランジスタ技術2008年5月号、CQ出版株式会社、2008年8月、第176頁乃至第184頁
【非特許文献2】Wei Wen and Yim-Shu Lee, “A Two-channel Interleaved Boost Converter with Reduced Core Loss and Copper Loss”,2004-35th Annual IEEE Power Electronics Specialists Conference,2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2では、インターリーブ型力率改善回路において、一対のリアクトルが入力電流からみて同極性で誘導結合する場合の入力電流のリップル改善について示されているが、リアクトル損失について考慮されておらず、カップリングファクタについての適切な設定が示されていなかった。
【0006】
以上のことから、本願発明は、リアクトルとセンサコイルとの誘導結合を実現するためのコアをチョッパ回路の全てにおいて共通にして、インターリーブ型力率改善回路を小型化しつつ、誘導結合の適切な範囲を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかるスイッチング電源回路(3)は、低電源線(LL)と、前記低電源線よりも高い電位が印加される高電源線(LH)と、前記高電源線に接続された一端と、他端とを有する第1リアクトル(L1)と、前記高電源線に接続された一端と、他端とを有する第2リアクトル(L2)と、カソード及び前記第1リアクトルの前記他端に接続されたアノードを有する第1ダイオード(D1)と、カソード及び前記第2リアクトルの前記他端に接続されたアノードを有する第2ダイオード(D2)と、前記第1リアクトルの前記他端及び前記第1ダイオードの前記アノードと、前記低電源線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1)と、前記第2リアクトルの前記他端及び前記第2ダイオードの前記アノードと、前記低電源線との間で設けられる第2のスイッチング素子(S2)と、前記第1ダイオードの前記カソードと前記第2ダイオードの前記カソードとに接続される一端と、前記低電源線に接続される他端とを有するコンデンサ(C)とを備える。
【0008】
そして、前記第1リアクトルのインダクタンス値(L)と、前記第2リアクトルのインダクタンス値(L)とは等しく、前記第1リアクトルと前記第2リアクトルとは前記高電源線から見て同極性で誘導結合し、前記誘導結合のカップリングファクタ(α=M/L)は値0.01〜0.50を採ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
カップリングファクタが値0.01未満では、高電源線と低電源線との間に供給される直流電流のリップル率の改善に乏しい。カップリングファクタが値0.50を越えるとリアクトル損失が改善されない。よってこの発明にかかるスイッチング電源回路によれば、リップル率及びリアクトル損失の双方が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるインターリーブ型力率改善回路の構成を示す回路図である。
【図2】インターリーブ型力率改善回路の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示されるインターリーブ型力率改善回路3は、スイッチング素子S1,S2、ダイオードD1,D2、インダクタ10及びコンデンサCを有している。コンデンサCには並列に負荷4が接続されている。
【0012】
整流回路2には交流電源1から交流の入力電流Iinが入力する。整流回路2は入力電流Iinを例えば全波整流してインダクタ10へと直流電流Idを供給する。
【0013】
インダクタ10はリアクトルL1,L2を有している。リアクトルL1,L2はいずれも、高電源線LHに接続された一端と、他端とを有する。
【0014】
ダイオードD1のアノードはリアクトルL1の他端に接続され、ダイオードD2のアノードはリアクトルL2の他端に接続される。
【0015】
スイッチング素子S1はリアクトルL1の他端及びダイオードD1のアノードと、低電源線LLとの間に設けられる。スイッチング素子S2はリアクトルL2の他端及びダイオードD2のアノードと、低電源線LLとの間に設けられる。
【0016】
コンデンサCは、ダイオードD1、D2の両方のカソードに接続される一端と、低電源線LLに接続される他端とを有する。
【0017】
インダクタ10において、黒丸はリアクトルL1,L2同士の誘導結合の極性を示す。リアクトルL1,L2同士は高電源線LHから見て同極性で誘導結合する。リアクトルL1の黒丸とリアクトルL2の黒丸とは隣接して示されている。
【0018】
リアクトルL1,L2の自己インダクタンス値はいずれも値Lであり、相互インダクタンス値Mで誘導結合する。
【0019】
上述のように構成されたインターリーブ型力率改善回路3を臨界モード型のインターリーブ方式で駆動させるため、スイッチング素子S1,S2にはそれぞれ信号G1、G2が供給され、それぞれの導通/非導通が制御される。
