説明

スイッチング電源用信号伝達トランス及びスイッチング電源装置

【課題】伝達する信号の種類や用途に見合った適切で安定なインダクタンス及び磁気結合を得ることができ、小型で安価なスイッチング電源装置用信号伝達トランスとスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】基板12に同心状に形成された複数のコイルパターン24a,24bと、コイルパターン24a,24bに近接配置されたコア14とを備える。コア14は、底板部18と、底板部18の左右側端から底板部18に対して垂直方向に立設した一対の脚部20a,20bとで成る。一対の脚部20a,20bは、同心状に配置された複数のコイルパターン24a,24bの、巻線中心及び巻線外側に形成された貫通孔32及び切り欠き34に各々挿入される。コア14の磁気回路は、コア14内及び一対の脚部20a,20bの間の空間を介して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回路素子を実装して電源回路が構成される基板に形成された複数のコイルパターン、及びそのコイルパターンに近接配置されたコアにより構成されたスイッチング電源用信号伝達トランス及びスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源回路では、電力伝送用の主トランスの他に、スイッチング用のトランジスタ素子の駆動パルスや各種の交流信号を伝達する信号伝達用トランス等が用いられている。近年、電源回路の高密度実装の要請により、絶縁部材であるボビンを省略することによって小型化を図ったトランスが用いられるようになった。例えば、回路素子が実装される基板内に外部から絶縁されたコイルパターンを形成し、その近傍にコアを装着した形態のトランスもその一つである。
【0003】
従来、この種のトランスとして、例えば、特許文献1に開示された磁気デバイスがある。この磁気デバイスは、E型コア及びI型コアを組み合わせたコア(磁性体)と、コイルパターン(導電性コイル)が形成された基板とで構成したトランスで、一般的なスイッチング電源装置にも使用されている形態である。具体的には、E型コアの中央脚部が、コイルパターンの巻線中心に設けられた貫通孔(開口部)に挿入され、一対の外脚部が、コイルパターンの巻線外側に設けられた一対の貫通孔(開口部)に挿入される。そして、あらかじめ基板の反対側から3つの貫通孔を塞ぐように固定されたIコアに、E型コアの中央脚部と外脚部の先端を当接させ、その当接面に塗布された接着剤によって一体に固定されている。
【0004】
また、特許文献2に開示されているように、移動体無線等の分野で使用されるトランスであって、基板の表裏両面に一次、二次のコイルパターン(インダクタパターン)を同心状に形成し、巻線中心に貫通孔(挿入孔)を設け、この貫通孔内にコア(磁性体)を挿入したトランスがある。そして、1つのコアを使用した構成として、貫通孔内にI型コア又はT型コアの中脚部を挿入した実施例が示されており、2つのコアを使用した構成として、2つのT型コアの中央脚部を貫通孔の両側から挿入した実施例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−507167号公報
【特許文献2】特開平5−90028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の磁気デバイスは、閉磁路構造のコアによってコイルのインダクタンスや各コイル間の磁気結合を極めて高くすることができる反面、2つのコアを組み付けたとき、当接面の面合わせ状態が僅かにずれるだけで、インダクタンスが数十パーセントもばらつくことがある。従って、このようなインダクタンスの不安定さを吸収できるように周辺回路の調整を行わなければならず、回路設計や評価が面倒であった。また、例えば、スイッチング電源回路の各種信号伝達用トランスは、その回路動作上の役割や使用形態によって、さほど高いインダクタンスが必要ない場合がある。従って、2つのコアを使用したトランスの形態は、過剰に高いインダクタンスが得られるだけで、コアの部材費を上昇させ、さらに組み立て難いという問題を生じさせていた。また、この磁気デバイスの場合、3つの脚部を挿入するため、基板に3つの貫通孔を設けなくてはならず、他の回路素子の実装スペースが制限される問題もあった。その結果、スイッチング電源装置全体の小型化も妨げられていた。
