説明

スクリュ式押出機のシミュレーション装置、およびスクリュ式押出機のシミュレーションプログラム

【課題】高精度かつ現実的であり、実験遂行による労力の低減や短期間でのプロセスを構築することができるスクリュ式押出機のシミュレーション装置及びスクリュ式押出機のシミュレーションプログラムを提供する。
【解決手段】押出機の装置構成と運転条件および樹脂物性から、押出機内部の充満率、圧力、温度、固相占有率、滞留時間の分布状態を計算する押出機シミュレーション装置であって、前記押出機内部の前記充満率、前記圧力、前記温度、前記固相占有率及び前記滞留時間から選択される少なくとも一つの物理量を用いて、前記計算実施前に設定した押出材料の粘度、粘度式、比熱、熱伝導率及び密度から選択される少なくとも一つの物理量の変化を演算する手段を備えることを特徴とするスクリュ式押出機のシミュレーション装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機のスクリュ構成の決定や押出機内の流体物性を予測するために、押出機内部の充満率、圧力、温度、固相占有率、滞留時間、トルク、動力等をシミュレーションするスクリュ式押出機のシミュレーション装置、およびスクリュ式押出機のシミュレーションプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、単軸スクリュ押出機の樹脂物性を予測する技術は、カナダPolyDynamics INC.が開発した「EXTRUCAD」「NEXTRUCAD」が知られている。
【0003】
このソフトウェアでは、押出機軸方向の圧力分布、温度分布、固相占有率分布が予測できる。アメリカPolymer Processing Instituteの「WinSSD」、ドイツPaderborn大学の「REX」、Compulast社の「EXTRUDER」も同様に単軸スクリュ押出機の樹脂物性予測が行えるソフトウェアとして知られている。
【0004】
二軸スクリュ押出機については、アメリカAkron大学が開発した「AKRO−CO−TWIN SCREW」が知られている。このソフトウェアでは、同方向回転二軸スクリュ押出機の軸方向に対する樹脂温度、圧力、充満率、固相占有率などの分布が計算結果として得られる。
【0005】
また、Akron大学では、J.L.Whiteら(Intern.Polymer Processing,XII,3,P.278(1997))が異方向二軸スクリュ押出機についても「AKRO−CO−TWIN SCREW」と同様の物性予測を行う研究を報告している。
【0006】
日本国内でも富山ら(富山、石橋、井上;日本製鋼所技報No.55(2003)32)が「AKRO−CO−TWIN SCREW」と同様の物性予測を行うソフトウェア開発について述べている。また、押出機運転シミュレーションシステムとして、分散と分配の指標を加えた演算手法が知られている(下記特許文献1参照)。
【0007】
同方向二軸スクリュ押出機の演算ツールについては、日本製鋼所が開発した「TEX−FAN」(下記特許文献2参照)、アメリカPolymer Processing Instituteが開発した「TXS」、ドイツPaderborn大学の「SIGMA」が「AKRO−CO−TWIN SCREW」と同様のソフトウェアとして広く知られている。
【0008】
また、富山らは、「AKRO−CO−TWIN SCREW」と同様のソフトウェアにおいて、解析初期に設定した流体に含有される揮発分の濃度が押出機中で減少する脱揮プロセスの解析方法について提案している(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3712762号公報
【特許文献2】特許第3679392号公報
【特許文献3】特開2007−261080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、「NEXTRUCAD」や「WinSSD」などはスクリュ軸方向に対する樹脂温度、圧力、溶融率などが予測できるが、ベントポートを設けた脱揮プロセスにおける樹脂の含有水分や揮発分濃度の予測や、混練による揮発分の発生などの反応性の予測は行えない。
【0011】
「AKRO−CO−TWIN SCREW」、「TXS」及び「SIGMA」では、解析に用いる流体の特性が解析実行前に設定した物理量に基づくため、押出機内の混練状況などによりその物理量が設定値とは異なったものに変化する解析機能はなく、また、揮発分発生などの予測も行うことができない。
【0012】
また、特許文献1や特許文献2に記載の発明では、混合度合いを予測する演算手段を有するが、その混合により流体などの物理量が変化する演算手段を提唱するものではない。
【0013】
また、特許文献3に記載の発明では、解析実行前に設定した流体含有の揮発分の濃度が押出機中で次第に減少する機能を有するが、揮発分の発生までも予測するものではなく、さらには、揮発分濃度の変化により流体の粘度などが変化する現象までも予測できるものではない。
【0014】
脱揮押出プロセスは樹脂重合時の残モノマーや溶剤などを押出機にて排出させ、最終押出物の純度を高めるためのプロセスである。このプロセスにおいて、一般的には揮発分濃度が減少するに従って樹脂流体の粘度は上昇する。粘度が上昇すると混練応力は上昇し圧力や温度も上昇する傾向にあるため、脱揮と同時にこれら流体物性の変化量も予測する必要がある。
【0015】
また、従来のスクリュ式押出機では、押出機への供給時には不純物を含まなかったものが、押出機内でのスクリュの混練作用による樹脂の劣化などで不純物が発生することがある。この不純物の濃度上昇により樹脂流体の粘度が低下するなどの物性変化が無視できなくなるため、流動解析に直接的に必要な流体とは異なる副成分の濃度上昇予測とそれに伴う流体の物性変化量を予測する機能は、より厳密な解析を実施する上で必要である。
