説明

スクリーンの製造方法及びスクリーン

【課題】表示画像のコントラスト低下を抑制できるスクリーンの製造方法及びスクリーンを提供すること。
【解決手段】入射される光に応じた画像を表示するスクリーン1の製造方法であって、それぞれ光が入射される凹曲面状のレンズ要素2が複数配列された入射面(正面11)に対して、当該光の出射位置側から反射材を斜方蒸着させて、入射された光を反射させる反射層31をレンズ要素2に形成する反射層形成工程と、入射面(正面11)の中心に対して光の出射位置側とは反対側から、第1反射抑制材を入射面(正面11)に斜方蒸着させて、入射される光を吸収する第1反射抑制層33をレンズ要素2に形成する第1反射抑制層形成工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーンの製造方法及びスクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクター等の画像投射装置から投射された光に応じた画像を表示するスクリーンが知られている。このようなスクリーンとして、下方に位置するプロジェクターから斜方入射された光を正面側に設定された観察位置に反射させるスクリーンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載のスクリーンは、所定の基準点を中心とする同心円状の曲線軌跡に沿って凹曲面状のレンズ要素が複数配列された入射面を有する。このため、入射面には、レンズ要素の円弧状の列が複数形成されている。これらレンズ要素の表面には、光反射層が形成されており、当該光反射層に入射された光のうち、一部の光が、前述の観察位置に反射されて画像として視認される。
【0003】
このような光反射層を各レンズ要素に形成する装置として、蒸着によりアルミニウムを成膜する製造装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
この特許文献2に記載の製造装置では、スクリーン(スクリーン基板)が内面に沿って配置されるチャンバーを有し、当該チャンバー内の底部に設けられた蒸発源装置から放射状に成膜物質が出射される。これにより、スクリーンの入射面に成膜物質が堆積し、当該入射面に光反射層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−96883号公報
【特許文献2】特開2010−20210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のスクリーンにおけるレンズ要素の円弧状の列が複数形成された入射面に対して、特許文献2に記載の製造装置により光反射層を形成する場合、蒸発源装置から遠い位置のレンズ要素においては、当該蒸発源装置から遠い端部側の位置を中心として狭い範囲に光反射層が形成されやすい一方で、蒸発源装置に近いレンズ要素においては、当該レンズ要素の底部近傍を中心として広い範囲に光反射層が形成されやすい。このため、スクリーンのサイズや蒸発源装置の位置によっては、蒸発源装置に近い位置のレンズ要素の略全面に、光反射層が形成されてしまう。
このようなスクリーンに、正面側下方から画像を形成する光を斜方入射させて画像を表示させる場合、正面側上方から入射される外光が正面側に反射されやすくなり、表示される画像のコントラストが低下するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、表示画像のコントラスト低下を抑制できるスクリーンの製造方法及びスクリーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するために、本発明のスクリーンの製造方法は、入射される光に応じた画像を表示するスクリーンの製造方法であって、それぞれ前記光が入射される凹曲面状のレンズ要素が複数配列された入射面に対して、当該光の出射位置側から反射材を斜方蒸着させて、入射される光を反射させる反射層を前記レンズ要素に形成する反射層形成工程と、前記入射面の中心に対して前記出射位置側とは反対側から、第1反射抑制材を前記入射面に斜方蒸着させて、入射される光の反射を抑制する第1反射抑制層を前記レンズ要素に形成する第1反射抑制層形成工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
なお、斜方蒸着とは、入射面が鉛直面に沿う状態で、当該入射面の法線(詳しくは、入射面に形成されたレンズ要素により生じる凹凸を平均化した仮想平面の法線)と、入射面の中心及び蒸着源(蒸着材料を蒸発させる蒸着源)の中心を結ぶ直線との交差角が直角よりも小さい角度となるように当該蒸着源を配置して、入射面に蒸着材料を付着させることをいう。
【0009】
ここで、例えば、入射面の正面側下方に設定された出射位置から画像を形成する光を当該入射面に入射させた場合、出射位置に近いレンズ要素においては、底部近傍を中心として光が入射され、当該出射位置から離れたレンズ要素においては、出射位置側とは反対側の端部近傍を中心として光が入射される。
一方、蒸着材料を入射面に対して斜方蒸着させる場合、当該蒸着材料は、レンズ要素において蒸着源に対向する領域、すなわち、当該蒸着源とは反対側の領域を中心として付着しやすい。
このため、本発明では、反射層形成工程にて、光の出射位置側から反射材を斜方蒸着させることにより、レンズ要素における出射位置側とは反対側の領域(当該反対側の端部近傍の領域)を中心として反射層が形成される。また、第1反射抑制層形成工程にて、光の出射位置側とは反対側から第1反射抑制材を斜方蒸着させることにより、凹曲面における出射位置側の領域に第1反射抑制層が形成される。
【0010】
このようなスクリーンを鉛直面に沿って配置し、当該スクリーンの正面側下方に設定された出射位置から光を出射すると、当該光は、レンズ要素における出射位置側とは反対側の領域を中心として入射される。この領域に反射層が形成されていることで、当該光を所定の観察位置(例えば、スクリーンの正面側に設定された観察位置)に適切に反射させることができる。
また、このようにスクリーンを配置した場合、天井灯等の外光は、レンズ要素における下方側の領域を中心として入射される。この下方側の領域に第1反射抑制層が形成されていることで、外光が観察位置に反射されて、表示画像のコントラストが低下することを抑制できる。
【0011】
また、光の出射位置側から蒸着により反射層を形成する場合、各レンズ要素において、光の出射位置側とは反対側の稜線部分にも反射層が形成される。この稜線部分に外光が入射されると、当該外光の一部が前述の観察位置に反射される場合があり、このような場合には、表示画像のコントラストが低下する他、ぎらつきの要因となる。
これに対し、反射層形成工程を経た後、第1反射抑制層形成工程を実施して、当該第1反射抑制層形成工程にて、光の出射位置側とは反対側から第1反射抑制材を蒸着させることにより、反射層が形成された稜線部分にも第1反射抑制層が形成される。このため、第1反射抑制層により覆われた稜線部分に外光が入射される場合でも、当該外光の反射を抑制できる。従って、外光の反射を抑制でき、表示画像のコントラストの低下及びぎらつきの発生をより確実に抑制できる。
