説明

スエード調人工皮革およびその製造方法

【課題】 本発明は天然皮革に類似した人工皮革において、発色性、引裂強度、耐光堅牢性などに優れたスエード調人工皮革を提供する。
【解決手段】 短繊維からなる不織布と織編物から構成された繊維絡合体に高分子弾性体が含浸されており、以下(1)〜(4)を満足することを特徴とする。(1)短繊維が平均繊維長18〜110mmかつ単繊維繊度が0.0003〜0.4dtexであること、(2)織編物の繊維は単繊維繊度は0.0003〜1.6dtexであること、(3)短繊維からなる不織布と織編物とが絡合されており、短繊維からなる不織布の、織編物と接する面と反対側の面において、該織編物を構成する各単繊維の表面露出度が0.3〜20%であること、(4)高分子弾性体が、無黄変型ジイソシアネートからなるポリウレタン系重合体とガラス転移温度0℃以下からなるアクリル系重合体とが質量比率10:90〜60:40で複合化されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境対応型の製造方法にて、耐光堅牢性、発色性、引裂強度などに優れ、さらに天然皮革に類似した緻密感、充実感、スエード感、表面タッチを有するスエード調人工皮革を工業的に安定して提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から人工皮革の製造に際して、主として極細繊維と高分子弾性体とで構成されたものが開発されており、このような極細繊維からなるスエード調人工皮革は、スエード感や表面タッチ感、柔軟性に優れており、天然皮革に近い素材として評価されてきた。従来から、スエード調人工皮革を発色させる方法として染色する方法が一般的に行われているが、極細繊維から構成されたスエード調人工皮革は繊維が極細化するほど表面積が増え、白色光の散乱により着色光の光が弱められることで発色性に劣り、染色のみで濃色を実現するためには大量の染料を必要であった。しかしながら多量の染料の使用は、コストが高いのみならず、耐光堅牢性、摩擦堅牢性などの品質面で劣り、厳しい条件下での長期安定性が求められている用途では、ユーザーの要求する厳しいスペックをクリアするスエード素材がほとんど無いのが現状であった。
【0003】
耐光性を向上させた発色性改善方法として、例えば極細繊維を発生する不織布に顔料を含む高分子弾性体を付与した後に染料で着色する方法が提案されている(例えば、特許文献1、および特許文献2参照。)。該方法で幾らかの耐光性能の改良はみられるが、染料自身の光変色が避けられないことから耐光性の改良には限界がある。加えて該方法は、繊維と高分子弾性体の色差を付けて玉虫色調あるいは凹凸模様調の立毛シートを得ることを主目的としており、本発明が目的とする一般的なスエード調人工皮革とは異なったものである。
【0004】
また別の耐光性を向上させた発色性改善策として、極細繊維成分に顔料を添加する方法が多数提案されている。例えばポリエチレンテレフタレートにカーボンブラックを1%添加した海島型複合繊維(例えば、特許文献3参照。)、また赤色顔料を5%添加した6−ナイロンを島成分とする混合紡糸繊維(例えば、特許文献4参照。)、またカーボンブラックを5%添加した6−ナイロンを島成分とする混合紡糸繊維(例えば、特許文献5参照。)、カーボンブラックを主成分とする顔料を5%添加して重合したポリエステルとポリアミドがサイドバイサイドに並んだ多層中空貼り合わせ繊維(例えば、特許文献6参照。)がそれぞれ提案されている。しかしながら、0.1dtex以下の極細繊維の発色を充分に満足させるためには、顔料を5質量%以上、多量に添加しなければならず、顔料の添加による溶融粘度の上昇のため、紡糸時の糸切れ、孔詰まり、フィルター詰まりなどによる紡糸性の悪化、繊維物性の低下を余儀なくされ、発色性と機械的物性の両立したものを得ることは困難であった。
また用いる顔料としては有機顔料、無機顔料が挙げられるが、スエード調人工皮革のように極細繊維発生型繊維を用いその一成分を除去して極細化する場合、除去処理で使用する有機溶剤は有機顔料の一部を溶出させてしまうことから、実質的にカーボンブラックや無機系顔料のみに限定されるといった欠点もあった。
【0005】
一方、環境対応の観点から、高分子弾性体に水分散ポリウレタンを用いた方法(例えば、特許文献7、8および9参照。)が提案されているが、人工皮革で従来から用いられる溶剤系ポリウレタンに比べて耐水性に劣るために、染色工程での繊維や高分子弾性体の脱落や膨潤が起こって繊維が素抜けやすく、得られるスエード調人工皮革のスエード感やタッチ、風合いに劣る問題があり、溶剤系ポリウレタンから水分散高分子弾性体への転換は、必ずしも進んでいない。更に、極細化の方法としては、従来から溶剤処理によって極細化する方法などが行われているが、溶剤処理から水処理へ転換する検討も行われているものの、スエード感やタッチ、風合いや各種堅牢性、力学物性など、スエード調人工皮革として十分なものは未だ得られていない。
更に、高分子弾性体は、繊維を構成するポリマーに比べ、各種堅牢性が大きく劣る問題を有しており、高分子弾性体が染料で着色されていると、スエード調人工皮革の耐光堅牢性などの各種堅牢性を大きく悪化させる原因となる。そのために、染色後にアルカリ還元処理やソーピング等の洗浄工程を行って高分子弾性体に吸尽した染料を洗い出して、各種堅牢性悪化を回避する方法が通常行われているが、高分子弾性体に吸尽した染料は、完全に洗い出すことができず、各種堅牢性の悪化を避けることは困難である。加えて、繊維と高分子弾性体の染料吸尽性が異なるために、高分子弾性体に染料が残存すると繊維と高分子弾性体の色斑が目立って、スエード感や高級感に劣る問題が生じやすい。また、高分子弾性体に吸尽した染料の洗い出される量が微妙な条件で変動するために、色合わせが煩雑で、色合わせのために何回も染色し直すことが避けられず、染色コストが高くなる問題も有している。これらの問題は、水分散高分子弾性体を用いた場合、特に顕著に現れる傾向であり、溶剤系ポリウレタンから水分散高分子弾性体への転換が進んでいない大きな原因の一つとなっている。
【0006】
一方、短繊維ウェブ間に織編物類を積層し、長さが10mm以下の海島構造繊維よりなるシートに高速流体処理を施す方法(例えば、特許文献10参照。)が提案されている。これは不織ウェブ間、あるいは片面に織編物を重ね絡合処理する方法であり、繊維束同士がその束の形態を維持しながら絡み合って全体として不離一体の構造を有するものである。単なる短繊維不織布では、繊維が素抜け易いため、不織布の固定に要する高分子弾性体が多量に必要となるが、織編物と短繊維を積層しニードルパンチ処理や高圧水流処理で一体化すると、高分子弾性体として従来から用いられている溶剤系高分子弾性体を用いた場合には、不織布固定に要する高分子弾性体の含有量を低減することができる。しかし、水分散高分子弾性体を用いて含浸した場合には、水分散高分子弾性体の繊維に対する比率を低減すると、染色工程での高分子弾性体の一層脱落が激しくなる問題があって、不織布の固定に要する高分子弾性体含有量を必ずしも低減できず、天然皮革のような表面感や風合いは得られ難い。
つまり、環境対応型スエード調人工皮革において、各種堅牢性、スエード感、表面タッチ、風合いが良好なスエード調人工皮革素材が強く求められているものの、従来から行われているアプローチで克服することは、既に限界の域に達しており、未だ満足するものは得られていない。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−315683号公報(第1−6頁)
【特許文献2】特開昭58−197389号公報(第1−4頁)
【特許文献3】特公昭48−11925号公報(第1−4頁)
【特許文献4】特公昭55−504号公報(第1−5頁)
【特許文献5】特公昭59−12785号公報(第1−3頁)
【特許文献6】特公昭59−44416号公報(第1−2頁)
【特許文献7】特開昭55−128078号公報
【特許文献8】特開平6−316877号公報
【特許文献9】特開平9−132876号公報
【特許文献10】特公昭60−29775号公報(第1−7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は環境対応型の製造方法にて、耐光堅牢性、発色性、引裂強度などに優れ、さらに天然皮革に類似した緻密感、充実感、スエード感、表面タッチを有するスエード調人工皮革を工業的に安定して提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、短繊維からなる不織布と織編物から構成された繊維絡合体の内部に高分子弾性体が含浸されており、以下(1)〜(4)を満足することを特徴とするスエード調人工皮革である。
(1)短繊維が平均繊維長18〜110mmかつ単繊維繊度が0.0003〜0.4dtexであること、
(2)織編物を構成する繊維は、単繊維間にランダムな微捲縮を有し、かつ単繊維繊度は0.0003〜1.6dtexであること、
(3)短繊維からなる不織布と織編物とが絡合されており、短繊維からなる不織布の、織編物と接する面と反対側の面において、該織編物を構成する各単繊維の表面露出度が0.3〜20%であること、
(4)高分子弾性体が、無黄変型ジイソシアネートからなるポリウレタン系重合体とガラス転移温度0℃以下であってガラス転移温度40℃以上の原料の質量比率が0〜15質量%からなるアクリル系重合体とが質量比率10:90〜60:40で複合化されていること、
そして、繊維絡合体を構成する短繊維からなる不織布と織編物が、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分から構成される極細繊維発生型繊維の水溶性高分子成分を抽出除去して得られる極細繊維からなり、該極細繊維が顔料を0.01〜5質量%含有していることが好ましく、また、高分子弾性体が、平均粒子径0.05〜0.6μmのカーボンブラック及び/又は有機系顔料を0.1〜10質量%含有していることが好ましく、また、極細繊維発生型繊維の水溶性高分子成分を抽出除去し、さらに染色を行った後の顔料と高分子弾性体の総和の残存率が95質量%以上であることが好ましく、極細繊維発生型繊維を構成する水溶性高分子成分が炭素数4以下のα−オレフィン単位および/またはビニルエーテル単位を1〜20モル%含有し、けん化度90〜99.99モル%の変性ポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0010】
また、スエード調人工皮革を製造するに際し、下記のI〜VIの工程、
I.水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維から構成された短繊維ウェブ及び該極細繊維発生型繊維から構成された撚数10〜650T/mの織編物を製造する工程、
II.工程(I)で得られた短繊維ウェブと織編物を、短繊維からなる不織布と織編物の質量比で10:90〜80:20で積層し、ニードルパンチ処理及び/又は高圧水流処理によって短繊維からなる不織布の、織編物と接する面と反対側の面において、該織編物を構成する各単繊維の表面露出度が0.3〜20%となるように絡合処理し、繊維絡合体を製造する工程、