【0016】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、押出機の混練の進行度合いによる樹脂流体の物性変化を予測することができるスクリュ式押出機のシミュレーション装置及びスクリュ式押出機のシミュレーションプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するため、本発明は、押出機の装置構成と運転条件および樹脂物性から、押出機内部の充満率、圧力、温度、固相占有率、滞留時間の分布状態を計算する押出機シミュレーション装置であって、前記押出機内部の前記充満率、前記圧力、前記温度、前記固相占有率及び前記滞留時間から選択される少なくとも一つの物理量を用いて、前記計算実施前に設定した押出材料の粘度、粘度式、比熱、熱伝導率及び密度から選択される少なくとも一つの物理量の変化を演算する手段を備える。
【0018】
また、押出機の装置構成と運転条件および樹脂物性から、押出機内部の充満率、圧力、温度、固相占有率、滞留時間の分布状態を計算する押出機シミュレーション装置であって、前記押出機内部の前記充満率、前記圧力、前記温度、前記固相占有率及び前記滞留時間から選択される少なくとも一つの物理量を用いて、押出材料とは異なる副成分の濃度発生量、粘度及び温度の変化量から選択される少なくとも一つの物理量を演算する手段を備える。
【0019】
また、シミュレーション装置のユーザが理論式をプログラム化して演算を実施する。
【0020】
また、更に、押出材料含有の揮発分濃度がベントシリンダにより脱揮され、徐々に低下するプロセスを演算する手段を備える。
【0021】
また、本発明は、押出機の装置構成と運転条件および樹脂物性から、押出機内部の充満率、圧力、温度、固相占有率、滞留時間の分布状態を計算する押出機シミュレーションプログラムであって、前記押出機内部の前記充満率、前記圧力、前記温度、前記固相占有率及び前記滞留時間から選択された少なくとも一つの物理量を用いて、前記計算実施前に設定した押出材料の粘度、粘度式、比熱、熱伝導率及び密度から選択される少なくとも一つの物理量の変化を演算するステップをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、押出機の混練の進行度合いによる樹脂流体の物性変化が予測可能となり、高精度かつ現実的な予測をすることができる。また、解析精度の高精度化により、試作実験時の解析依存度を高めることが可能となり、実験遂行による労力の低減や短期間でプロセスを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態に係るシミュレーション装置のハードウエア構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態に係るシミュレーション装置の機能構成を示すブロック図である。
【図3】本実施の形態に係るシミュレーション装置の第1の実施の形態におけるフローチャートである。
【図4】本実施の形態に係るシミュレーション装置の第2の実施の形態におけるフローチャートである。
【図5】代表的な押出機による脱揮押出プロセスを示す側面図である。
【図6】フラッシュ脱揮の質量バランスを示す説明図である。
【図7】本実施の形態に係るシミュレーション装置の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態に係るシミュレーション装置1のハードウエア構成を示すブロック図である。図1に示すように、シミュレーション装置1は、メモリ2、CPU(Central Processing Unit)3、不揮発性メモリ4及び表示装置5を有する。
【0026】
メモリ2は、シミュレーションの実行に必要な樹脂物性等の初期設定情報や、シミュレーション装置1を使用するユーザ独自の理論式等から作成されたユーザサブルーチンプログラム(以下、適宜、「ユーザサブルーチン」と称する。)を一時的に保存する。CPU3は、メモリ2に保存された物理量、ユーザサブルーチン及び基本ソフトウェアの演算プログラム(以下、適宜、「基本ソルバ」と称する。)を用いてシミュレーション解析を行う。不揮発性メモリ4は、初期設定情報、基本ソルバ、ユーザサブルーチン及びCPU3で演算された結果等を保存する。不揮発性メモリ4としては、磁気テープ、磁気ディスク(ハードディスクドライブ等)、光ディスク(CD−ROM、DVDディスク等)、光磁気ディスク(MO等)、フラッシュメモリ等、さらにネットワークを介することで伝送可能な媒体等、コンピュータで音声データの読み取りや実行が可能な全ての媒体が挙げられる。表示装置5はCPU3により演算された結果を表示する。メモリ2及びCPU3の機能構成については後述する。
【0027】
次に、本実施の形態に係るシミュレーション装置1の機能構成について説明する。図2は、本実施の形態に係るシミュレーション装置1の機能構成を示すブロック図である。
【0028】
図1に示すように、シミュレーション装置1は、パラメータ取得部11、ユーザサブルーチン取得部12、シミュレーション解析部13及び解析データ表示部14を有する。
【0029】
パラメータ取得部11はメモリ2から初期設定情報を取得する。ユーザサブルーチン取得部12はメモリ2からユーザサブルーチンを取得する。
【0030】
シミュレーション解析部13は、パラメータ取得部11及びユーザサブルーチン取得部12で取得した各種パラメータ、ユーザサブルーチン及び不揮発性メモリ4に保存されている基本ソルバを用いてシミュレーション解析を行う。解析データ表示部14は、シミュレーション解析部13により演算された結果を表示装置5に表示させる。なお、これらの機能はメモリ2とCPU3とが協働することにより実現される。
