説明

スクロール圧縮機

【課題】冷却用流体を固定スクロールおよび旋回スクロールへ供給して被圧縮ガスを冷却するスクロール圧縮機において、被圧縮ガスに対する冷却効果を高めることにある。
【解決手段】スクロール圧縮機(171)には、油溜め部(130)に冷却用流体として貯留される冷凍機油を固定スクロール(30)の固定側通路(40)と旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)とへ供給する冷却用流体回路(180)が設けられる。固定側通路(40)および旋回側通路(60)は、冷凍機油が流通するラップ内通路(41,61)と鏡板内通路(42,62)を有する。そして、固定側通路(40)および旋回側通路(60)は、ラップ内通路(41,61)を流通する冷凍機油の一部がラップ(33,53)の先端から圧縮室(23)へ漏れ出るための漏出口(48,67)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールと旋回スクロールを流体によって冷却するスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、固定スクロールと旋回スクロールを備え、固定スクロールと旋回スクロールによって形成された圧縮室にガスを吸入して圧縮するスクロール圧縮機が知られている。特許文献1には、固定スクロールと旋回スクロールの内部に冷媒の通路を形成し、この通路へ冷媒を供給することによって固定スクロールと旋回スクロールの冷却を行うスクロール圧縮機が開示されている。このスクロール圧縮機は、固定スクロールと旋回スクロールを冷却することによって、圧縮室内で圧縮される過程におけるガスの温度上昇を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−254266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1のスクロール圧縮機では、冷却用流体である冷媒が固定スクロールや旋回スクロールの部材内部に形成された通路へ供給されるだけなので、固定スクロールや旋回スクロールに対する冷却効果が不十分という問題があった。つまり、固定スクロール等へ供給された冷媒はそのスクロール部材を介して圧縮ガスから吸熱するため、即ち圧縮ガスが間接的に冷却されるため、冷却効果としては不十分なものだった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷却用流体を固定スクロールおよび旋回スクロールへ供給して被圧縮ガスを冷却するスクロール圧縮機において、被圧縮ガスに対する冷却効果を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、互いに噛合して圧縮室(23)を形成する固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)が設けられ、被圧縮ガスを上記圧縮室(23)に吸入して圧縮する圧縮機構(20)を備えたスクロール圧縮機を対象とする。そして、上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)のそれぞれには、冷却用流体を流通させると共にその流通する冷却用流体の一部を上記圧縮室(23)へ漏出させるための冷却用通路(40,60)が形成されている。一方、本発明は、上記冷却用流体の貯留部(130)を有し、該貯留部(130)の冷却用流体を上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)へ供給する冷却用流体回路(180)を備えているものである。
【0007】
上記第1の発明では、貯留部(130)の冷却用流体が固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)へ供給される。冷却用通路(40,60)では、供給された冷却用流体が流通する一方、その流通する冷却用流体の一部が圧縮室(23)へ漏出する。冷却用流体が冷却用通路(40,60)を流通することで、固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)が冷却される。そして、この固定スクロール(30)等に対する冷却により、圧縮室(23)の被圧縮ガスが冷却される。つまり、冷却用通路(40,60)を流通する冷却用流体によって圧縮室(23)の被圧縮ガスが間接的に冷却される(間接冷却)。一方、冷却用通路(40,60)から圧縮室(23)へ漏出した冷却用流体は、被圧縮ガスから直接に吸熱する。つまり、漏出した冷却用流体によって圧縮室(23)の被圧縮ガスが直接的に冷却される(直接冷却)。この直接冷却は、上述した間接冷却に比べて、冷却効果が高い。このように、本発明では、固定スクロール(30)等へ供給された冷却用流体の一部は被圧縮ガスを直接冷却し残りは間接冷却するのに利用されるため、全ての冷却用流体を間接冷却に利用する場合に比べて、被圧縮ガスに対する冷却効果が高められる。また、固定スクロール(30)に供給された冷却用流体の全てではなく一部だけ圧縮室(23)へ漏出するだけであるため、圧縮機構(20)に与える影響は殆どない。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記圧縮機構(20)が収容される容器状のケーシング(11)を備え、上記ケーシング(11)の内部空間には、上記圧縮機構(20)を潤滑するための潤滑油が貯留される油溜め部(130)が上記貯留部として設けられている。そして、上記冷却用流体回路(180)は、上記油溜め部(130)の潤滑油を冷却用流体として上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)へ供給する一方、該冷却用通路(40,60)へ供給される潤滑油を冷却する上流側冷却器(181)を有しているものである。
【0009】
上記第2の発明では、ケーシング(11)内の油溜め部(130)に貯留される潤滑油が冷却用流体として固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)へ供給される。油溜め部(130)の潤滑油は、上流側冷却器(181)で冷却された後、冷却用通路(40,60)へ供給される。
【0010】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)のそれぞれは、互いに噛合して上記圧縮室(23)を形成する渦巻き状のラップ(33,53)を備えている。そして、上記冷却用通路(40,60)は、該冷却用通路(40,60)を流通する潤滑油の一部を上記ラップ(33,53)の先端から上記圧縮室(23)へ漏出させるものである。
【0011】
上記第3の発明では、冷却用通路(40,60)へ供給された潤滑油の一部がラップ(33,53)の先端から圧縮室(23)へ漏出する。ここで、ラップ(33,53)は、互いの固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の鏡板部に摺接している。ただし、実質的には、ラップ(33,53)と鏡板部との間には摺動抵抗を緩和するため微小隙間が形成されている。ラップ(33,53)の先端から漏出した潤滑油は、ラップ(33,53)と鏡板部との微小隙間に滞留する。この潤滑油の滞留により、微小隙間がシールされる。そして、この滞留する潤滑油の量がある程度になると、微小隙間から潤滑油が圧縮室(23)内へ流出する。この流出した潤滑油によって被圧縮ガスが直接冷却される。
【0012】
第4の発明は、上記第2または第3の発明において、上記ケーシング(11)には、外部から被圧縮ガスを圧縮機構(20)へ直接導入するための吸入管(12)が設けられている。そして、上記冷却用流体回路(180)は、上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)を流通した潤滑油を上記吸入管(12)へ流すためのインジェクション通路(185)と、該インジェクション通路(185)に接続されて上記吸入管(12)へ流れる潤滑油を冷却する下流側冷却器(183)とを有しているものである。
【0013】
上記第4の発明では、冷却用流体としての潤滑油が、冷却用通路(40,60)を流通した後にインジェクション通路(185)へ流れる。インジェクション通路(185)へ流れた潤滑油は、下流側冷却器(183)において冷却された後、吸入管(12)へ流れて被圧縮ガスと共に圧縮機構(20)へ吸入される。つまり、本発明では、下流側冷却器(183)において冷却された潤滑油が低圧の被圧縮ガスと共に圧縮機構(20)の圧縮室(23)へ吸い込まれる。この吸い込まれた潤滑油は、圧縮室(23)において被圧縮ガスから直接吸熱する。
【0014】
第5の発明は、上記第2または第3の発明において、上記ケーシング(11)には、上記旋回スクロール(50)に係合し該旋回スクロール(50)を駆動する駆動軸(100)が収容され、上記駆動軸(100)の内部には、上記上流側冷却器(181)によって冷却された潤滑油を流通させるための軸内通路(105)が形成されている。そして、上記冷却用流体回路(180)は、上記軸内通路(105)を流通した潤滑油を上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)へ供給するものである。
【0015】
上記第5の発明では、旋回スクロール(50)に係合する駆動軸(100)の内部に形成された軸内通路(105)が冷却用流体回路(180)の一部を構成する。油溜め部(130)の潤滑油は、上流側冷却器(181)において冷却された後、軸内通路(105)を通って冷却用通路(40,60)へ供給される。
【0016】
第6の発明は、上記第4の発明において、上記圧縮機構(20)は、圧縮した被圧縮ガスを上記ケーシング(11)の内部空間へ吐出する一方、上記ケーシング(11)には、上記圧縮機構(20)から吐出された被圧縮ガスを外部へ導出するための吐出管(13)が設けられている。そして、上記油溜め部(130)は、上記圧縮機構(20)から吐出された被圧縮ガスが存在する部分に設けられているものである。
【0017】
上記第6の発明では、圧縮機構(20)で圧縮された被圧縮ガスは、圧縮機構(20)からケーシング(11)の内部空間へ吐出され、その後に吐出管(13)を通ってケーシング(11)の外部へ流出してゆく。ケーシング(11)の内部空間では、上記圧縮機構(20)から吐出された被圧縮ガスが存在する部分に潤滑油が貯留されている。ケーシング(11)内に貯留された潤滑油の圧力は、圧縮機構(20)から吐出された被圧縮ガスの圧力と実質的に等しくなっている。冷却用流体回路(180)へは、圧縮機構(20)から吐出された被圧縮ガスと圧力が実質的に等しい潤滑油が冷却用流体として流入する。そして、冷却用通路(40,60)を流通した潤滑油は、最終的には吸入管(12)に流入して低圧の被圧縮ガスへ供給される。
【0018】
つまり、第6の発明の冷却用流体回路(180)において、始端は圧縮機構(20)から吐出された高圧の被圧縮ガスと圧力が実質的に等しいケーシング(11)内の潤滑油に連通し、終端は圧縮機構(20)へ吸入される低圧の被圧縮ガスに連通している。したがって、本発明の冷却用流体回路(180)では、その始端と終端の圧力差によって冷却用流体としての潤滑油が始端から終端へ向かって流れる。
【0019】
第7の発明は、上記第4の発明において、上記冷却用流体回路(180)は、上記インジェクション通路(185)に設けられて該インジェクション通路(185)を流れる潤滑油のエネルギを回収するためのエネルギ回収機構(184)を有しているものである。
【0020】
上記第7の発明では、インジェクション通路(185)を流れる潤滑油のエネルギ(位置エネルギや速度エネルギ等)がエネルギ回収機構(184)において回収される。この回収されたエネルギは、例えば、電力に変換されて圧縮機構(20)を駆動するための電動機等の駆動電力として利用される。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明では、固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)に供給された冷却用流体が流通する一方、その流通する冷却用流体の一部が圧縮室(23)へ漏出するようにした。そのため、冷却用通路(40,60)を流通する冷却用流体によって、圧縮室(23)の被圧縮ガスが間接的に冷却される(間接冷却)。一方、冷却用通路(40,60)から圧縮室(23)へ漏出した冷却用流体によって、被圧縮ガスが直接的に冷却される(直接冷却)。この直接冷却は、上述した間接冷却に比べて、冷却効果が高い。したがって、本発明によれば、冷却用通路(40,60)へ供給された冷却用流体の全部を間接冷却に利用する場合に比べて、圧縮室(23)の被圧縮ガスに対する冷却効果を高めることができる。この結果、圧縮機構(20)において圧縮される被圧縮ガスの温度上昇を確実に抑制することができる。
【0022】
また、本発明では、冷却用通路(40,60)へ供給された冷却用流体の全部ではなく一部だけ圧縮室(23)へ漏出させるため、圧縮機構(20)に与える影響はない。
【0023】
上記第2の発明では、ケーシング(11)内の油溜め部(130)に貯留された潤滑油が、圧縮機構(20)を潤滑するためだけでなく、圧縮室(23)の被圧縮ガスを冷却するための冷却用流体としても利用される。したがって、この発明によれば、圧縮室(23)の被圧縮ガスの冷却を行うことに起因するスクロール圧縮機(171)の構成の複雑化を抑制できる。
【0024】
また、本発明では、油溜め部(130)の潤滑油を冷却用流体として利用しているため、その潤滑油を圧縮室(23)へ漏出させることにより、圧縮機構(20)における摺動部分に対してのシール作用をも期待することができる。
【0025】