III.無黄変型ジイソシアネートからなるポリウレタン系重合体とガラス転移温度0℃以下であってガラス転移温度40℃以上の原料の質量比率が0〜15質量%からなるアクリル系重合体とが質量比率10:90〜60:40で複合化されてなる高分子弾性体と繊維絡合体の質量比が5:95〜35:65となるよう水分散高分子弾性体の状態で繊維絡合体に付与する工程、
IV.極細繊維発生型繊維を極細繊維にする工程、
V.染色工程、
VI.起毛処理工程を少なくとも行うことを特徴とするスエード調人工皮革の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、短繊維からなる不織布と織編物が強固に絡合された一体構造を形成した繊維絡合体と高分子弾性体から構成される人工皮革であって、耐光堅牢性、発色性、引裂強度などに優れ、さらに天然皮革に類似した緻密感、充実感、スエード感、表面タッチを有するスエード調人工皮革であり、環境対応型の製造方法で工業的に安定的に提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、(1)短繊維からなる不織布と織編物から構成された繊維絡合体が絡合しているばかりでなく、織編物を構成する各単繊維間のランダムな微捲縮により生じる空隙を通して極細短繊維が織編物の組織に入り込んだランダムな絡み合いにしつつ、繊維絡合体を構成する織編物の各単繊維の表面露出度が0.3〜20%となるよう強固に絡合し、一体化した構造にすること、更に、(2)繊維絡合体を構成する短繊維からなる不織布と織編物及び高分子弾性体を必要に応じて原着し、且つ、耐光堅牢性、耐高温染色性に優れ、染料着色性の少ない特定のポリウレタン系重合体とアクリル系重合体とが複合化されてなる水分散高分子弾性体を用いること、及び(3)水溶液で極細発生型繊維を極細繊維化すること、等によって、(1)不織布の固定に必要な高分子弾性体の量を大幅に低減することが可能であり、耐光堅牢性などの各種堅牢性に優れ、天然皮革に類似した緻密感、充実感、スエード感、表面タッチなどの風合い、表面感に優れたスエード調人工皮革が得られること、および(2)水分散高分子弾性体を用いた場合に顕著であった染色工程での高分子弾性体の脱落などによる染色工程性の悪化や、繊維と高分子弾性体の色斑や、色調再現性などの工業的生産安定性を改良できることを見出した。
【0013】
本発明の繊維絡合体を構成する短繊維からなる不織布および織編物は極細繊維発生型繊維から構成されているものであり、該極細繊維発生型繊維の繊度は人工皮革の用途によって任意に選択でき特に制限されるものではないが、極細繊維化後に短繊維が0.0003〜0.4dtexの繊度を有し、0.003〜0.2dtexの繊度を有することが好ましく、0.007〜0.1dtexの繊度を有することが人工皮革基体を製造する上でより好ましい。また織編物は極細化後に0.0003〜1.6dtex、好ましくは0.0003〜1.0dtex、さらには短繊維を構成する極細繊維の繊度と同等レベルの0.0003〜0.4dtexにすることがスエード調人工皮革にしたときの表面立毛外観の均一性から特に好ましい。
また、短繊維は平均繊維長が18〜110mmであることが肝要である。繊維長が18mm以上のものでないと効果的な絡合ができず、また110mmを越えた場合では、カード処理などの工程通過性が低下する傾向となる。ただし、その後のスライスやバフィングなどの後加工を経ることにより、最終製品中には切断されてしまい18mm未満になった繊維が一部含まれていることがあるが、これは効果的絡合が達成されてから後に発生した繊維であるので、特別不都合もなく差し支えないものである。なお上記工程通過性の観点から平均繊維長は20〜80mmが好ましい。
【0014】
また、本発明の極細繊維発生型繊維は、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分から構成されていることが必要である。この水溶性高分子成分とは、該成分が水溶液により抽出除去される成分を示し、水難溶性高分子成分とは、該成分が水溶液により抽出除去されにくい成分を示す。そして、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維は少なくとも1成分が水溶液による抽出処理で抽出除去されるものであれば、海島型複合繊維、混合紡糸型繊維などの多成分系複合繊維のいずれを使用してもよい。ここで水溶性高分子成分が水溶性ではなく有機溶剤可溶性である場合、極細繊維発生型繊維を極細化するために有機溶剤を用い環境を汚染するのみならず、極細化する際に原着した繊維や高分子弾性体に含有した顔料の一部を溶解除去してしまい、得られるスエード調人工皮革の発色性が劣ったものとなる。なお本発明で用いられる水溶性高分子成分としては、水溶液(以下、水系溶剤と称することもある。)で抽出処理できる紡糸可能なポリマーであれば、公知のポリマーが使用できるが、水系溶剤で溶解可能なポリビニルアルコール共重合体類(以下、PVAと略することもある。)を用いることが好ましい。PVAは容易に熱水で溶解除去が可能であり、水系溶剤で抽出除去する際の収縮挙動によって極細繊維成分の極細繊維発生型繊維に構造捲縮が発現し、繊維絡合体が嵩高く緻密なものとなって非常に柔軟な天然皮革のような優れた風合いの人工皮革基体が得られる点、および抽出除去する際に極細繊維成分や高分子弾性体成分の分解反応が実質的に起こらないため極細繊維成分に用いる熱可塑性樹脂および高分子弾性体成分の限定が無い点、更には環境に配慮した点等から好適に用いられる。
【0015】
上記PVAはホモポリマーであっても共重合単位を導入した変性ポリビニルアルコールであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性および抽出処理時の収縮特性などの観点から、共重合単位を導入したPVAであることが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα―オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチレンビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。また炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に1〜20モル%存在していることが好ましい。さらに、α−オレフィンがエチレンである場合において、繊維物性が高くなることから、特にエチレン単位が4〜15モル%変成されたPVAを使用することがより好ましい。
またけん化度は90〜99.99モル%が好ましく、92〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.96モル%がさらに好ましく、95〜99.95モル%が特に好ましい。けん化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって満足な複合溶融紡糸を行うことができない。一方、けん化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することが困難である。
【0016】
また常温で水に溶出するタイプのPVAを水溶性高分子成分として用いた場合には水分散高分子弾性体の含浸時に水溶性高分子成分が溶出し高分子弾性体水分散液を汚染してしまう場合があり、また水溶性高分子成分の一部溶出に伴い極細繊維部分が露出することによって含浸した高分子弾性体が極細繊維束内部に入り込んで、得られるスエード調人工皮革の風合いを硬化する傾向があることから、60〜100℃の熱水に溶出するタイプのPVAを水溶性高分子成分として用いることが好ましい。さらに60〜100℃の熱水で水溶性高分子成分を溶出することによって、繊維絡合体の収縮挙動が発生し構造捲縮を生じやすいことから天然皮革並みの優れた風合いの人工皮革基体が得られる点で好ましい。
【0017】
本発明の水難溶性高分子成分としては公知の極細繊維となりうる、例えば、ポリアミド系、ポリエステル系およびポリオレフィン系等の成分であれば特に限定するものではない。そして、PVAを高温で紡糸すると紡糸性の悪化を招くため、極細繊維を構成する水難溶性高分子成分の融点を適宜選択することが好ましく、極細繊維を構成する水難溶性高分子成分としては、極細繊維を形成する過程において抽出除去される水溶性高分子成分の融点〜+60℃の間の融点を有する熱可塑性成分を選択することが極細繊維発生型繊維の紡糸安定性の点で好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートあるいはイソフタル酸を共重合したポリブチレンテレフタレートなどで代表されるポリエステル系樹脂、あるいはナイロン6、ナイロン11、ナイロン12などで代表されるポリアミド系樹脂が好ましく挙げられる。なお水溶性高分子成分の融点としては、紡糸性などの点から160〜230℃が好ましい。
なお、極細繊維発生型繊維を構成する水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分の質量比率としては、10/90〜60/40の範囲が、極細繊維発生型繊維の断面形成性が良好であり水溶性高分子が極細繊維を完全被覆しているために、繊維絡合体内部での均一な浸透性が得られ、水分散高分子弾性体の均一含浸に有利である点、あるいは人工皮革基体とした場合、断面形成性が良好なため発生する極細繊維の絡合状態が均一であり、得られる人工皮革の風合いを損なわない点で好ましい。
【0018】
本発明の短繊維からなる不織布および織編物を構成する極細繊維は、少量の染料で発色させるよう、顔料を0.01〜5質量%添加していることが好ましい。この場合、最終製品として淡色系、すなわち、薄い色や淡い色としての発色性が必要な場合顔料は少量でよく、極細繊維内部への顔料添加は低濃度である。すなわち最終製品として要求される外観の色が淡色の場合には、極細繊維内部への顔料添加量は0〜1質量%が好ましく、中色の場合には1〜2質量%が好ましく、濃色の場合には2〜5質量%が好ましく、5質量%を越えると紡糸工程性や、また繊維強度が低下し、それに伴い得られる人工皮革の引裂強力が低下する傾向がある。なお、表面に露出された織編物糸の色が短繊維からなる不織布の色と大きく異なる場合は外観を損なう場合があるため、短繊維からなる不織布と織編物を構成する繊維の繊度、および該繊維に添加されている顔料添加量は極力近いことが好ましいが、織編物糸から発生する島繊度/短繊維から発生する島繊度=0.5〜4.0、また織編物糸中の顔料濃度/短繊維からなる不織布中の顔料濃度=0.1〜10の範囲であれば好適である。
そして本発明では、極細繊維発生型繊維として、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分から構成されたものを用い、一成分を抽出する際に有機溶剤ではなく水溶液を用いることが必要で、それによって、特別な顔料を用いることなく、顔料の抽出での顔料脱落を低減することができ、抽出での顔料減量による薄色化や色振れ、更には抽出浴の汚染を防ぐことができる。
