説明

スキー靴用の調整部材及びスキー靴

【課題】スキー靴のアッパーシェルをスキーヤの骨格に適合した設計のアッパーシェルに調整する調整部材及びこの調整部材を備えたスキー靴を提供する。
【解決手段】ロワシェルと、ロワシェルに取付けられたアッパーシェルと、ロワシェル及びアッパーシェルの内部に装着されたインナーブーツとを備えたスキー靴用の調整部材は、スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さと、スキー靴の側方におけるアッパーシェルの上縁部の高さと、スキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さとのうち、少なくともスキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さを調整するために、スキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部からのこの調整部材の突出高さを調整可能とする取付け手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキー靴用の調整部材及びこの調整部材を備えたスキー靴に関する。
【背景技術】
【0002】
アルペンスキー競技において世界的に活躍する日本人選手は少なく、冬季オリンピックや世界選手権での日本人メダリストは半世紀以上も誕生していない。この原因としては、選手育成システムや練習環境の不備等が指摘されている。しかし、日本人選手が使用するスキー用具に関する問題はほとんど指摘されていない。これは、多くの日本人選手が欧米人選手とほぼ同じ規格で設計された用具を使用しており、問題はないと判断されていたためと考えられる。
【0003】
スキー用具のうちスキー靴は、多くの場合、ジョイント金具によりロワシェルとアッパーシェルとが接合して構成されている。ロワシェル及びアッパーシェルの内部にはインソールを内包したインナーブーツがあり、インナーブーツ底面とロワシェルとの間にはフットベッドがある。
【0004】
スキー靴の調整にあたっては、スキー靴の前後方向の調整として前傾角度やフレックスの調整が、横方向の調整としてカント角調整が行われている。さらに、個人の足部形状や寸法に合わせてシェルを熱変形させたり、シェルの一部を切削することも一般に行われている。
【0005】
また、特許文献1には、スキー靴の踵部の高さを調節する調節部材をシェル底部に備えたスキー靴が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−237003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、スキー靴のシェルは欧米人の骨格を基本として設計されている。それゆえ、上述のようにスキー靴を調整したり、特許文献1に記載のように踵部の高さを調節したとしても、一般的に用いられているスキー靴のシェルが日本人には適合していない可能性がある。
【0008】
そこで、本願発明者らは、ウィンター(Biomechanics of Human Movement、1979年、A Wiley-Interscience Publication)並びに阿江ら(バイオメカニズム、1992年、11巻、23−33頁)の統計値(表1)を基に、欧米人と日本人の身体寸法比率及び慣性特性の違いが、バランス保持とセンターポジションに与える影響について検討を行った。
【0009】
身体各部における部分長の身長に対する比率を欧米人と日本人で比較した結果を表1に示す。それぞれの部位は、頭頂、胸骨上縁、大転子点、膝関節中心並びに足関節中心を基準に分割されている。仮に同じ身長だとすると、欧米人に比べ日本人は胴体が長く、大腿部及び下腿部は短い反面、足長は大きく変わらないため、同じシェルサイズのスキー靴を使用していたものと考えられる。
【0010】
【表1】

【0011】
アルペンスキーにおけるターン切り換え時の運動であるクロスオーバでは、スキーヤの体重心を滑降コースの最大傾斜線下方向へ大きく移動することが求められる。このとき、足関節を動かす際に下腿長に対してシェルが高いと下腿部の動きが拘束され、この運動をし難くなることが予想された。
【0012】
次に、身体各部に作用する重力の影響で足関節まわりに生じるモーメントの総和がゼロになる姿勢をセンターポジションとして想定し、検討を行った。この姿勢では、バランス保持に要する筋肉の仕事が最小になるため、体重心の作用を最も効果的に利用して、スキーを撓ませることができる。下腿部と胴体の前傾角度は等しいものと仮定し、前傾角度と身体各部の質量分布により生じる足関節モーメントの計算値との関係を図18に示す。欧米人と日本人を比較すると、足関節モーメントがゼロになる前傾角度は日本人の方が小さく、効果的にスキーを撓ませるためには日本人は欧米人より後傾姿勢になることが明らかになった。
【0013】
以上の検討結果をまとめると、日本人は欧米人より下腿長さが短く、同じ姿勢でも体重心位置が異なるために、欧米人と同じスキー靴を履いた場合にはクロスオーバで体重心を最大傾斜線下方向に移動し難いこと、素早いターンを行うときには欧米人よりも後傾姿勢となることがわかった。これらのことより、一般的なスキー靴の設計が日本人選手の身体寸法比率に合っていないことが明らかとなった。
【0014】
特許文献1には、スキー靴の踵部の高さを調節することは記載されているが、スキー靴のアッパーシェル等におけるシェルサイズの調整とスキーヤの運動との関係については何等検討されていない。また、このような検討はこれまで全く行われていなかった。
【0015】
本発明は上述した点に鑑み案出されたもので、その目的は、スキー靴のアッパーシェルをスキーヤの骨格に適合した設計のアッパーシェルに調整する調整部材及びこの調整部材を備えたスキー靴を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、ロワシェルと、ロワシェルに取付けられたアッパーシェルと、ロワシェル及びアッパーシェルの内部に装着されたインナーブーツとを備えたスキー靴用の調整部材及びこの調整部材を備えたスキー靴が提供される。この調整部材は、スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さと、スキー靴の側方におけるアッパーシェルの上縁部の高さと、スキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さとのうち、少なくともスキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さを調整するために、スキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部からのこの調整部材の突出高さを調整可能とする取付け手段を備えている。
