説明

スケール抑制剤

【課題】乳成分含有飲料をUHT殺菌処理する際に、UHT殺菌機熱交換配管内部に発生するスケールの付着を抑制する為のスケール抑制剤を提供する。
【解決手段】グリセリンコハク酸脂肪酸エステルと、モノエステル体の含有量が40%以上のショ糖脂肪酸エステルとを含有することを特徴とするUHT殺菌処理される乳成分含有飲料用のスケール抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UHT殺菌処理される乳成分含有飲料用のスケール抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コーヒー乳飲料などの乳成分含有飲料は缶に充填されレトルト殺菌されていたが、近年ではUHT殺菌処理した後に、PETボトルやプラスチックカップに無菌充填された風味を重視した製品が数多く販売されている。
乳成分含有飲料をUHT殺菌処理する場合、UHT殺菌機熱交換配管内部にスケール(不溶性固形分の付着)が発生し、長時間の連続運転中に焦げが生じ、それらが成長する事により加熱効率が悪くなってしまうという問題点があった。また、スケールを取り除く為に洗浄が必要となり、稼動停止により生産効率が著しく低下するという問題点があった。
この問題を解決するために、セルロース及び2種類以上の乳化剤を組み合わせて含むことを特徴とする、常温流通可能な殺菌条件でUHT殺菌を行うための乳飲料用安定剤(特許文献1参照)が開示されている。
しかし、上記の方法では十分なスケール抑制効果が得られず、更に優れた解決方法が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開2006−20580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、乳成分含有飲料をUHT殺菌処理する際に、UHT殺菌機熱交換配管内部に発生するスケールの付着を抑制する為のスケール抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、乳成分含有飲料にグリセリンコハク酸脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルとを添加することにより、該飲料をUHT殺菌処理する際にUHT殺菌機熱交換配管内部に発生するスケールの付着という問題が解決されることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルと、モノエステル体の含有量が40%以上のショ糖脂肪酸エステルとを含有することを特徴とするUHT殺菌処理される乳成分含有飲料用のスケール抑制剤、からなっている。
【発明の効果】
【0006】
本発明のスケール抑制剤を乳成分含有飲料に添加することにより、該飲料をUHT殺菌処理する際に、UHT殺菌機熱交換配管内部に発生するスケールの付着を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いられるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、通常グリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸(またはコハク酸)との反応生成物、若しくはグリセリンとコハク酸と脂肪酸との反応生成物物であり、自体公知の製造方法により得ることができる。
【0008】
グリセリンモノ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸など)または不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸など)などが挙げられ、好ましくは炭素数16〜18の飽和または不飽和脂肪酸から選ばれる一種または二種以上の脂肪酸を含む混合物である。とりわけパルミチン酸および/またはステアリン酸を約90%以上含有する脂肪酸を用いるのが好ましい。
【0009】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製法の概略は以下の通りである。例えば、グリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸とを混合し、約120℃の温度条件下で撹拌しながら約60〜90分間反応する。グリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸との混合比率はモル比で約1/1が好ましい。さらに、反応中は生成物の着色、臭気を防止するために、反応器内を不活性ガスで置換するのが好ましい。得られた反応生成物は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの他に、コハク酸、未反応のグリセリンモノ脂肪酸エステル、その他を含む混合物である。グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとしては、例えば、ポエムB−30(製品名;理研ビタミン社製)、サンソフトNo.681SPV(製品名;太陽化学社製)およびステップSS(製品名;花王社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0010】
本発明で用いられるショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖と脂肪酸とのエステル化生成物であり、その構成脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はない。好ましくはパルミチン酸および/または、ステアリン酸を約90%以上含有する脂肪酸である。
【0011】
本発明で用いられるショ糖脂肪酸エステルとしては、ショ糖脂肪酸エステル100%中、モノエステル体の含有量が約40%以上のショ糖脂肪酸エステルが好ましい。ショ糖脂肪酸エステル中のモノエステル体の含有量としては、各メーカーの公表値が採用される。
【0012】
モノエステル体の含有量が約40%以上のショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、リョートーシュガーエステルS−770、S−970、S−1170、S−1570、S−1670(いずれも三菱化学フーズ社製)、DKエステルF−70、F−90、F−110、F−140(いずれも第一工業製薬社製)などが挙げられる。
【0013】
本発明のスケール抑制剤に含まれるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルとモノエステル体の含有量が40%以上のショ糖脂肪酸エステルの配合量は特に限定されないが、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルが約50〜85質量部含有することが好ましく、さらに好ましくは約65〜80質量部である。また、モノエステル体の含有量が40%以上であるショ糖脂肪酸エステルが約15〜50質量部含有することが好ましく、さらに好ましくは約20〜35質量部である。
【0014】
本発明のスケール抑制剤の製造方法は特に制限はなく、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとモノエステル体の含有量が40%以上のショ糖脂肪酸エステルとを均一に混合することにより作製され得る。製造に使用される混合装置は特に制限はなく、公知の混合装置を用いることができる。更にグリセリンコハク酸脂肪酸エステルとモノエステル体の含有量が40%以上のショ糖脂肪酸エステルとを混合後加熱溶解し、自体公知の製造方法により粉末化するなどして作製され得る。
【0015】