【0031】
次に、本実施の形態に係るシミュレーション装置1の動作について図面を参照しながら説明する。
【0032】
図3は、本実施の形態に係るシミュレーション装置1の第1の実施の形態におけるフローチャートである。図4は、本実施の形態に係るシミュレーション装置1の第2の実施の形態におけるフローチャートである。
【0033】
図3及び図4に示すように、シミュレーション装置1は、起動後に初期設定を行い、初期設定で取得した種々のパラメータに基づいて、基本ソルバ及び初期設定で取得したユーザサブルーチンからなる解析実行プログラムにより演算を行い、演算結果を表示する装置である。以下に、図3及び図4に示すフローチャートに基づいて、シミュレーション装置1の動作を詳述する。
【0034】
(第1の実施の形態)
図3に示すように、シミュレーション装置1が起動した後、パラメータ取得部11は樹脂物性を取得する(S1)。具体的には、押出材料(以下、適宜、「樹脂流体」と称する。)の粘度モデルを決定するため、樹脂の温度、剪断速度にて計測された煎断粘度を取得し、取得した煎断粘度にフィッティングされた粘度モデル式を選択、決定する。また、樹脂の固体と溶融体それぞれの密度、比熱、熱伝導率、融点及び融解熱量を取得する。
【0035】
次に、パラメータ取得部11は操作条件を取得する(S2)。具体的には、押出量、スクリュ回転数、押出機のサイズ、原料樹脂温度、押出機先端樹脂圧力及びシリンダ設定温度を取得する。また、パラメータ取得部11はスクリュ構成データを取得する(S3)。具体的には、スクリュ、シリンダ及び液体添加ノズルの配列を取得する。特にスクリュについては、スクリュピースリストから所定のスクリュを選択し、最適な長さに構成する。また、シリンダ構成についても最適な長さに構成する。ユーザサブルーチン取得部12はユーザサブルーチンを取得する(S4)。
【0036】
次に、シミュレーション解析部13は、メモリ2に記憶されたパラメータから押出機特性の式による圧力、充満率及び滞留時間の計算を行う(S5)。そして、シミュレーション解析部13は、エネルギーバランス式による樹脂温度、固相占有率、動力、トルク及び比エネルギー(ESP)の計算を行う(S6)。
【0037】
そして、シミュレーション解析部13は、基本ソルバからユーザサブルーチンへ共有物理量データを受け渡す(S7a)。共有可能な物理量としては、例えば、圧力、充満率、滞留時間、樹脂温度、固相占有率、樹脂粘度、樹脂粘度式、樹脂比熱、樹脂熱伝導率、樹脂密度等が挙げられる。
【0038】
次いで、シミュレーション解析部13は、共有物理量データに基づいて、ユーザサブルーチン取得部12で取得したユーザサブルーチンにより新たな物理量を求める(S8)。演算される物理量は、前述から選択される少なくとも一つであればよい。ユーザ独自の理論式とは、過去の実験結果等からユーザが独自のノウハウとして所有しているプロセス理論式を表す。
【0039】
また、シミュレーション解析部13は、共有物理データに基づいて、副成分の濃度、粘度、温度から選択される少なくとも一つの物理量を、ユーザ独自の化学反応式に基づいて変更又は新たに作成されたユーザサブルーチンにより演算する(S8)。副成分とは、流動解析に直接的に必要な流体とは異なる副成分を表し、例えば、押出機内でのスクリュの混練時に、樹脂の劣化により発生する揮発分等の不純物が挙げられる。また、ユーザ独自の化学反応式とは、過去の実験結果等からユーザが独自のノウハウとして所有しているプロセス化学反応式を表す。
【0040】
その後、シミュレーション解析部13は、ユーザサブルーチンから基本ソルバへ演算後の新たな物理量や副成分の物理量を受渡し(S7b)、ユーザサブルーチンによる演算の収束判定を行う。樹脂温度及び圧力の誤差から判定が肯定的でない場合には(S9、no)S5に戻る。一方、判定が肯定的な場合には(S9、yes)結果を記憶部14に保存し、演算結果が表示装置5に表示され(S10)動作を終了する。
【0041】
以上のように、第1の実施の形態によれば、基本ソルバにユーザサブルーチンを加えることにより、高精度で現実的な押出プロセスの予測が可能となり、実験遂行による労力の低減や短期間でのプロセス構築が可能となる。また、ユーザサブルーチンとして、各ユーザが変更、作成したものを解析実行プログラムに組み込むことができるため、ユーザが独自ノウハウとして所有している反応式等を公に開示する必要がなく、ユーザが独自に個別プロセスの詳細予測解析を行うことができる。
【0042】
(第2の実施の形態)
図4に示すフローチャートは、図3に示すフローチャートと比較して基本ソルバに脱揮解析機能を有する点で異なる。以下では、図4に示すフローチャートの種々の脱揮による揮発分濃度計算について説明した後に、シミュレーション装置1の動作について説明する。なお、以下の説明では、図3に示すフローチャートと同じ動作の説明を省略する。
【0043】
代表的な押出機による脱揮プロセスは図5に示す装置構成から成り立つ。ホッパシリンダから揮発分を含んだ溶融樹脂が流入すると、フラッシュにより大半の揮発分が後段ベントシリンダから除去(脱揮)される。この工程における揮発分濃度計算は、式(1)、(2)、(3)、(4)によって演算することができる。
【0044】
なお、これらの式において、Coutは流出揮発分量、CAOは平衡濃度、CDEVは排出揮発分量、ωは膨張因数、ρは混合溶液密度、ρARは基準温度における揮発分密度、ρAは混合溶液中の揮発分密度、ρPは樹脂密度、SAは揮発分の飽和蒸気圧、PAは揮発分の分圧、χは揮発分の相互干渉係数である。
【0045】
【数1】

