説明

スクロール型圧縮機

【課題】可動スクロールが転覆しても、その摺動面への給油量が増加するのを抑制すること。
【解決手段】固定スクロール60の外縁部62の摺動面に形成された凹部82と、可動スクロール70の鏡板71に形成され且つ凹部82に開口して潤滑油を凹部92に供給する油供給路81とを備え、凹部82に開口する油供給路81の流出端は可動スクロールの公転に伴って凹部82内を公転する。凹部82の底壁の一部が突出してなる閉塞部91を備える。閉塞部91は、可動スクロール70に作用する転覆モーメントが所定値以上となる公転角度領域で、油供給路81の流出端の一部を塞ぎ、前記公転角度領域以外では油供給路81の流出端の全体を開放するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に関し、特に固定スクロールと可動スクロールの摺動面における給油対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、固定スクロールと可動スクロールとの摺動面に潤滑油を供給するスクロール型圧縮機が、例えば特許文献1に開示されている。このスクロール型圧縮機では、ケーシング内の高圧の潤滑油が駆動軸の給油通路を通じて固定スクロールの鏡板と可動スクロールの鏡板との摺動面に供給される。これにより、摺動面が潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3731433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなスクロール型圧縮機では、固定スクロールと可動スクロールとが噛合して形成される圧縮室のガス圧(スラスト方向やラジアル方向のガス荷重)に起因して、可動スクロールに転覆モーメントが作用する。この転覆モーメントは、可動スクロールが1公転する間変動し、所定の公転角度でピークの値となる。転覆モーメントがピーク値またはその近傍の値になると、可動スクロールが転覆する虞が高くなる。可動スクロールが転覆すると、固定スクロールの鏡板と可動スクロールの鏡板が離反し、これら摺動面に供給されていた潤滑油が増量する。つまり、各スクロールの鏡板同士が離反すると、鏡板同士が摺動しているときと比べて潤滑油の供給抵抗が一気に減少するため、供給される潤滑油の量が著しく増加する。このように、潤滑油の供給量が増加すると、圧縮機室内へ流入する潤滑油の量が増加し、その結果、圧縮室内の吸入流体が高圧の潤滑油によって加熱されて吸入過熱が増大するという問題が生じる。また、潤滑油の供給量が増加すると、その分他の摺動部への潤滑油の供給量が減少して潤滑不足が生じるという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、固定スクロールと可動スクロールの摺動面に潤滑油が供給されるスクロール型圧縮機において、可動スクロールが転覆しても、その摺動面への給油量が増加するのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、可動スクロール(70)に作用する転覆モーメントがピークまたはピーク近傍になるタイミングで、潤滑油が固定スクロール(60)と可動スクロール(70)との摺動面へ流通しにくくなるようにしたものである。
【0007】
具体的に、第1の発明は、ケーシング(20)と、ラップ(63)が立設される鏡板(61)および前記ラップ(63)の外周側に形成される外縁部(62)を有する固定スクロール(60)と、該固定スクロール(60)のラップ(63)に噛合するラップ(72)が立設され且つ前記固定スクロール(60)の外縁部(62)に摺接する鏡板(71)を有する可動スクロール(70)とを備え、前記ケーシング(20)に収容される圧縮機構(40)と、前記固定スクロール(60)の外縁部(62)と前記可動スクロール(70)の鏡板(71)との摺動面に潤滑油を常時供給する油供給機構(80)と、前記可動スクロール(70)の1公転中に前記可動スクロール(70)に作用する転覆モーメントが所定値以上となる前記可動スクロール(70)の公転角度領域で、前記油供給機構(80)の潤滑油の供給抵抗を増大させる調整機構(90)とを備えているスクロール型圧縮機である。
【0008】
上記第1の発明では、固定スクロール(60)の外縁部(62)と可動スクロール(70)の鏡板(71)とが摺動しながら、可動スクロール(70)が固定スクロール(60)に対して公転(旋回)する。これにより、両スクロール(60,70)の間に形成される圧縮室で流体が圧縮される。この圧縮室の流体圧によって、可動スクロール(70)に転覆モーメントが作用する。圧縮室の流体圧は可動スクロール(70)の公転運動に伴って変動し、それに伴って転覆モーメントは変動し所定の公転角度でピークとなる。
【0009】
一方、本発明では、可動スクロール(70)が公転運動する間、常に、油供給機構(80)によって固定スクロール(60)と可動スクロール(70)との摺動面に潤滑油が供給される。これにより、摺動面が潤滑され、摺動損失が低減される。ここで、可動スクロール(70)の公転角度が所定の角度領域となり、可動スクロール(70)に作用する転覆モーメントが所定値以上となると、可動スクロール(70)が転覆する可能性が高くなる。可動スクロール(70)が転覆すると、それまで摺動していた固定スクロール(60)の外縁部(62)と可動スクロール(70)の鏡板(71)とが離反し、油供給機構(80)による潤滑油の供給抵抗が著しく減少する。そうすると、潤滑油の供給量が増加する。ところが、本発明では、転覆モーメントが所定値以上となる所定の公転角度領域になると、油供給機構(80)による潤滑油の供給抵抗が増大される。そのため、潤滑油が摺動面へ供給されにくくなる。