説明

スイッチ及びその製造方法並びに静電リレー

【課題】硬度の高い接点材料を用いて対向面積の大きな接点を形成する。
【解決手段】可動接点部34の移動方向の端面と固定接点部33の端面が対向する。固定接点部33は、固定接点基板41の上方に蒸着、スパッタ、電解メッキ等により緩衝層44と導電層45が複数層交互に積層される。導電層45の可動接点部34と対向する端部は緩衝層44の端面よりも突出しており、導電層45の端面が固定接点46(接触面)となる。可動接点部34は、可動接点基板51の上に蒸着、スパッタ、電解メッキ等により緩衝層54と導電層55が複数層交互に積層される。導電層55の固定接点部33と対向する端部は緩衝層54の端面よりも突出しており、導電層55の端面が可動接点56(接触面)となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスイッチ及びその製造方法並びにリレーに関する。具体的には、可動接点部の移動方向と垂直な面が接点となったスイッチ及びその製造方法と、当該スイッチの構造を用いたリレーに関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチやリレーにおいては、接点どうしが溶着するとスイッチやリレーが動作しなくなるので、接点の溶着対策が重要となる。接点の溶着を回避するための対策の一つに、できるだけ硬度の高い接点材料を用いることがある。
【0003】
また、接点に加工誤差があったり、可動接点の動作毎の動きにバラツキがあったりした場合にも接点どうしを安定に接触させるためには、接点どうしの対向面積を大きくしなければならない。基板の表面に成膜された導電層の側面が接点となっている場合には、接点どうしの対向面積を大きくするためには、導電層の厚みを厚くすればよい。そのため、このような接点構造では、接点どうしを安定に接触させるためには、基板の上に成膜される導電層の厚さを大きくすればよい。
【0004】
しかし、硬度の高い接点材料を用いて厚みの大きな導電層(接点)を形成しようとすると、導電層の内部応力が大きくなり、また温度変化等により基板と導電層との間に生じる熱応力が大きくなるので、導電層が基板から剥がれやすくなる。また、導電層が厚くなると、導電層を成膜するのが困難になる。したがって、従来は硬度の高い接点材料を用いて対向面積の大きな接点を形成することは難しかった。
【0005】
なお、可動接点部の移動方向と垂直な面が接点(接触面)となったMEMSスイッチとして、特許文献1に開示されたものがある。このMEMSスイッチでは、基板の上面に形成された絶縁層の上面から端面にかけてメッキで導電層を形成し、導電層の突出部分を可動接点としている。しかし、このような接点の構造でも、硬度の高い導電層の厚さを大きくすることは困難であり、また硬度の高い導電層の厚みを大きくすると導電層が剥離しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−526267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような技術的課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは硬度の高い接点材料を用いて対向面積の大きな接点を形成することのできるスイッチ及びその製造方法と、当該スイッチの構造を用いたリレーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るスイッチは、第1の基板の上方に複数層の導電層を積層した第1の接点部と、第2の基板の上方に複数層の導電層を積層した第2の接点部とを備え、前記第1の接点部における前記導電層の厚さ方向に平行な端面をそれぞれ第1の接点部の接点とし、前記第2の接点部における前記導電層の厚さ方向に平行な端面をそれぞれ第2の接点部の接点とし、前記第1の接点部の各接点と前記第2の接点部の各接点とを対向させて両接点を互いに接触又は離間させるようにしたことを特徴としている。
【0009】
本発明のスイッチにあっては、複数層の導電層を積層して第1の接点部を形成し、複数層の導電層を積層して第2の接点部を形成しているので、第1の接点部における導電層の層数を増やすことによって第1の接点部の接点面積を大きくでき、また第2の接点部における導電層の層数を増やすことによって第2の接点部の接点面積を大きくできる。また、接点を開閉動作させる都度動作バラツキがあっても接点の接触安定性を安定させることができ、また接点の接触位置が分散されて接点の破壊も起きにくくなる。従って、接点どうしの対向面積が大きくなって第1の接点部の接点と第2の接点部の接点との接触位置が分散され、接点接触部の破壊が起こりにくくなる。また、第1の接点部と第2の接点部における導電層(配線部分)の配線抵抗も小さくできる。
【0010】
しかも、導電層を積層する層数を増やしてやれば、第1の接点部及び第2の接点部の各接点面積を大きくするために各導電層の厚みを厚くする必要がないので、第1の接点部及び第2の接点部における内部応力を小さくできる。よって、導電層(接点)の材料として溶着(スティック)の起きにくい硬度の高い材料を用いた場合でも、製造工程で発生する内部応力や温度変化による熱応力のために各導電層が基板から剥離する恐れが小さくなる。特に、第1の基板の上方に複数層の導電層を積層して第1の接点部を形成し、第2の基板の上方に複数層の導電層を積層して第2の接点部を形成しているので、導電層よりも軟らかくて比抵抗の小さな層や、加工性のよい材料からなる層や、密着性のよい層などを介して各導電層どうしを積層することにより、より一層剥離が起きにくくなる。
【0011】
本発明に係るスイッチのある実施態様は、前記第1の接点部及び前記第2の接点部において、前記導電層が、前記導電層よりも硬度の小さな緩衝層と交互に積層されていることを特徴としている。この実施態様によれば、接点を有する導電層を硬度の高い材料で形成することができるので、接点どうしの溶着が起こりにくくなり、接点の寿命が長くなる。また、導電層間に比較的硬度の低い緩衝層を設けているので、接点どうしが接触するときの衝撃を緩衝層によって和らげることができる。また、緩衝層によって導電層の歪みを緩和することができるので、より一層導電層が基板から剥離しにくくなる。さらに、トータルで接点どうしの対向面積(導電層端面のトータルの厚さ)を大きくできるので、接点どうしの接触安定性を向上させることができる。また、緩衝層として、硬度に関係なく比抵抗の低い材料を選択できるため、配線抵抗を下げることができる。
