説明

スクリュー羽根の肉盛溶接方法

【課題】長尺のスクリューコンベアを、背の高くない通常の建屋内において効率的に耐摩耗肉盛溶接する。
【解決手段】
スクリューコンベア1をスクリュー軸2が略水平方向となるように設置し、前記スクリュー軸2周りに回転させながら、溶接トーチ21のトーチ先端22を前記スクリューコンベア1のスクリュー羽根3の羽根側面4に対して水平横向き方向に向けて前記羽根側面4を耐摩耗肉盛するアーク溶接方法であって、直径1.2mmから1.6mmの範囲の溶接ワイヤ23を用いて、2KJ/cmから9KJ/cmの範囲の入熱量にて溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリューコンベアのスクリュー羽根の肉盛溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ごみ、木材チップ、樹脂、土砂などの搬送、攪拌、混合、混練、減容などのために、10mを超える長尺のスクリューコンベアが用いられるようになってきた。このスクリューコンベア、特にそのスクリュー羽根は摩耗が激しい。そこで、その寿命を延ばすため、スクリュー羽根の側面などに耐摩耗肉盛溶接をして補修する場合がある。
この場合、高クロム鋳鉄系溶接材料を使用した耐摩耗肉盛自動溶接においては、溶融池の湯流れがよいためにビードが垂れ落ちてしまう結果、良好な溶接ビードを得るためには、その溶接姿勢を鉛直方向下向きにしなければならなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の技術では、長尺のスクリューコンベアを溶接する場合には、スクリューコンベアのスクリュー軸を立てて、鉛直方向下向きに溶接しなければならなかった。このため、極めて背の高い建屋内で行う必要があり、またこのため、溶接の作業効率が悪いという欠点があった。本発明は、長尺のスクリューコンベアを、背の高くない通常の建屋内において効率的に耐摩耗肉盛溶接することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の溶接方法は、スクリューコンベア1をスクリュー軸2が略水平方向となるように設置し、前記スクリュー軸2周りに回転させながら、溶接トーチ21のトーチ先端22を前記スクリューコンベア1のスクリュー羽根3の羽根側面4に対して水平横向き方向に向け、前記羽根側面4を耐摩耗肉盛するアーク溶接方法であって、直径1.2mmから1.6mmの範囲の溶接ワイヤ23を用いて、2KJ/cmから9KJ/cmの範囲の入熱量にて溶接することを特徴とするスクリュー羽根の肉盛溶接方法である。
また、入熱量は4KJ/cmから6KJ/cmの範囲であることを特徴とするスクリュー羽根の肉盛溶接方法である。
また、第2の溶接トーチのトーチ先端を前記羽根側面4の裏側である羽根裏側側面6に対して水平横向き方法に向け、前記羽根裏側側面6を前記羽根側面4と同時に耐摩耗肉盛溶接するスクリュー羽根の肉盛溶接方法である。
また、前記溶接ワイヤ23は高クロム鋳鉄系溶接材料よりなるフラックスコアードワイヤであるスクリュー羽根の肉盛溶接方法である。
また、前記羽根側面4を倣って、前記溶接トーチ21とスクリュー羽根3との間隔を一定にするように前記溶接トーチ21を移動させながら溶接するスクリュー羽根の肉盛溶接方法である。
また、溶接電流値を検出し、該溶接電流値が所定値よりも減少するときには、前記トーチ先端22をスクリュー羽根3に近づくように移動させ、該溶接電流値が所定値よりも増加するときには、前記トーチ先端22をスクリュー羽根3に遠ざかるように移動させ、溶接ワイヤ23の先端部とスクリュー羽根の溶接ビード31間の距離を調整しつつ溶接するスクリュー羽根の肉盛溶接方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、スクリュー羽根の羽根側面を水平横方向の姿勢によって溶接することができるため、スクリューコンベアを水平方向に置いて溶接することができる。これにより、高い建屋を用意することなく、かつ作業効率よく溶接歪の少ない肉盛溶接ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は、スクリュー羽根の羽根側面に対して溶接トーチを水平横向き方向に向けて耐摩耗肉盛アーク溶接する方法の外観図である。
