説明

スイング速度測定装置及びゴルフクラブのヘッドスピード測定装置

【課題】ボール等の影響も少なくどのような使用環境であっても比較的正確な測定結果を安定的に得ることができるゴルフクラブのヘッドスピード測定装置を提供する。
【解決手段】ドップラー信号を出力するドップラーセンサと、ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づく当該ドップラー信号の周期に関するデータを複数個蓄積可能なメモリ22と、ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づき当該ドップラー信号の周期に関するデータを得てメモリ22への蓄積を行い、メモリ22に蓄積されたデータ群に基づきスイング速度を算出する速度算出手段と、備える。そして、周期は一周期であり、周期に関するデータは、一周期の時間に関するデータとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドップラーセンサを用いたスイング速度測定装置及びゴルフクラブのヘッドスピード測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動する被測定物の最大速度を測定する速度測定装置として、ドップラーセンサを用いたものが知られている。このドップラーセンサを用いた従来の速度測定装置では、被測定物は等速運動(車両など)あるいは減速運動(投げられたボールなど)をするものを対象としている。そのため、測定を開始してから最初に測定された速度データを最大速度として表示すれば実用上の問題は発生しなかった。これに対し、例えばゴルフクラブ等のスイング運動のように、速度0の状態から急激に加速し、ボールを打撃するポイントで最高速に達するといった被測定物が加速運動をする場合、ドップラーセンサの検知範囲に測定対象物が進入してきた瞬間がスイングの最大速度であるとは限らず、測定開始してから最初に測定された速度を表示する従来の方法ではスイングの最大速度を捕らえられないという問題があった。
【0003】
係る問題を解決するため、従来、特許文献1,2に開示された発明がある。特許文献1に開示されたクラブヘッド速度及びテンポを測定するための小型レーダでは、RFドップラーレーダを用い、速度を測定し続け、先に記憶された速度よりも速い任意の測定速度によって最大速度の記憶値を置き換えることで、速度の最大値を求めている。
【0004】
また、特許文献2に記載のゴルフクラブの運動測定装置は、超音波センサでとらえたドップラー効果で変移した周波数の信号をウェーブレット変換により解析することで速度の最大値を求めている。
【特許文献1】特開2006−326318
【特許文献2】特開2003−210638
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、周辺物体の数、物体との距離、物体の反射面の大きさ・材質・形状等、様々な周囲の環境(状況)の要因により、ドップラーセンサから得られるドップラー信号波形は乱れる。そのため、ドップラー信号に基づいて算出される最大速度が、スイングの実際の最大速度とはならない場合がある。
【0006】
特許文献2に記載の発明では、ウェーブレット変換を行うためにドップラーセンサから出力される値をA/D変換する必要があるのでA/D変換器が必要となり、さらに、リアルタイムに計算処理を行う必要があるので高速処理が可能なプロセッサが必要となってしまう。よって、装置の価格が高くなり、消費電力も大きくなるなどコストがかかるという問題がある。また、ウェーブレット変換等の変換を加える方法では、変換を加える都合上、一波ごとの時間分解能が低くなってしまうという問題がある。そのため、測定対象物の瞬時速度データを得るのには適さず、瞬時速度データを用いて、きめ細かい演算処理や判定処理を行うことが困難であるという問題がある。
【0007】
別の問題として、利用者が実際にボールを打撃した状態のスイング速度を測定した場合、速度測定装置は、ボールの速度をスイング速度と誤測定してしまう問題がある。すなわち、打撃直後のボールは、スイング速度よりもはるかに高速に運動するため、そのボールの移動速度がスイングの最大速度として記憶されることで実際の測定対象物のスイング速度よりも、かなり大きな測定値となる。
【0008】
また、ドップラーセンサは、マイクロ波を反射する物体の動作を全て検知してしまうので、スイング前の動作(たとえばスイングを終えた測定者が測定結果を確認する為に体を動かす場合など)にセンサが反応し、速度表示が更新されて結果が確認できなくなる等の問題がある。
【0009】
従来からスイング速度をLCD等に表示する機能を備えた速度測定装置があるが、スイング速度の計測に成功したか否かがわかりにくいという問題がある。また、スイング速度の計測に成功したことを表示しようとするとその表示のための表示領域が別に必要となる。一例としては、速度測定装置の表示領域として、第一表示領域、第二表示領域、第三表示領域の3つの表示領域を設ける。そして、1回目のスイング速度測定時には測定したスイング速度を第一表示領域に表示し、2回目のスイング速度測定時には測定したスイング速度を第二表示領域に表示し、3回目のスイング速度測定時には測定したスイング速度を第三表示領域に表示する。そして、4回目のスイング速度測定時には、第二表示領域に表示しているスイング速度を第一表示領域に移して表示し、第三表示領域に表示しているスイング速度を第二表示領域に移して表示し、4回目に測定されたスイング速度を第三表示領域に表示させる。以降の測定でも同様に、スイング速度の測定時に、スイング速度の表示を順次ずらしていく。これを見ることで、利用者は、測定が成功したか否かが分かる。しかし、この場合、スイング速度の数値の表示領域が3つ必要である。しかも、それぞれの領域には、速度表示の桁数(例えば、88.8m/sのように3桁の数字の表示)分の駆動回路が必要となる。その結果、表示の駆動に大量の入出力回路や配線が必要となってしまうという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、ボール等の影響も少なくどのような使用環境であっても比較的正確な測定結果を安定的に得ることができ、スイング速度が正常に測定されたことを容易に知ることができ、低コストで、小型化(携帯等)が可能な、使い勝手のよいスイング速度測定装置及びゴルフクラブのヘッドスピード測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明に係るスイング速度測定装置は、(0−1)ドップラー信号を出力するドップラーセンサと、前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づくデータを得て、当該データに基づきスイング速度を算出する制御手段とを備え、前記制御手段は、測定対象物の移動方向を検出し、検出された移動方向がスイング方向でない場合には、前記スイング速度の算出に当該データを用いないことを特徴とする。(0−2)ドップラー信号に基づくデータは、当該ドップラー信号の周期に関するデータであり、前記制御手段は、当該データの蓄積を行い、蓄積されたデータ群に基づき前記スイング速度を算出することを特徴とする。(0−3)前記周期は一周期であり、前記周期に関するデータは、一周期の時間に関するデータであることを特徴とする。(0−4)
