説明

スクロール型圧縮機

【課題】高速回転時においても対をなすスクロール部材の渦巻壁の転動抵抗の増大を抑えつつ、ラジアル軸受のブッシュとの当接部分でフレーキングが発生することを回避したスクロール型圧縮機を提供する。
【解決手段】駆動軸12の端部に設けられた偏心軸17にブッシュ23を外嵌し、このブッシュ23を旋回スクロール部材22の背面に形成されたボス部22bに設けられているラジアル軸受24に相対回転可能に支持し、ブッシュ23にこれと一体をなすバランスウエイト32を備えるスクロール型圧縮機において、ブッシュ23が傾いた際に、当該ブッシュの外周面をバランスウエイト32が設けられた端部側のみでラジアル軸受24に当接させる。具体的には、偏心軸17とブッシュ23の偏心穴23aの内周面とのクリアランスAを、ラジアル軸受24とブッシュ23の外周面とのクリアランスCよりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置の冷凍サイクル等に用いられるスクロール型圧縮機に関し、特に駆動軸の端部に設けられた偏心軸をブッシュ及びラジアル軸受を介して旋回スクロール部材のボス部に軸架する構成を備えたスクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型圧縮機は、端板及びこの端板から立設された渦巻壁を有する固定スクロール部材と、この固定スクロール部材に対向配置されて端板及びこの端板から立設された渦巻壁を有する旋回スクロール部材とを備え、この一対のスクロール部材をそれぞれの渦巻壁を互いに組み合わせ、旋回スクロール部材を自転が規制された状態で揺動回転(公転運動)させることにより、両スクロール部材の渦巻壁間に形成された圧縮室を容積を減少しながら中心へ移動させて作動流体の圧縮を行うようにしている。
【0003】
このようなスクロール型圧縮機において、旋回スクロール部材は、端板の背面にボス部が形成され、このボス部に駆動軸の一端に設けられた偏心軸をラジアル軸受を介して軸架させることで、駆動軸の軸心を中心として揺動回転(公転運動)可能に支持されている。
【0004】
この際、両スクロール部材の渦巻壁の側面間にクリアランスが存在すると、中心側(下流側)の圧縮室から外周部側(上流側)へ高圧ガスが漏れてしまうため、圧縮効率が損なわれてしまう。このため、駆動軸の偏心軸と旋回スクロール部材のボス部に設けられたラジアル軸受(軸受け部)との間に中間部材としてのブッシュを配設し、旋回スクロール部材に作用する圧縮反力の分力を利用して、旋回スクロール部材を固定スクロール部材の径方向に付勢し、旋回スクロール部材の渦巻壁の側面が固定スクロール部材の渦巻壁の側面に離れることなく当接するよう、旋回スクロール部材の公転半径量を可変させる機構が採用されている(特許文献1〜3)。
【0005】
このうち、特許文献1に開示されるスクロール型圧縮機は、図6に示されるように、旋回スクロール部材101のボス部102にブッシュ103が装着されているが、このブッシュ103は、駆動軸104の一端に設けられた偏心軸105に対して相対回転不能で、且つ、径方向へ微少に移動可能な、いわゆるスライド型ブッシュとなっている。また、偏心軸105には曲面部106が設けられ、駆動軸104が旋回スクロール部材101の圧縮力や遠心力によりたわみ変形が生じた場合でも、軸受け部で片あたりが発生しないようになっている。さらに、同公報には、バランスウエイト107をブッシュ103から軸方向にずらした位置で駆動軸104に設けるようにした構成も開示されている。
【0006】
特許文献2に開示されるスクロール型圧縮機は、図7に示されるように、駆動軸111の一端に設けられた偏心軸112をブッシュ113及びラジアル軸受114を介して旋回スクロール部材115のボス部117に軸架する構成において、バランスウエイト116がブッシュ113の外周面に圧入されることにより支持され、ブッシュ113と共に回転するようになっている。このバランスウエイト116は、これに作用する遠心力の作用点ができるだけ旋回スクロール部材115に作用する遠心力の作用点に近づくように旋回スクロール部材115のボス部117の径方向外側へ張り出すように設けられている。
【0007】
