説明

スキージ

【課題】スクリーン印刷によって形成される印刷パターンを適正な形状にすることを可能として、歩留まりを向上することができるとともに、スクリーン印刷を用いて作製される電子部品等に対して求められる精密性を充分に満たすことが可能なスキージを提供する。
【解決手段】スキージ1は、基材2と、先端部3とから構成されている。基材2はファイバ状カーボン材料によって形成されている。基材2は、スキージ1の一端側(図1においては上端側)に設けられ、スクリーン印刷機のスキージホルダに取り付けられる平板状の基材本体部2aと、スキージ1の他端側(図1においては下端側)の中心部に、基材本体部2aに連続して設けられた平板状の基材連続部2bとからなっている。基材連続部2bを挟んでその両端に平板状の先端部3が形成されている。先端部3は、ウレタン、シリコン、塩化ビニール、ガラス、ステンレス、合金等によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷で用いられるスキージに関し、特に薄膜精密印刷の際に有効なスキージに関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷において用いられるスキージとして、基材を合成金属で形成し、この基材の先端にウレタン、シリコン、塩化ビニール、ガラス等からなる先端材料を一体成型し、その後先端部を研磨等によって形状成型したものがある。また、特許文献1には、上記の基材をガラスエポキシ樹脂で形成したものが開示されている。また、特許文献1に記載の技術を改良したものが、特許文献2に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−193346号公報
【特許文献2】特開2006−297950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリーン印刷は様々な用途に用いられるが、近年は、液晶用や半導体用の電子部品の形成に用いられることが多い。この分野に用いられる電子部品は、極めて微細な構造を有しているため、スクリーン印刷についても高い精度の印刷技術が求められている。
【0005】
従来のスキージを用いてスクリーン印刷を行う場合の問題点を、図7に基づいて説明する。
図7は、従来のスキージを用いてスクリーン印刷を行う様子を示している。スキージ51は、基材52と、この先端に取り付けられた先端部53とから形成されており、基材52は、合成金属やガラスエポキシ樹脂で形成され、先端部53はウレタン、シリコン、塩化ビニール、ガラス、ステンレス、合金等によって形成されている。
【0006】
スキージ51は、基材52が図示しないスキージホルダに固定されて、矢印で示す進行方向に、先端部53がスクリーンメッシュ54の表面を擦りながら、所定の印圧、所定の速度でスクリーンメッシュ54上を移動する。これにより、スクリーンメッシュ54、レジスト55に覆われていない領域をペーストが通過し、被印刷物56上に印刷パターン60が形成される。
【0007】
ところが、先端部53はスクリーン印刷機及びスクリーン摩擦からの振動を受けて、図示する方向に撓りながら振動し、スクリーンメッシュ54上を進行しているのが実情である。そのため、先端部53の接触端53aがスクリーンメッシュ54のエッジ54aを通過する際のぶれによって、ペーストはエッジ54aに付着しやすい状況が出現する。その結果、被印刷物56上に形成される印刷パターン60は、平坦な形状とはならず、比較的平坦な上面61の両端に、ショルダーと呼ばれる突起部62が形成された形状となってしまう。
【0008】
図8は、上述した形状の印刷パターンを用いて電子部品を作製する様子を示している。ここでは、電子部品の一例として、セラミックコンデンサを作製する場合について説明すると、誘電体薄膜63の表面に、スクリーン印刷により、ニッケル等の金属材料をペーストとして印刷パターン60が形成されている。この工程を繰り返して、誘電体薄膜63と印刷パターン60の積層体64を形成し、プレス工程を経てセラミックコンデンサが作製される。
【0009】
しかし、印刷パターン60は上述したようにショルダーと呼ばれる突起部62を有しているため、積層体64を圧縮したときに、圧縮圧が均等に作用せず、突起部62がその上に位置する誘電体薄膜63を突き破る事態が発生する。誘電体薄膜63の厚みは通常1μm程度と極めて薄く、印刷パターン60の形状の善し悪しが、積層体64を圧縮する際に大きく影響する。印刷パターン60は電極として機能するものであるが、突起部62が誘電体薄膜63を突き破ると、層間での絶縁不良が発生し、信頼性を著しく損なうこととなる。
【0010】
また、印刷パターン60の上面が一様な平坦面で形成される場合と比べて、ショルダーと呼ばれる突起部62の存在があり、尚且つ膜厚みが高い結果となることが製造上のマージンとなってしまい、精密で微細な構造が要求される電子部品の作製上の問題点となっていた。
【0011】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、スクリーン印刷によって形成される印刷パターンを適正な形状にし、適正な薄さの膜厚みが得られることを可能として、歩留まりを向上することができるとともに、スクリーン印刷を用いて作製される電子部品等に対して求められる精密性と信頼性を充分に満たすことが可能なスキージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するために、本発明のスキージは、スクリーン印刷機のスキージホルダに取り付けられる基材本体部と、前記基材本体部に連続する基材連続部を挟んでその両端に形成された先端部とを有するスキージであって、前記基材本体部と前記基材連続部とはファイバ状カーボン材料によって形成されていることを特徴とする。
【0013】
