説明

スイッチング電源装置

【課題】過負荷時での自動復帰機能を内蔵した電源制御ICを使用して、その外部回路を工夫するだけで自動復帰を抑制するようにしたスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】スイッチング電源装置は、ダイオードブリッジD1で整流した交流電源ACからの交流入力電圧を、スイッチング素子Q1によって所望の直流電圧に変換して出力する。このスイッチング電源装置は、過負荷時自動復帰機能を内蔵する電源制御IC100によって制御される。電源制御IC100は、その電源端子VCCと1次側回路の平滑コンデンサC1との間が抵抗R0によって接続されていて、過負荷時に補助巻線Lbからの電流供給がなくなっても、平滑コンデンサC1側から電源端子VCCに電流が流れる。従って、電源制御IC100は、その電源端子VCCの電圧を所定のレベルに維持することができ、過負荷時での自動復帰動作が妨げられ、スイッチング停止状態を保持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過負荷時での自動復帰機能を内蔵した電源制御ICを使用したスイッチング電源装置に関し、特に電源制御ICの外部回路を工夫することにより過負荷時にスイッチング動作の停止状態が保持可能なスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源装置は、商用交流電力を整流平滑して直流電力とした後、高耐圧の半導体素子のスイッチング動作により高周波電力に変換して小型のトランスに電力転送し、転送電力を整流平滑して低圧直流電力を得るものとして開発されている。フライバック方式のAC/DCスイッチング電源は、従来から、最小の部品点数で安定した直流電源回路を構成することができるスイッチング電源装置として知られている。
【0003】
ところで、この種のスイッチング電源でトランスの2次側回路に接続された負荷回路で負荷短絡などの異常があると、出力端子とグランド端子がショートして負荷回路に大電流が流れ、負荷回路やスイッチング電源装置が破壊されるおそれがあった。そこで、フライバック方式のAC/DCスイッチング電源などでは、2次側出力が低下すると電源制御ICのフィードバック信号検出用の入力端子(以下、FB端子という。)の電圧が上昇することから、FB端子の電圧により接続された負荷回路の過負荷状態を検出して過負荷から保護するようにしていた。こうした過負荷状態が検出されたとき、その過負荷状態が設定された一定時間だけ続いていれば、出力電圧を制御する電源制御ICは一旦スイッチング動作を強制的に停止させる。さらに、電源制御ICに対しては、一定時間だけスイッチング動作を停止させた後にスイッチング動作を再開させる機能が要求される場合があった。このような電源制御ICの機能は、スイッチング電源の過負荷時自動復帰機能と呼ばれている。
【0004】
ところが、スイッチング電源装置の用途によっては、過負荷時に自動復帰しないでそのまま停止させることが必要なものもある。例えば電源起動時以外は過負荷状態となることが想定されない設備電源などでは、一度立ち上がって正常にスイッチング動作している最中に、負荷短絡などで過負荷状態となって電源異常が発生すると、電源を完全に停止する必要があった。また、負荷容量が大きくなると、過負荷状態で自動復帰させるには大電力が必要であり、安全性のうえでも問題があるため、ラッチ停止型(自動復帰しないもの)の過負荷保護を行うのが適当である。
【0005】
特許文献1には、スイッチング素子の動作により出力部に供給するエネルギーの過負荷を検出する複数の構成を備え、ラッチ停止型、自己復帰型の保護を選択可能とした半導体装置が提案されている。この提案では、スイッチング素子に流れるドレイン電流のピーク値(IDP)が所定値以上になることを検出してラッチ停止型の過負荷保護を行うか、あるいは電源端子電圧VCCが所定値まで低下することを検出して自動復帰する自己復帰型の過負荷保護を行うことができる構成となっている。そして、こうした2種類の検出機能を内蔵することによって、2通りの過負荷保護を選択して実行できるため、スイッチング電源の設計自由度が向上するのである。
