説明

スクラッチ印刷物及びその製造方法

【課題】 薄い紙媒体であってもコインのような金属で摩擦し着色される以外の不正の方法に対して秘匿画像の秘匿性に優れ、また経年劣化への耐性に優れたスクラッチ印刷物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 紙媒体(2)の表面上に酸化チタンを含む白色インクでベタ刷り印刷して与えられた下地層(3a)と、下地層(3a)上に油分をより高めた酸化チタンを含む白色インクでベタ刷り印刷して与えられた被覆下地層(3b)と、被覆下地層(3b)上の秘匿画像を残したネガパターンに白色剤を少なくとも含むマットニスで印刷して与えられたマットニス層(4)と、を順次有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙媒体上に印刷された秘匿画像を金属で摩擦することで着色されて認識可能とするスクラッチ印刷物及びその製造方法に関し、特に薄い紙媒体であっても金属で摩擦することで着色される以外の不正の方法に対して秘匿画像の秘匿性に優れ、また経年劣化への耐性にも優れたスクラッチ印刷物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コインに使用されている金属よりも高い硬度を有する材料からなる粉体、例えば、酸化チタンなどの無機材料粉末を含有させた白インクで紙媒体等の白い被印刷体の表面に秘匿画像を印刷したスクラッチ印刷物が知られている。目視では白い被印刷体の上の白インクで印刷された秘匿画像は認識できない。一方、秘匿画像を含むその周辺をコインで摩擦すると、秘匿画像部分では無機材料粉末によってコインが削られその金属粉が秘匿画像部分に付着し着色するため、秘匿画像を認識可能となる。
【0003】
ところで、被印刷体となる白紙は一般にこれを目視で白く見せるための発光剤(蛍光増白剤)を含んでおり、ブラックライトのような紫外光を照射すると青白く発光する。対して、酸化チタンは紫外光に対して発光しない。そのため上記したようなスクラッチ印刷物にブラックライトを照射すると、被印刷体の青白い光の中に秘匿画像部分が黒く浮かび上がって認識可能となり、秘匿画像の秘匿性に欠けるといった問題があった。特に、照明を全てブラックライトとした空間なども存在することから、かかる空間でも秘匿性を維持できるスクラッチ印刷物への需要も高い。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献1では、被印刷体の上に酸化チタンの粉末を含む白インクでベタ印刷層をベタ印刷し、その上から透明又は酸化チタンの粉末を加えて白色としたオーバープリントニスで秘匿画像をネガパターン(抜きパターン)で印刷したスクラッチ印刷物を開示している。目視では白いベタ印刷層の上の透明又は白色のオーバープリントニスによるネガパターン印刷された秘匿画像は認識できない。一方、秘匿画像を含むその周辺をコインで摩擦すると、秘匿画像部分ではベタ印刷層でコインが削られるが、その他の部分ではオーバープリントニスがあるためコインは削られない。故に、秘匿画像部分だけが金属粉で着色し秘匿画像を認識可能となる。更に、ブラックライトを照射してもベタ印刷層が全体的に黒く残り、秘匿画像を認識することは出来ない。
【0005】
上記したようなスクラッチ印刷物において、正面視した状態では、白インクと透明又は白色のオーバープリントニスとの間では秘匿画像は認識できない。その一方で、斜視などであれば、白インクと透明又は白いオーバープリントニスの間で光沢差(グロスギャップ)を生じ秘匿画像を認識できてしまうこともあった。
【0006】
このような光沢差による秘匿画像の認識をできなくするよう、例えば、特許文献2では、秘匿画像を含む全体に黄色、赤色、及び、藍色の3色の網点を印刷することを開示している。見る者の視線を分散させることで光沢差による秘匿画像の認識をできなくするのである。また、白インキに添加剤としてマットメジュームを加えて光沢を抑えることで、秘匿画像の秘匿性をより高めることが出来る、とも述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−34384号公報
