説明

スズまたはスズ合金めっき層中の水銀定量分析方法

【課題】スズめっき層を有する試料について、簡便でありながらも、スズめっき層中の水銀をより正確に定量する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】銅または黄銅からなる基材に、スズまたはスズ合金からなるめっき層を形成してなる試料、もしくは金属製の基材に、銅または黄銅からなる下地層を介して、スズまたはスズ合金からなるめっき層を形成してなる試料における前記めっき層中の水銀を定量分析する方法であって、硝酸を18質量%、硝酸第二鉄を1〜10質量%の割合で含有するめっき剥離液を前記試料に接触させて前記めっき層を溶解した後、溶解分を含有する前記めっき剥離液に濃硝酸を添加して混合液とし、前記混合液から水銀を還元気化し、原子吸光光度法により水銀を定量することを特徴とするめっき層中の水銀の定量分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅または黄銅からなる基材に、スズまたはスズ合金からなるめっき層(以下、「スズめっき層」ともいう)を形成してなる試料における前記めっき層中の水銀を定量分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器や電子機器の電極や端子として銅や黄銅が広く使用されており、耐食性の向上や、接触抵抗の低減、挿入力の低減等の目的でスズめっき層で被覆されることが多い。しかし、スズめっき層には、水銀や鉛、カドミウム、クロム等の環境負荷物質が混入していることがあり、それらの含有量を定量する必要がある。
【0003】
従来、スズめっき層中の水銀の定量方法として、スズめっき層を切削し、切削したスズめっき層を適当な酸に溶解し、この溶液を原子吸光光度法等により水銀を定量する方法が行なわれている。しかし、ピン端子等の非常に小さい試料や、複雑な形状の試料では、スズめっき層の切削に困難を伴う。また、基材を切削することもあり、基材に水銀が含まれていると測定誤差にもなる。
【0004】
また、「JIS K 0102−1998:工場廃水試験方法」に準拠し、試料をめっき剥離液で処理してスズめっき層を溶解した後、前記めっき剥離液に硫酸と塩化第一スズとを加えて水銀イオンを還元して水銀蒸気を発生させ、この水銀蒸気を原子吸光光度装置に導入して水銀を定量する、所謂「還元気化原子吸光光度法」も行われている。尚、この「還元気化原子吸光光度法」を応用した例として、例えば特許文献1を参照することができる。
【0005】
しかし、従来の還元気化原子吸光光度法では、硫酸と塩化第一スズを加えても還元が不十分で、水銀蒸気の発生量が実際よりも少ないことが多く、正確な水銀の定量が行なわれているとは言い難い状況にある。
【0006】
【特許文献1】特開平6−241990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、スズめっき層を有する試料について、簡便でありながらも、スズめっき層中の水銀をより正確に定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、銅または黄銅からなる基材に、スズまたはスズ合金からなるめっき層を形成してなる試料、もしくは金属製の基材に、銅または黄銅からなる下地層を介して、スズまたはスズ合金からなるめっき層を形成してなる試料における前記めっき層中の水銀を定量分析する方法であって、硝酸を18質量%、硝酸第二鉄を1〜10質量%の割合で含有するめっき剥離液を前記試料に接触させて前記めっき層を溶解した後、溶解分を含有する前記めっき剥離液に濃硝酸を添加して混合液とし、前記混合液から水銀を還元気化し、原子吸光光度法により水銀を定量することを特徴とするめっき層中の水銀の定量分析方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の定量方法によれば、特定のめっき剥離液を用いることによりスズめっき層を選択的に溶解でき、また、溶解している水銀イオンをこれまでよりも多く還元して気化できることから、スズめっき層中の水銀の定量をより正確に行なうことができる。また、スズめっき層を切削する方法に比べて、簡便でもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に関して詳細に説明する、
【0011】
本発明の定量方法は、基本的には従来の湿式灰化−還元気化原子吸光光度法に従う。先ず、スズめっき層を有する試料を、めっき剥離液に浸漬してスズめっき層を溶解する。このとき、試料のめっき剥離液に浸漬する前と、浸漬してスズめっき層を溶解した後の重量を測定し、めっき層の溶解重量を求めておく。
【0012】
ここで、めっき剥離液は、基材の銅や黄銅を溶解せず、スズめっき層を選択的に溶解する作用を有することが必要であり、本発明では、硝酸を18質量%、硝酸第二鉄を1〜10質量含有するめっき剥離液を使用する。この剥離液には、その他の成分として、例えば、安定剤としてエチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグルコールエーテル類等を1〜10質量%の割合で含有してもよい。
【0013】
