説明

スクラッチ印刷用インク及びスクラッチ印刷物

【課題】例えばブラックライトのような特殊な光源の光に対する秘匿性を保持することができるとともに、構成が簡単で、製造工程が少なく、製造が容易なスクラッチ印刷用インク及びスクラッチ印刷物を提供する。
【解決手段】スクラッチ印刷用インクは、例えばオフセット印刷用のインク基剤に、照射光のエネルギーよりも大きなバンドギャップを有する物質、例えばバンドギャップが4.1eVを超え、20eV以下の物質、又はバンドギャップが4.88eVを超え、20eV以下の物質を含有する。この物質として具体的には、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化カルシウム、フッ化リチウム又は塩化ナトリウムが好適である。スクラッチ印刷物10は、前記スクラッチ印刷用インクを印刷基材上に塗布し、秘匿画像としての秘匿文字12を形成する印刷層13を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば十円硬貨等を用いて印刷物の表面を擦ることにより画像が現れるように構成されたスクラッチ印刷に使用されるスクラッチ印刷用インク及びスクラッチ印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スクラッチ印刷としては銀スクラッチが知られている。このタイプのスクラッチ印刷物では、スクリーン印刷された銀の被膜を十円硬貨等の硬貨などで擦ることによって、秘匿された文字が現れる。しかし、硬貨で擦る際に銀の削りかすが出るため不衛生で、化粧品業界や飲食業界での利用ができなかった。また、秘匿文字を隠すための銀をスクリーン印刷する必要があることから、生産性が低く、製造コストが嵩むという問題があった。
【0003】
最近になり、十円硬貨等の硬貨で擦っても削りかすの出ないスクラッチ印刷が知られるようになった。このタイプのスクラッチ印刷としては、酸化チタン等の無機材料粉末を含む白いスクラッチ印刷用インクで白い紙媒体上に秘匿画像を印刷したものが知られている。このスクラッチ印刷物においては、秘匿画像が白い紙媒体上に白いインクで印刷されていることから、可視光線の下でその秘匿画像を目視することはできないが、十円硬貨等の硬貨で秘匿画像の部分を摩擦すると硬貨が削られてその金属粉が秘匿画像の部分に付着して着色するため秘匿画像を認識することができる。
【0004】
ところが、スクラッチ印刷物の利用者が硬貨で秘匿画像の部分を擦る前に、例えばブラックライトのような特殊な光源の光を秘匿画像部分に照射するとその秘匿画像を視認することが可能となり、秘匿性が保持されないという問題がある。そこで、そのような問題を解決するために、例えば特許文献1に記載されているようなスクラッチ印刷物が提案されている。
【0005】
すなわち、このスクラッチ印刷物は、紙媒体上に酸化チタンを含む白色インクで印刷された下地層と、該下地層上に下地層より油分を高めた酸化チタンを含む白色インクで印刷された被覆下地層と、該被覆下地層上に秘匿画像を残したネガパターンに白色剤を含むマットニスで印刷されたマットニス層とが積層されて構成されている。このスクラッチ印刷物では、前記下地層上に秘匿画像のポジパターンに白色インクで印刷された乗せ白層、さらにはマットニス層及び乗せ白層上に隠蔽画像層を有することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4577909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された従来構成においては、スクラッチ印刷物が紙媒体上に下地層、被覆下地層、マットニス層、さらには乗せ白層及び隠蔽画像層という各層が順に積層形成されて構成されている。このため、層構成が多層構造で複雑であって、各層を形成するためのインクをそれぞれ用意しなければならないうえに、多層構造を形成するために製造工程が増え、スクラッチ印刷物の製造が面倒で時間を要し、かつ製造コストが嵩むという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、例えばブラックライトのような特殊な光源の光に対する秘匿性を保持することができるとともに、構成が簡単で、製造工程が少なく、製造が容易なスクラッチ印刷用インク及びスクラッチ印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のスクラッチ印刷用インクは、インク基剤に、バンドギャップが400nm以下の波長を有する照射光のエネルギーよりも大きい物質を含有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載のスクラッチ印刷用インクは、請求項1に係る発明において、前記物質のバンドギャップが4.1eVを超え20eV以下であることを特徴とする。