【特許文献1】特開2007−116890号公報(段落番号[0023]〜[0070]、図1〜図4など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のスイッチング電源では、その設計自由度を向上させるために2種類の検出機能が内蔵され、過負荷時に自動復帰するか、あるいはラッチ停止するかを選択するようにしていた。従って、2通りの機能を切り替えて使用するために、専用ピンなどを電源制御ICに追加する必要が生じる。また、電源装置としての仕様変更に対応しづらく、例えば異なる交流入力電圧系統である100V系と200V系で、別のスイッチング電源として電源制御ICを設計しなくてはならない。
【0007】
ところが、過負荷時のラッチ停止型と自動復帰型との使い分けが外部回路の工夫により同一の電源制御ICによって実現できれば、電源制御ICの端子数や機種数を増やさないですむことから、電源メーカにとってはコストが低減でき、しかも開発効率を向上させることができる。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、過負荷時での自動復帰機能を内蔵した電源制御ICを使用する際に、その外部回路を工夫するだけで自動復帰を抑制するようにしたスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記問題を解決するために、入力電圧源が接続されるトランスの1次巻線側でスイッチング素子を制御し所望の直流電圧を前記トランスの2次巻線側の負荷に出力するスイッチング電源装置が提供される。
【0010】
このスイッチング電源装置では、前記トランスの補助巻線から電源供給を受ける電源端子、前記直流電圧のフィードバック信号に基づいて前記負荷の過負荷状態を検知する検知手段、該検知手段の出力に応じて前記スイッチング素子のスイッチング動作を停止させる保護手段、および該保護手段で前記スイッチング動作が停止された所定時間後に前記スイッチング動作を自動復帰させる起動手段を有する電源制御ICと、前記電源制御ICの前記電源端子を前記入力電圧源に接続する抵抗回路と、を備え、前記抵抗回路を介して前記電源端子に継続して電流を流すことによって、前記負荷の過負荷状態が検知されると前記スイッチング動作の停止状態を維持するようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自動復帰型の過負荷保護機能を備えた電源制御ICに過負荷時の停止機能が内蔵されていなくても、過負荷時に停止状態の保持が可能となる。そのために、過負荷時自動復帰/停止機能を内蔵する複数の機種を持たなくて済むこと、しかも両機能の切り替え専用ピンを追加する必要性がなくなることによって、スイッチング電源装置の経済性、および開発の効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、AC/DCスイッチング電源装置の一例を示すブロック図である。
【0013】
このスイッチング電源装置において、交流電源ACからの交流入力電圧は、ダイオードブリッジD1および平滑コンデンサC1により整流・平滑されて直流の入力電圧VINとなる。すなわち、交流電源AC、ダイオードブリッジD1および平滑コンデンサC1は、入力電圧VINを供給する入力電圧源を構成している。トランスT1は、その1次巻線Lpのインダクタンス(Lp)とスイッチング素子Q1に並列接続された共振用のコンデンサCrのキャパシタンス(これはスイッチング素子Q1の寄生容量だけで構成することもできる。)からなるLC共振回路を備えている。入力電圧VINは平滑コンデンサC1の一端とトランスT1の1次巻線Lpにそれぞれ供給され、1次巻線Lpの他端がスイッチング素子Q1のドレインと接続されている。スイッチング素子Q1のソースはセンス抵抗Rsを介して平滑コンデンサC1の他端に接続され、ゲートは抵抗R1を介して電源制御用の集積回路(IC)100(以下、電源制御IC100という。)の出力端子OUTに接続されている。センス抵抗Rsは電流検出素子として機能するものである。
【0014】
電源制御IC100は、ゼロ電流検出用の入力端子ZCD、フィードバック信号検出用の入力端子(FB端子)、電流センス信号の入力端子IS、接地端子GND、高電圧入力端子VH、電源端子VCCおよびスイッチング素子Q1のゲート制御信号を出力するための出力端子OUTを備えている。また、その内部には、FB端子へのフィードバック信号に基づいて過負荷状態を検知する検知回路、検知手段の出力に応じて前記スイッチング素子のスイッチング動作を停止させる保護回路、およびスイッチング素子Q1のスイッチング動作を自動復帰させる起動回路(Start Up Circuit)などを備えている。
【0015】
