説明

スケール付着抑制方法及びこれに用いる硫黄含有材料

【課題】温泉施設のメンテナンス作業を十分に軽減するのに有用なスケール付着抑制方法及びこれに用いる硫黄含有材料を提供すること。
【解決手段】本発明に係るスケール付着抑制方法は、カルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉が接触する流路又は貯槽の内面を、硫黄及び骨材を含む原料組成物を溶融させた後に固化させて得られる硫黄含有材料によって形成することを特徴とする。本発明によれば、温泉成分に由来するスケールが流路又は貯槽の内面に付着するのを抑制できるのみならず、仮にスケールが付着したとしても、これを容易に取り除くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温泉の流路や貯槽の内面に温泉成分に由来するスケールが付着するのを抑制する方法及びこれに用いる硫黄含有材料に関する。
【背景技術】
【0002】
温泉に含まれるカルシウム、マグネシウム、シリカなどの成分は、種々の効能をもたらす反面、流路や貯槽におけるスケール付着の原因となる。コンクリート等の構造物に対するスケール等の付着問題に関し、これまでにも種々の検討がなされ、磁気を利用する方法や表面をコーティングする方法などが知られている(下記特許文献1−3を参照)。
【特許文献1】特開2007−021325号公報
【特許文献2】特開2002−143858号公報
【特許文献3】特開2000−290088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、温泉施設では流路などの内面に付着したスケールを除去するため、定期的に清掃作業を実施している。スケールを十分に除去するのに工具や酸などの薬剤を使用しなければならない場合もあり、かかる作業によって流路が傷んだり、腐食したりするおそれがある。
【0004】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、温泉施設のメンテナンス作業を十分に軽減するのに有用なスケール付着抑制方法及びこれに用いる硫黄含有材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るスケール付着抑制方法は、カルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉が接触する流路又は貯槽の内面を、硫黄及び骨材を含む原料組成物を溶融させた後に固化させて得られる硫黄含有材料によって形成することを特徴とする。
【0006】
本発明に係るスケール付着抑制方法によれば、カルシウム系温泉又はマグネシウム系温泉、あるいはこれらの両方に分類される温泉が接触する流路又は貯槽の内面を硫黄含有材料で形成することによって、温泉施設のメンテナンス作業を十分に軽減できる。カルシウム系及びマグネシウム系以外にもシリカ系などの泉質があるが、上記硫黄含有材料がとりわけカルシウム系温泉又はマグネシウム系温泉に対して有効である理由は必ずしも明らかではない。本発明者らは、上記効果が奏される主因について、硫黄含有材料に含まれる硫黄による化学的要因や硫黄含有材料に付着する微生物による生物学的要因が関連しているものと推察している。
【0007】
また、本発明に係るスケール付着抑制方法によれば、硫黄含有材料からなる内面に対するスケール付着を抑制できるのみならず、仮に、スケールが付着したとしてもこれを容易に取り除くことができる。その理由は、硫黄含有材料はコンクリートと比較し、平滑な面を形成しやすいため、または、化学的要因や生物学的要因により温泉成分との親和性が弱いためと推察される。したがって、本発明に係る方法を実施することにより、温泉成分スケールの除去作業において工具や酸を使用しなくてもよく、流路や貯槽の劣化を十分に抑制できる。
【0008】
本発明に係る硫黄含有材料は、カルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉が接触する流路又は貯槽の内面を形成し、当該内面にスケールが付着するのを抑制するためのものであって、硫黄及び骨材を含む原料組成物を溶融させた後に固化させて得られるものであることを特徴とする。上述の通り、カルシウム系温泉又はマグネシウム系温泉、あるいはこれらの両方に分類される温泉が接触する流路又は貯槽の内面を当該硫黄含有材料で形成することによって、温泉施設のメンテナンス作業を十分に軽減できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温泉施設のメンテナンス作業を十分に軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態に係るスケール付着抑制方法は、カルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉を対象としたものである。ここでいう「カルシウム系温泉」とは、以下の条件1A,1Bのいずれか一方を少なくとも満たす温泉を意味する。
(条件1A)陽イオンの主成分がカルシウムである温泉であること。
(条件1B)カルシウムイオンを温泉1kg中に50mg以上含む温泉であること。
また、ここでいう「マグネシウム系温泉」とは、以下の条件2A,2Bのいずれか一方を少なくとも満たす温泉を意味する。
(条件2A)陽イオンの主成分がマグネシウムである温泉であること。
(条件2B)マグネシウムイオンを温泉1kg中に50mg以上含む温泉であること。
なお、ここでいう「温泉」とは、地上に湧出したときの温度又は採取したときの温度が25℃以上か、または、温泉法で規定される成分を規定量以上含有する温泉法で定義されるところの温泉を意味する。また、条件1A,2Aにおける「主成分」とはミルバル(mval)値が最も大きい成分を意味する。
