説明

スクリュ圧縮機

【課題】スライド弁を駆動する油圧シリンダのピストン径を増大や油圧の上昇によることなく、スライド弁の動作を迅速化し、容量制御の応答性の改善を可能としたスクリュ圧縮機を提供する。
【解決手段】スクリュロータ12の軸心と平行な方向に進退可能に設けられたスライド弁13により容量調節されるスクリュ圧縮機1において、スライド弁13を進退させる第1,第2油圧シリンダ23,26が、スライド弁13に対して互いに同期して、かつ同一方向に駆動力付与可能に配置された構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量調節のためのスライド弁を備えたスクリュ圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スライド弁により容量調節するようにしたスクリュ圧縮機は公知である(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【特許文献1】特公平5−12557号公報
【特許文献2】特開平7−103165号公報
【特許文献3】特開平11−82341号公報
【0003】
特許文献1〜3には、単一の油圧シリンダによりスライド弁を進退させるスクリュ圧縮機が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記容量調節用スライド弁の動作は、吐出された圧縮ガスの消費量の変化に対応して、過不足なく圧縮ガスの要求量を満たすように応答性に優れているのが望ましいが、通常の油圧の場合、単一の油圧シリンダで駆動されるスライド弁は緩慢な動作となり、容量制御に対する応答性が悪いという問題がある。
【0005】
この応答性を改善しようとすれば、上記スライド弁を駆動する力を増大させる必要があり、そのためには、油圧シリンダのピストン径を大きくするか、油圧を上昇させる加圧手段を付加することが考えられる。しかしながら、このピストン径は、構造上、大きくするにも限界があり、油圧を上昇させる加圧手段の付加は設備の複雑化を強いられるという問題を招く。
【0006】
本発明は、斯かる従来の問題をなくすことを課題としてなされたもので、スライド弁を駆動する油圧シリンダのピストン径を増大や油圧の上昇によることなく、スライド弁の動作を迅速化し、容量制御の応答性の改善を可能としたスクリュ圧縮機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、第1発明は、スクリュロータの軸心と平行な方向に進退可能に設けられたスライド弁により容量調節されるスクリュ圧縮機において、上記スライド弁を進退させる複数の油圧シリンダが、上記スライド弁に対して互いに同期して、かつ同一方向に駆動力付与可能に配置された構成とした。
【0008】
第2発明は、第1発明の構成に加えて、上記複数の油圧シリンダが、上記スライド弁の吸込み側に配置された第1油圧シリンダと、上記スライド弁の吐出側に配置された第2油圧シリンダとから構成した。
【0009】
第3発明は、第1発明の構成に加えて、上記複数の油圧シリンダが、上記スライド弁の吸込み側に配置された第1油圧シリンダと、この第1油圧シリンダに直列に結合された第2油圧シリンダとから構成した。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、油圧シリンダのピストン径を増大させた場合のような構造上の問題や油圧を上昇させる加圧手段の付加による設備の複雑化を招くことなく、スライド弁に対する駆動力を強化して、その動作を迅速化し、容量制御の応答性を改善することが可能になるという効果を奏する。
【0011】
第2発明によれば、第1発明による効果に加えて、スライド弁が第1、第2油圧シリンダ間に位置し、両側で支えられている故、スライド弁が第1、第2油圧シリンダの軸心に直交する方向に変位し難くなっており、スライド弁がこの側面を囲む壁面やスクリュロータに対して異常な摺接状態になることが防止されるという効果を奏する。
【0012】
第3発明によれば、第1発明による効果に加えて、第1、第2油圧シリンダが直列に結合されている故、第1、第2油圧シリンダに対する油圧配管がコンパクトにまとまり易くなるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は本発明に係るスクリュ圧縮機1を示し、このスクリュ圧縮機1は、ケーシング11内に回転可能に収容された互いに噛み合う雌雄一対のスクリュロータ12、即ち雌ロータF,雄ロータMと、スクリュロータ12の軸心に平行な方向に進退可能に収容されたスライド弁13とを有している。このケーシング11の一方には吸込口14,他方に吐出口15、この両者間にロータ室16が形成され、このロータ室16にスクリュロータ12が収容されている。雄ロータMの吸込み側に突出したロータ軸17は図示しないモータにより回転させられ、このロータ軸17を介してスクリュロータ12が回転させられる。
