説明

スクリーニング法

本発明は、生体患者のアルツハイマ病または早期アルツハイマ病の臨床診断に関するものである。本発明は具体的にはスクリーニング法を提供し、このスクリーニング法はヒト生体被験者におけるアルツハイマ病の診断支援またはアルツハイマ病素因を保有するヒト被験者の同定に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体患者のアルツハイマ病または早期アルツハイマ病の臨床診断に関するものである。本発明は具体的にはスクリーニング法を提供し、このスクリーニング法はヒト生体被験者のアルツハイマ病の診断支援またはアルツハイマ病素因を保有するヒト被験者の同定に使用し得る。
【背景技術】
【0002】
平均寿命の延伸に伴い、アルツハイマ病(AD)は西側世界の主要な健康問題の一つになりつつある。アルツハイマ病の確実な治療法の同定またはアルツハイマ病の予防手段の同定を目標として集約的な研究が行われてきたものの、現在のところは不首尾に終わっている。何らかの治療薬の設計または治験における最大の問題点の一つは、有意味なインターベンションを行えるほど早期にAD患者を同定可能な臨床診断基準が欠如していることである。現行の臨床診断ツールによってアルツハイマ病を確実に臨床診断できるのは、重度の認知症患者についてのみである。
【0003】
生体患者のアルツハイマ病臨床診断のための、公に認められた診断検査の「ゴールド・スタンダード」は今のところ存在しない。最もよく用いられる臨床診断基準はNINCDS/ADRDA基準であるが(非特許文献1)、これは元来研究目的で策定されたものである。それらの基準は高い感度を持つものの、その特異度は低い。ここで感度とは、アルツハイマ病罹患者が前記診断基準を満たす確率であると定義される。特異度の定義は、アルツハイマ病非罹患者が前記診断基準を満たさない確率である。その特異度の低さゆえに、NINCDS/ADRDA基準は臨床診断目的にとって最善のものではない。さらにNINCDS/ADRDA基準は、予防的治療または根治療法を対象とする臨床試験の診断基準として不適当である。何となれば、NINCDS/ADRDA基準ではAD診断基準の1つとして認知症が要求されるが、予防的治療法または根治療法を最も効果的に使用し得るのは顕著な認知症の発症以前だからである。
【0004】
アルツハイマ病の「確証的な」診断が可能なのは死後のみであって、これはアルツハイマ病の病理学的特徴(アミロイド斑および神経原繊維変化の蓄積)を組織学的に検討することで行われる。しかし、このアプローチが生体患者のAD臨床診断において非実用的であることは明らかである。
【0005】
近年広く受け入れられるようになっているアルツハイマ病の病理的基盤の1つは、種々の神経細胞集団による細胞分裂周期への異常なre-entryである(非特許文献2)。健康な高齢者においては、細胞周期へのre-entryに続いて迅速な細胞周期停止と再分化とが可能である。アルツハイマ病患者においては、それとは対照的に前記制御機構に異常が見られ、ニューロンは細胞周期の後期に進入し、AD関連病理および/または神経細胞死の蓄積が起こる(非特許文献2)。複数の研究が示すところでは、アルツハイマ病における細胞周期制御の異状はG1/S期移行チェックポイントで起こる(特に非特許文献3を参照されたい)。
【0006】
アルツハイマ病の原因がG1/S期移行における細胞周期制御の欠損であり得るという知見に端を発し、AD診断の新たなアプローチが開発されてきている。この新たなアプローチの基礎となるのはADの顕性症状(例えば認知障害(認知症))を評価することではなく、内在的な細胞周期制御の欠損を検出することである。この点に関しては、早期ADの診断に有用な診断検査が特許文献1に記載されている。前記診断検査の基礎は、被験者の非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無をスクリーニングすることである。アルツハイマ病患者のニューロンではG1/S期移行における細胞周期制御に欠損があることが、以前に観察されている。特許文献1の著者らは、この欠損がAD患者の非神経細胞(例えばリンパ球または線維芽細胞)でも起こっていることを発見した。これによってさらに、典型的なアルツハイマ病症状(例えば認知症)発症の根底にある(そして先行する)細胞周期制御の欠損をアッセイする、簡易血液検査アッセイが開発された(非特許文献4)。
【0007】
アポリポ蛋白質E(apoE)は、高トリグリセリドリポ蛋白質成分の分解代謝に必須のアポリポ蛋白質である。apoEをコードする遺伝子は多形性であって、3つのメジャーアリル(ApoE2、ApoE3、およびApoE4)がある。これらのメジャーアリルは、翻訳されて3つの主要蛋白質アイソフォーム(apoE2、apoE3、およびapoE4)を生ずる。ApoE4アリルは種々の人種におけるADの遺伝的リスク因子として知られており、多くの集団において症例の約50%をも占め得る(非特許文献5)。ApoE4の1コピーまたは2コピーを保有する個人のAD罹患リスクは、ApoE4以外のアイソフォームの保有者よりも高い。またAD発症の中央年齢は、ApoE4非保持者では84歳だがApoE4ホモ接合体では68歳に低下する(非特許文献6)。
【0008】
ApoE4アリルはADの遺伝学的リスクファクターとして確立されているものの、このマーカ単独では臨床状況でのAD診断に有用ではない。のみならず、認知症を示す被験者のAD臨床診断において、認知障害の神経心理学的評価とこのマーカとを組み合わせたものが有用かどうかも不明である(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第02/073212号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】G.マッカンら、Neurology、1984年、第34巻、p.939−944
【非特許文献2】Z.ネイギ、M.M.エズィリ、およびA.D.スミス、Neuroscience、1998年、第84巻、p.731−739
【非特許文献3】T.アレント、L.ローデル、U.ガートナー、およびM.ホルツァー、Neuroreport、1996年、第7巻、p.3047−3049
【非特許文献4】Z.ネイギ、M.コンブリンク、M.バッジ、およびR.マクシェーン、「Cell cycle kinesis in lymphocytes in the diagnosis of Alzheimer’s disease」、Neuroscience Letters、2002年、第317巻、第2号、p.81−84
【非特許文献5】S.C.ワーリングおよびR.N.ローゼンベルグ「Genome-Wide Association Studies in Alzheimer Disease」、Archives of Neurology、2008年、第65巻、第3号、p.329−334
【非特許文献6】A.セダーソ・ミンゲス「Apolipoprotein E and Alzheimer’s disease: molecular mechanisms and therapeutic opportunities」、Journal of Cellular and Molecular Medicine、2007年、第11巻、第6号、p.1227−1238
【非特許文献7】L.M.マコンネル、G.D.サンダース、D.K.オーウェンズ「Evaluation of genetic tests: APOE genotyping for the diagnosis of Alzheimer disease」、Genetic Testing、1999年、第3巻、第1号、p.47−53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
今や本発明者の発見によれば、生体被験者のアルツハイマ病診断において、非神経細胞のG1/Sにおける細胞周期制御の欠損のアッセイ(国際公開第02/073212号パンフレット初出)が持つ有用性を改善することが可能である。これは、同一被験者の前記アッセイ結果とapoE4ジェノタイピング・データとを結合して、結合結果に基づく新規の診断基準を導出することでなされる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明の第一の態様は、ヒト被験者のアルツハイマ病に関連する診断基準を取得する方法を提供する。前記方法はステップ(i)から(iii)を含み、ステップ(i)においては、少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無についてヒト被験者をスクリーニングする。ステップ(ii)においては、前記被験者のapoE4遺伝子型を測定する。ステップ(iii)においては、ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合することによって、アルツハイマ病に関連する診断基準を取得する。
【0013】
一つの実施形態においては、ステップ(i)の結果とステップ(ii)の結果とを「結合」するために、それらの結果を変数として統計アルゴリズム(または診断予測モデル)に入力して確率値を求める。この確率値が、アルツハイマ病に関連する診断基準である。
【0014】
本発明の第二の態様は、アルツハイマ病に関連する細胞周期制御の欠損の有無をスクリーニングするスクリーニングの精度(accuracy)を改善する方法を提供する。前記方法はステップ(i)から(iii)を含み、ステップ(i)においては、少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について被験者をスクリーニングする。ステップ(ii)においては、前記被験者のapoE4遺伝子型を測定する。ステップ(iii)においては、ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合することによって、結合した結果の精度をステップ(i)の結果よりも改善する。
【0015】