前記制御手段は、前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号の周期が所定値より小さくなった場合に、前記周期に関するデータの蓄積を開始することを特徴とする。(0−5)前記制御手段は、規定値以上の前記ドップラー信号の周期が検出された場合には、規定値以上の前記ドップラー信号の周期に対応する前記ドップラー信号の周期に関するデータを蓄積しないことを特徴とする。(0−6)前記制御手段は、前記蓄積された前記データの個数が所定の基準個数に達した場合に前記スイング速度の算出を行うことを特徴とする。(0−7)前記制御手段は、前記ドップラーセンサによって得られたドップラー信号の周期が所定値以下になることを待ち、所定値以下になった場合に前記周期に関するデータの前記蓄積を開始し、当該蓄積開始後、前記ドップラー信号の周期が所定値以上になった場合であって、前記データの蓄積個数が基準個数に達していない場合には、前記ドップラーセンサによって得られたドップラー信号の周期が所定値以下になることを待つ状態へ戻ることを特徴とする。(0−8)前記制御手段が得る前記周期に関するデータの個数は、測定対象物が前記ドップラーセンサの検知範囲に突入してから測定対象位置に至るまでの距離の間に発生するドップラー信号の波数とすることを特徴とする。(0−9)前記制御手段は、前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づく当該ドップラー信号の周期に関するデータを蓄積候補データとして格納し、前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づく当該ドップラー信号に基づき格納された蓄積候補データを、前記蓄積の対象にするか否かを判定し、蓄積対象データと判定された蓄積候補データを蓄積することを特徴とする。(0−10)前記制御手段は、前記蓄積されたデータ群に対して所定の算術的処理を行って前記スイング速度を算出することを特徴とする。(0−11)前記制御手段は、前記蓄積されたデータ群のデータのうちばらつきが所定の許容値よりも大きいデータを除外する除外処理と、当該除外処理によって除外されなかったデータである算術処理対象データに対して所定の算術的処理とを行うものであることを特徴とする。(0−12)前記所定の許容値として複数の異なる許容値を設け、相対的に小さな許容値で前記除外処理を行い、その結果、前記算術対象データの個数が所定の個数未満となった場合には、前記相対的に小さな許容値よりも大きな許容値で前記除外処理をしなおすことを特徴とする。(0−13)前記制御手段によって算出されたスイング速度を表示する表示手段を備え、前記表示手段は、前記スイング速度算出手段によってスイング速度が算出された後、所定時間の間、当該スイング速度を点滅表示することを特徴とする。(0−14)(0−1)〜(0−13)のいずれかに記載のスイング速度測定装置を有するゴルフクラブのヘッドスピード測定装置である。また、上述した目的を達成するために、本発明に係るスイング速度測定装置は、(1)ドップラー信号を出力するドップラーセンサと、前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づく当該ドップラー信号の周期に関するデータを複数個蓄積可能な蓄積手段と、前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づき当該ドップラー信号の周期に関するデータを得て前記蓄積手段への蓄積を行い、前記蓄積手段に蓄積されたデータ群に基づきスイング速度を算出する速度算出手段と、を備えて構成した。
【0012】
この発明によれば、ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づきそのドップラー信号の周期に関するデータを得て蓄積手段への蓄積を行い、蓄積手段に蓄積されたデータ群に基づきスイング速度を算出する。例えば、測定対象物がドップラーセンサの測定可能範囲内に進入してから、測定したい速度(例えば測定対象がスポーツ用品であればボールへのインパクト付近の最大速度)に達するまでのドップラー信号を2値化(デジタル化)してドップラーパルス信号を得て、ドップラーパルス信号からドップラー信号の周期データを得る。例えばこれらの周期データを全て保持できるだけのメモリを蓄積手段として用意しておき、速度算出手段は、測定中、このメモリに周期データを蓄積していく。そして例えば速度算出手段はメモリに蓄積されたこれらの周期データ群に基づいてクラブヘッドのスイング速度を算出する。
【0013】
この(1)の発明のように、ドップラー信号の周期に関するデータを蓄積し、蓄積されたデータ群に基づいてスイング速度を算出することで、リアルタイムに計算する場合(特許文献2など)に比べ、装置構成を簡略化でき、低コストで小型(携帯等)な装置を容易に実現できる。また、先に記憶された速度よりも速い任意の測定速度によって最大速度の記憶値を置き換えることで速度の最大値を求める従来の方法(特許文献1など)に比べ、蓄積した周期データに基づいてスイング速度を算出するため、ボール等を同時に打撃するスイングの場合におけるボール等の影響も少なく、また、どのような使用環境であっても、比較的正確な測定結果を安定的に得ることができる。よって、使い勝手のよいスイング速度測定装置を提供できる。
【0014】
なお、算出した最大速度値はユーザが認知できるように出力するとよい。たとえば、ヘッドスピード測定装置には出力手段を備え、その出力手段から速度算出手段で求めたスイング速度を出力するようにするとよい。出力手段はたとえばLEDやLCDなど各種の表示装置としたり、あるいは、スピーカとして音声合成でスイング速度を出力するようにしたりしてもよい。
【0015】
またドップラーセンサは従来から知られている様々なものを用いることができる。たとえば、所定周波数の出力信号を生成する信号生成手段と、前記信号生成手段で生成された前記出力信号を出力する送信アンテナと、前記出力信号の反射波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信された反射波と前記出力信号を周波数混合するミキサと、前記ミキサから出力される混合信号を前記ドップラー信号として出力するドップラーセンサを用いることができる。送信アンテナと受信アンテナは異なるものとすることもできるし、同一のものを用いるようにもできる。このように、たとえば送信波と反射波の差分信号をドップラー信号として出力するドップラーセンサを用いることができる。ドップラー信号としては、この差分信号そのものでもよいし、差分信号に所定の処理を加えたものでもよい。ドップラーセンサとしては、特にマイクロ波ドップラーセンサを用いるとよい。マイクロ波ドップラーセンサによれば、装置自体のセンサ部を開口させたり、透明板を用いたりする必要がなく、装置のデザイン性を損なわずにすむ。