【0012】
更に、入射面に対する蒸着源の位置によっては、レンズ要素における蒸着源側の領域にも反射層が形成される場合がある。このような領域に形成される反射層の表面には、蒸着源とは反対側の領域(当該蒸着源に対向する側の領域)に形成される反射層の表面に比べて凹凸が形成されるセルフシャドーイングと呼ばれる現象が生じる。このセルフシャドーイングは、蒸着材料が蒸着される部位における入射面の法線と、当該部位及び蒸着源を結ぶ直線との交差角に依存して発生し、当該交差角が大きい部位のレンズ要素、すなわち、蒸着源に近いレンズ要素において生じやすい。このような凹凸がレンズ要素内に形成された入射面に白色の光が入射した場合、反射光からは、黄色い色味が認識される。
【0013】
そして、当該入射面に画像光が前述の出射位置から入射された場合、当該入射面の下側の領域に形成されたレンズ要素、すなわち、出射位置に近いレンズ要素では、当該レンズ要素の全体に画像光が入射されることから、反射される画像における下側の領域(出射位置に近い領域)の色味が変化して、当該画像の品質が低下する。
これに対し、反射層形成工程を経た後、第1反射抑制層形成工程を実施することで、反射層が形成される際の蒸着源側の領域(凹凸が形成されやすい領域)が第1反射抑制層により覆われるので、確実に表示画像の品質の低下を抑制できる。
【0014】
本発明では、前記第1反射抑制層形成工程では、前記入射面の中央における法線と、当該入射面の中央、及び、蒸着材料を蒸発させる蒸着源を結ぶ直線との交差角が、前記反射層形成工程における当該交差角に比べて大きいことが好ましい。
【0015】
一般に、入射面の中央における法線と、当該入射面の中央及び蒸着源を結ぶ直線との交差角が小さい場合(換言すると、入射面の中央及び蒸着源を結ぶ直線と入射面とのなす角が大きい場合)には、蒸着材料は、各レンズ要素において蒸着源に対向する部位を中心として広い範囲に付着する。このため、当該蒸着材料は、レンズ要素の底部近傍の広い範囲に付着しやすい。
一方、当該交差角が大きい場合(換言すると、入射面の中央及び蒸着源を結ぶ直線と入射面とのなす角が小さい場合)には、蒸着材料は、各レンズ要素において蒸着源に対向する部位を中心として狭い範囲に付着する。このため、当該蒸着材料は、レンズ要素における蒸着源側とは反対側の端部近傍の狭い範囲に付着しやすい。
【0016】
このため、当該交差角が比較的小さくなるように蒸着源の位置を調整し、まず、反射層形成工程にて、レンズ要素における広い範囲に反射層を形成して、入射された光を前述の観察位置に反射させる領域(有効反射領域)を確保する。その後、第1反射抑制層形成工程にて、反射層形成工程における交差角より当該交差角が大きくなるように蒸着源の位置を調整し、レンズ要素における光の出射位置側の狭い範囲に第1反射抑制層を形成する。これにより、有効反射領域を覆わないように第1反射抑制層を形成できる。従って、表示画像の視野角を確保でき、コントラストの低下を抑制できるスクリーンをより好適に製造できる。
【0017】
このような交差角と蒸着範囲との関連性は、スクリーンと蒸着源との相対的な距離が離れるに従って顕著となるため、広い範囲に反射層を形成する場合には、前述の交差角を小さくするとともに、スクリーンと蒸着源との相対的な距離を短くし、逆に、狭い範囲に第1反射抑制層を形成する場合には、当該交差角を大きくするとともに、相対的な距離を長くする。これにより、より好適に反射層及び第1反射抑制層を形成できる。
【0018】
本発明では、前記反射層形成工程より前の段階と、前記反射層形成工程の後で、かつ、前記第1反射抑制層形成工程の前の段階とのいずれかの段階で、前記入射面の中心に対して前記出射位置側とは反対側から、第2反射抑制材を斜方蒸着させて、入射される光の反射を抑制する第2反射抑制層を前記入射面に形成する第2反射抑制層形成工程を有することが好ましい。
【0019】
ここで、反射層及び第1反射抑制層を形成する条件によっては、レンズ要素において当該各層のどちらも形成されない領域、すなわち、スクリーンの素地が露出する領域が形成される場合がある。このような領域が存在すると、スクリーンの材質にもよるが、当該領域に入射された光の一部も反射される。このような光はコントラストの低下の要因ともなり、表示画像を劣化させる。
【0020】
これに対し、本発明によれば、入射面の中心に対して光の出射位置側とは反対側(第1反射抑制層を形成する場合と同じ側)から第2反射抑制材が斜方蒸着されることで、レンズ要素において素地が露出する領域に第2反射抑制層を形成できる。これにより、不要な光が反射されることをより確実に抑制できる。従って、コントラストの低下を抑制でき、表示画像の劣化を抑制できる。
【0021】
本発明では、前記第2反射抑制層形成工程では、前記入射面の中央における法線と、当該入射面の中央、及び、蒸着材料を蒸発させる蒸着源を結ぶ直線との交差角が、前記反射層形成工程における当該交差角に比べて小さいことが好ましい。
【0022】
なお、入射面の中央における法線は、前述のように、レンズ要素が形成された入射面の凹凸を平均化した仮想平面の中央における法線を示す。
本発明によれば、レンズ要素の凹曲面において、光の出射位置側の領域に第1反射抑制層を形成でき、当該出射位置側とは反対側の領域に反射層を形成でき、これら第1反射抑制層及び反射層の間に、第2反射抑制層を形成できる。
そして、このようなスクリーンを前述のように配置した場合、当該スクリーンの上方から入射される外光等の光の反射を第1反射抑制層により抑制でき、当該スクリーンの法線方向に沿って入射される不要な光の反射を第1反射抑制層及び第2反射抑制層により抑制でき、更に、スクリーンの下方から入射される光を反射層により好適に反射させることができる。従って、表示画像の劣化を抑制でき、当該表示画像のコントラストをより一層向上できる。
【0023】
本発明では、前記第1反射抑制材及び前記第2反射抑制材は、光を吸収する性質を有し、前記反射層形成工程の前の段階で、前記第2反射抑制層形成工程を実施し、前記反射層形成工程の後の段階で、前記第1反射抑制層形成工程を実施することが好ましい。
このような第1反射抑制材及び第2反射抑制材としては、酸化クロムを例示でき、反射層としては、アルミニウムを例示できる。
本発明によれば、光を吸収する第2反射抑制材の蒸着によって第2反射抑制層が形成された後に反射層が形成され、当該反射層が形成された後に、光を吸収する第1反射抑制材の蒸着によって第1反射抑制層が形成される。これによれば、反射層(特に前述の有効反射領域)が、第2反射抑制層により覆われることを防止できる他、スクリーンの素地により光が反射されることを確実に防止できる。従って、有効反射領域を確実に確保でき、前述のコントラストの低下を確実に抑制できる。
【0024】
或いは、本発明では、前記第1反射抑制材は、光を吸収する性質を有し、前記第2反射抑制材は、光を透過する性質を有することが好ましい。