【0012】
また、本発明に係るスイッチの別な実施態様は、前記第1の接点部及び前記第2の接点部において、前記導電層の前記接点となる端面が前記緩衝層の端面よりも突出していることを特徴としている。この実施態様によれば、両接点部の導電層端面が緩衝層の端面よりも突出しているので、第1の接点部の緩衝層と第2の導電層の緩衝層が接触することによって第1の接点部の接点と第2の接点部の接点とが接触不良を起こすのを防ぐことができる。また、第1の接点部と第2の接点部との間での緩衝層どうしの接触や導電層と緩衝層の接触を防ぐことができるので、緩衝層どうしのスティックや緩衝層と導電層とのスティックを防止することができる。
【0013】
本発明に係るスイッチのさらに別な実施態様は、前記第1の接点部を構成する前記導電層の厚さが、前記第2の接点部を構成する前記緩衝層の厚さよりも厚いことを特徴としている。この実施態様によれば、第1の接点部の導電層が第2の接点部の導電層間に嵌り込んで第1の接点部と第2の接点部がスティックを起こすことを防止できる。
【0014】
本発明に係るスイッチのさらに別な実施態様は、前記第2の接点部を構成する前記導電層の厚さが、前記第1の接点部を構成する前記緩衝層の厚さよりも厚いことを特徴としている。この実施態様によれば、第2の接点部の導電層が第1の接点部の導電層間に嵌り込んで第1の接点部と第2の接点部がスティックを起こすことを防止できる。
【0015】
本発明に係るスイッチのさらに別な実施態様は、前記第1の接点部及び前記第2の接点部における前記導電層が、Pt、Pd、Ir、Ru、Rh、Re、Ta、Ag、Ni、Au、Au、又はこれらの合金からなることを特徴としている。この実施態様によれば、導電層の比抵抗を小さくできるので、接点どうしの接触抵抗をさらに小さくできる。
【0016】
本発明に係るスイッチの第1の製造方法は、基板の上方に所定パターンのモールド部を形成し、前記基板の上方において前記モールド部の形成されている領域を除く複数領域に緩衝層と導電層を前記基板の厚み方向で成長させることにより前記基板の上方に1層又は複数層の緩衝層と複数層の導電層を交互に積層する工程と、前記モールド部を除去し、前記導電層の前記モールド部側面に接していた面によって接点となる面を形成する工程と、前記緩衝層と前記導電層が積層した複数領域に合わせて前記基板を複数に分割する工程とを備えたことを特徴としている。
【0017】
本発明の第1の製造方法にあっては、モールド部によって接点となる導電層の端面を平滑に成形することができ、接点どうしの接触抵抗を小さくできる。また、第1の接点部の接点と第2の接点部の接点とのギャップ距離は、モールド部の幅によって制御することができるので、接点間のギャップ距離のバラツキを小さくでき、接点間距離を狭小化できる。
【0018】
本発明に係るスイッチの第2の製造方法は、基板の上方において緩衝層と導電層を前記基板の厚み方向で成長させることにより前記基板の上方に1層又は複数層の緩衝層と複数層の導電層を交互に積層する工程と、積層された前記緩衝層及び前記導電層の上に複数領域のモールド部を形成する工程と、前記モールド部をマスクとして前記緩衝層と前記導電層をエッチングすることにより前記緩衝層と前記導電層を複数領域に分割するとともに、前記導電層のエッチングされた面によって接点となる面を形成する工程と、分割された前記緩衝層と前記導電層の領域に合わせて前記基板を複数に分割する工程とを備えたことを特徴としている。
【0019】
本発明の第2の製造方法にあっては、積層された導電層と緩衝層をエッチングすることによって接点となる導電層の端面を平滑に成形することができ、接点どうしの接触抵抗を小さくできる。また、第1の接点部の接点と第2の接点部の接点とのギャップ距離は、モールド部からの露出部分の幅によって制御することができるので、接点間のギャップ距離のバラツキを小さくでき、接点間距離を狭小化できる。
【0020】
本発明に係るリレーは、本発明に係るスイッチと、前記第1の接点部と前記第2の接点部のうち少なくとも一方の接点部をその接点と垂直な方向へ移動させて第1の接点部の接点と第2の接点部の接点を互いに接触又は離間させるためのアクチュエータとを備えたことを特徴としている。本発明のリレーにあっては、接点に硬度の高い材料を用いて接点どうしの溶着が起きにくくでき、しかも接点のトータルの対向面積を大きくしても導電層どうしの剥離が起きにくくなる。さらに、接点の対向面積が大きくなることで、接点どうしの接触安定性が得られる。
【0021】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、接点として硬度の高い材料を用いることで溶着が起きにくくできる。しかも、緩衝層を挟んで導電層を積層して接点の対向面積を大きくするので、接点に硬度の高い材料を用いても導電層の基板からの剥離や導電層どうしの剥離が起きにくくなり、硬度の高い材料からなる接点の対向面積を大きくできる。そして、接点の対応面積を大きくすることで、接点を開閉動作させる都度動作バラツキがあっても接点の接触安定性を安定させることができ、また接点の接触位置が分散されて接点の破壊も起きにくくなる。さらに、緩衝層として比抵抗の小さな材料を用いることにより、第1及び第2の接点部の配線抵抗も小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施形態1によるスイッチの構造を示す断面図である。
【図2】図2(a)〜(d)は、実施形態1のスイッチの製造方法を説明する概略断面図である。
【図3】図3(a)〜(d)は、図2(d)に続く工程を示す概略断面図である。
【図4】図4(a)〜(d)は、実施形態1のスイッチの別な製造方法を説明する概略断面図である。