本発明のスケール抑制剤に含まれる乳化剤の他に、本発明の効果を妨げない範囲で各種の乳化剤を含有させることができる。該乳化剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル(前記ショ糖脂肪酸エステル100%中、モノエステル体の含有量が40%以上であるショ糖脂肪酸エステルを除く)、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンなどが挙げられる。ここで、グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリンと脂肪酸のエステルの外、例えばグリセリン酢酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル(グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを除く。例えば、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルなど)、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが含まれる。またレシチンとしては、例えば大豆レシチンおよび卵黄レシチンなど油分を含む液状レシチン、液状レシチンから油分を除き乾燥した粉末レシチン、液状レシチンを分別精製した分別レシチン並びにレシチンを酵素で処理した酵素分解レシチンおよび酵素処理レシチンなどが挙げられる。
【0016】
本発明における乳成分含有飲料としては、例えばミルク入りコーヒー、ミルク入り紅茶、ミルク入りココア、抹茶ミルクなどが挙げられる。乳成分含有飲料に使用される乳成分としては、例えば、生乳、生クリーム、バター、加糖煉乳、脱脂加糖煉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ、カゼインとその塩、ホエーパウダー等が挙げられる。また、飲料に対する乳成分の含有量は、飲料の種類、嗜好などで異なり一様ではないが、通常乳固形分に換算して約0.4〜10.0質量%、好ましくは約2.0〜7.5質量%である。
【0017】
本発明のスケール抑制剤の乳成分含有飲料に対する添加量は、乳成分含有飲料100質量%中に約0.0011〜0.5質量%であるのが好ましい。更に有効成分であるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルとモノエステル体の含有量が40%以上のショ糖脂肪酸エステルの乳成分含有飲料への添加量としては、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、約0.001〜0.2質量%、好ましくは約0.01〜0.1質量%、モノエステル体の含有量が約40%以上であるショ糖脂肪酸エステルは約0.0001〜0.08質量%、好ましくは約0.001〜0.05質量%である。
スケール抑制剤は、飲料中や飲料を構成する成分に直接添加してもよく、また予め水分散液を調製して添加しても良い。さらには、澱粉や澱粉分解物、還元澱粉加水分解物等とあらかじめ混合し直接飲料に添加したり、または同混合品を用いてあらかじめ水分散液を調整して飲料に添加することもできる。
【0018】
乳成分含有飲料の製造方法に特に制限はないが、例えばコーヒー乳飲料の製法の概略は以下の通りである。例えば、焙煎されたコーヒー豆から約90〜98℃の精製水で抽出されたコーヒー抽出液に、牛乳、ホエー濃縮物、全粉乳または脱脂粉乳などの乳成分、砂糖、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、モノエステル体の含有量が約40%以上であるショ糖脂肪酸エステルを含むスケール抑制剤を溶解し、所望により増粘安定剤の水溶液を添加し、更に所望により炭酸水素ナトリウムの水溶液を添加してpHを約5〜7に調整する。次に、得られた乳成分含有飲料を高圧式均質化処理機を用いて均質化する。高圧式均質化処理機としては、例えばAPVゴーリンホモジナイザー(APV社)、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイデックス社)、アルティマイザー(スギノマシン社)、ナノマイザー(大和製罐社)などが挙げられる。均質化は、乳成分含有飲料を例えば温度約60〜70℃、圧力約15〜20MPaの条件で約1〜3回処理することにより行われ得る。
均質化された乳食品の加熱殺菌方法としては、UHT(Ultra High Temperature)殺菌が用いられる。UHT殺菌としては、プレートやチューブなど表面熱交換器を用いる間接加熱方式などが挙げられる。プレート式殺菌装置を用いるUHT殺菌処理法は、通常約130〜150℃で、殺菌価(F0)が約10〜50に相当する加熱条件で行われ得る。UHT殺菌処理された乳成分含有飲料は、滅菌されたPET容器やアセプティック紙容器(テトラブリック容器等)などに無菌的に充填され、密栓されるのが好ましい。
【0019】
斯くして、本発明のスケール抑制剤を用いれば、乳成分含有飲料をUHT殺菌処理する際、プレート殺菌機などの熱交換配管内部に発生するスケール(不溶性固形分の付着物)の付着を抑制することができる。
【実施例】
【0020】
以下に本発明を実施例、比較例、試験例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
[スケール抑制剤の作製]
(1)原材料
1)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムB−30;理研ビタミン社製)
2)グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP−100;理研ビタミン社製)
3)グリセリン脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP−200;理研ビタミン社製)
4)グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムW−10;理研ビタミン社製)
5)ポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムJ−0081HV;理研ビタミン社製)
6)高純度レシチン(商品名:レシオンP;理研ビタミン社製)
7)ショ糖脂肪酸エステル(モノエステル体含量40%)(商品名:リョ−トーシュガーエステルS−770)
8)ショ糖脂肪酸エステル(モノエステル体含量50%)(商品名:リョ−トーシュガーエステルS−970;三菱化学フーズ社製)
9)ショ糖脂肪酸エステル(モノエステル体含量55%)(商品名:リョ−トーシュガーエステルS−1170;三菱化学フーズ社製)
10)ショ糖脂肪酸エステル(モノエステル体含量75%)(商品名:リョ−トーシュガーエステルS−1670;三菱化学フーズ社製)
11)ショ糖脂肪酸エステル(モノエステル体含量約0%)(商品名:リョ−トーシュガーエステルS−070;三菱化学フーズ社製)
12)ショ糖脂肪酸エステル(モノエステル体含量1%)(商品名:リョ−トーシュガーエステルS−170;三菱化学フーズ社製)
13)ショ糖脂肪酸エステル(モノエステル体含量20%)(商品名:リョ−トーシュガーエステルS−370;三菱化学フーズ社製)
14)ショ糖脂肪酸エステル(モノエステル体含量30%)(商品名:リョ−トーシュガーエステルS−570;三菱化学フーズ社製)
(2)スケール抑制剤の配合
上記原材料を用いて表1に示した配合に基づき混合し、スケール抑制剤(実施例品1〜7、比較例品1〜9)を作製した。混合は、1L容ビニール袋に各原料を入れ、3分間手で振り混ぜて行った。比較例品8の混合は、各原料を500mlビーカーに入れ、3分間薬さじで練合せて行った。各試料の1回の作製量は200gである。
【0022】
【表1】