振動吸収に優れたファイバ状カーボン材料を用いることによって、先端部がスクリーンメッシュ上を移動する際に生じる振動を、ファイバ状カーボン材料が吸収するため、一様な平坦面を有する良好な印刷パターンを形成することができる。
【0014】
本発明においては、前記基材本体部の表面の一部に、ファイバ状カーボン材料で形成された補強部を取り付けることができる。
強度補強したい位置に応じて補強部を取り付けることにより、曲げなどに強いスキージとすることができる。
【0015】
本発明においては、前記基材本体部を形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向と、前記補強部を形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向とが同一であるようにすることができる。
このような補強部を設けることにより、特定の方向の外力に対する強度補強が可能となる。
【0016】
本発明においては、前記基材本体部を形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向と、前記補強部を形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向とを互いに異ならせることができる。
このような補強部を設けることにより、複数の方向に作用する外力に対する強度補強が可能となる。
【0017】
本発明においては、前記先端部は、ウレタン、シリコン、塩化ビニール、ガラス、ステンレス、合金のいずれかによって形成することができる。
本発明のスキージは、基材としてファイバ状カーボン材料を用いることによって振動を良好に吸収することができるため、スクリーンメッシュと接触する先端部の材料として、これらの材料を広く用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、スクリーン印刷によって形成される印刷パターンを適正な形状にすることを可能として、歩留まりを向上することができるとともに、スクリーン印刷を用いて作製される電子部品等に対して求められる精密性を充分に満たすことが可能なスキージを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明をその実施形態に基づいて説明する。
図1に、本発明の第1実施形態に係るスキージの構造を示す。図1(a)はスキージの正面図、図1(b)はその側面図、図1(c)はその斜視図である。
スキージ1は、互いに材質の異なる材料からなる、基材2と、先端部3とから構成されている。基材2はファイバ状カーボン材料によって形成されている。ファイバ状カーボン材料とは、カーボンファイバを有する材料であれば良く、その種類は特に限定されない。
【0020】
基材2は、スキージ1の一端側(図1においては上端側)に設けられ、スクリーン印刷機のスキージホルダに取り付けられる平板状の基材本体部2aと、スキージ1の他端側(図1においては下端側)の中心部に、基材本体部2aに連続して設けられた平板状の基材連続部2bとからなっている。基材連続部2bを挟んでその両端に平板状の先端部3が形成されている。
先端部3は、ウレタン、シリコン、塩化ビニール、ガラス、ステンレス、合金等によって形成されている。基材連続部2bと先端部3とは貼り合わせても良く、あるいは一体成型してもよい。
【0021】
このようにして形成されたスキージ1を用いて、図7に基づいて説明した工程でスクリーン印刷を行うと、図2に示すように、被印刷物5上に形成される印刷パターン4は、一様な平坦面4aを有する形状となり、図7に示したショルダーと呼ばれる突起部62が形成されない。これは、基材2をファイバ状カーボン材料によって形成しているため、先端部3がスクリーンメッシュ上を移動する際に生じる振動を、基材2が吸収するからである。
【0022】
すなわち、ファイバ状カーボン材料は良好な振動吸収性を有しており、この特性によって、先端部3の接触端3aがスクリーンメッシュのエッジを通過する際に、ぶれを生じにくい。そのため、ペーストはスクリーンメッシュのエッジに付着することなく、一様な平坦面4aを有する印刷パターン4を形成することができる。
【0023】
従来は、スキージ1の基材2は、合成金属やガラスエポキシ樹脂で形成されているが、合成金属は振動に対して共鳴する作用がはたらき、振動が助長されてしまう。また、ガラスエポキシ樹脂では、剛性は確保されているものの、振動吸収性が弱い。これに対し、本発明では、基材2をファイバ状カーボン材料によって形成しているため、スキージ1の振動を吸収する性能に優れている点が顕著に異なる点である。ファイバ状カーボン材料はまた、曲げ強度が強く、変形に対する復元力が大きく、かつ軽量であるため、スキージ1がスクリーンメッシュ上を移動する際の歪みを緩和する点において有利であり、これらの点についても、基材2の材料として用いるのに有利である。
【0024】
図3に、本発明の第2実施形態に係るスキージの構造を示す。
図3に示すものは、図1に基づいて説明した構成に加えて、基材本体部2aの表面の一部に、補強部6を取り付けたものである。補強部6も基材本体部2aと同様に、ファイバ状カーボン材料で形成されている。図3では、基材本体部2aの長手方向の両端に補強部6を取り付けているが、これは、この両端付近が最も曲がりやすく、補強部6を設けることによって、曲がりを補強するためである。スキージ1の先端部3が曲がりを生じると、印刷パターン4を適正な形状に仕上げることが困難となるが、補強部6を設けることによって、図2に示すように、一様な平坦面4aを有する形状の印刷パターン4を形成することができる。
【0025】