スクリューコンベア1は、そのスクリュー軸2が水平方向となるように架台などに設置されている。スクリューコンベアは、図示しないモータなどにより、所定の溶接速度で溶接されるよう、スクリュー軸2回りに回転している。スクリューコンベア1には、円筒状のスクリュー軸2にスクリュー羽根3が、螺旋状に巻きつけられている。したがって、羽根側面4はスクリュー軸に対して垂直方向に、スクリュー羽根の天面5は軸の放射方向に向いている。
【0007】
通常、このスクリュー羽根は、次のように製作される。すなわちリング状の板材をその直径方向に1箇所切断し、両端部を板材の厚み方向に1ピッチ分伸ばしてバネ座金状とし、スクリュー軸に巻きつけ、これに溶接する。この溶接を繰り返すことにより、スクリュー羽根はスクリュー軸に対し直角方向に伸び、かつ螺旋状ないしスクリュー状に巻きつけられる。一つのスクリューでも羽根の直径が一定でないもの、スクリュー羽根のピッチが一定でないものもある。例えば、図1に示すように、最右の羽根間のピッチP1がその他の羽根間のピッチP2よりも狭い場合がある。
【0008】
スクリューコンベアの材料には、種々のものが用いられているが、炭素鋼及びステンレス鋼である場合が多い。
【0009】
このスクリューコンベアには、自動溶接機10がこれに並行に設置されている。自動溶接機10には、アーク溶接機20が取り付けられ、アーク溶接機20には、トーチ21及び溶接ワイヤ23を供給するワイヤ供給装置24が設けられる。
トーチ21は、そのトーチ先端22が水平・横向き方向、すなわち羽根側面4に対し直交方向に向かっている。トーチ先端22は、水平・横向きであれば良く、図の左右どちら向きでも良い。すなわち溶接するにしたがって、図のようにトーチ先端が後退するようにしても良いし、あるいはトーチ先端が前進するようにしても良い。
【0010】
自動溶接機10のキャリッジ11がX軸12を移動し、Y軸13がキャリッジ11を移動することにより、溶接トーチ21がX軸Y軸方向に移動制御される。スクリュー軸2が回転するので、トーチ21はY軸方向に上下に移動しつつ、X軸方向に移動することにより、溶接が進み完了することとなる。
溶接ワイヤ23はフラックスコアードワイヤが望ましいが、ソリッドワイヤであってもよい。この溶接ワイヤの材料としては、摩耗性に優れるクロムを10%から30%を含む高クロム鋳鉄系溶接材料を用いる。
【0011】
また、図1の場合にも、次図(図2)のように、倣い機構25を設けて、自動溶接をすることができる。
【0012】
また、スクリュー羽根側面4を溶接後、引き続き、その裏側であるスクリュー羽根裏側側面6を溶接することができる。これを交互に繰り返すことにより、溶接歪を低減することができる。羽根裏側側面6を溶接する場合には、トーチ先端22を図の反対方向に向けて溶接する。
さらに、前記アーク溶接機20とともに、図示しない第2のアーク溶接機を自動溶接機10に設け、該第2のアーク溶接機に、第2のトーチ及び溶接ワイヤを供給するワイヤ供給装置を設け、羽根側面4とその裏側である羽根裏側側面6を同時に溶接することができる。すなわち、溶接しているスクリュー羽根4の反対面である羽根裏側側面6に第2のトーチを水平横向きかつ第1のトーチの向きとは反対方向に向け、前記羽根裏側側面6と羽根側面4を同時に溶接することができる。これにより、溶接歪を低減することができる。
【0013】
図2は、スクリュー羽根の近傍のスクリュー軸表面7を溶接面とする場合である。羽根側面4を倣い機構25によって倣いつつ、トーチ21を垂直・下向きに向けて溶接する。スクリュー羽根の天面5を溶接する場合にも、同様に、トーチ先端22を下向きに向けて溶接する。
図2のその他の構成は、図1と同様である。
【0014】
図3は、自動調節機構の説明図である。溶接の際には、溶接ワイヤ23の先端21とビード31の間にアーク30が発生するが、その部分の長さ、すなわち突き出し長さ(E1、E2)を自動調節する機構により、突き出し長さを調整することが望ましい。突き出し長さE1の同図(a)の状態から、突き出し長さE2の同図(b)の状態に変化すると、ジュール熱を一定にするよう電流値がI1からI2に減少する。この電流値の減少を検出することにより、溶接トーチ21を被溶接体(スクリュー羽根の羽根側面など)に近づくように移動させて突き出し長さE1とすることにより(同図(C))、突き出し長さを調節する。これによりスキュリュー羽根上に均一なビード31が得られることとなる。
