説明

スズドープ酸化インジウム粉末の製造方法およびスズドープ酸化インジウム粉末

【課題】残留塩素量が従来よりさらに低減されたITO粉末の製造方法およびITO粉末を提供する。
【解決手段】スズ原料として塩化スズを用いたインジウムとスズの酸性溶液とアルカリ溶液を混合することにより生成したインジウムとスズの共沈水酸化物を洗浄、乾燥し、焼成することによってスズドープ酸化インジウム粉末を製造する方法において、洗浄、乾燥後の前記共沈水酸化物をpH=9〜12のアンモニア水で洗浄したのち水洗、乾燥して加熱処理を行うことを特徴とする、スズドープ酸化インジウム粉末の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スズドープ酸化インジウム(Indium Tin Oxide:ITO)粉末の製造方法およびスズドープ酸化インジウム粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スズドープ酸化インジウム(以下本明細書ではITO:Indium Tin Oxideとする)を含む透明導電膜は、可視光に対する高い透光性と、導電性とを示すことから、各種表示デバイスや太陽電池などの透明電極膜として用いられている。この透明導電膜の製膜方法としてはスパッタリング法等の物理蒸着法、ITO粒子の分散液または有機ITO化合物を塗布する塗布法が知られている。
【0003】
上述した製膜方法の中で塗布法により得られるITO膜は、スパッタリング法などの物理的方法により成膜されたITO膜に比べて導電性は多少低いものの、真空装置などの高価な装置を用いることなく大面積や複雑形状の製膜が可能であり、成膜コストを低減できる利点がある。
【0004】
上記塗布法に使用される塗料の原料であるITO粉末の製造方法としては、たとえばインジウム-スズ塩混合水溶液にアンモニアや水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して中和し、インジウム-スズ共沈水酸化物を生成し、これを水洗、乾燥、仮焼することにより作製することができる。
【0005】
透明導電膜塗料は、その用途が電子材料用であることから、不純物、特にハロゲン元素の塩素が含まれることが問題となる。塩素が存在すると、電子機器内に用いられている金属の腐食、溶出が発生しやすくなるとともに、ITO粉末が混合された樹脂においても経時劣化が起き易くなる。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1 (特開2001−58822号公報)
には、ITO粉末を製造する過程でインジウム-スズ共沈水酸化物を生成した後、その水酸化物をpH=9〜12のアンモニア水溶液で洗浄し水酸化物の乾燥後の塩素含有量を200質量ppm以下にすることにより最終的に得られるITO粉末において残留する塩素量を低減する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−58822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1ではインジウム-スズ共沈水酸化物を乾燥前にアンモニア水溶液で洗浄する工程において、水酸化物を乾燥前に洗浄しており、結果としてITO粉末中の塩素含有量は50〜100質量ppmと低減できているが、さらに残留塩素量が低減されたITO粉末が求められており、ITO粉末における残留塩素量の低減については、更なる改良の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、残留塩素量が従来よりさらに低減されたITO粉末の製造方法およびITO粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、スズ原料として塩化スズを用いたインジウムとスズの酸性溶液とアルカリ溶液を混合することにより生成したインジウムとスズの共沈水酸化物を洗浄、乾燥し、焼成することによってスズドープ酸化インジウム粉末を製造する方法において、洗浄、乾燥後の前記共沈水酸化物をpH=9〜12のアンモニア水で洗浄したのち水洗、乾燥して加熱処理を行うことを特徴とする、スズドープ酸化インジウム粉末の製造方法が提供される。
【0011】
上記スズドープ酸化インジウム粉末の製造方法においては、前記共沈水酸化物の洗浄は水洗で行われることが好ましい。前記インジウムとスズの酸性溶液において、インジウム原料として塩化インジウムまたは硝酸インジウムを用いていることが好ましい。前記アルカリ溶液がアンモニア水溶液であることが好ましい。前記加熱処理を還元ガスを含む不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0012】