【図5】図5(a)〜(c)は、実施形態1のスイッチの別な製造方法を説明する概略断面図であって、図4(d)に続く工程を示す。
【図6】図6(a)〜(c)は、実施形態1のスイッチの別な製造方法を説明する概略断面図であって、図5(c)に続く工程を示す。
【図7】図7は、本発明の実施形態2によるスイッチの構造を示す断面図である。
【図8】図8(a)〜(d)は、実施形態2のスイッチの製造方法を説明する概略断面図である。
【図9】図9(a)〜(c)は、図8(d)に続く工程を示す概略断面図である。
【図10】図10(a)〜(c)は、図9(c)に続く工程を示す概略断面図である。
【図11】図11は、本発明の実施形態3による静電リレーを示す平面図である。
【図12】図12は、図11のA部を拡大して示す斜視図である。
【図13】図13は、実施形態3の静電リレーの可動電極部及び固定電極部を拡大して示す斜視図である。
【図14】図14は、図11のB−B線に沿った概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々設計変更することができる。
【0025】
[第1の実施形態]
(構造)
図1は、本発明の実施形態1によるスイッチの構造を示す断面図である。このスイッチ31は、固定接点部33と可動接点部34を備えている。固定接点部33は、絶縁膜42を介してその下面をベース基板32の上面に固定され、可動接点部34はベース基板32の上面から浮いていて駆動機構又はアクチュエータによってベース基板32の上面と平行な方向(白抜き矢印で示す方向)に移動する。例えば、本発明のスイッチは、特許文献1に開示されているような構造のMEMSスイッチにも用いることができる。
【0026】
固定接点部33は、表面を絶縁層40で覆われた固定接点基板41の上面に配線パターン部48を設けたものである。配線パターン部48は、絶縁層40の上面に位置する下地層43と、その上に交互に積層された複数組の導電層45及び緩衝層44からなる。また、可動接点部34は、表面を絶縁層50で覆われた可動接点基板51の上面に配線パターン部58を設けたものである。配線パターン部58は、絶縁層50の上面に位置する下地層53と、その上に交互に積層された複数組の導電層55及び緩衝層54からなる。下地層43、53は、金属材料層であって蒸着、スパッタリング、無電解メッキ等により成膜される。緩衝層44、54は、電解メッキや無電解メッキ、蒸着、スパッタリング等によって導電性材料を厚み方向に成長させることによって形成される。導電層45、55は、電解メッキや無電解メッキ、蒸着、スパッタリング等によって金属材料を厚み方向(図1の矢印方向α)に成長させることによって形成される。
【0027】
導電層45、55の互いに対向する側の端部はそれぞれ緩衝層44、54及び下地層43、53の端面から突出している。導電層45、55の対向面はそれぞれ固定接点46(電気的接触面)と可動接点56(電気的接触面)になっており、いずれも平滑に形成されている。各固定接点46は固定接点基板41の上面に垂直な同一平面上にあり、また各可動接点56は可動接点基板51の上面に垂直な同一平面上にあり、固定接点46と可動接点56とは互いに平行に形成されている。また、各固定接点46と各可動接点56は同じ高さに位置しており、可動接点部34を平行移動させて両接点46、56を閉じたとき、両接点46、56はそれぞれほぼ全面において面接触する。ただし、固定接点46と可動接点56は必ずしも平面でなければならない訳ではなく、湾曲面となっていても差し支えない。
【0028】
固定接点部33や可動接点部34の接触抵抗や配線抵抗はできるだけ小さいことが好ましいから、緩衝層44、54及び導電層45、55の材料は比抵抗の小さなものが望ましい。また、固定接点46や可動接点56は硬い材質である方が接触時にスティック(固着)が起こりにくく、スイッチ31の寿命が長くなるので、導電層45、55の材料は硬度の高いものが好ましい。これに対し、緩衝層44、54は、ある程度柔らかい(ただし、固定接点46と可動接点56の接触力によって変形しない程度の柔らかさ)方が、接点どうしの接触時における導電層45、55の変形を緩和できるので、ある程度柔らかい材料が好ましい。従って、導電層45、55の材料としては、比抵抗が小さく、緩衝層44、54より硬度の高いものを用いており、たとえばPt、Pd、Ir、Ru、Rh、Re、Ta、Ag、Ni、Auあるいはこれらの合金などを用いることができる。緩衝層44、54の材料としては比抵抗が小さく、導電層45、55より硬度の低いものを用いており、たとえばAu、Ag、Alあるいはこれらの合金などを用いることができる。また、緩衝層44、54としては、金属材料が好ましいが、ポリシリコンなど非金属の導電性材料であっても差し支えない。
【0029】
具体的には、導電層45、55の比抵抗は20μΩ・cm(at 20℃)以下であることが好ましいが、この範囲内でもできるだけ比抵抗が小さいことが望ましい。緩衝層44、54の比抵抗は50μΩ・cm(at 20℃)以下であることが好ましく、この範囲内でもできるだけ比抵抗が小さなものが望ましい。
【0030】
導電層45、55の硬度は30以上2000以下であることが好ましい。また、緩衝層44、54の硬度は10以上1500以下であることが好ましい。なお、この硬度は、(株)島津製作所のダイナミック超微小硬度計における硬度の単位であるダイナミック硬度Hで表したものである。
【0031】
導電層45の厚さT2が緩衝層54の厚さT1よりも薄かったり、導電層55の厚さT2が緩衝層44の厚さT1よりも薄かったりすると、可動接点部34を固定接点部33に接触させたとき相互の高さがずれた場合に、導電層45の先端部が導電層55間に嵌り込んだり、導電層55の先端部が導電層45間に嵌り込んだりして導電層45と導電層55がスティックを起こし、スイッチ31の寿命が短くなる恐れがある。このような現象を防止するためには、導電層45の厚さT2が緩衝層54の厚さT1よりも大きく(T2>T1)、導電層55の厚さT2も緩衝層44の厚さT1より大きく(T2>T1)しておけばよい。
【0032】
