説明

スクリーニング法

【課題】一対のらせん状フィラメントタウのリン酸化発生に関与する酵素、およびそれらの酵素によってリン酸化される部位の同定は、当技術分野で重要な懸案事項となっている。
【解決手段】タウ(tau)タンパク質、特に一対のらせん状フィラメント(paired helical filament, PHF)タウタンパク質のリン酸化を調節し得る物質のスクリーニング方法、およびタウオパシーの治療におけるかかる調節物質の使用を記載する。本アッセイおよび本スクリーニング法は、PHF-タウ中の新規リン酸化部位および新規キナーゼおよび治療上の標的としてのキナーゼ類の組合せの同定、特に、タウタンパク質をリン酸化するキナーゼとしてのカゼインキナーゼ1の同定に基づくものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タウ(tau)タンパク質、特に、一対のらせん状フィラメント(paired helical filament, PHF)タウのリン酸化を調節し得る物質のスクリーニング方法、およびタウオパシーの治療におけるかかる調節物質の使用に関する。本アッセイおよび本スクリーニング法は、PHF-タウ中の新規リン酸化部位および新規キナーゼおよび治療上の標的としてのキナーゼ類の組合せの同定に基づくものである。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、脳内の老人斑および神経原線維変化の存在を特徴とする神経変性障害である。死亡における認知症の程度は、老人斑の数よりも神経原線維変化の数により深い相関がある。ニューロン中に神経原線維変化が存在した場合、ニューロンの死滅が生じるが、このことは、神経原線維変化形成の予防が治療の目的において重要であることを示唆している。神経原線維変化を形成する主要なタンパク質は微小管結合タンパク質のタウであって、これは対となって相互に巻き付いている外観を示すフィラメントに構築されており、一対のらせん状フィラメント(PHF)と呼ばれている。PHFはアルツハイマー病の脳内のニューロンの退化において異なる位置に存在し、その多くがニューロン細胞体中で凝集する場合に神経原線維変化が生じる(Leeら、2001)。
【0003】
老人斑はアミロイドβ-ペプチド(Aβ)の細胞外主要沈着を有するが、このAβは異栄養性神経突起に取り囲まれて、老人斑または神経性斑を形成する。インビトロおよびインビボでは、Aβは神経毒性であることが明らかになっている。Aβは、大型のアミロイド前駆タンパク質(APP)のタンパク分解工程によって誘導される。AD病因論においては、Aβ産生が初期現象であると考えられているので、治療標的としてAβ産生に多くの注目が集まっている。これは、APP遺伝子(常染色体優性ADをもたらす遺伝子)中に突然変異あると、Aβ産生が全体的に上昇するか、あるいはAβ40よりもわずかに長いAβ42(これはアミロイド産生性が高い)が相対的に増加するという理由による。この場合、Aβ42は、Aβ40のC末端の残基40に2個の疎水性アミノ酸が付加されており、それが、このペプチドにアミロイド繊維の高凝集性と高形成性を付与している。また、常染色体優性ADを引き起こす他の2種類の遺伝子(プレセニリン-1およびプレセニリン-2(PS1およびPS2))における突然変異も、Aβ40に対するAβ42の比率を高める。神経原線維変化が出現する前に脳内にAβが沈着するという考えはアミロイドカスケード仮説に基づくものであったが、その神経原線維変化が病因において重要であるか否か、あるいはそれが些細な副現象でしかないのかどうかについては不確かであった。しかしこれは、他の関連性のあるいくつかの神経変性障害においてタウに関する遺伝子に突然変異が発見されたことにより変わった。
【0004】
Aβが脳内でニューロンを死滅させる機序はこれまで確立されていなかった。Aβ毒性に関する多数の研究は、これまでラット脳のニューロン培養物を用いた組織培養で実施されてきた。本発明者らは、胎児ラット脳ニューロン培養物とヒト脳ニューロン培養物の両方を凝集Aβに暴露した場合、2〜10分以内に、複数のタンパク質(タウも含まれる)にホスホチロシン含有量の増加がみられることを明らかにした(Williamsonら、2002)。また本発明者らは、この処理が、チロシンキナーゼfyn(チロシンキナーゼのsrcファミリーのメンバー)を活性化させることも明らかにした。このタウのチロシンリン酸化は、チロシンキナーゼのsrcファミリーの阻害剤によって阻害された。
【0005】
これまでに、fynのレベル上昇は、AD脳内の異常にリン酸化されたタウを含有しているニューロンに関係していることが報告されている(Shiraziら、1993)。また本発明者らは、ホスホチロシンを認識する抗体を用いて、AD脳由来のPHF-タウがホスホチロシンを含有していることを証明した(Williamsonら、2002)。また本発明者ら、インビトロにおいて、fynおよびLck(ともにsrcファミリーキナーゼ)が組換え型ヒトタウをリン酸化し、断片化したペプチドの配列情報から、ホスホチロシン18、310および394を1つまたは複数のそれらの各トリプシンペプチド中に確実に同定したことを明らかにした。さらに、サーベイスキャンにおいて、位置197のホスホチロシンがペプチド塊から推定されている(Scalesら、2002)。
【0006】
ADの典型的な神経原線維変化の形態であるタウのニューロン内沈着、または多数の他の神経変性障害における他の形態学的に異なるタウ凝集塊は、タウオパシーとしてこれらの症状をグループ化するための基準である。したがって、ADの他に、タウオパシーの主な例としては、第17番染色体に連鎖するパーキンソン症候群を伴った前頭側頭型痴呆(ETDP-17)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、大脳皮質基底核変性症、および多重系委縮(MSA)がある。細胞内のタウ沈着(通常はニューロンであるが神経膠もあり得る)はすべて線状であって、対照のヒト脳由来から得たタウのリン酸化レベルと比較すると、過リン酸化状態であるのがほとんどである。ADの場合には、過リン酸化タウはPHFに由来するので、この過リン酸化タウをPHF-タウと称することが多い。
【0007】
AD以外では、脳内のAβ沈着は、他のこれらのタウオパシーにおいては存在しないか、あるいは最小である。原因となる遺伝子がタウ遺伝子であると同定されている常染色体優性疾患のあるタウオパシー系統がいくつかあり、同じ突然変異を有するケースが明らかに異なる疾患を呈し得るかもしれないが、それらは常に脳内にタウ沈着を有しており、主としてFTDP-17の変種である。したがって、ニューロンのタウ凝集塊の疾患および沈着をもたらすタウ遺伝子中の突然変異を発見することは、疾患の根本原因が何であろうと、ADを含むこれらの症状のすべてにおけるタウ沈着の主な病因の重要性に関する有力な証拠となる。したがって、アミロイドカスケード仮説はタウ突然変異の発見により確証されるとともに、確かに神経原線維変化形成がADにおけるAβ沈着にほとんど確実に関与しているが、Aβ沈着が見られない他のタウオパシーでは、その後、別のいくつかの主要な現象がタウ病理を誘発するに相違ないことが確認される。したがって、タウの異常と沈着は、ADを含むすべてのタウオパシーの重要な治療標的である。
【0008】
タウはリンタンパク質であるが、そのリン酸化機能についてはまだ立証されてはいない。しかし、複数のセリンおよびスレオニン残基でタウのリン酸化が高まると、微小管の構築を促進し、かつ構築された微小管を安定させるタウの能力(インビトロおよび細胞の両方で実証されている作用)が低下する。AD脳由来のPHF-タウは、対照の脳由来のタウに比べると、セリンおよびスレオニン上で極度にリン酸化されていることが多くの研究で示唆されている。これは、タンパク質のシークエンスにより一部実証されている。また、特定のモノクローナル抗体が、PHF-タウまたは非リン酸化タウのいずれかのみを標識し、PHF-タウを標識しないことを示すことにより一部実証されている。これらの多くの抗体に対するエピトープは、PHF-タウ中に存在し、かつ対照脳のタウには存在しない特定のリン酸化残基についてすでにマッピングされている。他のタウオパシーの大部分の別の症例に由来する病理学上のタウは、PHF-タウと同様に過リン酸化されているようである。
【0009】
これらの知見は、タウのリン酸化の制御における類似の異常が、ADを含むすべてのタウオパシーに共通であることを強く意味するものである。タンパク質のリン酸化はプロテインキナーゼおよびプロテインホスファターゼによる脱リン酸化により行われるので、タウに関するプロテインキナーゼおよびホスファターゼの同定は、それらがこれら疾患の治療上の標的となり得ることから重要である。
【0010】
したがって、一対のらせん状フィラメントタウのリン酸化発生に関与する酵素、およびそれらの酵素によってリン酸化される部位の同定は、当技術分野で重要な懸案事項となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第WO92/01047号
【特許文献2】EP 0 184 187 A
【特許文献3】GB 2 188 638 A
【特許文献4】EP 0 239 400 A
【特許文献5】EP 0 120 694 A
【特許文献6】EP 0 125 023 A
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Leeら、2001
【非特許文献2】Williamsonら、2002
【非特許文献3】Shiraziら、1993
【非特許文献4】Scalesら、2002
【非特許文献5】Singhら、1995 a, b
【非特許文献6】Ghoshalら、1999
【非特許文献7】Goedertら、(1989) EMBO J. 1989 Feb; 8(2): 393-9. Cloning and sequencing of the cDNA encoding an isoform of microtubule-associated protein tau containing four tandem repeats: differential expression of tau protein mRNAs in human brain. Goedert M, Spillantini MG, Potier MC, Ulrich J, Crowther RA
【非特許文献8】Goedert M, Jakes R. (1990) Expression of separate isoforms of human tau protein: correlation with the tau pattern in brain and effects on tubulin polymerization. EMBO J., 9, 4225-30
【非特許文献9】J Biol Chem. 1993 Mar 25; 268 (9): 6394-401. Molecular cloning, expression, and characterization of a 49-kilodalton casein kinase I isoform from rat testis. Graves PR, Haas DW, Hagedorn CH, DePaoli-Roach AA, Roach PJ.
