説明

スイッチング電源装置

【課題】入力に帰還する同相ノイズが小さく、小型化・高効率化が容易なブリッジレス・ブースト・コンバータ方式のスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】インダクタンスが略等しい第一及び第二昇圧インダクタ12,14と、マイナス端子が制御グランド20に接続された平滑コンデンサ16を備える。制御回路30によってオン・オフされる第一及び第二スイッチング素子22,26、及びそれらと相補的にオン・オフする整流素子24,28を備える。同じ巻数の3巻線を有する入力線インダクタ42を備え、第一巻線48の出力端48bが第一昇圧インダクタ12の入力端12aに接続され、第二巻線50の出力端50bが第二昇圧インダクタ14の入力端14aに接続される。第三巻線52の入力端52aが制御グランド20に接続され、出力端52bが交流遮断コンデンサ44を介して第二昇圧インダクタ14の入力端14aに接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、交流の入力電圧を直流の出力電圧に変換するブリッジレス・ブースト・コンバータ方式のスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のDC−DCコンバータは、正・負に変化する交流電圧が入力されると正常に動作できないので、交流入力用のスイッチング電源装置を構成する場合、入力段に交流電圧を正の脈流電圧に変換するブリッジ整流器を設け、その後段にDC−DCコンバータが接続される。しかし、ブリッジ整流器には大きな導通損失が発生するので、スイッチング電源装置の効率を低下させる大きな要因となっていた。
【0003】
近年、損失の大きいブリッジ整流器を省略できるスイッチング電源装置が複数提案されており、例えば、図9に示すスイッチング電源装置10ように、2組の昇圧チョッパ回路が出力の平滑コンデンサを共用する形で設けられたブリッジレス・ブースト・コンバータがある。
【0004】
スイッチング電源装置10は、互いに巻数が等しく逆極性に磁気結合した第一及び第二昇圧インダクタ12,14を備え、それぞれ入力端12a,14a及び出力端12b,14bを有し、入力端12a,14b同士の間に相間コンデンサ15が接続されている。第一及び第二昇圧インダクタ12,14は、磁気結合しない独立したインダクタ素子が使用される場合もあるが、後述する回路動作については同じである。また、両端に負荷18が接続される平滑コンデンサ16を備え、そのマイナス端子が制御グランド20に接続されている。
【0005】
第一昇圧インダクタ12の出力端12bと制御グランド20との間には、双方向に導通可能なMOS型FETである第一スイッチング素子22が接続され、第一昇圧インダクタ12の出力端12bと平滑コンデンサ16のプラス端子との間に、第一スイッチング素子22と相補的にオン・オフするダイオードである第一整流素子24が接続されている。同様に、第二昇圧インダクタ14の出力端14bと制御グランド20との間に、双方向に導通可能なMOS型FETである第二スイッチング素子26が接続され、第二昇圧インダクタ14の出力端14bと平滑コンデンサ16のプラス端子との間に、第二スイッチング素子26と相補的にオン・オフするダイオードである第二整流素子28が接続されている。第一及び第二スイッチング素子22,26の各ゲート端子には、制御回路30が接続されている。制御回路30の基準電位は、第一及び第二スイッチング素子22,26のソース端子が接続されている制御グランド20である。
【0006】
スイッチング電源装置10は、第一及び第二昇圧インダクタ12,14の入力端12a,14a同士の間に交流電源33の入力電圧Viが入力され、平滑コンデンサ16の両端に直流の出力電圧Voを出力する。このとき、制御回路30は、入力電圧Viの状態を検出し、第一昇圧インダクタ12の側が高電位になる正の期間には、第二スイッチング素子26をオンに保持して第一スイッチング素子22をオン・オフさせ、第二昇圧インダクタ14の側が高電位になる負の期間には、第一スイッチング素子22をオンに保持して第二スイッチング素子26をオン・オフさせる。そして、第一及び第二スイッチング素子22,26のオン時間tonとオフ時間toffを変化させることによって、出力電圧Voを所定の値に安定化する制御を行う。それと同時に、入力電流Iiを整形して力率を改善する制御も行う。
【0007】
スイッチング電源装置10の各部の波形は図10に示す通りである。ここでは、オン時間tonとオフ時間toffとの合計時間が一定になるように、すなわちスイッチング周波数Fswが一定になるようにスイッチングしている。スイッチング周波数Fswは、交流電源33の周波数F33よりも非常に高い周波数である。図10から分かるように、スイッチング電源装置10は、2組の昇圧チョッパ回路が正の期間と負の期間ごとに交代でスイッチングし、全期間を通して入力電圧Viを昇圧し、所定の出力電圧Voを出力することができる。