これに関連する本発明の一態様は、アルツハイマ病に関連する細胞周期制御の欠損の有無をスクリーニングするスクリーニングに基づく診断予測の精度を、改善する方法を提供する。前記方法はステップ(i)から(iii)を含み、ステップ(i)においては、少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について被験者をスクリーニングする。ステップ(ii)においては、前記被験者のapoE4遺伝子型を測定する。ステップ(iii)においては、ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合し、結合した結果を診断予測に用いる。それによって、結合した結果に基づく診断予測精度をステップ(i)の結果に基づく診断予測よりも改善する。
【0016】
本発明の第三の態様は、被験者のアルツハイマ病罹患リスクの評価方法を提供する。前記方法はステップ(i)から(iii)を含み、ステップ(i)においては、被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について被験者をスクリーニングする。ステップ(ii)においては、前記被験者のapoE4遺伝子型を測定する。ステップ(iii)においては、ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合することによって、ヒト被験者のアルツハイマ病罹患リスクを評価する。
【0017】
一つの実施形態においては、ステップ(i)の結果とステップ(ii)の結果とを変数として統計アルゴリズム(または診断予測モデル)に入力することでそれらの結果を「結合」し、被験者のアルツハイマ病罹患リスクの確率値を算出する。
【0018】
本発明の第四の態様は、生体ヒト被験者におけるアルツハイマ病の臨床診断支援法を提供する。前記方法はステップ(i)から(iii)を含み、ステップ(i)においては、被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について被験者をスクリーニングする。ステップ(ii)においては、前記被験者のapoE4遺伝子型を測定する。ステップ(iii)においては、ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合する。
【0019】
一つの実施形態においては、ステップ(i)で得た結果とステップ(ii)で得た結果とを「結合」するために、それらの結果を変数として統計アルゴリズム(または診断予測モデル)に入力する。それによって、被験者のアルツハイマ病罹患の確率値を算出する。
【0020】
本発明のさらなる態様は、生体ヒト被験者における前臨床期アルツハイマ病の診断支援法を提供する。前記方法はステップ(i)から(iii)を含み、ステップ(i)においては、被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について被験者をスクリーニングする。ステップ(ii)においては、前記被験者のapoE4遺伝子型を測定する。ステップ(iii)においては、ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合する。
【0021】
本発明のまたさらなる態様は、ヒト被験者のアルツハイマ病による認知機能低下速度を予測する予後判定基準を取得する方法を提供する。前記方法はステップ(i)から(iii)を含み、ステップ(i)においては、被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御について、その欠損の有無または欠損の度合を測定する。ステップ(ii)においては、前記被験者のapoE4遺伝子型を測定する。ステップ(iii)においては、ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合することによって、前記被験者のアルツハイマ病による認知機能低下速度を示す予後判定基準を取得する。
【0022】
本発明の各方法の非限定的な実施形態においては、apoE4アリルの有無に関して被験者をスクリーニングすることと、それによって被験者が保有するapoE4アリルの個数を測定することとがステップ(ii)に含まれてもよい。
【0023】
通常、本発明の全ての実施形態において、ステップ(iii)における「結合」には、ステップ(i)のアッセイで得た結果とステップ(ii)のアッセイで得た結果とを統計的に組み合わせることが含まれる。これは本明細書で詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】特定のapoE遺伝子型に特徴的な制限酵素断片パターンを示す図である。
【図2A】アルツハイマ病罹患リスクの診断予測の感度と特異度とを示すグラフ図である。(A)リンパ球検査のみに基づく診断予測。
【図2B】アルツハイマ病罹患リスクの診断予測の感度と特異度とを示すグラフ図である。(B)ApoE4アリルの有無と個数とのみに基づく診断予測(表2)。
【図2C】アルツハイマ病罹患リスクの診断予測の感度と特異度とを示すグラフ図である。(C)リンパ球培養アッセイ(G1/Sにおける細胞周期制御の欠損を評価する)の結果とapoE4ジェノタイピングの結果との組み合わせに基づく診断予測。
【図3A】個人が保有するapoE4アリルの個数がリンパ球検査の結果に影響しないことを示すグラフ図である。(A)ラパマイシン影響下の細胞分裂数(同一被験者の対照カルチャと比較。「n_rapa/n」)(表3)。
【図3B】個人が保有するapoE4アリルの個数がリンパ球検査の結果に影響しないことを示すグラフ図である。(B)ラパマイシン影響下のG1期の長さ(「TG1_Rapa」)(表4)。
【図3C】個人が保有するapoE4アリルの個数がリンパ球検査の結果に影響しないことを示すグラフ図である。(C)ラパマイシン検査のみに基づく個人のAD罹患(または非羅患)オッズ(「オッズ」)(表5)。
【図4】表8のデータのKM曲線を示すグラフ図である。このコホートにおいては、MCIと診断された場合よりもprobable ADと診断された場合に、記憶障害を生じない確率がどの年齢でも低いことを示している。
【図5】MCIおよびProbable ADについて、記憶障害発症の平均年齢(表9.3のデータ)を示すグラフ図である。
【図6】AD患者およびMCI患者が一定期間内にMMSEスケールで1失点する確率(表10)を示すグラフ図である。
【図7】MCIおよびProbable ADについて、MMSEスケールで1失点するのにかかった平均期間(月数)(表11.3のデータ)を示すグラフ図である。
【図8】リンパ球検査(リンパ球検査単独)で陰性であった患者(0, n=4)および陽性であった患者(1, n=17)が、MMSEスケールで1失点するのに要する時間(表12)を示すグラフ図である。
【図9】リンパ球検査(リンパ球検査単独)で陰性であった患者(n=4)および陽性であった患者(n=17)が、MMSEスケールで1失点するのに要する平均時間(表13.3)を示すグラフ図である。
【図10】保有するApoE4アリルの個数が0個の患者、1個の患者、または2個の患者が、MMSEスケールで1失点するのに要する時間(表14)を示すグラフ図である。
【図11】ApoE4アリルの個数が0個の患者、1個の患者、または2個の患者が、MMSEスケールで1失点するのに要する平均時間(表15.3)を示すグラフ図である。
【図12】リンパ球+ApoE検査(複合アッセイ)で陰性であった患者(0, n=2)および陽性であった患者(1, n=19)が、MMSEスケールで1失点するのに要する時間(表16)を示すグラフ図である。
【図13】リンパ球+ApoE検査(複合アッセイ)で陰性であった患者(0, n=2)および陽性であった患者(1, n=19)が、MMSEスケールで1失点するのに要する平均時間(表17.3)を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の種々の態様は、2つの独立したアッセイの結果を結合する「複合アッセイ」に関する。生成した結合結果は、アルツハイマ病の診断支援のための診断基準または予後判定基準として用いることができる。前記の独立したアッセイの第1は、被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無をアッセイする。独立したアッセイの第2は、被験者のapoE4遺伝子型を測定する。ここで、用語「診断」は非常に広範な意味で使用する。前記用語が包含するものには、アルツハイマ病と一致したその他の症状(例えば認知症)を示す被験者(例えばNINCDS/ADRDA基準に従って臨床診断された被験者)のアルツハイマ病臨床診断がある。また、NINCDS/ADRDA基準の要件を満たさない患者における早期アルツハイマ病または「前臨床期」アルツハイマ病の診断も包含される。また、無症候の被験者または軽度認知機能障害の被験者のAD罹患リスクの予測も包含される。本発明のアッセイ方法論の臨床有用性は、以下でさらに詳述する。
【0026】
被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無をアッセイする第1のアッセイは、アルツハイマ病の公知の診断(特に早期診断)ツールである(国際公開第02/073212号パンフレットに詳述)。このアッセイの結果と同一被験者のapoE4ジェノタイピングの結果とを統計的に組み合わせ、本発明の方法論を用いて取得した診断基準を用いて診断することによって、検査結果の総合的な正診率を改善することができる。
【0027】
本発明の特徴を以下でさらに詳述する。特に断りのない限り、所載の「好ましい」または「有利な」特徴は、本発明の全態様に当てはまるものと理解されたい。さらに特に断りのない限り、所載の「好ましい」または「有利な」特徴の任意の1つは、それ以外の任意の特徴と組み合わせてもよい。
【0028】
<ステップ(i) 非神経細胞における細胞周期制御の欠損のスクリーニング>
被験者の非神経細胞のG1/Sチェックポイントに存在する細胞周期制御の欠損をスクリーニングするためには、国際公開第02/073212号パンフレットに記載の方法論を用いてもよい。前記パンフレットの内容またはその翻案(以下の実施例に記載する)は本明細書の一部として援用する。