上記第3の発明によれば、ラップ(33,53)の先端から潤滑油を圧縮室(23)へ漏出させるようにした。そのため、漏出した潤滑油によって被圧縮ガスを直接的に冷却できるだけでなく、漏出した潤滑油をラップ(33,53)と鏡板部との微小隙間に滞留させてその微小隙間をシールすることができる。また、潤滑油であるため、微小隙間における摺動抵抗をも軽減することができる。これにより、圧縮機構(20)におけるシール性能且つ摺動性能を向上させることができる。
【0026】
また、従来のスクロール圧縮機では、圧縮室のシール性確保のためラップと鏡板との微小隙間の精度を厳しく管理する必要がありそのため高精度な加工が要求されていた。ところが、上述したように本発明によれば、ラップ(33,53)の先端から漏出させた潤滑油によるシール効果が発揮されるため、ラップと鏡板との微小隙間の許容寸法を大きくとることができ、加工精度を軽減することができる。その結果、加工コストを削減することができる。
【0027】
上記第4の発明では、冷却用通路(40,60)から潤滑油を圧縮室(23)へ漏出させるだけでなく、冷却用通路(40,60)を通過した潤滑油を下流側冷却器(183)で冷却してから吸入管(12)へ流すようにした。そのため、冷却用通路(40,60)から漏出した潤滑油による被圧縮ガスの直接冷却と、吸入管(12)へ流した潤滑油による被圧縮ガスの直接冷却の両方を行うことができる。これにより、被圧縮ガスに対する冷却効果を一層高めることができる。
【0028】
上記第5の発明は、上流側冷却器(181)で冷却された潤滑油が、駆動軸(100)の内部に形成された軸内通路(105)を介して冷却用通路(40,60)へ供給されるようにした。したがって、軸内通路(105)を流通する潤滑油の一部を駆動軸(100)の軸受等の潤滑に利用するようにした場合、軸受等の潤滑と圧縮室(23)の被圧縮ガスの冷却との両方を行うことができる。
【0029】
上記第6の発明では、圧縮機構(20)が圧縮した被圧縮ガスをケーシング(11)の内部空間へ吐出するため、ケーシング(11)内の油溜め部(130)に貯留された潤滑油の圧力は、圧縮機構(20)から吐出された被圧縮ガスの圧力と実質的に等しくなる。そして、この発明のスクロール圧縮機(171)では、ケーシング(11)内に貯留された高圧の潤滑油が冷却用流体回路(180)へ流入し、冷却用流体回路(180)を通過した潤滑油が低圧の被圧縮ガスへ供給される。このため、冷却用流体回路(180)では、その始端と終端の圧力差を利用して、冷却用流体としての潤滑油を始端から終端へ向かって流すことができる。したがって、この発明によれば、冷却用流体回路(180)において冷却用流体としての潤滑油を流すために必要なエネルギを削減することができる。
【0030】
上記第7の発明では、インジェクション通路(185)に潤滑油のエネルギを回収するエネルギ回収機構(184)を設けるようにした。このため、吸入管(12)に流れる潤滑油からエネルギを回収することができる。これにより、例えば、回収したエネルギを発電機で電力に変換して、その電力をスクロール圧縮機(171)の電動機(110)へ供給すれば、省エネを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、実施形態1に係る空気調和装置の構成を示す冷媒回路図である。
【図2】図2は、実施形態1に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【図3】図3は、実施形態1に係るスクロール圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る固定スクロールの固定側本体部材を示す横断面図である。
【図5】図5は、実施形態1に係るスクロール圧縮機の油ポンプを示す横断面図である。
【図6】図6は、実施形態1に係るスクロール圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【図7】図7は、実施形態1の変形例1に係るスクロール圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【図8】図8は、実施形態1の変形例2に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【図9】図9は、実施形態2に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【図10】図10は、実施形態3に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【図11】図11は、実施形態4に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【図12】図12は、実施形態4の変形例に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【図13】図13は、その他の実施形態の第1変形例に係るスクロール圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【図14】図14は、その他の実施形態の第1変形例に係る圧縮機構の要部を示す縦断面図である。
【図15】図15は、その他の実施形態の第2変形例に係るスクロール圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【図16】図16は、その他の実施形態の第2変形例に係る圧縮機構の要部を示す縦断面図である。
【図17】図17は、その他の実施形態の第3変形例に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【図18】図18は、その他の実施形態の第4変形例に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【図19】図19は、その他の実施形態の第5変形例に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態および変形例は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0033】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態は、いわゆるセパレート型の空気調和装置(150)である。また、この空気調和装置(150)の冷媒回路(160)には、スクロール圧縮機(171)が接続されている。
【0034】
〈空気調和装置〉
上記空気調和装置(150)の全体構成について、図1を参照しながら説明する。この空気調和装置(150)は、一台の室外ユニット(151)と、二台の室内ユニット(153a,153b)とを備えている。なお、室内ユニット(153a,153b)の台数は、単なる一例であって、一台でもよく、また三台以上であってもよい。
【0035】
上記室外ユニット(151)には、室外回路(170)が設けられている。各室内ユニット(153a,153b)には、室内回路(175a,175b)が一つずつ設けられている。空気調和装置(150)では、室外回路(170)と各室内回路(175a,175b)を液側連絡配管(161)およびガス側連絡配管(162)で接続することによって、冷媒回路(160)が形成されている。この冷媒回路(160)において、各室内回路(175a,175b)は、互いに並列に配置されている。
【0036】
上記室外回路(170)には、スクロール圧縮機(171)と、室外熱交換器(172)と、室外膨張弁(173)と、四方切換弁(174)とが接続されている。また、スクロール圧縮機(171)は、圧縮機本体(10)と、上流側冷却器(181)とを備えている。
【0037】
上記室外回路(170)において、スクロール圧縮機(171)の圧縮機本体(10)は、その吐出管(13)が四方切換弁(174)の第1ポートに接続され、その吸入管(12)が四方切換弁(174)の第2ポートに接続されている。室外熱交換器(172)は、その一端が四方切換弁(174)の第3ポートに接続され、その他端が室外膨張弁(173)の一端に接続されている。室外膨張弁(173)の他端は、室外回路(170)の液側端に接続されている。四方切換弁(174)の第4ポートは、室外回路(170)のガス側端に接続されている。
【0038】
上記スクロール圧縮機(171)の詳細な構造は後述する。ここでは、スクロール圧縮機(171)の概要を説明する。スクロール圧縮機(171)の圧縮機本体(10)は、いわゆる全密閉型圧縮機である。圧縮機本体(10)には、上流側冷却器(181)が接続されている。この上流側冷却器(181)は、フィン・アンド・チューブ型の熱交換器であって、後述するケーシング(11)内の油溜め部(130)に貯留された冷凍機油(即ち、潤滑油)を室外空気と熱交換させることによって冷却する。
【0039】
上記室外熱交換器(172)は、フィン・アンド・チューブ型の熱交換器であって、冷媒回路(160)内を循環する冷媒を室外空気と熱交換させる。室外膨張弁(173)は、いわゆる電子膨張弁である。四方切換弁(174)は、第1ポートと第3ポートとが連通し且つ第2ポートと第4ポートとが連通する第1状態(図1に実線で示す状態)と、第1ポートと第4ポートとが連通し且つ第2ポートと第3ポートとが連通する第2状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
【0040】
上記各室内回路(175a,175b)には、室内熱交換器(176a,176b)と室内膨張弁(177a,177b)とが一つずつ接続されている。各室内回路(175a,175b)では、そのガス側端から液側端に向かって順に、室内熱交換器(176a,176b)と室内膨張弁(177a,177b)が直列に配置されている。各室内回路(175a,175b)は、その液側端が液側連絡配管(161)を介して室外回路(170)の液側端に接続され、そのガス側端がガス側連絡配管(162)を介して室外回路(170)のガス側端に接続されている。
【0041】
上記室内熱交換器(176a,176b)は、フィン・アンド・チューブ型の熱交換器であって、冷媒回路(160)内を循環する冷媒を室内空気と熱交換させる。室内膨張弁(177a,177b)は、いわゆる電子膨張弁である。
【0042】
上記室外ユニット(151)には、室外ファン(152)が設けられている。室外ファン(152)は、室外熱交換器(172)と上流側冷却器(181)の両方へ室外空気を供給するためのものである。つまり、室外ファン(152)を運転すると、室外ユニット(151)へ吸い込まれた室外空気の一部が上流側冷却器(181)を、残りが室外熱交換器(172)をそれぞれ通過する。また、各室内ユニット(153a,153b)には、室内ファン(154a,154b)が一つずつ設けられている。室内ファン(154a,154b)は、室内熱交換器(176a,176b)へ室内空気を供給するためのものである。つまり、室内ファン(154a,154b)を運転すると、室内ユニット(153a,153b)へ吸い込まれた室内空気が室内熱交換器(176a,176b)を通過する。
【0043】
〈スクロール圧縮機〉
上記スクロール圧縮機(171)の全体構成について、図2を参照しながら説明する。上述したように、スクロール圧縮機(171)は、圧縮機本体(10)と上流側冷却器(181)とを備えている。また、このスクロール圧縮機(171)は、冷却用流体回路(180)を備えている。上流側冷却器(181)は、冷却用流体回路(180)に接続されている。冷却用流体回路(180)の詳細については後述する。
【0044】
上述したように、圧縮機本体(10)は、いわゆる全密閉型圧縮機であって、ガス冷媒を被圧縮ガスとして吸入して圧縮する。圧縮機本体(10)は、縦長円筒形の密閉容器状に形成されたケーシング(11)を備えている。ケーシング(11)の内部空間には、圧縮機構(20)と、駆動軸(100)と、電動機(110)と、下部軸受部材(115)と、油ポンプ(120)とが収容されている。ケーシング(11)の内部空間では、その上部に圧縮機構(20)が配置され、圧縮機構(20)の下方に電動機(110)が配置され、電動機(110)の下方に下部軸受部材(115)が配置されている。また、上述したように、ケーシング(11)の内部空間における底部は、冷凍機油(即ち、潤滑油)が貯留される油溜め部(130)となっている。この油溜め部(130)は、本発明に係る冷却用流体の貯留部を構成している。
【0045】
上記ケーシング(11)には、吸入管(12)と吐出管(13)が設けられている。吸入管(12)は、ケーシング(11)を貫通しており、その一端が圧縮機構(20)に接続されている。一方、吐出管(13)は、ケーシング(11)を貫通しており、その一端がケーシング(11)の内部空間における圧縮機構(20)と電動機(110)の間の部分に開口している。つまり、本実施形態のスクロール圧縮機(171)は、ガス冷媒が吸入管(12)を通じて直接圧縮機構(20)へ吸い込まれる一方、圧縮機構(20)において圧縮されたガス冷媒が一旦ケーシング(11)の内部空間へ吐出される、いわゆる高圧ドーム型のものである。したがって、上記油溜め部(130)は、圧縮機構(20)から吐出された高圧のガス冷媒が存在する空間に設けられている。また、ケーシング(11)には、上流側油導出管(14)と上流側油導入管(15)が設けられている。上流側油導出管(14)および上流側油導入管(15)については、後述する。
【0046】
上記圧縮機構(20)には、固定スクロール(30)と、旋回スクロール(50)と、ハウジング部材(70)とが設けられている。圧縮機構(20)の詳細な構造については、後述する。
【0047】
上記電動機(110)は、固定子(111)と、回転子(112)とを備えている。固定子(111)は、ケーシング(11)に固定されている。回転子(112)は、固定子(111)の内側に挿入されている。また、回転子(112)には、駆動軸(100)が挿通されている。
【0048】