これにより、摺動面への給油量が増加するのを回避できる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、前記油供給機構(80)が、前記固定スクロール(60)の外縁部(62)と前記可動スクロール(70)の鏡板(71)との摺動面に形成された凹部(82,86)と、前記固定スクロール(60)または前記可動スクロール(70)に形成され且つ前記凹部(82,86)に開口して潤滑油を前記凹部(82,86)に供給する油供給路(81,85)とを備え、該油供給路(81,85)の凹部側開口端の全体が前記可動スクロール(70)の1公転中に亘って前記凹部(82,86)の内部に位置するように構成されている。そして、前記調整機構(90)は、前記固定スクロール(60)の外縁部(62)または前記可動スクロール(70)の鏡板(71)に形成され、且つ、前記凹部(82,86)の内部において前記可動スクロール(70)の公転に伴って前記油供給路(81,85)の凹部側開口端との間で相対的に公転し、その公転中に前記公転角度領域で前記油供給路(81,85)の凹部側開口端の一部を塞ぐ一方、前記公転角度領域以外の公転角度領域では前記油供給路(81,85)の凹部側開口端の全体を開放する閉塞部(91,92)を備えているものである。
【0011】
上記第2の発明では、摺動面に形成された凹部(82,86)に潤滑油が供給されるため、摺動面において一定量の潤滑油が介在しやすくなる。これにより、摺動面の潤滑性能が向上する。一方、凹部(82,86)内には閉塞部(91,92)が位置し、可動スクロール(70)の公転に伴って、閉塞部(91,92)が凹部(82,86)内で相対的に公転する。その公転動作中では、転覆モーメントが所定値以上となる公転角度領域になると、凹部(82,86)内へ開口する油供給路(81,85)の開口端(凹部側開口端)の一部が閉塞部(91,92)によって塞がれ、上述した公転角度領域以外では、開口端(凹部側開口端)の全体が開放される。油供給路(81,85)の開口端の一部が塞がれると、開口端の全体が開放されているときと比べて、油供給路(81,85)から凹部(82,86)内への潤滑油の流通抵抗が増大する。つまり、摺動面への潤滑油の供給抵抗が増大する。これにより、可動スクロール(70)が転覆しても、潤滑油が凹部(82,86)内へ供給されにくくなり、給油量の増加が回避される。
【0012】
第3の発明は、上記第2の発明において、前記凹部(82)が、前記固定スクロール(60)の外縁部(62)または前記可動スクロール(70)の鏡板(71)の摺動面に形成される一方、前記油供給路(81)が、前記凹部(82)の形成側とは異なる前記固定スクロール(60)または可動スクロール(70)に形成されている。そして、前記閉塞部(91)は、前記凹部(82)の底壁の一部が該凹部(82)の開口側へ突出して形成されているものである。
【0013】
上記第3の発明では、例えば図2に示すように、凹部(82)が固定スクロール(60)の外縁部(62)の摺動面に形成され、その凹部(82)内に閉塞部(91)が形成されている。また、油供給路(81)が可動スクロール(70)に形成され凹部(82)内に開口している。この構成では、可動スクロール(70)の公転に伴って、油供給路(81)の開口端が凹部(82)内で公転する。つまり、静止状態の閉塞部(91)に対して油供給路(81)の開口端が公転する。そして、転覆モーメントが所定値以上となる公転角度領域では、油供給路(81)の開口端の一部が閉塞部(91)によって塞がれる。
【0014】
第4の発明は、上記第2の発明において、前記凹部(86)が、前記固定スクロール(60)の外縁部(62)または前記可動スクロール(70)の鏡板(71)の摺動面に形成される一方、前記油供給路(85)が、前記凹部(86)が形成される前記固定スクロール(60)または可動スクロール(70)に形成されて前記凹部(86)の底部に開口している。そして、前記閉塞部(92)は、前記凹部(86)の形成側とは異なる前記固定スクロール(60)の外縁部(62)または前記可動スクロール(70)の鏡板(71)の摺動面から突出して前記凹部(86)の内部に位置するように形成されているものである。
【0015】
上記第4の発明では、例えば図10に示すように、凹部(86)および油供給路(85)が可動スクロール(70)に形成され、閉塞部(92)が固定スクロール(60)における外縁部(62)の摺動面から突出して凹部(86)内に位置する。この構成では、可動スクロール(70)が公転しても、凹部(86)と油供給路(85)の開口端との位置関係は変化しない。この構成では、可動スクロール(70)が公転すると、凹部(86)および油供給路(85)の開口端が静止状態の閉塞部(92)に対して公転する。つまり、凹部(86)内において閉塞部(92)は油供給路(85)の開口端との間で相対的に公転する。そして、転覆モーメントが所定値以上となる公転角度領域では、油供給路(85)の開口端の一部が閉塞部(92)によって塞がれる。
【0016】
第5の発明は、上記第2乃至第4のいずれか1の発明において、前記油供給機構(80)は、前記凹部(82,86)が形成される前記摺動面に形成され、前記凹部(82,86)に繋がると共に周方向に延びる油溝(83,87)を備えているものである。
【0017】
上記第5の発明では、例えば図3に示すように、凹部(82,86)が形成される摺動面において凹部(82,86)に連通し且つ周方向に延びる油溝(83,87)が形成される。この構成では、油供給路(81,85)から凹部(82,86)内へ供給された潤滑油が油溝(83,87)に流れる。これにより、摺動面のできるだけ広い範囲に潤滑油が供給されるので、摺動面の潤滑性能がより向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、転覆モーメントが所定値以上となる公転角度領域において油供給機構(80)の潤滑油の供給抵抗を増大させる調整機構(90)を備えるようにしたため、可動スクロール(70)が転覆したときに、固定スクロール(60)と可動スクロール(70)との摺動面に供給される潤滑油の量が増大するのを回避することができる。つまり、可動スクロール(70)の1公転中に亘って、摺動面への潤滑油の供給量を一定にすることができる。これにより、吸入過熱の増大や他の摺動部における潤滑不足を回避することができる。
【0019】