【0019】
用いる顔料としては特に限定されず、例えば酸化チタン、カーボンブラックなどの無機顔料や、フタロシアニン系、アントラキノン系などの有機顔料など通常ポリマー原着に使用されているものを用いることができる。また、極細繊維に含有される顔料がカーボンブラックの場合は、カーボンブラックが極細繊維を構成するポリマー中に混在一体化して存在し、主として極細繊維を構成するポリマー中に埋包され易い点から、カーボンブラックの平均一次粒子径としては10〜60nmであることが好ましい。カーボンブラックの平均一次粒子径が10nm未満の場合には、紡糸中にカーボンブラックの凝集が起こり易いことに起因して均一な繊維を得ることができにくく、色斑、物性斑等の品質安定性の問題が生じ易く、かつ紡糸性が低下する傾向がある。逆に、カーボンブラックの平均一次粒子径が60nmを越える場合には、得られるスエード調人工皮革の耐光堅牢性、発色性が低下する傾向にあり、また、紡糸工程でのフィルター詰まりが起こり易く紡糸性が低下する傾向がある。そして、カーボンブラックは一般に複数の一次粒子が集合した集合体(以下アグリゲートと呼ぶ)で存在するが、カーボンブラックが極細繊維を構成するポリマー中に混在一体化して存在し、主として極細繊維を構成するポリマー中に埋包され易く、発色性、耐光堅牢性、紡糸性が良好であることから、アグリゲートの平均粒子径としては20〜200nmであることがより好ましい。また他の無機顔料、有機顔料においても同様の理由で平均粒子径としては20〜200nmであることがより好ましい。
また、顔料の添加方法としては、極細繊維を構成するポリマー中における顔料の分散性を良好にするため、極細繊維を構成するポリマーと顔料を押出機などのコンパウンド設備を用いて混練した後ペレット化したマスターバッチ方式を採用することが好ましい。また、極細繊維成分には本発明の目的や効果を損なわない範囲で、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加しても良い。微粒子の種類は特に限定されず、例えばシリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種類以上併用しても良く、紡糸性、延伸性が向上する場合がある。
【0020】
上記の極細繊維発生型繊維は紡出した後、通常延伸するが、紡糸ノズルから吐出された後一旦捲き取りその後延伸する場合と、巻き取る前に延伸する場合があり、いずれの方法でもよい。延伸方法は通常熱延伸されるが、スチーム加熱、赤外線加熱、熱風、熱板、熱ローラー、水浴などのいずれを用いて行ってもよい。ただし、極細繊維発生型繊維の一成分を水溶性高分子成分とする場合は、水分の影響の少ない加熱雰囲気で延伸することが好ましい。
【0021】
本発明の織編物は上記の繊維から構成されており、該織編物の撚数は10〜650T/mであり、15〜500T/mが好ましい。10T/m未満では短繊維からなる不織布と絡合した場合に織編物の単繊維が完全にばらけてしまい絡合処理時に単繊維の切断が激しく起こって、短繊維と強固な絡合が行われず、高分子弾性体を低減する効果が低くなってしまう。また撚数が650T/mを越えると短繊維からなる不織布と強固に絡合した一体構造が得られにくく、より天然皮革ライクの風合いを得るためには不適当である。また織編物の目付けは、目的に応じて適宜設定可能であるが、20〜200g/mであることが好ましく、30〜150g/mがより好ましい。目付けが20g/m未満になると織編物としての形態が極めてルーズになり、目ずれなど布帛の形態安定性が低下する傾向にあり、それを固定するために高分子弾性体を多量に付与することが必要となる場合がある。また、目付けが200g/mを越えると織編物が密になりすぎ、不織ウェブの貫通が不充分となって、不織ウェブの高絡合化が進まず不離一体化した構造物を作製し難くなる。また、織編物の種類としては、経編、トリコット編で代表される緯編、レース編およびそれらの編み方を基本とした各種の編物、あるいは平織、綾織、朱子織およびそれらの織り方を基本とした各種の織物など特に限定されるものではない。組織、密度などいずれを選ぶかは目的により適宜決定すればよい。また、必要に応じて仮撚処理を行っても構わない。
【0022】
そして、本発明の繊維絡合体としては、公知の方法を用いることができる。例えば、まず上記で得られる極細繊維発生型繊維を捲縮付与した後ステープル化し、カード、クロスラッパー、ランダムウェバー等によりウェブを形成し、該ウェブの表層、下層、あるいは中間層に上記繊維を用いた織編物を積層し、ニードルパンチまたは、高圧水流処理等の公知の絡合処理をおこなうことにより繊維を絡ませる。そして、ニードルパンチ処理が水溶性高分子成分を溶解しない点で好ましく用いられる。ニードルパンチ条件としては、織編物構成繊維が不織布表面を貫通してくるような条件で、しかも不織布表面に織編物構成繊維が後述するような表面露出度となるように露出するようなニードルパンチ条件が用いられる。従来の人工皮革においては補強用織編物構成繊維が不織布表面に露出しないようなニードルパンチ条件が採用されていたが、本発明では補強用織編物構成繊維と短繊維からなる不織布との絡合を進めるため、織編物構成繊維がある程度表面に露出するようにニードルパンチを行う点が従来技術との大きな相違点である。具体的なニードルパンチ条件としては、ニードル針のバーブが不織布表面まで貫通するような条件でかつニードルパンチ数が400〜5000パンチ/cmの条件が好ましく、より好ましくは1000〜2000パンチ/cmの条件である。ニードルパンチは、ウェブと織編物とを重ね合わせた積層物の両面から行うのが天然皮革用の外観を得る点で好ましい。すなわち、不織布の表面側に補強用織編物構成繊維を露出させるとともに補強用織編物の表面側にも不織布構成繊維を露出させるのが好ましい。
また、本発明の短繊維からなるウェブをあらかじめニードルパンチ等により、例えば30パンチ/cm以上のパンチ数で織編物との積層前に予備絡合することも積層後の絡合工程時でのシワ発生の抑制の点で好ましく用いられる。
本発明における短繊維からなる不織布と織編物の比率は10/90〜80/20が好ましく、20/80〜60/40がより好ましい。短繊維からなる不織布と織編物の比率が80/20を越えると、織編物による形態保持性が足りず、それを固定するために高分子弾性体を多量に付与することが必要となる。また、短繊維からなる不織布と織編物の比率が10/90未満になると、表面に織編物が露出しやすくなって、布帛ライクな表面感のスエードとなり高級感に欠けたものとなりやすい。
【0023】
得られた繊維絡合体は、必要に応じ乾熱収縮、熱水収縮、熱プレスする、そして乾熱収縮処理、熱プレスを行うことが好ましく、この収縮処理により布帛の面積を収縮前の40〜90%にする。この収縮処理により緻密構造が得られ、収縮の程度が収縮前の面積の90%を越えるような低い収縮では緻密感が得られず風合いやスエード感が劣り、短繊維が素抜けやすくなって、それを固定するための高分子弾性体の必要量が多くなる傾向がある。逆に収縮前の面積の40%未満となるような大きな収縮の場合には風合いが硬化し好ましくない。なお収縮処理は、上記絡合絡合体を160〜200℃の雰囲気下に0.5〜3分放置することにより好適に行なわれる。
【0024】
織編物を構成する各単繊維の表面露出度、すなわち織編物と短繊維からなる不織布との絡合体の該織編物と接する反対側の面において、織編物を構成する各単繊維の表面露出度は0.3〜20%であることが重要であり、1〜15%が好ましく、2〜10%がより好ましい。0.3%未満では短繊維からなる不織布と織編物の繊維絡合状態が弱く、本発明が目的とする強固に絡合された一体構造を有する繊維絡合体となりにくく、それを固定するための高分子弾性体の必要量が多くなる傾向となる。一方20%を越えると強固に絡合された一体構造を有する繊維絡合体は得られるものの、織編物の損傷が大きいことから短繊維の素抜けが起こりやすくなって、それを固定するための高分子弾性体の必要量が多くなる傾向となる。そしてまた、一般に短繊維からなる不織布と織編物の単繊維繊度や発色性が多少異なる場合は、表面の均一な発色感が得られない問題が生じるが、上記範囲の表面露出度とすることで、発色の違いを目立たせない状態が得られる。
【0025】
なお、本発明で言う表面露出度の評価方法を次に説明する。
<減圧パラフィン包埋>
パラフィン mp68〜70℃
ホットプレート iuchi NHP−1
<ミクロトーム>
装置 MICROM社製 HM360
<顕微鏡>
装置 Nikon社製 SMZ1000
<方法>
1)得られた短繊維からなる不織布(A)と織編物(B)の絡合一体化物を減圧パラフィン包埋(約80℃ アスピレーター減圧)する。もちろん高分子弾性体が付与されていても良い。
2)ミクロトームで表層より約100μ程度、切削する。
3)光学顕微鏡で100倍に拡大し、さらにそれを2倍に拡大して写真を撮影
4)パソコンにて画像解析を実施し、不織布(A)側の面に存在する織編物構成繊維の面積(P)を計測する。(1cm×1cm)
表面露出度=100×P/(短繊維からなる不織布構成繊維+織編物構成繊維)面積
分母の(短繊維からなる不織布構成繊維+織編物構成繊維)面積の求め方としては、繊維絡合体の見かけ密度と繊維絡合体構成繊維の比重から構成繊維の占有割合を計算により求め、計算により求められた値を(短繊維からなる不織布構成繊維+織編物構成繊維)面積とする。なお、写真に織編物構成繊維が繊維断面としてではなく横方向に寝た状態で写っている場合には、その繊維は除外して面積を求める。
【0026】
必要に応じて、不織布に、溶解除去可能な樹脂たとえばポリビニルアルコール系樹脂などの水溶性糊剤を付与して、不織布を仮固定してもよし、表面平滑化や比重調整などのために、熱プレスなどの熱処理を行っても良い。
繊維絡合不織布の厚みは、得られる人工皮革の用途等によって任意に選択でき、特に制限されるものではないが、その厚みは0.2〜10mm程度であることが好ましく、0.4〜5mm程度であることがより好ましい。密度は0.20〜0.80g/cmが好ましく、0.30〜0.70g/cmが更に好ましい。0.20g/cm未満であると繊維の立毛感が不足し、さらに機械物性も低下する傾向がある。0.80g/cmを越えると得られる人工皮革の風合いが硬くなる傾向がある。
【0027】
本発明で繊維絡合体へ付与する水分散高分子弾性体は、ポリウレタン系重合体とアクリル系重合体とが複合化されてなる水分散樹脂であって、ポリウレタン系重合体が無黄変型ジイソシアネートを原料成分として用いたポリウレタン系重合体であり、アクリル系重合体(D)がガラス転移温度0℃以下であって、ガラス転移温度40℃以上の原料成分の質量比率が0〜15質量%からなるアクリル系重合体であって、該ポリウレタン系重合体と該アクリル系重合体の質量比率が、10:90〜60:40であることが必要である。
