説明

スクロール型膨張機

【課題】 膨張過程の流体室へ作動流体を導入可能に構成されたスクロール型膨張機において、作動流体から回収できる動力を増大させる。
【解決手段】 スクロール型膨張機としての膨張機部では、固定スクロール(60)と可動スクロール(65)によって膨張機構が構成される。流入過程の流体室(37)へは、流入ポート(46)を通じて高圧冷媒が導入される。閉じ込み状態となった流体室(37)、即ちA室(70)及びB室(75)の内部では、導入された冷媒が膨張する。膨張過程のA室(70)及びB室(75)に対しては、インジェクションポート(71,76)から冷媒を導入できるようになっている。インジェクションポート(71,76)からA室(70)及びB室(75)に対する冷媒の導入は、膨張過程が終了する前に停止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体の膨張により動力を発生させるスクロール型膨張機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1に開示されているように、スクロール型膨張機が知られている。このスクロール型膨張機において、固定スクロールと可動スクロールにより形成された流体室へ作動流体を導入すると、その作動流体の膨張によって動力が発生する。
【0003】
ここで、スクロール型膨張機は、容積型の流体機械であって、その膨張比は固定スクロールや可動スクロールの幾何学形状によって決まっている。このため、スクロール型膨張機の運転条件によっては、膨張後における作動流体の圧力がスクロール型膨張機の流出側圧力よりも低くなる状態(いわゆる過膨張の状態)に陥る場合がある。過膨張の状態に陥ると、作動流体を膨張させるために動力が消費されるため、最終的にスクロール型膨張機から出力される動力が大幅に減少してしまう。
【0004】
そこで、上記公報のスクロール型膨張機には、バイパスポートとバルブ機構とが設けられている。バルブ機構は、高圧作動流体の圧力が所定値以下になると開くように構成されている。このバルブ機構が開くと、バイパスポートを通じて圧作動流体が膨張過程の流体室へ導入される。高圧作動流体の圧力が所定値以下となると、それに伴ってスクロール型膨張機の流出側の圧力も低下し、過膨張の状態に陥るおそれがある。そこで、このスクロール型膨張機では、高圧作動流体の圧力が所定値以下になるとバイパスポートから膨張過程の流体室へ作動流体を導入し、それによって過膨張の状態に陥るのを回避している。
【特許文献1】特開2003−269103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したスクロール型膨張機のように、膨張過程の流体室へ作動流体を導入すれば、過膨張に起因する動力ロスは低減される。ところが、膨張過程か終了するまで流体室へ作動流体を導入し続けると、膨張過程の終盤では流体室の内圧が低くなってしまっており、その時点で流体室へ導入された作動流体から回収できる動力が少なくなってしまう。従って、膨張過程か終了するまで流体室へ作動流体を導入し続けると、スクロール型膨張機における作動流体からの動力回収が不充分となるおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、膨張過程の流体室へ作動流体を導入可能に構成されたスクロール型膨張機において、作動流体から回収できる動力を増大させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、固定スクロール(60)の固定側ラップ(62)と可動スクロール(65)の可動側ラップ(67)とが互いに噛み合って流体室(37)を形成する膨張機構(35)を備え、膨張機構(35)へ供給された作動流体が流体室(37)内で膨張するスクロール型膨張機を対象としている。そして、上記膨張機構(35)には、膨張過程の流体室(37)へ作動流体を導入するためのインジェクションポート(71,…,76,…)とが設けられており、上記インジェクションポート(71,…,76,…)の位置は、該インジェクションポート(71,…,76,…)から流体室(37)への作動流体の導入が膨張過程の終了前に停止するように設定されるものである。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、膨張過程の開始時点における流体室(37)の容積をV1とし、インジェクションポート(71,…,76,…)からの作動流体の導入終了時点における流体室(37)の容積をV2とし、単位時間当たりに流入過程の流体室(37)へ流入する作動流体の質量をAとし、単位時間当たりにインジェクションポート(71,…,76,…)を通って膨張過程の流体室(37)へ流入する作動流体の質量をBとした場合に、V2のV1に対する比V2/V1が、A+BのAに対する比(A+B)/Aの最大値に対応して設定されるものである。
【0009】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、膨張機構(35)には、固定側ラップ(62)の内側面に沿って形成された第1の流体室(70)だけに開口する第1のインジェクションポート(71)と、固定側ラップ(62)の外側面に沿って形成された第2の流体室(75)だけに開口する第2のインジェクションポート(76)とが1つずつ設けられるものである。
【0010】
第4の発明は、上記第1又は第2の発明において、膨張機構(35)には、固定側ラップ(62)の内側面に沿って形成された第1の流体室(70)だけに開口する第1のインジェクションポート(72,73)と、固定側ラップ(62)の外側面に沿って形成された第2の流体室(75)だけに開口する第2のインジェクションポート(77,78)とが複数ずつ設けられるものである。
【0011】
第5の発明は、上記第4の発明において、1つの第1の流体室(70)に対して複数の第1のインジェクションポート(72,73)が開口可能となっており、1つの第2の流体室(75)に対して複数の第2のインジェクションポート(77,78)が開口可能となっているものである。
【0012】
第6の発明は、上記第4の発明において、複数の第1のインジェクションポート(72,73)は、それぞれが常に別々の第1の流体室(70)に開口しており、複数の第2のインジェクションポート(77,78)は、それぞれが常に別々の第2の流体室(75)に開口しているものである。
【0013】
第7の発明は、上記第1〜第6の何れか1つの発明において、インジェクションポート(71,…,76,…)が固定スクロール(60)に形成されるものである。
【0014】
第8の発明は、上記第1〜第7の何れか1つの発明において、膨張機構(35)へ供給される作動流体が臨界圧力以上の二酸化炭素であるものである。