【0008】
図11は、正の期間における入力電圧Viが比較的高いとき(正の期間の中間点付近)の時間軸を拡大し、各部の電流波形を表したタイムチャートである。第一昇圧インダクタ12の電流I12(第一スイッチング素子22及び第一整流素子24の接続点に向かう方向を正方向とする)は、正弦波状の入力電流Iiにノコギリ波成分が重畳した波形となる。第一スイッチング素子22がオンの期間の電流I12は、第一スイッチング素子22に向かって流れ、オフの期間の電流I12は、第一整流素子24に向かって流れる。第二昇圧インダクタ14の電流I14(第二スイッチング素子26及び第二整流素子28の接続点に向かう方向を正方向とする)は、上記の電流I12がオンに保持されている第二スイッチング素子26を通じて戻ってくる電流である。以下、図11の電流I12の波形に表わされる電流、すなわち、第一昇圧インダクタ12を通じて流れ込み、第二昇圧インダクタ14を通じて流れ出る電流をノーマルモード電流Inoと称す。
【0009】
第一及び第二昇圧インダクタ12,14の各インダクタンスをLとすると、ノーマルモード電流Inoのノコギリ波成分ΔInoは、式(1)のように表わされる。
【数1】

【0010】
また、特許文献1には、図12に示すスイッチング電源装置32ように、上記スイッチング電源10の構成に加え、入力段にコモンモード・インダクタ34及び2つのコンデンサ36で成るLCフィルタ回路38が設けられたブリッジレス・ブースト・コンバータが開示されている。
【0011】
制御回路30の基準電位は制御グランド20であり、制御回路30が昇圧インダクタ12,14の入力端12a,14aをモニタしたときの電圧VL,VNの波形は、図10に示すように、振幅Vo/2のパルス電圧が負方向に湾曲したような波形になる。このパルス電圧は、制御回路30が入力電圧Viを検出する際のノイズとなり、また、交流電源33への同相の帰還ノイズとなる。LCフィルタ回路38は、図13の等価回路に示す低域遮断フィルタとなって上記の同相のパルス電圧を減衰させ、スイッチング電源装置32の入力端(電圧VNa)に現れるパルス電圧を小さくする働きをする。相間コンデンサ15は、第一及び第二昇圧インダクタに流れるノーマルモード電流Inoが交流電源33に向けて流出しないようにバイパスするコンデンサであり、上記の同相のパルス電圧に対してほとんど関与しない。
【0012】
また、特許文献2には、電力ライン(電力線路)のノイズ除去用の障害波防止器であって、1対1のトランス及びコンデンサを使用して、相間ノイズを除去する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】US2011/0037444号公報
【特許文献2】実公昭57−8247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1のスイッチング電源装置32のように、第一及び第二昇圧インダクタ12,14の入力段にLCフィルタ回路38を設けたとしても、電圧VL,VNに含まれる同相のパルス電圧を確実に除去することは困難である。上記のように、問題となる同相パルス電圧の振幅はVo/2であり、例えば入力電圧ViがAC100〜200Vの場合、通常は出力電圧VoがDC400V程度に設定されるので、同相パルス電圧の振幅は200Vと非常に大きくなる。従って、小型のLCフィルタ回路38を使用すると、図13の等価回路に示すように、電圧VNaにある振幅の同相パルス電圧が残ってしまい、その結果、制御回路30が入力電圧Viを精度よく検出することができない。また、電圧VNaに含まれる同相パルス電圧が交流電源33への帰還ノイズとなり、各種のEMI規格(例えば、雑音端子電圧など)を逸脱する原因となる。
【0015】
また、特許文献2の障害波防止器は、2つの巻線を有するトランスを用いてノーマルモードの相間ノイズを除去するものであり、そのままスイッチング電源装置32に適用しても、上記の同相パルス電圧を除去することができない。
【0016】
さらに近年、スイッチング電源装置の効率の向上の要請が強く、さらなる回路損失の低減が電源設計上の大きな課題になっている。