請求項3に記載のスクラッチ印刷用インクは、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記物質のバンドギャップが4.88eVを超え20eV以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載のスクラッチ印刷用インクは、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記物質は、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化カルシウム、フッ化リチウム又は塩化ナトリウムであることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載のスクラッチ印刷物は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のスクラッチ印刷用インクを印刷基材上に塗布して秘匿画像を形成する印刷層を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係る発明のスクラッチ印刷用インクでは、インク基剤に、400nm以下の波長を有する照射光のエネルギーよりも大きいバンドギャップを有する物質を含有する。そして、スクラッチ印刷物は印刷基材上に前記の物質を含有するスクラッチ印刷用インクを印刷して印刷層を形成することにより調製される。得られたスクラッチ印刷物に前記照射光を照射したとき、印刷層に含まれる前記物質のバンドギャップが秘匿画像を視認するための前記照射光のエネルギーよりも大きい値を有していることから、照射光は印刷層中の前記物質に吸収されない。従って、スクラッチ印刷物の秘匿画像を視認することは困難である。
【0014】
また、スクラッチ印刷物は印刷基材とその上の印刷層との2層で形成することができ、従来のような多層構造ではないことから、容易に形成することができる。
よって、この発明のスクラッチ印刷用インク及びスクラッチ印刷物によれば、例えばブラックライトのような特殊な光源の光に対する秘匿性を保持することができるとともに、構成が簡単で、製造工程が少なく、製造が容易であるという効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態におけるスクラッチ印刷物を示す平面図であって、(a)はポジ型のスクラッチ印刷物を示す平面図、(b)はネガ型のスクラッチ印刷物を示す平面図。
【図2】スクラッチ印刷物を示す断面図であって、(a)はポジ型のスクラッチ印刷物を示し、図1(a)の2a−2a線における要部断面図、(b)はネガ型のスクラッチ印刷物を示す要部断面図。
【図3】スクラッチ印刷物を示す平面図であって、(a)はポジ型のスクラッチ印刷物の印刷層を1本だけ擦った状態を示す平面図、(b)はネガ型のスクラッチ印刷物の印刷層を1本だけ擦った状態を示す平面図。
【図4】実施例1〜5のスクラッチ印刷物に蛍光灯及びブラックライトを照射した状態を示す図面代用の写真であって、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は実施例3、(d)は実施例4及び(e)は実施例5の場合を示す。
【図5】比較例1及び2のスクラッチ印刷物に蛍光灯及びブラックライトを照射した状態を示す図面代用の写真であって、(a)は比較例1及び(b)は比較例2の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜図3に基づいて詳細に説明する。
図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施形態のスクラッチ印刷物10は、印刷基材としてのマットコート紙11上にスクラッチ印刷用インクを図1(a)に示すポジ状又は図1(b)に示すネガ状に塗布して秘匿画像としての秘匿文字12を形成する印刷層13が設けられたものである。この印刷層13の厚みは、0.5〜2μm程度に形成される。印刷層13の厚みが0.5μmより薄い場合には印刷層13による秘匿文字12を視認しづらくなるおそれがある一方、2μmより厚い場合にはスクラッチ印刷用インクが過剰に必要となり無駄になる。さらに、必要に応じて秘匿文字12及び印刷層13上に、可視光線で内部の印刷文字を視認できないように例えば網状に印刷された迷彩層14を形成することが好ましい。
【0017】
そして、スクラッチ印刷物10の表面を十円硬貨(銅合金)等の硬貨で擦ることにより、印刷層13がポジ状の場合には秘匿文字12の部分が黒くなって秘匿文字12を認識することができ、印刷層13がネガ状の場合には秘匿文字12以外の部分が黒くなって秘匿文字12を認識することができるようになっている。
【0018】
次に、前記スクラッチ印刷用インクについて説明する。
このスクラッチ印刷用インクは、インク基剤にバンドギャップが400nm以下の波長を有する照射光(紫外線)のエネルギーよりも大きい物質を含有する。インク基剤は例えばオフセット印刷インク等として使用されるもので、具体的には合成樹脂15〜25質量%、植物油20〜30質量%、顔料30〜40質量%、鉱物油15〜25質量%及び補助剤1〜10質量%等が含まれる。合成樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が用いられる。植物油としては、大豆油等が用いられる。顔料としては、塩化ビニル樹脂の粉末等が用いられる。
【0019】