【0015】
−作用−
上記第1の発明では、膨張機構(35)に固定スクロール(60)と可動スクロール(65)とが設けられ、固定側ラップ(62)と可動側ラップ(67)が噛み合って流体室(37)が形成される。膨張機構(35)では、流入過程の流体室(37)へ作動流体が流入し、その作動流体が膨張過程の流体室(37)内で膨張する。また、膨張機構(35)では、インジェクションポート(71,…,76,…)を通じて膨張過程の流体室(37)へ作動流体を導入することが可能となっている。膨張過程の流体室(37)に対するインジェクションポート(71,…,76,…)からの作動流体の導入は、膨張過程の終了前に停止される。インジェクションポート(71,…,76,…)から流体室(37)へ流入した作動流体は、流入過程の流体室(37)へ流入した作動流体と共に膨張する。
【0016】
上記第2の発明では、インジェクションポート(71,…,76,…)が所定の位置に配置され、流体室(37)の容積が膨張過程の開始時点における流体室(37)の容積V1にV2/V1を乗じて得られる値V2に達した時点で、インジェクションポート(71,…,76,…)から流体室(37)への作動流体の導入が停止される。流入過程の流体室(37)へ流入可能な作動流体の質量流量Aに対する膨張機を通過すべき作動流体の質量流量A+Bの比(A+B)/Aは、スクロール型膨張機(30)の運転条件によって変動する。この発明の膨張機構(35)において、V2/V1の値は、スクロール型膨張機(30)の運転条件に基づいて想定される比(A+B)/Aの値のうち最大のものに対応して設定される。つまり、この発明では、V2/V1の値が(A+B)/Aの最大値に対応するように、インジェクションポート(71,…,76,…)の位置が設定されている。
【0017】
上記第3の発明では、膨張機構(35)に第1のインジェクションポート(71)と第2のインジェクションポート(76)とが1つずつ設けられる。膨張過程の流体室(37)のうち、固定側ラップ(62)の内側面に沿った第1の流体室(70)へは第1のインジェクションポート(71)から、固定側ラップ(62)の外側面に沿った第2の流体室(75)へは第2のインジェクションポート(76)から、それぞれ作動流体を導入可能となっている。
【0018】
上記第4〜第6の各発明では、膨張機構(35)に第1のインジェクションポート(72,73)と第2のインジェクションポート(77,78)とが複数ずつ設けられる。膨張過程の流体室(37)のうち、固定側ラップ(62)の内側面に沿った第1の流体室(70)へは第1のインジェクションポート(72,73)から、固定側ラップ(62)の外側面に沿った第2の流体室(75)へは第2のインジェクションポート(77,78)から、それぞれ作動流体を導入可能となっている。
【0019】
上記第5の発明において、膨張機構(35)では、1つの第1の流体室(70)に対して複数の第1のインジェクションポート(72,73)が開口可能となっている。また、膨張機構(35)では、1つの第2の流体室(75)に対して複数の第2のインジェクションポート(77,78)が開口可能となっている。そして、1つの流体室(70,75)に対して開口可能な複数のインジェクションポート(72,73,77,78)のうちの1つでもその流体室(70,75)に開口している間は、その膨張過程の流体室(70,75)へ作動流体が流入し続ける。
【0020】
上記第6の発明では、膨張機構(35)では、1つの第1の流体室(70)に対して何れか1つの第1のインジェクションポート(72,73)だけが開口可能となっている。つまり、1つの第1の流体室(70)に対して、複数の第1のインジェクションポート(72,73)が同時に連通することはない。また、膨張機構(35)では、1つの第2の流体室(75)に対して何れか1つの第2のインジェクションポート(77,78)だけが開口可能となっている。つまり、1つの第2の流体室(75)に対して、複数の第2のインジェクションポート(77,78)が同時に連通することはない。
【0021】
上記第7の発明では、膨張機構(35)に設けられた固定スクロール(60)にインジェクションポート(71,…,76,…)が形成される。
【0022】
上記第8の発明では、スクロール型膨張機(30)に対し、臨界圧力以上の二酸化炭素が作動流体として供給される。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、スクロール型膨張機(30)において、インジェクションポート(71,…,76,…)を通じて膨張過程の流体室(37)へ作動流体を導入することが可能となっている。このスクロール型膨張機(30)では、インジェクションポート(71,…,76,…)からの流体室(37)に対する作動流体の導入が、膨張過程の終了前に停止される。ここで、膨張過程の終盤で流体室(37)へ流入した作動流体からに比べると、膨張過程の初期で流体室(37)へ流入した作動流体からの方が多くの動力を回収できる。このため、本発明によれば、膨張過程の終了時までインジェクションポート(71,…,76,…)から流体室(37)へ作動流体を流入させ続ける場合に比べ、スクロール型膨張機(30)で作動流体から回収される動力を増大させることができる。
【0024】
特に、上記第2の発明では、V2/V1の値が(A+B)/Aの最大値に対応するようにインジェクションポート(71,…,76,…)が設定されている。このため、インジェクションポート(71,…,76,…)から流体室(37)へ導入すべき作動流体の量を確保した上で、流体室(37)に対するインジェクションポート(71,…,76,…)からの作動流体の導入を出来るだけ早く終了させることが可能となり、スクロール型膨張機(30)で得られる動力の更なる増大を図ることができる。
【0025】
上記第4の発明では、膨張機構(35)に第1のインジェクションポート(72,73)と第2のインジェクションポート(77,78)とを複数ずつ設けている。このため、インジェクションポート(72,73,77,78)を通って流体室(37)へ至るまでの作動流体の圧力損失を低減でき、インジェクションを通じて流体室(37)へ導入される作動流体の量を充分に確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態は、冷媒回路(50)を備えて冷凍サイクルを行う空調機である。
【0028】
〈冷媒回路〉
図1に示すように、冷媒回路(50)には、圧縮・膨張ユニット(40)と、放熱器(51)と、蒸発器(52)と、インジェクション回路(53)とが設けられている。圧縮・膨張ユニット(40)には、圧縮機部(20)と電動機(10)と膨張機部(30)とが設けられている。膨張機部(30)は、本発明に係るスクロール型膨張機により構成されている。圧縮・膨張ユニット(40)の詳細については後述する。