【0017】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、入力に帰還する同相ノイズが小さく、小型化・高効率化が容易なブリッジレス・ブースト・コンバータ方式のスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明は、それぞれ入力端及び出力端を有し互いのインダクタンスがほぼ等しい第一及び第二昇圧インダクタと、プラス端子と制御グランドに接続されるマイナス端子とを有し、前記プラス端子と前記マイナス端子との間に負荷が接続される平滑コンデンサと、前記第一昇圧インダクタの出力端と前記制御グランドとの間に接続された双方向に導通可能な第一スイッチング素子と、前記第一昇圧インダクタの出力端と前記平滑コンデンサのプラス端子との間に接続され、前記第一スイッチング素子と相補的にオン・オフする第一整流素子と、前記第二昇圧インダクタの出力端と前記制御グランドとの間に接続された双方向に導通可能な第二スイッチング素子と、前記第二昇圧インダクタの出力端と前記平滑コンデンサのプラス端子との間に接続され、前記第二スイッチング素子と相補的にオン・オフする第二整流素子と、前記第一及び第二スイッチング素子のオン・オフを制御する制御回路とを備え、交流電源からの入力電圧が前記第一及び第二昇圧インダクタの入力端同士の間に供給され、前記平滑コンデンサの両端に直流の出力電圧を出力し、
前記制御回路は、前記入力電圧の正方向及び負方向の変化を検出し、前記第一昇圧インダクタ側が高電位になる正の期間には、前記第二スイッチング素子をオンに保持して前記第一スイッチング素子をオン・オフさせ、前記第二昇圧インダクタ側が高電位になる負の期間には、前記第一スイッチング素子をオンに保持して前記第二スイッチング素子をオン・オフさせるスイッチング電源装置であって、
入力端と出力端とを有する第一巻線、入力端と出力端とを有し前記第一巻線と同じ巻数で同極性に磁気結合した第二巻線、及び、入力端と出力端とを有し前記第一巻線と同じ巻数で同極性に磁気結合した第三巻線とを有する入力線インダクタを備え、前記入力線インダクタの前記第一及び第二巻線は、前記交流電源と前記第一及び第二昇圧インダクタとの間に挿入され、前記第一巻線の出力端が前記第一昇圧インダクタの入力端に接続され、前記第二巻線の出力端が前記第二昇圧インダクタの入力端に接続され、前記第三巻線と直列に交流遮断コンデンサが接続されて直列回路が設けられ、当該直列回路における前記第三巻線の入力端側の一端が前記制御グランド又は前記平滑コンデンサのプラス端子に接続され、他端が前記第一又は第二昇圧インダクタの入力端に接続され、前記第一昇圧インダクタ及び第二昇圧インダクタの入力端同士の間に相間コンデンサが接続され、
前記交流遮断コンデンサ及び前記相間コンデンサは、前記交流電源の周波数に対して高インピーダンスであり、前記第一及び第二スイッチング素子のスイッチング周波数に対して低インピーダンスであるスイッチング電源装置である。
【0019】
前記入力線インダクタのインダクタンスは、前記第一及び第二昇圧インダクタのインダクタンスの半分の値に設定されている。また、前記第三巻線の入力端が前記制御グランド又は前記平滑コンデンサのプラス端子に接続され、前記第三巻線の出力端と前記第一昇圧インダクタの入力端との間、及び、前記第三巻線の出力端と前記第二昇圧インダクタの入力端との間に、前記交流遮断コンデンサが個別に設けられている。
【0020】
また、前記交流電源と前記入力線インダクタとの間の電源ラインの何れかが第一接地コンデンサを介してフレームグランドに接地され、前記平滑コンデンサの両端の何れかが第二接地コンデンサを介して前記フレームグランドに接地されていてもよい。また、前記制御回路は、入力電流を整形して力率を改善する制御を行うものであってもよい。また、前記第一及び第二昇圧インダクタは、互いに巻数が等しく逆極性に磁気結合していてもよい。
【発明の効果】
【0021】
この発明のスイッチング電源装置によれば、入力段に3巻線を有する小型の入力線インダクタ及び交流遮断コンデンサを設けることによって、入力に帰還するスイッチング周波数の同相パルス電圧を容易に除去することができる。
【0022】
また、入力線インダクタと第一及び第二昇圧インダクタの各インダクタンス比を適宜調整することによって、第一及び第二昇圧インダクタに流れる電流のうちのスイッチング周波数のノコギリ波成分を相殺し、第一及び第二昇圧インダクタの抵抗成分の損失や第一及び第二スイッチング素子の導通損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明のスイッチング電源装置の第一実施形態を示す回路図である。
【図2】第一実施形態のスイッチング電源装置の動作を説明するタイムチャートである。
【図3】図2の時間軸を拡大したタイムチャートである。
【図4】第一実施形態のスイッチング電源装置の同相パルス電圧に対する動作を説明する等価回路である。
【図5】第一実施形態のスイッチング電源装置の変形例を示す回路図(a),(b)である。