【0017】
取付け手段により、調整部材は、スキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部から突出高さが調整されて取付けられる。その結果、スキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さが調整され、調整前のスキー靴と比べて後方のシェル全高が高いスキー靴が得られる。スキーターン時に使用者(スキーヤ)の下腿部がアッパーシェル後部に密着して支えられ、下腿部が大きく内傾しても、側方向の、すなわち左右のバランス調整を行うことが容易となる。
【0018】
なお、本明細書において、スキー靴の「前方」、「後方」及び「側方」とは、スキー靴の「爪先方向」、「踵方向」及び「前後方向に対する横方向」をそれぞれ意味している。
【0019】
調整部材は、スキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さを、使用者がスキー靴を履いた際のそのスキー靴の底面から使用者の膝蓋骨上端までの高さの59〜63%の範囲に調整可能であることが好ましい。これにより、最適な範囲のアッパーシェル高さに調整されたスキー靴が得られる。その結果、使用者は、内傾角度を大きくとる際に、側方向の、すなわち左右のバランス調整を行うことが容易となる。
【0020】
さらに、調整部材は、スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さを、使用者がスキー靴を履いた際のそのスキー靴の底面から使用者の膝蓋骨上端までの高さの43〜46%の範囲に調整可能であることが好ましい。これにより、最適な範囲のアッパーシェル高さに調整されたスキー靴が得られる。使用者の下腿部の動きが拘束されないため、内傾角度を大きくとることができると共に、前後方向のバランス調整を行うことも容易となり、センターポジションを保持しやすくなる。
【0021】
調整部材は、アッパーシェルに取付ける手段を有することも好ましい。これにより、アッパーシェルの上縁部に調整部材が取付けられる。取付けられた調整部材がアッパーシェルの上縁部から突出して、アッパーシェル高さが調整される。
【0022】
また、調整部材は、調整部材をインナーブーツに取付ける手段を有することが好ましい。これにより、インナーブーツの上縁部に調整部材が取付けられる。使用者の下腿部がインナーブーツに接触すると、インナーブーツに取付けられた調整部材とアッパーシェルが密着して一体化し、アッパーシェル高さが調整される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有するスキー靴用の調整部材及びこの調整部材を備えたスキー靴を提供することができる。
【0024】
(1)既存のスキー靴を使用者の骨格に適合したアッパーシェル高さに調整することができる。
(2)スキー靴の分解や変形等をすることなく、簡単にスキー靴のアッパーシェル高さを調整することができる。
(3)調整されたスキー靴により、スキーターン時の内傾角度を大きく取ることができると共に、左右のバランス調整を行うことも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るスキー靴用の調整部材、スキー靴及びこの調整部材が取付けられたスキー靴を概略的に示す斜視図である。
【図2】調整部材でアッパーシェルの高さを調整したスキー靴及び調整部材の取付け構造を概略的に示す(a)スキー靴の背面図及び(b)そのA−A線の断面図である。
【図3】調整部材でアッパーシェルの高さを調整したスキー靴及び調整部材の取付け構造を概略的に示す(a)スキー靴の背面図及び(b)そのB−B線の断面図である。
【図4】第1の実施形態に係るスキー靴にインナーブーツを装着するところを概略的に示す斜視図である。
【図5】図4のC−C線において第1の実施形態に係るスキー靴を履いた状態を概略的に説明する断面図である。
【図6】スキーターン時の滑降時間と最大内径角度との関係を示す図である。
【図7】傾倒バランス実験の構成を概略的に説明する図である。
【図8】アッパーシェルの設計の違いによる、スタンスに対する(a)傾倒時間、(b)最大内傾角度及び(c)角速度の特性を示す図である。
【図9】アッパーシェルの設計の違いによる傾倒中の傾倒時間に対する床反力変化特性を示す図である。
【図10】アッパーシェルの設計の検証結果として、各試験ブーツの最大内傾角度及び角速度を示す図である。
【図11】アッパーシェルの設計の最適範囲である、(a)スキー靴の前方におけるアッパーシェルの高さの割合と傾倒時間、最大内傾角度及び角速度との関係、(b)スキー靴の後方におけるアッパーシェルの高さの割合と傾倒時間、最大内傾角度及び角速度との関係を示す図である。
【図12】アッパーシェルの設計の違いによる雪上滑降での滑降時間と最大内傾角度との関係を示す図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係るスキー靴用の調整部材、インナーブーツ及びこの調整部材が取付けられたインナーブーツを概略的に示す斜視図である。
【図14】第2の実施形態に係るインナーブーツをスキー靴に装着するところを概略的に示す斜視図である。
【図15】図14のD−D線において、第2の実施形態に係るスキー靴を履いた状態を概略的に説明する断面図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係るスキー靴用の調整部材及びこの調整部材が取付けられたスキー靴を概略的に示す斜視図である。
【図17】本発明の第4の実施形態に係るスキー靴用の調整部材及びこの調整部材が取付けられたスキー靴を概略的に示す斜視図である。
【図18】日本人と欧米人のセンターポジションの違いを説明するために、前傾角度と足関節モーメントの計算値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1〜図5に示す本発明の第1の実施形態について説明する。
【0027】