第2〜第4の発明によれば、転覆モーメントが所定値以上となる公転角度領域θ1〜θ2で、凹部(82,86)へ開口する油供給路(81,85)の流出端の一部を閉塞部(91,92)によって塞ぐようにした。つまり、所定の公転角度領域で油供給路(81,85)の流出端を閉塞部(91,92)によって絞るようにした。そのため、簡易な構成で、油供給機構(80)の潤滑油の供給抵抗を確実に増大させることができる。よって、可動スクロール(70)の転覆時における潤滑油の供給量増大を確実に回避することが可能である。
【0020】
第5の発明によれば、固定スクロール(60)と可動スクロール(70)との摺動面において凹部(82,86)に繋がると共に周方向に延びる油溝(83,87)を形成するようにした。これにより、摺動面のできるだけ広い範囲に潤滑油を供給することができ、摺動面の潤滑性能をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施形態に係るスクロール型圧縮機の縦断面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係るスクロール型圧縮機の要部の縦断面図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る固定スクロールの下面図に、可動スクロールの一部を表した図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る油供給機構および調整機構の構成を示す平面図である。
【図5】図5は、実施形態1に係る油供給路の公転動作を示す平面図である。
【図6】図6は、クランク角度に対する油供給路の開口面積および転覆モーメントを示すグラフである。
【図7】図7は、油供給路の形成位置について説明するための図である。
【図8】図8は、実施形態1の変形例に係るの油供給機構および調整機構の構成を示す平面図である。
【図9】図9は、実施形態1の変形例に係るの油供給路の公転動作を示す平面図である。
【図10】図10は、実施形態2に係るスクロール型圧縮機の要部の縦断面図である。
【図11】図11は、実施形態2に係る油供給機構および調整機構の構成を示す平面図である。
【図12】図12は、実施形態2に係る油供給路の公転動作を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0023】
《実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態に係るスクロール型圧縮機(10)は、冷凍装置の冷媒回路に接続されている。つまり、冷凍装置では、スクロール型圧縮機(10)で圧縮された冷媒が、冷媒回路を循環することで、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
【0024】
図1および図2に示すように、スクロール型圧縮機(10)は、ケーシング(20)と、該ケーシング(20)に収納された電動機(30)および圧縮機構(40)とを備えている。ケーシング(20)は、縦長の円筒状に形成され、密閉ドームに構成されている。
【0025】
電動機(30)は、駆動軸(11)を回転させて圧縮機構(40)を駆動させる駆動機構を構成している。電動機(30)は、ケーシング(20)に固定された固定子(31)と、該固定子(31)の内側に配置された回転子(32)とを備えている。回転子(32)は、駆動軸(11)が貫通し、該駆動軸(11)に固定されている。
【0026】
ケーシング(20)の底部は、潤滑油が貯留された油溜まり部(21)を構成している。また、ケーシング(20)の上部には、吸入管(12)が貫通して固定される一方、中央部には、吐出管(13)が連結されている。
【0027】
ケーシング(20)には、電動機(30)の上方に位置するハウジング(50)が固定されると共に、該ハウジング(50)の上方に圧縮機構(40)が設けられている。そして、吐出管(13)の流入端は、電動機(30)とハウジング(50)との間に開口している。
【0028】
駆動軸(11)は、ケーシング(20)に沿って上下方向に配置され、主軸部(14)と、該主軸部(14)の上端に連結された偏心部(15)とを備えている。主軸部(14)の下部は、下部軸受(22)を介してケーシング(20)に支持され、主軸部(14)の上部は、ハウジング(50)を貫通し、該ハウジング(50)の上部軸受(51)に支持されている。
【0029】
圧縮機構(40)は、ハウジング(50)の上面に固定された固定スクロール(60)と、該固定スクロール(60)に噛合する可動スクロール(70)とを備えている。可動スクロール(70)は、固定スクロール(60)とハウジング(50)との間に配置され、該ハウジング(50)に設置されている。
【0030】
ハウジング(50)は、外周部に環状部(52)が形成されると共に、中央部の上部に大径凹部(53)が形成されて中央部が凹んだ皿状に形成され、大径凹部(53)の下方が上部軸受(51)を構成している。ハウジング(50)は、ケーシング(20)に圧入固定され、ケーシング(20)の内周面とハウジング(50)の環状部(52)の外周面とは全周に亘って気密状に密着されている。そして、ハウジング(50)は、ケーシング(20)の内部を、圧縮機構(40)が収納される上部空間(23)と電動機(30)が収納される下部空間(24)とに仕切っている。
【0031】
固定スクロール(60)は、ハウジング(50)に固定される固定部材を構成している。固定スクロール(60)は、鏡板(61)と、該鏡板(61)の外周に連続的に形成される外縁部(62)と、該外縁部(62)の内側において鏡板(61)の正面(図1および図2における下面)に立設するラップ(63)とを備えている。鏡板(61)は、略円板状に形成されている。外縁部(62)は、鏡板(61)から下方に突出するように形成されている。ラップ(63)は、渦巻き状(インボリュート状)に形成されている(図3を参照)。外縁部(62)の先端面とラップ(63)の先端面とは、略面一に形成されている。
【0032】