このような第1反射抑制材としては、酸化クロムを例示でき、第2反射抑制材としては、酸化ケイ素を例示できる。また、反射層としては、アルミニウムを例示できる。
本発明によれば、光を吸収する第1反射抑制材により第1反射抑制層が形成されるので、前述のコントラストの低下を確実に抑制できる。
また、反射層近傍に形成される第2反射抑制層が、光を透過する第2反射抑制材により形成される。これによれば、反射層における有効反射領域の一部が第2反射抑制層により覆われる場合でも、当該有効反射領域における光の反射効率の低下を最小限に留めることができる他、スクリーンの素地による光の反射を確実に抑制できる。従って、コントラストの低下を確実に抑制できる。
【0025】
本発明では、それぞれの前記レンズ要素は、前記入射面及び当該入射面の延長面のいずれかの面上に設定された基準点を中心とする略円弧状の複数の基準線に沿って配列され、それぞれの前記レンズ要素のうち、前記基準点から所定寸法離れた位置に形成されたレンズ要素は、前記反射層が形成された領域内に、入射された光を所定の観察位置に反射させる有効反射領域を有する凹曲面状の第1凹部と、前記第1凹部の前記基準点側に当該第1凹部と隣接して形成され、前記有効反射領域内に入射される前記光の光路を確保する凹曲面状の第2凹部と、を有することが好ましい。
【0026】
本発明によれば、入射面の法線(入射面に形成される凹凸を平均化した仮想平面の法線)に沿い、かつ、基準点を通る直線上に、光の出射位置が位置する場合に、各レンズ要素に光を好適に入射させることができる。従って、前述の観察位置に反射される光量を多くすることができ、表示画像の輝度を高めることができる。
ここで、当該出射位置からの光が入射面に斜方入射される場合には、出射位置に近いレンズ要素と遠いレンズ要素とでは、入射される光の入射角(当該光の光路と、当該光が入射される位置における入射面の法線との交差角)が異なる。具体的に、出射位置に近いレンズ要素では光の入射角は小さいが、出射位置から遠い位置では光の入射角は大きくなる。
【0027】
このため、観察位置がスクリーンの正面側の位置に設定されている場合、前述の有効反射領域は、出射位置に近いレンズ要素では底部近傍の位置となるが、出射位置から離れたレンズ要素では出射位置から離れた側の端部近傍の位置となる。このため、入射される光の入射角が大きくなると、出射位置に近い側の端部が、有効反射領域に入射される光の光路を遮る場合が生じ、このような場合には、当該有効反射領域に適切に光を入射させることができず、表示画像に輝度むらが生じる。
これに対し、本発明では、基準点から所定寸法離れた位置のレンズ要素が、有効反射領域を有する第1凹部と、当該第1凹部に対して基準点側に隣接する第2凹部とを有し、当該第2凹部が、有効反射領域に入射される光の光路を確保する。これによれば、当該有効反射領域に適切に光を入射させることができ、表示画像に輝度むらが生じることを抑制できる。
【0028】
また、基準点側を光の出射位置側として反射層を形成する場合、前述のように、当該基準点に近いレンズ要素では、底部近傍を中心とする広い範囲に反射層が形成され、当該基準点から離れたレンズ要素では、第1凹部における基準点から離れた端部近傍の位置を中心とする狭い範囲に反射層が形成される。
一方、第1反射抑制層を入射面に形成する場合、光の出射位置側(基準点側)とは反対側から第1反射抑制材を蒸着させるので、基準点から離れたレンズ要素(例えば、第2凹部を有するレンズ要素)が蒸着源に近いレンズ要素となり、基準点に近いレンズ要素(例えば、第2凹部を有しないレンズ要素)が、蒸着源から離れたレンズ要素となる。
【0029】
このような配置で形成された第1反射抑制層は、基準点から離れたレンズ要素(蒸着源に近いレンズ要素)では、第2凹部を中心として広い範囲に形成される。この際、第1凹部における前述の有効反射領域は、基準点から離れた端縁近傍(蒸着源に近い端縁近傍)に位置するため、第1反射抑制層により当該有効反射領域が覆われにくい。これにより、基準点から離れたレンズ要素において、有効反射領域以外の領域に、第1反射抑制層を好適に形成できる。
【0030】
一方、基準点に近いレンズ要素(蒸着源から離れたレンズ要素)においては、基準点側の端部近傍(蒸着源から離れた端縁近傍)を中心とする狭い範囲に形成される。このレンズ要素における有効反射領域は、当該レンズ要素の底部近傍に位置するが、第1反射抑制層が狭い範囲で形成されるので、当該第1反射抑制層により有効反射領域が覆われにくい。これにより、基準点に近いレンズ要素においても、有効反射領域以外の領域に、第1反射抑制層を好適に形成できる。
従って、表示画像の画質を向上できるとともに、前述のコントラストの向上を確実に図ることができる。
【0031】
また、本発明のスクリーンは、入射される画像を表示するスクリーンであって、前記画像が入射される入射面を有し、前記入射面は、それぞれ凹曲面状を有する複数のレンズ要素を有し、前記レンズ要素は、入射される光を反射させる反射層と、入射される光の反射を抑制する第1反射抑制層と、入射される光の反射を抑制する第2反射抑制層とを有し、前記反射層、前記第1反射抑制層及び前記第2反射抑制層は、入射される光の出射位置から前記レンズ要素に向かう方向に、前記第1反射抑制層、前記第2反射抑制層及び前記反射層の順に、位置を違えて形成されていることを特徴とする。
なお、反射層、第1反射抑制層及び第2反射抑制層を構成する材料は、前述の反射材、第1反射抑制材及び第2反射抑制材を例示できるが、第1反射抑制層と第2反射抑制層とを形成する材料は、同じ(酸化クロム等)でもよく、異なっていてもよい。
本発明によれば、前述の反射層形成工程、第1反射抑制層形成工程及び第2反射抑制層形成工程を経て製造されたスクリーンと同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスクリーンの使用態様を示す側面図。
【図2】前記実施形態におけるスクリーンを示す正面図。
【図3】前記実施形態におけるレンズ要素を示す斜視図。
【図4】前記実施形態におけるレンズ要素を示す斜視図。
【図5】前記実施形態におけるレンズ要素に入射される光の光路を示す模式図。
【図6】前記実施形態における製造装置の構成を示す模式図。
【図7】(A)前記実施形態における反射層が形成された基材を示す断面図。(B)前記実施形態における第2反射抑制層が形成された基材を示す断面図。(C)前記実施形態における第1反射抑制層が形成された基材を示す断面図。
【図8】前記実施形態における反射層形成工程での蒸着源と基材との鉛直方向における相対位置を示す図。
【図9】前記実施形態における反射層形成工程での蒸着源と基材との水平方向における相対位置を示す図。
【図10】前記実施形態における第2反射抑制層形成工程での蒸着源と基材との鉛直方向における相対位置を示す図。
【図11】前記実施形態における第2反射抑制層形成工程での蒸着源と基材との水平方向における相対位置を示す図。
【図12】前記実施形態における第1反射抑制層形成工程での蒸着源と基材との鉛直方向における相対位置を示す図。