【非特許文献10】Altschulら、(1990) J. Mol. Diol. 215: 403〜10
【非特許文献11】Ausubel, Short Protocols in Molecular Biology, 1992
【非特許文献12】Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989
【非特許文献13】Sambrookら、1989
【非特許文献14】Armitageら、1992, Nature 357: 80-82
【非特許文献15】Roepstorff, P.、Fohlman, J.、J. Biomed. Mass Spectrom. 1984、11、601
【非特許文献16】Bonner, R.、Shushan, B.、Rapid Commun. Mass Spectrom. 1995、9、1067-1076
【非特許文献17】Remington's Pharmaceutical Sciences、第20版、2000年発行、Lippincott, Williams & Wilkins
【非特許文献18】Hangerら, 1998
【非特許文献19】Mulotら, 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
概して、本発明は、キナーゼおよびホスファターゼとタウタンパク質との相互作用を介して、タウタンパク質のリン酸化を調節することに関する。特に、本発明は、キナーゼによるリン酸化を受けやすく、かつキナーゼを同定しやすいタウタンパク質中の新規部位の同定、ならびにタウタンパク質中の新規リン酸化部位および周知のリン酸化部位をリン酸化し得るキナーゼの組合せに基づくものである。重要なことには、新しく同定された部位の多くは一対のらせん状フィラメント(PHF)タウ中に存在し、対照のタウまたは胎児のタウ中には存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、PHF-タウと対照の成体ラット脳および胎児ラット脳由来のタウの質量分析による解析に基づくものであって、PHF-タウ中の新規の12個の部位が同定され、リン酸化部位は合計で37個(1個の部位はチロシン394であり、他の36個はセリン残基またはスレオニン残基のいずれかである)になり、これは90%を超える配列カバー率を有する。これらの12個の部位のうち、11個は正常なヒト脳由来のタウでは発見されていない。
【0015】
多数のプロテインキナーゼがインビトロでタウをリン酸化することが明らかとなっている。それらのプロテインキナーゼとしては、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3α(GSK-3α)、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)、MAPキナーゼ(ERK 1および2)、cdk5、cdc2キナーゼ、JNK、SAPキナーゼのいくつかのメンバー(1γ、2a、2b、3、4)、p38MAPキナーゼ、カルモデュリン依存性キナーゼ、プロテインキナーゼA(PKA)、プロテインキナーゼC(PKC)、カゼインキナーゼ1(CK1)、カゼインキナーゼ2(CK2)、MARK、PKN、PKB、TTK、DYRK、Rhoキナーゼ、ならびにホスホリラーゼキナーゼが挙げられる。これらのキナーゼのうち、GSK-3は、タウがすでにリン酸化されている場合にのみGSK-3によって生成される2個の部位を含む、PHF-タウ中の同定された多数の部位(これは25個の部位である)をリン酸化することが明らかとなっており、PKAはPHF-タウ中の16個の部位をリン酸化する。本発明者らはさらに、インビトロでのリン酸化によって、CK1が12個の新規同定部位のうちの6個の部位に対する候補キナーゼであり、GSK-3がこれらの4個をリン酸化し、PKAが新規PHF-タウ部位のうち2個の部位をリン酸化することも今回明らかにした。これで、CK1によりリン酸化され得るPHF-タウ中の部位の合計は17個の部位になる。
【0016】
MAPキナーゼ(ERK 1および2)、cdk5、cdc2キナーゼ、JNK、SAPキナーゼ(1γ、2a、2b、3、4)のいくつかのメンバー、ならびにp38MAPキナーゼは、特異性において本質的にプロリンに対するプロテインキナーゼであるGSK-3と類似しており、これらのキナーゼはすべて、GSK-3によりリン酸化されるほとんどの部位をすべてリン酸化する。したがって、プロリンに対するプロテインキナーゼの後、現在CK1は、わずか18個のCK1部位がGSK-3により明確に共有され、PHF-タウのリン酸化状態の生成に寄与する候補として最も注目されるキナーゼである。したがって、PHF-タウ中の36個のser/thr部位のうち、31個がGSK-3、CK1およびPKAの組合せによってリン酸化できる可能性があり、さらに5個の部位が、これらの残基をリン酸化することが知られているキナーゼを持たないオーファン部位として残る。GSK-3、CK1またはPKAは、これらのオーファン部位のうちの一部またはすべてをリン酸化し得るか、あるいは実際に、上述の1種または複数の他の有望なタウキナーゼが応答可能であり、そのリン酸化部位が未だ検出されていないという可能性がある。しかし、本明細書に記載されたデータは、CK1が、ADおよび他のタウオパシーにおける過リン酸化タウの生成に関して有力な候補と考えるべきものであり、したがって、有望な治療上の標的であることを示唆している。
【0017】
PHF-タウ中の周知のリン酸化部位のうち、いくつかの部位が特に重要であると考えられる。かかるすべての抗体のうちモノクローナル抗体(AT100)は、正常な脳タウまたは胎児のタウを認識しないので、PHF-タウに最も特異的なものである。そのようなものとして、タウオパシーにおける病理学上の過リン酸化タウについて診断に用いることを検討する。AT100エピトープは、T212とS214の両方のリン酸化を必要とする。T212およびS214はGSK-3によりリン酸化され得ることが周知であり、GSK-3によるリン酸化T212は、PKAによるS214でのリン酸化をタウに誘導することが報告されている(Singhら、1995 a, b)。本発明者らは、CK1もまたS214をリン酸化することができるため、病理学上のリン酸化にCK1が関係していることを見出した。
【0018】
タウ中の他の1つの部位(S262)は、リン酸化がタウの解離を引き起こすような、タウが微小管に結合する制御において重要であることが明らかになっている。新規キナーゼのMARK(これはこの部位でタウをリン酸化する)は脳から単離されたものであり、信頼性のあるキナーゼとして提案された。また本発明者らは、CK1がS262とS356をリン酸化することが可能である(後者は、タウの微小管への結合の制御に関与する場合、S262と同様に作用し得る相同性残基である)ことを見出すとともに、本発明者らは、S262とS356の両方がPHF-タウ中でリン酸化されることを見出した。
【0019】
したがって、重要であると考えられるタウのリン酸化に関する上記2つのクラスは、CK1によって制御することができる。さらに、対照と比較した場合、CK1(特にCK1δアイソフォーム)はAD症例由来の脳抽出物で増加していることが報告されているが、これは、病因論におけるCK1の潜在的重要性を高めるものである(Ghoshalら、1999)。
【0020】
チロシンリン酸化に関して、PHF-タウはチロシン394上でリン酸化され、他のsrcファミリーキナーゼもまた脳内タウをリン酸化し得るかもしれないが、fynが最も有力な候補である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
したがって一態様では、本発明は、CK1がADおよび他の関連のタウオパシーの治療における新規な治療標的であることを提供する。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、fynおよび関連のsrcファミリーキナーゼが、ADおよび他の関連のタウオパシーの治療における、特に本明細書に記載のチロシンリン酸化部位における新規の治療標的であることを提供する。
【0023】
さらなる態様では、本発明は、場合により、新規リン酸化部位をリン酸化し得るものとして本明細書で同定されているキナーゼと組み合わせて使用される、リン酸化阻害剤または脱リン酸化促進剤をスクリーニングする際に使用するためのタウタンパク質中の新規リン酸化部位を提供する。
【0024】
これらの知見の結果として、新規部位および新規キナーゼは、タウオパシーを治療する治療法として使用または開発するためのタウタンパク質中の部位のリン酸化調節物質をスクリーニングするアッセイおよびアッセイ法の基本原理として用いることができる。好ましい調節物質は、PHF-タウに類似または同一のリン酸化状態が生じるタウのリン酸化を阻害し得るか、あるいはPHF-タウのリン酸化形態の脱リン酸化を促進し得る。
【0025】
タウタンパク質中の新規リン酸化部位のうちの11個は、表2の左側の欄に赤色のタイプ入力で示している。これらは、位置S68、T69、T71、(T111/S113)、S191、S258、S289、(T414/S416)、T427、S433、およびS435にあるセリンおよびスレオニン残基である。さらに、位置394(Y394)のチロシン部位も同定されている(例えば、チロシンキナーゼによってリン酸化され、かつチロシンホスファターゼによって脱リン酸化される)。12個の部位のうち、10個のみがPHF-タウで発見される。表2でPHF-タウの欄と対照タウの欄を比較して参照されたい。
【0026】
したがって、さらなる態様では、本発明は、キナーゼによるリン酸化部位でリン酸化を阻害し得るか、あるいはホスファターゼによるリン酸化部位の脱リン酸化を促進し得る候補物質のスクリーニングにおいて、本明細書に定義した1個または複数のこれらのリン酸化部位を含むタウタンパク質を使用することを提供する。
【0027】
本発明では、リン酸化部位を含むタウタンパク質は、実質的に完全長であって、かつ/または野生型タウタンパク質もしくはPHF-タウタンパク質であってよく、あるいは、それらの断片、活性部分、もしくは配列変異体であってよい。他の実施形態では、本発明は、タウタンパク質をコードする対応する核酸分子を用いることができる。断片、活性部分、または配列変異体であるタウタンパク質を用いる場合、リン酸化部位は、タウタンパク質配列由来の周辺アミノ酸を含んで存在してもよい。好ましくは、本発明はPHF-タウタンパク質を用いる。本発明では、タウおよびPHF-タウの番号付与は、Goedertら、(1989) EMBO J. 1989 Feb; 8(2): 393-9. Cloning and sequencing of the cDNA encoding an isoform of microtubule-associated protein tau containing four tandem repeats: differential expression of tau protein mRNAs in human brain. Goedert M, Spillantini MG, Potier MC, Ulrich J, Crowther RA; あるいはGoedert M, Jakes R. (1990) Expression of separate isoforms of human tau protein: correlation with the tau pattern in brain and effects on tubulin polymerization. EMBO J., 9, 4225-30.の文献で記載されているヒトタウの最長脳アイソフォームの配列(441アミノ酸)によるものである。
【0028】
