説明

スクロール式流体機械

【課題】 ケーシング、旋回スクロールを同じ非鉄金属材料によって形成した場合に、かじりや異常摩耗の発生を防止し、かつ耐摩耗性を向上する。
【解決手段】 アルミニウム系材料によって形成されたケーシング1と旋回スクロール8との間に鉄系材料によって形成されたスラストプレート17を設けている。これにより、ケーシング1と旋回スクロール8とを同じアルミニウム系材料によって形成した場合でも、スラストプレート17によってケーシング1と旋回スクロール8との間のかじりや異常摩耗を防止できる。また、スラストプレート17をケーシング1のスラスト受部2に回転可能に嵌合し、旋回スクロール8の鏡板8Aに対して摺動させる構成としているから、スラストプレート17とスラスト受部2との間の摺動抵抗を低減して、耐摩耗性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば空気、冷媒を圧縮する圧縮機や真空ポンプ等に用いて好適なスクロール式流体機械に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、スクロール式流体機械は、スラスト方向の荷重を受承するスラスト受部が設けられたケーシングと、該ケーシングに設けられ、鏡板に渦巻状のラップ部が立設された固定スクロールと、前記ケーシングに回転可能に設けられた駆動軸と、該駆動軸の先端側に旋回可能に設けられ、鏡板に前記固定スクロールのラップ部と重なり合って複数の圧縮室を画成する渦巻状のラップ部が立設された旋回スクロールとによって大略構成されている。また、前記固定スクロールには、各圧縮室のうち最外周側の圧縮室に連通した吸込口と、圧縮室からの気体を外部に吐出する吐出口とが設けられている。
【0003】そして、スクロール式流体機械を空気圧縮機として用いた場合には、電動モータ等により駆動軸を回転駆動して旋回スクロールを旋回させることにより、吸込口から吸込んだ空気を各圧縮室内で圧縮しつつ、この圧縮空気を吐出口から吐出し、外部の空気タンク等に供給する。
【0004】また、圧縮運転時には、各圧縮室の圧力が旋回スクロールを固定スクロールから離間させる方向(スラスト方向)に作用するが、該旋回スクロールの鏡板に摺接したケーシングのスラスト受部によって該旋回スクロールに作用するスラスト方向の荷重を受承している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述した従来技術によるスクロール式流体機械では、小型軽量化、冷却効率の向上、生産性の向上等の要望に対応し、ケーシング、旋回スクロール等に軽量で、熱伝導率がよく、成形が容易なアルミニウム系材料等を用いることが望まれている。
【0006】しかし、ケーシングと旋回スクロールとを同じアルミニウム系材料によって形成した場合には、ケーシングのスラスト受部と旋回スクロールの鏡板との摺動面でかじり、異常摩耗等を生じる虞れがあるという問題がある。
【0007】また、旋回スクロールは自転が規制された状態で旋回運動するから、該旋回スクロールの鏡板がケーシングのスラスト受部に対し径方向、周方向に複雑に摺動する。このため、旋回スクロールの鏡板とケーシングのスラスト受部との間の摺動抵抗が大きくなり、摩耗によって寿命の低下を招くという問題がある。
【0008】本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、ケーシング、旋回スクロールを同じアルミニウム系材料によって形成した場合でも、かじりや異常摩耗の発生を防止でき、かつ耐摩耗性を向上できるようにしたスクロール式流体機械を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明によるスクロール式流体機械は、スラスト方向の荷重を受承するスラスト受部が設けられたケーシングと、該ケーシングに設けられ、鏡板に渦巻状のラップ部が立設された固定スクロールと、前記ケーシングに回転可能に設けられた駆動軸と、該駆動軸の先端側に旋回可能に設けられ、鏡板に前記固定スクロールのラップ部と重なり合って複数の圧縮室を画成する渦巻状のラップ部が立設された旋回スクロールとによって構成されている。