特許文献3に開示されるスクロール型圧縮機は、図8に示されるように、バランスウエイト121を一体に設けたブッシュ122を駆動軸123の先端に設けられた偏心軸124に組み付け、このブッシュ122を旋回スクロール部材125の背面に設けられたボス部126にラジアル軸受127を介して軸架することにより旋回スクロール部材125を公転運動させる構成が開示されている。このバランスウエイト121は、特許文献2と同様、旋回スクロール部材125のボス部126の外側に張り出すように設けられているが、旋回スクロール部材125と反対側(モータ側)にも張り出すように設けられているため、径方向の張り出しが抑えられ、旋回スクロール部材125の大径化を回避する工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−42467号公報
【特許文献2】特開平8−42477号公報
【特許文献3】特開2010−196630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の構成(図6)においては、バランスウエイト107が設けられている箇所はブッシュ103ではなく、駆動軸104であるため、圧縮機全体では遠心力が相殺されて釣り合いが保たれるものの、旋回スクロール部材101を径方向外側に押し出すように作用する遠心力を打ち消すようには作用しないため、旋回スクロール部材101の渦巻壁101aと固定スクロール部材108の渦巻壁108aとの接触荷重が大きくなり、高速回転時の渦巻壁101a、108aの転動抵抗が増加し、また、渦巻壁の信頼性が損なわれる等の不都合がある。
【0010】
また、特許文献2の構成(図7)においては、バランスウエイト116がボス部117の外側に張り出すように設けられているので、自転防止機構118がバランスウエイト116との干渉を避けるためにさらにその径方向外側に設けられることとなり、このため、旋回スクロール部材115が大型化し、圧縮機の小型化の妨げとなっている。また、旋回スクロール部材115の重量も重くなるので、これと釣り合わせるために、バランスウエイト116も大きくしなければならないという不都合もある。
【0011】
さらに、特許文献3の構成(図8)においては、バランスウエイト121が旋回スクロール部材125と反対側(モータ側)にも張り出すように設けられているため、バランスウエイト121の遠心力はラジアル軸受127からはみ出したブッシュ122の端部に作用し、ブッシュ122の軸心が偏心軸124の軸心に対して傾こうとする。このため、このブッシュ122の傾きを低減するために、従来においては、ラジアル軸受127とブッシュ122の外周面との間のクリアランスをできるだけ小さく設定し、ラジアル軸受127によってブッシュ122が傾こうとする力を支持する設計が行われるが、高速回転時においては、軸受内輪の局所当たりが耐力を超えてしまい、フレーキングが生じる不都合がある。
【0012】
特に、ラジアル軸受としてニードル軸受が用いられる構成においては、従来の設計思想によれば、図9(a)に示されるように、ラジアル軸受24の内周面とブッシュ23の外周面との間のクリアランス(ニードル軸受にあっては、ローラ24aとブッシュ23の外周面との間のクリアランス)Cをできるだけ小さくするよう(Cをブッシュ23と偏心軸17との間のクリアランスAよりも小さくするよう)設計されるが、バランスウエイト32はブッシュ23の端部に設けられ、バランスウエイト32の重心は駆動軸12の端部に設けられた偏心軸17の中心からずれているため、図9(b)に示されるように、ブッシュ23の軸心が偏心軸17の軸心に対して傾くこととなり、この状態でバランスウエイト32の遠心力は、ブッシュ23及びラジアル軸受24を介して旋回スクロール部材22に作用する。この際、クリアランスCはクリアランスAよりも小さく形成されているため、バランスウエイト32の遠心力F1により傾いたブッシュ23を支えるためにラジアル軸受24の内面2箇所(バランスウエイト32が設けられた端部近傍[バランスウエイト32の遠心力が作用する箇所から軸方向にL1離れた部位]と、バランスウエイト32から遠ざかる端部又はその近傍[バランスウエイト32の遠心力が作用する箇所から軸方向にL2離れた部位:L2>L1]との2箇所)で荷重(F2,F3)を受けることとなり、このため、F3が発生した分だけF2の荷重が大きくなり、このF2の荷重を受ける部分で局所荷重が著しく大きくなってフレーキングが発生しやすくなる。