これらの図に示すように、スキー靴10は、ロワシェル11とアッパーシェル12とから構成されるシェルと、そのシェルの内部に装着されるインナーブーツ13とから主に構成されている。ロワシェル11は、踝から足の甲、足の裏までを覆うシェルのことをいい、アッパーシェル12は、踝から脛にかけて覆うシェルのことをいう。ロワシェル11とアッパーシェル12とはカント角調整機能が付属したジョイント金具14やビス等で接合されている。ここで、スキー靴10を構成するシェルはロワシェル11及びアッパーシェル12のみに限定されるものではなく、リアシェルやフレックスタン等のシェルを有していてもよい。一方、インナーブーツ13は使用者(スキーヤ)の足が入るものであり、シェル及び足の形にフィットした形状と構造を有する。なお、図示されていないが、インナーブーツ13の底面とロワシェル11との間にはフットベッドが挿入される。
【0028】
図1に示すように、本実施形態における調整部材15は、このスキー靴10の後方におけるアッパーシェル12の上縁部120のカーブに対応して中央部が高くなる山形の中央形状部150を有している。さらに、調整部材15はスキー靴10の側方におけるアッパーシェル12の上縁部121に対応した側方形状部151を有している。そして、調整部材15は、その面が前方に向けて中央形状部150を中心とする弓形に湾曲しており、その湾曲断面の曲率半径がアッパーシェル12の軸断面における曲率半径よりも若干大きくなるように構成されている。
【0029】
本実施形態においては、図1に示すように、この調整部材15をスキー靴10の側方から後方におけるアッパーシェル12の上縁部120及び121に所定の高さで取付けると、取付けた部分のアッパーシェル12の上縁部から調整部材15が突出する。
【0030】
本実施形態における調整部材15の素材はポリカーボネートである。調整部材15の素材は特に限定されないが、プラスチック、FRP若しくはCFRP等の強化プラスチック、アルミニウム合金、チタニウム合金、ステンレススチール又はゴム等が好適に用いられ、可撓性を有する素材であることが特に好ましい。
【0031】
調整部材15の厚みtは特に限定されないが、スキー靴10を履いた際に、調整部材15の厚みtにより違和感が生じるのを防ぐ観点から、約5mm以下であることが望ましい。また、調整部材15の厚みtは均一であっても不均一であっても良く、不均一とする場合には、例えば、中央形状部150の上端部を厚くして下端側はそれよりも薄くすることや、中央形状部150を厚くして左右の側方形状部151はそれよりも薄くすること等ができる。
【0032】
また、調整部材15は、この調整部材15をアッパーシェル12に取付けて固定するための2つの取付け部16及び17を有している。この取付け部16及び17の数は特に限定されないが、調整部材15をアッパーシェル12に強固に取付け固定できる個数であることが望ましい。この取付け部16及び17は、上下方向に複数列配置されたビス穴160及び161並びに170及び171をそれぞれ有している。各取付け部におけるビス穴の個数は複数であれば特に限定されないが、その個数が多ければ、アッパーシェル12の上縁部からの調整部材15の突出高さhを微調整することが可能となる。
【0033】
一方、アッパーシェル12は、調整部材15が取付けられた際にその取付け部16及び17と対応する位置に、ビス穴123を備えている。なお、本実施形態では、アッパーシェル12には2つのビス穴123を有している。
【0034】
調整部材15のアッパーシェル12への取付け及び固定は、図2及び図3に示すように行われる。例えば、図2(b)に示すようにアッパーシェル12の内側に調整部材15を当接させ、取付け部16の下側のビス穴161とアッパーシェル12のビス穴123とをそれぞれ整合した状態でこれらビス穴161及びビス穴123にビス(望ましくは、例えばねじ込み式のハトメ)18を挿通させ、ビス固定する。これにより、調整部材15はアッパーシェル12に取付け固定される。
【0035】
アッパーシェル12への調整部材15の取付け高さの調整について、図2及び図3を用いて説明する。本実施形態における1つの取付け部16には、上下方向に2つのビス穴160及び161が配置されており、上側のビス穴160の中央部から下側のビス穴161の中央部までの間隔は約7mmである。取付け部16の下側のビス穴161とアッパーシェル12のビス穴123とにビス18を挿通させ、ビス固定させた部分の断面図を図2(b)に示す。このとき、スキー靴の後方におけるアッパーシェル12の上縁部120からは、調整部材15の山形の中央形状部150が図2(a)のように突出し、アッパーシェル12の上縁部120からの調整部材15の突出高さhを高くすることができる。
【0036】
一方、取付け部16の上側のビス穴160とアッパーシェル12のビス穴123とにビス18を挿通させ、ビス固定させた部分の断面図を図3(b)に示す。このとき、スキー靴10の後方におけるアッパーシェル12の上縁部120からは、調整部材15の山形の中央形状部150が図3(a)のように突出する。これを下側のビス穴161を用いたときと比較すると、上側のビス穴160の中央部から下側のビス穴161の中央部までの間隔の分、すなわち約7mmだけ、調整部材15が低く突出することとなり、このようにして調整部材15の突出高さhを調整することができる。
【0037】
調整部材15が備える取付け部16及び17は、アッパーシェル12の上縁部120からの調整部材15の突出高さhにより、アッパーシェル12の高さをスキーヤの下肢の骨格に適合するような高さに調整する。具体的には、スキーターン時の内傾角度を大きく取ることができると共に、左右のバランス調整を行うことも容易となる観点から、スキー靴10の後方におけるアッパーシェル12の上縁部の高さを、スキーヤが、スキー靴10を履いた際のスキー靴10の底面からスキーヤの膝蓋骨上端までの高さの59〜63%の範囲とするように調整することが好ましい。なお、アッパーシェル12の上縁部の高さとは、正確には、アッパーシェル12の上縁部120から突出した調整部材15の突出先端までの高さであるが、本明細書において、調整部材を取付けた状態では、「アッパーシェルの上縁部の高さ」と称している。
【0038】
ここで、スキーヤがスキー靴10を履いた際のスキー靴10の底面からスキーヤの膝蓋骨上端までの高さとは、スキーヤがスキー靴10を履いて椅子に座り、膝から略垂直に床に足を下ろした状態でのスキー靴10の底面からスキーヤの膝蓋骨上端までの鉛直方向の高さのことをいう。
【0039】