【図13】前記実施形態における第1反射抑制層形成工程での蒸着源と基材との水平方向における相対位置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて説明する。
〔スクリーンの機能〕
図1は、本実施形態に係るスクリーン1の使用態様を示す側面図である。
なお、以下の説明では、説明の便宜上、スクリーン1において、プロジェクター8が設置される側を正面側、当該正面側の反対側を背面側として記載する。また、スクリーン1を正面視した際の右方向をX方向とし、鉛直方向をY方向とし、更に、スクリーン1の正面の法線に沿って当該スクリーン1から離間する方向をZ方向とする。
【0034】
本実施形態に係るスクリーン1は、図1に示すように、当該スクリーン1の正面側下方に位置するプロジェクター8(詳しくは、画像を投射する投射光学装置の位置である出射位置PP)から斜方入射される投射光PLを正面側に反射して、当該投射光により形成される画像を表示する反射型スクリーンである。このスクリーン1に入射された投射光PLは、正面11の中心点CPにおける法線方向(すなわちZ方向)に設定された観察位置VPに向けて反射される。これにより、観察位置VPに位置する観察者VRは、表示された画像を観察できる。なお、以下の説明で、正面11の法線方向という場合には、当該正面11に形成された凹凸を平均化した仮想平面の法線を指す。
【0035】
〔スクリーンの構成〕
図2は、スクリーン1を示す正面図である。なお、図2においては、後述する基準線SLのうち、代表的な基準線SLを図示しており、実際にはより細かい間隔で当該基準線SLは設定されている。また、図2においては、図示された基準線SLの符号も一部省略する。
スクリーン1は、本実施形態では、黒色のポリ塩化ビニル(PVC:polyvinyl chloride)により形成され、図2に示すように、正面側から見て横長の略長方形状に形成されている。このスクリーン1の正面11は、投射光PLが入射される入射面であり、また、当該投射光PLを反射させる反射面でもある。
【0036】
このような正面11には、当該正面11の延長面12上に設定された基準点SPを中心とした所定範囲内の領域13(図2における斜線部分)と、当該領域13外の領域14とが設定され、これら各領域13,14には、後述するレンズ要素2(図3及び図4参照)が配列されている。なお、基準点SPは、本実施形態では、中心点CPを通る鉛直線である中心線CL上に設定されている。また、本実施形態では、基準点SPを通る延長面12の法線上に、前述の出射位置PPが設定される。
【0037】
領域13内には、それぞれ基準点SPを中心とする同心円(円及び楕円を含む)の一部を構成する円弧状の仮想の基準線SLに沿ってレンズ要素2(2A)(図3参照)が配置される。また、領域14内には、当該基準線SLに沿って、第1凹部21及び第2凹部22を有するレンズ要素2(2B)(図4参照)が配置される。
これら領域13,14に設定される基準線SLの間隔は、基準点SPから離れるに従って大きくなるように設定されており、これにより、基準点SPから離れるに従って、隣接するレンズ要素2(2A,2B)の中心間距離は大きくなる。また、レンズ要素2(2A,2B)の基準点SPからの放射方向(図3及び図4におけるA方向)の寸法も、当該基準点SPから離れるに従って大きくなるように設定されている。
以下、基準点SPからの放射方向をA方向と記載及び図示する。
【0038】
〔レンズ要素の構成〕
図3は、レンズ要素2Aを示す斜視図である。
領域13には、前述の基準線SLに沿う複数のレンズ要素2Aにより構成されるレンズ列が複数形成される。これらレンズ要素2Aは、図3に示すように、投射光PLが入射される所定の曲率の凹曲面2A1をそれぞれ有し、当該凹曲面2A1には、A方向先端側の端部から基端側の端部に向かって、反射層31、第2反射抑制層32、第1反射抑制層33が順に形成されている。
【0039】
反射層31は、凹曲面2A1におけるA方向先端側に形成され、入射された光を反射させる。この反射層31が形成される領域内には、入射される投射光PLを観察位置VPに向けて反射させる有効反射領域ARが含まれる。このような反射層31は、詳しくは後述するが、アルミニウムや銀を基準点SP側(出射位置PP側)から斜方蒸着させて形成される。
第1反射抑制層33は、凹曲面2A1におけるA方向基端側に形成され、入射された光を吸収することにより当該光の反射を抑制する。この第1反射抑制層33は、酸化クロム等の第1反射抑制材を基準点SP側とは反対側から斜方蒸着させて形成される。
第2反射抑制層32は、反射層31と第1反射抑制層33との間に挟まれるように形成され、スクリーン1の素地による反射効率を低減させることにより、当該光の反射を抑制する。この第2反射抑制層32に入射された光は、当該層32を透過する過程で、当該層32により一部の光が吸収され、光量が減じられる。この第2反射抑制層32により、凹曲面2A1において反射層31及び第1反射抑制層33が形成されていない領域が覆われている。このような第2反射抑制層32は、例えば、酸化ケイ素(SiO)を基準点SP側とは反対側から斜方蒸着させて形成される。
【0040】
図4は、レンズ要素2Bを示す斜視図である。
領域14には、前述の基準線SLに沿う複数のレンズ要素2Bにより構成されるレンズ列が複数形成されている。
これらレンズ要素2Bは、図4に示すように、それぞれ所定の曲率の凹曲面である第1凹部21及び第2凹部22を有し、当該第2凹部22は、第1凹部21に対して基準点SP寄りの位置(A方向基端側)に隣接して形成されている。
【0041】
このようなレンズ要素2Bには、前述のレンズ要素2Aと同様に、A方向先端側の端部から基端側の端部に向かって、反射層31、第2反射抑制層32、第1反射抑制層33が順に形成されている。
反射層31は、第1凹部21におけるA方向先端側の端部を中心として所定範囲内に形成されている。また、第1反射抑制層33は、第2凹部22におけるA方向基端側の端部を中心として所定範囲内に形成されている。更に、第2反射抑制層32は、反射層31及び第1反射抑制層33の間に、第1凹部21及び第2凹部22に跨るように形成されており、当該第2反射抑制層32により、レンズ要素2Bにおいて反射層31及び第1反射抑制層33が形成されていない領域が覆われる。
なお、これら各層31〜33の機能は、前述のレンズ要素2Aに形成された各層31〜33と同様である。また、第2凹部22は、同じレンズ要素2Bを構成する第1凹部21(すなわち、当該第2凹部22に対してA方向先端側に隣接する第1凹部21)との稜線を低くすることで、当該第1凹部21に形成された反射層31における有効反射領域ARに投射光PLを入射させる機能を有する。
【0042】
〔レンズ要素に入射される光の光路〕
図5は、レンズ要素2に入射される光の光路を示す模式図である。
以下、レンズ要素2に入射される光の光路について説明する。なお、以下では、レンズ要素2Aに入射される光の光路について説明するが、レンズ要素2Bに入射される光の光路も同様である。