【0029】
最も好ましくは、本アッセイはヒト被験者から単離した非神経細胞を用いてインビトロで実施する。前記の非神経細胞は、アルツハイマ病のニューロンにおけるG1/S期移行の細胞周期制御の欠損と同じ欠損を示す、任意の非神経細胞型であってよい。1つの実施形態においては、被験者から単離してインビトロ培養したリンパ球を用いて本方法を実施する。非神経細胞型において細胞周期制御の欠損の有無を検査することが可能となれば、明白な実施効果がもたらされる。リンパ球は血液検体からの単離が容易でありかつインビトロ培養が可能であるので、リンパ球を使用することは特に好都合である。また別の実施形態には、線維芽細胞(特に、都合良く皮膚生検し得る皮膚線維芽細胞)の使用が含まれる。通常、非神経細胞の検体にはがん細胞を含んではならない。
【0030】
細胞周期の欠損を同定するには、何種類かの非神経性のがん細胞を用いることができる。従って本発明の診断アッセイに使用する細胞は、好ましくは非神経性の非がん細胞であり、がんの臨床的徴候を示さない患者(例えば腫瘍、またはがんに関連する濃度のがん特異的抗原が見られない患者)由来の細胞であり、または若年患者(すなわちADと相関しない年齢の患者(例えば一般集団におけるADまたはAD関連状態の発症率が20%未満、より好ましくは10%未満、さらにより好ましくは5%未満、さらにより好ましくは2%未満、さらにより好ましくは1%未満、最も好ましくは0.1%未満である年齢の患者))由来の細胞である。がんは通常は認知症または認知機能障害と関連せず、ADおよびAD関連状態は必ずしも腫瘍抗原の発現および腫瘍形成性を伴わないため、がんとAD/AD関連状態との鑑別診断を実施することは当業者にとって容易である。
【0031】
非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無をスクリーニングする方法は複数存在する(国際公開第02/073212号パンフレットに詳述)。1つの実施形態においては、細胞周期制御の欠損の有無をスクリーニングするために、先ず細胞の分裂を促し、次に細胞分裂阻害物質を添加して細胞周期停止を誘導し、細胞分裂阻害物質の添加に対する細胞のG1/S細胞周期制御メカニズムの応答性を検査してもよい。
【0032】
前記の細胞分裂阻害物質は通常は特定のG1期阻害剤であって、特に好ましくはラパマイシンである。細胞分裂を誘導するためには、有糸分裂促進刺激(例えば1つ以上の増殖因子)を与えてもよい。リンパ球を用いて検査を実施する場合には、フィトヘマグルチニンを使用して細胞分裂を誘導してもよい。
【0033】
原則的には、先ず細胞を刺激して分裂を促し(例えば有糸分裂促進刺激による)、次に細胞分裂阻害剤(例えばラパマイシンまたはその他の任意の既知のG1阻害剤)を用いて細胞周期のG1期停止処理を行い、しかる後にそのような処理が細胞周期制御システムに及ぼす影響を評価する。細胞周期の制御に対する影響を評価するのには、種々の異なった方法が利用可能である(以下に要約する)。細胞分裂阻害剤で処理することを、本明細書では「細胞周期阻害処理」または「阻害処理」と呼称する。G1/S期移行の細胞周期制御に欠損があると、細胞周期停止処理に対する細胞の応答性が影響を受けると予想される。通常、G1/Sの細胞周期制御に欠損があると、細胞分裂阻害剤処理に対する応答性は低下する。すなわち、阻害処理がG1/Sチェックポイントで細胞周期を停止させる効果は、細胞周期に欠損がある細胞においてより低い。
【0034】
有糸分裂促進刺激を加える前および後、ならびに細胞周期阻害処理に対する細胞の応答性を検査する細胞周期停止処理(例えばラパマイシン存在下の培養)の前および後に、種々の実験法を実施してもよい。本発明で用いる好ましい実験法の非限定的なリストは以下に示す。その他の適当な実験法は当業者には公知であると考えられる。
【0035】
(1)細胞周期解析と、G1阻害剤(例えばラパマイシン)への曝露による被験者由来細胞の細胞周期G1期の相対的延長度の算出。細胞分裂阻害剤への曝露によるG1期の相対的延長度を算出するには、式RL=100f-100(%表記)を用いてもよい。「f」はG1期の長さの比であって、細胞分裂阻害剤または細胞周期停止の誘導刺激に曝露した細胞(被験者由来の非神経細胞)のG1期の長さ(TG1tr)と、阻害処理していない未処理対照細胞(同じく被験者由来の非神経細胞)のG1期の長さ(TG1c)との比である。fは次式で計算できる。
f=TG1tr/TG1c=[ln2 ln(2 G1tr)][ln(2 G1c)]/[ln(2 G1tr)][ln2 ln(2 G1c)]
【0036】
G1trは、阻害処理(例えば細胞周期阻害剤)に曝露したカルチャ中のG1期細胞画分である。G1cは、同一被験者の対照細胞中のG1期細胞画分である(Z.ダーシンケヴィッチ著、P.ファンテスおよびR.ブルックス編、「The cell cycle」、オックスフォード、オックスフォード大学出版局、1993年、p.43−68)。
【0037】
TG1tr値およびTG1c値を取得するには、種々の技術を使用できる。1つの実施形態においては、TG1trおよびTG1cを取得するために、処理細胞群(G1阻害剤処理した被験者由来の非神経細胞)と未処理対照細胞群(G1阻害剤に曝露していない前記被験者由来の非神経細胞)との両方について、細胞周期の種々のステージにある細胞の比率を測定してもよい。細胞周期の種々のステージにある細胞の比率を測定するには、適当に標識した細胞を蛍光細胞分析分離(FACS解析)することで容易に行い得る(以下の実施例に記載する)。1つの実施形態においては、DNAに取り込まれる薬剤(例えばヨウ化プロピジウムまたはヌクレオチドアナログ)を用いて(FACS解析前に)細胞を標識してよい。S期細胞のサイクリンAを免疫細胞化学的に標識してもよい。
【0038】
G1/S期移行の細胞周期制御に欠損があることを示すのは、G1阻害剤存在下でのG1期の相対的延長度が、G1/S期移行の細胞周期制御に欠損がない対照細胞よりも減少することによってなされる。適当な対照細胞の例としては、同年齢の対照被験者由来の細胞が挙げられる。G1/S期移行の細胞周期制御に欠損がない対照細胞を、RL算出のために使用する「未処理対照」細胞と混同してはならない。「未処理対照」細胞は被験者由来の細胞であって、G1阻害剤に曝露していないものである。増殖中のリンパ球をラパマイシン存在下で培養して誘導した相対的G1延長度(TG1_Rapa)は、アルツハイマ病患者よりも対照被験者で有意に大きい(以下の実施例で例示する)。
【0039】
(2)G1阻害剤(例えばラパマイシン)に曝露した細胞カルチャにおける細胞周期停止の指標としての、細胞増殖特性の評価。通常のスクリーニングにおいては、G1阻害剤(例えばラパマイシン)処理した細胞の増殖特性と、同一被験者由来の未処理細胞の増殖特性とを両方評価する。阻害処理は完全なG1/S制御システムの存在下でのみ効果を発揮すると考えられるため、阻害処理細胞と未処理細胞との増殖度の差は、同年齢の対照群よりもアルツハイマ病患者(およびAD素因保有被験者)においてより小さいと考えられる。換言すれば、G1阻害剤(例えばラパマイシン)が及ぼす細胞増殖活性阻害効果は、G1/S欠損がない対照細胞よりもG1/S制御に欠損がある細胞(すなわちAD患者由来の細胞および罹患素因保有被験者由来の細胞)で小さい。
【0040】
増殖アッセイを実施するには、当分野で公知の任意の標準的なプロトコールに従ってよい。非限定的な実施形態の1つにおいては、G1阻害剤(例えばラパマイシン)を添加した非神経細胞(例えばリンパ球)カルチャまたは阻害剤を添加しないカルチャ中の細胞数を、細胞毒性アッセイを用いて測定してもよい。この目的にとって適当な種々の細胞毒性アッセイが市販されており、例としては以下の実施例で使用するラクトースデヒドロゲナーゼ(LDH)アッセイが挙げられる。このアッセイの結果を用いて、被験者および正常対照のそれぞれについて、G1阻害剤を含むカルチャまたはG1阻害剤を含まないカルチャの細胞分裂数(n-n’)を算出できる。このアッセイの好ましい実施形態の基礎は、ラパマイシン存在下またはラパマイシン非存在下でリンパ球を培養することである。G1阻害剤を加えたカルチャとG1阻害剤を加えないカルチャとの細胞分裂数の差は、本アッセイの評価項目の1つである。本発明者の観測によれば、これの結果は診断と関連する。G1阻害剤(ラパマイシン)と未処理カルチャに対するG1阻害剤処理カルチャの細胞分裂時間の相対的延長度は、対照被験者よりもアルツハイマ病被験者においてより小さい。
【0041】
上記の実施形態は非限定的なものである。増殖アッセイの実施にはその他の公知技術(例えばMTT生存率アッセイ(販売:ケミコン。T.モスマン、「Journal of Immunological Methods」、1983年、第65号、p.55−63参照))を用いることが可能である。
【0042】
(3)細胞周期制御蛋白質の発現またはそのmRNAの発現の評価。細胞周期制御蛋白質の発現を評価するためには、当分野で公知の標準的な方法(例えばイミュノブロッティング、ウェスタンブロッティング、ELISA、または関連する方法)を用いてよい。それらの細胞周期制御蛋白質をコードするmRNAの発現を評価するには、標準的な方法(例えばハイブリダイゼーション法、マイクロアレイ解析もしくは関連の方法、または増幅法(例えばRT-PCRまたは核酸配列ベース増幅法(NASBA))によってもよい。本発明で使用し得るmRNAの適当な検出/定量法は、当業者には公知である。それらの方法の一部(例えばRT-PCR)は、対象mRNAのcDNAコピーの検出/定量に基づく。
【0043】