【0046】
【数2】

【0047】
【数3】

【0048】
【数4】

【0049】
フラッシュされた後、残留揮発分を含んだ樹脂は、押出機の中をフルフライトスクリュによる輸送と必要に応じてニーディングディスクによる混練が行われた後、前段ベントシリンダにより表面更新脱揮が行われ、揮発分が除去される。
【0050】
この工程における揮発分濃度計算は、一般的に知られている式(5)で演算する手段が一般的であるが、上記入力項目である押出機内の具体的なスクリュ構成、押出機サイズと、演算プロセスにおいて演算される充満率とを用いて算出される脱揮領域にて揮発分が飛散する樹脂の表面積L’を用い、式(6)と式(7)、式(8)による演算が可能である。
【0051】
なお、これらの式において、Cinは流入揮発分濃度、Coutは流出揮発分濃度、CAは脱揮領域での平衡濃度、Kは物質移動係数、Dは拡散係数、Sは単位長さあたりの暴露表面積、Lは脱揮領域の長さ、K´は脱揮拡散係数に基づくパラメータ、L´は脱揮領域にて揮発分が飛散する樹脂の表面積、Nはスクリュ回転数、Qは押出量、PCは雰囲気圧力、PVは揮発分の蒸気圧、ρgは揮発分密度、ρPは樹脂密度、χは相互干渉係数、Xは脱揮効率である。
【0052】
【数5】