【0016】
また、蓄積手段への周期に関するデータの蓄積は随時行うようにもできるが、測定対象物がドップラーセンサの検知範囲に突入してから行うとよい。
【0017】
また、周期に関するデータとは、周期そのものでもよいし、周波数やその他周期に所定の演算処理を施した値でもよい。例えば周期をパルスに変換しそのパルスの幅(時間)をカウントするパルスカウント方式とするとよい。
【0018】
特に、前記周期に関するデータは、周期の時間に関するデータとするとよく、特に少数の周期(例えば数周期)の時間に関するデータとするとよい。最もよいのは、下記(2)のように一周期の時間に関するデータとすることである。
【0019】
(2)前記周期は一周期であり、前記周期に関するデータは、一周期の時間に関するデータであること、とするとよい。
【0020】
この(2)の発明のようにすれば、測定対象物(例えばゴルフクラブのヘッド)の瞬時速度データを得られる。これにより一波ずつ、きめ細かい演算処理ができる。たしかにS/N的にはFFTやウェーブレット変換のほうが有利である。しかし、ドップラーセンサの監視エリアは、点ではなく空間であるため、スイング速度を測定する場合には、測定対象物だけでなく測定対象物をスイングする者の肢体や測定対象物に付随する物(例えば、シャフト部分)からの信号が含まれるため、S/Nだけでなく、ドップラー信号に含まれる突発的な不適切波をきめ細かく見極めて除外することの方が、測定値の高精度化につながるからである。
【0021】
(3)前記速度算出手段は、前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号の周期が所定値より小さくなった場合に、前記蓄積手段への前記周期に関するデータの蓄積を開始すること、とするとよい。
【0022】
この(3)の発明のように構成すると、どのような使用環境であっても、比較的正確な測定結果を安定的に得ることができ、また蓄積するデータ数を減らすことができる。なお、ドップラー信号の周期が所定値より小さくなったかは、電子回路を用いて判定するようにしてもよいし、前述した周期に関するデータに基づいて判定するようにしてもよい。そして、この所定値は、スイング開始とみなされるときの値とするとよい。この値は、たとえば、実際にスイングしているときの値と、スイングしていないときの値とを取得して、両者の値の違いに基づいて設定するとよい。
【0023】
(4)前記速度算出手段は、規定値以上の前記ドップラー信号の周期が検出された場合には、規定値以上の前記ドップラー信号の周期に対応する前記ドップラー信号の周期に関するデータを前記蓄積手段に蓄積しないこと、とするとよい。
【0024】
特に、(3)に示す構成と(4)に示す構成の双方を備えるとよい。すなわち、ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号の周期が所定値より小さくなった場合に、前記蓄積手段への前記周期に関するデータの蓄積を開始し、蓄積の開始後、規定値以上の前記ドップラー信号の周期が検出された場合には、規定値以上の前記ドップラー信号の周期に対応する前記ドップラー信号の周期に関するデータを前記蓄積手段に蓄積しないようにするとよい。
【0025】
(5)前記速度算出手段は、前記蓄積手段に蓄積された前記データの個数が所定の基準個数に達した場合に前記スイング速度の算出を行うこと、とするとよい。蓄積された複数のデータに基づいてスイング速度の算出を行なうことで、ノイズや周囲の状況の影響を抑制し、精度良く測定ができる。
【0026】
(6)前記速度算出手段は、前記ドップラーセンサによって得られたドップラー信号の周期が所定値以下になることを待ち、所定値以下になった場合に前記周期に関するデータの前記蓄積手段への蓄積を開始し、当該蓄積開始後、前記ドップラー信号の周期が所定値以上になった場合であって、前記蓄積手段へのデータの蓄積個数が前記基準個数に達していない場合には、前記ドップラーセンサによって得られたドップラー信号の周期が所定値以下になることを待つ状態へ戻ること、とするとよい。
【0027】
たとえば、ドップラー信号を2値化(デジタル化)したドップラーパルス信号を得る構成において、測定を開始したらドップラーパルスの入力を待ち、ある一定の周波数を超えるドップラーパルスが入力されたらドップラーパルス周期データ蓄積用メモリへのデータ蓄積を開始し、さらに、データ蓄積は開始したものの一定時間ドップラーパルスが入力されない場合、すでに蓄積済みのデータの個数が規定個数を超えていなければ、測定条件不成立とし、再度ドップラーパルス入力を待つ状態に戻るようにするとよい。たとえば、この一定時間は制御手段にタイマを備え、当該タイマでオーバーフローが発生したことで検出するようにしてもよい。
【0028】
このようにすれば、速度の遅い物体の運動、及び、速度は速いがクラブスイングほどに継続性の無い瞬間的な運動の影響を排除することができる。バックスイングは正規スイングよりも遅いので、たとえば、蓄積手段へのデータ蓄積を開始する基準周波数を速度測定に支障が出ない範囲で出来る限り高くする(基準周期を速度測定に支障が出ない範囲で出来る限り低くする)ことで、バックスイング測定もかなりの高確率で回避することが出来る。したがって、ボール等の影響も少なく、どのような使用環境であっても、比較的正確な測定結果を安定的に得ることができ、使い勝手のよいスイング速度測定装置を提供することができる。
【0029】
さらにこの(6)の発明のようにすれば、必要な蓄積手段の容量を小さくできるとともに、異常なデータを排除することができる。そして、比較的正確な測定結果を安定的に得ることができ、使い勝手のよいスイング速度測定装置を提供することができる。なお、たとえば、前記規定値は、前記所定値よりも大きい値とするとよい。すなわち開始条件となる周期よりも蓄積条件となる周期のほうを長くするとよい。このようにすれば、より的確な測定結果を得ることができる。
【0030】
(7)前記速度算出手段が得る前記周期に関するデータの個数は、測定対象物が前記ドップラーセンサの検知範囲に突入してから測定対象位置に至るまでの距離の間に発生するドップラー信号の波数とすること、とするとよい。
【0031】
例えば測定対象物がゴルフクラブのヘッドである場合、測定対象位置は、ボールが存在した場合にボールにインパクトすると想定される位置となる。この場合、速度算出手段が得る前記周期に関するデータの個数は、ゴルフクラブのヘッドが前記ドップラーセンサの検知範囲に突入してからボールが存在した場合にボールにインパクトすると想定される位置までの距離の間に発生するドップラー信号の波数とするとよい。