【図6】この発明のスイッチング電源装置の第二実施形態を示す回路図である。
【図7】第二実施形態のスイッチング電源装置の同相パルス電圧に対する動作を説明する等価回路である。
【図8】第二実施形態のスイッチング電源装置の変形例を示す回路図である。
【図9】一般的なブリッジレス・ブースト・コンバータ方式のスイッチング電源装置を示す回路図である。
【図10】図9のスイッチング電源装置の動作を説明するタイムチャートである。
【図11】図10の時間軸を拡大したタイムチャートである。
【図12】従来のスイッチング電源装置を示す回路図である。
【図13】図12のスイッチング電源装置の同相のパルス電圧に対する動作を説明する等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明のスイッチング電源装置の第一実施形態について、図1〜図5に基づいて説明する。ここで、上記の一般的なスイッチング電源装置10と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。第一実施形態のスイッチング電源装置40は、図1に示すように、上記スイッチング電源10の構成に加え、入力段に入力線インダクタ42、交流遮断コンデンサ44及び相間コンデンサ46が設けられている。
【0025】
入力線インダクタ42は、入力端48a及び出力端48bを有する第一巻線48と、入力端50a及び出力端50bを有する第二巻線50と、入力端52a及び出力端52bを有する第三巻線52とを備え、3つの巻線48,50,52は巻数が等しく、互いに同極性に磁気結合している。第一巻線48は、極性を示すドットを付した入力端48aが交流電源33の一端に接続され、出力端48bが第一昇圧インダクタ12の入力端12aに接続されている。第二巻線50は、ドットを付した入力端50aが交流電源33の他端に接続され、出力端50bが第二昇圧インダクタ14の入力端14aに接続されている。第三巻線52は、ドットを付した入力端52aに交流遮断コンデンサ44の一端が接続され、出力端52bが第二昇圧インダクタ14の入力端14aに接続されている。また、交流遮断コンデンサ44の他端が制御グランド20に接続されている。さらに、第一巻線48の入力端48aと第二巻線50の入力端50aとの間に、相間コンデンサ46が接続されている。
【0026】
ここで、入力線インダクタ42のインダクタンス、すなわち第一、第二及び第三巻線48,50,52の各インダクタンスは、第一及び第二昇圧インダクタ12,14の各インダクタンスLの半分の値のL/2に設定されている。また、交流遮断コンデンサ44及び相間コンデンサ46は、交流電源33の周波数F33(例えば50Hz)に対して非常に高インピーダンスであり、第一及び第二スイッチング素子22,26のスイッチング周波数Fsw(例えば100k〜200kHz)に対して非常に低インピーダンスである。相間コンデンサ15についても同様である。
【0027】
次に、スイッチング電源装置40の動作を説明する。上述したように、制御回路30は、入力電圧Viの状態を検出し、第一昇圧インダクタ12の側が高電位になる正の期間は、図2に示すように、第二スイッチング素子26をオンに保持して第一スイッチング素子22をオン・オフさせ、第二昇圧インダクタ14の側が高電位になる負の期間は、第一スイッチング素子22をオンに保持して第二スイッチング素子26をオン・オフさせる。ここでは、第一及び第二スイッチング素子22,26がオン・オフするスイッチング周波数Fswを一定とし、オンの時比率を制御することによって出力電圧Voを安定化し、合わせて入力電流Iiを正弦波状に整形する力率改善の制御も行う。
【0028】
まず、正の期間の動作について説明する。制御グランド20を基準とする第一昇圧インダクタ12の入力端12aの電圧VLと、制御グランド20を基準とする第二昇圧インダクタ14の入力端14aの電圧VNは、図10に示すスイッチング電源装置10の場合と同様である。
【0029】
電圧VNは、スイッチング周波数Fswで繰り返される振幅Vo/2のパルス電圧が、約Vi/2だけ負方向に湾曲したような波形になる。電圧VNは、第一スイッチング素子がオン・オフする1周期の中で、オンの期間に負電圧−VN(on)、オフの期間に正電圧+VN(off)となり、かつオンの期間のVT積とオフの期間のVT積とが等しくなる。電圧VN(on)は、入力電圧Viの半分の電圧である。
【0030】
【数2】

【数3】

【数4】

【0031】
式(2),(3)において、tonは第一スイッチング素子22のオン時間、toffは第一スイッチング素子22のオフ時間である。制御回路30は、スイッチング周期1/Fswを一定に保ちながら、入力電圧Viが低くなるとオン時間tonを長くし、入力電圧Viが高くなるとオン時間tonを短くする制御を行う。従って、電圧VNの波形が、図2に示すように、負の方向に湾曲したような形になる。