【特許文献2】特開2008−73977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
省資源化の要請からスクラッチ印刷物自体を専用に製造するのではなく、既存の紙媒体等の配布物にスクラッチ印刷部を与えたスクラッチ印刷物も望まれている。かかるスクラッチ印刷物においては、紙媒体等の規格はスクラッチ印刷の要求に合わせて与えられるものではない。例えば、領収書のような配布物では30g/m以下の非常に薄い紙媒体が使用され、目視による秘匿画像の認識はもちろん、ブラックライトによる秘匿画像の認識についても新たな対策を必要とする。
【0009】
また、省資源化や運送コストの低減のため、より薄い被印刷体によるスクラッチ印刷物に対する需要もある。
【0010】
更に、配布物にスクラッチ印刷部分を与えたスクラッチ印刷物においては、スクラッチ印刷部分の秘匿画像の秘匿性の経年劣化についても、配布物の在庫期間及び使用期間において保証されたものでなければならない。
【0011】
そこで、本発明の目的とするところは、薄い紙媒体であってもコインのような金属で摩擦し着色される以外の不正の方法に対して秘匿画像の秘匿性に優れ、また経年劣化への耐性に優れたスクラッチ印刷物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
薄い紙媒体からなるスクラッチ印刷物では、反射光だけでなく透過光に対しても秘匿画像の秘匿性を高めることが必要である。特許文献1に開示の如き紫外光の反射光への対策と同様に、透過光に対しても青白く光る紙媒体部分に対して酸化チタンを含み全体的に均一に黒く残る下地層を設け、この上に秘匿画像を設けられれば秘匿画像の秘匿性を高め得る。そのためには下地層を厚くできればよいが、薄い紙媒体からなるスクラッチ印刷物では下地層を必要以上に厚くできない。一方、下地層の酸化チタンの量を増やせば、インクの流動性及び転移性が低下し印刷自体ができなくなってしまう。印刷できたとしても、チョーキングが大きくなってスカミングやモットリングを生じ、均一な下地層とならず、紫外光に対して青白く発光する部分を散在させ秘匿画像の秘匿性が低下してしまう。
【0013】
そこで、本発明によるスクラッチ印刷物は、紙媒体上に印刷された秘匿画像を金属で摩擦することで着色されて認識可能とするスクラッチ印刷物であって、前記紙媒体の表面上に酸化チタンを含む白色インクでベタ刷り印刷して与えられた下地層と、前記下地層上に油分をより高めた酸化チタンを含む白色インクでベタ刷り印刷して与えられた被覆下地層と、前記被覆下地層上の前記秘匿画像を残したネガパターンに白色剤を少なくとも含むマットニスで印刷して与えられたマットニス層と、を順次有することを特徴とする。
【0014】
かかる発明によれば、下地層の上に油分をより高めて流動性及び転移性を上げた被覆下地層を被覆し下地層のチョーキングの進行を妨げ得るから、下地層の酸化チタンの量を高めることが出来て、可視光及び紫外光のいずれに対しても透過光を均一に遮断し得る。また、下地層はチョーキングの進行を妨げられ、剥離を生じ難くなる。つまり、薄い紙媒体であってもコインのような金属で摩擦し着色される以外の不正の方法に対して秘匿画像の秘匿性に優れ、また経年劣化への耐性にも優れるのである。
【0015】
上記した発明において、前記マットニス層を介して前記被覆下地層の上であって前記秘匿画像のポジパターンに酸化チタンを含む白色インクを印刷して与えられた乗せ白層を更に有することを特徴としてもよい。
【0016】
かかる発明によれば、下地層及び被覆下地層で秘匿画像の秘匿性を高めつつ、乗せ白層ではチョーキングを生じ得るほどの酸化チタンを含む白色インクを使用できるから、金属で摩擦することでより多くの金属粉を吸着させることが出来て、着色がより濃くでき得るのである。
【0017】