バンドギャップが400nm以下の波長を有する照射光のエネルギーよりも大きい物質は、スクラッチ印刷物10に光を照射したときその照射光を透過する性質を有する物質であり、印刷層13による秘匿文字12を視認することが不可能となる。
【0020】
ところで、バンドギャップは電子に占有された最も高いエネルギーバンド(価電子帯)の頂上から最も低い空のエネルギーバンド(伝導帯)の底までの間のエネルギー準位の差(エネルギー差)を意味する。従って、バンドギャップ以上の大きさのエネルギーを有する光を照射すると、電子がバンドギャップを越えて価電子帯と伝導帯との間を遷移し、照射光のエネルギーを吸収する。言い換えれば、バンドギャップが照射光のエネルギーよりも大きな物質には、照射光のエネルギーは吸収されないことになる。その一方、バンドギャップが照射光のエネルギーよりも小さい物質には、照射光が吸収され、黒い陰影となって容易に視認することができる。
【0021】
一般に入手が容易な波長400nm以下の光源として、例えばブラックライト(波長が約300nm〜400nm、光のエネルギーは約3.1eV〜4.1eV)や殺菌ランプ(波長254nm、光のエネルギーは約4.88eV)がある。この光源から発せられる照射光(紫外線)の波長の下限は1nmであることが好ましい。
【0022】
バンドギャップが4.1eVを超え、20eV以下の物質は、スクラッチ印刷物10にブラックライトの光を照射しても、その照射エネルギーは吸収されず印刷層13による秘匿文字12を視認できないようにするものである。ブラックライトの最も高いエネルギーは4.1eVであり、それを超えるバンドギャップを有する物質はブラックライトの光の照射エネルギーを吸収することができない。
【0023】
またバンドギャップが4.88eVを超え、20eV以下の物質は、スクラッチ印刷物10に殺菌ランプの光を照射しても、その照射エネルギーは吸収されず印刷層13による秘匿文字12を視認できないようにするものである。殺菌ランプの照射光のエネルギーは4.88eVであり、それを超えるバンドギャップを有する物質は殺菌ランプの光の照射エネルギーを吸収することができない。バンドギャップが20eVを超える物質は入手が難しく、コストの上昇を招く傾向を示すことから好ましくない。このような観点から、この物質のバンドギャップは、4.1〜15eVであることが好ましい。
【0024】
前記の物質としては、バンドギャップが照射光のエネルギーよりも大きな物質であれば単体の物質のほか化合物などの制限なく使用することができるが、例えば酸化マグネシウム(MgO)、酸化タンタル(Ta)、酸化カルシウム(CaO)、フッ化リチウム(LiF)又は塩化ナトリウム(NaCl)が好ましい。酸化マグネシウムのバンドギャップは7.8eV、酸化タンタルのバンドギャップは4.4eV、酸化カルシウムのバンドギャップは7.0eV、フッ化リチウムのバンドギャップは14.2eV、塩化ナトリウムのバンドギャップは9.0eVである。
【0025】
前記の物質としては、平均粒子径0.3〜1.0μmの粉末状(粒子状)のものが用いられるが、この平均粒子径に拘らない。この平均粒子径が0.3μm未満の場合にはそのような細かい粒子径の物質を調製することが難しくなり、1.0μmを超える場合にはスクラッチ印刷用インク中における前記物質の均一分散性が低下して好ましくない。
【0026】
スクラッチ印刷用インク中における前記物質の配合量は、インク基剤100質量部に対して40〜50質量部であることが好ましいが、これに拘らない。当該物質の配合量が40質量部を下回る場合には、スクラッチ印刷用インク中における当該物質の濃度が低下して、印刷層13中における当該物質の含有量が低下し、スクラッチ印刷を十円硬貨等の硬貨で擦っても、印刷層13の秘匿文字12の濃度が薄くなり視認が困難になるおそれがある。その一方、前記物質の配合量が50質量部を上回る場合には、スクラッチ印刷用インクの粘性が上昇し、印刷基材上へのスクラッチ印刷用インクの塗布が難しくなり、均一な厚みの印刷層13を形成できなくなる可能性がある。
【0027】
次に、前記のように構成されたスクラッチ印刷用インク及びスクラッチ印刷物10について作用を説明する。
この実施形態のスクラッチ印刷用インクは、例えばオフセット印刷のインク基剤にバンドギャップが大きい物質として酸化マグネシウム、酸化カルシウム等を含有する。そして、図1(a)及び図2(a)に示すように、ポジ型のスクラッチ印刷物10の場合には、印刷基材として白色の紙基材の秘匿文字12部分に白色のスクラッチ印刷用インクを常法に従って印刷して印刷層13を形成し、その上に薄い黄色等のインクで迷彩層14を網目状に形成する。一方、図1(b)及び図2(b)に示すように、ネガ型のスクラッチ印刷物10の場合には、白色の紙基材の秘匿文字12以外の部分に白色のスクラッチ印刷用インクを常法に従って印刷して印刷層13を形成し、その上に薄い黄色等のインクで迷彩層14を網目状に形成する。
【0028】