上記駆動軸(100)は、主軸部(101)と、偏心部(102)と、下端軸部(103)と、バランスウェイト(104)とを備えている。偏心部(102)は、主軸部(101)の上端面に突設されており、その中心軸が主軸部(101)の中心軸に対して偏心している。バランスウェイト(104)は、主軸部(101)の上端寄りの部分に配置されている。主軸部(101)は、バランスウェイト(104)よりも上側の部分が圧縮機構(20)のハウジング部材(70)を貫通しており、この部分がハウジング部材(70)によって回転自在に支持されている。下端軸部(103)は、主軸部(101)の下端面に突設されており、その中心軸が主軸部(101)の中心軸と一致している。
【0049】
上記駆動軸(100)には、軸内通路(105)と、上側分岐通路(106)と、下側分岐通路(107)とが形成されている。軸内通路(105)は、主軸部(101)の中心軸に沿って延びている。また、軸内通路(105)は、一端が下端軸部(103)の下端面に開口し、他端が偏心部(102)の上端面に開口している。上側分岐通路(106)は、主軸部(101)のうちハウジング部材(70)を貫通している部分に形成されている。この上側分岐通路(106)は、主軸部(101)の半径方向へ延びる通路であって、一端が軸内通路(105)に連通し他端が主軸部(101)の外周面に開口している。下側分岐通路(107)は、下端軸部(103)に形成されている。この下側分岐通路(107)は、下端軸部(103)の半径方向へ延びる通路であって、一端が軸内通路(105)に連通し他端が下端軸部(103)の外周面に開口している。
【0050】
上記下部軸受部材(115)は、概ね平板状に形成され、ケーシング(11)に固定されている。下部軸受部材(115)では、その中央部に貫通孔が形成されており、この貫通孔に軸受メタル(116)が圧入されている。この軸受メタル(116)には、駆動軸(100)の下端軸部(103)が挿入されている。そして、下部軸受部材(115)は、駆動軸(100)の下端軸部(103)を回転自在に支持するジャーナル軸受を構成している。
【0051】
上記油ポンプ(120)は、下部軸受部材(115)の下面に取り付けられて油溜め部(130)の冷凍機油に浸漬されている。図5に示すように、この油ポンプ(120)は、容積型ポンプの一種であるトロコイドポンプである。具体的に、油ポンプ(120)では、円筒ハウジング(121)の内側にアウターロータ(124)が回転自在に収容されている。円筒ハウジング(121)の端面には、吸入口(122)と吐出口(123)が形成されている。この吸入口(122)は、ケーシング(11)内の底部に貯留された冷凍機油に浸っている。アウターロータ(124)の内側には、インナーロータ(125)が収容されている。インナーロータ(125)とアウターロータ(124)の間には、流体室(126)が形成される。インナーロータ(125)の回転軸は、アウターロータ(124)の回転軸に対して偏心している。また、インナーロータ(125)は、駆動軸(100)に直結され、あるいは歯車等を介して駆動軸(100)に連結されており、駆動軸(100)によって回転駆動される。この油ポンプ(120)では、インナーロータ(125)が回転すると、油溜め部(130)の冷凍機油が吸入口(122)を通じて流体室(126)へ吸い込まれ、流体室(126)内の冷凍機油が吐出口(123)から押し出される。
【0052】
〈圧縮機構〉
上記圧縮機構(20)の詳細な構造について、図3と図4を参照しながら説明する。
【0053】
上述したように、圧縮機構(20)は、固定スクロール(30)と、旋回スクロール(50)と、ハウジング部材(70)とを備えている。また、圧縮機構(20)では、ハウジング部材(70)の上に固定スクロール(30)が載置され、固定スクロール(30)とハウジング部材(70)によって囲まれた空間に旋回スクロール(50)が収容されている。
【0054】
図3に示すように、上記ハウジング部材(70)は、ハウジング本体部(71)と、中央膨出部(74)とを備え、ケーシング(11)に固定されている。また、ハウジング本体部(71)は、円板部(72)と外側縁部(73)とを備えている。円板部(72)は、肉厚の円板状に形成されている。外側縁部(73)は、肉厚の短い円筒状に形成されており、円板部(72)の外側の縁部から図3における上方へ延びている。ハウジング本体部(71)の外周面(即ち、円板部(72)および外側縁部(73)の外周面)は、ケーシング(11)の内周面に密着している。一方、中央膨出部(74)は、全体として肉厚の円板状に形成され、円板部(72)の背面(図3における下面)から下方へ向かって膨出している。
【0055】
上記ハウジング部材(70)では、中央膨出部(74)の中央部に貫通孔が形成されており、この貫通孔に軸受メタル(82)が圧入されている。この軸受メタル(82)には、駆動軸(100)の主軸部(101)が挿通されている。そして、ハウジング部材(70)は、駆動軸(100)の主軸部(101)を回転自在に支持するジャーナル軸受を構成している。
【0056】
また、上記ハウジング部材(70)では、ハウジング本体部(71)の円板部(72)に、中央凹部(75)と環状凸部(76)が形成されている。中央凹部(75)は、円板部(72)の前面(図3における上面)に開口する有底の窪みであって、その軸方向と直交する断面が円形となっている。軸受メタル(82)が挿入された中央膨出部(74)の貫通孔は、この中央凹部(75)の底面に開口している。環状凸部(76)は、中央凹部(75)の外周縁に沿って形成され、円板部(72)の前面(図3における上面)から突出している。環状凸部(76)の突端面(図3における上面)は、平面に形成されていて旋回スクロール(50)と摺接する。
【0057】
上記環状凸部(76)には、その突端面に開口する環状溝(77)が形成されている。この環状溝(77)は、環状凸部(76)の周方向に延びる円環状の溝であって、旋回スクロール(50)との摺接面に開口する窪み部を構成している。また、環状凸部(76)の突端面では、環状溝(77)の内側と外側のそれぞれに、環状溝(77)と同心の円環状の溝が形成されている。そして、環状溝(77)の内側の溝には内側シールリング(80)が嵌め込まれ、環状溝(77)の外側の溝には外側シールリング(81)が嵌め込まれている。内側シールリング(80)および外側シールリング(81)は、窪み部である環状溝(77)の周囲を囲むシール部材を構成している。
【0058】
上記固定スクロール(30)は、固定側本体部材(31)と固定側背面部材(35)を備えている。また、固定側本体部材(31)は、固定側平板部(32)と、固定側ラップ(33)と、外周部(34)とを備えている。
【0059】
上記固定側平板部(32)は、概ね円板状に形成されている。固定側ラップ(33)は、固定側平板部(32)の前面(図3における下面)に立設されている。図4に示すように、固定側ラップ(33)は、固定側平板部(32)の中心付近から外周側へ向かって渦巻き状に延びる壁状に形成されている。外周部(34)は、肉厚の短い円筒状に形成されており、固定側平板部(32)の周縁部分から図3における下方へ延びている。この外周部(34)は、固定側ラップ(33)の外周側を囲っている。
【0060】
上記固定側本体部材(31)は、固定側ラップ(33)の先端(図3における下端)がハウジング部材(70)側へ向く状態で、ハウジング部材(70)の上に載置されている。固定側本体部材(31)は、ボルト等によってハウジング部材(70)に固定されている。この状態において、固定スクロール(30)の外周部(34)の突端面(図3における下面)は、ハウジング部材(70)の外側縁部(73)の突端面(図3における上面)に密着する。
【0061】
上記固定側背面部材(35)は、概ね円板状に形成され、固定側本体部材(31)の上に載置されている。具体的に、固定側背面部材(35)は、固定側本体部材(31)の固定側平板部(32)の上に重ねられており、固定側平板部(32)の背面(図3における上面)を全体に亘って覆っている。また、固定側背面部材(35)は、ボルトや接着剤等によって固定側本体部材(31)に固定されている。そして、固定スクロール(30)では、固定側本体部材(31)の固定側平板部(32)と固定側背面部材(35)とが、固定側鏡板部(36)を構成している。
【0062】
上記固定スクロール(30)には、吸入ポート(21)と吐出ポート(22)が形成されている。吸入ポート(21)は、固定側本体部材(31)の外周部(34)に形成されており、外周部(34)をその径方向に貫通している。また、吸入ポート(21)には、吸入管(12)の一端が挿入されている。吐出ポート(22)は、固定側鏡板部(36)の中央部に形成されている。そして、この吐出ポート(22)は、固定側背面部材(35)と固定側本体部材(31)の固定側平板部(32)とをそれぞれの厚み方向へ貫通している。
【0063】
また、上記固定スクロール(30)には、逆止弁(25)が取り付けられている。この逆止弁(25)は、弁体(26)と弁押え(27)を備えており、固定側背面部材(35)の背面(図3における上面)に設置されている。この逆止弁(25)は、スクロール圧縮機(171)の停止中に吐出ポート(22)を塞ぐためのものである。スクロール圧縮機(171)の運転中において、吐出ポート(22)は常に開口状態に保たれる。
【0064】
上記旋回スクロール(50)は、旋回側本体部材(51)と旋回側背面部材(54)を備えている。また、旋回側本体部材(51)は、旋回側平板部(52)と旋回側ラップ(53)を備えている。
【0065】
上記旋回側平板部(52)は、概ね円板状に形成されている。旋回側ラップ(53)は、旋回側平板部(52)の前面(図3における上面)に立設されている。旋回側ラップ(53)は、旋回側平板部(52)の中心付近から外周側へ向かって渦巻き状に延びる壁状に形成されている。
【0066】
上記旋回側背面部材(54)は、概ね円板状に形成されており、旋回側平板部(52)の背面(図3における下面)を全体に亘って覆っている。つまり、旋回スクロール(50)では、旋回側背面部材(54)の上に旋回側本体部材(51)が載置されている。また、旋回側背面部材(54)は、ボルトや接着剤等によって旋回側本体部材(51)に固定されている。そして、旋回スクロール(50)では、旋回側本体部材(51)の旋回側平板部(52)と旋回側背面部材(54)とが、旋回側鏡板部(56)を構成している。
【0067】
上記旋回側背面部材(54)には、円筒凸部(55)が一体に形成されている。円筒凸部(55)は、円筒状に形成され、旋回側背面部材(54)の背面(図3における下面)に突設されている。この円筒凸部(55)には、軸受メタル(57)が圧入されている。この軸受メタル(57)には、駆動軸(100)の偏心部(102)が円筒凸部(55)の突端側(図3における下端側)から挿入されている。また、円筒凸部(55)の内側では、駆動軸(100)の偏心部(102)の上端面の上側に上端空間(66)が形成されている。この上端空間(66)は、偏心部(102)の上端面に開口する軸内通路(105)と連通している。
【0068】
上記旋回スクロール(50)は、旋回側ラップ(53)が固定スクロール(30)の固定側ラップ(33)と噛み合わされている。そして、固定スクロール(30)と旋回スクロール(50)の間には、固定側鏡板部(36)、固定側ラップ(33)、旋回側鏡板部(56)および旋回側ラップ(53)によって囲まれた圧縮室(23)が形成される。
【0069】
また、上記旋回スクロール(50)は、ハウジング部材(70)の環状凸部(76)の上に載置されており、旋回側背面部材(54)の背面(図3における下面)が環状凸部(76)の突端面(図3における上面)と摺接する。ただし、ハウジング部材(70)の環状凸部(76)と旋回側背面部材(54)とは、物理的に接触してはおらず、両者の間には微小な隙間が形成される。そして、ハウジング部材(70)の環状凸部(76)と旋回側背面部材(54)との隙間は、内側シールリング(80)および外側シールリング(81)によってシールされる。
【0070】
上記旋回スクロール(50)とハウジング部材(70)との間には、オルダム継手(89)が設けられる。このオルダム継手(89)は、自転防止機構(88)を構成している。つまり、オルダム継手(89)は、旋回スクロール(50)とハウジング部材(70)の両方に対してスライド自在に係合し、旋回スクロール(50)の自転を規制する。
【0071】
〈冷却用流体回路、固定側通路、旋回側通路〉
上述したように、上記スクロール圧縮機(171)には、冷却用流体回路(180)が設けられている。この冷却用流体回路(180)では、油溜め部(130)の冷凍機油(即ち、潤滑油)が冷却用流体として流通する。また、固定スクロール(30)には、冷却用流体を流すための固定側通路(40)が形成され、旋回スクロール(50)には、冷却用流体を流すための旋回側通路(60)が形成されている。この固定側通路(40)および旋回側通路(60)は、本発明に係る冷却用通路を構成している。
【0072】
図3および図4に示すように、上記固定スクロール(30)には、ラップ内通路(41)と、漏出口(48)と、鏡板内通路(42)と、本体側連通路(45)と、導入通路(43)と、導出通路(44)とが形成されており、これらが固定側通路(40)を構成している。
【0073】
上記ラップ内通路(41)、漏出口(48)および鏡板内通路(42)は、固定側本体部材(31)に形成されている。ラップ内通路(41)は、固定側平板部(32)の背面に開口する比較的深くて幅の狭い溝状の通路であり、固定側平板部(32)から固定側ラップ(33)に亘って形成されている。このラップ内通路(41)は、固定側ラップ(33)に沿った渦巻き状に形成されている。漏出口(48)は、ラップ内通路(41)に沿って形成され、該ラップ内通路(41)に連通し且つ固定側ラップ(33)の先端面に開口する。この漏出口(48)は、ラップ内通路(41)よりも幅の狭い開口部である。漏出口(48)は、ラップ内通路(41)を流通する冷凍機油の一部が固定側ラップ(33)の先端面から圧縮室(23)へ漏れ出るための開口部である。鏡板内通路(42)は、固定側平板部(32)の背面に開口する比較的浅くて幅の広い溝状の通路であり、固定側平板部(32)のみに形成されている。この鏡板内通路(42)は、ラップ内通路(41)に沿った渦巻き状に形成されている。ラップ内通路(41)および鏡板内通路(42)は、固定側背面部材(35)によって覆われている。