上述したように、調整部材15をアッパーシェル12の上縁部120及び121に取付け、図4に示すようにインナーブーツ13をその中に装着すると、スキー靴の後方から側方におけるアッパーシェル12の上縁部120及び121の高さが調整されたスキー靴10が得られる。このスキー靴10をスキーヤが履くと、図5に示すように、スキーヤの下腿20はインナーブーツ13を通じてアッパーシェル12及びアッパーシェル12の上縁部から突出した調節部材15に支えられる。このように、アッパーシェル12と取付けられた調整部材15とが一体となり、アッパーシェル12の上縁部の高さが調整される。
【0040】
調整前のスキー靴と比べて、側方から後方のシェル全高が高いスキー靴10は、スキーターン時にスキーヤの下腿部がアッパーシェル後部から側面に密着して支えられ、下腿部が大きく内傾しても、側方向の、すなわち左右のバランス調整を行うことが容易となる。このように、調整部材15を用いることにより、既存のスキー靴のアッパーシェル12をスキーヤの骨格に適合した高さに調整することができる。また、スキーヤの下腿20は、調整部材15の突出高さhにより調整されたアッパーシェル12に支えられ、スキーターン時に適度な後傾姿勢を保つことができる。さらに、調整部材15の有する厚みtにより、スキーヤの下腿20が調整されたスキー靴10にフィットして、スキーターン時にスキーヤの下腿20及び足がスキー靴10内で沈みこんだり、移動するのを防ぐ。
【0041】
次に、本実施形態の調整部材15によって上縁部の高さが調整されるアッパーシェル12の設計方法について説明する。
【0042】
1.スキーヤの内傾角度と滑降時間との関係について
アルペンスキー競技は旗門で制限された滑降コースにおいて、スタートからゴールまでいかに短時間で到達するかを競うものである。そのため、ターンの回転半径を小さくしてスタートからゴールまでの滑降距離を短縮すると共に、ターン間のグライディングによる加速距離を長くとることが有効である。ここで、ターンの回転半径を小さくするにあたっては、スキーヤの体軸の内傾角度を大きくとり、ターン中にスキー板を大きく撓ませることで、スキーの実効曲率半径を小さくすることができる。ここで内傾とは、スキーヤの下肢が回旋内側に倒れることにより、スキーの角付けを行うためのものである。
【0043】
そこで、ターン中の内傾角度が滑降時間に及ぼす影響について、以下のような実験を行った。スキー靴のアッパーシェル後部に傾斜角センサ(OMRONリニア傾斜センサD5R-L02-60)を取付けた。3名のスキルレベルの異なる被験者A、B及びCにセンサ付スキー靴を履かせ、大回転コースの旗門設定を雪上滑降させた。被験者のスキルレベルはSAJ(Ski Association of Japan)の大回転ポイントにおいて、それぞれ38.90、92.79、ポイントなしであった(被験者Aのスキルレベルが最も高く、Cが最も低い)。被験者1名につき滑降タイムと最大内傾角度を3回ずつ測定した。
【0044】
上記の測定結果より、滑降タイムと滑降中の最大内傾角度との関係について検討した。各被験者の滑降タイムと最大内傾角度の結果の平均値を図6に示す。スキルレベルが高く、短い滑降タイムでゴールできる被験者ほど最大内傾角度が大きくなる傾向が認められた。さらに、滑降タイムと最大内傾角度の関係は相関係数Rが1に近いことからほぼ線形な関係になることがわかった。
【0045】
この結果より、スキーヤが滑降時間を短縮するためには、ターン時の内傾角度を大きくすることが有効であることがわかった。内傾角度を大きくする動作はターン前半の谷回りで行うことから、ターン切り換え後に短時間で大きく内傾できることが必要である。したがって、スキー靴の設計にあたっては、内傾時の角速度を大きくできるような設計とする必要がある。
【0046】
2.日本人のスキーヤに適合したアッパーシェルの設計について
スキー靴のアッパーシェルの設計を詳細に検討するため、被験者がスキー靴を履いた状態で片足でバランスを取りながら傾倒していく動作を解析する傾倒バランス実験を行った。図7に示すように、三次元モーションキャプチャシステムVICON460(VICON社製)を用いて、被験者が傾倒する時の下腿部の角速度と最大内傾角度を計測すると共に、フォースプレート(株式会社共和電業製)を用いて被験者が傾倒する時の床反力変化を計測した。
【0047】
実験に使用したスキー靴は全てREXXAM DATA130R(株式会社レクザム製)であり、シェル全高は232mmであった。アッパーシェル高さは、無加工のもの(±0mm)、アッパーシェルの上縁部全周を削って7.0mm及び14.0mm短くしたもの(−7mm及び−14mm)並びにアッパーシェルの上縁部全周に調整部材を取付けて7.0mm及び14.0mm長くしたもの(+7mm及び+14mm)、の5種類について行った。
【0048】
被験者は身長165cm、体重62kgの健康な成人男子であり、SAJスキー検定一級の資格を持つアルペン競技者であった。被験者の立ち位置(スタンス)は立脚した両足の中心からロワシェルソール部内側までの片側距離を基準として、25mm、50mm、75mmの三種類に設定し、フォースプレート上の床にマーカーを貼り付け、被験者のスタンスを指定した。
【0049】
被験者に試験用スキー靴を履いて所定のスタンスを取ってもらい、両足に均等に体重をかけた状態から片足を上げて意図的に初期バランスを崩させ、限界まで支持脚で傾倒させた。被験者の下肢体表面とブーツに貼り付けた赤外線反射マーカーの位置情報から膝及び足関節中心を求め、両者を結ぶベクトルから傾倒中の内傾角度と平均角速度を算出した。被験者が片足になった瞬間に立脚側に体重心を移動してしまうと、傾倒動作が大きく異なってしまうため、床反力変化を確認して傾倒開始時に体重心移動がないように監視した。最大内傾角度は被験者が限界まで傾倒した時点での内傾角度であり、限界時には立脚側の床反力が急激に小さくなるため、この床反力変動により決定した。各設定で10回ずつ計測を行い、その平均値を比較した。
【0050】
傾倒時間、最大内傾角度及び角速度の計測結果の平均値を図8(a)、(b)及び(c)にそれぞれ示す。図8(a)より、アッパーシェルを7.0mm低く加工した場合に傾倒時間が最も長いことが示された。傾倒時間は、バランス保持が容易であるほど長くとることができるため、アッパーシェルを7.0mm低く加工した場合に最もバランス保持に優れることがわかった。さらに、図8(b)及び(c)より、滑降タイムの短縮のために重要となる最大内傾角度と角速度については、いずれもアッパーシェルを7.0mm高く加工した場合に高い値が示された。