【0007】
一方、特許文献2のトランスの場合、1つのコアを使用した構成では、インダクタンスや磁気結合が低くなってしまうため、数百MHz〜数GHzで動作する移動体無線等の高周波回路では問題とはならないが、100kHz〜数MHzで動作する一般的なスイッチング電源装置には適さないものであった。また、2つのコアを使用した構成では、インダクタンスや磁気結合は向上するが、コアがコストアップしたり、組み立てにくいという問題があった。
【0008】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、伝達する信号の種類や用途に見合った適切で安定なインダクタンス及び磁気結合を得ることができ、小型で組み立て易く、安価なスイッチング電源用信号伝達トランスを提供し、また小型で安価なスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、回路素子を実装して電子回路が構成される基板に同心状に形成された複数のコイルパターンと、前記複数のコイルパターンに近接配置されたコアとを備えたスイッチング電源用信号伝達トランスであって、前記コアは、底板部と前記底板部の左右側端から前記底板部に対して垂直方向に立設した一対の脚部とで成るU字形状に形成され、前記一対の脚部は、同心状に配置された前記複数のコイルパターンの巻線中心及び巻線外側に形成された一対の挿通孔に各々挿入され、前記コアの磁気回路は、前記コア内及び前記一対の脚部の間の空間を介して形成されるスイッチング電源用信号伝達トランスである。
【0010】
また、前記一対の脚部は、前記基板の表面側から前記挿通孔に挿入され、その先端部が前記基板の裏面側から突出し、前記コアの磁気回路は、前記コア内及び前記一対の脚部の先端部間の空間を介して形成されるものである。
【0011】
また、前記コイルパターンの巻線外側に形成された挿通孔を、基板の端部に設けた切り欠き部分、又は基板の内側部の前記回路素子実装用透孔に連続して設けた切り欠き部分により形成したものでもよい。
【0012】
また、前記一対の脚部は、先端の外側角部同士または内側角部同士が一対に面取りされていることが好ましい。
【0013】
前記コアは、前記基板に実装された回路素子をリフローはんだ付けする時の加熱によって硬化した熱硬化型接着剤を介して前記基板に接着固定されたものである。
【0014】
またこの発明は、ゲート端子等の駆動端子とソース端子等のグランド端子間の電圧に応じてオン・オフ動作する第一のトランジスタ素子と、前記第一のトランジスタ素子のオンのタイミングを示すタイミング信号を出力する制御回路とを有し、前記第一のトランジスタ素子のグランド端子の電位と前記制御回路のグランド電位とが異なるスイッチング電源装置である。さらに、コンデンサと抵抗で構成され、前記制御回路の出力したタイミング信号を微分する微分回路と、ベース端子等の駆動端子及びエミッタ端子等のグランド端子が前記微分回路の出力両端に各々接続された第二のトランジスタ素子と、入力巻線と出力巻線とを有し、前記入力巻線が直流電源と前記第二のトランジスタ素子の能動端子との間に接続された前記スイッチング電源用信号伝達トランスである絶縁トランスと、前記出力巻線にハイレベルの電圧が発生したタイミングで前記第一のトランジスタ素子をオンさせる駆動回路と、で構成されたタイミング信号伝達回路を備え、前記制御回路が出力するタイミング信号は、前記第一のトランジスタ素子をオンさせようとするタイミングでローレベルからハイレベルに反転する矩形波電圧であり、前記第二のトランジスタ素子は、前記微分回路の出力が自身の駆動端子閾値電圧を超えたときにオンし、そのオン期間に前記出力巻線にハイレベルを示す矩形波電圧である駆動信号を発生させ、前記駆動回路は、前記駆動信号がハイレベルの期間が経過した後の所定の期間、前記第一のトランジスタ素子を継続してオンさせることを特徴とするスイッチング電源装置である。