前述の出射位置PPから出射され、レンズ要素2Aの反射層31に入射される投射光PLのうち、前述の有効反射領域ARに入射された投射光PLは、図5において実線で示すように、正面側の観察位置VPに向けて反射される。
【0043】
一方、レンズ要素2Aに入射される外光のうち、照明光のように上方から入射される光L1(一点鎖線で示す光L1)は、第1反射抑制層33に入射され、当該第1反射抑制層33にて吸収される。
また、当該外光のうち、レンズ要素2Aの稜線に入射される光L2(一点鎖線で示す光L2)は、当該稜線が第1反射抑制層33により覆われているため、当該第1反射抑制層33にて吸収される。
更に、当該外光のうち、第2反射抑制層32に入射される光L3(一点鎖線で示す光L3)の一部は、第2反射抑制層32と、当該層32を透過して到達するスクリーン1の素地(黒色のポリ塩化ビニルにより形成された素地)により吸収されるので、当該第2反射抑制層32に入射された光L3の入射光量に比べて反射光量が低減される。
【0044】
このように、正面側下方から反射層31の有効反射領域ARに入射された投射光PLを、確実に観察位置VPに適切に反射させることができる。また、第1反射抑制層33が、主に正面側上方から入射される外光、及び、レンズ要素2の稜線に入射される外光を吸収するので、観察位置VPにて観察される表示画像に対する外光の影響を低減できる。更に、第2反射抑制層32が、反射層31及び第1反射抑制層33が形成されない領域に形成されるので、素地に入射されて反射される外光の光量を一層低減できる。従って、表示画像のコントラストを向上できる。
【0045】
〔製造装置の構成〕
図6は、スクリーン1を製造する製造装置9の構成を示す模式図である。
前述のスクリーン1は、以下に示す製造装置9により製造される。詳しくは、前述の各層31〜33は、当該製造装置9により形成される。
製造装置9は、基材1A(レンズ要素2は形成されているが、各層31〜33が形成されていない状態のスクリーン1)に対して前述の各層31〜33を形成する。この製造装置9は、図6に示すように、支持機構91、反転機構92、蒸着源93及び移動機構94と、これらを内部に収容する略円筒状のドーム95とを備える。この他、図示を省略したが、製造装置9は、ドーム95内を減圧状態とする真空ポンプや、電源装置等を備える。
【0046】
支持機構91は、基材1Aが取り付けられる反転機構92を支持し、これにより、ドーム95内で当該基材1Aを支持する。この支持機構91は、中央に仕切板911が設けられており、一方の基材1Aに蒸着される蒸着材料が他方の基材1Aに付着しないように構成されている。
反転機構92は、基材1Aを支持するとともに、当該基材1Aの上下を反転させる。この反転機構92は、本実施形態では、ドーム95内に2つ収容されている。
【0047】
蒸着源93は、蒸着材料を蒸発させて、基材1Aの正面1A1(入射面)側に、蒸発された蒸着材料を付着させるるつぼである。この蒸着源93は、蒸着材料に応じて複数設けられている。
移動機構94は、基材1Aに対して蒸着源93を相対的に移動させる。すなわち、移動機構94は、蒸着源93の位置を水平方向及び鉛直方向に移動させる。この移動機構94は、詳しくは後述するが、基材1Aに付着させる蒸着材料に応じて、蒸着源93の位置を調整する。
【0048】
〔各層の形成工程〕
図7(A)は、反射層31が形成された基材1Aを示す断面図であり、図7(B)は、第2反射抑制層32が形成された基材1Aを示す断面図であり、また、図7(C)は、第1反射抑制層33が形成された基材1Aを示す断面図である。なお、図7(A)〜(C)においては、蒸着材料が蒸着源93から出射される方向を実線の矢印にて示している。
上記各層31〜33は、本実施形態では、前述の製造装置9により、反射層形成工程、第2反射抑制層形成工程及び第1反射抑制層形成工程を順に経て形成される。なお、以下の説明では、対角寸法が100インチの基材1Aに対して各層31〜33を形成する場合を一例として記載する。
【0049】
〔反射層形成工程〕
図8及び図9は、反射層31を形成する場合の蒸着源93と基材1Aとの鉛直方向及び水平方向における相対的な位置関係を示す図である。
反射層31を形成する場合には、図8及び図9に示すように、前述の基準点SPが基材1Aの下方に位置し、かつ、基材1Aの背面が円筒状のドーム95の内面に沿うように当該基材1Aを配置させる。
この後、基材1Aの中央から鉛直方向に寸法L1離れた位置で、かつ、正面1A1の延長面1A2から当該延長面1A2の法線方向に寸法L2離れた位置P1に、移動機構94により蒸着源93を位置させる。なお、寸法L1,L2は、適宜設定可能であるが、本実施形態では、数メートル程度に設定されている。
この状態で、蒸着源93によりアルミニウム等の反射材を、基材1Aの正面1A1(レンズ要素2が形成された面)に斜方蒸着させ、これにより、当該基材1Aに反射層31を形成する。
【0050】
ここで、正面1A1の中央と蒸着源93とを結ぶ直線と、当該中央における正面1A1の法線との交差角が大きいほど、当該直線とレンズ要素2の凹曲面の接線とが直交する位置(蒸着材料が付着する領域の中心となる位置)は、当該凹曲面において蒸着源93とは反対側にずれる。
このため、蒸着源93の位置から放射状に出射された反射材は、レンズ要素2における蒸着源93とは反対側、すなわち、出射位置PPとは反対側の端部近傍を中心とする領域に付着され、当該領域に反射層31が形成される。
また、蒸着源93に近いレンズ要素2ほど、当該レンズ要素2における広い範囲に蒸着材料が付着される。このため、蒸着源93に近いレンズ要素2Aでは、図7(A)において示されるように、広い範囲に反射層31が形成され、蒸着源93から離れたレンズ要素2Bでは、図4に示したように、狭い範囲に反射層31が形成される。
【0051】
〔第2反射抑制層形成工程〕
図10及び図11は、第2反射抑制層32を形成する場合の蒸着源93と基材1Aとの鉛直方向及び水平方向における相対的な位置関係を示す図である。
第2反射抑制層32を形成する場合には、図10に示すように、反転機構92により基材1Aを回転させて、当該基材1Aの上下を反転させる。このため、支持機構91により支持された基材1Aでは、基準点SP側が上側となる。なお、反射層31を形成する場合と同様に、基材1Aの背面は、ドーム95の内面に沿うように配置される。
【0052】
この後、図10及び図11に示すように、基材1Aの中央から鉛直方向に寸法L3離れた位置で、かつ、延長面1A2から当該延長面1A2の法線方向に寸法L4離れた位置P2に、移動機構94により蒸着源93を位置させる。この状態で、蒸着源93により酸化ケイ素等の第2反射抑制材を、正面1A1(既に反射層31が形成された正面1A1)に斜方蒸着させ、これにより、第2反射抑制層32を形成する。
【0053】
なお、寸法L3,L4は、寸法L1,L2と同様に適宜設定可能であるが、本実施形態では、寸法L3は、寸法L1と同じ寸法に設定されており、また、寸法L4は、寸法L2より大きい値に設定されている。