あるいは、またはさらには、上記で定義した任意のタウタンパク質は、1個または複数のリン酸化部位でリン酸化を保持し得る。これにより、すなわち、1個の部位のリン酸化が、1個または複数の先行リン酸化ステップあるいは同時リン酸化ステップにより生じるタウタンパク質に関する変化に依存する場合の、タンパク質の共同リン酸化の効果を研究することができる。したがって、本発明の一部の実施形態では、本タウタンパク質は、新しく発見された1個または複数の部位に加えて、周知の1個または複数のタウリン酸化部位(場合によりそれらの1個または複数の追加部位でリン酸化を有していてもよい)、例えば、表2の左側の欄に黒色でタイプ入力した部位を含んでいてもよい。
【0029】
さらなる態様では、本発明は、キナーゼによるタウタンパク質の1個または複数の部位でリン酸化を阻害し得る物質のスクリーニング方法であって、前記タウタンパク質は本明細書に記載の1個または複数のリン酸化部位を含み、
(a)少なくとも1種の候補物質、本明細書に記載のタウタンパク質、およびタウタンパク質をリン酸化し得るキナーゼを、キナーゼが候補物質の不在下でタウタンパク質の部位をリン酸化し得る条件下で接触させるステップと、
(b)候補物質が、タウタンパク質の1個または複数の部位でタウタンパク質のリン酸化を阻害するか否か、場合によってはどの程度阻害するかを決定するステップと、
(c)1個または複数の前記部位でタウタンパク質のリン酸化を阻害する候補物質を選択するステップと
を含む方法を提供する。
【0030】
さらなる態様では、本発明は、ホスファターゼによるタウタンパク質の1個または複数の部位で脱リン酸化を促進し得る物質のスクリーニング方法であって、タウタンパク質は本明細書に定義の1個または複数の部位を含み、
(a)少なくとも1種の候補物質、本明細書に定義のタウタンパク質、およびタウタンパク質を脱リン酸化し得るホスファターゼを、ホスファターゼが候補物質の不在下でタウタンパク質の部位を脱リン酸化し得る条件下で接触させるステップと、
(b)候補物質が、タウタンパク質の1個または複数の部位でタウタンパク質の脱リン酸化を促進するか否か、場合によってはどの程度促進するかを決定するステップと、
(c)1個または複数の前記部位でタウタンパク質の脱リン酸化を促進する候補物質を選択するステップと
を含む方法を提供する。
【0031】
一部の実施形態では、方法は本明細書に記載の1つの方法に従って候補物質を同定した後、さらに、候補物質を最適化してその1つまたは複数の特性を改善するステップ、および/または薬剤としてその物質を製剤化するステップを含んでいてもよい。
【0032】
本明細書に記載の方法および使用において、キナーゼは、カゼインキナーゼ1(CK1)、カゼインキナーゼ2(CK2)、プロテインキナーゼA(PKA)、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3α(GSK-3α)、およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)から選択するのが好ましい。さらに好ましくは、キナーゼは、CK1であるか、あるいはCK1、PKAおよびGSK-3βの組合せ(同時使用または連続使用)である。
【0033】
本発明では、好ましくは、タウタンパク質中のリン酸化と脱リン酸化の存在および程度を検出するステップは、以下に詳細に記載する質量分光法を用いて行うことができる。あるいは、またはさらには、リン酸化される部位とリン酸化されない部位とを区別し得る部位特異的認識物質を用いてもよい。当技術分野で周知のかかる薬剤の例は、モノクローナル抗体AT100などの部位特異的抗体である。
【0034】
さらなる態様では、本発明は、上記で定義した1個または複数の部位でタウタンパク質のリン酸化を阻害し得るか、あるいは脱リン酸化を促進し得る、本明細書に記載の1つの方法によって入手可能な物質を提供する。
【0035】
本発明のさらなる態様は、カゼインキナーゼ1がこれまで知られていなかった位置でタウタンパク質をリン酸化し得るという知見に基づく。本位置の一部は周知であるか、あるいはリン酸化部位であることが当技術分野では疑問視されている位置であるが、他の位置については、本明細書で初めて同定されたリン酸化部位である。CK1によりリン酸化されるPHF-タウタンパク質の部位としては、(S46/T50)、S113、S131、T149、T169、S184、S208、(S210/T212)、S214、S237、S238、S241、S258、S262、T263、S285、S289、S305、S341、S352、S356、T361、T373、T386、(S412/S413/T414/S416-これらの4個の部位のうち2個の部位)、S416、S433、およびS435が挙げられる。これらの部位のうち、S113、184、208、(210/212)、214、237、238、S258、S289、S433、およびS435は、PHF-タウタンパク質のリン酸化部位として初めて本明細書で記載されたものである。カゼインキナーゼ1の配列は、J Biol Chem. 1993 Mar 25; 268 (9): 6394-401. Molecular cloning, expression, and characterization of a 49-kilodalton casein kinase I isoform from rat testis. Graves PR, Haas DW, Hagedorn CH, DePaoli-Roach AA, Roach PJ.で提供されている。
【0036】
したがって、本発明は、(a)一対のらせん状フィラメントタウなどのタウタンパク質のリン酸化においてカゼインキナーゼ1の活性を阻害し得るか、あるいは(b)カゼインキナーゼ1に結合して一対のらせん状フィラメントタウなどのタウタンパク質とそれとの相互作用を阻害し得る候補化合物のスクリーニングにおける、本明細書に定義されたカゼインキナーゼ1(断片、活性部分もしくは配列変異体を含む)または対応する核酸分子の使用を提供する。
【0037】
さらなる態様では、本発明は、カゼインキナーゼ1(CK1)によるタウタンパク質のリン酸化を阻害し得る物質のスクリーニング方法であって、前記タウタンパク質が本明細書に記載の1個または複数のリン酸化部位を含み、
(a)少なくとも1種の候補物質、本明細書に定義したタウタンパク質、およびカゼインキナーゼ1を、カゼインキナーゼ1が候補物質の不在下でタウタンパク質の部位をリン酸化し得る条件下で接触させるステップと、
(b)候補物質が、カゼインキナーゼ1によるタウタンパク質の1個または複数の部位でタウタンパク質のリン酸化を阻害するか否か、場合によってはどの程度阻害するかを決定するステップと、
(c)1個つまたは複数の前記部位でタウタンパク質のリン酸化を阻害する候補物質を選択するステップと
を含む方法を提供する。
【0038】
さらなる態様では、本出願は、キナーゼの組合せが、本明細書または先行技術で記載されている多数のリン酸化部位をリン酸化するのに必要であることも記載する。本明細書に記載されている実験において、カゼインキナーゼ1(CK1)、プロテインキナーゼA(PKA)およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)の組合せが、タウタンパク質(特にPHF-タウタンパク質)中の多数のリン酸化部位を(単独で、あるいは共同して)リン酸化し得ることが分かった。このキナーゼの組合せは、単独のキナーゼを使用するスクリーニングを目的とした先行技術の提案とは対照的に、タウリン酸化の調節物質のスクリーニングにおいて同時にまたは連続して使用することができる。
【0039】
したがって、本発明は、(a)タウタンパク質のリン酸化においてカゼインキナーゼ1の活性を阻害し得るか、あるいは(b)カゼインキナーゼ1に結合してタウタンパク質とそれとの相互作用を阻害し得る候補化合物のスクリーニングにおける、カゼインキナーゼ1(CK1)、プロテインキナーゼA(PKA)およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)(断片、活性部分もしくは配列変異体を含む)または対応する核酸分子の使用を提供する。
【0040】
さらなる態様では、本発明は、カゼインキナーゼ1(CK1)、プロテインキナーゼA(PKA)およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)によるタウタンパク質のリン酸化を阻害し得る物質のスクリーニング方法であって、前記タウタンパク質が本明細書に記載された1個または複数のリン酸化部位を含み、
(a)少なくとも1種の候補物質、本明細書に定義したタウタンパク質、カゼインキナーゼ1(CK1)、プロテインキナーゼA(PKA)およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)を、キナーゼが候補物質の不在下でタウタンパク質の部位をリン酸化し得る条件下で接触させるステップと、
(b)候補物質が、キナーゼによるタウタンパク質の1個または複数の部位でのタウタンパク質のリン酸化を阻害するか否か、場合によってはどの程度阻害するかを決定するステップと、
(c)1個または複数の前記部位でタウタンパク質のリン酸化を阻害する候補物質を選択するステップと
を含む方法を提供する。
【0041】
本発明のこの態様では、これらの1種または複数のキナーゼは、同様または類似の活性および/または基質特異性を有するキナーゼで代用され得る。
【0042】
本発明の実施形態は、ここに実施例としてより詳細に述べるが、添付の表に関するものとして限定されるものではない。
【0043】

表1には、本発明に至る研究で発見された新規部位と、それらの部位で作用し得るキナーゼをまとめている。表2および表3は、このデータをより詳細に示したものである。
【0044】
配列番号1は、ラットカゼインキナーゼ1(アミノ酸428個のタンパク質)のアミノ酸配列を示す。
【0045】
配列番号2は、ヒトタウタンパク質(アミノ酸441個のタンパク質)の長形態のアミノ酸配列を示す。
【0046】
配列番号3は、ヒトfynキナーゼ(アミノ酸537個のタンパク質)のアミノ酸配列を示す。
【0047】
タウタンパク質
本明細書に記載したアッセイおよびアッセイ方法は、野生型タウタンパク質もしくは完全長タウタンパク質、キナーゼもしくはホスファターゼ、またはそれらの断片、活性部分もしくは誘導体を用いることができる。タウタンパク質の場合、本アッセイで用いられる材料は、上述のように非リン酸化され得るか、あるいは部分的にリン酸化され得る。
【0048】
本発明では、タウタンパク質、キナーゼ(特にCK1キナーゼもしくはfynキナーゼ)またはホスファターゼの誘導体は、1個または複数のアミノ酸の1個または複数の付加、挿入、欠失、ならびに置換によって、野生型のアミノ酸配列由来の1個または複数のアミノ酸残基により異なるアミノ酸配列を有する。したがって、変異体、誘導体、対立遺伝子、突然変異体および相同体(例えば、他の生物由来のもの)が含まれる。したがって、タウタンパク質またはCK1キナーゼまたはfynキナーゼの誘導体は、野生型の配列に関して、1、2、3、4、5個、5個を超える、または10個を超えるアミノ酸の改変(置換など)が含まれ得る。
【0049】