【0010】そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、ケーシングと旋回スクロールを非鉄金属材料によって形成し、該ケーシングのスラスト受部と旋回スクロールの鏡板との間にはケーシング、旋回スクロールと異なる材料によって円環状に形成されたスラストプレートを設ける構成としたことにある。
【0011】このように構成したことにより、ケーシング、旋回スクロールを同じ非鉄金属材料によって形成した場合でも、ケーシング、旋回スクロールと異なる材料によって形成されたスラストプレートを介して旋回スクロールの鏡板とケーシングのスラスト受部を衝合させることができ、同一材料によるかじりや異常摩耗を防止することができる。
【0012】請求項2の発明は、ケーシングのスラスト受部または旋回スクロールの鏡板のうちいずれか一方には円環状の環状凹溝を設け、スラストプレートは該環状凹溝から突出した状態で該環状凹溝に回転可能に嵌合する構成としたことにある。
【0013】このように構成したことにより、環状凹溝内にスラストプレートを嵌合させるだけで、該スラストプレートをケーシングのスラスト受部または旋回スクロールの鏡板に回転可能に取付けることができる。また、旋回スクロールの旋回運動に対応してスラストプレートを回転させることができるから、ケーシングのスラスト受部または旋回スクロールの鏡板とスラストプレートとの間の摺動抵抗を低減することができる。
【0014】請求項3の発明は、ケーシング、旋回スクロールはアルミニウム系材料によって形成し、スラストプレートは鉄系材料によって形成したことにある。これにより、ケーシングと旋回スクロールとを同じアルミニウム系材料によって形成した場合でも、これらの部材間のかじりや異常摩耗を防止することができる。
【0015】請求項4の発明は、スラストプレートには、旋回スクロールの鏡板と当接する表面側またはケーシングのスラスト受部と当接する背面側に位置して潤滑油を溜める複数の油溜めを設けている。これにより、例えば旋回スクロールとスラストプレートとの摺動面に油溜めからも潤滑油を供給できる。また、スラストプレートがケーシングのスラスト受部に対して回転する構成とした場合にも、両者の摺動面に対して油溜めから潤滑油を供給することができる。
【0016】請求項5の発明のように、スラストプレートには各油溜め間を連通する複数の油溝を設けることにより、スラストプレートの各油溜め内に溜った潤滑油を連通溝を通じて互いに流通させることができ、これらの油溜め内の油量を均等化することができる。
【0017】請求項6の発明は、スラストプレートの外周面には周方向に間隔をもって複数の切欠きを設けている。これにより、スラストプレートの外縁側にも切欠きから潤滑油を供給できる。また、例えばスラストプレートが回転する場合には、外部から切欠きに供給される潤滑油をスラストプレートの回転運動により全周に亘って分散させることができる。
【0018】請求項7の発明は、固定スクロールと旋回スクロールとの間には圧縮室への油液の浸入を阻止するシール部材を設ける構成としたことにある。これにより、ケーシング内に貯えられた潤滑油等の油液によって軸受等を潤滑した場合でも、この油液が圧縮室内に浸入するのを防止することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態によるスクロール式流体機械として半給油式のスクロール式空気圧縮機を例に挙げ図1ないし図9に従って詳細に説明する。ここで、図1ないし図4は本発明による第1の実施の形態を示している。
【0020】1はスクロール式空気圧縮機の外殻をなすケーシングで、該ケーシング1は、小径筒状に形成された軸受部1Aと、該軸受部1Aの軸方向中間部から径方向外向きに延びた円板状の蓋部1Bと、該蓋部1Bの外周から軸方向に延びた大径筒部1Cと、該大径筒部1Cの先端から径方向外向きに突出したフランジ部1Dとによって大略構成され、ケーシング1はアルミニウム合金等のアルミニウム系材料によって形成されている。
【0021】また、2はケーシング1の大径筒部1Cの内周側から内向きに突出して設けられた円環状のスラスト受部で、該スラスト受部2の内周側には、後述するオルダムリング11が係合する係合溝2Aが形成されている。また、スラスト受部2には、図2および図3に示す如く、その外周側で後述の旋回スクロール8に対向する前面側に位置して円環状の環状凹溝2Bが形成され、該環状凹溝2B内には後述のスラストプレート17が回転可能に嵌合している。