上記した発明において、前記マットニス層及び乗せ白層の上にクリスタリゼーションを生じるように与えられた隠蔽画像層を更に有することを特徴としてもよい。更に、前記隠蔽画像層は黄色、赤色、青色、及び、白黒スミ色の異なる色調の画像を4層重ねてなることを特徴としてもよい。
【0018】
かかる発明によれば、チョーキングを生じた乗せ白層の上の隠蔽画像層はクリスタリゼーションを生じやすく、金属で摩擦することで特に乗せ白層の上の隠蔽画像層を容易に除去できて、乗せ白層の着色を阻害することなく、光沢差による秘匿画像の認識を防止できるのである。
【0019】
上記した発明において、前記白色剤は硫酸カルシウムを主成分とすることを特徴としてもよい。
【0020】
かかる発明によれば、マットニス層と酸化チタンを含む白色インクとの光沢差を減じ、光沢差による秘匿画像の認識をより防止できるのである。
【0021】
更に、本発明によるスクラッチ印刷物の製造方法は、紙媒体上に印刷された秘匿画像を金属で摩擦することで着色されて認識可能とするスクラッチ印刷物の製造方法であって、前記紙媒体の表面上に酸化チタンを含む白色インクで下地層をベタ刷りし、この上に油分をより高めた酸化チタンを含む白色インクで被覆下地層をベタ刷り印刷するステップと、乾燥ステップと、前記被覆下地層上の前記秘匿画像を残したネガパターンに白色剤を少なくとも含むマットニスでマットニス層を印刷するステップと、を含むことを特徴とする。
【0022】
かかる発明によれば、下地層の上に油分をより高めて流動性及び転移性を上げた被覆下地層を被覆し下地層のチョーキングの進行を妨げ得るから、下地層の酸化チタンの量を高めることが出来て、可視光及び紫外光のいずれに対しても透過光を均一に遮断し得る下地層を与えられるのである。また、下地層はチョーキングの進行を妨げられ、剥離を生じ難くなる。つまり、薄い紙媒体であってもコインのような金属で摩擦し着色される以外の不正の方法に対して秘匿画像の秘匿性に優れ、また経年劣化への耐性にも優れるスクラッチ印刷物を与えるのである。
【0023】
上記した発明において、前記マットニス層を介して前記被覆下地層の上であって前記秘匿画像のポジパターンに酸化チタンを含む白色インクで乗せ白層を印刷するステップを更に含むことを特徴としてもよい。
【0024】
かかる発明によれば、下地層及び被覆下地層で秘匿画像の秘匿性を高めつつ、乗せ白層ではチョーキングを生じ得るほどの酸化チタンを含む白色インクを使用できるから、金属で摩擦することでより多くの金属粉を吸着させることが出来て、着色がより濃くでき得るスクラッチ印刷物を与えるのである。
【0025】
上記した発明において、前記ネガパターンに前記白色剤を少なくとも含むマットニスでマットニス層を更に印刷するステップを更に含むことを特徴としてもよい。
【0026】
かかる発明によれば、マットニス層と酸化チタンを含む白色インクとの光沢差をより減じ得て、乗せ白層でチョーキングを生じて変色しても、その光沢差を調整できて、秘匿画像の認識をより防止できるスクラッチ印刷物を与えるのである。
【0027】
上記した発明において、前記白色剤は硫酸カルシウムを主成分とすることを特徴としてもよい。
【0028】
かかる発明によれば、マットニス層と酸化チタンを含む白色インクとの光沢差を減じ、光沢差による秘匿画像の認識をより防止できるスクラッチ印刷物を与えるのである。
【0029】
上記した発明において、前記マットニス層及び乗せ白層の上にクリスタリゼーションを生じるように与えられた隠蔽画像層を更に印刷するステップを含むことを特徴としてもよい。更に、前記隠蔽画像層は黄色、赤色、青色、及び、白黒スミ色の異なる色調の画像を4層重ねてなることを特徴としてもよい。
【0030】
かかる発明によれば、チョーキングを生じた乗せ白層の上の隠蔽画像層はクリスタリゼーションを生じやすく、金属で摩擦することで特に乗せ白層の上の隠蔽画像層を容易に除去できて、乗せ白層の着色を阻害することなく、光沢差による秘匿画像の認識を防止できるスクラッチ印刷物を与えるのである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明によるスクラッチ印刷物を示す図である。
【図2】本発明によるスクラッチ印刷物の要部を示す拡大上面図である。