好ましくは、本明細書に記載のアッセイで用いられるタンパク質の断片または誘導体は、好ましくは、そのタンパク質の関連する野生型の配列の対応する部分と配列同一性を共有し、少なくとも約60%、または70%、または75%、または80%、または85%、90%、または95%の配列同一性を有するのが好ましい。十分に理解されているとおり、アミノ酸レベルの同一性は、一般に、Altschulら、(1990) J. Mol. Diol. 215: 403〜10のTBLASTNプログラムにより定義され決定され得る(これは当技術分野において標準的に用いられている)アミノ酸同一性の意味である。同一性は、関連のペプチドの完全長に重なるか、あるいは関連の野生型アミノ酸配列に対して、約5、10、15、20、25、30、35、50、75または100個もしくはそれ以上のアミノ酸の連続配列に重なり得る。あるいは、断片または誘導体をコードする核酸は、5×SSC、5×デンハート剤、0.5〜1.0%のSDS、100μg/mlの変性、断片化したサケ精子DNA、0.05%ピロリン酸ナトリウム、および50%以下のホルムアミドを含むハイブリダイゼーション溶液を用いて、例えば、Ausubel, Short Protocols in Molecular Biology, 1992、またはSambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989などの教科書に記載されているようなストリンジェント条件下で、対応する野生型核酸にハイブリダイズし得る。ハイブリダイゼーションは、少なくとも6時間、37〜42℃で実施する。ハイブリダイゼーションに続いて、以下のようにしてフィルターを洗浄する:(1)2×SSCおよび1%SDS中、室温にて5分;(2)2×SSCおよび0.1%SDS中、室温にて15分;(3)1×SSCおよび1%SDS中、37℃にて30分〜1時間;(4)1×SSCおよび1%SDS中、42〜65℃にて2時間、30分毎に溶液を変える。
【0050】
特定の配列相同性の核酸分子間のハイブリダイゼーションを達成するために必要なストリンジェンシー条件を算出する一般的な式の1つは以下のものである。(Sambrookら、1989): Tm = 81.5℃+ 16.6Log[Na+] + 0.41(% G+C) - 0.63(% ホルムアミド)-600/#bp(二重らせん中)
【0051】
上記式の実例として、42%のGC含量と平均200塩基のプローブサイズとともに、[Na+] = [0.368]と50%ホルムアミドを用いる場合、Tmは57℃である。DNA二重らせんのTmは、相同性が1%低下する毎に1〜1.5℃ずつ低下する。したがって、約75%を超える配列同一性を持つ目的物は、42℃のハイブリダイゼーション温度を用いて観察することができる。かかる配列は、本発明の核酸配列に実質的に相同であると考えられる。
【0052】
阻害剤および促進剤のスクリーニング方法
新しい薬剤の同定に至る薬剤探索は、主要化合物が発見された前後に、非常に多くの候補物質をスクリーニングすることを含み得ることはよく知られている。これは、薬学研究に非常に経費がかかり、かつ時間を要する要因の1つである。スクリーニング工程を補助する手段は、注目に値する商業上の重要性と有用性を有しているはずである。
【0053】
上述のように、タウタンパク質のリン酸化阻害剤またはタウタンパク質の脱リン酸化促進剤である物質のスクリーニング方法は、好適な反応媒体中、1種または複数の試験物質をタウタンパク質およびキナーゼまたはホスファターゼ(本明細書に定義したとおりである)と接触させるステップと、候補物質の存在下および不在下で、リン酸化または脱リン酸化の存在または程度を決定するステップとにより実施することができる。候補物質の存在および不在下での活性の差は、調節効果を示すものである。
【0054】
インビトロにおける予備アッセイに続いてインビボアッセイを行なってもよく、あるいはインビボアッセイと同時実施してもよい。
【0055】
もちろん、当業者は、試験アッセイで得られた結果を比較するための任意の好適な対照試験を計画する。
【0056】
本発明によるアッセイ方法の実施に続いて、タウタンパク質(本明細書に定義したとおりである)のリン酸化部位の1つとキナーゼ(CK1、もしくはCK1、PKAおよびGSK-3βの組合せ)またはホスファターゼの間の相互作用を調節する能力に関する有効性を試験する化合物、物質または分子の単離および/または製造および/または使用を実施することができる。
【0057】
本発明のアッセイの厳密なフォーマットは、慣用の技術および知識を用いて当業者により変更することができる。例えば、物質間の相互作用は、検出可能な標識を用いて物質を標識化し、固相支持体上に固定された他方の物質と前記物質とを接触させることによりインビトロで研究することができる。好適な検出可能な標識(特にペプチジル物質に対する標識)としては、組換え技術により得られたペプチドおよびポリペプチドへ組み入れることができる35S-メチオニンが挙げられる。また組換え技術により得られたペプチドおよびポリペプチドは、抗体で標識化可能なエピトープを含有する融合タンパク質として発現され得る。
【0058】
固相支持体上に固定化されるタンパク質は、固相支持体に結合されるそのタンパク質に対する抗体を用いて、あるいはそれ自体は知られている他の技術によって固定化することができる。インビトロにおける好ましい相互作用は、グルタチオンS転移酵素(GST)を含む融合タンパク質を利用しすることができる。これはグルタチオンアガロースビーズ上に固定化することができる。上述のタイプのインビトロアッセイフォーマットにおいて、試験化合物は、固定化したGST融合ポリペプチドに結合する標識化ペプチドまたはポリペプチドの量を減少させるその能力を決定することによりアッセイすることができる。これは、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、グルタチオンアガロースビーズを分画することにより決定することができる。あるいは、ビーズを洗って未結合タンパク質を除去し、例えば、好適なシンチレーションカウンター中に存在する標識の量を数えることによって、結合されたタンパク質の量を決定することができる。
【0059】
本発明のアッセイに添加され得る候補物質の量は、通常は、用いる化合物の種類に応じて試行錯誤により決定される。一般には、約0.001nMから1mMまたはそれ以上の濃度、例えば、0.01nMから100μM、例えば、0.1から50μM、例えば、10μMの推定上の阻害剤化合物を用いることができる。ペプチドが試験物質である場合、より高い濃度を用いることができる。作用が弱い分子であっても、さらなる研究および開発にとって有用なリード化合物である可能性がある。
【0060】
組合せライブラリー技術は、ポリペプチドの活性を調節する能力に関して、潜在的に非常に多数の異なる物質を試験するのに有効な方法を提供する。かかるライブラリーおよびそれらの使用は、当技術分野で周知である。使用され得る化合物は、薬剤スクリーニングプログラムで用いられる天然または合成の化学化合物であってよい。いくつかの特性決定された成分または特性決定されていない成分を含有する植物の抽出物も用いることができる。
【0061】
いずれのタンパク質でも相互作用の部位に対する抗体は、推定上の阻害剤化合物のさらなるクラスを形成する。候補阻害剤の抗体は特性化され、それらの結合領域が、相互作用の不活性化に関与し得る単鎖抗体およびそのフラグメントを提供するために決定することができる。また抗体は、タウタンパク質中の1つの部位のリン酸化がアッセイ中に生じたかどうかを決定するための部位特異的認識物質として利用することもできる。
【0062】
抗体は、当技術分野で標準の技術を用いて得ることができる。抗体を産生する方法としては、本タンパク質またはその断片で哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヤギ、ヒツジまたはサル)を免疫することが挙げられる。抗体は、当技術分野で周知の任意の種々の技術を用いて免疫化した動物から取得することができ、好ましくは、目的の抗原に抗体を結合させることによってスクリーニングすることができる。例えば、ウェスタンブロッティング技術または免疫沈降を用いることができる(Armitageら、1992, Nature 357: 80-82)。動物からの抗体および/または抗体産生細胞の単離は、動物を犠牲にするステップを伴い得る。
【0063】
ペプチドで哺乳動物を免疫化する代替または補完として、タンパク質に対する特異的抗体は、例えば、表面上に機能的な免疫グロブリン結合ドメインを提示するラムダバクテリオファージまたは繊維状バクテリオファージを用いて発現させた免疫グロブリン可変ドメインの組換えにより作製されたライブラリーから得ることができる;例えば、国際公開第WO92/01047号を参照されたい。ライブラリーは未処理であってもよく、すなわち、いずれのタンパク質(または断片)によっても免疫されていない生物から取得した配列から構築されたものであってよいか、あるいは、目的の抗原に暴露された生物から得られた配列を用いて構築されたものであってよい。
【0064】
本発明による抗体は、多くの方法で改変され得る。実際には、「抗体」という用語には、必要な特異性を備えた結合ドメインを有するすべての結合物質を網羅するものと解釈すべきである。したがって、本発明は、抗体フラグメント、誘導体、抗体の機能的な同等物および相同物(その形状が、抗原またはエピトープに結合し得る抗体の形状に擬似している合成分子および分子を含む)を網羅する。
【0065】
抗原または他の結合パートナーと結合し得る抗体フラグメントの例は、VL、VH、ClおよびCH1ドメインからなるFabフラグメント;VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;抗体の単腕のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;VHドメインからなるdAbフラグメント;単離CDR領域およびF(ab')2フラグメント(ヒンジ領域でジスルフィド結合により結合している2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント)である。単鎖Fvフラグメントもまた含まれる。
【0066】
本発明によるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、遺伝子突然変異または他の改変を受けてもよい。さらに、モノクローナル抗体に組換DNA技術の技術を施し、オリジナル抗体の特異性を維持する他の抗体またはキメラ分子を産生させることができることは当業者に理解されよう。かかる技術には、免疫グロブリン可変領域、または定常領域に対する抗体の相補性決定領域(CDR)、または異なる免疫グロブリンのフレームワーク領域を含む定常領域をコードするDNAの導入が含まれ得る。例えば、EP 0 184 187 A、GB 2 188 638 A、またはEP 0 239 400 Aを参照されたい。キメラ抗体のクローニングと発現は、EP 0 120 694 AおよびEP 0 125 023 Aに記載されている。
【0067】
抗体(抗体フラグメントを含む)をコードする核酸を含有し、それらを発現し得る真核生物または原核生物の宿主細胞のような、所望の結合特性を備えた抗体を産生し得るハイブリドーマは、本発明の範囲内である。また本発明は、抗体を産生し得る細胞を、抗体が産生され、好ましくは、分泌される条件下で増殖させることを含む、抗体の産生方法を提供する。
【0068】
試料に関する抗体の反応性は、任意の適当な手段によって決定することができる。個々のレポーター分子による標識付加は可能性の1つである。レポーター分子は、直接または間接的に、検出可能、好ましくは決定可能なシグナルを生成することができる。レポーター分子の結合は、直接的または間接的、共有結合的(例えば、ペプチド結合または非共有結合を介して)であってよい。ペプチド結合を介した結合は、抗体およびレポーター分子をコードする遺伝子融合の組換え的発現の結果によるものであり得る。結合を決定する方法は、本発明の特徴ではないが、当業者は、それらの文献と一般的知識により好適な方法を選択することができる。
【0069】
質量分析