アルツハイマ病に見られる細胞周期制御の欠損の結果として、細胞周期制御蛋白質の発現パターンの変化およびそれらのmRNAの発現パターンの変化が起こり得る。従って、特定の細胞周期制御蛋白質および/またはそのmRNAの発現変化をスクリーニングすることによって、G1/Sにおける細胞周期制御の欠損の有無を同定(および欠損の度合を測定)し得る。加えて、細胞周期進行のマーカとして細胞周期制御蛋白質の発現を利用してもよい。よって、阻害処理に対する細胞の応答性を評価するために、1つまたは複数の細胞周期制御蛋白質の発現を検査して、被験者由来の細胞に対して阻害処理がどの程度の細胞周期停止をもたらすかを観測してもよい。適当な細胞周期制御蛋白質の例としてはCDKN3、p15ink4B、p16ink4A、p19ink4D、p27kip1、p21cip1、p57kip2、およびTP53が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、サイクリンAの発現はS期のバイオマーカとして使用してもよく、サイクリンBの発現はG2期のバイオマーカとして使用してもよい。特に1つの実施形態では、サイクリンAおよび/またはサイクリンBの発現をELISA測定してもよい。上記で挙げた蛋白質全ての配列(およびそれらをコードする遺伝子の配列)は、公に利用可能である。これらの蛋白質の各々を検出するのに有用な抗体が市販されている。
【0044】
(4)当分野で公知の任意の方法による、細胞生存率および細胞死の評価。増殖細胞がG1/S期移行で停止した場合、結果として2つの「下流の」現象のうち1つ、すなわち分化またはプログラム細胞死が起こり得る。これらの下流現象は、細胞集団のG1/S期移行制御に欠損があることの指標として用いてもよい。G1/S期移行の制御に欠損がある場合、G1/Sにおける細胞周期停止が下流に及ぼす影響にも異状が生ずると考えられるからである。阻害処理に応答して被験者由来の細胞の細胞死が対照細胞よりも低下するか、または阻害処理に応答して被験者由来の細胞の細胞生存率が対照細胞よりも上昇した場合、G1/Sの制御が欠損していることの目安となる。
【0045】
(5)標準的な方法を用いた、細胞死関連(細胞死誘導性または細胞死阻害性)蛋白質またはmRNAの発現評価。この実施形態においては、細胞死関連蛋白質またはそのmRNAの発現を用いて、G1/S期移行での細胞周期停止を誘導する細胞分裂阻害剤による処理が下流に及ぼす影響を間接的に評価する。適当な細胞死関連蛋白質の例としては、bcl-2ファミリー蛋白質のメンバーが挙げられる。bcl-2ファミリー蛋白質の多くは当分野において公知である。
【0046】
(6)非神経細胞のDNA含量の評価、またはそれと細胞周期解析との組み合わせ。この実施形態においては、細胞分裂阻害剤で処理した被験者由来細胞のDNA含量を測定することによって、それらの細胞のG1/S期移行制御の欠損の有無の間接的な指標を提供する。この方法の論理的根拠は、G1期細胞と細胞周期のDNA複製期を通過した後のG2期細胞との間のDNA含量の違いである。正常細胞集団(すなわちG1/S制御に欠損がない細胞)を処理してG1またはG1/Sで細胞周期停止を誘導した場合、大多数の細胞はG1期に留まる。しかしG1/Sの制御に欠損がある細胞では、一部の細胞はG1/Sチェックポイントを通過してDNA複製を行う。つまりG1での細胞周期停止誘導処理後に、被験者由来細胞のDNA含量がG1/Sの制御に欠損がない対照細胞よりも高い場合、それをG1/S制御に欠損があることの指標とする。
【0047】
細胞分裂阻害剤を用いた阻害処理に対する非神経細胞(特に培養リンパ球)の応答性を検査する用途に適当な上記の技術リストは、本発明の例示のためであって、本発明を限定するものではない。その他の適当な技術は国際公開第02/073212号パンフレットに記載されている。
【0048】
診断予測のためには、G1/Sにおける細胞周期制御の欠損をアッセイするための数種類のアッセイの結果を統計的に組み合わせることによって、特定の検査結果を持つ被験者がアルツハイマ病に罹患する(または罹患しない)リスクまたは「オッズ」の基準を導出できる。統計分析(例えばロジスティック回帰分析)を用いることによって、(例えばAD対対照の)診断またはAD発症リスク予測に有意に寄与する複数の変数の、相対的寄与度を評価することができる。また、統計分析を用いて異なる2つのアッセイ方法論の結果を組み合わせることによって、検査結果の特定のセットを持つ被験者がADに罹患する(または罹患しない)オッズを算出する診断予測モデルを導出することができる。アッセイ結果(変数)の適当な「組み合わせ」の例としては、G1阻害剤処理したカルチャの細胞分裂数と未処理カルチャの細胞分裂数との差(例えばラパマイシン存在下で培養したリンパ球またはラパマイシン非存在下で培養したリンパ球)(変数n-n’)と、G1阻害剤存在下の相対的TG1延長度(例えばラパマイシン存在下で培養したリンパ球またはラパマイシン非存在下で培養したリンパ球)(共変数TG1_Rapa)との組み合わせが挙げられる(実施例で例示する)が、これらに限定されない。
【0049】
<ステップ(ii) apoE4ジェノタイピング>
apoE遺伝子多型性の分子的実体は十分明らかになっている(OMIMデータベース受け入れ番号107741およびその参考文献を参照)。略述すると、アポリポ蛋白質Eには3つの主要アイソフォーム(apoE2、apoE3、およびapoE4)が存在し、これらは3つのアリル(ε2、ε3、およびε4)によりコードされる。ヒト被験者においては、前記のアリル3つの可能な組み合わせ全て(6つ)が可能である(すなわち2/2、2/3、2/4、3/3、3/4、および4/4)。apoEジェノタイピングの方法は当分野で公知である。以下の実施例で例示する非限定的な実施形態の1つにおいては、標準的なDNA精製技術を用いて、被験者の細胞(例えばPBL)からゲノムDNAを調製してよい。被験者のapoE遺伝子型を測定するためには、以下の実施例に記載のようにPCR-RFLPを用いてもよく、またはその他の任意の適当なジェノタイピング法を用いてもよい。ジェノタイピングの方法論自体は本発明にとって重要ではない。被験者の遺伝子型は絶対単位であって、いかなる特定のジェノタイピング法にも影響されないからである。
【0050】
以下に述べるように、本発明には、被験者のapoE遺伝子型の測定が含まれる。本明細書においてそのような測定行為が包含するものには、遺伝子型が不明な被験者のapoEジェノタイピングを新規に行うことと、apoE遺伝子型データを既に測定済みの被験者のデータを使用することとがある。
【0051】
本発明の方法の全実施形態において、被験者が保有するapoE4アリルの個数を共変数として用いて、G1/S制御の欠損アッセイ(検査(i))の結果と統計的に組み合わせてもよい。斯様な実施形態において選択するジェノタイピング法は、少なくとも被験者が持つapoE4アリルの個数を測定可能なものでなければならない。いかなる被験者の遺伝子型も固定されているため、スクリーニング対象の被験者および対照被験者の集団を考慮した場合、各被験者が保有するapoE4アリルの個数(0、1、または2)を統計分析のための変数として扱ってもよい。
【0052】
<統計的組み合わせ>
本発明の最大の利益と効果とを達成するためには、ステップ(i)のアッセイ結果(または評価項目)とステップ(ii)で得たジェノタイピングの結果とを結合する必要がある。
【0053】
本発明の全ての方法においては、ステップ(i)の結果とステップ(ii)の結果とを「結合」して、特定の臨床成績/診断予測または予後予測の確率値を導出することができる。ステップ(i)の結果とステップ(ii)の結果とを変数として統計アルゴリズムに入力することによって、任意の被験者について前記の確率値を算出できる。確率値の計算に使用する前記のアルゴリズム自体を導出するには、被験者(すなわちAD)および対照(non-AD)被験者の集団に対してステップ(i)のアッセイとステップ(ii)のアッセイとを行い、次にそれらの結果を統計的に組み合わせて、診断(または予後)予測(例えばAD対対照)に対する2つの(独立にアッセイした)検査結果の寄与率を決定する。これを達成するには、ステップ(i)の結果(例えばRL、TG1_Rapa、n-n’、またはそれらの任意の統計的組み合わせ)を第1変数として扱い、apoE4遺伝子型(例えばapoE4アリルの個数)を共変数として扱ってもよい(付随する実施例で例示する)。この目的には標準的な統計分析法(例えばロジスティック回帰分析)を使用できる。2つの(独立に得た)アッセイ結果を前記のように結合した場合、本発明者は次のことを発見した。すなわち、ステップ(i)の結果とステップ(ii)の結果とを結合して得た結果を臨床成績のバイオマーカ(例えばAD罹患リスクの予測モデル)とすると、その全体的な精度はステップ(i)単独のアッセイまたはステップ(ii)単独のアッセイよりも高くなる。所産の「複合」アッセイはさらに、高度の臨床的特異度(通常90%よりも高い)および感度(通常65%よりも高い)を示す。
【0054】
G1/Sにおける細胞周期制御欠損のアッセイ「結果」(ステップ(i))は、apoE4遺伝子型(ステップii)と結合する以前においてそれ自体が「結合された」結果であり得る。上述のように、G1/Sにおける細胞周期制御欠損の有無を示す2つの異なるアッセイの結果を(例えばロジスティック回帰によって)結合して、アルツハイマ病の罹患リスク(オッズ)の予測に用いてもよい。本発明では、この結合結果自体を1つの変数として扱い、共変数のapoE遺伝子型(具体的にはapoE4アリルの個数)と(例えばロジスティック回帰によって)組み合わせ、診断予測を導出してもよい。
【0055】
検査結果を統計的に組み合わせるために好ましい方法はロジスティック回帰であるが、その他の統計法を用いてもよい。それらの例としては、ANOVA、Levene検定、Student Newman-Keuls検定、およびχ二乗検定などが挙げられる。
【0056】
診断予測モデル(すなわち、独立したG1/S欠損アッセイ結果とapoE遺伝子型アッセイ結果とに基づくオッズの計算アルゴリズム)を導出(例えばロジスティック回帰による)した後は、ROC(受信者動作特性)解析を用いて、カットオフポイントを設定することができる。独立した2つのアッセイ結果の組み合わせ(すなわちオッズ計算)に基づき、前記カットオフポイントで被験者を「AD」(または「Probable AD」)または「not AD」(または「probable not AD」)に分類する。このカットオフ値を用いて、バイナリ読み出しデータ(すなわち患者検体の分類である「AD」または「not AD」)を取得できる。
【0057】