【0013】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、高速回転時においても対をなすスクロール部材の渦巻壁の転動抵抗の増大を抑えつつ、ラジアル軸受のブッシュとの当接部分においてフレーキングが発生することを回避したスクロール型圧縮機を提供することを主たる課題としている。また、これに加えて圧縮機の小型化を図ることをも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を達成するために、本発明に係るスクロール型圧縮機は、ハウジングに対して径方向の動きが規制され、端板及びこの端板から立設された渦巻壁を有する固定スクロール部材と、この固定スクロール部材に対向配置され、端板及びこの端板から立設された渦巻壁を有する旋回スクロール部材と、回転動力を伝達する駆動軸と、前記駆動軸の端部に設けられ、この駆動軸の軸心に対してずれた位置に設けられる偏心軸と、前記旋回スクロール部材の背面に形成されたボス部に内嵌されたラジアル軸受と、前記偏心軸が挿入される偏心穴を備え、この偏心穴を介して前記偏心軸に外嵌されると共に前記ラジアル軸受に相対回転可能に支持されるブッシュと、前記ブッシュの一方の端部に設けられて該ブッシュと一体をなすバランスウエイトとを備え、前記ブッシュが傾いた際に、当該ブッシュの外周面を前記バランスウエイトが設けられた端部側のみで前記ラジアル軸受に当接させるようにしたことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【0015】
したがって、バランスウエイトの遠心力が作用する点が、ラジアル軸受から軸方向にずれた部位(ラジアル軸受からはみ出したブッシュの端部)であると、このバランスウエイトの遠心力によりブッシュの軸心は偏心軸の軸心に対して傾こうとするが、ブッシュが傾いた場合には、このブッシュの外周面がバランスウエイトを設けた端部側のみでラジアル軸受に当接するので、その当接部位での局所荷重をバランスウエイトから遠ざかるブッシュの端部がラジアル軸受に当接することによって著しく増大する事態を回避することが可能となる。このため、ラジアル軸受に生じる偏荷重を軽減することが可能となるため、ラジアル軸受の耐力が相対的に高められ、ラジアル軸受のブッシュの外周面との当接部分で生じるフレーキングの発生を抑えることが可能となる。
【0016】
ここで、ブッシュが傾いた際に、ブッシュがバランスウエイトを設けた端部側のみでラジアル軸受に当接させる具体的構成としては、偏心軸とブッシュに設けられた偏心穴の内周面とのクリアランスをA、偏心軸とブッシュに設けられた偏心穴の内周面との嵌合長をB、ラジアル軸受とブッシュの外周面とのクリアランスをC、ラジアル軸受とブッシュの外周面との嵌合長をDとした場合に、A/B<C/Dとなるように設定するとよい。
【0017】
また、上述のような構成とすれば、バランスウエイトの遠心力が作用する点がラジアル軸受から軸方向にずれた位置であっても、ブッシュの傾きに伴う偏荷重(ブッシュとラジアル軸受との当接箇所での局所荷重)を許容範囲に抑えることが可能となるので、旋回スクロール部材のボス部の径方向外側に自転防止機構が配設される場合には、バランスウエイトを、旋回スクロール部材から遠ざかる方向に積極的に張り出すように形成して、自転防止機構との干渉を回避するようにしてもよい。
【0018】
このような構成によれば、自転防止機構を旋回スクロール部材のボス部の外側に近接して設けた場合でも、バランスウエイトを自転防止機構との干渉を避けるように設けることが可能となるので、自転防止機構の外形を小さくすることが可能となり、引いては旋回スクロール部材の外径を小さくすることが可能になる。
【0019】
さらに、前記ラジアル軸受としてニードル軸受を用いるとよい。ニードル軸受はコンパクト且つ軽量な反面、軸が軸受けの軸心に対して傾いた状態で当接すると接触面圧が過大となるため、アキシャル荷重や軸の傾きを支承するには不向きであるが、前述の如くブッシュとの局所荷重を低減させることが可能となるので、耐力を相対的に高めることが可能となり、ニードル軸受けで十分対応が可能となる。このため、軸受けの重量を軽くすることができ、また、径方向寸法もコンパクトにできるので、バランスウエイトも軽量化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明によれば、旋回スクロール部材のボス部に設けられたラジアル軸受に、駆動軸の端部に設けられた偏心軸をバランスウエイトが一体に設けられたブッシュを介して軸架させるにあたり、ブッシュが傾いた際に、当該ブッシュの外周面をバランスウエイトが設けられた端部側のみでラジアル軸受に当接させるようにしたので、ブッシュが傾いた場合でも、ブッシュの外周面とラジアル軸受との当接部位で局所荷重が著しく大きくなることはなく、ラジアル軸受のブッシュとの当接部分でフレーキングが発生することを回避することが可能となる。このため、高速回転時でおいても対をなすスクロール部材の渦巻壁の転動抵抗の増大を抑えつつ、ラジアル軸受のブッシュとの当接部分においてフレーキングが発生することを回避することが可能となる。