【0029】
上記冷媒回路(50)では、圧縮機部(20)の吐出側が放熱器(51)の一端に、放熱器(51)の他端が膨張機部(30)の流入側に、膨張機部(30)の流出側が蒸発器(52)の一端に、蒸発器(52)の他端が圧縮機部(20)の吸入側にそれぞれ接続されている。また、冷媒回路(50)には、冷媒として二酸化炭素(CO2)が充填されている。この冷媒回路(50)では、冷凍サイクルの高圧を二酸化炭素の臨界圧力よりも高く設定した超臨界サイクルが行われる。
【0030】
上記インジェクション回路(53)の始端は、放熱器(51)と膨張機部(30)の間に接続されている。また、インジェクション回路(53)の終端は、後述する膨張機部(30)のインジェクションポート(71,76)に接続されている。このインジェクション回路(53)には、開度可変の流量調節弁(54)が設けられている。この流量調節弁(54)は、パルスモータによって弁体を駆動する電動弁によって構成されている。
【0031】
〈圧縮・膨張ユニット〉
図2に示すように、上記圧縮・膨張ユニット(40)では、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(41)を備えている。電動機(10)と圧縮機部(20)と膨張機部(30)とは、このケーシング(41)の内部に収納されている。圧縮・膨張ユニット(40)では、電動機(10)がケーシング(41)の中央部に配置され、電動機(10)の下方に圧縮機部(20)が、電動機(10)の上方に膨張機部(30)が配置されている。
【0032】
電動機(10)は、ケーシング(41)に固定されたステータ(11)と、該ステータ(11)に対して回転可能なロータ(12)とから構成され、ロータ(12)にシャフト(15)が連結されている。そして、シャフト(15)の下端部が圧縮機部(20)に連結され、シャフト(15)の上端部が膨張機部(30)に連結されている。
【0033】
圧縮機部(20)は、いわゆる揺動ピストン型のロータリ式流体機械によって構成されている。この圧縮機部(20)は、第1圧縮機構(20A)及び第2圧縮機構(20B)から構成されている。圧縮機部(20)では、第1圧縮機構(20A)と第2圧縮機構(20B)とが上下2段に配置されている。圧縮機部(20)は、フロントヘッドを構成する下部フレーム(21)、第1シリンダ(22)、中間プレート(23)、第2シリンダ(24)、リアヘッド(25)が上方から下方へ順に積層され、下部フレーム(21)がケーシング(41)に固定されている。
【0034】
シャフト(15)は下部フレーム(21)とリアヘッド(25)に回転自在に保持されている。また、シャフト(15)には、第1シリンダ(22)に対応する位置に第1大径偏心部(16)が形成され、第2シリンダ(24)に対応する位置に第2大径偏心部(17)が形成されている。第1大径偏心部(16)と第2大径偏心部(17)は、偏心方向が互いに180°の位相差となるように形成されていて、シャフト(15)の回転時のバランスがとられるようになっている。
【0035】
第1大径偏心部(16)には第1ピストン(26)が、第2大径偏心部(17)には第2ピストン(27)がそれぞれ装着されている。これらピストン(26,27)は、それぞれ円筒状に形成されている。また、図示しないが、ピストン(26,27)の外周面には、その半径方向へ延びる平板状のブレードが突設されている。各ピストン(26,27)のブレードは、対応するシリンダ(22,24)に揺動ブッシュを介して進退自在かつ回動自在に支持されている。
【0036】
第1ピストン(26)は、その外周面が第1シリンダ(22)の内周面に実質的に摺接する。第1圧縮機構(20A)では、第1シリンダ(22)の内周面と第1ピストン(26)の外周面の間に圧縮室(28A)が形成される。一方、第2ピストン(27)は、その外周面が第2シリンダ(24)の内周面に実質的に摺接する。第2圧縮機構(20B)では、第2シリンダ(24)の内周面と第2ピストン(27)の外周面の間に圧縮室(28B)が形成される。
【0037】
第1シリンダ(22)及び第2シリンダ(24)にはそれぞれ吸入ポート(44A,44B)が形成されている。各吸入ポート(44A,44B)は、それぞれ対応する圧縮室(28A,28B)の吸入側に連通している。また、各吸入ポート(44A,44B)は、何れも蒸発器(52)に配管接続されている(図1参照)。
【0038】
第1シリンダ(22)及び第2シリンダ(24)には、図示しないが、吐出口が形成されている。各シリンダ(22,24)において、吐出口は、圧縮室(28A,28B)に連通している。また、吐出口には、リード弁等が吐出弁として設けられている。一方、ケーシング(41)における電動機(10)の上方位置には、吐出管(45)が固定されている。この吐出管(45)は、放熱器(51)に配管接続されている(図1参照)。第1,第2圧縮機構(20A,20B)からケーシング(41)内へ吐出された高圧冷媒は、吐出管(45)を通ってケーシング(41)内から送出される。
【0039】
上述したように、膨張機部(30)は、スクロール型膨張機により構成されている。図3にも示すように、膨張機部(30)は、ケーシング(41)に固定された上部フレーム(31)と、上部フレーム(31)に固定された固定スクロール(60)と、上部フレーム(31)にオルダムリング(33)を介して保持された可動スクロール(65)とを備えている。このうち、固定スクロール(60)と可動スクロール(65)とは、膨張機構(35)を構成している。
【0040】
固定スクロール(60)は、平板状の固定側鏡板部(61)と、該固定側鏡板部(61)の前面(同図における下面)に立設された渦巻壁状の固定側ラップ(62)とを備えている。一方、可動スクロール(65)は、平板状の可動側鏡板部(66)と、該可動側鏡板部(66)の前面(同図における上面)に立設された渦巻壁状の可動側ラップ(67)とを備えている。膨張機部(30)では、固定スクロール(60)の固定側ラップ(62)と可動スクロール(65)の可動側ラップ(67)が互いに噛み合うことで複数の流体室(37)が形成されている。
【0041】
シャフト(15)では、その上端にスクロール連結部(18)が形成されている。このスクロール連結部(18)には、シャフト(15)の回転中心から偏心した位置に連結孔(19)が形成されている。可動スクロール(65)では、可動側鏡板部(66)の背面(図3における下面)に連結軸(68)が突設されている。この連結軸(68)は、スクロール連結部(18)の連結孔(19)に回転自在に支持されている。また、シャフト(15)のスクロール連結部(18)は、上部フレーム(31)に回転自在に支持されている。
【0042】