具体的には、高分子弾性体を構成するポリウレタンの原料となるジイソシアネート成分としては、芳香族系ジイソシアネートを用いることなく、芳香環を有しない脂肪族系あるいは脂環族系の有機ジイソシアネートから構成された無黄変型ジイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを用いることが必要である。ここでいう芳香族系ジイソシアネートとは、ポリウレタン等のジイソシアネート成分として使用される芳香環を有するジイソシアネートのことを指し、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの公知の芳香族系ジイソシアネートを挙げることができる。芳香族系ジイソシアネートを用いた場合には、得られたスエード調人工皮革において、高分子弾性体自身の光や熱による黄変に基づく光変色や熱変色、および高分子弾性体の光劣化や熱劣化に起因した顔料や染料の光退色や熱退色が起こりやすくなって、耐光堅牢性や耐熱堅牢性が不良となる場合があり、染色機内に熱劣化した高分子弾性体が蓄積して色汚染が起こり染色工程性に問題が生じやすい。あるいは、非常に耐光性の優れた特定の顔料や赤外線等の蓄熱の少ない特定の顔料を用いることが必要となって、製造コストの問題が生じるばかりか、限られた顔料で着色することが必要となるためバラエティに富んだ色調を揃えることが困難となる場合がある。なお、高い耐光性が必要とされる用途でなければ、本発明の効果を妨げない範囲で有機ジイソシアネートとして芳香族系の有機イソシアネートを少量用いても構わない。
【0028】
本発明のポリウレタンに用いられる高分子ポリオールとしては用途や必要性能に応じて公知の高分子ポリオールを選択すれば良く、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などのポリエーテル系ポリオール;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン アジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン セバケート)ジオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン カーボネート)ジオールなどのポリカーボネート系ポリオール;ポリエステルカーボネートポリオールなどが使用でき、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。特に、得られるスエード調人工皮革の耐光堅牢性、耐熱堅牢性や耐NOx黄変性、耐汗性、耐加水分解性などの耐久性が良好なものとする点、および、結晶性の高いポリカーボネート系のポリオールをポリオールの90%以上用いた場合は、染色工程での染料の洗い出しが不充分となりやすいことや、得られるスエード調人工皮革のスエード感や風合いが劣る傾向にあること等の観点から、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系などの2種以上を併用した高分子ポリオールを使用するか、或いは結晶性を落としたポリカーボネート系を主とした高分子ポリオールを使用することが特に好ましい例として挙げられる。
【0029】
本発明のポリウレタン系重合体に用いられる鎖伸長剤成分としては、用途や必要性能に応じて公知のウレタン樹脂の製造に用いられている鎖伸長剤を選択すれば良いが、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;トリエチレンテトラミン等のテトラミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。中でも、染色工程での脱落が少ないことから、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、エチレントリアミンなどのトリアミンの中から2〜4種類を併用することが好ましい。また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアミン類;4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
また、ポリウレタン系重合体の樹脂骨格中へ水分散高分子弾性体の粒子径や各種性能を付与するためにカルボキシル基等のイオン性基を導入することが好ましい。その方法は、特に制限されないが、ウレタン樹脂の原料として2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)吉草酸などのカルボキシル基含有ジオールが好ましい例として挙げられる。特に、カルボキシル基含有2官能性化合物のカルボキシル基含有量がポリウレタン系重合体中に5〜30mmol/100gであると染色工程で脱落が少ない傾向がある。
【0030】
本発明の高分子弾性体は、上記したポリウレタン系重合体成分にアクリル成分を複合化したアクリル−ポリウレタン複合タイプの高分子弾性体を用いることが必要である。また、ポリウレタン系重合体成分が海島構造の海を構成し、アクリル成分が海島構造の島成分を構成して、ポリウレタン系重合体成分が連続相、アクリル成分が非連続相を形成していることが得られるスエード調人工皮革のスエード感、表面タッチや力学物性等の諸性能が良好な点で好ましく、顔料がポリウレタン系重合体中に混在一体化して存在することが、顔料の脱落を抑制して摩擦堅牢性などの堅牢性を確保する点で好ましい。ポリウレタン系重合体成分とアクリル成分の相構造に関しては、透過型電子顕微鏡などを用いることで確認することができる。
アクリル−ウレタン複合タイプの樹脂は、公知の方法でウレタン樹脂水性分散液の存在下で(メタ)アクリル酸誘導体を主成分とするエチレン性不飽和モノマーを乳化重合する方法などで得られる。また、従来既知のエチレン性不飽和モノマーの乳化重合と同様にして行うことができる。エチレン性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分として用いることが好ましい。さらに、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸アリルなどの多官能性エチレン性不飽和モノマーを少量共重合し、樹脂を架橋構造とすることが好ましい。
【0031】
本発明の高分子弾性体を構成するアクリル成分のガラス転移温度は0℃以下であって、ガラス転移温度40℃以上の原料成分の質量比率が0〜15質量%からなるアクリル系重合体あることが必要である。ガラス転移温度(以下Tgと称することもある。)が0℃を越えた場合及び/又はガラス転移温度が40℃以上の原料成分の質量比率が15質量%を越える場合には、染料で染色した場合、染色後の洗浄工程で染料が抜け出しにくく、高分子弾性体に染料が多く残存するため各種堅牢性に劣ったものとなる。また、染色後の洗浄工程での染料の抜け出し方が、微妙な条件によって変動しやすくなって、染色での色合わせが難しく、何度も色合わせのために染色を行うことが必要となりやすい。またガラス転移温度が0℃を越える場合には、抽出や染色工程での高分子弾性体の脱落が増加して、得られるスエード調人工皮革のスエード感、表面タッチ、風合い更には引張強力等の力学物性に劣る傾向もある。特に好ましくは、アクリル成分のガラス転移温度が−20℃以下であり、ガラス転移温度が40℃を越えるアクリル成分の質量比率が10質量%以下である。
なお、各層のガラス転移温度は、同組成の重合体を別に合成し、DSC(示差走査熱量測定装置)やTMA(熱機械測定装置)などによる測定を行うことによっても求められるが、下式(1)により計算で求めた値を用いればよい。なお、各モノマー成分からの単独重合体のガラス転移温度は、培風館社発行「高分子データ・ハンドブック(基礎編)」やJohn Wiley & Sons, Inc.社発行「Polymer HandBook 第3版」などの刊行物に記載されている値を用いることができる。
1/Tg=w/Tg+w/Tg+・・・+w/Tg (1)
(ただし、Tg:重合体のガラス転移温度,w,・・・,w:重合体の各モノマー成分の質量分率,Tg,・・・,Tg:重合体の各モノマー成分からの単独重合体のガラス転移温度)
【0032】
具体的に、ガラス転移温度が40℃以上のアクリル成分としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アリルメタクリレート、アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなど、あるいは、スチレン、α―メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物などが例示される。一方、ガラス転移温度が0℃以下のアクリル成分としては、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどが例示される。
なお、高分子弾性体は、主剤樹脂用の架橋剤を含有していても良い。架橋剤としては、主剤樹脂の官能基と反応し得る官能基を分子内に2個以上含有する化合物であって、主剤樹脂の官能基と架橋剤の官能基の組み合わせは、カルボキシル基とオキサゾリン基、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とシクロカーボネート基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボニル基とヒドラジド基などが挙げられる。これらの中でも、液安定性が優れ、しかも製造が容易であることから、カルボキシル基を有する主剤樹脂と、オキサゾリン基またはカルボジイミド基を有する架橋剤の組み合わせが好ましい例として挙げられる。
【0033】
また、本発明のポリウレタン系重合体の窒素含有率は、2.5〜5.0質量%の範囲が好ましい。窒素含有率が2.5質量%未満の場合には、ポリウレタン系重合体成分が海島構造の海(連続相)でアクリル成分が海島構造の島(非連続相)の構造をとり難くなって、抽出工程や染色工程での高分子弾性体の脱落が起こりやすくなって染色工程性に劣るばかりか、得られるスエード調人工皮革の風合いやスエード感、更には引張強力などの力学性能に劣ったものとなる。逆に、ポリウレタン系重合体の窒素含有率は、5質量%を越える場合には、得られるスエード調人工皮革の風合いが堅くなるばかりか、染色後の洗浄工程で染料の洗い出しが不充分となって色斑が目立って外観に劣り、また、色合わせが煩雑になる傾向となる。
【0034】
本発明のポリウレタンーアクリル複合体のポリウレタン系重合体成分とアクリル成分の質量比率は、10:90〜60:40の範囲が必要である。ポリウレタン系重合体成分の質量比率が10未満の場合には、ポリウレタン系重合体成分が海島構造の海(連続相)でアクリル成分が海島構造の島(非連続相)の構造をとり難くなって、抽出工程や染色工程での高分子弾性体の脱落が起こりやすくなり、得られるスエード調人工皮革の風合いやスエード感、更には引張強力などの力学性能に劣ったものとなる。逆に、ポリウレタン系重合体成分の質量比率が60を越える場合には、染色後の洗浄工程での染料の洗い出しが不充分となって、得られるスエード調人工皮革の色斑が目立ち、色合わせが煩雑になる傾向となる。
本発明の高分子弾性体は、本発明の特徴を損なわない限り、浸透剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造膜助剤、感熱ゲル化剤、柔軟剤、滑剤、防汚剤、蛍光剤、防黴剤、難燃剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料などを適宜含有していてもよい。