また、別な観点からの本発明によれば、残留塩素量が20質量ppm以下であることを特徴とする、スズドープ酸化インジウム粉末が提供される。さらに、スズ原料として塩化スズを用いたインジウムとスズの酸性溶液とアルカリ溶液を混合することにより生成したインジウムとスズの共沈水酸化物を洗浄、乾燥し、還元ガスを含む不活性ガス中で焼成することによって得られるスズドープ酸化インジウム粉末であって、洗浄、乾燥後の前記共沈水酸化物をpH=9〜12のアンモニア水で洗浄したのち水洗、乾燥して加熱処理を行うことを特徴とする、上記スズドープ酸化インジウム粉末が提供される。
【0013】
上記スズドープ酸化インジウム粉末においては、前記共沈水酸化物の洗浄は水洗で行われることが好ましい。前記インジウムとスズの酸性溶液において、インジウム原料として塩化インジウムまたは硝酸インジウムを用いていることが好ましい。前記アルカリ溶液がアンモニア水溶液であることが好ましい。前記加熱処理を還元ガスを含む不活性ガス中で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、残留塩素量が従来よりさらに低減されたITO粉末の製造方法およびITO粉末が提供される。これにより、塩化物を出発原料として使用しているITO粉末の製造方法であっても、残留塩素量が十分に低減されたITO粉末を製造することができるので、電子材料用として好適なITO粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、スズ原料として塩化スズを用いたインジウムとスズの酸性溶液と、アルカリ溶液とを混合することにより生成したインジウム-スズ共沈水酸化物を水洗、乾燥後、アンモニア水溶液で洗浄することで焼成処理後のITO粉末において不純物として残留する塩素量が低減されることを見出した。以下、本発明によるITO粉末の製造方法を詳細に説明する。
【0016】
本発明によるITO粉末の製造方法の実施の形態では出発物質として可溶性インジウム化合物と可溶性スズ化合物とを用いる。可溶性スズ化合物としては塩化スズを用いるが、酸素欠損を増大させ、より低抵抗のITO粉末を製造するために塩化第一スズ(SnCl)を用いるのが好ましい。また、可溶性インジウム化合物として塩化物、硫酸塩、硝酸塩などがあるが塩化スズとの混合溶液を作る際には塩化インジウム(InCl)または硝酸インジウム(In(NO)が好ましい。
【0017】
上記のような塩化スズと可溶性インジウム化合物との水溶液を、焼成後のITO粉末中のSn含有量がSnO換算で0.1〜30質量%、好ましくは2〜15質量%となるような割合で混合して作成する。ITO粉末のSn含有量をSnO換算で0.1〜30質量%とするのは、この範囲外では良好な導電性粉末が得られないからである。
【0018】
このようにして得られたインジウム-スズ酸性溶液と、アルカリ溶液とを混合し、撹拌して反応させることによりインジウム-スズ共沈水酸化物が得られる。混合するアルカリ溶液としては、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムなどの水溶液または混合溶液を使用することができるが、金属成分が入ると導電性が阻害されることがあるので、アンモニア水、アンモニウム塩、アンモニウム炭酸塩などの水溶液または、これらの混合溶液が好ましい。さらには、洗浄工程で塩素除去においてより効果を発揮させるために他のイオンの影響を少なくできるよう、アンモニア水溶液を使用することがより好ましい。
【0019】
次いで、得られたインジウム-スズ共沈水酸化物を、純水によるデカンテーション等で洗浄した後、脱水し、その後、乾燥する。乾燥は、110℃〜250℃の温度で乾燥することができる。乾燥後のインジウム-スズ共沈水酸化物pH=9〜12程度のアンモニア水により洗浄し、さらに純水により洗浄した後、再度乾燥する。乾燥後の共沈水酸化物をアンモニア水で洗浄するのは、共沈水酸化物中の不純物である塩素をより低減するためである。これにより、乾燥前の共沈水酸化物よりも水分が失われることで共沈水酸化物粒子表面が活性となり、共沈水酸化物粒子の残留塩素分とアンモニウムイオンがより反応しやすくなるために塩素残留量がより低減されるものと推測される。また、アンモニア水のpHは9〜12程度が好ましいが、これはアンモニア水のpHが9未満であると十分な洗浄効果(塩素除去効果)が得られず、pHが12を超えると共沈水酸化物の溶解が起こり、収率の低下のおそれがあるからである。このように、アンモニア水で洗浄することにより、共沈水酸化物に残留している塩素分を塩化アンモニウムとして効率よく除去することができる。また、前記の塩化アンモニウムは純水による洗浄で置換され除去することができる。このようにして、乾燥後の共沈水酸化物をアンモニア水による洗浄することにより、最終的に焼成処理して得られるITO粉末中の残留塩素分を20質量ppm以下に低減することができる。
【0020】