このため、第2反射抑制層32を形成する際の基材1Aに対する蒸着源93の鉛直方向の位置は、反射層31を形成する場合と略同じであるが、延長面1A2の法線方向の位置が、反射層31を形成する場合の位置に比べて離れている。このため、正面1A1の中央と蒸着源93とを結ぶ直線と、当該中央における法線との交差角θ2(図10参照)は、反射層31を形成する場合の当該交差角θ1(図8参照)に比べて小さくなる。この交差角が小さいほど、各レンズ要素2において蒸着材料が付着する範囲が広がるとともに、当該範囲の中心が、各レンズ要素2において蒸着源93側にずれる。
また、基材1Aは、上下が反転された状態で支持されている。
【0054】
このような位置の蒸着源93から放射状に出射される第2反射抑制材は、レンズ要素2において中央近傍から基準点SP側の領域に付着され、第2反射抑制層32が形成される。このため、基材1Aの上下が反転された状態で支持されていることで蒸着源93から離れた位置のレンズ要素2A(基準点SPに近い位置のレンズ要素2A)においては、図7(B)に示すように、レンズ要素2Aにおける底部近傍から基準点SP側の範囲に第2反射抑制層32が形成される。また、蒸着源93に近い位置のレンズ要素2B(基準点SPから離れた位置のレンズ要素2B)においては、図4に示したように、第1凹部21と第2凹部22との間の稜線部分を中心として広い範囲に第2反射抑制層32が形成される。
【0055】
〔第1反射抑制層形成工程〕
図12及び図13は、第1反射抑制層33を形成する場合の蒸着源93と基材1Aとの鉛直方向及び水平方向における相対的な位置関係を示す図である。
第1反射抑制層33を形成する場合には、図12に示すように、第2反射抑制層形成工程での基材1Aの反転状態を維持したままとする。すなわち、第1反射抑制層33を形成する場合の基材1Aの支持状態では、基準点SPは、蒸着源93が位置する側とは反対側、すなわち、上側に位置することとなる。
この後、図12及び図13に示すように、基材1Aの中央から鉛直方向に寸法L5離れた位置で、かつ、延長面1A2から当該延長面1A2の法線方向に寸法L6離れた位置P3に、移動機構94により蒸着源93を位置させる。
なお、当該寸法L5,L6は、前述の寸法L1〜L4と同様に適宜設定可能であるが、本実施形態では、寸法L5は、寸法L1,L3より大きく、寸法L6は、寸法L2より小さい値に設定されている。
【0056】
また、図13に示すように、第1反射抑制層33を形成する場合には、上記位置P3を中心とする円弧に沿うように、湾曲された状態で基材1Aが支持される。
この状態で、蒸着源93により第1反射抑制材を、正面1A1(既に反射層31及び第2反射抑制層32が形成された正面1A1)に斜方蒸着させ、これにより、第1反射抑制層33を形成する。
このような蒸着源93の位置は、反射層31及び第2反射抑制層32を形成する場合の蒸着源93の位置に比べて、延長面1A2に近く、また、正面1A1の中央から鉛直方向の寸法も大きいため、正面1A1の中央と蒸着源93とを結ぶ直線と、当該中央における法線との交差角θ3(図12参照)は、前述の交差角θ1(図8参照)及び交差角θ2(図10参照)に比べて大きくなる。すなわち、各交差角は、θ3>θ1>θ2の関係となる。この交差角が大きいほど、各レンズ要素2において蒸着材料が付着する領域が狭くなるとともに、当該領域の中心が、レンズ要素2における蒸着源93とは反対側にずれる。
また、基材1Aは、上下が反転された状態で支持されている。
【0057】
このため、第1反射抑制材は、各レンズ要素2の凹曲面において基準点SP側(蒸着源93とは反対側)の端縁近傍の領域を中心として付着され、当該領域に第1反射抑制層33が形成される。このため、基材1Aの上下が反転された状態で蒸着源93から遠い位置のレンズ要素2Aでは、図7(C)に示すように、基準点SP側で、かつ、第2反射抑制層32より狭い範囲に第1反射抑制層33が形成される。また、蒸着源93に近い位置のレンズ要素2B(基準点SPから遠いレンズ要素2B)においては、図4に示したように、第2凹部22における基準点SP側で、レンズ要素2Aより広い範囲ではあるが、第2反射抑制層32より狭い範囲に第1反射抑制層33が形成される。
【0058】
この際、前述のように、A方向に隣り合うレンズ要素2Aにより挟まれる稜線部分にも、第1反射抑制層33が形成される。同様に、A方向に隣り合うレンズ要素2Bにおいて、A方向基端側に位置するレンズ要素2Bの第1凹部21と、A方向先端側に位置するレンズ要素2Bの第2凹部22とにより挟まれる稜線部分にも、第1反射抑制層33が形成される。このため、当該稜線部分に入射された光は、第1反射抑制層33により吸収され、前述のように、コントラストの低下が抑制される。
【0059】
以上説明した本実施形態に係るスクリーン1及び当該スクリーン1の製造方法によれば、以下の効果がある。
反射層形成工程にて、出射位置PP側から反射材を正面1A1に蒸着させることにより、レンズ要素2における出射位置PP側とは反対側の領域に反射層31が形成される。また、第1反射抑制層形成工程にて、出射位置PP側とは反対側から第1反射抑制材を蒸着させることにより、レンズ要素2における出射位置PP側の領域に第1反射抑制層33が形成される。
ここで、スクリーン1の正面側下方に設定された出射位置PPから画像を投射すると、当該画像を形成する光は、レンズ要素2における上方側の領域(出射位置PPから離れた側の領域)を中心として入射される。この領域に反射層31が形成されていることで、当該光を観察位置VPに適切に反射させることができる。
一方、天井灯等の外光は、レンズ要素2における下方側の領域(出射位置PP側の領域)を中心として入射される。この領域に第1反射抑制層33が形成されていることで、外光が観察位置VPに反射されて、表示画像のコントラストが低下することを抑制できる。
【0060】
また、出射位置PP側とは反対側から第1反射抑制材を蒸着させることにより、反射層31が形成されたレンズ要素2の稜線部分にも第1反射抑制層33が形成される。このため、当該稜線部分に外光が入射される場合でも、当該外光を第1反射抑制層33により吸収できる。従って、外光の反射を抑制でき、表示画像のコントラスト低下をより確実に抑制できる。
【0061】
ここで、反射層形成工程にて、出射位置PP側に蒸着源93を配置して、当該蒸着源93から反射材をレンズ要素2に蒸着させると、当該レンズ要素2における蒸着源93側の領域(すなわち、出射位置PP側の領域)に反射材による凹凸が形成される場合がある。このような現象は、セルフシャドーイングと呼ばれる現象であり、蒸着源93に近いレンズ要素2において生じやすいため、本実施形態では、出射位置PP側のレンズ要素2にセルフシャドーイングが生じやすい。このような凹凸がレンズ要素2内に形成された入射面に白色光が入射され、当該入射面にて反射されると、反射光からは黄色い色味が認識される。このため、出射位置PPから画像を形成する光を当該入射面に投射した場合、表示画像における下側の領域(出射位置PPに近い領域)の色味が変化して、当該表示画像の品質が劣化する。
【0062】