【0074】
上記本体側連通路(45)は、固定側本体部材(31)の外周部(34)に形成されている。この本体側連通路(45)は、外周部(34)をその厚み方向へ貫通しており、一端が外周部(34)の突端面(図3における下面)に開口し他端が固定側本体部材(31)の背面(図3における上面)に開口している。導入通路(43)および導出通路(44)は、固定側背面部材(35)に形成されている。導入通路(43)は、固定側本体部材(31)の背面に開口する本体側連通路(45)と、ラップ内通路(41)および鏡板内通路(42)の最外周側の端部とを接続している。導出通路(44)は、一端がラップ内通路(41)および鏡板内通路(42)の最内周側の端部に連通する一方、他端が固定側背面部材(35)の外周面に開口している。つまり、導出通路(44)は、その他端においてケーシング(11)の内部空間と連通している。
【0075】
図3に示すように、上記旋回スクロール(50)には、ラップ内通路(61)と、漏出口(67)と、鏡板内通路(62)と、導入通路(63)と、導出通路(64)とが形成されており、これらが旋回側通路(60)を構成している。
【0076】
上記ラップ内通路(61)、漏出口(67)および鏡板内通路(62)は、旋回側本体部材(51)に形成されている。ラップ内通路(61)は、旋回側平板部(52)の背面に開口する比較的深くて幅の狭い溝状の通路であり、旋回側平板部(52)から旋回側ラップ(53)に亘って形成されている。このラップ内通路(61)は、旋回側ラップ(53)に沿った渦巻き状に形成されている。漏出口(67)は、ラップ内通路(61)に沿って形成され、該ラップ内通路(61)に連通し且つ旋回側ラップ(53)の先端面に開口する。この漏出口(67)は、ラップ内通路(61)よりも幅の狭い開口部である。漏出口(67)は、ラップ内通路(61)を流通する冷凍機油の一部が旋回側ラップ(53)の先端面から圧縮室(23)へ漏れ出るための開口部である。鏡板内通路(62)は、旋回側平板部(52)の背面に開口する比較的浅くて幅の広い溝状の通路であり、旋回側平板部(52)のみに形成されている。この鏡板内通路(62)は、ラップ内通路(61)に沿った渦巻き状に形成されている。ラップ内通路(61)および鏡板内通路(62)は、旋回側背面部材(54)によって覆われている。
【0077】
上記導入通路(63)および導出通路(64)は、旋回側背面部材(54)に形成されている。導入通路(63)は、円筒凸部(55)の内側に形成された上端空間(66)と、ラップ内通路(61)および鏡板内通路(62)の最外周側の端部とを接続している。導出通路(64)は、一端がラップ内通路(61)および鏡板内通路(62)の最内周側の端部に連通する一方、他端が旋回側背面部材(54)の背面(図3における下面)に開口している。この導出通路(64)の他端は、ハウジング部材(70)の環状溝(77)に連通している。
【0078】
上記旋回スクロール(50)に形成された導出通路(64)は、旋回スクロール(50)の位置に拘わらず常に環状溝(77)と連通する。具体的に、旋回側背面部材(54)の背面における導出通路(64)の開口端は、その形状が円形となっている。一方、環状溝(77)の径方向の幅Wは、旋回側背面部材(54)の背面における導出通路(64)の開口端の半径r1と旋回スクロール(50)の公転半径r2の和(r1+r2)の二倍以上となっている(W≧2(r1+r2))。したがって、旋回スクロール(50)の公転中においても、導出通路(64)は環状溝(77)と常に連通する。
【0079】
上記ハウジング部材(70)には、接続用通路(83)が形成されている。この接続用通路(83)は、一端が環状溝(77)の底面に開口し、他端が外側縁部(73)の突端面(図3における上面)に開口している。この接続用通路(83)の他端は、固定側本体部材(31)の外周部(34)の突端面(図3における下面)に開口する本体側連通路(45)に連通している。
【0080】
上述したように、上記スクロール圧縮機(171)のケーシング(11)には、上流側油導出管(14)と上流側油導入管(15)とが設けられている(図2を参照)。上流側油導出管(14)および上流側油導入管(15)は、ケーシング(11)の下部を貫通している。上流側油導出管(14)は、一端が油ポンプ(120)の吐出口(123)に接続され、他端が上流側冷却器(181)の入口端に接続されている。上流側油導入管(15)は、一端が上流側冷却器(181)の出口端に接続され、他端が駆動軸(100)の下端軸部(103)の端面に開口する軸内通路(105)に接続されている。つまり、本実施形態では、油溜め部(130)に設けられた油ポンプ(120)の吐出側に上流側冷却器(181)が接続され、その上流側冷却器(181)の下流側に軸内通路(105)が接続されている。
【0081】
本実施形態のスクロール圧縮機(171)では、油溜め部(130)と、油ポンプ(120)と、上流側油導入管(15)と、上流側冷却器(181)と、上流側油導出管(14)と、軸内通路(105)と、上端空間(66)と、旋回側通路(60)と、環状溝(77)と、接続用通路(83)と、固定側通路(40)とによって、冷却用流体回路(180)が構成されている。この冷却用流体回路(180)では、ケーシング(11)内の油溜め部(130)に貯留された冷凍機油が冷却用流体として流通する。つまり、冷却用流体回路(180)では、油ポンプ(120)が油溜め部(130)の冷凍機油を直接吸い込んで上流側冷却器(181)へ向けて押し出す(吐出する)。そして、上流側冷却器(181)において冷却された冷凍機油は、軸内通路(105)を通過してから旋回側通路(60)と固定側通路(40)を順に通過し、旋回スクロール(50)および固定スクロール(30)から吸熱する。また、冷却用流体回路(180)を流れる冷凍機油の一部は、駆動軸(100)の軸受や圧縮機構(20)の摺動部分を潤滑するためにも利用される。
【0082】
−運転動作−
上記空気調和装置(150)の運転動作と、そこに設けられたスクロール圧縮機(171)の運転動作について説明する。
【0083】
〈空気調和装置の運転動作〉
空気調和装置(150)は、冷房運転と暖房運転を切り換えて実行する。
【0084】
先ず、空気調和装置(150)の冷房運転について説明する。冷房運転時には、四方切換弁(174)が第1状態(図1に実線で示す状態)に設定され、室外熱交換器(172)が凝縮器として動作し、室内熱交換器(176a,176b)が蒸発器として動作する。具体的に、スクロール圧縮機(171)から吐出された冷媒は、室外熱交換器(172)で室外空気へ放熱して凝縮し、その後に各室内回路(175a,175b)へ分配される。各室内回路(175a,175b)へ流入した冷媒は、室内膨張弁(177a,177b)を通過する際に減圧されてから室内熱交換器(176a,176b)へ流入し、室内空気から吸熱して蒸発する。室内ユニット(153a,153b)は、室内熱交換器(176a,176b)を通過する際に冷却された室内空気を室内へ供給する。各室内熱交換器(176a,176b)において蒸発した冷媒は、室外回路(170)へ戻ってスクロール圧縮機(171)に吸入される。
【0085】
次に、空気調和装置(150)の暖房運転について説明する。暖房運転時には、四方切換弁(174)が第2状態(図1に破線で示す状態)に設定され、室内熱交換器(176a,176b)が凝縮器として動作し、室外熱交換器(172)が蒸発器として動作する。具体的に、スクロール圧縮機(171)から吐出された冷媒は、各室内回路(175a,175b)へ分配され、室内熱交換器(176a,176b)で室内空気へ放熱して凝縮する。室内ユニット(153a,153b)は、室内熱交換器(176a,176b)を通過する際に加熱された室内空気を室内へ供給する。各室内回路(175a,175b)において凝縮した冷媒は、室外回路(170)へ戻って室外膨張弁(173)を通過する際に減圧され、その後に室外熱交換器(172)で室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(172)において蒸発した冷媒は、スクロール圧縮機(171)に吸入される。
【0086】
〈スクロール圧縮機の運転動作〉
スクロール圧縮機(171)の動作について説明する。
【0087】
電動機(110)に通電すると、駆動軸(100)に係合する旋回スクロール(50)が駆動される。旋回スクロール(50)は、自転運動は行わずに公転運動だけを行う。旋回スクロール(50)が公転すると、固定スクロール(30)との間に形成された圧縮室(23)の容積が変化し、吸入管(12)を通って圧縮機構(20)へ流入した低圧ガス冷媒が圧縮室(23)へ吸い込まれる。つまり、スクロール圧縮機(171)では、ケーシング(11)外からガス冷媒が吸入管(12)を通じて直接圧縮機構(20)へ導入される。圧縮室(23)へ吸い込まれたガス冷媒は、圧縮されて高圧ガス冷媒となり、吐出ポート(22)を通ってケーシング(11)の内部空間へ吐出される。ケーシング(11)内の高圧ガス冷媒は、吐出管(13)を通ってケーシング(11)の外部へ吐出されてゆく。
【0088】
駆動軸(100)が回転すると、この駆動軸(100)によって油ポンプ(120)が駆動される。油ポンプ(120)は、油溜め部(130)の冷凍機油を直接吸い込み、吸い込んだ冷凍機油を上流側油導入管(15)へと押し出す(吐出する)。つまり、油溜め部(130)の冷凍機油が冷却用流体として冷却用流体回路(180)へ送り込まれる。
【0089】
油ポンプ(120)から上流側油導入管(15)へ吐出された冷凍機油は、上流側冷却器(181)へ流入して室外空気へ放熱する。つまり、上流側冷却器(181)では、冷凍機油が室外空気によって冷却される。上流側冷却器(181)において冷却された冷凍機油は、上流側油導出管(14)を通って軸内通路(105)へ流入する。軸内通路(105)を流れる冷凍機油は、一部が下側分岐通路(107)および上側分岐通路(106)へ流入し、残りが上端空間(66)へ流入する。
【0090】
下側分岐通路(107)へ流入した冷凍機油は、下部軸受部材(115)に設けられた軸受メタル(116)と駆動軸(100)との隙間へ供給されて潤滑に利用される。上側分岐通路(106)へ流入した冷凍機油は、ハウジング部材(70)に設けられた軸受メタル(82)と駆動軸(100)との隙間へ供給されて潤滑に利用される。また、上端空間(66)へ流入した冷凍機油は、一部が旋回スクロール(50)に設けられた軸受メタル(57)と偏心部(102)との隙間へ供給されて潤滑に利用され、残りが旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)へ流入する。
【0091】
旋回側通路(60)へ流入した冷凍機油は、導入通路(63)を通過後にラップ内通路(61)と鏡板内通路(62)とに分配される。ラップ内通路(61)と鏡板内通路(62)に流入した冷凍機油は、それぞれの外周側の端部から内周側の端部へ向かって流通し、その間に旋回スクロール(50)から吸熱する。また、冷凍機油がラップ内通路(61)を流通する間、その流通する冷凍機油の一部が漏出口(67)から漏れ出る。その後、ラップ内通路(61)および鏡板内通路(62)を流通した冷凍機油は、導出通路(64)を通ってハウジング部材(70)の環状溝(77)へ流入する。環状溝(77)へ流入した冷凍機油は、接続用通路(83)を通って固定スクロール(30)の固定側通路(40)へ流入する。
【0092】
固定側通路(40)へ流入した冷凍機油は、本体側連通路(45)と導入通路(43)を順に通過し、その後にラップ内通路(41)と鏡板内通路(42)とに分配される。ラップ内通路(41)と鏡板内通路(42)に流入した冷凍機油は、それぞれの外周側の端部から内周側の端部へ向かって流通し、その間に固定スクロール(30)から吸熱する。また、冷凍機油がラップ内通路(41)を流通する間、その流通する冷凍機油の一部が漏出口(48)から漏れ出る。その後、冷凍機油は、導出通路(44)へ流入し、導出通路(44)の終端からケーシング(11)の内部空間へ流出する。導出通路(44)から流出した冷凍機油は、ケーシング(11)の底部へと流れ落ちてゆく。
【0093】
このように、冷却用流体回路(180)では、冷凍機油がラップ内通路(41,61)および鏡板内通路(42,62)を流通することで、固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)から吸熱する。これにより、固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)が冷却され、圧縮室(23)のガス冷媒が冷却される。つまり、ラップ内通路(41,61)および鏡板内通路(42,62)を流通する冷凍機油によって圧縮室(23)のガス冷媒が間接的に冷却される(間接冷却)。また、図6に示すように、漏出口(48,67)から漏れ出た冷凍機油は固定側ラップ(33)と固定側平板部(32)との微小隙間、および、旋回側ラップ(53)と旋回側平板部(52)との微小隙間に滞留する(同図A部参照。)。そして、微小隙間における冷凍機油の滞留量がある程度になると、その微小隙間から冷凍機油が圧縮室(23)内へ流出する。この流出した冷凍機油は、圧縮室(23)内のガス冷媒から直接吸熱する。つまり、漏出口(48,67)から漏れ出た冷凍機油によって圧縮室(23)のガス冷媒が直接的に冷却される(直接冷却)。また、固定側ラップ(33)と固定側平板部(32)との微小隙間、および、旋回側ラップ(53)と旋回側平板部(52)との微小隙間に冷凍機油が滞留することにより、その微小隙間が冷凍機油によってシールされる。その結果、圧縮機構(20)におけるシール性が向上する。さらに、この微小隙間の部分はラップ(33,53)の摺動部分であるため、冷凍機油が滞留することで摺動抵抗が軽減される。その結果、圧縮機構(20)における摺動性能も向上する。
