説明

スクリーン紗用ポリエステルモノフィラメント

【課題】 製織時にスカムや削れ発生のない、高精度印刷可能な寸法安定性に優れたスクリーン紗を得ることができるスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントを提供する。
【解決手段】 全粒子数の60%以上が一次粒子径0.1〜0.6μmであり、かつ一次粒子径1.0μm以上の粒子が全粒子数の10%以下である粒度分布を持つ酸化チタンを0.3〜0.8重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなり、強度5.6〜6.2cN/dtex、伸度25〜35%であることを特徴とするスクリーン紗用モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い印刷精度および寸法安定性を有しつつ、製織時の削れやスカムの発生がない製織性に優れたスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷用のスクリーン紗は、強度や寸法安定性、またコストの点から、現在ではポリエステルまたはナイロンからなるメッシュ織物が多く使用されている。特にポリエステル製メッシュ織物は寸法安定性に優れ、高度の精密さを必要とするプリント基板の印刷に好適であるため、多用されている。しかしながら、近年の電子情報材料への印刷に際しては、更に高レベルな印刷精度が要求されており、この要求に応えるべく益々高強度、高弾性のスクリーン紗としていく必要がある。ポリエステルモノフィラメントを高強度、高弾性率化するには、原糸の製造工程で、高粘度のポリマーを高倍率で延伸する手法が古くから行われているが、スクリーン紗とする際に極めて高密度で製織するため、筬をはじめとする織機の各部位で強い擦過をうけることになり、高倍率で延伸した高配向の原糸であるほど、繊維表面が削り節状に削り取られ易く、これが紗に織り込まれ残った場合、欠点に直結する問題がある。また、削り取られたスカムによって織機が汚染されてしまうため、定期的に清掃する必要があり、スカム発生が多いほど生産性が低下する。
【0003】
かかる欠点を解決する手段として、原糸の強伸度を規定し、削れやスカムを回避する手段が多く提案されている(特許文献1等)。しかしながら、いずれも原糸のモジュラスを低下させることが前提であり、必要とされる高強度、高弾性のスクリーン紗を得ることが困難である。一方で、ポリエステル中の酸化チタンに注目し、平均粒径0.25〜0.55μmの酸化チタンを0.4〜0.6重量%含有したポリエステルを使用した特定の強度、乾熱収縮率を有するモノフィラメントが提案されている(特許文献2)。確かに平均粒径を規定することで、製織時のスカム発生には一定の効果が見られるが、製織時の削れやスカム発生には、平均粒径もさることながら、酸化チタンの粒径分布、特に特定粒径範囲の存在割合および一定値以上の粗大粒子の存在割合が大きく影響しており、本発明の酸化チタンとしても、特に高強度、高弾性率とした場合、削れやスカム発生を回避できない場合がある。
【特許文献1】特開昭55−16948号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平2−277818号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の欠点を改良し、モノフィラメント製織時に削れやスカム発生が少なく、かつ高い印刷精度と寸法安定性性を有したモノフィラメントを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記発明の目的は、以下によって達成することができる。すなわち、全粒子数の60%以上が一次粒子径0.1〜0.6μmであり、かつ一次粒子径1.0μm以上の粒子が全粒子数の10%以下である粒度分布を持つ酸化チタンを0.3〜0.8重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなり、強度5.6〜6.2cN/dtex、伸度25〜35%であることを特徴とするスクリーン紗用モノフィラメントである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリエステルモノフィラメントとすることで、高い印刷精度を有し、製織時の削れやスカム発生が少ないスクリーン紗用モノフィラメントを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のスクリーン紗用モノフィラメントは、耐候性、寸法安定性、機械的特性の観点から、ポリエチレンテレフタレートからなる必要がある。目的を損なわない範囲であれば、少量の共重合成分を含有しても良い。また、本発明のモノフィラメントの固有粘度は得られるモノフィラメントの強度および製糸安定性から0.68〜0.77とすることが好ましい。
【0008】
また、本発明者らは、モノフィラメントの製織時の削れやスカム発生について鋭意検討した結果、モノフィラメントの製織性向上には、モノフィラメントを構成するポリエチレンテレフタレート中の酸化チタンの含有量のみならず、酸化チタンの一次粒子径の分布状態が大きな影響を及ぼすことを見出した。すなわち、本発明のスクリーン紗用モノフィラメントは、酸化チタンを0.3〜0.8重量%含有していることが必要であり、かつ、全粒子数の60%以上が一次粒子径0.1〜0.6μmであり、かつ一次粒子径1.0μm以上の粒子が全粒子数の10%以下である粒度分布を持つことが必要である。