【0015】
前記微分回路の前記コンデンサ及び前記抵抗で定まる時定数は、微分出力電圧が前記第二のトランジスタの駆動端子閾値電圧よりも高くなる期間が、20〜200nsecとなるように時定数が設定されているものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明のスイッチング電源用信号伝達トランスは、基板に形成されたコイルパターンが発生させる磁束の経路のうち、コイルパターンの幅方向の一辺と厚み方向の2辺にU字形状のコアが近接配置されるため、一定以上の高いインダクタンスと磁気結合を得ることができる。また、コイルパターンのインダクタンスは、当該コアの形状によってほぼ一律に定まるので、特性のばらつきが小さく性能の安定したトランスを構成することができる。また、スイッチング電源装置の高さ方向の外形寸法に余裕があれば、コアの脚部の先端を貫通孔から外に突出するよう構成することによって、より高いインダクタンスと磁気結合を得ることができる。
【0017】
また、コアの一対の脚部先端の外側角部同士または内側角部同士に面取りを施すことによって、コアを基板の挿通孔に挿入する作業を円滑に行うことができる。また、基板上に熱硬化型接着剤を塗布し、その上からコアを押し当てて取り付ける構造にすれば、コアも他の回路素子と同様に自動マウントすることができ、しかも、回路素子をはんだ付けするリフロー炉を通過させれば、同時に熱硬化型接着剤も硬化させることができるので、非常に効率よく組み立てることができる。
【0018】
また、この発明のスイッチング電源装置は、絶縁トランスのコアの外形を、組み立てる時の取り扱いが容易な一定以上の大きなサイズであって、且つ、適正なインダクタンスと回路動作中の磁気飽和に対する適度な余裕を備えた可及的に小さなサイズにする、という相反する2つの条件をバランスよく満たす外形に設定することができる。その結果、小型で組み立て易く安価なスイッチング電源装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明のスイッチング電源用信号伝達トランスの第一の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】この実施形態のコアを示す斜視図である。
【図3】この発明のスイッチング電源装置の第一の実施形態の外観を示す平面図(a)、正面図(b)、下面図(c)である。
【図4】この実施形態における絶縁トランスを用いた回路部分を示す回路図(a)、当該回路の動作を示すタイムチャート(b)である
【図5】この発明のスイッチング電源用信号伝達トランスの第二の実施形態を示す縦断面図である。
【図6】この発明のその他の実施形態である、コアの脚部を挿入するために基板に設けた挿通孔の2つ形状例を示す平面図(a)(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明のスイッチング電源用信号伝達トランス及び当該トランスを用いたスイッチング電源装置の第一の実施形態について、図1〜図4に基づいて説明する。第一の実施形態のスイッチング電源装置用信号伝達トランスである基板トランス10は、図1に示すように、回路素子が実装された基板12に、強磁性体であるフェライト等で形成されたコア14を装着することによって構成され、後述するスイッチング電源装置16内で所定の信号伝達を行うトランスとして使用される。
【0021】
コア14は、図2に示すように、底板部18とその左右側端から垂直方向に立設された一対の脚部20a,20bとで成るU字形状を有している。底板部18の外形は、幅が約5mm、奥行きが約3mmで、一般的なコアよりもかなり小型であるが、この程度の大きさがあれば、コア14単体の検査やコア14を基板12に装着する時などにも取り扱いが容易である。また、脚部20a,20bは、先端部の外側角部同士がほぼ対称に面取りされ、傾斜面22a,22bが設けられている。
【0022】