また、固定接点46と可動接点56の接触抵抗や固定接点部33及び可動接点部34の配線抵抗を小さくするためには、導電層45、55や緩衝層44、54の厚さを大きくすればよいが、これらの厚さをあまり厚くすると、製造時の内部応力や温度変化(線膨張係数差)により発生する熱応力などによって導電層45、55や緩衝層44、54が剥離するおそれがある。従って、導電層45、55や緩衝層44、54の一層一層の厚さT2、T1は、いずれも10μm程度よりも薄くし、これらの層数を増やすことで導電層45、55や緩衝層44、54の全体の厚さ(総厚さ)を大きくし、抵抗を小さくすればよい。導電層45、55の層数や緩衝層44、54の層数は、製造工程上あるいはコスト上支障のない範囲であれば特に上限は存在しない。
【0033】
このスイッチ31では、導電層45、55がそれぞれ緩衝層44、54及び下地層43、53の端面よりも突出しているので、固定接点46と可動接点56が接触する前に緩衝層44、54どうしが当たったり、下地層43、53どうしが当たったりして、固定接点46と可動接点56の接触が妨げられることがない。また、固定接点46と可動接点56が当接することで緩衝層44、54どうしの接触が妨げられるので、緩衝層44、54に硬度の低い材料や比較的軟らかい材料を用いている場合でも、緩衝層44、54どうしが粘着することがなく、接点寿命に影響することがなくなる。
【0034】
したがって、導電層45、55の突出長eはできるだけ大きいことが望ましいが、あまり長くなり過ぎても加工が困難になったり、強度が問題になったりする恐れがある。従って、導電層45、55の突出長eは、導電層45、55の摩耗量と強度、加工性などを考慮して決めればよい。スイッチング動作を繰り返したときの導電層45、55の摩耗量は0.1μmよりも小さいので、導電層45、55の突出量eは0.1μm以上あればよい。
【0035】
また、固定接点46と可動接点56はそれぞれ固定接点基板41及び絶縁層40の各端面と可動接点基板51及び絶縁層50の各端面からも突出しており、固定接点基板41と可動接点基板51の対向面はいずれも下面側ほど後方へ引っ込むように傾斜している。したがって、可動接点部34を動かして各可動接点56を各固定接点46に接触させるとき、固定接点基板41と可動接点基板51が接触したり、絶縁層40と絶縁層50が接触したりして可動接点56と固定接点46の接触を妨げることがない。
【0036】
(第1の製造方法)
スイッチ31は、MEMS(Micro Electrical-Mechanical Systems)技術を用いて製作される。図2(a)〜(d)及び図3(a)〜(d)は、スイッチ31の製造工程の一例を表しており、電解メッキによって導電層45、55を作製するものである。
【0037】
図2(a)は、Siからなる基板A1の上面に絶縁層A0を形成し、さらにその上にメッキ下地層A3を形成したものである。メッキ下地層A3は、金属材料を蒸着やスパッタリング、無電解メッキ等の方法で絶縁層A0の上面に成膜したものである。メッキ下地層A3は、メッキ電極となるものであり、例えば下層Cr/上層Auからなる2層構造となっている。
【0038】
ついで、図2(b)に示すように、配線パターン部48及び58を形成しようとする領域以外の領域において基板A1の上面にモールド部A2を設ける。モールド部A2は、メッキ液に耐性があり、かつ、その後のモールド部除去工程において導電層A5や緩衝層A4、メッキ下地層A3、絶縁層A0を浸食することなく選択的にエッチング除去される材料を用いる。モールド部A2を作製するには、例えばメッキ下地層A3の上から基板A1の上面に塗布したフォトレジストを露光用マスクを通して露光しエッチングすることによりパターニングすればよい。こうしてパターニングされたモールド部A2は、配線パターン部48が形成される領域のメッキ下地層A3と配線パターン部58が形成される領域のメッキ下地層A3との中間の領域においては、その両側面が互いに平行で、かつ平滑となっている。また、モールド部A2は、基板A1の上に形成する配線パターン部48、58の厚みよりも十分に大きな高さを有している。
【0039】
モールド部A2を形成した基板A1には次のようにしてメッキ処理が施される。基板A1をメッキ浴に浸漬し、メッキ下地層A3をメッキ電極として電解メッキを行うと、図2(c)に示すように、メッキ下地層A3の表面にPtなどのメッキ金属粒子が析出し、導電層A5が基板A1の厚み方向に成長する。モールド部A2で覆われている領域にはメッキ金属粒子は析出しない。
【0040】
ついで、図2(d)に示すように、導電層A5の上に緩衝層A4を積層する。緩衝層A4を積層する方法としては、異なるメッキ液に浸漬し、導電層A5をメッキ電極として導電層A5の上に緩衝層A4を析出させる方法でもよく、あるいは蒸着やスパッタリング等によって導電層A5の上に緩衝層A4を成膜する方法でもよい。
【0041】
図2(c)の工程と図2(d)の工程を複数回繰り返し、図3(a)のようにモールド部A2以外の領域にそれぞれ配線パターン部48と配線パターン部58を形成し終えたら、図3(b)のようにエッチングによってモールド部A2を除去する。この結果、基板A1の上面には導電層45(A5)、緩衝層44(A4)及び下地層A3からなる配線パターン部48と、導電層55(A5)、緩衝層54(A4)及び下地層A3(ただし、この段階ではメッキ下地層A3は下地層43と下地層53に分割されていない。)からなる配線パターン部58とができる。また、モールド部A2に接していた導電層45、55の端面は平滑に、かつ、互いに平行に形成される。
【0042】
この後、空間A6内のメッキ下地層A3と絶縁層A0をエッチングしてそれぞれ下地層43と下地層53に分割し、また絶縁層40と絶縁層50に分割する。さらに、基板A1を下面側からエッチングし、図3(c)のように固定接点基板41と可動接点基板51に分割する。ついで、モールド部A2が除去された跡の空間A6内に浸入させたエッチング液によって緩衝層44の端部を選択的にエッチングすると、図3(d)に示すように、緩衝層44がエッチバックされて導電層45、55の端部が突出し、その端面に固定接点46と可動接点56が形成される。なお、ここではメッキ下地層A3と絶縁層A0と基板A1を分割してから、緩衝層44をエッチバックさせたが、これとは逆に、緩衝層44をエッチバックさせた後に、メッキ下地層A3と絶縁層A0と基板A1を分割してもよい。