得られたスクラッチ印刷物10は、白色の紙基材上に白色の印刷層13が形成され、さらにその上に迷彩層14が形成されていることから、自然光(可視光線)の下では印刷層13による秘匿文字12を視認することは困難である。また、スクラッチ印刷物10に、例えばブラックライトを照射しても、スクラッチ印刷用インクにはブラックライトの光のエネルギーより大きなバンドギャップを有する物質が含まれていることから、ブラックライトの照射エネルギーはその物質に吸収されず、秘匿文字12を視認することはできない。
【0029】
そして、スクラッチ印刷用インクによる印刷層13(3本のピン)のうち1本を十円硬貨等の硬貨で擦ると、図3(a)に示すようにポジ型の場合には秘匿文字12部分が黒くなって秘匿文字12(ハズレ)を視認することができる。また、図3(b)に示すようにネガ型の場合には秘匿文字12以外の部分が黒くなって白い秘匿文字12(当り)を視認することができる。
【0030】
以上詳述した実施形態によって発揮される効果を以下にまとめて記載する。
(1)この実施形態のスクラッチ印刷用インクでは、インク基剤にバンドギャップが400nm以下の波長を有する照射光のエネルギーよりも大きな物質を含有する。このため、スクラッチ印刷用インクで秘匿文字12が印刷されたスクラッチ印刷物10に秘匿画像視認のための照射光を照射したとき、印刷層13に含まれる前記物質のバンドギャップが前記照射光のエネルギーより大きい値を有していることから、照射光は吸収されない。従って、スクラッチ印刷物10に秘匿画像視認のための照射光を照射して秘匿文字12を見ようと試みても、秘匿文字12を視認することは困難である。
【0031】
また、スクラッチ印刷物10は印刷基材とその上の印刷層13との2層で形成することが可能であり、従来のような多層構造ではないことから、容易に形成することができる。
よって、この実施形態のスクラッチ印刷用インク及びスクラッチ印刷物10によれば、波長400nm以下の特殊な光源の光に対する秘匿性を良好に保持することができるとともに、構成が簡単で、製造工程が少なく、製造が容易であるという効果を発揮することができる。
(2)前記物質のバンドギャップは4.1eVを超え、20eV以下のものである。この場合には、照射光のエネルギーが4.1eVであるブラックライトをスクラッチ印刷物10に照射したとき、印刷層13中にはバンドギャップがブラックライトのエネルギーより大きい値の物質が含まれているため、ブラックライトの照射エネルギーが印刷層13中の物質に吸収されない。従って、スクラッチ印刷物10にブラックライトを照射して秘匿文字12を見ようとしたとき、その秘匿文字12を視認することは困難である。
(3)前記物質のバンドギャップは4.88eVを超え、20eV以下のものである。この場合には、照射光のエネルギーが4.88eVである殺菌ランプをスクラッチ印刷物10に照射したとき、印刷層13中にはバンドギャップが照射光のそれより大きい値の物質が含まれているため、殺菌ランプの照射エネルギーが印刷層13中の物質に吸収されない。従って、スクラッチ印刷物10に殺菌ランプを照射して秘匿文字12を見ようとしたとき、その秘匿文字12を視認することは困難である。
(4)前記の物質は、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化カルシウム、フッ化リチウム又は塩化ナトリウムである。これらの物質は、そのバンドギャップがブラックライト又は殺菌ランプの光エネルギーより十分に大きいことから、ブラックライト又は殺菌ランプのエネルギーを吸収せず、印刷層13による秘匿文字12の視認を防止することができる。
(4)スクラッチ印刷物10は、スクラッチ印刷用インクを印刷基材上に塗布して秘匿文字12を形成する印刷層13を設けたものである。このため、スクラッチ印刷物10の構成が簡単で製造工程を簡略化でき、スクラッチ印刷物10を容易に製造できるとともに、製造コストの低減を図ることができる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜5及び比較例1,2)
まず、スクラッチ印刷用インクのインク基剤を、以下に示す組成の各成分を混合、撹拌して調製した。
【0033】
合成樹脂としてロジン変性フェノール樹脂 20質量%
顔料として透明な塩化ビニル樹脂粉末 36質量%
植物油として大豆油 24質量%
鉱物油 15質量%
補助剤 5質量%
得られたインク基剤100質量部に対して、下記に示す物質を40質量部添加して撹拌、混合し、白色のスクラッチ印刷用インクを調製した。
【0034】
実施例1の物質:フッ化リチウム、実施例2の物質:塩化ナトリウム、実施例3の物質:酸化マグネシウム、実施例4の物質:酸化カルシウム、実施例5の物質:酸化タンタル。
【0035】
比較例1では、前記の物質として従来の酸化チタン(TiO、バンドギャップは3.0eV)を使用した。また、比較例2では、前記の物質として酸化亜鉛(ZnO、バンドギャップは3.3eV)を使用した。
【0036】
そして、スクラッチ印刷用インクを印刷基材としてマットコート紙11(白色)上に帯状の秘匿画像を形成するように1μmの厚みで印刷(塗布)し、スクラッチ印刷物10を得た。このスクラッチ印刷物10に対し、蛍光灯及びブラックライトを照射して秘匿画像を撮影した写真を図4(a)〜(e)及び図5(a)、(b)に示す。これらの結果より視認できるか否かを下記の基準で判断し、その結果を表1に示す。
【0037】