可動スクロール(70)は、固定スクロール(60)に対して公転(旋回)する可動部材を構成している。可動スクロール(70)は、鏡板(71)と、該鏡板(71)の正面(図1および図2における上面)に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(72)と、鏡板(71)の背面中心部に形成された筒状のボス部(73)とを備えている。ボス部(73)には、駆動軸(11)の偏心部(15)が挿入されている。これにより、可動スクロール(70)は、駆動軸(11)を介して電動機(30)と連結されている。
【0033】
圧縮機構(40)は、可動スクロール(70)のラップ(72)と、固定スクロール(60)のラップ(63)とが噛合するように構成されている。圧縮機構(40)では、両者のラップ(63,72)の接触部の間に圧縮室(41)が形成されている。つまり、図3に示すように、固定スクロール(60)では、外縁部(62)とラップ(63)との間や、隣り合うラップ(63)の間にラップ溝が形成されている。また、可動スクロール(70)では、隣り合うラップ(72)の間にラップ溝が形成されている。圧縮機構(40)では、上記圧縮室(41)が、これらのラップ溝の内部に形成される。
【0034】
固定スクロール(60)の外縁部(62)には、吸入ポート(12a)が形成されている。吸入ポート(12a)には、吸入管(12)の下流端が接続されている。また、固定スクロール(60)の鏡板(61)の中央には、吐出口(65)が形成されている。固定スクロール(60)の鏡板(61)の背面(図1および図2における上面)には、吐出口(65)が開口する高圧チャンバ(66)が形成されている。高圧チャンバ(66)は、固定スクロール(60)の鏡板(61)およびハウジング(50)に形成された通路(図示省略)を介して、下部空間(24)に連通している。これにより、下部空間(24)は、圧縮機構(40)の吐出冷媒の圧力に相当する高圧雰囲気となっている。
【0035】
駆動軸(11)の内部には、下端から上端まで延びる給油路(16)が形成されている。駆動軸(11)の下端部には給油ポンプ(17)が取り付けられている。駆動軸(11)の下端部および給油ポンプ(17)は油溜まり部(21)に浸漬されている。給油路(16)は、給油ポンプ(17)によって吸い上げた油溜まり部(21)の潤滑油を、下部軸受(22)、上部軸受(51)の摺動面に供給する。また、給油路(16)は、駆動軸(11)の上端面に開口しており、潤滑油をボス部(73)内にも供給してボス部(73)の摺動面を潤滑する。油溜まり部(21)の潤滑油は、下部空間(24)が高圧雰囲気となっているため、同様に高圧となっている。
【0036】
ハウジング(50)の環状部(52)には、図示しないが、内周部の上面にシール部材が設けられている。シール部材は、大径凹部(53)を気密に仕切っており、この大径凹部(53)には、高圧の潤滑油が流れる給油路(16)が連通している。これにより、大径凹部(53)の内部には、圧縮機構(40)の吐出冷媒の圧力に相当する高圧雰囲気となる、背圧部(42)が形成されている。背圧部(42)は、可動スクロール(70)の鏡板(71)の背面に高圧圧力を作用させて、可動スクロール(70)を固定スクロール(60)側に押し付ける、押し付け機構を構成している。
【0037】
また、シール部材の外周側には、中間圧空間である中間圧部(43)が区画されている。つまり、中間圧部(43)は、圧縮機構(40)の吸入圧と吐出圧との間の中間の圧力の雰囲気となっている。中間圧部(43)は、可動側圧力部(44)と固定側圧力部(45)とを備えている。可動側圧力部(44)は、可動スクロール(70)の鏡板(71)の背面の一部である鏡板(71)の外周部から鏡板(71)の側方に亘って形成されている。つまり、可動側圧力部(44)は、背圧部(42)の外側に形成され、中間圧力で可動スクロール(70)を固定スクロール(60)側に押し付けている。固定側圧力部(45)は、上部空間(23)における固定スクロール(60)の外側に形成され、固定スクロール(60)の鏡板(61)における外縁部(63)とケーシング(20)との間を介して可動側圧力部(44)に連通している。
【0038】
なお、ハウジング(50)には、可動スクロール(70)の自転阻止部材(46)が設けられている。自転阻止部材(46)は、例えば、オルダムリングで構成され、ハウジング(50)の環状部(52)の上面に設けられ、可動スクロール(70)の鏡板(71)とハウジング(50)とに摺動自在に嵌め込まれている。
【0039】
〈油供給機構および調整機構の構成〉
図2〜図4に示すように、圧縮機構(40)は、油供給機構(80)と調整機構(90)を備えている。
【0040】
油供給機構(80)は、可動スクロール(70)が公転している間、常時、固定スクロール(60)の外縁部(62)と可動スクロール(70)の鏡板(71)との摺動面に潤滑油を供給するものである。調整機構(90)は、可動スクロール(70)の1公転中に可動スクロール(70)に作用する転覆モーメントが所定値以上となる公転角度領域で、油供給機構(80)の潤滑油の供給抵抗を増大させるものである。
【0041】
油供給機構(80)は、油供給路(81)、凹部(82)および油溝(83)を有する。油供給路(81)は、可動スクロール(70)の鏡板(71)に形成されている。油供給路(81)は、流入端がボス部(73)内の空間に開口し、流出端が鏡板(71)の正面(図2における上面)に開口している。つまり、油供給路(81)の流出端は固定スクロール(60)の外縁部(62)と摺動する鏡板(71)の摺動面に開口している。なお、この油供給路(81)の流出端は、本発明に係る凹部側開口端を構成する。油供給路(81)は、駆動軸(11)の給油路(16)からボス部(73)内に流出した潤滑油が流入する。凹部(82)および油溝(83)は、固定スクロール(60)の外縁部(62)に形成されている。つまり、凹部(82)および油溝(83)は、可動スクロール(70)の鏡板(71)と摺動する外縁部(62)の摺動面に形成されている。凹部(82)は、平面視円形の扁平な円板状に形成されている。油溝(83)は、周方向に延びる略円弧状に形成されている。油溝(83)は、途中に前記凹部(82)が形成され該凹部(82)に繋がっている。