【0022】さらに、ケーシング1内には油液としての潤滑油3が貯えられ、この潤滑油3は後述の油掻き14によって掻き上げられることにより、後述の玉軸受6,7等を潤滑するものである。
【0023】4はケーシング1に取付けられた固定スクロールで、該固定スクロール4はアルミニウム系材料によって形成されている。また、固定スクロール4は、略円板状に形成され、中心が後述する駆動軸5の軸線と一致するように配設された鏡板4Aと、該鏡板4Aの外縁側からケーシング1に向けて軸方向に延びた筒部4Bと、該筒部4Bから径方向外向きに延びたフランジ部4Cと、前記鏡板4Aに軸方向に立設された渦巻状のラップ部4Dとによって構成されている。
【0024】5はケーシング1の軸受部1Aに玉軸受6,7を介して回転可能に支持された駆動軸で、該駆動軸5の基端側はケーシング1外で電動モ−タ(図示せず)等に連結されている。また、駆動軸5の先端側はケーシング1内へと伸長してクランク軸5Aとなり、該クランク軸5Aの軸線は駆動軸5の軸線に対して所定寸法dだけ偏心している。
【0025】8はケーシング1内に位置して駆動軸5のクランク軸5Aに旋回可能に設けられた旋回スクロールで、該旋回スクロール8はケーシング1と同じアルミニウム系材料によって形成されている。また、旋回スクロール8は、円板状に形成された鏡板8Aと、該鏡板8Aの前面側から軸方向に立設された渦巻状のラップ部8Bと、鏡板8Aの背面側中央に突設されたボス部8Cとによって構成され、該ボス部8C内にはクランク軸5Aがころ軸受9を介して取付けられている。
【0026】そして、旋回スクロール8は固定スクロール4のラップ部4Dに対し、例えば180度だけずらして重なり合うように配設され、これにより、両者のラップ部4D,8B間には複数の圧縮室10,10,…が画成される。また、旋回スクロール8は、その鏡板8Aの外周側が固定スクロール4のフランジ部4Cとケーシング1のスラスト受部2との間に配設され、該鏡板8Aの背面外周側がスラストプレート17に摺動可能に衝合している。
【0027】11はケーシング1のスラスト受部2と旋回スクロール8の鏡板8Aとの間に設けられたオルダムリングで、該オルダムリング11はスラスト受部2の係合溝2Aと鏡板8Aの係合溝(図示せず)に対し、それぞれ直交方向に独立して摺動可能に係合している。そして、オルダムリング11は、駆動軸5によって旋回スクロール8が回転駆動されたときに、該旋回スクロール8の自転を防止し、クランク軸5Aによる寸法dの旋回半径をもった円運動(旋回運動)を与えるものである。
【0028】12は固定スクロール4の鏡板4A外周側に装着されたシール部材としてのフェイスシールで、該フェイスシール12は、例えばOリング、角リング等によって形成されている。そして、フェイスシール12は、固定スクロール4のフランジ部4Cと旋回スクロールの鏡板8Aとの間を液密にシールするもので、潤滑油3が圧縮室10内に浸入するのを規制している。
【0029】13は駆動軸5に設けられ、該駆動軸5の回転バランスをとるカウンタウェイト、14は該カウンタウェイト13の先端側に取付けられた油掻きをそれぞれ示し、該油掻き14はケーシング1内の潤滑油3を掻き上げ、玉軸受6,7、ころ軸受9、ケーシング1のスラスト受部2、スラストプレート17の両面側等に潤滑油3を供給するものである。
【0030】15は固定スクロール4の鏡板4A外周側に穿設された吸込口で、該吸込口15は最外周側の圧縮室10に連通している。また、16は固定スクロール4の鏡板4A中心部に穿設された吐出口で、該吐出口16は最内周側の圧縮室10に開口している。
【0031】17はケーシング1のスラスト受部2と旋回スクロール8の鏡板8Aとの間に設けられたスラストプレートで、該スラストプレート17は、図2ないし図4R>4に示すように、例えば鋳鉄等の比較的軟質な鉄系材料を用いて鋳造、プレス加工等の加工手段により円環状の板体として形成され、表面17Aと背面17Bとを有している。また、スラストプレート17の厚さ寸法tは環状凹溝2Bの深さ寸法hよりも大きく設定され、これにより、スラストプレート17をスラスト受部2の環状凹溝2B内に嵌合した状態では、スラストプレート17がスラスト受部2よりも突出している。