【0021】
また、上述のような構成とすれば、バランスウエイトを旋回スクロール部材から遠ざかる方向に張り出して形成される場合でも、ブッシュの外周面とラジアル軸受との当接部位での局所荷重を許容範囲内とすることが可能となるので、バランスウエイトを旋回スクロール部材から遠ざかる方向に張り出すように形成することで、ボス部の外側に近接して自転防止機構が設けられる場合でも、これとの干渉を回避することが可能となり、引いては、自転防止機構や旋回スクロール部材の外径を小さくすることが可能となる。
【0022】
さらに、ブッシュとラジアル軸受との当接部位における局所荷重を低減することが可能となるため、ラジアル軸受をニードル軸受で対応させることが十分に可能となり、ニードル軸受けを用いることで、これが取付けられる旋回スクロール部材の軽量化が図れ、また、旋回スクロール部材の遠心力を相殺するために設けられるバランスウエイトの重量も軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明に係るスクロール型圧縮機の全体構成例を示す断面図である。
【図2】図2(a)は、駆動軸の端部に設けられた偏心軸にブッシュを外嵌し、このブッシュを旋回スクロール部材のボス部に設けられたラジアル軸受に支持させている状態を示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)の分解斜視図である。
【図3】図3は、ブッシュを示す図であり、(a)は軸方向の一方の側から見た図であり、(b)はブッシュの側断面図であり、(c)は軸方向の他方の側から見た図である。
【図4】図4は、バランスウエイトを示す図であり、(a)は軸方向の一方の側から見た図であり、(b)はバランスウエイトの側断面図であり、(c)は軸方向の他方の側から見た図である。
【図5】図5は、旋回スクロール部材のボス部に設けられたラジアル軸受に、駆動軸の端部に設けられた偏心軸をバランスウエイトが一方の端部に設けられたブッシュを介して軸架した状態を示す拡大図であり、(a)は、駆動軸が回転していない状態を示す図であり、(b)は、駆動軸が回転してブッシュが傾いた状態を示す図である。
【図6】図6は、従来のスクロール型圧縮機を示す断面図である。
【図7】図7は、従来の他のスクロール型圧縮機を示す断面図である。
【図8】図8は、従来のさらに他のスクロール型圧縮機を示す断面図である。
【図9】図9は、旋回スクロール部材のボス部に設けられたラジアル軸受に、駆動軸の端部に設けられた偏心軸をバランスウエイトが一方の端部に設けられたブッシュを介して軸架した従来の状態を示す拡大図であり、(a)は、駆動軸が回転していない状態を示す図であり、(b)は、駆動軸が回転してブッシュが傾いた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るスクロール型圧縮機について、図面を参照しながら説明する。
図1において、スクロール型圧縮機1は、冷媒を作動流体とする冷凍サイクルに適した電動型圧縮機であり、アルミ合金で構成されたハウジング2内に、図中左方において圧縮機構3を配設し、また、図中右側において圧縮機構3を駆動する電動機4を配設している。尚、図1において、図中右側を圧縮機1の前方、図中左側を圧縮機の後方としている。
【0025】
ハウジング2は、圧縮機構3を収容する圧縮機構収容ハウジング部材2aと、圧縮機構3を駆動する電動機4を収容する電動機収容ハウジング部材2bと、電動機4を駆動制御する図示しないインバータ装置を収容するインバータ収容ハウジング部材2cとを有し、これらハウジング部材を位置決めピン7により位置決めすると共に締結ボルト8で軸方向に締結するようにしている。
【0026】
電動機収容ハウジング部材2bの圧縮機構収容ハウジング部材2aと対峙する側には、軸支部9aが一体に形成された仕切壁10が設けられ、また、インバータ収容ハウジング部材2cの電動機収容ハウジング部材2bと対峙する側にも軸支部9bが一体に形成された仕切壁11が設けられ、これら仕切壁10,11の軸支部9a,9bに駆動軸12がベアリング13,14を介して回転可能に支持されている。この電動機収容ハウジング部材2bとインバータ収容ハウジング部材2cとに形成されたそれぞれの仕切壁10,11によりハウジング2の内部が後方から圧縮機構3を収納する圧縮機構収容部15a、電動機4を収納する電動機収容部15b、及びインバータ装置を収容するインバータ収容部15cに仕切られている。