AD脳から単離したタウタンパク質内の新規リン酸化部位を見出すために、LC/MS/MS系の方法を用いた。最初に、ヒトのAD脳材料の熱安定性調製物からいわゆるPHF-タウを抽出し、次いでさらに、イオン交換クロマトグラフィーにより精製した。SDS-PAGEを用いて単離し、次いで、ホスホペプチドマッピングを試みた。クーマシー染色バンドを切り出し、還元し、アルキル化し、トリプシン、キモトリプシンおよびエンドプロテアーゼAsp-Nなどの一連のプロテアーゼを用いて酵素的に消化した。次いで、得られたペプチド混合物は、200nl/分の流速でアセトニトリル勾配を用いて溶出されるペプチドを入れた75ミクロンID PepMap逆相カラムを用いて得られるペプチド分離物を用いてQ-TOFミクロ装置を使用してLC/MS/MSにより分析される。
【0070】
注文品のインデックスファイルに対してサーチするデータベースは、Mascot algorithm (Matrix Science)を利用して行われる。次に続いて、ホスホペプチドに関するすべてのMS/MSスペクトルは、視覚的に結果をチェックすることで確認される。
【0071】
ペプチドのタンデムMS/MSを用いて、生成された断片イオンにより配列情報を提供することができる。一般に断片形成は、アミノ酸配列を判定する配列イオンのラダーに結び付くペプチド結合を区切って生じる。一連の連続するイオン間の違いは、ペプチド中のその位置におけるアミノ酸の質量を示す。共通する最多のイオン型は、bイオンとyイオンである。断片を含有するC末端はyイオンで表され、N末端を含有する断片はbイオンで表される(Roepstorff, P.、Fohlman, J.、J. Biomed. Mass Spectrom. 1984、11、601)。通常、トリプシンタンパク質分解により生成され、エレクトロスプレーによりイオン化されたペプチドは、二重荷電のイオンを形成する。これは、ペプチド内の塩基性基、すなわち、N末端のαアミノ基とC末端のリジンまたはアルギニンの側鎖の存在に由来する。かかるペプチドのMS/MSスペクトルは、一般にスペクトルの高質量域で一連の顕著なy型イオンを生じる(Bonner, R.、Shushan, B.、Rapid Commun. Mass Spectrom. 1995、9、1067-1076)。理想的には、新規のシークエンス目的においては、相補的なbイオンとyイオンの完全なセットが、提示のペプチド配列に対する高い信頼性を保証するであろう。さらに、ペプチドの完全配列を表す断片イオンが存在する場合、リン酸基の結合部位はこれらの断片イオンの位置およびパターンから推定することができる。したがって、各ホスホペプチド中のリン酸化の正確な部位を探索するほとんどの場合においてこれは可能である。ある場合には、本発明者らは、MS/MSスペクトルが混成であることも見出した。この場合、2種類(以上)の異なるホスホペプチドは、同一スペクトル中で表わされる。これは、各ホスホペプチドの形態が同一の分子重量と同数のリン酸基を有するが、これらがペプチド内で異なるアミノ酸に結合されている理由による。したがって、両形態は、同じm/z比の前駆イオンを生じさせ、次いで、それがMS/MS実験中に質量分析計によって同時に選択される。この場合、本発明者らは、関係するホスホペプチドを「レジオマー(regiomer)」と呼称する。
【0072】
化合物をスクリーニングするための多重アッセイ
薬剤開発では、化合物が提示した標的に対して効果を有するか否かを示すための簡単な読み取りを備えた迅速なハイスループットアッセイを開発することが望まれている。キナーゼなどの酵素機能を阻害する化合物の場合、改変のレベルを容易に検出し得る方法で、酵素により改変される標的酵素に対する人工的基質を開発することは可能である。阻害化合物の存在において、その基質は改変されず、かつそれは容易に検出することができる。
【0073】
タウリン酸化の阻害剤の場合、多くの部位のリン酸化状態に関する特異的プロテインキナーゼを阻害する作用をモニターすることが必要である。一態様では、タウ上の各リン酸化部位に対応する人工的基質を調製し、他の部位と無関係である個々の部位のリン酸化を阻害するそれらの能力について各化合物を評価することができる。かかる系では、各化合物を複数のウェルに添加するが、各ウェルには、提供されたキナーゼ標的、リン酸化部位に特異的な人工的基質の1種およびリン酸化を示すレポーター系(リン酸化形態か非リン酸化形態の基質に特異的に結合するモノクローナル抗体であって、蛍光性マーカーで標識化されている抗体、色調のほとんどない基質を色の付いた生成物へ変換する酵素、または発光シグナルの生成を促進する酵素等)が含有されている。かかるアッセイでは、標的に対する人工的基質は、アッセイ方法の一部として、結果を読み取る前に未反応のすべての抗体を洗浄により系から除去するように、固体表面に固定されるのが望ましい。かかるアッセイは、一般的には96ウェル、より一般的には384ウェル、より一層一般的には1536ウェルの幅広いフォーマットのマイクロタイターウェル中で実行することができる。あるいは、かかるアッセイは、ガラスなどの固相支持体をベースとしたマイクロアレイ上で実行することができる。
【0074】
あるいは、タウの全体的なリン酸化状態に対する異なるキナーゼ阻害剤の効果を考案することができる。かかるアッセイでは、リン酸化を保持しない完全長の組換え型タウタンパク質または1種または複数の望ましいリン酸化を保持する完全長の組換え型タウタンパク質を基質として用いることができる。あるいは、単一のリン酸化部位を表すすべての人工的基質の等量の混合物を用いてもよい。各スクリーニングアッセイは、タウのリン酸化に関して周知の活性を持つ1種または2種以上のプロテインキナーゼの阻害に対する化合物の効果を決定する。上述のより簡単なアッセイを用いる場合、マイクロタイターのプレートのウェルに基質、標的キナーゼおよび化合物を添加し、阻害化合物の不在下で、適当なバッファーと基質をリン酸化し得る他の成分とともにインキュベートされる。次いで、基質のリン酸化状態は、抗体と、タウ上の個々のリン酸化部位に対する特異性を有する他の分子との混合物を用いて決定することができる。この場合、かかる抗体または他の分子は、蛍光染料などの特有のレポーター、あるいは赤外線スペクトル、可視スペクトルまたは紫外線スペクトルで特有の分光特性を有する化合物で各々標識化される。リン酸化された基質に未結合のままである抗体を除去した後、適当な読み取り装置を用いて、それぞれの特異的レポーターのレベルを決定し、タウ中の個々の特異的部位におけるリン酸化レベルを、キナーゼ阻害剤を添加しなかった対照と比較することによって明らかにする。
【0075】
かかる多重スクリーニングアッセイの好ましい実施形態では、基質は脱リン酸化された組換え型タウタンパク質であり、キナーゼは、CK1、CK2、GSK-3a、GSK-3b、PKA、CDK5、ERK1/2、SAPK1g、SAPK2a、SAPK2b、SAPK3、SAPK4、ストレス活性化プロテインキナーゼファミリーキナーゼ(SAPK)、例えば、p38MAPKおよびJNK、MARKファミリーキナーゼ、例えば、110K、cdc2、cdk2、PKC、PKN、TTK、PKB、DYRK、PK、CaMKII、PKD、Rhoキナーゼ、あるいはこれらのキナーゼの1種以上の混合物から選択される。レポーター系は、一般に好ましくは標識抗体、典型的にはモノクローナル抗体(例えば、当技術分野で周知の技術を用いてウサギまたはマウスから取得可能な抗体)である。標識は、好ましくは、抗体に共有結合で結合されている蛍光性化合物または比色定量化合物、さらに好ましくは蛍光性ナノ粒子または比色定量ナノ粒子、最も好ましくは特有のRamanスペクトルを持つナノ粒子である。
【0076】
ペプチド擬似物質の開発
他の候補阻害剤化合物は、ポリペプチドまたはペプチド断片の三次元構造のモデル化に基づき、かつ合理的な薬剤設計を用いて、特定の分子形状、大きさおよび電荷特性を有する有望な阻害剤化合物を得ることができる。
【0077】
本発明によるアッセイおよびスクリーニングで候補物質が発見された場合、それらの物質は、薬剤開発用のペプチド擬似化合物を設計するために用いることができる。周知の製薬上活性な化合物へのペプチド擬似体の設計は、「リード」化合物に基づいた薬剤開発に関する周知の手法である。これは、活性化合物を合成するのが困難であるか、経費が高くなる場合、あるいは活性化合物が特定の投与方法に適さない場合(例えば、ペプチドは、消化管内でプロテアーゼによってすばやく分解される傾向にあるので、経口組成物用の有効成分としては不適当である)、望ましいと考えられる。一般に、擬似体の設計、合成および試験は、標的特性について多数の分子数をランダムにスクリーニングすることを避けるために用いられる。
【0078】
一般には、一定の標的特性を有する化合物から擬似体を設計する場合、いくつかのステップが取られる。第1に、標的特性の決定において重大かつ/または重要な化合物の特定部分を決定する。ペプチドの場合には、ペプチド中のアミノ酸残基を系統的に変化させる、例えば、順次各残基を置換させることによってことにより行うことができる。化合物の活性領域を構成するこれらの部分または残基は、「ファルマコフォア」として知られている。
【0079】
ファルマコフォアが見つかると、その構造は、一連の原料からのデータ、例えば、分光技術データ、X線回折データ、NMRを用いて、その物性(例えば、立体化学、結合、大きさ、および/または電荷)に従ってモデル化される。このモデル化方法では、コンピューターによる分析、類似性マッピング(原子間の結合ではなく、ファルマコフォアの電荷および/または容量をモデル化するもの)および他の技術を用いることができる。
【0080】
この手法の変法においては、リガンドの三次元構造とその結合パートナーをモデル化する。リガンドおよび/または結合パートナーが結合の構造を変化させ、擬似体の設計においてモデルがこのことを考慮できる場合、これは特に有用となり得る。
【0081】
次いで、ファルマコフォアを擬似する化学基をグラフト化することができるテンプレート分子が選択される。その上へグラフト化されるテンプレート分子および化学基は、好都合には、擬似体の合成が簡単であって、薬理学的に許容可能であり、かつリード化合物の生物活性を維持しながらインビボで分解しないように選択することができる。次いで、この手法により見つかった1種または複数の擬似体をスクリーニングして、それらが標的特性を有しているかどうか、あるいはその特性をどの程度示すのかを確かめることができる。次いで、最適化または改変をさらに行い、インビボ試験または臨床試験用の1種または複数の最終擬似体に到達することができる。
【0082】
医薬組成物
タウタンパク質のリン酸化または脱リン酸化を調節または作用する物質の同定後、さらにその物質について研究することができる。さらに、その物質を製造し、かつ/または調製(すなわち、薬品、医薬組成物または薬剤などの組成物の製造または製剤化)に用いることができる。これらは個体に投与することができる。
【0083】
したがって、本発明は、種々の態様において、本明細書に記載のスクリーニングアッセイおよびアッセイ方法を用いて同定される物質だけでなく、かかる物質を含む医薬組成物、薬品、薬剤もしくは他の組成物、かかる組成物を、例えば、タウオパシーを治療するために、患者に投与することを含む方法、タウオパシーを治療するための投与用組成物の製造におけるかかる物質の使用、ならびに、製薬上許容可能な添加剤、ビヒクルまたは担体と場合により他の成分をかかる物質と混合することを含む医薬組成物の製造方法に及ぶ。
【0084】