【0043】
こうして一方のブロックは、絶縁層40、固定接点基板41、下地層43、緩衝層44及び導電層45が積層した固定接点部33となる。この固定接点部33は絶縁膜42を介してベース基板32の上面に固定されている。また、他方のブロックは、絶縁層50、可動接点基板51、下地層53、緩衝層54及び導電層55が積層した可動接点部34となる。この可動接点部34は、最後に下面の絶縁膜をエッチング除去することによりベース基板32から分離される。この結果、スイッチ31(MEMSスイッチ)が製作される。
【0044】
(第2の製造方法)
また、スイッチ31は、図4(a)〜(d)、図5(a)〜(c)及び図6(a)〜(c)に示すような工程で作製することもできる。第2の製造方法でも、図4(a)に示すように、始めに表面を絶縁層A0で覆われた基板A1の上にメッキ下地層A3を形成する。
【0045】
ついで、図4(b)に示すように、メッキ下地層A3の上面において配線パターン部48、58を形成しようとする領域以外の領域にモールド部A2を設ける。図4(c)に示すようにメッキ工程によりメッキ下地層A3のモールド部A2から露出した領域に導電層A5を形成した後、図4(d)のように一旦モールド部A2を除去する。
【0046】
さらに、図5(a)に示すように、メッキ下地層A3が露出した領域に新たにモールド部A2を設け、図5(b)のようにメッキ工程により導電層A5の上に緩衝層A4を積層する。ついで、図5(c)に示すように、再びモールド部A2を除去する。
【0047】
そして、図4(b)〜(d)のように新しいモールド部A2を作製して導電層A5を成膜する工程と、図5(a)〜(c)のようにあたらしいA2を作製して緩衝層A4を成膜する工程とを交互に何回か繰り返すことにより、図6(a)のように基板A1の上に配線パターン部48、58を形成する。
【0048】
この後、空間A6からメッキ下地層A3と絶縁層A0の露出部分をエッチング除去し、さらに基板A1を下面側からエッチングし、図6(b)のように固定接点基板41と可動接点基板51に分割する。ついで、配線パターン部48及び58の間の空間A6に浸入させたエッチング液によって緩衝層44の端部を選択的にエッチングすると、図6(c)に示すように、緩衝層44がエッチバックされて導電層45、55の端部が突出し、その端面に固定接点46と可動接点56が形成される。なお、ここではメッキ下地層A3と絶縁層A0と基板A1を分割してから、緩衝層44をエッチバックさせたが、これとは逆に、緩衝層44をエッチバックさせた後に、メッキ下地層A3と絶縁層A0と基板A1を分割してもよい。
【0049】
第2の製造方法では、エッチング液などで傷んだモールド部A2を除去して新しいモールド部A2を作製し、毎回新しいモールド部A2を用いて導電層A5を成膜しているので、各層の導電層A5の端面をより平滑に形成することができる。
【0050】
(作用効果)
本発明のスイッチ31にあっては、固定接点46の接触面と可動接点56の接触面が導電層A5の成長方向と平行であるので、モールド部の側面によって各接点46、56の接触面を平滑に成形することができる。また、両接点46、56の接触面の平行度も向上する。よって、両接点46、56どうしが接触しているときの接触抵抗を小さくできる。
【0051】
また、接点46、56を形成される導電層45、55を多層構造とし、導電層45、55間に導電層45、55よりも硬度の低い緩衝層44、54を設けているので、導電層45、55を硬度の高い材料で形成しても剥離が起きにくくなる。よって、導電層45、55を硬度の高い材料で形成することによって接点46、56どうしの溶着を防ぐことができる。さらに、導電層45、55が多層となっていて両接点46、56の対向面積を大きくできて接点どうしの接触位置が分散し、接点接触部の破壊が起こりにくくなる。そのため、スイッチ31の開閉寿命が増し、接点間距離の狭小化が可能になる。また、接点46、56の対向面積が大きくなるので、可動接点部34の動作にバラツキがあっても、接点の接触安定性が向上する。
【0052】
さらに、複数層の導電層45が積層されていて各導電層45の端面が固定接点46となっているので、導電層45の層数を増やすことによって固定接点46の合計面積を大きくできる。同様に、複数層の導電層55が積層されていて各導電層55の端面が可動接点56となっているので、導電層55の層数を増やすことによって固定接点56の合計面積を大きくできる。また、導電層45と導電層55の長さ方向に垂直な断面の合計断面積が大きくなるので、配線パターン部48と配線パターン部58の配線抵抗も小さくなる。しかも、配線パターン部48及び58は、それぞれ導電層45、55と緩衝層44、54を交互に積層して形成されているので、導電層44、55の合計厚さと同じ厚さの導電層を1層だけ設ける場合に比べて、内部応力等による反りを抑制することができて導電層44、55が基板41、51から剥離しにくくなる。
【0053】
さらに、導電層45、55を硬度の高い材質で形成することによって接点46、56どうしのスティックを防止できる。また、緩衝層44、5を導電層45、55よりも硬度の低い材質で形成することにより接点46、56どうしの接触時の衝撃を緩衝層44、45によって緩和するとともに導電層45、55の応力を緩和して歪みを小さくでき、導電層45、55の剥離を防ぐことができる。
【0054】
さらに、固定接点46と可動接点56が、緩衝層44、54や下地層43、53などの端面から突出しているので、緩衝層44、54や下地層43、53に妨げられることなく固定接点46と可動接点56を確実に接触させることができる。また、緩衝層44と緩衝層54が接触したり、緩衝層44が導電層55と接触したり、緩衝層54が導電層45と接触したりしないので、これらのスティックを防止できる。
【0055】
しかも、導電層45、55の厚さを緩衝層44、54の厚さよりも厚くしてあれば、接点46、56どうしの位置がずれた場合でも、導電層45の端部が導電層55間の隙間に入り込んだり、導電層55の端部が導電層45間の隙間に入り込んだりして固定接点部33と可動接点部34がくっつくのを防ぐことができる。