【図3】図2のA−A線での断面図である。
【図4】本発明によるスクラッチ印刷物の使用前の様子を示す図である。
【図5】本発明によるスクラッチ印刷物の使用後の様子を示す図である。
【図6】本発明によるスクラッチ印刷物の製造方法を表す図である。
【図7】本発明によるスクラッチ印刷物の製造方法の一工程を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の1つの実施例によるスクラッチ印刷物である会計票20について図1乃至図5を用いて説明する。
【0033】
図1に示すように、会計票20は白紙2に罫線や文字などを印刷した紙媒体であり、切り取りミシン線下部の「もぎり」部分にスクラッチ印刷部1を印刷で与えられている。このような会計票20は、複数枚を冊子に束ねて配布又は販売され、使用時に1枚1枚を分離する。1枚の会計票20は、冊子にしたときに厚さを嵩張らせず、また、その用途の性格上、厚紙を使用する必要が無いから、薄紙が使用される。
【0034】
白紙2は、坪量90g/m以下、典型的には、坪量30g/m以下の厚さであって、白く見せるための発光剤(蛍光増白剤)を含む。かかる厚さの紙媒体では光を非常に透過しやすい。また、白紙2に含まれる発光剤は紫外波長域のブラックライトの照射に対して白く蛍光発光するが、紙媒体が薄いため、ブラックライトを表面から照射すると裏面であっても簡単に蛍光発光を確認でき得る。
【0035】
図2及び図3に示すように、スクラッチ印刷部1は、白紙2の上にベタ刷り層3、マットニス層4、追加マットニス層4’、乗せ白層5及び隠蔽画像層6を与えてなる。
【0036】
ベタ刷り層3は、白色顔料である酸化チタン粒子を含む白色インクによるベタ印刷で、白紙2の上のスクラッチ印刷部1を被覆するようにして与えられている。
【0037】
後述するように、ベタ刷り層3は、会計票20の一方の面から可視光やブラックライトを照射したときに、他方の面にこれらの光が透過しないように与えられている。すなわち、ベタ刷り層3の厚さを厚くすることが好ましい。しかしながら、白紙2が非常に薄いため、ベタ刷り層3を厚く形成させると乾燥時の内部応力により、白紙2に皺を生じさせたり、ベタ刷り層3の剥離を生じたりし易くなる。また冊子としたときの厚さを嵩張らせてしまうことになる。ベタ刷り層3は薄く形成しつつ、上記したような光を透過させないことが求められる。
【0038】
そこで、ベタ刷り層3は、下地層3a及び被覆下地層3bの二層からなる。白紙2の上の下地層3aは、上記したような光をより透過させづらくなるよう、酸化チタン粒子の含有量をできるだけ高くした白色インクにより与えられる。一方、白色インク中の酸化チタン粒子の含有量が高くなると、経時により酸化チタン粒子のチョーキング(表面浮き)が生じやすくなってしまう。これに対して下地層3aの表面を被覆する被覆下地層3bが下地層3aよりも油分を多くした白色インクにより与えられる。つまり、ベタ刷り層3を厚くせずとも、上記したような光を透過させづらくなるのである。
【0039】
マットニス層4は、マットメジウムに硫酸カルシウム(焼石膏)からなる白色剤を少量だけ混合したマットニスによる印刷で、ベタ刷り層3の上に所望する秘匿画像を残したネガパターン8(図4及び図5参照)を象って与えられる。つまり、マットニス層4の与えられない部分を介して、ベタ刷り層3が秘匿画像のポジパターン7(図4及び図5参照)を象るように裸出している。マットニス層4は、ポジパターン7/ネガパターン8の界面におけるベタ刷り層3とのグロスギャップを少なくするよう、マットニスにOPニスを適宜、添加して表面の光沢を調整しながら与えられている。また、コインにより摩擦されても剥がれたり、削り落ちないように強固に接着するようにベタ刷り層3の上に与えられている。
【0040】
乗せ白層5は、酸化チタン粒子を含む白色インクにより印刷で、上記したベタ刷り層3が秘匿画像のポジパターン7(図4及び図5参照)を象るように裸出した部分の上に与えられる。乗せ白層5は後述するようにスクラッチによりコインを削るが、コイン粉をより効率よく生じるよう酸化チタン粒子のチョーキングを生じるように与えられる。