【0051】
以上の結果より、アッパーシェル高さを低くするとバランス保持の面では有効であるが、すばやく深い内傾は実現できなくなることがわかった。この原因を明らかにするため、傾倒時の床反力変化を検討した。
【0052】
フォースプレートを用いて計測した、被験者の矢状面に平行な前後方向の床反力成分Fxと前額面に平行な左右方向の床反力成分Fyの変化を図9に示す。同図の横軸は傾倒開始から終了までの正規化された傾倒時間である。同図の縦軸は床反力を示しており、傾倒中に足関節が底屈から背屈方向に回転するとFxが変動し、回内から回外方向に回転するとFyが変動する。また、センターポジションで理想的にバランスが保持されているとFxはゼロとなり、傾倒する方向に従ってFyが滑らかに増加あるいは減少する。
【0053】
Fxの変化について、アッパーシェルを7.0mm低く加工したスキー靴では傾倒開始からゼロを中心に大きな値をとることなく変動していることから、足関節がバランス保持のため正しく運動していることがわかった。それに対してアッパーシェルを7.0mm高く加工したスキー靴では、正負に大きく1回変動しただけで傾倒が終了しており、足関節がバランス保持に正しく機能していないことが示された。この結果、スキー靴を履いた状態でも足関節の底屈から背屈運動による体重心位置の調整がバランス保持に大きく影響することが示された。
【0054】
一方、Fyの変化については、アッパーシェルを7.0mm高く加工したスキー靴では傾倒開始から終了まで滑らかに変動したのに対し、アッパーシェルを7.0mm低く加工したスキー靴では内傾角度が最大値に近づいた傾倒終了付近で乱れが生じていた。この結果は、内傾角度が大きくなると、左右方向のバランス調整が重要になると共に、下腿部側面と接触するアッパーシェル側面により下腿が支えられる状態になることから、低すぎるシェルではこれらの調整が困難になるためだと考えられた。
【0055】
以上の実験結果をまとめると、スキー靴のアッパーシェル高さが低いと前後方向のバランスがとりやすくセンターポジションを保持しやすいが、傾倒の後半ではアッパーシェル高さが高いと左右方向のバランスがとりやすくなり、最大内傾角度と角速度が大きくなることがわかった。これをスキーのターン動作に当てはめると、ターン切り換えからクロスオーバにおいては、前後のバランス保持が容易である低いシェルが有効であり、これにより最大傾斜線下方向に体重心を移動しやすくなると考えられる。また、ターンが始まり谷回りから山回りへの移行と共に内傾角度が大きくなる場面では、左右のバランス保持が容易であり、最大内傾角度を大きくとることのできる高いシェルが有効となると考えられる。
【0056】
これらのことより、滑降時にセンターポジションが保持できていれば、ターン切り換え時には主にアッパーカフの前部と下腿部が接触し、回旋時には側面から後部にかけて接触するため、スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さを低く、側面から後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さを高く設計すれば双方の利点を活用できると考えた。
【0057】
3.アッパーシェルの設計の検証について
上記実験結果より導かれたアッパーシェル設計の有効性を検証するため、スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さと、スキー靴の側方から後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さとのうち、少なくとも一方の高さを調整した3種類のスキー靴について、上述のアッパーシェル設計における実験と同じ方法で傾倒バランス実験を実施した。表2にアッパーシェルの高さ設定を示し、図10にそれぞれのアッパーシェル設計における最大内傾角度と角速度の実験結果を示す。
【0058】
【表2】

【0059】
この結果、スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さを低く、スキー靴の側方から後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さを高くしたタイプ3のスキー靴が最大内傾角度、角速度ともに最大値を示した(図10)。傾倒時間についてはタイプ1が最も長かったが、タイプ3との差は0.03秒であり傾倒時間の約3%と微差であることから、タイプ3はバランス保持機能も充分に備えている。
【0060】
4.アッパーシェル設計の設計値について
以上の実験より、タイプ3のスキー靴が滑降時間を短縮するのに有効であることが実験的に示された。そこで、骨格やスキルレベルが異なる全てのスキーヤに、このタイプ3のアッパーシェル設計(前部が7mm短く後部が7mm長い)が有効であるのか検討するために、上述のアッパーシェル設計における実験と方法で傾倒バランス実験を行った。被験者は異なるスキルレベルの4名であり、そのSAJ GSポイントは各々20.82、106.53、144.44、ポイントなしであった。スキー靴は、未加工のREXXAM DATA130R(株式会社レクザム製)スキー靴(以下ノーマルブーツという)、ノーマルブーツを加工したタイプ3スキー靴、被験者が普段使用しているスキー靴、の3種類について行われた。傾倒時間、最大内傾角度及び角速度の測定は各々のスキー靴について5回行われ、平均値が算出された。
【0061】
また、アッパーシェル設計の設計値を調査するため、試験を行った各々のスキー靴について、被験者がスキー靴を履いた際の、スキー靴の底面から被験者の膝蓋骨上端までの高さに基づいた、スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さ及びスキー靴の側方から後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さの比率が測定された。
【0062】
被験者がスキー靴を履いた際の、スキー靴の底面から被験者の膝蓋骨上端までの高さは、スキー靴を履いた被験者を椅子に座らせ、膝から略垂直に床に足をおろした際のスキー靴の底面から被験者の膝蓋骨上端までの鉛直方向の高さを計測することにより求めた。
【0063】