尚、この例では、インバータ収容部15cは、インバータ収容ハウジング部材2cに蓋体16を図示しないボルト等によって固定することで画成されている。
【0027】
圧縮機構3は、固定スクロール部材21とこれに対向配置された旋回スクロール部材22とを有するスクロールタイプのもので、固定スクロール部材21は、ハウジング2に対して、軸方向の動きを許容されつつ、位置決めピン28により径方向への動きが規制されており、円板状の端板21aと、この端板21aの外縁に沿って全周に亘って設けられると共に前方に向かって立設された円筒状の外周壁21bと、その外周壁21bの内側において前記端板21aから前方に向かって延設された渦巻状の渦巻壁21cとから構成されている。
【0028】
また、旋回スクロール部材22は、円板状の端板22aと、この端板22aから後方に向かって立設された渦巻状の渦巻壁22cとから構成され、端板22aの背面に立設されたボス部22bに、駆動軸12の後端部に設けられると共に駆動軸12の軸心に対して偏心して設けられた偏心軸17がブッシュ23及びラジアル軸受24を介して支持され、駆動軸12の軸心を中心として公転運動可能に設けられている。
【0029】
固定スクロール部材21と旋回スクロール部材22とは、それぞれの渦巻壁21c、22cをもって互いに噛み合わされており、固定スクロール部材21の端板21a及び渦巻壁21cと、旋回スクロール部材22の端板22a及び渦巻壁22cとによって囲まれた空間に圧縮室25が画成されている。
【0030】
また、固定スクロール部材21の外周壁21bと仕切壁10との間には、薄板状の環状のスラストレース26が挟持され、固定スクロール部材21と仕切壁10とは、このスラストレース26を介して突き合わされている。
【0031】
スラストレース26は、耐摩耗性に優れた素材で形成されているもので、中央に旋回スクロール部材22のボス部22bや後述するオルダムリング27が貫挿する中央孔が形成されている。また、固定スクロール部材21、スラストレース26、及び電動機収容ハウジング部材2bは、スラストレース26に形成されたピン挿通孔に挿通される位置決めピン28により、径方向の位置が規定されている。
【0032】
電動機収容ハウジング部材2bの仕切壁10に一体に形成された軸支部9aは、中央に貫通孔を有し、その内面がスラストレース26に向かって径が段階的に大きく形成されているもので、スラストレース26から最も離れた前方側から、ベアリング13が収容されるベアリング収容部31、前記ブッシュ23に一体に形成され又はブッシュに対して相対回転不能に外嵌されてブッシュ23と一体をなして駆動軸12の回転に伴って回転するバランスウエイト32(この例では、バランスウエイト32がブッシュ23と別体に形成されてブッシュ23に相対回転不能に外嵌されている)を収容するウエイト収容部33、このウエイト収容部33に続いて形成され、旋回スクロール部材22との間で当該旋回スクロール部材22の自転を防止するオルダムリング27を収容するオルダム収容部34が形成されている。
【0033】
したがって、旋回スクロール部材22は、駆動軸12の回転により自転力が発生するが、オルダムリング27により自転が規制されつつ駆動軸12の軸心に対して公転運動するようになっている。
【0034】
前述した固定スクロール部材21の外周壁21bと旋回スクロール部材22の渦巻壁22cの最外周部との間には、後述する吸入口40から導入された冷媒を吸入経路45を介して吸入する吸入室35が形成され、また、ハウジング内の固定スクロール部材21の背後には、圧縮室25で圧縮された冷媒ガスが固定スクロール部材21の略中央に形成された吐出孔36を介して吐出される吐出室37が圧縮機構収容ハウジング部材2aの後端壁との間に画成されている。この吐出室37に吐出された冷媒ガスは、吐出口38を介して外部冷媒回路へ圧送されるようになっている。
【0035】
これに対して、ハウジング2内の仕切壁10より前方の部分に形成された電動機収容部15bには、電動機4を構成するステータ41とロータ42とが設けられている。ステータ41は、円筒状をなす鉄心43とこれに巻回されたコイル44とで構成され、ハウジング2(電動機収容ハウジング部材2b)の内面に固定されている。また、駆動軸12には、ステータ41の内側において回転可能に収容されたマグネットからなるロータ42が固装され、このロータ42が、ステータ41によって形成される回転磁力により回転され、駆動軸12を回転するようになっている。これらステータ41やロータ42によって、ブラシレスDCモータからなる電動機4が構成されている。