【0035】
本発明の高分子弾性体中に含有する顔料および高分子弾性体は、スエード調人工皮革を得る工程、すなわち極細繊維発生型繊維の水溶性高分子成分を水抽出する工程や染色する工程などの工程で、脱落しないことが好ましく、具体的には、本発明では、顔料を含有する高分子弾性体の水溶性高分子成分を水溶液で抽出除去し、さらに染色を行った後の顔料と高分子弾性体の総和の残存率が95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上が更に好ましい。残存率は、高分子弾性体に含有する顔料と高分子弾性体を実際に製造する所定の割合で混合してフィルムを作成し、実際に製造するのと同様の条件、例えば90℃熱水処理で抽出した後、130℃高温染色処理しアルカリ洗浄処理および酸中和処理、水洗処理を行った後の質量保持率を残存率とする。残存率が95質量%未満の場合には、顔料や高分子弾性体の脱落が起こって得られるスエード調人工皮革の発色性、鮮明性、摩擦堅牢性が低下し、色振れが大きくなって色合わせが煩雑となるばかりか、染色機などでの汚れが起こって染色工程性が低下する傾向がある。
高分子弾性体に含有する顔料と高分子弾性体の総和の残存率が95質量%以上とするためには、高分子弾性体は、130℃の熱水中に浸漬した直後の熱水膨潤率が20%以下で脱落率が2.0%以下であることが好ましい。更には、通常の染色工程と同様に130℃高温染色処理した後、アルカリ洗浄処理および酸中和処理、水洗処理を行った後の脱落率が2.0%以下であることが好ましい。高分子弾性体の熱水膨潤率が20%を越える場合や脱落率が2%を越える場合には、水溶液で極細化処理や柔軟化処理する際や、染料で染色する際に、高分子弾性体が膨潤変形して、顔料や高分子弾性体の脱落が起こり、高分子弾性体が繊維を把持できず、スエード感や表面タッチが悪化する傾向がある。特に水分散高分子弾性体は、溶剤系の高分子弾性体と比べて130℃での熱水膨潤率が高い傾向があり、130℃での熱水膨潤率や脱落率を低減することが本発明において重要である。
【0036】
高分子弾性体の熱水膨潤性、脱落率などは高分子弾性体の架橋密度と相関していると考えられることから、高分子弾性体を膨潤させやすい溶剤である、メチルエチルケトン、トルエン、N,N,−ジメチルホルムアミドあるいはアセトンなどの質量膨潤率や質量保持率を測定することでも評価できる。具体的には、50℃のメチルエチルケトンやN,N,−ジメチルホルムアミドに5時間浸漬した直後の質量膨潤率が150%以下で脱落率が10%以下、より好ましくは質量膨潤率が120%以下、脱落率が6%以下であることが好ましく、また、90℃のトルエンに1時間浸漬した直後の質量膨潤率が200%以下、脱落率が10%以下、より好ましくは質量膨潤率が150%以下、脱落率が6%以下であることが好ましい。更に、90℃の熱水中に浸漬した後に通常の染色工程と同様に130℃高温染色処理、アルカリ洗浄処理および酸中和処理、水洗処理を行った後、50℃のメチルエチルケトンに5時間浸漬した直後の質量膨潤率が150%以下で脱落率が10%以下であることが更に好ましい。
ここでいう高分子弾性体に含有する顔料と高分子弾性体の総和の残存率とは、後述するが、スエード調人工皮革を製造する場合と同様の高分子弾性体と顔料の質量比率で混合した顔料含有高分子弾性体水分散液を用いて、厚み50±5μmの1辺10cmの正方形のキャストフィルムを作成し、120〜150℃熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、スエード調人工皮革を製造する場合と同様に90℃熱水抽出処理および染色工程と同等の処理、すなわち、130℃高温染色処理を行い、引き続き、アルカリ洗浄処理および酸中和処理、水洗処理を行い、その後120〜150℃で乾燥した後の質量(W1)を測定し、下記の計算式に従い顔料と高分子弾性体の残存率を計算した。
高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率(%)=100−[(W0−W1)/W0]×100
【0037】
また、130℃の熱水中に浸漬した直後の高分子弾性体の熱水膨潤率とは、後述するが、高分子弾性体キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後の質量をW0とし、130℃熱水に1時間浸漬した後の、質量をW2としたとき、下記の計算式に従って計算した膨潤率を言う。
高分子弾性体の130℃での熱水膨潤率(%)=[(W2−W0)/W0]×100
また、130℃の熱水中に浸漬後の高分子弾性体の熱水脱落率とは、後述するが、高分子弾性体キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後の質量をW0とし、130℃熱水に1時間浸漬し乾燥した後の質量をW3としたとき、下記の計算式に従って計算した脱落率を言う。
高分子弾性体の130℃での熱水脱落率(%)=[(W0−W3)/W0]×100
高分子弾性体の高温染色での脱落率とは、高分子弾性体キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後の質量をW0とし、実際に製造するのと同様の条件、例えば後述する染色方法で処理を行い、その後120〜150℃で乾燥した後の質量をW7としたとき、下記の計算式に従って計算した脱落率を言う。
高分子弾性体の高温染色の脱落率(%)=[(W0−W7)/W0]×100
【0038】
また、本発明の高分子弾性体は、高分子弾性体フィルムをキセノンアークランプ耐光堅牢性評価(ブラックパネル温度=83℃、積算照射照度=20MJ)を行った場合(JIS L0804)、耐光堅牢性が、3級以上、特に好ましくは4級以上である高分子弾性体を用いることが好ましい。
また、高分子弾性体の染色性や染料着色性に関しては、高分子弾性体フィルムを通常の染色工程と同様に130℃高温染色、アルカリ洗浄処理および酸中和処理、水洗処理を行って、高分子弾性体の色調を目視判定あるいは可視光吸収係数を測定するなどで確認することができる。
【0039】
また、高分子弾性体を着色する顔料としては、一般的に用いられている無機顔料ではなく、鮮明性、発色性、更には顔料添加に伴う力学性能や摩擦堅牢性の低下を最小限とする点、および、顔料を含有する高分子弾性体の残存率を95質量%以上とする点から、有機系顔料及び/又はカーボンブラックを使用することが好ましい。有機系顔料は有機溶剤に一部溶解するので、有機系顔料または有機系顔料を含む顔料粒子で高分子弾性体を着色する場合には、有機溶剤を使用しない水分散高分子弾性体を用いることが必要である。ここでいう水分散高分子弾性体とは、有機溶剤を実質的に含まない水あるいは水溶液に分散した高分子弾性体のことを示す。つまり、従来から一般に用いられている、有機溶剤に溶解させた高分子弾性体を含浸、湿式凝固させる方法では凝固工程および有機溶剤洗浄工程で有機系顔料が一部溶解脱落するため、得られるスエード調人工皮革の発色性が低下し、色ぶれが発生する問題が生じ、更には切り替えロスが大きくなって、工業的に有機系顔料を使用することが困難となる傾向がある。一方、無機系顔料は有機溶剤に殆ど或いは全く溶解しないため、有機溶剤に溶解させた高分子弾性体に配合することも考えられるが、鮮明性、発色性が劣って色範囲が非常に狭くなる点、および、高分子弾性体との均一混合性に劣って含浸が不十分となり顔料の付着斑が起こりやすい点、更には、スエード調人工皮革の引張物性、表面耐磨耗性、摩擦堅牢性などへ悪影響を及ぼす傾向があるため、無機系顔料のみで高分子弾性体を着色しても、本発明の効果は得られない場合がある。
【0040】
また、顔料は高分子弾性体中に混在一体化して存在し、主として顔料が高分子弾性体を構成するポリマーに埋包されていることが好ましい。ここでいう顔料が高分子弾性体中に混在一体化して存在し、主として顔料が高分子弾性体を構成するポリマーに埋包されているとは、顔料と高分子弾性体が別々に偏って単独で存在すること無く、実質的に顔料が高分子弾性体中に均一分散している状態をいう。顔料の添加量としては、0.1〜10質量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜5質量%である。顔料が0.1質量%未満の場合には、得られるスエード調人工皮革において耐光堅牢性や発色性が不足する場合がある。逆に、顔料が10質量%を越える場合には、高分子弾性体に埋包されていない顔料の割合が増加して、得られるスエード調人工皮革の摩擦堅牢性などの堅牢性が低下する傾向があり、また、高分子弾性体の持つ繊維捕捉性能が低下して、得られるスエード調人工皮革の引張強力、表面磨耗性などが低下し、染色工程での顔料と高分子弾性体の脱落が多くなって、顔料を含有する高分子弾性体の残存率を95%質量以上とすることが難しくなる場合がある。また、最終製品として要求される外観の色が淡色の場合には、高分子弾性体内部への顔料添加量は0〜1質量%が好ましく、中色の場合には1〜2質量%が好ましく、濃色の場合には2〜5質量%が好ましい。
【0041】
本発明の高分子弾性体に含有させる顔料それぞれの平均粒子径は0.05〜0.6μmであることが好ましい。ここでいう平均粒子径とは、顔料が高分子弾性体中に存在した状態における顔料の平均粒子径であって、一次粒子径を指すものではない。つまり、顔料は一次粒子径の状態で存在することは稀であり、一般に、一次粒子径の顔料が多数凝集したストラクチャー、一次凝集体、二次凝集体、あるいは二次粒子などと呼ばれる凝集状態で存在する。また、高分子弾性体の種類等によってその凝集状態は影響され、凝集状態にある顔料の粒子径が各種性能を支配するものと考えられる。本発明における平均粒子径とは、高分子弾性体を構成するポリマー中における、ストラクチャー、一次凝集体、二次凝集体、あるいは二次粒子などと呼ばれる凝集状態の平均粒子径を言う。
高分子弾性体に含有されている顔料の平均粒子径が0.05μm未満である場合には、顔料自体の光隠蔽性、耐光堅牢性が低下することに起因すると思われるが、スエード調人工皮革の耐光堅牢性が劣る傾向があり、更に、高分子弾性体液中で顔料が凝集しやすくなって顔料を高分子弾性体液中に均一に分散させることが難しくなって、得られるスエード調人工皮革の発色斑や色斑が生じる傾向がある。逆に、高分子弾性体に含有されている顔料の平均粒子径が0.6μmを越える場合には、顔料が高分子弾性体を構成するポリマーに埋包されにくくなって、得られる人工皮革用基体の摩擦堅牢性などの堅牢性が劣る傾向が有り、抽出工程や染色工程での顔料と高分子弾性体の脱落も多くなって、顔料を含有する高分子弾性体の残存率を95%質量以上とすることが難しくなる場合がある。更に高分子弾性体と顔料を配合した際に、顔料が沈降しやすくなって、顔料を含有する高分子弾性体の含浸が不十分になり、スエード調人工皮革の発色斑や色斑が生じる傾向がある。顔料の平均粒子径は、0.1〜0.5μmが特に好ましい。なお、スエード調人工皮革の高分子弾性体中に含有する顔料の平均粒子径や分散状態については、走査型あるいは透過型の電子顕微鏡等でスエード調人工皮革の断面および表面を観察する方法で確認できる。