これに対し、本実施形態では、反射層形成工程の後、出射位置PPとは反対側から第1反射抑制材を蒸着させる第1反射抑制層形成工程を実施する。これにより、上記凹凸が形成されやすい領域を第1反射抑制材で覆うように、第1反射抑制層33を形成できる。従って、反射光を黄変させる表示画像の品質の低下を確実に抑制できる。
【0063】
また、前述のように、正面1A1の中央における法線(詳しくは、正面1A1の凹凸を平均化した仮想平面の中央における法線)と、当該正面1A1の中央及び蒸着源93を結ぶ直線との交差角が小さいと、蒸着材料は、各レンズ要素2における蒸着源93に対向する部位を中心として広い範囲に付着する。逆に、当該交差角が大きいと、蒸着材料は、各レンズ要素2における蒸着源93に対向する部位を中心として狭い範囲に付着する。
そして、本実施形態では、第1反射抑制層形成工程での当該交差角を、反射層形成工程での当該交差角より大きく設定している。
【0064】
これによれば、反射層形成工程により、基準点SPに近いレンズ要素2Aでは、底部近傍を中心とする広い範囲に反射層31が形成され、当該基準点SPから遠いレンズ要素2Bでは、第1凹部21における基準点SPから離れた端部近傍を中心とする狭い範囲に反射層31が形成される。
一方、第1反射抑制層形成工程では、基準点SPから遠いレンズ要素2B(蒸着源93に近いレンズ要素2B)では、第2凹部22における基準点SP側(蒸着源93側とは反対側)の端部を中心とする広い範囲に、第1反射抑制層33が形成される。この際、第1凹部21の有効反射領域ARは、蒸着源93に近い端部近傍に位置するため、当該第1反射抑制層33により有効反射領域ARが覆われにくい。これにより、基準点SPから遠いレンズ要素2Bにおいて、有効反射領域AR以外の領域に、第1反射抑制層33を好適に形成できる。
【0065】
他方、基準点SPに近いレンズ要素2A(蒸着源93から遠いレンズ要素2A)では、基準点SP側(蒸着源93側とは反対側)の端部近傍を中心として狭い範囲に、第1反射抑制層33が形成される。このレンズ要素2Aにおける有効反射領域ARは、当該レンズ要素2Bの有効反射領域ARより基準点SP寄りに位置するが、狭い範囲に第1反射抑制層33が形成されることにより、有効反射領域ARが当該第1反射抑制層33により覆われにくい。これにより、基準点SPに近いレンズ要素2Aにおいても、有効反射領域AR以外の領域に、第1反射抑制層33を好適に形成できる。
従って、表示画像の視野角を確保できるとともに、表示画像の画質及びコントラストの向上を確実に図ることができる。
【0066】
第2反射抑制層形成工程では、正面1A1の中心に対して出射位置PP側とは反対側から第2反射抑制材を蒸着させる。これによれば、各レンズ要素2において反射層31及び第1反射抑制層33が形成されない領域に第2反射抑制層32を形成できる。このような第2反射抑制層32により、不要な光がレンズ要素2における素地により反射される光量を低減できる。従って、表示画像のコントラストの低下を抑制できる。
【0067】
また、第2反射抑制層形成工程における交差角θ2は、反射層形成工程における交差角θ1に比べて小さい。
このため、前述のように、レンズ要素2において、出射位置PP側の領域に第1反射抑制層33を形成でき、当該出射位置PP側とは反対側の領域に反射層31を形成でき、これら第1反射抑制層33及び反射層31の間に、第2反射抑制層32を形成できる。
そして、このようなスクリーン1の正面11が鉛直面に沿うように配置することで、当該スクリーン1の上方から入射される外光等の光の反射を第1反射抑制層33により抑制でき、当該正面11の法線に沿って入射される不要な光の反射を第1反射抑制層33及び第2反射抑制層32により抑制でき、更に、スクリーン1の下方から入射される光を反射層31により好適に反射させることができる。従って、表示画像の劣化を抑制でき、当該表示画像のコントラストをより一層向上できる。
【0068】
また、基準点SP及び出射位置PPから遠い位置のレンズ要素2Bは、第1凹部21及び第2凹部22を有するので、当該第2凹部22により、A方向先端側に隣接する第1凹部21の有効反射領域ARに入射される光の光路を確保できる。従って、観察位置VPに反射される光量を多くすることができ、表示画像の輝度を高めることができる。
【0069】
〔スクリーンの他の製造方法〕
本実施形態では、反射材としてアルミニウムや銀を採用し、第2反射抑制材として酸化ケイ素を採用し、第1反射抑制材として酸化クロムを採用した。しかしながら、第2反射抑制層32を形成する第2反射抑制材として、光を透過する酸化ケイ素に代えて、光を吸収する酸化クロムを採用してもよい。この場合、第2反射抑制層形成工程、反射層形成工程、第1反射抑制層形成工程の順で、各層31〜33を形成する。
【0070】
このようにして各層31〜33が形成されたスクリーン1によれば、光を吸収する第2反射抑制層32が形成された後に反射層31が形成されるので、反射層31(特に有効反射領域AR)が第2反射抑制層32により覆われることを防止できる。また、レンズ要素2において、反射層31の形成領域以外の領域に、光を吸収する第1反射抑制層33及び第2反射抑制層32が形成されるので、スクリーンの素地によって光が反射されることを確実に防止できる。従って、有効反射領域ARを確実に確保でき、表示画像のコントラスト低下を確実に抑制できる。
なお、第1反射抑制材及び第2反射抑制材として、酸化ケイ素を採用してもよい。
【0071】
〔実施形態の変形〕
本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、反射層形成工程、第2反射抑制層形成工程及び第1反射抑制層形成工程を順に経ることで、基材1Aに各層31〜33を形成し、これによりスクリーン1を製造するとした。しかしながら、本発明はこれに限らない。すなわち、反射層形成工程の前に第2反射抑制層形成工程を実施してもよい。この場合でも、前述のスクリーン1と同様の効果を有するスクリーンを製造できる。更に、第1反射抑制層形成工程を、反射層形成工程の前に実施してもよい。このようにして製造されたスクリーンにおいても、正面が鉛直面に沿うように配置した際に、上方から入射される外光が正面側に反射されることを、ある程度抑制できる。
【0072】
前記実施形態では、スクリーン1の正面11に形成されるレンズ要素2は、当該正面11の延長面12上に設定された基準点SPを中心とする円弧状の基準線SLに沿って配列されるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、レンズ要素は、互いに平行な直線状の基準線に沿って配列されていてもよく、また、ランダムに配列されていてもよい。更に、基準線SLは、完全な円弧でなくてもよく、円弧と、直線又は曲線との組み合わせであってもよく、基準点SPは、正面11上に設定されていてもよい。すなわち、レンズ要素の配列パターンは、適宜設定可能である。
【0073】
