説明

スイートピー抽出物

【課題】マルビジン−3,5−ジグルコシドが安定に維持され、経時安定性の良いスイートピーエキスを提供する。
【解決手段】脱塩処理をしたスイートピー抽出物であって、マルビジン−3,5−ジグルコシドを含有することを特徴とするスイートピー抽出物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
スイートピー抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者等は、皮膚に及ぼす傷害に対して防御効果を有する薬剤を検討してきた。そして、マルビジン−3,5−ジグルコシドが、紫外線、あるいは紫外線により発生する活性酸素を介した細胞死に対して、優れた細胞死抑制効果を有することを見出した(特許文献1:特開2004−359603号公報)。
また、本発明者等は、スイートピー抽出物には細胞増殖促進、エラスターゼ活性阻害、抗老化等の作用効果があることを確認し、これらの作用を発揮する化粧料、細胞増殖促進剤、エラスターゼ活性阻害剤、抗老化剤を提案した(特許文献2:特開2006−282617号公報)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−359603号公報
【特許文献2】特開2006−282617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スイートピー抽出物の中にマルビジン−3,5−ジグルコシドが含まれることは公知であるが、マルビジン−3,5−ジグルコシドは経時的に不安定であった。本発明の課題はは、マルビジン−3,5−ジグルコシドが安定に維持され、経時安定性の良いスイートピーエキスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)脱塩処理をしたスイートピー抽出物であって、マルビジン−3,5−ジグルコシドを含有することを特徴とするスイートピー抽出物。
(2)ナトリウムイオン濃度が550ppm未満である(1)に記載のスイートピー抽出物。
(3)ナトリウムイオン濃度が25ppm以下である(1)に記載のスイートピー抽出物。
(4)スイートピーの花を水抽出処理し、エタノール添加し、脱塩処理し、エタノールを除去し、水と1,2−ペンタンジオールを添加処理してナトリウムイオン濃度が550ppm未満であるマルビジン−3,5−ジグルコシドを含有するスイートピー抽出物を製造する方法。
(5)スイートピーの花を水抽出処理し、エタノール添加し、脱塩処理し、エタノールを除去し、水と1,2−ペンタンジオールを添加処理してナトリウムイオン濃度が25ppm未満であるマルビジン−3,5−ジグルコシドを含有するスイートピー抽出物を製造する方法。
【発明の効果】
【0006】
マルビジン−3,5−ジグルコシドが安定に維持され、経時安定性の良いスイートピーエキスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
スイートピー(Lathyrus odoratus L.)は、マメ科レンリソウ属の植物であり、別名、麝香蓮理草、麝香豌豆とも呼ばれる。主に観賞用に用いられる地中海を原産とする園芸品種である。花の色は白、ピンク、青、紫等があり、芳香がある。
【0008】
スイートピー抽出物については、その植物の全草又は花、茎、葉、根、種子、のうちの一つ以上を常温又は加温下にて溶剤に浸漬して抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる。さらにクロマトグラフィー等を用いて成分を精製しても良い。マルビジン−3,5−ジグルコシドの含有量が高い抽出物を得るためには、抽出部位は花が好ましい。花びら、がく片、雄しべ、雌しべを含む花全体から抽出しても良く、花びらのみ選択的に採取し、花びらから抽出しても良い。スイートピー抽出物は各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又は抽出液を乾燥や凍結乾燥して得られる乾燥末あるいはペーストの形態で使用することができる。
【0009】
スイートピー抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができる。例えば、水、アルコール類のメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等、多価アルコール類のプロピレングリコール、ブチレングリコール等、ケトン類のアセトン、メチルエチルケトン等、エステル類の酢酸メチル、酢酸エチル等、鎖状及び環状エーテル類のテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等、ポリエーテル類のポリエチレングリコール等、ハロゲン化炭化水素類のジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等、炭化水素類のヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等、芳香族炭化水素類のベンゼン、トルエン等、ピリジン類等が挙げられ、これらは2種以上を混合して用いることもできる。
上記の抽出溶剤の中でも、マルビジン−3,5−ジグルコシドの含有量の高い抽出物を得るためには水が好ましい。
【0010】
さらに、本発明のスイートピー抽出物は脱塩処理をすることが必要である。イオン交換カラムまたは吸着カラムを用いて脱塩処理をすることが好ましい。イオン交換カラムとして、例えばアンバーライトを使用することができる。脱塩処理によってナトリウムイオン濃度を550ppm未満にすることが可能であり、脱塩処理によってナトリウムイオン濃度を550ppm未満にしたスイートピー抽出物は、マルビジン−3,5−ジグルコシドの安定性が高い。
【実施例1】
【0011】
スイートピー(Lathyrus odoratus L.)の花1kgに対し約2kgの水を加え、90℃で10分加熱して抽出を行う。10μmのフィルターにてろ過後、エタノールを300g添加して5℃で24時間冷蔵し、生じた不溶物を0.45μmのフィルター除去する。その後、カラムクロマトにて脱塩する。得られた液を加熱濃縮してエタノールを留去し、水と1,2-ヘ゜ンタンシ゛オールを添加して所定の濃度(スイートピー抽出固形分を0.6質量%含有する。全量1kg。)に調整する。更にこの液を低温処理(0〜5℃)で保管し、0.45μmのフィルターにてろ過した。原子吸光法で測定した抽出物中の金属イオン濃度は、ナトリウム0.75ppm、カルシウム1.97ppm、マグネシウム6.37ppm、カリウム6.11ppmであった。
【0012】
[比較例1]
スイートピー(Lathyrus odoratus L.)の花1kgに対し約2kgの水を加え、90℃で10分加熱して抽出を行う。10μmのフィルターにてろ過後、水と1,2-ヘ゜ンタンシ゛オールを添加して所定の濃度(スイートピー抽出固形分を0.6質量%含有する。全量1kg。)に調整する。原子吸光法で測定した抽出物中の金属イオン濃度は、ナトリウム629ppm、カルシウム40ppm、マグネシウム73ppm、カリウム1911ppmであった。
【0013】
[比較例2]
スイートピー(Lathyrus odoratus L.)の花1kgに対し約2kgの水を加え、90℃で10分加熱して抽出を行う。10μmのフィルターにてろ過後、エタノールを300g添加して5℃で24時間冷蔵し、生じた不溶物を0.45μmのフィルター除去する。得られた液を加熱濃縮してエタノールを留去し、水と1,2-ヘ゜ンタンシ゛オールを添加して所定の濃度(スイートピー抽出固形分を0.6質量%含有する。全量1kg。)に調整する。原子吸光法で測定した抽出物中の金属イオン濃度は、ナトリウム568ppm、カルシウム51ppm、マグネシウム76ppm、カリウム1999ppmであった。
【0014】
安定性試験
実施例1の抽出物と比較例1,2の抽出物を25℃で2ヶ月保管し、マルビジン−3,5−ジグルコシドの残存量並びに着色を調べた。
マルビジン−3,5−ジグルコシドの濃度は高速液体クロマトグラフィー法で求めた。
分析装置:島津製作所製HPLCシステム
カラム :L−カラム ODS 4.6mmφ×250mm(化学品検査協会製)
検出器 :UV530nm
溶離液 :(A)2.5%ギ酸+2.5%酢酸水溶液
(B)メタノール
グラジエント条件
(A):(B)=95:5→40:60(20分)
流速 :1.0mL/min
試料注入量:20μL、 試料希釈溶媒:メタノール
マルビジン−3,5−ジグルコシド溶出時間:12.5分
標準試料:塩化マルビジン−3,5−ジグルコシド(EXTRASYNTHESE(France)社製 Malvin chloride)
【0015】
実施例1の抽出物中のマルビジン−3,5−ジグルコシドの残存量は68.8%と高い値を示した。一方、比較例1では12.6%、比較例2では8.4%に残存量が低下した。
スイートピー抽出物の着色を目視評価した結果、実施例1の抽出物は赤紫色であるのに対して、比較例1、2の抽出物は何れも濃褐色に変色していた。
【0016】
〔残存量確認試験〕
さらに、スイートピー抽出物中のナトリウムイオンの影響を調べるために、実施例1のスイートピー抽出物にナトリウムイオンを添加し、25℃、40℃保管条件において、スイートピー抽出物中のマルビジン−3,5−グルコシドの残存量を8週間にわたって測定した。
ナトリウムイオンの添加方法は、塩化ナトリウム水溶液を調製し、ナトリウムイオン濃度が10、25、50、100、250、500ppmとなるように、実施例1のスイートピー抽出物に混和した。25℃で8週間保管したときの、マルビジン−3,5−グルコシドの残存量(%)の変化を表1に示す。40℃で8週間保管したときの、マルビジン−3,5−グルコシドの残存量(%)の変化を表2に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
ナトリウムイオン濃度が10.75ppm(実施例1の抽出物が含有する0.75ppmに添加濃度10ppmを足したもの。表1及び図1の表記は添加した濃度を示す。)のときには、25℃8週間保管で、実施例1と同様にマルビジン−3,5−グルコシドが約70%(68.09%)残存した。同保管条件で、ナトリウム添加濃度が25ppmでは、マルビジン−3,5−グルコシドの残存量が約35%に低下し、ナトリウム添加濃度が50ppmを超えると残存量は約10%に低下した。
【0019】
【表2】