【0053】
【数6】

【0054】
【数7】

【0055】
【数8】

【0056】
また、図5に示すように、前段ベントシリンダの直前の混練領域において液体添加ノズルを用いて添加剤を押出機内へ注入し、押出機内の樹脂圧力の変化により気泡を発生、成長させ、樹脂含有の揮発分を気泡内へ拡散させた後にベントシリンダの非充満領域で一気に破泡し、気泡内へ拡散した揮発分を一気に除去する発泡脱揮工程がある。
【0057】
この発泡脱揮工程を演算する手段において、気泡の内圧が、式(11)の気泡内への揮発分の拡散式から求まる式(12)の揮発分分圧と、添加剤の分圧から式(13)により算出され、それに伴って気泡が成長する過程の気泡径とその内圧分布の時間変化を式(9)、式(10)から演算することが可能となった。
【0058】
なお、これらの式において、Cinは流入揮発分濃度、Coutは流出揮発分濃度、CAは脱揮領域での平衡濃度、K´は脱揮拡散係数に基づくパラメータ、Aは気泡の表面積、Nはスクリュ回転数、Qは押出量、nは気泡一個当たりの揮発分モル数、Rgは気体定数、Tは雰囲気温度、PDAは揮発分の気泡内分圧、PDBは添加剤の気泡内分圧である。
【0059】
【数9】

【0060】
【数10】

【0061】
【数11】

【0062】
【数12】

【0063】
【数13】

【0064】
図5のプロセスはフラッシュ、表面更新、発泡の脱揮工程から構成されているが、押出機による脱揮プロセスは、目的とする樹脂、品質、押出機構成などによって、フラッシュ、表面更新、発泡のいずれか1工程しか用いないこともあれば、フラッシュと表面更新の2工程を用いるなど組み合わせで用いることも多い。
【0065】
本発明の実施の形態では、プログラム演算上にて、スクリュ、シリンダ、液体添加ノズルの構成や運転条件の設定によりこれら脱揮プロセスの種類を自動的に判別し、実際に押出プロセスで生じている脱揮現象を予測することを可能としたものである。
【0066】
次に、フラッシュによる脱揮計算について説明する。
【0067】
押出機へ流入した際の押出量Q[Kg/h]に含有している揮発分(溶剤)濃度をx[wt%]した場合、フラッシュ脱揮における質量バランスは図6で表すことができる。
【0068】
この場合、流出揮発分量COUTは平行濃度CA0まで低下すると仮定すると、流出混合溶液中の揮発分濃度バランスは式(14)で表すことができる。
【0069】
【数14】

【0070】
また、排出揮発分量CDEVは式(1)から求めることができる。これらの式から分かるとおり、CA0を算出すれば揮発分の残存量COUT(式14の流出揮発分量)と排出揮発分量CDEVを求めることが可能である。
【0071】
A0の算出は、以下の手順で行う。まず、揮発分の分圧と臨界圧力、フラッシュ温度(流入樹脂温度)と臨界温度の関係によって導き出される膨張因数ωと基準温度における揮発分密度ρARを用い、式(2)から混合溶液中の揮発分密度ρAを求める。
【0072】
次に、フラッシュ温度における混合溶液密度ρを式(3)から求める。
【0073】
ここで、ρpは樹脂密度である。このようにして求めた各密度を用いると、揮発分の平行濃度は式(4)から求めることができる。
【0074】
ここで、χは揮発分の相互干渉係数であるが、これは一般的に知られている式(15)に示すFlory−Hugginsの式(P.J.Flory:“Principles of Polymer Chimistry”,Cornell University Press,Ithaca,N.A.,(1953))により求めることができる。
【0075】
式(15)において、P0は揮発分の蒸気圧、VAは樹脂中の揮発中の容積比である。
【0076】
【数15】

【0077】
揮発分の排出量VAが計算されると、式(16)により脱揮による除熱エネルギーEを求めることができるため、フラッシュ脱揮による樹脂温度の低下量を計算することができる。式(7)において、JAは揮発分の蒸発潜熱である。
【0078】
【数16】