尚、測定精度を高めるためにはめっき層の溶出量が多いほど好ましいため、めっき剥離液との接触は、基材が露出するまで行なう。基材の露出は、目視により十分可能である。
【0014】
次いで、めっき層の溶解分を含有するめっき剥離液をメスフラスコに入れ、そこへ濃硝酸を添加する。濃硝酸は、市販の濃度約60%以上のものを使用する。濃硝酸を添加することにより、めっき剥離液に溶解している水銀イオンが安定化し、後述される塩化第二スズによる還元効率が高まる。これに対し、希硝酸、あるいは他の酸を添加してもこのような効果が得られない。
【0015】
濃硝酸の添加量は、めっき剥離液の使用量により異なるが、めっき剥離液量に対し1〜2倍とすることが好ましく、めっき剥離液と同量であることがより好ましい。
【0016】
次いで、スズめっき層の溶解分を含有するめっき剥離液と濃硝酸との混合液をバブラー容器に入れ、還元剤である塩化第1スズを添加する。塩化第一スズは、濃度10%程度の水溶液を添加する。同時に硫酸50%水溶液も添加する。この塩化第一スズ水溶液により、前記混合液中に溶解している水銀イオンが還元され、水銀蒸気として気化する。
【0017】
バブラー容器には原子吸光分析装置が連結しており、上記で発生した水銀蒸気を原子吸光セルに導入して水銀量を定量する。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
黄銅製基材に銅下地めっき、スズめっき層を形成した試料を、メルテックス株式会社製めっき剥離液「メルストリップTL−3400(硝酸18質量%、硝酸第二鉄1〜10質量、安定剤1〜10質量%、残部純水)」3mlに浸漬した。黄銅製基材が露出した時点で試料を取り出した。浸漬前との重量差から、スズめっき層の溶解重量は45.12mgであった。
【0019】
次いで、スズめっき層を溶解した後のめっき剥離液をメスフラスコに入れ、そこへ濃度約60%の濃硝酸を3ml添加した。
【0020】
次いで、バブラー容器に10%塩化第一スズ水溶液及び硫酸50%水溶液を滴下し、水銀蒸気を発生させ、原子吸光分析装置に導入して水銀量を定量した。
【0021】
上記の測定を3回行ったところ、スズめっき層中の水銀量は平均で0.208267ppmであった。
【0022】
(比較例1)
実施例1と同一の試料を、メルテックス株式会社製めっき剥離液「メルストリップTL−3400」に浸漬した。黄銅製基材が露出した時点で試料を取り出し、浸漬前との重量差を求めたところ、スズめっき層の溶解重量は52.44mgであった。
【0023】
そして、濃硝酸に代えて、濃度約30%の希硝酸3mlを用い、その他は実施例1と同様にして水銀量を定量したところ、スズめっき層中の水銀量は平均で0.131770ppmであった。
【0024】
(比較例2)
実施例1と同一の試料を、メルテックス株式会社製めっき剥離液「メルストリップTL−3400」に浸漬した。黄銅製基材が露出した時点で試料を取り出し、浸漬前との重量差を求めたところ、スズめっき層の溶解重量は48.35mgであった。
【0025】
そして、スズめっき層を溶解した後のめっき剥離液を原子吸光分析装置にて分析して水銀量を定量したところ、スズめっき層中の水銀量は平均で0.150503ppmであった。
【0026】
(比較例3)
実施例1と同一の試料からスズめっき層を切削した。切削虜は36.58mgであった。
【0027】
そして、切削したスズめっき層を硝酸と塩酸との混酸に溶解し、原子吸光分析装置にて分析して水銀量を定量したところ、スズめっき層中の水銀量は平均で0.211900ppmであった。
【0028】
このように、本発明によれば、めっき層を切削する方法と同等の分析精度が得られる、
【0029】
(参考例1)
実施例1において、濃硝酸の添加量を変えて同様の測定を行なった。結果を図1に示すが、濃硝酸をめっき剥離液の使用量と同じ3ml添加したときに定量値が最大になっているのがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】濃硝酸の添加量と定量値との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または黄銅からなる基材に、スズまたはスズ合金からなるめっき層を形成してなる試料、もしくは金属製の基材に、銅または黄銅からなる下地層を介して、スズまたはスズ合金からなるめっき層を形成してなる試料における前記めっき層中の水銀を定量分析する方法であって、
硝酸を18質量%、硝酸第二鉄を1〜10質量%の割合で含有するめっき剥離液を前記試料に接触させて前記めっき層を溶解した後、溶解分を含有する前記めっき剥離液に濃硝酸を添加して混合液とし、前記混合液から水銀を還元気化し、原子吸光光度法により水銀を定量することを特徴とするめっき層中の水銀の定量分析方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−14525(P2009−14525A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177153(P2007−177153)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】