説明

スイッチング電源装置

【課題】スイッチング制御手段の電源電圧が低下しても、電力損失が増大したり負荷が破損したりするのを防ぐことができるスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るスイッチング電源装置1は、一次側直流電圧をスイッチングしてスイッチング電圧を生成するスイッチング手段Q1と、該スイッチング手段Q1を制御するスイッチング制御手段4と、一次巻線T1と同一極性に巻回された第1補助巻線T3の誘起電圧を整流および平滑してスイッチング制御手段4に供給するための電源電圧を生成する電源電圧生成手段5とを備えたものであって、上記電源電圧が所定の閾値電圧を下回ると、スイッチング手段Q1に対するスイッチング制御手段4の制御を停止させる停止手段6をさらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源装置に関し、特に、補助巻線の誘起電圧に基づいてスイッチング手段を制御するスイッチング制御手段の電源電圧を生成するスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように、従来のスイッチング電源装置10は、100[V]/200[V]系の商用交流電源から供給された商用交流電圧VACIN(85〜132[V]/187〜264[V])を整流するダイオードブリッジ回路D1と、その出力電圧を平滑して一次側直流電圧を生成する平滑コンデンサC1と、その両端に接続されたトランスTの一次巻線T1および電力用FETQ1(スイッチング手段)のドレイン・ソース導電路とからなる直列回路とを備えている。
【0003】
電力用FETQ1のゲートには、スイッチング制御手段4のOUT端子から出力される制御信号が入力される。この信号により電力用FETQ1の導通期間が制御され、一次巻線T1にスイッチング電圧が供給される。このようなスイッチング制御手段4としては、例えば、富士電機デバイステクノロジー社製スイッチング電源制御用IC“FA5532”がある。
【0004】
トランスTの二次巻線T2の一端にはダイオードD2のアノードが接続されている。また、ダイオードD2のカソードは平滑コンデンサC2の一端に接続され、平滑コンデンサC2の他端は二次巻線T2の他端に接続されている。平滑コンデンサC2の両端からは、不図示の負荷に供給するための直流の二次側出力電圧VDCOUTが出力される。
【0005】
平滑用コンデンサC2には、抵抗R2と抵抗R3を直列に接続してなる電圧検知手段2が並列に接続されている。抵抗R2と抵抗R3の接続点に接続されたフィードバック手段3は、二次側出力電圧VDCOUTの多寡に関する信号をスイッチング制御手段4のFB端子に出力する。スイッチング制御手段4は、二次側出力電圧VDCOUTが一定となるように電力用FETQ1の導通期間を制御する。
【0006】
図3に示すように、トランスTはさらに補助巻線T3を有している。補助巻線T3はトランスTのコアに一次巻線T1と同一極性となるように巻回されている。なお、以下の説明では、補助巻線T3の2つの端部のうち、電力用FETQ1のソースに接続されている側の端部を「相互接続端」(同図において、●が付されている側の端部)と呼び、その反対側の端部を「非相互接続端」と呼ぶこととする。
【0007】
補助巻線T3の非相互接続端には、ダイオードD3のアノードが接続され、ダイオードD3のカソードと補助巻線T3の相互接続端との間には、平滑コンデンサC3が接続されている。ダイオードD3および平滑コンデンサC3は電源電圧生成手段5を構成し、補助巻線T3の誘起電圧を整流および平滑することにより、スイッチング制御手段4の電源電圧を生成する。生成された電源電圧は、スイッチング制御手段4のVCC端子に入力される。
【0008】
スイッチング制御手段4は、上記OUT端子、FB端子、VCC端子の他に、VH端子とGND端子を有している。VH端子は、起動抵抗R1を介して一次側直流電圧(平滑コンデンサC1の両端電圧)を入力するための端子である。GND端子は、基準となる電圧を入力するための端子である。
【0009】
このスイッチング電源装置10では、商用交流電圧VACINの入力が開始されると一次側直流電圧が上昇する。そして、一次側直流電圧がある程度上昇すると、起動電流R1を通ってスイッチング制御手段4に十分な起動電流が流れ、スイッチング制御手段4が起動する。
【0010】
起動したスイッチング制御手段4によって電力用FETQ1の制御が開始されると、補助巻線T3の誘起電圧が上昇し、電源電圧生成手段5から出力される電源電圧(平滑コンデンサC3の両端電圧)が上昇する。そして、この電源電圧がスイッチング制御手段4を動作させるのに十分な電圧に達すると、スイッチング制御手段4はVCC端子から入力される電源電圧によって電力供給されるようになる。