【0056】
また、導電層45、55をMEMS技術を用いて成形しているので、固定接点46と可動接点56のギャップ距離のバラツキを小さくでき、接点間距離を狭小化できる。
【0057】
[第2の実施形態]
図7は本発明の実施形態2によるスイッチ31Aの構造を示す断面図である。このスイッチ31Aでは、下地層43を用いておらず、緩衝層44、54から始めて絶縁層40及び絶縁層50の上面にそれぞれ緩衝層44、54と導電層45、55とを交互に積層している。
【0058】
図8(a)〜(d)、図9(a)〜(c)及び図10(a)〜(c)は、スイッチ31Aの製造工程を示す断面図である。この製造方法は、蒸着やスパッタリング等によって配線パターン部48、58を作製するものである。
【0059】
まず、図8(a)に示すように、基板A1の上面を絶縁層A0で被覆し、絶縁層A0の上面に蒸着、スパッタリング、無電解メッキ等の方法によって緩衝層A4を成膜し、ついで図8(b)のように緩衝層A4の上面に蒸着、スパッタリング、電解メッキ等によって導電層A5を成膜する。さらに、図8(a)の工程(このときには、電解メッキを行ってもよい。)と図8(b)の工程を繰り返し、図8(c)のように所定層数の緩衝層A4と導電層A5を積層する。
【0060】
なお、最下層の緩衝層A4を上記のように絶縁層A0の上面に直接に設けるのでなく、絶縁層A0と緩衝層A4との間に、絶縁層A0と緩衝層A4との密着強度(剥離強度)を高めるための密着層(例えば、下層Cr/上層Auからなる2層構造)を形成してもよい。あるいは、最下層の緩衝層A4に代えて、絶縁層A0と最下層の導電層A5との間に、絶縁層A0と導電層A5との密着強度(剥離強度)を高めるための密着層(例えば、下層Cr/上層Auからなる2層構造)を形成してもよい。
【0061】
この後、図8(d)に示すように、最上層の緩衝層A4の上にフォトレジストを塗布してパターニングし、配線パターン部48及び58を形成しようとする領域にモールド部A2を形成する。
【0062】
ついで、図9(a)のようにモールド部A2からの露出領域A8において最上層の緩衝層A4をエッチング除去し、さらに図9(b)のように最上層の緩衝層A4からの露出領域A8において導電層A5をエッチング除去する。この図9(a)の工程と図9(b)の工程を繰り返すことにより、図9(c)のように配線パターン部48及び58を形成しようとする領域以外ですべての緩衝層A4及び導電層A5を除去し、絶縁層A0を露出させる。
【0063】
こうして基板A1の上方に配線パターン部48及び58が形成されたら、図10(a)に示すように、その上のモールド部A2をエッチングにより除去する。
【0064】
この後、空間A6から絶縁層A0の露出領域をエッチング除去し、A0を絶縁層40と絶縁層50に分割する。また、基板A1を下面側からエッチングし、図10(b)のように固定接点基板41と可動接点基板51に分割する。ついで、配線パターン部48と配線パターン部58の間の空間A6に浸入させたエッチング液によって緩衝層44、54の端部を選択的にエッチングすると、図10(b)に示すように、緩衝層44、54がエッチバックされて導電層45、55の端部が突出し、その端面に固定接点46と可動接点56が形成される。なお、ここでは絶縁層A0と基板A1を分割してから、緩衝層44をエッチバックさせたが、これとは逆に、緩衝層44をエッチバックさせた後に、絶縁層A0と基板A1を分割してもよい。
【0065】
こうして一方のブロックは、表面を絶縁層40で覆われた固定接点基板41の上に緩衝層44と導電層45が交互に積層した固定接点部33となる。この固定接点部33は絶縁膜42を介してベース基板32の上面に固定されている。また、他方のブロックは、表面を絶縁層50で覆われた可動接点基板51の上に緩衝層54と導電層55が交互に積層した可動接点部34となる。この可動接点部34は、最後に下面の絶縁膜をエッチング除去するこによりベース基板32から分離され、スイッチ31Aが製作される。
【0066】
[第3の実施形態]
つぎに、本発明の実施形態3による高周波用の静電リレー31Bの構造を説明する。図11は、静電リレー31Bの構造を示す平面図である。図12は、図11のA部を拡大して示す斜視図、図13はその固定接点部33及び可動接点部34を拡大して示す斜視図である。図14は、図11のB−B線に沿った概略断面図である。
【0067】
この静電リレー31Bは、Si基板やガラス基板等からなるベース基板32の上面に固定接点部33、可動接点部34、固定電極部35、可動接点部34を支持する可動電極部36、弾性バネ37、弾性バネ37を支持する支持部38を設けたものである。
【0068】
図14に示すように、固定接点部33は、Siからなる固定接点基板41の下面を絶縁膜42(SiO)によってベース基板32の上面に固定されている。図13に示すように、固定接点基板41の表面は絶縁層40で覆われており、その上面には下層Cr/上層Auからなる下地層43が形成されており、下地層43の上にPt等の緩衝層44と導電層45a、45bが交互に積層されている。
【0069】
また、図11及び図12に示すように、固定接点基板41はベース基板32の上面端部において幅方向(X方向)に延びており、中央部には可動接点部34側へ向けて突出した張出部41aが形成され、両端にそれぞれパッド支持部41b、41bが形成されている。配線パターン部48a、48bは固定接点基板41の上面に沿って配線されており、配線パターン部48a、48bの一方端部は張出部41aの上面で互いに平行に配置され、張出部41aの端面から突出した導電層45a、45bの先端面は同一平面内に位置していてそれぞれ固定接点46a、46b(電気的接触面)となっている。また、配線パターン部48a、48bの他方端部には、前記パッド支持部41b、41bの上面において金属パッド部47a、47bが形成されている。
【0070】