【0032】
この(7)の発明によれば、インパクト後の不要な測定データの蓄積を防ぎ、ボールの動きによる誤測定も回避することが可能になる。例えば、測定対象物がゴルフクラブのヘッドである場合、最適な蓄積個数は、ゴルフクラブが検知範囲に突入してからボールが存在した場合にボールにインパクトすると想定される位置までに発生する波の数であるが、これはシャフト長や測定者の身長・腕の長さ、装置位置などの要素により変動するのでこれらを加味して決定するとよい。たとえば、60cmから80cmに相当する波数とするとよい。周期データの蓄積個数は、たとえば、24GHz帯のマイクロ波を用いる場合100個程度とするとよい。
【0033】
(8)前記速度算出手段は、前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づく当該ドップラー信号の周期に関するデータを蓄積候補データとして格納する蓄積候補データ格納手段と、前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づく当該ドップラー信号に基づき前記蓄積候補データ格納手段に格納された蓄積候補データを、前記蓄積手段への蓄積対象にするか否かを判定する判定手段と、を備え、前記判定手段によって蓄積対象データと判定された前記蓄積候補データ格納手段に格納された蓄積候補データを前記蓄積手段に蓄積すること、とするとよい。
【0034】
このような構成の場合、例えば、(3)の発明における「ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号の周期が所定値より小さくなった場合」の判定、(4)の発明における「規定値以上の前記ドップラー信号の周期が検出された場合」の判定、(6)の発明における「所定値以下になった場合」の判定は、判定手段によって行うようにするとよい。
【0035】
(9)前記速度算出手段は、前記蓄積手段に蓄積されたデータ群に対して所定の算術的処理を行って前記スイング速度を算出すること、とするとよい。たとえば、蓄積した周期データに算術的処理として移動平均をとる処理を行った後、所定の条件(たとえば最小値)に合致するデータを検索するようにしてもよい。このように、蓄積されたデータの中から、単に最小周期のデータを用いてスイング速度を算出するのではなく、それぞれのデータを前後のデータと比較することで不適切なデータを排除したり、不適切なデータが排除された信頼度の高いデータ群のみで平均化したりすることによる測定値の安定化を図ることができる。
【0036】
(10)上記の(9)の発明を前提とし、さらに前記速度算出手段は、前記蓄積手段に蓄積されたデータ群のデータの内、ばらつきが所定の許容値よりも大きいデータを除外する除外処理と、当該除外処理によって除外されなかったデータである算術処理対象データに対して所定の算術的処理とを行うものであること、とするとよい。このようにすれば、測定結果の精度をさらに向上させることが可能となる。
【0037】
(11)上記の(10)の発明を前提とし、前記所定の許容値として複数の異なる許容値を設け、相対的に小さな許容値で前記除外処理を行い、その結果、前記算術対象データの個数が所定の個数未満となった場合には、前記相対的に小さな許容値よりも大きな許容値で前記除外処理をしなおすこと、とするとなお良い。
【0038】
すなわち、ばらつきの許容値を変えて、数段階に分けて行うとよい。このようにすれば、ばらつきの少ない周期に関するデータが蓄積されている場合には、より高精度のスイング速度を算出でき、一方、ばらつきの大きなデータが蓄積されている場合には、その中から、ある程度の精度のスイング速度を算出できるので、周期に関するデータがあまりうまく取得できない状況であっても、まったくスイング速度が算出されないという状況を防止することができる。このように周期に関するデータの取得状況に応じた精度を実現でき、使い勝手もよいスイング速度算出装置を実現できる。
【0039】
(12)測定対象物の移動方向を検出する移動方向検出手段を備え、前記蓄積手段は、前記移動方向検出手段によって検出された移動方向がスイング方向でない場合には、前記周期に関するデータを蓄積しないこと、とするとよい。
【0040】
上述したように、本発明に用いるドップラーセンサとしては種々のものとすることができるが、たとえば1出力タイプのドップラーセンサでは、物体が近づいているのか遠ざかっているのかが判別できない。そのため、たとえばバックスイング時のように、正規のスイングでない場合であってもデータを蓄積してしまうことがあり、誤った速度をスイング速度として得てしまう場合がある。そこで、この(12)の発明のようにすれば、正規の移動方向のデータのみを蓄積手段に蓄積することで、バックスイング時のように、正規のスイングでない場合の影響を低減することができる。なお、移動方向検出手段としては、たとえば2出力タイプのドップラーセンサを用い、その2出力タイプのドップラーセンサの2つの出力の位相の差に基づいて、移動方向がスイング方向であるか否かを検出する構成とするとよい。
【0041】
(13)前記スイング速度算出手段によって算出されたスイング速度を表示する表示手段を備え、前記表示手段は、前記スイング速度算出手段によってスイング速度が算出された後、所定時間の間、当該スイング速度を点滅表示すること、とするとよい。このようにすれば、スイング速度の計測が成功したか否かをユーザは点滅表示がされたか否かでわかる。またスイング速度の計測に成功したことを表示するための別の表示領域も不要であり、表示の駆動に大量の入出力回路や配線が必要となってしまうこともない。したがって、低コストで、小型化(携帯等)が可能な、使い勝手のよいスイング速度測定装置を提供することができる。
【0042】
(14)本発明のゴルフクラブのヘッドスピード測定装置は、上記の(1)〜(13)に記載のスイング速度測定装置を備えるものとした。上記のスイング測定速度装置の発明の説明において、ゴルフクラブのヘッドスピード測定装置の例を適宜あげて説明したとおりであり、本発明にかかるスイング測定速度装置は、ゴルフクラブのヘッドスピード測定装置として有効に機能する。もちろん、本発明のスイング速度測定装置は、ゴルフクラブのヘッドスピード測定装置以外の各種のものに適用できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明では、ボール等の影響も少なくどのような使用環境であっても比較的正確な測定結果を安定的に得ることができる。さらに、スイング速度が正常に測定されたことを容易に知ることができ、低コストで、小型化(携帯等)が可能な、使い勝手のよい装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】利用態様の一例を示す図である。