【0020】
具体的にはリアクトルL1,L2にそれぞれ流れる電流I1,I2を検出し、公知技術によってそれぞれが最小値を採るタイミングを検出する。コンデンサCの両端電圧Vdc及びその指令値Vdc*と上記の当該タイミングに基づいて制御部6がスイッチング信号G1,G2を生成すればよい。スイッチング信号G1,G2を生成し、当該信号G1、G2に基づいてインターリーブ型力率改善回路3を臨界モード型のインターリーブ方式で駆動させる技術は公知技術であるので、ここでは詳細な説明を割愛する。
【0021】
図2は、インターリーブ型力率改善回路3の特性を示す波形図である。横軸にはカップリングファクタαを採り、左側縦軸にはリアクトル損失を、右側縦軸には直流電流Idにおけるリップルを、それぞれ採っている。四角でプロットされたグラフは当該リップルを、丸でプロットされたグラフはリアクトル損失を、それぞれ示している。
【0022】
ここでカップリングファクタαは、相互インダクタンス値MをリアクトルL1,L2の自己インダクタンス値Lで除した値となる。
【0023】
但しカップリングファクタαが0の場合は、リアクトルL1、L2がそれぞれ個別の磁芯を備えている場合である。
【0024】
カップリングファクタαが増大するほど相互インダクタンス値Mは大きく、リアクトルL1,L2の見かけ上のインダクタンス値(L−M)は、相互インダクタンス値Mが大きいほど減少する。よってリアクトルL1,L2の各々を流れる電流のリップルは増大する。しかし上記非特許文献2等で既に知られているように、リアクトルL1、L2が高電源線LHから見て同極性で誘導結合することにより、直流電流Idにおけるリップルは小さくなる。
【0025】
よってカップリングファクタαが大きいほどリップルは低減するものの、カップリングファクタαが0.01未満では、直流電流Idのリップル率の改善に乏しい。よってカップリングファクタαは0.01以上であることが望ましい。
【0026】
他方、リアクトルL1,L2の各々を流れる電流のリップルが増大するほど、それぞれのリアクトルL1,L2におけるリアクトル損失が増大する。よってカップリングファクタαが増大するほど、リアクトル損失は増大する。
【0027】
よって、カップリングファクタαが小さい領域で、リアクトル損失がカップリングファクタαが0である場合よりも小さい領域が存在する。
【0028】
具体的にはカップリングファクタαが0.5以下のリアクトル損失は、カップリングファクタαが0である場合(つまりリアクトルL1、L2がそれぞれ個別の磁芯を備えている場合)のリアクトル損失(ここでは10W)以下となる。換言すれば、カップリングファクタが値0.50を越えるとリアクトル損失が改善されない。
【0029】
以上のことから、リップル率及びリアクトル損失の双方を改善するためには、カップリングファクタαが値0.01〜0.50を採ることが望ましい。
【符号の説明】
【0030】
LL 低電源線
LH 高電源線
L1,L2 リアクトル
D1,D2 ダイオード
S1,S2 スイッチング素子
C コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低電源線(LL)と、
前記低電源線よりも高い電位が印加される高電源線(LH)と、
前記高電源線に接続された一端と、他端とを有する第1リアクトル(L1)と、
前記高電源線に接続された一端と、他端とを有する第2リアクトル(L2)と、
カソード及び前記第1リアクトルの前記他端に接続されたアノードを有する第1ダイオード(D1)と、
カソード及び前記第2リアクトルの前記他端に接続されたアノードを有する第2ダイオード(D2)と、
前記第1リアクトルの前記他端及び前記第1ダイオードの前記アノードと、前記低電源線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1)と、
前記第2リアクトルの前記他端及び前記第2ダイオードの前記アノードと、前記低電源線との間で設けられる第2のスイッチング素子(S2)と、
前記第1ダイオードの前記カソードと前記第2ダイオードの前記カソードとに接続される一端と、前記低電源線に接続される他端とを有するコンデンサ(C)と、
を備え、
前記第1リアクトルの自己インダクタンス値(L)と、前記第2リアクトルの自己インダクタンス値(L)とは等しく、
前記第1リアクトルと前記第2リアクトルとは前記高電源線から見て同極性で誘導結合し、
前記誘導結合のカップリングファクタ(α=M/L)は値0.01〜0.50を採ることを特徴とするスイッチング電源回路(3)。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−115887(P2013−115887A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258651(P2011−258651)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】