【0042】
油供給機構(80)では、油供給路(81)の流出端が凹部(82)に開口するように構成されている。そして、図5に矢印で示すように、可動スクロール(70)が公転するのに伴って、油供給路(81)の流出端(開口端)は凹部(82)内をSを公転中心として公転する。つまり、油供給機構(80)では、可動スクロール(70)の1公転中に亘って、油供給路(81)の流出端が凹部(82)の外側へはみ出ることなく流出端の全体が凹部(82)内に位置する。この構成では、高圧の潤滑油が油供給路(81)を通じて凹部(82)内へ供給され、次いで油溝(83)へ流入する。
【0043】
調整機構(90)は、固定スクロール(60)の凹部(82)内に形成される円柱状の閉塞部(91)を有する。この閉塞部(91)は、凹部(82)の底壁の一部が該凹部(82)の開口側へ突出してなる凸部であり、凹部(82)の側壁に接することなく形成されている。つまり、閉塞部(91)は凹部(82)と一体形成されている。そして、閉塞部(91)は、その中心Rが凹部(82)の中心Qから所定量だけずれて形成されている(図4参照)。つまり、閉塞部(91)と凹部(82)とは偏心している。また、閉塞部(91)は、油供給路(81)の流出端が1公転する間において、所定の公転角度領域で油供給路(81)の流出端の一部が閉塞部(91)によって塞がれ(図5の81(d),81(e)の状態)、前記公転角度領域以外の公転角度領域では油供給路(81)の流出端の全体が開放される(図5の81(a),81(b),81(c)の状態)。前記所定の公転角度領域とは、可動スクロール(70)に作用する転覆モーメントが所定値以上となる公転角度領域である。また、凹部(82)は、固定スクロール(60)の外縁部(62)の摺動面において、可動スクロール(70)が転覆モーメントによって転覆した際に固定スクロール(60)の外縁部(62)と可動スクロール(70)の鏡板(71)とが離反する領域に形成されている。
【0044】
−運転動作−
先ず、スクロール型圧縮機(10)の基本的な運転動作について説明する。
【0045】
電動機(30)を作動させると、圧縮機構(40)の可動スクロール(70)が回転駆動する。可動スクロール(70)は、自転阻止部材(46)によって自転を防止されているので、可動スクロール(70)が自転することはなく、駆動軸(11)の軸心を中心に公転(旋回)のみを行う。つまり、固定スクロール(60)の外縁部(62)と可動スクロール(70)の鏡板(71)とが摺動しながら、可動スクロール(70)が固定スクロール(60)に対して公転(旋回)する。可動スクロール(70)の公転に伴い、圧縮室(41)の容積が中心に向かって縮小し、圧縮室(41)は、吸入管(12)より吸入されたガス冷媒を圧縮する。圧縮が完了したガス冷媒は、固定スクロール(60)の吐出口(65)を介して、高圧チャンバ(66)に吐出される。高圧チャンバ(66)の高圧のガス冷媒は、固定スクロール(60)およびハウジング(50)の通路を介して下部空間(24)に流れる。そして、下部空間(24)の冷媒は、吐出管(13)を介して、ケーシング(20)の外部へ吐出される。
【0046】
ケーシング(20)の下部空間(24)は、吐出される高圧のガス冷媒の圧力状態に保持され、油溜まり部(21)の潤滑油も高圧状態に保持される。油溜まり部(21)の高圧の潤滑油は、駆動軸(11)の給油路(16)を上端へ向かって流れ、駆動軸(11)の偏心部(15)の上端開口から可動スクロール(70)のボス部(73)の内部に流出する。該ボス部(73)に供給された油は、ボス部(73)と駆動軸(11)の偏心部(15)との摺動面を潤滑する。したがって、ボス部(73)の内部および背圧部(42)が吐出圧力に相当する高圧雰囲気になる。この高圧圧力が可動スクロール(70)の背面に作用することで、可動スクロール(70)が固定スクロール(60)側に押し付けられる。この押し付け力によって、可動スクロール(70)が圧縮室(41)のガス圧によって固定スクロール(60)から離反する状態が回避される。その結果、圧縮室(41)のシール性が向上し、圧縮効率の向上を図ることができる。
【0047】
〈油供給機構および調整機構の作用〉
駆動軸(11)の給油路(16)から可動スクロール(70)のボス部(73)内に流出した高圧の潤滑油は、油供給路(81)を通って固定スクロール(60)の凹部(82)へ供給される。この凹部(82)への潤滑油の供給は、可動スクロール(70)が公転する間常に行われる。これにより、摺動面が潤滑され、摺動損失が低減される。特に、潤滑油が摺動面に直接的に供給されるのではなく、一定の容積を有する凹部(82)に供給されるため、摺動面において一定量の潤滑油が介在しやすくなる。これにより、摺動面の潤滑性能が向上する。凹部(82)内に供給された高圧の潤滑油は、油溝(83)へ流入する。これにより、広範囲の摺動面に対して潤滑油を供給することができ、摺動面の潤滑性能がより向上する。また、凹部(82)および油溝(83)の潤滑油の一部は、内側の圧縮室(41)内へ流入する。この流入した潤滑油によって、各ラップ(63,72)と各鏡板(61,71)との微小な隙間がシールされる。これにより、圧縮室(41)のシール性が向上する。また、上述したように可動スクロール(70)が固定スクロール(60)側に押し付けられるため、固定スクロール(60)と可動スクロール(70)との摺動抵抗が増大する傾向となるが、凹部(82)内に供給された潤滑油によってその摺動抵抗が低減される。
【0048】
ところで、圧縮室(41)のガス圧は可動スクロール(70)の公転運動に伴って変動し、それに伴って転覆モーメントも変動する。具体的に、転覆モーメントは、可動スクロール(70)が1公転する間、図6に示すように変動する。そして、所定の公転角度領域θ1〜θ2で、転覆モーメントが所定値M以上となる。この所定値Mは、可動スクロール(70)が転覆する虞が高くなる値である。そして、公転角度領域θ1〜θ2における公転角度θ3で、転覆モーメントはピークとなる。なお、図6では、公転角度をクランク角度と称しており、公転角度0°〜360°の変動を示すグラフである。