トランスT1の1次巻線Lp、2次巻線Lsおよび補助巻線Lbは、いずれもトランスT1の同一コアに巻かれている。なお、2次巻線LsのインダクタンスをLsとし、補助巻線LbのインダクタンスをLbとする。共振用のコンデンサCrは、スイッチング素子Q1とセンス抵抗Rsの直列回路に並列接続されているが、1次巻線Lpと並列に取り付けても同じ効果がある。補助巻線Lbには、電源制御IC100の電源を作るための整流用ダイオードD2と抵抗R2と平滑コンデンサC2が接続されている。
【0016】
抵抗R3はスイッチング素子Q1とセンス抵抗Rsとの接続点電圧を電流センス信号入力端子ISに供給するものであり、R4は補助巻線Lbの電圧を整流せずにそのまま電源制御IC100の入力端子ZCDに入力するための抵抗である。また、電源制御IC100の高電圧入力端子VHは、抵抗Raを介して平滑コンデンサC1の一端に接続されている。
【0017】
トランスT1の2次巻線Lsには、2次巻線Lsに発生した電圧を整流するためのダイオードD3、平滑コンデンサC3が設けられている。ダイオードD3のアノードは2次巻線Lsの一端に接続され、カソードは電源出力端子Voutに接続されるとともに平滑コンデンサC3の一端に接続されている。平滑コンデンサC3の他端は2次巻線Lsの他端に接続されるとともに接地端子Gndに接続されている。
【0018】
電源制御IC100は、その出力端子OUTの電位がハイ/ロウ(High/Low)レベルに変化してスイッチング素子Q1のゲートを駆動し、スイッチング素子Q1をオン/オフさせることにより、トランスT1の2次巻線Ls側で平滑された所望の直流電圧を電源出力端子Voutと接地端子Gnd間に生成する。このときスイッチング素子Q1には、そのオン期間にドレイン電流が流れ、そこに接続されたトランスT1の1次巻線Lp側に電流が流れてエネルギーが蓄えられる。スイッチング素子Q1はその後にオフするが、このトランスT1に蓄えられたエネルギーにより、スイッチング素子Q1のオフ期間にトランスT1の2次巻線Ls側でダイオードD3を通して平滑コンデンサC3に電流を流す。こうして、電源出力端子Voutと接地端子Gnd間には、トランスT1の2次巻線Ls側で平滑された直流電圧が生成される。
【0019】
電源出力端子Voutと接地端子Gndの間には、抵抗R5,R6の直列回路と、抵抗R7、フォトトランジスタPTとフォトカプラを構成する発光ダイオードPD、コンデンサC4およびシャントレギュレータD4からなる出力検知回路が構成されている。ここでは、発光ダイオードPDには出力電圧に応じた電流が流れて(出力電圧が高いほど流れる電流は大きくなる。)、補助巻線Lbと電源制御IC100のFB端子との間に接続されているフォトトランジスタPTにフィードバック信号が供給され、図示しない負荷の変動に対応する電力を供給できるようにしている。また、電源制御IC100の入力端子ZCDは、コンデンサC5を介して接地されている。
【0020】
つぎに、図1に示すスイッチング電源装置が有する過負荷時における自動復帰機能について説明する。
図2は、スイッチング電源装置の自動復帰動作を示す波形図である。ここでは、最初に通常の起動動作について説明する。
【0021】
通常動作時に電源制御IC100が利用できる電源は、トランスT1の補助巻線Lbから電源端子VCCに供給されている電力のみである。電源の起動時は、電源端子VCCの電圧Vccが低いので、電源制御IC100内部の起動回路が動作し、電源制御IC100の高電圧入力端子VHから電源端子VCCに向けて平滑コンデンサC2を充電する充電電流を供給する。そして、この電圧Vccが誤動作防止用のUVLO回路(UVLO:Under Voltage Lock Out)で設定されているオンスレッシュ電圧(図2(a)では、例として10.2Vが示されている。)まで上昇すると、電源制御IC100の出力端子OUTから制御信号が出力されスイッチング素子Q1のスイッチング動作が始まって、トランスT1の2次側回路へ電力供給が開始される。このとき、トランスT1の補助巻線Lbから電源端子VCCへの電力供給も開始され、当該電力供給が開始されると電源制御IC100の起動回路はオフし、高電圧入力端子VHから電源端子VCCへの電流供給が停止する。
【0022】
このような起動回路は、図2(a)に示すように電源端子VCCの電圧Vccが低いとき、高電圧入力端子VHから電源端子VCCに外付けされた平滑コンデンサC2を充電するために電源制御IC100の内部に設けられた回路である。図2(b)に示すようにスイッチング電源装置の電源出力端子Voutが低下していない通常動作時は、電源が立ち上がって補助巻線Lbから電源端子VCCに動作時電流を供給し続ける。