アッパーシェルの高さの割合に対する傾倒時間、最大内傾角度、角速度の最大値の関係を図11(a)及び(b)に示す。被験者がスキー靴を履いた状態で、スキー靴の底面から被験者の膝蓋骨上端までの高さに基づいたスキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さが44.5±1.5%、スキー靴の側方から後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さが61.5±2.0%の範囲にあるとき、傾倒時間、最大内傾角度及び角速度は最も高い値となった。この結果より、スキーヤがスキー靴を履いた際の、スキー靴の底面からスキーヤの膝蓋骨上端の高さに基づくアッパーシェル設計の設計値は、異なるスキルレベル及び骨格のスキーヤに対して最適なものであることがわかった。
【0064】
5.雪上滑降実験
上述のごとく検討したアッパーシェル設計が雪上での実滑降においても有効であるか、検証した。滑降中の最大内傾角度を計測するためスキー靴後部に傾斜角センサ(OMRONリニア傾斜センサD5R-L02-60)を取付け、データロガー及び電源アンプが収納されたウエストバッグを被験者に装着させた。最大内傾角度と滑降時間の測定は、未加工のREXXAM DATA130R(株式会社レクザム製)スキー靴(ノーマルブーツ)、ノーマルブーツを加工したタイプ3の試験ブーツ、及び被験者が普段使用しているスキー靴、の3種類について行った。被験者は、元全日本ナショナルチーム所属でワールドカップや世界選手権の日本代表経験があるJ.K.と、国民体育大会の北海道代表選手で複数回の上位入賞経験があるT.K.の2名であった。被験者には大回転の旗門設定を滑降してもらい、BROWERタイミングシステムで滑降時間を計測した。
【0065】
図12(a)に被験者J.K.の計測結果を、図12(b)に被験者T.K.の計測結果を示す。なお被験者が普段使用しているスキー靴とノーマルブーツが同一である場合はノーマルブーツとして示した。大回転における両者の最大内傾角度と滑降時間の計測結果は、ともにタイプ3の試験ブーツを履いた場合に滑降時間が最も短く、最も大きな最大内傾角度を記録した。
【0066】
このとき、図12(b)に示す被験者T.K.のスキー靴の底面から膝蓋骨上端までの高さに基づく各スキー靴のアッパーシェルの高さは、タイプ3の試験ブーツにおいては、いずれも最適の設計値の範囲内にあるスキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さが45.1%、スキー靴の側方から後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さが60.9%であり、ノーマルブーツにおいては、スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さが46.4%、スキー靴の側方から後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さが59.4%、被験者所有ブーツにおいては、スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さが43.4%、スキー靴の側方から後方におけるアッパーシェルの上縁部の高さが56.6%であった。この結果から雪上での実滑降においても提案するアッパーシェル設計が競技成績向上に有効であることが検証できた。
【0067】
次に、図13〜図15を用いて本発明の第2の実施形態について説明する。
【0068】
これらの図に示すように、本実施形態における調整部材15は、その面が平面状となっており、上述した第1の実施形態と同様に、スキー靴10の後方におけるアッパーシェル12の上縁部120のカーブに対応して中央部が高くなる山形の中央形状部150と、スキー靴10の側方におけるアッパーシェル12の上縁部121に対応した側方形状部151とを有している。
【0069】
本実施形態においては、図13に示すように、この調整部材15は、インナーブーツ13の上縁部の外周面に沿って、このインナーブーツ13を部分的に覆うようにして取付けられる。すなわち、調整部材15はスキー靴10の側方から後方におけるインナーブーツ13の上縁部130及び131に所定の高さで取付けられる。
【0070】
調整部材15のインナーブーツ13へのこの取付け及び固定は、面ファスナで行われる。すなわち、本実施形態では、調整部材15がフック(又はループ)による面ファスナ19を有しており、インナーブーツ13がこの面ファスナ19と対応する位置にループ(又はフック)による面ファスナ133を有している。これら面ファスナ19及び133は、上下方向に調整部材15の取付け高さの調整を行うことができる幅を有している。また、面ファスナ19及び133の形状は連続した形状でも不連続な形状でもよいが、調整部材15をインナーブーツ13に強固に固定できる面積を有することが望ましい。
【0071】
本実施形態における調整部材15の素材はポリカーボネートであり、可撓性を有する。具体的な素材としては、特に限定されないが、可撓性を有するプラスチック、FRP又はCFRP等の可撓性を有する強化プラスチック、可撓性を有するアルミニウム合金又はゴム等が好適に用いられる。
【0072】
本実施形態における調整部材15のその他の構成は、上述した第1の実施形態の調整部材の構成と同様である。
【0073】
調整部材15のインナーブーツ13への取付けは、スキー靴の後方におけるインナーブーツ13の上縁部130に調整部材15の中央形状部150が、スキー靴の側方におけるインナーブーツの上縁部131に調整部材の側方形状部151が位置するように行う。インナーブーツ13の外周面に備えられた面ファスナ133と調整部材15の面ファスナ19とが接触することにより両者が結合して、調整部材15はインナーブーツ13に取付け固定される。
【0074】
インナーブーツ13への調整部材15の取付け高さの調整については、インナーブーツ13の外側に備えられた面ファスナ133に対する調整部材15の面ファスナ19の位置を上下方向にずらして取付け固定することで、調整部材15の取付け高さを調整することができる。例えば、インナーブーツ13の外側に備えられた面ファスナ133に対し、調整部材15の面ファスナ19を上側に取付けると調整部材15は高く取付けられ、調整部材15の面ファスナ19を下側に取付けると調整部材15は低く取付けられる。このように、調整部材15の面ファスナ19の位置を上下方向にずらして取付け固定することで、調整部材15の取付け高さを調整することができる。
【0075】