【0079】
次に、表面更新による脱揮計算について説明する。押出機における表面更新脱揮プロセスの理論モデルは、式(5)のG.A.Latinen(“Devolatilization of viscous polymer systems”,Adv.Chem.Ser.,34,235(1962))が提案した式で計算する手法が代表的である。
【0080】
従来の式(5)式を用いた脱揮領域の計算では、充満率が一定と仮定する暴露表面積は定数となるため、脱揮拡散係数を、K´=KD1/2ρPS とおけることから、
【0081】
ln((Cin−CA)/(Cout−CA))=K´´LN1/2/Q
【0082】
へと変換する、もしくは脱揮長そのものを定数化した
【0083】
ln((Cin−CA)/(Cout−CA))=K´´N1/2/Q
【0084】
と変換した計算が一般的であった。
【0085】
本発明の実施の形態では、押出機内の具体的なスクリュ構成や押出機サイズを基にした充満率の計算も同時に行うため、具体的な脱揮領域にて揮発分が飛散する樹脂の表面積の算出が可能である。
【0086】
式(5)の脱揮拡散係数をK´=KD1/2ρPとし、脱揮領域にて揮発分が飛散する樹脂の表面積をL´=SLと定義すると脱揮効果Xを求めるために式(5)は式(6)で表すことができる。
【0087】
脱揮拡散係数K´は原料樹脂の物性やスクリュの形状などにより大きな影響を受けるパラメータである。式(6)の右辺から脱揮効率Xが求まると、脱揮後の樹脂含有揮発分濃度Coutを式(7)から求めることができる。
【0088】
この式において、平行濃度CAは式(8)によって求められる値を用いる。
【0089】
次に発泡脱揮計算について説明する。発泡脱揮はベントシリンダで脱揮される直前の混練領域で液体添加された場合に適用される。添加剤は注入後均一に分散されながら沸点まで上昇するとし、この領域での樹脂温度は添加剤の顕熱によって発熱が抑制される。こうして気化された添加剤は気泡となり混練領域の圧力変化によって気泡が成長する。気泡内へは樹脂に含有している揮発分も拡散し、それに伴い樹脂中の揮発分濃度が低下する。樹脂がベント領域に流れ非充満状態になると気泡は一気に破泡し、気泡内へ拡散されていた添加剤および揮発分がベント領域で全て除去されるとする。
【0090】
添加剤が注入された後の気泡の個数は、式(17)の気泡核生成速度式から計算される。式(17)において、kBはボルツマン定数、mは粒子一個あたりの質量、NAはアボガドロ数、f0とFは定数である。
【0091】
【数17】

【0092】
添加剤のみによって成長される気泡サイズは上述した式(9)、(10)及び次の式(18)、(19)によって計算される。
【0093】
【数18】

【0094】
【数19】

【0095】
式(9)は、運動量保存則から導出される式で、瀧ら(瀧健太郎、“高分子材料の微細発泡成形挙動の可視化実験と計算機シミュレーション”,京都大学博士論文(2005))をはじめ、広く一般的に用いられている気泡成長モデルである。式(10)は、Fickの第一法則に基づき定式化された気泡内圧の時間変化モデルであり、これもまた瀧らによって一般化されている。式(10)に、例えばHanら(C.Han and H.Yoo,Polym.Eng.Sci.,21(1981)518)が提案した拡散支配下での成長速度式を適用すると(10)’式となる。
【0096】
ここで、Rは気泡半径、ηは樹脂粘度、PDは気泡内圧、PDBは添加剤の気泡内分圧、PCは雰囲気圧力、γは表面張力、Dは拡散係数、Rgは気体定数、Tは雰囲気温度、kHはヘンリー定数、R0は初期気泡半径、PD0は初期気泡内圧、C0は添加剤の濃度、tは時間である。
【0097】
【数20】