ここで注目すべきは、ApoE4ジェノタイピング単独またはそれと認知障害評価との組み合わせが、従来はADの臨床診断に有効でないとされてきたことである。しかしながら本発明者の発見によれば、G1/Sにおける細胞周期制御欠損のアッセイとApoE4ジェノタイピングとを組み合わせた複合アッセイの結果を用いて診断予測を行うことで、正しく診断された患者数が(ステップ(i)単独の結果を用いた診断予測で正しく診断された患者数よりも)期せずして増大した。
【0058】
<本アッセイ法の臨床有用性>
本発明の方法を用い、2つの独立のアッセイの結果を結合することによって診断基準を導出する。それらのアッセイの1つは、ヒト被験者の非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無を検出するものである。この細胞周期の欠損は既出の文献に記載されており、アルツハイマ病罹患リスクと関連することが実際に知られている。しかしながら、G1/S細胞周期欠損アッセイとapoE4ジェノタイピングとを結合した結果に基づく診断予測の臨床的信頼性および臨床有用性は、G1/S欠損アッセイ単独の結果に基づく診断予測よりも改善される。この点について特記すべきは、本発明ではapoE4遺伝子型のみを臨床成績の予測因子(例えばADの「リスク因子」)として用いることはしないことである。その代わりに、apoE4ジェノタイピングのデータとG1/S細胞周期欠損のアッセイにより得られたデータとを結合して結合データを取得し、前記結合データを診断基準(すなわち診断予測の基準)として用いることができる。実際に本発明者の観測によれば、細胞周期制御の欠損のアッセイ結果(ステップ(i))は被験者のapoE4遺伝子型に依存せず、2つのアッセイの結果は技術的に(および生物学的に)相互独立的である。しかし2つの(独立の)アッセイの結果を結合した時、得られる診断基準の成績は各アッセイ単独の結果よりも(診断予測において)優秀である。
【0059】
本発明の種々の態様においては、次のステップを含む基礎方法論を種々の臨床用途に対して使用することができる。
ステップ(i)において、被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無(または度合)について、被験者をスクリーニングする。
ステップ(ii)において、前記被験者のapoE4遺伝子型を測定する。
ステップ(iii)において、ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを統計的に組み合わせる。
【0060】
いくつかの実施形態においては、「典型的な」AD症状(特に認知症)が現れる前に、前記の基礎方法論を用いてアルツハイマ病罹患リスクを評価でき、また非常に早期のADを検出できる。
【0061】
アルツハイマ病の従来の定義は、認知症に至る脳の進行性変性疾患である。すなわちADの主要な顕性症状は認知症である。しかしながら、認知症症状を示す患者全てがアルツハイマ病患者というわけではない。アルツハイマ病は(特に65歳以上の患者における)認知症の主因として知られているが、病因はその他にも複数存在する。ADの病理学的特徴はアミロイド斑および神経原繊維変化であって、その他の認知症とは識別可能である。
【0062】
本発明者の見解では、アルツハイマ病は不完全な細胞周期制御(具体的には不完全なG1/Sチェックポイント制御)から生ずる疾患であると、事実上見なされるべきである。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者の思料によればニューロンの欠損はアルツハイマ病の病理(アミロイドの蓄積)と症状(認知症)との病因である。細胞周期制御の同等の欠損は非神経細胞(例えばリンパ球)においても検出可能であって、これによって本発明のアッセイの基盤が提供される。
【0063】
細胞周期制御の欠損は病因性であり、よってADの顕性臨床症状(例えば認知症)の発症に先行すると考えられる。本発明のアッセイ方法論が提供する診断予測は、G1/S細胞周期欠損の評価のみに基づく診断予測よりも改善されている。本発明のアッセイ方法論はそれ故に、AD罹患リスクを評価する際に大きな臨床有用性を持つと考えられる。換言すれば本発明のアッセイ方法論は、被験者の顕性症状に関わらず、細胞周期制御の内在的欠損によるAD発症素因を保有する被験者を同定できる。
【0064】
いくつかの実施形態においては、本発明の方法論を用いて無症候被験者をスクリーニングし、細胞周期制御の欠損による末期AD症状の発症リスク/素因を評価することができる。その他の実施形態においては、様々な段階の「症候性」の被験者をスクリーニングするために同じ基礎方法論を用いることができる。いくつかの実施形態においては、本発明の方法論の適用対象はNINCDS/ADRDA基準の要件を予め満たしたヒト被験者であってもよい。その場合、本発明の方法論は、神経心理学的症状とは独立の(すなわち認知機能評価に拠らない)新規の診断基準を提供することができる。本発明の方法論が提供する新規の診断基準はNINCDS/ADRDAの有用な補助となり、生体患者の臨床診断を支援し得る。
【0065】
その他の実施形態における本発明の方法論の適用対象は、NINCDS/ADRDAを未適用のヒト被験者またはNINCDS/ADRDA基準の要件を満たさないヒト被験者であってもよい。この点において本発明の方法論は、生体患者のアルツハイマ病臨床診断のための(または少なくともADである可能性が非常に高い被験者の同定のための)NINCDS/ADRDA基準非依存的な代替基盤を提供すると考えられる。
【0066】
特に重要な実施形態の1つにおいては、本発明の基礎方法論を用いて軽度認知機能障害(MCI)を呈する被験者をスクリーニングして、末期AD症状(すなわち認知症)を発症するリスク/素因の保有者を同定することができる。さらには、ADの「早期」段階(この定義は典型的な症状でも病理学的特徴の出現(すなわち脳内アミロイドの蓄積)でもよい)にある可能性がある被験者を同定することもできる。本発明者が縦断的分析により明らかにしたところでは、MCI患者がさらに非神経細胞のG1/S細胞周期制御の欠損スクリーニングで陽性であった場合、それらの患者が認知機能低下の第一徴候を呈するのは、細胞周期制御の欠損を示さないMCI被験者よりも平均10年早い。すなわち細胞周期に欠損があることは、MCI患者がいずれ認知障害を発症する「リスク」を予測している。
【0067】
その他の実施形態においては、同基礎方法論を「診断用途に」利用するか、または少なくとも生体患者のAD臨床診断支援に利用することを企図してもよい。そのような実施形態における被験者は、通常ADに(またはADとその他とに)関連する症状を示すヒト被験者であってよい。典型的な例としては、認知障害/認知機能低下または認知症の症状を示す一群の患者が挙げられる。この患者集団に本発明のアッセイの基礎方法論を用いることによって、認知障害/認知症の症状を示すある患者で実際にAD関連の細胞周期制御の欠損が内在していることを証明し、その認知症がADの症状であってその他の疾患の症状ではないことを立証できる。ADのその他の顕性「症状」の例としては、イメージング技術(例えばMRI)を用いて可視化可能な脳構造の変化が挙げられる。本発明のアッセイ方法論を用いて取得した診断基準は、臨床診療において生体患者のAD診断の全側面を支援するための重要な新規ツールを提供する。そのようなツールは、それ単独かまたはそれとAD症状の診断検査とを組み合わせた状態で提供される。
【0068】
アルツハイマ病理に内在する細胞周期制御の欠損を正確に検査することが可能であれば、状態の診断能が大きく改善され、特に早期診断が可能となる。認知症の進展症状の臨床徴候が現れるより充分以前に、末梢(非神経)細胞(例えばリンパ球)において細胞周期制御の欠損を検出可能であることが、本発明者の成果から明白である。従って本発明の方法は、アルツハイマ病早期診断(特にアルツハイマ病前臨床期の個人の検出)のツールと、アルツハイマ病自体には未罹患だが細胞周期制御欠損があるために罹患「リスク」を持つ個人を同定するためのツールとを提供する。
【0069】
さらに、アルツハイマ病理に内在する細胞周期制御の欠損を正確に検査することが可能であれば、アルツハイマ病治療法のレシピエントであるヒト被験者に対してそのような治療法がもたらす治療効果(または治療法の候補の潜在的な治療効果)の測定能が大きく改善される。そのような治療法または治療法の候補の例として、投与薬剤、処置、またはレジメンが挙げられる。従って、例えばアルツハイマ病治療法または治療法の候補のレシピエントである被験者の非神経細胞について、G1/S期移行における細胞周期制御の欠損度を測定評価する。測定したG1/S期移行における細胞周期制御の欠損度合とapoE4遺伝子型とを併せて評価することによって、そのような被験者のアルツハイマ病治療のための治療法の治療有効性または治療法の候補の治療有効性を測定する。
【0070】
本発明者がさらに見いだしたところによると、非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損を示す(すなわちステップ(i)のアッセイ結果が「陽性」である)probableアルツハイマ病患者では、認知機能低下速度(ミニメンタルステート検査(MMSE)(30点満点)による)が有意に増大する。また、ApoE4アリルの検査で陽性の(ApoE4アリルを1個以上持つ)probableアルツハイマ病患者でも、認知機能低下速度は有意に増大する。のみならず、両アッセイの結果を統計的に組み合わせて診断基準を導出すると、加速した認知機能低下との関連性は有意に強まる。
【0071】
従って本発明のさらなる態様は、被験者のアルツハイマ病による認知機能低下速度を予測する診断基準を取得する方法を提供する。この方法は次のステップ(i)からステップ(iii)を含む。
ステップ(i)においては、被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無(または度合)を測定する。
ステップ(ii)においては、前記被験者のapoE4遺伝子型を測定する。