前記実施形態では、反射材としてアルミニウムを採用し、第1反射抑制材及び第2反射抑制材として、酸化クロム及び酸化ケイ素を採用したが、本発明はこれに限らない。すなわち、入射された光を反射させる反射層を形成可能な性質を有するものであれば、反射材として採用可能であり、また、スクリーンの素地による光の反射を抑制可能な性質を有するものであれば、第1反射抑制材及び第2反射抑制材として採用可能である。例えば、前述のように、酸化クロムを第2反射抑制材として採用してもよく、酸化ケイ素を第1反射抑制材として採用してもよい。
また、前記実施形態では、スクリーン1は、黒色のポリ塩化ビニルにより形成されているとしたが、本発明はこれに限らず、他の色を有する樹脂や他の樹脂等により形成されていてもよい。
【0074】
前記実施形態では、反射層形成工程、第2反射抑制層形成工程及び第1反射抑制層形成工程にて、蒸着源93を前述の位置P1〜P3に位置させるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、これら各工程での蒸着源93の位置は、各層31〜33が形成されるスクリーン(基材)の寸法等に応じて適宜設定可能である。換言すると、前述の交差角θ1〜θ3は、前述の関係を有する角度に限らず、適宜設定可能である。
【0075】
前記実施形態では、第2反射抑制層32は、反射層31の有効反射領域ARを可能な限り覆わないように形成されるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、酸化ケイ素のように透光性を有する材料により第2反射抑制層が形成されるのであれば、有効反射領域ARを覆うように形成されていてもよい。この場合、有効反射領域ARに入射されて観察位置VPに向けて反射される光の光量が減じられるため、表示画像の輝度が低下することとなるが、前述のように、表示画像の劣化を抑制できるスクリーンを構成できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、投射された画像を表示するスクリーンに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0077】
1…スクリーン、2(2A,2B)…レンズ要素、11…正面(入射面)、21…第1凹部、22…第2凹部、31…反射層、32…第2反射抑制層、33…第1反射抑制層、1A1…正面(入射面)、AR…有効反射領域、PP…出射位置、SL…基準線、SP…基準点、VP…観察位置、θ1〜θ3…交差角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射される光に応じた画像を表示するスクリーンの製造方法であって、
それぞれ前記光が入射される凹曲面状のレンズ要素が複数配列された入射面に対して、当該光の出射位置側から反射材を斜方蒸着させて、入射される光を反射させる反射層を前記レンズ要素に形成する反射層形成工程と、
前記入射面の中心に対して前記出射位置側とは反対側から、第1反射抑制材を前記入射面に斜方蒸着させて、入射される光の反射を抑制する第1反射抑制層を前記レンズ要素に形成する第1反射抑制層形成工程と、を有する
ことを特徴とするスクリーン製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリーンの製造方法において、
前記第1反射抑制層形成工程では、前記入射面の中央における法線と、当該入射面の中央、及び、蒸着材料を蒸発させる蒸着源を結ぶ直線との交差角が、前記反射層形成工程における当該交差角に比べて大きい
ことを特徴とするスクリーンの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスクリーンの製造方法において、
前記反射層形成工程より前の段階と、前記反射層形成工程の後で、かつ、前記第1反射抑制層形成工程の前の段階とのいずれかの段階で、前記入射面の中心に対して前記出射位置側とは反対側から、第2反射抑制材を斜方蒸着させて、入射される光の反射を抑制する第2反射抑制層を前記入射面に形成する第2反射抑制層形成工程を有する
ことを特徴とするスクリーンの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のスクリーンの製造方法において、
前記第2反射抑制層形成工程では、前記入射面の中央における法線と、当該入射面の中央、及び、蒸着材料を蒸発させる蒸着源を結ぶ直線との交差角が、前記反射層形成工程における当該交差角に比べて小さい
ことを特徴とするスクリーンの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のスクリーンの製造方法において、
前記第1反射抑制材及び前記第2反射抑制材は、光を吸収する性質を有し、
前記反射層形成工程の前の段階で、前記第2反射抑制層形成工程を実施し、
前記反射層形成工程の後の段階で、前記第1反射抑制層形成工程を実施する
ことを特徴とするスクリーンの製造方法。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載のスクリーンの製造方法において、
前記第1反射抑制材は、光を吸収する性質を有し、
前記第2反射抑制材は、光を透過する性質を有する
ことを特徴とするスクリーンの製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のスクリーンの製造方法において、
それぞれの前記レンズ要素は、前記入射面及び当該入射面の延長面のいずれかの面上に設定された基準点を中心とする略円弧状の複数の基準線に沿って配列され、
それぞれの前記レンズ要素のうち、前記基準点から所定寸法離れた位置に形成されたレンズ要素は、
前記反射層が形成された領域内に、入射された光を所定の観察位置に反射させる有効反射領域を有する凹曲面状の第1凹部と、
前記第1凹部の前記基準点側に当該第1凹部と隣接して形成され、前記有効反射領域内に入射される前記光の光路を確保する凹曲面状の第2凹部と、を有する
ことを特徴とするスクリーンの製造方法。
【請求項8】
入射される画像を表示するスクリーンであって、
前記画像が入射される入射面を有し、
前記入射面は、それぞれ凹曲面状を有する複数のレンズ要素を有し、
前記レンズ要素は、
入射される光を反射させる反射層と、
入射される光の反射を抑制する第1反射抑制層と、
入射される光の反射を抑制する第2反射抑制層とを有し、
前記反射層、前記第1反射抑制層及び前記第2反射抑制層は、入射される光の出射位置から前記レンズ要素に向かう方向に、前記第1反射抑制層、前記第2反射抑制層及び前記反射層の順に、位置を違えて形成されている
ことを特徴とするスクリーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−11714(P2013−11714A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143843(P2011−143843)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】