【0036】
そして、ハウジング2(電動機収容ハウジング部材2b)の側面には、電動機収容部15bに冷媒ガスを吸入する吸入口40が形成され、ステータ41とハウジング2(電動機収容ハウジング部材2b)との間の隙間や、仕切壁10に形成された孔、及び固定スクロール部材21とハウジング2との間に形成される隙間を介して、吸入口40から電動機収容部15bに流入した冷媒を前記吸入室35に導く吸入経路45が構成されている。
【0037】
尚、インバータ収容ハウジング部材2cに収容されるインバータ装置は、仕切壁11に形成された貫通孔61に取付けられるターミナル(気密端子)60を介してステータ41と電気的に接続し、電動機4に対してインバータ装置から給電するようにしている。
【0038】
したがって、電動機4への給電により、ロータ42が回転して駆動軸12が回転すると、圧縮機構3において、旋回スクロール部材22が偏心軸17を中心として回転するので、旋回スクロール部材22は、固定スクロール部材21の軸心の周りを公転することになる。この際、旋回スクロール部材22は、オルダムリング27からなる自転阻止機構によって自転が阻止されているので、公転運動のみが許容される。
【0039】
この旋回スクロール部材22の公転運動により、圧縮室25は両スクロール部材の渦巻壁21c、22cの外周側から中心側へ容積を徐々に小さくしつつ移動するので、吸入室35から圧縮室25に吸入された冷媒ガスは圧縮され、この圧縮された冷媒ガスは固定スクロール部材21の端板21aに形成された吐出孔36を介して吐出室37に吐出される。そして、吐出口38を介して外部冷媒回路へ送出される。
【0040】
以上の構成において、前述したブッシュ23は、図2及び図3にも示されるように、柱状形状のもので、軸心から径方向にずらした位置に、軸方向に延設されて前記偏心軸17を挿入可能とする偏心穴23aが形成され、旋回スクロール部材側の端部には、偏心穴23aよりも径を拡大させた凹状部23bが形成され、また、電動機側の端部周縁には外径を小さくしてバランスウエイト32を外嵌するウエイト嵌合代23cが形成されている。
【0041】
バランスウエイト32は、図4にも示されるように、環状に形成された嵌合部32aと、この嵌合部32aの周縁に所定の角度範囲に亘って一体形成された扇状のウエイト本体32bとを有して構成され、嵌合部32aを前記ブッシュ23のウエイト嵌合代23cの外周に例えば圧入にて外嵌し、ブッシュ23と共に回転するようになっている。
このバランスウエイトは、旋回スクロール部材に近づくように張り出すと共に、旋回スクロール部材から遠ざかる方向にも張り出すように形成されており、これにより径方向の寸法を短くし、オルダムリング27との干渉を回避しつつ要求される質量を確保するようにしている。
【0042】
前記偏心軸17は、一端近傍に環状溝17aが形成された円柱状のもので、駆動軸12の旋回スクロール部材22と対峙する端面に形成された嵌合孔12aに環状溝17aが形成された側と反対側の端部を圧入固定し、環状溝側の端部を、前記ブッシュ23の偏心穴23aに相対回転可能に挿通して凹状部23bに突出させ、この凹状部12bに突出させた部分に、サークリップ29を環状溝17aに嵌合させることでブッシュ23を取付けている。このため、ブッシュ23は、偏心軸17の軸方向への移動が規制されつつ、偏心軸17に対して相対回転可能に取付けられている。
【0043】
旋回スクロール部材22のボス部22bに内嵌されているラジアル軸受24は、周方向に等間隔にニードル状のローラ24aを多数配置したニードル軸受によって構成され、ブッシュ23をその外周面との間に所定のクリアランスを持たせて相対回転可能に嵌入できるようにしている。
この例において、ラジアル軸受24は、ローラ数が14個、ローラ部分の長さ(ブッシュ23の外周面との軸方向の嵌合長)が10mm、ローラ径が2.5mmに設定されている。また、ブッシュと偏心軸との軸方向の嵌合長は15mm、偏心軸の径は6mmに設定されている。
【0044】