【0094】
また、スクロール圧縮機(171)の冷却用流体回路(180)では、油ポンプ(120)が油溜め部(130)の冷凍機油を直接吸い込んで上流側冷却器(181)へ押し出す。そのため、例えば上流側冷却器(181)を油ポンプ(120)の吸い込み側に配置して油溜め部(130)の冷凍機油を上流側冷却器(181)を介して吸い込むようにした場合に比べて、油ポンプ(120)における吸い込み側の圧力損失が低減される。ここで、油ポンプ(120)において、吸い込み側の圧力損失が大きいと吸い込んだ冷凍機油が発泡しやすくなり、押し出される(吐出される)冷凍機油の量が著しく減少してしまう。ところが、本実施形態では、上述したようにポンプ(120,128)における吸い込み側の圧力損失が低減されるため、吸い込んだ冷凍機油の発泡化が回避される。その結果、ポンプ(120,128)における冷凍機油の押し出し量(吐出量)が充分に確保される。したがって、充分な量の冷凍機油が固定側通路(40)および旋回側通路(60)へ確実に供給される。
【0095】
また、冷却用流体回路(180)では、旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)と固定スクロール(30)の固定側通路(40)とが、互いに直列に配置されている。したがって、冷却用流体回路(180)では、固定側通路(40)を冷却用流体として流れる冷凍機油の流量と、旋回側通路(60)を冷却用流体として流れる冷凍機油の流量とが等しくなる。
【0096】
ここで、ハウジング部材(70)の環状溝(77)は、環状凸部(76)の全周に亘って形成されている。また、環状溝(77)には、旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)を通過した冷凍機油が流入する。この環状溝(77)へ流入する冷凍機油の圧力は、ケーシング(11)の内部空間の圧力(即ち、圧縮機構(20)から吐出された高圧ガス冷媒の圧力)よりも高くなっている。そして、旋回スクロール(50)の旋回側背面部材(54)の背面(図3における下面)のうち内側シールリング(80)と外側シールリング(81)の間の部分には、環状溝(77)へ流入した冷凍機油の圧力が作用する。その結果、旋回スクロール(50)には、旋回スクロール(50)を固定スクロール(30)側へ押し付ける力が作用し、圧縮室(23)の気密性が確保される。つまり、スクロール圧縮機(171)では、固定スクロール(30)や旋回スクロール(50)を冷却するために冷却用流体回路(180)を流れる冷凍機油が、旋回スクロール(50)に対して固定スクロール(30)側への押付け力を作用させるためにも利用される。
【0097】
−実施形態1の効果−
本実施形態では、冷却用流体としての冷凍機油が固定側通路(40)および旋回側通路(60)を流通する一方、その流通する冷凍機油の一部が圧縮室(23)へ漏出するようにした。そのため、固定側通路(40)および旋回側通路(60)を流通する冷凍機油によって、圧縮室(23)のガス冷媒が間接的に冷却される(間接冷却)。一方、固定側通路(40)および旋回側通路(60)から圧縮室(23)へ漏出した冷凍機油によって、ガス冷媒が直接的に冷却される(直接冷却)。この直接冷却は、上述した間接冷却に比べて、冷却効果が高い。したがって、本実施形態によれば、固定側通路(40)および旋回側通路(60)へ供給された冷凍機油の全部を間接冷却に利用する場合と比べて、圧縮室(23)のガス冷媒に対する冷却効果を高めることができる。この結果、圧縮機構(20)において圧縮されるガス冷媒の温度上昇を確実に抑制することができる。
【0098】
また、本実施形態では、ラップ(33,53)の先端から冷凍機油を圧縮室(23)へ漏出させるようにした。そのため、漏出した冷凍機油によってガス冷媒を直接的に冷却できるだけでなく、漏出した冷凍機油を固定側ラップ(33)と固定側平板部(32)との微小隙間、および、旋回側ラップ(53)と旋回側平板部(52)との微小隙間に滞留させてその微小隙間をシールすることができる。また、冷凍機油(潤滑油)であるため、微小隙間における摺動抵抗をも軽減することができる。これにより、圧縮機構(20)におけるシール性且つ摺動性能を向上させることができる。
【0099】
また、本実施形態では、油溜め部(130)に貯留された冷凍機油が、圧縮機構(20)を潤滑するためだけでなく、圧縮室(23)のガス冷媒を冷却するための冷却用流体としても利用される。したがって、圧縮室(23)のガス冷媒の冷却を行うことに起因するスクロール圧縮機(171)の構成の複雑化を抑制することができる。
【0100】
また、本実施形態のスクロール圧縮機(171)において、上流側冷却器(181)は、冷却用流体回路(180)を冷却用流体として流れる冷凍機油を室外空気と熱交換させることによって冷却する。また、本実施形態の室外ユニット(151)では、室外熱交換器(172)へ室外空気を供給するための室外ファン(152)を利用し、スクロール圧縮機(171)の上流側冷却器(181)へも室外空気を供給している。したがって、本実施形態によれば、スクロール圧縮機(171)の上流側冷却器(181)へ室外空気を供給するためのファンを室外ファン(152)とは別に設ける場合に比べ、室外ユニット(151)の構成を簡素化することができる。
【0101】
−実施形態1の変形例1−
本変形例は、上記実施形態1のスクロール圧縮機(171)における圧縮機構(20)の構成を変更したものである。ここでは、本変形例のスクロール圧縮機(171)について、上記実施形態1のスクロール圧縮機(171)と異なる点を説明する。
【0102】
図7に示すように、本変形例のスクロール圧縮機(171)の圧縮機構(20)は、固定スクロール(30)、旋回スクロール(50)およびハウジング部材(70)の構成がそれぞれ実施形態1のものと相違している。また、本変形例のスクロール圧縮機(171)では、圧縮機構(20)の構成が変更されたことに伴って、冷却用流体回路(180)の構成も実施形態1のものと相違している。
【0103】
本変形例のハウジング部材(70)では、環状溝(77)と接続用通路(83)とが省略されている。また、このハウジング部材(70)では、内側シールリング(80)および外側シールリング(81)が設けられておらず、それらを嵌め込むための溝も省略されている。
【0104】
本変形例の固定スクロール(30)には、円形凹部(46)が形成されている。円形凹部(46)は、固定側本体部材(31)の外周部(34)の突端面(図7における下面)に開口する円形の窪みであって、旋回スクロール(50)の旋回側平板部(52)の前面(図7における上面)と対面する位置に形成されている。円形凹部(46)の底面には、本体側連通路(45)が開口している。この円形凹部(46)は、固定側通路(40)の一部を構成している。また、円形凹部(46)には、シールリング(47)が嵌め込まれている。
【0105】
本変形例の旋回スクロール(50)には、本体側連通路(65)が形成されている。この本体側連通路(65)は、旋回側通路(60)の一部を構成している。本体側連通路(65)は、旋回側本体部材(51)の旋回側平板部(52)の外周縁付近に形成され、旋回側平板部(52)をその厚み方向へ貫通している。また、旋回スクロール(50)では、導出通路(64)が本体側連通路(65)と連通している。つまり、本変形例の旋回スクロール(50)に形成された導出通路(64)は、ラップ内通路(61)および鏡板内通路(62)の最内周側の端部と、旋回側平板部(52)の背面(図7における下面)に開口する本体側連通路(65)とを接続している。
【0106】
上記旋回スクロール(50)に形成された本体側連通路(65)は、旋回スクロール(50)の位置に拘わらず常に円形凹部(46)におけるシールリング(47)の内側の部分と連通する。具体的に、旋回側平板部(52)の前面における本体側連通路(65)の開口端は、その形状が円形となっている。一方、円形凹部(46)に嵌め込まれたシールリング(47)の内径Dは、旋回側平板部(52)の前面における本体側連通路(65)の開口端の半径r3と旋回スクロール(50)の公転半径r2の和(r3+r2)の二倍以上となっている(D≧2(r3+r2))。したがって、旋回スクロール(50)の公転中においても、本体側連通路(65)は円形凹部(46)と常に連通する。
【0107】
本変形例のスクロール圧縮機(171)では、油溜め部(130)と、油ポンプ(120)と、上流側油導入管(15)と、上流側冷却器(181)と、上流側油導出管(14)と、軸内通路(105)と、上端空間(66)と、旋回側通路(60)と、固定側通路(40)とによって、冷却用流体回路(180)が構成されている。そして、本変形例の冷却用流体回路(180)において、旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)を通過した冷凍機油は、固定スクロール(30)の固定側通路(40)を構成する円形凹部(46)へ流入する。
【0108】
−実施形態1の変形例2−
本変形例は、上記実施形態1におけるスクロール圧縮機(171)の構成を変更したものである。ここでは、本変形例のスクロール圧縮機(171)について、上記実施形態1のスクロール圧縮機(171)と異なる点を説明する。
【0109】
図8に示すように、本変形例のスクロール圧縮機(171)では、冷却用流体回路(180)に中間冷却器(182)が追加されている。この中間冷却器(182)は、冷却用流体回路(180)における旋回側通路(60)と固定側通路(40)の間に配置される。また、中間冷却器(182)の追加に伴い、本変形例のスクロール圧縮機(171)では、ケーシング(11)に中間油導出管(16)および中間油導入管(17)が追加されると共に、圧縮機構(20)の構成が実施形態1のものから変更されている。
【0110】
上記中間冷却器(182)は、フィン・アンド・チューブ型の熱交換器であって、冷却用流体回路(180)を冷却用流体として流れる冷凍機油を室外空気と熱交換させることによって冷却する。また、本変形例の室外ユニット(151)では、室外熱交換器(172)および上流側冷却器(181)だけでなく、中間冷却器(182)に対しても室外ファン(152)によって室外空気が供給される。
【0111】
本変形例の圧縮機構(20)では、ハウジング部材(70)に形成された接続用通路(83)の構成と、固定スクロール(30)に形成された本体側連通路(45)の構成とが、上記実施形態1と相違している。具体的に、ハウジング部材(70)の接続用通路(83)は、一端が環状溝(77)の底面に開口し、他端がハウジング本体部(71)の外周面に開口している。また、固定スクロール(30)の本体側連通路(45)は、一端が導入通路(43)に接続され、他端が固定側本体部材(31)の外周部(34)の外周面に開口している。
【0112】
上記中間油導出管(16)および中間油導入管(17)は、ケーシング(11)を貫通している。中間油導出管(16)は、一端がハウジング部材(70)の接続用通路(83)に接続され、他端が中間冷却器(182)の入口端に接続されている。中間油導出管(16)は、一端が中間冷却器(182)の出口端に接続され、他端が固定スクロール(30)の本体側連通路(45)に接続されている。
【0113】
本変形例のスクロール圧縮機(171)では、油溜め部(130)と、油ポンプ(120)と、上流側油導入管(15)と、上流側冷却器(181)と、上流側油導出管(14)と、軸内通路(105)と、上端空間(66)と、旋回側通路(60)と、環状溝(77)と、接続用通路(83)と、中間油導出管(16)と、中間冷却器(182)と、中間油導入管(17)と、固定側通路(40)とによって、冷却用流体回路(180)が構成される。
【0114】
本変形例の冷却用流体回路(180)において、冷却用流体として流れる冷凍機油は、上流側冷却器(181)において冷却された後に旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)へ導入され、旋回スクロール(50)を冷却するために利用される。この点は、上記実施形態1の場合と同じである。一方、本変形例の冷却用流体回路(180)において、旋回側通路(60)から流出した冷凍機油は、中間油導出管(16)を通って中間冷却器(182)へ流入し、室外空気へ放熱した後に中間油導入管(17)を通って固定スクロール(30)の固定側通路(40)へ流入する。つまり、固定側通路(40)へは、中間冷却器(182)において冷却された冷凍機油が供給される。そして、固定側通路(40)へ流入した冷凍機油は、固定スクロール(30)を冷却するために利用される。
【0115】
このように、本変形例では、冷却用流体回路(180)に中間冷却器(182)が接続され、旋回側通路(60)を通過後に固定側通路(40)へ向かって流れる冷凍機油が、中間冷却器(182)において冷却される。つまり、本変形例の冷却用流体回路(180)では、上流側冷却器(181)において冷却された冷凍機油が旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)に供給され、中間冷却器(182)において冷却された冷凍機油が固定スクロール(30)の固定側通路(40)に供給される。このため、旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)と旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)の両方に対して、温度の低い冷凍機油を確実に供給することができる。したがって、本変形例によれば、固定スクロール(30)と旋回スクロール(50)の両方を一層確実に冷却すると共に、圧縮室(23)のガス冷媒を一層確実に直接冷却することが可能となる。
【0116】
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態は、上記実施形態1においてスクロール圧縮機(171)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態のスクロール圧縮機(171)について、上記実施形態1のスクロール圧縮機(171)と異なる点を説明する。