【0023】
起動回路の停止電圧は、電源端子VCCの電圧Vcc(平滑コンデンサC2の両端電圧)がその値まで上昇したら高電圧入力端子VHからの供給を遮断する電圧レベルであり、図2(a)では、例として12.4Vが示されている。スイッチング電源装置の起動後は、トランスT1の補助巻線Lbから電源端子VCCに電流が供給されることになる。起動回路のリセット電圧は、電源端子VCCの電圧Vccが低くなったとき、再び起動回路が動作して高電圧入力端子VHから電流供給を行う電圧レベル(図2(a)では、例として10.2Vが示されている。)である。
【0024】
UVLO回路で設定されるオフスレッシュ電圧とは、電源制御IC100が低い電源電圧で誤動作しないように設けた誤動作防止電源電圧レベル(図2(a)では、例として9.0Vが示されている。)である。また、オンスレッシュ電圧は、電源制御IC100の電源端子VCCの電圧Vccがこの電圧レベルまで上昇しないと電源制御IC100が動作開始しない電源電圧レベル(図2(a)では、例として10.2Vが示されている。)である。そして、UVLO回路では、これらのオン・オフスレッシュ電圧に一定のヒステリシス幅を持たせている。
【0025】
つぎに、過負荷時の自動復帰動作について説明する。本発明のスイッチング電源装置で使用される電源制御IC100は、そのフィードバック信号検出用の入力端子FBがトランスT1の2次側回路からのフィードバック信号の入力端子となっている。ここでは、図2(c)に示すように帰還電圧の電圧値が3.3V以上になると過負荷状態であると判定する。帰還電圧の電圧値により過負荷状態が検出されてから、電源制御IC100の内部に設けたOLP(Over Load Protection)タイマ回路によって設定された過負荷保護遅延時間Tolp(200ms)以内で過負荷状態が解除されれば、通常のスイッチング動作に戻る。しかし、この過負荷保護遅延時間Tolp以上に過負荷状態が続くと、強制的にスイッチング動作を停止させ、その後、さらに過負荷保護の停止時間Toff(1400ms)の間はスイッチング動作停止状態を維持する(図2(d)参照)。この停止時間Toffの期間中は、補助巻線Lbから電源端子VCCへの電流供給がなくなり、起動回路は電源端子VCCの電圧Vccが10.2Vになると動作し、12.4Vになると停止することによって、電源端子VCCの電圧Vccが起動回路の停止電圧12.4Vと起動回路のリセット電圧10.2Vとの間に維持される。
【0026】
図2(g)は、スイッチングパルスの状態を示している。ここでは、過負荷状態検出から1600ms(=Tolp+Toff)が経過した時点で、起動回路が動作停止して、高電圧入力端子VHからの電流供給がなくなるから、電源端子VCCの電圧Vccは低下していく。電圧VccがUVLOオフスレッシュ電圧である9.0Vまで低下すると、電源制御IC100は一度リセットされ、起動回路が動き出し自動復帰動作を行う。過負荷時自動復帰機能内蔵の電源制御IC100を使用した電源では、過負荷状態が継続していれば、電源制御IC100が起動と停止動作を繰り返し、その後、負荷状態が正常に復帰して、帰還電圧の電圧値が3.3V以下になると通常動作に戻る。
【0027】
図3は、スイッチング電源装置の過負荷時停止動作を示す波形図である。電源制御IC100で過負荷状態を検出し、スイッチング動作を停止した後、電圧VccがUVLOのオン・オフスレッシュ電圧である12.4Vと10.2Vの間に維持されれば、UVLOオフスレッシュ電圧まで下がらないで、スイッチング電源装置は再起動せずに停止状態が保持される。すなわち、過負荷時自動復帰機能内蔵のスイッチング電源装置においては、過負荷状態が検出されると、電源端子VCCの電圧Vccが一定時間後にUVLO回路で設定したオフスレッシュ電圧まで下がるため、電源制御IC100がリセットされて、スイッチング動作が再開される。
【0028】
ここでは、以下に説明するように電源制御IC100の外部回路との接続状態を変更することによって、過負荷検出後の電源端子VCCの電圧VccをUVLO回路のオフスレッシュ電圧まで低下させないようにした。
【0029】
図4は、過負荷時に停止動作を実現するための接続状態を示すブロック図である。