【0015】
図4は、ワイヤ直径1.6mmを用い、入熱量をパラメータとした溶接試験を実施した際の溶接部の目視による外観評価とその写真を示すものである。図5は、ワイヤ直径1.2mmを用い、入熱量をパラメータとした溶接試験を実施した際の溶接部の目視による外観評価とその写真を示すものである。図中の×が不良、△は良、○は最良を意味する。
ワイヤ直径1.6mmでは入熱量2KJ/cmから9KJ/cmにおいて良好なビードが得られた。これに対して2KJ/cm未満とすると不整ビードとなる。9KJ/cmを超えるとビードが垂れ落ちる。このうち最も外観が良好なビードが得られたのは4〜6KJ/cmであった。
また、同様に、ワイヤ直径1.2mmでも入熱量2KJ/cmから9KJ/cmにおいて良好なビードが得られた。最も外観が良好なビードが得られたのは4〜6KJ/cmであった。
また、1.6mm以上の太径のワイヤ(例えば2.8mm)を用いると、入熱量を調整してもアンダーカットが生じて、外観は不良であった。
【0016】
なお、これらの試験は、溶接材料として 5%C−25Cr−他 を用い、次の試験条件でなされた。
(1.6mm径)
溶接電流I:270A、電圧E:25V、ワイヤ供給速度6.0m/min
(1.2mm径)
溶接電流I:210A、電圧E:25V、ワイヤ供給速度8.0m/min
【0017】
また、入熱量H(KJ/cm)は次式により求められた。
【数1】

【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態に係る羽根側面の溶接方法の外観図である。
【図2】本実施形態に係るスクリュー軸表面の溶接方法の外観図である。
【図3】自動調節機構の説明図である。
【図4】ワイヤ直径1.6mmの場合の試験結果である。
【図5】ワイヤ直径1.2mmの場合の試験結果である。
【符号の説明】
1 スクリューコンベア
2 スクリュー軸
3 スクリュー羽根
4 羽根側面
6 羽根裏側側面
21 溶接トーチ
22 トーチ先端
23 溶接ワイヤ
31 溶接ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリューコンベアをスクリュー軸が略水平方向となるように設置し、前記スクリュー軸周りに回転させながら、溶接トーチのトーチ先端を前記スクリューコンベアのスクリュー羽根の羽根側面に対して水平横向き方向に向け、前記羽根側面を耐摩耗肉盛するアーク溶接方法であって、直径1.2mmから1.6mmの範囲の溶接ワイヤを用いて、2KJ/cmから9KJ/cmの範囲の入熱量にて溶接することを特徴とするスクリュー羽根の肉盛溶接方法。
【請求項2】
前記入熱量は4KJ/cmから6KJ/cmの範囲であることを特徴とするスクリュー羽根の肉盛溶接方法。
【請求項3】
第2の溶接トーチのトーチ先端を前記羽根側面の裏側である羽根裏側側面に対して水平横向き方法に向け、前記羽根裏側側面を前記羽根側面と同時に耐摩耗肉盛溶接する請求項1及び2記載のスクリュー羽根の肉盛溶接方法。
【請求項4】
前記溶接ワイヤは高クロム鋳鉄系溶接材料よりなるフラックスコアードワイヤである請求項1ないし3記載のスクリュー羽根の肉盛溶接方法。
【請求項5】
前記羽根側面を倣って、前記溶接トーチとスクリュー羽根との間隔を一定にするように前記溶接トーチを移動させながら溶接する請求項1ないし4記載のスクリュー羽根の肉盛溶接方法。
【請求項6】
溶接電流値を検出し、該溶接電流値が所定値よりも減少するときには、前記トーチ先端をスクリュー羽根に近づくように移動させ、該溶接電流値が所定値よりも増加するときには、前記トーチ先端をスクリュー羽根に遠ざかるように移動させ、溶接ワイヤの先端部とスクリュー羽根の溶接ビード間の距離を調整しつつ溶接する請求項1ないし5記載のスクリュー羽根の肉盛溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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