【0117】
図9に示すように、本実施形態のスクロール圧縮機(171)では、冷却用流体回路(180)に下流側冷却器(183)、動力回収機(184)およびインジェクション通路(185)が追加されている。また、これら下流側冷却器(183)等の追加に伴い、本実施形態のスクロール圧縮機(171)では、ケーシング(11)に下流側油導出管(18)および下流側油導入管(19)が追加されている。
【0118】
上記冷却用流体回路(180)において、下流側冷却器(183)、動力回収機(184)およびインジェクション通路(185)は、固定側通路(40)の下流側に配置されている。
【0119】
上記インジェクション通路(185)は、固定側通路(40)の導出通路(44)を通過した冷凍機油、即ち固定側通路(40)および旋回側通路(60)を流通した冷凍機油を吸入管(12)へ流すためのものである。このインジェクション通路(185)には、固定側通路(40)側から順に、下流側冷却器(183)および動力回収機(184)が接続されている。つまり、下流側冷却器(183)の出口端が動力回収機(184)の入口端に接続されている。
【0120】
上記下流側冷却器(183)は、フィン・アンド・チューブ型の熱交換器であって、冷却用流体回路(180)を冷却用流体として流れる冷凍機油を室外空気と熱交換させることによって冷却する。また、本実施形態の室外ユニット(151)では、室外熱交換器(172)と上流側冷却器(181)だけでなく、下流側冷却器(183)に対しても室外ファン(152)によって室外空気が供給される。
【0121】
上記動力回収機(184)は、例えばロータリ式流体機械等の流体機械によって構成され、冷却用流体回路(180)を流れる冷凍機油によって駆動される。この動力回収機(184)は、インジェクション通路(185)を流れる冷凍機油が持つエネルギを回転動力に変換する。図示しないが、動力回収機(184)には発電機が連結されている。動力回収機(184)において高圧の冷凍機油が減圧されることによって発生した回転動力は、発電機を駆動するために利用される。つまり、インジェクション通路(185)を流れる冷凍機油のエネルギが電力に変換される。動力回収機(184)に連結された発電機において発生した電力は、スクロール圧縮機(171)の電動機(110)へ供給され、商用電源から供給された電力と共に圧縮機構(20)を駆動するために利用される。このように、動力回収機(184)は冷凍機油のエネルギを回収するエネルギ回収機構を構成している。
【0122】
上記下流側油導出管(18)は、ケーシング(11)を貫通している。下流側油導出管(18)は、一端が固定スクロール(30)に形成された導出通路(44)の終端に挿入され、他端がインジェクション通路(185)の入口端に接続されている。一方、下流側油導入管(19)は、一端がインジェクション通路(185)の出口端に接続され、他端が吸入管(12)に接続されている。
【0123】
本実施形態のスクロール圧縮機(171)では、油溜め部(130)と、油ポンプ(120)と、上流側油導入管(15)と、上流側冷却器(181)と、上流側油導出管(14)と、軸内通路(105)と、上端空間(66)と、旋回側通路(60)と、環状溝(77)と、接続用通路(83)と、固定側通路(40)と、下流側油導出管(18)と、インジェクション通路(185)と、下流側冷却器(183)と、動力回収機(184)と、下流側油導入管(19)とによって、冷却用流体回路(180)が構成される。
【0124】
本実施形態の冷却用流体回路(180)において、冷却用流体として流れる冷凍機油は、上流側冷却器(181)において冷却された後に旋回側通路(60)と固定側通路(40)を順に通過し、旋回スクロール(50)と固定スクロール(30)から吸熱する。その後、冷凍機油は、下流側油導出管(18)を通ってインジェクション通路(185)へ流入する。インジェクション通路(185)では、冷凍機油が下流側冷却器(183)へ流入して室外空気に対し放熱する。つまり、冷凍機油が下流側冷却器(183)で冷却される。下流側冷却器(183)から流出した冷凍機油は、動力回収機(184)を駆動する。動力回収機(184)を通過する際に圧力が低下した冷凍機油は、下流側油導入管(19)を通って吸入管(12)内を流れる低圧のガス冷媒へ供給され、このガス冷媒と共に圧縮機構(20)の圧縮室(23)へ吸入される。
【0125】
このように、本実施形態の冷却用流体回路(180)では、下流側冷却器(183)において冷却された冷凍機油が、吸入管(12)を流れる低圧のガス冷媒と共に圧縮機構(20)の圧縮室(23)へ吸入される。ガス冷媒と共に圧縮機構(20)へ吸い込まれた冷凍機油は、圧縮機構(20)において圧縮されつつあるガス冷媒と直接に接触し、このガス冷媒から吸熱する。したがって、本実施形態の冷却用流体回路(180)によれば、上流側冷却器(181)において冷却された冷凍機油を固定側通路(40)や旋回側通路(60)へ供給して固定スクロール(30)や旋回スクロール(50)を冷却することだけでなく、下流側冷却器(183)において冷却された冷凍機油をガス冷媒と共に圧縮機構(20)へ吸い込ませることによっても、圧縮機構(20)の圧縮室(23)において圧縮されつつあるガス冷媒の温度上昇を抑えることができる。
【0126】
ここで、本実施形態の冷却用流体回路(180)において、その始端となる油ポンプ(120)の吸入口(122)は、ケーシング(11)内の油溜め部(130)に貯留された冷凍機油(即ち、圧縮機構(20)から吐出された高圧のガス冷媒と圧力が実質的に等しい冷凍機油)に浸される一方、その終端となる下流側油導入管(19)は、吸入管(12)(即ち、圧縮機構(20)へ吸入される低圧のガス冷媒が流れる部分)に接続されている。つまり、この冷却用流体回路(180)では、その始端の圧力が圧縮機構(20)から吐出された高圧ガス冷媒の圧力と実質的に等しくなり、その終端の圧力が圧縮機構(20)へ吸入される低圧ガス冷媒の圧力と実質的に等しくなっている。したがって、本実施形態の冷却用流体回路(180)では、冷却用流体としての冷凍機油を流すための駆動力として、その始端と終端の圧力差を利用することができる。そのため、油ポンプ(120)において冷凍機油を吸い込みやすく且つ押し出しやすくなる。この結果、油ポンプ(120)における冷凍機油の押し出し量(吐出量)をより一層充分に確保することができる。また、上述した始端と終端の圧力差を利用により、油ポンプ(120)を駆動するのに必要な動力を削減することができるとも言える。
【0127】
また、本実施形態では、インジェクション通路(185)に動力回収機(184)を設けて冷凍機油(潤滑油)のエネルギを回収し、その回収したエネルギを電力に変換してスクロール圧縮機(171)の電動機(110)へ供給するようにした。つまり、本実施形態では、インジェクション通路(185)を流れる冷凍機油のエネルギを電力に変換して、その電力を商用電源から供給される電力と共に圧縮機構(20)を駆動するために利用するようにした。このため、スクロール圧縮機(171)の運転の省エネ化を図ることができる。
【0128】
《発明の実施形態3》
本発明の実施形態3について説明する。本実施形態は、上記実施形態2において、冷却用流体回路(180)から油ポンプ(120)を除外するようにした。ここでは、本実施形態のスクロール圧縮機(171)について、上記実施形態2のスクロール圧縮機(171)と異なる点を説明する。
【0129】
図10に示すように、本実施形態の冷却用流体回路(180)において、上流側油導入管(15)の入口端は、ケーシング(11)の内部空間に開口しており、油溜め部(130)に貯留された冷凍機油に浸っている。
【0130】
本実施形態の冷却用流体回路(180)において、その始端となる上流側油導入管(15)の入口端は、圧縮機構(20)から吐出された高圧ガス冷媒の圧力と実質的に等しくなっている。このため、本実施形態の冷却用流体回路(180)では、冷却用流体としての冷凍機油を流すための駆動力として、その始端と終端の圧力差を利用することができる。そして、冷却用流体回路(180)の始端と終端の圧力差だけで冷却用流体回路(180)における冷凍機油の流量を充分に確保できる場合は、本実施形態のように冷却用流体回路(180)から油ポンプ(120)を省略してもよい。
【0131】
本実施形態のスクロール圧縮機(171)において、油ポンプは冷却用流体回路(180)からは省略されているが、依然として下部軸受部材(115)には潤滑用油ポンプ(127)が取り付けられている。そして、本実施形態の潤滑用油ポンプ(127)は、その吐出口(123)が駆動軸(100)に形成された軸内通路(105)に直接に接続されており、圧縮機構(20)へ潤滑用の冷凍機油を供給する。なお、圧縮機構(20)を潤滑するのに必要な冷凍機油の流量は、固定スクロール(30)や旋回スクロール(50)を冷却するのに必要な冷凍機油の流量に比べて少ない。したがって、本実施形態の潤滑用油ポンプ(127)としては、トロコイドポンプ等の容積型ポンプではなく、駆動軸(100)の回転によって生じる遠心力を利用して冷凍機油を昇圧させる遠心ポンプを用いてもよい。
【0132】
《発明の実施形態4》
本発明の実施形態4について説明する。本実施形態は、上記実施形態1の変形例1において、スクロール圧縮機(171)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態のスクロール圧縮機(171)について、上記実施形態1の変形例1のスクロール圧縮機(171)と異なる点を説明する。
【0133】
図11に示すように、本実施形態のスクロール圧縮機(171)では、駆動軸(100)に形成された軸内通路(105)と、旋回スクロール(50)の円筒凸部(55)の内側に形成された上端空間(66)とが、冷却用流体回路(180)から除外されている。また、それに伴い、本実施形態のスクロール圧縮機(171)では、圧縮機構(20)、上流側油導入管(15)および油ポンプ(120)の構成が、上記実施形態1の変形例1のものと相違している。
【0134】
本実施形態の固定スクロール(30)には、円形凹部(46)が形成され、この円形凹部(46)にシールリング(47)が嵌め込まれている。また、この固定スクロール(30)では、円形凹部(46)の底面に、本体側連通路(45)が開口している。本実施形態の固定スクロール(30)と上記実施形態1の固定スクロール(30)との相違点は、上記実施形態1の固定スクロール(30)とその変形例1の固定スクロール(30)との相違点と同じである。
【0135】
本実施形態の旋回スクロール(50)において、導入通路(63)の一端は、旋回側背面部材(54)の背面(図11の下面)のうち環状溝(77)に臨む部分に開口している。そして、この導入通路(63)は、ラップ内通路(61)と鏡板内通路(62)の両方を環状溝(77)と連通させている。
【0136】
上記旋回スクロール(50)に形成された導入通路(63)は、旋回スクロール(50)の位置に拘わらず常に環状溝(77)と連通する。具体的に、旋回側背面部材(54)の背面における導入通路(63)の開口端は、その形状が円形となっている。一方、環状溝(77)の径方向の幅Wは、旋回側背面部材(54)の背面における導入通路(63)の開口端の半径r4と旋回スクロール(50)の公転半径r2の和(r4+r2)の二倍以上となっている(W≧2(r4+r2))。したがって、旋回スクロール(50)の公転中においても、導入通路(63)は環状溝(77)と常に連通する。
【0137】
また、本実施形態の旋回スクロール(50)では、旋回側本体部材(51)に本体側連通路(65)が形成され、導出通路(64)がラップ内通路(61)と鏡板内通路(62)の両方を本体側連通路(65)に接続している。この旋回スクロール(50)における導出通路(64)および本体側連通路(65)の構成は、上記実施形態1の変形例1におけるものと同じである。また、旋回スクロール(50)の本体側連通路(65)が旋回スクロール(50)の位置に拘わらず常に円形凹部(46)におけるシールリング(47)の内側の部分と連通する点についても、上記実施形態1の変形例1と同様である。
【0138】
本実施形態のハウジング部材(70)において、接続用通路(83)は、その一端が環状溝(77)の底面に開口し、その他端がハウジング本体部(71)の外側縁部(73)の外周面に開口している。この外側縁部(73)の外周面における接続用通路(83)の開口端には、上流側油導入管(15)が挿入されている。つまり、本実施形態の上流側油導入管(15)は、ケーシング(11)を貫通して上流側油導入管(15)に連通し、上流側冷却器(181)の出口端を接続用通路(83)に連通させている。
【0139】
本実施形態の油ポンプ(120)は、吐出口(123)が、上流側油導出管(14)と駆動軸(100)の軸内通路(105)との両方に接続されている。油ポンプ(120)では、油溜め部(130)から吸い込んだ冷凍機油の一部が軸内通路(105)へ押し出され、残りの冷凍機油が上流側油導出管(14)へ押し出される。上流側油導出管(14)へ押し出された冷凍機油は、冷却用流体回路(180)を冷却用流体として流れる。つまり、油ポンプ(120)は油溜め部(130)の冷凍機油を軸内通路(105)と固定側通路(40)および旋回側通路(60)とへ個別に供給する。
【0140】
本実施形態のスクロール圧縮機(171)では、油溜め部(130)と、油ポンプ(120)と、上流側油導入管(15)と、上流側冷却器(181)と、上流側油導出管(14)と、接続用通路(83)と、環状溝(77)と、旋回側通路(60)と、固定側通路(40)とによって、冷却用流体回路(180)が構成されている。そして、本実施形態の冷却用流体回路(180)において、上流側冷却器(181)において冷却された冷凍機油は、ハウジング部材(70)に形成された接続用通路(83)および環状溝(77)を通って旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)へ流入する。また、旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)を通過した冷凍機油は、固定スクロール(30)の固定側通路(40)を構成する円形凹部(46)へ流入する。