ここでは、スイッチング電源装置の1次側回路の過負荷時停止動作に関わる回路部分だけを示しており、図1の回路構成と対応する部分には同じ符号を付けている。自動復帰機能内蔵の電源制御IC100は、1次側回路の平滑コンデンサC1と電源端子VCCとの間が抵抗R0によって接続されている点で、図1のものと異なっている。ここで、電源制御IC100の通常動作時の消費電流(1.4mA)は、この抵抗R0と、補助巻線Lbの両方から供給される。
【0030】
図5は、過負荷停止時における電源端子VCCに流れる消費電流特性を示す図である。電源制御IC100にはクランプ回路が内蔵されており、その電源端子VCCの電圧Vccは30Vでクランプされる。
【0031】
図6は、抵抗R0を220kΩに設定した場合の消費電流特性を示す図である。図6には、抵抗R0の負荷特性(右下がりの直線)と、電圧Vccが10V以下の部分も含む図5の消費電流特性(太い曲線)が示されている。なお、このときの図1のVINは、VIN=140Vとしている。電源制御IC100が過負荷停止状態になると、電源端子VCCの電圧Vccは、220kΩの抵抗R0から供給される電流と電源制御IC100で消費される電流とがバランスする電圧値に決まる。この場合、過負荷停止状態の電圧Vccは22.5V、抵抗R0から供給される電流は530μA(0.53mA)である。
【0032】
つぎに、電源制御IC100の電流消費のバラツキを考慮して、抵抗R0として使用可能な抵抗値の範囲を求める。
抵抗値の上限、および下限の大きさは、以下の条件によって決められる。
【0033】
抵抗値上限については、起動回路のリセット電圧の最大値10.2Vと、電源制御IC100の過負荷停止時の最大消費電流から算出される。抵抗R0から供給される電流で過負荷停止状態を維持するためには、電源制御IC100の過負荷停止時の消費電流が最大のときに、電圧Vccが起動回路のリセット電圧の最大値10.2V以下に低下しない必要がある。
【0034】
電源制御IC100の過去ロットの試験結果によれば、電源端子VCCの電圧値が10.2Vでの過負荷停止時の消費電流の最大は、0.5mAであった。この条件で計算すると、
(140V−10.2V)/0.5mA≒260kΩ
となるから、抵抗値上限は260kΩと求めることができる。
【0035】
抵抗値下限については、電源端子VCCの過電圧スレッシュレベルの最小値26Vと、電源制御IC100の最小動作時の消費電流から算出される。抵抗R0から供給される電流が電源制御IC100の消費電流を上回ると、電源端子VCCの電圧Vccが上昇してしまう。従って、抵抗値下限は電源制御IC100の動作時消費電流が少ない場合に、電源端子VCCが電源制御IC100の過電圧スレッシュレベルの最小値26V(電源制御IC100に対する過電圧)まで上昇しない抵抗値とする必要がある。
【0036】
電源制御IC100の過去ロットの試験結果によれば、電源端子VCCの電圧値が26Vでの動作時消費電流の最小値は、0.8mAである。この条件で計算すると、
(140V−26V)/0.8mA≒140kΩ
となるから、抵抗値下限は140kΩと求めることができる。
【0037】
以上の結果をまとめると、100V系のAC電圧(140V)では抵抗値140kΩ〜260kΩの抵抗R0を、1次側回路の平滑コンデンサC1と電源端子VCCの間に追加することにより、過負荷時自動復帰機能を有する電源制御IC100であっても過負荷時の停止動作が可能になる。
【0038】
このように、過負荷時自動復帰機能を備えた電源制御IC100は、過負荷検出後200ms経過したら強制的にスイッチング動作が停止され、さらに過負荷状態の開始時から1600msが経過した時点で起動回路が強制停止し、電圧Vccが低下していく。ところが、電源端子VCCがUVLO回路のオフスレッシュ電圧まで低下すると、電源制御IC100が一度リセットされ、再び起動開始動作を始める。従って、過負荷時に起動回路が停止してもVCC端子電圧がオフスレッシュ電圧まで低下しないように抵抗R0による電流供給を追加すれば、過負荷停止後にスイッチング停止状態を維持することができる。なお、過負荷停止状態のときにコンセントを抜いてAC電源の供給を停止すれば、停止状態が解除される。
【0039】
ただし、このような過負荷停止方式では、電圧Vccが1次側回路における平滑コンデンサC1の電圧の影響を受けるので、100V系と200V系とで抵抗R0の抵抗値を別々に設定する必要がある。
【0040】