【0042】
本発明の高分子弾性体に含有させる顔料は、有機系顔料としては例えば、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、インジゴ系、キノフタロン系、ジケトピロロピロール系、ペリレン系、ペリノン系等の縮合多環系有機顔料およびベンズイミダゾロン系、縮合アゾ系、アゾメチンアゾ系等の不溶性アゾ系などが挙げられる。カーボンブラックには、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サマールブラックなどがあるが、本発明で使用するカーボンブラックはそれ自体の種類を何ら限定するものではない。これら有機系顔料やカーボンブラックを繊維に1種以上含有させる。本発明の効果を妨げない範囲で、無機系顔料を併用しても構わず、例えば、酸化チタン、べんがら、クロムレッド、モリブデンレッド、リサージ、群青、酸化鉄等が挙げられる。特に、得られるスエード調人工皮革の鮮明性、発色性、色調の広さ、耐光堅牢性、摩擦堅牢性および表面耐磨耗性などが優れる点で、高分子弾性体に含有する顔料としては縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系および不溶性アゾ系顔料が特に好ましく、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系や不溶性アゾ系顔料のみの顔料からなる、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系や不溶性アゾ系顔料を主体とし、色調等の必要に応じてカーボンブラックや酸化チタン等を併用した顔料が特に好ましい例として挙げられる。また、カーシートなど高耐光性が必要な用途においては、耐光劣化の大きい顔料は使用を避けることが望ましい。
【0043】
本発明においては、高分子弾性体に対して非溶剤である水などの液体を使用して希釈した水分散高分子弾性体、および、顔料に対して非溶剤である水などの液体を使用して希釈した水分散顔料を使用することが、高分子弾性体中における顔料の分散性が良好となる点で好ましい。また、水分散高分子弾性体、水分散顔料双方共に、ノニオン系、アニオン系あるいはその併用系に分散されているものを用いることが、高分子弾性体中の顔料の分散性、および高分子弾性体と顔料の配合液の安定性が良好で、高分子弾性体中に顔料が均一に分散して、顔料が高分子弾性体に埋包されやすい点で好ましい。なお、高分子弾性体中の顔料の分散性、および高分子弾性体と顔料の配合液の安定性は、高分子弾性体中に顔料が均一に分散し、顔料が主として高分子弾性体に埋包されることを事前に確認することが好ましい。
本発明の高分子弾性体は、本発明の特徴を損なわない限り、浸透剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造膜助剤、感熱ゲル化剤、柔軟剤、滑剤、防汚剤、蛍光剤、防黴剤、難燃剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料などを適宜含有していてもよい。
【0044】
また高分子弾性体水溶液を含浸した後、高分子弾性体を固化させる。固化する方法としては、公知の方法が挙げられるが、例えば、熱処理して乾式凝固、あるいは熱水処理、スチーム処理、赤外線処理を行って感熱凝固する方法が好ましく挙げられる。
また本発明では、高分子弾性体水分散液に感熱ゲル化性化合物や金属塩を添加する等の公知の方法で、繊維絡合体全体に均一に存在できるように高分子弾性体を凝固する方法を加えることがより好ましい。
水分散高分子弾性体を繊維絡合体内部に含浸する方法については、繊維絡合体中に高分子弾性体の水性分散液を均一に含浸させ得る公知の方法を採用すれば良いが、水性分散液中に繊維絡合体を浸漬した後にプレスロールやドクターナイフなどを用いて水分散高分子弾性体の含浸量を適量なものに調整する方法や、定量ポンプ付きのコート塗工方法による方法などが好ましい例として挙げられる。
また、粘度としては高分子弾性体水分散液の含浸性の点から、1〜200cpoiseが好ましく、2〜100cpoiseがより好ましい。
【0045】
本発明の繊維絡合体と高分子弾性体の質量比率は、高分子弾性体:極細繊維絡合体=5:95〜35:75の質量範囲とすることが好ましく、より好ましくは7:93〜30:70である。高分子弾性体が5質量%未満の場合、繊維絡合体を十分固定できず、得られるスエード調人工皮革のスエード感や表面タッチ、表面磨耗性等の物性に劣る傾向がある。逆に、35質量%を越える場合には、高分子弾性体特有の反発感や抵抗感が大きくなって、得られるスエード調人工皮革の風合いや表面タッチが劣る傾向がある。
【0046】
極細繊維発生型繊維からなる繊維絡合体へ高分子弾性体水分散液を含浸した後、極細繊維および高分子弾性体の非溶媒であり且つ抽出除去成分の溶媒である水溶液で抽出除去成分を除去し、極細繊維発生型繊維を極細化する。
特に抽出除去する場合、環境問題の点および高分子弾性体などに含有する顔料の脱落を低減できる点から熱水等の水系溶媒で抽出除去成分を除去して極細繊維発生型繊維を極細化する方法が必要である。熱水抽出温度としては60〜100℃の温度が好ましく、80〜95℃がより好ましい。
本発明で言うランダムな微捲縮とは、本発明の人工皮革を構成する織編物を抽出工程で収縮させたときに自然に発現し観察されるものであり、捲縮は5個/cm以上のものを言う。
また必要に応じて所望の厚みに加圧加熱処理や分割処理などで厚みあわせを行う。また、極細繊維発生型繊維を極細化する前あるいは後に、少なくとも一面を公知の方法にてバフィング処理等の起毛処理を施し、極細繊維を主体とした極細繊維立毛面を形成させてスエード調人工皮革としてもよい。またその場合、必要により、揉み柔軟化処理、逆シールのブラッシングなどの仕上げ処理を行うことができる。
【0047】
本発明において、得られるスエード調人工皮革の密度は0.40〜0.85g/cmであることが好ましい。密度が0.40g/cm未満の場合には、天然皮革ライクな風合いが得られ難くなり、また密度が0.85g/cmより大きい場合には、柔軟性に劣る傾向となる。好ましくは、0.45〜0.80g/cmの範囲である。従来の人工皮革の密度は0.3〜0.45g/cmの範囲であり、本発明の人工皮革は密度が高く、この密度が高いことが本発明の人工皮革に天然皮革に酷似した風合いや充実感、ドレープ性をもたらす。
【0048】
本発明の極細繊維絡合体と顔料を含有した高分子弾性体からなる、(染色を行っていない)人工皮革用基体の耐光堅牢度が、キセノンアークランプ耐光堅牢性評価(ブラックパネル温度=83℃、積算照射照度=20MJ)で、3級以上であることが好ましい。
また、本発明の極細繊維絡合体と顔料を含有した高分子弾性体からなる、(染色を行っていない)人工皮革用基体の耐熱堅牢度が、130℃で100時間熱処理条件においてが3級以上であることが好ましい。また、110℃で200時間熱処理した条件においても、3級以上であることが好ましい。染色しても耐熱堅牢性の優れたスエード調人工皮革が得られるのに加え、染色工程での熱劣化が少なく、高分子弾性体が少量脱落した場合にも染色機への付着汚れが少なく、染色工程性にも優れたものとなる。
【0049】
本発明のスエード調人工皮革は、必要に応じて樹脂層を付与して、銀付き調あるいは半銀付き調の人工皮革とすることもできる。また、表面を加熱し、平滑面に押圧することにより表層部を溶融して樹脂層とすることもできる。表面に付与する樹脂としては、ポリウレタン系重合体やアクリルで代表される弾性重合体が好適に用いられる。また、少量の染料あるいは少量の顔料を用いて着色処理を行っても良い。また、必要に応じて、本発明の人工皮革を上層に使用し、編物あるいは編物を下層となるよう貼り合わせたり、あるいは、本発明の立毛調人工皮革を上層に使用し、該立毛調人工皮革を構成する繊維とは異種の繊維からなる層を下層となるよう貼り合わせたりしても構わない。
表面に付与する高分子弾性体は、本発明の特徴を損なわない限り、浸透剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造膜助剤、感熱ゲル化剤、柔軟剤、滑剤、防汚剤、蛍光剤、防黴剤、難燃剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料などを適宜含有していてもよい。
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお以下の実施例、比較例中に記載されている性能測定などの評価は以下の方法で行った。
【0051】
[引裂強力測定]
たて10cm×よこ4cmの試験片を切り取り短編の中央によこの辺と直角に5cmの切れ目をいれ、各切片をチャックに挟み引張試験機で10cm/minの速度で引裂く。引裂き最大荷重を求め、あらかじめ求めた試験片の目付で除した値を引裂強力値とする。そして、試験片3個の平均値で表す。
【0052】
[耐光堅牢度測定]
キセノンアークランプを表面に100時間照射(ブラックパネル温度:83℃、積算照射照度:20MJ、水スプレー無し)した後の変色度についてJIS L0804に規定する変退色グレースケールを用いて号判定し、その号判定を級として判定した。
【0053】
[耐熱堅牢度測定]
熱風乾燥機130℃に測定サンプルを入れ、100時間熱処理した後の変色度についてJIS L0804に規定する変退色グレースケールにて号判定を行い、その号判定を級として判定した。
【0054】
[水分散顔料の平均粒子径]
大塚化学株式会社製「ELS−800」を使用して動的光散乱法により測定し、キュムラント法(東京化学同人社発行「コロイド化学第IV巻コロイド化学実験法に記載」により解析して、水分散顔料の平均粒子径を測定した。
【0055】
[高分子弾性体中の顔料の平均粒子径と分布状態]
酸化オスミニウム染色処理したスエード調人工皮革の断面を、走査型電子顕微鏡「S−2100日立走査型電子顕微鏡」(倍率2000〜1万倍)で10ケ所以上観察し、高分子弾性体中の顔料の平均粒子径と分布状態を測定した。
【0056】
[高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率]
高分子弾性体に含有する顔料の顔料残存率は、スエード調人工皮革を製造する場合と同様の高分子弾性体と顔料の質量比率で混合した顔料含有高分子弾性体水分散液を用いて、厚み50±5μmの1辺10cmの正方形のキャストフィルムを作成し、120〜150℃熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、スエード調人工皮革を製造する場合と同様に90℃熱水抽出処理および染色工程と同等の処理、すなわち、130℃で60分高温染色処理を行い、引き続き、水酸化ナトリウム6g/l、テックライト(東海電化工業株式会社製)6g/lにて70℃×50分間アルカリ還元洗浄処理し、更に酢酸1g/lで60℃×10分間中和処理した後、水洗し、その後120〜150℃で乾燥した。2時間放置した後の質量(W1)を測定し、下記の計算式に従い顔料と高分子弾性体の脱落率を計算した。