図1に示す基板トランス10の状態で、後述するコイルパターン24a,24bに電流が流れると、発生した磁束は、コア14の脚部20a、底板部18、脚部20b、及び脚部20a,20b間の空間を経由する磁気回路を形成する。脚部20a,20b及び底板部18の断面積を均一にすれば、コア14内の磁束密度が磁路内でほぼ均一になり、コア14外形を最も効率よく小型化することができるが、ここでは、コア14の強度や取り扱いの容易性、及び、スイッチング電源装置16内の部品配置上の制約等に鑑みて、脚部20a,20bの断面積はほぼ等しく、底板部18の断面積は、脚部20a,20bよりもやや大きくなるように設定されている。
【0023】
基板12は、図3に示すように、表面及び裏面に多数の回路素子26が実装され、スイッチング電源装置16を構成する。基板12は、表面、裏面及び基材内部に複数の配線層を有し、各配線層に図示しない配線パターンが形成され、回路素子26の各端子を導通可能に接続している。
【0024】
基板トランス10は、基板12の一方の長辺側の端部に設けられ、基板トランス10の巻線は、表層28に設けられた一次側のコイルパターン24aと、裏層30に二次側のコイルパターン24bであり、コイルパターン24a,24bが互いに対向するように同心の渦巻き状に形成されている。また、渦巻き状のコイルパターン24a,24bの内側端部は、スルーホールを介して他の配線層の配線パターンに各々接続され、外側に引き出されている。なお、基板トランス10が有する2つの巻線は他の構造に変更することも可能で、例えば、コイルパターン24a,24bを同一の配線層に設けてもよいし、異なる配線層に設けたコイルパターンを、スルーホールを介して直列又は並列に接続し、1つのコイルパターン24a又は24bとする構造にしてもよい。
【0025】
さらに、コイルパターン24a,24bの巻線中心に、コア14の脚部20aがゆとりをもって挿入可能な挿通孔である矩形の貫通孔32が設けられている。同じくコイルパターン24a,24bの巻線外側であって基板12の端部に、コア14の脚部20bがゆとりをもって収容可能な挿通孔である矩形の切り欠き34が設けられている。
【0026】
コア14を取り付けるときは、コイルパターン24a上面の貫通孔32と切り欠き34に挟まれた部分に熱硬化型接着剤36を塗布し、その後、図1に示すように、脚部20a,20bを上方から貫通孔32と切り欠き34の中に誘導し、熱硬化型接着剤36を介して底板部18をコイルパターン24a上面に押し当てる。そして、熱硬化型接着剤36を硬化させることによってコア14が固定され、基板トランス10の組み立てが完了する。
【0027】
このとき、脚部20a,20bは、基板12の厚みよりも長いので、脚部20a,20bが基板12の裏面から突出し、表層28のコイルパターン24aと裏層30のコイルパターン24bの中心を十分に貫通している。また、脚部20a,20bの突出高さは、裏面に実装される他の回路素子26よりも低くなるように設定されているので、スイッチング電源装置16の薄型化を妨げることはない。
【0028】
以上の構成を備えた基板トランス10は、コイルパターン24a,24bに電流が流れることによって発生する磁束の経路のうち、コイルパターン24a.24bの幅方向の一辺と厚み方向の2辺にU型形状のコア14が近接配置されるため、一定以上の高いインダクタンスを得ることができる。特に、ここでは、コア14の脚部20aが2つのコイルパターン24a,24bの巻線中心を貫通しているので、コイルパターン24a,24bにより発生した磁束は、コア14の脚部20a、底板部18、脚部20b、及び脚部20a,20bの先端部間の空間を経由する磁気回路を通過する。従って、高いインダクタンスが得られると共に、コイルパターン24a,24bの磁束が互いに鎖交しやすくなって磁気結合も向上する。また、コイルパターン24a,24bのインダクタンスは、コア14の形状によってほぼ一律に定まるので、トランスの組立に起因する特性のばらつきが小さく性能の安定したトランスを構成することができる。
【0029】