[スケール抑制剤の評価]
<ミルク入りコーヒーの作製1>
[試験例1〜11]
焙煎コーヒー豆900gを95℃の精製水9000gで抽出し、コーヒー抽出液(Brix3.1)7200gを得た。該コーヒー抽出液3870g、生乳(非加熱、成分無調整)6000g、グラニュー糖600g、表1のスケール抑制剤(実施例品1〜7、比較例品1〜4)7.2gを配合し、これに精製水を加えて全量を12000gとした。この溶液に炭酸水素ナトリウムを加えて殺菌後のpHが6.8となるように調整し、高圧式均質化処理機(製品名:APVゴーリンホモジナイザー;APV社製)を用いて、液温約60〜70℃、第一段圧力約15MPa、第二段圧力5MPaの条件で均質化した。得られた均質化溶液をプレート式熱交換器(製品名:小型連続式UHT装置;パワーポイント・インターナショナル社製)を用い141℃15秒加熱殺菌後、あらかじめ滅菌処理しておいたペットボトルに無菌的に充填しミルク入りコーヒー(試験区1〜11)を得た。
【0023】
試験区1〜11のミルク入りコーヒーをUHT装置で殺菌処理した後、プレート型熱交換機を分解し、プレート部分に付着したスケールの状況を観察した。結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2中の符号の説明
<スケールの付着状況>
○:付着なし、△:少量の付着あり、×:多量の付着あり
【0026】
表2から明らかなように、試験区1〜7ではプレートへのスケールの付着はなく良好であった。一方試験区8〜11ではプレートへのスケールの付着が認められた。
【0027】
<ミルク入りコーヒーの作製2>
[試験例12〜17]
焙煎コーヒー豆900gを95℃の精製水9000gで抽出し、コーヒー抽出液(Brix3.1)7200gを得た。該コーヒー抽出液3870g、生乳(非加熱、成分無調整)2400g、グラニュー糖600g、ホエータンパク濃縮物(商品名:W.P.C−34;Saputo Cheese社製)120g、表1のスケール抑制剤(実施例品3、比較例品5〜9)12gを配合し、これに精製水を加えて全量を12000gとした。この溶液に炭酸水素ナトリウムを加えて殺菌後のpHが6.8となるように調整し、高圧式均質化処理機(製品名:APVゴーリンホモジナイザー;APV社製)を用いて、液温約60〜70℃、第一段圧力約15MPa、第二段圧力5MPaの条件で均質化した。得られた均質化溶液をプレート式熱交換器(製品名:小型連続式UHT装置;パワーポイント・インターナショナル社製)を用い141℃15秒殺菌後、あらかじめ滅菌処理しておいたペットボトルに無菌的に充填しミルク入りコーヒー(試験区12〜17)を得た。
【0028】
試験区12〜17のミルク入りコーヒーをUHT装置で殺菌処理した後、プレート型熱交換機を分解しプレート部分に付着したスケールの状況を観察した。結果を表3に示す
【0029】
【表3】

【0030】
表3中の符号の説明
<スケールへの付着状況>
○:付着なし、△:少量の付着あり、×:多量の付着あり
【0031】
表3から明らかなように、試験区12では、プレートへのスケールの付着はなく良好な結果であった。一方、試験区13〜17ではプレートへのスケールの付着が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルと、モノエステル体の含有量が40%以上のショ糖脂肪酸エステルとを含有することを特徴とするUHT殺菌処理される乳成分含有飲料用のスケール抑制剤。

【公開番号】特開2009−118797(P2009−118797A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297488(P2007−297488)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】