本発明のアッセイおよびアッセイ方法でキナーゼ阻害剤またはホスファターゼ促進剤として同定される物質、あるいはさらなる改良または最適化から得られる化合物または物質は、医薬組成物に製剤化され得る。これらの組成物は、タウオパシー(タウタンパク質の神経原線維変化または凝集塊を特徴とする症状である)を治療するために使用することができる。タウオパシーは、当業者に周知の認識されているクラスの疾患であり、アルツハイマー病、第17番染色体に連鎖するパーキンソン症候群を伴った前頭側頭型痴呆、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、大脳皮質基底核変性症、多重系委縮(MSA)、鉄蓄積に伴う神経基底の(neurobasal)退化、1型(Hallervorden-Spatz)、嗜銀性グレイン型痴呆、ダウン症候群、石灰化を伴った散在性神経原線維変化、ボクサー痴呆、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー病、筋緊張性ジストロフィー、ニーマン-ピック病タイプC、進行性皮質下グリオーシス、プリオンタンパク質大脳アミロイド脈管障害、神経原線維変化のみを示す痴呆、脳炎後パーキンソニスム、亜急性硬化性汎脳炎、クロイツフェルト-ヤコブ病、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン症候群痴呆複合体、神経原線維変化/痴呆を伴った非グアム型運動ニューロン疾患、およびパーキンソン病が挙げられる。細胞内のタウ沈着は、通常ニューロンまたは神経膠であり、その沈着は、線状であって、対照のヒト脳由来のタウ中のリン酸化レベルと比較した場合に一般に過リン酸化状態である。ADの場合、この過リン酸化タウは、PHFに由来することから、一対のらせん状フィラメントタウ(PHF)タウと呼ばれることが多い。
【0085】
これらの組成物は、上記物質の1つに加えて、製薬上許容可能な添加剤、担体、バッファー、安定剤、または当業者に周知の他の原料を含み得る。かかる原料は非毒性であるべきであって、かつ有効成分の効果を阻害するものであってはならない。担体または他の原料の厳密な性質は、投与経路、例えば、経口経路、静脈内経路、経皮経路、皮下経路、経鼻経路、筋肉内経路、腹腔内経路によって決まり得る。
【0086】
経口投与用医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、粉剤または液剤の形態であってよい。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバントなどの固体担体を含み得る。液体医薬組成物は、一般に、水、精油、動物油または植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理食塩液、デキストロースもしくは他のサッカライド溶液、またはグリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールを含み得る。
【0087】
静脈注射、皮膚注射もしくは皮下注射、または疾患部位の注射については、有効成分は、発熱性物質を含まず、好適なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容可能な水溶液の形態である。関連の当業者は、例えば、生食注射、リンガー液、乳酸加ゲル液などの等張性ビヒクルを用いる、好適な溶液を都合よく調製することができる。保存剤、安定剤、バッファー、抗酸化剤および/または他の添加剤も、所望により含むことができる。
【0088】
これが、ポリペプチド、抗体、ペプチド、核酸分子、小分子、または個体に投与される本発明による他の製薬上有用な化合物であるか否かを問わず、投与は、個体に効果を示すのに十分な「予防上の有効量」または「治療上の有効量」(場合によっては、予防を治療と考えてもよいが)であるのが好ましい。投与された実際の量、ならびに投与の速度および時間的経過は、治療されるものの性質および重症度によって変わる。治療の処方(例えば、用量などに関する決定)は、一般開業医および他の医師の責任の範囲内であり、一般には、治療される障害、個々の患者の症状、送達部位、投与方法、および当業者に周知の他の要因を考慮する。上記の技術およびプロトコルの例は、Remington's Pharmaceutical Sciences、第20版、2000年発行、Lippincott, Williams & Wilkinsで確認することができる。組成物は、治療する疾患に基づいて、単独で投与してもよく、あるいは、他の治療と組み合わせて同時にまたは連続して投与してもよい。
【0089】
原料および方法
質量分析
データ収集
SDS-PAGEの後、PHF-タウに関係のあるゲルバンドを切り出し、還元し、アルキル化し、トリプシンで消化した。ペプチドは、一連のアセトニトリルおよび水溶液洗浄によりゲル断片から抽出した。抽出物を最初の上清とともにプールし、凍結乾燥した。次いで、各試料を50mMの重炭酸アンモニウム6ml中に再懸濁し、LC/MS/MSにより分析した。クロマトグラフィーによる分離は、Ultimate LC系(Dionex, UK)を用いて実施した。ペプチドは、75mm径C18 PepMapカラムの逆相クロマトグラフィーにより分離した。0.05%ギ酸に溶解したアセトニトリルの勾配を送達して、200nl/分の流速でペプチドを溶出した。ペプチドは、Q-Tofmicro (Micromass,UK)に適したZスプレー源を用いて、エレクトロスプレーイオン化によりイオン化した。この装置は、衝突誘起断片形成によるシークエンシングにおいて、自動切替型でそれらの輝度に基づいた前駆イオンを選択して運転するように設定した。
【0090】
データ分析
質量スペクトルデータはピークリストに加工され、Mascotソフトウエア(Matrix Science, UK)を用いて、タウ-6の完全長配列(アミノ酸441個;分子量45847)に対して探索した。リン酸化ペプチドは、探索するパラメーター内の可変的な改変としてリン酸塩を選択することにより同定した。セリン、スレオニンおよびチロシンのリン酸化をすべて検討した。各ペプチド内の改変の正確な位置は、産生された断片イオンのパターンによって決定した(さらなる説明については下記を参照されたい)。
【0091】
タンデム型質量分析
決定的な証拠を取得し、リン酸化の正確な部位を決定すること目的として、逆相クロマトグラフィーによりペプチドを単離し、タンデム型MS/MSによりシークエンスした。これらの実験では、各ホスホペプチドに関係のある前駆イオンを個別に選択し、それを衡突解離(CID)に供した。そのようにして得られた断片イオンはホスホペプチドの配列を示し、改変の部位はその関連断片イオンの分子量によって決定される。反対に、特定のホスホペプチド内のリン酸化の他の可能性のある部位は、MS/MSスペクトル内の他の断片イオンの存在により除外することもできる。
【0092】
予期せぬ知見は、一部の場合において、単一のMS/MSスペクトル内にホスホペプチドのいくつかの別個の形態を正確に示すことができたことである。この場合、ホスホペプチド類は、互いに同じ分子量を有し(かつ、それで同時に選択される)が、リン酸化の部位が異なっている。したがって、確認された断片イオンは、分析されている各分子の混成を説明するのに有効である。
【0093】
アルツハイマー病脳からのPHF-タウの精製
一対のらせん状フィラメント(PHF)タウは、Hangerら(1998)に記載されているようにしてアルツハイマー病脳から精製した。簡単に説明すれば、脳組織をホモゲナイズし、不溶性PHF-タウを分画遠心法により回収した。グアニジン中に可溶化した後、再生バッファーに対して透析し、PHF-タウを陰イオン交換および逆相クロマトグラフィーにより精製した。
【0094】
組換え型ヒトタウの調製および精製
最大タウアイソフォーム(2N4R)を発現するプラスミドを用いて、以前Mulotら(1994)に記載されているようにして組換え型ヒトタウを調製し精製した。簡単に説明すれば、2N4Rタウを発現する細菌細胞溶解物を加熱し、遠心分離にかけ非耐熱性タンパク質を除去した。硫酸アンモニウムで上清を分画し、沈殿した原料を可溶化し、バッファーに透析した後、陽イオン交換クロマトグラフィーにかけた。NaClでタンパク質を溶出し、タウを含有する画分をプールし、重炭酸アンモニウムに対して透析した後、凍結乾燥した。
【0095】
セリン/スレオニンプロテインキナーゼによる組換え型タウのインビトロにおけるリン酸化
30℃で6時間、3mMのATPの存在下で、組換え型ヒトタウ(40μg/ml)を、各所定濃度で、67U/mlカゼインキナーゼ1(CK1)、67U/mlカゼインキナーゼ2(CK2)、167U/mlサイクリックAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)、67U/mlグリコーゲン合成酵素-3β(GSK-3β)、または4種類のキナーゼすべての組合せとインキュベートした。各キナーゼは、New England Biolabsから精製組換え形態で入手した。
【0096】
タウのゲル中タンパク分解性消化
PHF-タウまたはインビトロにおけるリン酸化タウタンパク質を10%(wt/vol)ポリアクリルアミドゲル上で単離し、コロイド性クーマシーブルーGで染色した。タウに対応するタンパク質バンドを切り出し、カルバミドメチル化し、タンパク分解酵素(トリプシンまたはAsp-N)で消化した。一連のアセトニトリルおよび水溶液洗浄によりゲル断片からペプチドを抽出し、乾燥させ、50mMの重炭酸アンモニウム中に再懸濁した。
【0097】
ニューロンのアミロイドβ処理
ラットおよびヒトの皮質ニューロンを1〜10分間、Aβペプチド(25〜35)またはリバースAβペプチド(35〜25)で処理した。ホスホチロシンを含有するタンパク質を免疫沈降させ、SDS-PAGEにより単離した。ニューロン培養物および免疫沈降物の熱安定性抽出物のウェスタンブロットをタウに対する抗体で探索した。
【0098】
結果
PHF-タウで発見した新規部位
今日の文献では、PHF-タウ中に、直接的手段により同定された25個の周知のリン酸化部位(すべてセリンまたはスレオニンである)が報告されている(Hangerら、1998)。さらに、抗体の反応性のみによって同定された2〜3個の部位がある。本発明者らは、PHF-タウにさらに12個のリン酸化部位を見出したが、そのうちの1個はチロシン残基(tyr394)であり、部位の合計は37個になった。新規部位の4個はこれまでに報告されている部位よりもタウ中のアミノ末端にあり、また3個の部位はこれまでに発見されたものよりもカルボキシ末端である。12個の新規部位のうち、4個はタウの選択的スプライス領域中にあり、したがって、特異的タウアイソフォーム中にのみ存在し、これまで同定されたすべてのPHF-タウリン酸化部位は、すべてのタウアイソフォーム中に存在する。PHF-タウ中の12個の新規部位の1個だけ(thr414またはser416のいずれか)が正常な脳由来のタウで検出される(ser416)。
【0099】
調査した4種類の各セリン/スレオニンキナーゼに対する組換え型タウ上の新規部位
表1も参照されたい。
【0100】
CK1により、28個の新規部位が見つかり、全部で合計30個となった。新規の15個のCK1部位を含む17個のCK1部位は、PHF-タウ中に存在する。CK1は、12個の新規PHF-タウ部位のうち6個に対する候補キナーゼである。
【0101】
CK2により、5個の新規部位が見つかり、全部で合計8個となった。新規の3個のCK2部位を含む5個のCK2部位は、PHF-タウ中に存在する。CK2は、12個の新規PHF-タウ部位のうち1個に対する候補キナーゼである。
【0102】
GSK-3により、12個の新規部位が見つかり、全部で合計38個となった。新規の5個のGSK-3β部位を含む21個のGSK-3部位は、PHF-タウ中に存在する。GSK-3は、12個の新規PHF-タウ部位のうち4個に対する候補キナーゼである。
【0103】
PKAにより、5個の新規部位が見つかり、全部で合計24個の部位となった。新規の4個のPKA部位を含む16個のPKA部位は、PHF-タウ中に存在する。PKAは、12個の新規PHF-タウ部位のうち2個に対する候補キナーゼである。
【0104】
