説明

スクリュージャッキ

【課題】 物品の上下位置の調整精度が高く、かつ物品を傷つけることがないスクリュージャッキを提供する。
【解決手段】 固定部11に対して上下方向の軸線Lを有するねじ機構11b,12aを介して螺合する昇降部12を回転させると、昇降部12が昇降してヘッド部13の支持面13aに支持したワークWを昇降させることができる。このとき、昇降部12の上面およびヘッド部13の下面間に軸線L方向のスラスト力を支持するスラストベアリング15を配置したので、昇降部12を回転させてもワークWの下面に支持面13aを当接させたヘッド部13は昇降部12に連れ回りすることはない。よって、ヘッド部13が回転して支持面13aに支持したワークWが移動するのを防止し、ワークWを安定した姿勢で昇降させることができなくなる不具合を解消できるだけでなく、ヘッド部13がワークWの下面を傷つけるのを未然に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベースと物品との間に配置され、物品のベースからの高さをねじ機構により調整するためのスクリュージャッキに関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを加工する際のレベリングや機械類を据え付ける際のレベリングに使用されるスクリュージャッキであって、台座に支持した本体部の嵌合孔に昇降ボルトを螺合し、昇降ボルトの上端に物品の下面を支持する円錐状あるいは円板状のアタッチメントを取り付け、昇降ボルトを回転させて本体部に対して昇降させることで、アタッチメントに支持した物品を昇降させるものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−155524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記従来のものは、アタッチメントを昇降ボルトに取り付ける際に、アタッチメントと昇降ボルトとの間の摩擦を低減する手段を備えていないため、昇降ボルトを回転させるとアタッチメントが連れ回りすることが避けられなかった。その結果、物品に面接触する円板状のアタッチメントを用いた場合には、回転するアタッチメントとの間に作用する摩擦によって物品が横方向に移動してしまい、物品の横方向の位置が定まらないだけでなく、レベリングの精度自体が低下してしまう問題があった。また物品に点接触する円錐状のアタッチメントを用いた場合には、回転するアタッチメントの先端に大きな荷重が集中するため、アタッチメントの先端によって物品の下面が傷つく可能性があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、物品の上下位置の調整精度が高く、かつ物品を傷つけることがないスクリュージャッキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、ベースに固定あるいは載置される固定部と、上下方向の軸線を有するねじ機構を介して前記固定部に螺合し、該固定部の上面に対して昇降する昇降部と、前記軸線上に配置された回転軸によって前記昇降部の上面に回転自在に支持され、物品の下面に当接可能な支持面が形成されたヘッド部と、前記昇降部の上面および前記ヘッド部の下面間に配置されて前記軸線方向のスラスト力を支持する第1転がり軸受けとを備えることを特徴とするスクリュージャッキが提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記固定部は前記ベースに形成した雌ねじ部に螺合する雄ねじ部を備えることを特徴とするスクリュージャッキが提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記ベースは前記雌ねじ部を複数備えることを特徴とするスクリュージャッキが提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記回転軸は前記ヘッド部を貫通して前記昇降部に螺合するボルトであり、前記ボルトの頭部と前記ヘッド部との間に前記軸線方向のスラスト力を支持する第2転がり軸受けを備えることを特徴とするスクリュージャッキが提案される。
【0010】
尚、実施の形態のワークWは本発明の物品に対応し、実施の形態の雌ねじ部11bおよび雄ねじ部12aは本発明のねじ機構に対応し、実施の形態のボルト14は本発明の回転軸に対応し、実施の形態の第1スラストベアリング15は本発明の第1転がり軸受けに対応し、実施の形態の第2スラストベアリング16は本発明の第2転がり軸受けに対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、ベースに固定あるいは載置した固定部に対して上下方向の軸線を有するねじ機構を介して螺合する昇降部を回転させると、固定部に対して昇降部が昇降することで、ヘッド部の支持面に支持した物品をベースに対して昇降させることができる。このとき、昇降部の上面およびヘッド部の下面間に軸線方向のスラスト力を支持する転がり軸受けを配置したので、昇降部を回転させても物品の下面に支持面を当接させたヘッド部は昇降部に連れ回りすることはない。よって、ヘッド部が回転して支持面に支持した物品が移動するのを防止し、物品を安定した姿勢で昇降させることができなくなる不具合を解消できるだけでなく、ヘッド部が物品の下面を傷つけるのを未然に防止することができる。
【0012】