また、コア14の脚部20a,20bの先端角部に傾斜面22a,22bが設けられているので、脚部20a,20bを基板12の貫通孔32及び切り欠き34に挿入する作業を円滑に行うことができる。また、基板12上に熱硬化型接着剤36を塗布し、その上からコア14を押し当てて取り付ける構造のため、コア14も他の回路素子26と同様に自動マウントすることができ、しかも、回路素子26をはんだ付けするリフロー炉を通過させれば、同時に熱硬化型接着剤36も硬化させることができるので、基板トランス10を効率よく組み立てることができる。
【0030】
また、熱硬化型接着剤は、基板12の表層28に形成されたコイルパターン24aとコア14との接触を防止する働きもする。従って、例えば、コイルパターン24aの表面にレジスト等の絶縁コーティングがなされていない場合でも、容易に絶縁を確保することができる。
【0031】
次に、この基板トランス10が用いられたスイッチング電源装置16内の回路部分38の構成と動作について、図4に基づいて説明する。この回路部分38は、スイッチングFET40を所定のタイミングで制御する回路部分であり、ここでは、オフタイミングを制御する回路として用いている。この回路部分38は、制御回路41、タイミング信号伝達回路42、駆動回路43、第一のトランジスタ素子である補助FET54及びスイッチングFET40で構成されている。なお、上述した基板トランス10は、後述するタイミング信号伝達回路42の中で、絶縁トランスとして使用されている。
【0032】
スイッチングFET40は、例えば、アクティブクランプ方式のスイッチング電源回路において、主トランスの一次巻線と並列に設けられたクランプコンデンサの接続を断続するためのスイッチングFET、あるいは、同期整流方式のスイッチング電源において、主トランスの二次巻線側に接続された同期整流素子としてのスイッチングFET等であり、ここでは、N−chのMOS型FETである。
【0033】
制御回路41は、スイッチングFET40のソース端子の電位と異なるグランド電位を有し、スイッチングFET40のオフのタイミングを示すタイミング信号V1を出力する。このタイミング信号V1は、スイッチングFET40をオフさせようとするタイミングでローレベルからハイレベルに反転する矩形波電圧である。
【0034】
タイミング信号伝達回路42は、タイミング信号V1をコンデンサ44aと抵抗44bとで微分する微分回路44と、第二のトランジスタ素子であるNPNトランジスタ46を備え、NPNトランジスタ46のベース・エミッタ端子間が微分回路44の出力である抵抗44bの両端に接続されている。このとき、コンデンサ44aと抵抗44bで定まる時定数は、タイミング信号V1を微分した出力電圧が、NPNトランジスタ46のオンの閾値電圧よりも高くなる期間が、20〜200nsecの範囲、好ましくは、40〜100nsecの範囲となるように時定数が設定されている。
【0035】
さらに、タイミング信号伝達回路42は、絶縁トランスである基板トランス10を備え、基板トランス10の入力巻線であるコイルパターン24aが、制御用の直流電圧Vccを供給する直流電源48とNPNトランジスタ46のコレクタタ端子の間に接続されている。また、コイルパターン24aと並列に、カソード端子が直流電源48側に配置されたダイオード50が接続されている。一方、出力巻線であるコイルパターン24bは、両端に発生する駆動信号V2を、後段に接続された駆動回路43に向けて出力する。なお、コイルパターン24a,24bに付したドットは、磁気結合の極性を示している。
【0036】
駆動回路43は、駆動信号V2がハイレベルになると、補助FET54をオンさせることで、スイッチングFET40のゲート・ソース端子間の電位をローレベルに引き下げ、スイッチングFET40をオフさせる回路である。
【0037】
駆動回路43は、コイルパターン24bのドットが付された向きに発生する駆動信号V2を整流する整流ダイオード52と、その整流電圧を蓄えるコンデンサ58と、コンデンサ58の電荷を放電する放電抵抗56で構成されている。そして、駆動回路43の出力が、補助FET54のゲート端子とソース端子に接続され、補助FET54のドレイン端子及びソース端子が、スイッチングFET40のゲート端子及びソース端子に接続されている。すなわち、スイッチングFET40は、補助FET54がオンしたときにオフする構成になっている。
【0038】