【0014】
なお、一点鎖線より上部が雄ロータMの位置する部分の鉛直方向の断面で、一点鎖線より下部が雌ロータFの位置する部分の鉛直方向の断面となっている。図1に示す雄ロータM、雌ロータFは、両者の相違が理解し得るように概念的に描かれており、本発明は図示する形状に何等限定されるものではない。また、雌ロータFを支持するロータ軸や軸受については本発明の構成に関わるものでなく、図示するのを省略している。
【0015】
ロータ室16に隣接して、ロータ室16に開口した弁作動空間18が形成され、この弁作動空間18内にスライド弁13が収容されている。スライド弁13のスクリュロータ12に近接して対向する面S1は、雌ロータFと雄ロータMとの噛み合い部の両側に延び、ロータ室16の壁面の一部をなす形状に形成されている。同様に、スクリュロータ12に近接して対向する面S2が、雌ロータFと雄ロータMとの噛み合い部の両側に延び、ロータ室16の壁面の一部をなす形状に形成されたストッパ19が弁作動空間18の吸込み側に突設されている。なお、吸込口14は、図面には表れていないが、現実にはロータ軸17の下方にまで広がっており、弁作動空間18の吸込み側の空間部分18aは、ロータ室16を介することなく、この下方に広がった部分に開口している。
【0016】
スライド弁13の吸込み側にはピストン21及びピストンロッド22を有し、スクリュロータ12の軸心に平行な方向に伸縮する第1油圧シリンダ23が配置され、スライド弁13の吐出側にはピストン24及びピストンロッド25を有し、上記軸心に平行な方向に伸縮する第2油圧シリンダ26が配置されている。また、スライド弁13の吸込み側の端部にピストンロッド22が結合し、スライド弁13の吐出側の端部にピストンロッド25が結合している。
【0017】
一方、第1油圧シリンダ23及び第2油圧シリンダ26が逆止弁付き流量調整弁31,32、4ポート3位置切換弁33を介して油圧源34、油タンク35に配管により接続される油圧回路が設けられている。なお、図1において、図を見やすくするために配管の一部の図示が省略されており、実際には、符号X同士は連続し、符号Y同士も連続している。
【0018】
図示するように、スライド弁13が吐出側に、即ち図1において左方に作動する場合に油圧が作用するピストン21の右方のシリンダ内空間Iとピストン24の右方のシリンダ内空間IIとは配管により連通状態にあり、スライド弁13が吸込み側に、即ち右方に作動する場合に油圧が作用するピストン21の左方のシリンダ内空間IIIとピストン24の左方のシリンダ内空間IVとは配管により連通状態になっている。これにより、第1油圧シリンダ23のピストンロッド22と第2油圧シリンダ26のピストンロッド25とが同期して同一方向に作動させられるようになっている。
【0019】
そして、スライド弁13が図1において実線で示す位置にある場合、即ちスライド弁13がストッパ19に当接している場合、スライド弁13とストッパ19との間には隙間がなく、スクリュ圧縮機1はロード(全負荷)運転の状態にあり、吸込口14からスクリュロータ12に吸込まれたガスの全量が圧縮されて吐出口15に吐出される。この状態での圧縮ガスの吐出量が最大となる。図1に示す4ポート3位置切換弁33の状態では、このロード運転の状態が維持される。
【0020】
これに対して、4ポート3位置切換弁33で流路切換えが行われ、油圧源34がシリンダ内空間I,IIに連通し、油タンク35がシリンダ内空間III,IVに連通することにより、第1油圧シリンダ23のピストン21及びピストンロッド22と、第2油圧シリンダ26のピストン24及びピストンロッド25とが同期して作動してスライド弁13が吐出側、即ち左方に移動し、スライド弁13とストッパ19との間に隙間が生じ、スクリュ圧縮機1はアンロード(部分負荷、最小負荷)運転の状態に移行して容量調節が行われる。部分負荷運転時には、吸込口14からスクリュロータ12に吸込まれたガスの一部がスライド弁13とストッパ19との間に隙間から弁作動空間18の吸込み側の空間部分18aを経て吸込口14に戻り、吸込まれたガスの上記一部を除く残りが圧縮され吐出口15に吐出される。スライド弁13が、図1において二点鎖線で示す位置にあるとき、スクリュ圧縮機1はアンロードの極限の状態である最小負荷運転状態となり、吸込口14からスクリュロータ12に吸込まれたガスの大部分がスライド弁13とストッパ19との間に隙間から弁作動空間18の吸込み側の空間部分18aを経て吸込口14に戻る。なお、最小負荷運転のことをミニマムロード運転と呼称したり、無負荷に近いことから、単に無負荷運転とも呼称する。
【0021】
