説明

スクラップの元素含有量測定方法

【課題】スクラップ中の特定元素含有量の測定精度を向上させる。
【解決手段】スクラップに含有されていない元素をマーカー元素として用い、該マーカー元素を金属溶湯に添加してその濃度を測定する。次いで、金属溶湯にスクラップを投入して溶解させ、その状態で金属溶湯中のマーカー元素と特定元素の濃度を測定する。そして、スクラップ溶解前後における金属溶湯中のマーカー元素の濃度変化からスクラップ溶解で増えた金属溶湯の重量を求め、該金属溶湯の重量変化とスクラップ溶解前後における特定元素の濃度変化とからスクラップ中の特定元素の含有量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、廃棄自動車の解体で得られるAスクラップ中に含まれる元素の量を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のスクラップを鉄鋼の原料として再資源化することが自動車のリサイクル方法の一つとして行われている。すなわち、廃棄自動車からエンジンや足回りの部品などを取り除いた後、これをプレスして溶鉱炉に投入し易い形状にしている。これを一般にAプレスと呼んでいる。
【0003】
自動車の電装部品やワイヤーハーネスなどには銅が多く使われているため、Aプレスに銅がある程度含まれるのはやむをえないが、その量が多くなると、鉄鋼製品の品質に悪影響を及ぼす。具体的には、熱間加工を劣化させるだけでなく、製品の表面品質にも悪影響が及ぶ。しかも、銅は精錬工程で鉄からの除去が非常に難しい元素でもあるため、Aプレスへの銅混入はできるだけ少なくする必要がある。このため、精緻な解体作業によりプレス前の車体から銅を含む部位を除去しておくことで、Aプレスヘの銅混入を抑えている。
【0004】
例えば、特許文献1には、Aプレス中の各成分が許容範囲となるように除去部位を決定する方法が提案されている。これは、予め記憶された部品毎の成分情報に基づいて、どの部品を除去すれば、Aプレス中の銅元素の濃度が許容範囲に収まるかを決定するのものである。しかし、数多くの部品について成分情報を正確に把握することは困難である上、集計システムの規模も大きくなり、実用性がない。
【0005】
そこで、実際にAプレスを溶解して銅濃度を測定する方法が提案されている(非特許文献1参照)。この方法は、電気炉でスクラップを溶解させて銅濃度を測定した後、溶湯中にAプレスを投入溶融させて銅濃度を測定し、Aプレスの溶融前後における銅濃度の変化からAプレス中の銅含有量を算出するものである。
【特許文献1】特開2000−216250号公報
【非特許文献1】「平成15年度環境問題対策調査等に関する委託事業報告書 第4章 4.2溶融試験」財団法人金属系材料開発センター(平成16年3月発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この方法では、銅含有量の算出にあたって、2つの推定値(Aプレス中の鉄分の比率とその溶解歩留まり)を用いており、精度の良い測定とはいえない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、スクラップ中の特定元素含有量の測定精度を向上できる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、スクラップ中の特定元素の含有量を測定する方法であって、スクラップに含有されていない元素をマーカー元素として用い、まず、該マーカー元素を金属溶湯に添加してその濃度を測定し、次いで、金属溶湯にスクラップを投入して溶解させ、その状態で金属溶湯中のマーカー元素と特定元素の濃度を測定