【図2】本発明にかかるスピード測定装置(ゴルフクラブのヘッドスピード測定装置)の好適な一実施形態を示すブロック図である。
【図3】マイクロコントローラの内部構成を示す図である。
【図4】マイクロコントローラのオーバーフロー発生諸機能を示すフローチャートである。
【図5】マイクロコントローラのドップラーパルス立下がり検知処理機能を示すフローチャートである。
【図6】マイクロコントローラのドップラーパルス立下がり検知処理機能を示すフローチャートである。
【図7】マイクロコントローラの速度算出処理機能を示すフローチャートである。
【図8】別の実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、本発明のスイング速度測定装置であるゴルフクラブのヘッドスピード測定装置の利用状態の一例を示す図である。図1に示すように、ゴルフクラブのヘッドスピード測定装置10は、ゴルフクラブ2をスイングするゴルファー1の後方所定位置に設置する。具体的な設置位置は、ゴルフクラブのヘッドスピード測定装置10の検知範囲が、スイング中のゴルフクラブ2のヘッド2aが最大速度で移動する地点を含むような位置である。一例としては、ゴルフクラブ2のヘッド2aの移動軌跡Kの最下点付近がボールBに対するインパクト位置となり、通常、当該位置付近でヘッド2aの移動速度は最大速度になるため、係る移動軌跡Kの最下点の接線L上であり、かつ、ゴルファー1の後方を設置位置とする。本実施形態では、ボールBとゴルフクラブのヘッドスピード測定装置10との距離は、厳密に決める必要はないが、バックスイング時にゴルフクラブ2がゴルフクラブのヘッドスピード測定装置10に当たらない位置とする。なお、本実施形態では、ゴルフクラブのヘッドスピード測定装置10は、ゴルフクラブ2をスイングするゴルファー1の後方所定位置に設置するものとして説明するが、ゴルファー1の前方所定位置に設置してもよい。
【0046】
図2は、本実施形態のゴルフクラブのヘッドスピード測定装置10の基本的構成を示すブロック図である。ゴルフクラブのヘッドスピード測定装置10は、出力周波数が24.15GHzのマイクロ波ドップラーセンサ11と、当該ドップラーセンサの出力信号(1波がゴルフクラブのヘッドの6mmの移動に相当する信号)を増幅するアンプ12と、アンプ12によって増幅された信号を基準値と比較し、ドップラーパルス(基準値以上の場合にハイレベルを基準値より小さい場合にはローレベルの信号)を出力するコンパレータ13と、コンパレータ13から出力された信号を入力してスイング速度を求めるマイクロコントローラ(制御部)14と、マイクロコントローラ14からの制御によってスイング速度等の表示を行う表示器15と、マイクロコントローラ14に接続されたスイッチ群16と、を備える。スイッチ群16は、電源スイッチと、モード切替スイッチとからなる。
【0047】
電源スイッチが押下されると、これらの回路に電源が投入され、ドップラーパルスがコンパレータ13からマイクロコントローラ14に入力される。
【0048】
マイクロコントローラ14は、ゴルフクラブのスイング速度の測定処理を行う。スイング速度の測定処理は、「ドップラーパルス周期の測定と蓄積」と、「速度算出」の2つの処理で構成される。本装置ではゴルフクラブのスイング時におけるヘッドスピードの速度測定に特化するため、スイング開始から終了までの速度データをいったん蓄積し、その後蓄積されたデータからスイングの最大速度を算出する。これらの処理の具体的内容について次に説明する。
【0049】
図3に示すように、マイクロコントローラ14は、16ビットのカウンタ(タイマ)21と、蓄積手段たるメモリ(RAM)22とを有する。カウンタ21には、基準パルスとして2.5MHzの信号が入力され、カウントが行われる。カウンタ21の値は、所定のイベント発生時にキャプチャレジスタ21aに取り込むことができる。メモリ22内には、周期データを格納する周期データ格納領域が設けられ、この領域は、16ビット幅で110個の配列領域(計220バイト)からなる。
【0050】
マイクロコントローラ14には、コンパレータ13から出力されたドップラーパルスが入力される。マイクロコントローラ14は、このドップラーパルスの周期を測定する。この周期の測定にはカウンタ21を利用する。具体的には、前記所定のイベントとしてドップラーパルスの立下りが発生した場合に、ドップラーパルスの立下り検出割り込みを発生させるとともに、そのときのカウンタ値をキャプチャレジスタ21aに取り込むよう設定しておく。キャプチャレジスタ21aは、蓄積候補データを格納するものである。そして、ドップラーパルスの立下り検出割り込み発生時には、割り込み処理ルーチンでキャプチャレジスタ21aの内容を周期データとしてメモリ22に記録する。
【0051】
カウンタ21でカウンタ値のオーバーフローが発生した場合には、カウンタオーバーフロー割り込みが発生する。カウンタオーバーフロー割り込みが発生した場合には、カウンタオーバーフロー割り込み処理を行う。
【0052】
マイクロコントローラ14が実行する各処理では、測定状態(処理状態)として「開始待ち」、「測定中」「完了」「エラー」を規定しており、それぞれの状態はメモリ22上に設定された状態記憶領域に記憶し、この記憶された状態に基づいて処理内容をかえる。状態「開始待ち」は、初回ドップラーパルスの立下りを待っている状態である。リセット直後(電源投入直後)はこの状態とし、ドップラーパルスの立下りを検出し、その周期が規定値以下の場合に、状態「測定中」へ移行させる。状態「測定中」は、周期データを蓄積している状態である。状態「完了」は、周期データの蓄積が完了し、有効な測定データ数が規定値を超えている状態である。この状態になったときには、蓄積データを検査して速度の算出を行う速度算出処理を行う。状態「エラー」は、周期データの蓄積が完了したが、蓄積されたデータ数が規定に満たない状態である。この状態になったら直ちに蓄積済みデータを廃棄し、「開始待ち」状態へ戻る図示しない処理を行う。
【0053】
まず、マイクロコントローラ14が実行するカウンタオーバーフロー割り込み処理機能を、図4のフローチャートを参照して説明する。カウンタ21は16ビットであるので、カウンタ値が65535+1になったときに、カウンタオーバーフロー割り込みが発生し、この処理を開始する。
【0054】