ステップ(iii)においては、ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合し、それによって前記被験者のアルツハイマ病による認知機能低下速度を予測する診断基準を取得する。
【0072】
この方法を、Probable ADを示すヒト被験者またはアルツハイマ型認知症患者(例えばNINCDS/ADRDA基準に基づいてADと臨床診断された被験者が挙げられるが、これに限定されない)に対して適用し、それによって前記被験者の疾病経過中の認知機能低下速度を予測することができる。
【0073】
本発明の上記態様に関して記載した特定の実施形態は、このさらなる態様にも等しく適用される。これは当業者には自明であろう。
【0074】
本発明の範囲には、さらに次の複数の方法が含まれる。これらの方法では、上記のステップ(i)のアッセイで得た結果とステップ(ii)のアッセイで得た結果とに対して「結合」ステップを加える。
【0075】
ヒト患者のアルツハイマ病に関連する診断基準を取得する方法であって、次のステップを含む。少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無についてヒト被験者をスクリーニングするアッセイから得た結果と、前記被験者のapoE4ジェノタイピングから得た結果とを結合する。それによって、アルツハイマ病に関連する診断基準を取得する。
【0076】
アルツハイマ病に関連する細胞周期制御の欠損の有無をスクリーニングする精度を改善する方法であって、次のステップを含む。少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無についてヒト被験者をスクリーニングするアッセイから得た結果と、前記被験者のapoE4ジェノタイピングから得た結果とを結合する。それによって、細胞周期制御欠損のアッセイ単独から得た結果よりも、前記の結合結果の精度が改善される。
【0077】
ヒト被験者のアルツハイマ病罹患リスクの評価法であって、次のステップを含む。少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無についてヒト被験者をスクリーニングするアッセイから得た結果と、前記被験者のapoE4ジェノタイピングから得た結果とを結合する。それによって、アルツハイマ病罹患リスクを評価する。
【0078】
生体ヒト被験者のアルツハイマ病の臨床診断支援法であって、次のステップを含む。少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無についてヒト被験者をスクリーニングするアッセイから得た結果と、前記被験者のapoE4ジェノタイピングから得た結果とを結合する。
【0079】
アルツハイマ病治療のための治療法の候補の、そのような治療法のレシピエントであるヒト被験者に対する有効性を評価する方法であって、次のステップを含む。少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について被験者をスクリーニングするアッセイから得た結果と、前記被験者のapoE4ジェノタイピングから得た結果とを結合する。それによって、アルツハイマ病治療のための前記治療法候補の有効性に関連する診断基準を取得する。
【0080】
アルツハイマ病によるヒト被験者の認知機能低下速度を予測する診断基準を取得する方法であって、次のステップを含む。少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について被験者をスクリーニングするアッセイから得た結果と、前記被験者のapoE4ジェノタイピングから得た結果とを結合する。それによって、アルツハイマ病による前記被験者の認知機能低下速度を示す診断基準を取得する。
【0081】
次の実施例を参照することによって、本発明のさらなる理解がなされよう。
【実施例】
【0082】
次の方法の例示では、本発明の方法を用いて、臨床診断されたアルツハイマ病(AD)患者および軽度認知機能障害(MCI)患者の試験群、ならびに同年齢の対照被験者群を検査する。
【0083】
<被験者>
「臨床診断された」アルツハイマ病症例では、NINCDS基準を用いてAD診断を行った。対照被験者は、数年に渡って認知機能障害を示さない場合に対照として扱う。軽度認知機能障害(MCI)の診断には、標準的な神経心理学的基準を用いた。
【0084】
<ステップ(i) 非神経細胞のG1/Sにおける細胞周期制御の欠損のスクリーニング>
次の方法論を用いて、被験者および対照被験者から調製した末梢リンパ球のG1/Sにおける細胞周期制御を評価した。
【0085】
(1)検体の採取とリンパ球の分離
ヒト被験者の静脈血検体(約5mlから約10ml)をヘパリン入りバキュテナーに採取した。検体の保存および輸送は、回収後最大36時間から48時間まで室温で行った。
【0086】
Lymphoprep(商標)(アクシス・シールド社、英国)を用い、取扱説明書に従って末梢リンパ球を分離した。分離したリンパ球は、必要に応じて90%ウシ胎児血清(熱非働化FCS)/10%DMSO中で-80℃で保存した。-80℃は数ヶ月間の保存には適するが、より長期の保存のためには液体窒素中に保管する必要がある。
【0087】
(2)G1阻害剤(ラパマイシン)存在下または非存在下での細胞培養
15% FCS(熱非働化)と2% l-グルタミンと1%ペニシリン/ストレプトマイシンとを添加したRPMI 1640増殖培地中で、2.5%フィトヘマグルチニン(PHA)存在下で、末梢リンパ球(必要に応じて保存状態から解凍する)を対数増殖に達するまで培養した(37℃、5%CO2、48時間)。カルチャは96穴プレート・フォーマットで用意し、各患者(被験者)に対して6ウェルから8ウェルを割り当てた。よってプレート1枚当たりに患者検体11セットと標準検体1セットとが含まれる。
【0088】
対数増殖に達したリンパ球カルチャを、増殖培地(上記)単独で処理するか、または100ng/mlのラパマイシンを添加した増殖培地で処理した(各患者についてトリプリケート/クアドルプリケートで行った)。
【0089】
24時間後に細胞カルチャを回収した。細胞毒性検査(LDHアッセイ)用の検体は-20℃で冷凍し、フローサイトメトリ分析用の検体は85%冷エタノールで固定した。
【0090】
(3)LDH細胞毒性アッセイ
(2)で調製した細胞カルチャの細胞数測定は、細胞毒性試験(LDH発色)により実施した。CytoTox96(登録商標)Non-Radoactive Cytotoxicity Assayキット(プロメガ)を取扱説明書に従って使用した。
【0091】
アッセイは96穴プレート・フォーマットで行い、1ウェル当たり30μlのリンパ球カルチャと50μlのLDH基質ミックス(CytoToxキットに含まれる。使用前に希釈する)とを用いた。ラパマイシン存在下で培養した患者検体またはラパマイシン非存在下で培養した患者検体をそれぞれトリプリケートで検査した。これらのアッセイプレートにはLDHポジティブコントロールの希釈標準液(LDHポジティブコントロールをリンパ球培地で段階希釈したもの。1:2500希釈、1:5000希釈、1:10,000希釈、1:20,000希釈、1:40,000希釈、1:80,000希釈、および1:160,000希釈のトリプリケート検体各30μl)も含まれ、検量線の作製が可能であった。
【0092】
患者検体と校正検体とに基質混合物を添加した後、アッセイプレートを暗所室温で15分間から30分間インキュベーションした。その間、継続的に色変化を観察して検量線が線形であることを確認し、親検体の色強度が検量線を超えないことを確認した。次に、各ウェルに50μlの冷やしたStop Solution(CytoToxキットに含まれる)を添加して反応を停止した。吸光度(490nm)を測定した。
【0093】
(4)フローサイトメトリと細胞周期解析
96穴プレートのリンパ球カルチャ(ラパマイシン存在下またはラパマイシン非存在下)をエタノール固定し(ステップ2終了)、400gで室温10分間連続(with no breaks)遠心した。上清を除去し、細胞ペレットを氷冷PBS(1ウェル当たり0.300ml)に再懸濁した。プレートを再度連続遠心(400g、室温、10分間)した。再び上清を除去し、細胞ペレットをヨウ化プロピジウム(PI)染色液(1ウェル当たり0.080ml)に再懸濁した。
【0094】
PI染色液は次の通り調製した。
10mlのPBS(Ca・Mgフリー、組織培養グレード、シグマ)に、200μlのPIストック溶液(1mg/ml)と100μlのRNAseAストック溶液(10mg/ml)と10μlのTriton Xとを添加する。よく混合し、終始遮光する。
【0095】
G1ピークとG2ピークとの識別が良いように(200単位以上分離されるように)フローサイトメータ(FacsCalibur BD)を設定した。
【0096】
細胞周期の帰属はM.G.オーメロッドの勧告(「Flow Cytometry」第3版、p.95)に基づき行った。
【0097】
G1ピークおよびG2ピークのPI読み取り値をマーカ基準として、次の関係式に基づいてパラメータXを計算した。
X=(G2ピーク-G1ピーク)/4
【0098】
これらの測定に基づいて、次のマーカを設定した。
G1細胞:(G1ピーク-X)から(G1ピーク+X)まで
S細胞:(G1ピーク+X)から(G2ピーク-X)まで
G2細胞:(G2ピーク-X)から(G2ピーク+X)まで
アポトーシスマーカ:(G1ピーク-X)未満全て
全分裂細胞:(G1ピーク-X)から(G2ピーク+X)まで
【0099】
これらの測定から、次のように細胞集団密度を算出した。
S期細胞集団:S細胞/(LC-UCマーカ内の全分裂細胞)
G1期細胞集団:G1細胞/(全分裂細胞)
G2期細胞集団:G2細胞/(全分裂細胞)
【0100】
(5)結果の解析
LDH細胞毒性アッセイから、各リンパ球カルチャ(ラパマイシン存在下またはラパマイシン非存在下)の総細胞数の値を得た。細胞数データから、細胞分裂数(n)と集団倍加時間(PDT)とを導出することが可能であった。次に、FACSデータ解析で得た細胞集団密度とPDTデータとを用いて、パラメータTG1(相対的なG1期の延長度)を算出した。これは次の等式で算出する。
【0101】
【数1】