【0032】
電圧VLは、電圧VNに、相間コンデンサ15の両端電圧V15(入力端14aを基準とする)である入力電圧Viが合算された電圧であり、式(5)のように表わされる。
【数5】

【0033】
第三巻線52と交流遮断コンデンサ44との直列回路の両端には、電圧VNが印加される。正の期間の電圧VNには、交流電源33の周波数F33の成分が含まれていないので、交流遮断コンデンサ44の電圧V44(制御グランド20を基準とする)がほぼゼロとなり、第三巻線52の両端電圧V52(入力端52aを基準とする)が、ほぼ電圧VNとなる。
【0034】
第一巻線48は第三巻線52と磁気結合しているので、その両端電圧V48(入力端48aを基準とする)が、電圧V52と同様に電圧VNとなる。従って、第一巻線48の入力端48aの電圧VLa(制御グランド20を基準とする)は、式(6)のように表わされる。
【数6】

【0035】
第二巻線50は第三巻線52と磁気結合しているので、その両端電圧V50(入力端50aを基準とする)が、電圧V52と同様に電圧VNとなる。従って、第二巻線50の入力端50aの電圧VNa(制御グランド20を基準とする)は、式(7)のように表わされる。
【数7】

【0036】
従って、式(6),(7)から分かるように、第一及び二昇圧インダクタ12,14の入力端12a,12bの電圧VL,VNに含まれるスイッチング周波数Fswのパルス電圧は、入力線インダクタ42及び交流遮断コンデンサ44によってほぼ完全に除去され、スイッチング電源装置40の入力端の電圧VLa,VNaに発生しない。
【0037】
図3は、正の期間における入力電圧Viが比較的高いとき(正の期間の中間点付近)の時間軸を拡大し、各部の電流波形を表したタイムチャートである。交流遮断コンデンサ44に流れる電流I44は、ゼロを中心にしたノコギリ状の波形になる。電流I44の振幅ΔI44は、第三巻線52のインダクタンスL/2、オンの期間に第三巻線52に印加される電圧VN(on)、及びオン時間tonを用いて、式(8)のように表わされる。
【数8】

【0038】
第一スイッチング素子22がオンの期間、ノコギリ波である電流I44は、2つの経路(第一及び第二の経路)に流れる。第一の経路は、第三巻線52、相間コンデンサ15、第一昇圧インダクタ12、第一スイッチング素子22、交流遮断コンデンサ44の経路である。第二の経路は、第三巻線52、第二昇圧インダクタ14、第二スイッチング素子26、交流遮断コンデンサ44の経路である。第一の経路にある相間コンデンサ15は、スイッチング周波数Fswにおいて非常に低インピーダンスであり、第一及び第二昇圧インダクタ12,14の各インピーダンスが等しく、第一及び第二スイッチング素子22,26の導通抵抗も等しいので、電流I44は、第一及び第二の経路にほぼ均等に分流する。従って、第一昇圧インダクタ12の電流I12は、図11で説明したノーマルモード電流Inoと、電流I44の半分の電流とを合算した電流となる。従って電流I12のノコギリ波成分ΔI12は、式(9),式(10)のように表わされる。
【数9】

【数10】

【0039】
一方、電流I14は、ノーマルモード電流Inoが逆向きになるので、ノコギリ波成分ΔI14は式(11),(12)のように表わされ、インダクタンスLによらずほぼゼロとなる。
【数11】

【数12】

【0040】
従って、式(10),(12)及び式(1)から分かるように、スイッチング電源装置40における電流I12のノコギリ波成分ΔI12は、図9の一般的なスイッチング電源装置10におけるノコギリ波成分ΔI12の2倍の値になる。一方、スイッチング電源装置40における電流I14のノコギリ波成分ΔI14は、図9に示す一般的なスイッチング電源装置10におけるノコギリ波成分ΔI14がほぼゼロになる。また、例えば、スイッチング電源装置40における第一及び第二昇圧インダクタ12,14のインダクタンスを(2・L)に変更し、かつ第三巻線52のインダクタンスをLに設定すれば、ノコギリ波成分ΔI12が一般的なスイッチング電源装置10とほぼ同じ値のまま、ノコギリ波成分ΔI14をほぼゼロにすることが可能である。
【0041】
なお、上記の式(1)〜式(12)は、図3に示すように、第一昇圧インダクタ12の電流I12がゼロアンペアを超える範囲で変化する期間において成り立つ式である。ここでは電流I12がゼロアンペアを以下になる期間の説明は省略するが、ほぼ同様の動作を行う結果、式(7)のように電圧VNaがほぼゼロボルトとなり、式(12)のようにノコギリ波成分ΔI14がほぼゼロになる。
【0042】