【0009】
酸化チタンの含有量は0.3重量%以上とすることで、走行する糸と金属の摩擦を十分に低減することが可能となり、0.8重量%以下とすることで、目的の原糸強度を得ることが可能となり、また製織時に接触する金属と原糸との擦過を抑制することができる。好ましくは0.4〜0.6重量%である。
【0010】
さらに、全酸化チタンの粒子数の60%以上が、一次粒子径が0.1〜0.6μmであり、かつ一次粒子径1.0μm以上の粒子が全粒子数の10%以下であることが必要である。全酸化チタン粒子数の30%以上が0.2〜0.4μm、1.0μm以上が全酸化チタン粒子数の8%以下であることがさらに好ましい。本発明者らの検討によれば、製織時の削れやスカムは繊維表面中に存在する粗大粒子部を起点として発生し、たとえ平均一次粒子径を特定範囲で規定しても、粒径分布がブロードであったり、1.0μm以上の粗大粒子が一定の割合で混入したりしていた場合、削れ発生を回避することはできない。このように、モノフィラメントに含有している酸化チタンの一次粒子径の分布を特定の範囲に制御することで、製織時の、経糸の筬等との擦過を極力低減することが可能となる。また、酸化チタンの一次粒子径が、0.1μmより小さいものが多数存在している場合は、モノフィラメントとした際に、繊維表面の摩擦が高くなり、さらに繊維自体が削られやすくなり粉状のスカム発生が増加する問題がある。
【0011】
酸化チタンの粒径分布を本発明の範囲に制御する方法は特に限定するものではないが、まず添加する酸化チタンは、トーマ氏分散粗粒測定法で5μm以上の粗大粒子が30(個/5.5×10―4cm)以下のものを使用することがあげられる。30を超えると、この後の製造工程で酸化チタンを分級処理しても1μm以上の粗大粒子を10%以下とすることが困難となる。また、酸化チタンの分級方法としては、酸化チタンをエチレングリコールのスラリーとした後、スーパーデカンター等の設備により粗大粒子を遠心沈降させ分離する方法が好ましい。分級させるスラリーは酸化チタン濃度が低い方が安定的に分級可能であり、酸化チタン量がスラリー100cc中に20g以下の濃度であることが好ましい。重合工程を経て、ポリマーをペレット化、さらに繊維化する際には、酸化チタンの2次凝集を抑制することが重要であり、ポリマーが溶融状態の時間を極力短くすることが好ましい。また、本発明の目的を損なわない範囲であれば、酸化チタン以外でもシリカ、アルミナ等の無機粒子や有機顔料のほか抗酸化剤、着色防止剤、帯電防止剤、耐光剤等を少量含有していてもよい。
【0012】
本発明の範囲であれば、モノフィラメントの形態は特に規定するものではなく、2成分のポリエチレンテレフタレートからなる複合モノフィラメント、例えば芯鞘複合、バイメタル複合でもよいし、単成分のポリエチレンテレフタレートからなるモノフィラメントでもよいが、製糸の容易さと製造コストを考慮すると、単成分のポリエチレンテレフタレートからなることが好ましい。
【0013】
また、本発明のスクリーン紗用モノフィラメントは、強度が強度5.6〜6.2cN/dtex、伸度25〜35%であることが必要である。ここでいう強度および伸度とは、引張試験での破断点における強度および伸度をさす。破断強度を5.6cN/dtex以上とすることで、高強度・高弾性のスクリーン紗とすることが可能で、要求される高い印刷精度に対応することが可能となる。また、6.2cN/dtex以下とすることで、原糸配向が高すぎることで発生する、製織時の削り節状の削れを抑制することが可能となる。好ましい強度の範囲は、5.7〜6.0cN/dtexである。また、伸度を25%以上とすることで、製織をはじめとする高次工程での通過性が向上し、35%以下とすることで、スクリーン紗とした場合に、紗伸び等発生しない優れた寸法安定性を得ることができる。好ましい破断伸度の範囲は27〜33%である。
【実施例】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。尚、実施例中の評価は以下の評価方法に従った。
【0015】
A.固有粘度
オルトクロロフェノール10mlに対しモノフィラメント0.10gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0016】
B.酸化チタン一次粒子径分布
得られたモノフィラメントをオルトクロロフェノールに溶解させ溶液とし、溶液の吸光度が1.0〜0.5の範囲となるように濃度を調整し、該溶液を、HORIBA製CAPA−700を用い、遠心沈降させながら粒径分布を測定した。N=10で測定し、0.1〜0.6μmおよび1.0μm以上の一次粒子径の存在割合(%)の平均値を求めた。
【0017】
C.強伸度
東洋ボールドウィン社製テンシロン引張り試験機を用いて試長20cm、引張り速度20cm/分の条件で、応力−歪み曲線から破断点での値を求めた。
【0018】
D.トーマ氏分散粗粒数測定
酸化チタン粉末15.9gをエチレングリコール100mlに入れ、振盪機にて30分間振盪し、分散させたものを、注射器で2滴トーマ氏血球盤に滴下し、カバーガラスをのせ、30分静置し、5μm以上の粗粒の数を読みとった。測定はN=5で行い、平均値を求めた。
【0019】
E.製糸性