G1は、細胞周期のG1期にある細胞の割合である(フローサイトメトリにより測定)。
【0102】
最後に、ラパマイシン処理したリンパ球カルチャについて算出したTG1値と、同一被験者由来のラパマイシン未処理リンパ球カルチャについて算出したTG1値とを比較した。
【0103】
ロジスティック回帰分析を用いて、変数n-n’と変数TG1_Rapaとを組み合わせ、診断予測のためのオッズ値を導出し得る(表1)。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【0108】
【表5】

【0109】
【表6】

【0110】
<ステップ(ii) apoEジェノタイピング>
ApoEジェノタイピングは次のように行った。多型遺伝子座を挟むApoEフォワード・プライマとApoEリバース・プライマとを用いてゲノムDNAをPCR増幅した。次に前記PCR産物をCfo1酵素で制限酵素消化した。異なるapoEアリルから増幅したPCR産物をCfo1で消化すると、異なる長さの制限酵素断片を生ずる(ヌクレオチド配列のバリエーションに由来する)。したがって、種々のアリル(およびそれらの種々の組み合わせ)の各々に由来する制限酵素断片をアガロースゲル電気泳動で分離すると、特徴的なバンドパターンを示す。
【0111】
被験者から採取した全血(または末梢血リンパ球)検体から、ジェノタイピング用のゲノムDNAを抽出した。被験者からの血液検体採取目的がG1/Sにおける細胞周期の欠損を検査するためである場合には、前記検体の少量を分取してDNA抽出に用いるのが好都合である。抽出した血液をPBSで1:5に希釈し、チューブを沸騰水中に10分間沈めた。次に検体を15,000gで10分間遠心し、上清をそのままPCRジェノタイピングに使用した。
【0112】
96穴プレートの各穴ごとにPCR反応液を用意した。反応液の組成は次の通りである。
APOE(フォワード・プライマ) 0.1μl(100μM)
APOE’(リバース・プライマ) 0.1μl(100μM)
水(分子生物学グレード) 5.8μl
ジメチルスルホキシド 2μl
ABGene Reddy Mix(AB-0575/DC/LD/B) 10μl
検体DNA 2μl
トータル 20μl
【0113】
2×Reddy Mix PCRマスター・ミックス(サーモ・サイエンティフィック、AB-0575/DC/LD/B)の最終組成は次の通りである。
0.625ユニット ThermoPrime Taq DNAポリメラーゼ
75mMトリス塩酸(pH8.8(25℃))
20mM (NH4)2SO4
1.5mM MgCl2
0.01%(v/v)Tween―20
0.2mM 各(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)
沈殿剤および赤色色素を電気泳動に使用した。
ApoEフォワード・プライマ(100μM)(シグマ・ジェノシス)(配列番号1)の配列は、5’-TCCAAGGAGCTGCAGGCGGCGCA-3’である。
ApoEリバース・プライマ(100μM)(シグマ・ジェノシス)(配列番号2)の配列は、5’-ACAGAATTCGCCCCGGCCTGGTACACTGCCA-3’である。
【0114】
次に熱サイクルを行った。用いたプログラムは、95℃5分、40×(95℃1分、65℃30秒、72℃30秒)である。
【0115】
PCR後、プレートを4℃に保管した。
【0116】
制限酵素反応液を、(PCR反応液ごとに)次のように用意した。
酵素Cfo1(HhaI)1μl
Lバッファー(ロッシュ)2μl
PCR反応液17μl
トータル20μl
【0117】
37℃で一晩培養し、その後4℃で一晩保管した。
【0118】
制限酵素消化産物を、Metaphor(登録商標)・多目的アガロース混合ゲル(12.48g Metaphor、2.52g 多目的アガロース、300ml 1×TBE、SYBR Safe DNA staining)による電気泳動で解析した。
【0119】
バンドパターンを用いて被験者のApoE遺伝子型を決定した。図1は代表的なアガロースゲルであり、各ApoE遺伝子型の特徴的なバンドパターンを示している。
【0120】
制限酵素消化およびアガロースゲル電気泳動に用いた試薬は次の通りである。
ヌクレアーゼフリー水(キアゲン、129114)
ジメチルスルホキシド(シグマ、D8418)
制限エンドヌクレアーゼCfoI(HhaI)10U/μl(ロシュ、10688541001)
Lバッファー(CfoIキット(ロシュ、10688541001)に添付)
10×TBE(トリス−ホウ酸−EDTA)バッファー(インビトロジェン、15581-028)(組成:1.0Mトリス、0.9Mホウ酸、0.01M EDTA)
多目的アガロース(ロシュ、11388991001)
Metaphorアガロース(ロンザ、カタログ番号50184)
SYBR Safe DNA gel stain(インビトロジェン、s33102)(10,000倍濃縮液(DMSO中))
6×type II gel loading buffer(サーモ・サイエンティフィック、AB-0594)
分子量マーカV(ロシュ、10821705001)(8塩基対から587塩基対)
【0121】
任意の被験者のapoEジェノタイピング・アッセイの結果または「評価項目」は、単純にその被験者について確定したapoE遺伝子型で表す(apoE2/2、apoE2/3、apoE2/4、apoE3/3、apoE3/4、またはapoE4/4の何れか1つとなる)。しかしスクリーニング集団全体を取り扱う場合には、被験者が保有するapoE4アリル個数を統計分析用の「変数」として扱ってもよい。
【0122】
【表7】

【0123】
【表8】

【0124】
【表9】

【0125】
<リンパ球検査の結果に及ぼすApoE4ステータスの効果>
上述の通り、ステップ(i)の結果は内在的なapoE4遺伝子型に依存しない。これは表3、4、および5、ならびに図3A、3B、および3Cから実際に確認される。
【0126】
【表10】

【0127】
【表11】

【0128】
【表12】

【0129】
【表13】

【0130】
【表14】

【0131】
【表15】

【0132】
<単独アッセイの結果および複合アッセイの結果の統計分析と、診断予測モデルの導出>
最初に、リンパ球培養アッセイ(ステップ(i))単独の結果を考慮する。
ラパマイシン・カルチャと対照カルチャとの間の細胞分裂数の差(LDHアッセイのn-)と、ラパマイシン処理後のG1期の相対的延長度の影響(TG1_Rapa)との組み合わせに基づいて、AD患者の78.26%を正しく同定した。
【0133】
変数間の関係logitp=0.3822(TG1_Rapa)-10.5049*(n-n’)-9.3555に基づき、p=1/(1+e^-logitp)を計算する。この関係式に基づくと、この特定の結果のセットについて個人の結果が対照値となるオッズはp/(1-p)である。
【0134】
ROC曲線解析を行い、対照とAD患者とを分類するカットオフ値を設定した。ROC曲線下面積の値が示すところによると、陽性群からランダムに選択した個人の検査値と陰性群からランダムに選択した個人の検査値とが異なる確率は83.6%である(ツヴァイクおよびキャンベル、1993年)。
【0135】
リンパ球培養検査単独でもAD罹患リスクを算出することが可能である。これは、特定の検査結果で継続して健康である「オッズ」で表す。
【0136】
次にロジスティック回帰分析を用いて、リンパ球培養検査の結果(すなわち算出した「オッズ」値)とapoE4遺伝子型とを統計的に組み合わせるために、apoE4遺伝子型(特にapoE4アリルの個数)を共変数として処理した(表6)。端的には、正確な診断(DG-ROC)の予測には両方の変数が寄与することが、ロジスティック回帰分析から示された。ロジスティック回帰分析によって各変数の寄与を算出することが可能となる。それらの値に基づいて、診断予測のための新規のアルゴリズム(診断予測モデル)を計算することが可能である。前記アルゴリズムは、リンパ球培養検査から予測される「オッズ」とApoE4遺伝子型(すなわちapoE4アリルの個数)との両方を含む。次にこの新規予測モデルをROC曲線解析にかけ、予測の精度と有意度とを確認する。
【0137】
【表16】

【0138】
【表17】

【0139】
【表18】

【0140】
【表19】

【0141】
【表20】

【0142】
【表21】

【0143】
上記のロジスティック回帰の係数に基づいて、新規の予測モデルを次のように導出する。
予測モデル= 1.2539*ApoE4-0.3547*オッズ-0.2715
ここで「ApoE4」はApoE4アリルの個数である。「オッズ」は、元来のリンパ球培養検査に基づく特定の検査結果が継続して対照値であるオッズである。
【0144】
この新規「予測モデル」をROC曲線解析にかけた(表7)。次表の左列は新規予測モデルの特徴である。
【0145】
【表22】

【0146】
【表23】

【0147】
リンパ球培養データから算出したオッズにapoE4遺伝子型データを加えることによって、診断精度を上げることが可能である(ROC曲線下面積85.8%)。
【0148】
上記で導出した新規の「複合」予測モデルに基づくアッセイの感度と特異度とを、図2Cに示す。
【0149】
<実施例2 縦断的分析>
上記の研究に参加した患者のサブセットに関する後方視的縦断データ(認知能力評価および介護人情報)を、OPTIMAから取得した。データ取得後に本方法ステップ(i)のリンパ球検査を実施した。
【0150】
縦断的追跡した患者コホートは、Probable ADとMCI(軽度認知機能障害患者)とからなる。
【0151】
表8に示すように、Probable AD患者における記憶障害の発症は、同年齢患者群のMCI患者よりも有意に早い。このデータから、Probable AD患者およびMCI患者の予測パターンに対して本コホートが一致していることが裏付けられる。
【0152】
【表24】

【0153】
【表25】

【0154】
【表26】

【0155】
表8のデータのKM曲線を図4に示す。このコホートにおいては、MCIと診断された場合よりもprobable ADと診断された場合の方が、記憶障害を生じない確率が全ての年齢で低いことを示している。表9は同じデータのANOVA検定である(図5も参照)。
【0156】
【表27】