【0012】
カルシウム系温泉の具体例として、カルシウム−塩化物泉、カルシウム−炭酸水素塩泉及びカルシウム−硫酸塩泉などを例示できる。また、マグネシウム系温泉の具体例として、マグネシウム−塩化物泉、マグネシウム−炭酸水素塩泉及びマグネシウム−硫酸塩泉などを例示できる(「鉱泉分析法指針(改訂)」環境省自然環境局、平成14年3月」を参照)。
【0013】
カルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉に含まれるカルシウム及びマグネシウム以外の成分としては、溶存物質、遊離二酸化炭素、鉄イオン、マンガンイオン、水素イオン等が挙げられる。なお、カルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉のpHが5〜12の範囲であると、流路等の内面に温泉成分に由来するスケールが析出しやすいことが知られている。本実施形態に係る付着抑制方法は、pH6〜10(より好ましくはpH6〜8)のカルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉に対して適用すると、スケールの付着を一層効果的に抑制できる。
【0014】
本実施形態においては、カルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉が接触する流路又は貯槽の内面を硫黄含有材料によって形成する。流路等の内面を硫黄含有材料で形成するには、例えば、流路を硫黄含有材料からなるU字溝型の建材によって構築してもよい。あるいは、コンクリート等の構造物の表面を硫黄含有材料でコーティングしてもよい。流路等の内面を硫黄含有材料のコーティングによって形成する場合、コンクリートなどで形成された既存の設備に対して適応できるという利点がある。硫黄含有材料のコーティングは、例えば、吹付け等によって実施できる。なお、カルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉にあっては、温泉と空気との界面付近にスケール付着が特に生じやすいため、流路又は貯槽の当該領域に硫黄含有材料を配置するとより一層効果的である。
【0015】
次に、硫黄含有材料について説明する。硫黄含有材料は、常温では固体であり約119℃で溶融する硫黄の性質を利用したものである。この硫黄含有材料は、硫黄、骨材及び石炭灰等を含む原料組成物を溶融させた後に固化させて得られる。具体的には、まず、119℃以上に加熱して溶融させた硫黄に、砂、砂利及び石炭灰等を混合する。温度を119〜159℃に保持しながら混練した後、混練物を冷却固化させることによって硫黄含有材料が製造される。
【0016】
あるいは、以下のようにして硫黄含有材料を製造してもよい。まず、硫黄の溶融体と硫黄改質剤とを混合して改質硫黄を製造する。次に、温度を119〜159℃に保持した状態で改質硫黄と、石炭灰等の微細粉と、砂や砂利等の骨材とを混練した後、混練物を冷却固化させることによって硫黄含有材料を製造できる。
【0017】
硫黄含有材料の原料及び製造方法について更に詳細に説明する。上記の通り、硫黄含有材料の原料として、硫黄、硫黄改質剤、微細粉及び骨材を使用する。
【0018】
(硫黄含有材料の原料)
硫黄としては、通常の単体硫黄を使用することができる。具体的には、天然の硫黄、石油や天然ガスの脱硫によって生成した硫黄等を使用できる。
【0019】
硫黄改質剤は、溶融硫黄を重合等によって変性させて改質するためのものである。硫黄改質剤としては、硫黄を重合し得る化合物を使用でき、例えば、炭素数4〜20のオレフィン系炭化水素又はジオレフィン系炭化水素を使用できる。より具体的には、リモネン、ピネン等の環状オレフィン系炭化水素、スチレン、ビニルトルエン、メチルスチレン等の芳香族炭化水素、ジシクロペンタジエン(DCPD)及びそのオリゴマ−、シクロペンタジエン、テトラハイドロインデン(THI)、ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、シクロオクタジエン等のジエン系炭化水素等を例示できる。これらの成分は1種を単独で使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0020】
微細粉としては、石炭灰、珪砂、シリカヒューム、ガラス粉末、燃料焼却灰、電気集塵灰及び貝殻粉砕物等を使用できる。これらの成分は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
骨材としては、コンクリートの調製に使用されるものなどを使用できる。具体的には、天然石、砂、れき、硅砂、鉄鋼スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ、金属の製造時に生成される副生物、溶融スラグ類及び貝殻等を例示できる。これらの成分は1種を単独で使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0022】
(硫黄含有材料の製造方法)
まず、硫黄の溶融体と硫黄改質剤とを混合して改質硫黄を製造する。硫黄改質剤の配合量は、硫黄及び硫黄改質剤の合計量100質量部に対して、0.1〜30質量部であることが好ましく、1.0〜20質量部であることがより好ましい。所定の温度条件にて改質硫黄と微細粉とを混合して改質硫黄を得る。硫黄と硫黄改質剤との混合は、硫黄が溶融した状態で行うことが好ましく、その温度条件は119〜159℃であることが好ましく、130〜155℃であることがより好ましい。