図4にも示すように、固定スクロール(60)には、流入ポート(46)と流出ポート(47)が1つずつ形成され、インジェクションポート(71,76)が2つ形成されている。流入ポート(46)は、固定側鏡板部(61)を厚さ方向へ貫通しており、その下端が固定側ラップ(62)の巻き始め側端部の内側面の近傍に開口している。この流入ポート(46)は、放熱器(51)と配管接続されている(図1を参照)。流出ポート(47)は、固定側鏡板部(61)を厚さ方向へ貫通しており、その下端が固定側ラップ(62)の巻き終わり側端部の近傍に開口している。この流出ポート(47)は、蒸発器(52)と配管接続されている(図1を参照)。インジェクションポート(71,76)については後述する。
【0043】
上述のように、膨張機部(30)では、固定側ラップ(62)と可動側ラップ(67)が互いに噛み合って複数の流体室(37)を形成している。具体的には、固定側ラップ(62)の内側面と可動側ラップ(67)の外側面とに挟まれた空間が、第1の流体室としてのA室(70)を構成している。また、固定側ラップ(62)の外側面と可動側ラップ(67)の内側面とに挟まれた空間が、第2の流体室としてのB室(75)を構成している。
【0044】
上述のように、固定スクロール(60)には、2つのインジェクションポート(71,76)が形成されている。各インジェクションポート(71,76)は、固定側鏡板部(61)を厚さ方向へ貫通しており、その下端が固定側鏡板部(61)の前面(図3における下面)に開口している。2つのインジェクションポート(71,76)は、その一方がA室用インジェクションポート(71)を構成し、他方がB室用インジェクションポート(76)を構成している。固定側鏡板部(61)の前面では、固定側ラップ(62)に沿ってその巻き始め端から約360°進んだ位置の外側面の近傍にB室用インジェクションポート(76)が、そこから固定側ラップ(62)に沿って更に約180°進んだ位置の内側面の近傍にA室用インジェクションポート(71)がそれぞれ開口している。
【0045】
A室用インジェクションポート(71)とB室用インジェクションポート(76)は、その両方にインジェクション回路(53)の終端が接続されている。つまり、インジェクション回路(53)は、流量調節弁(54)の下流に位置する終端部が2つに分岐されており、その一方がA室用インジェクションポート(71)に、他方がB室用インジェクションポート(76)にそれぞれ接続されている。
【0046】
−運転動作−
先ず、上記空調機の動作について説明する。ここでは、空調機が冷房運転を行う場合の動作について説明する。
【0047】
圧縮・膨張ユニット(40)の電動機(10)に通電すると、冷媒回路(50)で冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。冷房運転時には、放熱器(51)で冷媒が室外空気と熱交換し、蒸発器(52)で冷媒が室内空気と熱交換する。
【0048】
圧縮機部(20)で圧縮された冷媒は、吐出管(45)を通って圧縮・膨張ユニット(40)から吐出される。この状態で、冷媒の圧力は、その臨界圧力よりも高くなっている。この吐出冷媒は、放熱器(51)へ送られて室外空気へ放熱する。放熱器(51)で放熱した冷媒は、流入ポート(46)を通って圧縮・膨張ユニット(40)の膨張機部(30)へ流入する。膨張機部(30)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギがシャフト(15)の回転動力に変換される。
【0049】
膨張後の低圧冷媒は、流出ポート(47)を通って圧縮・膨張ユニット(40)から流出し、蒸発器(52)へ送られる。蒸発器(52)では、流入した冷媒が室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却される。蒸発器(52)から出た低圧ガス冷媒は、吸入ポート(44A,44B)を通って圧縮・膨張ユニット(40)の圧縮機部(20)へ吸入される。圧縮機部(20)は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する。
【0050】
次に、膨張機部(30)の動作について、図3及び図5を参照しながら説明する。
【0051】
図5では、固定側ラップ(62)の巻き始め側端部が可動側ラップ(67)の内側面に接すると同時に可動側ラップ(67)の巻き始め側端部が固定側ラップ(62)の内側面に接する状態を基準の0°としている。
【0052】
流入ポート(46)へ導入された高圧冷媒は、固定側ラップ(62)の巻き始め近傍と可動側ラップ(67)の巻き始め近傍に挟まれた1つの流体室(37)へ流入してゆく。つまり、高圧冷媒は、流入ポート(46)から流入過程の流体室(37)へ導入される。膨張機部(30)では、それに伴って可動スクロール(65)が公転する。可動スクロール(65)の公転角度が360°になると、A室(70)とB室(75)とが流入ポート(46)から遮断された閉空間となり、A室(70)及びB室(75)への高圧冷媒の流入が終了する。つまり、可動スクロール(65)の公転角度が360°に達した時点で流入過程が終了する。
【0053】
その後、膨張過程のA室(70)及びB室(75)において冷媒が膨張してゆき、それに伴って可動スクロール(65)が公転する。A室(70)及びB室(75)の容積は、可動スクロール(65)が移動するにつれて大きくなってゆく。そして、B室(75)は、可動スクロール(65)の公転角度が840°から900°へ至る途中で流出ポート(47)に連通し、その後はB室(75)内の冷媒が流出ポート(47)へ送出されてゆく。つまり、B室(75)は、可動スクロール(65)の公転角度が840°から900°へ至る途中でその膨張過程が終了すると同時にその流出過程が開始される。一方、A室(70)は、可動スクロール(65)の公転角度が1020°から1080°へ至る途中で流出ポート(47)に連通し、その後はA室(70)内の冷媒が流出ポート(47)へ送出されてゆく。つまり、A室(70)は、可動スクロール(65)の公転角度が1020°から1080°へ至る途中でその膨張過程が終了すると同時にその流出過程が開始される。
【0054】
空調機の運転条件によっては、インジェクション回路(53)からも膨張機部(30)に対して高圧冷媒が導入される。その際、インジェクション回路(53)を通じて膨張機部(30)へ導入される冷媒の流量は、流量調節弁(54)の開度を調節することによって制御される。
【0055】