ところで、従来の一般的な設計手法によれば、ラジアル軸受とこれに支持される部材(本実施例ではブッシュ)とは、できるだけ平行な状態で当接されるよう、部材の公差を見込んでクリアランスをできるだけ小さく設定するのが通常である。即ち、ニードル軸受を用いたラジアル軸受24においては、軽量かつコンパクトな反面、アキシャル荷重や軸の傾きを支承するには不向きであるため、内側に挿入される部材とのクリアランスをマッチング加工により小さいクリアランスに管理することで、ブッシュの傾きを抑えてニードルとの偏荷重を軽減しようとするのが設計常識である。
【0045】
しかしながら、ブッシュ23の一端部にはラジアル軸受24から軸方向にはみ出した部分にバランスウエイト32が取付けられているので、バランスウエイト32の遠心力によりブッシュ23の軸心が偏心軸17(駆動軸12)の軸心に対して傾けられようとする。このため、このブッシュ23の傾きをブッシュ23の外周面とラジアル軸受24との間のクリアランスを小さくして補おうとすると、前述したように、ブッシュ23が軸方向の異なる2箇所でラジアル軸受24に片当たりし、ブッシュ23のバランスウエイト32が設けられた端部側での当接部分において偏荷重が著しく大きくなってフレーキングを生じる不都合がある。
このため、本発明においては、ブッシュのバランスウエイトが設けられた端部側の局所荷重(偏荷重)を低減するために、図5(a)に示されるように、偏心穴23aに挿入されている偏心軸17の外周面と偏心穴23aの内周面との間のクリアランスAを、ブッシュ23の外周面とラジアル軸受24の内周面との間のクリアランスCよりも小さく設定するようにしている。
【0046】
より具体的には、偏心軸17の外周面とブッシュ23に設けられた偏心穴23aの内周面との間のクリアランスをA、偏心軸17の外周面と偏心穴23aの内周面との嵌合長をB、ブッシュ23の外周面とラジアル軸受24の内周面との間のクリアランスをC、ブッシュ23の外周面とラジアル軸受24の内周面との嵌合長をDとすると、A=6〜22μm、C=24〜48μmとし、
A/B<C/D
となるように設定している。
【0047】
このため、このような構成においては、ブッシュ23のラジアル軸受24からはみ出した端部に設けられているバランスウエイト32の重心が偏心軸17の中心からずれていることによって、(バランスウエイトの遠心力が作用する点がラジアル軸受24からはみ出したブッシュ23の端部に作用することによって)、図5(b)に示されるように、ブッシュ23の軸心が偏心軸17の軸心に対して傾き、この状態でブッシュ23の外周面がラジアル軸受24に対して片当たりし、バランスウエイト32の遠心力がブッシュ23及びラジアル軸受24を介して旋回スクロール部材22に作用し、旋回スクロール部材22の遠心力を相殺する。この際、偏心穴23aに挿入されている偏心軸17の外周面と偏心穴23aの内周面との間のクリアランスAは、ブッシュ23の外周面とラジアル軸受24の内周面との間のクリアランスCよりも小さく設定されているので、ブッシュ23の傾きは偏心軸17によって規制され(主として偏心軸17によって支持され)、ラジアル軸受24に対しては1箇所でのみ当接する(ブッシュ23の外周面は、バランスウエイト32が設けられている端部側でのみ当接し、バランスウエイト32から遠ざかる端部側においては、ラジアル軸受と当接しない)。このため、前記F3(図9に示す)が発生しないこととなるため、バランスウエイト32が設けられている端部側でラジアル軸受24と当接する部位に作用する荷重F2は、著しく大きくなることはなく、F1とほぼ同じ大きさとなる。
【0048】
もっとも、実際の運転においては、旋回スクロール部材22と固定スクロール部材21との間の圧縮室25での圧縮に伴う圧縮反力によって紙面に対して手前側−奥側の成分の力が加わるため、それらの合力が作用する点でブッシュ23とラジアル軸受24が接触することになる。このため、従来の形態においては、ブッシュ23のフロント側とリア側の2箇所でF3とF2の相反する方向の力が作用するので、接触部が3次元的にねじれることになるが、本発明においては、F3の荷重が作用しないことからこのようなねじれ接触が抑えられる。
また、上述の構成においては、ブッシュ23の傾きが、偏心軸17の外周面とブッシュ23に設けられた偏心孔23aの嵌合部によって支持されることになるので、偏心軸17と偏心孔23aでの当接部分において局所荷重(α1、α2)が発生することとなるが、ブッシュ23は偏心軸17に対して相対的に回転しないため当該当接部分での滑りや転動は生じず、フレーキングや磨耗が発生する恐れはない。
【0049】