【0011】
つまり、スイッチング電源装置10のスイッチング制御手段4は、起動当初は起動抵抗R1を介して入力される一次側直流電圧によって電力供給されるが、VCC端子に入力される電源電圧が十分上昇した後(定常時)は、この電源電圧によって電力供給される。したがって、このスイッチング電源装置10によれば、起動抵抗R1に電流が流れることによる定常時の電力損失を低減することができる。
【0012】
なお、上記スイッチング電源装置10が開示された先行技術文献としては、例えば、非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】“富士スイッチング電源制御用IC FA5531/32 Application Note”、富士電機デバイステクノロジー(株)、インターネット、<http://www.fujielectric.co.jp/products/semiconductor/technical/application/pdf/IC/AJ_FA5531-32.pdf>、p.18、2010年5月27日現在
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このスイッチング電源装置10は、定常時にダイオードD3が破損してオープンになったり平滑コンデンサC3が破損してショートしたりしてスイッチング制御手段4に供給される電源電圧が低下すると、再び一次側直流電圧によって電力供給されるようになり、起動抵抗R1による電力損失が増大するという問題があった。
【0015】
また、スイッチング制御手段4は、起動抵抗R1を介して入力される一次側直流電圧によって電力供給され続けると、負荷状況が変化して起動抵抗R1に流れる電流が一時的に増加したような場合にVH端子の電圧が低下し、正常動作できなくなる場合があった。この場合は、電力用FETQ1の制御が正常に行われず、異常な二次側出力電圧が負荷に供給されることとなって、負荷の破損を招くおそれがあった。
【0016】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、スイッチング制御手段の電源電圧が低下しても、電力損失が増大したり負荷が破損したりするのを防ぐことができるスイッチング電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明に係るスイッチング電源装置は、一次巻線と、二次巻線と、前記一次巻線と同一極性に巻回された第1補助巻線とを有するトランスと、該トランスの一次側に設けられ、外部から入力された交流電圧を整流および平滑して一次側直流電圧を生成する手段と、一次側直流電圧をスイッチングしてスイッチング電圧を生成するスイッチング手段と、スイッチング手段を制御するスイッチング制御手段と、トランスの二次巻線の誘起電圧を整流および平滑して直流の二次側出力電圧を生成する出力電圧生成手段と、第1補助巻線の誘起電圧を整流および平滑してスイッチング制御手段に供給するための電源電圧を生成する電源電圧生成手段とを備えたスイッチング電源装置であって、上記電源電圧が所定の閾値電圧を下回ると、スイッチング手段に対するスイッチング制御手段の制御を停止させる停止手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、第1補助巻線の誘起電圧に基づいて生成されるスイッチング制御手段の電源電圧が所定の閾値電圧を下回ると、停止手段によってスイッチング手段に対するスイッチング制御手段の制御が停止させられるので、スイッチング手段の制御が異常になることに起因する負荷の破損を防ぐことができる。また、上記制御を停止するとスイッチング制御手段の消費電流が少なくなるので、起動抵抗を介してスイッチング制御手段に電力供給が続けられている場合であっても、当該起動抵抗による電力損失が増加するのを防ぐことができる。
【0019】
上記スイッチング制御手段および停止手段の具体的構成は種々考えられるが、例えば、以下のようにすることで構成を簡素化することができる。
すなわち、スイッチング制御手段は、停止手段に接続された停止指令入力端子を有し、該停止指令入力端子が外部電圧にプルアップされるとスイッチング手段の制御を停止するよう構成することができる。また、停止手段は、一次巻線と同一極性に巻回された第2補助巻線と、該第2補助巻線の誘起電圧を整流および平滑して外部電圧を生成する外部電圧生成手段と、電源電圧が上記閾値電圧を下回ると導通状態となって停止指令入力端子を外部電圧にプルアップするスイッチ素子とを備えた構成とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、スイッチング制御手段の電源電圧が低下しても、電力損失が増大したり負荷が破損したりするのを防ぐことができるスイッチング電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るスイッチング電源装置の回路図である。