可動スクロール(65)の公転角度が360°から420°へ至る途中において、A室(70)はA室用インジェクションポート(71)に、B室(75)はB室用インジェクションポート(76)にそれぞれ連通する。そして、A室(70)へはA室用インジェクションポート(71)から高圧冷媒が導入され始め、B室(75)へはB室用インジェクションポート(76)から高圧冷媒が導入され始める。その後、A室(70)及びB室(75)に対するインジェクションポート(71,76)からの高圧冷媒の導入は、可動スクロール(65)が360°だけ公転する間に亘って継続され、可動スクロール(65)の公転角度が720°から780°へ至る途中で終了する。
【0056】
−インジェクションポートの位置−
上記空調機の運転状態は、室外空気の温度や室内の設定温度等に応じて変動し、それに伴って圧縮機部(20)へ吸入される冷媒の密度や膨張機部(30)へ流入する冷媒の密度も変化する。一方、冷媒回路(50)は閉回路であるため、圧縮機部(20)と膨張機部(30)とでそれぞれを通過する冷媒の質量流量が一致しなければならない。そこで、圧縮機部(20)と膨張機部(30)と通過する冷媒量をバランスさせるため、運転状態によっては放熱器(51)から流出した冷媒の一部をインジェクション回路(53)から膨張機部(30)へ導入する必要が生じる。
【0057】
先ず、膨張機部(30)において、単位時間当たりに流入過程の流体室(37)へ流入する高圧冷媒の質量をAとし、単位時間当たりにインジェクションポート(71,76)を通って膨張過程のA室(70)及びB室(75)へ流入する高圧冷媒の質量をBとする。この場合、単位時間当たりに放熱器(51)から流出する高圧冷媒の質量がA+Bであり、膨張機部(30)から蒸発器(52)へ向けて送出される冷媒の質量流量もA+Bである。
【0058】
次に、膨張機部(30)で膨張過程が始まる直前(即ち流入過程が終了した直後)における流体室(37)の容積、即ちその時点におけるA室(70)の容積とB室(75)の容積との和をV1とする。また、インジェクションポート(71,76)からA室(70)及びB室(75)への高圧冷媒の導入が終了した時点における流体室(37)の容積、即ちその時点におけるA室(70)の容積とB室(75)の容積との和をV2とする。
【0059】
単位時間当たりに放熱器(51)から流出する高圧冷媒の質量A+Bの流入過程の流体室(37)へ流入する高圧冷媒の質量Aに対する比(A+B)/Aは、空調機の運転状態が変動するのに伴って変化する。一方、膨張機部(30)を設計する際には、その際に想定した様々な運転状態において比(A+B)/Aが最大でどの程度の値になるかを推定できる。
【0060】
そこで、本実施形態の膨張機部(30)では、容積V2の容積V1に対する比V2/V1が比(A+B)/Aの最大値と略一致するように、インジェクションポート(71,76)の位置が設定されている。そして、比(A+B)/Aがその最大値となる運転状態では、流量調節弁(54)の全開状態に設定される。一方、比(A+B)/Aがその最大値を下回る運転状態では、流量調節弁(54)の開度が全開状態よりも絞られ、インジェクション回路(53)から膨張機部(30)へ導入される高圧冷媒の量が適切に調節される。
【0061】
−実施形態1の効果−
本実施形態の膨張機部(30)では、インジェクションポート(71,76)を通じて膨張過程のA室(70)及びB室(75)へ高圧冷媒を導入することが可能となっている。この膨張機部(30)では、インジェクションポート(71,76)からのA室(70)及びB室(75)に対する高圧冷媒の導入が、膨張過程が終了するよりも前に停止される。
【0062】
ここで、膨張過程の終盤では、膨張過程の初期に比べて流体室(37)の内圧が大幅に低くなっている。そして、膨張過程の終盤にインジェクションポート(71,76)から流体室(37)へ冷媒を導入する場合、インジェクション回路(53)を流れる高圧冷媒は流量調節弁(54)である程度減圧されてから流体室(37)へ流入することとなり、流量調節弁(54)で減圧された分だけ膨張機部(30)で回収される動力が減少してしまう。つまり、膨張過程の終盤にインジェクションポート(71,76)から流体室(37)へ導入された冷媒からは、殆ど動力を回収できなくなってしまう。
【0063】
これに対し、本実施形態の膨張機部(30)では、インジェクションポート(71,76)からのA室(70)及びB室(75)に対する高圧冷媒の導入が、膨張過程が終了するよりも前に停止される。従って、本実施形態によれば、膨張過程の終了時までインジェクションポート(71,76)から流体室(37)へ作動流体を流入させ続ける場合に比べ、インジェクション回路(53)の流量調節弁(54)を通過する際に冷媒が減圧される度合いを小さくすることができ、膨張機部(30)で冷媒から回収される動力を増大させることが可能となる。
【0064】
また、本実施形態の膨張機部(30)では、上述したV2/V1の値が(A+B)/Aの最大値に対応するようにインジェクションポート(71,76)が設定されている。このため、インジェクションポート(71,76)から流体室(37)へ導入すべき冷媒量を確保した上で、流体室(37)に対するインジェクションポート(71,76)からの冷媒の導入を出来るだけ早期に終了させることが可能となり、膨張機部(30)で得られる動力の更なる増大を図ることができる。
【0065】
−実施形態1の変形例1−
本実施形態の膨張機部(30)では、流入過程が終了してから膨張過程の流体室(37)に対するインジェクションポート(71,76)からの冷媒冷媒導入を開始するのではなく、流体室(37)が流入過程にある時点からインジェクションポート(71,76)を通じた冷媒導入を開始してもよい。
【0066】
図6に示すように、本変形例の膨張機部(30)において、固定側鏡板部(61)の前面では、固定側ラップ(62)に沿ってその巻き始め端から約130°進んだ位置の外側面の近傍にB室用インジェクションポート(76)が、そこから固定側ラップ(62)に沿って更に約180°進んだ位置の内側面の近傍にA室用インジェクションポート(71)がそれぞれ開口している。
【0067】
本変形例の膨張機部(30)において、A室用インジェクションポート(71)とB室用インジェクションポート(76)とは、可動スクロール(65)の公転角度が180°に達する直前頃から流体室(37)と連通し始める。つまり、A室用インジェクションポート(71)とB室用インジェクションポート(76)とは、流入過程の流体室(37)にも連通可能となっている。流量調節弁(54)を開いた状態において、流入過程の流体室(37)へは、流入ポート(46)からだけでなく、A室用インジェクションポート(71)及びB室用インジェクションポート(76)からも高圧冷媒が導入される。
【0068】
可動スクロール(65)の公転角度が360°に達すると、A室(70)及びB室(75)が流入ポート(46)から遮断されて閉じ込み状態となり、流入過程が終了する。その後、A室(70)に対しては、可動スクロール(65)の公転角度が540°に達する直前頃まで、A室用インジェクションポート(71)からの冷媒導入が継続される。また、B室(75)に対しては、可動スクロール(65)の公転角度が540°に達する直前頃まで、B室用インジェクションポート(76)からの冷媒導入が継続される。