また請求項2の構成によれば、ベースに形成した雌ねじ部に螺合する雄ねじ部を固定部に設けたので、ベースに固定部を簡単かつ確実に固定してスクリュージャッキの望ましくない移動を防止することができる。
【0013】
また請求項3の構成によれば、ベースに複数の雌ねじ部を設けたので、物品の形状に応じてスクリュージャッキの位置を容易に調整することができる。
【0014】
また請求項4の構成によれば、ヘッド部を貫通して昇降部に螺合するボルトで回転軸を構成したので、ヘッド部を昇降部に対して回転自在に支持しながら、ヘッド部を昇降部に容易に着脱することができる。しかも、ボルトの頭部とヘッド部との間に軸線方向のスラスト力を支持する第2転がり軸受けを配置したので、ボルトとヘッド部との間に発生する摩擦力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】スクリュージャッキを用いたワークのレベリング装置の斜視図。
【図2】図1の2方向矢視図。
【図3】図2の3−3線拡大断面図。
【図4】図2の4部拡大断面図。
【図5】ワークのレベリング工程の作用説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図5に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1〜図3に示すように、スクリュージャッキJは、固定部11、昇降部12およびヘッド部13を下から上に積層して構成され、全体として上下方向の軸線Lを有する円柱状をなしている。下段に位置する固定部11は、下面から下向きに突出する雄ねじ部11aと、上面に開口する雌ねじ部11bとを備える。中段の昇降部12は、下面から下向きに突出して固定部11の雌ねじ部11bに螺合する雄ねじ部12aと、上面の外周部から上向きに突出する外周段部12bと、上面から下面へと貫通する雌ねじ部12cとを備える。上段のヘッド部13の上面は平坦な支持面13aを構成しており、支持面13aに開口する凹部13bの底面から下向きに延びるボルト孔13cが下面へと貫通する。またヘッド部13は、下面外周部から上向きに窪む外周段部13dと、下面内周部から下向きに突出する内周段部13eとを備える。
【0018】
固定部11の雄ねじ部11aおよび雌ねじ部11bと、昇降部12の雄ねじ部12aおよび雌ねじ部12cと、ヘッド部13の凹部13bおよびボルト孔13cとは、全てスクリュージャッキJの軸線L上に同軸に配置される。
【0019】
ヘッド部13の上面の凹部13bから挿入されたボルト14が、ボルト孔13cを貫通して昇降部12の雌ねじ部12cに螺合することで、このボルト14を回転軸として昇降部12の上面にヘッド部13が軸線Lまわりに回転自在に支持される。昇降部12の上面および外周段部12bと、ヘッド部13の下面および内周段部13eとに囲まれた環状の空間に、昇降部12およびヘッド部13間に軸線L方向に作用するスラスト力を支持する第1スラストベアリング15が配置される。またボルト14の頭部14aとヘッド部13の凹部13bの底壁との間に、ボルト14およびヘッド部13間に軸線L方向に作用するスラスト力を支持する第2スラストベアリング16が配置される。ボルト14の締結力で第2スラストベアリング16のスムーズな回転が阻害されないように、ボルト14の段部14bが昇降部12の上面に当接することで、ボルト14の螺合量が規制される。
【0020】
円板状のベースBは、その中心に対して放射方向および円周方向に整列した複数の雌ねじ部17…を備える。スクリュージャッキJの固定部11の下面から突出する雄ねじ部11aをベースBの何れかの雌ねじ部17に螺合することで、スクリュージャッキJをベースBの任意の位置に移動不能に固定することができる。
【0021】
図4から明らかなように、ベースBに固定されるクランプCは、支点ガイド18と、支点ロッド19と、クランプアーム20と、ボルト21とで構成される。支点ガイド18は、その下面から下向きに突出する雄ねじ部18aをベースBの雌ねじ部17…の何れかに螺合することで、ベースB上の任意に位置に固定される。支点ロッド19は、下部に形成されて支点ガイド18の上面に開口する雌ねじ部18bに螺合する雄ねじ部19aと、上部に形成されたフランジ19bと、フランジ19bの上面から突出するピン19cとを備える。クランプアーム20は、一端に形成されて前記支点ロッド19のピン19cに係合可能なピン孔20aと、他端に形成された押圧部20bと、中間部に長手方向に形成された長孔20cとを備える。ボルト21はクランプアーム20の長孔20cを貫通し、ベースBの雌ねじ部17…の何れかに螺合する。
【0022】
次に、上記構成を備えた実施の形態の作用を説明する。
【0023】
先ず、加工するワークWの形状に合わせて、3個のスクリュージャッキJ…の固定部11…の雄ねじ部11a…をベースBの何れかの雌ねじ部17…に螺合することで、スクリュージャッキJ…をベースBに固定する。従って、3個のスクリュージャッキJ…のヘッド部13…の支持面13a…にワークWの外周部の下面を支持する。
【0024】
この状態で、各スクリュージャッキJの昇降部12を固定部11に対して回転させると、固定部11の雌ねじ部11bおよび昇降部12の雄ねじ部12aの相対回転によって固定部11に対して昇降部12およびヘッド部13が一体に昇降し、ヘッド部13の支持面13aに支持したワークWの外周部の上下位置が微調整される。
【0025】
ヘッド部13は昇降部12に対してボルト14まわりに回転自在に支持されており、かつ第1、第2スラストベアリング15,16を設けたことで昇降部12からヘッド部13に伝達されるフリクションが極めて小さくなるため、ワークWの下面に接触するヘッド部13は回転せず、昇降部12だけが回転してワークWを昇降させることができる。