【0032】そして、スラストプレート17は、背面17B側がスラスト受部2の環状凹溝2B内に回転可能に嵌合され、表面17A側が旋回スクロール8の鏡板8A背面に対して摺動(または相対回転)可能に衝合している。
【0033】このようにスラストプレート17は、旋回スクロール8が旋回運動したときに、径方向、周方向に移動する旋回スクロール8の鏡板8Aに対して表面17A側が摺動し、該旋回スクロール8に作用するスラスト方向の荷重をスラスト受部2と共に受承する。また、スラストプレート17は環状凹溝2B内で回転可能に設けられ、これにより、背面17B側が旋回スクロール8の旋回運動に応じて環状凹溝2B内で回転を生じ、鏡板8Aと間の摩擦抵抗を低減している。
【0034】本実施の形態によるスクロール式空気圧縮機は上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0035】まず、駆動軸5を電動モータによって回転駆動すると、旋回スクロール8が寸法dの旋回半径で旋回運動し、吸込口15を通って最外周側の圧縮室10内に外部の空気が吸込まれ順次圧縮される。そして、この圧縮空気は最内周側の圧縮室10から吐出口16を通って外部の空気タンク等に吐出させる。
【0036】また、圧縮運転時には、圧縮室10内の圧力が旋回スクロール8を固定スクロール4から離間させる方向(スラスト方向)に作用するが、該旋回スクロール8の鏡板8Aに摺接したケーシング1のスラスト受部2、スラストプレート17によって該旋回スクロール8に作用するスラスト方向の荷重を受承する。
【0037】ここで、スラストプレート17は、スラスト受部2の環状凹溝2B内に回転可能に嵌合され、旋回スクロール8の鏡板8A背面に対して摺動可能に衝合しているから、旋回スクロール8の鏡板8Aに対して摺動するときに、旋回スクロール8の旋回運動に応じて環状凹溝2B内で回転し、鏡板8Aと間の摩擦抵抗を低減することができる。
【0038】一方、ケーシング1内に貯えられた潤滑油3を油掻き14によって掻き上げることにより、ケーシング1内の玉軸受6,7、ころ軸受9、スラスト受部2等に潤滑油3を供給すると共に、スラストプレート17の表面17A、背面17B等にも潤滑油3を供給し、これらを潤滑する。また、固定スクロール4の鏡板4Aにはフェイスシール12が装着され、該フェイスシール12は、潤滑油3が圧縮室10内に浸入するのを規制している。
【0039】以上のように、本実施の形態によれば、同じアルミニウム系材料によって形成されたケーシング1と旋回スクロール8との間に鉄系材料によって形成されたスラストプレート17を設け、該スラストプレート17は前記ケーシング1のスラスト受部2に回転可能に嵌合し、前記旋回スクロール8の鏡板8Aに対して摺動させる構成としている。これにより、ケーシング1と旋回スクロール8を同じアルミニウム系材料によって形成した場合でも、鉄系材料によって形成されたスラストプレート17を介して旋回スクロール8の鏡板8Aをケーシング1のスラスト受部2に衝合させることができ、ケーシング1と旋回スクロール8との間のかじりや異常摩耗を防止することができる。
【0040】この結果、ケーシング1、旋回スクロール8等を軽量で、熱伝導率がよく、成形が容易なアルミニウム合金等のアルミニウム系材料によって形成することができるから、スクロール式空気圧縮機の小型軽量化、冷却効率の向上、生産性の向上を図ることができる。
【0041】しかも、旋回スクロール8の旋回運動に対応してスラストプレート17を回転させることができるから、該スラストプレート17とケーシング1のスラスト受部2との間の摺動抵抗を低減でき、スクロール式空気圧縮機の耐摩耗性を向上して寿命を延ばすことができる。
【0042】また、スラストプレート17を円環状の板体として形成しているから、該スラストプレート17を円滑に回転させることができる上に、旋回スクロール8に作用するスラスト方向の荷重を広い面で効率よく受承することができる。