組換え型タウおよびキナーゼデータとPHF-タウリン酸化部位とを比較したところ、CK1、GSK-3βおよびPKAに対するすべてのリン酸化部位を組み合わせた場合、37個のPHF-タウ部位のうち30〜33個がリン酸化される(3個の部位は、2個の隣接する残基のうち1個としてのみ定義される)。残りの4〜7個の部位のうち、1個はチロシンキナーゼ活性を必要とするチロシン残基であり、他の4個の部位は周知のキナーゼを有しておらず、残りの2個の部位は、2個の近接する残基の1個のみリン酸化される領域内に互いに含まれている(T111およびS185)。
【0105】
PHF-タウの12個の新規リン酸化部位のうち7個は、CK1、GSK-3またはPKAによって生成することができ、4個は周知のキナーゼを有しておらず、第5の部位は、リン酸化のためのチロシンキナーゼを必要する。
【0106】
1つの反応で4種類のキナーゼを互いに組み合わせた場合、本発明者らは、4種類のキナーゼのいずれかの単独では検出されなかった1個の部位(thr111)を生成し、この残基はインビトロで他の周知のキナーゼによってリン酸化されない。またこの残基のリン酸化はPHF-タウ中に存在する。これらの結果は、キナーゼの組合せが、場合によっては第2の酵素による第2のリン酸化の可能性を高める主要なリン酸化ステップによって誘導される構造変化に基づくと考えられる、新規部位でリン酸化をもたらすことを示唆するものである。
【0107】
ニューロンのアミロイドβ処理
本発明者らは、Aβペプチドによるニューロンの治療が、タウを含有するニューロンタンパク質のチロシンリン酸化を増加させることを見出した。このAβによって誘導されるホスホチロシンの増加は、タウにおける基本レベルの約4倍であった。
【0108】
今後の実験
インビトロにおけるPHF-タウリン酸化を再現するために、他の個別のリン酸化部位とプロテインキナーゼの組合せを同定する。タウオパシーに関与したキナーゼとしては、GSK-3α、ERK1およびERK2、cdk5、cdc2キナーゼ、JNK、SAPキナーゼファミリーのいくつかのメンバー(1γ、2a、2b、3、4)、p38MAPキナーゼ、カルモデュリン依存性キナーゼ、PKC、MARK、PKN、PKB、TTK、DYRK、Rhoキナーゼ、およびホスホリラーゼキナーゼが挙げられる。
【0109】
これらのキナーゼおよび他のチロシンキナーゼによるタウのリン酸化がインビトロおよび細胞中でタウ凝集を誘発するかどうかを決定する。これにより、本発明者らは、タウ凝集に関する重要なリン酸化部位を同定するができる。
【0110】
インビトロまたは細胞中におけるタウ凝集に関して、特定のプロテインキナーゼ阻害薬の効果を、単独でおよび組合せにより調査する。
【0111】
CK1を(誘導的に)発現するトランスジェニックマウスを作製し、このモデルが大脳のタウ沈着を示すかどうか決定する。候補キナーゼを発現する他のマウス(例えば、GSK-3マウスはすでに存在する)とこのマウスを交差し、神経原線維変化の速度を試験する。
【0112】
本発明者らは、ADおよび胎児タウにおいてtyr394がリン酸化されることを最近見出し(未公開)、インビトロにおいて、この同じ残基がFynおよびLckの両方によってリン酸化されることを報告した。Fynはすでにタウをリン酸化することが開示されており、FynはADにおけるニューロンのサブセットで増加する。また、ニューロンのAβ処置がタウリン酸化を誘発し、FynノックアウトマウスがAβ耐性であることも周知である。
【0113】
本発明者らは、Aβを保持する、野生型、FynノックアウトおよびSrcノックアウトマウスからニューロンを処理し、各ケースにおいてタウ上のリン酸化部位を同定する。
【0114】
他のチロシンキナーゼがタウにおけるリン酸化と凝集に関与し、これらには、増殖因子と神経栄養因子受容体に関連するものが含まれる可能性がある。また、Sykキナーゼをはじめとする他のチロシンキナーゼファミリーも関与し得る。これは、インビトロにおいてその凝集傾向を高める方法で神経変性障害に関与している他のタンパク質(α-シヌクレイン)をリン酸化することを示唆している。各ケースにおいて、本発明者らは、タウ凝集に対するリン酸化の効果およびタウ凝集に対するキナーゼ阻害の効果を調査する。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2A】

【0117】
【表2B】

【0118】
【表3】

[参考文献]



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)タウタンパク質のリン酸化においてカゼインキナーゼ1の活性を阻害し得る候補化合物、または(b)カゼインキナーゼ1に結合して、タウタンパク質との相互作用を阻害し得る候補化合物のスクリーニングのための、カゼインキナーゼ1またはカゼインキナーゼ1をコードする核酸分子の使用。
【請求項2】
前記カゼインキナーゼ1が、配列番号1に包含されるアミノ酸1からアミノ酸428に記載のアミノ酸配列を有する完全長カゼインキナーゼ1の断片または誘導体である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記カゼインキナーゼ1が、配列番号1に包含されるアミノ酸1からアミノ酸428に記載のアミノ酸配列を有する完全長カゼインキナーゼ1と80%を超える配列同一性を有する、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記カゼインキナーゼ1をコードする核酸分子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する完全長カゼインキナーゼ1をコードする核酸分子にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
前記タウタンパク質が一対のらせん状フィラメントタウである、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記タウタンパク質が、配列番号2に包含されるアミノ酸1からアミノ酸441に記載のアミノ酸配列を有する完全長タウタンパク質の断片または誘導体である、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記タウタンパク質が、配列番号2に包含されるアミノ酸1からアミノ酸441に記載のアミノ酸配列を有する完全タウタンパク質と80%を超える配列同一性を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
タウタンパク質をコードする核酸分子が、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する完全長タウタンパク質をコードする核酸分子にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記カゼインキナーゼ1が、タウタンパク質の(S46/T50)、S113、S131、T149、T169、S184、S208、(S210/T212)、S214、S237、S238、S241、S258、S262、T263、S285、S289、S305、S341、S352、S356、T361、T373、T386、(S412/S413/T414)、S416、S433、およびS435からなる群から選択される1個または複数の部位でタウタンパク質をリン酸化する、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記タウタンパク質の部位がS262および/またはS356から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
1個または複数の部位の前記タウタンパク質の部位が、S113、S258、S289、S416、S433、およびS435からなる群から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記スクリーニングが、同時にまたは連続して候補化合物とカゼインキナーゼ1に適用される、候補化合物とキナーゼの組合せとの接触の効果を決定することを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記キナーゼの組合せが、カゼインキナーゼ2(CK2)、プロテインキナーゼA(PKA)、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3α(GSK-3α)またはグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)の1種または複数と組み合わせたカゼインキナーゼ1(CK1)を含む、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記キナーゼの組合せが、PKAおよびGSK-3βと組み合わせたカゼインキナーゼ1(CK1)を含む、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記スクリーニングが、候補化合物がカゼインキナーゼ1による基質のリン酸化を阻害するか否か、場合によってはどの程度カゼインキナーゼ1による基質のリン酸化を阻害するかを決定することを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記カゼインキナーゼ1の基質がタウタンパク質またはその断片ではない、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記スクリーニングが、最初のスクリーニングで選択された候補化合物が、候補化合物の不在下でカゼインキナーゼ1がタウタンパク質の部位をリン酸化し得る条件下において、タウタンパク質のリン酸化を阻害する特性を有しているか否かを確認するステップをさらに含む、請求項15または16に記載の使用。
【請求項18】
質量分光法または部位特異的認識物質を使用して、タウタンパク質の1個または複数の部位におけるリン酸化の有無または程度を決定する、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記部位特異的認識物質がモノクローナル抗体である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記スクリーニングが、複数の基質が固定されている固相を用いて多重アッセイで実施される、請求項1から19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記基質がタウタンパク質のリン酸化部位に対応する、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
カゼインキナーゼ1(CK1)によるタウタンパク質のリン酸化を阻害し得る物質のスクリーニング方法であって、前記タウタンパク質が1個または複数のリン酸化部位を含み、
(a)カゼインキナーゼ1が候補物質の不在下でタウタンパク質の部位をリン酸化し得る条件下で、少なくとも1種の候補物質、タウタンパク質、およびカゼインキナーゼ1を接触させるステップと、
(b)候補物質が、カゼインキナーゼ1によるタウタンパク質の1個または複数の部位でのタウタンパク質のリン酸化を阻害するか否か、場合によってはどの程度カゼインキナーゼ1によるタウタンパク質の1個または複数の部位でのタウタンパク質のリン酸化を阻害するかを決定するステップと、
(c)1個または複数の前記部位でタウタンパク質のリン酸化を阻害する候補物質を選択するステップと
を含む方法。
【請求項23】