【0049】
可動スクロール(70)の公転角度が公転角度領域θ1〜θ2となって可動スクロール(70)が転覆すると、それまで摺動していた固定スクロール(60)の外縁部(62)と可動スクロール(70)の鏡板(71)とが離反し、油供給路(81)から凹部(82)への潤滑油の流通抵抗が著しく減少する。そうすると、油供給路(81)から凹部(82)へ供給される潤滑油量が増加する。その結果、圧縮室(41)内の吸入冷媒が高圧の潤滑油によって加熱されて吸入過熱が増大したり、上部軸受(51)や下部軸受(22)など他の摺動部への潤滑油の供給量が減少して潤滑不足が生じてしまう。
【0050】
ところが、本実施形態では、可動スクロール(70)が転覆する可能性が低い公転角度領域θ1〜θ2以外の公転角度領域では、図5に81(a)〜81(c)で示すように、油供給路(81)の流出端の全体が開放され、可動スクロール(70)が転覆する可能性が高い公転角度領域θ1〜θ2では、図5に81(d)および81(e)で示すように、油供給路(81)の流出端の一部が閉塞部(91)によって塞がれる。油供給路(81)の流出端の一部が塞がれると、その流出端の全体が開放されているときと比べて、油供給路(81)から凹部(82)への潤滑油の流通抵抗が増大する。つまり、凹部(82)への潤滑油の供給抵抗が増大する。これにより、可動スクロール(70)が転覆しても、油供給路(81)から凹部(82)へ潤滑油が供給されにくくなり、凹部(82)への潤滑油供給量の増加が回避される。その結果、凹部(82)への潤滑油の供給量が可動スクロール(70)の1公転に亘って一定となる。よって、吸入過熱の増大や他の摺動部における潤滑不足を回避することができる。
【0051】
また、公転角度領域θ1〜θ2では、転覆モーメントが大きくなるに従って油供給路(81)の流出端の閉塞面積(塞がれる面積)が増加するようになっている。言い換えれば、転覆モーメントが大きくなるに従って油供給路(81)の流出端の開口面積(開放される面積)が減少するようになっている。つまり、公転角度領域θ1〜θ2において、転覆モーメントが最小となる公転角度θ1、θ2では油供給路(81)の流出端の閉塞面積が最小(開口面積が最大)となり、転覆モーメントが最大(ピーク)となる公転角度θ3では油供給路(81)の流出端の閉塞面積が最大(開口面積が最小)となるように(図5では81(e)の状態に相当)、閉塞部(91)が構成されている。これは、以下の考えによるものである。転覆モーメントが大きくなるに従って、可動スクロール(70)と固定スクロール(60)との離反距離は大きくなり、この離反距離が大きくなると、油供給路(81)から凹部(82)への潤滑油の流通抵抗が減少する。その流通抵抗の減少に応じて油供給路(81)の流出端の閉塞面積を増加させることによって、凹部(82)への潤滑油の供給抵抗が増大して潤滑油の供給量が一定となる。
【0052】
また、本実施形態では、油溝(83)の形成位置が工夫されている。図5に示すように、本実施形態の油溝(83)は、凹部(82)における接続位置が、公転角度領域θ1〜θ2(特に、転覆モーメントが最大となる公転角度θ3)の油供給路(81)の流出端からできるだけ遠ざかるように形成されている。つまり、本実施形態では、凹部(82)において、油溝(83)と公転角度領域θ1〜θ2の油供給路(81)の開放部分とが近接しないようにしている。例えば図7に示すように、凹部(2)において、閉塞部(4)によって一部が閉塞された油供給路(1)の流出端に対してその近傍に油溝(3)が形成されると、油供給路(1)から凹部(2)へ潤滑油が流れやすくなってしまう。つまり、油供給路(1)の開放部分の外周側に油溝(3)が形成された場合、その外周側が凹部(2)の側壁で囲まれる場合と比べて、油溝(3)によって圧力開放される分、油供給路(1)から凹部(2)への潤滑油の流通抵抗が小さくなる。そうすると、油供給路(1)の流出端の一部を閉塞部(4)で塞いでも、油供給路(1)から凹部(2)への潤滑油の供給抵抗をそれほど増大させることができなくなる。この点、本実施形態では、閉塞部(91)によって一部が塞がれた油供給路(81)からできるだけ遠い位置に油溝(83)を形成しているため、油供給路(81)から凹部(82)への潤滑油の供給抵抗を閉塞部(91)によって確実に増大させることができる。したがって、可動スクロール(70)が転覆しても潤滑油の供給量を確実に一定にすることができる。
【0053】
−実施形態1の効果−
以上のように、本実施形態によれば、転覆モーメントが所定値以上となる公転角度領域θ1〜θ2において油供給機構(80)の潤滑油の供給抵抗を増大させる調整機構(90)を備えるようにしたため、可動スクロール(70)が転覆したときに、固定スクロール(60)と可動スクロール(70)との摺動面に供給される潤滑油の量が増大するのを回避することができる。つまり、可動スクロール(70)の1公転中に亘って、摺動面への潤滑油の供給量を一定にすることができる。これにより、吸入過熱の増大や他の摺動部における潤滑不足を回避することができる。
【0054】
また、可動スクロール(70)が転覆したときに、固定スクロール(60)と可動スクロール(70)との摺動面に対する潤滑油の供給量が増大すると、その潤滑油の流体圧によって可動スクロール(70)の転覆が助長される虞がある。ところが、本実施形態では、上述したように摺動面に対する潤滑油の供給量の増大が回避されるため、可動スクロール(70)の転覆を助長する虞がなくなる。
【0055】
具体的に、本実施形態では、凹部(82)へ開口する油供給路(81)の流出端の一部を塞ぐための閉塞部(91)を形成することで、潤滑油の供給抵抗を増大させるようにした。つまり、本実施形態は、油供給路(81)の流出端を絞って、潤滑油の流通抵抗を増大させるようにした。そのため、簡易な構成で、可動スクロール(70)の転覆時における潤滑油の供給量増大を確実に回避することが可能である。