し、スクラップ溶解前後における金属溶湯中のマーカー元素の濃度変化からスクラップ溶解で増えた金属溶湯の重量を求め、該金属溶湯の重量変化とスクラップ溶解前後における特定元素の濃度変化とからスクラップ中の特定元素の含有量を求めることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、金属溶湯に投入されるスクラップにはマーカー元素は含まれていないので、スクラップの溶解前後における金属溶湯中のマーカー元素の濃度変化からスクラップ溶解で増えた金属溶湯の重量を算出し、この算出値と、スクラップ溶解前後における特定元素濃度の変化量とに基づいて、スクラップ中の特定元素の含有量を算出する。つまり、その算出にあたって、スクラップ中の主成分の比率やその溶解歩留まりなどの推定値は用いていないので、特定元素の含有量を正確に求めることができる。
【0010】
金属溶湯として主成分がスクラップと同じものを用いるのが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、スクラップの溶解による元素数の増加がなくなるので、スクラップ溶解後の溶湯を種湯として使用しても、測定精度が悪くなることはない。
【0012】
マーカー元素として、スクラップの溶解温度において脱炭により還元されるものを用いるのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、マーカー元素がスラグとして金属溶湯から分離されることはないので、金属溶湯中のマーカー元素の含有量が一定に保たれ、測定精度が低下することはない。
【0014】
スクラップが廃棄自動車のAプレスである場合、特定元素が銅であって、マーカー元素がモリブデン又はマンガンであるのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、Aプレス中の銅含有量の測定精度が良くなるので、自動車の解体に際し、除去すべき部位の選別が容易になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定元素の含有量の算出にあたって、スクラップ中の主成分の比率やその溶解歩留まりなどの推定値は用いていないので、スクラップ中の特定元素の含有量を正確に求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1はスクラップ中の銅含有量を測定する手順を示している。
まず、鋼材を溶融させて種湯を作製し、その銅濃度を測定しておく。炉に投入する鋼材は、スクラップの主要材料である鋼材を使用し、その重量を測っておく。
【0018】
次いで、マーカー元素としてのモリブデンまたはマンガンを種湯に添加し、その濃度を測定しておく。種湯に添加するマーカー元素は、スクラップ中に殆ど含まれていないもの(スクラップの銅含有量に比べて無視できるほど少ないもの)を選択し、その重量を測っておく。スクラップにはモリブデンやマンガンは殆ど含まれていないので、これらをマーカー元素とすればよい。なお、マーカー元素の添加量は濃度分析に影響のない量であればよい。
マーカー元素濃度の測定後の金属溶湯にスクラップを投入して溶解させる。そして、金属溶湯中の銅とモリブデンの濃度をそれぞれ測定する。
【0019】
スクラップ中の銅含有量は次のようにして求める。
いま、種湯の作製に際して、最初に炉に投入した鋼材の重量(鋼材に含まれる全ての成分の合計重量)をWsteelとし、種湯に添加したモリブデンの重量をWmoとすると、種湯のモリブデン濃度Cmoと、スクラップ溶解後のモリブデン濃度Wmo*は、次の式で求めることができる。
【0020】
【数1】