次いで、得られたアンモニア水で洗浄後乾燥した共沈水酸化物を焼成する。焼成は、後述する焼成雰囲気中で、500〜800℃の温度で0.5時間以上保持することにより焼成処理を行う。この焼成処理において、炉内の雰囲気は、不活性ガスと還元ガスの混合ガスを用いる。前記混合ガスに、水分を含有させることができる。不活性ガスとしては窒素(N)、アルゴン、炭酸ガスなどを使用することができるが、特性および費用の面化Nを使用することが好ましい。500℃未満の温度では、雰囲気ガスは、前記の不活性ガスを用いることができる。
【0021】
不活性ガスに還元ガスを含有させることにより炉内を還元性雰囲気とするのは、不活性ガスのみを使用すると、得られるITO粉末に、酸素欠損を生じさせることが十分にできない場合があり、ITO粉末にさらに十分な酸素欠損を生じさせるためである。不活性ガスに含有させる還元ガスとしては、水素(H)、一酸化炭素(CO)、アンモニア(NH)、などが使用できるが、比較的還元力の弱いNHガスを使用するのが好ましい。含有させる還元ガスの量としては、不活性ガス100体積に対して、還元ガス0.005〜5体積を添加するのが好ましく、0.01〜0.4体積がより好ましい。0.005〜5体積の還元ガスが好ましいのは、0.005体積未満では酸素欠損を十分に生じさせることができず、5体積を超えると酸化インジウムやインジウムメタルへの還元が起こりやすく、また部分的に焼結しやすくなるからである。
【0022】
また、不活性ガスに水分を含有させるのは、水酸化物の分解時に発生するHOの影響を低減させ、雰囲気の均一化を図り、酸化物の物性のばらつきを低減させ、良好な透明性と分散性が得られるようにするためである。すなわち、焼成温度が高い場合、焼成中に焼結が進んで凝集が激しくなり、得られたITO粉末を分散させて塗料とする際に分散不良を起こし、塗料中で沈積してしまうという問題があるが、この問題は焼成雰囲気に水分を添加することにより抑制することができる。含有させる水分の量は、たとえば室温における飽和水蒸気圧程度であればよく、不活性ガス100体積に対して0.05〜10体積の水分を添加するのが好ましく、0.5〜5体積の水分を添加するのがより好ましい。このようにNHガスと共に水分が雰囲気内に存在すると、炉内の気流上昇部へのNHの吸着が妨げられ、結果として過剰な焼結部分を低減するとともに、粒子の表面特性が制御されると考えられ、低抵抗かつ分散性が良好なITO粉末を得ることができる。
【0023】
焼成温度を500〜800℃の範囲とするのは、共沈水酸化物の脱水が300〜400℃の範囲で起こるが、焼成温度が500℃より低いと焼成が不十分で得られる粉体の抵抗が高くなり、導電性材料としての十分な結晶性が得られず、焼成温度が800℃より高いと焼結と凝集が進み、得られる粉体の分散性が不良になるとともに、焼結により粒径が大きくなり、と幕にしたときの可視光透過性が得られないからである。
【0024】
また、焼成工程において通気ガスの流量は、1.0ml/min・g(乾燥共沈水酸化物1gあたりの毎分供給量)以上とするのが好ましい。通気ガスの流量が1.0ml/min・g以上の場合には、雰囲気の均一化が図られ、部分的な焼結を抑制でき、分散性の良好な粉末を得ることができるが、1.0ml/min・g未満の場合には焼成炉内に雰囲気のばらつきが生じ、特性ムラとなり好ましくないからである。
【0025】
以上説明した工程で作製されるITO粉末においては、残留塩素分を20質量ppm以下に低減することができ、例えば電子材料用として好適に用いることが可能となる。塩素が多く存在するITO粉末を用いた電子材料によって作製される電子機器内では、金属の腐食、溶出が発生しやすくなるとともに、ITO粉末が混合された樹脂においても経時劣化が起き易くなるため、より残留塩素の低減されたITO粉末を電子材料として用いることはこれらの問題点を解消するため に非常に有効となる。
【0026】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は上述した形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0027】
上記実施の形態では、インジウム-スズ酸性溶液と、アルカリ溶液とを混合し、撹拌して反応させることによりインジウム-スズ共沈水酸化物が得られた後、その得られたインジウム-スズ共沈水酸化物を、純水によるデカンテーション等で洗浄した後、脱水し、その後、乾燥する場合を説明したが、インジウム−スズ共沈水酸化物の洗浄は必ずしも純水によるデカンテーション等で行われるものではない。例えば、前記インジウム-スズ共沈水酸化物を水と混合しスラリーを得て、前記スラリーをフィルタープレス等により、固液分離する等、公知の洗浄方法を採用することができる。洗浄に使用する溶媒は水に限定されないが、経済的観点から、水とすることが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明によるITO粉末の製造方法について詳細に説明する。