まず、S110(S110はステップ110の略表記であり、以下同様に表記する。)では、メモリ上に保持しているオーバーフロー発生回数を+1する。続くS120では、測定状態が「開始待ち」または「完了」か、「測定中」であるかを判定する。測定状態が「開始待ち」または「完了」の場合には(S120:開始待ちまたは完了)、この処理を終了する。一方、測定状態が「測定中」の場合には(S120:測定中)、S130へ移行する。S130では、オーバーフロー発生回数が規定回数に達したか否かを判定する。この規定回数は16回に設定している。オーバーフローが16回発生するということは、約400msの長時間にわたってパルスの立下りが入力されないということであり、このような場合には、「測定中」の状態を抜ける必要性があるからである。オーバーフロー発生回数が規定回数に達していない場合(S130:No)、カウンタオーバーフロー割り込み処理を終了する。一方、オーバーフロー発生回数が規定回数に達した場合(S130:Yes)、S140へ移行する。S140では、記録済みデータ数(図3に示す周期データの記録数)が規定数を超えているか否かを判定する。この規定数は“32”に設定している。記録済みデータ数が規定数を超えている場合には(S140:Yes)、S150に移行して、S150で測定状態を「完了」に変更して、この割り込み処理を終了する。一方、記録済みデータ数が規定数を超えていない場合には(S140:No)、S160に移行して、S160で測定状態を「エラー」に変更して、この割り込み処理を終了する。
【0055】
このような処理により、オーバーフロー発生時にオーバーフロー発生回数をカウントするとともに、オーバーフロー発生回数が16回といった異常な状態が発生した場合、そこで測定を中止し、記録済みデータが規定数を超えている場合には測定状態を「完了」に変更して後述する図5に示す速度算出処理を行うのに対し、記録済みデータが規定数を超えていない場合には測定状態を「エラー」に変更し、蓄積済みデータを廃棄し、「開始待ち」状態へ戻る図示しない処理を行う。
【0056】
次に、ドップラーパルスの立下り割り込み発生時のドップラーパルスの立下り割り込み処理(ドップラーパルス周期の測定と蓄積処理)の内容を、図5,図6を参照して説明する。
【0057】
マイクロコントローラ14は、ドップラーパルスの立下りを検出すると図5,図6に示すドップラーパルスの立下り割り込み処理を開始する。まずS310で、測定状態が、「開始待ち」であるか「完了」であるか「測定中」であるかを判定する。「開始待ち」の場合には(S310:開始待ち)S320へ移行し、「完了」の場合には(S310:完了)S440へ移行し、「測定中」の場合にはS360へ移行する。
【0058】
S320では、周期が規定値より小さいか否かを判定する。規定値としては、たとえばゴルフヘッドのスイング速度が20m/sに相当する周期である約0.31msに相当するカウント値である776回に設定している。すなわち、具体的には、キャプチャレジスタ21aの値がこの規定値より小さいか否かを判定する。周期が規定値より小さい場合(カウント値が776回より小さい場合)には(S320:Yes)、S330へ移行し、周期が規定値以上の場合(カウント値が776回以上の場合)には(S320:No)、S440へ移行する。S330では、オーバーフロー発生回数が0か否かを判定する。0の場合(S330:Yes)、S340へ移行し、0でない場合(非0)(S330:No)、S440へ移行する。
【0059】
S340では、測定状態を「測定中」に変更して、S350へ移行する。S350では、メモリ22上に記憶された立下り発生回数を0に変更する。このようにして、ドップラーセンサ11によって出力されたドップラー信号の周期が所定値より小さくなった場合に、メモリ22への周期データの蓄積を開始する設定を行う。したがって、次のドップラーパルス立下り時の割り込み処理では、S310で「測定中」と判定され、S360以降の処理を行うこととなる。
【0060】
S360では、メモリ上に記憶された立下り発生回数を+1する。続くS370では、オーバーフロー発生回数は0か否かを判定する。オーバーフロー発生回数が0の場合には(S370:Yes)S400へ移行し、オーバーフロー発生回数が0でない場合には(S370:No)S380へ移行する。
【0061】
カウンタ21は16ビットであるので、カウント値が65535を超えるとオーバーフロー割り込みが発生し、オーバーフロー割り込み処理で、オーバーフロー発生回数がインクリメントされることとなる(図4のS110)。カウント値65535は、約26msに相当し、測定対象の値(周期)よりも十分に長いため、オーバーフローが発生すれば、この周期データの記録は行わなくてよいと判断している。
【0062】
S380では、周期が規定値より小さいか否かを判定する。具体的には、キャプチャレジスタ21aの値がこの規定値より小さいか否かを判定する。この規定値は、S320の規定値と同じ776回に設定している。周期が規定値より小さい場合(カウント値が776回より小さい場合)には(S380:Yes)、S390へ移行し、周期が規定値以上の場合(カウント値が776回以上の場合)には(S380:No)、S400へ移行する。S390では、データをメモリ22に記録する。すなわち、キャプチャレジスタ21aの値をメモリ(RAM)22上の配列へ記憶し(前回記録したデータがある場合、前回記憶した配列内の領域の次の領域に記録する)(図3参照)、S400へ移行する。
【0063】
S400では、測定中の立下り発生回数が規定回数に達したか否かを判定し、規定回数に達した場合には(S400:Yes)、S410へ移行し、規定回数に達していない場合には(S400:No)、S440へ移行する。この規定回数(特許請求の範囲における“波数”に相当)は、110回に設定している。この110回は、特許請求の範囲における「測定対象物が前記ドップラーセンサの検知範囲に突入してから測定対象位置に至るまでの距離」として、6mm×110回=66cmに相当する。
【0064】
S410では、メモリ22上の配列への記録済みデータ数が規定数を超えているか否かを判定し、規定数を超えている場合には(S410:Yes)、S420へ移行して、S420で、測定状態を「完了」に変更して、この割り込み処理を終了する。一方、規定数を超えていない場合には(S410:No)、S430へ移行して、S430で、測定状態を「エラー」に変更して、この割り込み処理を終了する。S410での記録済みデータ数の規定数は、“32”に設定している。すなわち、S370の処理においてオーバーフローが発生したと判定された場合(S370:Yes)やS380で周期が規定値以上と判定された場合(S380:No)には、S390の処理は行わず、周期データの配列(メモリ22)への記録をしないので、記録済みデータの個数は110個未満となる場合がある。この場合、後述する図7の速度算出処理に必要な個数として32個に設定しており、この個数を超えている場合には(S410:Yes)、測定状態を「完了」として、速度算出処理を行わせるのに対し、この個数を超えていない場合には(S410:No)測定状態を「エラー」に変更して蓄積済みデータを廃棄し、「開始待ち」状態へ戻る図示しない処理を行わせるようにする。
【0065】
以上のようなドップラーパルスの立下り検出割り込み処理によって、測定状態が「完了」の場合には、速度の算出対象となる周期に関するデータがメモリ(配列)22に33個以上蓄積されることとなる。