可動接点部34は張出部41aに対向する位置に設けられている。可動接点部34は、図14に示すように、Siからなる可動接点基板51の表面を絶縁層50で覆い、その上面に下層Cr/上層Auからなる下地層53が形成されており、下地層53の上にPt等の緩衝層54と導電層55が交互に積層されている。図13に示すように、導電層45a、45bと対向する導電層55の端面は、可動接点基板51の前面から突出し、しかも固定接点46a、46bと平行に形成されており、当該端面が可動接点56(電気的接触面)となっている。可動接点56は、固定接点46aの外側の縁から固定接点46bの外側の縁までの距離にほぼ等しい幅を有している。
【0071】
また、可動接点基板51は、可動電極部36から突出した支持梁57によって片持ち状に支持されている。可動接点基板51及び支持梁57の下面はベース基板32の上面から浮いており、可動電極部36とともにベース基板32の長さ方向(Y方向)と平行に移動できる。
【0072】
この静電リレー31Bにおいては、固定接点部33の金属パッド部47a、47bに主回路(図示せず)が接続され、可動接点56を固定接点46a、46bに接触させることによって主回路を閉じることができ、可動接点56を固定接点46a、46bから離間させることにより主回路を開くことができる。また、張出部41aと可動接点基板51の対向面はそれぞれ下方へ行くほど後退するように傾斜しており、また固定接点46a、46bが張出部41aより突出するとともに可動接点56も可動接点基板51から突出しているので、接点間を閉じる際に張出部41aと可動接点基板51が接触して可動接点56と固定接点46a、46bとが接触不良を起こすのを防いでいる。
【0073】
可動接点部34を動かすためのアクチュエータは、固定電極部35、可動電極部36、弾性バネ37及び支持部38によって構成されている。
【0074】
図11に示すように、ベース基板32の上面には複数本の固定電極部35が互いに平行に配置されている。固定電極部35は、平面視においては、矩形状のパッド部66の両面からY方向へ向けてそれぞれ枝状をした枝状電極部67が延出されている。枝状電極部67は、それぞれ左右対称となるように枝部68が突出しており、枝部68はY方向において一定ピッチで並んでいる。
【0075】
図14に示すように、固定電極部35においては、固定電極基板61の下面が絶縁膜62によってベース基板32の上面に固定されている。また、パッド部66においては、固定電極基板61の上面にCu、Al等によって固定電極63が形成されており、固定電極63の上に電極パッド層65が設けられている。
【0076】
図11に示すように、可動電極部36は、各固定電極部35を囲むように形成されている。可動電極部36には、各固定電極部35を両側から挟むようにして櫛歯状電極部74が形成されている(固定電極部35間においては、一対の櫛歯状電極部74によって枝状となっている)。櫛歯状電極部74は、各固定電極部35を中心として左右対称となっており、各櫛歯状電極部74からは枝部68間の空隙部へ向けて櫛歯部75が延出している。しかも、各櫛歯部75は、その櫛歯部75と隣接して可動接点部34に近い側に位置する枝部68との距離が、当該櫛歯部75と隣接して可動接点部34から遠い側に位置する枝部68との距離よりも短くなっている。
【0077】
可動電極部36は、Siの可動電極基板71からなり、可動電極基板71の下面はベース基板32の上面から浮いている。また、可動電極部36の可動接点側端面の中央には支持梁57が突設されていて支持梁57の先端に可動接点部34が保持されている。
【0078】
支持部38はSiからなり、ベース基板32の他方端部においてX方向に長く延びている。支持部38の下面は絶縁膜39によってベース基板32の上面に固定されている。支持部38の両端部と可動電極部36(可動電極基板71)とは、Siによって左右対称に形成された一対の弾性バネ37によってつながっており、可動電極部36は弾性バネ37を介して支持部38によって水平に支持されている。また、可動電極部36は弾性バネ37を弾性変形させることによってY方向に移動可能となっている。
【0079】
上記のような構造を有する静電リレー31Bにあっては、固定電極部35と可動電極部36の間に直流電圧源が接続され、制御回路等によって直流電圧がオン、オフされる。固定電極部35では、直流電圧源の一方端子は電極パッド層65に接続される。直流電圧源の他方端子は支持部38に接続される。支持部38及び弾性バネ37は導電性を有しており、支持部38、弾性バネ37及び可動電極部36は電気的に導通しているので、支持部38に印加した電圧は可動電極部36に加わることになる。
【0080】
直流電圧源によって固定電極部35と可動電極部36の間に直流電圧が印加されると、枝状電極部67の枝部68と櫛歯状電極部74の櫛歯部75との間に静電引力が発生する。しかし、固定電極部35及び可動電極部36の構造が、各固定電極部35の中心線に関して対称に形成されているので、可動電極部36に働くX方向の静電引力はバランスし、可動電極部36はX方向には移動しない。一方、各櫛歯部75と隣接して可動接点部34に近い側に位置する枝部68との距離が、当該櫛歯部75と隣接して可動接点部34から遠い側に位置する枝部68との距離よりも短くなっているので、各櫛歯部75が可動接点部側へ吸引され、弾性バネ37を撓ませながら可動電極部36がY方向に移動する。この結果、可動接点部34が固定接点部33側へ移動し、可動接点56が固定接点46a、46bに接触して固定接点46aと固定接点46bの間(主回路)を電気的に閉じる。
【0081】
また、固定電極部35と可動電極部36の間に印加していた直流電圧を解除すると、枝部68と櫛歯部75の間の静電引力が消失するので、弾性バネ37の弾性復帰力によって可動電極部36がY方向で後退し、可動接点56が固定接点46a、46bから離間して固定接点46aと固定接点46bの間(主回路)が開かれる。
【0082】
このような静電リレー31Bは、つぎのような工程で作製される。まず、表面全体を絶縁膜で覆われたベース基板32(Siウエハ、SOIウエハなど)の上面にSi基板(導電性を有する別なSiウエハ)を接合し、当該Si基板の上面に金属材料を蒸着させて電極膜を成膜する。ついで、この電極膜をフォトリソグラフィ技術によりパターニングし、電極膜によりパッド部66において固定電極基板61の上面に固定電極63を形成する。