負の期間の動作も、正の期間と基本的に同じである。負の期間においては、図2に示すように、交流遮断コンデンサ44の電圧V44が(−Vi)となり、電圧VLaがほぼゼロ、電圧VNaが(−Vi)となる。また、ノコギリ波成分ΔI12,ΔI14は、正の期間と反対に、ノコギリ波成分ΔI12が式(12)のようにほぼゼロとなり、ノコギリ波成分ΔI14が式(10)の右辺の値となる。
【0043】
以上説明したように、スイッチング電源装置40によれば、入力段に小型の入力線インダクタ42及び交流遮断コンデンサ44を設けることにより、図4の等価回路に表わされる要領でスイッチング周波数Fswの同相ノイズが除去され、制御回路30が精度よく入力電圧Viを検出することができる。また、交流電源33に同相ノイズが帰還するのを防止することができる。また、第三巻線52と直列に接続されている交流遮断コンデンサ44は、交流電源33の周波数F33に対するインピーダンスが非常に高いので、第三巻線52の電圧V52に周波数F33の電圧成分が発生しない。従って、小型の入力線インダクタ42でも磁気飽和が発生しにくい。
【0044】
また、入力線インダクタ42と第一及び第二昇圧インダクタ12,14の各インダクタンス比を調整することによって、第一及び第二昇圧インダクタ12,14に流れる電流I12,I14に含まれるスイッチング周波数Fswのノコギリ波成分を相殺することができる。これにより、第一及び第二昇圧インダクタ12,14の抵抗成分の損失や、第一及び第二スイッチング素子22,26の導通損失を低減することができる。上述したように、電流I12,I14のノコギリ波成分を理想的に相殺するには、入力線インダクタ42のインダクタンスを、第一及び第二昇圧インダクタ12,14の各インダクタンスの半分の値に設定すればよい。しかし、入力線インダクタ42のインダクタンスをあまり小さくすると、第三巻線52に流れる電流I44の振幅ΔI44が大きくなり、第三巻線52の抵抗損失の増加を抑えるために電線を太くしなければならず、入力線インダクタ48が大型化するおそれがある。従って、インダクタンス比は、各インダクタ42,12,14、各スイッチング素子22,26に負担させる損失の配分、各素子の外形のバランス等を考慮して調整するとよい。なお、このインダクタンス比を調整・変更しても、上記の同相パルス電圧を除去する動作には影響しない。
【0045】
次に、上記スイッチング電源装置40における第三巻線52及び交流遮断コンデンサ44の接続方法の変形例について説明する。交流遮断コンデンサ44は、第三巻線52と直列に設けられ、当該直列回路は、第三巻線52の入力端52aの側の一端が制御グランド20又は平滑コンデンサ16のプラス端子に接続され、他端が前記第一又は二昇圧インダクタ12,14の入力端12a,14aに接続されていればよい。従って、図1の交流遮断コンデンサ44の制御グランド20に接続されている一端を平滑コンデンサ16のプラス端子に接続したり、第三巻線52の出力端52bを第一昇圧インダクタ12の入力端12aに接続したりしてもよく、同様の作用効果を得ることができる。また、図5(a)に示すように、第三巻線52と交流遮断コンデンサ44の順番を逆にして、第三巻線52を制御グランド20の側に設けてもよい。また、図5(b)に示すように、図5(a)の構成から相間コンデンサ15を除去し、第三巻線52の出力端52bと第一昇圧インダクタ12の入力端12aとの間に、第二の交流遮断コンデンサ44を追加する構成にしてもよい。この構成の場合、第一及び第二の交流遮断コンデンサ44が相間コンデンサ15としても動作し、かつ上述した電流I44が流れる第一の経路と第二の経路のインピーダンスのバランスを良くすることができる。従って、第一の経路と第二の経路に流れる電流I44がより均等化され、電流I12,I14のノコギリ波成分ΔI12,ΔI14の相殺を精度よく行うことができる。
【0046】
次に、この発明のスイッチング電源装置の第二実施形態について、図6〜図8に基づいて説明する。ここで、上記スイッチング電源装置10,40と同一の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。第二実施形態のスイッチング電源装置54は、図6に示すように、上記スイッチング電源40の構成に加え、電源ラインである第二巻線50の入力端50aをフレームグランド56に接地する第一接地コンデンサ58と、平滑コンデンサ16のマイナス端子をフレームグランド56に接地する第二接地コンデンサ60が設けられている。
【0047】
フレームグランド56は、電源回路が組み込まれた金属筺体等が接続される電位である。破線で記載したコンデンサ62は、入力線インダクタ42の第一及び第二巻線48,50の浮遊容量であり、同じくコンデンサ66は、第三巻線52の浮遊容量である。