前記カゼインキナーゼ1が、配列番号1に包含されるアミノ酸1からアミノ酸428に記載のアミノ酸配列を有する完全長カゼインキナーゼ1の断片または誘導体である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記カゼインキナーゼ1が、配列番号1に包含されるアミノ酸1からアミノ酸428に記載のアミノ酸配列を有する完全長カゼインキナーゼ1と80%を超える配列同一性を有する、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記カゼインキナーゼ1をコードする核酸分子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する完全長カゼインキナーゼ1をコードする核酸分子にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る、請求項22または23に記載の方法。
【請求項26】
前記タウタンパク質が一対のらせん状フィラメントタウである、請求項21から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記タウタンパク質が、配列番号3に包含されるアミノ酸1からアミノ酸441に記載のアミノ酸配列を有する完全長タウタンパク質の断片または誘導体である、請求項21から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記タウタンパク質が、配列番号3に包含されるアミノ酸1からアミノ酸441に記載のアミノ酸配列を有する完全タウタンパク質と80%を超える配列同一性を有する、請求項21から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
タウタンパク質をコードする核酸分子が、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する完全長タウタンパク質をコードする核酸分子にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る、請求項21から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記カゼインキナーゼ1が、タウタンパク質の(S46/T50)、S113、S131、T149、T169、S184、S208、(S210/T212)、S214、S237、S238、S241、S258、S262、T263、S285、S289、S305、S341、S352、S356、T361、T373、T386、(S412/S413/T414)、S416、S433、およびS435からなる群から選択される1個または複数の部位でタウタンパク質をリン酸化する、請求項21から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記タウタンパク質の部位がS262および/またはS356から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記1個または複数の部位のタウタンパク質の部位が、S113、S258、S289、S416、S433、およびS435からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
同時にまたは連続して候補物質とカゼインキナーゼ1に適用される、候補物質とキナーゼの組合せとの接触の効果を決定するステップを含む、請求項21から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記キナーゼの組合せが、カゼインキナーゼ2(CK2)、プロテインキナーゼA(PKA)、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3α(GSK-3α)またはグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)の1種または複数と組み合わせたカゼインキナーゼ1(CK1)を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記キナーゼの組合せが、PKAおよびGSK-3βと組み合わせたカゼインキナーゼ1(CK1)を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
ステップ(b)で候補物質がカゼインキナーゼ1による基質のリン酸化を阻害するか否か、場合によってはどの程度カゼインキナーゼ1による基質のリン酸化を阻害するかを決定するステップを含む、請求項21から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
カゼインキナーゼ1の基質がタウタンパク質またはその断片ではない、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
最初のスクリーニングで選択された候補物質が、候補物質が不在下でカゼインキナーゼ1がタウタンパク質の部位をリン酸化し得る条件下において、タウタンパク質のリン酸化を阻害する特性を有しているか否かを確認するステップをさらに含む、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
タウタンパク質の1個または複数の部位におけるリン酸化の有無または程度を決定する前記ステップが、リン酸化された部位と非リン酸化部位とを区別可能な質量分光法または部位特異的認識物質を使用する、請求項21から38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記部位特異的認識物質がモノクローナル抗体である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記スクリーニングが、複数の基質が固定されている固相を用いて多重アッセイで実施される、請求項21から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記基質がタウタンパク質のリン酸化部位に対応する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
候補物質をカゼインキナーゼ1の阻害剤として確認した後、候補物質の構造を最適化するさらなるステップを含む、請求項21から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
請求項21から43のいずれか一項に記載の方法により候補物質を同定した後、前記物質を製造するさらなるステップ、および/または医薬組成物に前記物質を製剤化するさらなるステップを含む方法。
【請求項45】
(i)請求項1から43のいずれか一項に記載のカゼインキナーゼ1阻害剤を同定するステップと;
(ii)カゼインキナーゼ1阻害剤の構造を最適化するステップと;
(iii)最適化したカゼインキナーゼ1阻害剤を含有する医薬組成物または薬剤を調製するステップと
を含む、医薬組成物または薬剤の調製方法。
【請求項46】
請求項1から43のいずれか一項に記載の方法により取得可能な物質。
【請求項47】
タウオパシーの治療用薬剤の調製のための請求項46の物質の使用。
【請求項48】
タウオパシーが、アルツハイマー病、第17番染色体に連鎖するパーキンソン症候群を伴った前頭側頭型痴呆(ETDP-17)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、大脳皮質基底核変性症、多重系委縮(MSA)、鉄蓄積に伴う神経基底の退化、1型(Hallervorden-Spatz)、嗜銀性グレイン型痴呆、ダウン症候群、石灰化を伴った散在性神経原線維変化、ボクサー痴呆、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー病、筋緊張性ジストロフィー、ニーマン-ピック病タイプC、進行性皮質下グリオーシス、プリオン蛋白質大脳アミロイド脈管障害、神経原線維変化のみを示す痴呆、脳炎後パーキンソニスム、亜急性硬化性汎脳炎、クロイツフェルト-ヤコブ病、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン症候群痴呆複合体、神経原線維変化/痴呆を伴った非グアム型運動ニューロン疾患、およびパーキンソン病である、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
(a)Y394に対応する位置のタウタンパク質のリン酸化においてfynの活性を阻害し得るか、あるいは、(b)fynに結合して、Y394のタウタンパク質との相互作用を阻害し得る、fynまたはfynをコードする核酸分子の、候補化合物のスクリーニングにおける使用。
【請求項50】
fynによる位置Y394のリン酸化部位におけるタウタンパク質のリン酸化を阻害し得る物質のスクリーニング方法であって、
(a)fynが候補物質の不在下でタウタンパク質の位置Y394をリン酸化し得る条件下において、少なくとも1種の候補物質、タウタンパク質およびfynを接触させるステップと、
(b)候補物質が、fynによるタウタンパク質の位置Y394でのタウタンパク質のリン酸化を阻害するか否か、場合によってはどの程度リン酸化を阻害するかを決定するステップと、
(c)位置Y394でのタウタンパク質のリン酸化を阻害する候補物質を選択するステップとを含む方法。
【請求項51】
S68、T69、T71、(T111/S113)、S191、S258、S289、(T414/S416)、T427、S433、S435、およびY394からなる群から選択されるタウタンパク質の1個または複数の部位でキナーゼによるリン酸化を阻害し得る物質のスクリーニング方法であって、
(a)キナーゼが候補物質の不在下でタウタンパク質の1つまたは複数の部位をリン酸化し得る条件下で、少なくとも1種の候補物質、1個または複数のリン酸化部位を含むタウタンパク質、およびタウタンパク質をリン酸化し得るキナーゼを接触させるステップと、
(b)候補化合物がタウタンパク質の1個または複数でタウタンパク質のリン酸化を阻害するか否か、場合によってはどの程度タウタンパク質の1個または複数でタウタンパク質のリン酸化を阻害するかを決定するステップと、
(c)1個または複数の前記部位でタウタンパク質のリン酸化を阻害する候補物質を選択するステップと
を含む方法。
【請求項52】
S68、T69、T71、(T111/S113)、S191、S258、S289、(T414/S416)、T427、S433、S435、およびY394からなる群から選択されるタウタンパク質の1個または複数の部位でホスファターゼによるタウタンパク質の脱リン酸化を促進し得る物質のスクリーニング方法であって、
(a)ホスファターゼが候補物質の不在下でタウタンパク質の1個または複数の部位を脱リン酸化し得る条件下で、少なくとも1種の候補物質、1個または複数のリン酸化部位を含むタウタンパク質、およびタウタンパク質を脱リン酸化し得るホスファターゼを接触させるステップと、
(b)候補物質がタウタンパク質の1個または複数の部位でタウタンパク質の脱リン酸化を促進するか否か、場合によってはどの程度促進するのかを決定するステップと、
(c)1個または複数の前記部位でタウタンパク質の脱リン酸化を促進する候補物質を選択するステップと
を含む方法。

【公開番号】特開2012−45002(P2012−45002A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257692(P2011−257692)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【分割の表示】特願2006−516474(P2006−516474)の分割
【原出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(501467371)プロティオーム・サイエンシィズ・ピーエルシー (8)
【出願人】(500532757)キングス カレッジ ロンドン (14)
【氏名又は名称原語表記】KINGS COLLEGE LONDON
【Fターム(参考)】