【0026】
昇降部12を回転させたときにヘッド部13が回転しないので、ヘッド部13がワークWの下面に対して滑ることが防止され、ワークWは横方向に移動することなく上下位置だけを精度良く微調整することができる。特に、固定部11の雌ねじ部11bおよび昇降部12の雄ねじ部12aの軸線L上に、ヘッド部13の回転軸であるボルト14が配置されているので、昇降部12を回転させたときにボルト14が偏心回転することがなく、これによりヘッド部13が軸線Lまわりに偏心回転しないようにし、ヘッド部13がワークWに対して滑って位置がずれるのを確実に防止することができる。
【0027】
またヘッド部13は比較的に柔らかいアルミニウム製であり、しかも支持面13aは平坦に形成されているため、重量の大きい鉄系のワークWを支持した場合であっても、ワークWの下面を傷つけることがない。
【0028】
しかして、図5に示すように、ベースBの上面に載置したハイトゲージGのピック22をワークWの上面の複数個所に接触させて高さを測定しながら.3個のスクリュージャッキJ…のヘッド部13…の高さを微調整することで、ワークWの上面をベースBと平行にレベリングすることができる。
【0029】
このようにしてワークWのレベリングが完了すると、クランプCの支点ガイド18の雄ねじ部18aをベースBの多数の雌ねじ部17…の何れかに螺合して固定した状態で、支点ガイド18の雌ねじ部18bに雄ねじ部19aが螺合する支点ロッド19を回転させることで、支点ロッド19のフランジ19bの上面をワークWの上面と略同じ高さに調整する。続いてクランプアーム20の一端のピン孔20aを支点ロッド19のピン19cに係合させるとともに、クランプアーム20の他端の押圧部20bをスクリュージャッキJの近傍のワークWの上面に当接させた状態で、クランクアーム20の長孔20cを貫通するボルト21をベースBの多数の雌ねじ部17…の何れかに螺合することで、スクリュージャッキJのヘッド部13およびクランプアーム20の押圧部20b間にワークWを挟持して固定する。
【0030】
このように3個のクランプC…でワークWをベースBに固定することで、工作機械でワークWの上面を精度良く加工することができる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0032】
例えば、実施の形態ではスクリュージャッキJを専用のベースBと組み合わせて使用しているが、本発明のベースBは汎用性のあるテーブル、定盤、床面等であっても良い。この場合、スクリュージャッキJはベースBに固定するための雄ねじ部11aを備える必要はなく、ベースB上に載置するだけでも良い。
【0033】
また回転軸(実施の形態のボルト14)とヘッド部13との間にラジアルベアリングを配置しても良く、このようにすればヘッド部13が回転する際の摩擦を更に低減することができる。
【0034】
また本発明の物品は実施の形態のワークWに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0035】
B ベース
L 軸線
W ワーク(物品)
11 固定部
11a 雄ねじ部
11b 雌ねじ部(ねじ機構)
12 昇降部
12a 雄ねじ部(ねじ機構)
13 ヘッド部
13a 支持面
14 ボルト(回転軸)
14a 頭部
15 第1スラストベアリング(第1転がり軸受け)
16 第2スラストベアリング(第2転がり軸受け)
17 雌ねじ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース(B)に固定あるいは載置される固定部(11)と、
上下方向の軸線(L)を有するねじ機構(11b,12a)を介して前記固定部(11)に螺合し、該固定部(11)の上面に対して昇降する昇降部(12)と、
前記軸線(L)上に配置された回転軸(14)によって前記昇降部(12)の上面に回転自在に支持され、物品(W)の下面に当接可能な支持面(13a)が形成されたヘッド部(13)と、
前記昇降部(12)の上面および前記ヘッド部(13)の下面間に配置されて前記軸線(L)方向のスラスト力を支持する第1転がり軸受け(15)と、
を備えることを特徴とするスクリュージャッキ。
【請求項2】
前記固定部(11)は前記ベース(B)に形成した雌ねじ部(17)に螺合する雄ねじ部(11a)を備えることを特徴とする、請求項1に記載のスクリュージャッキ。
【請求項3】
前記ベース(B)は前記雌ねじ部(17)を複数備えることを特徴とする、請求項2に記載のスクリュージャッキ。
【請求項4】
前記回転軸は前記ヘッド部(13)を貫通して前記昇降部(12)に螺合するボルト(14)であり、前記ボルト(14)の頭部(14a)と前記ヘッド部(13)との間に前記軸線(L)方向のスラスト力を支持する第2転がり軸受け(16)を備えることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のスクリュージャッキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−131945(P2011−131945A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290181(P2009−290181)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)