○:視認不可能であった。×:明らかに視認可能であった。
【0038】
【表1】

図4(a)〜(e)及び表1に示したように、実施例1〜5ではスクラッチ印刷用インク中に、バンドギャップがブラックライトの照射光のエネルギーよりも大きい物質が含まれていることから、スクラッチ印刷物10にブラックライトを照射したとき秘匿画像を視認することはできなかった。
【0039】
一方、図5(a)、(b)及び表1に示したように、比較例1ではスクラッチ印刷用インク中にバンドギャップがブラックライトの照射エネルギーよりも小さい酸化チタンが含まれているため、スクラッチ印刷物10にブラックライトを照射したときに秘匿画像を視認することが可能であった。また、比較例2ではスクラッチ印刷用インク中にバンドギャップがブラックライトの照射エネルギーよりも小さい酸化亜鉛が含まれているため、スクラッチ印刷物10にブラックライトを照射したときに秘匿画像を視認することが可能であった。
【0040】
なお、前記各実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記実施形態における迷彩層14を省略することもできる。この場合には、印刷層13の秘匿画像が可視光線で見えないように印刷層13を薄く形成するなどの配慮が必要である。
【0041】
・ スクラッチ印刷用インクを白色以外の色で形成することも可能である。この場合、印刷基材の色もスクラッチ印刷用インクの色と同色にして可視光線で秘匿画像が見えないようにする。
【0042】
・ スクラッチ印刷物10の印刷層13を擦るための金属としては、印刷層13を形成する前記物質よりも柔らかい実施形態の銅合金(十円硬貨)のほかアルミニウム(一円硬貨)等であっても差し支えない。この場合、擦る操作を繰り返すことにより、秘匿画像を認識することができる。
【0043】
・ 印刷法としては、オフセット印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等のいずれであってもよい。
・ 前記物質として、窒化珪素(Si、バンドギャップ5.1eV)、フッ化マグネシウム(MgF、バンドギャップ11.2eV)、塩化マグネシウム(MgCl、バンドギャップ8.2eV)等を使用することもできる。
【0044】
さらに、前記各実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記の物質は、400nm以下の波長を有する照射光のエネルギーを吸収しないものであることを特徴とする請求項1に記載のスクラッチ印刷用インク。このように構成した場合、請求項1に係る発明の効果に加えて、照射光のエネルギーを透過させるができる。
(ロ)前記物質は、ブラックライトの照射エネルギーを吸収しないものであることを特徴とする請求項2に記載のスクラッチ印刷用インク。このように構成した場合、請求項2に係る発明の効果に加えて、ブラックライトの照射エネルギーの透過を図ることができる。
(ハ)前記の物質は、殺菌ランプの照射エネルギーを吸収しないものであることを特徴とする請求項3に記載のスクラッチ印刷用インク。このように構成した場合、請求項3に係る発明の効果に加えて、殺菌ランプの照射エネルギーの透過を図ることができる。
【符号の説明】
【0045】
10…スクラッチ印刷物、11…印刷基材としてのマットコート紙、12…秘匿画像としての秘匿文字、13…印刷層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク基剤に、バンドギャップが400nm以下の波長を有する照射光のエネルギーよりも大きい物質を含有することを特徴とするスクラッチ印刷用インク。
【請求項2】
前記物質のバンドギャップが4.1eVを超え20eV以下であることを特徴とする請求項1に記載のスクラッチ印刷用インク。
【請求項3】
前記物質のバンドギャップが4.88eVを超え20eV以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスクラッチ印刷用インク。
【請求項4】
前記物質は、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化カルシウム、フッ化リチウム又は塩化ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のスクラッチ印刷用インク。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のスクラッチ印刷用インクを印刷基材上に塗布して秘匿画像を形成する印刷層を設けたことを特徴とするスクラッチ印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−207146(P2012−207146A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74536(P2011−74536)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(510245681)ムラセ印刷株式会社 (1)
【出願人】(501296461)
【Fターム(参考)】