【0056】
特に、油供給路(81)の流出端の全体が凹部(82)内で公転するように構成し、凹部(82)内に形成した閉塞部(91)によって油供給路(81)の流出端の一部を塞ぐようにしたため、油供給路(81)からの潤滑油が固定スクロール(60)および可動スクロール(70)の外周側に漏出するのを防止することができる。例えば、油供給路(81)の流出端の全体が凹部(82)内で公転するのではなく、所定の公転角度領域において流出端の一部が凹部(82)の外側へはみ出るように公転し、そのはみ出ることによって流出端の一部を塞ぐようにした場合、即ち凹部(82)の外側の摺動面で流出端の一部を塞ぐようにした場合、油供給路(81)からその摺動面に流出した潤滑油がそのまま摺動面を通じてスクロール(60,70)の外周側に漏れ出てしまう虞がある。そうなると、潤滑不足が生じる。この点、本実施形態では、凹部(82)内に形成した閉塞部(91)のみによって油供給路(81)の流出端の一部を塞ぐようにしているため、潤滑油は凹部(82)内に流出して保持される。よって、潤滑油がスクロール(60,70)の外周側に漏出する虞はない。
【0057】
−実施形態1の変形例−
本変形例は、上記実施形態1において凹部(82)と閉塞部(91)の位置関係を変更したものである。具体的に、上記実施形態1では凹部(82)に対し閉塞部(91)を偏心して形成したが、本変形例では、図8および図9に示すように、凹部(82)に対し閉塞部(91)を同心に形成した。つまり、凹部(82)の中心Qと閉塞部(91)の中心Rとが一致している。この変形例の場合も、油供給路(81)の流出端が1公転する間において、公転角度領域θ1〜θ2では油供給路(81)の流出端の一部が閉塞部(91)によって塞がれ(図9の81(d),81(e)の状態)、公転角度領域θ1〜θ2以外の公転角度領域では油供給路(81)の流出端の全体が開放される(図9の81(a),81(b),81(c)の状態)。その他の構成、作用および効果は上記実施形態1と同様である。
【0058】
《実施形態2》
本発明の実施形態2について図10〜図12を参照しながら説明する。本実施形態に係るスクロール型圧縮機(10)は、上述した実施形態1と、油供給機構(80)と調整機構(90)の構成が異なるものである。
【0059】
具体的に、本実施形態の油供給機構(80)は、上記実施形態1と同様、油供給路(85)、凹部(86)および油溝(87)を有する。油供給路(85)は、可動スクロール(70)の鏡板(71)に形成されている。凹部(86)および油溝(87)は、上記実施形態1と異なり、可動スクロール(70)の鏡板(71)に形成されている。つまり、凹部(86)および油溝(87)は、固定スクロール(60)の外縁部(62)と摺動する鏡板(71)の摺動面に形成されている。凹部(86)は、平面視円形の扁平な円板状に形成されている。油溝(87)は、周方向に延びる略円弧状に形成されている。油溝(87)は、途中に前記凹部(86)が形成され該凹部(86)に繋がっている。油供給路(85)は、流入端がボス部(73)内の空間に開口し、流出端が凹部(86)の底部(図10における下側)に開口している。この油供給路(85)の流出端は、凹部(86)の中央に形成され且つ凹部(86)の中心Qと同心に形成されている。油供給路(85)は、駆動軸(11)の給油路(16)からボス部(73)内に流出した高圧の潤滑油が流入する。油供給路(85)に流入した高圧の潤滑油は、凹部(86)内へ供給され、次いで油溝(87)へ流入する。
【0060】
本実施形態の調整機構(90)は、固定スクロール(60)の外縁部(62)に形成される閉塞部(92)を有する。この閉塞部(92)は、外縁部(62)の摺動面から突出してなる凸部であり、可動スクロール(70)の凹部(86)の内部に位置するように形成されている。そして、
本実施形態では、図12に矢印で示すように、可動スクロール(70)が公転するのに伴って、凹部(86)および油供給路(85)の流出端(開口端)が一体でSを公転中心として公転する。当然ながら、可動スクロール(70)の公転中、油供給路(85)の流出端が凹部(86)の外側へはみ出ることなく流出端の全体が凹部(86)内に位置する。なお、図12は、凹部(86)および油溝(87)を省略している。また、上記実施形態1と同様に、油供給路(85)の流出端の一部が閉塞部(92)によって塞がれる。具体的に、図12に示すように、凹部(86)および油供給路(85)の流出端が1公転する間において、所定の公転角度領域θ1〜θ2では油供給路(85)の流出端の一部が閉塞部(92)によって塞がれ(図12の85(d),85(e)の状態)、前記公転角度領域θ1〜θ2以外の公転角度領域では油供給路(85)の流出端の全体が開放される(図12の85(a),85(b),85(c)の状態)。また、凹部(86)は、上記実施形態1と同様、可動スクロール(70)の鏡板(71)の摺動面において、可動スクロール(70)が転覆モーメントによって転覆した際に固定スクロール(60)の外縁部(62)と可動スクロール(70)の鏡板(71)とが離反する領域に形成されている。
【0061】
本実施形態によれば、上記実施形態1と同様、転覆モーメントが所定値以上となる公転角度領域θ1〜θ2で、油供給路(85)の流出端の一部を閉塞部(92)によって塞ぐことで、油供給機構(80)の潤滑油の供給抵抗を増大させることができる。そのため、可動スクロール(70)が転覆したときに、固定スクロール(60)と可動スクロール(70)との摺動面に供給される潤滑油の量が増大するのを回避することができる。つまり、可動スクロール(70)の1公転中に亘って、摺動面への潤滑油の供給量を一定にすることができる。これにより、吸入過熱の増大や他の摺動部における潤滑不足を回避することができる。その他の構成、作用および効果は上記実施形態1と同様である。
【0062】
−その他の実施形態−
上記実施形態については、以下のような構成としても良い。
【0063】