【0043】さらに、ケーシング1のスラスト受部2に円環状の環状凹溝2Bを形成し、スラストプレート17を該環状凹溝2Bに回転可能に嵌合する構成としているから、環状凹溝2B内にスラストプレート17を嵌合させるだけで、該スラストプレート17をケーシング1側に容易に取付けることができ、組立時の作業性を向上することができる。
【0044】一方、固定スクロール4の鏡板4Aにフェイスシール12を装着し、固定スクロール4と旋回スクロール8との間をシールしているから、ケーシング1内の潤滑油3が圧縮室10内に浸入するのを規制しでき、吐出口16から清浄な圧縮空気を吐出することができる。
【0045】なお、本実施の形態では、ケーシング1のスラスト受部2に環状凹溝2Bを形成し、スラストプレート17を該環状凹溝2Bに回転可能に嵌合する構成とした場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば図4に示す変形例のように、旋回スクロール8の鏡板8A背面に環状凹溝21を形成し、該環状凹溝21にスラストプレート22を回転可能に嵌合する構成としてもよい。
【0046】また、スラストプレート17を回転可能に支持する構成についても、ケーシング1のスラスト受部2または旋回スクロール8の鏡板8Aに環状の凸部を設け、スラストプレート17に該凸部に対応する凹部を設け、両者を回転可能に嵌合させる構成としてもよい。
【0047】即ち、スラストプレート17,22はケーシング1のスラスト受部2、旋回スクロール8の鏡板8Aのいずれか一方または両方に回転可能に衝合する構成であれば、嵌合部の形状等は自由に設定することができる。
【0048】次に、図5ないし図7は本発明による第2の実施の形態を示し、本実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の特徴は、スラストプレートに複数の油溜めを設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0049】31は第1の実施の形態によるスラストプレート17とほぼ同様に構成されたスラストプレートで、該スラストプレート31は、例えば鋳鉄等の鉄系材料により円環状の板体として形成され、表面31A側が旋回スクロール8の鏡板8A背面に対して摺動可能に衝合すると共に、背面31B側がスラスト受部2の環状凹溝2B内に回転(摺動)可能に嵌合されている。しかし、スラストプレート31の表面31Aと背面31Bには、後述の油溜め32が設けられている。
【0050】32,32,…はスラストプレート31に間隔をもって形成された多数の油溜めで、該各油溜め32は、図6および図7に示す如く、スラストプレート31を軸方向に貫通し、両端側がスラストプレート31の表面31A、背面31Bに開口している。
【0051】そして、油溜め32は油掻き14によってスラストプレート31の表面31A側、背面31B側に供給される潤滑油3を内部に溜め、この潤滑油3をスラスト受部2とスラストプレート31との摺動面、旋回スクロール8とスラストプレート31との摺動面へと徐々に供給するものである。
【0052】かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、スラストプレート31に表面31Aと背面31Bに開口する多数の油溜め32を設けたので、スラストプレート31の両面側に位置してスラスト受部2、旋回スクロール8との摺動面に供給される潤滑油3を油溜め32に溜めることができ、これらの摺動面には油溜め32からも潤滑油3を長期間に亘り安定して供給することができる。
【0053】これにより、旋回スクロール8の旋回運動中には、スラストプレート31の表面31A、背面31Bでの摺動抵抗を低減でき、スラスト受部2、旋回スクロール8、スラストプレート31等の摩耗を確実に抑制できると共に、旋回スクロール8の旋回動作を円滑化して圧縮運転時の効率を高めることができる。
【0054】また、多数の油溜め32を形成することによってスラストプレート31の軽量化を図ることができる。しかも、これらの油溜め32は高精度に形成する必要がないため、スラストプレート31を鋳造、プレス加工等の加工手段により製造するときに各油溜め32を同時に効率よく形成することができる。