【0083】
この後、電極膜の上からSi基板の上面に絶縁層と下地層を形成し、その上に所定層数の緩衝層と導電層を交互に積層する。ついで、導電層と緩衝層をパターニングして固定接点部33の配線パターン部48と可動接点部34の配線パターン部58を形成する。また、パッド部66において固定電極63の上に電極パッド層65を形成する。さらに、配線パターン部48、58の下面の下地層と絶縁層を残してエッチング除去し、残った下地層によって下地層43、53を形成し、残った絶縁層によって絶縁層40、50を形成する。
【0084】
この後、配線パターン部48a、48b、配線パターン部58、固定電極63などの上にフォトレジストを塗布してレジストマスクを形成し、このレジストマスクを通してSi基板をエッチングし、各領域に残ったSi基板により固定接点部33の固定接点基板41、可動接点部34の可動接点基板51、固定電極部35の固定電極基板61、可動電極部36の可動電極基板71、弾性バネ37、支持部38を作製する。
【0085】
最後に、Si基板から露出している領域の絶縁膜と可動接点部34及び可動電極部36の下面の絶縁膜をエッチングによって除去し、個々の静電リレー31Bにカッティングする。
【0086】
可動接点部34と固定電極部35はこのような静電リレー31Bの製造工程において、図2及び図3あるいは図4〜図6に示したような工程と同様な工程で作製されるので、固定接点部33の固定接点46a、46bと可動接点部34の可動接点56は、導電層の成長方向と平行な側面となり、研磨などを行うことなく、平滑性と平行性の良好な接点を得ることができる。よって、この静電リレー31Bにおいても、実施形態1のスイッチ31と同様な作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0087】
31、31A スイッチ
31B 静電リレー
32 ベース基板
33 固定接点部
34 可動接点部
35 固定電極部
36 可動電極部
37 弾性バネ
41 固定接点基板
43 下地層
44 緩衝層
45、45a、45b 導電層
46、46a、46b 固定接点
48、48a、48b 配線パターン部
51 可動接点基板
53 下地層
54 緩衝層
55 導電層
56 可動接点
58 配線パターン部
61 固定電極基板
63 固定電極
66 パッド部
67 枝状電極部
71 可動電極基板
74 櫛歯状電極部
75 櫛歯部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板の上方に複数層の導電層を積層した第1の接点部と、第2の基板の上方に複数層の導電層を積層した第2の接点部とを備え、
前記第1の接点部における前記導電層の厚さ方向に平行な端面をそれぞれ第1の接点部の接点とし、
前記第2の接点部における前記導電層の厚さ方向に平行な端面をそれぞれ第2の接点部の接点とし、
前記第1の接点部の各接点と前記第2の接点部の各接点とを対向させて両接点を互いに接触又は離間させるようにしたことを特徴とするスイッチ。
【請求項2】
前記第1の接点部及び前記第2の接点部において、
前記導電層は、前記導電層よりも硬度の小さな緩衝層と交互に積層されていることを特徴とする、請求項1に記載のスイッチ。
【請求項3】
前記第1の接点部及び前記第2の接点部において、
前記導電層の前記接点となる端面が前記緩衝層の端面よりも突出していることを特徴とする、請求項2に記載のスイッチ。
【請求項4】
前記第1の接点部を構成する前記導電層の厚さが、前記第2の接点部を構成する前記緩衝層の厚さよりも厚いことを特徴とする、請求項2に記載のスイッチ。
【請求項5】
前記第2の接点部を構成する前記導電層の厚さが、前記第1の接点部を構成する前記緩衝層の厚さよりも厚いことを特徴とする、請求項2に記載のスイッチ。
【請求項6】
前記第1の接点部及び前記第2の接点部における前記導電層が、Pt、Pd、Ir、Ru、Rh、Re、Ta、Ag、Ni、Au、又はこれらの合金からなることを特徴とする、請求項1に記載のスイッチ。
【請求項7】
基板の上方に所定パターンのモールド部を形成し、
前記基板の上方において前記モールド部の形成されている領域を除く複数領域に緩衝層と導電層を前記基板の厚み方向で成長させることにより前記基板の上方に1層又は複数層の緩衝層と複数層の導電層を交互に積層する工程と、
前記モールド部を除去し、前記導電層の前記モールド部側面に接していた面によって接点となる面を形成する工程と、
前記緩衝層と前記導電層が積層した複数領域に合わせて前記基板を複数に分割する工程と、
を備えたことを特徴とするスイッチの製造方法。
【請求項8】
基板の上方において緩衝層と導電層を前記基板の厚み方向で成長させることにより前記基板の上方に1層又は複数層の緩衝層と複数層の導電層を交互に積層する工程と、
積層された前記緩衝層及び前記導電層の上に複数領域のモールド部を形成する工程と、
前記モールド部をマスクとして前記緩衝層と前記導電層をエッチングすることにより前記緩衝層と前記導電層を複数領域に分割するとともに、前記導電層のエッチングされた面によって接点となる面を形成する工程と、
分割された前記緩衝層と前記導電層の領域に合わせて前記基板を複数に分割する工程と、
を備えたことを特徴とするスイッチの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載したスイッチと、
前記第1の接点部と前記第2の接点部のうち少なくとも一方の接点部をその接点と垂直な方向へ移動させて第1の接点部の接点と第2の接点部の接点を互いに接触又は離間させるためのアクチュエータと、
を備えたことを特徴とするリレー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−187353(P2011−187353A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52641(P2010−52641)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】