例えば、上記実施形態1では、油供給路(81)は可動スクロール(70)の鏡板(71)に形成し、凹部(82)と油溝(83)と閉塞部(91)は固定スクロール(60)の外縁部(62)に形成したが、本発明は、これらの形成箇所を相互に換えるようにしてもよい。つまり、油供給路(81)は固定スクロール(60)の外縁部(62)に形成し、凹部(82)と油溝(83)と閉塞部(91)は可動スクロール(70)の鏡板(71)に形成しても、同様の作用効果を得ることができる。なお、この場合、油溜まり部(21)の潤滑油を油供給路(81)に供給する機構を備えるようにすればよい。
【0064】
また、上記実施形態2では、油供給路(85)と凹部(86)と油溝(87)は可動スクロール(70)の鏡板(71)に形成し、閉塞部(92)は固定スクロール(60)の外縁部(62)に形成したが、本発明は、これらの形成箇所を相互に換えるようにしてもよい。つまり、油供給路(85)と凹部(86)と油溝(87)は固定スクロール(60)の外縁部(62)に形成し、閉塞部(92)は可動スクロール(70)の鏡板(71)に形成しても、同様の作用効果を得ることができる。
【0065】
また、上記各実施形態において、油溝(83,87)を省略するようにしてもよいし、凹部(82,86)および閉塞部(91,92)の形状は上述したものに限られない。
【0066】
また、上記スクロール型圧縮機(10)は、冷媒回路を有する冷凍装置に適用されているが、流体を圧縮するものであれば、他の装置に適用されるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明は、固定スクロールと可動スクロールとの摺動面に潤滑油を供給する機構を備えたスクロール型圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0068】
10 スクロール型圧縮機
20 ケーシング
40 圧縮機構
60 固定スクロール
61 鏡板
62 外縁部
63 ラップ
70 可動スクロール
71 鏡板
72 ラップ
80 油供給機構
81,85 油供給路
82,86 凹部
83,87 油溝
90 調整機構
91,92 閉塞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(20)と、
ラップ(63)が立設される鏡板(61)および前記ラップ(63)の外周側に形成される外縁部(62)を有する固定スクロール(60)と、該固定スクロール(60)のラップ(63)に噛合するラップ(72)が立設され且つ前記固定スクロール(60)の外縁部(62)に摺接する鏡板(71)を有する可動スクロール(70)とを備え、前記ケーシング(20)に収容される圧縮機構(40)と、
前記固定スクロール(60)の外縁部(62)と前記可動スクロール(70)の鏡板(71)との摺動面に潤滑油を常時供給する油供給機構(80)と、
前記可動スクロール(70)の1公転中に前記可動スクロール(70)に作用する転覆モーメントが所定値以上となる前記可動スクロール(70)の公転角度領域で、前記油供給機構(80)の潤滑油の供給抵抗を増大させる調整機構(90)とを備えている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
前記油供給機構(80)は、前記固定スクロール(60)の外縁部(62)と前記可動スクロール(70)の鏡板(71)との摺動面に形成された凹部(82,86)と、前記固定スクロール(60)または前記可動スクロール(70)に形成され且つ前記凹部(82,86)に開口して潤滑油を前記凹部(82,86)に供給する油供給路(81,85)とを備え、該油供給路(81,85)の凹部側開口端の全体が前記可動スクロール(70)の1公転中に亘って前記凹部(82,86)の内部に位置するように構成され、
前記調整機構(90)は、前記固定スクロール(60)の外縁部(62)または前記可動スクロール(70)の鏡板(71)に形成され、且つ、前記凹部(82,86)の内部において前記可動スクロール(70)の公転に伴って前記油供給路(81,85)の凹部側開口端との間で相対的に公転し、その公転中に前記公転角度領域で前記油供給路(81,85)の凹部側開口端の一部を塞ぐ一方、前記公転角度領域以外の公転角度領域では前記油供給路(81,85)の凹部側開口端の全体を開放する閉塞部(91,92)を備えている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
前記凹部(82)は、前記固定スクロール(60)の外縁部(62)または前記可動スクロール(70)の鏡板(71)の摺動面に形成される一方、前記油供給路(81)は、前記凹部(82)の形成側とは異なる前記固定スクロール(60)または可動スクロール(70)に形成され、
前記閉塞部(91)は、前記凹部(82)の底壁の一部が該凹部(82)の開口側へ突出して形成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項4】
請求項2において、
前記凹部(86)は、前記固定スクロール(60)の外縁部(62)または前記可動スクロール(70)の鏡板(71)の摺動面に形成される一方、前記油供給路(85)は、前記凹部(86)が形成される前記固定スクロール(60)または可動スクロール(70)に形成されて前記凹部(86)の底部に開口し、
前記閉塞部(92)は、前記凹部(86)の形成側とは異なる前記固定スクロール(60)の外縁部(62)または前記可動スクロール(70)の鏡板(71)の摺動面から突出して前記凹部(86)の内部に位置するように形成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項において、
前記油供給機構(80)は、前記凹部(82,86)が形成される前記摺動面に形成され、前記凹部(82,86)に繋がると共に周方向に延びる油溝(83,87)を備えている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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