【0157】
【表28】

【0158】
【表29】

【0159】
表10は、ミニメンタルステート検査(MMSE)で1失点するのに要する時間(平均)の分析である。AD患者におけるこの期間(所要時間)は、記憶障害発症から研究参加時点(認知症診断時点)までである。MCI患者の同期間は、記憶障害の発症から認知障害の最初の検出時点(MMSE=27)(追跡期間内)までである。アルツハイマ病の重症化に伴ってその進行速度は速まり、AD患者のアルツハイマ病進行段階はより高まる。そのため、MMSEスケールで1失点するのに要する時間はMCI患者が有意に長くなると予想される。これを図6のグラフに示す(AD患者およびMCI患者が一定の期間内にMMSEスケールで1失点する確率)。
【0160】
表11および図7は、同じデータをANOVA検定したものである。
【0161】
【表30】

【0162】
【表31】

【0163】
【表32】

【0164】
【表33】

【0165】
【表34】

【0166】
【表35】

【0167】
MCI患者のうち、検出可能な認知障害段階(MMSE=27)に達したのは7人のみであった。これらの患者についてはそれ以上の解析は行わなかった。
【0168】
完全なデータセットがある21人のAD患者について、さらに解析(リンパ球検査単独(DG_Odds)、ApoE4ステータス単独(ApoE4)、およびそれら2つの組み合わせ(DG_Ly_ApoE))を行った。
【0169】
表12に示すように、リンパ球検査(リンパ球検査単独)陰性の患者(0, n=4)がMMSEスケールで1失点するのに要する中位時間は、陽性の患者(1, n=17)よりも有意に長かった。これの重要な点は、リンパ球検査の結果は、AD患者の認知機能の低下速度が有意に速まることと関連しているということである(偽陰性では、認知機能の低下は有意に遅い)。
【0170】
図8は表12のデータのグラフ図である。これが示すところによると、検査陽性のAD患者の100%が発症から約17箇月以内にMMSEスケールで1失点するのに対して、同期間内にMMSEスケールで1失点する陰性患者は約50%に過ぎない。
【0171】
ANOVA検定を用いてこの結果を確認したのが、表13および図9である。
【0172】
【表36】

【0173】
【表37】

【0174】
【表38】

【0175】
【表39】

【0176】
【表40】

【0177】
【表41】

【0178】
表14が示すように、ApoE4アリルを1個または2個保有する患者がMMSEスケールで1失点するのに要する中位時間は、ApoE4アリルを保有しない患者よりも短い。
【0179】
表14のデータのグラフ図が図10である。この結果をANOVA検定で確認したのが表15および図11である。
【0180】
【表42】

【0181】
【表43】

【0182】
【表44】

【0183】
【表45】

【0184】
【表46】

【0185】
【表47】

【0186】
【表48】

【0187】
表16に示すように、リンパ球+ApoE検査(複合アッセイ)で陰性の患者(0, n=2)がMMSEスケールで1失点するのに要する中位時間は、陽性患者(1, n=19)よりも有意に長かった。これの重要な点は、複合アッセイの検査結果が陽性(すなわちROC曲線解析で設定したカットオフ値以上の結果)であることと、AD患者の認知機能の低下速度が有意に速まることとが関連しているということである(偽陰性では、認知機能の低下は有意に遅い)。
【0188】
さらにこの分析から、いずれかのアッセイ(リンパ球検査またはApoEジェノタイピング)単独ではなく複合アッセイを用いた場合に、前記関係性が強まる(「リンパ球検査単独」またはApoE遺伝子型単独の場合よりもp値が小さい)ことが分かる。
【0189】
図12は、表16のデータのグラフ図である。表17および図13は、ANOVA検定を用いて同じ分析を行ったものである。
【0190】
【表49】

【0191】
【表50】

【0192】
【表51】

【0193】
【表52】

【0194】
【表53】

【0195】
【表54】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被験者のアルツハイマ病に関連する診断基準を取得する方法であって、
少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について、ヒト被験者をスクリーニングするステップ(i)と、
前記被験者のapoE4遺伝子型を測定するステップ(ii)と、
ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合して、それによってアルツハイマ病に関連する診断基準を取得するステップ(iii)と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
アルツハイマ病に関連する細胞周期制御の欠損の有無をスクリーニングするスクリーニング精度を改善する方法であって、
被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について、被験者をスクリーニングするステップ(i)と、
前記被験者のapoE4遺伝子型を測定するステップ(ii)と、
ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合し、それによってその結合結果の精度がステップ(i)で得た結果よりも改善されるステップ(iii)と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
ヒト被験者のアルツハイマ病罹患リスクの評価法であって、
被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について、被験者をスクリーニングするステップ(i)と、
前記被験者のapoE4遺伝子型を測定するステップ(ii)と、
ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合し、それによってアルツハイマ病罹患リスクを評価するステップ(iii)と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
ステップ(i)の結果とステップ(ii)の結果とを変数として統計アルゴリズムに入力して、被験者のアルツハイマ病罹患リスクの確率値を計算することが、ステップ(iii)に含まれることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の方法であって、
前記ヒト被験者がアルツハイマ病について無症候であるか、または軽度認知機能障害を示すことを特徴とする方法。
【請求項6】
生体ヒト被験者のアルツハイマ病の臨床診断支援法であって、
被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無について、被験者をスクリーニングするステップ(i)と、
前記被験者のapoE4遺伝子型を測定するステップ(ii)と、
ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合するステップ(iii)と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
ステップ(i)の結果とステップ(ii)の結果とを変数として統計アルゴリズムに入力して、被験者のアルツハイマ病罹患リスクの確率値を計算することを、ステップ(iii)が含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の方法であって、
検査対象の前記ヒト被験者がアルツハイマ病と一致した症状の1つまたは複数を示すことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
アルツハイマ病と一致した前記症状が認知機能低下または認知症を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
アルツハイマ病治療のための治療法の候補の効果を、そのような治療法のレシピエントであるヒト被験者において評価する方法であって、
前記被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損度を測定するステップ(i)と、
前記被験者のapoE4遺伝子型を測定するステップ(ii)と、
ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合し、それによってアルツハイマ病治療のための前記治療法候補の効果に関連する診断基準を取得するステップ(iii)と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
ヒト被験者のアルツハイマ病による認知機能低下速度を予測する診断基準の取得方法であって、
前記被験者の少なくとも1つの非神経細胞のG1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無または欠損度を測定するステップ(i)と、
前記被験者のapoE4遺伝子型を測定するステップ(ii)と、
ステップ(ii)で得た結果とステップ(i)で得た結果とを結合し、それによって前記被験者のアルツハイマ病による認知機能低下速度を示す診断基準を取得するステップ(iii)と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法であって、
前記G1/S期移行における細胞周期制御の欠損の有無をスクリーニングまたは測定するために、
非神経細胞の細胞分裂を促して細胞分裂阻害物質に対する細胞の応答性を検査し、
細胞分裂阻害物質に対する被験者由来細胞の応答性が、G1/S期移行における細胞周期制御に欠損がない対照細胞よりも低下することを、G1/S期移行における細胞周期制御の欠損が存在することの指標とする、
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、
前記細胞分裂阻害物質がG1阻害剤であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、
前記G1阻害剤がラパマイシンであることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか1つに記載の方法であって、
前記細胞分裂阻害物質に対する細胞の応答性を検査するために、被験者由来の非神経細胞の細胞周期G1期の相対的延長度を算出し、
前記細胞分裂阻害物質存在下での前記細胞のG1期の相対的延長度が、G1/S期移行における細胞周期制御に欠損がない対照細胞よりも減少することを、G1/S期移行における細胞周期制御の欠損の指標とする、
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項12〜14のいずれか1つに記載の方法であって、
前記細胞分裂阻害物質に対する細胞の応答性を検査するために、細胞増殖活性を評価し、
前記細胞分裂阻害物質存在下での細胞増殖活性が、G1/S期移行における細胞周期制御が欠損していない対照細胞よりも上昇することを、G1/S期移行における細胞周期制御の欠損の指標とする、
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、
前記細胞増殖活性を評価するために、前記細胞分裂阻害物質存在下で培養した被験者由来非神経細胞の細胞分裂時間の相対的延長度を、前記細胞分裂物質非存在下で培養した被験者由来非神経細胞と比較して算出することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16または17に記載の方法であって、
細胞毒性アッセイによって細胞増殖活性を評価することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1つに記載の方法であって、
被験者が保有するApoE4アリルの個数を測定することがステップ(ii)に含まれることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法であって、
ステップ(i)が、
ラパマイシン存在下またはラパマイシン非存在下で被験者由来の末梢血リンパ球を培養するパート(a)と、
ラパマイシン存在下で培養した被験者由来非神経細胞検体の細胞周期G1期の相対的延長度を、ラパマイシン非存在下で培養した被験者由来非神経細胞と比較して算出し、
それとは独立に、ラパマイシン存在下で培養した被験者の非神経細胞検体の細胞分裂時間の相対的延長度を、ラパマイシン非存在下で培養した被験者由来非神経細胞検体と比較して算出するパート(b)と、
パート(a)の結果とパート(b)の結果とを結合して結合結果を取得するパート(c)と、
を含み、
ステップ(ii)が、被験者が保有するapoE4アリルの個数を測定することを含み、
ステップ(iii)が、ステップ(i)パート(c)で得た結合結果とステップ(ii)で測定したapoE4アリルの個数とを結合することを含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1つに記載の方法であって、
前記非神経細胞がリンパ球であることを特徴とする方法。

【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【公表番号】特表2012−532623(P2012−532623A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520094(P2012−520094)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001365
【国際公開番号】WO2011/007155
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(508020203)ザ ユニバーシティ オブ バーミンガム (3)
【Fターム(参考)】