従って、補強部6を設ける位置は、図3に示すものに限定されるものではなく、強度補強したい位置がどこであるかに応じて、基材本体部2aの長手方向、短手方向の任意の位置に設けることができる。また、必要に応じて、基材本体部2aの同じ位置に複数の補強部6を設けることもできる。基材本体部2aを形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向と、補強部6を形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向とが同一であるようにすると、特定の方向の外力に対する強度補強を特に強くしたい場合に有効である。
【0026】
図4に、本発明の第3実施形態に係るスキージの構造を示す。
図4に示すものは、図1に基づいて説明した構成に加えて、基材本体部2aの表面の一部に、さらに、補強部7を取り付け、補強部7も基材本体部2aと同様に、ファイバ状カーボン材料で形成する点は、第2実施形態と同様であるが、ここでは、基材本体部2aを形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向と、補強部7を形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向とを異ならせている。
【0027】
すなわち、基材本体部2aを形成するファイバ状カーボン材料のファイバ8の長手方向と、補強部7を形成するファイバ状カーボン材料のファイバ9の長手方向とがそれぞれ交差するようにしている。それぞれのファイバ8、9が交差する角度については、状況に応じて任意に設定することができる。このような補強部7を取り付けることにより、複数の方向に作用する外力に対する強度補強が可能となる。また、第2実施形態及び第3実施形態では、補強部6、補強部7として、カーボンファイバと類似する、基板内にガラス繊維を織り込んだガラスエポキシ樹脂を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0028】
図5に、基材2としてファイバ状カーボン材料を用いた、本発明のスキージで印刷した印刷パターンの測定データを示す。図6には、これと比較するために、基材2として平板ウレタンゴムを用いた従来のスキージで印刷した印刷パターンの測定データを示す。
図6に示すように、従来のものでは、ショルダーと呼ばれる突起部が形成された形状となっているのに対して、本発明のスキージを用いると、図5に示すように、ショルダーと呼ばれる突起部が形成されておらず、良好な印刷パターンが形成されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、スクリーン印刷によって形成される印刷パターンを適正な形状にすることができるため、液晶用や半導体用の電子部品を高精度で作製する用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスキージの構造を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るスキージによる印刷パターンを示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るスキージの構造を示す図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るスキージの構造を示す図である。
【図5】本発明のスキージで印刷した印刷パターンの測定データを示す図である。
【図6】従来のスキージで印刷した印刷パターンの測定データを示す図である。
【図7】従来のスキージを用いてスクリーン印刷を行う様子を示す図である。
【図8】図7に示す形状の印刷パターンを用いて電子部品を作製する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 スキージ
2 基材
2a 基材本体部
2b 基材連続部
3 先端部
3a 接触端
4 印刷パターン
4a 平坦面
5 被印刷物
6,7 補強部
8,9 ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン印刷機のスキージホルダに取り付けられる基材本体部と、前記基材本体部に連続する基材連続部を挟んでその両端に形成された先端部とを有するスキージであって、前記基材本体部と前記基材連続部とはファイバ状カーボン材料によって形成されていることを特徴とするスキージ。
【請求項2】
前記基材本体部の表面の一部に、ファイバ状カーボン材料で形成された補強部が取り付けられていることを特徴とする請求項1記載のスキージ。
【請求項3】
前記基材本体部を形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向と、前記補強部を形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向とが同一であることを特徴とする請求項2記載のスキージ。
【請求項4】
前記基材本体部を形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向と、前記補強部を形成するファイバ状カーボン材料のファイバの方向とが互いに異なっていることを特徴とする請求項2記載のスキージ。
【請求項5】
前記先端部は、ウレタン、シリコン、塩化ビニール、ガラス、ステンレス、合金のいずれかによって形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のスキージ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−285994(P2009−285994A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141329(P2008−141329)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(508130661)スターハード株式会社 (7)
【出願人】(591245141)株式会社渕上ミクロ (26)
【Fターム(参考)】