【0055】次に、図8は本発明による第3の実施の形態を示し、本実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の特徴は、スラストプレートの両面側に設けた複数の凹陥部により油溜めを構成したことにある。
【0056】41は前記第1の実施の形態によるスラストプレート17とほぼ同様に構成されたスラストプレートで、該スラストプレート41は、例えば鋳鉄等の鉄系材料により円環状の板体として形成されている。しかし、スラストプレート41の表面41Aと背面41Bには、それぞれ多数の油溜め42,42,…が間隔をもって設けられ、これらの油溜め42は有底の凹陥穴(ディンプル穴)として形成されている。
【0057】かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1および第2の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、各油溜め42を凹陥穴として形成することにより、スラストプレート41の厚さが大きいためプレス加工等が困難な場合でも、その両面側に油溜め42を容易に形成することができる。
【0058】次に、図9は本発明による第4の実施の形態を示し、本実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の特徴は、スラストプレートに油溜め、油溝および切欠きを設ける構成としたことにある。
【0059】51は例えば鋳鉄等の鉄系材料により円環状の板体として形成されたスラストプレートで、該スラストプレート51には、その表面51A側と背面側に開口する多数の油溜め52,52,…が貫通孔として設けられている。また、スラストプレート51には、後述の油溝53と、切欠き54とが設けられている。
【0060】53,53,…はスラストプレート51の表面51Aに形成された複数の油溝で、該各油溝53は互いに隣接する各油溜め52間に配置されている。そして、油溝53は、スラストプレート51の表面51Aが旋回スクロール8の鏡板8A背面に摺接している状態でも、その表面51A側で各油溜め52を連通し、これらの油溜め52間には油溝53を通じて潤滑油が流通する構成となっている。この場合、スラストプレート51の背面側にも、各油溜め52を背面側で連結する複数の油溝を必要に応じて設ける構成としてもよい。
【0061】54,54,…はスラストプレート51の外周面に設けられた複数の切欠きで、該各切欠き54はスラストプレート51の径方向に一定の深さ寸法をもって形成され、周方向に間隔をもって配置されている。そして、旋回スクロール8の旋回動作中にスラストプレート51が回転するときには、切欠き54に溜った潤滑油がスラストプレート51の外周面とスラスト受部2の環状凹溝2Bとの間を潤滑しつつ、この潤滑油はスラストプレート51の回転運動により全周に亘って均等に分散される構成となっている。
【0062】かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1および第2の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、各油溜め52間に複数の油溝53を設けたので、これらの油溜め52に溜った潤滑油を油溝53を通じて互いに流通させることができ、各油溜め52からの潤滑油をスラストプレート51の摺動面全体に対して均等に供給することができる。
【0063】また、スラストプレート51の外周面に複数の切欠き54を設けることにより、切欠き54等から供給される潤滑油によりスラストプレート51の外周面も安定して潤滑できると共に、スラストプレート51の回転運動を利用して切欠き54に溜った潤滑油を全周に効率よく分散でき、スラストプレート51の各部位に対する潤滑油の供給状態をさらに安定化することができる。
【0064】なお、前記第2ないし第4の実施の形態では、スラストプレート31,51の両面側に開口する油溜め32,52、スラストプレート41の両面側に配置された油溜め42等を設ける構成としたが、本発明はこれに限らず、スラストプレートの表面側、背面側のうちいずれか一方の面だけに油溜めを設ける構成としてもよい。
【0065】また、前記第4の実施の形態では、スラストプレート51の外周面に複数の切欠き54を設ける構成としたが、本発明はこれに限らず、スラストプレートの内周面、または内周面と外周面の両方に切欠きを設ける構成としてもよい。