【0098】
式(18)、(19)は気泡径およびその内圧の初期条件であり、式(9)、(10)から導き出すことができる式である。
【0099】
ここで、一般的に発泡モデルとして用いられている、気泡が添加剤のみによって成長するとした場合にはPD=PDBであるが、脱揮プロセスにおける気泡成長には気化された添加剤のみでなく樹脂に含有している揮発分も拡散されなければならない。そこで、気泡の成長には式(9)から式(19)に加え、以下のモデルを加味する必要がある。
【0100】
成長した気泡内には、気化された添加剤のみでなく樹脂に含有している揮発分も拡散される。気泡内への揮発分の拡散は式(11)によって計算される。
【0101】
気泡サイズから算出できる気泡の表面積Aは(9)式から求められる。式(11)は式(6)とほぼ同様の式であり、式中の物性値は、式(7)、(8)を用いることで算出できる。
【0102】
式(7)、(8)、(11)により気泡内へ拡散した揮発分濃度が計算されると、式(12)から気泡内の揮発分の分圧が計算できる。こうして求められた分圧から気泡内圧力が式(13)式によって算出できる。
【0103】
こうして決まったPDを式(9)、(10)に適用することで、発泡脱揮プロセスでの樹脂含有揮発分濃度予測が可能になる。
【0104】
以上の3種類の脱揮パターンについて、充満率、圧力、温度、固相占有率、滞留時間、トルク、動力を計算する過程において、図4に示すフローチャートに従い、揮発分濃度の計算も同時に行う。
【0105】
次に、第2の実施の形態に係るシミュレーション装置1の動作を説明する。パラメータ取得部11は、第1の実施の形態と同様に、樹脂物性、操作条件及びスクリュ構成データを取得する(S11〜S13)。また、ユーザサブルーチン取得部12は、第1の実施の形態と同様に、ユーザサブルーチンを取得する(S14)。
【0106】
なお、樹脂物性の取得(S11)では、第1の実施の形態での動作(S1)に加え、脱揮計算に必要な蒸気圧パラメータ、分子量、沸点、比熱、密度、蒸発潜熱、臨界温度、臨界圧力、臨界密度、相互干渉係数等の物性を取得する。また、操作条件の取得(S12)では、第1の実施の形態での動作(S2)に加え、液体添加量、初期揮発分濃度、各ベントシリンダの真空度を取得する。また、スクリュ構成データ取得(S13)では、第1の実施の形態での動作(S3)に加え、脱揮解析に必要なベントシリンダの位置情報を取得する。例えば、フラッシュ脱揮解析を行う場合には、ホッパシリンダの上流に後段ベントシリンダを設置する必要があるため、この位置情報を取得する。また、注水発泡脱揮解析を行う場合には、液体添加ノズルを押出機に少なくとも一箇所接地する必要があるため、この位置情報を取得する。
【0107】
シミュレーション解析部13は、溶融樹脂が流入しリアベントが存在するか否か判断し、存在する場合には(S15、yes)、フラッシュによる揮発分濃度計算や樹脂温度の計算を行った(S16)後、押出機特性の式による圧力、充満率及び滞留時間の計算を行う(S17)。一方、リアベントが存在しない場合には(S15、no)S17に進む。
【0108】
そして、シミュレーション解析部13は、エネルギーバランス式による樹脂温度、固相占有率、動力、トルク及びESPの計算を行う(S18)。ここで、シミュレーション解析部13は、第1の実施の形態と同様に、基本ソルバからユーザサブルーチンへ共有物理量を受け渡す(S19a)。そして、シミュレーション解析部13は、ユーザサブルーチンにより樹脂粘度等の物理量を演算するか又は副成分の濃度等を演算(S20)した後、基本ソルバからユーザサブルーチンへ演算後の種々の物理量を受け渡す(S19b)。
【0109】
次いで、シミュレーション解析部13は、液体添加があるか否か判断し、液体添加がある場合(S21、yes)には発泡脱揮による揮発分濃度計算を行い(S22)、ベントシリンダがあり非充満領域があるか否か判断する(S23)。液体添加がない場合(S21、no)には次の処理に進む(S23)。
【0110】
そして、シミュレーション解析部13は、ベントシリンダがあり非充満領域があるか否か判断し、ベントシリンダがあり非充満領域がある場合(S23、yes)には表面更新脱揮による揮発分濃度計算を行い(S24)、脱揮による樹脂温度の修正を行う(S25)。一方、ベントシリンダがなく非充満領域がない場合には(S23、no)S25に進む。
【0111】
その後、シミュレーション解析部13は、演算の収束判定を行い、樹脂温度、圧力の誤差から判定が肯定的でない場合は(S26、no)S17に戻る。一方、判定が肯定的である場合には(S26、yes)結果を表示して(S27)処理を終了する。
【0112】
以上のように、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態の基本ソルバに脱揮解析機能を追加したことにより、より高精度で現実的な押出プロセスの予測が可能となり、実験遂行による労力の低減や短期間でのプロセス構築が可能となる。また、第1の実施の形態と同様に、ユーザサブルーチンとして各ユーザが変更又は作成したものを解析実行プログラムに組み込むことができるため、ユーザが独自ノウハウとして所有している反応式等を公に開示する必要がなく、ユーザが独自で個別プロセスの詳細予測解析を行うことができる。
【0113】
(実施例)
以下に、第2の実施の形態に係るシミュレーション装置1の解析結果を示す。図7は本実施の形態に係るシミュレーション装置1の計算結果を示す図である。
【0114】
図7に示す解析結果は、図4に示すフローチャート中のユーザサブルーチンに、樹脂流体の揮発分発生量を予測するユーザ独自の理論式からなるプログラムを追加して演算した結果である。揮発分発生量は下記式(20)に示すように、樹脂流体に溶融した樹脂から押出量、樹脂温度及び滞留時間に依存する。
【0115】
【数21】