【0069】
−実施形態1の変形例2−
図7に示すように、本実施形態のインジェクション回路(53)では、流量調節弁(54)に代えて電磁弁(55)を設けるようにしてもよい。この変形例において、電磁弁(55)を開くとインジェクションポート(71,76)から流体室(37)へ冷媒が導入され、電磁弁(55)を閉じるとインジェクションポート(71,76)から流体室(37)への冷媒の導入が遮断される。また、電磁弁(55)を比較的短時間のうちに頻繁に開閉することとし、この電磁弁(55)の開閉間隔を調節すれば、インジェクションポート(71,76)から流体室(37)へ導入される冷媒の量を調節することもできる。
【0070】
−実施形態1の変形例3−
図8に示すように、本実施形態のインジェクション回路(53)では、流量調節弁(54)に代えて差圧弁(80)を設けるようにしてもよい。
【0071】
図9に示すように、上記差圧弁(80)は、インジェクション回路(53)に接続された弁ケース(81)と、弁ケース(81)内に可動に設けられた弁体(83)と、弁体(83)を一方向に付勢するコイルバネ(85)とで構成されている。上記弁体(83)は、上記インジェクション回路(53)を閉鎖する閉鎖位置と、該インジェクション回路(53)を開放する開放位置とに変位可能であり、上記コイルバネ(85)によって図9における下向きに付勢されている。
【0072】
上記インジェクション回路(53)は、上記弁ケース(81)における弁体(83)の移動方向と交差する向きで上記弁ケース(81)に接続されている。弁体(83)は、弁ケース(81)の収納凹部(82)に嵌合し、弁ケース(81)内でスライドして上記閉鎖位置と開放位置の間を移動する。また、弁体(83)には、インジェクション回路(53)を開放位置で開口させて閉鎖位置で閉鎖する連通孔(84)が形成されている。
【0073】
上記弁ケース(81)には、膨張過程の流体室(37)に連通する第1連通管(86)と、流出ポート(47)に連通する第2連通管(87)とが接続されている。第1連通管(86)は、コイルバネ(85)側の端部、つまり弁体(83)の開放位置側の端部で上記弁ケース(81)に接続され、流体室(37)内の冷媒圧力P1を弁ケース(81)内に導入する。この冷媒圧力P1は、図9における弁体(83)の上端面に作用する。一方、第2連通管(87)は、コイルバネ(85)と反対側の端部、つまり弁体(83)の閉鎖位置側の端部で上記弁ケース(81)に接続され、流出ポート(47)の冷媒圧力P2を弁ケース(81)内に導入する。この冷媒圧力P2は、図9における弁体(83)の下端面に作用する。
【0074】
上記差圧弁(80)において、弁体(83)には、冷媒圧力P1による押圧力とコイルバネ(85)の付勢力の合力と、冷媒圧力P2による押圧力とが作用する。そして、冷媒圧力P1による押圧力とコイルバネ(85)の付勢力の合力が冷媒圧力P2による押圧力よりも大きい状態では、弁体(83)が閉鎖位置へ向かって移動してゆく。逆に、冷媒圧力P1による押圧力とコイルバネ(85)の付勢力の合力が冷媒圧力P2による押圧力よりも小さい状態では、弁体(83)が開放位置へ向かって移動してゆく。
【0075】
上記コイルバネ(85)の付勢力は、インジェクションポート(71,76)から流体室(37)へ冷媒を導入する必要がない運転条件において、流体室(37)の冷媒圧力P1による押圧力とコイルバネ(85)の付勢力の合力が流出ポート(47)の冷媒圧力P2による押圧力よりも大きくなるような値に設定されている。従って、インジェクションポート(71,76)から流体室(37)へ冷媒を導入する必要がない運転条件では、差圧弁(80)の弁体が閉鎖位置となり、インジェクション回路(53)から流体室(37)へ高圧冷媒の導入は導入されない状態となる。
【0076】
一方、流体室(37)内で過膨張が発生する状態では、流出ポート(47)の冷媒圧力P2による押圧力が流体室(37)の冷媒圧力P1による押圧力とコイルバネ(85)の付勢力の合力よりも大きくなり、差圧弁(80)の弁体が開放位置へ向かって移動する。そして、差圧弁(80)が開状態となってインジェクションポート(71,76)から膨張過程の流体室(37)へ冷媒が導入され、流体室(37)内の圧力が上昇して過膨張の発生が回避される。
【0077】
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態は、上記実施形態1において、膨張機部(30)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態の膨張機部(30)について、上記実施形態1のものと異なる点について説明する。
【0078】
図10に示すように、本実施形態の膨張機部(30)には、A室用インジェクションポート(72,73)とB室用インジェクションポート(77,78)とが2つずつ設けられている。これら合計4つのインジェクションポート(72,73,77,78)は、その何れにもインジェクション回路(53)の終端が接続されている。
【0079】
膨張機部(30)における固定側鏡板部(61)の前面では、固定側ラップ(62)に沿ってその巻き始め端から約320°進んだ位置の外側面の近傍に第1B室用インジェクションポート(77)が、そこから固定側ラップ(62)に沿って更に約180°進んだ位置の内側面の近傍に第1A室用インジェクションポート(72)がそれぞれ開口している。また、この固定側鏡板部(61)の前面では、固定側ラップ(62)に沿ってその巻き始め端から約410°進んだ位置の外側面の近傍に第2B室用インジェクションポート(78)が、そこから固定側ラップ(62)に沿って更に約180°進んだ位置の内側面の近傍に第2A室用インジェクションポート(73)がそれぞれ開口している。
【0080】
−運転動作−
本実施形態における膨張機部(30)の動作について、図10を参照しながら説明する。尚、図10における基準の0°は、図5の場合と同様の状態を示している。
【0081】
流入ポート(46)へ導入された高圧冷媒は、この流入ポート(46)に連通する1つの流体室(37)へ流入してゆく。そして、可動スクロール(65)の公転角度が360°になると、A室(70)及びB室(75)への高圧冷媒の流入が終了する。この動作は、上記実施形態1の場合と同様である。
【0082】