次に、速度算出処理について、図7を参照して説明する。速度算出処理は、測定状態が「完了」となった場合に開始する。
【0066】
S510では、メモリ22に蓄積された周期データのうち、先頭から蓄積個数までのデータの移動平均を算出し、メモリ(RAM)22に算出結果を格納する。具体的には、周期データ1〜周期データ4の4つのデータで相加平均を求めて、メモリ(RAM)22内の移動平均格納用配列に格納する。つづいて、周期データ2〜周期データ5の4つのデータで相加平均を求めて、メモリ22内の移動平均格納用配列に移動平均周期データとして格納する。以下同様に周期データの相加平均を求めてRAM内の移動平均格納用配列に順次格納する。
【0067】
次に、ばらつきの大きいデータを除外する。すなわち、S510で移動平均の算出に使用された4つの元データの全てが平均値±n%の範囲内にない場合には、そのデータはばらつきが大きいデータ(すなわち測定値の信用性が低いデータ)とみなして、その元データから算出された移動平均値を以降の処理から除外する。
【0068】
具体的には、S520でまず前記nの値を12.5%として、4つの元データの全てが平均値±12.5%の範囲内にない場合には、そのデータはばらつきが大きいデータとみなして、その元データから算出された移動平均値に対して除外フラグをセットする。除外フラグは、例えば移動平均格納用配列に対応する形式で1つの移動平均周期データについて1ビットのメモリ領域を割り当てる。
【0069】
続くS530では、S520での除外処理の結果、除外フラグがセットされていないデータ数(有効データ数)が10個未満の場合には(S530:Yes)除外フラグを解除した後、S540へ移行する。
【0070】
S540では前記nの値を今度は25%として、4つの元データの全てが平均値±25%の範囲内にない場合には、そのデータはばらつきが大きいデータとみなして、その元データから算出された移動平均値に対して除外フラグをセットする。
【0071】
続くS550では、S520での除外処理の結果、除外フラグセットされていないデータ(有効データ数)が10個未満か否かを判定し、10個未満の場合には(S550:Yes)、S560へ移行する。S560では、測定状態を「エラー」に設定して、この処理を終了する。一方、除外フラグセットされていないデータ(有効データ数)が10個以上の場合には(S550:No)、S570へ移行する。また、S530で、除外フラグセットされていないデータ数(有効データ数)が10個以上の場合にも(S550:No)、S570へ移行する。
【0072】
S570では、最小周期データ(周期の最小値=周波数の最大値=最大速度に相当するもの)を、除外フラグのセットされていない移動平均周期データの中から検索する。続くS580では、S570で得られた最小周期データから速度(スイング速度)を算出する。速度の算出は以下の(式1)に基づいて行う。
【数1】

(v:ヘッド速度、c:光速(299792485m/s)、fb:カウンタの基準パルス周波数、f0:マイクロ波ドップラーセンサ出力周波数(24.15GHz)、nmin:最小周期データの値)
【0073】
続くS590では、S580で求めたスイング速度を表示器に表示する。たとえば、50.0m/sのように表示する。このとき表示開始から10秒間は、スイング速度の表示を点滅表示させる。10秒間の点滅表示処理が完了したら、S580で求めたスイング速度を点灯表示として、S600へ移行する。
続くS600では、測定状態を「開始待ち」に変更する。
【0074】
このような構成により、利用者は表示器を見ることで、スイング速度を知ることができる。すなわち、図1に示すように、利用者であるゴルファー1は、ゴルフクラブのヘッドスピード測定装置10を所定位置にセットすると共にスイッチ群16を操作して電源を投入する。次いで、その状態でゴルファー1はゴルフクラブ2のスイングをする。このとき、ボールBをティーアップなどして実際に打ってもよいし、ボールをセットせずに素振りを行っても良い。
【0075】
スイングに伴い、ゴルフクラブ2のヘッド2aがドップラーセンサ11の検知範囲に入ると、そのヘッド2aの移動速度に応じた周期のドップラーパルスがマイクロコントローラ14に入力され、それに基づき、各周期のデータがメモリ22に蓄積され、その後、最大速度が計測される。そして、正しく計測が行われた場合、求められたスイング速度(瞬間最大速度)が、表示器15に点滅状態で表示される。一方、何らかの原因により正しく計測できなかった場合には、速度表示がされない。よって、利用者は、スイング後に表示器15を見ることで、速度が点滅状態で表示されているか否かにより、計測できたか否か並びに計測できた場合にはその速度を知ることができる。
【0076】
また、本実施形態では、1周期ごとのデータに基づいて速度を算出しているとともに、誤検出のおそれのあるデータは破棄し、最終的に残った信頼性のあるデータに基づいて速度を求めているので、表示される速度は、周囲の状況等に影響を受けない正確なものとなる。また、実際にボールをヒットした状態でヘッドスピードを測定した場合、ボールはインパクト後に勢いよく飛び出していくため、当該ボールの移動速度はヘッドスピードよりも十分に高速度となり、ドップラーセンサ11の出力は係るボールの移動に基づくものとなるおそれがあるが、ゴルフクラブ2のヘッド2aがドップラーセンサ11の検知範囲に突入してからボールにインパクトすると想定される位置までの距離の間に発生するドップラー信号の波数に相当する110回の規定回数分しかメモリ22に周期データを蓄積しない構成であるため、ボールの有無に関係なく、スイングスピードを正しく測定できる。
【0077】
上記実施形態では1出力タイプのドップラーセンサを利用したが、1出力タイプのドップラーセンサでは、物体が近づいているのか遠ざかっているのかが判別できない。そのため、たとえばバックスイング時のように、正規のスイングでない場合であってもデータを蓄積してしまうことがあり、誤った速度をスイング速度として得てしまう可能性がある。
【0078】
そこで、図8に示すように、2出力タイプのドップラーセンサ31を利用するとよい。この場合、マイクロコントローラ34は、ドップラーセンサ31の2つの出力を入力し、その2出力タイプのドップラーセンサ31の2つの出力の位相の差に基づいて、移動方向がスイング方向であるか否かを検出する機能を付加する。つまり、ドップラーセンサ31の一方の出力には、図2に示した実施形態と同様にアンプ12,コンパレータ13を接続し、ドップラーセンサ31の他方の出力にもアンプ12a,コンパレータ13aを接続する。そして、マイクロコントローラ34は、各コンパレータ13,13aの出力に基づいてヘッド2aの移動方向を検知する。係る移動方向の検知処理は、各種の公知の手法を用いることができるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0079】