【0048】
スイッチング電源装置54の同相パルス電圧に対する動作について、図7の等価回路を用いて説明する。入力線インダクタ42に浮遊容量(コンデンサ64,66)が存在すると、式(7)に示す理想的な動作が行われない場合がある。電圧VL,VNに含まれるパルス電圧には、スイッチング周波数Fswの成分に加え、もっと高い周波数の成分が含まれている。そして、周波数が高く振幅の大きい高周波成分を含まれている場合、それがノイズ源となって、交流電源33に向かうノイズ電流Ikが浮遊容量64を通じて流れようとする。しかし、このノイズ電流Ikは、第一及び第二接地コンデンサ58,60によってバイパスされるので、交流電源33への流出量を小さくすることができる。また、フレームグランド56と交流電源33の出力端との間に発生する電圧VNbが低インピーダンスの第一接地コンデンサ58によって小さく抑えられ、かつ相間コンデンサ46により第一及び第二巻線48,50の入力端48a,50aが高周波領域で確実に同電位となるので、雑音端子電圧等のEMI規格を充足させるために接続する外部フィルタ(図示しない外付けのフィルタ回路)の設計が容易になる。
【0049】
また、負荷18がDC−DCコンバータの場合、負荷18の内部にもノイズ源となる高周波成分が存在し、交流電源33に向けうノイズ電流が浮遊容量62を通じて流れようとする。しかし、このノイズ電流も第一及び第二接地コンデンサ58,60によってバイパスされ、同様の作用効果を得ることができる。
【0050】
次に、上記スイッチング電源装置54における第一及び第二接地コンデンサ58,60の接続方法の変形例について説明する。第一接地コンデンサ58は、交流電源33と入力線インダクタ42の入力端との間の電源ラインの何れかとフレームグランド56との間に接続されていればよい。従って、図6では第一接地コンデンサ58の一端が第二巻線50の入力端50aに接続されているが、第一巻線48の入力端48aに接続しても同様の作用効果を得ることができる。また、図8に示すように、相間コンデンサ46を削除して入力端48a,50aの双方を第一接地コンデンサ58で接地すれば、2つの第一接地コンデンサ58が相間コンデンサ46としても働き、かつ2つの電源ラインの高周波領域の電位バランスがより良くなるので、雑音端子電圧等のEMI規格を充足させるための外部フィルタの設計がさらに容易になる。
【0051】
また、第二接地コンデンサ60は、平滑コンデンサ16の両端の何れかとフレームグランド56との間に接続されていればよい。従って、図6では第二接地コンデンサ60の一端が平滑コンデンサ16のマイナス端子に接続されているが、プラス端子に接続されていても同様の作用効果を得ることができる。また、図8に示すように、プラス端子入力端48a,50aの双方を2つの第二接地コンデンサ60で接地すれば、2つの出力ラインの高周波領域の電位バランスがよくなり、雑音端子電圧等のEMI規格を充足させるための外部フィルタの設計がさらに容易になる。
【0052】
なお、この発明のスイッチング電源装置は、上記実施形態に限定されるものではない。制御回路は、少なくとも、第一及び第二スイッチング素子のオン時間とオフ時間とを可変することによって出力電圧Voを一定の値に制御するものであればよく、例えばスイッチング周波数Fswが変化する制御方式でもよいし、力率改善を行わないものであってもよい。
【0053】
また、第一及び第二昇圧インダクタは、インダクタンスがほぼ等しければよく、互いの磁気結合の有無は問わない。上記の第一及び第二昇圧インダクタ12,14のように磁気結合させる場合、双方の巻線を1つのコア材に回巻して一部品として形成することができ、またインダクタンスや抵抗成分のバランスも取りやすい等の利点がある。一方、磁気結合させない場合、第一及び第二昇圧インダクタが独立した別個の部品となり、各インダクタの発熱を分散させることができる等の利点がある。従って、磁気結合させるか否かは、個々の電源装置の都合に合わせて自由に選択することができる。
【符号の説明】
【0054】
10,32,40,54 スイッチング電源装置
12 第一昇圧インダクタ
12a 入力端
12b 出力端
14 第二昇圧インダクタ
14a 入力端
14b 出力端
15 相間コンデンサ
16 平滑コンデンサ
20 制御グランド
22 第一スイッチング素子
24 第一整流素子
26 第二スイッチング素子
28 第二整流素子
30 制御回路
42 入力線インダクタ
44 交流遮断コンデンサ
48 第一巻線
48a 入力端
48b 出力端
50 第二巻線
50a 入力端
50b 出力端
52 第三巻線
52a 入力端
52b 出力端
56 フレームグランド
58 第一接地コンデンサ