【0021】
【数2】

【0022】
これらの式からスクラップ溶解で増えた鋼材の重量(スクラップ中の鋼の含有量)Wsteel*を求めると、
【0023】
【数3】

【0024】
以上の結果からスクラップ溶解後の金属溶湯に含まれていた銅の重量Wcu*を求めると、
【0025】
【数4】

(Ccu*はスクラップ溶解後の金属溶湯の銅濃度)
よって、スクラップに含まれていた銅の重量Wcuは以下の式から求められる。
【0026】
【数5】

【0027】
そして、この値Wcuをスクラップの鋼含有量Wsteel*で除すと、スクラップ中の銅濃度を求めることができる。
【0028】
なお、測定後の、スクラップ溶解で増えた金属溶湯は次の測定の種湯として使えばよい。
【0029】
図3は金属酸化物の標準生成エネルギーと温度の関係を示している。
【0030】
同図において、酸化モリブデンと一酸化炭素の交差する点よりも高い温度では、酸化モリブデンが還元されるが、一酸化炭素が生成される。つまり、金属溶湯の温度(1600℃)では、鋼に含まれる炭素は酸化(脱炭)されるが、マーカー元素として添加したモリブデンには還元作用が働くため、モリブデンは、スラグとして金属溶湯から分離されることなく、溶湯中に元素単体で存在できるのである。
【0031】
以上の測定方法では、特定元素である銅の含有量の算出にあたって、スクラップ中の主成分の比率やその溶解歩留まりなどの推定値は用いていないので、スクラップ中の銅の含有量を正確に求めることができる。
【0032】
さらに、スクラップの主要材料である鋼材を溶融させて種湯を作製しているので、スクラップの溶解による元素数の増加がなくなり、スクラップ溶解後の溶湯を種湯として使用しても、測定精度が悪くなることはない。
【0033】
また、マーカー元素として、スクラップの溶解温度において脱炭により還元されるものを用いているので、マーカー元素がスラグとして金属溶湯から分離されることはない。このため、金属溶湯中のマーカー元素の含有量が一定に保たれ、測定精度が低下することはない。
【0034】
なお、以上の実施形態では、種湯を生成すべき鋼材の重量Wsteelを計測しているが、モリブデンの添加量Wmoとその濃度Cmoは既知であるので、最初の式から鋼材の重量Wsteelを算出してもよい。
【0035】
〔実施例〕
図2はAプレスの作製手順を示している。
【0036】
まず、一次解体では、使用済みの自動車からエンジンやタイヤ、バッテリーなどを取り外す。次の二次解体では、銅を多く含む電装部品を2つのカテゴリーに分類して取り外す。ここでは、電装部品は全く取り外さないで一次解体の状態にしておく場合と、一次解体の状態から分類2の電装部品だけを取り外す場合と、分類1,2の電装部品を全て取り外し、エアコン部品や車体装備だけを残した所謂「がら」状態にする場合に分けて作業する(図4参照)。そして、各カテゴリーの車体についてプレス処理によりAプレスを作製する。なお、Aプレスは2つの車種について作製するものとする。
【0037】
一方、種湯の作製にあたっては、攪拌装置を備えた高周波誘導炉に3000kgの鋼材を投入し、これを1650℃の温度で溶解させる(種湯の温度は1550〜1700℃であればよい)。この種湯にマーカー元素としてのモリブデンを添加してその濃度を0.5wt%にする。そして、800℃で乾留処理したAプレスを種湯に投入攪拌して溶解させ、その各成分の濃度を測定する(図5参照)。この濃度測定にはプラズマ発光分光分析装置を使用する。
【0038】
そして、種湯に「がら」「分類1」「分類2」の各カテゴリー毎のAプレスを順次投入していく。図5は各成分の濃度が変化する様子を示している。図6は溶湯重量と銅含有量が変化する様子を示している。図4はAプレスのカテゴリー毎の銅含有率を示している。つまり、この銅含有率が所定の範囲に収まるように2次解体で取り外すべき電装部品を決定すればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の銅含有量の測定手順を示す図。
【図2】Aプレスの作製手順を示す図。
【図3】金属酸化物の標準生成エネルギーと温度の関係を示す図。
【図4】Aプレスのカテゴリー毎の銅含有率の測定結果を示す図。
【図5】Aプレスの投入による溶湯の各成分の濃度変化を示す図。
【図6】Aプレスの投入による溶湯の重量と銅含有量の変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクラップ中の特定元素の含有量を測定する方法であって、スクラップに含有されていない元素をマーカー元素として用い、まず、該マーカー元素を金属溶湯に添加してその濃度を測定し、次いで、金属溶湯にスクラップを投入して溶解させ、その状態で金属溶湯中のマーカー元素と特定元素の濃度を測定し、スクラップ溶解前後における金属溶湯中のマーカー元素の濃度変化からスクラップ溶解で増えた金属溶湯の重量を求め、該金属溶湯の重量変化とスクラップ溶解前後における特定元素の濃度変化とからスクラップ中の特定元素の含有量を求めることを特徴とするスクラップの元素含有量測定方法。
【請求項2】
金属溶湯として主成分がスクラップと同じものを用いることを特徴とする請求項1に記載のスクラップの元素含有量測定方法。
【請求項3】
マーカー元素として、スクラップの溶解温度において脱炭により還元されるものを用いることを特徴とする請求項2に記載のスクラップの元素含有量測定方法。
【請求項4】
スクラップが廃棄自動車のAプレスである場合、特定元素が銅であって、マーカー元素がモリブデン又はマンガンであることを特徴とする請求項3に記載のスクラップの元素含有量測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−322190(P2007−322190A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150992(P2006−150992)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】