【0066】また、前記各実施の形態では、ケーシング1、旋回スクロール8等をアルミニウム系材料によって形成し、スラストプレート17,22,31,41,51を鋳鉄材料等の鉄系材料によって形成した場合を例示したが、スラストプレート17,22,31,41,51を銅合金、四ふっ化樹脂、カーボン樹脂等の他の材料によって形成してもよい。
【0067】また、前記第2ないし第4の実施の形態では、スラスト受部2の環状凹溝2B内にスラストプレート31,41,51を嵌合する構成としたが、本発明はこれに限らず、例えば図4に示す第1の実施の形態の変形例とほぼ同様に、スラスト受部2の環状凹溝2Bに代えて旋回スクロール8の鏡板8A背面に設けた環状凹溝21等にスラストプレート31,41,51を嵌合する構成としてもよい。
【0068】さらに、前記各実施の形態では、半給油式のスクロール式空気圧縮機を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、無給油式のスクロール式空気圧縮機、空気以外の他の気体、冷媒等を圧縮するスクロール式圧縮機、真空ポンプ等として用いるスクロール式流体機械に適用してもよい。
【0069】
【発明の効果】以上詳述した通り、請求項1の発明によれば、ケーシングと旋回スクロールを非鉄金属材料によって形成し、該ケーシングのスラスト受部と旋回スクロールの鏡板との間にはケーシング、旋回スクロールと異なる材料によって円環状に形成されたスラストプレートを設ける構成としている。これにより、ケーシング、旋回スクロールを同じ非鉄金属材料によって形成した場合でも、ケーシング、旋回スクロールと異なる材料によって形成されたスラストプレートを介して旋回スクロールの鏡板とケーシングのスラスト受部を衝合させることができ、同一材料によるかじりや異常摩耗を防止することができる。
【0070】請求項2の発明によれば、ケーシングのスラスト受部または旋回スクロールの鏡板のうちいずれか一方に円環状の環状凹溝を設け、スラストプレートを該環状凹溝から突出した状態で環状凹溝に回転可能に嵌合させているから、環状凹溝内にスラストプレートを嵌合させるだけで、該スラストプレートをケーシングのスラスト受部または旋回スクロールの鏡板に取付けることができ、組立時の作業性を向上することができる。また、旋回スクロールの旋回運動に対応してスラストプレートを回転させることができるから、ケーシングのスラスト受部または旋回スクロールの鏡板とスラストプレートとの間の摺動抵抗を低減することができ、スクロール式流体機械の耐摩耗性を向上して寿命を延ばすことができる。
【0071】請求項3の発明によれば、ケーシングと旋回スクロールを同じアルミニウム系材料によって形成した場合でも、ケーシングと旋回スクロールとの間のかじりや異常摩耗を防止することができるから、ケーシング、旋回スクロールを軽量で、熱伝導率がよく、成形が容易なアルミニウム系材料によって形成することができ、スクロール式流体機械の小型軽量化、冷却効率の向上、生産性の向上を図ることができる。
【0072】請求項4の発明によれば、スラストプレートには複数の油溜めを設ける構成としたので、スラストプレートと旋回スクロールとの摺動面、またはスラストプレートとケーシングのスラスト受部との摺動面には油溜めからも潤滑油を長期間に亘り安定して供給でき、旋回スクロールの旋回運動中には、スラストプレートの摺動抵抗をより低減することができる。これにより、スラスト受部、旋回スクロール、スラストプレート等の摩耗を確実に抑制でき、これらの耐久性をより向上できると共に、スラストプレートの軽量化を図ることができる。
【0073】請求項5の発明によれば、スラストプレートには各油溜め間を連通する複数の油溝を設ける構成としたので、これらの油溜めに溜った潤滑油を油溝を通じて互いに流通させることができ、各油溜めからの潤滑油をスラストプレートの摺動面全体に対して均等に供給することができる。
【0074】請求項6の発明によれば、スラストプレートの外周面には複数の切欠きを設ける構成としたので、切欠きに溜った潤滑油によりスラストプレートの外周面も安定して潤滑できると共に、スラストプレートの回転運動を利用して切欠きに溜った潤滑油を全周に効率よく分散でき、スラストプレートの各部位に対する潤滑油の供給状態をさらに安定化することができる。