その後、容量調節のため、4ポート3位置切換弁33での流路切換えが行われ、油圧源34がシリンダ内空間III,IVに連通し、油タンク35がシリンダ内空間I,IIに連通する結果、第1油圧シリンダ23のピストン21及びピストンロッド22と、第2油圧シリンダ26のピストン24及びピストンロッド25とが同期して作動してスライド弁13が吸込み側、即ち右方に移動して、スライド弁13とストッパ19との間の隙間がなくなり、上述したロード運転状態が形成される。
【0022】
このようにスクリュ圧縮機1では、同期作動して、スライド弁13に対して同一方向に駆動力を付与する第1,第2油圧シリンダ23,26が設けてあるため、単一の油圧シリンダのみを用いてそのピストン径を増大させた場合のような構造上の問題や油圧を上昇させる加圧手段の付加による設備の複雑化を招くことなく、スライド弁13に対する駆動力を強化して、その動作を迅速化し、容量制御の応答性を改善することができるようになっている。
【0023】
また、このスクリュ圧縮機1では、スライド弁13が第1、第2油圧シリンダ23,26間に位置し、両側で支えられている故、スライド弁13が第1、第2油圧シリンダ23,26の軸心に直交する方向に変位し難くなっており、スライド弁13がこの側面を囲む壁面やスクリュロータ12に対して異常な摺接状態になることが防止される。
【0024】
図2は本発明に係る他のスクリュ圧縮機2を示し、図2において上述したスクリュ圧縮機1と互いに共通する部分については、図1における符号と同一符号が用いられており、この共通する部分についての説明は省略する。
このスクリュ圧縮機2では、第2油圧シリンダ26は、第1油圧シリンダ23の底部側に、第1油圧シリンダ23に直列に結合されている。
【0025】
そして、斯かる構成により、上記同様、ピストン径を増大させた場合の問題、油圧を上昇させた場合の問題を回避しつつ、スライド弁13に対する駆動力を強化して、その動作を迅速化し、容量制御の応答性を改善するのに加えて、第1、第2油圧シリンダ23,26が直列に結合されている故、第1、第2油圧シリンダ23,26に対する油圧配管がコンパクトにまとまり易くなっている。
【0026】
なお、本発明はスライド弁13を駆動させる複数の油圧シリンダの数を2に限定するものでなく、これらの油圧シリンダを配置する位置をスライド弁13の吸込み側にするか、吐出側にするかについても何等限定するものではない。従って、第1油圧シリンダ23についても、必ずしもスライド弁13の吸込み側に設ける必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るスクリュ圧縮機の全体構成の概略を示す図である。
【図2】本発明に係る他のスクリュ圧縮機の全体構成の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1,2 スクリュ圧縮機
11 ケーシング
12 スクリュロータ
13 スライド弁
14 吸込口
15 吐出口
16 ロータ室
17 ロータ軸
18 弁作動空間
18a 空間部分
19 ストッパ
21 ピストン
22 ピストンロッド
23 第1油圧シリンダ
24 ピストン
25 ピストンロッド
26 第2油圧シリンダ
31,32 逆止弁付き流量調整弁
33 4ポート3位置切換弁
34 油圧源
35 油タンク
F 雌ロータ
M 雄ロータ
S1,S2 面
I,II,III,IV シリンダ内空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュロータの軸心と平行な方向に進退可能に設けられたスライド弁により容量調節されるスクリュ圧縮機において、上記スライド弁を進退させる複数の油圧シリンダが、上記スライド弁に対して互いに同期して、かつ同一方向に駆動力付与可能に配置されたことを特徴とするスクリュ圧縮機。
【請求項2】
上記複数の油圧シリンダが、上記スライド弁の吸込み側に配置された第1油圧シリンダと、上記スライド弁の吐出側に配置された第2油圧シリンダとから構成されたことを特徴とする請求項1に記載のスクリュ圧縮機。
【請求項3】
上記複数の油圧シリンダが、上記スライド弁の吸込み側に配置された第1油圧シリンダと、この第1油圧シリンダに直列に結合された第2油圧シリンダとから構成されたことを特徴とする請求項1に記載のスクリュ圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−29105(P2006−29105A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204696(P2004−204696)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】