【0141】
また、油ポンプ(120)から吐出されて軸内通路(105)へ流入した冷凍機油は、駆動軸(100)と軸受メタル(57,82,116)の摺動箇所や、圧縮機構(20)における部材同士の摺動箇所へ供給され、これら摺動箇所の潤滑に利用される。つまり、本実施形態の軸内通路(105)は、油溜め部(130)の冷凍機油を駆動軸(100)と旋回スクロール(50)との係合部等へ供給するためのものである。
【0142】
−実施形態4の変形例−
図12に示すように、上記実施形態4のスクロール圧縮機(171)には、二つの油ポンプ(127,128)が設けられていてもよい。具体的に、本変形例のスクロール圧縮機(171)には、潤滑用油ポンプ(127)と冷却用油ポンプ(128)とが設けられている。潤滑用油ポンプ(127)および冷却用油ポンプ(128)は、何れもトロコイドポンプであって駆動軸(100)によって回転駆動される。潤滑用油ポンプ(127)の吐出口(123)は、駆動軸(100)の下端に開口する軸内通路(105)だけに接続されている。一方、冷却用油ポンプ(128)の吐出口(123)は、上流側油導出管(14)だけに接続されている。なお、潤滑用油ポンプ(127)および冷却用油ポンプ(128)は、何れも油溜め部(130)の冷凍機油に浸漬されており、それぞれの吸入口(122)が油溜め部(130)の冷凍機油に連通している。本変形例では、二つの油ポンプ(127,128)のうち冷却用油ポンプ(128)が冷却用流体回路(180)の一部を構成する。
【0143】
上記潤滑用油ポンプ(127)へ吸い込まれた冷凍機油は、軸内通路(105)へ向かって押し出される(吐出される)。軸内通路(105)へ流入した冷凍機油は、駆動軸(100)と軸受メタル(57,82,116)の摺動箇所や、圧縮機構(20)における部材同士の摺動箇所へ供給され、これら摺動箇所の潤滑に利用される。一方、冷却用油ポンプ(128)へ吸い込まれた冷凍機油は、上流側油導出管(14)へ向かって押し出される(吐出される)。上流側油導出管(14)へ流入した冷凍機油は、冷却用流体として冷却用流体回路(180)を流れ、旋回スクロール(50)と固定スクロール(30)を冷却するために利用される。
【0144】
《その他の実施形態》
−第1変形例−
上述した各実施形態のスクロール圧縮機(171)では、オルダム継手(89)以外の機構が自転防止機構(88)として用いられていてもよい。ここでは、本変形の自転防止機構(88)について、それを上記実施形態1のスクロール圧縮機(171)に適用した場合を例に説明する。
【0145】
本変形例の自転防止機構(88)は、少なくとも三つの継手ユニット(90)によって構成されている。図13に示すように、各継手ユニット(90)は、固定側ピン(91)と旋回側ピン(92)と円筒部材(93)とを一つずつ備え、旋回スクロール(50)の旋回側鏡板部(56)の周方向において概ね等角度間隔に配置されている。
【0146】
旋回側ピン(92)は、円柱状あるいは円管状に形成され、旋回スクロール(50)に取り付けられている。具体的に、旋回側ピン(92)は、旋回側背面部材(54)の背面(図13における下面)から突出する姿勢で、旋回側背面部材(54)における周縁付近に埋設されている。旋回側ピン(92)の軸方向は、旋回側背面部材(54)の背面と実質的に直交している。
【0147】
固定側ピン(91)は、円柱状あるいは円管状に形成され、ハウジング部材(70)に取り付けられている。具体的に、固定側ピン(91)は、ハウジング部材(70)の円板部(72)の前面(図13における上面)から突出する姿勢で、環状凸部(76)の外側の位置に埋設されている。固定側ピン(91)の軸方向は、円板部(72)の前面と実質的に直交している。
【0148】
円筒部材(93)は、比較的短い円筒状に形成され、ハウジング部材(70)と旋回スクロール(50)の間に挟み込まれている。この円筒部材(93)は、その一端面(図13における下端面)がハウジング部材(70)の円板部(72)の前面と摺接し、その他端面(図13における上端面)が旋回スクロール(50)の旋回側背面部材(54)の背面と摺接する。また、円筒部材(93)には、旋回側ピン(92)のうち旋回スクロール(50)から突出した部分と、固定側ピン(91)のうちハウジング部材(70)から突出した部分とが挿入されている。
【0149】
各継手ユニット(90)において、円筒部材(93)の内周面には、固定側ピン(91)の外周面と、旋回側ピン(92)の外周面とが接している。円筒部材(93)の内周面における固定側ピン(91)との接触箇所と、円筒部材(93)の内周面における旋回側ピン(92)との接触箇所とは、円筒部材(93)の中心軸を挟んで反対側に位置している。そして、スクロール圧縮機(171)の運転中に旋回スクロール(50)が移動しても、円筒部材(93)の内周面が固定側ピン(91)と旋回側ピン(92)の両方の外周面と摺接し続け、その結果、旋回スクロール(50)の自転が規制される。
【0150】
なお、図13に示す圧縮機構(20)において、ハウジング部材(70)に形成された環状凸部(76)の幅は、図3に示す実施形態1の圧縮機構(20)に形成された環状凸部(76)に比べて狭くなっている。そして、図13に示す圧縮機構(20)では、環状凸部(76)の突端面にシールリング(84)が設けられている。このシールリング(84)は、旋回スクロール(50)の旋回側背面側部材(54)の背面と環状凸部(76)の突端面との隙間をシールしている。
【0151】
圧縮機構(20)に設けられた継手ユニット(90)の一つは、冷却用流体回路(180)の一部を構成している。図13に示す圧縮機構(20)では、同図の右側に設けられた継手ユニット(90a)が、冷却用流体回路(180)の一部を構成している。
【0152】
図14に示すように、冷却用流体回路(180)を構成する継手ユニット(90a)において、固定側ピン(91a)と旋回側ピン(92a)のそれぞれは、両端が開口した円管状に形成される。固定側ピン(91a)の内部空間は、ハウジング部材(70)に形成された接続用通路(83)に連通している。旋回側ピン(92a)の内部空間は、旋回スクロール(50)に形成された導出通路(64)に連通している。
【0153】
また、この継手ユニット(90a)において、円筒部材(93a)には、二つのシールリング(94,95)が設けられている。具体的に、この円筒部材(93a)の両端面には、その内周縁に沿った円周状の段差部が形成されており、この段差部にシールリング(94,95)が嵌め込まれている。そして、図14における円筒部材(93a)の上端側に配置されたシールリング(94)は、旋回スクロール(50)の旋回側背面部材(54)の背面と摺接し、旋回側背面部材(54)と円筒部材(93a)の隙間をシールする。一方、同図における円筒部材(93a)の下端側に配置されたシールリング(95)は、ハウジング部材(70)の円板部(72)の前面と摺接し、ハウジング部材(70)と円筒部材(93a)の隙間をシールする。
【0154】
この継手ユニット(90a)において、円筒部材(93a)の内側の空間は、旋回側ピン(92)を介して旋回スクロール(50)の導出通路(64)に連通し、固定側ピン(91)を介してハウジング部材(70)の接続用通路(83)に連通する。また、円筒部材(93a)の内側の空間は、円筒部材(93a)に設けられたシールリング(94,95)によって外部からシールされている。そして、冷却用流体回路(180)を流れる冷凍機油は、旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)から旋回側ピン(92a)を通って円筒部材(93a)の内側の空間へ流入し、その後に固定側ピン(91a)を通って接続用通路(83)へ流入し、固定スクロール(30)の固定側通路(40)へ向かって流れてゆく。
【0155】
−第2変形例−
上述した各実施形態のスクロール圧縮機(171)では、オルダム継手(89)以外の機構が自転防止機構(88)として用いられていてもよい。ここでは、本変形の自転防止機構(88)について、それを上記実施形態1のスクロール圧縮機(171)に適用した場合を例に説明する。
【0156】
本変形例の自転防止機構(88)は、少なくとも三つの継手ユニット(90)によって構成されている。図15に示すように、各継手ユニット(90)は、ピン部材(96)と突出部(97)とを一つずつ備え、旋回スクロール(50)の旋回側鏡板部(56)の周方向において概ね等角度間隔に配置されている。
【0157】
ピン部材(96)は、円柱状あるいは円管状に形成され、旋回スクロール(50)に取り付けられている。具体的に、ピン部材(96)は、旋回側背面部材(54)の背面(図15における下面)から突出する姿勢で、旋回側背面部材(54)における周縁付近に埋設されている。ピン部材(96)の軸方向は、旋回側背面部材(54)の背面と実質的に直交している。
【0158】
突出部(97)は、ハウジング部材(70)と一体に形成されている。具体的に、突出部(97)は、ハウジング部材(70)の円板部(72)の前面(図15における上面)から突出しており、上端が平面となった短い柱状に形成されている。円板部(72)の前面において、突出部(97)は、旋回スクロール(50)に設けられたピン部材(96)と対面する位置に、各ピン部材(96)に対応して一つずつ配置されている。また、突出部(97)の突端面(図15における上面)は、旋回側背面部材(54)の背面と摺接する。
【0159】
各突出部(97)には、ガイド穴(98)が一つずつ形成されている。このガイド穴(98)は、断面が円形で有底の穴であって、突出部(97)の突端面に開口している。ガイド穴(98)には、対応するピン部材(96)のうち旋回スクロール(50)から突出した部分が挿入されている。
【0160】
本変形例の自転防止機構(88)において、ガイド穴(98)の壁面は、ピン部材(96)の外周面と接する。また、ガイド穴(98)の内径Dgは、ピン部材(96)の外径dpと旋回スクロール(50)の公転半径r2を2倍した値との和(dp+2×r2)と等しくなっている(Dg=dp+2×r2)。そして、スクロール圧縮機(171)の運転中に旋回スクロール(50)が移動しても、ガイド穴(98)の壁面がピン部材(96)の外周面と摺接し続け、その結果、旋回スクロール(50)の自転が規制される。
【0161】
圧縮機構(20)に設けられた継手ユニット(90)の一つは、冷却用流体回路(180)の一部を構成している。図15に示す圧縮機構(20)では、同図の右側に設けられた継手ユニット(90a)が、冷却用流体回路(180)の一部を構成している。
【0162】
図16に示すように、冷却用流体回路(180)を構成する継手ユニット(90a)において、ピン部材(96a)は、両端が開口した円管状に形成される。このピン部材(96a)の内部空間は、旋回スクロール(50)に形成された導出通路(64)に連通している。また、この継手ユニット(90a)では、突出部(97a)に形成されたガイド穴(98a)の底面に、接続用通路(83)が開口している。
【0163】
この継手ユニット(90a)において、突出部(97a)には、シールリング(99)が設けられている。具体的に、この突出部(97a)の突端面には、その内周縁に沿った円周状の溝が形成されており、この溝にシールリング(99)が嵌め込まれている。このシールリング(99)は、旋回スクロール(50)の旋回側背面部材(54)の背面と摺接し、旋回側背面部材(54)と突出部(97a)の隙間をシールする。
【0164】
この継手ユニット(90a)において、ガイド穴(98a)は、ピン部材(96a)を介して旋回スクロール(50)の導出通路(64)に連通すると共に、その底面に開口する接続用通路(83)に連通している。また、ガイド穴(98a)は、突出部(97a)に設けられたシールリング(99)によって外部からシールされている。そして、冷却用流体回路(180)を流れる冷凍機油は、旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)からピン部材(96a)を通ってガイド穴(98a)へ流入し、その後に接続用通路(83)へ流入して固定スクロール(30)の固定側通路(40)へ向かって流れてゆく。
【0165】
−第3変形例−
上述した各実施形態のスクロール圧縮機(171)に設けられた冷却用流体回路(180)では、固定スクロール(30)の固定側通路(40)の下流に旋回スクロール(50)の旋回側通路(60)が配置されていてもよい。ここで、本変形例を上記実施形態1のスクロール圧縮機(171)に適用したものについて、上記実施形態1のスクロール圧縮機(171)と異なる点を説明する。
【0166】
図17に示すように、本変形例のスクロール圧縮機(171)では、駆動軸(100)に形成された軸内通路(105)と、旋回スクロール(50)の円筒凸部(55)の内側に形成された上端空間(66)とが、冷却用流体回路(180)から除外されている。また、それに伴い、本実施形態のスクロール圧縮機(171)では、圧縮機構(20)および上流側油導入管(15)の構成が、上記実施形態1のものと相違している。更に、このスクロール圧縮機(171)には、二つの油ポンプ(127,128)が設けられている。
【0167】
本変形例の圧縮機構(20)では、固定スクロール(30)に形成された導入通路(43)および導出通路(44)の構成が、上記実施形態1と相違している。具体的に、導入通路(43)は、固定側背面部材(35)の背面(図17における上面)に開口している。固定側背面部材(35)の背面における導入通路(43)の開口端には、ケーシング(11)を貫通して設けられた上流側油導入管(15)が挿入されている。この導入通路(43)は、上流側油導入管(15)を、ラップ内通路(41)と鏡板内通路(42)の両方に連通させている。一方、導出通路(44)は、固定側本体部材(31)に形成された本体側連通路(45)に接続されている。この導出通路(44)は、本体側連通路(45)を、ラップ内通路(41)と鏡板内通路(42)の両方に連通させている。