高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率(%)=100−[(W0−W1)/W0]×100
【0057】
[水分散高分子弾性体フィルムの130℃での熱水膨潤率、脱落率の測定]
厚み50±5μm、1辺10cmの正方形の高分子弾性体キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、130℃熱水に1時間浸漬した後、サンプルを取り出し、すぐに質量(W2)を測定し、下記の計算式に従い膨潤率を計算した。
高分子弾性体の130℃熱水膨潤率(%)=[(W2−W0)/W0]×100
脱落率に関しては、乾燥後の質量(W3)を測定し下記の計算式に従い脱落率を計算した。
高分子弾性体の130℃熱水脱落率(%)=[(W0−W3)/W0]×100
【0058】
[水分散高分子弾性体フィルムの50℃メチルエチルケトンでの膨潤率、脱落率の測定]
厚み50±5μm、1辺10cmの正方形の高分子弾性体キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、50℃メチルエチルケトンに5時間浸漬した後、サンプルを取り出し、すぐに質量(W4)を測定し、下記の計算式に従い膨潤率を計算した。
高分子弾性体の50℃メチルエチルケトン質量膨潤率(%)=[(W4−W0)/W0]×100
脱落率に関しては、乾燥後の質量(W5)を測定し下記の計算式に従い脱落率を計算した。
高分子弾性体の50℃メチルエチルケトン脱落率(%)=[(W0−W5)/W0]×100
【0059】
[水分散高分子弾性体フィルムの90℃トルエンでの膨潤率、脱落率の測定]
厚み50±5μm、1辺10cmの正方形の高分子弾性体キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、90℃トルエンに1時間浸漬した後、サンプルを取り出し、すぐに質量(W5)を測定し、下記の計算式に従い膨潤率を計算した。
高分子弾性体の90℃トルエン質量膨潤率(%)=[(W5−W0)/W0]×100
脱落率に関しては、乾燥後の質量(W6)を測定し下記の計算式に従い脱落率を計算した。
高分子弾性体の90℃トルエン脱落率(%)=[(W0−W6)/W0]×100
【0060】
[水分散高分子弾性体フィルムの高温染色処理での脱落率の測定]
厚み50±5μm、1辺10cmの正方形の高分子弾性体キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、130℃で60分高温染色した後、引き続き、水酸化ナトリウム6g/L、テックライト(東海電化工業株式会社製)6g/Lにて70℃×50分間アルカリ還元洗浄処理し、更に酢酸1g/Lで60℃×10分間中和処理した後、水洗した。その後120〜150℃で乾燥し2時間放置した後の質量(W7)を測定し、下記の計算式に従い脱落率を計算した。なお、染料濃度はフィルムに対して2質量%以下で行った。
高分子弾性体の脱落率(%)=[(W0−W7)/W0]×100
【0061】
[熱可塑性樹脂の融点]
DSC(TA3000、メトラー社)を使用し、試料10mg、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合に示す吸熱ピークを測定して求めた。
【実施例1】
【0062】
カーボンブラックを0.5質量%添加したイソフタル酸10モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(融点234℃)を島成分とし、エチレン単位10モル%含有し、けん化度98.4モル%、融点210℃のポリビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製 エクセバール)を海成分とし、質量比を海/島=30/70とした64島の海島繊維を複合紡糸した後、延伸することで単繊維繊度5.5dtexの繊維を得た。この繊維を捲縮処理した後51mmへカットし、カード処理することで目付120g/mの短繊維ウェブを作成した。
【0063】
次に、上記をポリマー構成で質量比を海/島=40/60とした36島の海島繊維を複合紡糸し、ローラープレート方式で通常の条件により延伸することで単繊維繊度2.3dtexの繊維を得た。この繊維を撚数500T/mの条件で織密度105×84本/inch、目付120g/mの平織物を作成した。
【0064】
上記ウェブ2枚と平織物を積層した後1500パンチ/cmの条件でニードル処理し、190℃の乾熱収縮により20%面積収縮し、175℃熱プレスすることで目付け501g/cm、見掛け密度0.80g/cm、厚み0.66mmの繊維絡合体を得た。この繊維絡合体における織物を構成する繊維の平織物と接する面と反対側の単繊維ウェブ側の面における表面露出度は2.0%であった。
【0065】
次に山陽色素株式会社製水分散顔料(平均粒子径0.25μのカーボンブラック/平均粒子径0.2μの有機系青顔料/平均粒子径0.2μの有機系赤顔料=1/2/2)とアクリル−ウレタン複合樹脂(組成:アクリル/ウレタン比率=60/40、アクリル成分(主成分アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチル)のTg=−45℃、ガラス転移温度40℃以上の成分(メタクリル酸メチル:Tg105℃)の成分比率=5%、ポリウレタン系重合体成分がエーテル/ポリカーボネート/4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート系窒素含有率3.5%のポリウレタン系重合体、フィルムの測定:130℃熱水膨潤率=10%、130℃熱水脱落率1%、50℃メチルエチルケトン質量膨潤率100%、50℃メチルエチルケトン脱落率4%、90℃トルエン質量膨潤率130%、90℃トルエン脱落率4%)、高温染色での脱落率=1%、高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率=99質量%)、およびシリコーン系感熱ゲル化剤(曇点45℃)を、顔料/感熱ゲル化剤/複合樹脂=2/2/100の固形分質量比に混合し、濃度30質量%の高分子弾性体水分散液を得た。
【0066】
次に含浸設備としてリップコーター設備(株式会社ヒラノテクシード製 リップダイレクト方式)を用いて高分子弾性体水分散液を高分子弾性体/極細繊維化後の繊維絡合体の質量比=15/85となるように含浸した。高分子弾性体水分散液含浸後、赤外線加熱装置で予備乾燥した後、150℃の熱風乾燥機で5分間乾燥した。その後、両サイドの未含浸個所をカットし、90℃の熱水でポリビニルアルコール共重合体成分を抽出することで人工皮革基体を得た。得られた人工皮革基体はシワ、伸びの発生が無く良好な外観であり、皮革様の均一な風合いや優れた物性を有する人工皮革基体であった。得られた人工皮革用基体は耐光堅牢度4−5級、耐熱堅牢度4−5級であった。そして、織物を構成する単繊維はランダムな微捲縮を有するものであった。
【0067】
次に、少なくとも一面をバフィング処理で起毛処理を施した後、分散染料としてSumikaron UL染料(住友化学株式会社製)のYellow 3RF 0.24owf%、Red GF 0.34owf%、Blue GF 0.70owf%、アンチフェードMC−500(明成化学株式会社製)、2owf%、ディスパーTL(明成化学株式会社製)1g/Lを用い130℃高圧染色を行った後、引き続き、水酸化ナトリウム6g/L、テックライト(東海電化工業株式会社製)6g/Lにて70℃×50分間アルカリ還元洗浄処理し、更に酢酸1g/Lで60℃×10分間中和処理した後、水洗し、120〜150℃で乾燥し後、逆シールのブラッシング仕上げ処理を行った。
また、同様の方法で繰り返し製造しても、高分子弾性体に起因した染色機内の汚れ付着や色振れも特に認められず、染色工程性が良好であった。得られた人工皮革は短繊維繊度0.067dtex、織編物の単繊維繊度0.043dtexであり、密度が0.60g/cmで、織物を構成する単繊維はランダムな微捲縮を有するものであった。そして、表面露出度は2.0%であった。また繊維と高分子弾性体の色差が無く良好なグレー色でスエード感や表面タッチ、ドレープ性に優れ、引裂強力1.13kg/100g、耐光堅牢度4級と優れたものであった。
【実施例2】
【0068】
(短繊維の繊度変更)
実施例1の短繊維の単繊維繊度を3dtex、海/島=40/60とし、その他は実施例1と同様の操作を行った。その結果、得られた人工皮革は短繊維繊度0.031dtexであり、密度が0.67g/cmであった。また、織物を構成する単繊維はランダムな微捲縮を有するものであった。そして、表面露出度は3.5%であった。また発色性に優れ、引裂強力1.20kg/100g、耐光堅牢度4級と物性に優れ、かつスエード感、ドレープ性などの風合いに優れたものであった。
【実施例3】
【0069】
(織編物繊度変更)
実施例1の織編物の単繊維繊度を4.6dtex、海/島=30/70とし、その他は実施例1と同様の操作を行った。その結果、得られた人工皮革は織編物繊度0.099dtexであり、織物を構成する単繊維はランダムな微捲縮を有するものであり、密度が0.60g/cmであった。そして、表面露出度は1.5%であった。また発色性、スエード感、ドレープ性に優れ、引裂強力1.10kg/100g、耐光堅牢度4級と物性に優れたものであった。
【実施例4】
【0070】
(織編物表面露出度変更)
実施例1のニードル処理を2500パンチ/mとすることで織編物の表面露出度を13.6%とし、その他は実施例1と同様の操作を行った。その結果、得られた人工皮革は密度が0.72g/cmであった。また、織物を構成する単繊維はランダムな微捲縮を有するものであった。また発色性、スエード感、ドレープ性に優れ、引裂強力1.25kg/100g、耐光堅牢度4級と物性に優れたものであった。
【実施例5】
【0071】
(高分子弾性体のガラス転移温度変更)
実施例1の高分子弾性体を、アクリル−ウレタン複合樹脂(組成:アクリル/ウレタン比率=60/40、アクリル成分(主成分アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチル)がTg=−50℃、ガラス転移温度40℃以上の成分(メタクリル酸メチル:Tg105℃)の成分比率=2%、ポリウレタン系重合体成分がエーテル/ポリカーボネート/4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート系窒素含有率3.5%のポリウレタン系重合体、フィルムの分析:130℃熱水膨潤率=12%、130℃熱水脱落率1%、50℃メチルエチルケトン膨潤率120%、50℃メチルエチルケトン脱落率5%、90℃トルエン質量膨潤率140%、90℃トルエン脱落率5%、高温染色での脱落率=1%、高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率=99質量%)に変更し、その他は実施例1と同様の操作を行った。得られたスエード調人工皮革は、表面露出度が2.0%であった。発色性、スエード感、ドレープ性に優れ、耐光堅牢度4級と物性に優れたものであった。また、人工皮革用基体は耐光堅牢度4−5級、耐熱堅牢度4−5級であった。