図14に示すように、調整部材15をインナーブーツ13の上縁部130及び131に取付け、このインナーブーツ13をアッパーシェル12の中に装着すると、スキー靴の後方から側方におけるアッパーシェル12の上縁部120及び121から調整部材15が突出したスキー靴10が得られる。図15に示すように、このスキー靴10を履いたスキーヤの下腿20により、インナーブーツ13の外側に取付けられた調整部材15とアッパーシェル12は密着して一体化し、スキーヤの下腿20はアッパーシェル12及びアッパーシェル12の上縁部から突出した調整部材15に支えられる。このように、アッパーシェル12と取付けられた調整部材15とが一体となり、アッパーシェル12の上縁部の高さが調整される。
【0076】
調整部材15が備える面ファスナ19は、アッパーシェル12の上縁部からの調整部材15の突出高さhにより、アッパーシェル12の高さをスキーヤの下肢の骨格に適合するような高さに調整する。本実施形態における調整部材15の取付け高さの範囲は、上述した第1の実施形態の調整部材の取付け高さの範囲と同様である。
【0077】
本実施形態における調整部材15の効果は、上述した第1の実施形態の調整部材の効果と同様である。
【0078】
次に、図16を用いて本発明の第3の実施形態について説明する。
【0079】
図16に示すように、本実施形態における調整部材15は、このスキー靴10の後方におけるアッパーシェル12の上縁部120のカーブに対応して中央部が高くなる山形の中央形状部150のみを有している。本実施形態における調整部材15のその他の構成は、上述した第1の実施形態の調整部材の構成及び作用と同様である。
【0080】
本実施形態においては、図16に示すように、この調整部材15をスキー靴10の後方におけるアッパーシェル12の上縁部120に所定の高さで取付けると、このアッパーシェル12の上縁部120から調整部材15が突出する。
【0081】
また、本実施形態における調整部材15のアッパーシェル12への取付け及び固定並びに取付け高さの調整及び取付け範囲も上述した第1の実施形態と同様である。
【0082】
なお、本実施形態にかかるスキー靴10の後方におけるアッパーシェルの高さ調整部材15は、上述の第2の実施形態のように、その面が平面状となっており、取付け手段として面ファスナ19を有するものであってもよい。この場合、調整部材15の取付け固定、取付け高さの調整及び取付け範囲も上述した第2の実施形態と同様である。
【0083】
調整前のスキー靴と比べて後方のシェル全高が高いスキー靴10は、スキーターン時にスキーヤの下腿部がアッパーシェル後部に密着して支えられ、下腿部が大きく内傾しても、側方向の、すなわち左右のバランス調整を行うことが容易となる。このように、調整部材15を用いることにより、既存のスキー靴のアッパーシェル12をスキーヤの骨格に適合した高さに調整することができる。また、スキーヤの下腿20は、調整部材15の突出高さhにより調整されたアッパーシェル12に支えられ、スキーターン時に適度な後傾姿勢を保つことができる。さらに、調整部材15の有する厚みtにより、スキーヤの下腿20が調整されたスキー靴10にフィットして、スキーターン時にスキーヤの下腿20及び足がスキー靴10内で沈みこんだり、移動するのを防ぐ。
【0084】
次に、図17を用いて本発明の第4の実施形態について説明する。
【0085】
図17に示すように、本実施形態における調整部材15は、このスキー靴10の後方におけるアッパーシェル12の上縁部120のカーブに対応して中央部が高くなる山形の中央形状部150及びスキー靴10の側方におけるアッパーシェル12の上縁部121に対応した側方形状部151を有している。さらに、調整部材15はスキー靴10の前方におけるアッパーシェル12の上縁部122に対応した前方形状部152をも有している。すなわち、本実施形態における調整部材15は、スキー靴の前方から後方、すなわちアッパーシェル12の上縁部の全周囲の高さを調整することができる。本実施形態における調整部材15のその他の構成は、上述した第2の実施形態の調整部材の構成及び作用と同様である。
【0086】
本実施形態においては、図17に示すように、この調整部材15はスキー靴10の前方から後方におけるインナーブーツ13の上縁部130、131及び132(図14参照)に所定の高さで取付けられる。
【0087】
本実施形態における調整部材15のインナーブーツ13への取付け及び固定並びに取付け高さの調整は上述した第2の実施形態と同様である。
【0088】
調整部材15が備える面ファスナ19は、調整部材15を取付けたインナーブーツ13をアッパーシェル12に装着した際のアッパーシェル12の上縁部からの調整部材15の突出高さhにより、アッパーシェル12の高さをスキーヤの下肢の骨格に適合するような高さに調整する。具体的には、スキー靴10の前方におけるアッパーシェル12の上縁部122の高さを、前後のバランス調整が容易となり、センターポジションの保持に有利な観点から、スキーヤがスキー靴10を履いた際のスキー靴10の底面からスキーヤの膝蓋骨上端までの高さの43〜46%の範囲とすることが好ましい。また、本実施形態における調整部材15のその他の部分への取付け範囲については上述した第2の実施形態と同様である。
【0089】
なお、本実施形態にかかるスキー靴10の前方から後方、すなわちアッパーシェル12の上縁部の全周囲の高さを調整することができるアッパーシェルの高さ調整部材15は、上述の第1の実施形態のように、調整部材15のその面が前方に向けて中央形状部150を中心とする弓形に湾曲しており、その湾曲断面の曲率半径がアッパーシェル12の軸断面における曲率半径よりも若干大きくなるように構成され、取付け手段として上下方向に複数列配置されたビス穴を有する取付け部を有するものであってもよい。この場合、調整部材15の取付け固定及び取付け高さの調整も上述した第1の実施形態と同様である。
【0090】
調整前のスキー靴と比べて側方から後方のシェル全高が高いスキー靴10は、スキーターン時にスキーヤの下腿部がアッパーシェル後部から側面に密着して支えられ、下腿部が大きく内傾しても、側方向の、すなわち左右のバランス調整を行うことが容易となる。また、スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部の高さを所定の範囲に調整することで、前後方向のバランス調整を行うことも容易となり、センターポジションを保持しやすくなる。このように、調整部材15を用いることにより、スキー靴をスキーヤの骨格に適合したアッパーシェル高さに調整することができる。また、スキーヤの下腿20は、調整部材15の突出高さhにより調整されたアッパーシェル12に支えられ、スキーターン時に適度な後傾姿勢を保つことができる。さらに、調整部材15の有する厚みtにより、スキーヤの下腿20が調整されたスキー靴10にフィットして、スキーターン時にスキーヤの下腿20及び足がスキー靴10内で沈みこんだり、移動するのを防ぐ。