タイミング信号伝達回路42に入力されるタイミング信号V1は、例えば図4(b)に示すように、一定周期T(例えば、スイッチング周波数である数百kHzの一周期)ごとにローレベルからハイレベルに反転する矩形波電圧である。タイミング信号V1が微分回路44に入力され、タイミング信号V1の微分電圧がNPNトランジスタ46のベース・エミッタ端子間に印加されると、タイミング信号V1がハイレベルに反転した時から非常に短い期間t2の間(例えば、20〜200nsec)、NPNトランジスタ46がオンする。すると、コイルパターン24aの両端に直流電圧Vccが印加され、コイルパターン24bの両端に、期間t2の間だけハイレベルを示す駆動信号V2が発生する。なお、ダイオード50は、基板トランス10が励磁エネルギーを放出するリセット動作時に動作するダイオードで、コイルパターン24a,24bに負方向(ドットと逆の方向)に高電圧が発生するのを抑制し、且つ、基板トランス10の偏磁を防止するためリセット動作が円滑に行われよう補助する働きをする。このダイオード50は、必要に応じて削除してもよい。
【0039】
駆動回路43のコンデンサ58は、駆動信号V2がハイレベルを示す期間t2になるとハイレベルの電圧を蓄えて、補助FET54をオンし、スイッチングFET40がオフする。また、期間t2が経過して駆動信号V2が低下しても、整流ダイオード52とコンデンサ58の存在によって、補助FET54のゲート・ソース端子間電圧が、オンの閾値以上の電圧に保持され、放電抵抗56によってコンデンサ58の電圧が低下するまでの所定の期間、補助FET54のオンが維持されることで、スイッチングFET40のオフを継続することができる。
【0040】
以上のようにスイッチング電源装置16では、タイミング信号伝達回路42の絶縁トランスとして、取り扱いが容易で且つ小型外形のコア14と、当該小型外形のコア14にも十分に対応可能な少ない巻数のコイルパターン24a,24bとで成る基板トランス10を用いることにより、容易に構成することが可能である。すなわち、タイミング信号伝達回路42は、ごく短いパルス幅t2であって、小電力のパルス信号を伝送する働きをする回路のため、非常に小型で簡単な構成の基板トランス10であっても、信号伝送用トランスとして十分なインダクタンスと飽和特性をバランスよく実現することができ、小型で安価なスイッチング電源装置16を得ることができる。
【0041】
また、回路部分38では、スイッチングFET40のオフタイミングを制御する例を述べたが、補助FET54のドレイン端子に適当な直流電圧を与え、ソース端子をスイッチングFETのゲート端子に接続することで、スイッチングFETのオンタイミングを制御する回路を構成することも可能である。さらには、コンデンサ58は、補助FET54のゲートとソース端子間に存在する寄生容量で代用しても構わない。
【0042】
次に、本発明のスイッチング電源用信号伝達トランスの第二の実施形態について、図5に基づいて説明する。ここで、第一の実施形態の基板トランス10と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。第二の実施形態の基板トランス60は、基板トランス10と同様に、回路素子が実装された基板12に、コア62を装着することによって構成され、スイッチング電源装置16内の信号伝達用のトランスとして動作する。
【0043】
基板トランス60を構成するコア62は、上記実施形態の基板トランス10のコア14と異なり、脚部20a,20b先端の内側角部同士がほぼ対称に面取りされ、傾斜面64a,64bが設けられている。また、コイルパターン24a,24bは、他の回路素子26の部品配置上の都合により、基板12の端部からやや内側に入った部分に形成されている。従って、コア62の脚部20aは、コイルパターン24a,24bの巻線中心に設けられた貫通孔32に挿入され、脚部20bは、コイルパターン24a,24bの巻線外側に設けられた貫通孔66に挿入されている。その他の構成は、基板トランス10と同様である。
【0044】