その後、膨張過程のA室(70)及びB室(75)において冷媒が膨張してゆき、それに伴って可動スクロール(65)が公転する。そして、B室(75)は、可動スクロール(65)の公転角度が840°から900°へ至る途中で流出ポート(47)に連通し、その後はB室(75)内の冷媒が流出ポート(47)へ送出されてゆく。一方、A室(70)は、可動スクロール(65)の公転角度が1020°から1080°へ至る途中で流出ポート(47)に連通し、その後はA室(70)内の冷媒が流出ポート(47)へ送出されてゆく。この動作も、上記実施形態1の場合と同様である。
【0083】
空調機の運転条件によっては、インジェクション回路(53)からも膨張機部(30)に対して高圧冷媒が導入される。その際、インジェクション回路(53)を通じて膨張機部(30)へ導入される冷媒の流量は、流量調節弁(54)の開度を調節することによって制御される。
【0084】
可動スクロール(65)の公転角度が360°から420°へ至る途中において、A室(70)は第1A室用インジェクションポート(72)に、B室(75)は第1B室用インジェクションポート(77)にそれぞれ連通し始める。そして、A室(70)へは第1A室用インジェクションポート(72)から冷媒が導入され始め、B室(75)へは第1B室用インジェクションポート(77)から冷媒が導入され始める。
【0085】
続いて、可動スクロール(65)の公転角度が420°から480°へ至る途中において、A室(70)は第2A室用インジェクションポート(73)に、B室(75)は第2B室用インジェクションポート(78)にそれぞれ連通し始める。そして、A室(70)へは第1A室用インジェクションポート(72)からに加えて第2A室用インジェクションポート(73)からも冷媒が導入され始め、B室(75)へは第1B室用インジェクションポート(77)からに加えて第2B室用インジェクションポート(78)からも冷媒が導入され始める。
【0086】
その後、暫くの間は、A室(70)へは第1A室用インジェクションポート(72)と第2A室用インジェクションポート(73)の両方から冷媒が導入され続け、B室(75)へは第1B室用インジェクションポート(77)と第2B室用インジェクションポート(78)の両方から冷媒が導入され続ける。
【0087】
そして、可動スクロール(65)の公転角度が720°から780°へ至る途中において、A室(70)に対する第1A室用インジェクションポート(72)からの冷媒導入が停止し、B室(75)に対する第1B室用インジェクションポート(77)からの冷媒導入が停止する。また、可動スクロール(65)の公転角度が780°から840°へ至る途中において、A室(70)に対する第2A室用インジェクションポート(73)からの冷媒導入が停止し、B室(75)に対する第2B室用インジェクションポート(78)からの冷媒導入が停止する。つまり、この時点において、膨張過程のA室(70)及びB室(75)に対する冷媒の導入が完全に停止する。
【0088】
このように、本実施形態の膨張機部(30)では、膨張過程のA室(70)及びB室(75)に対して冷媒を導入し始めてから導入し終わるまでの可動スクロール(65)の公転角度が、360°よりも大きくなっている。
【0089】
−実施形態2の変形例1−
本実施形態の膨張機部(30)は、A室(70)に対して第1A室用インジェクションポート(72)が連通する時期と第2A室用インジェクションポート(73)が連通する時期とをオーバーラップさせず、更にはB室(75)に対して第1B室用インジェクションポート(77)が連通する時期と第2B室用インジェクションポート(78)が連通する時期とをオーバーラップさせない構成であってもよい。
【0090】
図11に示すように、本変形例の膨張機部(30)において、固定側鏡板部(61)の前面では、固定側ラップ(62)に沿ってその巻き始め端から約130°進んだ位置の外側面の近傍に第1B室用インジェクションポート(77)が、そこから固定側ラップ(62)に沿って更に約180°進んだ位置の内側面の近傍に第1A室用インジェクションポート(72)がそれぞれ開口している。また、この固定側鏡板部(61)の前面では、固定側ラップ(62)に沿ってその巻き始め端から約490°進んだ位置の外側面の近傍に第2B室用インジェクションポート(78)が、そこから固定側ラップ(62)に沿って更に約180°進んだ位置の内側面の近傍に第2A室用インジェクションポート(73)がそれぞれ開口している。
【0091】
本変形例の膨張機部(30)において、第1A室用インジェクションポート(72)と第1B室用インジェクションポート(77)とは、可動スクロール(65)の公転角度が180°に達する直前頃から流体室(37)と連通し始める。つまり、第1A室用インジェクションポート(72)と第1B室用インジェクションポート(77)とは、流入過程の流体室(37)にも連通可能となっている。流量調節弁(54)を開いた状態において、流入過程の流体室(37)へは、流入ポート(46)からだけでなく、第1A室用インジェクションポート(72)及び第1B室用インジェクションポート(77)からも高圧冷媒が導入される。
【0092】
その後、A室(70)は、可動スクロール(65)の公転角度が540°に達する直前頃に第1A室用インジェクションポート(72)から遮断される。続いて、A室(70)は、第2A室用インジェクションポート(73)と連通し始め、可動スクロール(65)の公転角度が840°から900°に至る途中で第2A室用インジェクションポート(73)から遮断される。一方、B室(75)は、可動スクロール(65)の公転角度が540°に達する直前頃に第1B室用インジェクションポート(77)から遮断される。続いて、B室(75)は、第2B室用インジェクションポート(78)と連通し始め、可動スクロール(65)の公転角度が840°から900°に至る途中で第2B室用インジェクションポート(78)から遮断される。
【0093】
−実施形態2の変形例2−
本実施形態の膨張機部(30)では、膨張過程のA室(70)及びB室(75)へ冷媒を導入するインジェクションポート(72,73,77,78)の数を変更可能としてもよい。つまり、この膨張機部(30)では、膨張過程のA室(70)及びB室(75)へ冷媒を導入する際において、第1A室用インジェクションポート(72)と第1B室用インジェクションポート(77)だけを用いる状態と、第2A室用インジェクションポート(73)と第2B室用インジェクションポート(78)だけを用いる状態と、全てのインジェクションポート(72,73,77,78)を用いる状態とが相互に切換可能となっていてもよい。
【0094】
《その他の実施形態》
上記の各実施形態では、膨張機構(35)の固定スクロール(60)にインジェクションポート(71,…,76,…)を形成しているが、これに代えて、可動スクロール(65)にインジェクションポート(71,…,76,…)を形成してもよい。
【0095】