なお、前述の通り、一般的な設計手法においては、ラジアル軸受24の内周面の寸法に合わせてブッシュ23の外周面を加工(いわゆるマッチング加工)することにより、Cを管理していたが、上述の構成においては、Cが小さくなるよう管理する必要がないため、マッチング加工を省いたものとなっている。ここで、マッチング加工をAのクリアランス管理に適用(偏心穴23aの内周面の寸法に合わせて偏心軸17の外周面を加工)し、A=6〜12μmとすることも可能である。このようにすれば、従来に対して加工工数を増やすことなく、Aにより支承されるブッシュの傾きをさらに小さくすることが可能となる。
【0050】
したがって、ラジアル軸受24(ローラ24a)に作用する偏荷重を軽減させることが可能になり、ブッシュ23がラジアル軸受24のローラ24aに片当たりして局所的に当接しても、フレーキングの発生を抑制することが可能となり、ラジアル軸受24の耐力を相対的に高めることが可能となる(ラジアル軸受24の耐力を確保するために、ラジアル軸受24の大型化を図ることが不要となる)。
【0051】
また、上述の構成においては、バランスウエイト32が、旋回スクロール部材22から遠ざかる方向にも張り出すように形成されているので、バランスウエイトの径方向の長さを抑えることが可能となり、また、自転防止機構(オルダムリング27)と干渉しないようにバランスウエイト32を設けることが可能となる。このため、オルダムリング27の径の増大を回避でき、旋回スクロール部材の外径も小さくすることが可能となる。
【0052】
さらに、上述した構成においては、ラジアル軸受24としてニードル軸受が用いられているので、軸受け自体の重量を軽くすることが可能となり、また、径方向寸法もコンパクトにすることが可能となり、引いては、バランスウエイトの軽量化を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1 スクロール型圧縮機
2 ハウジング
21 固定スクロール部材
21a 端板
21c 渦巻壁
22 旋回スクロール部材
22a 端板
22b ボス部
22c 渦巻壁
23 ブッシュ
23a 偏心穴
24 ラジアル軸受
32 バランスウエイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに対して少なくとも径方向の動きが規制され、端板及びこの端板から立設された渦巻壁を有する固定スクロール部材と、この固定スクロール部材に対向配置され、端板及びこの端板から立設された渦巻壁を有する旋回スクロール部材と、回転動力を伝達する駆動軸と、前記駆動軸の端部に設けられ、この駆動軸の軸心に対してずれた位置に設けられる偏心軸と、前記旋回スクロール部材の背面に形成されたボス部に内嵌されたラジアル軸受と、前記偏心軸が挿入される偏心穴を備え、この偏心穴を介して前記偏心軸に外嵌されると共に前記ラジアル軸受に相対回転可能に支持されるブッシュと、前記ブッシュの一方の端部に設けられて該ブッシュと一体をなすバランスウエイトとを備えるスクロール型圧縮機において、
前記ブッシュが傾いた際に、当該ブッシュの外周面を前記バランスウエイトが設けられた端部側のみで前記ラジアル軸受に当接させるようにしたことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記偏心軸と前記ブッシュに設けられた前記偏心穴の内周面とのクリアランスをA、前記偏心軸と前記ブッシュに設けられた前記偏心穴の内周面との嵌合長をB、前記ラジアル軸受と前記ブッシュの外周面とのクリアランスをC、前記ラジアル軸受と前記ブッシュの外周面との嵌合長をDとすると、
A/B<C/D
であることを特徴とする請求項1記載のスクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記旋回スクロール部材の前記ボス部の径方向外側に自転防止機構が設けられ、前記バランスウエイトは、前記旋回スクロール部材から遠ざかる方向に張り出すことにより、前記自転防止機構との干渉が回避されていることを特徴とする請求項1又は2記載のスクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記ラジアル軸受は、ニードル軸受であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のスクロール型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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