貫通孔32,66と脚部20a,20bとのクリアランスの関係によっては、脚部20a,20bの傾斜面の位置は、外側角部ではなく内側角部に設けた方が、取り付け時の作業性がよい場合がある。基板トランス60の場合は、貫通孔32,66と脚部20a,20bとのクリアランスの関係で、内側角部に設けた方が都合がよい。このように、傾斜面を外側角部と内側角部のいずれに設けるかは、作業の効率化とインダクタンス特性への影響などを考慮して選択すればよく、両方に設けてもよい。
【0045】
なお、この発明のスイッチング電源用信号伝達トランスは、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、コアの底板部及び一対の脚部は、必ずしも上述のU字形状である必要はなく、一対の脚部を基板の貫通孔や切り欠きに円滑に挿入可能な構造であれば、例えば、脚部に設けた傾斜面を曲面状に変更したり、コアの外側角部を欠け防止目的で面取りしたリ、一対の脚部を異なる長さにして基板に取り付け易くする等、コアの形状を略U字形状の範囲で自由に調整することができる。
【0046】
また、コイルパターンで形成される回路数(巻線数)は3つ以上であってもよい。この回路数は、配線層の数が多い多層基板を用いることによって容易に増やすことが可能である。また、一方の脚部の周縁に2つ以上のコイルパターンを配置し、他の脚部の周縁に第三のコイルパターンを配置する等してもよい。
【0047】
また、コアの一対の脚部の挿通孔は、基板に形成された貫通孔と基板端部に設けられた切り欠きの他、例えば、図6(a)に示す基板トランス10の構成のように、回路素子実装用の透孔72に連続して設けられた切り欠き74であってもよい。透孔72は、回路素子の一つである背の高い高背部品76をスイッチング電源装置16の外形に収まるように実装するために設けられ、高背部品76の本体76aを透孔72内に配置し、本体76aの左右側方に設けた実装端子72bを基板12に接続することによって、低背実装を実現している。そして、切り欠き74を透孔72に連続して設けることによって、高背部品76と基板トランス10を極めて近接に配置することが可能になり、スイッチング電源装置16をより小型化することができる。
【0048】
また、図6(b)に示す基板トランス10の構成のように、切り欠き74を、回路素子の一つである主トランス78のEIコア78a脚部を挿入する透孔80に連続して設け、コア14の脚部の挿通孔としてもよい。主トランス78は、基板12に形成されたコイルパターンにEIコア78aを装着して成る一般的な回路素子であるが、このような構成にすれば、主トランス78と基板トランス10を極めて近接に配置することが可能になり、上記と同様にスイッチング電源装置16をより小型化することができる。
【0049】
さらに、コアを基板に固定するとき、例えば、製造設備上の都合などにより、接着剤を加熱硬化させる以外の固定方法を用いた方が好ましい場合は、熱硬化型接着剤以外の接着剤で接着したり、接着以外の方法で固定してもよい。
【0050】
また、この発明のスイッチング電源用信号伝達トランスは、スイッチングFET40を駆動する駆動信号伝達回路42が有する絶縁トランスのほか、スイッチング電源装置の様々な回路部分に使用される絶縁トランスに適用することができる。すなわち、絶縁トランスが伝送する信号のハイレベルの時間(期間t2に相当する時間)や、伝送するエネルギー量などの条件が合えば、例えば、コンデンサと抵抗で構成されたタイマ回路のコンデンサ電圧をリセットするための放電回路などの用途にも適用することできる。また、数MHz程度のスイッチング周波数で動作する比較的小容量のスイッチング電源装置であれば、電力伝送用の主トランスとして使用することも可能である。
【符号の説明】
【0051】
10,60 基板トランス
12 基板
14 コア
16 スイッチング電源装置
18 底板部
20a,20b 脚部
22a,22b,64a,64b 傾斜面
24a,24b コイルパターン
26 回路素子
28 表層
30 裏層
32,66 貫通孔
34 切り欠き
36 熱硬化型接着剤
40 スイッチングFET
41 制御回路
42 タイミング信号伝達回路
43 駆動回路
44 微分回路
46 NPNトランジスタ
54 補助FET