そして、マイクロコントローラ14は、一方の出力系統であるコンパレータ13の出力に基づいて速度を計測するためのデータ蓄積並びに実際の速度の算出処理をする。このとき、検出した移動方向がスイング方向でない場合には、周期に関するデータを蓄積しないようにするとよい。このようにすれば、バックスイング時のように、正規のスイングでない場合の影響を低減することができる。
【符号の説明】
【0080】
10 ゴルフクラブのヘッドスピード測定装置
11 ドップラーセンサ
12,12a アンプ
13,13aコンパレータ
14 マイクロコントローラ
15 表示器
16 スイッチ群
21 カウンタ
22 メモリ
31 ドップラーセンサ
34 マイクロコントローラ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドップラー信号を出力するドップラーセンサと、
前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づくデータを得て、当該データに基づきスイング速度を算出する制御手段とを備え、
前記制御手段は、測定対象物の移動方向を検出し、検出された移動方向がスイング方向でない場合には、前記スイング速度の算出に当該データを用いないこと
を特徴とするスイング速度測定装置。
【請求項2】
ドップラー信号に基づくデータは、当該ドップラー信号の周期に関するデータであり
前記制御手段は、当該データの蓄積を行い蓄積されたデータ群に基づき前記スイング速度を算出すること
を特徴とするスイング速度測定装置。
【請求項3】
前記周期は一周期であり、
前記周期に関するデータは、一周期の時間に関するデータであること、
を特徴とする請求項1または2に記載のスイング速度測定装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号の周期が所定値より小さくなった場合に、前記周期に関するデータの蓄積を開始すること、
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスイング速度測定装置。
【請求項5】
前記制御手段は、規定値以上の前記ドップラー信号の周期が検出された場合には、規定値以上の前記ドップラー信号の周期に対応する前記ドップラー信号の周期に関するデータを蓄積しないこと、
を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のスイング速度測定装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記蓄積された前記データの個数が所定の基準個数に達した場合に前記スイング速度の算出を行うこと、
を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のスイング速度測定装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記ドップラーセンサによって得られたドップラー信号の周期が所定値以下になることを待ち、所定値以下になった場合に前記周期に関するデータの前記蓄積を開始し、当該蓄積開始後、前記ドップラー信号の周期が所定値以上になった場合であって、前記データの蓄積個数が基準個数に達していない場合には、前記ドップラーセンサによって得られたドップラー信号の周期が所定値以下になることを待つ状態へ戻ること、
を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のスイング速度測定装置。
【請求項8】
前記制御手段が得る前記周期に関するデータの個数は、測定対象物が前記ドップラーセンサの検知範囲に突入してから測定対象位置に至るまでの距離の間に発生するドップラー信号の波数とすること、
を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のスイング速度測定装置。
【請求項9】
前記制御手段は、
前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づく当該ドップラー信号の周期に関するデータを蓄積候補データとして格納
前記ドップラーセンサによって出力されたドップラー信号に基づく当該ドップラー信号に基づき格納された蓄積候補データを、前記蓄積対象にするか否かを判定し、蓄積対象データと判定された蓄積候補データを蓄積すること、
を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のスイング速度測定装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記蓄積されたデータ群に対して所定の算術的処理を行って前記スイング速度を算出すること、
を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のスイング速度測定装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記蓄積されたデータ群のデータのうちばらつきが所定の許容値よりも大きいデータを除外する除外処理と、当該除外処理によって除外されなかったデータである算術処理対象データに対して所定の算術的処理とを行うものであること、
を特徴とする請求項10に記載のスイング速度測定装置。
【請求項12】
前記所定の許容値として複数の異なる許容値を設け、相対的に小さな許容値で前記除外処理を行い、その結果、前記算術対象データの個数が所定の個数未満となった場合には、前記相対的に小さな許容値よりも大きな許容値で前記除外処理をしなおすこと、
を特徴とする請求項11に記載のスイング速度測定装置。
【請求項13】
前記制御手段によって算出されたスイング速度を表示する表示手段を備え、
前記表示手段は、前記スイング速度算出手段によってスイング速度が算出された後、所定時間の間、当該スイング速度を点滅表示すること、
を特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のスイング速度測定装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のスイング速度測定装置を有するゴルフクラブのヘッドスピード測定装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−101116(P2012−101116A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−10567(P2012−10567)
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【分割の表示】特願2007−94763(P2007−94763)の分割
【原出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(391001848)株式会社ユピテル (238)