【0020】
ナトリウムイオン濃度が10.75ppm(実施例1の抽出物が含有する0.75ppmに添加濃度10ppmを足したもの。表2及び図2の表記は添加した濃度を示す。)のときには、25℃8週間保管で、ナトリウム添加濃度0ppm(実施例1のスイートピー抽出物)では、マルビジン−3,5−グルコシドが約40%残存したが、ナトリウム添加10ppmでは、約20%、ナトリウム添加25ppmでは、約10%にマルビジン−3,5−グルコシドが残存した。一方、同保管条件で、ナトリウム添加濃度が50ppm以上では、マルビジン−3,5−グルコシドの残存量は0%であった。スイートピーエキス抽出物中のナトリウムイオン濃度は25ppm以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】25℃で8週間保管したときの、マルビジン−3,5−グルコシドの残存量(%)の変化を示すグラフ。
【図2】40℃で8週間保管したときの、マルビジン−3,5−グルコシドの残存量(%)の変化を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩処理をしたスイートピー抽出物であって、マルビジン−3,5−ジグルコシドを含有することを特徴とするスイートピー抽出物。
【請求項2】
ナトリウムイオン濃度が550ppm未満である請求項1に記載のスイートピー抽出物。
【請求項3】
ナトリウムイオン濃度が25ppm以下である請求項1に記載のスイートピー抽出物。
【請求項4】
スイートピーの花を水抽出処理し、エタノール添加し、脱塩処理し、エタノールを除去し、水と1,2−ペンタンジオールを添加処理してナトリウムイオン濃度が550ppm未満であるマルビジン−3,5−ジグルコシドを含有するスイートピー抽出物を製造する方法。
【請求項5】
スイートピーの花を水抽出処理し、エタノール添加し、脱塩処理し、エタノールを除去し、水と1,2−ペンタンジオールを添加処理してナトリウムイオン濃度が25ppm未満であるマルビジン−3,5−ジグルコシドを含有するスイートピー抽出物を製造する方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−266317(P2008−266317A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80844(P2008−80844)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】