【0168】
また、本変形例の圧縮機構(20)では、旋回スクロール(50)に形成された導入通路(63)および導出通路(64)の構成が、上記実施形態1と相違している。具体的に、導入通路(63)の一端は、旋回側背面部材(54)の背面(図17の下面)のうち環状溝(77)に臨む部分に開口している。この導入通路(63)は、ラップ内通路(61)と鏡板内通路(62)の両方を環状溝(77)に連通させている。上記実施形態4説明した通り、この導入通路(63)は、旋回スクロール(50)の位置に拘わらず常に環状溝(77)と連通する。一方、導出通路(64)は、旋回側背面部材(54)の背面のうちハウジング部材(70)の中央凹部(75)に臨む部分に開口している。この導出通路(64)は、ラップ内通路(61)と鏡板内通路(62)の両方を中央凹部(75)に連通させている。
【0169】
また、本変形例の圧縮機構(20)では、ハウジング部材(70)に排出通路(85)が形成されている。この排出通路(85)は、その一端が中央凹部(75)の壁面の下端付近に開口し、その他端がハウジング部材(70)の外側の表面に開口している。そして、この排出通路(85)は、中央凹部(75)をケーシング(11)の内部空間における圧縮機構(20)の外側に連通させている。
【0170】
本変形例のスクロール圧縮機(171)には、潤滑用油ポンプ(127)と冷却用油ポンプ(128)とが設けられている。潤滑用油ポンプ(127)および冷却用油ポンプ(128)は、何れもトロコイドポンプであって駆動軸(100)によって回転駆動される。潤滑用油ポンプ(127)の吐出口(123)は、駆動軸(100)の下端に開口する軸内通路(105)だけに接続されている。一方、冷却用油ポンプ(128)の吐出口(123)は、上流側油導出管(14)だけに接続されている。なお、潤滑用油ポンプ(127)および冷却用油ポンプ(128)の吸入口(122)は、ケーシング(11)内に貯留された冷凍機油に浸っている。
【0171】
本変形例のスクロール圧縮機(171)では、冷却用油ポンプ(128)と、上流側油導出管(14)と、上流側冷却器(181)と、上流側油導入管(15)と、固定側通路(40)と、接続用通路(83)と、環状溝(77)と、旋回側通路(60)と、中央凹部(75)と、排出通路(85)とによって、冷却用流体回路(180)が構成されている。
【0172】
冷却用油ポンプ(128)へ吸い込まれた冷凍機油は、上流側油導出管(14)へ向かって吐出される。上流側油導出管(14)へ流入した冷凍機油は、冷却用流体として冷却用流体回路(180)を流れ、固定スクロール(30)と旋回スクロール(50)を冷却するために利用される。
【0173】
つまり、冷却用油ポンプ(128)から吐出された冷凍機油は、上流側冷却器(181)において冷却された後に固定側通路(40)へ流入し、固定スクロール(30)から吸熱する。その後、冷凍機油は、接続用通路(83)と環状溝(77)を順に通過してから旋回側通路(60)へ流入し、旋回スクロール(50)から吸熱する。旋回側通路(60)を通過した冷凍機油は、中央凹部(75)へ流入し、その後に排出通路(85)を通って圧縮機構(20)の外部へ排出される。圧縮機構(20)から排出された冷凍機油は、ケーシング(11)の底部へと流れ落ちてゆく。
【0174】
一方、潤滑用油ポンプ(127)へ吸い込まれた冷凍機油は、軸内通路(105)へ向かって吐出される。軸内通路(105)へ流入した冷凍機油は、駆動軸(100)と軸受メタル(57,82,116)の摺動箇所や、圧縮機構(20)における部材同士の摺動箇所へ供給され、これら摺動箇所の潤滑に利用される。
【0175】
−第4変形例−
上述した各実施形態のスクロール圧縮機(171)に設けられた冷却用流体回路(180)では、図18に示すように、上流側冷却器(181)の下流側に油ポンプ(120)が配置されていてもよい。本変形例のスクロール圧縮機(171)において、上流側油導出管(14)の始端は、ケーシング(11)の内部空間に開口し、ケーシング(11)内に貯留された冷凍機油に浸される。また、上流側油導入管(15)の終端は、油ポンプ(120)の吸入口(122)に接続される。油ポンプ(120)の吐出口(123)は、駆動軸(100)の下端に開口する軸内通路(105)に接続される。本変形例の冷却用流体回路(180)において、冷却用流体としての冷凍機油は、上流側冷却器(181)において冷却されから油ポンプ(120)へ吸い込まれ、油ポンプ(120)から軸内通路(105)へ吐出される。
【0176】
−第5変形例−
上述した各実施形態のスクロール圧縮機(171)は、圧縮機構(20)から吐出されたガス冷媒によってケーシング(11)の内部空間が満たされる高圧ドーム型に構成されているが、これら各実施形態のスクロール圧縮機(171)は、圧縮機構(20)へ吸入されるガス冷媒によってケーシング(11)の内部空間が満たされる低圧ドーム型に構成されていてもよい。ここでは、本変形例を上記実施形態1のスクロール圧縮機(171)に適用したものについて、上記実施形態1と異なる点を説明する。
【0177】
図19に示すように、本変形例の圧縮機構(20)には、カバー部材(28)が設けられている。このカバー部材(28)は、固定スクロール(30)の固定側背面部材(35)の背面(図19における上面)に、逆止弁(25)を覆うように設けられている。この圧縮機構(20)では、カバー部材(28)と固定側背面部材(35)とによって、吐出ポート(22)に連通する閉空間が形成されている。本変形例の吐出管(13)は、その一端がカバー部材(28)に取り付けられており、カバー部材(28)の内側に形成されて吐出ポート(22)と連通する空間に接続している。この吐出管(13)は、ケーシング(11)を貫通してケーシング(11)の外部へ延びている。
【0178】
また、本変形例の圧縮機構(20)では、吸入ポート(21)がハウジング部材(70)に形成されている。この吸入ポート(21)は、ハウジング本体部(71)をその背面(図19における下面)からその前面(同図における上面)へ向かって貫通している。そして、吸入ポート(21)は、ケーシング(11)の内部空間における圧縮機構(20)と電動機(110)の間の部分を、ハウジング部材(70)と固定スクロール(30)によって囲まれた空間に連通させている。本変形例の吸入管(12)は、ケーシング(11)を貫通しており、その一端がケーシング(11)の内部空間における圧縮機構(20)と電動機(110)の間の部分に開口している。
【0179】
本変形例のスクロール圧縮機(171)において、吸入管(12)を通ってケーシング(11)の内部空間へ流入した低圧のガス冷媒は、吸入ポート(21)を通って圧縮室(23)へ吸入されて圧縮される。圧縮室(23)内で圧縮されたガス冷媒は、吐出ポート(22)を通ってカバー部材(28)の内側の空間へ流入し、その後に吐出管(13)を通ってケーシング(11)の外部へ流出してゆく。
【0180】
−第6変形例−
上述した各実施形態のスクロール圧縮機(171)では、油ポンプ(120,127,128)としてトロコイドポンプを用いているが、油ポンプ(120,127,128)として使用できるポンプはこれに限定されるものではなく、例えば歯車ポンプを油ポンプ(120,127,128)として用いてもよい。
【0181】
−第7変形例−
上述した各実施形態では、空気調和装置(150)の冷媒回路(160)にスクロール圧縮機(171)を設けているが、スクロール圧縮機(171)の用途はこれに限定されるものではない。上述したスクロール圧縮機(171)は、例えば冷蔵庫内を冷却する冷凍装置の冷媒回路に設けられていてもよいし、冷媒によって水を加熱する給湯機の冷媒回路に設けられていてもよい。また、上述したスクロール圧縮機(171)は、冷媒を圧縮するためだけでなく、例えば空気を圧縮するために用いられてもよい。
【0182】
−第8変形例−
上述した各実施形態のスクロール圧縮機(171)では、冷却用流体として冷凍機油(即ち、潤滑油)を用いているが、冷却用流体として冷凍機油以外の流体を用いてもよい。例えば、冷媒回路(160)内の冷媒や冷却水などを、冷却用流体として用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0183】
以上説明したように、本発明は、固定スクロールと旋回スクロールを流体によって冷却するスクロール圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0184】
11 ケーシング
12 吸入管
13 吐出管
20 圧縮機構
23 圧縮室
30 固定スクロール
33 固定側ラップ(ラップ)
40 固定側通路(冷却用通路)
50 旋回スクロール
53 旋回側ラップ(ラップ)
60 旋回側通路(冷却用通路)
100 駆動軸
105 軸内通路
130 油溜め部(貯留部)
171 スクロール圧縮機
180 冷却用流体回路
181 上流側冷却器
183 下流側冷却器
184 動力回収機(エネルギ回収機構)
185 インジェクション通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛合して圧縮室(23)を形成する固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)が設けられ、被圧縮ガスを上記圧縮室(23)に吸入して圧縮する圧縮機構(20)を備えたスクロール圧縮機であって、
上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)のそれぞれには、冷却用流体を流通させると共にその流通する冷却用流体の一部を上記圧縮室(23)へ漏出させるための冷却用通路(40,60)が形成される一方、
上記冷却用流体の貯留部(130)を有し、該貯留部(130)の冷却用流体を上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)へ供給する冷却用流体回路(180)を備えている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記圧縮機構(20)が収容される容器状のケーシング(11)を備え、
上記ケーシング(11)の内部空間には、上記圧縮機構(20)を潤滑するための潤滑油が貯留される油溜め部(130)が上記貯留部として設けられ、
上記冷却用流体回路(180)は、上記油溜め部(130)の潤滑油を冷却用流体として上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)へ供給する一方、該冷却用通路(40,60)へ供給される潤滑油を冷却する上流側冷却器(181)を有している
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)のそれぞれは、互いに噛合して上記圧縮室(23)を形成する渦巻き状のラップ(33,53)を備え、
上記冷却用通路(40,60)は、該冷却用通路(40,60)を流通する潤滑油の一部を上記ラップ(33,53)の先端から上記圧縮室(23)へ漏出させる
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項2または3において、
上記ケーシング(11)には、外部から被圧縮ガスを圧縮機構(20)へ直接導入するための吸入管(12)が設けられ、
上記冷却用流体回路(180)は、上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)を流通した潤滑油を上記吸入管(12)へ流すためのインジェクション通路(185)と、該インジェクション通路(185)に接続されて上記吸入管(12)へ流れる潤滑油を冷却する下流側冷却器(183)とを有している
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項2または3において、
上記ケーシング(11)には、上記旋回スクロール(50)に係合し該旋回スクロール(50)を駆動する駆動軸(100)が収容され、
上記駆動軸(100)の内部には、上記上流側冷却器(181)によって冷却された潤滑油を流通させるための軸内通路(105)が形成され、
上記冷却用流体回路(180)は、上記軸内通路(105)を流通した潤滑油を上記固定スクロール(30)および旋回スクロール(50)の冷却用通路(40,60)へ供給する
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項4において、
上記圧縮機構(20)は、圧縮した被圧縮ガスを上記ケーシング(11)の内部空間へ吐出する一方、
上記ケーシング(11)には、上記圧縮機構(20)から吐出された被圧縮ガスを外部へ導出するための吐出管(13)が設けられ、
上記油溜め部(130)は、上記圧縮機構(20)から吐出された被圧縮ガスが存在する部分に設けられている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項4において、
上記冷却用流体回路(180)は、上記インジェクション通路(185)に設けられて該インジェクション通路(185)を流れる潤滑油のエネルギを回収するためのエネルギ回収機構(184)を有している
ことを特徴とするスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−12629(P2011−12629A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158983(P2009−158983)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】