【0041】
更に、追加マットニス層4’は、マットニス層4と同様に、マットメジウムに硫酸カルシウム(焼石膏)からなる白色剤を混合し、適宜、OPニスを添加したマットニスによる印刷で、マットニス層4の上に与えられる。追加マットニス層4’は、酸化チタン粒子のチョーキングを生じるよう乾燥せしめられて若干変色した乗せ白層5によるポジパターン7/ネガパターン8の界面におけるグロスギャップ及びカラーギャップを少なくするよう与えられる。
【0042】
隠蔽画像層6は、黄色、赤色、青色及び白黒のドットからなるスミ色の異なる色調の色インクをそれぞれ用いて4層を重ねた印刷で、追加マットニス層4’及びチョーキングを生じた乗せ白層5を覆って与えられる。隠蔽画像層6は、スクラッチ印刷部1をコインにより摩擦した際に容易に除去し得るようにクリスタリゼーションを生じるように与えられ、特に、チョーキングを生じた乗せ白層5の上ではより容易に除去され得る。隠蔽画像層6により、ポジパターン7/ネガパターン8の界面における乗せ白層5と追加マットニス層4’のグロスギャップ及びカラーギャップはほぼ完全に視認できなくなるのである。
【0043】
ここで、可視光を会計票20の表面から与えた場合、隠蔽画像層6により遮られ、更に、図4に示すように、ポジパターン7/ネガパターン8の界面における乗せ白層5と追加マットニス層4’のグロスギャップ及びカラーギャップは小さいから反射光で表面において秘匿画像を認識できない。また、裏面においてはベタ刷り層3によって可視光が遮断されるから、秘匿画像を認識できない。
【0044】
可視光を会計票20の裏面から与えた場合、ベタ刷り層3によって遮断され、仮に透過しても、ポジパターン7/ネガパターン8の界面における乗せ白層5と追加マットニス層4’のグロスギャップ及びカラーギャップは小さく、更に、隠蔽画像層6により遮られ、秘匿画像を表面から認識できない。
【0045】
紫外光を会計票20の表面及び裏面から与えた場合、ベタ刷り層3によって遮断され透過光では秘匿画像を認識できないのである。
【0046】
さて、会計票20のスクラッチ印刷部1をコインで摩擦すると、隠蔽画像層6が除去され、その下の追加マットニス層4’及び乗せ白層5が表面に裸出する。特に、チョーキングを生じた乗せ白層5の上ではより容易に除去される。乗せ白層5では、コインが酸化チタン粒子によって削られ、生じたコイン粉により着色される。これにより、図5に示すように、秘匿画像が認識できるようになる。秘匿画像の鮮明度は乗せ白層5の白色インクに含まれる酸化チタン粉末の量及びチョーキングの程度に依存する。また、ベタ刷り層3とともに酸化チタン粒子を含む白色インクの層を結果として厚くできるため、より多くの金属粉を吸着させることが出来て、秘匿画像の鮮明度をより高めることができる。
【0047】
以上述べてきた実施例によれば、下地層3aの上に油分をより高めて流動性及び転移性を上げた被覆下地層3bを被覆し下地層3aのチョーキングの進行を妨げ得るから、下地層3aの酸化チタンの量を高めることが出来て、可視光及び紫外光のいずれに対しても透過光を均一に遮断し得る。また、下地層3aはチョーキングの進行を妨げられ、剥離を生じ難くなる。つまり、薄い白紙2であってもコインのような金属で摩擦し着色される以外の不正の方法に対して秘匿画像の秘匿性に優れ、また経年劣化への耐性にも優れるのである。
【0048】
また、ベタ刷り層3で秘匿画像の秘匿性を高めつつ、乗せ白層5ではチョーキングを生じ得るほどの酸化チタンを含む白色インクを使用できるから、金属で摩擦することでより多くの金属粉を吸着させることが出来て、着色がより濃くでき得るのである。
【0049】
また、チョーキングを生じた乗せ白層5の上の隠蔽画像層6はクリスタリゼーションを生じやすく、金属で摩擦することで特に乗せ白層5の上の隠蔽画像層6を容易に除去できて、乗せ白層5の着色を阻害することなく、ポジパターン7/ネガパターン8の界面における光沢差による秘匿画像の認識を防止できるのである。
【0050】