【0029】
[実施例1]
インジウムメタル67.5gを塩酸水溶液により加熱溶解して塩化インジウム(InCl)水溶液を作り、この溶液に塩化第一スズ二水和物(SnCl・2HO)13.6g(焼成後のITO粉末中のスズ含有量がSnO換算で10質量%と成る割合)を混合溶解し、純水を加えて1643gのインジウム-スズ混合水溶液を調整した。また、純水2100gにアンモニア水(濃度25質量%)256gを加えてアンモニア水溶液を調整した。次に、上記アンモニア水溶液を50℃で撹拌しながら、45℃に調整した前記インジウム-スズ混合水溶液を150秒かけて添加し反応させ、インジウム-スズ共沈水酸化物を生成した。得られた共沈水酸化物を純水によるデカンテーションで繰り返し洗浄し、ろ過により脱水した後、250℃で乾燥した。次に、乾燥後の共沈水酸化物を0.34mol/Lのアンモニア水溶液4Lの中に投入し撹拌を行った後、ろ過し、純水による水洗をおこない、脱水した後、110℃で乾燥して、アンモニア水で洗浄後乾燥した共沈水酸化物を得た。
【0030】
得られたアンモニア水で洗浄後乾燥した共沈水酸化物を管状炉に仕込み、Nガスを125ml/min・g(乾燥共沈水酸化物1gあたりの毎分供給量)の流量で流しながら炉内を昇温した。炉内温度が400℃になったときに、炉内に供給するガスをNガス100体積に対して0.05体積のNHガスと、Nガス100体積に対して1.5体積の水蒸気をNガスに添加したガスに変更した。その後さらに昇温させて610℃で2時間保持した後、NHガスと水蒸気の添加を停止して冷却した。このようにして得られたITOの焼成品を卓上ミルで解砕し、ITO粉末を得た。
【0031】
得られたITO粉末について、残留している塩素含有量を下記に記載の方法(熱加水分解-イオンクロマト法)によって測定した。
環状炉内に、試料であるITO粉末を入れ、環状炉内を酸素ガスで置換し、環状炉内を酸素ガス雰囲気とした。次に、環状炉内を加熱し、試料温度を1100℃とした。その後、酸素ガスを純水中にバブリングして生成した水蒸気含有酸素ガスを環状炉内に30分間流した。環状炉内を通過した水蒸気含有酸素ガスを、水酸化ナトリウム溶液に30分間バブリングした。このバブリング済みの水酸化ナトリウム溶液中の塩素濃度をイオンクロマトグラフ装置(DIONEX社製、IC25)で、測定した。前記塩素濃度と使用した水酸化ナトリウム溶液の量と試料の質量から、試料中の塩素含有量(残留塩素量)を算出した。
この測定によってITO粉末内の残留塩素量は17質量ppmであったので、得られたITO粉末は不純物としての塩素を十分に低減できたことを確認した。
【0032】
[実施例2]
インジウムメタルを加熱溶解する際の酸水溶液を塩酸から硝酸に変更した以外は、実施例1と同様の製造方法でITO粉末を得た。得られたITO粉末について熱加水分解-イオンクロマト法で残留塩素量を測定したところ、検出限界の10質量ppm未満であり、得られたITO粉末は不純物としての塩素を十分に低減できたことを確認した。
【0033】
[比較例1]
実施例1においての共沈水酸化物の250℃乾燥後におこなったアンモニア水による洗浄を行わない以外は実施例1と同様方法でITO粉末を得た。得られたITO粉末について熱加水分解-イオンクロマト法で残留塩素量を測定したところ、270質量ppmであった。この結果、実施例1での共沈水酸化物の乾燥後にアンモニア水による洗浄が残留塩素量の低減に大きく効果があることがわかった。
【0034】
[比較例2]
共沈水酸化物をアンモニア水による洗浄をおこなう前に、共沈水酸化物を乾燥しなかった以外は実施例1と同様の方法でITO粉末を得た。
【0035】
得られたITO粉末について熱加水分解-イオンクロマト法で残留塩素量を測定したところ、90質量ppmであった。この結果、特許文献1によるITO粉末の製造方法で作成したITO粉末と本願実施例1と比較例1とを比較すると、共沈水酸化物を乾燥前にアンモニア水で洗浄することでも残留塩素量を低減できるが、本発明による製造方法により、ITO粉末の残留塩素量をさらに低減できることがわかった。
【0036】
[比較例3]
実施例2においての共沈水酸化物の250℃乾燥後にアンモニア水による洗浄を行わないで、その後焼成については実施例2と同様に行ってITO粉末を得た。得られたITO粉末について熱加水分解-イオンクロマト法で残留塩素量を測定したところ、24質量ppmであった。この結果、実施例2との比較で硝酸インジウム水溶液をインジウムの出発原料とした場合においても、共沈水酸化物の乾燥後にアンモニア水による洗浄を行うことで残留塩素量の低減に効果があることがわかった。
【0037】
[比較例4]