【図2】本発明に係るスイッチング電源装置に備えられた停止手段の動作を説明するためのグラフである。
【図3】従来のスイッチング電源装置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明に係るスイッチング電源装置の好ましい実施形態について説明する。なお、図1に示されている各構成要素のうち、図3と同一の符号を付した構成要素については従来技術で説明したものと同様なので、ここでは説明を一部省略する。また、以下の説明では、符号T3で表される巻線を「第1補助巻線」と呼ぶこととする。
【0023】
図1に、本発明に係るスイッチング電源装置1の回路図を示す。同図に示すように、スイッチング電源装置1は、図3に示す従来のスイッチング電源装置10に第2補助巻線T4と停止手段6を追加した構成となっている。スイッチング電源装置1のスイッチング制御手段4の一例として、富士電機デバイステクノロジー社製スイッチング電源制御用IC“FA5532”を用いることができる。また、このスイッチング制御手段4はOUT端子、VH端子、GND端子、FB端子およびVCC端子の他にZCD端子を有する。ZCD端子の機能については後述する。
【0024】
第2補助巻線T4は、一次巻線T1、二次巻線T2および第1補助巻線T3とともにトランスTのコアに巻回され、一次巻線T1と同一の極性となるように巻回されている。なお、以下の説明では、第2補助巻線T4の2つの端部のうち、電力用FETQ1のソースに接続されている側の端部を「相互接続端」(図1において、●が付されている側の端部)と呼び、その反対側の端部を「非相互接続端」と呼ぶこととする。
【0025】
停止手段6は、アノードが第2補助巻線T4の非相互接続端に接続されたダイオードD4と、ダイオードD4のカソードと第2補助巻線T4の相互接続端(第1補助巻線T3の相互接続端でもある)の間に接続された平滑コンデンサC4とを有している。ダイオードD4および平滑コンデンサC4は、第2補助巻線T4の誘起電圧を整流および平滑することによりスイッチング制御手段4に印加可能な外部電圧を生成する。このように、この実施形態では、ダイオードD4と、平滑コンデンサC4とからなる回路が、本発明の「外部電圧生成手段」として機能する。
【0026】
この他、停止手段6は、抵抗R4、抵抗R5およびPNP型のトランジスタQ2(本発明の「スイッチ素子」に相当する)を有している。図1に示すように、抵抗R4と抵抗R5の直列抵抗回路は、平滑コンデンサC3に並列に接続されている。したがって、この直列抵抗回路の両端には、電源電圧生成手段5から出力される電源電圧が印加される。
【0027】
トランジスタQ2のエミッタはダイオードD4のカソードに接続され、トランジスタQ2のベースは抵抗R4と抵抗R5の接続点に接続されている。したがって、外部電圧が抵抗R4と抵抗R5の分圧よりも約1[V]大きくなると、トランジスタQ2がオンし、エミッタ−コレクタ間が導通状態となる。
【0028】
トランジスタQ2のコレクタは、スイッチング制御手段4のZCD端子に接続されており、スイッチング制御手段4は、このZCD端子が外部電圧にプルアップされることで電力用FETQ1に対する制御を停止する。図1に示す停止手段6では、トランジスタQ2がオンし、トランジスタQ2のエミッタ−コレクタ間が導通状態となることにより、ZCD端子が外部電圧にプルアップされる。
【0029】
続いて、図2を参照しながら、停止手段6の動作の具体的一例について説明する。なお、以下の具体例では、第1補助巻線T3と第2補助巻線T4の巻数比が2:1、定常時の電源電圧が20[V]、抵抗R4が1[kΩ]、抵抗R5が470[Ω]であるとする。したがって、定常時の外部電圧は10[V]、抵抗R4と抵抗R5の定常時の分圧は13.6[V]である。
【0030】
外部電圧が10[V]、抵抗R4と抵抗R5の分圧が13.6[V]である定常時は、トランジスタQ2のベース−エミッタ間に順方向電圧が印加されない。したがって、何らかの異常が発生しない限り、定常時にトランジスタQ2がオンすることはない。
【0031】
ダイオードD3が破損してオープンになったり平滑コンデンサC3が破損してショートしたりして電源電圧が20[V]から低下すると、“電源電圧×1k/(1k+470)”で計算される抵抗R4と抵抗R5の分圧も13.6[V]から低下する。そして、抵抗R4と抵抗R5の分圧が9[V]となって外部電圧を約1[V]下回ると、ベース−エミッタ間に十分な順方向電圧が印加され、トランジスタQ2がオンする。すなわち、電源電圧が13.2[V]を下回ると、スイッチング制御手段4のZCD端子が外部電圧(10[V])にプルアップされ、電力用FETQ1の制御が停止される。