【0023】
改質硫黄の溶融状態を維持したまま、これと骨材とを混合して硫黄含有材料が得られる。改質硫黄と骨材との混合は、改質硫黄が溶融した状態で行うことが好ましく、その温度条件は130〜140℃であることが好ましい。なお、溶融状態の改質硫黄を一旦冷却し、改質硫黄の固化物を中間資材として保存等してもよい。そして、現場において中間資材(改質硫黄)を溶融させ、これと骨材とを混合して硫黄含有材料を調製してもよい。
【0024】
なお、上記のようにして製造した原料組成物を硫黄含有材料として使用してもよいが、市販品を購入して使用することもできる。市販品としては、改質硫黄固化体(商品名:レコサール、新日本石油株式会社製)を例示できる。
【0025】
上記硫黄含有材料を流路や貯槽の内面又はタイルの目地に使用すると、温泉成分に由来するスケールの付着を抑制でき、温泉施設のメンテナンス作業を十分に軽減できる。また、仮に、スケール等が付着したとしてもこれを容易に取り除くことができる。更に、硫黄含有材料は、通常のコンクリートと比較して耐酸性に優れるため、清掃作業に酸性の薬剤を使用した場合であっても腐食しにくいという利点がある。
【0026】
<スケール付着量の評価試験>
硫黄含有材料からなる試験片(40×40×160mm)及びコンクリートからなる試験片(40×40×160mm)をそれぞれ複数準備し、以下の試験例1,2及び比較例1〜4を実施した。
【0027】
(試験例1及び比較例1)
硫黄含有材料としてレコサール(商品名、新日本石油株式会社製)を使用し、硫黄含有材料からなる試験片を作製した。この試験片を長湯温泉(大分県)における温泉施設の流路内の水中に設置した(試験例1)。また、硫黄含有材料からなる試験片と並べて、コンクリートからなる試験片を水中に設置した(比較例1)。
【0028】
長湯温泉の泉質はカルシウム系かつマグネシウム系であり、pHは約6.9である。試験例1及び比較例1に係る試験片の質量をそれぞれ定期的に測定し、付着物の質量変化を評価した。なお、試験片の質量測定は、いずれも表乾状態、すなわち、濡れた試験片の表面を布で拭き取った状態で行った。結果を図1に示す。
【0029】
(試験例2及び比較例2)
硫黄含有材料及びコンクリートの試験片を、山香温泉(大分県)における温泉施設の流路内の水中にそれぞれ設置したことの他は、試験例1及び比較例1と同様にして各試験片の質量測定を行った。山香温泉の泉質はカルシウム系かつマグネシウム系であり、pHは約6.7である。結果を図2に示す。
【0030】
(比較例3,4)
硫黄含有材料及びコンクリートの試験片を、別府鉄輪温泉(大分県)における温泉施設の流路内の水中にそれぞれ設置したことの他は、試験例1及び比較例1と同様にして各試験片の質量測定を行った。別府鉄輪温泉の泉質はシリカ系であり、pHは約8.0である。結果を図3に示す。
【0031】
図1〜3のグラフから明らかなように、いずれの温泉施設においても、コンクリートの試験片と比較し、硫黄含有材料の試験片は付着物の量が少ないことが示された。特に、カルシウム系及びマグネシウム系温泉においては、付着物の低減効果が顕著であった(図1,2を参照)。
【0032】
試験例1及び比較例1の結果を比較すると、コンクリートの試験片への付着量100質量部に対して、硫黄含有材料の試験片への付着量は41〜85質量部であった(図1参照)。試験例2及び比較例2の結果を比較すると、コンクリートの試験片への付着量100質量部に対して、硫黄含有材料の試験片への付着量は60〜93質量部であった(図2参照)。
【0033】
比較例3,4の結果を比較すると、試験開始直後においては硫黄含有材料の試験片への付着量は少ないものの、20〜30日経過後からは同様の速度で付着量が増加している(図3参照)。これは、シリカ系の付着物で試料が一旦覆われると、その上には試料の材質に関わりなく、付着物と同質のシリカが親和して新たに付着していく現象によるものと推察される。
【0034】
<付着物の除去試験>
上記試験を実施した後、付着物の除去しやすさを比較するための試験を以下のようにして行った。すなわち、表乾状態の試料の表面を植物性の刷毛で30秒間にわたって清掃し、清掃前後の質量変化を比較した。表1に結果を示す。表1の「付着物の減少率」は、清掃によって減少した付着物の質量を清掃前の付着物の質量で除すことによって算出した値である。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】試験例1及び比較例1の結果を示すグラフである。
【図2】試験例2及び比較例2の結果を示すグラフである。
【図3】比較例3,4の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉が接触する流路又は貯槽の内面を、硫黄及び骨材を含む原料組成物を溶融させた後に固化させて得られる硫黄含有材料によって形成することを特徴とするスケール付着抑制方法。
【請求項2】
カルシウム系温泉及び/又はマグネシウム系温泉が接触する流路又は貯槽の内面を形成し、当該内面にスケールが付着するのを抑制するための硫黄含有材料であって、
硫黄及び骨材を含む原料組成物を溶融させた後に固化させて得られるものであることを特徴とする硫黄含有材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−22939(P2010−22939A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187642(P2008−187642)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(591224788)大分県 (31)