【実施例6】
【0072】
(高分子弾性体のアクリル/ウレタン比率変更)
実施例1の高分子弾性体を、アクリル−ウレタン複合樹脂(アクリル/ウレタン比率=70/30、アクリル成分(主成分アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチル)がTg=−38℃、ガラス転移温度40℃以上の成分(メタクリル酸メチル:Tg105℃)の成分比率=10%、ポリウレタン系重合体成分がエーテル/ポリカーボネート/4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート系窒素含有率3.6%のポリウレタン系重合体:130℃熱水膨潤率=11%、130℃熱水脱落率1%、50℃メチルエチルケトン膨潤率110%、50℃メチルエチルケトン脱落率4%、90℃トルエン質量膨潤率120%、90℃トルエン脱落率4%高温染色での脱落率=1.5%、高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率=99質量%)に変更し、その他は実施例1と同様の操作を行った。得られたスエード調人工皮革は、表面露出度が2.0%であった。発色性、スエード感、ドレープ性に優れ、耐光堅牢度4級と物性に優れたものであった。また、人工皮革用基体は耐光堅牢度4−5級、耐熱堅牢度4−5級であった。
【0073】
<比較例1>(短繊維繊度変更)
実施例1の短繊維の単繊維繊度を5.5dtex、海/島=30/70と同じ条件下、島数のみを5島とし、その他は実施例1と同様の操作を行った。その結果、得られた人工皮革は短繊維繊度0.86dtexであり発色性に優れるものの、表面のスエード感や表面タッチ、風合いに劣ったものであった。
【0074】
<比較例2>(織編物繊度変更)
実施例1の織編物の繊度を5.5dtex、海/島=30/70、島数を1島としその他は実施例1と同様の操作を行った。その結果、得られた人工皮革は織編物の繊度3.85dtexであり、表面に露出した部位の発色性が高く、全体の発色性に斑が生じ、また表面のスエード感や表面タッチ、風合いに劣ったものであった。
【0075】
<比較例3>(織編物表面露出度変更)
実施例1の織編物の撚数を1500T/mの強撚糸とした以外は実施例1と同様の方法で実施した。その結果、織編物の表面露出度は0.05%であり、得られた人工皮革は密度が0.40g/cmと低く短繊維からなる不織布と織編物の一体感に欠け、また引裂強力0.40kg/100gと物性に劣ったものであった。
【0076】
<比較例4>(織編物と短繊維からなる不織布の比率変更)
実施例1の織編物を使用しない以外は実施例1と同様の方法で実施した。その結果、得られた人工皮革は毛抜けが激しく、また引裂強力0.40kg/100gと物性に劣ったものであった。
【0077】
<比較例5>(高分子弾性体のガラス転移温度変更)
実施例1の高分子弾性体を、アクリル−ウレタン複合樹脂(アクリル/ウレタン比率=60/40、アクリル成分(主成分アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチル)がTg=−18℃、ガラス転移温度40℃以上の成分(メタクリル酸メチル:Tg105℃)の成分比率=25%、ポリウレタン系重合体成分がエーテル/ポリカーボネート/4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート系窒素含有率3.5%のポリウレタン系重合体:130℃熱水膨潤率=9%、130℃熱水脱落率1%、50℃メチルエチルケトン膨潤率100%、50℃メチルエチルケトン脱落率5%、90℃トルエン質量膨潤率125%、90℃のトルエン脱落率6%、高温染色での脱落率=2%、高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率=98質量%)に変更し、その他は実施例1と同様の操作を行った。得られたスエード調人工皮革は、高分子弾性体中の染料が抜け難く濃く染まってしまい、繊維と高分子弾性体の色斑が目立っていた。また、繰り返して製造した際の、高分子弾性体の色目が変化しやすく、色調の再現性にも劣っていた。なお、人工皮革用基体は耐光堅牢度4−5級、耐熱堅牢度4−5級であった。
【0078】
<比較例6>(高分子弾性体のジイソシアネート成分変更)
実施例1の高分子弾性体を、ウレタン複合樹脂(アクリル/ウレタン比率=60/40、アクリル成分(主成分アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチル)がTg=−45℃、ガラス転移温度40℃以上の成分(メタクリル酸メチル:Tg=105℃)の成分比率=5%、ポリウレタン系重合体成分がエーテル/ポリカーボネート/トリレンジイソシアネート系窒素含有率3.2%のポリウレタン系重合体:130℃熱水膨潤率=22%、130℃熱水脱落率2%、50℃メチルエチルケトン膨潤率200%、50℃メチルエチルケトン脱落率8%、90℃トルエン質量膨潤率220%、90℃トルエン脱落率7%、高温染色での脱落率=2%、高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率=96質量%)に変更し、その他は実施例1と同様の操作を行った。得られたスエード調人工皮革は、耐光堅牢度が2級、耐熱堅牢度が2級と劣ったものであった。また、染色前の人工皮革用基体の耐光堅牢度が2級、耐熱堅牢度が2級であって、繰り返して製造した際の、染色機内の汚れが発生し染色工程性に問題があった。なお、人工皮革用基体は耐光堅牢度2−3級、耐熱堅牢度2−3級であった。
【0079】
<比較例7>(高分子弾性体の変更)
実施例1の高分子弾性体を、ウレタン複合樹脂(ポリウレタン系重合体成分がエーテル/イソホロンジイソシアネート系窒素含有率3.0%のポリウレタン系重合体:130℃熱水膨潤率=12%、130℃熱水脱落率4%、50℃メチルエチルケトン膨潤率180%、50℃メチルエチルケトン脱落率6%、90℃トルエン質量膨潤率260%、90℃のトルエン脱落率12%、高温染色での脱落率=4%、高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率=92質量%)に変更し、その他は実施例1と同様の操作を行った。得られたスエード調人工皮革は、高分子弾性体が濃く染まっていて繊維と高分子弾性体の色斑が目立っており、耐光堅牢度が2−3級、耐熱堅牢度が2−3級とやや劣っていた。また、染色前の人工皮革用基体の耐光堅牢度が2−3級、耐熱堅牢度が2級であって、繰り返して製造した際の、染色機内の汚れが発生し染色工程性に問題があったのに加えて、高分子弾性体の色目が変化しやすく、色調の再現性にも劣っていた。なお、人工皮革用基体は耐光堅牢度2−3級、耐熱堅牢度2級であった。
【0080】
<比較例8>(極細繊維発生型繊維を有機溶剤によって極細化)
実施例1の短繊維からなる不織布と織編物の海成分として低密度ポリエチレンを用い、島成分の添加顔料を有機系黒顔料とし、海成分をトルエンで抽出処理した以外は実施例1と同様の方法で実施した。その結果、織物を構成する単繊維に微細な捲縮が見られず、顔料残存率は90質量%であり、得られた人工皮革は発色性の劣ったものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
短繊維からなる不織布と織編物から構成された繊維絡合体の内部に高分子弾性体が含浸されており、以下(1)〜(4)を満足することを特徴とするスエード調人工皮革。
(1)短繊維が平均繊維長18〜110mmかつ単繊維繊度が0.0003〜0.4dtexであること、
(2)織編物を構成する繊維は、単繊維間にランダムな微捲縮を有し、かつ単繊維繊度は0.0003〜1.6dtexであること、
(3)短繊維からなる不織布と織編物とが絡合されており、短繊維からなる不織布の、織編物と接する面と反対側の面において、該織編物を構成する各単繊維の表面露出度が0.3〜20%であること、
(4)高分子弾性体が、無黄変型ジイソシアネートからなるポリウレタン系重合体とガラス転移温度0℃以下であってガラス転移温度40℃以上の原料の質量比率が0〜15質量%からなるアクリル系重合体とが質量比率10:90〜60:40で複合化されていること、
【請求項2】
繊維絡合体を構成する短繊維からなる不織布と織編物が、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分から構成される極細繊維発生型繊維の水溶性高分子成分を抽出除去して得られる極細繊維からなり、該極細繊維が顔料を0.01〜5質量%含有している請求項1に記載のスエード調人工皮革。
【請求項3】
高分子弾性体が、平均粒子径0.05〜0.6μmのカーボンブラック及び/又は有機系顔料を0.1〜10質量%含有している請求項1または2に記載のスエード調人工皮革。
【請求項4】
極細繊維発生型繊維の水溶性高分子成分を抽出除去し、さらに染色を行った後の顔料と高分子弾性体の総和の残存率が95質量%以上である請求項2に記載のスエード調人工皮革。
【請求項5】
極細繊維発生型繊維を構成する水溶性高分子成分が炭素数4以下のα−オレフィン単位および/またはビニルエーテル単位を1〜20モル%含有し、けん化度90〜99.99モル%の変性ポリビニルアルコールである請求項2に記載のスエード調人工皮革。
【請求項6】
スエード調人工皮革を製造するに際し、下記のI〜VIの工程、
I.水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維から構成された短繊維ウェブ及び該極細繊維発生型繊維から構成された撚数10〜650T/mの織編物を製造する工程、
II.工程(I)で得られた短繊維ウェブと織編物を、短繊維ウェブと織編物の質量比で10:90〜80:20で積層し、ニードルパンチ処理及び/又は高圧水流処理によって短繊維からなる不織布の、織編物と接する面と反対側の面において、該織編物を構成する各単繊維の表面露出度が0.3〜20%となるように絡合処理し、繊維絡合体を製造する工程、
III.無黄変型ジイソシアネートからなるポリウレタン系重合体とガラス転移温度0℃以下であってガラス転移温度40℃以上の原料の質量比率が0〜15質量%からなるアクリル系重合体とが質量比率10:90〜60:40で複合化されてなる高分子弾性体と繊維絡合体の質量比が5:95〜35:65となるよう水分散高分子弾性体の状態で繊維絡合体に付与する工程、
IV.極細繊維発生型繊維を極細繊維にする工程、
V.染色工程、
VI.起毛処理工程
を少なくとも行うことを特徴とするスエード調人工皮革の製造方法。

【公開番号】特開2006−28659(P2006−28659A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205909(P2004−205909)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】