【0075】請求項7の発明によれば、固定スクロールと旋回スクロールとの間に圧縮室への油液の浸入を阻止するシール部材を設けているから、ケーシング内に貯えられた潤滑油等の油液によって軸受等を潤滑した場合でも、油液が圧縮室内に浸入するのを防止でき、例えば清浄な圧縮空気を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機を示す縦断面図である。
【図2】スラストプレート等を示す図1中の要部拡大断面図である。
【図3】ケーシングのスラスト受部とスラストプレートを分解した状態で示す外観斜視図である。
【図4】第1の実施の形態の変形例を示すスクロール式空気圧縮機の要部拡大断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機を示す要部拡大断面図である。
【図6】図5中のケーシング、スラストプレート等を分解した状態で示す外観斜視図である。
【図7】図6中の矢示VII − VII方向からみたスラストプレートの拡大断面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機のスラストプレートを示す拡大断面図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機のスラストプレートを示す正面図である。
【符号の説明】
1 ケーシング
2 スラスト受部
2B,21 環状凹溝
3 潤滑油(油液)
4 固定スクロール
4A,8A 鏡板
4D,8B ラップ部
5 駆動軸
8 旋回スクロール
10 圧縮室
12 フェイスシール(シール部材)
17,22,31,41,51 スラストプレート
32,42,52 油溜め
53 油溝
54 切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】 スラスト方向の荷重を受承するスラスト受部が設けられたケーシングと、該ケーシングに設けられ、鏡板に渦巻状のラップ部が立設された固定スクロールと、前記ケーシングに回転可能に設けられた駆動軸と、該駆動軸の先端側に旋回可能に設けられ、鏡板に前記固定スクロールのラップ部と重なり合って複数の圧縮室を画成する渦巻状のラップ部が立設された旋回スクロールとを備えたスクロール式流体機械において、前記ケーシングと旋回スクロールを非鉄金属材料によって形成し、該ケーシングのスラスト受部と旋回スクロールの鏡板との間にはケーシング、旋回スクロールと異なる材料によって円環状に形成されたスラストプレートを設ける構成としたことを特徴とするスクロール式流体機械。
【請求項2】 前記ケーシングのスラスト受部または前記旋回スクロールの鏡板のうちいずれか一方には円環状の環状凹溝を設け、前記スラストプレートは該環状凹溝から突出した状態で該環状凹溝に回転可能に嵌合する構成としてなる請求項1に記載のスクロール式流体機械。
【請求項3】 前記ケーシング、旋回スクロールはアルミニウム系材料によって形成し、前記スラストプレートは鉄系材料によって形成してなる請求項1または2に記載のスクロール式流体機械。
【請求項4】 前記スラストプレートには、前記旋回スクロールの鏡板と当接する表面側または前記ケーシングのスラスト受部と当接する背面側に位置して潤滑油を溜める複数の油溜めを設けてなる請求項1,2または3に記載のスクロール式流体機械。
【請求項5】 前記スラストプレートには前記各油溜め間を連通する複数の油溝を設けてなる請求項4に記載のスクロール式流体機械。
【請求項6】 前記スラストプレートの外周面には周方向に間隔をもって複数の切欠きを設けてなる請求項1,2,3,4または5に記載のスクロール式流体機械。
【請求項7】 前記固定スクロールと旋回スクロールとの間には前記圧縮室への油液の浸入を阻止するシール部材を設ける構成としてなる請求項1,2,3,4,5または6に記載のスクロール式流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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