後述する実施例の方法でモノフィラメントを得るに当たり、チップ原料1000kgから得られたモノフィラメントの収率が100%以下95%以上を○○、95%未満〜80%以上を○、80%未満〜70%以上を△、70%未満を×とし、○○および○を合格とした。
【0020】
F.製織性
得られたモノフィラメントを常法に従いスルーザー織機にて300メッシュのスクリーン紗とし、得られたスクリーン紗の1mあたりの削れ欠点発生個数によって評価し、0.05個以下を合格とした。
【0021】
G.総合評価
各評価項目について総合的に判断し、○○、○、△、×の4段階で評価し、○○および○を合格とした。
【0022】
実施例1
トーマ氏分散粗粒数が28個の酸化チタン粉末をエチレングリコールに分散させ、チタン濃度20g/100ccのスラリーとし、該スラリーをスーパーデカンターにて5.7L/分の流量で分級処理し、最終的に、酸化チタン濃度15.9g/100ccのエチレングリコールスラリーとした。該スラリーを用いて、常法に従い重縮合反応を行い、固有粘度0.78、酸化チタン含有量0.5重量%のポリエチレンテレフタレートペレットを得た。次いで、該ペレットをプレッシャーメルターで300℃で溶融・押出し、ポリマー通過時間15分で紡糸温度300℃で紡糸パックに導き、800m/分の速度で一旦未延伸糸を巻き取った。次いで、未延伸糸を、表面温度90℃の第1ホットロールと表面温度130℃の第2ホットロール間で4.4倍で延伸した後、表面速度が第2ホットロールと同速度の冷ロールを介してからスピンドルに巻き取り延伸糸とした。得られた延伸糸は固有粘度0.73、繊度13デシテックス、強度5.9cN/dtex、伸度30%であり、含有している酸化チタンは、全粒子数の68%が、一次粒子径0.1〜0.6μmの範囲であり、一次粒子径1.0μm以上の粗粒は7%であった。製糸性は問題なく、収率は96%であった。
【0023】
このモノフィラメントを経および緯糸に用い、常法によって整経し、スルーザー織機にて製織し、300メッシュのスクリーン紗を得た。この際、工程通過性は極めて良好であり、特に問題は見られなかった。得られた織物を検査した結果、削れ欠点箇所は0.028個/mと良好な結果が得られた。
【0024】
実施例2〜3、比較例1〜2
実施例1と同様の酸化チタンエチレングリコールスラリーを使用し、ポリエチレンテレフタレートの重合度を変更した以外は、実施例1と全く同一の方法で、表1および表2にまとめた実施例2、3および比較例1、2の結果を得た。比較例2では製織の際の削れ発生が非常に多いものとなった。
【0025】
実施例4〜5、比較例3〜4
実施例1と同様の酸化チタンエチレングリコールスラリーを使用し、ポリエチレンテレフタレート中の酸化チタン添加量を変更した以外は、実施例1と全く同一の方法で、実施例4、5および比較例3、4の結果を得た。結果を表1および表2にまとめる。
【0026】
実施例6、比較例5
実施例6では、スーパーデカンターで処理する酸化チタンスラリーの流量を5.8L/分、比較例5では、6.1L/分とした以外は実施例1と同様の方法で実施し、表1および表2にまとめた実施例5および比較例5の結果を得た。比較例5では、粒径分布が実施例1と比較してブロードになっており、製織時の削れ発生も比較的多いものであった。
【0027】
実施例7、比較例6
実施例7では、トーマ氏分散粗粒数が30の酸化チタン、比較例6ではトーマ氏分散粗粒数が45の酸化チタンを使用し、それ以外は実施例1と同様の方法で実施し、表1および表2にまとめた実施例7および比較例6の結果を得た。比較例6では製織時の削れが多いものであった。
【0028】
実施例8
実施例1と同様の酸化チタンスラリーを使用し、酸化チタン量0.5重量%、固有粘度0.51および0.78のポリエチレンテレフタレートペレットをそれぞれ得、これらを別々のプレッシャーメルターで300℃で溶融・押出しし、別々に300℃で紡糸パックに導いて芯成分に高粘度、鞘成分に低粘度ポリマー、芯鞘比=8/2となるように芯鞘型の紡糸口金で合流させ、800m/分の速度で芯鞘型複合モノフィラメントの未延伸糸を一旦巻き取った。それ以外は実施例1と同様の方法で実施し、表1に記載の実施例8の結果を得た。若干製糸性に劣るものの、製織時の削れ性は良好なものであった。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の方法により得られたスクリーン紗用モノフィラメントおよびスクリーン紗は、高強度、高弾性であり、高精度スクリーン印刷に好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全粒子数の60%以上が一次粒子径0.1〜0.6μmであり、かつ一次粒子径1.0μm以上の粒子が全粒子数の10%以下である粒度分布を持つ酸化チタンを0.3〜0.8重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなり、強度5.6〜6.2cN/dtex、伸度25〜35%であることを特徴とするスクリーン紗用モノフィラメント。
【請求項2】
ポリエチレンテレフタレート単成分からなる請求項1記載のスクリーン紗用モノフィラメント。

【公開番号】特開2009−228175(P2009−228175A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77546(P2008−77546)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】