【0091】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態を技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0092】
10 スキー靴
11 ロワシェル
12 アッパーシェル
120 スキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部
121 スキー靴の側方におけるアッパーシェルの上縁部
122 スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部
123 ビス穴
13 インナーブーツ
130 スキー靴の後方におけるインナーブーツの上縁部
131 スキー靴の側方におけるインナーブーツの上縁部
132 スキー靴の前方におけるインナーブーツの上縁部
133 面ファスナ
14 ジョイント金具
15 調整部材
150 スキー靴の後方におけるアッパーシェルの上縁部に対応する部分(中央形状部)
151 スキー靴の側方におけるアッパーシェルの上縁部に対応する部分(側方形状部)
152 スキー靴の前方におけるアッパーシェルの上縁部に対応する部分(前方形状部)
16 取付け部
160 ビス穴(上側)
161 ビス穴(下側)
17 取付け部
170 ビス穴(上側)
171 ビス穴(下側)
18 ビス
19 面ファスナ
20 スキーヤの下腿
t 調整部材の厚み
h アッパーシェルの上縁部からの調整部材の突出高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロワシェルと、該ロワシェルに取付けられたアッパーシェルと、該ロワシェル及び該アッパーシェルの内部に装着されたインナーブーツとを備えたスキー靴用の調整部材であって、
前記スキー靴の前方における前記アッパーシェルの上縁部の高さと、前記スキー靴の側方における前記アッパーシェルの上縁部の高さと、前記スキー靴の後方における前記アッパーシェルの上縁部の高さとのうち、少なくとも前記スキー靴の後方における前記アッパーシェルの上縁部の高さを調整するために、前記スキー靴の後方における前記アッパーシェルの上縁部からの当該調整部材の突出高さを調整可能とする取付け手段を備えていることを特徴とする調整部材。
【請求項2】
前記後方における前記アッパーシェルの上縁部の高さを、使用者が前記スキー靴を履いた際の該スキー靴の底面から該使用者の膝蓋骨上端までの高さの59〜63%の範囲に調整可能とすることを特徴とする請求項1に記載の調整部材。
【請求項3】
前記前方における前記アッパーシェルの上縁部の高さを、使用者が前記スキー靴を履いた際の該スキー靴の底面から該使用者の膝蓋骨上端までの高さの43〜46%の範囲に調整可能とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の調整部材。
【請求項4】
前記取付け手段が、当該調整部材を前記アッパーシェルに取付ける手段であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の調整部材。
【請求項5】
前記取付け手段が、当該調整部材を前記インナーブーツに取付ける手段であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の調整部材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の調整部材を備えたことを特徴とするスキー靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−156095(P2011−156095A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19290(P2010−19290)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼掲載年月日: 平成21年8月27日 発明を掲載したホームページ: http://www.jstage.jst.go.jp/browse/jamdsm/3/3/_contents/−char/ja/Journal of Advanced Mechanical Design,Systems,and Manufacturing 社団法人日本機械学会 発 行 所: 社団法人日本機械学会 ▲2▼研究集会名: ジョイント・シンポジウム 2009 スポーツ工学シンポジウム シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス 主催者名: 社団法人日本機械学会 公 開 日: 平成21年12月3日〜5日 ▲3▼発 行 所: 社団法人日本機械学会 刊行物名: ジョイント・シンポジウム 2009 スポーツ工学シンポジウム シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス 講演論文集 発行年月日: 平成21年12月2日 ▲4▼研究集会名: 北海道支部 第48回 講演会 主催者名: 社団法人日本機械学会北海道支部 公 開 日: 平成21年11月28日 ▲5▼発 行 所: 社団法人日本機械学会北海道支部 刊行物名: 北海道支部 第48回 講演会 講演概要集 発行年月日: 平成21年11月28日 ▲6▼発 行 所: スポーツ工学専門分科会 (Japan Sports Engineering Association/JSEA)Australasian Sports Technology Alliance(ASTA) 国際スポーツ工学会 (International Sports Engineering Association/ISEA) 刊行物名: The Impact of Technology on Sport III 4th Asia−Pacific Congress on Sports Technology APCST2009 発 行 月: 平成21年9月
【出願人】(504238806)国立大学法人北見工業大学 (80)
【出願人】(390000594)株式会社レクザム (64)
【Fターム(参考)】