60 第二接地コンデンサ
Vi 入力電圧
Vo 出力電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ入力端及び出力端を有し、互いのインダクタンスがほぼ等しい第一及び第二昇圧インダクタと、
プラス端子と制御グランドに接続されるマイナス端子とを有し、前記プラス端子と前記マイナス端子との間に負荷が接続される平滑コンデンサと、
前記第一昇圧インダクタの出力端と前記制御グランドとの間に接続された双方向に導通可能な第一スイッチング素子と、前記第一昇圧インダクタの出力端と前記平滑コンデンサのプラス端子との間に接続され、前記第一スイッチング素子と相補的にオン・オフする第一整流素子と、
前記第二昇圧インダクタの出力端と前記制御グランドとの間に接続された双方向に導通可能な第二スイッチング素子と、前記第二昇圧インダクタの出力端と前記平滑コンデンサのプラス端子との間に接続され、前記第二スイッチング素子と相補的にオン・オフする第二整流素子と、
前記第一及び第二スイッチング素子のオン・オフを制御する制御回路とを備え、
交流電源からの入力電圧が前記第一及び第二昇圧インダクタの入力端同士の間に供給され、前記平滑コンデンサの両端に直流の出力電圧を出力し、
前記制御回路は、前記入力電圧の正方向及び負方向の変化を検出し、前記第一昇圧インダクタ側が高電位になる正の期間には、前記第二スイッチング素子をオンに保持して前記第一スイッチング素子をオン・オフさせ、前記第二昇圧インダクタ側が高電位になる負の期間には、前記第一スイッチング素子をオンに保持して前記第二スイッチング素子をオン・オフさせるスイッチング電源装置において、
入力端と出力端とを有する第一巻線、入力端と出力端とを有し前記第一巻線と同じ巻数で同極性に磁気結合した第二巻線、及び入力端と出力端とを有し前記第一巻線と同じ巻数で同極性に磁気結合した第三巻線とを有する入力線インダクタを備え、
前記入力線インダクタの前記第一及び第二巻線は、前記交流電源と前記第一及び第二昇圧インダクタとの間に挿入され、前記第一巻線の出力端が前記第一昇圧インダクタの入力端に接続され、前記第二巻線の出力端が前記第二昇圧インダクタの入力端に接続され、
前記第三巻線と直列に交流遮断コンデンサが接続されて直列回路が設けられ、当該直列回路における前記第三巻線の入力端側の一端が前記制御グランド又は前記平滑コンデンサのプラス端子に接続され、他端が前記第一又は第二昇圧インダクタの入力端に接続され、
前記第一昇圧インダクタ及び第二昇圧インダクタの入力端同士の間に相間コンデンサが接続され、
前記交流遮断コンデンサ及び前記相間コンデンサは、前記交流電源の周波数に対して高インピーダンスであり、前記第一及び第二スイッチング素子のスイッチング周波数に対して低インピーダンスであることを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記入力線インダクタのインダクタンスは、前記第一及び第二昇圧インダクタのインダクタンスの半分の値に設定されている請求項1記載のスイッチング電源。
【請求項3】
前記第三巻線の入力端が前記制御グランド又は前記平滑コンデンサのプラス端子に接続され、
前記第三巻線の出力端と前記第一昇圧インダクタの入力端との間、及び前記第三巻線の出力端と前記第二昇圧インダクタの入力端との間に、前記交流遮断コンデンサが個別に設けられている請求項1又は2記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記交流電源と前記入力線インダクタとの間の電源ラインの何れかが第一接地コンデンサを介してフレームグランドに接地され、前記平滑コンデンサの両端の何れかが第二接地コンデンサを介して前記フレームグランドに接地されている請求項1乃至3のいずれか記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記制御回路は、入力電流を整形して力率を改善する制御を行う請求項1乃至3のいずれか記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記第一及び第二昇圧インダクタは、互いに巻数が等しく逆極性に磁気結合している請求項1乃至3のいずれか記載のスイッチング電源装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−110829(P2013−110829A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253104(P2011−253104)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)
【Fターム(参考)】