また、上記の各実施形態では、膨張機部(30)を備えた圧縮・膨張ユニット(40)を空調機の冷媒回路(50)に接続しているが、この圧縮・膨張ユニット(40)は、他の用途に用いられる機器、例えば給湯機の冷媒回路に接続することも可能である。尚、給湯機の冷媒回路では、放熱器(51)において冷媒が加熱対象の給湯用水と熱交換し、蒸発器(52)において冷媒が熱源としての室外空気と熱交換することになる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明したように、本発明は、作動流体の膨張により動力を発生させるスクロール型膨張機について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施形態1における冷媒回路の概略構成図である。
【図2】実施形態1における圧縮・膨張ユニットの縦断面図である。
【図3】実施形態1における膨張機部の縦断面図である。
【図4】実施形態1における膨張機部の要部の横断面図である。
【図5】実施形態1における膨張機部の要部と動作とを示す横断面図である。
【図6】実施形態1の変形例1における膨張機部の要部と動作とを示す横断面図である。
【図7】実施形態1の変形例2における膨張機部の縦断面図である。
【図8】実施形態1の変形例3における膨張機部の縦断面図である。
【図9】実施形態1の変形例3における差圧弁の概略断面図である。
【図10】実施形態2における膨張機部の要部と動作とを示す横断面図である。
【図11】実施形態2の変形例1における膨張機部の要部と動作とを示す横断面図である。
【符号の説明】
【0098】
(30) 膨張機部(スクロール型膨張機)
(35) 膨張機構
(37) 流体室
(60) 固定スクロール
(62) 固定側ラップ
(65) 可動スクロール
(67) 可動側ラップ
(70) A室(第1の流体室)
(71) A室用インジェクションポート(第1のインジェクションポート)
(72) 第1A室用インジェクションポート(第1のインジェクションポート)
(73) 第2A室用インジェクションポート(第1のインジェクションポート)
(75) B室(第2の流体室)
(76) B室用インジェクションポート(第2のインジェクションポート)
(77) 第1B室用インジェクションポート(第2のインジェクションポート)
(78) 第2B室用インジェクションポート(第2のインジェクションポート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロール(60)の固定側ラップ(62)と可動スクロール(65)の可動側ラップ(67)とが互いに噛み合って流体室(37)を形成する膨張機構(35)を備え、膨張機構(35)へ供給された作動流体が流体室(37)内で膨張するスクロール型膨張機であって、
上記膨張機構(35)には、膨張過程の流体室(37)へ作動流体を導入するためのインジェクションポート(71,…,76,…)とが設けられており、
上記インジェクションポート(71,…,76,…)の位置は、該インジェクションポート(71,…,76,…)から流体室(37)への作動流体の導入が膨張過程の終了前に停止するように設定されているスクロール型膨張機。
【請求項2】
請求項1に記載のスクロール型膨張機において、
膨張過程の開始時点における流体室(37)の容積をV1とし、
インジェクションポート(71,…,76,…)からの作動流体の導入終了時点における流体室(37)の容積をV2とし、
単位時間当たりに流入過程の流体室(37)へ流入する作動流体の質量をAとし、
単位時間当たりにインジェクションポート(71,…,76,…)を通って膨張過程の流体室(37)へ流入する作動流体の質量をBとした場合に、
2のV1に対する比V2/V1が、A+BのAに対する比(A+B)/Aの最大値に対応して設定されているスクロール型膨張機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスクロール型膨張機において、
膨張機構(35)には、固定側ラップ(62)の内側面に沿って形成された第1の流体室(70)だけに開口する第1のインジェクションポート(71)と、固定側ラップ(62)の外側面に沿って形成された第2の流体室(75)だけに開口する第2のインジェクションポート(76)とが1つずつ設けられているスクロール型膨張機。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のスクロール型膨張機において、
膨張機構(35)には、固定側ラップ(62)の内側面に沿って形成された第1の流体室(70)だけに開口する第1のインジェクションポート(72,73)と、固定側ラップ(62)の外側面に沿って形成された第2の流体室(75)だけに開口する第2のインジェクションポート(77,78)とが複数ずつ設けられているスクロール型膨張機。
【請求項5】
請求項4に記載のスクロール型膨張機において、
1つの第1の流体室(70)に対して複数の第1のインジェクションポート(72,73)が開口可能となっており、
1つの第2の流体室(75)に対して複数の第2のインジェクションポート(77,78)が開口可能となっているスクロール型膨張機。
【請求項6】
請求項4に記載のスクロール型膨張機において、
複数の第1のインジェクションポート(72,73)は、それぞれが常に別々の第1の流体室(70)に開口しており、
複数の第2のインジェクションポート(77,78)は、それぞれが常に別々の第2の流体室(75)に開口しているスクロール型膨張機。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1つに記載のスクロール型膨張機において、
インジェクションポート(71,…,76,…)が固定スクロール(60)に形成されているスクロール型膨張機。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1つに記載のスクロール型膨張機において、
膨張機構(35)へ供給される作動流体が臨界圧力以上の二酸化炭素であるスクロール型膨張機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−46223(P2006−46223A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229839(P2004−229839)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発 エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発 CO2空調機用二相流膨張機・圧縮機の開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)