次に、上記した本発明の1つの実施例によるスクラッチ印刷物である会計票20の製造方法について、図1乃至図5、及び図7を適宜、使用して図6に沿って説明する。
【0051】
図7に示す印刷機10の第1胴11及び第4胴14を使用して、白紙2の表面の所定位置に下地層3a及び被覆下地層3bをそれぞれ重ねて印刷する(ベタ印刷ステップ;S1)。
【0052】
第1胴11のインクタンク(図示せず)には、白色インクに酸化チタン粒子を添加したインクを練肉し充填する。ここで酸化チタンの添加量については、下地層3aの厚さが薄くとも可視光及び紫外光の透過を完全に遮断できるよう、なるべく多い方が好ましいが、一方でパイリングによるムラが発生しやすくなる。典型的には、酸化チタンの添加量は、約30vol%(以下、単に%と表示する)程度であることが好ましい。
【0053】
第4胴14のインクタンク(図示せず)には、第1胴11のインクに更に約10%程度の油分を添加し流動性と転移性を高めたインクを充填する。これにより下地層3aのチョーキングの進行を防止し得る。
【0054】
次に、ベタ刷り層3を十分に乾燥させる(乾燥ステップ;S2)。室温であれば12時間以上放置する。これにより下地層3a及び被覆下地層3bの上に与えられる後述するマットニス層4及び追加マットニス層4’を強固に接着しつつ与え得る。また、半乾燥状態の被覆下地層3bから酸化チタンがマットニス層4や追加マットニス層4’に移動し、スクラッチ印刷部1をコインで摩擦した場合にマットニス層4又は追加マットニス層4’が着色してしまうことを防止する。
【0055】
その後、図7に示す印刷機10の第1胴11及び第2胴12によって秘匿画像のネガパターン8を象るようにマットニス層4を(マットニス印刷ステップ;S3)、第3胴13によって秘匿画像のポジパターン7を象るように乗せ白層5を(乗せ白印刷ステップ;S4)、及び、第4胴14によってマットニス層4の上に追加マットニス層4’を(追加マットニス印刷ステップ;S5)それぞれ順に印刷する。
【0056】
マットニス印刷ステップ(S3)において、印刷機10の第1胴11及び第2胴12のインクタンク(図示せず)には、マットメジウム及び焼石膏を加えたマットニスに光沢及び色を調整するためのOP(オーバープリント)ニスを適宜添加して充填する。典型的には、マットニスに対して、マットメジウムは約67%、焼石膏は約33%をそれぞれ加える。
【0057】
乗せ白印刷ステップ(S4)において、印刷機10の第3胴13のインクタンク(図示せず)には、ベタ印刷ステップ(S1)で使用されたような酸化チタンを多く含む白色インクに、酸化チタンを0〜50%の間で含有する複数種類のインクを適宜、添加して、光沢(グロスギャップ)及び色(カラーギャップ)を調整しつつこれを充填する。
【0058】
さらに追加マットニス印刷ステップ(S5)において、印刷機10の第4胴14のインクタンク(図示せず)には、上述したマットニス印刷ステップ(S3)で使用されるインクに、更に、オーバープリントニスを適宜添加して充填する。
【0059】
隠蔽画像印刷ステップ(S6)は、マットニス層4と追加マットニス層4’と乗せ白層5とが十分乾燥したことを確認した後、図7に示す印刷機10の第1胴から第4胴で黄色、赤色、青色及び白黒スミ色の異なる色調の画像を追加マットニス層4’及び乗せ白層5の上に重ねて与える。なお、かかる印刷は、従来のように点描によるものであっても良いが、隠蔽画像層6をクリスタリゼーションによりコインで擦って剥がれ落ちやすくしたものであってもよい。ここで、乾燥した追加マットニス層4’及び乗せ白層5の上に与えられた隠蔽画像層6はクリスタリゼーションを生じやすく、コインによる摩擦で容易に剥離可能である。
【0060】
以上のような実施例によれば、薄い紙であってもコインのような金属で摩擦し着色される以外の、例えばブラックライトで照射するなど不正の方法に対する秘匿画像の秘匿性に優れ、また経年劣化への耐性に優れたスクラッチ印刷物及びその製造方法を提供できる。
【0061】