また、図4に示すように1次側回路の平滑コンデンサC1とVCC端子との間を抵抗R0だけで接続すると、1次側回路の高電圧ラインから電源制御IC100の電源端子VCCに、常時電流が供給されることになるので、消費電力が大きくなるという問題がある。さらに、100V系/200V系の共通電源に対応することができないといった問題もある。
【0041】
第2の実施の形態では、これらの問題を解決するための回路構成について説明する。
(第2の実施の形態)
図7は、第2の実施の形態に係る過負荷時停止機能を実現するための接続状態を示すブロック図である。
【0042】
ここでは、スイッチング電源装置の1次側回路の過負荷時停止動作に関わる回路部分だけを示しており、図4の回路構成と対応する部分には同じ符号を付けている。また、自動復帰機能内蔵の電源制御IC100は、その電源端子VCCと1次側回路の平滑コンデンサC1との間に、トランジスタQ2を含む制御回路10が抵抗R0と直列に設けられている点で、図4のものと異なっている。
【0043】
制御回路10のトランジスタQ3は、電源端子VCCの電圧VccからツェナーダイオードD7のツェナー電圧を差し引いた電圧の、抵抗RcとRdによる分圧でオンオフ制御されるものであって、通常動作時には補助巻線Lbに誘導される電圧によってオンすることにより、スイッチ素子としてのトランジスタQ2をオフ状態に保持している。ダイオードD5は、トランジスタQ2のベースエミッタ間電圧Vbeの逆耐圧が5V〜7V程度であるため、トランジスタQ2がオフした際の逆バイアスを防止するためのものである。
【0044】
ツェナーダイオードD6は、トランジスタQ2のベース端子と接地との間に設けられており、抵抗RbはトランジスタQ2のベース端子とコレクタ端子との間に設けられている。このツェナーダイオードD6は、電源端子VCCにトランジスタQ2のエミッタ電流を供給する際に、その電圧Vccを何Vでクランプするかを決めている(まずトランジスタQ2のベース電圧がツェナーダイオードD6のツェナー電圧でクランプされ、このベース電圧からトランジスタQ2のベースエミッタ間電圧VbeとダイオードD6の順方向電圧だけドロップした電圧で電圧Vccがクランプされる。)。ここでは、電圧Vccが過電圧スレッシュレベルの最小値26Vを超えない電圧値(例えば、23V)としている。
【0045】
ツェナーダイオードD7は、カソードが電源端子VCCと接続され、アノードが抵抗Rdを介してトランジスタQ3のベースに接続されている。このツェナーダイオードD7と抵抗Rd,Rcは、通常動作時に補助巻線Lbにより電源端子VCCに誘導される電圧でトランジスタQ3をオンし、また電源端子VCCの電圧Vccが通常動作時の電圧以下で起動回路のリセット電圧(10.2V)以上の場合はトランジスタQ3をオフするように機能する。なお、スイッチ素子となるトランジスタQ2には、1次側回路のACライン相当の耐圧(例えば、500V)が必要である。
【0046】
つぎに、抵抗R0の上下限値を算出する方法について説明する。
電源制御IC100の動作開始に必要な起動電流としては、トランジスタQ2を経由する電流だけでなく、高電圧入力端子VHを経由する電流の両方が電源端子VCCに供給される。電源端子VCCの電圧VccがUVLOオンスレッシュ12.4Vまで達すると、高電圧入力端子VHからの電流供給が停止するとともに、スイッチング素子Q1のスイッチングが開始される。こうして補助巻線Lbの誘導電圧が上昇するから、トランジスタQ3がオンしてトランジスタQ2からの電流供給も停止される。
【0047】
過負荷時にスイッチング動作が停止すると、補助巻線Lbから電源制御IC100への電力供給がなくなって、トランジスタQ2から電源端子VCCへの電流供給が再開されるため、過負荷時の停止状態が保持できる。このときの電源端子VCCは起動回路のリセット電圧の最大値10.2V以下に低下しないから、高電圧入力端子VHの起動回路は停止したままとなる。制御回路10では、トランジスタQ2から電源端子VCCに電流供給する際の電圧Vccの上昇は、ツェナーダイオードD6で抑えられているので、抵抗R0の抵抗値が低くても電源端子VCCの電圧Vccが上昇するおそれはない。従って、抵抗R0の下限値は特に規定する必要はない。
【0048】
一方、抵抗R0の上限値については、まず100V系のVIN=140Vで電源制御IC100の過負荷停止時に最大の消費電流を供給することを考えると、実施例1と同様に260kΩとなる。200V系ではこれ以上の電流が抵抗R0に流れるから、抵抗R0の抵抗値が260kΩ以下であれば、交流入力電圧系統が異なる100V系/200V系の両方に適用できる。