【0116】
なお、この式において、Cは揮発分の濃度、Tmは溶融樹脂の温度、Qは押出量、tは滞留時間である。
【0117】
図7に示す解析結果から、本実施例では樹脂流体中の樹脂の溶融に従って揮発分が発生し、脱揮領域でその揮発分が除去されるプロセスが定性的に予測できていることがわかる。このため、本実施例でのシミュレーション装置1は、樹脂流体から発生する揮発分の発生量を予測することができるため、従来のシミュレーション装置では予測を行うことができなかった現実的な押出プロセスを予測することが可能である。
【符号の説明】
【0118】
1 シミュレーション装置、2 メモリ、3 CPU、4 不揮発性メモリ、5 表示装置、11 パラメータ取得部、12 ユーザサブルーチン取得部、13 シミュレーション解析部、14 解析データ表示部、21及び22 液体添加ノズル、23〜26 ベントシリンダ、27 ホッパシリンダ、28 フルフライトスクリュ、29 ニーディングディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機の装置構成と運転条件および樹脂物性から、押出機内部の充満率、圧力、温度、固相占有率、滞留時間の分布状態を計算する押出機シミュレーション装置であって、
前記押出機内部の前記充満率、前記圧力、前記温度、前記固相占有率及び前記滞留時間から選択される少なくとも一つの物理量を用いて、前記計算実施前に設定した押出材料の粘度、粘度式、比熱、熱伝導率及び密度から選択される少なくとも一つの物理量の変化を演算する手段を備えることを特徴とするスクリュ式押出機のシミュレーション装置。
【請求項2】
押出機の装置構成と運転条件および樹脂物性から、押出機内部の充満率、圧力、温度、固相占有率、滞留時間の分布状態を計算する押出機シミュレーション装置であって、
前記押出機内部の前記充満率、前記圧力、前記温度、前記固相占有率及び前記滞留時間から選択される少なくとも一つの物理量を用いて、押出材料とは異なる副成分の濃度発生量、粘度及び温度の変化量から選択される少なくとも一つの物理量を演算する手段を備えることを特徴とするスクリュ式押出機のシミュレーション装置。
【請求項3】
シミュレーション装置のユーザが理論式をプログラム化してコンピュータに演算を実施させることを特徴とする請求項1又は2に記載のスクリュ式押出機のシミュレーション装置。
【請求項4】
更に、押出材料含有の揮発分濃度がベントシリンダにより脱揮され、徐々に低下するプロセスを演算する手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のスクリュ式押出機のシミュレーション装置。
【請求項5】
押出機の装置構成と運転条件および樹脂物性から、押出機内部の充満率、圧力、温度、固相占有率、滞留時間の分布状態を計算する押出機シミュレーションプログラムであって、
前記押出機内部の前記充満率、前記圧力、前記温度、前記固相占有率及び前記滞留時間から選択された少なくとも一つの物理量を用いて、前記計算実施前に設定した押出材料の粘度、粘度式、比熱、熱伝導率及び密度から選択される少なくとも一つの物理量の変化を演算するステップをコンピュータに実行させることを特徴とするスクリュ式押出機のシミュレーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−173276(P2011−173276A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37505(P2010−37505)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】