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路素子を実装して電子回路が構成される基板に同心状に形成された複数のコイルパターンと、前記複数のコイルパターンに近接配置されたコアとを備えたスイッチング電源用信号伝達トランスにおいて、
前記コアは、底板部と前記底板部の左右側端から前記底板部に対して垂直方向に立設した一対の脚部とで成るU字形状に形成され、
前記一対の脚部は、同心状に配置された前記複数のコイルパターンの巻線中心及び巻線外側に形成された一対の挿通孔に各々挿入され、
前記コアの磁気回路は、前記コア内及び前記一対の脚部の間の空間を介して形成されることを特徴とするスイッチング電源用信号伝達トランス。
【請求項2】
前記一対の脚部は、前記基板の表面側から前記挿通孔に挿入され、その先端部が前記基板の裏面側から突出し、
前記コアの磁気回路は、前記コア内及び前記一対の脚部の先端部間の空間を介して形成される請求項1記載のスイッチング電源用信号伝達トランス。
【請求項3】
前記コイルパターンの巻線外側に形成された挿通孔を、基板の端部に設けた切り欠き部分、又は、基板の内側部の前記回路素子実装用透孔に連続して設けた切り欠き部分により形成した請求項1又は2記載のスイッチング電源用信号伝達トランス。
【請求項4】
前記一対の脚部は、先端の外側角部同士または内側角部同士が一対に面取りされている請求項1乃至3のいずれか記載のスイッチング電源用信号伝達トランス。
【請求項5】
前記コアは、前記基板に実装された回路素子をリフローはんだ付けする時の加熱によって硬化した熱硬化型接着剤を介して前記基板に接着固定された請求項1乃至4のいずれか記載のスイッチング電源用信号伝達トランス。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載のスイッチング電源用信号伝達トランスを備え、駆動端子とグランド端子間の電圧に応じてオン・オフ動作する第一のトランジスタ素子と、前記第一のトランジスタ素子のオンのタイミングを示すタイミング信号を出力する制御回路とを有し、前記第一のトランジスタ素子のグランド端子の電位と前記制御回路のグランド電位とが異なるものであり、コンデンサと抵抗で構成され、前記制御回路の出力したタイミング信号を微分する微分回路と、駆動端子及びグランド端子が前記微分回路の出力両端に各々接続された第二のトランジスタ素子と、入力巻線と出力巻線とを有し、前記入力巻線が直流電源と前記第二のトランジスタ素子の能動端子との間に接続された前記スイッチング電源用信号伝達トランスである絶縁トランスと、前記出力巻線にハイレベルの電圧が発生したタイミングで前記第一のトランジスタ素子をオンさせる駆動回路と、で構成されたタイミング信号伝達回路を備え、前記制御回路が出力するタイミング信号は、前記第一のトランジスタ素子をオンさせようとするタイミングでローレベルからハイレベルに反転する矩形波電圧であり、前記第二のトランジスタ素子は、前記微分回路の出力が自身の駆動端子閾値電圧を超えたときにオンし、そのオン期間に前記出力巻線にハイレベルを示す矩形波電圧である駆動信号を発生させ、前記駆動回路は、前記駆動信号がハイレベルの期間が経過した後の所定の期間、前記第一のトランジスタ素子を継続してオンさせることを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項7】
前記微分回路の前記コンデンサ及び前記抵抗で定まる時定数は、微分出力電圧が前記第二のトランジスタの駆動端子閾値電圧よりも高くなる期間が、20〜200nsecとなるように時定数が設定されている請求項6記載のスイッチング電源装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−23494(P2011−23494A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166348(P2009−166348)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)
【Fターム(参考)】