【0049】
第2の実施の形態でも、図4のスイッチング電源装置の場合と同様に、過負荷時停止状態を保持するためには過負荷停止時の電流供給が必要になる。しかし、図4の構成では抵抗R0に常に電流が流れているため、消費電力が大きい。これに対して、図7に示す構成であれば、通常動作時には2次側回路から補助巻線Lbを介して電源端子VCCに電流供給を行い、かつトランジスタQ2をオフすることで1次側回路のACラインからの電流供給を遮断することができる。
【0050】
また、過負荷停止時に補助巻線Lbからの電流が流れなくなって電源端子VCCの電圧Vccが減少するとトランジスタQ3がオフし、トランジスタQ2がオンして、1次側回路のACラインから電流供給を行うことができる。すなわち、制御回路10では、電源端子VCCの電圧Vccに応じてトランジスタQ2のオンオフ制御が実行される。
【0051】
この制御回路10では、ツェナーダイオードD7を設けなくてもトランジスタQ2のオンオフ制御を実行できる。その場合、トランジスタQ3のオンオフは、抵抗RcとRdの分圧比だけで決まる。しかし、ツェナーダイオードD7を設けることで、制御回路10が動いているかどうかを明確に判断することが可能になる(少なくとも電源端子VCCの電圧VccがツェナーダイオードD7のツェナー電圧を超えるまでは、制御回路10はトランジスタQ2をオンさせている。)。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】AC/DCスイッチング電源装置の一例を示すブロック図である。
【図2】スイッチング電源装置の自動復帰動作を示す波形図である。
【図3】スイッチング電源装置の過負荷時停止動作を示す波形図である。
【図4】過負荷時に停止動作を実現するための接続状態を示すブロック図である。
【図5】過負荷停止時における電源端子VCCに流れる消費電流特性を示す図である。
【図6】抵抗R0を220kΩに設定した場合の消費電流特性を示す図である。
【図7】第2の実施の形態に係る過負荷時停止機能を実現するための接続状態を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0053】
10 制御回路
100 電源制御IC
AC 交流電源
C1〜C3 平滑コンデンサ
Cr,C4,C5 コンデンサ
D1 ダイオードブリッジ
D2 整流用ダイオード
D6,D7 ツェナーダイオード
Lp 1次巻線
Ls 2次巻線
Lb 補助巻線
Q1 スイッチング素子
Q2 トランジスタ(スイッチ素子)
Q3 トランジスタ
R0,R1〜R7,Ra〜Rd 抵抗
T1 トランス
PD 発光ダイオード
PT フォトトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧源が接続されるトランスの1次巻線側でスイッチング素子を制御し所望の直流電圧を前記トランスの2次巻線側の負荷に出力するスイッチング電源装置において、
前記トランスの補助巻線から電源供給を受ける電源端子、前記直流電圧のフィードバック信号に基づいて前記負荷の過負荷状態を検知する検知手段、該検知手段の出力に応じて前記スイッチング素子のスイッチング動作を停止させる保護手段、および該保護手段で前記スイッチング動作が停止された所定時間後に前記スイッチング動作を自動復帰させる起動手段を有する電源制御ICと、
前記電源制御ICの前記電源端子を前記入力電圧源に接続する抵抗回路と、
を備え、
前記抵抗回路を介して前記電源端子に継続して電流を流すことによって、前記負荷の過負荷状態が検知されると前記スイッチング動作の停止状態を維持するようにしたことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記トランスの1次巻線側のコンデンサと前記電源端子との間で前記抵抗回路と直列に接続されたスイッチ素子を備え、
前記スイッチ素子は、前記電源端子の電圧が所定値以上であるとオフすることを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−41834(P2010−41834A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202520(P2008−202520)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】