残留塩素量の低減に効果のある方法として、ITO粉末ではないが酸化インジウムについて公開特許公報の特開2007−331975がある。この方法をITO粉末に適用した場合に残留塩素量がどの程度低減できるかを確認した。
【0038】
比較例2と同様にして、共沈水酸化物を純水によるデカンテーションで繰り返し洗浄し、0.34mol/Lのアンモニア水溶液4Lの中に投入し撹拌を行った後、ろ過、純水による水洗、脱水し、250℃で乾燥することにより得た共沈水酸化物について、0.1mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液中に分散させ、撹拌を行った後、ろ過、水洗し110℃で乾燥した。
【0039】
得られた前記硝酸アンモニウム水溶液により洗浄した共沈水酸化物の乾燥品について、焼成については実施例1と同様に行ってITO粉末を得た。得られたITO粉末について熱加水分解-イオンクロマト法で残留塩素量を測定したところ、45質量ppmであった。この結果、特開2007−331975の方法をITO粉末に適用した場合、残留塩素分の低減はできたが、本発明での製造方法と比較して残留塩素濃度低減効果が小さいことがわかった。また、共沈水酸化物の乾燥前にアンモニア水による洗浄工程が入るため本発明よりも工程が増えているので、残留塩素低減効果が少ない以外にも、工程増によるコスト増大してしまい、本発明が優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、スズドープ酸化インジウム(Indium Tin Oxide:ITO)粉末の製造方法およびスズドープ酸化インジウム粉末に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズ原料として塩化スズを用いたインジウムとスズの酸性溶液とアルカリ溶液を混合することにより生成したインジウムとスズの共沈水酸化物を洗浄、乾燥し、焼成することによってスズドープ酸化インジウム粉末を製造する方法において、洗浄、乾燥後の前記共沈水酸化物をpH=9〜12のアンモニア水で洗浄したのち水洗、乾燥して加熱処理を行うことを特徴とする、スズドープ酸化インジウム粉末の製造方法。
【請求項2】
前記共沈水酸化物の洗浄は水洗で行われることを特徴とする、請求項1に記載のスズドープ酸化インジウム粉末の製造方法。
【請求項3】
前記インジウムとスズの酸性溶液において、インジウム原料として塩化インジウムまたは硝酸インジウムを用いていることを特徴とする、請求項1または2に記載のスズドープ酸化インジウム粉末の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ溶液がアンモニア水溶液であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のスズドープ酸化インジウム粉末の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理を還元ガスを含む不活性ガス中で行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のスズドープ酸化インジウム粉末の製造方法。
【請求項6】
残留塩素量が20質量ppm以下であることを特徴とする、スズドープ酸化インジウム粉末。
【請求項7】
スズ原料として塩化スズを用いたインジウムとスズの酸性溶液とアルカリ溶液を混合することにより生成したインジウムとスズの共沈水酸化物を洗浄、乾燥し、還元ガスを含む不活性ガス中で焼成することによって得られるスズドープ酸化インジウム粉末であって、洗浄、乾燥後の前記共沈水酸化物をpH=9〜12のアンモニア水で洗浄したのち水洗、乾燥して加熱処理を行うことを特徴とする、請求項6に記載のスズドープ酸化インジウム粉末。
【請求項8】
前記共沈水酸化物の洗浄は水洗で行われることを特徴とする、請求項7に記載のスズドープ酸化インジウム粉末。
【請求項9】
前記インジウムとスズの酸性溶液において、インジウム原料として塩化インジウムまたは硝酸インジウムを用いていることを特徴とする、請求項7または8に記載のスズドープ酸化インジウム粉末。
【請求項10】
前記アルカリ溶液がアンモニア水溶液であることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載のスズドープ酸化インジウム粉末。
【請求項11】
前記加熱処理を還元ガスを含む不活性ガス中で行うことを特徴とする、請求項7〜10のいずれかに記載のスズドープ酸化インジウム粉末。

【公開番号】特開2011−162375(P2011−162375A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25013(P2010−25013)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)