【0032】
トランジスタQ2のオン/オフが切り替わる電源電圧(上記具体例では、13.2[V]。以下、「閾値電圧」という)は、抵抗R4と抵抗R5の抵抗比、または第1補助巻線T3と第2補助巻線T4の巻数比を変えることにより調整することができる。例えば、巻数比と抵抗Rの抵抗値を変えずに、抵抗Rの抵抗値を910[Ω]にすることで、定常時の分圧を10.5[V]とし、閾値電圧を17.2[V]とすることができる。つまり、電源電圧が2.8[V]低下するだけで電力用FETQ1の制御が停止するように設定することができる。また、抵抗R4と抵抗R5の抵抗比を変えずに、巻数比を3:1にすることで、定常時の外部電圧を6.7[V]とし、閾値電圧を8.4[V]とすることができる。つまり、何らかの異常が発生しても電源電圧が11.6[V]低下するまでは、電力用FETQ1の制御が停止しないように設定することができる。
【0033】
結局、本発明に係るスイッチング電源装置1によれば、第1補助巻線T3の誘起電圧に基づいて生成されるスイッチング制御手段4の電源電圧が所定の閾値電圧を下回ると、停止手段6によって電力用FETQ1に対するスイッチング制御手段4の制御が停止させられるので、電力用FETQ1の制御が異常になることに起因する負荷の破損を防ぐことができる。また、上記制御を停止するとスイッチング制御手段4の消費電流が少なくなるので、起動抵抗R1を介してスイッチング制御手段4に電力供給が続けられることによる電力損失を低減することができる。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の構成に限定されるものではない。
【0035】
例えば、上記停止手段6では、抵抗R4と抵抗R5の分圧によって制御されるPNP型のトランジスタQ2を用いたが、電源電圧の多寡に応じてオン/オフが切り替わる他のスイッチ素子を用いることもできる。
【0036】
また、スイッチング制御手段4は、富士電機デバイステクノロジー社製のスイッチング電源制御用IC“FA5532”に限定されず、同社製IC“FA553*シリーズ”、“FA554*シリーズ”、“FA555*シリーズ”や、同等の機能を有する他のICまたは回路に置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 スイッチング電源装置
2 電圧検知手段
3 フィードバック手段
4 スイッチング制御手段
5 電源電圧生成手段
6 停止手段
1 スイッチング手段(電力用FET)
2 スイッチ素子(トランジスタ)
1 起動抵抗
T トランス
1 一次巻線
2 二次巻線
3 第1補助巻線
4 第2補助巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻線と、二次巻線と、前記一次巻線と同一極性に巻回された第1補助巻線とを有するトランスと、該トランスの一次側に設けられ、外部から入力された交流電圧を整流および平滑して一次側直流電圧を生成する手段と、前記一次側直流電圧をスイッチングしてスイッチング電圧を生成するスイッチング手段と、前記スイッチング手段を制御するスイッチング制御手段と、前記トランスの二次巻線の誘起電圧を整流および平滑して直流の二次側出力電圧を生成する出力電圧生成手段と、前記第1補助巻線の誘起電圧を整流および平滑して前記スイッチング制御手段に供給するための電源電圧を生成する電源電圧生成手段とを備えたスイッチング電源装置であって、
前記電源電圧が所定の閾値電圧を下回ると、前記スイッチング手段に対する前記スイッチング制御手段の制御を停止させる停止手段をさらに備えたことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記スイッチング制御手段は、前記停止手段に接続された停止指令入力端子を有し、前記停止指令入力端子が外部電圧にプルアップされると前記スイッチング手段の制御を停止するよう構成されており、
前記停止手段は、前記一次巻線と同一極性に巻回された第2補助巻線と、前記第2補助巻線の誘起電圧を整流および平滑して前記外部電圧を生成する外部電圧生成手段と、前記電源電圧が前記閾値電圧を下回ると導通状態となって前記停止指令入力端子を前記外部電圧にプルアップするスイッチ素子とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−250581(P2011−250581A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121130(P2010−121130)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】