以上、本発明による代表的実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した請求項の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0062】
1 スクラッチ印刷部
2 白紙
3 ベタ刷り層
4 マットニス層
4’ 追加マットニス層
5 乗せ白層
6 隠蔽画像層
7 ポジパターン
8 ネガパターン
20 会計票

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙媒体上に印刷された秘匿画像を金属で摩擦することで着色されて認識可能とするスクラッチ印刷物であって、
前記紙媒体の表面上に酸化チタンを含む白色インクでベタ刷り印刷して与えられた下地層と、
前記下地層上に油分をより高めた酸化チタンを含む白色インクでベタ刷り印刷して与えられた被覆下地層と、
前記被覆下地層上の前記秘匿画像を残したネガパターンに白色剤を少なくとも含むマットニスで印刷して与えられたマットニス層と、を順次有することを特徴とするスクラッチ印刷物。
【請求項2】
前記マットニス層を介して前記被覆下地層の上であって前記秘匿画像のポジパターンに酸化チタンを含む白色インクを印刷して与えられた乗せ白層を更に有することを特徴とする請求項1記載のスクラッチ印刷物。
【請求項3】
前記マットニス層及び乗せ白層の上にクリスタリゼーションを生じるように与えられた隠蔽画像層を更に有することを特徴とする請求項2記載のスクラッチ印刷物。
【請求項4】
前記隠蔽画像層は黄色、赤色、青色、及び、白黒スミ色の異なる色調の画像を4層重ねてなることを特徴とする請求項3記載のスクラッチ印刷物。
【請求項5】
前記白色剤は硫酸カルシウムを主成分とすることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載のスクラッチ印刷物。
【請求項6】
紙媒体上に印刷された秘匿画像を金属で摩擦することで着色されて認識可能とするスクラッチ印刷物の製造方法であって、
前記紙媒体の表面上に酸化チタンを含む白色インクで下地層をベタ刷りし、この上に油分をより高めた酸化チタンを含む白色インクで被覆下地層をベタ刷り印刷するステップと、
乾燥ステップと、
前記被覆下地層上の前記秘匿画像を残したネガパターンに白色剤を少なくとも含むマットニスでマットニス層を印刷するステップと、を含むことを特徴とするスクラッチ印刷物の製造方法。
【請求項7】
前記マットニス層を介して前記被覆下地層の上であって前記秘匿画像のポジパターンに酸化チタンを含む白色インクで乗せ白層を印刷するステップを更に含むことを特徴とする請求項6記載のスクラッチ印刷物の製造方法。
【請求項8】
前記ネガパターンに前記白色剤を少なくとも含むマットニスでマットニス層を更に印刷するステップを更に含むことを特徴とする請求項7記載のスクラッチ印刷物の製造方法。
【請求項9】
前記白色剤は硫酸カルシウムを主成分とすることを特徴とする請求項6乃至8のうちの1つに記載のスクラッチ印刷物。
【請求項10】
前記マットニス層及び乗せ白層の上にクリスタリゼーションを生じるように与えられた隠蔽画像層を更に印刷するステップを含むことを特徴とする請求項8又は9に記載のスクラッチ印刷物の製造方法。
【請求項11】
前記隠蔽画像層は黄色、赤色、青色、及び、白黒スミ色の異なる色調の画像を4層重ねてなることを特徴とする請求項10記載のスクラッチ印刷物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−49136(P2013−49136A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106879(P2010−106879)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【特許番号】特許第4577909号(P4577909)
【特許公報発行日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(510125866)株式会社CBJスクラッチ (3)
【Fターム(参考)】